関西情報化実態調査2007 報 告 書 - kiis.or.jp ·...

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KJ-07M01 KEIRIN 関西情報化実態調査 2007 平成 20 3 財団法人 関西情報・産業活性化センター

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KJ-07M0

KEIRIN

関西情報化実態調査2007

報 告 書

平成 20年 3月

財団法人 関西情報・産業活性化センター

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KEIRIN

この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

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はじめに

関西情報化実態調査は、関西地域の各分野における情報化の実態を把握・分析し、課題を抽出・

整理することにより、関西地域の情報化促進に寄与することを目的に 2005年から実施している調

査です。

政府においては、2006年1月に「IT新改革戦略」を発表し、2010年度までの IT政策の方向性

を展望しました。さらに、「IT新改革戦略」を達成するための 2007年度の重点計画では、「国・

地方の包括的な電子行政サービスの実現」、「ITによるものづくり、サービスなど経済・産業の生

産性向上」、「ITによる医療の構造改革」、「次世代を見据えた人的基盤づくり」等、12施策がうた

われています。

昨年度の関西情報化実態調査では、関西2府5県の企業と自治体における IT利活用と情報セキ

ュリティ対策に加えて、「IT新改革戦略」で重要項目と位置付けられた教育分野、医療分野の情

報化と、関西の IT産業の動向調査について調査を行いました。結果、各分野に共通して、コンプ

ライアンスへの対応が課題として認識されていることが明らかとなりました。

今年度調査では、政府の重点計画にうたわれている ITによる生産性向上と人的基盤づくりに着

目し、アンケート調査やヒアリング調査を通して、IT投資効果とCIOの役割と効果に関して、昨

年度調査を深彫りする形で調査を行いました。また、上場企業において 2008年 4月より実施され

る J-SOX法に対応して、内部統制に関しても把握することといたしました。

その結果、各分野共通の課題として各分野におけるCIOや専門的知識を有する人材が必要であ

る、経営戦略と結びついた IT投資や、IT投資を評価する指標が必要である、と集約されました。

すなわち、「IT人材育成」と「戦略的 IT投資」です。この課題に対して、特に関西の情報化推進

の方策として、中小企業と小規模自治体への具体的な IT対策について提言しております。情報化

の分野は、グローバルに展開されるものであり、必ずしも関西地域として特徴が把握できるもの

ではありませんが、進むべき方向性は見出せるものになったと自負しております。

平成 17年度からの本調査より得られた関西地域における各分野の情報化の実態や寄せられま

した意見等を参考に、3年間の集大成となる「e-Kansaiレポート 2008」を発刊いたします。本レ

ポートが関西地域の情報化推進に取り組まれる方々のお役に立てば幸甚でございます。

最後に、本調査を実施するにあたり、昨年度に引き続き主査をお務め頂きました大阪市立大学

大学院教授 中野潔氏をはじめ、委員各位、執筆者の皆さま、ならびにアンケート調査、ヒアリ

ング調査等にご協力頂いた各位にお礼を申し上げる次第です。

平成 20年3月

財団法人関西情報・産業活性化センター

専務理事 山嵜 修一郎

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情報担当教員のスキルは高い

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機器の整備より支援体制への要望が全国比より高い旧型PCを利用したOSSを積極的に取り入れる教育委員会がある教育CIO、教育情報化コーディネータが必要

情報担当教員のスキルは高い機器の整備より支援体制への要望が全国比機器の整備より支援体制への要望が全国比より高いより高い旧型旧型PCPCを利用したを利用したOSSOSSを積極的に取り入れを積極的に取り入れ

る教育委員会があるる教育委員会がある教育 、教育情報化コーディネータが必要

2003年~

CIO

2003年~

●「元気・安心・感動・便利社会の実現●IT利活用の重視●「元気・安心・感動・便利社会の実現●IT利活用の重視

2006年~2006年~

●IT利活用で世界を先導●ITによる構造改革力の追求●IT利活用で世界を先導●ITによる構造改革力の追求

2008年~2008年~

●ITの持つ「つながり力」の徹底活用●ITの持つ「つながり力」の徹底活用

2001年~2001年~

●5年以内に世界最先端のIT国家に●インフラなどのIT基盤整備●5年以内に世界最先端のIT国家に●インフラなどのIT基盤整備

国のIT施策

国のIT施策

社会基盤のIT動向

社会基盤のIT動向

家庭へのインターネット普及

企業・自治体の情報機器整備

家庭へのインターネット普及

企業・自治体の情報機器整備

企業のIT利活用、情報共有

情報セキュリティ対策の必要性

自治体の住民向け情報サービス

企業のIT利活用、情報共有

情報セキュリティ対策の必要性

自治体の住民向け情報サービス

ネットワークの進展(ブロードバンド化、モバイル化、NGN等)

情報発信の増加(Web2.0関連技術の進展等)

通信と放送の融合と連携 等

ネットワークの進展(ブロードバンド化、モバイル化、NGN等)

情報発信の増加(Web2.0関連技術の進展等)

通信と放送の融合と連携 等

関西情報化実態調査の結果

関西情報化実態調査の結果

関西情報化実態調査(2005年度~2006年度)

■ 2005年度調査よりIT人材育成と活用に課題関西の企業・自治体ではCIO選任率が低い

■■ 20052005年度調査より年度調査よりIT人材育成と活用に課題関西の企業・自治体ではCIO選任率が低い

■ 2006年度調査よりCIOとIT利活用ステージとは関連IT人材の位置づけは高くない人材育成の取り組みが低調コンプライアンス対応の必要性関西は優秀なSEの層が薄い

■■ 20062006年度調査より年度調査よりCIOCIOととITIT利活用ステージとは関連利活用ステージとは関連IT人材の位置づけは高くない人材育成の取り組みが低調コンプライアンス対応の必要性関西は優秀なSEの層が薄い

関西情報化実態調査(2007年度)

マクロのIT投資は経済成長と労働生産性の向上に寄与しているコンテンツ産業で最大の輸出産業であるゲーム産業に高い全国シェア通信市場が競争的で、高いブロードバンドサービス利用可能環境が整備されている

マクロのIT投資は経済成長と労働生産性の向上に寄与しているコンテンツ産業で最大の輸出産業であるゲーム産業に高い全国シェアコンテンツ産業で最大の輸出産業であるゲーム産業に高い全国シェア通信市場が競争的で、高いブロードバンドサービス利用可能環境が整備されている通信市場が競争的で、高いブロードバンドサービス利用可能環境が整備されている

関西のIT投資は、全体の投資規模に比べ、全国比が低い関西のIT産業の総生産は、全産業の総生産に比べ、全国比が低い(IT産業の東京一極集中の反映)

関西のIT投資は、全体の投資規模に比べ、全国比が低い関西のIT産業の総生産は、全産業の総生産に比べ、全国比が低い(IT産業の東京一極集中の反映)

■関西のIT投資とIT産業■■ 関西の関西のITIT投資と投資とITIT産業産業

IT利活用は進んでおり、ITを活用した効率的な経営が行われているCIOサポート組織がCIO機能を補っている先進事例では人事評価システムが用いられていた情報セキュリティ対策の水準は高い

IT利活用は進んでおり、ITを活用した効率的な経営が行われているCIOサポート組織がCIO機能を補っている先進事例では人事評価システムが用いられていた先進事例では人事評価システムが用いられていた情報セキュリティ対策の水準は高い情報セキュリティ対策の水準は高い

CIOに求められる能力のうち、情報化戦略立案能力が不足IT投資効果指標測定の未達(収益の部分までは分からない)情報システム技術者やSEの東京流出が関西地域の抱える問題点

CIOに求められる能力のうち、情報化戦略立案能力が不足IT投資効果指標測定の未達(収益の部分までは分からない)情報システム技術者やSEの東京流出が関西地域の抱える問題点

■上場企業■■ 上場企業上場企業 強み強み

8割の企業でIT導入が行われている経営者やCIOのリーダシップにより情報化が進む職人技データベース等、ITを用いた人材育成の取り組みも見られる

8割の企業でIT導入が行われている経営者やCIOのリーダシップにより情報化が進む職人技データベース等、職人技データベース等、 ITITを用いたを用いた

人材育成の取り組み人材育成の取り組みも見られる

■中小企業■■ 中小企業中小企業

弱み弱み

強み強み 弱み弱み

IT投資を行う上での問題点は、ITを活用できる能力・人材の不足情報化と経営方針との乖離IT投資効果が見えにくい

IT投資を行う上での問題点は、ITを活用できる能力・人材の不足情報化と経営方針との乖離IT投資効果が見えにくい

IT先進自治体が多い庁内ポータルサイト等による情報共有が進み、電子決裁の導入も行われている自治体ごとに特徴的な市民サービスが実施されている

ITIT先進自治体が多い先進自治体が多い庁内ポータルサイト等による情報共有が進み、電子決裁の導入も行われている自治体ごとに特徴的な市民サービスが実施されている

■自治体■■自治体自治体

職員の情報システム利用スキル習得が必要ITを活用した住民サービスの向上CIOに求められる能力のうち、情報セキュリティに関する知識不足

職員の情報システム利用スキル習得が必要ITを活用した住民サービスの向上CIOに求められる能力のうち、情報セキュリティに関する知識不足

■教育分野■■ 教育分野教育分野

医療情報のマネージャーやCIOの必要性用語、データ交換規格、情報伝達方法及び診療プロセスの標準化個人の生涯に亘る健康・医療情報の管理サービスのニーズ

医療情報のマネージャーやCIOの必要性用語、データ交換規格、情報伝達方法及び診療プロセスの標準化個人の生涯に亘る健康・医療情報の管理サービスのニーズ

■医療分野■■ 医療分野医療分野

ITIT人材育成人材育成戦略的戦略的ITIT投資投資

共通の課題共通の課題

ee--JapanJapan重点計画重点計画 ee--JapanJapan戦略戦略ⅡⅡ ITIT新改革戦略新改革戦略 ITIT政策ロードマップ政策ロードマップ

強み強み

強み強み

弱み弱み

弱み弱み

戦略戦略

■中小企業:

IT活用による成功事例・

ノウハウの提供

IT投資に対する税制優遇

現在の公的支援の周知 等

人事交流、IT教育の公的支援

■小規模自治体:

広域連携による住民サービス

IT教育支援 等

■■中小企業:中小企業:

ITIT活用による成功事例・活用による成功事例・

ノウハウノウハウの提供の提供

ITIT投資に対する税制優遇投資に対する税制優遇

現在の公的支援の周知現在の公的支援の周知 等等

人事交流、人事交流、ITIT教育の公的支援教育の公的支援

■■小規模自治体:小規模自治体:

広域連携による住民サービス広域連携による住民サービス

ITIT教育支援教育支援 等等

関西として経済基盤の底上げとなる

中小企業・小規模自治体のIT対策

- 関西情報化実態調査 全体像 -

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エグゼクティブサマリー

関西情報化実態調査は、関西地域の各分野における情報化の実態を把握し、課題を整理するこ

とにより、関西地域の情報化推進に寄与することを目的とした調査である。

昨今の情報化の進展は目覚ましく、家庭におけるブロードバンド、モバイル機器の普及やブロ

グ、SNSといった情報発信の増加が進んでいる。また、通信と放送の融合・連携がはじまり、新

たな産業となりつつある。

政府においては、「IT新改革戦略」と「政策パッケージ」に掲げられた目標を 2010年までに確

実に達成するために、迅速かつ重点的に実施すべき年度別の施策集として、2007年 7月に「重点

計画-2007」が策定された。その内容は、「国・地方の包括的な電子行政サービスの実現」、「ITに

よるものづくり、サービスなど経済・産業の生産性向上(特に中小企業の取組強化)」、「国民の健

康情報を大切に活用する情報基盤の実現」、「高度 IT人材の好循環メカニズムの形成」等、12施

策が挙げられている。

このような背景のもと、「関西情報化実態調査」として、2005年度より、関西 2府 5県の企業

と自治体の情報化に関する調査を実施した。その結果、IT人材育成と活用に課題があり、また、

関西では全国に比べてCIO1(Chief Information Officer)選任率が低い等の結果も得られた。2006

年度調査では、企業・自治体に加え、教育・医療分野、IT産業の動向に調査を拡大した。企業・

自治体の調査からは、CIOの存在とIT活用の推進度を測る指標であるIT利活用ステージとは正の

関連がある、人事面でのIT活用はまだまだ取り組まれていない、人材育成の取り組みが低調であ

る等の結果が得られた。また、各分野共通で、コンプライアンス2対応の必要性が課題として認識

されていた。

2007年度は、過去 2年の調査結果を受けて、関西地域の各分野における情報化について、特に

IT人材とIT投資を重点に調査を実施した。

・IT投資は経済成長に寄与しているが、IT投資、IT産業は東京一極集中

まず、統計データから関西地域のマクロ的な IT投資について分析すると、IT投資は経済成長

や労働生産性の向上に寄与している。その一方で、関西の IT投資、IT産業は、全体の経済規模

に比べ、全国に占めるウェイトが低い。しかしこれは、関西が低いというよりはむしろ、IT投資、

IT産業が東京に一極集中していることを反映している。

・関西企業の IT利活用は進展、情報セキュリティ対策も進む、IT投資効果測定は未達

次に、関西に本社を置く上場企業の情報化を見ると、ITの利活用は進展しており、特に、日本

版SOX法対応のために内部統制の確立が進んでいることが確認された。情報セキュリティ対策も

1 最高情報責任者 企業内の情報システムや情報の流通を統括する担当役員。情報システムの構築や運営に関する

技術的な能力だけでなく、営戦略に関する深い理解と能力も必要とされている。

2 一般的には、社会秩序を乱す行動や社会から非難される行動をしないこと。特に、企業活動において、法律や規

則、社会規範などに違反することなく、それらを守ることを指す。

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全国に比べて高い水準であった。課題とされるのは、IT投資効果測定指標の未達であり、収益の

部分までは分からないという結果であった。ヒアリング調査からは、情報システム技術者やSE3

(System Engineer)の東京流出が関西地域の抱える問題点であるとの意見も聞かれた。

・関西の中小企業の IT活用の課題は能力・人材不足、先進事例では新しい取り組みも行われる

中小企業の情報化では、多くの企業で IT導入は行われているものの、IT投資を行う上で社内

で問題となる点としては、IT活用の能力・人材不足や、システム構築に時間と労力がかかるから、

という結果が得られた。先進事例に対するヒアリング調査結果からは、経営者やCIOのリーダー

シップこそが情報化を進展させるとの回答が得られ、職人技データベース等の、ITを用いること

が難しいと言われる技術継承での取り組みも見られた。その一方で、企業の情報化の阻害要因と

しては、情報化と経営方針との乖離や、IT投資効果が見えにくいといった回答が得られた。

・関西自治体の ITによる住民サービスは先進的

自治体の情報化調査では、まず、関西自治体における業務・住民サービスシステム導入率は全

国に比べて高く、先進的な取り組みを実施する自治体が多いことが分かった。庁内ポータルサイ

ト等による情報共有が進み、電子決裁の導入も行われており、市民に対しても、自治体ごとに特

長的なサービスが実施されている。その一方で、周知不足の感も否めないが、住民サービスの向

上が図られているものの、その IT投資効果の測定は難しい印象であった。自治体のCIOは市長

もしくは副市長が務めており、CIOをトップに、各部局長で構成する組織横断的体制によって、

施策の策定や進捗状況の把握(チェック)が行われていた。CIO自身は特に ITに関する専門的な

知識や技術を必要とするものではないが、総合的な施策を進めるポストにあることから、横断的

な体制により、実施計画が庁内に浸透し、また、庁内全体で情報の共有化が図られている。

・関西地域の情報担当教員の能力は高い

教育分野の情報化調査では、全国と比較して関西は、授業での IT活用の障害を PCの台数(IT

環境の整備)不足ではなく、準備に時間がかかるとする教員が多い。したがって、関西では機器

不足より授業での支援体制を望む教員が多いという課題があった。その一方で、関西での情報担

当者の持つ能力は、企画提案面でも全国に比べ高い。

IT環境の整備に関しては、予算の確保が困難な財政状況にあり、地方交付税を原資にするので

はなく、目的を明確にした補助金制度等の創設が望まれる。同時に、PC整備を進めるためには、

旧型PCの再利用およびそれに伴うOSS4(Open Source Software)導入の検討など、自治体としての

新たな対応策を検討する必要もある。

また、教育の情報化で次なる重要な視点と言われている情報モラル教育については、教育現場

での対応だけでなく、家庭や地域による取り組みが求め荒れている。

3 システムエンジニア コンピュータシステムの設計やシステム開発のプロジェクト管理などをする技術者のこ

と。 4 オープンソースソフトウェア ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを、インターネットなどを通じて無

償で公開し、誰でも改良、再配布が行なえるようにしたソフトウェア。

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・関西では医療情報技師が充実し、新たな取り組みも行われている

医療分野の情報化調査では、人材育成については、医療と情報を繋ぐ担当者レベルの人材は順

調に育成が図られるようになっており、特に、医療情報技師は、関西では他の地域と比べ充実し

ている。その一方で、医療情報のマネジメントや情報化と経営を繋ぐことができる人材(医療機

関CIO)が全国的にまだほとんど育っていないというのが現状である。地域医療情報ネットワー

クについては、標準化、相互運用性に力点をおいた地域の医療情報連携の実証実験が、名古屋地

域や香川・東京・千葉・岩手で進められている。

・関西の IT産業の将来性、表示装置の世界的集積地

関西のIT産業については、大阪湾岸において薄型パネルの生産拠点の立地が進み、将来的に表

示装置の世界的集積地となる可能性を持つ、コンテンツ産業の中で最大の輸出産業であり、日本

が世界市場をリードするゲーム産業で高い全国シェアを持つ、また、電力系事業者の参入によっ

て、通信市場が競争的であり、FTTH5(Fiber To The Home)によるブロードバンドサービスの利

用環境が整っている、といった強みがある。

・関西の課題は「IT人材育成」と「戦略的 IT投資」

企業、自治体、教育、医療での、ITを利用する側に対する調査と、関西のマクロ経済の動きと

IT産業という、ITを提供する側に対する調査結果より、各分野共通の課題として浮かび上がった

のは、各分野におけるCIOや専門的知識を有する人材と、経営戦略と結びついた IT投資や、IT

投資を評価する指標の必要性であった。集約すると「IT人材育成」と「戦略的 IT投資」である。

その一方で、関西には新しいものを受け入れる土壌があり、情報化に対して新しい取り組みを

行う企業、高い問題意識を持つ自治体、スキルの高い情報担当教員、先進的な医療機関が存在す

ることも分かった。また、顔が見える範囲でコミュニティを形成し、知恵を出し合う文化がある。

これらの強みを活かし、課題解決を図ることが、関西地域の情報化の進展に繋がる。

関西地域の経済基盤の特徴は、一般的に言われているように、中小企業である。これら中小企

業や小規模自治体の生産性向上につながる情報化対策こそが喫緊の課題だと考える。

これら課題に対する政策例は、中小企業に対しては、IT活用による成功事例やノウハウの提供、

人事交流、さらには、IT教育の公的支援や現在の公的支援の周知といったものが考えられる。自

治体に対しては、広域連携による住民サービスや、IT教育の支援である。これらの支援策を情報

化の助けとして、関西地域の新しい取り組みを恒常化することが必要である。

5 光ファイバによる家庭向けのデータ通信サービス。

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■■■ 目 次 ■■■

序 調査の概要............................................................................................................................................................................................1

第1節 本調査の趣旨 ......................................................................................................................................................................1

第2節 調査の概要............................................................................................................................................................................2

第1章 関西の社会経済と ITの進展 ........................................................................................................................................4

第1節 マクロ経済における関西の IT産業.....................................................................................................................4

第2節 IT投資の経済成長、労働生産性への寄与の分析......................................................................................5

第2章 企業と自治体の情報化 ...................................................................................................................................................17

第1節 IT利活用..............................................................................................................................................................................20

第2節 内部統制..............................................................................................................................................................................74

第3節 情報セキュリティ対策..............................................................................................................................................78

第3章 教育の情報化.......................................................................................................................................................................101

第 1節 教育現場における情報化の現状.......................................................................................................................101

第2節 ヒアリング調査結果 .................................................................................................................................................114

第3節 有識者から見た教育の情報化............................................................................................................................118

第4章 医療分野の情報化............................................................................................................................................................127

第1節 医療分野の情報化の現状と調査の概要.......................................................................................................127

第2節 主な調査結果 .................................................................................................................................................................132

第3節 有識者から見た医療の情報化............................................................................................................................140

第5章 関西の IT産業の動向.....................................................................................................................................................163

第1節 関西の IT産業................................................................................................................................................................163

第2節 関西の IT産業をめぐるトピックス................................................................................................................178

第3節 有識者からみた関西の IT産業の動向 ..........................................................................................................184

コラム 関西情報化実態調査から e-Kansaiレポートへ...........................................................................................198

補論 ...............................................................................................................................................................................................................204

資料編 .............................................................................................................................................................................................................215

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序 調査の概要

序序 調調査査のの概概要要

第1節 本調査の趣旨

2006年1月に政府の IT戦略本部により発表された「IT新改革戦略」は、構造改革による飛躍、

利用者・生活者重視、国際貢献・国際競争力強化という理念のもと、2010年度までの IT政策の

方向性を展望したものであった。続いて 2007年 4月に発表された「IT新改革戦略政策パッケー

ジ」では、今後の IT政策に関する基本的な方向性が定められ、社会経済における新たな価値の創

出等の、更なる発展・飛躍のために IT戦略が一層推進されることがうたわれた。

さらに、「IT新改革戦略」と「政策パッケージ」に掲げられた目標を 2010年までに確実に達成

するために、迅速かつ重点的に実施すべき年度別の施策集として、2007年 7月に「重点計画-2007」

が策定された。その内容は、政策パッケージを推進するための施策として、「国・地方の包括的な

電子行政サービスの実現」、「ITによるものづくり、サービスなど経済・産業の生産性向上(特に

中小企業の取組強化)」、「国民の健康情報を大切に活用する情報基盤の実現」、「高度 IT人材の好

循環メカニズムの形成」等 12施策が挙げられている。また、IT新改革戦略のその他の政策を推

進するための施策として、「ITによる医療の構造改革」、「世界に誇れる安全で安心な社会」、「IT

経営の確立による企業の競争力強化」、「デジタル・ディバイドのないインフラの整備」、「次世代

を見据えた人的基盤づくり」等 12施策が挙げられており、計 26施策から成る。

こうした強力な IT政策の推進と軌をひとつにして、我が国の社会・経済は情報化とその利活用

によって大きく変化してきた。それらは国民の生活を変化させ、新しいビジネスの仕組みをもた

らした。

企業においては、部門間、企業全体、取引企業間をつなぐ全体最適の手段として ITを活用する

ケースが増加しており、顧客や企業間の情報連携が発展しつつある。また、地方自治体において

も、情報化による業務・システムの最適化や住民サービスに直結した IT利活用が推進されている。

2006年度の関西情報化実態調査では、上場企業と地方自治体に対し、IT利活用に関する調査に

加え、情報最高責任者に求められる能力や IT人材育成、大規模災害時の業務継続対策に関する調

査を実施した。その結果、企業では、ITを活用して効率的な経営を目指す姿勢が窺えた一方で、

先進事例においても、営業面や人事面での IT活用に関しては取り組みが少ないことが分かった。

自治体では、窓口支援システムや市民意見の聴取、地域イントラネットといった方策が採られて

おり、住民サービスに対する IT利活用が進んでいたのと同時に、電子決裁の導入による組織のフ

ラット化や、グループウェア導入による情報の共有が進展していた。また、調査範囲を「IT新改

革戦略」で重要項目と位置付けられた医療分野、教育分野の情報化と、関西の IT産業の動向調査

へと拡大し、各分野に共通して、コンプライアンス対応が課題であるとの認識を得た。

以上を踏まえ、2007年度関西情報化実態調査では、引き続き、関西地域の各分野における情報

化の実態を把握し、その課題を整理するとともに、関西地域の情報化のあり方、将来展望も含め

て進むべき方向性を示すことで、関西地域の情報化の指針となることを目指すものである。

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第2節 調査の概要

2007年度の関西情報化実態調査は、大きく分けて以下の3つの調査より構成される。

1. 関西の社会経済と ITの進展

まず、統計資料等を用いて、マクロ経済の観点から、関西の IT産業や、IT投資の経済成長へ

の寄与を分析した。その結果、関西の IT産業は、全体の経済規模に比べ、全国に占めるウェイト

が低いことが分かった。しかしこれは、関西が低いというよりはむしろ、IT産業が東京に一極集

中していることを反映したものである。

関西の IT産業のGRPは、全産業のGRPに比べて伸びが高く、IT産業の伸張を示している。し

かし、パソコンやソフトウェア、ネット加入等はそれらが目的ではなく、それらを手段として用

い、それらがない場合より、より効果的・効率的な事業運営を遂行するために購入するのである。

それが達成できていなければ IT産業の伸張は、パソコンやソフト購入費など、情報という、新し

いコストが経済社会の中で増大しているに過ぎない、ということになる。情報化の進展度の議論

は、IT産業の量的拡大だけではなく、ITの利用による効果・効率という面からの分析が必要とな

る。

そのため情報化投資と生産性の関係を分析し、情報化投資は今後の人口減少社会において生産

性を高めるために重要な要素であることを確認した。

2. 企業、自治体調査

上場企業と地方自治体に対しては、2006年度と同様の IT利活用に関するアンケートに加え、

CIOに求められる能力や IT人材育成、内部統制、安全安心への取り組みに関する質問を付加して

実施した。また、アンケート結果の裏付けとしてそれぞれ5企業、4団体へのヒアリング調査を

行った。

中小企業に対してのアンケートでは、調査項目にCIOの有無や IT教育の内容等にまで踏み込

んだ調査とし、内容を深めることとした。また、関西圏にある IT先進 23企業に対してヒアリン

グ調査を実施した。

結果、企業では ITの利活用が進展していること、特に、日本版 SOX法対応のために内部統制

の確立が進んでいることが確認された。CIOに関しては、CIOの能力に過大な依存をすることな

く、CIOの情報化戦略立案能力を補佐し、チームがひとつのCIO機能を果たしているような例が、

アンケート結果から窺えるとともに、先進事例のヒアリング調査で確認された。また、IT投資効

果の測定については、主にサービスの向上と生産性向上に主眼を置いているが、経営のスピード

アップの効果は見えても、主たる目的である生産性向上にまでは繋がっていない。積極的・継続

的な IT投資が行われているが、サービスの向上は、ITによるものばかりではなく、総合的なも

のであり、なかなか要因を測定することが難しいといった意見も聞かれた。

自治体調査では、一般職員への IT教育が進んでいることが確認された。先進事例においては、

庁内講習や部局単位での自主研修、e-ラーニングの導入などが行われていた。IT投資の目的と効

果では、電子決裁や庁内ポータル再とを利用した情報共有といったバックオフィス系のシステム

2

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序 調査の概要

導入については、業務の効率化につながる効果が確認できるが、住民サービスの向上については

効果の測定がしにくく、周知が難しいといった印象であった。

3.教育分野、医療分野、IT産業の動向調査

「IT新改革戦略」で重要項目と位置付けられた医療分野、教育分野の情報化について、特に情

報化が遅れている要因と推測される IT環境整備状況と IT人材とに注目し、先進事例に対するヒ

アリング調査を中心に調査を行い、現状の把握と課題の抽出を行った。

教育分野については、IT環境の整備状況と教員の IT活用指導力との関係に着目し、文部科学

省が実施したアンケート調査より、授業等での IT利活用が進まない要因把握を行った。また、そ

の結果を踏まえ、関西地域の主な教育委員会等での IT活用に関する考え方をヒアリング調査をと

おして把握することで課題を整理し、今後の取るべき方向性を明らかにした。

医療分野については、病院、大学に加え関連団体、NPO、ベンダ、一般企業といった幅広い角

度から関係者に対してヒアリング調査を行った。医療経営や医療情報に係わる人材の育成、医療

情報ネットワーク形成の基盤となる用語や情報交換規格などの標準化、個人の健康・医療情報の管

理に向けた動きなどを調べ、それぞれの今後の課題について明らかにした。

また、IT産業については、各種統計調査をもとに、関西の IT産業の動向をとりまとめ、関西

は、製造系には一定の割合を占めるが、サービス系には弱いという状況を確認した。これらデー

タや最近の ITを取り巻く我が国、世界の動向を踏まえつつ、関西に 特徴のある IT産業に関わる

6トピックス(大阪湾岸における薄型パネル生産拠点の集積、組込みソフト産業推進会議、全国

初の IPラジオ放送、USJにおける顔認証システムの導入、放送と通信の連携・融合が進む中での

在阪放送局の展開、次世代ネットワーク)を取り上げ、現状をヒアリング調査等により把握した。

3

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第第11章章 関関西西のの社社会会経経済済とと IITTのの進進展展

→ 関西の社会経済と ITの進展のポイント

IT産業は、全産業に比べて関西、国内共に総生産の伸びが高く、電子計算機製造や情報サービ

ス業のようなコア産業だけでなく、デジタル融合が進む中で関連産業を IT産業化しながら、深さ

と範囲の双方で成長・拡大を続けている。

しかし、ITのツールは保有が目的ではなく、手段として、より効果的・効率的な事業運営のた

めに用いられるのであり、それが達成できていてこそ、情報化が進展していると言える。

従って情報化の進展度の議論は、IT産業の量的拡大だけではなく、ITの利用による効果・効率

という面からの分析が必要となる。

そこで情報化投資の経済成長、労働生産性への寄与の分析を行い、マクロ的な観点からは、IT

投資は経済成長や労働生産性の向上に有効に寄与している結果が得られた。

第1節 マクロ経済における関西6のIT産業7

平成 12年8の関西のIT産業の域内総生産は、製造系 1.7兆円、サービス系 3.0兆円、合計 4.7兆

円で、IT産業の国内総生産 31.5兆円の 15.0%を占める。これは、関西の域内総生産 83.3兆円の

国内総生産 488.1兆円に占める 17.1%よりやや低い。

IT産業はこの数十年間に急速に成長発展してきた産業であり、業容の変化が激しい。それを反

映して、産業分類においても電子計算機本体からパソコン、無線電気通信機器から携帯電話機の

ように新設分岐が多い。一方でワードプロセッサのように一旦事務用機械から新設分岐しながら

消滅したものもある。更により重要なのは、近年のデジタル融合の中で IT化が進んだラジオ・テ

レビ受信機のように、同じ分類名であっても過去には IT産業に含まれないものもある。

従って IT産業としての域内総生産を時系列で比較することは注意が必要であるが、比較的業容

変化が小さいであろうとして平成 7年から 12年の変化をみると、名目値ではあるが、IT産業は、

全産業に比べて関西、国内共に総生産の伸びが高い。伸びは関西と国内でほぼ変わらず、全産業

が 0.98~1.00倍と、昨今の厳しい経済環境を反映して殆ど伸びていないのに対し、IT産業は 1.30

倍、うち製造系が 1.05~1.07倍、サービス系が 1.52倍となっている。従って、域内総生産に占め

る IT産業の割合は、関西が 4.3%から 5.7%へ、全国が 5.0%から 6.5%へと割合を高めている。

これは名目値であり、IT関連製品の激しい値下がり傾向を考慮すれば、実質値では更に高い割合

であろうことが推測できる。

6 関西は福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の7府県を言う。近畿と記す場合がある。 7 IT産業の定義は章末資料を参照のこと。 8 県民経済計算や国民経済計算は産業分類が粗く、IT産業としての域内総生産を把握することが難しい。そのため年次は古くなるが分類がより詳細な産業連関表を用いる。地域内産業連関表の最新公表は平成 12年値であり、平

