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Engineering the Fully Electric Airplane 近年,電気自動車は徐々に私たちの想像の世界から現実の世界の路 上に姿を現し始めました.当初は限定された走行距離からスタート した電気自動車ですが,現在は内燃エンジン搭載車に匹敵する走行距離を走れるようになっていま す.次に登場するのは,完全電動航空機です.magniX 社のエンジニアは,マルチフィジックスシミュ レーションを採用して,短距離および中距離の飛行産業に革命を起こす可能性がある強力な電動モー タをプロペラ機向けに開発しています.これにより,それぞれ 2 時間半のドライブより 30 分のフ ライトのほうが,8 時間のドライブより 1 時間半のフライトのほうが,経済的で便利になります. 完全電動航空機のエンジニアリング ANSYS Advantageスタッフ 8 I ANSYS ADVANTAGE AEROSPACE & DEFENSE 2019 電動化

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Engineering the Fully Electric Airplane

近年,電気自動車は徐々に私たちの想像の世界から現実の世界の路

上に姿を現し始めました.当初は限定された走行距離からスタート

した電気自動車ですが,現在は内燃エンジン搭載車に匹敵する走行距離を走れるようになっていま

す.次に登場するのは,完全電動航空機です.magniX社のエンジニアは,マルチフィジックスシミュ

レーションを採用して,短距離および中距離の飛行産業に革命を起こす可能性がある強力な電動モー

タをプロペラ機向けに開発しています.これにより,それぞれ2時間半のドライブより30分のフ

ライトのほうが,8時間のドライブより1時間半のフライトのほうが,経済的で便利になります.

完全電動航空機のエンジニアリング

ANSYS Advantageスタッフ

8 I ANSYS ADVANTAGE AEROSPACE & DEFENSE 2019

電動化

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電動化はほとんどの産業で強力な推進力になっていますが,航空機に関しては例外で,少なくともこれまでは航空機エンジンの電動化は進んでいませんでした.数百名の乗客を数千マイル輸送するには,大型のジェット機が唯一の解決策でした.しかし,航空宇宙産業では,これまでも電動化のメリットを活用しています.航空機のいくつかの部品は,近年電動化が進んでいます.発電管理,乗客の快適性,空気加圧,空調,飛行制御はその一例です.しかし,航空機を推進するだけの十分な動力を備えた,十分に軽量な電動システムが存在しなかったため,電動航空機は登場しませんでした.

しかし,ワシントン州レッドモンドやオーストラリアのゴールドコーストに拠点を置く新興企業であり,電動モータの開発を専門とする magniX 社が,いま航空機業界に大改革をもたらそうとしています.クリーンで低コストな電動航空輸送でコミュニティ間を接続することによって世界に一層の繁栄をもたらすことを目的とする magniX 社は,650 マイルまでの飛行距離で 8 ~ 20 人の乗客輸送能力を持つプロペラ機に動力を供給する電動モータを設計しています.大空港を避けて,現在少し距離が遠すぎる場所にいる人々とコミュニティをつなぐ,低コストで効率的な直行便の提供を目指しています.

今年の後半からさまざまな航空機で試験飛行を始めることを計画している magniX 社のエンジニアは,ANSYS の構造シミュレーション,電磁界シミュレーション,および熱シミュレーションを使用して,航空機の安全性と信頼性を保証するために必要な堅牢で信頼できる電動モータを設計および試験しています.商用航空機を認定する世界中の規制航空委員会の多くが ANSYS のシミュレーションデータを高く評価しているので,ANSYS のソリューションを使用することは,magniX 社が電動航空機を市場に送り出すまでの期間の短縮に役立つ可能性があります.

短距離電動航空機のケースFAA の「National Plan of Integrated Airport Systems」(2019-2023)レポートによれば,米国には 19,000 を超える空港が存在します.大手航空会社は,そのうち約 500 の空港に就航しています.小規模な航空会社やチャーター機も含めると,この数は約 5,000 に増えます.残りの約 14,000 の空港を,小型の電動航空機が都合よく低コストで利用できることになります.世界中の空港数は 40,000 を超えているので,膨大なチャンスがあります.

2018 年は,世界中でスケジュールされている航空便の約 5% が 100 マイル以下でした.タービンエンジンとピストンエンジンは,飛行距離が 100 マイル以下の場合は非常に効率が悪いので,それらのエンジンを搭載する航空機は,燃料代に約 400 ドルを費やして,燃焼副生物である CO2 や他の温室効果ガスを大気中に放出しています.電動モータは 95% の効率で動作し,電気代は燃料に比べてほんのわずかなので,電動プロペラ機は,12 ドルの電気代で汚染物質をまったく排出しないで同じ距離を飛行できます.

最後に,電動航空機は低騒音なので,人々が経験する騒音公害の一部が解消されます.

電動モータの動作を 試験するmagniX社の エンジニア

「magniX 社は,クリーンで低コストな電動航空 輸送でコミュニティ間を接続することによって 世界に一層の繁栄を もたらすことを目的と しています.」

© 2019 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE I 9

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電動プロペラ機のエンジニアリング上の課題航空機では何でもそうですが,モータなどの部品の機械的強度と性能を保ちつつ重量を減らすことが重要です.モータの電磁特性を最適化して,小型で軽量のパッケージでできる限り多くの動力を供給することも極めて重要です.

