村格・都市格の形成(郷土への誇りを育てるまちづ …町村合計 1,018 13,323...

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平成 19 年度国土施策創発調査 村格・都市格の形成(郷土への誇りを育てるまちづくり) に向けた推進方策調査 報告書 (本編) 平成 20 3 国土交通省北陸地方整備局

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平成 19 年度国土施策創発調査

村格・都市格の形成(郷土への誇りを育てるまちづくり)

に向けた推進方策調査

報告書

(本編)

平成 20 年 3 月

国土交通省北陸地方整備局

新 潟 県 上 越 市

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村格・都市格の形成(郷土への誇りを育てるまちづくり)に向けた推進方策調査報告書 目次

序章 調査の枠組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第1章 広域合併後の基礎自治体における地域の創意工夫を活かした新しいまちづくりの

取組状況および課題等の把握

1-1 合併自治体の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

1-2 地域独自の文化や価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1-3 地域の特徴や誇りの形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

1-4 合併自治体における取組事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

第2章 地域住民等の新しいまちづくりへの意識や価値観を醸成するための課題や方策の検討

2-1 地域への「誇り」意識の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

2-2 住民の地域への関与の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

2-3 地元地域での継続的居住意向と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65

2-4 ワークショップによる地域住民の誇りの醸成とアイデンティティ形成・・・・・68

2-5 「村格・都市格形成のまちづくりフォーラム」の開催・・・・・・・・・・・・91

第3章 郷土への誇りを育てるまちづくりの手法

3-1 中小都市におけるまちづくりの成功事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・93

3-2 国内での地域アイデンティティ構築事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・104

3-3 海外での地域アイデンティティ構築事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・120

第4章 新しいまちづくりの指針・目標としての「村格・都市格」

4-1 持続可能な地域社会の再構築に向けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141

4-2 「村格・都市格」の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149

4-3 「村格・都市格」の指標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・158

4-4 「村格・都市格」の評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・166

第5章 中心市街地・地域集落の地域づくり推進方策の検討

5-1 上越市におけるケーススタディ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・173

5-2 高山市におけるケーススタディ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・198

第6章 「村格・都市格」に基づく地域づくりのモデルと実践手法の構築

6-1 「村格・都市格」による地域づくりのモデル・・・・・・・・・・・・・・・・211

6-2 「村格・都市格」運動の推進方策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・227

今後の課題および展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・231

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序章 調査の枠組み

(1)調査の背景

現在、わが国の農山村地域では、伝統的農林業・生業の衰退、少子高齢化と人口流出による過

疎化、産業の担い手不足などの課題を抱えている。またそれに伴い、森林、里山、棚田、田園な

どの伝統的景観や環境、伝統文化、地域産業の維持など、総体的な地域社会の維持・持続が困難

になりつつある。

一方、地方都市の中心部では、モータリゼーションの進展に伴い、消費者のアクセス条件や物

流の構造が大きく変化し、地場の商業機能や住機能をはじめとする様々な都市機能の空洞化とい

うべき現象が起きており、経済やアイデンティティの中心的担い手としての役割を失いつつある。

このような中心部とその周縁の村落地域の両方で起きているそれぞれの地域の空洞化という課

題に対しては、文化、商業機能の再生を中心に、医療、福祉、教育、生活などの機能も併せて、

地域構造の再構築を図っていく必要があるが、従来、中心市街地と周辺村落地域が属する自治体

が、それぞれ別々であったため、自治体ごとに中心市街地対策あるいは過疎対策を個別に講じて

きており、「中心市街地」と「周辺村落」を連携させた包括的な課題解決が難しい状況であった。

しかし、「平成の大合併」により市町村合併が推進されてきた結果、中心部と周辺集落地域を包

括するような範囲まで一つの自治体がカバーできる地域が増えてきた。これにより、中心市街地

と過疎地域を相互に連携させた包括的な形で、一自治体が政策を打ち出せるチャンスと環境が生

まれてきたと考えられる。そして、中心市街地などの都市地域と、田園地域、中山間地域、森林

地域などからなる周辺村落地域とを包括的な視野に納めつつ、各地域の位置付けや果たすべき機

能や役割などを意識して、各地域が相互に連携・協力することにより、総体としての地域の力や

魅力を高める効果的な施策・地域づくりが可能となっていると考えられる。

合併後の自治体において包括的・一体的な施策を実施する上では、新しいまちづくりに関する

地域住民等の意識や価値観を醸成・共有化し、住民創発型のまちづくり活動を活性化することが

重要な鍵となっている。そのためには、「わがまち」への誇りや愛郷心を育て、自らの地域へのア

イデンティティを醸成することがもう一つの重要な課題であると考えられる。

国においても、市町村合併への支援やまちづくり・むらづくりへの支援を行っているものの、

財政上の制約などから地方自治体における危機的な状況には十分に対応できておらず、都市と地

方の格差是正なども含め、地域の活性化、官民協働のまちづくり、地方財政の健全化等を推進す

る必要がある。このため、地域と国が連携して新しいまちづくり・むらづくりの指針・目標の具

体化とその実践モデルを構築し、平成 20 年度から合併市町村で本格化する新市建設計画や都市マ

スタープランの見直しなどに反映させることも、重要な課題である。

(2)調査の目的

上記調査の背景に鑑み、本調査では人口 20 万人程度以下の地方の中小都市および町村地域を対

象に、まちづくりの取組状況や課題等を分析・検証し、地域の担い手として地域住民やまちづく

り活動を実践する NPO 等が、新しいまちづくりへの意識や価値観を醸成・共有化するための方策

や地域経営手法を検討した。ここでは、新たなまちづくりの指針・目標として「村格・都市格」

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概念の導入の検討を行い、「郷土への誇りを育てるまちづくり」の推進方策や実践手法等を提示し、

全国の合併自治体における地域の創意工夫を活かした新しいまちづくりの推進と、合併市町村の

みならず逼迫する地方自治体の財政状況に対して、地方自治体の構成要素であるコミュニティの

維持、持続可能な地域経営の確立に向けた官民協働のまちづくりや住民個々の啓発・意識改革・

活動促進の仕組みづくりにより、地域住民自らによる「郷土への誇りを育てるまちづくり」の実

践モデルを構築することを目指した。

具体的には、「平成の大合併」により誕生した広域基礎自治体におけるまちづくりの取組状況や

課題等をフォローアップし、地域の担い手として地域住民やまちづくり活動を実践する NPO 等が

新しいまちづくりへの意識や価値観を醸成・共有化するための方策や手法等を検討するとともに

(地域経営)、新しいまちづくりの指針・目標として「村格・都市格」の概念および評価方法等を

具体化し、合併後の自治体における「郷土への誇りを育てるまちづくり(地域 CI)」の実践モデ

ルを構築することを目的とした。

表0-1 人口規模別の市区町村数と人口割合

分類 市区町村数 人口(千人) 人口割合(%)

特別区 (*1) 23 8,490 6.6

政令指定都市 17 24,468 19.2

中核市+人口 30 万人以上の都市 (*2) 43 18,682 14.6

特例市+人口 20 万人以上の都市 (*3) 54 14,645 11.5

大都市

(人口 20 万人以上の都市+特別区計) 137 66,285 51.9

人口 10 万人~20 万人の都市 (*4) 148 20,317 15.9

人口 5 万人~10 万人の都市 274 19,046 14.9

人口 5 万人未満の都市 246 8,797 6.9

中小都市

(人口 20 万人未満の都市計)(*4) 668 48,160 37.7

町村合計 1,018 13,323 10.4

総 計 1,823 127,768 100.0

(市区町村数は平成 19 年 10 月 1 日現在。人口は平成 17 年国勢調査ベース)

(*1)人口 20 万人未満の特別区を含む (*2)人口 30 万人以上の特例市は除く

(*3)人口 30 万人未満の中核市は除く (*4)人口 20 万人未満の特例市は除く

(3)調査のモデル地区

本調査では、平成の大合併において、①最も多くの市町村の合併を行った新潟県上越市(1 市 6

町 7 村)と、②最も大きな面積の合併を行った岐阜県高山市(1 市 2 町 7 村)の 2 市をモデル地

域として検討を行った。

両市は、平成の合併により誕生した広域的な基礎自治体の代表格であり、旧市町村の「村格・

都市格」を守り育てながら、新しい自治体としての「都市格」の形成を推進するという、合併自

治体特有の地域経営課題に積極的に取り組んでおり、両市をモデルに「村格・都市格」の形成手

法等を検討することで、全国の合併自治体に対する指針が得られると考えたからである。

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表0-2 新潟県上越市の概要

合併の期日:2005 年 1 月 1 日 合併の方式:編入

人口:208,082 人(高齢化率:24.2%)(*1) 人口増減:-1.8% (*2)

面積:973.32 K ㎡ 合併市町村数:1 市 6 町 7 村(全国最多)

地目別面積:宅地 5.1%、農地 21.3%、山林その他 73.6%(*4)

産業構造:第一次産業 7.2%、第二次産業 32.1%、第三次産業 60.2% (*4)

財政力指数:0.54 (*4) 経常収支比率:91.5% (*4)

歳入総額:101,454,415 千円 (*4)

最深積雪量:162cm (*4)

特別地域政策指定:特別豪雪、豪雪、

山村、過疎、特農、

中山間、リゾート、

農工、積雪寒冷特別、

辺地、テレトピア

(*1)2005 年国勢調査 (*2)2000 年~2005 年の国勢調査

(*3)2003 年 10 月「全国都道府県市区町村別面積調査」 (*4)2005 年度

出所 新潟県市町村要覧(平成 18 年度版)、平成 19 年度上越市統計要覧、市町村財政比較分析表(平

成 17 年度普通会計決算)他

表0-3 岐阜県高山市の概要

合併の期日:2005 年 2 月 1 日 合併の方式:編入

人口:96,231 人(高齢化率:23.9%)(*1) 人口増減:-0.8% (*2)

面積:2,177.67 K ㎡ (全国最大市)(*3) 合併市町村数:1 市 2 町 7 村

地目別面積:宅地 2.0%、農地 6.2%、山林その他 91.8%(*4)

産業構造:第一次産業 10.9%、第二次産業 24.8%、第三次産業 64.3% (*4)

財政力指数:0.51 (*4) 経常収支比率:73.7% (*4)

歳入総額:55,033,183 千円 (*4)

最深積雪量:77cm (*4)

特別地域政策指定:特別豪雪、豪雪、山村、

過疎、特農、低開発、

農工、積雪寒冷特別、

辺地、中部圏開発、

テレトピア

(*1)2005 年国勢調査 (*2)2000 年~2005 年の国勢調査

(*3)2003 年 10 月「全国都道府県市区町村別面積調査」 (*4)2005 年度

出所 高山市平成 18 年度市町村台帳(平成 17 年度決算内容)、高山市のあらまし(平成 19 年度版)、

市町村財政比較分析表(平成 17 年度普通会計決算)他

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(4)検討項目と主な調査手法

本調査における検討項目と主な調査手法は、下記の通りである。

(4-1)広域合併後の基礎自治体における地域の創意工夫を活かした新しいまちづくりの取組

状況および課題等の把握

人口 20 万人以下の地方中小都市(首都圏の 1 都 3 県(神奈川、埼玉、千葉)の市町村は除外)

を対象に、基礎自治体が抱えている地域の課題を明らかにし、整理を行った(自治体アンケート)。

また、地域の創意工夫を活かした新しいまちづくりを行っている自治体に焦点を当て、どのよう

な取組が展開され、解決方策が導き出されているのか、その特徴とプロセスを明らかにすること

で、新たなまちづくりの実現に向けた検討課題と解決方策の抽出・整理を行った(ヒアリング)。

①自治体へのアンケート調査

・人口 20 万人以下(平成 17 年国勢調査に基づく、自治体合併は 2008 年 2 月現在)

・首都圏の 1 都 3 県(神奈川、埼玉、千葉)の市町村は除外

・アンケート送付数:1,512 市町村

・アンケート回収数:894 市町村(回収率 59%)

②ヒアリング調査

アンケートや文献調査等を通じて合併自治体における取組事例を収集し、その上で、特色あ

る取組を行っている自治体に対してヒアリングを実施し、取組の背景や目的、実施内容と手法

等の収集・分析を行った。

(4-2)地域住民等の新しいまちづくりへの意識や価値観を醸成するための課題や方策の検討

当調査のモデル自治体である新潟県上越市と岐阜県高山市の住民等の意見を把握・整理するこ

とで、「郷土の誇りを育てるまちづくり提案」のベースとなる要素や資源の明確化を図った(住民

等アンケート調査)。特に、地域に根ざす参加者が一同に会し、グループ毎に意見を述べ合うワー

クショップ(以下、WS)形式の議論を行い、郷土の誇りや特色を活かしたまちづくりに向けた住

民等の提案やアイディア等を把握した。併せて、新市全体や各地域(特に中心市街地や限界集落

など)の現状を参加者間で共有し、他地域の住民との交流機会とした。

①上越市および高山市の住民等を対象とした、アンケート調査

・上越市民アンケート

送付数:2,387 通

【市民 2,000 人、地域協議会委員 186 人、NPO 等市民活動団体 201 団体】

回収数:1,086 通

【市民 821 人(回収率 41%)(内、有効回答数 809)】

【地域協議会委員 132 人(回収率 71%)(内、白紙回答 1 人)】

【NPO 等市民活動団体 126 団体(回収率 63%)】

【他、分類不能 20 人】

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・高山市民アンケート

送付数:1,014 通

【市民 1,000 人、市政モニター14 人】

回収数:468 通

【市民 450 人(回収率 45%)】

【市政モニター10 人(回収率 71%)】

【他、分類不能 8 人】

②上越市および高山市の住民 WS

・住民等を中心した WS を各 3 回実施

・上越市:地域自治区(13 地区)、中心市街地(2 地区)、合計 15 地区

・高山市:高山地域(旧高山市域)、支所地域(9 地域)、合計 10 地区

(4-3)国内外における「郷土への誇りを育てるまちづくり」の事例調査および推進手法等の

分析

地域のアイデンティティを確立している、地域 CI を形成・発信している地域が、どのような取

組や過程を経て、現在に至ったのか、その特徴や手法等の整理を行った。

①文献調査

・国内外の都市・農村等における「地域 CI」に関連したまちづくり事例を文献調査等により収

集・分析

②ヒアリング調査

・収集した事例より、「郷土の誇りや価値」を積極的に発信するなど、特色ある「地域 CI」を

展開している地域や先進的な「地域 CI」の展開地域に対するヒアリング調査

(4-4)新しいまちづくりの指針・目標としての「村格・都市格」の概念と評価方法等の検討

郷土への誇りを育てるまちづくりの基礎となる「村格・都市格」の概念の確立に向け、経済指

標にとどまらない、誇りや愛郷心等も包括する概念として、「村格・都市格」の指標と評価方法等

の構築を図った。

検討に際しては、これまでに語られてきた「村格」「都市格」の議論の把握・整理を手始めとし

て概念の整理、構築を進めた。また、概念整理とともに、評価指標としての項目の体系化と妥当

性の確保等、他分野における既存の評価指標等の体系についても参考としつつ検討を進めた。

①検討ワーキング・グループ(WG)による検討

WG の構成は、政策立案シンクタンクおよび地域開発シンクタンク研究員、調査受託機関研究

員などから構成する実務 WG と、検討すべきテーマの高い質的基準を担保すべく関係分野の有識

者等をアドバイザーとして備え、進捗に応じてアドバイザーへのヒアリングや助言を受けること

で検討を進めた。

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(4-5)「村格・都市格」の指針・目標に基づく中心市街地・地域集落の再生推進方策の検討