成 17年値が平成 21年に公表される予定である。また地域内産業連関表の公表は名目値に限られる。

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

IT産業は、電子計算機製造や情報サービス業のようなコア産業だけでなく、デジタル融合が進

む中で、ラジオ・テレビ受信機製造や放送業のような関連産業を IT産業化しながら、深さと範囲

の双方で成長・拡大を続けている。

IT産業の域内総生産 (百万円、%)平成7年(1995年) 平成12年(2000年)近畿 全国 近畿 全国 平成7年比

全国比 全国比 近畿 全国製造系 1,661,306 14.0 11,877,249 1,737,175 13.7 12,703,132 1.05 1.07サービス系 1,964,136 15.9 12,360,981 2,984,270 15.9 18,812,503 1.52 1.52IT産業計 3,625,442 15.0 24,238,230 4,721,445 15.0 31,515,635 1.30 1.30域内総生産(909900内生部門計) 84,756,306 17.4 485,826,576 83,294,957 17.1 488,096,789 0.98 1.00

4.3 5.0 5.7 6.5(注1)域内総生産は、粗付加価値部門計から家計外消費支出(行)を差し引いた額である。(注2)数字は産業連関表の列番号である。製造系には平成12年の以下の23業種を含む。平成7年はそれに対応する業種を含む。272101電線・ケーブル、272102光ファイバーケーブル、302301産業用ロボット、302904半導体製造装置、311101複写機、311109その他の事務用機械、321101電気音響機器、321102ラジオ・テレビ受信機、321103ビデオ機器、331101パーソナルコンピュータ、331102電子計算機本体(除パソコン)、331103電子計算機付属装置、332101有線電気通信機器、332102携帯電話機、332103無線電気通信機器(除携帯電話)、332109その他の電気通信機器、333101電子応用装置、334101半導体素子、334102集積回路、335901電子管、335903磁気テープ・磁気ディスク、335909液晶素子・その他の電子部品、391902情報記録物サービス系には平成12年の以下の8業種を含む。平成7年はそれに対応する業種を含む。731201固定電気通信、731202移動電気通信、731203その他の電気通信、731909その他の通信サービス、732101公共放送、732102民間放送、732103有線放送、851201情報サービス出典:平成12年地域内産業連関表

IT産業が域内総生産に占める割合

IT産業の成長を以て情報化の進展の一面を計ることはできる。しかし、パソコンやソフトウェ

ア、ネット加入等はそれらを保有すること自体を目的とするのではなく、それらを手段として用

い、それらがない場合より、より効果的・効率的な事業運営を遂行するために購入するのである。

それが達成できていてこそ、情報化が進展していると言えるのである。そうでなければ IT産業の

伸張は、パソコンやソフト購入費など、情報という、新しいコストが経済社会の中で増大してい

るに過ぎない、ということになる。

従って情報化の進展度の議論は、IT産業の量的拡大だけではなく、ITの利用による効果・効率

という面からの分析が必要となる。9

そこで IT投資と経済成長や労働生産性の関係を次節で分析することとする。

第2節 IT投資の経済成長、労働生産性への寄与の分析

2.1 関西の IT投資と IT資本ストック

(1)IT投資

IT産業をこの章で定義した範囲に沿って平成12年産業連関表の固定資本形成(民間)の列データ

から IT投資額を拾ってみると、関西の IT投資は 2.5兆円で民間企業設備投資 11.2兆円の 21.9%

を占める。同様に全国の IT投資は 16.6兆円で民間企業設備投資 73.0兆円の 22.8%を占める。

9 篠崎彰彦著「情報技術革新の経済効果-日米経済の明暗と逆転 2003年」参照

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全国の IT投資額の中で関西が占める割合は 14.8%であり、これは全国の民間企業設備投資額の

中で関西が占める割合 15.4%や、国内総支出 488.1兆円に占める関西の域内総支出 83.2兆円の占

める割合 17.1%よりも低い。

IT投資面においても関西は、全体の経済規模に比べ、全国に占めるウェイトが低い。

産業連関表からみた関西のIT投資 平成12年 (百万円、%)列 行 近畿 全国914200 地域内総固定資本形成(民間) 3023011 産業用ロボット 50,562 344,583914200  〃 3029041 半導体製造装置 73,172 823,269914200  〃 3111011 複写機 59,722 450,424914200  〃 3111099 その他の事務用機械 85,240 555,638914200  〃 3211011 電気音響機器 16,332 94,087914200  〃 3211021 ラジオ・テレビ受信機 15,211 89,459914200  〃 3211031 ビデオ機器 11,119 65,452914200  〃 3311011 パーソナルコンピュータ 160,438 1,248,531914200  〃 3311021 電子計算機本体(除パソコン) 160,649 1,247,274914200  〃 3311031 電子計算機付属装置 253,810 1,956,967914200  〃 3321011 有線電気通信機器 256,134 1,502,257914200  〃 3321021 携帯電話機 4,240 26,065914200  〃 3321031 無線電気通信機器(除携帯電話) 159,771 912,559914200  〃 3321099 その他の電気通信機器 44,649 248,704914200  〃 3331011 電子応用装置 156,011 1,044,185914200  〃 3919021 情報記録物 120 1,097914200  〃 8512011 ソフトウエア業 952,566 6,010,436A 上記合計 2,459,746 16,620,987914200 地域内総固定資本形成(民間) 9099000 内生部門計 14,732,170 94,183,072914200  〃 4111011 住宅建築(木造) 1,717,138 11,862,213914200  〃 4111021 住宅建築(非木造) 1,798,026 9,327,385B 民間企業設備投資 (9099000-4111011-4111021) 11,217,006 72,993,474(参考)国民・県民経済計算より企業設備投資(年度) 10,925,225 71,900,100950000 最終需要部門計 9099000 内生部門計 86,611,837 507,267,974911000 家計外消費支出(列) 9099000 内生部門計 3,371,119 19,171,185C 地域内総支出 (950000-911000) 83,240,718 488,096,789(参考)国民・県民経済計算より地域内総支出(年度) 86,008,561 504,118,800A/B 21.9 22.8Aの対全国比 14.8 100.0Bの対全国比 15.4 100.0Cの対全国比 17.1 100.0(注)近畿は域内総支出が前出の域内総生産と一致しない。出典:平成12年地域内産業連関表、平成18年度国民経済計算、平成17年度県民経済計算

(2)IT資本ストック

投資が蓄積して形成される資本ストックが生産要素として生産活動に関わる。資本ストックの

中で IT資本ストックの生産活動への関わり方を以て、IT投資の効果を推計する。

資本ストックデータは明示的に捉えることが難しく、投資額と償却率、耐用年数などのパラメ

ータに基づいて推計に依り求める。しかし、全産業においても推計のための基礎データが揃わな

い地域ベースにおいて、IT産業としての資本ストックを推計することは難しい。

そのため「平成 19年版情報通信白書」に収録された我が国の IT資本ストックデータを、試行的

に按分により関西地域における IT資本ストックとして用いる。按分比は、「電中研民間企業資本

ストックデータ (財)電力中央研究所社会経済研究所」に基づく、投資の対全国比と資本ストック

の対全国比の関係式に、産業連関表の固定資本形成の対全国比を代入した値とした。5年毎の中

間年は補間に依った。

6

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

そのため IT投資額を、上記白書の定義に沿って電気通信機械、電子計算機本体・同付属装置、

ソフトウェアに限って、また按分を用いるため参考地域として関東を取り上げ、値を時系列で拾

ってみると、下表の通りである。

電気通信機械、電子計算機本体・同付属装置の投資において、近畿は全国に対し、昭和 55年

以降概ねウェイトを高めていたものがバブル崩壊以後ウェイトを落としたが、平成 7年から 12

年にかけてはソフトウェア投資も含めて持ち直し、平成 12年では電気通信機械が 17.2%、電子

計算機本体・同付属装置が 12.9%、ソフトウェアが 15.8%を占めるに至っている。その間に参考

地域としての関東は全国に対し、電気通信機械の投資では一貫してウェイトが増加、電子計算機

本体・同付属装置は傾向としてはウェイトを低下させ、平成 12年では電気通信機械が 54.6%、

電子計算機本体・同付属装置が 58.6%、ソフトウェアが 47.1%を占めるに至っている。

平成 7年から 12年にかけて、近畿、全国、関東、いずれにおいても民間企業設備投資におけ

る IT投資は、それぞれ 10.9%から 17.4%へ、13.4%から 17.7%へ、16.3%から 21.0%へと割合を

高め、ITの経済活動への浸透を示している。

IT投資の内容としては、ハードに比べソフトの割合が大幅に増加している。

産業連関表からみたIT投資  (10億円、%)昭和55年(1980年) 昭和60年(1985年) 平成2年(1990年)

列 行 近畿 全国 関東(参考) 近畿 全国 関東(参考) 近畿 全国 関東(参考)

914200 地域内総固定資本形成(民間) 3321011+3321021+3321031 電気通信機械 74.7 408.2 176.8 179.7 951.7 432.7 324.6 1,734.9 791.7914200  〃 3311011+3311021+3311031 電子計算機本体・同付属装置 173.4 1,071.6 678.4 484.9 2,540.6 1,349.6 821.9 4,365.7 2,226.2914200  〃 8512011 ソフトウエアA 上記合計914200 地域内総固定資本形成(民間) 9099000 内生部門計 8,631.5 52,666.4 21,198.5 10,629 63,627 27,755 18,185.1 107,014.4 49,058.4914200  〃 4111011 住宅建築(木造) 1,412.4 9,851.2 3,939.5 1,127 8,145 3,507 1,532.5 11,728.3 5,200.2914200  〃 4111021 住宅建築(非木造) 1,097.5 5,738.8 2,426.4 1,257 6,691 3,196 2,603.0 13,919.2 7,338.8B 民間企業設備投資 (9099000-4111011-4111021) 6,121.6 37,076.4 14,832.6 8,245 48,791 21,052 14,049.6 81,366.9 36,519.4

18.3 100.0 43.3 18.9 100.0 45.5 18.7 100.0 45.6

電子計算機本体・同付属装置の対全国比 16.2 100.0 63.3 19.1 100.0 53.1 18.8 100.0 51.0

A/BBの対全国比 16.5 100.0 40.0 16.9 100.0 43.1 17.3 100.0 44.9

平成7年(1995年) 平成12年(2000年)列 行 近畿 全国 関東(参考) 近畿 全国 関東(参考)

914200 地域内総固定資本形成(民間) 3321011+3321021+3321031 電気通信機械 385.1 2,465.4 1,231.6 420.1 2,440.9 1,331.6914200  〃 3311011+3311021+3311031 電子計算機本体・同付属装置 507.5 4,415.4 2,728.2 574.9 4,452.8 2,610.4914200  〃 8512011 ソフトウエア 458.3 3,151.7 1,570.9 952.6 6,010.4 2,830.6A 上記合計 1,350.9 10,032.5 5,530.6 1,947.6 12,904.1 6,772.5914200 地域内総固定資本形成(民間) 9099000 内生部門計 16,967.4 99,544.9 44,228.4 14,732.2 94,183.1 41,869.3914200  〃 4111011 住宅建築(木造) 2,027.5 13,523.5 5,494.4 1,717.1 11,862.2 5,112.7914200  〃 4111021 住宅建築(非木造) 2,495.6 11,023.1 4,728.1 1,798.0 9,327.4 4,475.7B 民間企業設備投資 (9099000-4111011-4111021) 12,444.3 74,998.3 34,005.9 11,217.0 72,993.5 32,280.9

15.6 100.0 50.0 17.2 100.0 54.6

電子計算機本体・同付属装置の対全国比 11.5 100.0 61.8 12.9 100.0 58.6

14.5 100.0 49.8 15.8 100.0 47.1A/B 10.9 13.4 16.3 17.4 17.7 21.0Bの対全国比 16.6 100.0 45.3 15.4 100.0 44.2(注1)行コードは平成12年のものである。他の年は同名称の産業を引用した。ただし、昭和55の電気通信機械は電気通信機械及び関連機器である。(注2)関東は茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の11都県を言う。出典:地域内産業連関表

ソフトウエアの対全国比

電気通信機械の対全国比

ソフトウエアの対全国比

電気通信機械の対全国比

我が国の IT資本ストック(平成 19年版情報通信白書)は、実質ベース(2000年価格、購入者価格

評価)で 38.8兆円、うち、電気通信機器が 5.2兆円、電子計算機本体・同付属装置が 14.6兆円、

ソフトウェアが 19.1兆円、民間企業資本ストックに占める割合は 3.4%である。時系列でみると、

昭和 55年以降情報化社会と言われる中で順調に増加し、平成 2年バブル崩壊後しばらくは停滞し

たが、近年緩やかな増加に戻しつつある。

IT資本ストックの内訳は、近年ソフトウェアの割合が高くなっている。

7

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我が国の情報資本ストックの推移(2000年価格)

5.2

14.6

19.1

3.4

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

(兆円)

0

1

2

3

4(%)

ソフトウエア電子計算機本体・同付属装置

電気通信機器民間資本ストックに占めるIT資本ストック比率

出典:平成 19年版情報通信白書

2.2 関西のIT資本ストックと経済成長、労働生産性10

関西や全国、関東(参考地域)の経済成長に対する生産要素の寄与をみると、80年以降 3地域と

も概ね一般資本の寄与が低下してきており、近年では IT資本の寄与がそれをカバーしている(関

西の 90~95年を除く)。95~00年、00~03年は 3地域とも IT資本の寄与が最も多い。一方労働

の寄与はバブル崩壊以後、3地域とも一貫してマイナスであり、今後の人口減少社会において、

経済の活性化を図っていくためには、IT投資が重要な要素となることを示している。

95~00年における関西の経済成長率0.13%のうち IT資本の寄与は0.95%、一般資本は0.73%、

労働は-0.65%の寄与であり、00~03年ではそれぞれ-0.11%に対し、0.29%、-0.14%、-0.86%で

ある。関西の IT資本の寄与は全国より高いが、関東よりはやや低いか同程度である。

経済成長への寄与(関西 1年当り)

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

(%)

TFP -1.20 0.71 0.62 -0.89 0.60

一般資本 1.63 2.01 0.64 0.73 -0.14

IT資本 2.21 2.03 -0.02 0.95 0.29

労働 0.51 0.34 -0.44 -0.65 -0.86

経済成長率 3.15 5.09 0.79 0.13 -0.11

1980~1985 1985~1990 1990~1995 1995~2000 2000~2003

10 本項の分析手法は「ICTの経済分析に関する調査報告書 平成 19年 3月 総務省」に依っている。分

析手法の説明は後添の付注1,付注2を参照のこと。

8

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

経済成長への寄与(全国 1年当り)

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

(%)

TFP -1.19 0.24 0.96 -0.25 1.20

一般資本 1.64 1.93 0.59 0.74 0.08

IT資本 2.17 2.25 0.32 0.82 0.25

労働 0.48 0.37 -0.44 -0.53 -0.83

経済成長率 3.10 4.79 1.43 0.78 0.71

1980~1985 1985~1990 1990~1995 1995~2000 2000~2003

経済成長への寄与(関東(参考) 1年当り)

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

(%)

TFP -0.75 0.33 -0.30 0.20 0.48

一般資本 1.62 2.02 0.63 0.74 0.17

IT資本 2.55 2.91 0.65 1.01 0.29

労働 0.91 0.84 -0.35 -0.46 -0.52

経済成長率 4.34 6.10 0.62 1.48 0.42

1980~1985 1985~1990 1990~1995 1995~2000 2000~2003

次に IT投資の実測値が得られた 1995年と 2000年の 5年間の、労働生産性成長率に対する IT

資本と一般資本の寄与をみると、関西では労働生産性成長率 6.1%に対し IT資本の寄与は 1.2%、

全国では同様に 8.4%に対し 1.0%、関東では 11.6%に対し 1.2%であった。いずれの地域におい

ても、労働生産性の伸び率の1割以上は、IT資本の深化に依っていることがわかる。

また関西では、TFP(全要素生産性、IT資本や一般資本だけでは説明できない残差)がマイナ

スに働いているのに対し、関東ではそれがプラスに働いていることが示されている。同様の傾向

は、前項の同時期の経済成長に対する寄与でもみられる。

TFPには投入要素の質、規模の経済、技術変化、景気循環、社会制度環境、インフラ整備の向

上、その他の要因が含まれる。近年の関西の地盤沈下の要因に通じるものもあると思われる。

9

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1995-2000年の5年間の労働生産性成長率への寄与

1.2 1.0 1.2

8.6 8.9

-3.6

-1.3

1.5

8.4

11.6

6.1 8.4

-4

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

関西 全国 関東(参考)

労働生産性成長率

(%)

TFP

一般資本IT資本

労働生産性成長率

以上により、マクロ的な観点からは、IT投資は経済成長や労働生産性の向上に有効に寄与して

いる結果が得られた。

(付注1 IT投資と経済成長の分析手法)

IT資本ストックの生産活動への関わりを推計するため、次のように、労働、IT資本、一般(IT

以外の)資本の3つを要素とする、生産関数を導入する。

),,( ,21 tKKLfY = ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

産出量の変化は全微分により次のように導ける。

dttYdK

KYdK

KYdL

LYdY 2

21

1 ∂∂

∂∂

∂∂

∂∂

+++=

222111 KdKdK,KdKdKLdLdLYdYdY ln・ln,ln,ln ==== ・・・ であり、これらを

上記に代入して、かつ

λγβα =, =, =, =tYY

KKYY

KKYY

LLYY

22

11 ∂

とおくと、次式が導かれる。

λdtKdKdLdYd 21 +++= lnlnlnln γβα ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

(2)式の両辺を dtで除したものを tで積分して(3)式を得る。

cλtKKLY 21 ++++= lnlnlnln γβα ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

ここで λ=0とし、一次同次(α+β+γ=1)を仮定すると次のような推計式が得られる。

cLKLKLY tttttt +−−+= )/,ln()1()/,ln()/ln( 21 βαβ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

ここで求めたβは IT資本ストックの経済成長に対する弾力性であり、IT資本ストックの経済

成長への寄与は、この弾力性に IT資本ストックの成長率を乗じて求めることができる。

10

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

データは下記を用いた。

Y:実質GDP

国内総生産(国民経済計算の平成 12年基準 93SNA固定基準年方式実質値、一部平成 7年基

準 93SNA実質値から推計)

域内総生産(県民経済計算の平成 12年基準 93SNA固定基準年方式実質値、一部平成 7年基

準 93SNA実質値及び平成 2年基準 68SNA実質値から推計)

L:労働投入量

就業者数(国民経済計算、県民経済計算)に年平均実労働時間(毎月勤労統計)を乗じる。

K1:IT資本投入量

前述による。関西は、下記の電中研民間企業資本ストックデータから投資の対全国比とスト

ックの対全国比の関係式を求め、それに産業連関表による関西の IT投資の対全国比を代入し

て求めたストックの対全国比で、前述の全国の IT資本ストックを按分する。稼働率は 1とし

ている。

K2:一般資本投入量

民間企業資本ストック(内閣府経済社会総合研究所)及び電中研民間企業資本ストックデー

タ((財)電力中央研究所社会経済研究所)から上の IT資本投入量を差し引いたものに、稼働

率(経済産業省)を乗じる。

金額は総て 2000年価格の実質である。

統計量による検定結果から1階の自己回帰過程を適用した推計結果は下記の通りである。

関西の経済成長に対する IT資本ストックの弾力性は、全国や関東のそれより小さく、逆に一般

資本の弾力性は全国や関東のそれよりも大きい。

回帰推計結果関西 全国 関東(参考)推計値 t値 推計値 t値 推計値 t値

労働投入量 α(=1-β-γ)0.626741 0.646027 0.635138IT資本投入量 β 0.088925 2.805 *** 0.093870 3.555 *** 0.123261 5.368 ***一般資本投入量γ 0.284334 2.904 *** 0.260103 3.262 *** 0.241601 3.888 ***定数項 1.504960 1.680 1.67099 2.287 ** 1.90051 3.405 ***決定係数 0.991775 0.996008 0.997097DW比 1.70279 0.83638 1.81337観測数***は有意水準1%で、**は5%で、*は10%で有意であることを示す。1階の自己回帰項は記載していない。

1980~2003年の24

(付注2 IT投資と労働生産性の分析手法)

次に IT資本ストックの労働生産性への関わりを推計するため、前項と同様の生産関数を想定す

るが、IT投資の実側データが得られるのは 1995年と 2000年であったため、ここではこの 2時点

間の変化を離散近似式により分析することとする。

前項の(2)式を次のように修正する。

λ(t)dt,Kdt,KdtLdtYd t2t1tt +++= ln)(ln)(ln)(ln γβα ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)’

ここで生産関数の一次同次を仮定すると、労働生産性の変化は次のように表せる。

11

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( ) dttLKdttLKdtLYd tttttt )()/,ln()()(1)/,ln()()/ln( 21 λβαβ +−−+= ・・・・・・・・・・・(5)

一般に の離散近似は次のようである。 dtd t /)ln(Xtttt dtd X/)XX(/)ln(X 1−≈ +

従って(5)式は次のように離散近似することができる。

))()((21

)/,()/,(),())}()((1))()({(1

21

)/,()/,(),())()((

21

)/()/()/( 11

1tt

LKLK/LK1t1ttt

LKLK/LK1tt

LYLYLY

tt2

tt21t1t2

tt1

tt11t1t1

tt

tttt

+++

−+−+−+−−+

−++=

++

++++

λλ

ββ

ββ

         

αα         

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

(6)式の右辺第 1項は期間 t~t+1における労働生産性の変化に対して IT資本深化度が及ぼす寄

与、第 2項は同様に一般資本深化度が及ぼす寄与、第 3項はTFPの寄与を表わしている。

競争市場において企業が利潤極大化を図る場合、αは労働分配率に近似し、βとγ(=1-α-

β)の比は IT資本と一般資本の資本サービスコストの比に近似する。

資本サービスコスト、つまり資本使用者費用は、資本サービス単位当り使用者費用に資本サー

ビス量を乗じたものである。また資本サービス量は生産資本ストックに比例するものとする。

資本の使用者費用は次のように表わすことができる。11

( ) ( 1− )−−+⋅= tttttt qqdrqµ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

原価償却率

市場利子率金融資本費用

価格新しい生産資本の市場

資本使用者費用

:)(:

::

t

t

t

t

drqµ

(7)式の第 1項は資本調達費用である。qt・rt は借入金で調達した場合の利払い、または自己資金

で調達した場合の資金の機会費用を表わす。qt・dt は生産資本の設備年齢の経過に伴う減価償却費

または価値の損失を表わす。第 2項は資本利得または損失、あるいは資本の再評価を表わす。

資本サービスの単位当り使用者費用は、(7)式より次のように表せる。

( )

資本財の価格指数

り使用者費用資本サービスの単位当

::

1

t

t

t

ttttt

p

pppdr

ϖ

ϖ −−−+=

11 詳細は「Measuring Productivity OECD Manual」

http://puck.sourceoecd.org/vl=6474694/cl=16/nw=1/rpsv/~6683/v2001n3/s1/p1lを参照のこと。

12

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

従って IT資本サービスの生産量に対する弾力性βは次のようになる。

( )

( )⎪⎩

⎪⎨

⎟⎠⎞⎜

⎝⎛

⎪⎭

⎪⎬

⎪⎩

⎪⎨

⎪⎭

⎪⎬

⎟⎠⎞⎜

⎝⎛

⎪⎩

⎪⎨

⎟⎠⎞⎜

⎝⎛

⎪⎭

⎪⎬

⎪⎩

⎪⎨

⎪⎭

⎪⎬

⎟⎠⎞⎜

⎝⎛

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

−=

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

+=

t2

t-12t2t2tt2

t1

t-11t1t1tt1

t1

1t1t1t1tt1

t2

t-12t2t2tt2

t1

t-11t1t1tt1

t1

1t1t1t1tt1

,p

,-p,p,drK,p

,-p,p,drK

,p

,-p,p,drKt

,p

,-p,p,drK,p

,-p,p,drK

,p

,-p,p,drKttt

-+-+

α

-+-+

+,,

+,))((1

+,,

+,))()(()( γββ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

(8)式から得られるβを次の(9)式に代入して、期間 t~t+1における労働生産性の変化に対して IT

資本深化度が及ぼす寄与を求めることができる。

)/,()/,(),())()((

21

tt1

tt11t1t1

LKLK/LK1tt −

++++ββ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

一般資本に関しても同様である。労働生産性成長率とこれらとの残差はTFPの寄与となる。

データは下記を用いた。

GDP、GRP、L、K1、K2は前項に同じ。

α:労働分配率 名目価格評価の雇用者所得/名目価格評価の粗付加価値額

する加重平均とした。の構成比をウエイトと(民間)の列ベクトル

用年数は固定資本形成による。一般資本の耐財務省の耐用年数省令

原価償却率

総合)(国内銀行貸出約定金利子率)金融資本費用(市場利

備投資デフレーター算の民間部門の企業設一般資本は国民経済計

日本銀行)資本は企業物価指数(

資本財の価格指数

:新規・:

IT:

t

t

t

dr

p

13

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資料.IT産業の範囲

本論で IT産業として扱う産業の範囲については、デジタル情報の生産・加工・蓄積・流通・供

給を行う業並びにこれに必要な素材・機器の提供等を行う関連業という考えから、日本標準産業

分類(平成 14年3月改訂)を基に次のように定めた。

なお範囲を定めるに当たり、次の2点を参考とした。

①平成 19年版情報通信白書 付注1

②情報化白書 2006 図表 1-1-1 IT関連指標の表の注 (P46)

産業大分類では、F製造業とH情報通信業、Qサービス業(他に分類されない)を検討の対象

とし、

F製造業からは中分類で、

24非鉄金属製造業から 244電線・ケーブル製造業を対象とする。

26一般機械器具製造業からは 2667半導体製造装置製造業、2681事務用機械器具製造業、2698

産業用ロボット製造業を対象とする。

27電気機械器具製造業からは 274電子応用装置製造業、2793磁気テープ、磁気ディスク製造業

を対象とする。

28情報通信機械器具製造業からは、2811有線通信機械器具製造業、2812無線通信機械器具製

造業、2813ラジオ受信機・テレビジョン受信機製造業、2814電気音響機械器具製造業、282電子

計算機・同附属装置製造業を対象とする。

29電子部品・デバイス製造業の総てを対象とする。

32その他の製造業から 3296情報記録物製造業を対象とする。

H情報通信業から中分類で、

37通信業の中から 371信書送達業を除くもの、

38放送業の総て、

39情報サービス業の総て、

40インターネット付随サービス業の総て、

41映像・音声・文字情報制作業から 411映像情報製作・配給業,412音声情報制作業を対象と

する。

Qサービス業(他に分類されない)から中分類で

88物品賃貸業の 883 事務用機械器具賃貸業を対象とする。

なおF、Qは下位の分類から対象とする業種の割合が低いので、大分類ベースでの議論には含

めない。同様の理由から 24、26、27、32、41、88は中分類ベースでの議論には含めない。同じく

同様の理由から 266、268、269、279、329は小分類ベースでの議論には含めない。

分析する分類の深度は利用する統計に依存する。またこの分類に該当しない統計(例えば産業

連関表)については、これから類推した業種を適宜範囲とする。

以上を整理すると次の表の通りである。

14

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第1章 関西の社会経済と ITの進展代

大分類 中分類 小分類 細分類 ゴシック体で表記したものをIT産業とする。

F-製造業

(09~23を除く)24 非鉄金属製造業

(241~243を除く)244 電線・ケーブル製造業

2441 電線・ケーブル製造業(光ファイバケーブルを除く)2442 光ファイバケーブル製造業(通信複合ケーブルを含む)

(245~249を除く)

(25を除く)

26 一般機械器具製造業 (261~265を除く)266 特殊産業用機械製造業

(2661~2666を除く)2667 半導体製造装置製造業 (2668~2669を除く)

(267を除く)268 事務用・サービス用・民生用機械器具製造業

2681 事務用機械器具製造業(2682~2689を除く)

269 その他の機械・同部分品製造業(2691~2697を除く)2698 産業用ロボット製造業

27 電気機械器具製造業 (271~273を除く)274 電子応用装置製造業

2741 X線装置製造業2742 ビデオ機器製造業2743 医療用電子応用装置製造業2749 その他の電子応用装置製造業

(275を除く)279 その他の電気機械器具製造業

(2791~2792を除く)2793 磁気テープ・磁気ディスク製造業(2799を除く)

 28 情報通信機械器具製造業 281 通信機械器具・同関連機械器具製造業

2811 有線通信機械器具製造業2812 無線通信機械器具製造業2813 ラジオ受信機・テレビジョン受信機製造業2814 電気音響機械器具製造業(2815~2819を除く)

282 電子計算機・同附属装置製造業 2821 電子計算機製造業(パーソナルコンピュータ製造業を除く)2822 パーソナルコンピュータ製造業2823 記憶装置製造業2824 印刷装置製造業2829 その他の附属装置製造業

 29 電子部品・デバイス製造業 291 電子部品・デバイス製造業

2911 電子管製造業2912 半導体素子製造業2913 集積回路製造業2914 抵抗器・コンデンサ・変成器・複合部品製造業2915 音響部品・磁気ヘッド・小形モータ製造業2916 コネクタ・スイッチ・リレー製造業2917 スイッチング電源・高周波組立部品・コントロールユニット製造業2918 プリント回路製造業2919 その他の電子部品製造業

(30~31を除く)

32 その他の製造業 (321~328を除く)329 他に分類されない製造業 

(3291~3295を除く)3296 情報記録物製造業(新聞,書籍等の印刷物を除く)(3299を除く)

15

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大分類 中分類 小分類 細分類 ゴシック体で表記したものをIT産業とする。

H-情報通信業

 37 通信業(371を除く)372 固定電気通信業

3721 地域電気通信業(有線放送電話業を除く)3722 長距離電気通信業3723 有線放送電話業3729 その他の固定電気通信業

373 移動電気通信業3731 移動電気通信業

374 電気通信に附帯するサービス業3741 電気通信に附帯するサービス業

 38 放送業 381 公共放送業(有線放送業を除く)

3811 公共放送業 382 民間放送業(有線放送業を除く)

3821 テレビジョン放送業(衛星放送業を除く) 3822 ラジオ放送業(衛星放送業を除く) 3823 衛星放送業3829 その他の民間放送業

383 有線放送業 3831 有線テレビジョン放送業 3832 有線ラジオ放送業

 39 情報サービス業 391 ソフトウェア業

3911 受託開発ソフトウェア業 3912 パッケージソフトウェア業

392 情報処理・提供サービス業 3921 情報処理サービス業 3922 情報提供サービス業 3929 その他の情報処理・提供サービス業

 40 インターネット附随サービス業401 インターネット附随サービス業

4011 インターネット附随サービス業

 41 映像・音声・文字情報制作業411 映像情報制作・配給業

4111 映画・ビデオ制作業(テレビ番組制作業を除く)4112 テレビ番組制作業4113 映画・ビデオ・テレビ番組配給業

412 音声情報制作業4121 レコード制作業4122 ラジオ番組制作業

(413~415を除く)

Q-サービス業(他に分類されないもの)

(80~87を除く)

88 物品賃貸業(881~882を除く)883 事務用機械器具賃貸業

8832 事務用機械器具賃貸業(電子計算機を除く)8832 電子計算機・同関連機器賃貸業

(884~889を除く)

(89~96を除く)

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第2章 企業と自治体の情報化代

第第22章章 企企業業とと自自治治体体のの情情報報化化

本章では企業と自治体の情報化の現状を、アンケート調査とヒアリング調査より明らかにする。

(1) 調査内容

○ IT利活用ステージ

調査の指標には IT利活用ステージを用い、アンケート結果よりステージ1~3までの分類を行

った。また、CIOについては、求められる能力と実現している能力をたずね、CIO像(あり姿)

