国境無き人事の時代に 日本本社はどう立ち向かう? -...

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81 2013.12 人事マネジメント www.busi-pub.com 本連載シリーズは,人事組織の 形態,役割分担と責任,経営・ビ ジネス側からの人事部門への期待 (HR Transformation) に 関 す る 先進事例の紹介と今後への提言を 示していく。第 1 回目は「グロー バル人事組織」のあり方を中心に 述べる。 国境無き人事の時代に 日本本社はどう立ち向かう? 海外進出,M&A,大規模人員 削減,グループ経営ガバナンス強 化等,特にこの数年間,日本企業 は,大胆な経営変革を行ってきた。 人事部門もその変化に呼応する形 で人事制度・情報システム・要員 管理・タレントマネジメントとい った各方面でテコ入れを進めてき たことだろう。コンサルティング の現場では特にグローバル化の影 響が大きく,従来は国内を主な守 備範囲としていた本社人事が下記 に代表される複雑なテーマを地 域・各国人事を巻き込んで推進せ ざるをえない場面が増えてきた。 □グローバルジョブグレーディング の導入(世界共通の等級制度) □グローバル人員管理の実施(各 国別従業員数推移の一元管理や 要員数の予測・実績管理) □グローバル/リージョナルシェ アードサービス・アウトソーシ ングの導入(地域横断での人事 業務の統廃合・移管) □グローバル人事システム/タレ ントマネジメントシステムの導 入(世界共通の人事データベー ス構築) □グローバルポリシー/プロセス ハーモナイゼーションの実施 (地域横断の人事業務プロセス や人事制度の標準化) 残念ながら,人事のグローバル 機能を日本本社の人事部が導入・ 推進しようとしても思い描いたよ うには進まず,頓挫してしまう場 面によく遭遇する。 例えば,本社人事を日本に置き ながら,プロジェクトリーダーや プロジェクトの拠点は欧米側の人 事部門に委ねてしまうことが多 い。その結果,本社人事なのにリ ーダーではなくフォロワーに終始 してしまう。こうしたケースに見 られる「日本の人事は果たしてこ のままでよいのか?」という不安 やとまどいを解消しようというの も本稿の狙いの 1 つである。 日本企業のグローバル人事の課 題として,リーダーシップや語学 力の不足,不慣れなプロジェクト マネジメントといった点が容易に あげられる。ただ,それ以前にグ ローバル化を推進しようとしても 各国・各地域の人事組織形態がい まだ十分に定義されていないこと から権限や役割分担が曖昧であ り,グローバル人事の推進・実行 の足元がおぼつかないという側面 が足を引っ張っていることが多 い。 また,現実問題として,人事デ ータのマネジメントや人事業務の 役割分担は,すでにボーダーレス になってしまっている。例えば, 事業規模の小さい国でフル機能の 人事を持たせるよりも,地域単位 で人事業務を分担し,誰かが兼務 してカバーするほうが合理的であ るし,実際にそのような取り組み が行われている。タレントマネジ メントの世界では,国の枠組みを 越えた優秀人材の発掘や育成がす でに始まっている。そのような動

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 本連載シリーズは,人事組織の形態,役割分担と責任,経営・ビジネス側からの人事部門への期待(HR Transformation)に関する先進事例の紹介と今後への提言を示していく。第 1回目は「グローバル人事組織」のあり方を中心に述べる。

国境無き人事の時代に日本本社はどう立ち向かう?

 海外進出,M&A,大規模人員削減,グループ経営ガバナンス強化等,特にこの数年間,日本企業は,大胆な経営変革を行ってきた。人事部門もその変化に呼応する形で人事制度・情報システム・要員管理・タレントマネジメントといった各方面でテコ入れを進めてきたことだろう。コンサルティングの現場では特にグローバル化の影響が大きく,従来は国内を主な守備範囲としていた本社人事が下記に代表される複雑なテーマを地域・各国人事を巻き込んで推進せざるをえない場面が増えてきた。

□グローバルジョブグレーディングの導入(世界共通の等級制度)

