中心市街地における商店街と駅ビルの連携に関する...

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.15, 2017 2 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.15, February, 2017 * 非会員・長崎大学環境科学部(Faculty of Environmental Science, Nagasaki University) **正会員・長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科(Institute of Environmental Science, Nagasaki University) 中心市街地における商店街と駅ビルの連携に関する研究 -大分市を事例として- A study on the cooperation between local shopping streets and a station building in the city center : Case study of Oita City 竹ノ内 沙妃*・片山 健介** Saki TAKENOUCHI* and Kensuke KATAYAMA** Recently, the decline of city center shopping areas has become serious problem in many local cities partly due to large shopping centers in suburban areas. On the other hand, there are the cases that commercial facilities are developed in the stations (“Ekibiru” or “Ekinaka”) in central part of cities. This paper aims to discuss the process, effectiveness and challenges of cooperation between local shopping streets and a station building for city center revitalization through the case study of Oita City. In Oita City, various cooperative activities are carried out based on the cooperation between existing shopping streets and the station building (JR OITA CITY). The distance between the station and local shopping area, the existence of an association for machidukuri, consciousness of actors and complementary relations are key factors to build close cooperation. Keywords: cooperation, local shopping streets, station building, city center revitalization, Oita City 連携、商店街、駅ビル、中心市街地活性化、大分市 1. はじめに 近年、地方都市の中心市街地の衰退が問題視されている。中 心市街地の衰退は、人口減少による空洞化、大型商業施設の郊外 立地や人々の消費行動の変化による集客力の低下などに伴い、空 き店舗・空地が増加し 1) 、活気が失われることでもたらされる。 一方で、都市中心部にある鉄道駅に、駅ビルや駅ナカと呼ばれる 新しい商業施設ができる事例が見られる。九州について見ると、 JR 九州グループは、複合商業施設「アミュプラザ (AMU PLAZA) を小倉 (1998 ) 、長崎 (2000 ) 、鹿児島 (2004 ) 、博多 (2011 ) 大分 (2015 ) 5 地域に展開している。鉄道会社にとっては、本 来の鉄道事業に加えて事業を多角化する必要があり、今後人口減 少が進むことでこうした事例は増えていくことも予想される。 駅ビルや駅ナカは、中心市街地に大型商業施設ができること で、中心部に人を呼び込むきっかけになる。しかし、駅ビルその ものが活性化しても、その効果が既存商店街にまで波及しなけれ ば中心市街地活性化にはつながらない。 本稿では、 2015 4 月に駅ビルが開業し、中心市街地におい て様々な連携事業が行われている大分市を事例に、駅ビルが開業 したことによる中心商店街への影響と、行政・商店街・駅ビル等 活性化に関わるまちづくり主体の連携の実態について、特に商店 街と駅ビルの連携に着目して明らかにすることを目的とする。 駅ビル・駅ナカと既存商店街との関係を扱った研究としては、 駅ナカ商業施設の開業に伴う駅周辺の商業地への影響とその要 因を明らかにし、望まれる駅ナカと駅周辺の商業地との関係性に ついて考察したものがある 2) 。また、駅ビルが立地した先行事例 である長崎市と鹿児島市を対象に、既存商店街と駅ビルとが早期 に協力連携することの必要性を指摘した調査結果がある 3) 構成は次の通りである。まず、大分市中心市街地の変遷を整理 した上で (2 ) 、歩行者通行量及び店舗数のデータから駅ビル開 業による中心商店街への影響について分析する (3 ) 。次に、行 政、商店街、駅ビル、まちづくり会社へのヒアリング調査をもと に、商店街と駅ビルの連携の過程、内容、成果と課題について明 らかにし (4 ) 、まちづくり主体間の関係と連携構築の要因を考 察する (5 ) 。最後に本稿から得られた知見をまとめる (6 ) 2. 大分市中心市街地の変遷 本章では、駅ビル開業前後の大分市中心市街地の状況について 整理する。主な出来事を表 -1 にまとめた。 (1) 駅ビル開業までの商業環境の変化 1964 年、大分市は新産業都市として国から指定を受け、新日 本製鐵や昭和電工などの工場が次々に建設されて九州を代表す る工業都市となるとともに、中心市街地にはトキハ本店、長崎屋、 ジャスコ、ニチイ、ダイエー、西友、パルコ、サティなど大型店 が次々と開業した。しかし、モータリゼーションの進展、郊外へ の大規模なニュータウンの造成などにより市街地は拡大し、近年 ではロードサイド店の立地、トキハわさだタウンやパークプレイ ス大分などの郊外大型店の立地、TV・ネット販売によって、大 型店が閉店するなど中心市街地が消費者から買い物や憩いの場 として選択されにくくなってきていた (1) (2) 中心市街地における駅ビル開業までの経緯 大分市では、「大分駅付近連続立体交差事業」「大分駅南土地区 画整理事業」「庄の原佐野線等関連街路事業」の 3 つの事業を一 体的に実施し総合的なまちづくりを行う「大分駅周辺総合整備事 業」が1995 年から開始された 4) 。総事業費は約1,900 億円で、 100 年に1 度のハード事業、戦後最大のインフラ整備とも言われる事 業である。事業の発端は、県と市が連携して大分市国鉄路線高 - 303 -