を把握した。さらに、IT人材の育成に関する課題をクローズアップするため、情報システムに関

する理解度やスキル把握、IT人材の教育プログラムについての把握を行った。

「IT利活用ステージ」は、IT利活用の進展度合いを測る指標として、平成 15年に経済産業省

が発表した評価指標である。その内容は、企業の IT利活用段階を初期段階から共同体最適化状態

までのステージ1~4に分類し、ステージごとの利活用の状況を示したものとなっている。平成

17年に経済産業省が行った『IT投資促進税制に関するアンケート調査』では、全国の上場企業を

対象にアンケート調査を行い、ステージ3以上の企業が 26%という結果であった。

自治体版 IT利活用ステージは、主に自治体経営という視点により、当財団独自に作成したもの

である。評価項目は企業版と同じく「組織形態」、「人材、評価制度」等であり、企業における「顧

客」を自治体では「住民」と読み替えている。

製品としての

ERP

人事

財務

製品としての

SCM

CRM

SFA

ステージ①

IT初期段階

情報技術導入するも

活用せず

特定業務の改善

情報技術の活用により

部門内最適化を実現

ステージ②部門内最適化

ステージ③

組織全体最適化

経営と直結した情報技術活用

により企業組織全体の最適化

を実現

ビジネス/経営管理

    の高付加価値化

ステージ④共同体最適化

情報技術活用によりバリュー

チェーンを構成する共同体全体

の最適化を実現

人材力/ブランド力

      の総合強化

「深化する組織」への脱皮

「システム」の時代

「経営」の時代

「経営

」の

「企

」の

顧客視点の徹底

トリガー

組織改革

トリガー

企業

変革

出典:経済産業省「CIOの機能と実践に関するベストプラクティス懇談会」(2006.12)

17

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○ 内部統制

2007年度調査のホットトピックスとしては、内部統制を選択した。

企業のガバナンスとコンプライアンスのあり方が問われる中、企業の内部統制強化に関わる法

律や規制が制定され、内部統制への関心は高まっている。これらの法律等への対応にあたり、企

業は自社の内部統制のあり方について、見直し・再構築を求められることとなった。その一方で、

内部統制の確立の上で、情報システム上の対応は大きな課題である。

2006年度調査においても、各分野共通の認識としてコンプライアンス対応が課題であるという

認識がなされており、2007年度調査は、内部統制をキーワードのひとつとして調査を行った。

○ 情報セキュリティ対策

高度情報通信ネットワーク社会の進展に伴い、我が国の社会・経済活動は情報システムへの依

存度を一層高め、情報システム上での経済が実質的な経済そのものとなりつつある。他方、コン

ピュータウィルスや不正アクセスなどの脅威が、我が国の社会・経済活動に与える影響は従来と

は比較できないほど大きくなり、さらにはフィッシング詐欺やボットなどの新たな問題も生じて

きている。

このような背景のもと、経済産業省から発表された「企業におけるセキュリティガバナンスの

あり方に研究報告書」の中で定義されている「社会的責任にも配慮したコーポレートガバナンス

と、それを支えるメカニズムの観点から企業内に構築・運用すること」をベースに各組織におけ

る情報セキュリティ対策のベンチマークを測定し、今後企業や自治体が情報セキュリティ対策を

行うにあたって、どのような取り組みを行うべきなのかを洗い出すことを目的として調査を行っ

た。

(2) 調査方法

① アンケート調査について

1.調査方針

主に IT利活用と情報セキュリティ対策について、関西圏に本社を置く上場企業と、関西2府5

県の自治体に対しアンケート調査を行い、状況の把握を行った。また、関西圏の中小企業に対し

ても IT利活用、情報セキュリティ等についてアンケートを行った。

2.調査方法

郵送によりアンケートを送付し、郵送またはFAXにて回収した。

送付日 :平成 19年 8月 6日

回収期間:平成 19年 8月 6日 ~ 平成 19年 8月 20日

18

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第2章 企業と自治体の情報化代

3.質問内容

■ 上場企業・自治体 ■ 中小企業

・ 経営課題と IT ・ IT導入状況

・ IT投資の目的と効果 ・ CIOの有無

・ 組織の業績評価と人材評価について ・ IT投資について(問題点)

・ 革新的な IT導入 ・ IT投資の目的と効果

・ CIOについて(能力、支援組織、キャリアパス) ・ IT導入に関する支援策

・ IT主管部門について ・ 内部統制について

・ 情報システム利用スキルについて ・ IT経営応援隊について

・ IT教育・活用について ・ 情報セキュリティ対策

・ 内部統制その他について

・ 情報セキュリティ対策

4.回収実績

送付件数 回収件数 回収率(昨年度)

上場企業 876 158 18.0%(13.1%)

自治体 229 113 49.3%(43.1%)

中小企業 4,400 790 18.0%(18.2%)

総数 5,505 1,061 19.3%(18.5%)

② ヒアリング調査について

上場企業と自治体には、アンケート結果より、設問項目中、特に特徴を持って取り組まれてい

ると思われたそれぞれ5社、4団体を抽出し、ヒアリング調査を行った。

中小企業には、アンケート結果より、積極的に IT導入を図り問題意識の高い企業を抽出し、選

定を行った。また、業種の偏りを考慮して、経済産業省による IT化による経営革新支援事業採択

企業や文献調査からも抽出し、併せて 21社のヒアリング調査を行った。

19

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第1節 IT利活用

1.1 上場企業

→ 上場企業の「IT利活用」のポイント

◆ アンケートより

上場企業の IT利活用ステージ3以上の企業は、2006年度より約 7ポイント増加した。

2006年度に比べて「組織形態」の項目の IT利活用が進んだが、「人材」は達成度が低いまま。

IT投資の目的と効果では、「業務の効率化」を目的として IT投資を行い、実際に効果が現れ

ている。

CIOの能力では、「情報化戦略立案能力」が、求められているが、実現できていない

CIOの支援組織体系としては、「CIOチーム型」が最も多く、CIOのキャリアパスとしては、

「経営企画関連部門」、「総務・人事・財務関連部門」より自社選任されている。

CIOのランクは、高ランクの CIOがいる企業ほど、IT利活用ステージが高く、おおよそ業

況は上向いており、経営戦略と IT 戦略の関わりが高く、従業員の企業情報システムに関す

る理解度が高い。

◆ ヒアリングより

先進 5社の調査を行い、CIOは内部昇格が 2社、外部招聘が 3社で、うち 2人が銀行出身者

であった。

IT投資効果については、単純にコスト削減という尺度では判断されておらず、成果をわかり

やすく示さないと、IT投資に対する理解が深まらない。

IT教育については、積極的に外部研修やセミナーに参加させており、社内に持ち帰って知識

を共有していた。

◇ 上場企業の「IT利活用」アンケート調査結果

(1)IT利活用ステージ

■IT利活用ステージ分析結果

・ 上場企業(サンプル数 158) 企業数 割合(%)

ステージ3(組織全体最適化) 64 40.5

ステージ2(部門内最適化) 79 50.0

ステージ1(IT初期段階) 15 9.5

■(参考)平成18年度 IT利活用ステージ分析結果

・ 上場企業(サンプル数 96) 企業数 割合(%)

ステージ3(組織全体最適化) 32 33.3

ステージ2(部門内最適化) 50 52.1

ステージ1(IT初期段階) 14 14.6

20

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第2章 企業と自治体の情報化代

2007年度調査では、2006年度調査よりもサンプル数が大幅に増えた。関西の上場企業の約 4

割がステージ3以上、半数がステージ2という結果であった。

図表1-1-1-1.IT利活用ステージチャート図(平均値、右は 2006年度)

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

上場企業平均

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

上場企業平均

図表1-1-1-2.ステージ別チャート(ステージ別平均値、右は 2006年度)

上場企業ステージ3

上場企業ステージ2

上場企業ステージ1

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

上場企業ステージ3

上場企業ステージ2

上場企業ステージ1

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

21

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図表 1-1-1-1は、IT利活用ステージ分析で用いた得点配分を、項目別平均点でそれぞれ表した

ものである(p.73テクニカルノート参照)。上場企業は平均点で見ると、「人材(人材評価への取

り組み状況、人材流動化、人員整理)」の項目が、他の項目に比べて達成度が低いことが分かる。

また、2006年度調査と比較すると、「組織形態(組織のフラット化、トップダウンによる経営方

針の徹底)」が上昇している。

図表 1-1-1-2でステージ別の平均点分布を見ると、ステージ2とステージ3で開きが大きい項

目は、「経営手法・経営スタイル」と「人材」であることが分かる。2006年度は開きが大きかっ

た「組織形態」は、差が縮まっている。

上場企業では 2006年度調査においても「IT部門の体制」、「情報共有」、「組織形態」といった

項目の達成度が高く、ITを活用して効率的な経営を目指す姿勢が窺えたが、2007年度調査によっ

ても裏付けられた。

図表1-1-1-3.業種別 IT利活用ステージ

IT利活用ステージと業種(大分類)の関係 (N=156)

10.0%

14.3%

3.1%

20.0%

52.5%

42.9%

50.0%

56.3%

40.0%

37.5%

42.9%

50.0%

40.6%

40.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

製造業(N=80)

流通業(N=35)

金融業(N=4)

サービス業(N=32)

その他(N=5)

ステージ1 ステージ2 ステージ3

(2)経営課題と IT

図表1-1-2-1.経営課題

Q1-1M001:貴社における経営課題についてお伺いします。次の項目に示した経営課題解決へのITの活用・貢献度合いはどの程度ですか。項目ごとにITによる実現度

から一つ選択してください。 (N=158)

38.0%

32.3%

13.9%

11.4%

19.0%

17.7%

20.3%

9.5%

10.8%

10.8%

19.6%

12.7%

17.7%

10.1%

46.2%

34.8%

23.4%

13.9%

26.6%

40.5%

48.7%

32.3%

34.2%

26.6%

45.6%

46.2%

42.4%

38.0%

7.6%

17.7%

15.8%

17.7%

9.5%

5.7%

25.3%

18.4%

24.1%

15.8%

20.9%

12.0%

17.1%

5.1%

9.5%

7.6%

7.0%

5.7%

5.7%

12.7%

21.5%

5.1%

3.8%

6.3%

2.5%

4.4%

17.7%

32.3%

44.3%

26.6%

23.4%

16.5%

13.3%

8.2%

29.7%

11.4%

7.6%

21.5%

24.1%

2.5%

3.2%

7.0%

3.2%

3.2%

3.2%

7.0%

7.0%

3.8%

3.8%

6.3%

3.8%

6.3%

5.7%

3.2%

4.4%

2.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

経営トップにおける迅速な業績把握

経営に影響を与える可能性のある出来事のトップへの迅速な報告

人材の配置転換(人材の流動化)

人員整理・雇用調整

株主重視の経営

経営トップと従業員間の価値観の共有

全社的課題に関する経営トップと従業員間の情報の共有

サプライチェーンを意識した取引先との関係見直し

グローバル化対応

経営資源(人・モノ・金)の選択と集中

スピード経営

業務の効率的再編成(BPR)

顧客重視の経営

自社製品・サービスの差別化

実現している 一部実現 検討レベル 未達である IT以外で実現している 無回答

22

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第2章 企業と自治体の情報化代

経営課題の ITによる実現度では、「経営トップにおける迅速な業績把握」(実現 38.0%)、「経営

に影響を与える可能性のある出来事のトップへの迅速な報告」(実現 32.3%)と、ITを活用した

スピーディな情報把握が行われていることが分かる。一方で、「人材の配置転換」、「人員整理・雇

用調整」といった項目は、IT以外で実現されているとの回答であった。

図表1-1-2-2.IT投資を成功に導くために実施した施策

Q1-2M001:IT投資を成功に導く為に実施した施策についてお伺いします。次の項目に示したIT投資を成功させる為の主な施策例の実現度はどの程度ですか。ひとつ選択してくださ

い (N=158)

35.4%

17.1%

32.3%

10.8%

20.3%

8.2%

19.0%

28.5%

21.5%

12.0%

13.9%

22.8%

8.2%

12.0%

19.6%

34.8%

49.4%

39.9%

27.8%

40.5%

38.6%

46.8%

42.4%

41.8%

45.6%

39.2%

41.8%

40.5%

45.6%

47.5%

15.2%

12.7%

15.8%

33.5%

26.6%

27.8%

13.9%

17.7%

26.6%

25.9%

19.6%

19.0%

23.4%

22.2%

15.8%

6.3%

13.9%

7.0%

22.8%

7.6%

17.7%

13.3%

13.9%

10.8%

14.6%

16.5%

11.4%

10.8%

10.1%

8.9%

6.3%

8.2%

3.2%

0.6%

3.8%

0.6%

1.9%

1.3%

5.1%

5.1%

3.2%

2.5%

3.2%

3.8%

5.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

企業ビジョンの明確化

トップダウンによるIT戦略の徹底

IT投資目的の明確化

IT投資の効果測定指標の明確化

的確な費用見積もり施策

柔軟な組換え可能な情報システム(モジュール化されたシステム構成)

IT化に対する充分な予算確保

IT計画実行における役割分担の明確化

あるべき業務プロセスの明確化

業務改革(BPR)の実施

組織のフラット化

厳格な予算管理

優秀な人材の確保

ITや業務知識の情報共有や教育体制の充実

実績の有るITベンダーの登用

実現している 一部実現 検討レベル 実現していない わからない

IT投資を成功に導くために実施した施策では、「企業ビジョンの明確化」(実現 35.4%)、「IT投

資目的の明確化」(実現 32.3%)という回答が多かった。一方で「IT投資の効果測定指標の明確

化」(実現 10.8%)はまだまだ未実施であるという結果であった。

図表1-1-2-3.IT投資の目的と効果

Q1-3-1:IT投資の目的と効果

88.0%

51.9%

48.7%

43.0%

1.9%

4.4%

89.0%

41.4%

32.4%

44.1%

2.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

経営のスピードアップ、業務の効率化

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

売上げ増加等の収益改善

従業員の意識向上や職場の活性化

その他

無回答

目的(N=158)

効果(N=145)

IT投資の目的と効果では、「経営のスピードアップ、業務の効率化」を目的として IT投資を行

い、実際に効果が現れている、という結果であった。目的に対して効果が現れていない項目とし

ては、「売上増加等の収益改善」が、目的と効果の間に 16%ポイント程度の開きがあった。

23

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(3)組織の業績評価と人材評価

図表1-1-3-1.ITを活用した組織の業績評価及び人材評価の現状

Q2-1M001:ITを活用した組織の業績評価及び人材評価の現状について (N=158)

24.1%

17.1%

32.3%

31.0%

22.2%

27.8%

15.2%

17.7%

5.7%

5.1%

1.3%

0.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

組織の業績評価

人材評価

実施している 一部実現している 検討レベル 全く取り組んでいない わからない 無回答

組織の業績評価及び人材評価については、業績評価が実施されている企業は全体の 24.1%、人

材評価が実施されているのは 17.1%であった。

(4)革新的な IT導入

図表1-1-4-1.経営戦略と IT戦略の関係性

Q3-1:経営上の改革とIT戦略の関係性 (N=158)

46.8% 24.7% 23.4% 3.8%

1.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

どちらかといえば経営戦略とIT戦略は関わっている 経営戦略とIT戦略は強く関わっている

どちらかといえば経営戦略とIT戦略は独立して実施されている 経営戦略とIT戦略は全く独立して実施されている

無回答

24

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-1-4-2.IT戦略の実行状況

Q3-2M001:IT戦略の実行状況 (N=158)

13.9%

15.8%

15.2%

15.8%

10.8%

23.4%

15.8%

29.7%

24.7%

13.3%

10.1%

39.2%

38.6%

34.2%

39.2%

38.6%

38.6%

28.5%

46.2%

46.2%

34.8%

22.2%

20.9%

20.9%

26.6%

24.1%

23.4%

22.2%

25.9%

17.7%

21.5%

32.3%

33.5%

21.5%

19.6%

17.1%

13.3%

19.6%

9.5%

21.5%

5.1%

15.8%

29.7%

4.4%

5.1%

7.0%

7.6%

7.6%

6.3%

8.2%

3.2%

2.5%

3.8%

4.4%

3.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

取引先の絞込み・変更を含む見直し

取引条件の変更

開発・設計方法の見直し

生産・調達方法の見直し

販売方法の見直し

在庫・発注方式の見直し

物流拠点や物流手段の見直し

財務会計制度の見直し

管理会計の仕組みの見直し

人事制度の改革

1配置転換の実施

実現している 一部実現 検討レベル 実現していない 無回答

経営戦略と IT戦略の関係では、「強く関わっている」「どちらかと言えば関わっている」の合計

は7割強であった。IT戦略の実行状況としては、「財務会計制度の見直し」(29.7%)、「管理会計

制度の見直し」(24.7%)、「在庫・発注方式の見直し」(23.4%)と言った項目の実現度が高いと

いう結果であった。

(5)CIOについて

図表1-1-5-1.CIOの人物像

Q4-1-1:貴社のCIO(あるいはCIO相当役)に特に求められる能力と実現度合い

75.3%

47.5%

54.4%

64.6%

32.9%

40.5%

17.1%

61.4%

48.1%

67.7%

67.8%

46.1%

51.3%

37.4%

25.2%

29.6%

12.2%

56.5%

41.7%

59.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力

組織の管理と人材育成能力

業務手続や企業情報の管理能力、経営能力

情報化戦略立案能力

プロジェクト/プログラム管理能力

投資リスク・変更管理能力

電子商取引やウェブサービスの戦略管理能力

情報セキュリティと情報保全に関する知識

社会環境の把握と予測能力

戦略や企画を実行に移す実践力

求められる能力(N=158)

実現度合い(N=115)

25

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図表1-1-5-2.CIO(あるいはCIO相当役)の支援組織

Q4-2:貴社のCIO(あるいはCIO相当役)の支援組織について (N=158)

41.1%

27.8%

12.7%

7.0%

3.2%

8.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

IT部門の部門長や部課長がCIOの情報能力をサポートする「CIOチーム型」

CIOとIT、財務会計など各分野の少数精鋭の社内横断的な専門家集団でCIOをサポートする「CIOオフィス型」、CIOは総合的な判断を下す。

CIOは名目上であり、実質はCIO補佐官相当の人間が機能を果たす「CIO補佐官型」

CIOと施策を実行に移す大人数実行部隊で構成される「IT企画部型」

CIOが全ての権限を持ち、ほとんど独力で業務を処理する「トップダウン型」

無回答

図表1-1-5-3.CIO(あるいはCIO相当役)のキャリアパス

Q4-3:貴社のCIO(あるいはCIO相当役)のキャリアパスについて (N=158)

39.9%

39.9%

25.9%

13.9%

10.8%

7.6%

2.5%

0.0%

0.0%

0.0%

9.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

経営企画関連部門

総務・人事・財務関連部門

情報システム関連部門

業務部門

他社

その他

その他

学識者・有識者

自治体等

政府関係機関

無回答

CIOの能力では、「情報化戦略立案能力」について、求められている(64.6%)のに対して、実

現できていない(37.4%)というギャップが大きい結果であった。

CIOの支援組織体系としては、「IT部門の部門長や部課長がCIOの情報能力をサポートするCIO

チーム型」が最も多く(41.1%)、一方で、「CIOが全ての権限を持ち、ほとんど独力で業務を処

理するトップダウン型」という回答は 3.2%にとどま

CIOのキ

った。

ャリアパスとしては、自社から選任され 参考:CIOの主な経歴(日経情報ストラテジー、2007年)

情報システム,

41.1%

経理・財務,

15.0%

経営企画, 15.0%

営業・販売・マー

ケティング, 13.2%

研究・開発, 2.8%

総務, 4.6%

製造・生産管理

2.8%

人事・労務, 0.6%購買・調達, 0.6%

その他, 4.3%る企業が多く、「経営企画関連部門」、「総務・人事・

財務関連部門」がそれぞれ 39.9%という結果であっ

た。この結果は、日経情報ストラテジーによる全国

調査と比較すると、情報システム関連部門出身の

CIOが少なく、関西企業の特徴といえる。

26

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第2章 企業と自治体の情報化代

(6)IT主管部門について

図表1-1-6-1.IT主管部門

Q5-1-1:IT企画や情報システムに関連する業務はどの部署が担当していますか。

73.1%

47.3%

40.9%

32.3%

8.6%

6.5%

5.4%

4.3%

4.3%

46.0%

60.0%

38.0%

40.0%

16.0%

22.0%

26.0%

18.0%

20.0%

57.1%

46.2%

43.7%

57.1%

84.9%

74.8%

84.9%

74.8%

89.1%

6.8%

65.9%

38.6%

6.8%

2.3%

13.6%

13.6%

13.6%

9.1%

17.9%

30.8%

20.5%

17.9%

43.6%

30.8%

51.3%

71.8%

35.9%

4.2%

12.5%

16.7%

16.7%

75.0%

91.7%

54.2%

91.7%

54.2%

0.0%

1.8%

7.0%

29.8%

28.1%

64.9%

14.0%

28.1%

33.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全社的IT戦略や中期計画の策定

業務改革(BPR)・業務システム計画

業務指標モニタリング・評価

システム評価・診断・監査

社内向けヘルプデスク

業務システム開発

OA環境整備

業務システム運用

ネットワークシステム基盤構築・整備

経営企画部・社長室等(N=93)

システム企画部・業務企画部等(N=50)

情報システム部(N=119)

部門内企画担当部署(N=44)

部門内システム担当部署(N=39)

システム子会社(N=24)

外部業者(N=57)

ITの主管部門は、全社的 IT戦略や中期計画の策定は「経営企画部・社長室等」で行われてお

り、それ以外の業務は、情報システム部やシステム子会社で主に行われている、という結果であ

った。

(7)企業情報システム利用スキルについて

図表1-1-7-1.企業情報システムに対する従業員の理解度における目標

Q6-1-1:貴社の企業情報システムに対する従業員の理解度(システム利用スキルの習得度)における目標についてお伺いします (N=158)

69.6%

22.3%

19.6%

20.1%

5.1%

43.9% 13.7%

3.8%1.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

目標

実現

全従業員が、各職責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

管理職の従業員が業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができることを目標とする

業務上必要な、一部の従業員だけが業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

理解度は教育を受ける従業員各自に任せている

無回答

企業の情報システムに対する従業員の理解度は、目標としては「全従業員が、各職責に応じた

業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる」(69.6%)が最も多く、その実

現度は 22.3%であった。

27

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(8)IT人材について

図表1-1-8-1.IT部門の従業員に対する教育・活用について Q7-1M001:貴社のIT部門の従業員に対する教育・活用についてお伺いします。各項目にについて、該当すると思われる実現度をひとつ選択してください。

(N=158)

8.2%

4.4%

1.9%

1.3%

9.5%

2.5%

0.6%

3.8%

3.8%

53.8%

21.5%

10.8%

28.5%

24.1%

27.2%

10.8%

26.6%

50.0%

24.7%

38.0%

34.8%

34.2%

34.2%

35.4%

25.3%

36.1%

23.4%

7.6%

29.7%

45.6%

27.8%

21.5%

25.9%

56.3%

29.1%

16.5%

2.5%

3.8%

4.4%

5.7%

5.7%

3.8%

2.5%

0.6%

2.5%

3.8%

3.8%

3.2%

3.2%

5.1%

3.8%

3.2%

3.8%

3.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

社内IT部門のミッション・職務機能・スキルミックス・責任分解を明確にしている

ITスキル標準などを活用して、社内IT部門の従業員の技術力・スキルを客観的・数量的に把握

する仕組みを持っている

社内IT部門の従業員のスキルを外部の評価基準(第三者など)を参照して評価している

社内のIT部門の従業員のスキル獲得は、人事評価やキャリアパスとリンクされている

社内IT部門の従業員に対して、経営戦略とIT戦略の関係について、CIO自らが定期的に説明し

ている

IT戦略に沿って、社内IT部門の従業員の採用計画(人数、スキル等を考慮)、採用方針を設定

している

社内IT部門の従業員が、一定期間、ITユーザ部門に異動する仕組みがある

社内IT部門の従業員のスキル獲得のための教育プログラムを整備している

社内IT部門の従業員が新技術や不足するスキルを獲得するために、定期的に社外のプログラ

ムに参加したり、先進企業で研修を受けたりさせている

自信を持って実現していると思う 実現していると思う あまり実現していないと思う 実現していないと思う わからない 無回答

IT部門の従業員に対する教育・活用に関しては、「社内 IT部門のミッション・職務機能・スキ

ルミックス・責任分解を明確にしている」、「社内 IT部門の従業員が新技術や不足するスキルを獲

得するために、定期的に社外のプログラムに参加したり、先進企業で研修を受けたりしている」

の2つが実現していると思われるという回答が多かったが、それ以外の項目については、実現度

は低かった。

(9)CIOのランクと他の項目との関係

図表1-1-9-1.CIOのランクと IT利活用ステージとの関係

CIOのランクとIT利活用ステージ の関係(N=158)

17.3%

2.2%

3.7%

65.3%

46.7%

25.9%

18.2%

17.3%

51.1%

70.4%

81.8%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

IT利活用ステージ1 IT利活用ステージ2 IT利活用ステージ3

28

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-1-9-2.CIOのランクと業況との関係

CIOのランクと業況との関係

18.7%

17.8%

29.6%

36.4%

37.3%

35.6%

40.7%

36.4%

30.7%

33.3%

7.4%

18.2%

2.7%

4.4%

3.7%

9.1%

10.7%

8.9%

18.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

上向いている なだらかに上向いている 横ばいである 悪化している 無回答

図表1-1-9-3.CIOのランクと経営、IT戦略の関係

CIOのランクと経営戦略、IT戦略の関係

9.3%

26.7%

37.0%

90.9%

52.0%

55.6%

33.3%

9.1%

29.3%

15.6%

29.6%

0.0%

6.7%

2.2%

0.0%

0.0%

2.7%

0.0%

0.0%

0.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

経営戦略とIT戦略は強く関わっている どちらかといえば経営戦略とIT戦略は関わっている

どちらかといえば経営戦略とIT戦略は独立して実施されている 経営戦略とIT戦略は全く独立して実施されている

無回答

29

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図表1-1-9-4.CIOのランク、IT利活用ステージと投資効果の関係

CIOのランクとIT投資の効果の関係

20.3%

39.5%

37.0%

28.1%

48.8%

63.6%

87.5%

88.4%

88.9%

100.0%

29.7%

53.5%

51.9%

72.7%

3.1%

0.0%

3.7%

0.0%

63.6%

51.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=64)

ランク2(8点以下)(N=43)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

売上げ増加等の収益改善

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

経営のスピードアップ、業務の効率化

従業員の意識向上や職場の活性化

その他

IT利活用ステージとIT投資効果の関係

33.3%

32.9%

52.4%

77.8%

90.4%

88.9%

22.2%

39.7%

52.4%

11.1%

1.4%

1.6%

49.2%

11.1%

20.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ステージ1(N=9)

ステージ2(N=73)

ステージ3(N=63)

IT利活用ステージ

売上げ増加等の収益改善

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

経営のスピードアップ、業務の効率化

従業員の意識向上や職場の活性化

その他

図表1-1-9-5.IT投資効果とCIOへのキャリアパスの関係

IT投資効果とCIOのキャリアパスとの関係

27.7%

25.9%

29.7%

29.0%

55.3%

50.0%

45.8%

38.7%

42.6%

44.8%

39.0%

48.4%

17.0%

19.0%

16.9%

11.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

売上げ増加等の収益改善

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

経営のスピードアップ、業務の効率化

従業員の意識向上や職場の活性化

情報システム関連部門

経営企画関連部門

総務・人事・財務関連部門

業務部門

30

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第2章 企業と自治体の情報化代

CIOのランクとは、CIOの能力の実現度等を数値化したもので、ランクが高いCIOほどたくさ

んの能力を有しているというものである。

このCIOのランクと IT利活用ステージの関係を見ると、高ステージの企業ほど、高ランクの

CIOがいるという結果となった。また、CIOのランクと業況との関係を見ると、高ランクのCIO

がいる企業の方が、おおよそ業況は上向いているとの回答をしていることが分かる。同様に、CIO

のランクと経営戦略・IT戦略との関係を見てみると、高ランクのCIOがいる企業は、経営戦略と

IT戦略の関わりが高いことが分かる。

さらに、CIOのランクと IT投資効果との関係を見て見ると、高ランクにCIOがいる企業では、

売り上げ増加等の収益の改善が効果として認められるようになっていることが分かる。同様の傾

向は IT利活用ステージとの関係でも認められる。

図表1-1-9-6.CIOのランクとCIOの支援組織との関係

CIOのランクとCIOの支援組織との関係

2.7%

4.4%

3.7%

17.3%

37.8%

44.4%

18.2%

41.3%

40.0%

33.3%

63.6%

6.7%

2.2%

11.1%

18.2%

14.7%

15.6%

7.4%

17.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

CIOが全ての権限を持ち、ほとんど独力で業務を処理する「トップダウン型」

CIOとIT、財務会計など各分野の少数精鋭の社内横断的な専門家集団でCIOをサポートする「CIOオフィス型」、CIOは総合的な判断を下す

IT部門の部門長や部課長がCIOの情報能力をサポートする「CIOチーム型」

CIOと施策を実行に移す大人数実行部隊で構成される「IT企画部型」

CIOは名目上であり、実質はCIO補佐官相当の人間が機能を果たす「CIO補佐官型」

無回答

CIOのランクとCIOの支援組織の関係を見ると、高ランクのCIOの支援組織としては、低ラ

ンクでは見られない「IT企画部型」が組織されていることが分かる。中ランクのCIOの組織体系

としては「CIOオフィス型」である。

31

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図表1-1-9-7.CIOのランクとCIOのキャリアパスとの関係