当調査におけるモデル自治体である上越市および高山市における中心市街地および地域集落を

対象として、「村格・都市格」の要素や指標を踏まえた実地検討を通じて、それらの妥当性や汎用性

の検証・フィードバックを行った。さらに、実際の中心市街地および地域集落におけるまちづく

り、地域づくりの新たな方向性を検討した。

①モデル自治体における「村格・都市格」の要素や資源の抽出・分析・評価

WG の検討を踏まえてモデル自治体の「村格・都市格」を検討した。

・住民等 WS における「わがまちの誇りと価値」を整理・分析

・「村格・都市格」の指標に基づく両市の要素や資源等を抽出・整理

・「村格・都市格」の指針や目標像を踏まえた両市のまちづくり課題と方向性の検討

②モデル自治体の中心市街地再生・地域集落再生等のケーススタディ

アンケート調査および住民 WS 等を踏まえ、上越市および高山市の中心市街地と地域集落を具

体的に取り上げ、「村格・都市格」の要素を活用した地域づくりのケーススタディを行った。

・住民等 WS における「郷土の誇りを育てるまちづくり提案」の整理・分析を踏まえた、地域

再生の方向性の検討

・中心市街地のまちづくりの課題整理とモデルプランの検討(高田地区、直江津地区、高山地

区)

・地域集落等のまちづくりの課題整理とモデルプランの検討(各市 2 地区程度)

(4-6)合併後の自治体における「地域 CI」の実践手法等の体系化とモデルの構築

広域合併を経た自治体において合併のインパクトを活かし、持続可能な地域経営の実現と地域

のアイデンティティの形成を図るため、「地域 CI」の実践手法、プログラム、プロセスの体系化

や全国の合併自治体へと適用可能なモデルの構築を行った。ここでは、地域のサスティナブル戦

略として、新たな担い手やリピーターの呼び込みにつながる方策について検討した。

①合併自治体における地域 CI の実践手法・プログラム・プロセス等の検討・構築

・前述の国内事例調査、海外事例調査における地域 CI の実践手法等の分析

・ここでの調査を踏まえ、また、モデル自治体における「村格・都市格」指標の状況を考慮し、

地域 CI の実践手法等の検討(上越市、高山市)

②民間の経営手法や人材等を活用した地域 CI を持続的に展開するための仕組み等の検討

・国内事例調査、海外事例調査における地域 CI の展開手法、仕組み等の分析

・地域 CI を円滑に推進するため、民間の経営手法や人材等の活用方法の検討

・上記を踏まえた、モデル自治体における地域 CI の展開手法と仕組み等の方向性の検討

上記、6 項目の調査について専門的な視点から検討、検証を行うとともに、調査成果としての

「提言」をまとめる、調査検討委員会を設置した。

また、本調査専用のホームページを開設し、調査プロセスなどの情報発信を行い

(http://www.dori.jp/sonkaku_toshikaku/index.html)、調査提言を発表するためのフォーラムを開催し、

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所属 役職

委員長 伊藤 滋 早稲田大学 特命教授

副委員長 榛村 純一 村格・都市格研究所 代表

五十嵐 由利子新潟大学教育人間科学部・大学院現代社会文化研究科

副学長(2008.1月迄)教授

内山 節 立教大学大学院 教授

川勝 平太 静岡文化芸術大学 学長

工藤 裕子 中央大学法学部 教授

神野 直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授

林田 英樹 独立行政法人国立美術館 国立新美術館 館長

松本 英昭 地方公務員共済組合連合会 理事長

山本 徹 財団法人農村開発企画委員会 理事長

渡邉 隆 上越教育大学 学長

土野 守 高山市長 

木浦 正幸 上越市長

氏名

成果の発信を行った。

(5)調査実施体制

(5-1)調査実施主体

○国土交通省都市・地域整備局まちづくり推進課、北陸地方整備局、中部地方整備局

○農林水産省農村振興局農村政策課、北陸農政局、東海農政局

○文化庁長官官房政策課

○総務省自治行政局合併推進課

○高山市

○上越市(発案者)

(5-2)調査参加主体

○新潟県(幹事県)、岐阜県、山形県、米沢市

(5-3)調査検討委員会名簿

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第1章

広域合併後の基礎自治体における地域の創意工夫を活かした

新しいまちづくりの取組状況および課題等の把握

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1-1 合併自治体の課題

現在、日本の大都市圏以外の地域では一般的に、地方都市の中心部とその周縁の村落地域の両

方で、地域の空洞化という問題が起きており、文化、商業機能の再生を中心に、医療、福祉、教

育、生活等の機能も併せて、地域構造の再構築を図っていくことが重要と考えられる。これまで

は、中心市街地と周辺村落地域が属する自治体が、それぞれ別々であったため、自治体ごとに中

心市街地対策あるいは過疎対策を個別に講じてきており、「中心市街地」と「周辺村落」を連携さ

せた包括的な課題解決が難しかったと言える(図1-1(1))。

図1-1(1) 中心市街地と周辺村落の現状と相互の関係

しかし現在、「平成の大合併」により、市町村合併が推進されてきた結果、この中心部と周辺集

落地域を包括するような範囲まで一つの自治体がカバーできる地域が増えてきた。これにより、

中心市街地と過疎地域を相互に連携させた包括的な形で、一自治体が政策を打ち出せるチャンス

と環境が生まれてきたと言える。

このような状況により、中心市街地等の都市地域と、田園地域、中山間地域、森林地域等から

なる周辺村落地域とを包括的な視野に納めつつ、各地域の位置付けや果たすべき機能や役割等を

意識して、各地域が相互に連携・協力することにより、総体としての地域の力や魅力を高める効

果的な施策・地域づくりが可能となっている(図1-1(2))。

本章においては、全国の人口 20 万人以下の市町村を対象として実施したアンケート調査により、

地方自治体が抱えている地域の課題と特色あるまちづくりを行っている自治体における取組課題

地場商業の衰退

後継者難・高齢化

賑わい・景観の劣化

地域文化の衰退

アイデンティティ の中心性低下

商店街の 崩壊

中心市街地の現状 周辺村落の現状

伝統的農林業・生業の衰退

人口流出・高齢化

環境・景観の劣化

伝統・文化の衰退

住民の誇りの低下

集落の自治力の低下

これまでは「中心市街地」「周辺村落」それぞれが別の自治体に属して

いる場合が多かったため、「中心市街地」と「周辺村落」を連携させた

包括的な課題解決が難しかった。

「中心市街地」と「周辺村落」を連携させた 包括的な施策構築・課題解決のチャンス

市町村合併

9

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と展開方策を整理することにより、情報の共有化と比較化を可能とし、新たなまちづくりの指針・

目標、展開手法、実践モデル等の検討に際しての検討課題と解決策の基礎資料とする。

図1-1(2) 市町村合併による行政区域の拡大

1-1-1 自治体経営の課題

(1)地域経営の課題

地域経営に関する課題として、重要度が高いものから 3 番目までの選択を求めたところ、「人口

の減少(人口の減少、過疎化の進行、地域コミュニティの空洞化)」「地域経済の停滞(農林水産

業・地場産業の不振、地域経済の停滞、雇用機会の減少)」「地方税収の減少(地方税収の減少、

債務残高の増大、市町村財政の悪化)」「生産年齢人口の減少(少子化の進行、若年層の流出によ

る生産年齢人口の減少)」が四大課題として浮かび上がった。

このうち、1 番目に挙げられた課題について人口規模別に見ると、特に人口 10 万人以上 15 万

人未満のカテゴリーにおいては「地方税収の減少」を挙げた自治体が 27.6%と全体での割合から

上回って第一位の課題となっている。逆にこの課題は人口1万人未満の自治体では全体値

(18.8%)のほぼ半分の割合にとどまっており対照的である。しかし人口1万人未満の自治体で

はやはり「人口の減少」を 1 番目に挙げる自治体が半数強(55.4%)に上っており、それだけ深

刻な状況であると考えられる。

一方、当調査のテーマに関わる「郷土への愛着や誇りの喪失」は、1 番目の課題に挙げた自治

体が全体で僅か 0.2%にとどまっており、2 番目および 3 番目の課題として挙げた自治体もそれぞ

れ 1%未満であった。平成の大合併後の調査であることから、この項目は一定の割合で回答が集

まるだろうという仮説であったが、郷土への愛着や誇りの喪失は地域経営の課題としてはほとん

中山間地域 田園地域 都市地域森林地域

生命資産のストック

(森林・水源・生態系)

●森林を守り育てる場所(学習・体験・参加)

●伝統を守り育てる場所(景観・生業・様式・文化)

●人を守り育てる場所(健康長寿・安全安心)

●生きる力と知恵を育む場所(子供・若者・起業)

生産農地のストック

(食料生産・循環機能)

経済活動のストック

(市場・資金・情報)

これまでの行政区域 市町村合併によって拡大した行政区域

10

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ど意識されていない。従って、郷土への愛着や誇りに関しては、喪失状態ではなく現状からの維

持・継承や新たな創造に向けた取組が一つの課題と捉えることができる。

表1-1-1(1)地域経営の課題(重要度が 1~3 番目の各々で上位四位までを表示)

表1-1-1(2) 地域経営の課題(1 番目とされた課題のみを人口規模別に集計) 1-1,(3)自治体人口

合計(N)

全体(%)

1万人未満

1万人~29999人

3万人~49999人

5万人~99999人

10万人~149999人

15万人~

20万人

合計(N) 882 242 259 152 146 58 25合計(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

人口の減少等 306 34.7 55.4 33.2 28.3 19.9 19.0 12.0伝統や文化の衰退等 13 1.5 0.8 1.9 2.0 0.7 3.4 -

2-1 自然環境の荒廃等 2 0.2 - 0.4 0.7 - - -地域 遊休農地や耕作放棄地の増加等 20 2.3 2.5 3.1 2.6 1.4 - -経営 地域経済の停滞等 167 18.9 17.8 20.5 16.4 21.2 17.2 20.0の 医療・福祉サービスの不足 44 5.0 4.5 3.9 6.6 4.1 10.3 4.0

課題 生産年齢人口の減少 69 7.8 6.2 7.7 9.2 7.5 5.2 24.0(1番目) 教育現場の崩壊等 3 0.3 0.4 - 1.3 - - -

郷土への愛着や誇りの喪失 2 0.2 - - - 1.4 - -道路網の整備等 42 4.8 1.2 3.5 6.6 10.3 5.2 8.0市街地の空洞化等 17 1.9 - 1.5 2.0 3.4 5.2 8.0災害対策 7 0.8 - - 0.7 2.7 3.4 -公共関連業種の不振等 1 0.1 0.4 - - - - -広域行政の進展等 15 1.7 1.2 0.8 0.7 4.1 3.4 4.0地方税収の減少等 166 18.8 9.5 22.8 21.7 21.2 27.6 16.0その他 8 0.9 - 0.8 1.3 2.1 - 4.0

(2)行政経営の課題

行政経営の課題として、重要度が高いものから 3 番目までの項目を回答してもらったところ、

突出した回答はほとんどなく、「財政基盤の改善(行政運営やサービスの効率化を進め、財政基盤

の改善を図ること)」、「住民自治の問題(行政と住民自治との役割分担や連携の仕組みを再構築す

ること)および(自立的な住民自治のための活動、組織、人材を育成すること)」、「行政等の人材

問題(多様化する行政ニーズに対応した専門的能力や人材を養成すること)」、「民間との連携・協

働(民間との連携・協働による地域活性化の取組を推進すること)」が 2 割前後の回答を集めて上

位に並んでいる。

これらのうち、住民自治の問題や民間との連携・協働等行政の役割の見直しに関する課題が上

位に多く選ばれており、今後の行政経営の課題として住民自治や民間との協働を重視する自治体

重要度 第一位 第二位 第三位 第四位人口の減少等 地域経済の停滞等 地方税収の減少等 生産年齢人口の減少等

34.8 18.9 18.8 7.8地域経済の停滞

等生産年齢人口の減少 道路網の整備等

医療・福祉サービスの不足

24.7 19.7 10.0 8.4地方税収の減少

等生産年齢人口の減少 道路網の整備等 地域経済の停滞等

29.1 16.4 9.8 8.4

第一番目

第二番目

第三番目

11

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が多くみられるという点が特徴の一つである(下表の点線囲み内)。

表1-1-1(3) 行政経営の課題(重要度が 1~3 番目の各々で上位四位までを表示)

1-1-2 地域活性化の方向

地域の活性化に向けた重点施策として、重要度が高いものから 3 番目までを尋ねたところ、「観

光や交流の拡大(特色ある資源や文化・スポーツを生かした観光や交流の拡大)」や「地域ブラン

ド形成(地域独自の文化や価値を生かした地域ブランドの形成)」などの外部との関係性を意識し

た経済振興策が上位に挙げられた。これと合わせて、「医療・福祉機能等の再編」、「中心市街地の

暮らし再編」などの生活環境関連施策も上位にランクされている。また、重要度が 3 番目の重点

施策としては「自然環境の保全」や「街並み景観等の継承」という地域の文化資本の保全に関す

る施策が第一位と第三位に挙げられており、この分野への関心も高いという傾向が明らかになっ

た。

このうち、1 番目に挙げられた重点施策について人口規模別に見ると、「観光や交流の拡大」が

首位であることは変わりないものの、人口1万人未満の自治体では「移住等の促進(豊かな環境

を生かした長期滞在、二地域居住、移住の推進)」が約 2 割に上り、この人口規模の中では重点施

策の第二位に浮上している。逆に人口 5 万人以上 10 万人未満の自治体と 10 万人以上 15 万人未満

の自治体においては「中心市街地の暮らし再編」を挙げた自治体がそれぞれ 22.6%、24.1%(全

体では 12.7%)となり、重点施策として第二位に浮上している。

また本設問では「その他」と答えた割合が多く、具体的回答があった約 60 件(1~3番目の合

計)の内容を見ると、このうち 25 件が企業誘致や産業振興に関するもの、15 件がコミュニティ

支援や住民との協働という分野の施策であった。

重要度 第一位 第二位 第三位 第四位

財政基盤の改善行政と住民自治との

仕組みの再編成行政能力の向上

専門的能力や人材の養成

26.9 24 19.2 11.7行政と住民自治との仕組みの再編

民間との連携・協働による地域活性

住民の満足度の向上自立的な住民自治に向けた活動・組織・人材育成

25.1 19.1 15.2 13.2

財政基盤の改善民間との連携・協働

による地域活性行政と住民自治との

仕組みの再編成住民の満足度の向上

38.2 15.1 10.7 10.5

第二番目

第三番目

第一番目

12

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表1-1-2(1)地域活性化の重点施策(重要度が 1~3 番目の各々で上位四位までを表示)

表1-1-2(2)地域活性化の重点施策(1 番目とされた課題のみを人口規模別に集計)