□グローバル人員管理の実施(各国別従業員数推移の一元管理や要員数の予測・実績管理)□グローバル/リージョナルシェアードサービス・アウトソーシングの導入(地域横断での人事業務の統廃合・移管)□グローバル人事システム/タレントマネジメントシステムの導入(世界共通の人事データベース構築)□グローバルポリシー/プロセスハーモナイゼーションの実施(地域横断の人事業務プロセスや人事制度の標準化)

 残念ながら,人事のグローバル機能を日本本社の人事部が導入・推進しようとしても思い描いたようには進まず,頓挫してしまう場面によく遭遇する。 例えば,本社人事を日本に置きながら,プロジェクトリーダーやプロジェクトの拠点は欧米側の人事部門に委ねてしまうことが多い。その結果,本社人事なのにリーダーではなくフォロワーに終始してしまう。こうしたケースに見られる「日本の人事は果たしてこ

のままでよいのか?」という不安やとまどいを解消しようというのも本稿の狙いの 1つである。 日本企業のグローバル人事の課題として,リーダーシップや語学力の不足,不慣れなプロジェクトマネジメントといった点が容易にあげられる。ただ,それ以前にグローバル化を推進しようとしても各国・各地域の人事組織形態がいまだ十分に定義されていないことから権限や役割分担が曖昧であり,グローバル人事の推進・実行の足元がおぼつかないという側面が足を引っ張っていることが多い。 また,現実問題として,人事データのマネジメントや人事業務の役割分担は,すでにボーダーレスになってしまっている。例えば,事業規模の小さい国でフル機能の人事を持たせるよりも,地域単位で人事業務を分担し,誰かが兼務してカバーするほうが合理的であるし,実際にそのような取り組みが行われている。タレントマネジメントの世界では,国の枠組みを越えた優秀人材の発掘や育成がすでに始まっている。そのような動

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きをより効果的に機能させるためにグローバル人事組織のあり方の再考が必要だ。

グローバル人事組織のスタンダードとは?

 それではグローバル人事組織とはどうあるべきか? 欧米先進企業 の 人 事(GE,Pfi zer,P&G,Nestle,BASF等)が過去十数年かけて取り組んできたモデルは非常に似通っている。そのコンセプトの雛形はデイブ・ウルリッチ氏(ミシガン大学ビジネススクール教授,『Human Resource Champions/邦題:MBAの人材戦略』1997,『HR Transformation /邦題:人事大改革』2010等の著者)が提唱してきたものである(図表 1)。 ビジネス(経営)側への戦略的関与を期待されるHRBP(HR Business Partners),採用・人材

開発・人事制度等の各人事専門分野のエキスパート集団であるCoE(Center of Expertise/Excellence),大量・複雑化する人事データや業務プロセスをシェアードサービス化やアウトソーシング等で合理化するHR Shard Servicesという 3つの人事機能に分かれている。それぞれの役割の はHRBPが直接的な経営・ビジネスへの付加価値向上を目指すのに対して,CoEは採用や人事制度の整備を通じてのマネジャーや従業員のパフォーマンスへの直接的効果,つまり効果性向上を目指し,HR Shard Servicesはコストダウン・業務量削減といった効率性向上を目指している。もう 1つ大切なコンセプトはビジネス側の変化であり,MSS(マネジャーセルフサービス)やESS(従業員セルフサービス)の導入である。これは単に人事部側の負

荷を軽減するだけでなく,採用・異動・報酬決定という人事上の重要な意思決定を人事部から現場側に委譲し,市場の変化に合わせたスピーディーな経営を後押しするのである。 グローバル標準としてウルリッチの組織モデル自体が定着していることは紛れもなく事実であり,グローバル展開に意欲的な日本企業も取り入れはじめている。しかし,組織名称は同じであっても組織の運営実態はかなり欧米企業と異なるケースが散見される。図表2をご覧いただきたい。多少乱暴な区分けであるが,実はモデルは同じでもガバナンスの観点では大きな違いが見られる。米系の直接統治型に対して,欧州系は連邦制に近い。日本はといえば,直接統治・中央集権的に世界共通の人事の組織・業務遂行体制を志向する自動車メーカーの一部や,グローバル化に早くから順応し,連邦制で人事組織のガバナンスを確立しつつあるエレクトロニクスメーカーの一部等,モデルを確立しつつあるケースが存在する。しかしながら,多くの日本企業は,自治型という名の下に全くグローバル統合をせず,各国人事に制度・ルール運用の裁量を委ねているのが実態だ。ここで立ち往生している限りは地域や国を巻き込んだ統合的なリーダーシップを発揮する真のグローバル人事組織にはなりえな