CIOのランクとキャリアパスとの関係

20.0%

37.8%

22.2%

27.3%

30.7%

40.0%

40.7%

45.5%

9.3%

20.0%

18.5%

9.1%

10.7%

4.4%

3.7%

9.1%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

8.0%

11.1%

18.5%

9.1%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

2.2%

11.1%

0.0%

18.7%

2.2%

0.0%

0.0%

46.7%

44.4%

63.6%

38.7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

情報システム関連部門

経営企画関連部門

総務・人事・財務関連部門

業務部門

その他

政府関係機関

他社

学識者・有識者

自治体等

その他

無回答

図表1-1-9-9.CIOのランクと企業情報システムに対する従業員の理解度との関係

CIOのランクと企業情報システムに対する従業員の理解度の実現度合い

14.7%

8.9%

40.7%

45.5%

10.7%

26.7%

22.2%

18.2%

36.0%

48.9%

29.6%

36.4%

17.3%

8.9%

7.4%

21.3%

6.7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

全従業員が、各職責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

管理職の従業員が業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができることを目標とする

業務上必要な、一部の従業員だけが業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

理解度は教育を受ける従業員各自に任せている

その他

無回答

CIOのランクと企業情報システムに対する従業員の理解度との関係を見ると、高ランクのCIO

がいる企業では、従業員の企業情報システムに関する理解度が高いことが分かる。

32

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第2章 企業と自治体の情報化代

◇ 上場企業「IT利活用」ヒアリング調査結果

■ 調査対象企業について

アンケート結果より、IT利活用の項目の中でも特に意識が高いと思われる特徴的な上場企業を

5社抽出し、ヒアリング調査を行った。

ヒアリング調査対象企業の業種と主だった質問項目は以下の通り。

企業名 業種 主な質問項目

株式会社堀場製作所 電気・精密機械 IT投資による競争力の向上、効率化

IT人材育成

株式会社びわこ銀行 銀行・保険 IT投資による競争力の向上、効率化

IT人材育成

株式会社フェイス 通信・通信サービス 内部統制に関する取り組み

株式会社ロイヤルホテル その他 CIOの機能、支援組織

内部統制に関する取り組み

(大手家電メーカー) 電気・精密機械 IT投資による競争力の向上、効率化

CIOの機能、支援組織

■ 主な調査結果

以下に、ヒアリング調査と調査時に提供された資料等より得られた取り組みの概略を述べる。

(1) CIO(相当役)と支援組織体制

CIOは社長や情報化担当役員等が務めており、全社的な IT戦略の方向付けや社内情報システム

部門のガバナンスなどを担当している。5社のうち、内部より昇格した人間が2人、外部から招

聘された人間が3人であった。外部招聘CIOのうち 2人が銀行出身者であり、セキュリティ意識

の高さを評価されていたのが特徴的であった。

CIOの支援組織の役割としては、例えば、IT投資案件の計画立案と決裁がCIOから支援組織に

提起され、それを支援組織で具体的な施策と予算に落とし込んだ上で、再度CIOに戻され、経営

会議にかけるという手順等が踏まれていた。ITに関する専門的な知識を持つ支援組織がCIOの考

える戦略をサポートするという体制である。

(2) IT投資と効果測定

IT投資に関する効果の測定は、主にサービスの向上と生産性向上に置いており、単純に人員削

減という尺度では判断されていなかった。これらの企業では積極的・継続的な IT投資が行われて

いるが、IT投資効果は見えにくいものであり、成果をわかりやすく目に見える形で示さないと、

ITに対する理解が深まらないとも考えている。

33

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(3)社内 LAN・ポータルサイトによる情報共有

社内 LANやポータルサイトを用いた情報共有は各企業で行われており、社内の連絡事項をはじ

め、他部署を含めた業務状況の把握、トップがオンタイムで経営状況を把握し判断できる、社長

が日々感じたことをブログ的にアップし、全社会議の様子をWebで公開することで、グループ全

社の価値観と情報の共有までもが図れているとの意見もあった。システム標準化による事務処理

コスト削減の効果が大きいとの意見も聞かれた。

(4)人材評価システム

人事評価システムはいくつかの企業で導入されており、どのような評価方法が望ましいのか検

討中であるとの意見から、今やシステムなしで適正な人事評価を行うことは考えられないとの意

見まであった。いずれも管理職から導入されており、順次社員まで降ろしていっている。

(5)内部統制と情報セキュリティ

内部統制の確立は、法制度変更もあり各社行われていた。特に、急成長している ITベンチャー

企業にとっては、企業規模を拡大しながら内部統制を進めるのは非常に負担が大きい。しかし、

企業不祥事が問題となっている昨今、会社全体の課題をリアルタイムで把握し、リスクを顕在化

していくためには、避けて通れない重要なテーマであると認識されていた。

情報セキュリティ対策としては、入退室管理への指紋認証システム導入やカメラ監視、個人端

末レベルでのデータの暗号化等、いずれの企業も高いレベルでなされていた。また、個人情報保

護対策として、データのメール添付禁止やUSBメモリ等への書き込めないシステム導入である。

また、システムダウンやサーバトラブル対応として、システムの二重化も行われていた。

その一方で、管理部門があまり窮屈な決めごとで足かせをしすぎると、クリエイティビティを

損なう恐れがあるとの意見もあり、生産性向上と管理との関係が難しいことが窺えた。

(6)IT教育

IT教育に関しては、積極的に外部研修やセミナーに参加させており、社内に持ち帰って報告さ

せることで知識を共有させている。また、e-ラーニングも導入している。

(7)関西における情報化推進の特徴

関西地域が抱える大きな問題点として、情報システム技術者や SEの東京流出を挙げる声は複

数社から聞かれた。また、IT情報も東京発信が中心であり、関西ではこちらからアンテナを張り

続けないと情報に乗り遅れるという意見も聞かれた。セミナー等の開催が東京中心なので、関西

で開催される機会がもっと増えればいいとの意見もあった。いずれも、関西の地盤沈下を不安視

する声であり、関西における情報化の課題である。

34

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第2章 企業と自治体の情報化代

1.2 中小企業

→ 中小企業の「IT利活用」のポイント

◆ アンケートより

IT導入は8割以上の企業で行われており、CIO(相当役)は3割以上の企業で存在している。

IT投資の問題点は、「IT活用能力・人材不足」、「システム構築に時間と労力がいる」となっ

ている。

CIOの有無と IT投資の問題点の克服策との関係では、CIOがいる企業では、「社内の業務改

善を徹底した」との回答が多いのに対して、CIOがいない企業では「最低限の資金を投入し

た」という回答が多い。

◆ ヒアリングより

先進中小企業では、ITを活用した競争力強化や、難しいと言われる技術継承の取り組みが行われていた。

技術のオープン化、見える化による新市場開拓の取り組みも見られた。

IT 経営推進の課題は、IT 投資効果が見えにくいことや、外部との連携ネットワークの構築

が挙げられた。

(1)IT利活用

図表1-2-1-1.IT導入状況

Q1:貴社の業務へのIT導入状況について、もっとも近い項目を一つだけ選択してください。 (N=790)

81.8% 15.1% 2.3%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

積極的に活用し、業務に活かしている

導入済みであるが、業務に活かされていない

導入していない(パソコン、その他のコンピュータもしくは携帯電話、ハンディターミナル、POSなどによるITシステムもない)

無回答

図表1-2-1-2.CIO(またはCIO相当役)の有無

Q2:貴社には、経営戦略的な視点から情報化を進める立場の役員(CIOあるいはCIO相当役)はいますか。該当するものを一つ選択してください。 (N=790)

32.8% 65.8% 1.4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1

CIOまたはCIO相当役はいる CIOまたはCIO相当役はいない 無回答

35

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IT導入は8割以上の企業で行われており、CIO(相当役)は3割以上の企業で存在するという

結果であった。

図表1-2-1-3.IT投資を行う上で社内で問題となる点

Q3:IT投資についてお伺いします。 IT投資を行う上で、社内で問題となる点について (N=790)

50.5%

48.5%

40.4%

20.0%

13.2%

9.1%

6.5%

4.4%

6.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

IT活用能力・人材の不足

システム構築に時間と労力がかかる

高額なIT投資を行っても効果が見えにくい

財政的な理由からIT投資を行えない

業務効率化に対する不安がある

IT化の推進が経営方針に係わるとは思われない

従業員の理解と協力が得にくい

経営トップの理解が得られない

無回答

IT投資の社内問題点は、「IT活用能力・人材不足」(50.5%)、「システム構築に時間と労力がい

る」(48.5%)、次いで「高額な IT投資を行っても効果が見えにくい」(40.4%)という結果であっ

た。「財政的な理由」は 20%程度にとどまった。

図表1-2-1-4.IT投資における問題点の克服方法

Q4:問3のIT投資における問題点について、どのようにして克服しましたか(N=790)

40.0%

32.7%

18.9%

17.8%

16.5%

11.0%

6.7%

12.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

効果を出すために必要な最低限の資金を投入した

単にIT化するだけでなく、社内の業務改善を徹底した

トップがIT化投資の目的を明確にして、陣頭指揮を執った

外部専門家(ベンダー、ITコーディネータ等)の支援を受けた

社員のIT、業務改善に関する教育に力を入れた

社員の改善意欲が高く、十分な協力体制が取れた

その他

無回答

上記の問題点に対する克服方法としては、「効果を出すために必要な最低限の資金を投入した」

(40.0%)、「単に IT化するだけでなく、社内の業務改善を徹底した」(32.7%)が多いという結果

であった。

36

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-2-1-5.IT投資の目的と効果

Q1-3-1:IT投資の目的と効果

92.9%

82.3%

62.8%

49.6%

2.1%

1.8%

89.9%

64.6%

41.4%

43.4%

1.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

業務のスピードアップ、効率化

住民サービスの質的向上

住民満足度の向上、利用者の増加

職員の意識向上や職場の活性化

その他

無回答

目的(N=113)

効果(N=99)

図表1-2-1-6.IT導入を推進していくために必要な支援策

Q6:今後、貴社でより一層のIT導入を推進していくために、どのような支援策が必要ですか。 (N=790)

45.3%

40.5%

38.5%

30.0%

23.7%

17.8%

16.7%

11.9%

7.7%

2.8%

4.4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

税制支援

低額システムの提供

システム開発等に対する助成

各種の研修・講習

資金の低利融資

IT導入事例の紹介

ITコーディネータ等アドバイザーの派遣

支援制度のPR

ポータルサイト等による情報提供

その他

無回答

IT投資の目的と効果は、上場企業と同様に「経営のスピードアップ、業務の効率化」が多いと

いう結果であった。「従業員の意識向上や職場の活性化」は、目的よりも効果が上回った。一方で、

「顧客満足度の向上、新規顧客の開拓」、「売上増加等の収益改善」については、目的と効果の間

にギャップがあり、効果があらわれない、あるいは、効果が分かりにくいことが窺える結果であ

った。

また、IT導入を推進していくために必要な支援策としては、「税制支援」(45.3%)、「低額シス

テムの提供」(40.5%)、「システム開発等に対する助成」(38.5%)の順で求められているという

結果であった。

37

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(2)CIOの有無と他の項目との関係

図表1-2-2-1.CIOの有無と業況との関係

CIOの有無と業況の関係 (N=790)

17.0%

9.0%

32.4%

23.8%

38.2%

45.8%

8.1%

16.9%

4.2%

4.4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

CIOまたはCIO相当役はいる(N=259)

CIOまたはCIO相当役はいない(N=520)

CIOの有無

上向いている なだらかに上向いている 横ばいである 悪化している 無回答

CIOの有無と業況との関係を見ると、CIO(相当役)がいる企業の方が、業況は上向いている

という回答が多いという結果となった。

図表1-2-2-2.CIOの有無と IT投資の問題点の克服策との関係

CIOの有無とIT投資における問題点の克服策との関係 (N=790)

36.3%

10.6%

26.3%

14.7%

9.4%

26.6%

11.3%

36.7%

22.4%

15.6%

3.5%

8.5%

45.6%

41.9%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50%

CIOまたはCIO相当役はいる(N=259)

CIOまたはCIO相当役はいない(N=520)

CIOの有無

トップがIT化投資の目的を明確にして、陣頭指揮を執った

単にIT化するだけでなく、社内の業務改善を徹底した

社員の改善意欲が高く、十分な協力体制が取れた

社員のIT、業務改善に関する教育に力を入れた

効果を出すために必要な最低限の資金を投入した

外部専門家(ベンダー、ITコーディネータ等)の支援を受けた

その他

また、CIOの有無と IT投資の問題点の克服策との関係を見ると、CIOがいる企業では、「社内

の業務改善を徹底した」との回答が多いのに対して、CIOがいない企業では「最低限の資金を投

入した」という回答が多い、という結果であった。

38

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-2-2-3.CIOの有無と IT投資の効果との関係

CIOの有無とIT投資効果との関係 (N=790)

19.7%

8.5%

24.7%

15.8%

30.9%

22.1%

2.3%

4.8%

66.3%

77.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

CIOまたはCIO相当役はいる(N=259)

CIOまたはCIO相当役はいない(N=520)

CIOの有無

売上げ増加等の収益改善

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

経営のスピードアップ、業務の効率化

従業員の意識向上や職場の活性化

その他

CIOの有無と IT投資の効果との関係を見ると、全体的にCIOがいる企業の方が、効果が出て

いるという結果となった。

39

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◇ 中小企業「IT利活用」ヒアリング調査結果

中小企業の IT活用による経営革新等への取り組みに当たっては、システム構築へのデータの蓄

積や設備投資、推進人材の確保と推進体制の確保など解決すべき課題も多い。

こうした課題解決への処方箋を検討し、IT活用による関西中小企業の活性化を促進することを

目的に、2006年度調査では、IT導入に積極的な関西中小企業への訪問ヒアリングを実施し、以下

のような中小企業の IT導入上の課題と対応策を取りまとめた。

中小企業のIT導入上の課題と対応策

< 対応策 > < 問題点・課題 >

IT活用スキルと業界に精通したスペシャリストの派遣

IT投資に対する 支援措置の充実

IT活用による経営革新成功事例・ ノウハウの提供

< 支援策の検討 >

IT推進役の確保

できることからシステムの定着化を図る

システム構築への高額な投資

IT化による効果が見えにくいこと

効率化に対する不安がありIT化への敷居が高い

IT活用能力の不足IT活用スキルと業界に精通したスペシャリストのアドバイス

社内における IT教育の充実

システム構築に時間と労力がかかる

IT化の推進は経営方針に係わることへの理解不足

企業戦略ツールとしてIT導入の目標を明確化

困っていることから段階的に投資

就業環境の改善など目に見えないメリットの理解

従業員の理解と協力が得にくい

(3)推進人材と推進体制の確保

(2)段階的なシステム構築

(1)IT導入目標の明確化

ボトムアップ方式でのシステム構築

実験しながら自社に適したシステムを構築

これに引き続き 2007年度は、IT活用による関西中小企業の経営革新を促進するための施策検

討の基礎資料に資することを目的に、各企業における経営課題とイノベーションツールとしての

IT活用の状況把握を中心に訪問ヒアリング調査を実施した。

なお、ヒアリング対象企業の選定は、関西中小企業の情報化実態を把握するために、2007年8

月に実施した「関西情報化実態調査アンケート」結果より、売り上げ増加、経営のスピードアッ

40

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第2章 企業と自治体の情報化代

プ、職場の活性化等に IT投資の効果があったと回答した中小企業をリストアップするとともに、

「IT経営百選」、「関西 IT活用企業百選」入選企業、中小企業戦略的 IT化促進事業採択企業およ

び ITコーディネータ紹介企業から、ヒアリング対象企業を選定した。

ヒアリングにご協力頂いた企業の IT活用事例

業種 企業名 IT活用事例

淀川変圧器㈱(伊丹市) ○在庫管理システムでレンタル業務を効率化

東海バネ工業㈱(大阪市) ○マーケットイン体制の構築と多品微量生産を支える生産シス

テムへの変革

㈱共伸技研(門真市) ○Webサイト「ブラシビレッジ」によるオーダーメイドを1個か

山岡金属工業㈱(守口市) ○携帯電話とQRコードを利用した生産管理システム

㈱日本電機研究所(大阪市) ○ERP(企業経営資源計画)によるスピ-ド経営の推進

㈱中田製作所(八尾市) ○資料検索システムによる生産効率のアップとHPによる新規

顧客の獲得

昭和電機㈱(大東市) ○顧客データベースの管理・運用と営業部門の相談窓口「is 工

房」

㈱シガウッド(長浜市) ○顧客の住宅仕様ニーズに合わせた生産管理システムの構築

八州電工㈱(大阪市) ○FAX注文書を効率よく処理する受注システム「FAXお助け名人」

ホリアキ㈱(東大阪市) ○得意先・仕入先情報の一元化による業務効率の向上

理化工業㈱(八尾市)

○加工条件等のデータ管理のシステムの導入による生産効率の

向上

太洋工業㈱(和歌山市) ○統合システムで受発注から社内業務まで効率化

湖北工業㈱(高月町) ○海外工場とのネットワークにより設備や部品等の組織管理の

強化

㈱マザーズ(東大阪市) ○WEBによる個人顧客ニーズに対応した立体駐車場の製造・販売

㈱オーミヤ(東大阪市) ○産学連携によりロー付け作業をデータ化し、生産性の向上を

図る

㈱栗原(大阪市) ○顧客ニーズに基づく帽子デザインデザイン企画から生産まで

の一貫したシステムを構築

アンドール㈱(西宮市) ○デザイナーの職人技のデータベース化

㈱サカエヤ(草津市) ○安全情報の発信から地域活性化を目指す

製造・卸売業 ㈱三晃(大和郡山市) ○ウィークリーマネジメントの導入による「惣菜キッド」事業

の展開

オンテックス㈱(大阪市) ○グループウェアの導入でペーパーレスを実現

マデイラジャパン㈱(堺市) ○煩雑な輸出入業務の効率化

関西商業流通㈱(東大阪市) ○顧客ニーズに合わせた業務再編とIT化

サービス業

㈱RPSセンター(大阪市) ○顧客へのスピーディな大容量の製版データの納品・見積作成

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1 経営革新と IT戦略

(1) 競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用のステップ

中小企業をめぐる環境変化に対応し、ITをツールに経営革新を積極的に推進していくことが重

要である。

「中小企業 IT化推進計画Ⅱ」(中小企業庁、平成 16年3月)では、中小企業が、これまで以上

に ITを利活用することにより、既存の問題や課題を打開し、ITによる経営革新を実現すること

で、中小企業が持つ強みを発揮することができるものと考え、「業務改善のための IT化」から「経

営革新のための IT利活用」をかかげ「元気で、活力のある中小企業」を創出し、新しい市場の開

拓や創業を促進するものと期待している。

そして、以下の中小企業における IT化の取り組み段階に応じた支援策を講じていくことをあげ

ている。

競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用のステップ

基盤整備 ・情報ツールの導入と使いこなすためのITリテラシー強化の段階

業務改善 ・個別業務システムの構築や社内におけるグループウエアの導入等企業内部におけるシステム構築を進める段階

経営革新 ・社内の経営資源活用や企業間取引など企業活動全体の最適化を進める段階

IT導入 IT利活用

情報提

人材育

アドバコンサ

モデル

リース融資、

施 策

出所:

基盤整備 業務改善 経営革新

情報ツールの導入、使いこなすためのITリテ

企業内部におけるシステム構築

社内の経営資源、企業間取引など企業活動全

IT化の段階

ラシ強化 体の最適化

成・啓蒙

イス ルティング

開発

税制

ポータルサイト、メールマガジン等による情報提供

ITセミナー、IT研修、eラーニング等

専門家(ITコーディネータ、中小企業診断士等)派遣等

IT経営革新モデル事業

IT貸付、IT投資促進税制等

中小企業庁「中小企業IT化推進計画Ⅱ」(平成16年3月)

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第2章 企業と自治体の情報化代

「基盤整備」の段階とは、IT化を進めるパソコン、インターネット、電子メール等の情報ツー

ルの導入と、使いこなすための ITリテラシー強化の段階である。

「業務改善」の段階とは、個別業務システムの構築や社内におけるグループウェアの導入等企

業内部におけるシステム構築を進める段階である。

そして「経営革新」の段階とは、社内の経営資源の活用や企業間取引などに情報システムやネ

ットワークシステムを積極的に利活用することにより、企業活動全体の経営革新やその最適化を

実現していく段階である。

(2) 競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用

①経営課題の認識と解決策の検討

ITは経営戦略に基づく業務改革を実現するためのツールであり、IT導入しただけで業務改革

ができるわけではない。ITを経営に有効に利活用するためには、ITを導入する前に経営戦略や

今後の業務のあり方を検討する必要がある。

経営課題の認識と解決策

脅 威

弱 み

既存事業の見直し

企業ブランド

新規事業展開

優れた技術・技能

多品種・小量生産

同業種との競争激化

SCMへの対応

価格競争力の強化

コスト削減

人材の育成・確保

在庫圧縮

売上げ拡大

マーケティング・販路開拓

工期短縮・スピード経営

強 み 「経営環境変化への対応」

「競争優位の確認と維持」

「顧客中心主義への転換」

ITを活用した新市場開拓

・インターネットを活用することにより直接、企業や一般消費者と取引

ITを活用した競争力強化

・自社の持つ高度なノウハウとITを融合させ、新たな高付加価値(スピ-ド化、多品種・小ロット化)を創出 ・IT導入により業務の無駄を徹底的に排除し、コストを削減

解決策の検討

機 会

経営課題

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ヒアリング企業の大半は、自社の保有する技術・ノウハウや経営資源について、その強み弱

みを認識し、「経営環境変化への対応」「競争優位の確認と維持」「顧客中心主義への転換」な

どを目的に、生産管理ツールのみならず、マーケティングツールとしての IT経営を推進してい

る。

ヒアリング企業にみる経営戦略

企業名 IT経営戦略

東海バネ工業㈱ ・オーダーメイドに必要な技術対応体制の高度化と顧客への各種対応

スピードアップの向上

㈱共伸技研 ・横請けからの脱皮と新規顧客の開拓

山岡金属工業㈱ ・拡大生産の時代ではなく、計画的な生産・販売が重要

㈱日本電機研究所 ・ERP(企業経営資源計画)によるスピ-ド経営の推進

㈱中田製作所 ・生産効率のアップと新規顧客の獲得

昭和電機㈱ ・良質な製品づくりと顧客への納期のスピード化

㈱シガウッド ・将来にわたる住宅着工戸数の減少の中で生き残るため、より一層の

品質向上のための生産体制の高度化とローコストオペレーション

システムの確立

八州電工㈱ ・「最適な商品を、必要なとき、要求の仕様で、適正な価格で届ける」

ことを目指す

ホリアキ㈱ ・曖昧な注文にも正確に対応できるサービスの向上

理化工業㈱ ・地場産業であるネジの熱処理では生き残れないと多品種小ロットの

幅広い受注に応えられる体制を目指す。

湖北工業㈱ ・9割が海外生産であり、グローバルネットワークの構築を推進

㈱栗原 ・自社ブランドをいかにもつか、消費者の求めているものをどのよう

に提供するかを追求。

アンドール㈱ ・2年前の経営悪化を契機に、生産の精度向上と生産工程の短縮化に

よる業務の効率化を検討。

㈱三晃 ・生産指示の標準化と「歩留り管理」

マデイラジャパン㈱ ・煩雑な輸出入業務の効率化

関西商業流通㈱ ・組織の再編と業務の効率化

㈱RPSセンター ・新規事業への展開と既存業務の効率化

㈱サカエヤ ・近江牛のトレーサビリティシステムの構築

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第2章 企業と自治体の情報化代

②ITを活用した競争力強化と新市場開拓

上記の事例企業の IT経営戦略に見られるように、経営課題の認識と解決策を検討し、ITを

活用した競争力強化と新市場開拓を推進している。

1)ITを活用した競争力強化

自社の持つ高度な技術・ノウハウと ITを融合させ、新たな高付加価値を創出していくこと

で競争力を強化する。また、IT導入により業務の無駄を徹底的に排除し、コストを削減する

ことでも競争力を強化できる。

ヒアリング企業においては、独自の技術力を背景に、その競争力を「短納期(スピード化)」、

「小量多品種(微量)生産」に対応した企業革新を目的に、IT化戦略を積極的に推進し、業

績向上に繋げている。

また、「カン・コツ」の職人技をデータ化し、社内共有を行うことによる生産性の向上と

人材育成に資する企業やパートナー企業や海外生産拠点とのネットワーク、SCM構築に IT

の利活用を推進している。

2)ITを活用した新市場開拓

インターネットを活用することにより直接、企業や一般消費者と取引することも可能とな

り、新たな販路や新市場を開拓することが容易となる。創業間もない企業にとっても、イン

ターネットを活用した市場開拓は大きな武器となる。

ヒアリング企業においては、Webサイトを活用し自社の保有する技術のオープン化、見え

る化により新たな顧客を開拓している。

ヒアリング企業に見る既存ビジネスの経営改革とIT経営

競争優位の確認と維持 顧客中心主義への転換 経営環境変化への対応

既存ビジネスの経営改革

2)ITを活用した新市場開拓

・インターネットを活用することにより直接、企業や一般消費者と取引

1)ITを活用した競争力強化

①「短納期(スピード化)」、「小量多品種(微量)生産」に対応した企業革新

② 職人技のデータ化による生産効率の向上

③ 企業間連携ネットワーク、SCMの構築

IT経営

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2 ヒアリング企業事例にみるIT経営戦略

ヒアリング企業の大半は、自社の保有する技術・ノウハウや経営資源について、その強み弱み

を認識し、「経営環境変化への対応」「顧客中心主義への転換」「競争優位の確認と維持」などを目

的に、①ITを活用した競争力強化と②技術のオープン化、見える化による新市場開拓を推進して

いる。

以下では、この IT経営戦略の事例を紹介する。

(1) ITを活用した競争力強化

ヒアリング企業は、自社の持つ高度な技術・ノウハウと ITを融合させた、高付加価値の創出や

業務の効率化によるコスト削減など競争力強化に向け、①「短納期(スピード化)」、「小量多品種

(微量)生産」に対応した企業革新、② 職人技のデータ化による生産効率の向上、③ 企業間連

携ネットワーク、SCMの構築を推進している。

①「短納期(スピード化)」、「小量多品種(微量)生産」に対応した企業革新

中小製造業においては、独自の技術力を背景に、その競争力を「短納期(スピード化)」、「小

量多品種(微量)生産」に対応した企業革新を目的に、IT化戦略を積極的に推進し、業績向

上に繋げている。

東海バネ工業㈱は、多品種微量生産メーカーとしての生き残りを賭けて、商品力・サービス

力の強化を図るため、30年前から5度のバージョンアップを経て「基幹システム」を更新して

きた。この基幹システムと卓越した技能をもつ「ばね職人」に支えられ、年間 2万5千~3万

件で平均ロット5個という、様々な種類の高品質・高機能のオーダーメイドばねを納期厳守率

99.97%で年間 1,000社の顧客に提供している。「基幹システム」には、すべての販売と生産技

術の履歴データが蓄積されており、これらの活用により多品種微量かつ不定期のリピートオー

ダーに難無く対応している。また、近年では、この強みを活かしたWebサイトや新システムに

より、新規顧客開拓や業務の効率の向上を図っている。

昭和電機㈱では、顧客からの短納期ニーズに対応し顧客満足度の向上に向け、過去の顧客と

のやり取りされた質問・問合せ情報をデータベース化し、その管理運用を図る「is工房」と

いう部門を創設した。市場から様々な問合せを受ける営業部門からの相談窓口であり、さらに

「is工房」への相談内容はQ&Aとしてデータベース化し、社内どこからでも検索可能で、営業

部門のユーザーへのレスポンスの短縮化と技術部門との双方向コミュニケーション強化に役

立っている。

理化工業㈱は、地場産業であるネジの熱処理では生き残れないと多品種小ロットの幅広い受

注に応えられる体制を目指した。このためには、業務を効率化し、スピーディな作業指示によ

る短納期を実現しなければならない。このため、加工条件等のデータ管理のシステム構築を進

め、各処理炉別の処理待ち品目数、延べ加工所要時間を自動算出表示させることにより、作成

時間を大幅に短縮化し、スピーディな作業指示による短納期を実現している。

アルミ専門の超精密部品加工・超微細加工を行う㈱中田製作所は、製造現場で仕事が一番出

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第2章 企業と自治体の情報化代

来る人間が過去の図面を探すのに、1日に 3~4時間費やしていた。これを金額換算すると年間

356万円の無駄である。そこで、図面、受注履歴、技術データ、製造プロセスを自社製の図面

管理システムで統合管理することとし、生産効率の大幅なアップを実現している。

「短納期(スピード化)」、「小量多品種(微量)生産」に対応した企業事例

企業名 事例概要

東海バネ工業

○マーケットイン体制の構築と多品微量生産を支える生産システムへの変

・当社では、蓄積情報の活用及び再活用と手間ヒマ項目をそのままにした

無駄を排除するとともに、営業を介さずにダイレクトに生産管理へ情報

伝達するとともに、情報オンライン構築による自動発注システムを構築

している。

・これにより、金属バネの多品種微量の完全受注生産において、「素早い需

要予測・即応出来る生産体制」を具体化し、ばねの多品種「微」量の完

全受注生産システムを構築している。

㈱中田製作所 ○資料検索システムによる生産効率のアップ

・作業現場で過去の図面を探すのに1日3~4時間を費やしていたが、図

面、受注履歴、技術データ、製造プロセスを自社製の図面管理システム

で統合管理し、生産効率のアップを図る。

昭和電機㈱ ○顧客データベースの管理・運用と営業部門の相談窓口「is工房」

・市場から様々な問合せを受ける営業部門からの相談窓口として「is工

房」という部門を創設(2002年 7月)している。

・さらに「is工房」への相談内容はQ&Aとしてデータベース化し、社内ど

こからでも検索可能で、営業部門のユーザーへのレスポンスの短縮化と

技術部門との双方向コミュニケーション強化に役立っている。

理化工業㈱ ○加工条件等のデータ管理のシステムの導入による生産効率の向上

・各処理炉別の処理待ち品目数、延べ加工所要時間を自動算出表示させる

ことにより、作成時間を大幅に短縮化し、スピーディな作業指示による

短納期を実現している。

㈱シガウッド ○顧客の住宅仕様ニーズに合わせた生産管理システムの構築

・受注物件が多岐にわたり、かつ変更も多いため、ミス無くスピーディ顧

客管理と生産及び在庫管理を行う生産管理システムを構築する。

八州電工㈱ ○FAX注文書を効率よく処理する受注システム「FAXお助け名人」

・受注処理「受注登録~製造出荷処理(伝票発行、チェック、配布)~顧

客への受注回答(回答書作成、FAX送信)の事務処理システムを構築

し、クレームの大幅減少と顧客満足の向上に寄与している。

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②職人技のデータ化による生産効率の向上

業務の効率化や「カン・コツ」の職人技をデータ化し、社内共有を行うことによる生産性の

向上と人材育成を行っている。

婦人衣料下着の企画・製造販売を行うアンドール(株)では、デザイナーの職人技のデータ

ベース化を図り、これは、企画から生産までを1つのシステムで行えるオリジナルなソフトウ

エア開発し、社内および海外工場との一貫した情報共有化を図った。これは、OEM生産での顧

客への一層のスピード化と小ロット・多品種と4シーズンに対応した企画デザイン開発の短命

化に対応し、生産性の向上とロスの削減化に資している。

職人技のデータ化は、一朝一夕に構築されるものではない。給排水機材・農事用品の製造販

売を行う(株)オーミヤでは、厳しい作業条件の中で経験値によるベテランの技能に大きく依

存しており、量産化の要請の中で、電気炉によるロー付け作業の自動化を模索していた。電炉

でのトライは、製品のバラツキ、強度不足、ローの流れすぎによる不安定さなどの問題を抱え、

多くの歩留まりを発生させていた。かつ製品は、見た目では判らずに、破壊しないと判らずそ

の対応に苦慮していた。

熟練技術者によるロー付け加工の電炉による自動化を図るため、その最適化研究を立命館大

学に依頼し、実証することとなる。立命館大学坂根先生の指導の下、現場に測定機器が持ち込

まれ大学院生が月2回、作業者と、様々な条件を設定し数値化を図り、自動化を可能とした。

職人技のデータ化による生産効率の向上を図る企業事例

企業名 事例概要

アンドール㈱ ○デザイナーの職人技のデータベース化

・デザイナーの職人技のデータベース化を図り、社内および海外工場との

一貫した情報共有を行う。

・このことにより、OEM生産での顧客への一層のスピード化や小ロット・

多品種と4シーズンに対応した企画デザイン開発の短命化へのスピーデ

ィな対応を図る。

㈱オーミヤ ○熟練技術者の「カン・コツ」を数値化

・ロー付けの最適化に向け、フラックス分布や炉の温度、時間、製品の並

べ方やかさ上げの間隔、炉に入れる製品の個数、フラックスの種類など、

多岐にわたる条件を仮設設定し、検証することにより、要因分析と数値

化を図る。

③企業間連携ネットワーク、SCMの構築

中小企業は、高付加価値化、高度技術の活用、独創的な製品開発等が求められる中で、如何

に社内と外部との繋がりを構築することで、市場化を意識した効果的なイノベーションに取り

組むこと(オープンイノベーション)が重要となっている。

IT利活用は、顧客や取引先との緊密な連携や企業の壁を超えたコラボレーションにとって有

益なものとして期待されている。

感度の高い場所に小売店を出店し、店に集まった情報を基にすぐに商品化する、実際の販売

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第2章 企業と自治体の情報化代

動向をもとにしたモノ作りを実践する㈱栗原では、市場変化に即応、意思決定の迅速化、過剰

在庫の抑制、有力工場、資材調達先とのパートナーシップの確立を図り、シーズンの予測見込

み、売れ筋商品の品薄の回避など小売情報から必要なデータを選択し、スピーディに顧客に提

供できる「経営情報トータルシステム構想」を推進している。

包装パッケージ製品の企画、開発、販売を行うホリアキ㈱は、顧客の注文が指定の商品番号

ではなく、パッケージに書かれている商品名称や時には『いつもの』といった曖昧な注文も多

く、膨大な数の商品から、お客様がほしい商品を探すことに苦慮していた。そこで、リピータ

が多い事に着目し、過去の受注履歴データから簡単に検索できるよう、得意先・仕入先情報の

一元化により迅速な検索・応答・受注・発注ができるデータベース・システムを構築し、大幅

な業務効率化を図っている。

山岡金属工業㈱では、外注先管理に携帯電話とQRコードを利用した厨房機器等の生産管理

システムを構築し、在庫削減効果と情報の共有化による業務効率の向上を進めている。

また、東海バネ工業㈱では、主な外注先及び購買先との情報オンライン構築で、全体の7割

を自動発注している。

企業間連携ネットワーク、SCMの構築を図る企業事例

企業名 事例概要

㈱栗原 ○顧客ニーズに基づく帽子デザインデザイン企画から生産までの一貫

したシステムを構築

・小売店舗の顧客の声を帽子デザインに落としこみ、商品化し販売でき

るように海外工場、国内工場との情報共有を進め(SCM)トータル

リードタイムの削減を図る。トータルリードタイムとは①市場変化に

即応②意思決定の迅速化③過剰在庫の抑制④有力工場、資材調達先と

のパートナーシップの確立である。

ホリアキ㈱ ○得意先・仕入先情報の一元化による業務効率の向上

・得意先・仕入先情報の一元化により迅速な検索・応答・受注・発注が

できるデータベース・システムの確立し、曖昧な注文にも正確に対応

できるサービスの向上を目的に、顧客データベースと仕入れ先へのス

ムースな発注システムを構築。

山岡金属工業㈱ ○携帯電話とQRコードを利用した生産管理システム

・外注先管理に携帯電話とQRコードを利用した厨房機器等の生産管理

システムを構築し、在庫削減効果と情報の共有化による業務効率の向

上を進めている。

東海バネ工業㈱

○発注情報オンライン構築

・主な外注先及び購買先との情報オンライン構築で、全体の7割を自動

発注

八州電工㈱ ○鋼材のカット販売の受注システム「まちのかじやさん」の構築

・新規事業として、DIY店頭での鋼材のカット販売の受注システム「ま

ちのかじやさん」(商標登録済み)のシステムを構築。

49

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こうした、IT利活用による企業間連携ネットワーク、SCMの構築は、調達・製造・販売・

