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労働市場の構造変化と課題 平成31年3月 経済産業省

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労働市場の構造変化と課題

平成31年3月経済産業省

STDB0067
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本日ご議論いただきたい論点(案)

1.労働市場の両極化

• 労働市場において、高賃金と低賃金の職が増える一方、ミドル賃金の職が減る「両極化」が進行しており、その背景には、教育水準による賃金格差や、都市と地方の格差の拡大があることを踏まえると、今後、どのような政策対応が必要か。

2.汎用技術(GPT)としての第4次産業革命

• 第4次産業革命の性格が、産業全般にわたって大きな影響を及ぼす汎用技術(GPT)であるとすれば、これによって生産性向上を加速するためには、生産性向上をもたらすまでの調整期間の間に、既存の仕事の仕方や企業行動に大きな変化が迫られることになるが、今後、産業政策として、どのような政策対応が必要か。

3.多様で柔軟な働き方の拡大

• 米国では、「ギグ・エコノミー」と呼ばれるインターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負う新たな働き方が拡大しており、特にシニア層が活用している。今後、人生100年時代に対応し、70歳までの就労機会の延長が必要になる中で、我が国でも、フリーランスや兼業・副業といった多様で柔軟な働き方をどのように拡大していくべきか。

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1.労働市場の両極化

2.汎用技術(GPT)としての第4次産業革命

3.多様で柔軟な働き方の拡大

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米国では「労働市場の両極化」が進展

(注)各職業に係る総労働時間(就業者数に労働時間を乗じたもの)のシェア伸び率であることに留意。(出所)Autor(2019)「Work of the Past, Work of the Future」

米国では、専門・技術職等の高スキル職や、医療・対個人サービス等の低スキル職で就業者が増加する一方、製造や事務等の中スキル職が大幅に減少。

こうした現象は、労働市場の両極化(Polarization)と呼ばれている。

米国における職業別就業者シェアの変化(16-64歳)

医療・対個人サービス職

清掃・警備サービス職

運転・手仕事職

製造職

事務職

販売職

技術職

専門職

管理職

低スキル 中スキル 高スキル

20%

0%

-20%

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-45.0%

-25.0%

-5.0%

15.0%

35.0%

医療・対個人

サービス職

清掃・警備

サービス職

運転・手仕事職

製造職

事務職

販売職

技術職

専門職

管理職

1985-1995

1995-2005

2005-2015

4

日本でも「労働市場の両極化」が確認できる

日本でも、専門職・技術職等の高スキル職と、医療・対個人サービス等の低スキル職が増える一方、製造等の中スキル職が減少。

ただし、今のところ、日本では、米国に比べて事務職の減少幅が小さい。職業別就業者シェアの変化

(出所)総務省「国勢調査」より経済産業省作成。(参考)Daron Acemoglu, David Autor, ”Skills, Tasks and Technologies: Implications for Employment and Earnings” (2010)を参考に職業を分類。

前頁の米国の分析と異なり、職業者数のシェア変化であること、全年齢が対象であること、清掃・警備職には自衛官を含む(米国は軍人を除外)ことに留意。

低スキル 中スキル 高スキル

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日本はルーティン業務の集約度が高い

ルーティン業務の集約度の分析によると、日本はルーティン業務集約的。

ルーティン業務の集約度

(出所)De La Rica and Gortazar(2016)「Differences in Job De-Routinization in OECD Countries: Evidence from PIAAC」

0.43

0.260.23

-0.12-0.15 -0.16

-0.39-0.5

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

イタリア 日本 フランス ドイツ カナダ イギリス アメリカ

(注)OECDのアンケート調査(PIAAC)の個票データを用いて仕事のタスクを①ルーティン、②非ルーティン分析・相互、③非ルーティン手仕事に分類してタスク量を数値化。その上で、ルーティンタスク集約度(=ルーティン ー 非ルーティン分析・相互 ー 非ルーティン手仕事)を計算。

ルーティン業務に集約的

非ルーティン業務に集約的

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日本はルーティン集約的な職業が多い

日米での雇用の性格を分析すると、日本は「定型的・作業的業務」の人材シェア高く、「創造的・分析的業務」のシェアが低い。

(注)各職業の性格については、日米ともに、米国「O*NET」のデータを基にタスクを定量化し、四類型に分類したもの。(出所)三菱総合研究所「生涯現役社会に向けた雇用制度改革に関する参考資料」を基に作成。