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.15, 2017 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.15, February, 2017

* 非会員・長崎大学環境科学部(Faculty of Environmental Science, Nagasaki University) **正会員・長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科(Institute of Environmental Science, Nagasaki University)

中心市街地における商店街と駅ビルの連携に関する研究

-大分市を事例として-

A study on the cooperation between local shopping streets and a station building in the city center : Case study of Oita City

竹ノ内 沙妃*・片山 健介**

Saki TAKENOUCHI* and Kensuke KATAYAMA**

Recently, the decline of city center shopping areas has become serious problem in many local cities partly due to large shopping centers in suburban areas. On the other hand, there are the cases that commercial facilities are developed in the stations (“Ekibiru” or “Ekinaka”) in central part of cities. This paper aims to discuss the process, effectiveness and challenges of cooperation between local shopping streets and a station building for city center revitalization through the case study of Oita City. In Oita City, various cooperative activities are carried out based on the cooperation between existing shopping streets and the station building (JR OITA CITY). The distance between the station and local shopping area, the existence of an association for machidukuri, consciousness of actors and complementary relations are key factors to build close cooperation. Keywords: cooperation, local shopping streets, station building, city center revitalization, Oita City

連携、商店街、駅ビル、中心市街地活性化、大分市 1. はじめに

近年、地方都市の中心市街地の衰退が問題視されている。中

心市街地の衰退は、人口減少による空洞化、大型商業施設の郊外

立地や人々の消費行動の変化による集客力の低下などに伴い、空

き店舗・空地が増加し 1)、活気が失われることでもたらされる。

一方で、都市中心部にある鉄道駅に、駅ビルや駅ナカと呼ばれる

新しい商業施設ができる事例が見られる。九州について見ると、

JR九州グループは、複合商業施設「アミュプラザ(AMU PLAZA)」

を小倉(1998年)、長崎(2000年)、鹿児島(2004年)、博多(2011年)、

大分(2015年)の5地域に展開している。鉄道会社にとっては、本

来の鉄道事業に加えて事業を多角化する必要があり、今後人口減

