タイの貿易構造の変化とFTAの現状 - ASEAN ·...

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タイの貿易構造の変化とFTAの現状 主任研究員 吉岡 武臣 国際機関日本アセアンセンター シンポジューム: ASEAN 設立50 周年に向けて③ ASEANの貿易自由化と経済成長』 2016920日(火)

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タイの貿易構造の変化とFTAの現状

主任研究員 吉岡 武臣

国際機関日本アセアンセンター シンポジューム:ASEAN設立50周年に向けて③

『ASEANの貿易自由化と経済成長』

2016年9月20日(火)

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本日お話しする内容

1.タイの貿易構造の変化

2.タイのFTAの現状

・タイにおける相手国別の輸出入の推移(2005年/2015年)

・生産段階別の貿易構造の変化(対ASEAN、日本、中国、米国)

・タイで発効済のFTA(ACFTA、JTEPA、AFTA)の関税削減の状況

・タイにおけるFTAの利用率と実際の関税削減効果

3.TPPの関税削減が対米輸出に与える影響

・タイに適用されているGSP(一般特恵関税制度)とTPPの比較

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1.タイの貿易構造の変化

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ASEAN EU 米国 中国 日本 香港 インド 韓国

2005 2015

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タイの輸出の推移

◆タイの輸出額は10年で約2倍に拡大。日本および欧米への輸出比率が下がり、ASEAN、中国の比率が増加した。

図表:タイの相手国・地域別の輸出額の推移(2005年/2015年) 単位:100万ドル、%

注:EUは2005年は25ヵ国、2015年は28カ国

出所:Global Trade Atlasより作成

金額 構成比

2005 2015 2005 2015

世界合計 109,848 210,865 100.0 100.0

ASEAN 23,892 54,233 21.7 25.7

EU 14,878 21,624 13.5 10.3

米国 16,915 23,681 15.4 11.2

中国 9,104 23,311 8.3 11.1

日本 15,030 19,757 13.7 9.4

香港 6,091 11,642 5.5 5.5

インド 1,519 5,210 1.4 2.5

韓国 2,243 4,036 2.0 1.9

ASEANおよび中国への輸出は2倍以上に拡大

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ASEAN EU 中国 日本 米国 UAE 台湾 韓国

2005 2015

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タイの輸入の推移

◆中国からの輸入は約4倍に拡大、全体の約2割を占める。一方で日本からの輸入の割合は大きく低下。ASEANの比率は若干増加した。

図表:タイの相手国・地域別の輸入額の推移(2005年/2015年) 単位:100万ドル、%

注:EUは2005年は25ヵ国、2015年は28カ国。ASEANはタイからの再輸入を含む

出所:Global Trade Atlasより作成

金額 構成比

2005 2015 2005 2015

世界合計 118,112 201,938 100.0 100.0

ASEAN 22,984 40,882 19.5 20.2

EU 10,750 18,032 9.1 8.9

中国 11,148 40,912 9.4 20.3

日本 26,042 31,133 22.0 15.4

米国 8,679 13,818 7.3 6.8

UAE 5,695 8,135 4.8 4.0

台湾 4,498 7,504 3.8 3.7

韓国 3,872 7,015 3.3 3.5

中国からの輸入は約4倍と大きく拡大

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33%22%

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

輸入

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生産段階別の貿易構造の変化(対ASEAN)

◆資本財の輸入増はベトナムからの携帯電話が要因。輸出における加工品の比率増は石油製品、ゴム・プラスチック製品の輸出拡大による。

図:タイの生産段階別の貿易額の変化:対ASEAN (内側:2005年/外側:2014年) 単位:100万ドル、%

注:データベースに未収録のミャンマー、ラオスの金額は含まれていない。出所:RIETI-TID(2014)より作成

5%

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

輸出

(輸入) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 3,418 5,930 5,776 2,226 2,056

2014 5,787 11,103 7,431 5,658 3,758

(輸出) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 989 7,128 6,610 2,663 3,808

2014 1,884 16,079 10,094 5,195 7,759

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

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生産段階別の貿易構造の変化(対中国)

◆資本財の輸入増は携帯電話と携帯用コンピュータ、加工品の輸出増はエチレンの重合体などの化学製品が主な要因。

図:タイの生産段階別の貿易額の変化:対中国 (内側:2005年/外側:2014年) 単位:100万ドル、%

出所:RIETI-TID(2014)より作成

輸出

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10%1%

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32%

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

輸入

(輸入) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 149 4,030 2,719 3,102 1,148