1-1,(3)自治体人口

合計(N)

全体(%)

1万人未満

1万人~29999人

3万人~49999人

5万人~99999人

10万人~149999人

15万人~

20万人

合計(N) 882 242 259 152 146 58 25合計(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

特色を生かした観光や交流の拡大 327 37.1 37.2 39.4 31.6 39.7 29.3 48.02-3 長期滞在、2地域居住、移住の促進 100 11.3 20.7 10.8 7.9 4.1 5.2 4.0地域 中心市街地の暮らし等の再編 112 12.7 6.6 7.7 16.4 22.6 24.1 16.0

活性化 医療・福祉機能等の再編 135 15.3 15.7 18.5 19.1 10.3 8.6 -への 地域ブランドの形成 95 10.8 9.9 10.0 10.5 11.6 13.8 16.0重点 道徳や規範などの継承 7 0.8 1.7 0.4 - 1.4 - -施策 街並み景観などの継承 31 3.5 3.7 4.6 3.3 0.7 5.2 4.0

(1番目) 自然環境の保全等 37 4.2 3.3 4.6 5.9 3.4 1.7 8.0その他 38 4.3 1.2 3.9 5.3 6.2 12.1 4.0

重要度 第一位 第二位 第三位 第四位特色を生かした観光や交流の拡大

医療・福祉機能等の再編

中心市街地の暮らし等の再生

長期滞在、二地域居住、移住の促進

37.1 15.0 12.8 11.4医療・福祉機能等

の再編地域ブランドの形成

中心市街地の暮らし等の再生

特色を生かした観光や交流の拡大

24.9 21.9 13.7 9.7自然環境の保全

等地域ブランドの形成

街並み景観などの継承

医療・福祉機能等の再編

24.9 18.6 16.1 9.8第三番目

第一番目

第二番目

13

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1-2 地域独自の文化や価値

1-2-1 自治体のアイデンティティとしての文化や価値

地域住民が「わがまちの誇り」として大事にしている地域独自の文化や価値について、後段お

いて検討する「村格・都市格」指標との関係を考慮しつつ選択肢を設定して 3 項目の回答を求め

た設問においては、「豊かな自然環境(豊かな自然環境、多様な生態系、美しい景観、自然環境保

全活動等)」を挙げる自治体が約 8 割と圧倒的に多い。これに次いで「歴史文化遺産(由緒のある

歴史文化遺産・街並み・建築、催事・伝説、伝統工芸、地元学等)」が、約 5 割である。さらに続

いて、地域の相互扶助や自治活動、地域のブランド力や観光集客力が挙げられている。一方、「環

境共生の暮らし方」「健康長寿の暮らし」など、暮らしぶりに関する項目ついては 1 割程度の回答

にとどまっており、それほどの高い評価は与えられていない。

これらを自治体人口別に見ると、人口規模が大きくなるほど「歴史文化遺産」と「活力ある地

元企業(活力ある地元企業、名産・名品の存在、革新的な起業家創出の風土、産学連携等)」を挙

げる割合が高いことがわかる。逆に、人口規模が小さい自治体では「地域の助け合い(地域の助

け合い、譲り合い・公共の精神、介護や子育て支援、安心安全活動等)」を挙げる割合が高く、小

規模自治体ほど人と人のつながりを誇りに思う傾向が現れている。また、回答割合としては下位

であるものの 10 万人以上 15 万人未満の都市においては「美しいまちの佇まい(美しいまちの佇

まいと質が高い公共空間、生活環境等)」を挙げた自治体が、全体での割合に比して 2 倍以上の値

となっている。

表1-2-1(1)わがまちの誇りとして大切にしている要素(人口規模別に集計)

1-1,(3)自治体人口回答数(N)

全体(%)

1万人未満

1万人~29999人

3万人~49999人

5万人~99999人

10万人~149999人

15万人~20万人

合計(N) 883 242 260 152 146 58 25豊かな自然環境等 699 79.2 84.3 80.8 73.7 76.0 72.4 80.0由緒のある歴史文化遺産等 451 51.1 35.5 48.1 59.2 61.6 75.9 64.0有徳人、文化人の存在等 46 5.2 2.5 5.4 5.9 5.5 13.8 4.0

3-1 地産地消の食文化等 161 18.2 21.1 21.9 15.1 12.3 13.8 16.0地域 安心できる健康長寿の暮らし等 88 10.0 16.5 10.8 7.2 4.8 3.4 -住民が 住民の自治活動等 216 24.5 24.0 23.5 33.6 23.3 10.3 24.0誇りと 地域の助け合い等 279 31.6 39.7 35.4 30.9 23.3 15.5 4.0して大 地域の知名度等 212 24.0 24.8 23.1 21.7 26.7 19.0 36.0切にす 環境と共生する暮らし方等 121 13.7 15.3 13.5 12.5 13.7 13.8 8.0る要素 行政の財政的自立度等 48 5.4 7.4 6.2 3.9 3.4 3.4 4.0

活力ある地元企業等 115 13.0 5.4 10.4 11.8 19.9 29.3 44.0美しいまちの佇まい等 41 4.6 3.3 2.7 2.6 8.9 12.1 8.0女性が生き生きと活動できる環境等 27 3.1 1.7 4.2 3.3 3.4 3.4 -魅力的な美術館・博物館等 52 5.9 3.7 5.4 5.9 9.6 8.6 4.0その他 22 2.5 2.1 1.9 3.9 1.4 5.2 4.0

14

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1-2-2 外部から見た地域の価値

前問と同じ選択肢を挙げつつ、今度は「外の人々から尊敬・驚嘆され、人々を惹きつける地域

独自の文化や価値」を尋ねたところ、全体的には前問とさほど大きな回答傾向の差はみられなか

った。両者の比較は下図の通りである。ここでは、「地域の知名度、情報力、ブランド力、観光集

客力等」では外からの評価の方が、「住民の自治活動、地域活性化・NPO 運動、高い住民参加意

識、生涯学習等」と「地域の助け合い、譲り合い・公共の精神、介護や子育て支援、安心安全活

動等」では内部からの評価の方が、それぞれ 5~10 ポイントほど上回っていることが挙げられる。

0 20 40 60 80 100

豊かな自然環境など

由緒ある歴史文化遺産

地域の助け合い、譲り合い・公共の精神

地域の知名度、情報力、ブランド力

住民の自治活動

地産地消の食文化

環境と共生する暮らし方

活力ある地元企業、名品名産の存在

安心できる健康長寿の暮らし

魅力的な美術館・博物館、芸術など

行政の財政的自立度、経営力

有徳人、文化人の存在、市民の道徳・教養

美しいまちの佇まいと質の高い公共空間

女性が生き生きと活動できる環境

その他

外部の評価

わがまちの誇り

図1-2-2(1)わがまちの誇りとして大切にしている要素と外部から評価される要素の比較

1-2-3 地域の文化・価値の活用と磨きへの取組の状況

(1)地域の誇りの再生、継承の取組

「地域独自の文化や価値を再生・継承していくための取組」については、「伝統文化等を継承す

る次世代の育成」や「郷土の歴史や文化を学ぶ機会の充実」が重要と考える自治体が多く見られ、

回答割合はそれぞれ 5 割に迫っている。次いで、「住民相互の交流やふれあい、コミュニティ活動

の促進」、「住民の地域活動グループやまちづくり組織の形成」、さらには「住民の自治活動や地域

づくり活動リーダーの育成」という形による住民活動の促進が 35%前後の割合で挙げられており、

重視されていることが伺える。

これを人口規模別に見ると、特に人口 10 万人以上の都市においては「学校教育や生涯学習の充

15

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実」と「コミュニティ活動等の推進」を挙げた割合が全体での割合よりも 10~15 ポイント前後上

回っており、市民活動への意識が高い状況になっている。

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

伝統文化、行事、催事などを継承する次世代の育成

郷土の歴史や文化を学ぶ学校教育や生涯学習の充実

住民相互の交流やふれあい、コミュニティ活動の促進

住民の地域活動グループやまちづくり組織の形成

住民の自治活動や地域づくり活動リーダーの養成

わがまちの誇りや宝物を再発見する住民運動の推進

住民による環境美化活動、景観保全活動などの推進

自然体験、農林業体験、文化体験等の体験教育の充実

Uターンや移住促進などによる新たな住民の受け入れ

その他

図1-2-3(1)地域独自の文化や価値の再生・継承に必要な取組

表1-2-3(1)地域独自の文化や価値の再生・継承に必要な取組(人口規模別に集計)

1-1,(3)自治体人口回答数

(N)全体(%)

1万人未満

1万人~29999人

3万人~49999人

5万人~99999人

10万人~149999人

15万人~20万人

合計(N) 883 242 260 152 146 58 25住民運動の推進 285 32.3 30.6 31.9 34.2 31.5 34.5 40.0

3-5 学校教育や生涯学習の充実 405 45.9 40.9 42.3 49.3 51.4 56.9 52.0再生・ 体験教育の充実 190 21.5 27.3 23.1 15.8 19.2 10.3 24.0継承に 環境美化活動,環境保全活動等の推進 221 25.0 28.5 25.8 20.4 26.0 20.7 16.0必要な 次世代の育成 416 47.1 44.6 48.8 48.7 41.8 55.2 56.0取組 新たな住民の受入れ 128 14.5 26.0 11.9 11.8 8.2 5.2 4.0

リーダーの育成 308 34.9 33.9 37.3 35.5 34.9 29.3 28.0まちづくり組織等の形成 333 37.7 33.9 35.8 43.4 43.8 31.0 40.0コミュニティ活動等の促進 332 37.6 29.3 40.4 36.8 39.7 55.2 40.0その他 8 0.9 0.4 0.8 2.0 0.7 1.7 -

(2)地域の誇りの活用による経営力・経済力の向上への取組

「地域独自の文化や価値」を活用し、地域の経営力・経済力を向上させるために重要な取組と

しては、農林業をベースとした「地産地消」、さらに文化をベースにした「観光」を挙げた自治体

が 6~7 割となっている。次いで、「地域資源活用型の住民参加型ローカルビジネスの育成」、「産

学連携による地域資源活用技術・製品開発」、さらには「自然を生かした情報産業等の誘致」が 3

16

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割程度の自治体で考えられている。

0 10 20 30 40 50 60 70 80

地産地消の推進による農林業、観光業、食産業の連携強化

地域独自の文化を生かした観光交流やツーリズムの展開

地域資源を活用した住民参加・協働型ローカルビジネスの育成

産学連携による地域資源を活用した製品開発、技術開発の推進

豊かな自然と景観の魅力を生かした情報産業や知識産業の誘致

健康長寿の暮らしの魅力を生かした二地域居住や移住の促進

地域福祉、環境管理、公共施設管理の公共的サービスの事業化

新しいローカルビジネスを創出する起業家の育成と起業支援

まちづくり会社などの地域経営組織の形成とマネージャーの育成

その他

図1-2-3(2)地域の誇りの活用による経営力・経済力の向上への取組

(3)地域の誇りの再生や継承、その活用による取組の推進に向けた行政運営のあり方

前 2 問で尋ねた取組の推進に際して重要となる行政の対応としては、「首長のリーダーシップ」

や「行政と住民自治の役割分担」、「権限と責任の明確化」、「住民参加による政策提案等の仕組み

づくり」が上位に並んでおり、それぞれ 5 割前後の自治体が指摘している。これらの次に、「住民

自治やまちづくりに関する広報の強化、情報の共有化」を重要と考える自治体が、4 割弱となっ

ている。

人口規模別にみると、人口 10 万人以上および同 15 万人以上の自治体においては、ほぼ半数が

「官民協働・産学連携のプラットホームと仕組みづくり」を挙げており、全体と比べて突出した割

合となっている。また、人口 15 万人以上の自治体では「首長のリーダーシップ」が約 7 割、逆に

人口 1 万人以下の自治体では「住民参加による政策提案等の仕組みづくり」が約 6 割に上り、と

もに第一位となっている点は対照的である。

さらに、前段1-1-1で見た「行政経営の課題」として 1 番目に挙げた項目との対応をみる

と、行政運営の課題として「自立的な住民自治に向けた育成」を挙げた自治体は当設問において、

取組の推進上、重要な要素として「住民参加による政策提案等の仕組みづくり」や「地域自治組

織の形成、住民自治のルールとシステムの確立」を挙げる割合が全体値より高率となっているな

ど、具体的な展開につなげようとする積極的な姿勢が現れている。

17

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0 10 20 30 40 50 60

首長のリーダーシップ、ビジョンや政策の明確化

行政と住民自治の役割分担、権限と責任の明確化

住民参加による政策研究、政策提案の仕組みづくり

地域自治やまちづくりに関する広報の強化、情報の共有化

民間の経営手法・事業手法を活用したプロジェクトの創出

官民協働・産学連携のプラットホームと仕組みづくり

縦割り行財政システムの改善、地域自治やまちづくり施策

の総合化

その他

図1-2-3(3)取組の推進上、重要な要素

表1-2-3(2)取組の推進上、重要な要素(人口規模別に集計)

1-1,(3)自治体人口回答数

(N)全体(%)

1万人未満

1万人~29999人

3万人~49999人

5万人~99999人

10万人~149999人

15万人~20万人

合計(N) 883 242 260 152 146 58 25首長のリーダーシップ等 473 53.6 53.7 54.2 47.4 54.1 58.6 68.0

3-7 地域自治等に関する広報の強化等 324 36.7 35.5 36.5 40.8 37.7 31.0 32.0取組の 住民参加による政策提案等の仕組みづくり 433 49.0 59.1 50.4 46.1 43.2 37.9 16.0推進上 行政と住民自治との役割分担等の明確化 471 53.3 53.7 50.0 55.9 57.5 53.4 44.0重要な 地域自治組織の形成等 220 24.9 22.7 25.8 25.7 26.0 22.4 32.0要素 縦割りの行財政システムの改善等 238 27.0 23.6 31.9 31.6 22.6 19.0 24.0

官民協働・産学連携のプラットホームと仕組みづくり 252 28.5 23.1 23.5 27.0 36.3 50.0 48.0民間の手法を活用したプロジェクト創出 200 22.7 21.5 25.8 22.4 18.5 25.9 20.0その他 4 0.5 0.8 - - 0.7 1.7 -

表1-2-3(3)取組の推進上、重要な要素(「行政運営の課題」とクロス集計)

2-2 行政運営の課題(1番目)

回答数(N)

全体(%)

行政能力

の向上

専門的能力や人材

の養成

行政と住民自治との仕組みの再構成

自立的な住民自治に向けた育成

民間の経営手法やノウハウの活用

民間との連携・協働による地域

活性化

住民の満足度の向上

財政基盤

の改善

その他

合計(N) 893 173 105 212 52 11 40 54 241 5首長のリーダーシップ等 482 54.0 60.7 57.1 46.7 48.1 36.4 47.5 64.8 54.4 80.0

