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5. 刺胞・有櫛動物:放射相称でゼラチン質の動物
奈良教集中講義 2017/08/16-20
新潟大学・自然環境科学・宮﨑勝己
「刺胞動物門」
刺胞動物門=CNIDARIA
・語源=ギリシア語のknide(=nettle「イラクサ」)
・「刺胞動物」という名称は、毒針を持つ細胞「刺胞」を持つことから。
・BC4世紀頃アリストテレスは、クラゲとポリプが共
に毒を持って刺すということを認識。
・ルネサンス期植物に分類。
・~18世紀植虫類 (植物と動物の中間生物)に分類。
「刺胞動物門」
・19世紀初頭Lamarckが、放射動物類(Radiata)を
たて、クラゲ類・有櫛動物・棘皮動物を
含める。
Sarsが、クラゲとポリプが同じ仲間の
異なる世代であることを確認。植虫類
(植物と動物の中間生物)に分類。
「刺胞動物門」・1847年Leuckartが、放射動物を海綿・刺胞・
有櫛/棘皮に二分し、前者を腔腸動物
(Coelenterata)とする。
・1888年Hatschekが、腔腸動物の三群をそれぞ
れ独立した動物門として認める。
「刺胞動物門」
かつての放射動物=海綿(B)、イソギンチャク(C)、クラゲ(D)、ヒトデ(E)、ウニ(F)
Brusca et al. (2016)
「刺胞動物門」の特徴
放射相称二胚葉性(外胚葉・内胚葉)で、その間にゼラチン状の中膠を有する一つの口が開いた袋状の体形。刺胞を有する基本的にポリプとクラゲの世代交代を行う幼生としてプラヌラ幼生を出す
Brusca & Brusca (2003)に従う
ヒドロクラゲの四放射相称(A)、ヒドロポリプの放射相称(B)、鉢クラゲの二放射相称(C)、八放サンゴの二放射相称(D)
Brusca et al. (2016)外胚葉性の表皮と内胚葉性の胃層に、中膠がはさまれている。
バーンズら (2009)
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ヒドロ虫(A)、イソギンチャク・サンゴ(B)、クラゲ(C)間で、基本的な体のつくりは共通。
Brusca et al. (2016)
毒針が収まったカプセル(刺胞)を含んだ、刺細胞を持つ。
バーンズら (2009)
刺針がトリガーとなり、刺胞の蓋が開いて、中の刺糸が発射される。
バーンズら (2009)
基本的に「ポリプ世代」と「クラゲ世代」で世代交代をする。
ポリプ世代
クラゲ世代
バーンズら (2009)
胞胚から、通常「移入(ingression)」による原腸形成=内胚葉形成が起きる。
巌佐ら (2013)
プラヌラ幼生の発生
一層の外胚葉と、中実状の内胚葉から成る。口などは無い。体中の繊毛で漂泳し、定着後変態する。
Brusca et al. (2016)
プラヌラ幼生
かつての3綱に分ける分類体系から、箱虫類を鉢虫綱から分離させ、以下の4綱に分けるのが一般的。
・ヒドロ虫綱
・鉢虫綱
・箱虫綱
・花虫綱
刺胞動物の分類 ヒドロ虫綱
・「ポリプ」と「クラゲ」で世代交代をする。・刺細胞が表皮のみに存在。・中膠は薄く、細胞を含まない。・生殖巣が表皮由来。・多くは群体を作る。・クラゲやポリプ個虫は一般に小型。
ヒドロ虫の群体(ポリプ)
花のように見えるのが一個体一個体の「個虫」
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ヒドロ虫の群体(ポリプ)
群体を構成する一つ一つの個体を「個虫」という。それぞれの個虫は遺伝的に同一の「クローン」である。
バーンズら (2009)
ヒドロ虫綱
・「ポリプ」と「クラゲ」で世代交代をする。・刺細胞が表皮のみに存在。・中膠は薄く、細胞を含まない。・生殖巣が表皮由来。・多くは群体を作る。・クラゲやポリプ個虫は一般に小型。
オトヒメノハナガサ=世界最大の単体ヒドロ虫ポリプ(奈良女子大学理学部生物学科所蔵、高さ約1m)
しばしば群体が巨大化したり、個虫が極端な分業をする。
↑マヨイアイオイクラゲの群体=全長40 m以上に達することもある。
カツオノエボシ→=一個体では無く、分業化した多数の個虫の集合体。
群体がしばしば巨大化したり、個虫の極端な分業により個体的になることがある。
Pechenik (2015)
鉢虫綱
・世代交代をするが、クラゲが良く発達し、ポリプは全体的に退化的。・刺細胞が表皮にも胃層にも存在。・中膠は厚く、細胞を含む。・生殖巣が胃層由来。・クラゲが大型のため、しばしばヒトに被害を与えることがある。
(上)ミズクラゲ=発電所取水口の詰まり。
(下)エチゼンクラゲ=網にかかって漁業被害。
箱虫綱
・形態は概ね鉢虫に似るが、刺胞の形状などヒドロ虫に似る点もある。・クラゲが箱形。・触手等によく発達した「目」を持つ。・刺胞毒が強く、ヒトを殺すこともある。
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箱虫類の目(レンズ眼)はよく発達し、レンズや網膜さえ備える。
レンズ
網膜
箱虫類の目(レンズ眼)はよく発達し、レンズや網膜さえ備える。
日本ではアンドンクラゲやハブクラゲがしばしば被害を与え、外国では箱虫による死亡例も多い。
花虫綱・クラゲ世代を欠き、ポリプは全体的に大型化。・中膠は厚く、細胞を含む。・生殖巣が胃層由来。・触手が8本の八放サンゴ類(ウミトサカ、宝石サンゴ等)と基本6の倍数の六放サンゴ類(イシサンゴ、イソギンチャク等)とに分けられる。
オヨギイソギンチャク=「遊泳性のポリプ」?
