円周に接して転がる円周上の固定点の軌跡 ー hypocycloid と...

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円周に接して転がる円周上の固定点の軌跡 ー hypocycloid と epicycloid ー (続) ” n を法とする 2倍” の計算 1 n=10 ならば 1 の位だけに着目する計算であり,n=12 ならば時計の計算である。 下の実例は,n=10, 12, 16, 50, 100, 150 の場合である。単位円周 x 2 + y 2 = 1 の上で右端 (1,0) に 0 をとり時計の針の反対に回っている。 n=12 で見ると, mod 12 の計算で 7 × 2 = 14 2, 8 × 2 = 16 4, 9 × 2 = 18 6, 10 × 2 = 20 8, 11 × 2 = 22 10 である。  点 i と 2i を線分で結ぶ。 点 0 に光源をおく.ときに,点 i に達した光は反射して点 2i に向か う。その包絡線として,(1 / 3, 0) を cusp とする cardioid ができる。日常的にわれわれはティー カップの飲み物の上で,このカージオイドを目にしている。 その式は 2 3 (1 + cos t ) exp(it ) 1 3 となるはずであり,成分に分けると 1 1 “Xah curve” などの検索で Xah Lee Web 李というサイトのなかの”曲線”のコレクションに入 る。5. 6. では Xah を活用した。とくに ”nを法とす2倍の計算” のアイディアは Xah による。

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  •        円周に接して転がる円周上の固定点の軌跡         ー hypocycloid と epicycloid ー(続)

    ” n を法とする 2倍” の計算 1

     n=10 ならば 1 の位だけに着目する計算であり,n=12 ならば時計の計算である。 下の実例は,n=10, 12, 16, 50, 100, 150 の場合である。単位円周 x2 + y2 = 1の上で右端 (1,0)

    に 0 をとり時計の針の反対に回っている。 n=12 で見ると, mod 12 の計算で

    7 × 2 = 14 ≡ 2, 8 × 2 = 16 ≡ 4, 9 × 2 = 18 ≡ 6, 10 × 2 = 20 ≡ 8, 11× 2 = 22 ≡ 10

    である。 点 i と 2i を線分で結ぶ。 点 0 に光源をおく.ときに,点 i に達した光は反射して点 2i に向かう。その包絡線として,(−1/ 3, 0)を cusp とする cardioid ができる。日常的にわれわれはティー

    カップの飲み物の上で,このカージオイドを目にしている。その式は

    23(1+ cos t) exp(it)− 1

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    となるはずであり,成分に分けると

    1

    1 “Xah curve” などの検索で Xah Lee Web 李杀网 というサイトのなかの”曲線”のコレクションに入る。5. と 6. では Xah を活用した。とくに ”nを法とす2倍の計算” のアイディアは Xah による。

  • 前ページで推測した cardioid の式にもとづく作図が青色の曲線で,包絡線との一致が確認できた。これは“実験科学” であり,”数学” ではないかも知れないが。

    終わりに(1)この稿では(いつものように)GeoGebra を全面的に利用した。このような”動的幾何ソフト” は(GeoGebra に限らないが)幾何の理解,探索に絶大な力をもつ。現代の必須の道具である。教師は子どもたちの前で,この道具を活用して自らが数学を楽しむ姿を見せるべきだ。 (2)真の対象は図形というよりは”動く剛体” であり,”動く機械装置”である。 epicycloid, hypocycloid の研究は時計の歯車のような精密機械産業と結びついていた。私はそれを感じながら今回の作業をした。(3) “ベクトル” という数学的概念は,明示的でなくても(校種を超えて)様々な場面で支配的である。(4) 言葉への関心を少しは持とう!

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  • 補足 (2016/07/09,07/23に修正 小島 順)

    astroid をもう一度

     まず,スライダーの t は公転ロッド AC の角度をラディアンで表すパラメータである。自転円板と単位円の接点が点 E = E(t)である。B = (1, 0) から E までの弧の長さが t に一致する(現在

    は t = 0.89 )。  公転ロッド AC の長さは 3/4, 自転ロッド CD の長さは 1/4 である。ベクトルとしての二つのロッドの和の先端 D の軌跡が赤く描いた astroid である。

    第2のパラメータ s の導入

     状況を正確に捉えるために,接点 E(t) は単位円の(つまり平面上の)点とし,自転円板上に別

    に点 E′(t)があって,E′(t) = E(t)であるとする。15ぺージの図では,第二のスライダー s がある

    (t も s も π / 60 すなわち 3° 間隔で刻んでいる)。 現在の画面での自転円板の置かれ方を表現

    する t に対して, s ( 0 ≤ s ≤ t ) は過去の時点 s での接点 E(s) と E′(s)の,現在 t における跡

    を表現するために使う。E(s)と E′(s)(の跡)はそれぞれ単位円と自転円板の上の固定点であ

    り,紫色で描いた。この二つは t = s 以外では 別の点である。角度については,E(s)は3°間隔

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  • の紫の点列として並び,E′(s)は12°間隔の紫の点列として並んでいる。s (mod 2π )によって単位

    円周が目盛られ,s (mod π / 2)によって自転円周が目盛られる

     E′(s) は 自転円板上では s だけで定まる固定点だが,t の変化に応じて 平面上での跡が変化す

    る(C の 公転とC の周りの自転の二つの結果として自転円板の平面上の置かれ方が変化するので)。 とくに s = 0 としたときの E′(0)が 自転円板の固定点 D であるが,これには二重の意味があっ