3-7 地域自治等に関する広報の強化等 326 36.5 42.2 33.3 34.0 30.8 9.1 40.0 37.0 38.2 20.0取組の 住民参加による政策提案等の仕組みづくり 437 48.9 45.7 58.1 47.6 57.7 45.5 57.5 42.6 47.3 20.0推進上 行政と住民自治との役割分担等の明確化 478 53.5 54.9 41.9 62.3 51.9 54.5 50.0 50.0 51.5 60.0重要な 地域自治組織の形成等 223 25.0 21.4 22.9 31.6 44.2 9.1 12.5 18.5 22.8 20.0要素 縦割りの行財政システムの改善等 239 26.8 24.9 25.7 29.2 28.8 18.2 25.0 33.3 25.3 20.0

官民協働・産学連携のプラットホームと仕組みづくり 253 28.3 23.1 31.4 25.9 25.0 54.5 35.0 33.3 29.5 60.0民間の手法を活用したプロジェクト創出 203 22.7 22.5 24.8 19.8 13.5 54.5 30.0 16.7 25.3 20.0その他 4 0.4 0.0 1.0 0.0 0.0 9.1 2.5 1.9 0.0 0.0

18

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1-3 地域の特徴や誇りの形成

(1)テーマ、キャッチフレーズの形成過程

各自治体におけるまちづくり、人づくりの「テーマ」や「キャッチフレーズ」についてその形

成過程を尋ねたところ、 多割合となった項目は「行政のまちづくり計画の中で提起」であり、

約 5 割の自治体が挙げている。これに次ぐ割合となった項目は「合併時の新市計画の中で提起」

であり、全体としては約 18%であるものの、合併済み自治体のみに限ると約 48%という高率とな

り、市町村合併がまちのあり方を議論する重要な機会となっている。

逆に、合併する予定はないと回答した市町村においては「首長の理念・ビジョン、マニュフェ

ストとして提起」という回答が全体の回答割合を数ポイント上回っているものの特徴と言えるほ

どの突出度となっていない。なお、合併の有無を問わず、この首長主導型ともいうべき形成過程

は 10%前後と少数派である。

また、全体を通じて「住民からの提案公募」、「住民参加のワークショップ」等住民を重視した

形成過程を採った自治体はさらに少なく、数%にとどまっている。

表1-3(1)テーマの提起・形成過程(合併への取組状況別に集計)

1-2(1)合併への取組状況

合計(N)

全体(%)

既に合併

合併を予定

現在協議・検討中

合併の予定なし

合計(N) 736 276 12 74 374合計(%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

首長の理念等として 84 11.4 7.2 8.3 12.2 14.4行政のまちづくり計画の中で 379 51.5 32.6 58.3 70.3 61.5

4-2 合併時の新市計画の中で 133 18.1 47.8 8.3 - -テーマ 市民・住民からの提案公募により 13 1.8 0.4 8.3 2.7 2.4の 住民参加のWSなどにより 27 3.7 2.9 - - 5.1

提起・ 外部の専門家などの提案により 9 1.2 0.4 - 4.1 1.3形成 古くから地域に根付いたテーマ 13 1.8 0.7 - 4.1 2.1過程 良く分からない 11 1.5 0.4 - 1.4 2.4

市町村議会の提案・発議により - - - - - -市町村議員の提案により 11 1.5 0.7 8.3 2.7 1.6その他 56 7.6 6.9 8.3 2.7 9.1

(2)まちづくり・人づくりのテーマ、キャッチフレーズの特徴

本調査では、各自治体におけるまちづくり、人づくりの「テーマ」や「キャッチフレーズ」を、

自由回答の形式で尋ねたが、その内容を「表1-2-1(1)わがまちの誇りとして大切にして

いる要素」の選択肢の内容に沿って分類してみたのが表1-3(2)である(一つのテーマ、キ

ャッチフレーズが、複数の分類に該当する場合は、それぞれでカウントしている)。この中で突出

して多かったのが「豊かな自然環境等(42.1%)」であり、次いで「由緒ある歴史文化遺産等(17.7%)」

であった。固有名詞が付いた自然や歴史文化より、「自然」「緑」「水」「山」「海」「歴史」「文化」

といった抽象的な単語が使われるケースが多い。豊かな自然や歴史、文化があることをアピール

するのか、活用するのか、保全していくのかといったメッセージも不明確な場合が多かった。自

然と人との共生という内容のものについては、「環境と共生する暮らし方(12.0%)」に分類した

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が、そうしたメッセージ性が明確にあるものは多くはない。こうした地域資源を外に向けて発信

するのであれば、全国各地にある自然資源と差別化する必要があり、地域づくりに活用するので

あれば、方向性を明確にする必要があると考えられる。

3 番目以降に多かった群は、「地域の助け合い等(16.6%)」「住民の自治活動等(16.5%)」「地

域の知名度等(14.5%)」「美しい佇まい等(14.1%)」「安心できる健康長寿の暮らし等(13.9%)」

といった地域づくりに関する内容である。ただし「地域の助け合い等」は「ぬくもり」「やさしさ」

「あたたか」、「安心できる健康長寿の暮らし等」は「やすらか」「すこやか」といった言葉で表現

されるなど、抽象度が高いものが多かった。

以上の順位は、第五位まで「表1-2-1(1)わがまちの誇りとして大切にしている要素」

の順位と全く同じであり、地域で誇りとするものが一定程度、テーマ、キャッチフレーズに反映

されていることがわかる。ただし、「表1-2-1(1)わがまちの誇りとして大切にしている要

素」で第六位となっていた「地産地消の食文化等」が、ここでは 1.2%と極端に少なくなっている。

表1-3(2) まちづくり・人づくりのテーマ・キャッチフレーズの分類

回答数(N)

全体(%)

合計(N) 739豊かな自然環境等 311 42.1%由緒のある歴史文化遺産等 131 17.7%有徳人、文化人の存在等 36 4.9%地産地消の食文化等 9 1.2%

4-1 安心できる健康長寿の暮らし等 103 13.9%まちづくり・人づくりの 住民の自治活動等 122 16.5%

テーマ、 地域の助け合い等 123 16.6%キャッチフレーズの 地域の知名度等 107 14.5%

分類 環境と共生する暮らし方等 89 12.0%行政の財政的自立度等 2 0.3%活力ある地元企業等 48 6.5%美しいまちの佇まい等 104 14.1%女性が生き生きと活動できる環境等 2 0.3%魅力的な美術館・博物館等 1 0.1%以上の分類に非該当 58 7.8%

「有徳人、文化人の存在等(4.9%)」「行政の財政的自立度等(0.3%)」「活力ある地元企業等

(6.5%)」「女性が生き生きと活動できる環境等(0.3%)」「魅力的な美術館・博物館等(0.1%)」

といった項目は、かなり数が少ないが、これらは、自治体のテーマやキャッチフレーズで表現し

にくいものと考えられ、地域住民や自治体職員に浸透を図るためには、別の発信や意識醸成の方

法を採るなどの工夫が必要である。

(3)各自治体が挙げた「村格・都市格」と、「村格・都市格」への意見

自治体アンケートの 後の設問として、それぞれの「格」(ブランド、誇り、憲章、宣言等)と

みなせるものと、「村格・都市格」という概念に関する意見を求め、自由回答の形で質問した。

各自治体の「格」については、この設問への何らかの回答があった自治体 402 のうち 147 の自

治体(約 37%)が、市町村が制定した憲章、宣言、条例、総合計画のテーマ、キャッチフレーズ

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等を挙げたが、これは設問に「憲章、宣言」を例示したことも影響したと考えられる。また、「ブ

ランドの形成」を格としてあげた市町村も約 30 あった。

「格」の要素としては、具体的な山、海、川、高原等の名称や、漠然と「自然」「自然環境」等

として挙げた自治体が約 100、次いで「歴史」「伝統・文化」を挙げた自治体が約 50 あった。ま

た、「自然」と「歴史」に関連して、「町並み」や「景観」も挙げられた。

「伊万里焼」、「下仁田葱」、「十勝ワイン」などの市町村の具体的な名産・名品を挙げた自治体

は 60 以上、農業・水産業・製造業等の主力産業を挙げた自治体が約 30 あった。また、観光名所

などを挙げたところが約 20 あったが、それとは別に「温泉」を挙げたところが 12 あった。さら

に、道路や空港、スポーツ施設等のインフラを挙げた自治体が 15 あった。

一方、地域住民による自治活動や協働等を挙げたところが約 30、人情、助け合いの精神、人の

つながり、生き方、考え方という、住民の気質や気風に関するものを挙げたところも約 30、さら

に郷土の偉人・先人を挙げた自治体が 7であった。

以上のように市町村の独自性を強調するものがほとんどの中、「名古屋市に近接した交通の要衝

のまち」、「隣接する伊勢市がありこの格を利用した広域圏の中での宮川を中心とした位置付け」

などのように近隣都市との関係性を挙げた自治体もあった。

これ以外に、自治体の「格」となるものがないという回答が 10、さらに合併により模索中とい

う回答もあった。

次いで、「村格・都市格」への意見として も目立ったのは、「そこに住む人々によって形成さ

れるもの」、「住民との協働のまちづくり」などのように地域住民が主体、主役となり地域をつく

り、格を形成するとの意見であった。そのためには、「地元学等を通じて地域の財産を発掘」する

など、地域の価値をまず自ら知り、「各地域の魅力を明らかにしていくこと」が重要である、とい

う地域の誇りの再発見に関する意見も多く寄せられた。また、「地域住民を参画させるインセンテ

ィブや、活動を維持・発展させるための仕組みづくり」も重要であるとの指摘がなされている。

そして、そのように発見された「格をまちづくりや住民意識の核に据えていくことができれば、

まちの活力は向上する」、「格として内外の関心が高まる程、技術も磨かれる」というように「村

格・都市格」の意義を認識している市町村もあった。ただし、「いかにその特色を有効活用し、情

報発信していくかが大きな課題」、「外からの目線も必要」、「エポックメイキングなまち」という

ように、外部からの視点で地域の独自性を表現していく必要性も指摘されている。

「村格・都市格」の内容に関しては、「価値観が文化面にシフトしている」、「経済的・定量的指

標が主体となったランキングや格付けでは現れない部分についても評価していくことが今後重

要」、「地域独自の文化や価値の創造が大前提」という指摘に見られるように、地域の価値を文化

的価値、精神的価値、人と人とのつながりなど、社会的価値等の面から評価すべきであるという

意見が目立った一方、「格を形成、維持するには、それなりの財源が必要」、「特に経済的に密接な

産業を中心に打ち立てていかないと、確立していくことは難しい」「地域が産業を育てるという視

点が必要」というような地域経済や地場産業の育成も考慮する意見もあった。また、「相反するも

ののバランスがいかにとれているか」、「ある分野だけに着目し、評価することは市町村になじま

ないのではないか」、「単体ではなく有機的に結びつけていくことが必要」というように、分野や

要素のバランスに関連した指摘もあった。また、「村格よりも小さな集落単位においても独自の文

化や価値が存在し、それらがうまく組み合わさることで、村格につながる」という意見もあった。

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「村格・都市格」の評価のしくみについては、否定的な意見や疑問も提出されている。「地域が

持つ格とは、実際にそこに住んでいる人が誇りに思っていればよく、評価するものではない」、「順

位付けの材料にならないように」というように、評価そのものへの否定的意見や、評価の使われ

方への疑問や不安が出されている。「評価するものによって、感じ方考え方が異なり、格のとらえ

方も違ってくる」、「より普遍的な観念とある程度定量的な尺度も必要」、「経済的、定量的指標に

よっての評価が困難なため、住民へのアカウンタビリティーが課題である」などのように、評価

の主観性・客観性に関する意見も寄せられた。

「村格・都市格」という言葉自体に対しては、「違和感を覚える」、「馴染みがない」、「難しそう

な言葉」、「把握しにくい」、「アレルギーを覚えてしまう」、「本来意図するところと違う使われ方

(都市・村の格付け等)がされないか不安がある」、「一般住民にとっては曖昧で難解なものとな

り受け入れには時間を要するであろうし、数年で廃れていくような言葉をいたずらに使用するこ

とはいかがかと考える」というような否定的な意見や疑問を持つ声も散見された。

なお、市町村単位ではなく、国全体から見た視点を求める意見も少数ながらみられた。「森や水

を守る農山村等、全国各地に多様な地域が息づき、過疎地域と都市との健全な交流循環を取り戻

して、それぞれの自然や文化、人々の生活等が個性を持って共生できるような国づくりを目指す

べきと考えます」との意見や「一部の都市部を除く大半の地方自治体は疲弊しており、交付税等

の抜本的な改革が不可欠であるにもかかわらず、国は責任の所在を地域の努力不足にすりかえて

いる。強力なリーダーシップとともに公平、健全な観点からの国全体の均衡ある発展が議論され

ることを念じて止みません。同じスタートラインに立った上で自治体の格を論じたいと考えます」

という意見では、国全体の政策の中での地域づくりの位置付けを求めているものと思われる。

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1-4 合併自治体における取組事例

1-4-1 山口県山口市(仁保地区)の取組

(1)取組の概要

<仁保地域開発協議会設立の経緯>

現在、山口県が中山間地域振興の方向の一つとして示しているのが、「手づくり自治区」であり、

そのモデルとされているのが、山口市仁保地区の「仁保地域開発協議会」である。

仁保は、山口市中心部から約 30 ㎞離れた人口 3,904 人の中山間地域であり、昭和 30 年に大内

町と合併し、さらに昭和 38 年に山口市に編入され、現在に至る。仁保では昭和 30 年代に 1,000

戸・5,000 人の人口が、40 年代には 1,000 戸・3,000 人台まで減少し、中学校の統廃合問題が起こ

るほど生徒数が減り過疎が進行していた。そこで当時、地区内にある様々な団体は組織もばらば

らで横の連携がない状態であったため、「みんなが共通の場をもって、むらづくりを進めよう」と、

自治会、農協、婦人会、敬老会、その他公民館等で活躍している人びとの賛同を得て「仁保地域

開発協議会」が結成された(昭和 45 年)。これは、「10 年後、20 年後の仁保を見据えながら、将

来ともに仁保地区において社会的、一般水準の生活が享受できるように、地区産業の高度化と生

活環境の整備を図る」ことを目的として設立したのである。結成後、議論するなかで、地域が目

指すべき目標を「近代的ないなか社会の建設」(昭和 46 年)と定めた。この「近代的ないなか社

会」とは、①生活環境を近代化しつつも、人情豊かな古き良きいなか社会を大切にすること、②

農業を大切にするむらづくりこそが、ふるさとをまもる――との理念から出された目標であり、

これらは山口大学の協力を得て策定された(昭和 46 年)。そして、昭和 47 年 7 月に同地域を襲っ

た集中豪雨からの復旧活動が契機となり、「行政とは関係なく、自分たちで何とか住みやすい地域

を作ろうではないか」という自治意識が、今日に至るまでの活動の原点となり、すなわち、行政

をあてにした「待ちの姿勢」から「住民の発想」による地域づくりが始められたのである。

<市道舗装の整備>

山口市との合併後、市道舗装の順位付けが地域住民の総意に委ねられた。特に仁保地域の舗装

率は極端に低く悪路が多かったが、住民・市議会議員・市当局等と議論を重ね、交通量の少ない

辺ぴな山間の路線から優先的に整備を始めるという結論をまとめ、実行に移したのである。これ

によって、辺地に生活する人々の生活基盤が守られ、衰退に対する大きな歯止めとなったのであ

る。

<スクールバスの運行>

昭和 58 年に市営バスの経営不振から 2 路線の廃止が決まった際、開発協議会と市当局との協議

の結果、廃止路線の代替となるスクールバスの運行が実現された。つまり、路線バスが廃止され

れば、山間の児童は登校が困難になり、また高齢者や移動手段のない世帯には公共交通サービス

は必要不可欠であるため、住民たちが話し合いをつづけ、知恵を絞った成果である。ここで問題

となる運営費については、通常は受益者負担となるためバスを利用する児童の保護者が負担する

ことになるが、バスが運行される集落の全世帯が(学童児童のいない世帯含めて)、地域のために

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自治会が運行するスクールバスへ 1 戸当たり 3,000 円/年を出すことが合意されたのである。こ