在庫管理等の情報を交換することで、市場ニーズへの即応を図り、連携する各企業の効率化の

実現をもたらすものである。

しかしながら、その前提には情報の共有や開示への理解と協力が必要であり、そのための企

業間の信頼関係が構築されていることが重要である。

(2) 技術のオープン化、見える化による新市場開拓

インターネットを活用することにより直接、企業や一般消費者と取引することも可能となり、

新たな販路や新市場を開拓することが容易となる。中小企業の保有する技術のオープン化、見え

る化により新たな顧客を開拓している。

東海バネ㈱では、5年前にホームページを情報公開型のウェブサイトに変更した。そのコンセ

プトはバネ製品の e-ディクショナリー(辞書)である。設計や試作品の製作に活用できるように、

ウェブサイトを見ればバネの技術やノウハウが解るようにした。この結果、ウェブサイトからの

新規顧客は、リニューアルした 2003年に 100社、5年間で 1000社、2億 1000万円の受注に繋が

っている。

㈱共伸技研では、2000年 6月にホームページ開設。ほとんどアクセスがないにもかかわらず、

同年 9月にようやく京都の企業から耐熱性ブラシ製造の仕事を受注。これが初めての売上げ

(25,800円)になった。インターネットで出会った顧客とのコミュニケーションの中から、オーダ

ーメイドブラシを1個から、製造できるという強みを再発見し、ホームページでそのことを強く

アピールする。

インターネット営業は直接先方に出向くことがない分、迅速なメール対応が大切である。特に

オーダーメイドの受注では、製品の精巧さが求められるためブラシの形状や寸法は図で描いても

らい、製作過程のやりとりは顧客が返答しやすいYES・NO形式の質問をすることで効率化を図る。

このような工夫が実を結び、開設 1年半で事業は軌道に乗った。また、ネットで毎月の売上高の

推移を公開。経営の透明化が信用に繋がり、問合せ件数も増加し、現在ネット営業売上が全体に

しめる割合は約 20%。新規顧客のほぼ 100%がネットからの引き合いとなっている。

㈱中田製作所は、これまで「顧客の口コミが頼り」の営業活動であり、新規開拓できる営業人

員も限られており、新規開拓営業を必要としていた。会社の強みを情報発信するために技術動画

配信を主体としたホームページを立ち上げる。業界を代表する大手企業からの新技術開発案件の

相談の増加に寄与し、新聞・雑誌・テレビなどのメディアにも多く取り上げられた極微小径穴加

工技術や微細溝加工技術などは、インターネット営業が窓口となり、新規案件の受注は全てホー

ムページ経由となっている。

50

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第2章 企業と自治体の情報化代

技術のオープン化、見える化による新市場開拓事例

企業名 事例概要

東海バネ工業

○Webサイト「ばねのe-ディクショナリー型サイト」による新規顧客開拓

・Webサイトによる自社の技術・ノウハウのオープン化と材料在庫の公開に

よる新規顧客の獲得と在庫削減

㈱共伸技研 ○Webサイト「ブラシビレッジ」によるオーダーメイドを1個から

・横請けからインターネット活用による新規顧客を開拓、インターネット

経由の売上高をWebで社外にも公開

㈱中田製作所 ○技術動画配信を主体としたホームページを活用した営業活動

・業界を代表する大手企業からの新技術開発案件の相談が増加。実際に新

聞・雑誌・テレビなどのメディアにも多く取り上げられた極微小径穴加

工技術や微細溝加工技術などは、インターネット営業が窓口となり、新

規案件の受注は全てホームページ経由

昭和電機㈱ ○Webサイト「風力のis工房」

・ホームページ上に「風力のis工房」というサイトを運営して、広く自

社の技術やノウハウを公開し、送風機やその周辺機器の問合せに答えて

いる。

㈱マザーズ

○WEBによる個人顧客ニーズに対応した立体駐車場の製造・販売

・立体駐車場の設置を考えている個人ユーザーに WEB で手軽に導入を検討

できるように、基本図面と設置写真をアップ、わかりやすく設置費用を

提供し、個人ユーザーからの直接的な受注を確保。

㈱サカエヤ ○売上より安全性を重視して、HPで情報発信

・近江牛の生産農家をレポートし、実店舗やサイトからご購入いただいた

お客様がご購入商品の生産者や履歴などすべての情報が閲覧できる独自

のトレーサビリティシステムを構築

51

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3 IT経営の成功要因と推進のための課題

ヒアリング企業の事例から以下の IT経営における成功要因と推進のための課題が抽出された。

(1) IT経営の成功要因

①経営課題の明確化と課題解決へのツールとしてのIT化

ヒアリング企業の大半は、自社の保有する技術・ノウハウや経営資源について、その強み弱

みを認識し、「経営環境変化への対応」「競争優位の確認と維持」「顧客中心主義への転換」な

どを目的に、生産管理ツールのみならず、マーケティングツールとしての IT経営を推進してい

る。

危機意識をもち経営革新を推進する経営者やCIO(経営戦略的な視点から情報化を進める

役員)のリーダーシップが発揮されていることが有効な IT利活用に結びついている。

②必要なところから段階的にIT化を推進

解決すべき課題の中で、最も重要なことや着手できることから、可能な範囲での投資を行い、

段階的にシステム化を図っている。

大がかりな生産管理システムを無理に導入するのではなく、いかに自社の業務効率を上げ、

経営改善を図るかである。㈱中田製作所や理化工業㈱の自社開発のシンプルなシステムであっ

ても、有効に機能し、大きな効果を発揮している。

③技術のオープン化、見える化

自社の保有する技術・ノウハウを隠すことなく、積極的に情報公開や情報開示を行い、顧客

への信頼を獲得している。

とりわけ、中小企業の弱点である販路開拓やマーケティングへのWeb活用に当たっては、自

社技術のオープン化、見える化が新規顧客の獲得に大きく寄与している。

④IT塾や外部専門家の活用

IT化の推進に当たっては、IT塾における知識の吸収やコーディネータや大学との連携など外

部の専門家を活用し、より効果的な IT利活用を進めている。

ヒアリング企業の中には、経営に精通したコーディネータと情報システムに強いコーディネ

ータによるコンサルタントを得て、短期間で IT経営の推進を達成している。

(2) IT経営の推進上の課題

①見えにくいIT投資効果

㈱中田製作所では、製造現場で仕事が一番出来る人間が過去の図面を探すのに、1日に 3~4

時間費やしていたが、図面検索システム・文書管理システムの構築により、ほとんどの勤務時

52

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第2章 企業と自治体の情報化代

間を生産活動に費やすことが出来た。これを人件費換算すると、

3h×@1,500円+3h生産活動+無駄だった 3h=13,500円

13,500円×22日×12ヶ月=3,564,000円

となると、その効果をあげている。

また、東海バネでは、ウェブサイトからの新規顧客は、5年間で 1,000社、2億 1000万円の

受注に繋がっており、㈱共伸技研では、現在ネット営業売上が全体にしめる割合は約 20%。新

規顧客のほぼ 100%がネットからの引き合いである。

このように IT投資の効果が明確化されることもあるが、IT投資効果は、定性的な評価とな

る場合が多い。

IT化を推進すればするほど IT投資額が増大するし、システムの改修も生じてくる。IT投資

に見合う効果が得られない場合も多く、IT投資に対する効果が見えにくいことが、IT投資を阻

害している。IT利活用への各段階における投資効果や評価を可能とするマニュアルの提供など

が求められるところである。

②IT活用による「職人技」の継承

「“21世紀型職人”とは何かを追求しながら、ナレッジの共有・活用を今後効果的に行える

体制作りや個人的な技能や経験のバラツキを補える仕掛けが必要」「職人の『カン・コツ』の

世界があり、ビデオ取りして、文書管理データベースで管理し、技能の伝承を進めたい」とい

った課題があげられている。

職人技のデータ化は、一朝一夕に構築されるものではない。「カン・コツ」の職人技をデー

タ化し、社内共有を行うことによる生産性の向上と人材育成を大学等の連携により、推進して

いる事例に見られるように、大学等の研究機関との連携などにより、推進していくことも課題

解決に資するものと思われる。

③困難な外部連携ネットワーク構築

IT利活用による企業間連携ネットワーク、SCMの構築には、情報の共有や開示への理解と

協力が必要であり、そのための企業間の信頼関係が構築されている必要がある。一方のみが IT

投資に積極的であっても、他方が積極的でなければ、システムの構築は図れない。このため、

外注先や取引先との連携システムの構築への期待と実現へのギャップを課題とする企業も多

い。

経営者への IT経営の普及・啓発への裾野拡大が必要である。

53

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4 IT経営支援策の検討

ヒアリング企業の IT経営における成功要因と推進のための課題から、以下の中小企業の IT経

営の促進のための支援策が求められる。

(1) IT経営応援隊事業の活用促進など経営者研修や的確なアドバイス・コンサルティング

ヒアリング企業の IT経営推進に当たっては、IT塾における知識の吸収や IT経営へのアドバイス

が効果的な IT利活用を進めている。経営者自らが、IT経営の重要性を認識し、積極的に関与す

ることで IT経営は実現する。

IT経営応援隊事業の活用をはじめ、経営者研修や IT経営への的確なアドバイス・コンサルテ

ィングを推進していく必要がある。

(2) ITコーディネータ等をはじめ外部専門人材の活用促進

ITコーディネータや大学との連携など外部の専門家を活用し、IT経営の推進を達成しているこ

とが多く認められた。外部経営資源を必要とする企業のニーズに適切に応じることのできる ITコ

ーディネータ等の紹介をはじめ外部専門人材の活用促進を推進することが必要である。

(3) IT投資効果評価マニュアルの提供

IT経営の推進を阻害する要因として、IT投資への効果が見えにくいことが指摘されている。IT

化を推進すればするほど IT投資額が増大するし、システムの改修も生じてくる。IT投資に見合

う効果が得られない場合も多い。

適切な IT投資による競争力の向上や経営革新の実現への投資効果評価マニュアルなどを提供

していく必要がある。

(4) IT経営事例・制度の情報発信による意識啓発と裾野拡大

IT利活用による企業間連携ネットワーク、SCMの構築には、取引先など情報連携を行う多く

の関係者への働きかけが不可欠である。また、企業間の信頼関係が構築されている必要がある。

こうしたことから、外注先や取引先との連携システムの構築が困難とする企業も多い。

多くの中小企業が IT経営の必要性を認識できるよう、IT経営事例・制度の情報発信による意

識啓発と裾野拡大が必要である。

54

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第2章 企業と自治体の情報化代

IT経営支援策の検討

経営革新とIT経営

1)ITを活用した競争力強化

①「短納期(スピード化)」、「小量多品種(微量)生産」に対応した企業革新 ② 職人技のデータ化による生産効率の向上 ③ 企業間連携ネットワーク、SCMの構築

2)ITを活用した新市場開拓

・インターネットを活用することにより直接、企業や一般消費者と取引

IT経営推進上の課題 IT経営の成功要因

①経営課題の明確化と課題解決へのツールとしてのIT化

②必要なところから段階的にIT化を推進

③技術のオープン化、見える化

①見えにくいIT投資効果

②IT活用による「職人技」の継承

③困難な外部連携ネットワーク構築 ④IT塾や外部専門家の活用

顧客中心主義への転換

競争優位の確認と維持

経営環境変化への対応

④IT経営事例・制度の情報発信による意識啓発と裾野拡大

③IT投資効果評価マニュアルの提供

②ITコーディネータ等をはじめ外部専門人材の活用促進

①IT経営応援隊事業の活用促進など経営者研修や的確なアドバイス・コンサルティング

IT経営支援策の検討

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1.3 自治体

→ 自治体の「IT利活用」のポイント

◆ アンケートより

IT 利活用ステージ3以上の自治体は、2006 年度より微増したが、その一方でステージ1の

自治体が約 10%ポイント増加した。

IT利活用ステージの項目では、2006年度調査より、「組織形態」が上昇した。

IT投資の目的と効果は、「業務のスピードアップ、効率化」が最も多く、効果も出ていた。

CIO に求められる能力としては、「情報セキュリティと情報保全に関する知識」であるが、

実現度はやや低かった。

CIO(相当役)は、主に庁内より、「総務・人事・財務関連部門」または、「経営企画関連部

門」から選任されている。

◆ ヒアリングより

自治体のCIOは ITに関する専門的な知識や技術を持っているわけではないが、CIOのリー

ダーシップによって実施計画が庁内に浸透し、庁内全体で情報共有が図られている、

市民サービスの向上への取り組みとしては、コールセンター、電子申請、施設予約システムなどがあり、それぞれの自治体ごとに特徴的であった。

IT教育については、一般職員への IT研修は主に庁内で、IT部門職員への教育は外部で行わ

れていた。庁内研修では庁内 PC数に限りがあるため、受講希望者は多いが全員が受講でき

るわけではなく、e-ラーニング等でカバーされていた。

◇ 自治体の「IT利活用」アンケート調査結果

(1)IT利活用について

■IT利活用ステージ分析結果

・ 自治体(サンプル数 111) 団体数 割合(%)

ステージ3(組織全体最適化) 16 14.4

ステージ2(部門内最適化) 55 49.5

ステージ1(IT初期段階) 40 36.0

■(参考)平成18年度 IT利活用ステージ分析結果

・ 自治体(サンプル数 112) 団体数 割合(%)

ステージ3(組織全体最適化) 13 11.6

ステージ2(部門内最適化) 72 64.3

ステージ1(IT初期段階) 27 24.1

自治体の IT利活用ステージでは、昨年度よりステージ3以上の自治体が微増したが、その一方

でステージ1の自治体が約 10%ポイント増加した、という結果となった。

56

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-3-1-1.IT利活用ステージチャート図(平均値、右は平成 18年度)

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

自治体平均

自治体平均

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

取引関係変化への対応・BPR

自治体平均

図表1-3-1-2.ステージ別チャート(ステージ別平均値、右は平成 18年度)

自治体ステージ3

自治体ステージ2

自治体ステージ1

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

自治体ステージ3

自治体ステージ2

自治体ステージ1

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%経営手法・経営スタイル

組織形態

人材

情報共有

取引関係変化への対応・BPR

IT部門の体制

システム利用スキル

IT投資効果分析

図表 1-3-1-1は、IT利活用ステージ分析で用いた得点配分を、項目別平均点でそれぞれ表した

ものである。自治体は平均点で見ると、昨年度調査より、「システム利用スキル」が上昇し、「変

化への対応・BPR」の達成度が下降した。

図表 1-3-1-2でステージ別の平均点分布を見ると、ステージ2とステージ3で開きが大きい項

目は、「組織形態」と「変化への対応・BPR」であることが分かる。

57

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図表1-3-1-3.人口規模と IT利活用ステージ

Q20:IT利活用ステージ (N=109)

77.8%

33.3%

35.7%

15.8%

18.2%

22.2%

66.7%

53.6%

57.9%

18.2%

0.0%

0.0%

10.7%

26.3%

63.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1万人未満(N=18)

5万人未満(N=33)

10万人未満(N=28)

30万人未満(N=19)

30万人以上(N=11)

ステージ1 ステージ2 ステージ3

人口規模別の IT利活用ステージは、概ね、人口が大きい自治体ほど高い、という結果であった。

(2)自治体経営と IT

図表1-3-2-1.経営課題

Q1-1M001:貴団体における経営課題についてお伺いします。次の項目に示した経営課題解決へのITの活用・貢献度合いはどの程度ですか (N=113)

16.8%

9.7%

3.5%

10.6%

8.8%

14.2%

18.6%

6.2%

3.5%

5.3%

11.5%

5.3%

0.9%

1.8%

13.3%

30.1%

23.9%

50.4%

52.2%

36.3%

31.9%

27.4%

29.2%

15.9%

19.5%

20.4%

26.5%

29.2%

13.3%

27.4%

28.3%

19.5%

18.6%

19.5%

17.7%

28.3%

38.9%

31.9%

35.4%

41.6%

35.4%

39.8%

21.2%

16.8%

24.8%

15.0%

19.5%

11.5%

12.4%

23.0%

18.6%

29.2%

29.2%

23.9%

23.0%

24.8%

34.5%

15.0%

19.5%

3.5%

0.9%

18.6%

19.5%

14.2%

9.7%

15.0%

4.4%

8.8%

14.2%

4.4%

0.9%

0.9%

0.9%

2.7%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

首長もしくは上層部が総合計画の進捗度を把握できる

危機管理対応の迅速化

職員スキルに応じた庁内人事(適材配置)

情報システム導入による職員数削減

ITによる行政サービスの提供(実現度については他の自治体と比べて)

首長の考えや政策が職員に浸透している

住民からの意見要望を首長が常に把握できる

全庁的な調達の最適化(価格・品質ともに最適な調達先を常に選択)

広域行政への対応

施設に応じた資源(人・モノ・金)の選択と集中

決裁プロセスの迅速化

業務の見直し(BPR)

住民とのパートナーシップ(PPP)

特徴ある住民サービスの提供

実現している 一部実現 検討レベル 未達である IT以外で実現している 無回答

58

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-3-2-2.IT投資を成功に導くために実施した施策

Q1-2M001:IT投資を成功に導く為に実施した施策についてお伺いします。 (N=113)

19.5%

8.0%

15.0%

2.7%

2.7%

4.4%

21.2%

4.4%

14.2%

5.3%

6.2%

4.4%

39.8%

20.4%

33.6%

25.7%

37.2%

30.1%

8.0%

8.8%

58.4%

26.5%

16.8%

15.0%

17.7%

20.4%

18.6%

52.2%

22.1%

29.2%

28.3%

22.1%

35.4%

28.3%

12.4%

31.9%

33.6%

37.2%

28.3%

35.4%

11.5%

15.9%

18.6%

31.0%

17.7%

42.5%

48.7%

53.1%

7.1%

34.5%

31.0%

35.4%

33.6%

38.1%

25.7%

10.6%

6.2%

6.2%

1.8%

2.7%

5.3%

5.3%

0.9%

2.7%

4.4%

7.1%

13.3%

1.8%

3.5%

0.9%

0.9%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

IT投資目的の明確化

あるべき業務プロセスの明確化(ガイドライン等)

IT実行における庁内の役割分担の明確化

IT実行に対する充分な予算

的確な金額見積もり施策(積算ガイドラインの策定)

IT投資の効果測定指標の明確化

庁内で連携が図れる情報システム

トップダウンによるIT戦略の徹底(一般行政職員まで)

ビジョン(電子自治体イメージ)の明確化

業務改革(BPR)の実施

柔軟な組織の組換え

IT投資における PDCAサイクルの実践(PDCA:計画・実行・評価・改善)

CIOの確保

全職員に対する ITや業務知識の教育の実施

実現している 一部実現 検討レベル 実現していない わからない 無回答

自治体における経営課題解決への IT活用では、「住民からの意見要望を首長が常に把握できる」

(18.6%)、「首長もしくは上層部が総合計画の進捗度を把握できる」(16.8%)という、ITを活用

した情報把握が行われていることが分かる。一方で、「住民とのパートナーシップ」「人員整理・

雇用調整」といった項目は、IT以外で実現されているとの回答であった。

また、IT投資を成功に導くために実施した施策としては、「CIOの確保」(39.8%)、「全職員に

対する ITや業務知識の教育の実施」(20.4%)、「IT投資目的の明確化」(18.9%)という結果であ

った。

図表1-3-2-3.IT投資の目的と効果

Q1-3-1:IT投資の目的と実際の効果

92.9%

82.3%

62.8%

49.6%

2.1%

1.8%

89.9%

64.6%

41.4%

43.4%

1.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

業務のスピードアップ、効率化

住民サービスの質的向上

住民満足度の向上、利用者の増加

職員の意識向上や職場の活性化

その他

無回答

当初の目的(N=113)

実際の効果(N=99)

IT投資の目的と効果に関する回答では、「業務のスピードアップ、効率化」が最も多く、効果

も出ていた。一方で、次に目的としたとの回答が多かった「住民サービスの質的向上」(82.3%)

については、効果があったとの回答は 64.6%にとどまった。

59

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(3)組織の業績評価と人材評価

図表1-3-3-1.ITを活用した組織の業績評価及び人材評価の現状

Q2-1M001:ITを活用した組織の業績評価及び人材評価の現状についてお伺いします (N=113)

8.8%

2.7%

10.6%

15.9%

31.9%

32.7%

31.9%

32.7%

16.8%

15.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

組織の業績評価

人材評価

実施している 一部実現している 検討レベル 全く取り組んでいない わからない

ITを活用した組織の業績評価と人材評価では、実施しているという回答が、業績評価は 8.8%、

人材評価は 2.7%にとどまった。まだまだ進んでいないという現状である。

(4)革新的な IT導入

図表1-3-4-1.自治体経営上の改革と IT戦略の関係性

Q3-1:経営上の改革とIT戦略の関係性 (N=113)

43.4% 31.9% 11.5% 12.4% 0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

どちらかといえば経営戦略とIT戦略は関わっている どちらかといえば経営戦略とIT戦略は独立して実施されている

経営戦略とIT戦略は全く独立して実施されている 経営戦略とIT戦略は強く関わっている

無回答

60

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-3-4-2.IT戦略の実行状況

Q3-2M001:IT戦略の実行状況について (N=113)

6.2%

4.4%

3.5%

3.5%

1.8%

1.8%

14.2%

8.8%

2.7%

3.5%

21.2%

21.2%

16.8%

28.3%

35.4%

33.6%

25.7%

15.0%

12.4%

13.3%

40.7%

40.7%

45.1%

40.7%

38.9%

40.7%

38.9%

40.7%

49.6%

46.9%

30.1%

31.9%

32.7%

25.7%

22.1%

22.1%

20.4%

31.9%

32.7%

33.6%

1.8%

1.8%

1.8%

1.8%

1.8%

1.8%

0.9%

3.5%

2.7%

2.7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

調達先の絞込み・変更を含む見直し

調達条件の変更

施策立案方法の見直し

調達方法の見直し

行政サービス内容の見直し

行政サービス提供方法の見直し

財務会計制度の見直し

管理会計の仕組みの見直し

人事制度の改革

配置転換の実施

実現している 一部実現 検討レベル 実現していない 無回答

自治体経営上の改革と IT戦略の関連は、「どちらかと言えば関わっている」が 43.4%で最も多

い回答であった。次いで「強く関わっている」が 12.4%であった。

IT戦略の実行状況では、実現しているとの回答が、「財務会計制度の見直し」(14.2%)で最も

進んでいた。次いで「管理会計の仕組みの見直し」(8.8%)であった。一部実現まで含めると、

「行政サービス内容の見直し」(37.2 %)が進んでいる。

(5)CIOについて

図表1-3-5-1.CIOあるいはCIO補佐官(CIO相当役)の人物像

Q4-1-1:貴団体のCIO(あるいはCIO相当役)に特に求められる能力と実現度について (能力:N=113)、(実現度:N=54)

62.8%

54.0%

31.9%

57.5%

33.6%

38.9%

17.7%

69.0%

41.6%

50.4%

64.8%

57.4%

25.9%

31.5%

22.2%

24.1%

11.1%

44.4%

46.3%

50.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力

組織の管理と人材育成能力

業務手続や企業情報の管理能力、経営能力

情報化戦略立案能力

プロジェクト/プログラム管理能力

投資リスク・変更管理能力

電子商取引やウェブサービスの戦略管理能力

情報セキュリティと情報保全に関する知識

社会環境の把握と予測能力

戦略や企画を実行に移す実践力

求められる能力

実現している

61

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図表1-3-5-2.CIOあるいはCIO補佐官(CIO相当役)の支援組織

Q4-2:貴団体のCIO(あるいはCIO相当役)の支援組織について (N=113)

37.2%

28.3%

8.8%

7.1%

1.8%

16.8%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

IT部門の部門長や部課長がCIOの情報能力をサポートする「CIOチーム型」

CIOは名目上であり、実質はCIO補佐官相当の人間が機能を果たす「CIO補佐官

型」

CIOとIT、財務会計など各分野の少数精鋭の庁内横断的な専門家集団でCIOをサ

ポートする「CIOオフィス型」、CIOは総合的な判断を下す

CIOと施策を実行に移す大人数実行部隊で構成される「IT企画部型」

CIOが全ての権限を持ち、ほとんど独力で業務を処理する「トップダウン型」

無回答

CIOに求められる能力としては、「情報セキュリティと情報保全に関する知識」(69.0%)であ

り、次いで「組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力」(62.8%)であった。実現している能力

としては「情報セキュリティと情報保全に関する知識」は 44.4%にとどまった。

CIOの支援組織は、「CIOチーム型」(37.2%)が最も多く、これは上場企業と同じ結果であっ

た。「トップダウン型」は 1.8%にとどまった。

図表1-3-5-3.CIOあるいはCIO補佐官(CIO相当役)のキャリアパス

Q4-3:貴団体のCIO(あるいはCIO相当役)のキャリアパスについて (N=113)

14.2%

25.7%

38.9%

5.3%

22.1%

0.0%

2.7%

1.8%

1.8%

0.9%

0.0%

23.0%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45%

情報システム関連部門

経営企画関連部門

総務・人事・財務関連部門

業務部門

その他

政府関係機関

他の自治体

学識者・有識者

民間企業

他団体(財団法人等)

その他

無回答

庁内から専任

庁外より招聘

CIO(相当役)のキャリアパスとしては、「総務・人事・財務関連部門」(38.9%)が最も多く、

次いで「経営企画関連部門」(25.7%)という結果であり、庁外から選出は7%程度という結果で

あった。

62

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第2章 企業と自治体の情報化代

(6)IT主管部門について

図表1-3-6-1.IT主管部門

Q5-1-1:IT企画や情報システムに関連する業務はどの部署が担当していますか。

93.1%

48.3%

27.6%

41.4%

67.2%

86.2%

70.7%

48.3%

53.4%

29.4%

76.5%

5.9%

11.8%

11.8%

11.8%

58.8%

29.4%

66.7%

56.4%

48.7%

59.0%

79.5%

84.6%

82.1%

43.6%

71.8%

47.8%

87.0%

30.4%

30.4%

39.1%

34.8%

52.2%

26.1%

31.0%

38.1%

40.5%

88.1%

28.6%

35.7%

35.7%

35.7%

31.0%

0.0%

2.9%

92.9%

41.4%

32.9%

4.3%

15.7%

4.3%

15.7%

5.9%

13.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全庁的IT戦略や中期計画の策定

OA環境整備

庁内向けヘルプデスク

ネットワークシステム基盤構築・整備

システム評価・診断・監査

業務指標モニタリング・評価

業務改革(BPR)・業務システム計画

業務システム運用

業務システム開発

情報政策室(N=58)

システム企画部・業務企画部等(N=17)

情報システム部(N=39)

部門内企画担当部署(N=23)

部門内システム担当部署(N=42)

外部委託(N=70)

(7)職員の情報システム利用スキルについて

図表1-3-7-1.組織の情報システムに対する職員の理解度における目標

Q6-1-1:貴団体の企業情報システムに対する職員の理解度(システム利用スキルの習得度)について

62.8%

4.4%

11.5%

3.3%

11.5%

36.7%

9.7%

55.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

目標(N=113)

実現(N=90)

全職員が、各職責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

管理職の職員が業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができることを目標とする

理解度は教育を受ける職員各自に任せている

業務上必要な、一部の職員だけが業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

情報システムに対する職員の理解度は、目標としては「全職員が、各職責に応じた業務を可視

化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる」(62.8%)が最も多い回答であったが、そ

の実現度は 4.4%であった。

63

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(8)IT人材について

図表1-3-8-1.IT部門の職員に対する教育・活用について

Q7-1M001:貴団体のIT部門の職員に対する教育・活用について (N=113)

1.8%

0.0%

0.9%

8.8%

33.6%

8.0%

1.8%

7.1%

3.5%

5.3%

9.7%

19.5%

35.4%

29.2%

24.8%

22.1%

22.1%

22.1%

21.2%

10.6%

22.1%

20.4%

29.2%

62.8%

73.5%

61.9%

67.3%

62.8%

70.8%

54.9%

33.6%

4.4%

8.0%

0.9%

2.7%

0.9%

6.2%

9.7%

7.1%

1.8%

0.9%

1.8%

1.8%

1.8%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

庁内IT部門のミッション・職務機能・スキルミックス・責任分解を明確にしている

ITスキル標準などを活用して、庁内IT部門の職員の技術力・スキルを客観的・数量的に把握す

る仕組みを持っている

庁内IT部門の職員のスキルを外部の評価基準(第三者など)を参照して評価している

庁内のIT部門の職員のスキル獲得は、人事評価やキャリアパスとリンクされている

庁内IT部門の職員に対して、経営戦略とIT戦略の関係について、CIO自らが定期的に説明して

いる

IT戦略に沿って、庁内IT部門の職員の採用計画(人数、スキル等を考慮)、採用方針を設定して

いる

庁内IT部門の職員が、一定期間、ITユーザ部門に異動する仕組みがある

庁内IT部門の職員のスキル獲得のための教育プログラムを整備している

庁内IT部門の職員が新技術や不足するスキルを獲得するために、定期的に社外のプログラム

に参加したり、先進企業・団体で研修を受けたりさせている

自信を持って実現していると思う 実現していると思う あまり実現していないと思う 実現していないと思う わからない 無回答

IT部門の職員に対する教育・活用としては、実現しているとの回答が「定期的に社外のプログ

ラムに参加したり、企業・団体で研修を受けたりさせている」が 8.8%で、その他は低調な結果

とであった。

(9)CIOのランクと他の項目との関係

図表1-3-9-1.CIOのランクと人口規模との関係

CIOのランクと人口規模の関係 (N=113)

18.2%

13.3%

30.7%

33.3%

20.0%

27.3%

13.3%

20.0%

20.0%

18.2%

6.7%

20.0%

20.0%

3.4%

26.7%

40.0%

40.0%

6.7%

20.0%

2.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=88)

ランク2(8点以下)(N=15)

ランク3(12点以下)(N=5)

ランク4(13点以上)(N=5)

CIOのランク

1万人未満 5万人未満 10万人未満 30万人未満 30万人以上 無回答

CIO(相当役)の能力の多さによって作成したCIOランクと人口規模との関係では、人口の大

きな自治体ほど高ランクのCIO(相当役)がいることが分かった。

64

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表1-3-9-3.CIOのランクとCIOの支援組織との関係

CIOのランクとCIO(あるいはCIO相当役)の支援組織の関係 (N=113)