少が進むことでこうした事例は増えていくことも予想される。

駅ビルや駅ナカは、中心市街地に大型商業施設ができること

で、中心部に人を呼び込むきっかけになる。しかし、駅ビルその

ものが活性化しても、その効果が既存商店街にまで波及しなけれ

ば中心市街地活性化にはつながらない。

本稿では、2015 年 4 月に駅ビルが開業し、中心市街地におい

て様々な連携事業が行われている大分市を事例に、駅ビルが開業

したことによる中心商店街への影響と、行政・商店街・駅ビル等

活性化に関わるまちづくり主体の連携の実態について、特に商店

街と駅ビルの連携に着目して明らかにすることを目的とする。

駅ビル・駅ナカと既存商店街との関係を扱った研究としては、

駅ナカ商業施設の開業に伴う駅周辺の商業地への影響とその要

因を明らかにし、望まれる駅ナカと駅周辺の商業地との関係性に

ついて考察したものがある 2)。また、駅ビルが立地した先行事例

である長崎市と鹿児島市を対象に、既存商店街と駅ビルとが早期

に協力連携することの必要性を指摘した調査結果がある 3)。

構成は次の通りである。まず、大分市中心市街地の変遷を整理

した上で(2 章)、歩行者通行量及び店舗数のデータから駅ビル開

業による中心商店街への影響について分析する(3 章)。次に、行

政、商店街、駅ビル、まちづくり会社へのヒアリング調査をもと

に、商店街と駅ビルの連携の過程、内容、成果と課題について明

らかにし(4 章)、まちづくり主体間の関係と連携構築の要因を考

察する(5章)。最後に本稿から得られた知見をまとめる(6章)。

2. 大分市中心市街地の変遷

本章では、駅ビル開業前後の大分市中心市街地の状況について

整理する。主な出来事を表-1にまとめた。

(1) 駅ビル開業までの商業環境の変化

1964 年、大分市は新産業都市として国から指定を受け、新日

本製鐵や昭和電工などの工場が次々に建設されて九州を代表す

る工業都市となるとともに、中心市街地にはトキハ本店、長崎屋、

ジャスコ、ニチイ、ダイエー、西友、パルコ、サティなど大型店

が次々と開業した。しかし、モータリゼーションの進展、郊外へ

の大規模なニュータウンの造成などにより市街地は拡大し、近年

ではロードサイド店の立地、トキハわさだタウンやパークプレイ

ス大分などの郊外大型店の立地、TV・ネット販売によって、大

型店が閉店するなど中心市街地が消費者から買い物や憩いの場

として選択されにくくなってきていた(1)。

(2) 中心市街地における駅ビル開業までの経緯

大分市では、「大分駅付近連続立体交差事業」「大分駅南土地区

画整理事業」「庄の原佐野線等関連街路事業」の3つの事業を一

体的に実施し総合的なまちづくりを行う「大分駅周辺総合整備事

業」が1995年から開始された 4)。総事業費は約1,900億円で、100

年に1度のハード事業、戦後最大のインフラ整備とも言われる事

業である。事業の発端は、県と市が連携して大分市国鉄路線高

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【表-1】駅ビル開業までの主な出来事

年 主な出来事1936 トキハ本店開業

1971 長崎屋開業

1973 ジャスコ、ニチイ、ダイエー開業

1974 西友開業

1977 西友閉店、大分パルコ開業(旧:西友)

1988 長崎屋閉店

1993 ジャスコ閉店、大分フォーラス開業(旧:ジャスコ)

1994 大分サティ開業(旧:ニチイ)

1995 「大分駅周辺総合整備事業」開始

1996 「大分駅付近連続立体交差事業」及び「大分駅南土地区画整理事業」開始

2000 ダイエー閉店、トキハわさだタウン開業

2002 パークプレイス大分開業

2008 「大分市中心市街地活性化基本計画」策定(計画期間:2008年7月~2013年3月)

2009 大分サティ閉店

2010 セントポルタビル開業(旧:大分サティ)

2011 大分パルコ閉店

2012 大分駅舎内の豊後にわさき市場開業

2013 複合文化交流施設「ホルトホール大分」開館「大分駅付近連続立体交差事業」完了「第2期大分市中心市街地活性化基本計画」策定

(計画期間:2013年4月~2018年3月)

2015 JR大分新駅ビル「JRおおいたシティ」開業

大分県立美術館開館

(著者作成)