れによって、市が運行していたときと変わらない便数(一日四往復)を続けられるようになった

のである。なお、現在は福祉バスを兼ねて、住民たちが利用しやすい時間帯にも増便され、自主

運行を継続している。

<環境保全への取組>

仁保地区での環境問題への取組の契機は、仁保川の上流(仁保上郷上ゲ山集落)、椹野川の源流

域における産業廃棄物処分場立地問題である。処分場が建設されれば椹野川は汚染され、清流は

台無しになるため、建設計画の情報が入るとすぐ、協議会は地権者と話し合いをおこない業者対

応に関する全権委任を取り付けたのである。実は以前にも同様の事件があり、この時は地権者が

業者に土地を売ってからの運動となったという苦い経験から、まず地権者が土地を業者に売らな

い対策を講じたのである。

一方、地権者からの土地の買い取りについては、当初「トラスト制」も検討されたが、不特定

多数に土地を委ねることへの不安から、椹野川流域圏で「源流を守る」組織を結成し、また全国

に散る仁保地域の出身者等にも呼びかけた募金活動により約 1,300 万円を集めた。この資金によ

って土地を買い取り、それを山口市に寄付し、現在は「四季の森公園」として生まれ変わり、地

域住民だけでなく自然を愛する地区内外の人びとの、自然を観察する憩いの場となっている。ま

た、この運動を通じて、環境問題に対する地域住民の理解や連携が深まり、源流を守る運動の組

織をそのまま母体とする「椹野川流域通貨・連携促進検討協議会」による地域通貨「フシノ」を

ツールとした環境保護運動の展開等、地域内外の人びとをも巻き込む活動を継続している。

<ほ場整備等の農業整備>

「近代的いなか社会」を目指して、「土を動かすむらづくり」の取組が始まった。昭和 50 年代

から、①ほ場整備、②営農改善組合の設立、③営農の地域マネジメントの強化、④昭和 54 年から

は学校教育と連携を積極的に展開し、学習農園の設置や教育懇話会が実施された。このうち、ほ

場の整備については、団体のほ場整備と県営ほ場整備がほぼ 100%完了し、また営農マネジメン

ト強化については、仁保農業協同組合がライスセンター、育苗センター、堆肥センターを設置し、

これを各農家が利用できる体制が整えられた。

昭和 60 年以降の運動展開は「彩りゆたかなむらづくり」への取組である。昭和 63 年に「仁保

地区農業振興計画」を策定するとともに、新しいスローガン「安全をむらからまちに運ぶ里」を

掲げ、運動が始まった。すなわち、生協との連携により環境型農業を推進し、①「コープふれ合

い米」や「生協産直野菜」を産地化する一方で、②販売面でも「仁保こだわり野菜コーナー」の

設置や、③精米後一週間以内の新鮮な米を消費者に供給するシステムをつくり、④「ふれ合い交

流田」を設置し、田植え、除草、刈り入れ等の農作業を消費者とともに体験する交流場を作るな

ど「産地・消費」の交流活動の拡大を実施している。

さらに平成 9 年には、「道の駅」の開設に向けて、山口県の中山間地モデル事業の支援を活用し

た地産物アンテナショップ「彩り市」を開設し、「販売と流通チャンネル」の複合化を推進し、平

成 12 年に開業した道の駅「仁保の郷」に引き継がれている。また、農業の新規参入者を迎え入れ

るため、「仁保地区就農環境整備推進協議会」を設置し、平成 3 年から受け入れ事業を実施し、就

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農者の自立支援を行っている。

<道の駅「仁保の郷」>

仁保の経済活動と交流拠点は、平成 12 年に完成した道の駅「仁保の郷」である。当初、建設を

めぐっては経営が成り立つかで賛否両論があり、行政から派遣された専門家からも厳しい意見が

示されていた。その根拠とされたのが三桁国道(徳山から山口にぬける道路)の交通量が立地条

件となる一日あたり 10,000 台に遠く及ばない、3,500 台という点であった。しかし、開発協議会

やむらづくり塾(むらの明日を担う若者集団)等を中心に、地域の将来を議論し尽くした末、ま

た山口県の行政支援もあり、反対論を説得し構想を固め実現にこぎつけたのである。

構想の前提にあったのは「ゲートボールで日長一日を過ごすジイチャン・バアチャンの力を発

揮する場をつくる」ということであった。すなわち、長年の経験から多くの知恵を身につけてい

る地域の人材を生かす道として、小さな菜園でもそこから収穫された作物を持ち寄る場を作り、

それによって少しでも収入ができれば、生き甲斐となり、地域に活気が生まれるという発想であ

る。また、人びとが立ち寄り、用事を足し、情報を交換する憩いの場、すなわち、バスターミナ

ル(回転場)、JA の A コープ店、キャッシュコーナー、郵便局、住民の活動や交流の拠点である

公民館や市役所仁保出張所までをこの一帯に整備し、ワンストップサービスの実現を図ったので

ある。

運営については、第 3 セクター方式は「行政依存への依存度を高めるもの」として排除し、開

発協議会が主体となり、それを構成する自治会がほぼ全額を出資し(300 万円)、これに JA と森

林組合が上乗せ出資した「有限会社仁保の郷」が運営主体となり、オープン以来、黒字経営を続

けている。

この構想に限らず、仁保地域での公共事業に共通する特徴であるのが「仁保方式」と呼ばれる

土地取得の方法である。例えば道の駅構想を例にとると、その対象用地(仁保中央部 3 ヘクター

ル)の 7 名の地権者より、開発協議会で選ばれた”世話人”が、具体的な価格も不明なまま地権書

類に白紙委任状を添えて一切の手続きを開発協議会に委任する方法である。このように地権者が

趣旨に賛同し、協議会に白紙委任状を渡すという方式は、全国的にも珍しい方式であるが、これ

は住民間(開発協議会と地権者等)相互の信頼関係と、むらづくりに対する熱い思いがあって成

り立つ方法である。

建設事業費は山口県と山口市が負担し、敷地面積 1 万 8000 平方メートル、鉄筋コンクリート(床

面積 1128 平方メートル)の二階建で、「山口市地域特産部販売促進センター」と「簡易パーキン

グ」が設置され、前者はレストラン、パン工房、菓子工房、餅工房等が付設されている。運営は

前述の通り、有限会社仁保の郷が指定管理者となり、また各店舗はテナントで経営の責任はそれ

ぞれが持っており、平成 18 年度の来客数は約 70 万人、全体での売上高は 3 億円である。このう

ち、農産物の売上高は平成 18 年度で約 8,000 万円、当面の目標売上高は 1 億円である。

また、道の駅は地元の人たちの交流の場でもあり、平成 12 年より「仁保の郷」を核としたむら

づくり活動の一環として、地元住民多数参加のもと施設周辺の花木の植栽を行い、「仁保の郷」の

オープン記念として、仁保地区住民全戸が参加した「一戸一鉢」の菊祭りを催し、当日は菊の鉢

1,200 鉢がステージに飾られた。

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(2)取組の成果

開発協議会はまさに地域の核となり、「行政頼み」とならない地域住民の総意による自治の仕組

みを具現化した「小さな役場」(後述)である。(1)で取り上げた取組事例は、その一部であり、

数多くの地域課題の解決において、開発協議会が中心となって地域マネジメント、人材の育成、

そして何よりも「本当に仁保に住んでよかった」と実感するための取組を続けている。

その一つの結果が、「平成 13 年度豊かなむらづくり天皇杯」の受賞である。もちろん、天皇杯

の受賞が目的ではないものの、それまでの約 30 年間にわたる活動を評価されたことで地域住民の

自信となり、誇りとなったと考えられる。また、これからの中山間地域を運営するモデルとして

注目を集めており、山口県が進める「手づくり自治区」のモデルのひとつとなっている。

ここで「手づくり自治区」とは、小学校区程度の基礎的生活圏を単位として、①集落の機能低

下を広域で支えあう、②住民の声や知恵を生かし地域のやる気を引き出す、③住民が主体的に地

域を良くする、④住民の声を聞き効率の良い支援を実現するための仕組みとして、住民が地域を

支えるネットワークづくりの基礎となる「新たな地域コミュニティ組織」である。

仁保のような地域に対する住民の危機意識からの自主的な取組が重要であるが、現実的には、

このような組織や運動の立ち上がりの初期段階には行政(市町村等)の関与も重要となる。つま

り、行政が決して中山間地域等の過疎地住民を見捨てているわけではないこと、行政が常に末端

集落までを見つめているという安心感と、住民にあきらめ感を持たせないためである。そして仁

保の「近代的いなか社会の実現」のように、「地域の夢プラン」を策定するために、問題や課題を

住民自身が気づき、危機感を共有すること、また行政は住民の主体的な動きを支援し、促進させ

る立場に立つことが大切である。このように、仁保地域開発協議会が歩んできたプロセスと地域

住民総意による活動展開がひとつのモデルとなり、地域づくりの施策に反映されている。

(3)成功要因・阻害要因

仁保地域開発協議会では、約 40 年間、活動の先頭に立ってきた地域を思う誇り高いリーダーの

存在がある。このような地域活動を先導するリーダーの要諦は「無私無欲」であり、決して特別

な才能が要求されるわけではない。「リーダーは欲を捨てろ!」「行政に頼るな!」「要求する前に

知恵を出せ」「リーダーが長く職務を続けるのが悪いのではなく、悪いのはリーダーが私利私欲で

動くことだ」「むらづくり運動からは一円たりとも受け取らない」とは、開発協議会の会長を約

40 年務めてきている山本繁正会長の言葉である。このように、成功に導く大きな要因は、ひたす

ら地域のために大志(篤農家的な)を抱き働く指導者の存在が大きいと考えられる。

また、もうひとつ成功の要因を考えると、予算や制度・仕組みもあるけれども、それ以上に「む

らづくり運動」の目標を明確にし、全員参加のもと運動を不断に継続していく力である。そして

地域の価値を住民自らが上げていくためには、やはり住民自身が地域に投資していく(税金や外

部からの資金だけに頼らない)合意形成がなされ、そして実行されることが、「住民が主体的に地

域に関わる」ことの新しいステップであると考えられる。

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(4) 課題

<仁保地域の教訓と今後の課題>

仁保地域では、引き続き「仁保地区開発協議会」を軸に活動を展開していくことになるが、こ

れまでの地域づくりの経験を生かし、ひとつずつ問題を解決しながら、①新たな特産品を開発、

②地元加工品の生産体制の再編、③環境保全型農業への取組体制の再編、④JA を中心とした生産

体制の強化等多くの課題が整理されている。また、山口市内や近隣市町村民の交流促進等、幅広

い住民参加の場をつくることも大きな課題であり、「仁保の郷」を中心とした道の駅の運営ならび

に地域づくり活動を定着させることも課題である。さらに、今後活動を進める後継者の育成も大

きな課題である。というのも、仁保地域開発協議会の山本繁正会長を始め、指導層が高齢化して

いるという問題がある。しかし、この点、地域の人びとは意外に楽観的で、つまり、必要な活動・

運動が起これば、それに必要なリーダーが必ず地域から登場するという経験則、もちろん、若い

人世代が先輩たちの活動の経験を学びながら、様々な形で活動に参加してきているため、やがて

この中から地域づくりのリーダーに成長していくに違いないという確信がなされているのである。

<「手づくり自治区」づくり> 自治体は今後とも財政的に厳しい状態が続くため、「住民から無制限な要求が出てくる懸念」と、

財政との整合性を計る上できわめて難しい対応を迫られることも想定される。しかし、仁保がそ

うであったように、①行政との役割分担、②実施時期等の相互了解が重要となり、住民と行政の

ギャップを埋めるための十分なコミニュケーションが必要である。また、第三者(大学や専門家

等)が継続的に関わり、客観的な立場から支援することも重要である。今年度山口県がすすめて

いるモデル事業においては、地域での話し合い活動に関し、専門家や県の職員が住民と市町との

間に立ち、客観的な立場からアドバイスや合意形成を支援をおこなっており、非常に有益に作用

している。すなわち、合併による市町の職員削減により職員負担が大きくなっているため、行政

のなかでも役割分担を行いながら、住民の主体的な活動を促進していくことが重要となっている。

そして、行政を敵視せず、頼ることなく、むしろ仲間として引き込み、協力体制を構築すること

が重要であり、仁保では山口県知事や市長、県や市の幹部、大学教授等を“仲間”と呼んで活動

している。

また、「手づくり自治区」づくりを進めていく担い手の確保という課題がある。担い手としては、

地域に住む住民はもちろんのこと、地域から他出した人の U ターン、他の地域に居住する人の協

力を求めることなども今後は必要になってくる。強力な指導力を持つ地域リーダーの存在も重要

であるが、同時に実務能力に長け企画力のあるマネジメント能力を持つ人材の確保も重要である。

そして、 も重要な課題は「手づくり自治区」の経済基盤の確立である。地域の特性や地域の

資源を生かし、特産品の開発等を通じ新たな仕事を創出(コミュニティビジネスの創出)するこ

とが必要となっている。地域の風土に根付いた、地域づくりとしていくことが も重要であり、

逆に一番難しいことであると考えられる。

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住民 議会

行政(市長)まちづくり委員会

地域振興連合組織【6組織】

地域振興組織【32組織】

地域活動の実践

専門家

各支所 地域振興課

自治振興部 地域振興課

事業展開

報告提案・提言

支所別懇談会自治懇談会団体懇談会

連携行動

施策、予算措置

提案・議決

情報提供・助言相談・要望

指導・助言

財政・人的支援

参画・連携 調整・行動など

参画・連携 調整・行動など

1-4-2 広島県安芸高田市(川根地区)の取組

(1) 取組の概要

安芸高田市では、合併後、市内全域に 32 の地域振興組織(住民が区割りを実施)と、6 つの地

域振興連合組織(旧町単位)を設置している。「地域振興組織」が住民自治活動の基本となり、各

地域の振興や課題の解決方策等住民自身が考え行動しながら、旧町域で設定された「地域振興連

合組織」を通じて市からの支援等を受け、また条例で設置されている連合組織の代表等から構成

される「まちづくり委員会」で全市レベルの課題解決の方策検討等、各フェーズにおいて協働・

対話や大学等の外部専門家によるアドバイスがなされる仕組みとなっている。

行政からの人的支援としては、地域振興推進員による支援、旧町の支所が連合組織の事務局機

能を担う、地域活動への行政職員参加等、行政が地域のシンクタンクとして機能する仕組みとし

ている。一方の財政支援としては、年間の活動支援助成 2,400 万円/6 連合組織、事業支援助成

1,800 万円/6 連合組織で、平均すると 1 連合組織あたり 700 万円であるが、これらの配分と使用

方法は連合組織に任されている。事業内容については、連合組織によるスクリーニングをパスし

た案件が行政に申請されるようになっており、役割分担と権限委譲が行われている。

このように、合併を契機に住民と行政の協働関係の構築と、地域の特性に応じたまちづくりを

担う地域振興組織活動の支援を図り、市民と行政が良きパートナーとして連携し、地域の事情に

沿った多様な展開が志向されている。このような自治システムのモデルは、旧高宮町の川根振興

協議会(1972 年設立)の活動とその成功事例であり、この川根モデルがあるからこそ、自治活動

のイメージが湧きやすくなっている。

図1-4-2(1)安芸高田市の協働のまちづくりの構成

出所:安芸高田市資料

<川根振興協議会の取組>

川根地域は同市の北端に位置し、人口 608 人(高齢化率 47.7%)、264 戸・19 集落の中山間地域

である。高度経済成長の昭和 40 年代から過疎・高齢化が急速に進み、地域住民および転出した旧

住民からも将来に対する不安が顕在化し始めた折、有志数名によって地域住民が一丸となって自

治組織を立上げる議論が起こり、昭和 47 年に「川根振興協議会」が設立された。同年、集中豪雨

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による壊滅的な被害を受けた際、「住民の心まで過疎になってはならない」と、行政に頼ることな