    て,現在の回転角 t に対応する D の平面上の位置が画面(図)上に描かれている。t を変動させたときの D の軌跡が赤色で描かれている astroid である。

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  •  15ページの下の図では s = 0.35 (正確には 0.3491 で 20゜に当たる)に対する E ′ (0.35) の,

    t の変動に対する軌跡も描かれている。t = 0.35のとき E ′ (0.35)は 単位円周上の E(0.35) と重な

    っている。図では t = 0.17 = s = 0.17 = 0.1745 ( 10゜) に対する軌跡も描き加えた。

    (重複の多い未整理の部分を取り敢えず残しておく: 滑らずに転がるという条件から二つの弧の長さは一致する。自転円の D から E(t) への弧の長さもt である。半径が 1/4 だから,C を中

    心とする D から E への角度は 4t である。

     B' = C + (1/4, 0)とおくと,C を中心とする B’ から E への角度は(A を中心とする B から C

    への角度に等しく)t であるから,B’ から D へ向かう角度は t − 4t = − 3t となる。これは「 C

    を中心とする自転円板(あるいは自転ロッド)の回転角度が −3t である」ことに等しく,14ぺージの図中に書いた exp(i(−3t)) という自転ロッドの表現と符合する。

    14ぺージの図に戻ると,自転ロッドを ± 23π だけ回転した線分 2 本を添えることで,(ロッド

    CD が円板上を回転しているのではなく)円板に固定され円板とともに回転している感じを出そうと試みた。これに対して,点E = E(t)(あるいは線分 CE)は円板上を回転している(円板上の

    新しい点に次々と E というタグを手渡している)。ロッド CD を基準とする CE の回転角度が 4t なのである。 回転角度における t の係数を仮に角速度と呼ぶことにすると,公転ロッド AC の角速度 1 に対して,自転ロッド CD の角速度は −3 ,しかし,円板そのものを基準とすれば CD の角速度は 0 で,接点 E の(線分 CE の)角速度は 4 である。そして,平面における CE の角速度は 1 である。観測の基準の取り方で角速度は変わる。 C の 1/4 回転( t = π / 2)で,D は −3 / 4 回転(−3t = −3 / 2 π )する。接触点 E は このと

    き,平面上で 1/4 回転,しかし 自転円板上では 1回転(4t = 2π )する。つまり,固定点 D が再び接点 E となる。これは ”1回だけ転がる” ことを意味する。接触した単位円の点がそのまま自転円板に接着されるとすれば,単位円の1/4 が自転円板に巻き付くことになる。「取り敢えず残す」はここまで )

    astroid の包絡線をもう一度

    x − cos3 t−cos t

    = y − sin3 t

    sin t, すなわち x

    cos t+ ysin t

    = 1

    単位円上の E2 から両座標軸に下ろした垂線の足 F = (cos t, 0), G = (0, sin t)を結ぶ線分

    FG は長さ 1 で一定である。FG を剛体と意識して,これもロッドと言うことにする。E を終点とする半径 AE と FG は 双方の共通の中点 H で交わっている。H とともに D もロッド FG の上に

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    2 E は接点であるが,ここではパラメータ t の体現者 exp(it)として状況を支配している。

  • ある。0 ≤ t ≤ 2π で(C,E が一周するとき),D はロッド FG 上を2往復する( F → G → F → G → F と,ロッドの溝を滑るようにして)。途中で 4 回 ,中点 H を追い越す。 D は astroid とロッド FG の共有点であるが,両者は D で接している(図でそのように見え

    る)。 計算で確かめる,  dDdt

    = 32sin2t (−cos t, sin t) より,接線の方程式は

                     

    となり,これは既出の FG の式と一致する。 11 ぺージの左上の図で示したとおり,ロッド FG の包絡線として astroid は再定義される。

    ロッド FG の各点の軌跡

    (これ以後の部分は何森仁さんの指摘を受け,それを確かめながら実行したものである。何森さんに感謝する。) FG 上の各点の軌跡は楕円である(中点 H の軌跡は円)。 実際,FG 上の点 (x, y) = sF + (1− s)G = (s cos t, (1− s)sin t), 0 ≤ s ≤1 に対して,

    xs= cos t, y

    1− s= sin t であるから x

    2

    s2+ y

    2

    (1− s)2= 1 となる。これは 11 ページの方程式と同

    じで,その意味がここで初めて理解できた。 FG を 20分割し(21の分点),各分点の跡(軌道)を描いた。H の跡だけは明るい青にした。これらの楕円族の作る包絡線が赤い astroid に一致している。 

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    x − cos3 t−cos t

    = y − sin3 t

    sin t, すなわち x

    cos t+ ysin t

    = 1

  •  FG 上に固定された分点に対して,D はFG 上を渡り歩くことで常に astroid への接点であり続ける。3 

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    3 14~18 ページを補足として追加した。 もや(靄)の中を歩くような試行錯誤の経過をツギハギした産物でゴチャゴチャしている。例えば第二のパラメータ s の導入の部分は,この補足を書いている中でもさら

    に後から挿入した。後で思うと,E ′ (s) の t における平面上の位置を E ′ (s,t) と書くような記号上の工夫が必要だった。私にとって astroid を真に把握することは(力不足で)かなり大変なことだった。 なお, 2016/07/09 の東数協・月例研・中高部会用の資料として,このレポートの 本文の後半(8 ぺージから13ぺージまで)と14ぺージ以降の補足の前バージョンを使った。