架化促進期成同盟会を発足させた1970年に遡る 5)。

2002年に大分駅付近連続立体交差事業が起工され、2008年の

豊肥・久大本線高架開業、2012 年の日豊本線高架開業により、

全線高架化が完了した。同時に、大分駅舎内の高架下に位置する、

スーパーマーケット、食品、飲食を中心とした33店舗からなる

商業施設「豊後にわさき市場」が2012年3月に開業した。さら

に、JR九州を主体として JR大分新駅ビルが2013年4月に着工

され、商業施設、屋上庭園、温浴施設など多彩な機能を兼ね備え

た地上21階・地下1階、延床面積約107,000m2(うち、アミュプ

ラザおおいたの店舗面積(駅ビルエリア)は約31,000 m2)、店舗数

【図-1】大分市中心市街地の大型店及び商店街(著者作成)

(地図出所:ゼンリン地図サイト「いつもNAVI」)

224 店舗(2)の新駅ビル「JR おおいたシティ」が2015 年4 月に開

業した。

3. 駅ビル開業の前後における中心商店街への影響の分析

本章では、歩行者通行量及び店舗数の変化に着目して、駅ビル

開業の前後における中心商店街への影響について分析する。大分

市中心市街地における大型店と商店街の位置を図-1に示す。

(1) 歩行者通行量の変化

図-2 は、「大分市中心部における歩行者通行量調査」(3)のデー

タをもとに、2008~2015 年の中心部各ブロック別の歩行者通行

量の変化をグラフで表したものである(4)。

これを見ると、2008年~2015年の8年間でほぼ横ばいで推移

しているブロックもあれば、年によって大きく変化しているブロ

ックもあることが読み取れる。駅ビル開業前後(2014-2015 年)で

見ると、駅周辺(府内中央口広場)の通行量が増加しているが、商

店街によって増減があり、長期的傾向を勘案すると、このグラフ

からは駅ビル開業との明確な関連性は読み取れない。

(2) 店舗数の変化

図-3~図-7は、図-1の商店街のうち、「ガレリア竹町(竹町通商

店街)」「セントポルタ中央町(中央町商店街)」「府内五番街」「サ

ンサン通り」「ポルトソール」の主要5商店街の店舗数とその内

訳(物販、飲食、サービス、空き店舗)の変化をグラフで示したも

のである。新たな駅ビルが建設されることは開業前からわかって

いたため、駅ビル開業の影響は直近というよりも長期的に表れて

いると考えられる。

図を見ると、全体的には物販の店舗数が減少している一方、飲

食・サービスの店舗数が増加しているように見える。しかし変化

【図-2】各ブロックの歩行者通行量の変化

(「大分市中心部における歩行者通行量調査」データをもとに著者作成)

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【図-3】ガレリア竹町の店舗数の変化

【図-4】セントポルタ中央町の店舗数の変化

【図-5】府内五番街の店舗数の変化

は商店街ごとに異なっており、中央通りを挟んで西側のセントポ

ルタ中央町、ガレリア竹町では物販が減り飲食が増えているが、

サービスの増加はガレリア竹町で顕著である。他方、東側の商店

街では西側の商店街ほどに飲食は増加していない。駅ビルから近

い商店街ほど影響を受けやすいという傾向は見られず、商店街の

歴史の違いやアーケードの有無、もともとどの業種の店舗が多い

商店街であるかなどの特性によって異なると言える。

4. 大分市における中心商店街等と駅ビルの連携

大分市中心部における既存商店街等と駅ビルの連携の実態と

経緯を把握するため、大分市役所商工労働観光部商工労政課、株

式会社大分まちなか倶楽部、サンサン通り商店街振興組合/大分

【図-6】サンサン通りの店舗数の変化

【図-7】ポルトソールの店舗数の変化

(図-3~7:(株)大分まちなか倶楽部ヒアリング提供資料をもとに著者作成)