く自分たちでできることは自分たちで、という精神のもと実施した災害復旧活動が、今日の礎と

なっている。

現在、川根振興協議会は農林水産畜産等の生活産業、教育福祉、地域文化等において広範な活

動を展開しており、昭和 52 年より振興協議会は全戸加入(会費 1,500 円/戸・年)が原則となって

いる。

図1-4-2(2)川根振興協議会組織構成

出所:安芸高田市川根振興協議会資料

<経済、農地、生活環境>

中山間地域の集落は、農地を維持する農家があってはじめて支えることができ、農業が衰退す

ると集落の崩壊が早まる、つまり「農業振興なくして地域振興はありえない」という認識を共有

しながら、事業を展開している。

①農事組合法人の設立

農業収益を確保しながら、地域ぐるみで年金受給世代の生きがい創出や地域福祉に取り組む農

事組合法人の設立総会が、平成 20 年 2 月に開催された。これは住民が 低出資額 1,000 円、1 ア

ール当たり 100 円を出資しあうことで、約 40ha を集積し、耕地は機械をもつ担い手農家を中心に

耕作し、担い手農家以外の組合員は体力や能力に応じて作業を行いながら、農作物を組合が一括

して農協等で販売し、収益は拠出した耕地面積と労働量をもとに分配するスキームである。

これは以前より地域で活動してきた営農集団「ファミリーファーム 21(FF21)」の延長にあり、

ほ場された農地を荒廃させることなく、60 代以降の元気な方の生涯現役を支援し、「年金+30 万

円/年」を地域で生み出すための応援団的な組織と位置付け、平成 20 年 4 月以降より本格的な活

動が始まるものである。将来的には、農事組合法人から株式会社等の法人格への変更も検討事案

になるとのことである。また、川根では中山間地直接支払制度を地域全体で申請し、年間約 700

万円の交付金を各農家に配分せず、地区で管理し農地を地域全体で守ることを進めている。

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②エコミュージアム川根

旧川根中学校が統合によって廃校となった跡地に、レストラン・宿泊施設・集会(会議)場を

兼ねた「エコミュージアム川根」を 1992 年に開設した。中学校の廃校に当たっては、地域で 8 年

間議論した末、「新たな地域文化のよりどころをつくる」という住民からの提案によって、「全町

公園化構想」の一環として、建設費約 3.4 億円(旧高宮町が負担)、運営は地域の約 20 団体(振

興協議会もそのひとつ)で 740 万円を出資して設立した運営協会が運営費補填なしで運営を担っ

てきた。さらに、平成 18 年度からは運営協会が指定管理者となり完全に独立した運営形態となり、

地域の女性を中心に雇用の場となっている。年間 4,000 人余りの利用者(宿泊とレストラン等の

利用者合計)であるが、現在は交流活動や体験学習とリンクした利用を増やすことに取り組んで

いる。

③マーケット経営

農協が経営合理化によって、地域唯一の店舗であった川根支所のマーケットとガソリンスタン

ドの廃止を決定したことを契機に、高齢者や一人暮らしの住民の生活を支えるため、また、地域

の中心としての機能を確保するために、一世帯当たり 1,000 円の出資を募り「ふれあいマーケッ

ト」運営協会を設立し、2000 年から民間委託によってマーケットとガソリンスタンドの営業を受

け継いできていた。しかし、2005 年に店舗を運用していた地元建設会社が倒産したため、振興協

議会の役員 3 名が 500 万円の融資を農協から受け、全戸出資の運営協会を引き継ぐ形で運営して

いる。しかしもう一度、住民と地域の商店としての意義を問い直し、利用のありかたを考える時

期にきているようである。

<福祉活動>

安心して住める地域づくりのため、一人一日一円募金が行われており、募金を財源に一人暮ら

しの高齢者の訪問活動や給食サービスが実施されている。活動には、ふれあい部のメンバーがボ

ランティアとして参加している。

<担い手確保>

地域の担い手を確保するため、地域活動への参加や義務教育終了までの子どもがいることなど

を条件に、居住希望者が設計段階から参画でき住みたい家を建築する「お好み住宅」を、平成 10

年から実施している。家賃は月額 3 万円で、20 年間住み続けるとその人のものになるというもの

で(過疎債を利用)、当初の 12 戸はすぐに締切りになるほどの人気で、現在は 20 戸となっており、

小学校の児童数 25 名のうち、17~18 名がこの住宅から通う児童である。

(2) 取組の成果

川根振興協議会を中心とした活動は、「お蔭様」「お互い様」「勿体ない」という感謝と支えあう

意識が活動の根幹にあり、それを通じて住民が「知恵を出し」「汗をかき」「身銭をきる」という

地域のルール、「自治」の精神とも呼べるものが、約 35 年の年月をかけて積みあげられてきてい

る。また、水害による危機意識が活動の契機ではあったが、地域に住む一人一人が生涯にわたっ

て川根で生活することを真剣に考え、川根の将来像を共有することで、行政に頼ることなく、自

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分たちでできることは自分たちで、という意識が活動を通じて継承されてきている。

さらに、地域のリーダーとなる人材についても、各種の活動それ自体をリーダーが育つ機会と

位置付け、つまり、ボランティア参加の活動であっても、責任を持たせ、活動の質を評価し指導

することで、人材育成と地域の世代を越えたコミュニケーションの場となっている。

川根振興協議会への注目は平成の大合併前から高まり、他市町の議会議員等による視察や取材

等によって取り上げられることが、また地域の活力となる好循環となっている。一方、周辺部、

特に隣接する広島市等からの日帰り観光客や、エコミュージアム川根等での各種イベントを通じ

た地域外との交流等の機会が、活動の PDCA の一環として機能しはじめており、例えばコスト意

識や接客応対の変更など、運営面における経営感覚が生まれてきている。

(3)成功要因・阻害要因

①リーダーシップ

旧高宮町は、児玉更太郎町長(現安芸高田市長)が約 25 年にわたって住民自治を軸にした町政

をおこなってきた。ここでの「自治体内分権」がモデル化され、合併によって生まれた安芸高田

市にも同じ哲学で、システム化されていることが指摘できる。もちろんこれは、首長一人のリー

ダーシップではなく、それを実現していくために、各段階において、議員・行政職員・住民等の

なかから地域に信頼されるリーダーが生まれ、自治精神の継承が行われてきたことも要因である

と考えられる。

②過度な行政依存体質がない

活動の発端が水害からの復興における行政への不信感という側面もあるが、自治活動に対して

「住民がお金を出し合う」文化が定着している。つまり、少しでもお金を出すことで住民自身の

問題として考えることこそが、自治を築くための第一歩であり、行政依存一辺倒にならない循環

を生んでいると考えられる。そして、「行政参画」という地域づくりが、実践されていると考えら

れる。

③コミュニケーションと PDCA

安芸高田市においては、地域内・地域間・世代間・住民と行政等のコミュニケーションの醸成

が戦略的に行われ、これが住民自治の形成においても重要な要素となっている。上述以外に具体

的には、地域振興組織と行政が懇談する自治懇談会(地域懇談会)、旧町単位で組織される連合組

織と行政が懇談する支所別懇談会、さらに各活動団体と行政で懇談する団体懇談会、条例で設置

されているまちづくり委員会、さらに全市レベルで開催するまちづくりフォーラムが、行政内部

でフォーマルな交流の場として位置付けられている。ここでは、行政の情報公開や地域課題につ

いての議論がなされるが、かつての川根地域もそうだったように、住民から一方的に行政に「要

望する場」から、住民からの主体的な「提案の場」となっていくことが、成熟した住民自治のプ

ロセスであると考えられる。ちなみに、川根では、住民からの提案で実現したのがエコミュージ

アム川根(1992 年)である。

一方、フォーマルなコミュニケーションとセットで、インフォーマルな懇談会もあり、これも

重要な仕掛けとなっている。すなわち、懇談会やフォーラム等の後に、各地域が料理を持ち合い、

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その料理で地域のオリジナリティを競いながら、引き続き情報交換がなされ、新しい交流の契機

となっているからである。このように、情報交換や議論を深めながら、地域活動の今後の展開方

策について知り、各振興会が競争意識を持ちながら自治活動や施策にフィードバックする PDCA

サイクルが仕組まれている。

(4) 課題

地域活動を率いるリーダー人材を育てることに取り組みながらも(環境を整えながらも)、やは

り、高齢化と人口減少の進展に伴うリーダー人材の高齢化が挙げられる。一方、退職してから地

域で活躍し始める事例もあるため、幅広い年代から担い手を育て、また、世代や地域(特に旧町

域ごと)による自治意識のギャップの解消、自治の哲学と精神を啓発し継承することが、総合的

な地域の力を維持・発展させていくための重要な課題であると考えられる。そのため、広範な世

代が参加し、活動の中に人材育成の要素を意図的に組み込むことが益々必要となっている。

また、川根地区のように約 30 年の実績がある地域と、取り組み始めて日が浅い地域とは、地域

と行政との関係や住民や議員等の意識に相違があるため、川根というモデルの目標像はみえてい

るものの、そこに至るのまでのプロセスは手探り状態である。このように、自治を根付かせるた

めには、その地域の特性(産業構造、住民意識、文化、歴史等)に応じた個別のプロセスを踏み

ながら、行政との役割分担を調整していくことが、協働のまちづくりの実現には必要であると考

えられる。そして、このことが異なる事情を抱えながらも合併を実現した自治体にとって、同時

並行的に同じ仕組みに基づいて住民自治を育成していくことの難しさであると考えられる。

1-4-3 岐阜県大垣市(中心市街地)の取組

(1) 取組の概要

<多様な主体の連携・協働による中心市街地活性化の取組>

大垣市は、街なかの湧水や歴史資源とともに市民活動が活発な土地柄であり、その市民と地元

大学、市役所、そして商業者等の多様な主体の連携による中心市街地活性化の取組が展開されて

いる。大垣市の中心市街地では、空き店舗を活用し、岐阜経済大学、大垣地域産業情報研究協議

会、商店街の共同研究室として、「マイスター倶楽部」を設置し、中心市街地活性化やまちづくり

等に関する調査研究、交流、情報提供、イベント等、様々な事業に取り組んでいる。また、市民

公募によって市民活動組織「まちづくり工房大垣」が設置され、市民活動グループを結成し、ま

ちづくり活動の中で、中心市街地の活性化に着手している。さらに、これら組織とともに大垣市

や大垣商工会議所(大垣 TMO)が支援・連携を図ることにより、中心市街地の活性化に取り組ん

でいる(次図参照)。なお、新法に基づく中心市街地活性化計画についてもこれら組織を中心に策

定に向けた取組を行っている。

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図1-4-3(1)大垣市におけるまちづくり活動の推進体制

出所 まちづくり工房大垣活動報告書(大垣商工会議所、平成 19 年3月)を参考に作成

マイスター倶楽部は、平成 10 年の空き店舗対策モデル事業の一環で運営を開始し、事業終了後

も岐阜経済大学の学生を中心に現在まで継続的に運営されている共同研究室であり、約 30 名が調

査・研究からイベント企画まで中心市街地活性化のプロジェクトに取り組んでいる。また、マイ

スター倶楽部を主体的に活動しやすくする目的で、大学・市・商工会議所・商店街振興組合連合

会による四者協定が締結されている。 市民活動としては、旧中心市街地活性化基本計画に基づく TMO の立上げ時(平成 12 年)に行

った市民ワークショップを元に、複数のテーマからなる活動グループを作り、中心市街地活性化

に向けた協力を行っている(バリアフリーグループ、歴史観光グループ等)。それらの活動を束ね

るのが、市民公募式による市民活動組織「まちづくり工房大垣」となっている。 大垣商工会議所(大垣 TMO)は、まちづくり工房大垣の市民活動に対して、①活動拠点の提供、

②市民活動に必要な助成制度の照会、③専門家の派遣、④マイスター倶楽部と連携したまちづく

り工房大垣のニュースの発行、⑤工房が提案する市街地活性化事業についての予算化協議等の支

援・協力を行っている。 これら多様な主体が連携を図るために、マイスター倶楽部、まちづくり工房大垣、商工会議所、

大垣市等を中心に、年2回程度協議会を行っているほか、各者間での会合や共同事業等、関係者

同士で頻繁に連携を図っている。なお、マイスター倶楽部の主要メンバーは、「まちづくり工房大

垣」のメンバーを兼ねていることから、まちづくり工房大垣との密な連携・協働を図るとともに、

地元商店会等と連携したグループ活動なども行っている。 また、まちづくりに限定せず市民活動全般を幅広く支援する「大垣まちづくり市民活動支援セ

まちづくり工房大垣

・中心市街地の活性化に向けて、TMOと連携して事業推進

・市民参加によるまちづくりについて議論・実践

・各グループの中心市街地活性化の活動内容、成果を広く市民に公表

・代表者は必要に応じてTMO特別委員会にオブザーバーとして参加

情報発信

大垣まちづくり応援団

NPOまちづくり

防犯コミュニティ研究会

歴史観光

大垣ビデオ

バリアフリー

団塊世代の会大垣

土まるけネットワーク

郭町サクランボグループ

NPOスイトミュージアム研究会

大垣市TMO(大垣商工会議所)

・大垣市中心市街地活性化に向け、関係機関との連絡調整

・TMO構想に基づく各種事業の推進

市民活動団体

大 垣 市

・中心市街地活性化に向けた事業の実施

・各関係機関の支援

大垣まちづくり市民活動支援センター

・まちづくり活動等を行う市民活動団体の支援・まちづくり活動を推進する人材の発掘・市民活動団体と行政とのパートナーシップを支援

マイスター倶楽部

・岐阜経済大学、大垣地域産業情報研究協議会、商店街の共同研究室として運営

・調査・研究・交流・起業・イベント企画等のプロジェクトへの取り組み

バリアフリー

土まるけネットワーク

イベント研究

情報発信

防犯コミュニティ研究会

まちづくり応援事業実験

連携(グループ活動への参加等)