1.1%

26.7%

28.7%

60.0%

80.0%

75.0%

6.9%

6.7%

20.0%

34.5%

6.7%

25.0%

21.8%6.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=88)

ランク2(8点以下)(N=15)

ランク3(12点以下)(N=5)

ランク4(13点以上)(N=5)

CIOのランク

CIOが全ての権限を持ち、ほとんど独力で業務を処理する「トップダウン型」

CIOとIT、財務会計など各分野の少数精鋭の庁内横断的な専門家集団でCIOをサポートする「CIOオフィス型」、CIOは総合的な判断を下す

IT部門の部門長や部課長がCIOの情報能力をサポートする「CIOチーム型」

CIOと施策を実行に移す大人数実行部隊で構成される「IT企画部型」

CIOは名目上であり、実質はCIO補佐官相当の人間が機能を果たす「CIO補佐官型」

無回答

図表1-3-9-4.CIOのランクとCIOのキャリアパスとの関係

CIOのランクとCIO(あるいはCIO相当役)のキャリアパスの関係 (N=113)

12.5%

13.3%

40.0%

20.0%

20.5%

46.7%

40.0%

40.0%

35.2%

60.0%

60.0%

4.5%

40.0%

20.5%

26.7%

40.0%

20.0%

3.4%

6.7%

20.0%

2.3%1.1%

26.1%

13.3%

20.0%

46.7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

ランク1(4点以下)(N=88)

ランク2(8点以下)(N=15)

ランク3(12点以下)(N=5)

ランク4(13点以上)(N=5)

CIOのランク

情報システム関連部門

経営企画関連部門

総務・人事・財務関連部門

業務部門

その他

政府関係機関

他の自治体

学識者・有識者

民間企業

他団体(財団法人等)

その他

無回答

65

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◇ 関西自治体の業務システム導入率

関西の自治体が、全国的に見た情報化の進展具合は、総務省及び財団法人地方自治情報センタ

ーが実施した平成 18年度「業務システムの導入及び運用に要する経費等の調査」より測ることが

できる。この調査では、調査対象システムは 28あり、それぞれについて各自治体がシステム化さ

れているかどうかを答える形式となっている。

図より、関西の自治体はほとんどのシステムについて、関東地域および全国比よりも導入が進

んでおり、情報化について先進的な取り組みを行っている自治体が多いことが分かる。特に関西

地域で導入が進んでいるシステムは、「文書管理」、「施設予約」、「選挙投票」、「人事給与」等であ

り、逆に関西地域での導入が遅れているシステムは、「電子申請」、「電子申告」、「グループウェア」

等である。

全体的に、関西地域の ITを活用した住民サービスや業務効率化は進んでいると言える結果であ

った。

図.関西自治体のシステム導入状況

0

0.25

0.5

0.75

104戸籍

06自動交付機

12庶務事務

14文書管理

15統計

16土木積算

17公有財産管理

18統合型GIS

19公営住宅管理21グループウェア

22電子申請

23電子申告

24施設予約

25図書館

26電子調達

27情報提供

28システム間連携

関西

関東

全国

図.関西2府5県のシステム導入状況

0

0.25

0.5

0.75

104戸籍

06自動交付機

12庶務事務

14文書管理

15統計

16土木積算

17公有財産管理

18統合型GIS

19公営住宅管理21グループウェア

22電子申請

23電子申告

24施設予約

25図書館

26電子調達

27情報提供

28システム間連携

福井県

滋賀県

京都府

大阪府

兵庫県

奈良県

(出典:平成 18年度「業務システ

ムの導入及び運用に要する経費等

の調査」)

66

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第2章 企業と自治体の情報化代

◇ 自治体の「IT利活用」ヒアリング調査結果

■ 調査対象自治体

アンケート調査結果より、IT利活用ステージ分析において情報化が進んでいると考えられた次

の4団体に対して、その具体的な取り組み内容を中心にヒアリングを行った。

自治体名 人口規模 主な質問項目

京都市 100万人以上 IT投資によるサービスの向上、IT人材育成

堺市 30万人~100万人 IT投資によるサービスの向上、CIO機能と支援組織

枚方市 30万人~100万人 IT投資によるサービスの向上、CIO機能と支援組織

宝塚市 10万人~30万人 IT投資によるサービスの向上、IT人材育成

■ 主な調査結果

以下に、ヒアリング調査と調査時に提供された資料により得られた取り組みの概略を述べる。

(1) CIO(相当役)と支援組織体制

自治体のCIOは市長もしくは副市長が務めており、CIOをトップに、各部局長で構成する会議

体によって、施策の策定や進捗状況の把握が行われていた。CIO自身は ITに関する専門的な知識

や技術を持っているわけではないが、総合的な施策を進めるポストにある。このような合議体制

をとることにより、CIOのリーダーシップによって実施計画が庁内に浸透し、また、庁内全体で

情報の共有化が図られている。

その一方で、具体的な施策実行のための IT業務を請け負う情報化推進課等の部局は、必要なシ

ステムの開発・保守・運用や、情報化施策全体の調整を担当し、CIOをトップとした会議の支援

を行っている。民間枠として IT経験者を数名採用している自治体も見受けられた。

(2)電子決裁等の導入による組織のフラット化

ほとんどのヒアリング対象自治体で、申請・決裁の電子処理への移行が行われていた。電子決

裁・文書管理システム導入の効果としては、申請書類作成の手間が減ったことと、決裁が迅速に

なったことであった。申請書類が紙媒体であったときは、係長、課長、部長、局長、市長と順番

に回していかなければならなかったが、システム導入後は、パソコンでアクセスするだけで、決

裁することができる。また、進捗を見ることができるので、滞りがあってもすぐに見つけて決裁

を促し、先に上にあげて決裁する「代決」も円滑にできるようになったとのことだった。

(3)庁内ポータルサイトの活用による情報共有

庁議での市長の発言などを庁内のポータルサイトにアップし、全職員に伝える一方で、各部局

で進められている総合計画の進捗情報などは、担当部署が同様に庁内ポータルに掲載し、庁内で

情報共有されていた。これにより、市長の考えや政策が職員に浸透し、また、市長や上層部が進

捗情報を常に把握可能となり、同時に庁内通知等はペーパーレス化が図られている。

また、市民の声とそれに対する各部署の回答内容が、データベース化され、閲覧できるように

67

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なっており、これを見ながら職員が回答することで、回答レベルを揃える目的でも活用されてい

た。

(4)事業評価、人材評価システムの導入状況

事業評価システムとして、担当職員が庁内ポータルから入力した事業計画を、部長が承認と進

捗状況の確認ができ、毎年の事務事業評価のデータとしても活用されて、最終的には市民に公開

されるシステムが導入されている自治体があった。

人事評価システムでは、管理職以上級について目標管理システムを導入している自治体があっ

た。庁内ポータル内にそれぞれに目標を掲載し、目標に対する達成を評価している。仕事の効率

をどう上げるのか、市民サービスをどのように展開するのかといった目標を公表することで、モ

チベーションを高める効果がある。このシステムを順次一般職員にまで広げていく予定というこ

とであった。

(5)市民サービスの向上に向けた取り組み

市民サービスは、それぞれの自治体ごとに特徴的であった。

まず京都市では 2006年 1月よりコールセンターを導入し、市民とのコミュニケーションを高め

ている。2006年度の問い合わせ実績は 38,910件(電話 30,998件、FAX4,076件、メール 3,836件)

であり、内容は意見・要望の他、時期によっては苦情が殺到することもあり、京都市ならではの

観光情報の問い合わせも多い。集まった意見・要望・苦情はすべていったん広報課でまとめられ、

原本と一緒に市長や各局に回されて、次の基本方針や施策の立案に活かされている。その他、2007

年度に導入したグーグルマップを利用した京都市関連の施設情報の提供や、携帯向けサイトでの

観光情報の提供、市バス・地下鉄などの運行情報の提供も、市民からの評判が高い。

堺市では従来から、市民への情報提供やサービス提供を充実されるため、ホームページの運営

に注力している。最近、採用したコンテンツでよく活用されているものに、地図情報を提供する

「e‐地図帳」などがある。その一方で、大阪府との共同取り組みで導入した電子申請システムは、

利用があまり進んでいないのが実情であり、広く周知したいと考えている。

枚方市では会議の議事録やお知らせ、防災情報を載せたGIS情報提供のほかに、スポーツ施設・

生涯学習センター・防災センターなどの施設の空き情報の確認や予約が行える「施設予約システ

ム」を導入している。これにより市民は抽選のためにわざわざ施設に出向く必要がなくなり、自

宅にいながら 24時間施設予約が行えるようになった。インターネットから予約した場合は、クレ

ジットカードで利用料の支払いが行えるなど、サービスが進んでいる。また、抽選時の職員の負

担が軽減されるというメリットも生まれている。

宝塚市でも、枚方市と同様の施設予約システムが稼動しており、公民館へもインターネット予

約をはじめ、サービスの拡大を図る考えである。また、評判がいいサービスにもうひとつ、メー

ルによる情報提供がある。メールを受信するには登録が必要で、希望する市民だけが受け取れる。

イベント情報をお知らせするメール、防犯・防災情報を流す「安心メール」、男女共同参画センタ

ーからのメールマガジンなどがあり、中でも特に登録者数が増えているものに「ごみの日メール」

がある。宝塚市ではゴミの細かな分別を市民に協力してもらっているが、ゴミの種類によって出

す日が地域ごとに異なるので、ホームページ上で掲示すると同時に、希望者には「ごみの日メー

ル」を送信してお知らせしている。新聞等に取り上げられたこともあって、2007年 9月から始め

68

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第2章 企業と自治体の情報化代

て数カ月で、すでに登録者数は約 1,100名になっている。

(6)IT教育

一般職員への IT研修は、主に庁内で取り組まれている。ただし、PCを触りながらの講習形式

であるため、受講希望者は多いが、受講できるのは年間でも限られた人数である。これを補うた

めに、庁内 LANを利用した e-ラーニングシステムを導入し、同様のコンテンツをいつでも学べ

るようになっている。また、各部局が自前で講師を立てて自主研修を行っている自治体や、庁内

各部に情報化推進支援員を置き、幅広くサポートする体制をとっている自治体もあった。

IT部門職員への教育は、外部研修を含め数ヶ月間、基本的なプログラム作成やシステム管理と

いった研修を受け。その後 2年間を研修期間と位置付けるため、他部署よりも長く職員が在籍す

る自治体がある一方で、人事異動により担当者のスキルアップがうまくいっていないという意見

も聞かれた。

今後自治体では効率化のためにシステム開発・管理のアウトソーシングが進むと考えられる。

しかし、そうであっても現場で実際に業務を行うために、IT部門職員の IT知識やスキルは必要

である。それを危惧して ITスペシャリスト養成プログラムの実施を検討している自治体もあった。

(7)関西自治体における情報化推進の特徴

関西には、高い問題意識を持って個性的に IT化を推進している自治体が数多く存在し、それが

強みだと考えられる。しかも、力点の置き方がそれぞれ違うので、それらを持ち寄って知恵を出

し合えば、さらに関西自治体の情報化は進むのではないだろうか。

69

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1.4 上場企業と自治体の IT利活用比較

ここでは、これまで見てきた IT利活用に関するアンケート調査結果より、上場企業と自治体を

比較することで、両者の情報化の方向性の違いを把握する。

→ 上場企業と自治体の IT利活用に関する相違点のポイント

CIOについては、上場企業と自治体で求める能力に違いは少ないが、自治体では「情報セキ

ュリティと情報保全」能力について、求められる能力に対する実現度が低い。

IT投資の効果について、自治体では「住民サービスの質的向上」が、目的と実際の効果との

間に差が見られた。上場企業では、「従業員の意識向上や職場の活性化」について、予想以

上の効果が出ている。

(1)CIOについて

図表1-1-5-1.CIOの人物像(上:上場企業、下:自治体)

Q4-1-1:貴社のCIO(あるいはCIO相当役)に特に求められる能力と実現度合い

75.3%

47.5%

54.4%

64.6%

32.9%

40.5%

17.1%

61.4%

48.1%

67.7%

67.8%

46.1%

51.3%

37.4%

25.2%

29.6%

12.2%

56.5%

41.7%

59.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力

組織の管理と人材育成能力

業務手続や企業情報の管理能力、経営能力

情報化戦略立案能力

プロジェクト/プログラム管理能力

投資リスク・変更管理能力

電子商取引やウェブサービスの戦略管理能力

情報セキュリティと情報保全に関する知識

社会環境の把握と予測能力

戦略や企画を実行に移す実践力

求められる能力(N=158)

実現度合い(N=115)

Q4-1-1:貴団体のCIO(あるいはCIO相当役)に特に求められる能力と実現度合い

62.8%

54.0%

31.9%

57.5%

33.6%

38.9%

17.7%

69.0%

41.6%

50.4%

64.8%

57.4%

25.9%

31.5%

22.2%

24.1%

11.1%

44.4%

46.3%

50.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力

組織の管理と人材育成能力

業務手続や企業情報の管理能力、経営能力

情報化戦略立案能力

プロジェクト/プログラム管理能力

投資リスク・変更管理能力

電子商取引やウェブサービスの戦略管理能力

情報セキュリティと情報保全に関する知識

社会環境の把握と予測能力

戦略や企画を実行に移す実践力

求められる能力(N=113)

実現している(N=54)

70

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第2章 企業と自治体の情報化代

CIOに求める能力とその実現度では、上場企業、自治体ともに「情報化戦略立案能力」につい

て、求められる能力と実現度に乖離が見られた。しかし、自治体に関しては、最も求められる能

力は「情報セキュリティと情報保全に関する知識」であり、こちらの方が実現度との開きが大き

い。

(2)情報システム利用スキルについて

図表1-1-7-1.情報システムに対する従業員の理解度における目標(上:上場企業、下:自治体)

Q6-1-1:貴社の企業情報システムに対する従業員の理解度(システム利用スキルの習得度)における目標についてお伺いします (N=158)

69.6%

22.3%

19.6%

20.1%

5.1%

43.9% 13.7%

3.8%1.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

目標

実現

全従業員が、各職責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

管理職の従業員が業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができることを目標とする

業務上必要な、一部の従業員だけが業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

理解度は教育を受ける従業員各自に任せている

無回答

Q6-1-1:貴団体の企業情報システムに対する職員の理解度(システム利用スキルの習得度)について

62.8%

4.4%

11.5%

3.3%

11.5%

36.7%

9.7%

55.6%

0.9%

0.0%

3.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

目標(N=113)

実現(N=90)

全職員が、各職責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

管理職の職員が業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができることを目標とする

理解度は教育を受ける職員各自に任せている

業務上必要な、一部の職員だけが業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる

その他

無回答

情報システムに対する従業員の理解度は、上場企業、自治体ともに目標は「全従業員が、各職

責に応じた業務を可視化・数値化し、適正かつ合理的に進めることができる」が最も多いが、そ

の実現度には差が見られた。

71

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(3)IT人材について

図表1-1-8-1.IT部門の従業員に対する教育・活用について(上:上場企業、下:自治体) Q7-1M001:貴社のIT部門の従業員に対する教育・活用についてお伺いします。各項目にについて、該当すると思われる実現度をひとつ選択してください。

(N=158)

8.2%

4.4%

1.9%

1.3%

9.5%

2.5%

0.6%

3.8%

3.8%

53.8%

21.5%

10.8%

28.5%

24.1%

27.2%

10.8%

26.6%

50.0%

24.7%

38.0%

34.8%

34.2%

34.2%

35.4%

25.3%

36.1%

23.4%

7.6%

29.7%

45.6%

27.8%

21.5%

25.9%

56.3%

29.1%

16.5%

2.5%

3.8%

4.4%

5.7%

5.7%

3.8%

2.5%

0.6%

2.5%

3.8%

3.8%

3.2%

3.2%

5.1%

3.8%

3.2%

3.8%

3.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

社内IT部門のミッション・職務機能・スキルミックス・責任分解を明確にしている

ITスキル標準などを活用して、社内IT部門の従業員の技術力・スキルを客観的・数量的に把握

する仕組みを持っている

社内IT部門の従業員のスキルを外部の評価基準(第三者など)を参照して評価している

社内のIT部門の従業員のスキル獲得は、人事評価やキャリアパスとリンクされている

社内IT部門の従業員に対して、経営戦略とIT戦略の関係について、CIO自らが定期的に説明し

ている

IT戦略に沿って、社内IT部門の従業員の採用計画(人数、スキル等を考慮)、採用方針を設定

している

社内IT部門の従業員が、一定期間、ITユーザ部門に異動する仕組みがある

社内IT部門の従業員のスキル獲得のための教育プログラムを整備している

社内IT部門の従業員が新技術や不足するスキルを獲得するために、定期的に社外のプログラ

ムに参加したり、先進企業で研修を受けたりさせている

自信を持って実現していると思う 実現していると思う あまり実現していないと思う 実現していないと思う わからない 無回答

Q7-1M001:貴団体のIT部門の職員に対する教育・活用について (N=113)

1.8%

0.0%

0.9%

8.8%

33.6%

8.0%

1.8%

7.1%

3.5%

5.3%

9.7%

19.5%

35.4%

29.2%

24.8%

22.1%

22.1%

22.1%

21.2%

10.6%

22.1%

20.4%

29.2%

62.8%

73.5%

61.9%

67.3%

62.8%

70.8%

54.9%

33.6%

4.4%

8.0%

0.9%

2.7%

0.9%

6.2%

9.7%

7.1%

1.8%

0.9%

1.8%

1.8%

1.8%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

庁内IT部門のミッション・職務機能・スキルミックス・責任分解を明確にしている

ITスキル標準などを活用して、庁内IT部門の職員の技術力・スキルを客観的・数量的に把握す

る仕組みを持っている

庁内IT部門の職員のスキルを外部の評価基準(第三者など)を参照して評価している

庁内のIT部門の職員のスキル獲得は、人事評価やキャリアパスとリンクされている

庁内IT部門の職員に対して、経営戦略とIT戦略の関係について、CIO自らが定期的に説明して

いる

IT戦略に沿って、庁内IT部門の職員の採用計画(人数、スキル等を考慮)、採用方針を設定して

いる

庁内IT部門の職員が、一定期間、ITユーザ部門に異動する仕組みがある

庁内IT部門の職員のスキル獲得のための教育プログラムを整備している

庁内IT部門の職員が新技術や不足するスキルを獲得するために、定期的に社外のプログラム

に参加したり、先進企業・団体で研修を受けたりさせている

自信を持って実現していると思う 実現していると思う あまり実現していないと思う 実現していないと思う わからない 無回答

IT部門の従業員に対する教育・活用に関しては、自治体は全体的に実現度が低く、低調であっ

た。

72

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第2章 企業と自治体の情報化代

(4) IT投資の効果について

図表1-1-2-3.IT投資の目的と効果(上:上場企業、下:自治体)

Q1-3-1:IT投資の目的と効果

88.0%

51.9%

48.7%

43.0%

1.9%

4.4%

89.0%

41.4%

32.4%

44.1%

2.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

経営のスピードアップ、業務の効率化

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

売上げ増加等の収益改善

従業員の意識向上や職場の活性化

その他

無回答

目的(N=158)

効果(N=145)

Q1-3-1:IT投資の目的と実際の効果

92.9%

82.3%

62.8%

49.6%

2.1%

1.8%

89.9%

64.6%

41.4%

43.4%

1.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

業務のスピードアップ、効率化

住民サービスの質的向上

住民満足度の向上、利用者の増加

職員の意識向上や職場の活性化

その他

無回答

当初の目的(N=113)

実際の効果(N=99)

IT投資の目的と効果では、上場企業、自治体ともに「経営のスピードアップ、業務の効率化」

を目的として IT投資を行い、効果がでているという結果であった。その一方で、自治体では「住

民サービスの質的向上」については、目的と実際の効果との間に差が見られた。上場企業では、

「従業員の意識向上や職場の活性化」について、効果が目的を上回り、予想以上の効果が出てい

る。

73

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第2節 内部統制

2.1 上場企業

→ 上場企業の「内部統制」のポイント

◆ アンケートより

内部統制の狙いは、「財務報告の信頼性の確保」、「法令順守体制の確立」等

ITによる取り組みは「情報セキュリティの向上」、「財務報告の信頼性の確保」等

内部統制の確立の問題点は、「社内の認識が低い」、「継続的に業務プロセスの見直しや情報システムの改修を行う負荷が高い」等

内部統制の確立に向けた業務プロセスおよび情報システムの見直しによる業務改善効果は、まだ分からない

本調査では、企業の内部統制について、その狙いや情報システムの対応状況についてたずねて

いる。

(1)内部統制の確立、再構成に向けた取り組みおよび情報システムの対応状況

図表2-1-1-1.内部統制の狙いと ITによる取り組みの対象

Q8-1:貴社における①内部統制確立の狙いとITの取り組み

88.6%

88.0%

75.3%

66.5%

65.2%

60.1%

53.8%

49.4%

34.2%

1.3%

0.6%

68.7%

28.0%

26.0%

76.0%

26.0%

39.3%

16.0%

30.0%

50.7%

0.7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

財務報告の信頼性の確保

法令順守体制の確立

リスクマネジメント方針の明確化

情報セキュリティの向上

経営の透明性確保

業務の有効性・経営資源の効率的な使用

社員の意識向上

資産の適切な管理保全

情報システムの効率化・高度化・簡素化

その他

無回答

狙い(N=158)

ITの取り組み(N=150)

内部統制の狙いとしては、「財務報告の信頼性の確保」(88.6%)、「法令順守体制の確立」(88.0%)

が多く、次いで「リスクマネジメント方針の明確化」(75.3%)であった。ITによって取り組んだ

ものとしては、「情報セキュリティの向上」(76.0%)、「財務報告の信頼性の確保」(68.7%)とい

う結果であった。

74

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第2章 企業と自治体の情報化代

図表2-1-1-2. 内部統制の確立に向けた業務プロセスの見直し及び情報システム改修に関する問題点

内部統制の確立に向けた業務プロセスの見直しおよび情報システム改修について、現在抱える問題点(N=158)

37.3%35.4%

31.6%29.7%27.8%27.2%

22.8%16.5%

12.0%10.1%10.1%8.2%7.0%5.1%2.5%2.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

内部統制に対する社内の認識が低い

継続的に業務プロセスの見直しや情報システムの改修を行う負荷が高い内部統制の確立に向けた作業に充てる費用・人員がない

チェックの増加により業務効率が低下する

関連する管理部門の役割、権限が不明瞭である求められる統制のレベルが分からない

手作業による統制が多い

子会社、関連会社、アウトソーシング先への適用が進まない内部統制の確立に向けた作業を進めるにあたり、現場との情報共有が進まない

IT部門の内部統制へのコミットが弱いグループ全体(または親会社)の方針策定が遅い

CEOやCIOの内部統制への認識が高くない

これまで実施してきたリスクマネジメントとの両立企業間連携システムへの対応が進まない

その他

無回答

内部統制の確立に関する問題点としては、「社内の認識が低い」(37.3%)、「継続的に業務プロ

セスの見直しや情報システムの改修を行う負荷が高い」(35.4%)、「内部統制の確立に向けた作業

に充てる費用・人員がない」(31.6%)という結果であった。

図表2-1-1-3. 内部統制に係る法制対応と情報システムの関係

Q8-3:貴社における内部統制、特に法令対応(金融商品取引法等)と情報システムの関係について(N=158)

43.0% 28.5% 20.3% 5.7% 2.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

既存のITシステムを活用して法に対応した(する予定である)

既存のITシステムを活用して財務だけでなく全般的な内部統制に対応した(する予定である)

既存システム活用に加え、新規システムも導入し、ITを法対応以外の分野にも活用する予定である

法対応のみに焦点を当ててITシステムを新規導入した(する予定である)

無回答

内部統制に係る法制対応と情報システムの関係では、「既存の ITシステムを活用して対応した」

(43.0%)が最も多い回答であり、新規システムの導入・活用予定は 2割程度にとどまった。

図表2-1-1-4. 内部統制の確立に向けた業務プロセスおよび情報システムの見直しによる業務改善効果

Q8-4:内部統制の確立に向けた業務プロセスおよび情報システムの見直しにより、具体的な業務改善効果がありましたか。以下の項目より最も近いものを選択してください。 (N=158)

83.5% 13.3% 1.3%

1.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

まだ分からない 効果があった 効果がなかった 無回答

内部統制の確立に向けた業務プロセスおよび情報システムの見直しによる業務改善効果では、

まだ分からないという回答が 83.5%とほとんどを占めたが、効果があったとの回答も 13.3%あっ

た。

75

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(2)全国調査との比較

財団法人 日本情報処理開発協会が全国の上場企業と情報サービス事業者向けにアンケート調

査を行った『IT統制に関する実態調査』(2007年)においては、調査時点(2007年 10~12月)

で内部統制報告制度に伴う IT統制の対応について、46%の企業がまだ一部着手にとどまっている

との結果を得ている。対応が完了している企業はほぼ一部上場企業であり、小規模企業ほど対応

が遅れているという結果であった。

(参考)図表2-1-1-5. 法対応に関する自社の状況

18.1

11.8

7.5

9.6

5.9

6.9

3.9

42.7

41.5

42.5

47.6

34.4

39.2

40.9

31.9

42.7

44.5

36.0

46.7

46.9

47.6

6.7

3.1

4.9

5.9

12.2

6.1

6.8 0.8

1.0

0.8

0.8

0.6

0.8

0.6

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

IT統制に対する経営者の認識

IT統制に対する業務部門の認識

内部統制構築に関するシステム部門

と業務部門との連携

システム部門としての内部統制構築

業務の遂行の度合い

ITガバナンスの状況

情報システムに係るリスク管理の状況

ITを活用した業務プロセスの見直し

・改善の状況

非常に高い/強い やや高い/強い やや低い/弱い 非常に低い/弱い 無回答

(出典:ITと内部統制に関する調査研究報告書)

また、同調査では法対応に関する自社の現状を尋ねているが、「ITを活用した業務プロセスの

見直し・改善の状況」については、法対応の進捗状況に関わらず「非常に高い」と回答した企業

は少なかった。前出の内部統制に係る法制対応と情報システムの関係と同様の結果であり、法対

応によって業務プロセスの改善まで踏み込むことは、企業にとってまだ難しい現状であることが

裏付けられた。

76

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第2章 企業と自治体の情報化代

2.2 中小企業

(1)内部統制を実施する場合の関心・狙い

図表2-2-1-1.内部統制を実施する場合の関心・狙い

Q7:内部統制の確立についての質問です。貴社が内部統制を実施する場合の関心・狙いは何ですか。(N=790)

50.9%

48.1%

45.4%

44.6%

33.5%

30.0%

20.3%

5.2%

3.8%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

社員の意識向上

法令順守体制の確立

業務プロセスの見直し・標準化

情報セキュリティの向上

リスクマネジメント方針の明確化

情報システムの効率化

経営の透明性確保

将来的にも対応する予定がない

無回答

中小企業の内部統制を実施する場合の狙いとしては、「社員の意識向上」(50.9%)が最も回答

が多く、次いで「法令順守体制の確立」(48.1%)という結果であった。

2.3 自治体

(1)内部統制を導入する場合の関心や狙い

図表2-3-1-1.内部統制を導入する場合の関心・狙い

Q8-3:内部統制の確立についての質問です。貴団体において内部統制を導入する場合、関心や狙いについて(N=113)

71.7%

49.6%

46.9%

46.9%

37.2%

35.4%

34.5%

25.7%

21.2%

21.2%

3.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報セキュリティの向上

法令順守体制の確立

社員の意識向上

情報システムの効率化・高度化・簡素化

リスクマネジメント方針の明確化

業務の有効性・経営資源の効率的な使用

資産の適切な管理保全

経営の透明性確保

まだ対応は考えていない

財務報告の信頼性の確保

無回答

自治体における内部統制を導入する場合の狙いとしては「情報セキュリティの向上」(71.7%)

が最も多く、次いで「法令順守体制の確立」(49.5%)という結果であった。

77

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第3節 情報セキュリティ対策

3.1 企業と自治体における情報セキュリティ対策の実態調査

2006年度に実施した関西情報化実態調査におけるアンケート結果を見ると、「情報セキュリテ

ィに関する組織・体制」、「セキュリティポリシーにもとづいた対策状況」、「業務見直し状況」な

どの情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の運用面が弱い傾向がみられた。

図表2-3-1-1.平成 18年度の情報セキュリティ対策平均点チャート

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%

情報セキュリティ一般(セキュリティポリシー策定状況)

個人情報保護(プライバシーポリシー策定状況)

個人情報保護(業務見直し状況)

情報セキュリティ監査

情報セキュリティに関する社内教育

情報セキュリティ対策の現状(セキュリティポリシーに基づいた対策状況)

情報セキュリティ対策の現状(ウィルス対策ソフトなどの導入状況)

情報セキュリティに関する組織・体制

上場企業平均

自治体平均

補足:図中「情報セキュリティ対策の現状」については、平成 18年度調査項目(=情報セキュリティ対策)が多岐に

渡っており、項目に「対策済み」のチェックがあった場合にポイントを加算する仕組みを採用したため、比較的低い

ポイントとなっている。

一方、セキュリティポリシーやプライバシーポリシーの策定状況については、非常に高い傾向

がみられた。これらの結果から、計画面においては十分な対策が講じられてはいるが、運用面に

おいての対策が不十分であると理解できる。経済産業省が平成 17年 3月に発表した「企業におけ

る情報セキュリティガバナンスのあり方研究会報告書」では、情報セキュリティガバナンスの確

立を促進する支援ツールとして、

情報セキュリティ対策ベンチマーク

情報セキュリティ報告書モデル

事業継続計画策定ガイドライン

を発表し、これらを利用することを推奨している。このうち、「情報セキュリティ対策ベンチマ

ーク」のセルフチェックを通じて次の 3つのことが可能になる。

① 対策を実施していないか簡易な対策しか行っていない企業に対して必要な取り組み

78

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第2章 企業と自治体の情報化

を促すとともに、継続的な活用によるさらなるレベルアップを支援して、第三者評

価・認証の取得へとつなげることができるとしている。

② ベンチマークを利用した評価を行うことにより、全体の集計結果の平均点と回答企業(もしくは組織)の点数を比較することが可能となり、回答企業(もしくは組織)

において、重点的に取り組むべきポイントがより明確に分かるといった効果も期待

できる。

③ 全国の平均点と関西地域の平均点を比較することにより、今後企業・自治体が行う情報セキュリティ対策の取り組みについて一定の方向性を示すことが可能となる。

これらのことを念頭において、アンケート調査を実施した。

図表2-3-1-2.施策ツールと ISMS認証などとの基本的関係

出典:「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書」平成 17年 3月 経済産業省

図表2-3-1-3.情報セキュリティ対策のベンチマークのイメージ

出典:「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書」平成 17年 3月 経済産業省

79

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なお、望まれる水準については「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する