都心まちづくり委員会企画委員会、株式会社JR大分シティに対

してヒアリング調査を行った(5)。

(1) まちづくり組織

まず、中心市街地活性化に関わるまちづくり組織として、大分

都心まちづくり委員会及び(株)大分まちなか倶楽部の概要につ

いて整理する。

大分都心まちづくり委員会 は、駅の高架化や駅南土地区画整

理事業によって駅南のみが繁栄し駅北が衰退するのを防ぐため

に、大分市と商店街が連携して中心市街地の商業による都心活性

化、特に駅北の商業地の活性化を図ることを目的として(6)、1996

年に設立された商店街と大型店の連携組織(7)である。中心市街地

活性化に向けたイベントの企画・実施は大分都心まちづくり委員

会の中に設置されている企画委員会が主体的に行っており、毎月

1度会合を開き意見交換をしている。イベントごとに部会があり、

企画委員会のトップがそれぞれの部会を束ねて 1 年間の事業計

画を作成し、部会ごとに存在する各部会長が先導して大型店・商

店街・駅ビルで役割分担を決め、まちの賑わいづくりに取り組ん

でいる(8)。

(株)大分まちなか倶楽部(以下まちなか倶楽部)は、大分市中心

市街地活性化基本計画の諸事業を推進するために、大分市、大分

商工会議所、地元の民間企業などにより2007年に設立された官

民協働のまちづくり会社である。大分市商店街連合会や大分都心

まちづくり委員会、大分市中心部商店街振興組合連合会等、まち

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なかの商店街や委員会に関わるものすべての事務局機能を備え