図表 1 グローバル人事組織のスタンダード

❶ ビジネス主導(MSS/ESS)の人事変革 ~ 人事から現場への権限・裁量の委譲~

❷ 人事部門の機能・組織再編 ~ 国単位でなく,3つのファンクション(機能)重視の   グローバル横串連携型人事組織・ 集約されたグロー   バル人事組織~

ManagerSelf Service

Business Partners連携

• 事業部門への 人事コンサルティングサービス

• マネジャーが採用・異動・配置・ 昇(降)給・昇(降)格を主導的に実施• マネジャーが部下の報酬・各種情報を閲覧 可能。人事関連レポーティング機能も活用

Customer(経営者・マネジャー・従業員)

EmployeeSelf Service 連携

• 従業員が各種個人情報の更新• 従業員が人事関連問い合わせを極力自己 解決(過度に人事部に頼らない)

Shared Services Center ofExpertise/Excellence• 採用・評価・報酬・人材開発の プロフェッショナル

• 効率的・集約化された 人事オペレーション

下記施策は上記モデルのコンセプトを実現するための個別展開にすぎず,一貫性のあるコンセプト作りがまずは必要グーバル人事制度(等級・評価・報酬) グール人材開発グローバルサクセッションプラングローバルモビリティ(国際間人材移動),グローバル人事システム,グローバル人事業務プロセス等

コンセプト

施策

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い。

欧州系企業でも“グローバル人事”は課題

 日本企業は今後どうすべきか。そのための一助として,筆者(平野)が長期滞在しているドイツを含む欧州で見聞した欧州系企業の人事ガバナンス事情をご紹介したい。米系の人事組織事例とは異なり,欧州と日本における歴史的な繋がり,文化的・価値観的な親和性を考えると参考になる要素が多い。 図表 3は,弊社のメンバーファームであるデロイト オランダが,オランダ系企業を対象に行った調査結果で,HRBPの役割の現状とあるべき姿を比較したものである(広範囲にわたるHRBPの役割を説明したもので,図の左側は定常的なオペレーションを,右側は人事・人材戦略の策定といったより戦略的な機能の担い手を志向している)。調査の結果,自社のHRBPが,戦略的なパートナーの役割を演じることについて,回答企業の 8割が「望ましい姿」を選択していることが分かる。しかし,約 5割近く(48%)が人事制度やプロセスに関する助言を提供する「緊急窓口」の役割に留まっており,事業戦略のパートナーとは言い難いと見ている。HRBPを肝入りで導入してみたが,その実態と理想に大きなギャップがあるこ

とが見てとれる。 「人事を切り分けたら各機能の役割が曖昧になってしまうのでは?」 「人事組織やHRBP間との連携はどうすればいいのか?」 ─これらはウルリッチのモデルについてまわる疑問だ。馴染みのない日本人ゆえに疑問に思わな

いのかもしれないが,欧州では興味深い話を聞く。 デロイトの英国事務所の支援先として,とあるグローバル消費財メーカーの事例がある。その企業は,各国でHRBPを導入(全世界300人程度)したものの,当のHRBPや人事業務を専任するCoEの役割が曖昧なまま運用された。

図表 2 グローバル人事組織のガバナンス

「直接」「直接統治」の略記で,本社が強いリーダーシップを取り,極力全世界共通になるように世界各国の人事をとりまとめる

「連邦」「連邦制」の略記で,人事のグローバル化でも各地域(あるいは各事業)が自治を行う部分と全世界共通のやり方を貫徹する部分の組み合わせで進める

「自治」海外の各地域(あるいは各事業)が独自のやり方で,人事を運営することを認めて,海外拠点に任せること

High

直接米系グローバル企業一部の日系グローバル企業

連邦欧州系グローバル企業一部の日系グローバル企業

グローバルな人事統合度

ほとんどの日系企業

HighLow自治

海外現地法人の自由度

グローバル統合の要素取り入れが必須

ガバナンスモデルガバナンスモデル

図表 3 自社におけるHRビジネスパートナーの役割(オランダ系企業への調査)