連携

参加

参加

連携

連携

連携

登録 支援

商店街(中心市街地)

参加

連携

連携 連携

連携

支援

まちづくり活動の実施

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ンター(まちづくりプラザ)」が組織化されている。 <合併後の地域間連携に向けた取組>

大垣市は、平成 18 年 3 月に 1 市 2 町の市町村合併を行っているが、各地域(旧大垣市と、旧上

石津町、旧墨俣町)は飛び地となっている。しかしながら、情報通信や交通等の活用により円満

な行政運営を進めつつ、末日に 1 が付く日に旧 2 町の野菜を扱う朝市を商店街で開催するなど、

飛び地であることの特色を生かそうとしている(旧大垣市:都市化、旧上石津町:豊富な自然、

旧墨俣町:歴史性)。

(2) 取組の成果

中心市街地内の空き店舗問題等は継続した課題として残っているものの、中心市街地でのウォ

ーキングなどの観光客の増加や、マンション立地や名古屋方面からの移住者等、一定の効果は現

れつつある。

また、マイスター倶楽部での継続的な活動を通じて、学生自身が実体験を通じて地域活動を学

べる機会を創出するとともに、若者が主体的に市民や商店街等を巻き込んで活動していることが、

地域活性化やコミュニティの醸成につながっており、地元商店街の地域活動やまちづくりへの意

識が向上しつつあることも成果としてあげられる。

(3)成功要因・阻害要因

大垣市は、旧中心市街地活性化基本計画の策定(平成 10 年 12 月)時から、市民公募で TMO設立準備委員の一部を募集するなど、当初から市民参加によるまちづくり活動が活発であり、市

民活動組織である「まちづくり工房大垣」「マイスター倶楽部」を中心として大垣市・商工会議所

が市民活動の支援を行うなど、多様な主体による連携・協働体制が確立されていることが成功要

因と考えられる。 また、まちづくりに限定せず市民活動全般を幅広く支援する「大垣まちづくり市民活動支援セ

ンター」が市民活動組織間や行政・民間との連携を支援していることも成功要因であると考えら

れる。 なお、大垣市は元々まちがコンパクトであり、城下町として昔から祭やイベントを通じて地元

の人同士の強いつながりがあることも一因と考えられる。

(4) 課題

大垣市は、特に市域縁辺部での大型店の影響が大きい地域(大型店の激戦区)であることから、

中心市街地の空き店舗問題に継続して取り組んでいくことが課題である。地元商店街がマイスタ

ー倶楽部と連携したイベントを実施するなど、地域活動やまちづくりへの意識は向上しつつある

が、商店主の高齢化や後継者不足、経営以外に割く時間確保の困難等を背景に、非協力的な商業

者も一部存在することから、商店街組織全体での中心市街地活性化に向けた地域活動への積極的

な取組(モチベーション向上)や、商店街組織内でのリーダーシップ確立が課題である。

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1-4-4 熊本県八代市(中心市街地)の取組

(1) 取組の概要

八代市は、新法に基づく中心市街地活性化基本計画の認定をいち早く受け(平成 19 年 5 月 28

日)、中心市街地活性化に積極的に取り組んでいる。ここでは三つある基本的な方針の第一に、「市

民が誇りと愛着を持てるまちづくり」を打ち出し、中心市街地に数多く残る寺社仏閣や「八代妙

見祭」等の個性を磨き高めることを掲げている。旧中心市街地活性化基本計画策定後 6 年で進捗

率 55%という時点において新計画を策定したが、新計画は人口約 14 万人という身の丈に合った

事業規模とし、中身勝負、ソフト重視の内容となっている。

<まちづくり――基本計画策定の経緯>

平成 12 年に策定された「八代市中心市街地活性化基本計画」(以下旧計画)では、人口減少や

大型スーパーの撤退表明等による中心市街地のドーナツ化現象へ対応すべく、中心市街地の両端

に集客力のあるコア施設の整備、商店街のアーケード建て替え等による「2 核 1 モール」構想を

描き、概ね 10 年間に 109 億円を投じ、ハードおよびソフトを合わせ 36 事業を行ってきた。

中心市街地の東端の旧国鉄貨物跡地には平成 14 年に 500 人収容可能な「やつしろハーモニーホ

ール」(市民ホール)が完成し、西端の旧日本セメントの工場跡地には、平成 17 年に大型商業施

設「ゆめタウン八代」がオープンするなどの結果、中心市街地の居住人口や交流人口が増加する

など一定の成果を上げたが、歩行者、自転車通行量は共に減少し、空き店舗率も上昇している。

郊外の大型店の開店や中心市街地の大型店の撤退等により、中心市街地をとりまく環境は、予想

以上に悪化したため、市では平成 19 年、新たに「中心市街地活性化基本計画」(以下新計画)を

策定し、同年 5 月に国土交通省の認定を得ている。

<新計画の内容>

この新計画の計画期間は平成 19 年から同 24 年までの 4 年 11 ヶ月間だが、総投資額は約 13 億

円、旧計画の 1/10 程度である。新計画の特色の一つは、住民参画の原則である。また具体的な数

値目標として、歩行者・自転車の通行量の 10%増、居住人口の 4%増、中心商店街の売上高 10%

増等を挙げている。毎年の数値目標のチェックとフォローアップ作業を通じ、諸課題の抽出、検

証して、八代市中心市街地活性化推進協議会に報告する。居住人口に関しては、現在、二棟のマ

ンション建設が進められており、早くも目標クリアの見通しである。

新計画でも、中心商店街(アーケード)近くの空き地に二つの大型商業施設を整備し、この大

型商業施設を「核」にして商店街の活性化を図るとしている。そのほか、道路や公園等の都市イ

ンフラ整備を進め、住宅型の老人ホームの建設、集合住宅の建設、アーケードに多目的イベント

空間(広場)を設けるなど、具体的にはハード・ソフトを含め 30 の事業を計画し、撤退を表明し

ていたスーパーが現地残留による建て替えを実施している。

<市民による市民のためのまちづくり>

まちの活性化や再生は、行政の努力だけでは実現できるものではなく、市民の理解と協力、「要

求型」から「参加型」への市民の意識転換が必要であると考えられている。数値目標の設定は新

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法による規定の一つであるが、結果的に行政と市民との緊張関係を作り出すことにもつながった

とみることができる。

八代市において多くの神社仏閣を重要な観光資源と位置付け、掘り起こし、歴史的な意味づけ

の必要性に気づき、市内の神社仏閣や歴史的遺跡のマップを策定したのは市民グループである。

市民同士の連帯感を強める上で重要な伝統的行事である「まつり」でも、近年各町内会の活動は

停滞していたが、その再生に乗り出し、まつりの「山車」を復活させたのも、市民グループの有

志である。

神社仏閣マップは観光客には好評であり、山車の復活を契機に市民の連帯感も強まった。これ

らの活動は、いずれも市民のボランティアたちが支えている。そして、行政はボランティア活動

家の養成を図るため「ボランティア養成――出前講座」を開催するなどソフト面からの支援を行

っており、このような中から市民が提起した幾つかのプロジェクトも実現しつつある。

例えば、①障害者やお年寄りには切実な問題である中心市街地歩道のバリアフリーの取組など

も、その一つである。②アクセス強化を図るため、ミニバスの運行(試験的)を始め、③中心市

街地の片側通行を見直し、警察と両面通行が可能かどうか、協議を行っている。④市民の要望で

ある、路線バスの運行体系の見直しも進めている。⑤中心市街地に「ガラッパ広場」を設け、市

民間の交流の場にする試みも進展をみている。

他方、空き店舗の活用や共同イベント事業を行うなど、商店街の魅力を再構築し、集客を図る

ため、各種のソフト面でも多くの事業を展開している。イベントでは例えば、①城下町やつしろ

のお雛祭り、②チャレンジストアー事業、③空き店舗活用事業、④市民交流サロン事業、⑤人材

育成セミナー、⑥「一店一席一茶」事業などを市民の手で行っている。

<八代市中心市街地活性化協議会>

八代市におけるまちづくりは、「中心市街地の活性化に関する法律」に基づき設立された「八代

市中心市街地活性化協議会」を中心に進められている。協議会は、八代市商工会議所、八代まち

づくり株式会社、インフラ関係者、消費者団体、経済団体、大型店、学識経験者、地域住民等多

様な主体によって構成されている。

協議会のもとに「運営委員会」が置かれ、中心市街地活性化のための活動や基本方針に関する

具体的な検討、計画や事業の見直し、計画や事業の進捗状況等について、運営委員会がそれぞれ

検討し、協議会に意見を上げていく役割を担う。また、基本計画に盛り込まれなかった各種事業

については、「賑わい再生部会」「居住促進部会」「中心商店街活性化部会」「歴史と文化部会」の

四つのワーキング部会で検討している。

協議会の特徴は、ワーキング部会や協議会活動に参加・参画できる「協力会員」(市民会員)制

度であり、1 口 2 千円の会費が求められるが、千円分の商品券(区域内の参加店で利用可)また

はエコバックを進呈して会員と商店へ還元を図る他、一部は PTA 等を通じて人材育成に役立てて

いる。会員数は平成 19 年 9 月の募集開始から約半年間で 160 人に上っている。

これらのまちづくりの指導者として「タウンマネジャー」を置き、市内在住の有識者(まちづ

くり株式会社の社長に就任)を選任している。タウンマネジャーは後継者の育成にも一役買って

いる。また、まちづくりを外部から支援してもらうため、崇城大学(旧熊本工業大学)と協定を

結び、適時アドバイスを受けながら、学生たちも先生の指導を受けながらまちづくり運動に参加

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している。まちづくり株式会社は、イベントの企画立案、地権者や事業者との交渉、空き店舗調

査等、まちづくりの基本データの収集整理等を行っている。

一方、同市では「まちづくり条例」を制定し、建築物の基準を定め、新築・改築時に市の建築

指導課との事前協議を義務付けている。また、住民や商店主等が「優しいまちづくり」の考え方

を取り入れ、一定の基準を満たす特定建築物を建築する場合などには、熊本県と共に市が建築費

の一部を負担している。

図1-4-4(1)八代市の中心市街地活性化の取組の構造

(2) 取組の成果

旧計画では、重点的に公共施設や都市機能の充実を図った。この結果、商店街や公共施設、病

院等の都市機能が充実し、ひとり当たりの公園面積も広く、緑化も進み、バリアフリー化を図り、

歩行者のインフラは格段に改善された。

新計画で掲げる三つの目標のうち、中心市街地の「居住人口の増加」に関しては、基本計画に

刺激を受け民間業者がマンション建設を進めていること、中心市街地共同住宅の建設が具体化さ

れたこと、住宅型有料老人ホームの建設が進んでいることなどにより、早くも達成の見通しであ

る。平成 24 年の目標は 8,000 人であり、移住が予想されるのは八代市近郊の住民である。

地域住民も、予算がかかるハードの建設は民間業者に任せ、自分たちはソフト面のまちづくり

に励むという意識の変化が見られており、市民の間から幾つもアイディアが提起され、それらは

協議会にくみ上げられ、その幾つかは実現している。このような中から、まちづくりを担う人材

も、育ち始めている。

協議会での議論も活発であり、これまで開かれた 7 回の協議会でも、侃々諤々の議論が交わさ

れ、そうした議論の過程から幾つかのアイディアがうまれ、まちづくりに生かされている。まち

づくりに「手を上げる」人も増え、民間企業のサラリーマンの参加も見られるようになった。勉

強会への参加も熱心であり、その中で涵養されたのは「行政に頼る時代は終わった」という意識

の変化である。

なお、基本計画の実施段階に入り、商工会議所と「まちづくり株式会社」との役割分担のもと

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タウンマネジャー(まちづくり株式会社社長が兼務)が業務を引き継ぎ、行政・関係業者・住民

らの協働のもと、目標値の達成を目指している。

また、平成 17 年 8 月の合併前の旧千丁町の農家グループが、本町商店街に農産物の直売店「べ

じっ太ハウス」を開いており、また旧市町村の第 3 セクター同士が連携して商品の供給等も実施

している。

(3)成功要因・阻害要因

八代市の中心市街地活性化における数値目標の設定は、行政、住民、関係業者が同じテーブル

(協議会)につき、目標の達成状況を確認していくことにつながっている。目標が達成されなけ

れば、なぜ達成されなかったのか、その都度、問題点を洗い出し、議論を交わすなかで認識を共

有し、足らざるを補い、目標を達成するための方策を考え、次ぎにつなぐ方策を模索している。

知恵がなければ専門家の意見をあおぎ、市内有識者(学校の教師、企業のサラリーマン経験者)