2014 268 13,019 7,429 11,727 4,555

(輸出) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 1,394 4,106 4,081 3,481 930

2014 3,956 14,048 8,634 6,238 4,665

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34%

素材 加工品 部品 資本財 消費財

P.8

生産段階別の貿易構造の変化(対日本)

◆輸入は加工品・部品で7割を超える。加工品の輸入増は金や鉄鋼関連が要因。輸出は消費財が多く、特に鶏肉は輸出が拡大した。

図:タイの生産段階別の貿易額の変化:対日本 (内側:2005年/外側:2014年) 単位:100万ドル、%

出所:RIETI-TID(2014)より作成

輸出

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36%

36%

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

輸入

(輸入) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 76 9,214 9,418 5,850 1,405

2014 196 13,930 12,266 7,043 1,712

(輸出) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 988 3,214 3,348 2,790 4,491

2014 1,150 5,135 4,039 3,509 7,099

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素材 加工品 部品 資本財 消費財

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25%

10%

素材 加工品 部品 資本財 消費財

P.9

生産段階別の貿易構造の変化(対米国)

◆資本財は飛行機の輸入増により比率が増加。輸出は資本財・消費財で約7割。資本財はハードディスクの輸出増により比率が増加した。

図:タイの生産段階別の貿易額の変化:対米国 (内側:2005年/外側:2014年) 単位:100万ドル、%

出所:RIETI-TID(2014)より作成

輸出輸入

(輸入) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 806 2,409 2,991 1,456 791

2014 1,307 4,525 3,655 3,661 1,394

(輸出) 素材 加工品 部品 資本財 消費財

2005 474 2,245 2,984 5,605 9,400

2014 739 2,460 4,505 7,630 9,498

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素材 中間財 最終財

ASEAN 4.6 63.8 31.6

中国 10.5 60.4 29.0

日本 5.5 43.8 50.7

米国 3.0 28.0 69.0

素材 中間財 最終財

ASEAN 17.2 54.9 27.9

中国 0.7 55.3 44.0

日本 0.6 74.5 24.9

米国 9.0 56.3 34.8

P.10

生産段階別の貿易構造の変化(まとめ)

◆対象国からのタイの輸入は主に中間財が占める。輸出はASEANおよび中国向けは中間財、日本と米国向けは最終財が多い。

表:タイの生産段階別の貿易構造の変化(2014年) 単位:%

注:黄色は2005年から比率が拡大した項目。

出所:RIETI-TID(2014)より作成

輸出輸入

いずれも輸入は中間財が半分以上を占め、特に日本は比率が高い。

ASEAN、中国、米国からの最終財の輸入比率は拡大、中国は44%に達した。

ASEAN、中国向けの輸出は中間財が約6割、最終財が約3割を占める。

日本、米国向け輸出は最終財が多く、米国向けは約7割を占める。

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2.タイのFTAの現状

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相手国・地域 発効 関税引き下げの状況

ASEAN 1993年1月 一部の例外を除いて全て関税撤廃(2010年)

インド 2004年9月 家電・自動車部品など83品目(アーリーハーベスト品目)のみ撤廃。

オーストラリア 2005年1月 食肉関連(13品目)を除き関税撤廃(2015年)

中国 2005年7月(注) アーリーハーベスト、ノーマルトラック品目は関税撤廃(2010年)

ニュージーランド 2005年7月 一部の農産物を除き関税撤廃(2015年)

日本 2007年11月 除外、再交渉品目を除いて関税撤廃(2017年4月)

日本 2008年12月 発効後10年以内(2018年4月)に品目数の9割を無税

韓国 2010年1月 一部のセンシティブ品目を除き2017年に関税撤廃

インド 2010年1月 ノーマルトラック品目(品目数の80%)は2016年末に関税撤廃

オーストラリア・ニュージーランド 2010年3月 一部の品目を除き2020年に関税撤廃

ペルー 2011年12月 品目数で70%のEHP(アーリーハーベスト品目)の関税を撤廃(2016年)