80%

60%

40%

20%

0%

80%

■ 現状■ 望ましい姿

48%

20%20%16%12%

4%

HRBPの類型 定義・役割

緊急窓口従業員仲裁者人事ジェネラリスト

戦略遂行のパートナー

人事の業務統括者

「人事ジェネラリスト」

「従業員仲裁者」

「緊急窓口」

「人事の業務統括者」

「戦略遂行のパートナー」

出典:デロイトオランダ調査結果(2012年実施)

HRBPは定常的な一般人事業務に主に従事

HRBPは社内の紛争解決,政治問題や組織変更に主に従事

HRBPは人事ポリシーと制度の運用にフォーカスし,従業員やマネジャーからの問い合わせに迅速に対応する

HRBPは経営幹部と人事ポリシーを共有し,従業員に人事ポリシーを浸透させることで人事と企業文化の一致をもたらす

HRBPは次世代のビジネスリーダーの育成を担う。人材ニーズを理解し,人材課題を早期に特定。事業ニーズに応えるために人事組織を変革させていく

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結果,各HRBPの役割にズレが生じ,人事組織内の連携がとれず,せっかく構築したグローバル人事組織が機能不全に陥ってしまった。この事例では,HRBPを含めた各人事機能の役割や業績指標(KPI)を明確にし,グローバル共通の視点から整合性を図るとともに,各個人のスキルアップを含めたケイパビリティー(組織力)向上が「成功への 」だった。欧州系企業は,ウルリッチモデルを取り入れて人事のグローバル化を図ってみてはいるものの,どうもうまく回っていないというのがオランダ企業の調査結果と英国の事例に共通する悩みだ。 筆者の同僚でデロイト ドイツに勤務する現地のエキスパートによれば,その要因は,欧州企業において,①HRBP・CoEの果たすべき役割が組織全体に浸透していない,②人事のケイパビリティーがグローバル人事を実現するレベルに到達していない,という 2点にあるという。  1点目は,ひとえに欧州系企業の従来型の人事への期待が高いことを意味する。例えば,ドイツでは労使協議会対応(注:ドイツの企業内組織制度で,労働者代表が経営参加と共同決定の権利を持ち,経営情報の開示を求めることができる)や職業訓練プログラムへの協力等,法規制や雇用慣習への企業対応において拠点人事の果

たす役割が依然大きい。独自に発展してきた日本の人事のグローバル化を考えるうえで共通した課題がありそうだ。英国の事例からもいえるが,従来型人事とグローバル人事,各機能で担うべき業務と役割を定義したうえで,「グローバル共通の視点」に立った標準化を推進し,組織を変えるだけではなく,人事サービスの受容者である経営者と従業員の意識変革を促すことが不可欠だ。  2点目のケイパビリティーで往々にして論点になるのが,HRBPのキャリアパスや育成の仕組みだ。HRBPをどこから調達・育成し,継続的に活用していくのか。まだ新しいモデルだけに既存の人事や事業部で手に余ってしまうのは日本企業だけの頭痛の種ではない。欧州系企業も同じ悩みを抱えている。HRBPは,従来から求められてきた人事の知識に加えて,事業に関する知識を広範囲に見つける必要があり,なおかつ,事業の戦略実行に資するコンサルティング能力やプロジェクトマネジメントの経験が問われる。このような広範囲・多分野にわたる知識や経験の習熟には体系的な仕組みが必要となる。実践例として,「HRBPアカデミーフレームワーク」と呼ばれる体系的な育成計画を開発したケースがある。HRBPに求められるスキルセットを事業,人事,コンサルティングの 3