ている。2007 年以降、まちなか倶楽部が中心となってまち全体

の事務・調整的役割を担い、商店街の連携等様々な事業に着手し

ている(9)。

(2) 連携体制の構築

(株)JR大分シティ(以下大分シティ)は、2015年の駅ビル開業を

機に大分都心まちづくり委員会に加入しており、まちなか倶楽部

の株主としても参加している。商店街側は大分シティが委員会に

加入するよう2011 年頃から働きかけていた。商店街では、当初

は駅ビルに対して抵抗感のある人が多かったが、大分シティが開

業前からまちづくりを見据えた市場リサーチ行ったり、地元の人

を巻き込んでポスターや CM 等の広告媒体に起用するなどして

きたことから、共に取り組んでいこうという形が出来上がってい

ったという(10)。

一方、大分シティ側も2010~2011 年頃から中心部のまちづく

り団体や行政と密接な情報交換を行い、2011 年頃から様々な会

合に毎月、あるいは2ヶ月に1回出席するなど、将来の連携を見

据えた動きを始めた。その背景として、JR 九州では、駅ビルだ

けでなく駅周辺の総合開発を行うことで大分の中心市街地が活

性化すること、駅ビルはもちろん周辺の開発に至るまですべての

プラスの相乗効果が生まれるだろうという予想があった。そこで、

行政以外にアプローチをしたのが大分都心まちづくり委員会と

まちなか倶楽部であり、アプローチをした時点で大分都心まちづ

くり委員会も了承し、情報交換をして一緒にまちを盛り上げてい

こうという流れになった(11)。

(3) 連携事業への取り組み

2015年4月に新駅ビル「JRおおいたシティ」が開業して以来、

駅ビルを含む中心市街地の大型店と商店街が連携して事業を行

っている。主な連携事業としては、1年に夏と冬の2回開催され

る「THE まちなかバーゲン」や、冬のイルミネーション「おお

いた光のファンタジー」などがある。これらの事業は、イベント

の開催日を合わせ、期間中は各種イベントを催し、大型店や商店

街では特典を設けるなど、中心商店街と駅ビルの双方が相乗効果

を生み出せるような内容となっている(12)。

「THE まちなかバーゲン」は、駅ビルと中心商店街の初めて

の連携イベントであり、、イベントのCMでは、大型店と商店街

が共同で事業を行っているという事実を視聴者に知らせるため

に商店街や大型店の名前を入れることで、中心市街地の一体感を

外へ発信している。これは、駅ビル・商店街等で共同事業を行う

にあたり、大型店と商店街が一緒になって同じことに取り組んで

いるという事実を発信することがはじめに最も大事なことであ

るとの認識に基づく(13)。

連携事業の企画は、大分都心まちづくり委員会企画委員会が中

心となっている。リアルなまちに足を運んでもらうには、変化・

楽しみ・驚き・発見というような気運をつくっていくことが重要

であるとの考えから、毎月1度の会合で様々なアイディアを出し

合い、面白いと思ったことにはどんどん着手していく姿勢で行わ

れている(14)。まちなか倶楽部は事務局として、委員会のメンバー

が自由に意見を出し合いまちの方向性を決めていくように促す

などの事務・調整的役割を担っている(15)。大分市は連携イベント

に対して補助金など資金面で協力し、市の事業で関わることがあ

れば、説明や連携を行う場合もある(16)。

(4) 連携の成果及び課題

関係者へのヒアリングから、連携の成果としては、中心市街地

の来街者が増加してまちに賑わいが戻ってきたこと、大分都心ま

ちづくり委員会企画委員会の活発化と同時に、人的つながりの拡

大によって様々なことを提案して何かを行うという動きが生ま

れてきたこと、若い世代が関わることで新しいことにチャレンジ

するようになったこと、駅ビル開業前と比べイベントの規模が大

きくなり、商店街側にとっても情報発信がしやすくなったこと、

まちに一体感が生まれてきていることなどが挙げられた。

一方で連携の課題として、商店街の歴史や特性の違いから調整

が難しい面があること、商店街によって活気に差があることが挙

げられた。また、連携を今後も継続させていくことが重要であり、

新たな人材の発掘や後継者の育成、各商店街やまちづくりに関わ

る組織との連携の強化、集客やイベント、話題性を事業収益に結

びつけていくことが今後の課題として指摘された。

5. 考察

本章では、ヒアリング結果をもとに中心市街地活性化における

まちづくり主体の関係を整理し、大分市において連携が構築され

ている要因について考察する。

(1) まちづくり主体の役割

図-8 に、大分市中心市街地活性化に関わるまちづくり主体の

関係をまとめた。

商店街と駅ビルの連携の中心となっているのは、大分都心まち

づくり委員会である。大分都心まちづくり委員会に大分シティが

加入し、企画委員会を中心に駅ビル、既存大型店と商店街が協働

して連携イベントに取り組んでいる。協働して取り組んでいるこ

とに加え、駅ビルと中心商店街の双方が相乗効果を生み出せるよ

うなイベントの内容であることから、中心市街地における商店

街・大型店・駅ビルは補完的な関係性を築いていると言える。

これに対して、まちなか倶楽部は事務局としての機能を果たし

ている。また、大分市が策定している中心市街地活性化基本計画

に基づく取り組みはまちなか倶楽部を中心に進められているの

【図-8】大分市中心市街地におけるまちづくり主体の関係

(著者作成)

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で、大分市とまちなか倶楽部は相互連携という関係性になってい