研究会」報告書では、次のように定義されている。本アンケート調査においても、上記の「望ま

れる水準」に準じて評価を行う。

<「望まれる水準」について>

企業の「望まれる水準」を設定する際の目安を明らかにするため、2005 年 1 月に

企業約6,000 社にアンケートを郵送し、1,633 件の回答を得た。

この 1,633 件のうち、すべての設問に回答した 885 件について「高水準のセキュ

リティレベルが要求される層」「相応のセキュリティレベルが望まれる層」「情報セ

キュリティ対策が喫緊の課題ではない層」に3分類した上で、対策の取組状況につ

いてのトータルスコア(設問当たり最高5 点で125 点満点)を算出した。

このアンケートによって、以下のことが言える。

・ 各層のトータルスコアの平均を比較すると、要求されるセキュリティレベルが

高い(さらされているリスクが高い)程、トータルスコアの平均は高く、全体

として対策が進んでいると言える。

・ ただし、各層ともトータルスコアのばらつきは大きく、例えば、高水準のセキ

ュリティレベルが要求される層の中にも、低いトータルスコアに留まる企業が

ある。

【望まれる水準】

以上のアンケート結果に加え、

① ISMS 認証を取得するに至るレベルは4.0 であるが、部門別のISMS 認証取得の

場合は、企業全体として 3.0~4.0 の間に位置するのではないかと考えられる

こと

② 「情報セキュリティ対策が喫緊の課題ではない層」についても、「経営層の承認

のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施する(= 3 .0)」のレベルを

求めていくことが妥当と考えられること

③ しかしながら、全体平均値を下回る企業が多数存在するため、直ちに①及び②

のレベルを求めることは困難と考えられること等を踏まえれば、望まれる水準

としては、「各層の上位1/3における平均値を目標としつつ、各層における全

体平均値に達していない企業については、各層における全体平均値を、早期に

達成すべき暫定的目標として設定する」ことが適当である。

ただし、この「望まれる水準」は、企業の業務内容・IT 依存度の変化といった内

的要因だけではなく、社会全体のネットワーク化の更なる進展といった外的要因に

よっても変動していくものであることに十分な留意が必要である。なお、「望まれ

る水準」の設定に当たっては、検討の過程で、「相対基準ではなく絶対基準が望ま

しい」との意見もあったが、情報セキュリティ対策が十分に進んでいない国内企業

のレベル向上を目指すに当たり、絶対基準の設定が適当かは慎重な検討が必要であ

ること、また、既に ISMS 認証基準のような絶対基準もあること等から、現段階で

対策ベンチマークに係る絶対基準は設定しないこととした。この点については、利

用者のニーズも踏まえ、対策ベンチマークの運用を担う機関を中心に、更なる検討

を期待する

出典:「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書」平成 17年 3月 経済産業省

80

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第2章 企業と自治体の情報化

3.2 調査結果 上場企業

企業の情報セキュリティ対策を考えるとき、最近重要視されているのは「情報セキュリティガ

バナンス」という考え方である。「情報セキュリティガバナンス」は「社会的責任にも配慮したコ

ーポレートガバナンスと、それを支えるメカニズム」を企業内に構築・運用すること」と定義さ

れている。いったんセキュリティ事故が発生すると、被害はその企業だけにとどまらず、社会に

も大きな影響を与えてしまう。こうしたことを背景に、2007年度のアンケート調査では、「組織

的な取り組み」、「物理的セキュリティの対策」、「情報セキュリティ上の事故対応状況」の計 3分

野、15項目について、情報セキュリティ対策ベンチマークを用いて、企業の実態を把握する内容

とした。2007年度のアンケート調査で明らかになったポイントは次のとおりである。

→ 上場企業の「情報セキュリティ対策」結果のポイント

◆ アンケートより

2007年度の調査項目であるマネジメント面を評価する「組織的な取り組み状況」、設備面など

を評価する「物理的セキュリティの対策」、事故発生時の対応状況などを評価する「情報セキ

ュリティ上の事故対応状況」のいずれの項目においても、2005 年度に経済産業省が調査した

結果を上回っていた(平均して、3ポイント以上)。

その他の項目についても、マネジメント面の評価と概ね同様の結果となっており、チャート図で見ると、比較的きれいな真円に近い図となり、特に弱い分野は見当たらなかった。

このような 2006年度からの改善理由としては、日本版 SOX法に関連した IT全般による内部

統制の見直しに伴った情報漏洩対策を主とした情報セキュリティ対策の見直しが影響してい

るものと思われる。

情報セキュリティ対策の状況と CIO の関係をみると、CIO として必要とされている能力や機

能が、充実している企業ほど、情報セキュリティの対策状況も充実しているということである。

なお、業況別にセキュリティ対策状況を見た場合、業況別による大きな差異は認められないが、業況が悪化しているとした企業では、比較的セキュリティ対策状況も低い傾向がみられた。

さらに業種別にセキュリティ対策状況を見た場合、金融業が他の業種に比べて圧倒的に対策状況がよい傾向が見られた。ただし、この結果は、金融業のサンプル数が 4と、かなり少ないた

め、この点については注意を要する。

81

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(1)情報セキュリティ全般

図表2-3-2-1-1.項目ごとの平均点分布

情報セキュリティ対策ベンチマークチャート図

0

1

2

3

4

5情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

第三者アクセス建物や安全区画面の物理的セキュリティ

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼働環境の情報セキュリティ対策

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値(上場企業)

全国平均組織的な取り組み状

物理的セキュリティの対策

情報セキュリティ上

の事故対応状況

2005年度に経済産業省が調査・発表した「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方

研究会報告書」での結果との比較では、ほとんどの項目で、全国平均(全体)、全国平均(上場企

業)の結果を上回っている(平均して 3ポイント以上)。特に 2006年度の調査で弱かったマネジ

メント面(=「組織的な取り組み状況」)では、どの項目も平均点が 3ポイント以上となっており、

かなり改善された傾向がうかがえる結果になっている。さらに、「情報セキュリティ上の事故対応

状況」についても、「事故対応手続き」や「事業継続への取り組み」といったBCP12に関連する項

目についても、全国平均を大きく上回っていることが分かる。こうした 2006年度からの改善の理

由としては、日本版SOX法に関連した内部統制の見直しに伴った情報漏洩対策を主とした情報セ

キュリティ対策の見直しが影響しているものと思われる。

以上の結果から関西の上場企業の多くは「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方

に関する研究会報告書」で述べられている「望まれる水準」の中にある「ISMS認証取得」に必要

なポイントである「3.0ポイントから 4.0ポイント」という要件を満たしていると言える。

12 BCP(Business ContinuITy Plan):潜在的損失によるインパクトの認識を行い実行可能な継続戦略の策定と実施、

事故発生時の事業継続を確実にする継続計画。事故発生時に備えて開発、編成、維持されている手順及び情報を文

書化した事業継続の成果物。

82

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第2章 企業と自治体の情報化

(2)情報セキュリティ対策に対する組織的な取り組み状況

図表2-3-2-2-1.情報セキュリティ対策に対する組織的な取り組み状況

組織的な取り組み状況(N=158)

4.4%

4.4%

7.0%

3.2%

3.2%

4.4%

3.8%

17.1%

19.6%

17.1%

15.2%

8.2%

12.0%

20.3%

25.9%

25.9%

31.0%

29.1%

25.3%

19.6%

25.9%

41.1%

39.2%

36.7%

43.0%

53.2%

52.5%

39.9%

10.1%

10.1%

7.0%

7.6%

8.2%

10.1%

8.2%

0.6%

1.3%

1.3%

1.3%

1.3%

0.6%

1.3%

0.6%

0.6%

0.6%

0.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

重要資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者へ教育

1.経営層にそのような意識がないか、意識はあっても方針やルールを定めていない

2.経営層にそのような意識はあり、方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.経営層の承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4に加え、周知の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他社の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

個別に見ると、「外部契約時のセキュリティ関連事項に関する契約書への記載状況」では、6割

以上の企業が「経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、

かつ責任者による状況の定期的確認も行っている」と回答している。その他を見ても、概ね 5割

以上の企業が同様の回答をしており、組織的な取り組み状況は概ね良好であると言える。

(3)物理的(環境的)セキュリティ上の施策

図表2-3-2-3-1.物理的(環境的)セキュリティ上の施策

物理的セキュリティの対策 (N=158)

3.8%

2.5%

3.8%

2.5%

23.4%

20.3%

15.8%

17.1%

10.8%

25.3%

12.7%

25.3%

34.2%

19.0%

40.5%

54.4%

44.9%

38.6%

58.9%

7.0%

6.3%

7.0%

8.2%

0.6%

1.9%

2.5%

1.9%

0.6%

0.6%

5.1%

0.6%

1.3%

1.3%

1.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

第三者アクセス

建物や安全区画面の物理的セキュリティ対策

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼動環境の情報セキュリティ対策

1.方針やルールを定めて折らず、実施されていない

2.方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.方針やルールを定め、全社的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4に加え、周囲の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他社の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

83

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次に、物理的(環境的)セキュリティ上の施策について見てみると、どの内容を見ても最も多

い回答は「経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、か

つ責任者による状況の定期的確認も行っている」となっている。とりわけ、「実稼動環境の情報セ

キュリティ対策」については、約 6割以上の企業で定期的確認を行っており、このうち 1割程度

の企業では「他社の模範となるべきレベルに達している」と回答している。

(4)情報セキュリティ上の事故対応状況

図表2-3-2-4-1.情報セキュリティ上の事故対応状況

情報セキュリティ上の事故対応状況 (N=158)

1.9%

3.8%

17.7%

19.0%

31.0%

27.8%

25.9%

26.6%

46.2%

46.8%

32.3%

7.0%

5.7%

5.1%

0.6%

0.6%

1.3%

0.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組み実施状況

1.経営層にそのような意識がないか、意識はあっても方針やルールを定めていない

2.経営層にそのような意識はあり、方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.経営層の承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4に加え、周囲の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他社の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

「情報セキュリティ上の事故対応状況」を見ると、すべての項目で「経営層の指示と承認のも

とに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も

行っている」が最も多い回答となっている。

(5)CIOと情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-2-5-1.CIOのランクと情報セキュリティ対策のランクの関係

CIOのランクと情報セキュリティ対策ランクの関係

1.3% 8.0%

4.4%

3.7%

34.7%

17.8%

7.4%

18.2%

44.0%

71.1%

59.3%

81.8%

12.0%

6.7%

29.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=75)

ランク2(8点以下)(N=45)

ランク3(12点以下)(N=27)

ランク4(13点以上)(N=11)

CIOのランク

ランク1(15点以下) ランク2(30点以下) ランク3(45点以下) ランク4(60点以下) ランク5(61点以上)

2007年度の調査では 2006年度の調査に引き続き、「CIOは設置されていること」を前提に、具

体的にCIOに求められる能力や能力の実現度合いなどを聞いている。このCIOの能力の実現度

合いなどをポイント化し、ランク付けを行った結果、ランク 4(13点以上)の企業は、7.0%であ

84

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第2章 企業と自治体の情報化

った。ランク 3(9点以上、12点以下)の企業を含めると、24.1%となっている。このCIOのラ

ンクと情報セキュリティ対策の関係を示したのが、上の図である。これを見ると、CIOのランク

4の企業で、情報セキュリティ対策のランクが 5となっている企業が、81.8%となっている。逆に、

CIOのランク 1の企業では、情報セキュリティ対策のランク 5となっている企業は、44.0%とな

っている。その他、CIOのランク 2、3及び 4の割合をみても、概ねCIOのランクと情報セキュ

リティ対策のランクには関係があることが窺える。

(6)企業の業況と情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-2-6-1.業況別と情報セキュリティランクの関係

情報セキュリティ対策のランク

2.9% 8.8%

1.7%

7.1%

33.3%

20.6%

28.8%

19.0%

16.7%

55.9%

50.8%

64.3%

50.0%

11.8%

18.6%

9.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

上向いている(N=34)

なだらかに上向いている(N=59)

横ばいである(N=42)

悪化している(N=6)

ランク1(15点以下) ランク2(30点以下) ランク3(45点以下) ランク4(60点以下) ランク5(61点以上) 無回答

業況別にセキュリティ対策状況を見ると、業況別による対策状況に大きな差異は認められにく

いが、業況が悪化しているとした企業では、比較的情報セキュリティ対策状況が低い傾向がみら

れる。

(7)業種別の情報セキュリティ対策状況の関係

図表2-3-2-7-1.業種別の情報セキュリティランクの関係

情報セキュリティ対策のランク

6.3%

8.6%

3.1%

27.5%

25.7%

25.0%

12.5%

58.8%

51.4%

75.0%

59.4%

60.0%

6.3%

14.3%

25.0%

40.0%

1.3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

製造業(N=80)

流通業(N=35)

金融業(N=4)

サービス業(N=32)

その他(N=5)

ランク1(15点以下) ランク2(30点以下) ランク3(45点以下) ランク4(60点以下) ランク5(61点以上) 無回答

業種別にセキュリティ対策状況を見ると、金融業の対策状況が圧倒的に、よい傾向が見られた。

ただし、金融業のサンプル数は 4であり、かなり少ないため、本結果の取り扱いには注意を要す

る。

85

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3.3 調査結果 中小企業

中小企業においても、上場企業と同様に情報セキュリティ対策を考える場合に最近重要視され

ているのは「情報セキュリティガバナンス」にもとづいて対策を講じることであるが、現実的に

は、組織・体制の問題により、上場企業と比較すると、対応は遅れているといわれている。2007

年度の調査では、主に中小企業におけるセキュリティ対策の現状と情報セキュリティ上の事故対

応状況の実態を先述の情報セキュリティ対策ベンチマークを用いて、把握した。2007年度のアン

ケート調査で明らかになったポイントは次のとおりである。

→ 中小企業の「情報セキュリティ対策」のポイント

◆ アンケートより

「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方研究会報告書」に掲載されているアンケート結果との比較では、多くの項目で全国平均を下回っている。

ただし、「重要な情報資産の分類」、「重要情報の業務行程ごとの安全対策」、「情報セキュリティ事故対応手続き」、「事業継続への取り組みの実施」といった BCP に直接的・間接的に

つながる項目については、全国平均を上回った。

CIOの有無と情報セキュリティ対策実施状況の関係を見ると、CIOを設置している企業の方

が設置していない企業より、実施状況が良好であった。

なお、中小企業における業況別の情報セキュリティ対策の実施状況を見た場合、上場企業における結果とは異なり、業況が上向きになるにしたがって、情報セキュリティ対策の実施状

況も良好になる傾向がみられる。

また、業種別にセキュリティ対策の状況を見た場合、上場企業と同様、金融業の対策状況が良好であるという結果が得られた。ただし、本結果についても上場企業と同様、サンプル数

が 8と、かなり少ないため、結果の扱いには注意を要する。

86

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第2章 企業と自治体の情報化

(1)情報セキュリティ全般

図表2-3-3-1-1.項目ごとの平均点分布

情報セキュリティ対策ベンチマークチャート図

0.00

1 .00

2 .00

3 .00

4 .00

5 .00情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値(中小企業)

全国平均(中小企業)組織的な

取り組み状況

情報セキュリティ

上の事故対応状

全国調査との比較では、2007年度のアンケート調査結果の多くの項目において、全国平均より

下回っている。ただし、「重要な情報資産の分類」、「重要情報の業務行程ごとの安全対策」、「情報

セキュリティ事故対応手続き」、「事業継続への取り組みの実施」といったBCPに直接的あるいは、

間接的につながる項目については、全国平均を上回った。この要因としては、関西地域では、1995

年(平成 17年)1月 17日に発生した阪神・淡路大震災を経験していることが考えられる。

(2)情報セキュリティポリシーなどの管理規定策定・実施状況

図表2-3-3-2-1.情報セキュリティポリシーなどの管理規定策定・実施状況

情報セキュリティに対する組織的な取り組み状況(N=790)

23.7%

27.0%

24.6%

21.0%

23.7%

23.5%

25.6%

29.9%

30.8%

32.7%

30.9%

21.5%

24.9%

28.9%

20.9%

17.6%

17.2%

18.7%

21.3%

15.7%

19.0%

16.8%

15.4%

15.4%

19.1%

20.3%

23.2%

16.2%

1.4%

1.5%

2.4%

2.2%

2.2%

4.3%

2.5%

1.0%

6.5%

6.7%

6.6%

6.8%

7.8%

7.0%

6.7%

0.9%

1.1%

1.4%

3.3%

1.3%

1.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

委託業務

業務委託契約

従業者との契約

1.経営層にそのような意識がないか、意識はあっても方針やルールを定めていない

2.経営層にそのような意識はあり、方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.経営層の承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4.に加え、周知の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他社の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

組織的な取り組み状況について見ると、どの項目でも「経営層にそのような意識はあり、方針

やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない」(約 3割)が最も多い回答

87

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となっている。また、次いで多い回答として「経営層にそのような意識がないか、意識はあって

も方針やルールを定めていない」(約 2割)となっており、約半数の企業においては、組織的な取

り組み状況は遅れがちであることがうかがえる。

(3)情報セキュリティ上の事故対応状況

図表2-3-3-3-1.情報セキュリティ上の事故対応状況

情報セキュリティ上の事故対応状況 (N=790)

17.3%

29.2%

22.5%

26.5%

27.2%

32.3%

19.5%

19.1%

19.6%

25.7%

15.3%

15.6% 1.5%

6.7%

6.7%

2.5%

1.4%

1.0%

1.8%

1.5% 7.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

1.経営層にそのような意識がないか、意識はあっても方針やルールを定めていない

2.経営層にそのような意識はあり、方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.経営層の承認のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示のもとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4.に加え、周囲の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他社の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

次に、「情報セキュリティ上の事故対応状況」について見ると、2番目の選択肢である「方針や

ルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない」の回答が最も多い。これは、

前設問の「組織的な取り組み状況」の結果と同様である。ただし、「情報セキュリティ事故対応手

続き」については、プラス面の回答となる「経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、

全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている」の回答が 25.7%

となっており、「事故対応手続き」は他の項目よりは比較的対応ができていることがうかがえる。

88

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第2章 企業と自治体の情報化

(4)CIOと情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-3-4-1.CIO設置の有無と情報セキュリティ対策のランクの関係

CIOの有無と情報セキュリティ対策のランクの関係 (N=790)

6.9%

17.3%

9.1%

17.0%

33.8%

9.1%

37.1%

30.4%

36.4%

33.2%

15.8%

36.4%

5.8%

2.7%

9.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

CIOまたはCIO相当役はいる(N=259)

CIOまたはCIO相当役はいない(N=520)

無回答(N=11)

CIOの有無

ランク1(10点以下) ランク2(20点以下) ランク3(30点以下) ランク4(40点以下) ランク5(41点以上)

図表2-3-3-4-2.情報セキュリティ対策のランク(参考)

情報セキュリティ対策のランク (N=790)

13.8% 28.0% 32.7% 21.8% 3.8%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

ランク1(10点以下) ランク2(20点以下) ランク3(30点以下) ランク4(40点以下) ランク5(41点以上)

2007年度の中小企業の調査においては、2006年度の調査に引き続き、ITの利活用だけでなく、

これを機能的に導入・運用を行うための責任者、すなわち「CIO」設置の有無についても、尋ね

てみた。この「CIO」の設置の有無が、情報セキュリティ対策とどのような関係があるのかを見

たのが、上の図表2-3-4-1となる。この図表を見ると、「CIOまたはCIO相当役がいる」

と回答した企業ほど、情報セキュリティ対策のランクが高い企業が多く存在する傾向がみられる。

「CIOまたはCIO相当役がいない」場合の情報セキュリティ対策ランク 4の割合は、2.7%であ

るのに対し、「CIOまたはCIO相当役がいる」とした場合、情報セキュリティ対策ランク 4の企

業は、5.8%となっている。

また、ランク 3で比較すると、「CIOまたはCIO相当役がいない」とした場合、15.8%であるの

に対し、「CIOまたはCIO相当役がいる」とした場合、33.2%と約 2倍の数値になっている。一方

で、「CIOまたはCIO相当役はいない」場合の情報セキュリティランク 1の企業は、17.3%とな

っており、「CIOまたはCIO相当役がいる」場合の 6.9%を大きく上回っている。その他の情報セ

キュリティ対策とのランクを比較しても、概ねCIOがいる場合において、情報セキュリティ対策

のランクにおいて上位の割合が高くなっている。これらの結果から、CIO設置の有無と情報セキ

ュリティ対策の充実度合いとの間には、正の関係があることがうかがえる。

89

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(5)中小企業における業況別と情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-3-5-1.業況別による情報セキュリティランクの関係

情報セキュリティ対策のランク(N=790)

8.5%

12.0%

13.5%

22.3%

14.3%

21.3%

23.9%

29.7%

37.5%

22.9%

30.9%

34.9%

34.7%

25.0%

28.6%

36.2%

23.9%

19.1%

13.4%

22.9%

3.2%

5.3%

2.9%

1.8%

11.4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

上向いている(N=94)

なだらかに上向いている(N=209)

横ばいである(N=340)

悪化している(N=112)

無回答(N=35)

ランク1(10点以下) ランク2(20点以下) ランク3(30点以下) ランク4(40点以下) ランク5(41点以上)

中小企業における業況別の情報セキュリティ対策の実施状況を見た場合、上場企業における結

果とは異なり、業況が上向きになるにしたがって、情報セキュリティ対策の実施状況も良好にな

る傾向がみられる。

(6)業種別の情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-3-6-1.業況別による情報セキュリティランクの関係

情報セキュリティ対策のランク

14.6%

14.4%

11.0%

13.5%

25.0%

29.8%

33.0%

12.5%

16.6%

26.9%

50.0%

36.6%

32.5%

25.0%

29.7%

19.2%

17.2%

16.5%

62.5%

33.8%

36.5%

12.5%

1.8%

3.6%

9.0%

3.8%

12.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

製造業(N=383)

流通業(N=194)

金融業(N=8)

サービス業(N=145)

その他(N=52)

無回答(N=8)

ランク1(10点以下) ランク2(20点以下) ランク3(30点以下) ランク4(40点以下) ランク5(41点以上) 無回答

業種別にセキュリティ対策状況を見た場合、情報企業と同様、金融業における情報セキュリ

ティ対策状況が良好であるという結果が認められる。ただし、本結果も上場企業と同様、金融

業のサンプル数が、8と、かなり少ないため、単純に他の業種との割合を比較することには注

意を要する。

90

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第2章 企業と自治体の情報化

3.4 調査結果 自治体

今日、政府が主導する「電子自治体」の環境下において、「情報セキュリティ対策」は住民の

個人情報を大量に保有する自治体にとっては、非常に重要な位置づけとなっている。2007年度の

アンケート調査では、上場企業と同様に「組織的な取り組み状況」、「物理的セキュリティの対策」、

「情報セキュリティ上の事故対応状況」について、先述の経済産業省発表報告書にあった情報セ

キュリティ]対策ベンチマークを用いて、自治体の実態を把握する内容とした。2007年度のアン

ケート調査で明らかになったポイントは次のとおりである。

→ 自治体の「情報セキュリティ対策」のポイント

◆ アンケートより

全国平均ポイント(※対象は企業のみ)との比較では、概ねどの項目でも全国平均のポイントを上回っているが、特に「組織的な取り組み状況」と「情報セキュリティ上の事故対応状

況」については、全国平均ポイントを大きく上回っている。

一方で「物理的セキュリティの対策」については、全国平均ポイントを若干、下回っている。 人口規模別で見た場合、どの項目でも人口規模が大きくなるにしたがって、取り組み状況が上がっている傾向がみられる。

30万人以上の人口規模の自治体になると、どの項目の平均も軒並み 4ポイント以上となって

おり、「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書」の中に

ある「望まれる水準」で ISMS認証取得に必要なポイントとして挙げられている「3.0ポイン

トから 4.0ポイント」の要件を満たす結果となっている。

また、CIOに必要とされる能力や機能が、充実している自治体ほど、情報セキュリティの取り組みも充実している傾向がみられる。

91

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(1)情報セキュリティ全般

図表2-3-4-1-1.項目ごとの平均点分布

情報セキュリティ対策ベンチマークチャート図

0

1

2

3

4

5情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

第三者アクセス建物や安全区画面の物理的セキュリティ

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼働環境の情報セキュリティ対策

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値(自治体)

全国平均 組織的な

取り組み状況

物理的セキュリティの

対策

情報セキュリティ上の

事故対応状況

情報セキュリティ対策ベンチマーク平均点チャート図

0

1

2

3

4

5情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

第三者アクセス建物や安全区画面の物理的セキュリティ

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼働環境の情報セキュリティ対策

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値

(自治体(人口規模1万人未満)

実態調査平均値

(自治体(人口規模5万人未満)

実態調査平均値

(自治体(人口規模10万人未満)

実態調査平均値

(自治体(人口規模30万人未満)

実態調査平均値

(自治体(人口規模30万人以上)

全国平均

情報セキュリティ上の事

故対応状況

組織的な

取り組み状況

物理的セキュリティの対策

全国平均ポイント(※対象は企業のみ)との比較では、概ねどの項目でも全国平均のポイント

を上回っているが、特に「組織的な取り組み状況」と「情報セキュリティ上の事故対応状況」に

ついては、全国平均ポイントを大きく上回っている。一方で「物理的セキュリティの対策」につ

いては、全国平均ポイントを若干、下回っている。

人口規模別で見た場合、どの項目でも人口規模が大きくなるにしたがって、ポイントが上がっ

ているのが分かれる。人口規模が 30万人以上になると、軒並み 4ポイント以上となっており、「企

業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書」の中にある「望まれる

水準」で ISMS認証取得に必要なポイントとして挙げられている「3.0ポイントから 4.0ポイント」

の要件を満たす結果となっている。

92

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第2章 企業と自治体の情報化

(2)情報セキュリティ対策に対する組織的な取り組み状況

図表2-3-4-2-1.情報セキュリティに対する組織的な取り組み状況

組織的な取り組み状況 (N=111)

2.7%

11.7%

10.8%

10.8%

15.3%

6.3%

17.1%

24.3%

26.1%

22.5%

8.1%

17.1%

27.9%

55.0%

37.8%

44.1%

43.2%

32.4%

31.5%

25.2%

19.8%

22.5%

17.1%

20.7%

49.5%

27.9%

38.7%

4.5%

2.7%

1.8%

7.2%

2.7% 4.5%

1.8%

1.8%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

重要資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

職員との契約

職員へ教育

1.経営層にそのような意識がないか、意識はあっても方針やルールを定めていない

2.経営層にそのような意識はあり、方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.経営層の承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4.に加え、周知の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他団体の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

「情報セキュリティに対する組織的な取り組み状況」についてみてみると、「業務委託契約」と

「従業者との契約」といった契約に関連する項目については、4番目の「経営層の指示と承認の

もとに方針やルールを定め、全社的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認

も行っている」が最も多い回答になっている。しかし、これら2つの項目以外では、「方針やルー

ルを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない」という 3番目の回

答が最も多い。

(3)物理的(環境的)セキュリティ上の施策

図表2-3-4-3-1.来客者などに対するセキュリティルールの策定と実践

物理的セキュリティの対策 (N=111)

6.3%

4.5%

3.6%

6.3%

32.4%

19.8%

26.1%

22.5%

15.3%

35.1%

23.4%

29.7%

44.1%

34.2%

21.6%

45.0%

37.8%

27.9%

38.7%

2.7%

2.7%

2.7%

2.7%

1.8%

6.3%

1.8%

0.9%

2.7%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

第三者アクセス

建物や安全区画面の物理的セキュリティ対策

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼動環境の情報セキュリティ対策

1.方針やルールを定めて折らず、実施されていない

2.方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4.に加え、周囲の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他団体の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

93

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次に「物理的セキュリティの対策」を見ると、「情報記録媒体の適切な管理」のみが、4番目の

「経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しており、かつ責任者

による状況の定期的確認も行っている」の回答が最も多く、他の項目では、3番目の「方針やル

ールを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない」が最も多い回答

となっているものが多い。なお、「第三者アクセス」については、2番目の回答である「方針やル

ールの整備・周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない」(32.4%)が最も多い回答とな

っている。物理的セキュリティ対策については軒並み、低いポイントとなっている。

(4)情報セキュリティ上の事故対応状況

図表2-3-4-4-1.情報システムの障害発生を想定した対策の実施状況

物理的セキュリティの対策 (N=111)

6.3%

4.5%

3.6%

6.3%

32.4%

19.8%

26.1%

22.5%

15.3%

35.1%

23.4%

29.7%

44.1%

34.2%

21.6%

45.0%

37.8%

27.9%

38.7%

2.7%

2.7%

2.7%

2.7%

1.8%

6.3%

1.8%

0.9%

2.7%

0.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

第三者アクセス

建物や安全区画面の物理的セキュリティ対策

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼動環境の情報セキュリティ対策

1.方針やルールを定めて折らず、実施されていない

2.方針やルールの整備、周知を図りつつあるが、一部しか実現できていない

3.方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認はできていない

4.経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しており、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている

5.4.に加え、周囲の環境変化をダイナミックに反映し、常に改善を図った結果、他団体の模範となるべきレベルに達している

6.その他

無回答

続いて、「情報セキュリティ上の事故対応状況」を見ると、「情報システムの障害対策」につい

ては、4番目の「経営層の指示と承認のもとに方針やルールを定め、全庁的に周知・実施してお

り、かつ責任者による状況の定期的確認も行っている」の回答が最も多かったが、他の 2項目に

ついては、3番目の「方針やルールを定め、全庁的に周知・実施しているが、実施状況の確認は

できていない」が最も多い回答となっている。

94

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第2章 企業と自治体の情報化

(5)CIOと情報セキュリティ対策の関係

図表2-3-4-5-1.CIOのランクと情報セキュリティ対策のランクの関係

CIOのランクとセキュリティのランクの関係

14.9% 47.1%

13.3%

20.0%

50.0%

37.9%

73.3%

60.0%

13.3%

20.0%

50.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ランク1(4点以下)(N=87)

ランク2(8点以下)(N=15)

ランク3(12点以下)(N=5)

ランク4(13点以上)(N=4)

CIOのランク

ランク1(15点以下) ランク2(30点以下) ランク3(45点以下) ランク4(60点以下) ランク5(61点以上)

2007年度の調査では、上場企業と同様に、自治体でも「CIOは設置されていること」を前提に、

具体的にCIOに求められる能力や、能力の実現度合いなどについて尋ねている。このCIOの能

力の実現度合いなどをポイント化し、ランク付けを行った結果、ランク 4(13点以上)の自治体

は、3.6%であった。ランク 3(8点以上、12点以下)の自治体を含めても、8.1%となっており、

全体の 1割に満たない。このCIOのランクと情報セキュリティ対策の関係を示したのが、上の図

である。これを見ると、CIOのランク 4の自治体で、情報セキュリティ対策のランクが 4となっ

ている自治体は、50.0%となっている。逆に、CIOのランク 1の自治体では、情報セキュリティ

対策のランク 4となっている自治体なく、ランク 2の自治体が 47.1%で最も多くなっている。そ

の他、CIOのランク3の割合をみても、概ねCIOのランクと情報セキュリティ対策のランクには、

正の関係があることが窺える。

さらに、人口規模別と情報セキュリティ対策ランクの関係を見たものが、次の図表2-3-4

-5-2となる。これを見ると、情報セキュリティ対策のランクが 4の自治体規模を見ると、30

万人以上の規模のみとなっている。また、人口規模が 30万人以上の自治体では、ランク 4の割合

は 45.5%と半数近くを占めている。逆に人口規模が 1万人以下の規模の自治体になると、ランク

3の自治体が最も多く(66.7%)、ランク 2の団体も 22.2%存在する。

95

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図表2-3-4-5-2.人口規模別と情報セキュリティランクの関係

人口規模と情報セキュリティ対策のランクの関係 (N=109)

22.2%

15.2%

14.3%

66.7%

39.4%

35.7%

52.6%

9.1%

11.1%

45.5%

50.0%

47.4%

45.5% 45.5%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1万人未満(N=18)

5万人未満(N=33)

10万人未満(N=28)

30万人未満(N=19)

30万人以上(N=11)

人口規模

ランク1(15点以下) ランク2(30点以下) ランク3(45点以下) ランク4(60点以下) ランク5(61点以上)

