胸部X線写真を凌ぐ超音波像の描出能 知っておきたい エコー · 第1章...

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胸部 X 線写真を凌ぐ超音波像の描出能 著者:杉山 髙 (浜松南病院) 医療科学社の新刊案内 推薦のことば 元日本超音波医学会理事長 竹原 靖明 この度,出版された杉山髙氏は,遠く電子スキャ ン装置の実用化以前のいわゆる「黎明期」より,超 音波検査を単なる「生体検査」ではなく「画像診断」 と位置づけ,広い領域にわたり臨床超音波の進歩に 寄り添って尽力されてきた人である。氏の信条は「実 学」を尊び,理論より技術を,知識より経験を優先 させるもので,その著書は読みやすく解りやすいの が特徴である。(抜粋) 【主要目次】 第 1 章 肋骨エコーの基礎 肋骨エコーの基礎 第 2 章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 1.肋骨 2.胸骨 3.迅速簡易超音波検査法 FAST 4.肺 5.その他の骨折 B5 判 144 頁 定価(本体 3,500 円+税)ISBN978-4-86003-455-9 Ultrasound Diagnosis of Rib Fracture 知っておきたい 浜松南病院  杉 山 肋骨骨折エコー 肋骨・FAST・肺 肋骨・FAST・肺 F A S T F A S T 症例21 転移性肺腫瘍 metastatic lung tumor  −直腸癌による肺転移例− 73歳 ,男性.直腸癌術後の経過観察. ・直腸癌術後における経過観察で肺のCT像をみたものである.両肺には大小の結節がみられ空洞 を伴うものも認められたため,胸膜に接する腫瘍に対しエコーでみたものである.a,右肺には 肝右葉に接し腫瘍が認められる(矢印).b,この腫瘍に対しコンベックス探触子で肝右葉を介し 横隔膜(矢頭)に接する胸腔をみたものである.音波の減衰や探触子の接触面積などの影響によ り腫瘍の全体像を知ることは困難である(矢印).c,セクタ探触子で同腫瘍を描出したものであ る.横隔膜(矢頭)に接し胸腔にはくさび状を示す腫瘍が肝と同等のエコーレベルを示している (矢印). RL;肝右葉 CT像(造影なし) セクタ探触子の肺腫瘍像 コンベックス探触子の肺腫瘍像 a b 腫瘍 肝右葉 横隔膜 RL 知っておきたい肋骨骨折エコー したカラードプラ像である.円形の低エコー腫瘍を認めるが(矢印),血流信号は指摘できない. 本例は2年半前,右季肋部痛で腹部エコー検査を施行したものである.f,上腹部には悪性所見 は認められなかったが,膀胱に接し直腸には内部エコー不均一,境界不明瞭な低エコー腫瘍がみ られる(矢印).g,内視鏡像を示す.肛門より口側10㎝に認めた3型進行癌である. 転移性肺腫瘍は原発巣を離脱して脈管や気道を通じて肺に転位する.肺は転移が多い臓器で, 肺以外に発生した腫瘍の30~50%が肺に転移するといわれる. BL;膀胱 CT像(造影なし) 直腸癌のエコー像 直腸の内視鏡像 リニア探触子の肺腫瘍像 d f g e BL 第Ⅱ章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 4.肺 107 a,リニア探触子を用い肋骨の長軸像を描出したものである.線状高エコーを示す肋骨にはstep signと,骨表面にecho free spaceが認められる(矢印).b,同骨折部位の短軸像を示す.音響陰 影を伴う半円形の線状高エコーを示す肋骨には長軸像でもみられたstep signが描出されている (矢印).矢頭は胸膜を示す.c,骨折部位と方向図を示す.左第6肋骨3時方向の骨折である. 左肋骨長軸像 左肋骨短軸像 症例2 肋骨骨折 rib fracture  −肋骨X線像で骨折描出例 2− 68歳,女性.誘因なく左胸部痛. 骨折部位・方向図 12:00 6:00 3:00 9:00 b a c 24 知っておきたい肋骨骨折エコー エコー検査で肋骨骨折が疑われたため肋骨X線像をみたものである.d,肋骨X線像(正面)では 骨折に伴う転位は指摘できない.e,肋骨X線像(斜位)では骨折による転位が描出されている(矢 印). 肋骨骨折が疑われる場合,最初に選択される検査は一般的に胸部(肋骨)X線撮影である.しか し,肋骨陰影の重なりなどから骨折が描出されないことも少なくない.エコー検査では骨折が疑わ れる部位にpinpoint走査することで骨折の存在を知るのに適した方法である.特に近年,ストレス 性骨折や激しい咳などで急激な痛みを訴え受診される高齢者のケースもみられることから,エコー 検査はX線とは異なり被曝がなく簡便な検査であるため,腹部臓器に隣接する痛みの部位について は,肋骨骨折も念頭に幅広い検査の対応が必要と思われる.また,人身傷害補償保険の問題や domestic violenceなど裁判に関し客観的データの呈示が要求されることからも,本法の有用性は高 いといえる. 肋骨X線像(正面) 肋骨X線像(斜位) d e 第Ⅱ章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 1.肋骨 25 知っておきたい 肋骨骨折 エコー 肋骨・FAST・肺

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胸部 X 線写真を凌ぐ超音波像の描出能

著者:杉山 髙(浜松南病院)