チリ 2015年11月 発効後に90%の品目は即時関税撤廃

P.12

タイは多くの国とFTAを締結している

◆2016年時点で発効しているFTA/EPAは12件(二国間・多国間)一部の品目を除き着実に関税の引き下げが進んでいる。

表:タイにおけるFTAの関税引き下げの状況

※黄色はASEAN加盟国としての協定。それ以外は二国間の協定を表す。

(注)HS07-08およびHS01はアーリーハーベストとしてそれぞれ2003年10月、2004年1月に関税撤廃

(出所)ジェトロのホームページ等の資料をもとに作成。

今後、関税が撤廃される

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P.13タイのFTAにおける関税削減の状況

注:数値は各分類における税率0%および0%超の品目数の割合を示す。

出所:各FTA関税譲許表より作成

表:タイのFTA別の品目分野削減状況(品目数ベース、2015年) 単位:%

ASEAN-中国自由貿易協定

ACFTA日本-タイ経済連携協定

JTEPAASEAN自由貿易地域

AFTA

(HSコード) 品目分野 税率 0% 0%超 税率 0% 0%超 税率 0% 0%超

01-15 農水産品 94.4 5.6 80.9 19.1 98.8 1.2

16-24 食料品・アルコール 86.7 13.3 75.4 24.6 100.0 0.0

25-27 鉱物性燃料 93.6 6.4 100.0 0.0 100.0 0.0

28-38 化学工業品 98.0 2.0 97.2 2.8 100.0 0.0

39-40 プラスチック・ゴム製品 94.4 5.6 43.1 56.9 100.0 0.0

41-43 皮革・毛皮・ハンドバッグ等 100.0 0.0 100.0 0.0 100.0 0.0

44-49 木材・パルプ 95.9 4.1 99.1 0.9 100.0 0.0

50-67 繊維製品・履物 95.7 4.3 98.9 1.1 100.0 0.0

68-83 窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品 83.1 16.9 66.6 33.4 100.0 0.0

84 機械類・部品 83.2 16.8 86.2 13.8 100.0 0.0

85 電気機器・部品 72.1 27.9 95.3 4.7 100.0 0.0

86-89 輸送用機械・部品 61.2 38.8 24.6 75.4 100.0 0.0

90-92 光学機器・楽器 99.4 0.6 100.0 0.0 100.0 0.0

93-97 雑製品 95.3 4.7 99.6 0.4 100.0 0.0

全体 88.0 12.0 81.8 18.2 99.9 0.1

AFTAではほぼ全て、ACFTAでは約9割、JTEPAでは徐々に関税削減が進み0%の品目が8割を超えた。

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P.14タイの関税率の状況(2015年)

注:税率は分類ごとの税率の合計を品目数で除した単純平均。従量税の品目は集計から除外している。

関税割当の品目は枠外の税率を適用。ACFTAの税率に関し、譲許表で「中国対象外」の品目はMFN税率と同じとした。

出所:タイ関税率表および各FTA関税譲許表より作成

表:タイの輸入における品目分野別関税率(2015年) 単位:%

(HSコード) 品目分野 MFN ACFTA JTEPA AFTA

01-15 農水産品 25.5 1.8 8.0 0.1

16-24 食料品・アルコール 30.6 6.2 8.5 0.0

25-27 鉱物性燃料 2.2 2.0 0.0 0.0

28-38 化学工業品 3.7 0.4 0.1 0.0

39-40 プラスチック・ゴム製品 7.7 1.3 2.2 0.0

41-43 皮革・毛皮・ハンドバッグ等 14.6 0.0 0.0 0.0

44-49 木材・パルプ 5.9 3.5 0.0 0.0

50-67 繊維製品・履物 15.2 0.8 0.3 0.0

68-83 窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品 7.2 2.6 1.7 0.0

84 機械類・部品 3.5 3.3 2.1 0.0

85 電気機器・部品 7.6 5.1 0.7 0.0

86-89 輸送用機械・部品 35.0 26.6 25.6 0.0

90-92 光学機器・楽器 4.1 0.1 0.0 0.0

93-97 雑製品 17.3 1.3 0.0 0.0

全体 12.5 3.9 3.7 0.0

全体の平均関税率ではJTEPAはACFTAより若干低い。輸送用機械・部品はAFTAを除き高い関税を維持

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P.15タイの輸出における関税率(2015年)