人材ポートフォリオの日米比較(2015年)

6% 10%

1 2

16%24%

1 2

44% 39%

1 2

34%28%

1 2

創造的業務

定型的業務

分析的業務

作業的業務

日本 米国 日本 米国

日本 米国日本 米国

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日米の職業類型と平均年収の関係

米国では創造的な職業ほど年収が高い一方、日本は比較的フラットな関係。

(注)各職業の性格については、日米ともに、米国「O*NET」のデータを基にタスクを定量化し、四類型に分類したもの。(出所)三菱総合研究所「生涯現役社会に向けた雇用制度改革に関する参考資料」

職業類型と平均年収の関係(2015年)

定型的 創造的 定型的 創造的定型的・分析的定型的・作業的

創造的・分析的創造的・作業的

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日本の就業構造の変化

(出所)総務省「国勢調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に作成。賃金水準は、フルタイム労働者の2017年度の「きまって支給する現金給与額」に12月を乗じた額に、「年間賞与その他特別給与額」を加えることにより算定。(医療業・保健衛生は、それぞれの賃金に労働者数で加重平均した値)。1995年の社会保険・社会福祉・介護事業の人数は、産業分類の改定前である「社会保険・社会福祉」の数字を使用。

就業構造の変化を見ると、賃金水準が中位の製造業、建設業、卸売業等が減少する一方、賃金水準が低位の介護事業が増加。

他方、賃金水準が高位の専門・技術は微減、情報通信業は微増。高スキル職の拡大が十分でない。

産業別就業者数の変化(1995-2015年)(万人)

-53 万人

251 万人

-21 万人

-292 万人

92 万人

-361 万人

-237 万人

37 万人

-55 万人 -4 万人

-500

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

宿泊業・

飲食サービス業

社会保険・社会福祉

・介護事業

運輸業・郵便業

卸売業・小売業

医療業・保健衛生

製造業

建設業

情報通信業

金融業・保険業

学術研究、専門・

技術サービス業

629万円

628万円

616万円

531万円

502万円

488万円

453万円

352万円

495万円

358万円

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0%

5%

10%

15%

20%

25%

100万

円未

100~

199万

200~

299万

300~

399万

400~

499万

500~

699万

700-

999万

1000

万円

以上

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

100万

円未

100~

199万

200~

299万

300~

399万

400~

499万

500~

699万

700-

999万

1000

万円

以上

9

日本の所得カーブの変化

(出所)総務省「就業構造基本調査」を基に作成。

過去25年間の所得カーブの変化を見ると、男性では300万~700万円の割合が低下する一方、200万円未満の割合と、700~1000万円の割合が増加。

一方、女性では、全体的に所得が上昇。

所得階級別の割合変化(60歳未満)

2017年

1992年

2017年

1992年

男性 女性

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米国では「学歴による賃金差」が拡大

(出所)Autor(2019)「Work of the Past, Work of the Future」。左図は18歳-64歳の実質の週給。右図は、総労働時間のシェア。

米国では、大学卒に比して大学院卒の賃金が顕著に増加。学歴別の賃金差が拡大。 また、大学・大学院卒の就業者シェアは一貫して増加。

学歴別の就業者構成学歴別の賃金推移(男性)

大学院卒

大学卒

大学中退

高校卒高校中退

大学院卒

大学卒

大学中退

高校卒

高校中退

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日本でも「学歴による賃金差」が確認できる

(出所)右図は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、左図は総務省「就業構造基本調査」を基に作成。左図は名目値、右図は就業者シェアであることに留意。

日本でも、大学・大学院卒とそれ以外の賃金差が拡大。 また、大学・大学院卒の就業者シェアも拡大。

1.00 0.90

1.00

1.10

1.20

1.30

1.40

1.50

1.60

1.70

1.80

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

2014

2016

35.3%

7.4%

45.6%

43.3%

6.8%

17.8%

12.3%

30.9%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1982 1987 1992 1997 2002 2007 2012 2017

学歴別の就業者構成学歴別の月収推移(男性)