医療科学社の新刊案内● ● ● ●

推薦のことば元日本超音波医学会理事長

 竹原 靖明 この度,出版された杉山髙氏は,遠く電子スキャン装置の実用化以前のいわゆる「黎明期」より,超音波検査を単なる「生体検査」ではなく「画像診断」と位置づけ,広い領域にわたり臨床超音波の進歩に寄り添って尽力されてきた人である。氏の信条は「実学」を尊び,理論より技術を,知識より経験を優先させるもので,その著書は読みやすく解りやすいのが特徴である。(抜粋)

【主要目次】第 1章 肋骨エコーの基礎 肋骨エコーの基礎第 2章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 1.肋骨 2.胸骨 3.迅速簡易超音波検査法 FAST 4.肺 5.その他の骨折

● B5 判 144 頁 ● 定価(本体 3,500 円+税)● ISBN978-4-86003-455-9

Ultrasound Diagnosis of Rib Fracture

知っておきたい

浜松南病院 杉 山 髙 著

肋骨骨折エコー

肋骨骨折エコー

浜松南病院

医療科学社

杉山

 髙

知っておきたい

浜松南病院 杉 山 髙 著

肋骨骨折エコー肋骨骨折エコー知っておきたい

― 肋骨・FAST ・肺― ― 肋骨・FAST・肺 ―― 肋骨・FAST・肺 ―

肋骨・FAST・肺 ―

肋骨・FAST・肺 ―

知っておきたい

ISBN978-4-86003-455-9

C3047 ¥3500E

定価(本体3,500円+税)

 症例21 転移性肺腫瘍metastaticlungtumor  −直腸癌による肺転移例−73歳 ,男性.直腸癌術後の経過観察.

・直腸癌術後における経過観察で肺のCT像をみたものである.両肺には大小の結節がみられ空洞を伴うものも認められたため,胸膜に接する腫瘍に対しエコーでみたものである.a,右肺には肝右葉に接し腫瘍が認められる(矢印).b,この腫瘍に対しコンベックス探触子で肝右葉を介し横隔膜(矢頭)に接する胸腔をみたものである.音波の減衰や探触子の接触面積などの影響により腫瘍の全体像を知ることは困難である(矢印).c,セクタ探触子で同腫瘍を描出したものである.横隔膜(矢頭)に接し胸腔にはくさび状を示す腫瘍が肝と同等のエコーレベルを示している

(矢印). RL;肝右葉

CT像(造影なし)

セクタ探触子の肺腫瘍像

コンベックス探触子の肺腫瘍像

a

c

b

腫瘍 肝右葉

横隔膜

RL

106 知っておきたい肋骨骨折エコー

 d,左肺上葉にも胸膜に接し腫瘍が認められる(矢印).e,この腫瘍に対しリニア探触子で描出したカラードプラ像である.円形の低エコー腫瘍を認めるが(矢印),血流信号は指摘できない.本例は2年半前,右季肋部痛で腹部エコー検査を施行したものである.f,上腹部には悪性所見は認められなかったが,膀胱に接し直腸には内部エコー不均一,境界不明瞭な低エコー腫瘍がみられる(矢印).g,内視鏡像を示す.肛門より口側10㎝に認めた3型進行癌である.

  転移性肺腫瘍は原発巣を離脱して脈管や気道を通じて肺に転位する.肺は転移が多い臓器で,肺以外に発生した腫瘍の30~50%が肺に転移するといわれる.

 BL;膀胱

CT像(造影なし)

直腸癌のエコー像 直腸の内視鏡像

リニア探触子の肺腫瘍像

d

f g

e

BL

第Ⅱ章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 4.肺 107

 a,リニア探触子を用い肋骨の長軸像を描出したものである.線状高エコーを示す肋骨にはstep signと,骨表面にecho free spaceが認められる(矢印).b,同骨折部位の短軸像を示す.音響陰影を伴う半円形の線状高エコーを示す肋骨には長軸像でもみられたstep signが描出されている

(矢印).矢頭は胸膜を示す.c,骨折部位と方向図を示す.左第6肋骨3時方向の骨折である.

左肋骨長軸像

左肋骨短軸像

 症例2 肋骨骨折 ribfracture  −肋骨X線像で骨折描出例 2−68歳,女性.誘因なく左胸部痛.

骨折部位・方向図

12:00

6:00

3:009:00

b

a

c

24 知っておきたい肋骨骨折エコー

エコー検査で肋骨骨折が疑われたため肋骨X線像をみたものである.d,肋骨X線像(正面)では骨折に伴う転位は指摘できない.e,肋骨X線像(斜位)では骨折による転位が描出されている(矢印). 肋骨骨折が疑われる場合,最初に選択される検査は一般的に胸部(肋骨)X線撮影である.しかし,肋骨陰影の重なりなどから骨折が描出されないことも少なくない.エコー検査では骨折が疑われる部位にpinpoint走査することで骨折の存在を知るのに適した方法である.特に近年,ストレス性骨折や激しい咳などで急激な痛みを訴え受診される高齢者のケースもみられることから,エコー検査はX線とは異なり被曝がなく簡便な検査であるため,腹部臓器に隣接する痛みの部位については,肋骨骨折も念頭に幅広い検査の対応が必要と思われる.また,人身傷害補償保険の問題やdomestic violenceなど裁判に関し客観的データの呈示が要求されることからも,本法の有用性は高いといえる.

肋骨X線像(正面) 肋骨X線像(斜位)

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第Ⅱ章 肋骨・胸骨・FAST・肺と他の骨折エコーの臨床 1.肋骨 25

知っておきたい 肋骨骨折エコー̶ 肋骨・FAST・肺 ̶