注:税率は分類ごとの税率の合計を品目数で除した単純平均。従量税の品目は集計から除外している。関税割当の品目は枠外の税率を適用。

出所:各国の関税率表およびFTA関税譲許表より作成

表:タイからの輸出における相手国側の品目分野別関税率(2015年) 単位:%

タイから中国へ タイから日本へ タイからインドネシアへ

(HSコード) 品目分野 MFN ACFTA MFN JTEPA MFN AFTA

01-15 農水産品 12.8 1.0 7.3 4.9 5.1 0.2

16-24 食料品・アルコール 17.4 2.5 15.7 10.5 21.7 12.4

25-27 鉱物性燃料 2.9 0.2 0.7 0.0 3.3 0.0

28-38 化学工業品 6.1 0.4 2.3 0.1 5.0 0.3

39-40 プラスチック・ゴム製品 9.2 0.4 2.5 0.0 8.8 0.0

41-43 皮革・毛皮・ハンドバッグ等 12.0 0.0 10.9 4.4 8.7 0.0

44-49 木材・パルプ 4.7 3.8 2.1 0.8 4.4 0.0

50-67 繊維製品・履物 11.8 0.3 7.1 0.7 14.6 0.0

68-83 窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品 8.3 0.0 1.0 0.0 8.7 0.0

84 機械類・部品 7.4 0.1 0.0 0.0 5.0 0.0

85 電気機器・部品 8.7 1.1 0.1 0.0 6.0 0.0

86-89 輸送用機械・部品 13.1 4.4 0.1 0.0 19.7 0.0

90-92 光学機器・楽器 9.4 0.0 0.2 0.0 5.5 0.0

93-97 雑製品 10.8 0.2 2.2 0.0 9.9 0.6

全体 9.4 0.8 4.9 1.9 8.8 0.6

タイからの輸出の場合、相手国のFTA税率は日本・インドネシア向けの食料品・アルコール以外は概ね低い。

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順位 国名輸入額 数量 単価 MFN税率 最も低い税率 関税を含む単価 全体の節約額

(100万ドル) (台) (ドル) (%) (%) (ドル) (100万ドル)

世界 81.2 4,637 17,507

1 インドネシア 45.2 2,988 15,134 80 0(AFTA) 15,134 36

2 ドイツ 19.0 761 25,026 80 80(MFN) 45,047 0

3 マレーシア 9.3 486 19,111 80 0(AFTA) 19,111 7

4 ハンガリー 4.1 186 22,082 80 80(MFN) 39,748 0

5 日本 2.9 184 15,569 80 80(MFN) 28,025 0

9 中国 0.0 8 3,357 80 50(ACFTA) 5,036 0

P.16

注:タイの「排気量1,500cc~1,800ccの乗用車(完成車)」(HS8703.23.61)の2015年の輸入額上位5ヵ国および9位の中国のデータから作成。 FTA税率は利用可能な最も低い税率。カッコ内はFTAの略称。全体の節約額は「MFN税率での関税額-FTA税率での関税額」で算出(※全ての輸入にFTA税率が適用された前提での試算)。

出所:タイの関税率表および貿易統計をもとに作成

◆FTA適用の有無により、乗用車の輸入コストでは2倍近い差が生じる

表:タイの乗用車の輸入における輸入コストの違い(2015年)

FTAが輸入コストに与える影響(タイの輸入の場合)

1台あたりの輸入単価ではインドネシア(15,134ドル)と日本(15,569ドル)は400ドル程度の

差。しかし、インドネシアはAFTAにより無税、日本はJTEPAの「再交渉品目」、AJCEPでは

「除外品目」となっているため、関税を加えた単価では日本の単価(28,025ドル)はインドネシ

ア(15,134ドル)の倍近くになってしまう。

AFTAにより、インドネシアからの輸入において3,600万ドルのコストの削減となる

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P.17

注:FTA利用率は原産地証明書発給額÷輸出額で算出。出所:タイ税関資料、Global Trade Atlasをもとに作成

フィリピン、ベトナムは利用率が5割を超えているが、マレーシアは27.4%と比較的低い。

発給額、FTA利用率ともにインドネシアが最も高い。

ASEANへのAFTA利用率は31.4%、シンガポールを除くと37.8%に達する。

◆原産地証明書の発給額から計算したタイのAFTA利用率(輸出)は約38%(シンガポール除く)

タイのFTA利用率(AFTA)

表:タイの輸出におけるFTA利用率(2013年、単位:100万ドル、%)