大学・大学院卒

高専・短大卒中学卒

高校卒

大学・大学院卒

高専・短大卒

高校卒

中学卒

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日本における大学院卒と大卒の比較

(出所)左図は、森川(2013)「大学院教育と就労・賃金:ミクロデータによる分析」、右図は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に作成。

実証研究によれば、日本の大学院卒の給与水準は、年齢を重ねるごとに大きくなる傾向にあり、大学卒と比べて約3割の賃金プレミアムが存在。

また、近年、大学院新卒者の初任給は、大学卒との差が拡大。

新卒者の初任給の比較各学歴における年齢別賃金カーブ

大学院卒

大学卒

学歴計

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

60~

64歳

70歳

55~

59歳

65~

69歳

224.5

239.9

200.3210.1

180

190

200

210

220

230

240

250

2010 2018

大学院卒(修士)

大学卒

(千円)

2.4万円

3.0万円

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米国における都市と地方の大卒・大学院卒シェア

(出所)Autor(2019)「Work of the Past, Work of the Future」。

米国では、1950年には、都市と地方で学歴に差異は見られなかったが、近年、大学卒・大学院卒が都市圏に集中する傾向。

地域別の大卒・大学院卒シェア(対人口比)

1950年時点の人口密度(対数)

1950年時点の人口密度(対数)

1950年時点の人口密度(対数)

シェア

都市部地方部 都市部地方部 都市部地方部

30%

20%

10%

0%

30%

20%

10%

0%

30%

20%

10%

0%大学院卒

大学卒

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0%

10%

20%

30%

40%

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

14

日本における都市と地方の大卒・大学院卒シェア

(出所)総務省「就業構造基本調査」、総務省「社会・人口統計体系」を基に作成。都道府県をプロットしたもの。

日本においても、都道府県における大学・大学院卒の労働シェアを比較すると、15年前と比較して都市部に集中する傾向。

地域別の大卒・大学院卒シェア(対人口比)

2017年

1992年

都市部地方部可住面積人口密度(対数)

シェア

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米国における都市と地方の学歴賃金差

(出所)Autor(2019)「Work of the Past, Work of the Future」。大学卒等には大学院卒及び大学中退を含み、高校卒等には高校中退を含んでいる。

米国では、非大卒層における賃金差が都市・地方間で縮まっており、都市の「賃金プレミアム」が消滅しつつある。

地域別の学歴別賃金(時給)

非大卒層における都市の賃金プレミアムが減少

都市部地方部

人口密度(対数)

都市部地方部人口密度(対数)

時給(対数)

時給(対数)

大学卒等

高校卒等

大学卒等

高校卒等

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4.9

5

5.1

5.2

5.3

5.4

5.5

5.6

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

16

日本における都市と地方の学歴賃金差

(出所)総務省「社会・人口統計体系」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に作成。都道府県をプロットしたもの。

都道府県の学歴別初任給を比較すると、いずれの学歴層でも、都市部の方が賃金が高い傾向。日本では都市の賃金プレミアムは依然として存在。

地域別の学歴別初任給(2017年)

初任月給(対数)

大学院卒(修士)

大学卒

高校卒

都市部地方部可住面積人口密度(対数)

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日本における地域別の職業分布

(出所)総務省「国勢調査」、総務省「社会・人口統計体系」を基に作成。都道府県をプロットしたもの。なお、低スキル職は「健康・対個人職」、「清掃・警備職」、「運転・手仕事職」を、中スキル職は「製造職」、「事務職」、「販売職」を、高スキル職は「技術職」、「専門職」、「管理職」を集計したもの。

地方部ほど低スキル職のシェアが高く、都市部ほど高スキル職のシェアが高い。 一方、中スキル職では、顕著な傾向は見られない。

地域別のスキル別労働シェア(2015年)

低スキル 中スキル 高スキル

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.030.0

35.0

40.0

45.0

50.0

55.0

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.05.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

可住面積人口密度(対数) 可住面積人口密度(対数) 可住面積人口密度(対数)

シェア

シェア

シェア

(%) (%) (%)

都市部地方部 都市部地方部 都市部地方部

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労働市場の両極化(まとめ)

• 米国では、高賃金の職と低賃金の職の就業者比率が上昇する一方、ミドル賃金の職の比率は減少。この現象を、労働市場の「両極化」と言う。

• 我が国でも、同様の両極化が進行。ただし、事務職の減少幅が少ない。業種としては、ミドル賃金の製造業や建設業等の雇用が減少し、低賃金の医療・対個人サービスが拡大。