分野にカテゴライズし,体系的な育成プランの検討と,フレームワーク導入によってHRBPの組織への浸透を図るものだ。育成の責任をどこに置くのかも重要な論点ではあるものの,事業・人事双方において必要な知識・経験を棚卸しし,事業の戦略的パートナーとして活躍するために必要なケイパビリティーを組織内で検討し,ステークホルダーの連携を取り,HRBPが組織内への浸透を望めるのが,このようなフレームワークに準じた議論の妙といえる。 これまで,欧州系企業のグローバル人事への変革の現状を主にHRBPを切り口にご紹介したが,最後に,シェアードサービスの動向についても触れておきたい。特にドイツ系の企業に見られたように,これまで欧州系企業は,賃金効率に優位性があるポーランドやハンガリ-,ルーマニアといった中東欧諸国にシェアードサービスセンターを開設し,全体効率化を図ってきた。ところが,昨今,各国で賃金上昇圧力が無視できないレベルに到達しており,シェアードサービスの効率性が危ぶまれてきている。これを受けて,ドイツ国内への再移転や,経理シェアードサービス機能との統合といったマルチ・タワーセンターの集約化等が,真剣に検討されていると聞く。日本企業においてもコスト重視で中国等への人事業務移管が実

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践されているが,同様に長期的な視野で移転コストや運営のあり方を見直す時期にさしかかっている。

目的訴求と具体的な道筋づくりを

 最後にグローバル人事組織化に遅れる多くの日本企業人事部門が今なすべきことは何かをお伝えしたい。直接統治型か連邦制のどちらが望ましいかは会社の事業戦略や組織風土によって決まるので唯一解はない。しかしどちらを選択しても今なすべきことはグローバル人事組織のあり方,つまりビジ

ョンを明確にして,そこに至るまでの道筋(ストーリー)を描き,各地域の人事部門となぜ今このような人事部門変革をグローバルレベルで行う必要があるのかという意義づけと具体的なステップについてコンセンサスを得ることである。 筆者(鵜澤)は米系大手製薬会社を相手に約 2年,その後に米系大手金融企業を相手に約 2年という長期にわたって,大規模・複雑なグローバル人事部門改革を成功させるまでの道のりをお手伝いする幸運に恵まれた。そこでの教訓はシェアードサービスであれ,シ

ステム刷新であれ,個別具体的な手段に焦点を当てるのではなく,大きな旗印を掲げて,何を最終的に人事部門改革で目指しているのかという合目的性に焦点を当てるとプロジェクトの推進力と結束力が上がるということである。 図表 4はグローバル組織化に向けた移行モデルの一例である。このような道筋づくり,その次に具体的なビジネスケースやロードマップを最初に作ることが求められている。グローバル人事機能の個別手段の話をする前に全体のビジョンや目的を明確にすることが何より大切なのである。

図表 4 グローバル人事組織への移行計画(例)

先にグローバル共通の体制と基盤を作る

ビジネス主導人事(MSS/ESS)

最後に組織融合とMSS/ ESS導入

CustomerBusinessPartner

SharedService

Center ofExpertise グローバル共通システム(基盤)

グローバル共通システム(基盤)

現状は国単位の人事とシステム

経営陣

人事業務・労務

採用・教育

給与・福利厚生

人事企画

システム

システム

システム

システム

人事部長

BusinessPartner

SharedService

Center ofExpertise

201X:グローバル人事変革プラン策定 ・日本的思想に基づく現状の人事組織・機能からの移行準備-HR 要員比率,システム・オペレーションコスト等の目指す姿

-HR の機能分担の再考(現場と人事の関係性や人事部内の機能再編)

-将来モデルとロードマップづくり

201Y:機能別組織と共通基盤整備 ・各国が 3-pillars structure(CoE,HRBP, Shared)の人事組織へ形式的移行(依然として国別運営が実態であってもその移行過程でできる限りの業務や役割の標準化・簡略化を目指す)

・グローバル共通システム基盤の導入(その移行過程でできる限りの各国固有の複雑独特業務や慣習を廃止する)

201Z:機能別組織融合とMSS/ESS ・3-pillars structure(CoE,HRBP,Shared ) を起点とする機能別組織重視の人事に本移行(ローカル→リージョナル→グローバルの横串連携へ)

・MSS/ESSを導入し,ビジネス主導の人事改革を実現

・グローバルレベルでさらなる業務プロセスの統合・標準化

・人事部門として,ビジネス(事業部門)へのさらなる付加価値の追求

・人事部門として,更なる効率性の追求コスト削減