AFTA原産地証明書

発給額輸出額 FTA利用率

ブルネイ 19 163 11.7

インドネシア 7,079 10,704 66.1

マレーシア 3,515 12,805 27.4

フィリピン 2,977 4,957 60.1

シンガポール 417 11,057 3.8

ベトナム 3,679 7,066 52.1

ミャンマー 256 3,731 6.9

ラオス 142 3,701 3.8

カンボジア 226 4,187 5.4

ASEAN合計 18,310 58,370 31.4

ASEAN計(シンガポール除く) 17,893 47,314 37.8

タイプラスワンのミャンマー・ラオス・カンボジアの利用率は低い。

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P.18

注:FTA利用率は原産地証明書発給額÷輸出額で算出。

ASEAN+1のFTAにおける発給額は対話国(+1国)以外の国向けの発給額は除いている。

出所:タイ税関資料、Global Trade Atlasをもとに作成

中国への原産地証明書の発給額は国別では最も多い140億ドル。利用率は5割を超える。

オーストラリアは発給額が輸出額の7割を占める。自動車を中心にFTAが利用されている。

◆オーストラリアとのFTA(二国間)の利用率が7割を超える。

日本への利用率は28%、そのほとんどをJTEPA(二国間)が占める。

タイのFTA利用率(その他のFTA)

表:タイの輸出におけるFTA利用率(2013年、単位:100万ドル、%)

日本への輸出は二国間のJTEPAがほとんど。ただし、利用率は3割を下回る。

その他のFTA原産地証明書

発給額輸出額 FTA利用率

オーストラリア(TAFTA:二国間) 7,275 10,186 71.4

中国(ACFTA: ASEAN) 14,025 26,821 52.3

日本 6,138 21,889 28.0

(JTEPA: 二国間) 6,040 27.6

(AJCEP: ASEAN) 98 0.4

韓国(AKFTA: ASEAN) 2,329 4,516 51.6

インド 2,242 5,104 43.9

(TIFTA: 二国間) 590 11.6

(AIFTA: ASEAN) 1,652 32.4

ペルー(TPFTA: 二国間) 11 483 2.3

豪・NZ(AANZFTA: ASEAN) 385 11,329 3.4 韓国のFTA利用率は約5割。原油・天然ゴム、すずの輸出でFTAを利用。

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順位

HSコード 品目名原産地証明書発給額

輸入額輸入額に占める発給額の比率

MFN税率

AFTA税率

関税削減額(発給額ベース)

1 870322乗用自動車(シリンダー容積1,000~1,500㎤)

587 630 93.1 40 0 252 消費財

2 870899自動車用の部分品及び附属品(その他のもの)

380 462 82.3 10 0 42 部品

3 842952メカニカルショベル(上部構造が360度回転するもの)

290 280 103.6 10 0 28 資本財

4 841510エアコンディショナー(窓または壁に取り付けるもの)

276 311 88.6 10 0 30 消費財

5 870332乗用自動車(シリンダー容積1,500~2,500㎤)

257 282 91.2 40 0 113 消費財

※上位5品目が全体に占める割合(%)

25.3 18.4

P.19

(注)1. 原産地証明書発給額(FOB価格)はタイ側のデータ、輸入額(CIF価格)および税率はインドネシア側のデータ。税率は2014年4月時点のもの。

2. 関税は輸入時のCIF価格(製品価格に運賃・保険料等を加えたもの)に対し課税される。輸出時のFOB価格の10%が運賃・保険料等に相当すると仮定し、原産地証明書発給額を1.1倍してFTAを利用した際の輸入額(CIF価格)を推計した。この推計したCIF価格とMFN税率、AFTA税率から関税削減額を算出した。但し、推計した輸入額が実際の相手国側の輸入額を超えた場合は、その輸入額を適用した。

3. 税率はHS6桁に含まれるそれぞれの品目の税率を輸入額をウエイトにした加重平均で算出した。

(出所)タイ、インドネシア税関資料、Global Trade Atlasをもとに作成

乗用車関連の品目が上位を占める

◆インドネシアへのAFTA利用は乗用車関連が中心。

関税マージン(MFN税率とAFTA税率の差)は40%と大きく、関税の削減効果は大きい。

実際の関税の削減効果(インドネシアへの輸出:AFTA)

表:タイの原産地証明書(AFTA)発給額による関税の削減額 (2013年、単位:100万ドル、%)