• 米国では、賃金差の拡大の主要因は教育。大学院・大学卒の賃金は上昇する一方、非大卒の賃金は、男性は下落、女性はわずかに上昇。「両極化」の問題は、非大卒層の問題。

• なお、労働供給は、大卒+大学院卒で増加する一方、高卒又はそれ以下が減少。格差拡大は労働供給の減少ではなく、仕事の内容の変化。

• 日本でも、大学院・大学卒の賃金の上昇と労働供給の増加が同時に確認されることから、賃金差の拡大に教育が影響していると考えられる。

• 米国では、都市と地方を比較すると、1950年には都市と地方の大卒の労働シェアは違いが少なかったが、2015年には20%に広がり、高賃金の職は都市部に集中。高学歴層にとって都市の賃金プレミアム(都市の賃金が田舎より高い程度)は上昇。一方、低学歴層は都市の賃金プレミアムが減少。

• 日本でも、都市部に高学歴・高賃金が集中する傾向が確認できる。

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1.労働市場の両極化

2.汎用技術(GPT)としての第4次産業革命

3.多様で柔軟な働き方の拡大

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汎用技術(GPT)としての第四次産業革命

第四次産業革命(IoT、人工知能等)は、過去の電力化やIT化と同じく、汎用技術(GPT: General Purpose Technology)であると言われている。

汎用技術は、産業全般にわたって大きな影響を及ぼすが、導入後の一定期間は、既存の仕事の仕方や企業行動に大きな変化を迫ることから、生産性をかえって下げ、その後、大きな生産性上昇効果をもたらすと言われている。

GPTの特徴

(参考)Brynjolfsson et al. (2017)、Jovanovic and Rousseau(2005)

一般的特徴 第4次産業革命の特徴

①影響する範囲 あらゆる産業に影響を及ぼすモビリティ、ヘルスケア、金融、エンターテイメントなど広範囲の産業に影響を及ぼす

②性能の改善 性能が改善し続ける データ量の拡大に伴い、人工知能の性能が向上し続ける

③生産性への影響業務プロセスに根本的な見直しを迫るため、導入後の一定期間は生産性を下げ、その後に大きな生産性上昇をもたらす

仕事の仕方や企業組織のあり方に大きな影響を及ぼす

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汎用技術(GPT)が生産性上昇をもたらすまでの調整期間

汎用技術(GPT)が生産性上昇効果をもたらすには、会社・組織のあり方や教育システムなど、経済社会システム全体の再構築が必要となる。

米国におけるIT化の普及過程では、一定の調整期間を経て、大きな生産性上昇をもたらしたと言われている。

米国のIT化期間における労働生産性伸び率(1971-2017)

(注)米ドル、PPPベースの就業者・時間当たり労働生産性。破線部はHPフィルターにより平滑化したもの。(出所)OECD stat を基に作成。

-1.0%

-0.5%

0.0%

0.5%

1.0%

1.5%

2.0%

2.5%

3.0%

3.5%

4.0%

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

2007

2009

2011

2013

2015

2017

IT化の「調整期間」

「調整期間」後に生産性が上昇

再び伸び率が停滞

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日本におけるIT化期間の生産性伸び率

一方、同期間における日本の労働生産性の伸び率は概ね低下傾向にあり、大きな生産性上昇が観察できない。

日本ではIT化の普及に伴う経済社会システムの再構築が進まず、調整期間が長引いている可能性。

日本のIT化期間における労働生産性伸び率(1971-2017)

(注)米ドル、PPPベースの就業者・時間当たり労働生産性。破線部はHPフィルターにより平滑化したもの。(出所)OECD stat を基に作成。

-2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

2007

2009

2011

2013

2015

2017

伸び率の低下

近年、下げ止まり

Page 24: 労働市場の構造変化と課題• 労働市場において、高賃金と低賃金の職が増える一方、ミドル賃金の職が減る「両極化」 が進行しており、その背景には、教育水準による賃金格差や、都市と地方の格差の拡大が

23

イノベーションがもたらす利益の分配

(出所)Aghion and Akcigit et al(2018)「On the Returns to Invention Within Firms:Evidence from Finland」。