クラゲ世代が退化しポリプのみになったという説と、ポリプではなく固着化したクラゲであるという説とがある。
これは「ポリプ」なのか?固着性の「クラゲ」なのか?
Brusca et al. (2016)
刺胞動物の系統
4綱間の系統関係については、ヒドロ虫が最初に分岐したという考え(a)と、花虫が最初に分岐という考え(b)が対立している。
刺胞動物の系統
Hickman Jr. et al. (2015)
分子系統等最近の研究では、花虫が最初に分岐したという考えが支持される。
日本での分類研究者
柳研介(千葉中央博)
深見裕伸(宮崎大)
並河洋(科博)
今原幸光(黒潮生物研)
並河洋(科博)
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「有櫛動物門」
有櫛動物門=CTENOPHORA
・語源=ギリシア語の cten(=comb) + phero (=to bear)
・「有櫛動物」という名称は、櫛板という器官を持つことから。
・1671年
有櫛動物とわかる最初の記載例。
その後の分類上の扱いは、刺胞動物
のそれにほぼ準じる。
「有櫛動物門」・ゼラチン質の体という共通点から、かつては刺胞動物と併せて「腔腸動物」と呼ばれていた。
・二放射相称性、刺胞の欠除、モザイク卵等の特徴から、刺胞動物との姉妹群関係=腔腸動物の単系統性は否定。
「有櫛動物門」
繊毛が癒合して出来た基本8列の「櫛板」と、基本1対の触手を持つ。
バーンズら (2009)
二放射相称性を示す。
Brusca et al. (2016) 触手に「膠胞」という特殊な細胞を持ち、その粘着性により、餌を捕獲する。
バーンズら (2009)
堀田拓史(東海大)
繊細で壊れやすく、標本化が非常に困難。そういう事もあり、分類が進んでいない。
刺胞・有櫛動物と近縁と考えられる謎の動物 ミクソゾア類=原生生物?後生動物?
・魚に被害を与える寄生虫として有名。・基本的に単細胞性で1990年代まで原生生物の胞子虫の仲間に分類される。・胞子状態が多細胞性で、極嚢が刺胞動物の刺胞に似るため、後生動物説が根強かった。
Yokoyama et al. (2012)
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ミクソゾア類=原生生物?後生動物?
・魚と環形動物あるいは苔虫動物と、二つの宿主を行き来する特異な生活史を持つ。
Yokoyama et al. (2012)
ミクソゾア類=原生生物?後生動物?
・魚に被害を与える寄生虫として有名。・基本的に単細胞性で、1990年代まで原生生物の胞子虫の仲間に分類される。・胞子状態が多細胞性で、極嚢が刺胞動物の刺胞に似るため、後生動物説が根強かった。
重中・白山 (2000)
ミクソゾア類=後生動物
分子系統解析と細胞接着装置の観察から後生動物であることが確定。最近の大規模ゲノム解析では、刺胞動物の一員であることが確実視されている。
Chang et al. (2015)
刺胞動物
ミクソゾア類
ミクソゾア類=退化した刺胞動物?
所属不明の刺胞動物であったPolypodiumとの近縁性が示され、両者を合わせて刺胞動物門中に新しい綱が立てられるかもしれない。
Chang et al. (2015)
刺胞動物
ミクソゾア類
Evans et al. (2008)
Dendrogramma=最近報告された謎の動物
1986年にオーストラリア南東の深海(400-1,000 m)で採集され、2014年に報告された。
Just et al. (2014)
刺胞動物・有櫛動物に似るが、それらの動物門特有の特徴を持たない→新動物門??
Just et al. (2014)
Dendrogramma=最近報告された謎の動物
Basalな動物の系統関係
現生の動物の中で、どの門が最初に分岐してきたのかについては、諸説あって決着していない。
藤田 (2010)
ゲノム解析→神経発現遺伝子と神経伝達物質に有櫛とその他の動物に共通性がほぼ無い→神経系が有櫛で独自に進化した→有櫛が最初に分岐?
Moroz et al. (2014)
有櫛動物は、miRNAやHox遺伝子群を欠くなど非常に独自の進化を遂げたグループであることは確か。
Moroz et al. (2014)