これらの設計上の課題を満たすために,magniX 社のエンジニアは,ANSYS Mechanical,ANSYS Fluent,および ANSYS Maxwell を使用して,マルチフィジックスシミュレーションを実行して,革新的な電動モータの構造健全性,流体の流れ,および電磁特性を最適化しています.

電動モータのマルチフィジックスシミュレーションmagniX 社のエンジニアは,Maxwell を使用して,モータの電磁挙動を解析し,重量に対して最適化します.損失や内力など,電磁解析から得たシミュレーションデータを Mechanical および Fluent と共有して,熱と構造についてマルチフィジックスシミュレーションを実行します.Mechanical を使用してモータの構造部品を解析し,すべての荷重条件を考えてもそれらが堅牢かつ軽量であることを保証します.最後に,Fluent を使用して,モータの内部と周囲の空気と冷却材のそれぞれの流れを調査して,稼働中のモータの熱的挙動を理解します.

「magniX 社のエンジニアは, マルチフィジックスシミュレーションで

ANSYS のソルバーを連成することによって, システムに対する 1 つの変更が関連する他の

物理特性に及ぼす影響を判断できます.」

電動モータの試験結果を検討するmagniX社のエンジニア

magni500モータは1,900回転で560kWの出力と2,814Nmの トルクが得られる

10 I ANSYS ADVANTAGE AEROSPACE & DEFENSE 2019

Electric Airplane (続き)

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magniX 社のエンジニアは,マルチフィジックスシミュレーションで ANSYS のソルバーを連成することによって,電磁設計の変更など,システムに対する 1 つの変更が,機械的特性や熱的特性など,関連する他の物理特性に及ぼす影響を判断できます.たとえば,Maxwell シミュレーションから生じる損失を Fluent にエクスポートして CFD 解析することによって,さまざまな動作条件下でのモータの熱的挙動を決定します.この解析で得られた熱負荷は,さらにMechanical ソルバーにエクスポートできます.エンジニアは,モータに対して熱負荷と構造負荷が同時にかかった場合の最大応力と最大変位を決定できます.さらに,設計を調査して最適化が必要な領域を確認することができます.設計を改善するために集中して取り組む必要がある領域を特定した後は,関連する ANSYS ソルバーへの入力を変更して,別のマルチフィジックス反復計算を実行します.

ケーススタディ:ギアボックスの排除magniX 社の電動モータには,モータシャフト出力とプロペラの間の中間ギアボックスが不要で,直接プロペラを駆動することによって推進システム全体を単純化できるという利点があります.一般に,燃料を動力とする小型航空機の場合,回転数 10,000 ~ 20,000rpm のモータが,回転数がわずか 1,900rpm のプロペラに接続されます.自動車の変速機が内燃エンジンの出力を車輪の速度に合わせるのとまったく同じように,通常は,シャフトの速度をプロペラの速度まで落とすために重い機械式ギアボックスが必要になります.このギアボックスによって,システム全体に重量と複雑さが加わり,保守作業も増えます.

magniX 社のモータは 1,900rpm で回転しながら動力を生み出すのでプロペラと一致しており,ギアボックスは不要です.これを実現するには,モータシャフトの速度をプロペラの速度に確実に一致させる必要があります.したがって,モータは,トルクとスラスト荷重に耐えるだけでなく,プロペラからの構造負荷と振動負荷にも耐える必要があります.magniX 社のエンジニアは,Mechanical を広範囲に使用して,適切な強度,剛性,および重量になるようにモータの機械的構造の設計と最適化を行いました.

ANSYSのシミュレーションの選択magniX 社は,シミュレーションソリューションを探しているときに,ANSYS のテクノロジーがすでに多くの航空宇宙企業で使用されていることを知りました.電動プロペラ航空機という画期的なテクノロジーの課題を解決するために実績のあるツールを最初に使用することで,リスクの一部が解消されます.ANSYSがマルチフィジックスシミュレーション機能も備えていて,電磁ソルバー,流体ソルバー,および構造ソルバーから得られるデータを 1 つのシミュレーション環境でシームレスに共有できることも,ANSYS のソリューションを選択した一因です.

magniX 社は,シミュレーションを適用して設計案の選択肢を除外していくことで,開発タイムラインを短縮します.考えられる設計が多数存在する場合,シミュレーションを使用することによって,うまく機能しない設計を除外する機能を速やかに実行できます.そうすれば,エンジニアは可能性の高い選択肢のみに集中できます.シミュレーションを使用しなければ,すべてのモータ,すべてのインバーター,およびそのモータまたはインバーターのすべての部品を作る必要があったでしょう.

「考えられる設計が多数 存在する場合,シミュレーションを使用することによって,うまく機能しない設計を除外する機能を 速やかに実行できます.」

電動機設計方法: 革新的手法ansys.com/electric-machine-design

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