フィンランドを対象とした実証研究によると、イノベーションがもたらす利益は、発明者8%、企業家45%、ホワイトカラー22%、ブルーカラー26%の割合で分配される。

企業がリスクをとってイノベーションを成功すれば、多くの関係者で所得が上昇する。

イノベーションがもたらす利益の配分

7.9%

44.6%21.8%

25.7%

<研究概要>①フィンランド統計局の、1988年から

2012年の間の雇用主・従業員のパネルデータ

②ヨーロッパ特許庁の特許出願データのうち、出願者の住所がフィンランドにあるもの

等を用い、イノベーションを起こした企業の関係者にどのような所得の上昇がもたらされるかを分析

ブルーカラー

ホワイトカラー企業家

発明者

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汎用技術(GPT)としての第4次産業革命(まとめ)

• 第4次産業革命の性格は汎用技術(GPT)であるとの見解がグローバルに合意形成されつつある。

• 汎用技術(GPT)は、産業全般にわたって大きな影響を及ぼすが、その導入は、一定期間生産性をかえって下げ、その後大きな生産性上昇効果をもたらすと言われている。

• 米国では、IT化について、一定の調整期間を経て、生産性向上を加速したことが確認されている。

• 調整期間が発生する理由は、既存の仕事の仕方等に根本的な見直しを迫るため。

• 第1に、調整期間中に技術者を集中的にイノベーション導入に投入する必要があるため、現在の収益に貢献している人材を一定期間、イノベーション開発に回す必要がある。

• 第2に、既存の仕事の仕方や企業行動を変化させるため、摩擦(フリクション)を覚悟する必要がある。

• このように、多くの先進国で、GPTの採用は一定期間の調整を不可欠とするという理解が広がっている。

• なお、企業がリスクをとってイノベーティブな開発を行い、そのごく一部でも成功させることによって従業員やステークホルダー全体が利益を受けることが確認されている。

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1.労働市場の両極化

2.汎用技術(GPT)としての第4次産業革命

3.多様で柔軟な働き方の拡大

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米国における「ギグ・エコノミー」の進展

(注)新しい就業形態(Alternative Work Arrangemets):フリーランス、請負等(出所)Katz and Krueger(2016) 「THE RISE AND NATURE OF ALTERNATIVE WORK ARRANGEMENTS IN THE UNITED STATES, 1995-2015, 」を

基に作成。

米国では、新しい就業形態により、インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い個人で働く者が増加しており、「ギグ・エコノミー」と呼ばれている。

高齢者であるほど割合が高く、近年、顕著に増加。高齢者の就業機会の拡大に貢献。

6.7%

10%

14.1%

7.1%

10.4%

15.1%

6.4%

14.3%

23.9%

0

5

10

15

20

25

30

16-24 25-54 55-75

1995 2005 2015

新しい就業形態(Alternative Work Arrangements)割合の推移(1995年-2015年)

(%)

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19 34

36 24

20 19 8

21 6

11 16

8 5

9 18

39

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

1985年 2015年

日本における「雇用的自営等」の増加

(注)「雇用的自営等」は、「伝統的自営業」「士業等」以外の雇人のいない業主(人)。なお、「雇用的自営等」の「その他」には、デザイナーや写真家、事務従事者等が含まれる。(出所)総務省「国勢調査」より作成。「雇用的自営等」の区分は、山田久「働き方の変化と税制・社会保障制度への含意(平成27年9月 政府税制調査会資料)」による。

我が国においても、「雇用的自営等」が増加している。

「雇用的自営等」の推移

1985年 ⇒ 2015年

学習塾講師 ▲8万人

合計 128万人

(万人)

保健・医療従事者 +4万人

その他 +21万人

運搬等従事者 +13万人

販売従事者 ▲1万人サービス従事者 ▲12万人

建設等従事者 +15万人

合計 164万人

技術者 +5万人

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日本においても、フリーランサーはミドル・シニアが中心

日本における「フリーランサー」の年齢構成を見ると、40代以上のミドル・シニアが半数以上を占める。

「フリーランサー」の年齢構成

(注)ランサーズ株式会社が行ったアンケート調査(2018年2月に実施)。対象は過去12ヶ月に仕事の対価として報酬を得た全国の20~69歳の男女。有効回答数は3,050人、そのうちフリーランスは1,550人。ここでのフリーランスの定義は、①副業型すきまワーカー(1社のみ雇用あり、副業あり)、②複業系パラレルワーカー(2社以上と雇用あり、常時雇用もしくは一時雇用でプロ意識を持つ者)、③自由業系フリーワーカー(雇用関係がないが、プロ意識を持つ者)、④自営業系独立オーナー(働き手が1名の法人経営者)の合計。