の意見を聴取するなど、市内の人的資源を活用することも忘れていない。このような取組が、ま

ちづくりの力になっている。

(4) 課題

「2 核 1 モール」戦略により、「やつしろハーモニーホール」と大型商業施設という 2 核が整備

され、特に大型商業施設「ゆめタウン八代」の年間利用者は 700 万人に達する。しかし、旧計画

で構想された中心市街地への客の呼び込みの目論見は外れ、客の多くは素通りしているのが現状

である。

こうした状況に対処する必要から協議会を中心に ①アクセスの強化を目的とする道路網の整

備(片側通行を両方向通行に変えること)や、②ミニバスを定期巡回運行し、利便性を高めるこ

と、③アーケード(中心商店街)の空きスペースを利用し、駐車場を整備すること、④中心市街

地に多目的の空間を整備する――ことを検討している。このような取組により「ゆめタウン八代」

に集まる買い物客の流れと共存を図りつつ、中心商店街へ呼び戻すことに、行政と住民は、ハー

ドやソフトの両面からあらゆる知恵を絞っている。

市は計画の実現に自信を深めており、具体的には、①撤退意向を示していたスーパーが建て替

え残留(中心商店街に立地)を実施し、空洞化に一定の歯止めがかかったこと、②新規進出の大

型商業施設(「ゆめタウン八代」)との間で八代市の中心市街地活性化に関する協力協定(客足循

環を目指す交通アクセス等を含む)の存在、③大型商業施設と中心商店街を連結する循環バス運

行を始めることが決まったこと、④共同住宅や民間マンションの建設が進み、居住人口が増加す

ることが予想されるためである。しかし、まちのひとの流れを変え、人びとをドーナツ化する中

心市街地に呼び戻す事業は容易ではないため、今後も八代市の取組は注目され、成功すれば、様々

な困難を乗り越えた事例として高い評価を得られるものと考えられる。

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1-4-5 秋田県湯沢市(稲庭地区)の取組

(1) 取組の概要

<合併前の旧市町村より小さい範囲での地域自治組織の設置>

湯沢市では、4 市町村合併による自治体規模の拡大と住民自治の確保を両立させるためには、

合併後の住民の意思を反映させ、身近な地域課題を住民自らが担うための仕組みが必要との考え

方から、旧市町村ごとに地域住民の自発的・自主的な意向により地域自治組織連絡協議会を設置

するとともに、その協議会を構成する組織として、旧市町村地域内に地区組織を設置できるよう

になっている。

旧稲川町の範囲では稲川地域自治連絡協議会を設置したが、その中で昭和の合併の旧村を範囲

とする4つの自治区が設置された。その際には、自治体の名前としては長い間失われていた旧村

名が復活して「稲庭町自治区」「三梨町自治区」「川連町自治区」「駒形町自治区」と名づけられた。

それぞれ、「稲庭うどん」「三梨牛」「川連漆器」「駒形りんご」というブランドを有する地場産業

があり、各自治区ごとに地域を挙げた振興を課題としている。

地域自治組織の設置にあたって、湯沢市では、制度的な組織形態を導入し画一的な自治組織を

行政側から作り上げていくべきではないと考え、地方自治法に基づいた地域自治区等は設置しな

いこととした。また、導入当初より地域自治組織が過大な事務を担うことを期待すべきでなく、

時間をかけてよりよい姿へと発展させるべきとの考えもあり、今後も柔軟に対応できるよう動き

に制約が生じるような条例を定めないこととした。そのため、組織の名称、構成団体、構成員、

その任期等について、各地区が実情に合わせて自ら設定できるようになっている。

図1-4-5(1)湯沢市の地域自治組織の構成

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<市の施策>

市では担当部署である企画調整部自治振興課市民協働推進班、旧町村役場に設置された各総合

支所の地域企画課および地区センターの職員が担当者として活動支援をする他、職員を居住する

地区の支援職員に任命する「地域自治組織支援職員制度」を設け、職員の専門知識や情報を地域

自治組織に提供、共有することで、組織の活動を支援している。また、住民の意識改革のために

高崎経済大学と連携して、協働のまちづくり講演会を開催するとともに、先進地視察も含む人材

育成セミナーを実施。市職員に対しても、講演会型の研修や高崎経済大学への3泊4日の派遣型

研修を実施している。また、各地区ごとに年1回、市長と住民の対話集会を開催している。

また、各地域自治組織連絡協議会に対して、組織の運営経費に充てることができる地域協議会

交付金、および継続的に実施する地域振興・地域福祉・防災・施設の維持管理等の地域の公共的

事務および事業に充てることができるコミュニティ活動交付金が交付されている。また、主とし

て地区組織に対して、そのまちづくり計画に登載された事務事業で市長が適当と認めたものに充

てることができる地域づくり事業交付金が交付されている。

<稲庭町自治区での地域づくり事業>

稲庭町自治区では、地域づくり事業交付金を活用して、地域住民のシンボルとなっている桜の

古木の保護事業を継続して実施する他、未整備の水路の整備、側溝整備、防犯灯整備、安全パト

ロール、防犯啓発用看板の設置、花プランタの整備等の事業を実施している。

また、交付金を活用しない事業も展開しており、昨年度は、稲庭小学校の花見イベントを実施。

稲庭うどん協同組合の協力により参加者に稲庭うどんを振舞うなどして、非常な盛況を得た。稲

庭の桜を見に、都会に出て行った人が戻ってくるということも見られた。

(2) 取組の成果

<身近な地域課題の解決と地域の一体感の醸成>

夫婦喧嘩や隣人とのトラブルといったことまで自治区長に相談されることもあるが、それは、

どんなに細かいことでも相談できる環境になったということである。ずっと一緒に住み続けてい

るからこそ、なかなか隣人に直接言いづらいということもあるが、話せる関係ができることで、

大事なことが拾えることもある。アンケートやワークショップ等の方法もあるが、直接的なコミ

ュニケーションの重要性が指摘された。身近な地域課題の解決と地域の一体感が醸成されること

により、コミュニティ活動も推進されつつあると言える。

<地域の実情に合った自発的な事業展開による行政依存からの脱却>

地区のシンボルである桜の保護事業等、これまで行政でやりにくかったこと、目が届きにくか

ったことも、地域で話し合って交付金の使い道を決め、ボランティアや地域で行うということで、

対応しやすくなった。

稲庭町自治区では、受益者が限定されるような事業では事業費の 1/3 は受益者負担する方針が

ある。また、防犯灯の設置等の事業では、整備は交付金事業で行っても、管理費は各集落等で負

担する原則がある。こうした方針は、税金投入箇所に関する不公平感の解消や行政依存心理から

の脱却につながると思われる。

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(3)成功要因・阻害要因

<稲庭町自治区での地域活動が活発な要因>

旧稲川町では、当時の町長の「自治区をつくらなければ、合併後に発言力がなくなる」との危

機感があり、地域を守るために自治組織が必要との認識があった。また、稲庭地区では、時報に

代わるチャイムを鳴らそうという「チャイムの会」の活動や、桜の手入れをして守り続ける活動、

青少年ホームへの図書館の設置等の地域活動の実績があり、地域のことは地域で解決しようとい

う土壌があった。各地区組織の範囲は、昭和の合併以前の範囲であるが、小学校区と重なり、ま

とまりやすく、動きやすい単位だと言える。稲庭うどんという地場産業が、地域の活力を保持す

るもう一方の要因とも言える。

<地域がまとまる機会>

稲庭町自治区が強くまとまる機会となったのが、平成 19 年度の秋田わか杉国体で、山口県選手

団の民泊受け入れを行ったときである。稲庭地区民泊協力会が結成され、地域住民や組織が協力・

連携して、地域をあげた選手団のバックアップ活動を行った。これにより、地域で目的を一つと

して、日常にない住民間のつながりやネットワークが生まれた。また、他地区と“もてなしを競

い合う”ことが、地域住民の心に火を点け、地域を活性化したとも指摘されている。

(4) 課題

<行政職員の意識改革>

地域自治組織支援職員制度はスタートしたばかりだが、熱心な職員がいる一方で、職員も地域

自治組織も互いの関わり方が分からないなど、戸惑っている部分もある。支援職員の職務は従来

とは違う行政職員の役割として認識する必要があるが、職員の間でも温度差があるため、自治振

興課では、自分たちの住んでいる地域を良くするという意識を持ち、関わりを持つようになる意

識啓発をしている。

<交付金制度の再検討>

現状では、地区組織単位では、地域づくり事業交付金は事業費のみに使えるものである。研修

や運営といったものにかかる費用を支出できる交付金もないと、地区組織の活動が窮屈になって

しまう。自治区の事務費(コピー代等)などの運営費は、本来は町内会などの構成団体から会費

負担で運営するという考え方があるが、現在はそのような余裕はない。そのため、コミュニティ

活動交付金を地区組織にも支給する仕組みが必要と思われる。

今は交付金の配分決定は暫定処置となっており、地区の人口による比重配分等は行っていない。

今は、地域の力を育てるための期間とも考えられるが、将来的には事業の効果に応じた配分も含

めて再検討が必要と思われる。

<評価の仕組み>

交付金事業などでは、住民自らが選択して、自ら評価するといった仕組みが必要である。行政

があまり関与するのではなく、住民提案型が望ましい。行政ではなく住民が、税金の使い方につ

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いて問う方が本質的である。

<地域がまとまる持続的な仕組み>

平成 19 年度の国体選手団の民泊受け入れ時のように、地域がまとまり競い合うような形で活性

化される持続的な仕組みが望まれる。

1-4-6 岩手県北上市(岩崎地区)の取組

(1) 取組の概要

<地域づくりの活動拠点としての交流センターと自治振興協議会>

北上市では、平成 18 年度から、それまで生涯学習や社会教育を主体とした事業の拠点となって

いた「公民館」を、地域づくりも含めた地域の自主的な活動の拠点となる「交流センター」に移

行。市内 16 地区の地域自治組織である自治振興協議会が、その指定管理者となった。交流センタ

ーの職員については、センター長はじめ 4~6 名が、地域から雇用されて運営に当たっている。

指定管理者となっている自治振興協議会は、それ以前から地域での自治活動をしていた組織で

あり、平成 12 年度の総合計画策定時や平成 17 年度の見直し時には、その地域計画の部分を主体

的に策定した。

図1-4-6(1)北上市の各地区の地域交流センター

16 地区の自治振興協議会の一つ、岩崎地区自治振興協議会は、地区内の 7 つの自治会から選ば

れた理事等で構成する理事会や、企画・総務委員会、教育・文化委員会、女性委員会等8つの専

門委員会等が置かれている。議題については、各理事や委員等がそれぞれの自治会に持ち帰って

議論することで、住民全員が参加できるようにしている。

<市の支援体制>

市では、事務・経理処理や地域づくり事業へのアドバイス等のための巡回相談会、地域づくり

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指導員を対象とした連絡会議、交流センター長会議、事務長を対象とした交流センター連絡会議、

交流センター指定管理者連絡会議等を開催し、地域との様々な情報交換を行っている。

また、市役所内部に関係課長による北上市地域づくり支援委員会を設置し、各地区からの要請

時に随時協力・支援を行っている。さらに事務長を対象にした研修会、地域づくり活動先進地研

修の実施、生涯学習指導員および地域づくり指導員研修会の開催などの支援も実施している。

<きらめく地域づくり交付金>

各自治振興協議会に対しては、交通安全活動費、地域活動運営事業費、地域づくり事業費から

構成される「きらめく地域づくり交付金」が交付されている。うち 1 地区上限 100 万円の地域づ

くり事業費は、地域計画に基づいた特色ある地域づくり事業が対象であり、平成 19 年度は 16 地

区で 37 の地域づくり事業が展開している。事業例としては、地域の河川や史跡等の環境整備、公

園・散策路の整備、地域の特色を活かしたイベントの実施、地域防犯・地域防災の取組等がある。

岩崎地区自治振興協議会では「夏油川環境スクール」を実施。NPO と協力して魚類調査を行っ

た結果、川を守りたいという気運が盛り上がった。また、河川敷の草刈りや雑木の伐採、盗掘被

害がある「はばら谷地」の保全、遊歩道整備のプランづくり、奥山のクマと共生するための植樹

活動なども実施している。

<協働の取組>

北上市では、こうした地域自治の仕組みを“横糸”とすると、“縦糸”として市全体で NPO や

住民と行政が協働する仕組みづくりを推進し、様々な主体による協働の仕組みが網の目のように

絡み合うような環境を整えつつある。平成 18 年には、市民参画で北上市まちづくり協働推進条例

を制定し、協働の進め方をまとめた「協働手順書」の作成、協働推進審議会の設置、「協働事例バ

ンク」による協働事例の情報提供等も実施。また、市民提案型協働事業「コラボ☆チャレンジ」

や、行政提案型協働推進制度「行政版コラボ☆チャレンジ」等で具体的な協働事業を展開してい

る。

協働事業を推進するために、市は NPO との協働型委託事業として「市民活動情報センター事業」

を実施しており、センターでは市民と行政を結びつけるマッチングや団体運営のマネジメント等

の支援などを行っている。各自治振興協議会でも、助成金の情報や事例データの提供等のセンタ

ーの支援を受けて、事業にも活用するようになった。

今後は、企業のまちづくりへの参加を進めるため、表彰など企業の社会貢献の取組を市民に知

らせる仕組みづくりや、企業と地域のニーズとのマッチングの支援を推進する予定である。

(2) 取組の成果

きらめく地域づくり交付金等をきっかけに、各地区で住民が力を合わせた取組が行われるよう

になったことで、コミュニティの結びつきに大きく役立っている。交流センターでは、職員全て

地元地区から採用され、雇用の場が創設された。地域の人にも、顔見知りということで親しみや

すく、来やすい雰囲気になったことで、交流センターの利用者増加にもつながった。

地域の意識としても、以前は行政と集まっても要望が中心だったが、 近では、話のテーマが

変わってきており、意識の変化が見られるようになってきた。

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平成 12 年度に策定した総合計画に「協働によるまちづくり」がしっかりと位置付けられたとこ

ろから、「協働」という言葉はだんだんと浸透し、総論では協働でのまちづくりは良いことだとい

う風潮も出てきており、平成 18年 4月には、北上市まちづくり協働推進条例という形にもなった。

公共的な課題の解決のために協働して取り組むための補助制度である「コラボ☆チャレンジ(市

民提案型協働事業)」では、子育て支援のために体育館を未就学児と保護者に開放する事業など、

行政からは出てこない発想の事業が民間企業から提案され、実現するなどの成果が初年度からあ

がっている。

(3)成功要因・阻害要因

<地域への様々な支援策>

地域に対して、ただ単に地域づくりに取り組むように求めただけでなく、その資金(交付金)

を用意するなど、財政面等での支援を行ってきたことや、NPO 等の協力を得られたことが成功要

因として考えられる。

<岩崎地区での NPO の支援とイベント実施>

岩崎地区自治振興協議会では、NPO 活動で実績がある人に事務局長として関わってきてもらっ

たため、住民の声を拾いそれを形にする組織としてのマネジメントがしっかりしている。NPO と

も協力することで、市民の参加促進にもつながっている。

岩崎地区では、比較的新しい太鼓演奏団体に発表の場を提供し、地域活性化にもつなげる趣旨

で、平成 13 年から毎年、全日本創作太鼓フェスティバルを開催し、現在、第 7 回まで続いている。

このイベントには地域の若い人も参加するようになり、それをきっかけとして、「俺たちのまちは

俺たちで守る」という意識も生まれてきたようで、地域内の温度差を縮める機会にもなっている。

<市職員への協働の理念のアピールと意識醸成策>

市では、協働推進委員会、係長が集ったパートナーシップ研究会、協働に関する課題を研究す

る協働推進審議会等の場を通じて、職員の研修、協働の意識醸成の機会を設けている。

市職員の意識が変わりつつあるとの評価があるが、これは市長がことあるごとに「協働」「地域

づくり」「自治力」「住民力」というキーワードを使い、協働の理念を絶えず明確にアピールする

ことで、職員の間にも徐々に浸透していったことも大きな要因と考えられる。

(4) 課題

<交流センターと自治振興協議会の仕事の分離>

従来、生涯学習を担当してきた交流センター職員と地域づくりを行う自治振興協議会の間で仕

事の役割が分離してしまっている。それぞれの市の管轄部署も、地域づくり課と教育委員会と2

系統になってしまっていることも一因となっており、その融合が課題となっている。

<自治振興協議会の能力拡大>

地域住民の意見を吸い上げ、取組につなげる地域マネジメントのスキルを向上させていくこと

が必要である。また、できるだけ行政に頼らないように、自分たちで収入を確保する手段が必要

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である。そのためにも、今の交流センター以外の公共施設などへ指定管理者制度を広げ、財源の

確保につなげることも求められている。交流センターの活動も、さらに各地区内の自治公民館に

例えば生涯学習の出前講座という形で分散させ、地区内の活動の一極集中を避けることも課題で

ある。

<評価の仕組み>

地域のことは地域で評価して地域で計画してやるという考え方で、評価の仕組みが必要である。

また、住民独自の評価とは別に、行政の目標達成度としての評価もある。自治振興協議会の場合

は、本当に地域住民が、取組を共有できているかどうかも重要な評価ポイントとなる。

<自立と協働の意識の醸成>

地域に従来あった「契約講」や「結」のような「自助」「共助」「公助」の考えを、再度見直し、

行政からの自立意識を持つ必要がある。

また、行政の側でも、職員の間でまだ協働の意識醸成が不十分であり、住民の意見を組み込ん

で協働の視点から事業を組み立てられる協働コーディネーターになることが目指されている。

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