関税マージンが40%と大きいため、削減額は2億5200万ドルに上る

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順位

HSコード 品目名原産地証明書発給額

輸入額輸入額に占める発給額の比率

MFN税率

ACFTA税率

関税削減額(発給額ベース)

1 400591 配合ゴム(板、シート及びストリップ) 1,448 1,468 98.6 8.0 0.0 117 加工品

2 071410 カッサバ芋 1,375 1,446 95.0 5.0 0.0 72 消費財

3 290243 パラキシレン 1,049 981 106.9 2.0 0.0 20 加工品

4 271019* 石油及び歴青油(その他のもの) 859 930 92.3 5.6 0.0 52 加工品

5 390190 エチレンの重合体(その他のもの) 692 784 88.2 6.5 0.0 49 加工品

※上位5品目が全体に占める割合(%)

38.3 14.7

P.20

(出所)タイ、中国税関資料、Global Trade Atlasをもとに筆者作成

(注)原産地証明書発給額(FOB価格)はタイ側のデータ、輸入額(CIF価格)および税率は中国側のデータ。その他はP.19の表と同様。

*は発給額のコードがHS2007のため、輸入額は対応するHS2012のコードの金額を適用した。従って、若干の差異が生じる可能性がある。

輸入額の14.7%に対し、発給額は約4割。

⇒特定の品目にFTA利用が集中

◆中国へのACFTA利用輸出の上位品目は、配合ゴム、カッサバ芋、パラキシレンなど。

輸入額に占める発給額の割合は高く、上位5品目の発給額で全体の約4割を占める。

実際の関税の削減効果(中国への輸出:ACFTA)

表:タイの原産地証明書(ACFTA)発給額による関税の削減額 (2013年、単位:100万ドル、%)

輸入額が14億ドル、関税マージンが8%のため、ACFTAによる関税の節約額は約1億1700万ドルになる。

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順位

HSコード 品目名原産地証明書発給額

輸入額輸入額に占める発給額の

比率

MFN税率

JTEPA税率

関税削減額(発給額ベース)

1 160232鶏肉(調整、保存処理をしたもの)

1,084 1,091 99.3 6.0 3.0 33 消費財

2 160520*シュリンプ及びプローン(調整、保存処理をしたもの)

388 620 62.6 3.6 0.0 15 消費財

3 390760 ポリ(エチレンテレフタレート) 245 249 98.3 3.1 0.0 8 加工品

4 350510デキストリンその他の変性でん粉

218 234 93.1 7.2 0.6 16 加工品

5 030613*シュリンプ及びプローン(冷凍したもの)

211 216 97.6 1.0 0.0 2 消費財

※上位5品目が全体に占める割合(%)

35.5 10.9

P.21

(出所)タイ、日本税関資料、Global Trade Atlasをもとに筆者作成

(注)原産地証明書発給額(FOB価格)はタイ側のデータ、輸入額(CIF価格)および税率は日本側のデータ。その他はP.19の表と同様

*は発給額のコードがHS2007のため、輸入額は対応するHS2012のコードの金額を適用した。従って、若干の差異が生じる可能性がある。

この上位5品目で発給額の3分の1以上を占める

◆日本への輸出では、JTEPAの利用は主に鶏肉、シュリンプ(えび)が中心である。

MFN税率とJTEPA税率の差(関税マージン)が小さいこともあり、関税削減額は小規模。

実際の関税の削減効果(日本への輸出:JTEPA)

表:タイの原産地証明書(JTEPA)発給額による関税の削減額 (2013年、単位:100万ドル、%)

輸入額に対する発給額の比率では、タイからのほぼ全ての輸入にJTEPAが活用されたことになる。ただし、関税差は3%と比較的小さい。

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3.TPPの関税削減が対米輸出に与える影響

P.22

Page 23: タイの貿易構造の変化とFTAの現状 - ASEAN · (出所)ジェトロのホームページ等の資料をもとに作成。 今後、関税が 撤廃される. タイのftaにおける関税削減の状況

P.23

特恵関税制度(GSP)とは…

開発途上国・地域を原産地とする鉱工業産品および農水産品の特定品目の輸入に限って

は、一般の関税率よりも低い税率を一方的に適用することにより、開発途上国・地域の輸

出所得の増大、工業化の促進と経済発展を支援するという先進国による国際的途上国支

援制度(ジェトロウェブサイトより)