(出所)ランサーズ「フリーランス実態調査2018年版」

12.1%

21.6%

26.5%

23.6%

16.2%

20代60代以上

30代

40代

50代

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転職経験がある人ほど、高齢期の就労率が高い

(出所)独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「中高年齢者の転職・再就職調査(2016年4月)」を基に作成

現在65歳以上の男性・女性の現在の就業率

アンケート調査によると、64歳以下での転職経験がある人ほど、65歳以降も就労しているという結果が出ている。

11.0%

28.0%

15.5%

12.5%

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

経験なし(n=362) 経験あり(n=521)

雇用者

自営業等

14.4%

26.8%4.9%

4.7%

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

経験なし(n=473) 経験あり(n=426)

雇用者

自営業等

<男性> <女性>

64歳以下での転職経験

(%)(%)

計19.2%

計31.5%

計26.5%

計40.5%65歳以降の就業率

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転職市場の拡大

(出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」を基に作成。

2000年代後半、転職者数はリーマンショックを機に減少。 近年は、好景気の影響もあり、転職者数も増加傾向にある。

転職者数の推移

340

283

329

0

50

100

150

200

250

300

350

400

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

(万人)

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産業別転職者の前職

(注)2017年10月1日時点で当該産業に従事している者のうち、2012年10月以降に転入したものの人数を計上。(出所)総務省「就業構造基本調査」を基に作成

転職者の多い上位3業種(卸売・小売業、医療・福祉、製造業)の前職を見ると、4~5割が業種内転職。

産業別の転職者における前職の内訳

業種内転職業種内転職

業種内転職

39.3%53.5%

44.1%

11.5%

9.9%

14.3%10.8%

6.5%

4.9%5.2%

5.4%

4.8%4.7%

3.6%

4.5%

28.6% 21.1% 27.4%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

卸売業・小売業 医療・福祉 製造業

業種内転職業種内転職

業種内転職

製造業

宿泊・飲食業

医療・福祉生活関連サービス・娯楽業

その他 その他 その他

卸売・小売業

製造業宿泊・飲食業

教育・学習支援業

運輸・郵便業

卸売・小売業

宿泊・飲食業その他サービス業

計195万人 計182万人 計160万人

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日本では従業員の勤続年数が長い傾向にある

(注)日本の数字は、短時間労働者を除く常用労働者のデータ。米国は中央値。(出所)JILPT「データブック国際労働比較2018」

従業員の平均勤続年数を比較すると、日本では特に男性従業員がより長く1社に努める傾向にある。

13.3

4.3

8.2

11.0 11.3

12.5

0

2

4

6

8

10

12

14

日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア

9.3

4.0

7.9

10.2

11.5 11.7

0

2

4

6

8

10

12

14

日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア

平均勤続年数の国際比較(2016年)

(年) (年)男性 女性

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「副業・兼業」の増加

(出所)総務省「就業構造基本調査」を基に作成。

副業を希望する者は、近年増加傾向。 他方、実際に副業がある者の数は、横ばい傾向。

(万人)

330

255 262 234

268

325 331346

368

424

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

1997 2002 2007 2012 2017

副業がある者副業を希望する者

副業がある者、希望する者の推移

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「正社員」の多様化

(注)左図は企業2,260の回答、右図は限定正社員876名の回答によるもの。(出所)厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」を基に作成。(アンケートはJILPT「「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査」に基づくもの)を基に作成。

企業向けのアンケート調査によれば、限定正社員を導入している企業は2割に昇る。 個人向けアンケート調査によれば、勤務地や職務に関する限定が多い。

20.6

15.5

24.2

46.8

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

全規模企業 300人未満 300~999人 1000人以上

(%)限定正社員がいる企業の割合

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

勤務地の限定(転勤の制限)

職務の限定

残業の制限

所定内労働時間の短縮

出勤日の制限

限定正社員が限定している事柄

男性女性

(%)