ると言える。大分市は、イベントの企画・実施を大分都心まちづ

くり委員会に委ね、資金面で支援している。大分都心まちづくり

委員会から市に対してイベントの依頼をすることもあれば、その

逆もあるという相互関係が見られる。

(2) 大分市における連携構築の要因

大分市において駅ビルと中心商店街が連携を構築することが

可能だった要因として以下の4点が指摘できる。

1) 駅ビルと中心市街地の近接性という地理的特徴

大分市は、駅ビルと中心商店街の距離が300m未満で徒歩圏内

にある。そのため、中心商店街と駅ビルが連携して事業を行いや

すく、中心市街地が活性化することで、駅ビルと中心商店街の双

方がWin-Winの関係を得やすいことが考えられる(17)。

2) まちづくり組織の存在

大分市においては、まちづくりを行うための受け皿となりうる

組織として「大分都心まちづくり委員会」があり、これに大分シ

ティが加入することで、既存商店街・大型店と駅ビルが連携する

体制が構築できた(18)。

3) まちづくり関係者の意識の持ち方

商店街側は、郊外発展に対する中心部衰退の危機感から活性化

の必要性を認識し、駅ビル進出をチャンスと捉え(19)、中心市街地

を一緒に活気づけていこうという姿勢であった。一方、駅ビル側

も、もはや一人勝ちできる時代ではないという認識から、連携を

見据えたまちづくりの観点での市場リサーチを大分市で初めて

行い、中心市街地の活性化に積極的な姿勢であった。

4) 駅ビルと中心商店街の補完的関係性

商店街側と駅ビルがそれぞれの強みを生かしていくという補

完的関係性が指摘できる。例えば、大分シティは、商店街が発揮

できる業種の強みは飲食であるというという認識から、「JRおお

いたシティ」では物販に対する飲食の比率を九州の他都市の駅ビ

ルより抑えているという。また、駅ビル開業の際に、『ひらけ★

まちなか』という商店街の魅力を紹介する本の作成・無料配布を

行い、まちなかにも来街者の足が向くような取り組みも行った(20)。

これは、駅ビルの情報発信力を活用して、中心市街地全体を盛り

上げていこうという取り組みであると言えよう。

6. まとめ

本稿では、大分市を事例に、駅ビルが開業したことによる中心

商店街への影響と、商店街・駅ビルを中心に活性化に関わるまち

づくり主体の連携の実態について明らかにすることを目的とし

た。得られた知見をまとめると以下のようになる。

第1に、駅ビルの開業による歩行者通行量・店舗の変化は、商

店街の特性によって異なることがわかった。

第2に、連携の実態に関しては、イベントの企画・実施を大分

都心まちづくり委員会企画委員会が中心となって行い、中心商店

街と駅ビルが相乗効果を生み出せる形で協働して取り組んでい

ることがわかった。

第3に、連携構築の要因として、駅ビルと中心市街地の近接性

という地理的特徴、まちづくり組織の存在、まちづくり関係者の

意識の持ち方、駅ビルと中心商店街の補完的関係性があることが

わかった。

第4に、連携の成果として、人的つながりが広がり新たな動き

が生れている点などが挙げられるが、取り組みを継続していくこ

とが重要であり、新たな人材の発掘・後継者の育成や連携強化が

課題であることがわかった。

人口が減少し、鉄道会社の経営の厳しさが増すことを考えると、

今後、他の地方都市でも同様の状況が生じることも想定され、大

分市の経験は、既存商店街と駅ビルの連携に関する有益な示唆を

与えるものと考えられる。

最後に、大分市は駅ビルが開業してまだ日が浅いため、データ

による中心商店街への影響の把握には限界があった。今後は、一

定の期間を経た時点でのデータの分析や連携の実態についての

継続的な調査研究が必要である。

謝辞

本稿をとりまとめるにあたり、大分市役所商工労働観光部商工労政課、

株式会社大分まちなか倶楽部、サンサン通り商店街振興組合/大分都心ま

ちづくり委員会企画委員会、株式会社JR大分シティのご担当の皆様には、

ヒアリング調査にご協力をいただいた。また、本研究は、科学研究費・基

盤研究(B)(課題番号25289204)の助成を受けたものである。記して謝意を

表します。 補注

(1) 大分市商工労政課ヒアリング入手資料より。 (2) JRおおいたシティプレスリリース(2014年9月30日、2015年2月25日)、株式会社日本設計ウェブサイト