2016年現在、タイにGSPを供与しているのは以下の7ヵ国

①オーストラリア、②日本、③ニュージーランド、④ノルウェー、⑤スイス、⑥米国、⑦ロシア

※EUおよびカナダ、トルコは2015年1月からGSP適用国からタイを除外

オーストラリア、日本、ニュージーランドは既にタイとFTAが発効している。

タイの最大の輸出相手国である米国とはGSPにより関税を削減することが可能。

米国では2013年7月末にGSPが失効していたが、「2015年特恵関税延長法」により2015年7月29日から適用が再開、GSPは2017年末まで延長となった。

※失効中の期間については遡及して還付される。

特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)

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P.24

注:米国の輸入額はImports for Consumptionの金額出所:TPP譲許表およびUSITC(米国国際貿易委員会)のデータをもとに作成

TPPが発効すればGSPの優位は低下する

2015年時点

例:① ゴム製の使い捨て手袋(縫い目の無いもの):HS4015.19.10.10

※米国の総輸入額(2015年)は4.6億ドル。国別輸入額ではタイが最も多く、次いでマレーシアの順。

タイからの輸入額 関税率

1億6千万ドル(うちGSPで1億4400万ドル) 3%(MFN)、0%(GSP)

マレーシアからの輸入額 関税率

1億5500万ドル 3%(MFN)

TPP発効

TPPの税率

0%(即時撤廃)

TPP発効時にマレーシアからの輸入税率がタイのGSP税率と並ぶ

例:② 男子用ズボン(合成繊維製のもの。羊毛・動物の毛が23%未満):HS6103.43.15.50

2015年時点

※米国の総輸入額(2015年)は3.6億ドル。国別輸入額では中国(5200万ドル)が最も多く、タイ、ベトナムが続く。

タイからの輸入額 関税率

4400万ドル(GSPは対象外) 28.2%(MFN)

ベトナムからの輸入額 関税率

3800万ドル 28.2%(MFN)

TPPの税率

18.3%(発効時)→0%(10年目)

TPP発効

TPPで関税が下がり、タイより有利な税率でベトナムは輸出が可能

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P.25

米国の対タイ輸入の4分の3は無税

表:MFN税率の有無でみた米国の対タイ輸入(2015年)

MFN税率 輸入額(10億ドル) 輸入額の割合(%) 品目数の割合(%)

有税10.9

(うちGSP3.6)38.6

(うちGSP12.7)63.3

(うちGSP10.0)

無税 17.4 61.4 36.7

合計 28.3 100.0 100.0

注:米国の輸入額はImports for Consumptionの金額。GSPはGSPを利用して輸入された金額および品目数。品目数はHS8桁で集計出所:USITC(米国国際貿易委員会)のデータをもとに作成

輸入額の6割はMFN税率が無税の品目、さらにGSP(一般特恵関税制度)により無税で輸入さ

れている分を含めると、輸入額全体の約4分の3が無税で米国に輸入されている。

※タイからの輸入額の約半分を占めるHS84,85類はもともとMFN税率が低い(平均で1~2%)。

⇒ 米国への輸出については、

タイがTPPに参加をしても、関税引き下げの効果はあまり大きくはない。

ただし、GSPは失効や卒業の可能性がある(P.23参照)。加えて、TPPによる税率の引き下げに

よってTPP参加国はタイよりも税率面で有利となる(P.24参照)点に注意。

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P.26本日のまとめ

1.2005年からの10年間で、タイとASEANおよび中国の貿易は大幅に拡大し

た。一方で、日本と欧米は相対的にシェアが低下した。ASEAN、中国との貿

易は中間財(加工品・部品)が中心。

2.タイでは2005年以降多くのFTAが発効し、締結国との関税削減が進んだ。

今後は日本、韓国とのFTAで一部の品目を除き関税が撤廃される。

3.FTA利用額の多い品目ではほとんどがFTAを利用して輸出されている。こ

れらの品目のほとんどは輸出額も増加している。

4.TPPが発効すれば、米国への輸出においてGSPによるベトナムやマレーシ

アに対する関税面での優位は低下する。仮にタイがTPPに参加しても、米

国の輸出に対する関税引き下げの効果は限定的。

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P.27

ご清聴ありがとうございました

一般財団法人 国際貿易投資研究所吉岡 武臣

http://www.iti.or.jp

<ご注意>

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