(https://www.nihonsekkei.co.jp/projects/1552/(最終閲覧日2017年2月28日))に基づく。

(3) 大分市中心部を通行する人を対象に毎年11月中旬、金曜~日曜の午前

11時~午後7時までの3日間で実施されている。 (4) 分析を行う際の注意点として、2008年~2015年の通行量調査データで、

ブロックの名称、区分の仕方、測定地点の番号が異なっていた。条件を

合わせるために各年のデータのブロック名を現在名へ変更した。また、

2014年以前と2015年のデータでは、2015年のみ区分の仕方が大まかに

なっており測定地点の番号の振り方に若干変化があった。前年とブロッ

ク名を統一させ、それに応じて2014年以前と同じ地点からの結果になる

ように番号の組み合わせを変えて歩行者通行量を計算し、ブロックごと

に合計を出した。 (5) 訪問先及び実施日は次の通り。大分市役所商工労働観光部商工労政

課・(株)大分まちなか倶楽部(2016年11月2日)、サンサン通り商店街振

興組合/大分都心まちづくり委員会企画委員会(2016年12月13日)、(株)JR大分シティ(2016年12月14日)。

(6) 大分市商工労政課へのヒアリングより。 (7) 大分都心まちづくり委員会構成団体は次の通り。竹町通商店街振興組

合、中央町商店街振興組合、府内五番街商店街振興組合、サンサン通り

商店街振興組合(企画委員会委員長)、ポルトソール商店街振興組合、赤レ

ンガ通り商店街、(株)トキハ、(株)OPA大分フォーラス、(株)トキハイン

ダストリー、(株)JR大分シティ、(株)大分まちなか倶楽部、中央通り会。 (8) 大分市商工労政課、まちなか倶楽部へのヒアリングより。 (9) 大分市商工労政課、まちなか倶楽部へのヒアリングより。 (10) サンサン通り商店街振興組合へのヒアリングより。 (11) 大分シティへのヒアリングより。 (12) 一例として、「おおいた光のファンタジー2016~星空のシンフォニー

~」期間中のイベントの1つである「まち歩き特典」がある。これは、

中心市街地のイルミネーション写真を商店街で参加している店舗で見せ

ると、各店舗でお得なサービスが受けられるというイベントである。イ

ルミネーションのイベントは、駅ビルと商店街が連携することで従来よ

り大規模に開催することができる。また、イベントがあることで、人々

の関心がまちへ向き、来街者が増えるとともに、特典があることで店の

利益にもつながることが期待される。 (13) サンサン通り商店街振興組合へのヒアリングより。

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Page 6: 中心市街地における商店街と駅ビルの連携に関する …**正会員・長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科(Institute of Environmental Science,

公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.15, 2017 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.15, February, 2017

(14) サンサン通り商店街振興組合、大分シティへのヒアリングより。 (15) まちなか倶楽部へのヒアリングより。 (16) 大分市商工労政課へのヒアリングより。 (17) このことは、先行事例の長崎市、鹿児島市との相違点として、大分市

商工労政課、まちなか倶楽部、大分シティのヒアリングでも指摘された。 (18) 新規にまちづくり組織を立ち上げるには時間と労力がかかるが、大分

市では既に存在していたことが大きかったことが、大分シティのヒアリ

ングでも指摘された。 (19) アミュプラザと商品が競合する場合でも、店の強みをブラッシュアッ

プするチャンスと前向きに捉えることも重要であるとの指摘もあった。

サンサン通り商店街振興組合へのヒアリングより。 (20) 大分シティへのヒアリングより。 参考文献

1) 朝日照太・坂本綾香・畑中信二ほか(2014)「大分市中心市街地における

業種の変遷と特徴:大分県大分市中心部における業種の変遷に関する研

究(その1)」, 日本建築学会九州支部研究報告53号, pp.349-352. 2) 白澤翔平・小泉秀樹・大方潤一郎(2012)「駅ナカ商業施設の開業による

駅周辺の商業地への影響とその要因:JR赤羽駅を事例として」, 都市住

宅学, (79), pp.82-87. 3) 株式会社大銀経済経営研究所(2013)「先進事例からみるJR大分駅ビル

開業の影響(上)」, おおいたの経済と経営, no.279, pp.1-6.. 株式会社大銀経済経営研究所(2014)「先進事例からみるJR大分駅ビル

開業の影響(下)」, おおいたの経済と経営, no.280, pp.1-8. 4) 公益財団法人九州経済調査協会(2015)「2015年版九州経済白書:都市

再構築と地方創生のデザイン~集住とダウンサイジングによる成長点

づくりの都市経営~」. 5) 佐藤誠治(2016)「県都で進んだ新世紀の顔づくり-大分駅周辺で展開す

る都市整備-」, 都市計画(特別号), p.21.

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