以上のことから、人口規模が大きくなるほど、情報セキュリティ対策のランクも上がるという

関係があることがうかがえる。

96

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第2章 企業と自治体の情報化

3.5 上場企業と自治体の情報セキュリティ対策比較

→ 上場企業と自治体の情報セキュリティ対策の相違点のポイント

2007年度のアンケート調査結果の比較では、概ねどの項目でも上場企業の結果が自治体を上

回っている。

2006年度の調査結果では、「情報セキュリティに関する組織・体制」、「セキュリティポリシ

ーにもとづいた対策状況」、「情報セキュリティに関する社内教育」といった「組織的な取り

組み」については、自治体の取り組み状況が上回っていたが、2007年度の調査結果では逆転

している。

この要因として、2008年 4月から上場企業を対象に施行される日本版 SOX法、とりわけ内

部統制の強化策として、情報セキュリティ対策を強化することが有効と言われており、この

ことが逆転した現象に関係していると思われる。

(1)全体的な傾向と上場企業、自治体における相違点

情報セキュリティ対策について、項目ごとの平均点で上場企業と自治体の傾向を比較した。図

表2-3-5-1-1より、どの項目を見ても、自治体の平均点より上場企業の平均点の方が上

回っていることが見て取れる。自治体の人口規模を 30万人以上に限定して比較すると、若干では

あるが、この傾向が逆転し、自治体の平均ポイントが上場企業の平均ポイントを上回るものが多

くなる。

2006年度の調査結果では、「情報セキュリティに関する組織・体制」、「セキュリティポリシー

にもとづいた対策状況」、「情報セキュリティに関する社内教育」といった「組織的な取り組み」

については、自治体の取り組み状況が上場企業を上回っていた。この逆転現象は、2008年 4月よ

り施行される日本版SOX法13に対する上場企業の取り組みが関連していると考えられる。

13日本版SOX法:2006年に施行された金融商品取引法の 24条の 4の 4と、193条の企業の内部統制について規定さ

れた部分についての俗称。日本版SOX法では、内部統制を整備していくことについて、財務諸表の信頼性を確保す

ることを目的として、組織に内部統制報告書を作成することを要求している。内部統制環境の強化策として、情報

セキュリティマネジメントシステム規格のISO27001認証取得を検討される企業が増えている。ISO27001では、情

報セキュリティについて内部統制状況の監視、評価、改善の仕組みがあることが求められており、内部統制環境の

強化策として有効といわれている。

97

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図表2-3-5-1-1.情報セキュリティ対策平均点チャート図 情報セキュリティ対策ベンチマーク平均点チャート図

0

1

2

3

4

5情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

第三者アクセス建物や安全区画面の物理的セキュリティ

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼働環境の情報セキュリティ対策

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値(上場企業)

実態調査平均値(自治体)組織的な

取り組み状

物理的セキュリティ

対策

情報セキュリティ上

の事故対応状況

情報セキュリティ対策ベンチマーク平均点チャート図(自治体の人口規模30万人以上との比較)

0

1

2

3

4

5情報セキュリティ管理規定

情報セキュリティ推進体制

情報資産の重要度に応じた分類

重要情報の業務行程ごとの安全対策

業務委託契約

従業者との契約

従業者への教育

第三者アクセス建物や安全区画面の物理的セキュリティ

情報機器の安全な設置

情報記録媒体の適切な管理

実稼働環境の情報セキュリティ対策

情報システムの障害対策

情報セキュリティ事故対応手続き

事業継続への取り組みの実施

実態調査平均値(上場企業)

実態調査平均値(自治体(人口規模30万人以上))

組織的な

取り組み状況

物理的セキュリティの

対策

情報セキュリティ上の

事故対応状況

98

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第2章 企業と自治体の情報化

テクニカルノート

IT利活用ステージに採用した設問と得点(上場企業)

メジャメント項目 詳細評価対象項目 対応する設問 ポイント

組織形態 組織のフラット化

トップダウンによる経営方針の徹底

問1-2 11)

問1-2 8) 1、2なら各1点

人材

人材評価への取り組み状況

人材流動化

人員整理

問2-1 2)

問1-1 3)

問1-1 4)

1、2なら各1点

情報共有

トップにおける業績把握

出来事のトップへの迅速な報告

全社的課題のトップ・従業員の情報共有

従業員における経営理念浸透度

問1-1 1)

問1-1 2)

問1-1 7)

問1-1 6)

1、2なら各1点

経営手法・経営スタ

イル

グローバル・国際性

顧客重視の経営

株主重視の経営

自社独自の戦略打ち出し

経営資源の選択と集中

問1-1 9)

問1-1 13)

問1-1 5)

問1-1 14)

問1-1 10)

1、2なら各1点

取引関係 サプライチェーンへの主体的な取り組み

取引先への絞込み・変更を含む見直し

問1-1 8)

問3-2 1) 1、2なら各1点

変化への対応・BPR

業務の効率的再編成

モジュール化されたシステム構成

PDCAサイクルの実践

あるべき業務プロセスの明確化

問1-1 12)

問1-2 10)

問1-2 6)

問1-2 16)

問1-2 9)

1、2なら各1点

IT部門の体制 経営戦略と IT戦略の一致

経営感覚を持ったCIO

問3-1

問4-1 ①②

1、2なら各1点

実現値/能力

システム利用スキル 企業システム利用スキルが社員に浸透

企業システム利用スキルの把握

問6-1 ②

問7-1 1) 1、2なら各1点

IT投資効果分析 IT投資目的の明確化

IT投資評価の明確化

問1-2 3)

問1-2 4) 1、2なら各1点

99

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IT利活用ステージに採用した設問と得点(自治体)

メジャメント項目 詳細評価対象項目 対応する設問 ポイント

組織形態 組織のフラット化

トップダウンによる IT戦略の徹底

問1-2 11)

問1-2 8) 1、2なら各1点

人材

人材評価への取り組み状況

職員スキルに応じた庁内人事

情報システム導入による職員数削減

問2-1 2)

問1-1 3)

問1-1 4)

1、2なら各1点

情報共有

トップにおける総合計画進捗度把握

危機管理対応の迅速化

住民の意見・要望の首長把握

職員における政策理念浸透度

問1-1 1)

問1-1 2)

問1-1 7)

問1-1 6)

1、2なら各1点

経営手法・経営スタ

イル

広域行政への対応

住民とのパートナーシップ

ITによる行政サービスの提供

IT を活用した特徴あるサービスの提供

施策に応じた資源の選択と集中

問1-1 9)

問1-1 13)

問1-1 5)

問1-1 14)

問1-1 10)

1、2なら各1点

調達関係 全庁的な調達の最適化

調達先への絞込み・変更を含む見直し

問1-1 8)

問3-2 1) 1、2なら各1点

変化への対応・BPR

業務の見直し(BPR)

庁内で連携が図れるシステム構成

PDCAサイクルの実践

庁内の役割分担の明確化

問1-1 12)

問1-2 10)

問1-2 7)

問1-2 12)

問1-2 3)

1、2なら各1点

IT部門の体制 経営戦略と IT戦略の一致

経営感覚を持ったCIO

問3-1

問4-1 ①②

1、2なら各1点

実現値/能力

システム利用スキル 企業システム利用スキルが職員に浸透

企業システム利用スキルの把握

問6-1 ②

問7-1 1) 1、2なら各1点

IT投資効果分析 IT投資目的の明確化

IT投資評価の明確化

問1-2 1)

問1-2 6) 1、2なら各1点

100

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第3章 教育分野の情報化

第第33章章 教教育育のの情情報報化化

→ 教育の情報化のポイント

IT環境整備は、学校数の多い都市部ほど、整備率は低い

全国と比較して関西は、授業での IT活用の障害を PCの台数不足ではなく、準備に時間がか

かるとする教員が多い

従って、関西では機器不足より授業での支援体制を望む教員が多い

関西での情報担当者の持つ能力は、全国に比べ高い

機器不足への対応策として、旧型 PCの活用が可能なOSSを用いて、学校の授業や校務にお

いても有効として、先進的に取り組む公立学校がある

教育分野においてもガバナンスの視点から教育CIOの設置や効果的な IT教育を実現するた

めの教育情報化コーディネータの配置が必要である

教員の IT活用指導力の全国統一評価基準が必要

情報モラル教育は、喫緊の課題であり、地域で取り組む必要がある

IT環境整備は地方交付税措置ではなく、補助金等目的を明確にした制度が望まれる

第 1節 教育現場における情報化の現状

1.1 教育の情報化政策

(1)主な施策

これまで教育における情報化については、「e-Japan戦略」において、2005年度(平成17年度)

を目標に「すべての小・中・高等学校等の、すべての授業においてコンピュータやインターネット

を活用できる環境の整備」を進めると定め、その目標に向かって取り組まれてきた。しかし、十

分に達成されてこなかったために、2005年(平成17年)12月に文部科学大臣から「教育の情報

化の推進のための緊急メッセージ」を発表し、情報化は教育においても重要な根幹となることを

明確に打ち出している。

さらに、2006年(平成18年)1月に新たな国家戦略として策定された「IT新改革戦略」では、

今後の IT政策の重点として、人材育成・教育において IT基盤の整備の必要性が謳われ、全ての

教員への IT機器の整備、IT活用による学力向上等が目標として挙げられている。

また、2006年(平成18年)7月に策定された「重点計画-2006」では、具体的な目標として以

下の4つの目標が挙げられている。

① 学校における IT基盤の整備

教員一人に一台のコンピュータ及びネットワーク環境の整備ならびに IT基盤のサポート

体制の整備等を通じ、学校の IT化を行う。

② 教員の IT活用指導力の向上

教員の IT指導力の評価等により教員の IT活用能力を向上させる。

101

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③ 児童生徒の学力向上のための学習コンテンツの充実

自ら学ぶ意欲に応えるような、ITを活用した学習機会を提供する。

④ 児童生徒の情報活用能力の向上

教科指導における ITの活用、小学校における情報モラル教育等を通じ、児童生徒の情報モ

ラルを含む情報活用能力を向上させる。

こうした流れの中で、文部科学省では目標達成に向けて、総務省等関係各省との連携をはかり

ながら取り組まれており、教育行政および各学校現場においても、各施策に則った情報化が進め

られているところである。

重点計画-2006に挙げられた目標①「学校における IT基盤の整備」では、2006年度(平成18

年度)「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」が実施され、IT環境整備の目標に対

する現状が把握されている。

学校における教育の情報化の実態等調査結果

出典:平成18年度「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(文部科学省 2007年3月 速報値)

この「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」結果のとおり、学校現場における IT

環境の整備はまだまだ途上であり、目標達成に向け、国、地方自治体において更なる対応策が必

要となっている。

また、目標②「教員の IT活用指導力の向上」に関しては、「教員の ICT活用指導力の基準の具

102

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第3章 教育分野の情報化

体化・明確化に関する検討会」において、「授業中に ICTを活用して指導する能力」や「情報モ

ラルなどを指導する能力」等の 5つの大項目と 18のチェック項目で構成する「教員の ICT活用

指導力チェックリスト」が策定されている。また、基準を具体化・明確化するだけでは不十分で

あるとして、基準について分かりやすく説明する機能や教員が基準を用いて ICT活用指導力を自

己評価する機能、研修担当者が基準を活用した効果的な研修が実施できる機能を備えたWebシス

テムが構築されている。

「教員の ITC活用指導力」チェックの5つの大項目は、以下のとおり。

A:教材研究・指導の準備・評価などに ICTを活用する能力

B:授業中に ICTを活用して指導する能力 C:児童生徒の ICT活用を指導する能力

D:情報モラルなどを指導する能力 E:校務に ICTを活用する能力

(Eを除く4項目は各4チェック項目、Eは2チェック項目の18項目で構成している)

さらに、その基準が広く活用される必要があるとして、2007年3月に初めて18項目による教

員の ICT活用指導力調査が実施された。その結果は下図の「国のICT戦略と教員のICT活用指導

力の関係」のとおりである。

【参考】 ICT活用指導力については、前回まで(平成18年3月現在まで)の調査方法と、今回(平成19年3月)の調査方法が異なるため、一概に比較することはできない。なお、全18小項目中、「わりにできる」若しくは「ややできる」と回答した教員の割合が最も高い項目は、A2「教材作成のためにICTを活用」で 77.3パーセントとなっている。

出典:「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果について

-教員のICT活用指導力に関する速報値-」(文部科学省 2007年7月)

103

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この調査結果から、「授業中に ICTを活用して指導する能力」や「児童・生徒の ICT活用を指

導する能力」を有する教員の不足が課題であることが明らかとなっている。

目標③「児童生徒の学力向上のための学習コンテンツの充実」、目標④「児童生徒の情報活用

能力の向上」に関する取り組みとしては、「学校教育情報化推進総合プラン」(文部科学省 2006

年度策定)の中で IT教育の充実が謳われ、初等中等教育における児童生徒の情報活用能力の育成

と各教科等における ITを活用した確かな学力の育成に向けて取り組まれているところである。

そのひとつとして、2006年度(平成18年度)に ITを活用した授業の効果が調査されている。

授業に ITを活用した場合と活用しない場合における児童生徒の学力の違いを分析・評価する観点

から、IT 活用による学力向上の証しを示す取組みとして実施されたものである。

その調査結果から、以下の効果が確認されており、この IT を活用した教育の効果についての

理解を浸透させることで、学校の IT 環境整備の促進に繋げるとしている。

【IT 活用の効果】

(1) IT を活用した実証実験を行った教員の評価 ⇒ 授業の質を高め、授業の改善に役立つと感じている。

(2) 児童生徒を対象とした、IT を活用した授業に対する意識調査

⇒ 授業に対する児童生徒の興味・意欲、満足度が高まるとともに「正しく理解するこ

とができた」、「内容を先生や友だちに正しく説明できる」等、知識・理解に関する項目

について効果が示された。

(3) 児童生徒を対象とした客観テストによる比較調査 ⇒ 小学校「算数、社会、理科」、中学校「数学、社会」、高校「数学」の実証授業後に

実施した客観テスト(児童生徒)の結果、「技能・表現」、「知識・理解」の観点からの

分析・評価で、IT を活用した授業後に行ったテストの得点が高いことが示された。

(2)今後の教育行政の動き~『新しい学習指導要領』

教育における今後の大きな流れの一つとして、『新しい学習指導要領』の導入がある。

「新学習指導要領」は、小学校では2011年度(平成23年度)から、中学校では2012年度(平

成24年度)から完全実施の予定で進められており、その改訂案が2008年(平成20年)3月に公

表されている。そこでも教育の情報化に関して、ICT の環境整備の必要性や情報教育、学校段階

別における情報モラルの必要性、また科目別の導入内容等について、具体的に提示されている。

ここでは、2008年(平成20年)1月に発表された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特

別支援学校の学習指導要領等の改善について」(答申)より、「ICT 環境整備」に関する主な記載

箇所を抜粋する。

(以下、抜粋)

4.課題の背景・原因

(3)教師が子どもたちと向き合う時間の確保や効果的・効率的な指導のための条件整備

○学習指導要領の理念は、それぞれの教室の日々の教師の指導の中で実現するものであり、

教師が子どもたちとどれだけ向き合い、どのような教科書・教材を用い、ICT環境を活用

104

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第3章 教育分野の情報化

していかに効果的・効率的に指導できるかといったことが極めて重要である。

(略)

○そのためには、教職員配置、設備、教科書・教材、ICT環境の整備も含めた学校の施設な

ど教育条件の整備、地域全体で学校を支援する体制の構築や学校や教師を支える教育行

財政の在り方について幅広く検討する必要がある。

9.教師が子どもたちと向き合う時間の確保などの教育条件の整備等

(2)教師が子どもたちと向き合う時間の確保のための諸方策

(ICT環境の整備)

○学校の組織力を高め、効果的・効率的な教育を行うことにより確かな学力を確立するとと

もに、情報活用能力など社会の変化に対応するための子どもの力をはぐくむため、ICT環

境の整備、教師の ICT指導力の向上、校務の ICT化等の教育の情報化が重要である。

○しかし、文部科学省が行った「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によ

れば2005年度末において、高速インターネット接続率、校内 LAN整備率、コンピュータ

を使って指導できる教師の割合などについて、「e-Japan戦略」等の目標を下回る結果とな

った。文部科学省としても、「IT新改革戦略」における新たな目標の策定など一層の推進

を期しており、今後、各地方公共団体における積極的な取組が期待される。

このように、今後、教育現場においても、IT環境の整備は、学校の組織力を高め、効果的・効

率的な教育を行うために不可欠なものと位置づけられている。またその中で、早い段階からの情

報教育の導入の必要性も明示されており、多種多様な情報が氾濫する現代社会において、個々が

正しく情報を読み取る力を身につけること、すなわち情報モラル教育の充実が求められている。

1.2 関西における IT環境整備と IT活用指導力の実態

ここでは、文部科学省が公立学校を対象に毎年実施し、整備の進捗状況を知る上で重要な指標

となっている「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(2007年(平成19年)3月31

日現在)から、関西における IT環境整備の実態についてみる。併せて、文部科学省において実施

された「地域・学校の特色等を活かした ICT環境活用先進事例に関する調査研究」(2007年(平

成19年)3月)結果と照合することで、IT環境の整備と IT利活用の関係性と阻害要因を探る。

(1)IT環境の整備状況

まず、関西の公立学校における IT環境の整備状況を見ると、次表「学校における ICT環境の

整備状況」のとおり、2006年度調査と同様、関西地域においてはコンピュータの配備は全国的に

見て低位置にある。しかし、超高速インターネット接続率や光ファイバ接続率等、ネットワーク

環境の整備は比較的進んでいることがわかる。

105

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学校におけるICT環境の整備状況  

都 道 府 県 別 学校数

( 合 計 ) A  C (c/a) (c/a) (c/a)校 人/台 % % % %

福 井 県 337 6.5 21 73.1% 15 31.5% 22 49.7% 27 42.1% 27

滋 賀 県 391 8.0 40 43.2% 39 28.5% 31 50.6% 25 38.0% 33

京 都 府 696 6.6 24 49.1% 33 80.5% 1 89.2% 2 34.2% 38

大 阪 府 1,719 8.8 42 33.7% 44 30.2% 27 74.5% 5 26.2% 47

兵 庫 県 1,391 7.4 36 64.1% 24 43.0% 11 76.6% 3 46.2% 20

奈 良 県 392 9.1 46 29.0% 46 59.4% 3 66.2% 13 28.0% 46

和 歌 山 県 494 6.3 16 39.9% 43 49.3% 7 52.2% 23 32.4% 43

全 国 ( 平 均 ) 37,618 7.3 56.2% 35.0% 55.5% 43.0%

校内LAN整備率超高速インターネット

接続率

順位 順位

校務用コンピュータの整備率

順位

コンピュータ1台当たりの児童生徒数

順位

光ファイバ接続率

順位

出典:「学校における教育の情報化実態調査等に関する調査」(文部科学省 2007年3月)より作成

次に、この IT環境整備の遅れが授業等にどのように影響しているかを「地域・学校の特色等を

活かした ICT環境活用先進事例に関する調査研究」(2007年(平成19年)3月)により見る。

授業における ICT活用の障害と活用が進まない理由 <関西・小学校>

58.4%

29.7%

32.5%

25.8%

8.5%

5.4%

10.8%

13.4%

22.9%

27.5%

16.3%

31.0%

44.8%

58.9%

43.6%

52.0%

45.6%

51.2%

39.9%

44.4%

15.0%

27.0%

13.1%

13.7%

36.2%

40.1%

34.5%

33.5%

25.4%

23.5%

10.3%

12.3%

9.5%

1.6%

11.6%

2.5%

9.0%

1.9%

11.8%

4.6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

a.機器の台数が不足(管理者の認識)

  (教員の意識)

b.活用するため準備に時間がかかりすぎる。(管理者の認識)

   (教員の意識)

c.活用のイメージが分からない。(管理者の認識)

  (教員の意識)

d.教員のICT操作スキル不足。(管理者の認識)

                     (教員の意識)

e.活用のサポート体制(同僚,外部専門家など)不足(管理者の認識)

              (教員の意識)

よくあてはまる

ある程度あてはまる

あまりあてはまらない

全然あてはまらない

出典:「地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」(文部科学省 2007年3月)より作成

上表「授業における ICT活用の障害と活用が進まない理由」において、管理職と教員の意識に

おいて、管理職は「機器の台数不足」を大きな理由としている事に対し、教員は「活用のための

準備に時間がかかる」や「活用のサポート体制」等のソフト面の不備を理由に挙げていることか

ら、両者の意識にズレが生じていることがわかる。

また、同調査結果より普通教室での「授業における ICT活用の障害について」では、特に、「授

業で ICTを活用するための準備に時間がかかりすぎる」と「活用したくても機器の台数が不足し

ている」が、ICT 活用の障害の大きな理由として挙げられている。これを全国と関西で比較した

場合、全国では「機器の台数不足」が最も高い理由となっているのに比して、関西では「準備に

時間がかかりすぎる」が「機器の台数不足」を上回る割合となっている。また、「サポートしてく

れる人がいない」は、関西は全国より4.9ポイント上回る回答で、全項目の中で一番大きな差と

なっている。その他の項目(ソフト面)においても、いずれも全国を上回っていることから、関

106

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第3章 教育分野の情報化

西においては機器不足もさることながら、ソフト的な対応が全国にも増して求められていること

が窺える。

* 各項目の数値は、「良くあてはまる」若しくは「ある程度あてはまる」と回答した教員の割合

授業におけるICT活用の障害について(普通教室)

74.9

73.7

52.2

54.6

57.0

74.3

77.1

53.0

57.1

61.9

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

活用したくても,機器の台数が不足している。

授業でICTを活用するための準備に時間がかかりすぎる。

授業のどのような場面でICTを活用すればよいかが分からない。

教員のICT操作スキルが足りない。

活用をサポートしてくれる人(同僚,外部専門家など)がいない。

(%)

関西(N=892)

全国(N=6,498)

出典:「地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」(文部科学省 2007年3月)より作成

一方で、IT環境の整備状況の調査結果に関しては、その数字が示す実態について、後述の本実

態調査のヒアリング調査において、次の意見を得ている。

「コンピュータ1台あたりの児童生徒数」は、生徒数の多い大都市圏の自治体が概ね低位とな

っている。人数に対応した整備を行うには相応の費用が必要となり、総務省の交付金も人口規模

に応じて大きく変わることはないため、逼迫する財政事情の中で機器の整備への理解は得にくい

と考えられている。また、設備を何年にこれだけにするということが教育目標ではないとの声も

聞かれた。

また、ネットワークに関しても、文部科学省が示す『高速インターネット接続率』は、インタ

ーネットの回線接続速度 400Kbps 以上を指し、『超高速インターネット接続率』は、30Mbps 以上

を指しており、家庭での高速ネットワークにつながっている感覚とは違いがある。そこに40台の

パソコンがネットワークに接続されたのでは、授業には使えないとの指摘もあった。

(2)教員の IT活用指導力の状況

先にも述べたとおり、2007年(平成 19年)3月に初めて教育の IT活用指導力調査が実施され

ている。

107

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教員のICT活用指導力の状況  

都 道 府 県 別

( 合 計 )% % % % %

福 井 県 68.3 32 50.4% 32 54.6% 31 58.9% 37 65.2% 16

滋 賀 県 68.7 27 51.6% 26 54.7% 32 59.9% 32 63.3% 20

京 都 府 72.7 9 58.7% 5 60.0% 11 66.2% 10 66.7% 12

大 阪 府 63.3 45 47.3% 41 50.0% 43 58.0% 43 54.2% 45

兵 庫 県 67.1 38 51.2% 28 53.9% 36 60.0% 31 59.5% 36

奈 良 県 77.1 4 63.8% 4 65.5% 4 71.4% 4 69.1% 7

和 歌 山 県 63.0 46 46.9% 42 51.1% 41 58.0% 42 52.5% 47

全 国 ( 平 均 ) 69.4 52.6% 56.3% 62.7% 61.8%

* 各項目ごとの「わりにできる」若しくは「ややできる」と回答した教員の割合の大項目別の平均

校務にICTを活用する能力

順位

教材研究・指導の準備・評価などICTを活用する

能力

順位

情報モラルなどを指導する能力

順位

授業中にICTを活用して指導する能力

児童・生徒のICT活用を指導する能力

順位 順位

出典:「教員のICT活用指導力の状況」(文部科学省 2007年3月)より作成

この結果から、教員の IT活用指導力と先の IT環境の整備状況とは、必ずしも正の関係性は示

されてはいない。例えば、奈良県は、超高速インターネット接続率や光ファイバ接続率を除く IT

環境整備は、全国的に見て遅れているが、教員の IT活用指導力においては、全国的にもトップレ

ベルとなっている。

また、この結果に対して、前項と同様に「地域・学校の特色等を活かした ICT環境活用先進事

例に関する調査研究」の調査結果から、全国と関西の比較を行ったところ、次の関西地域の特徴

が浮かび上がった。

教員はサポート支援を望んでいる 「授業における ICT活用が進まない理由」としては、「教員の ICTスキルが足りない」、「活用

をサポートしてくれる人(同僚、外部専門家など)がいない」という点において、全国より関西

の府県の方が問題視しており、また授業における ICT活用の支援・サービスへの要望として「授

業における ICT活用を支援する加配教師を制度化してほしい」が、全国に比べ関西の府県の方が

より強く望んでいる。

*各項目のうち「強くそう思う」若しくは「ある程度そう思う」と回答した割合

教員の意識調査

65.7

69.4

86.4

66.5

72.0

90.3

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

教員のICT操作スキルが足りない

活用をサポートしてくれる人(同僚,外部専門家など)がいない

(要望)授業におけるICT活用を支援する加配教師を制度化してほしい

(%)

全国(N=6,498)

関西(N=892)

出典:地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」(文部科学省 2007年3月)より作成

108

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第3章 教育分野の情報化

校内の情報担当者は全国平均より高いスキルを持っている 「情報担当者の持つ能力」については、次表のとおり、全ての設問の項目において全国より関

西の府県の方が「高いスキルを持っている」ことが分かる。その中でも特に、「学校内で校内研修

計画の立案と実施できるスキル」や「管理職に対してICT活用に関する各種の提案ができるスキ

ル」といった、企画提案能力が高く評価されていることがわかる。

*各項目のうち「十分持っている」と回答した割合

情報担当者の持つ能力について

8.6

7.1

6.6

3.3

6.2

3.9

10.0

8.8

10.1

8.8

8.6

4.9

8.7

5.1

11.1

12.0

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

a.ICT技術全般に及ぶスキルを持っている

b.ネットワーク技術に関するスキルを持っている

c.情報セキュリティ技術に関するスキルを持っている

d.適切な予算管理ができるスキルを持っている

e.管理職に対して,ICT活用に関する,各種の提案ができるスキルを持っている

f.教育委員会に対して,ICT活用に関する,各種の提案ができるスキルを持っている

g.他の教員に対してICT活用の適切な支援・助言ができるスキルを持っている

h.学校内で校内研修計画の立案と、実施ができるスキルを持っている

(%)

全国(N=6,498)

関西(N=892)

出典:「地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」(文部科学省 2007年3月)より作成

以上、文部科学省が実施する調査データから、関西地域における「IT環境の整備」と「教員の

IT活用指導力」との関係においては、特に、環境整備の遅れが IT活用を阻害していると言う認

識ではなく、むしろ情報担当者が全国に比べ高い企画提案能力を有していることから、先進的な

取組みが行われていることが窺える。

1.3 校務の情報化の推進

ここでは、各学校現場での更なる取り組みが望まれる「校務の情報化の推進」に関して、2006

年度(平成18年度)に実施された「校務情報化の現状と今後の在り方に関する研究」((社)日本

教育工学振興会)から、その動きについてふれる。

校務情報化の範囲は、学校における業務(学校事務、事務以外の実務、授業)の中の「学校事

務」を指し、学校の中の業務だけでなく、教育委員会と学校間の連携、教育委員会間での連携、

教育委員会と首長部局間の連携も含まれている。その目的は、①業務の軽減と効率化、②教育活

動の質の改善、③保護者や地域との連携、④情報セキュリティの確保であり、情報化することに

よる恩恵が期待されている。

先の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」においても、校務用コンピュータの

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整備率が遅れていることは明らかとなっているが、この「校務情報化の現状と今後の在り方に関

する研究」においても、学校、教育委員会へのアンケート調査から校務情報化の整備は、どちら

ともまだまだこれからであるとしている。しかし、校務情報化を実施しているところは、大多数

がその効果を実感している。後述するが、本実態調査で実施した関西地域の先進機関等でのヒア

リング調査からも、通知票処理において処理日数の短縮や通知票の質の向上につながったと、そ

の効果を挙げる現場の声が聞かれた。

出典:「校務情報化の現状と今後の在り方に関する研究」((社)日本教育工学振興会 2007年3月)

http://www.japet.or.jp/komuict/state.htmlより

『校務情報化は誰が推進すべきか』との設問に対し、学校長や教育委員会のリーダーシップが

重要であるとする回答が意外と少ない結果となっている。しかし、校務情報化に取り組む先進事

例では、学校長が明確なビジョンを持って推進していることから、学校長がその効果を把握する

ことが重要であるとしている。

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第3章 教育分野の情報化

出典:「校務情報化の現状と今後の在り方に関する研究」((社)日本教育工学振興会 平成19年3月)

http://www.japet.or.jp/komuict/state.htmlより

また、「校務情報化のめざす姿」として、学校内の業務だけでなく、教育委員会、保護者、地域、

他の学校、首長部局・情報政策部門との連携をとった情報システムの構築を目指す、と提示され

ている。そのためには、教育委員会が中長期の明確なビジョンを持って計画を立案し、学校と連

携してネットワークの整備を進めていくことが望ましいとしている。

校務情報化の推進は、教育委員会による明確なビジョンと学校長のリーダーシップにより、機

器の整備と併せ、そのもたらす効果が学校現場で実感されることで、段階的に進んでいくものと

思われる。

1.4 情報モラル教育の充実

「IT新改革戦略」において、今後の教育の情報化で重要な視点とされる「情報モラル教育の充

実」に関する動きについてふれる。

情報モラルに関しては、文部科学省は平成15年に同省のホームページに「“情報モラル”授業

サポートセンター」を立ち上げ、「情報モラルの指導」に関する授業の実践を授業画面の動画で確

認しながら見ることが出来、学校、教育センター、教育委員会での取り組みや家庭への対応など

参考になる事例が提供されている。平成18年度文部科学省委託事業『情報モラル等指導サポート

事業』の成果として、「情報モラル指導実践キックオフガイド」((社)日本教育工学振興会)がま

とめられている。このガイドブックは、情報モラル教育の必要性と指導カリキュラム、これなら

できる情報モラル指導実践事例、指導に使える役立ち資料集から構成されている。また、ガイド

ブックの内容をWeb化し、Webサイト『やってみよう。情報モラル教育』で、ガイドブックがダウ

ンロードできるようになっている。平成19年度には、文部科学省委託事業「情報モラル指導セミ

ナー」((財)コンピュータ教育開発センター)を全国の都道府県において、市町村の指導主事を対

111

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象にセミナーが実施されている。また、「5分でわかる情報モラル」教材の開発も行われており、

情報モラル教育の必要性と教育全体での位置づけ、指導方法などを、約5分の映像でわかり易く

紹介されており、情報モラル教育の普及・啓発に努められている。

文部科学省としては「これらの取組を通じて、学校における情報モラル教育の充実に一層取り

組んでいく」としており、教育の情報化においても重要な位置づけとして進めていくべきと捉え

られている。

関西地域においても、この情報モラル教育に積極的に取組みむ現場が比較的多く見られる。本

実態調査で行ったヒアリング機関においてもその関心は高く、兵庫県三木市立教育センターでは、

各学校において保護者にも呼びかけ啓発活動を行っており、ホームページには保護者用のページ

「事例で学ぶNetモラルWeb版」も立ち上げている。また、兵庫県立西宮今津高等学校では、情

報教育が導入されると同時(2000年)にモラル教育を実施している。現在は、情報モラル指定校

にもなっており、入学予定1年生の生徒・保護者を対象に、モラルマナーガイダンスを実施し、

情報倫理教育を中心に3年間を通して情報モラル教育に取り組まれている。

1.6 今後の展開

教育分野における情報化の取組みは、「IT新改革戦略」に謳われている IT環境整備、教員の IT活

用指導力の向上、校務情報化、情報モラル教育等においても、まだまだ課題は山積している。そ

の中で、今後の取り組むべき課題を以下に掲げる。

●IT環境整備は一定必要である

・IT環境の整備が一定整うことにより、学校現場の教員の IT活用能力も高まり、また IT利活

用に対する意識も高まることから、より質の高い教育が可能となる。

・IT環境整備で大きな課題となるパソコンの整備費用に関しては、古いパソコンの活用やソフ

トウェアのライセンス料の抑制が期待できるオープンソース・ソフトウェア(OSS)の導入

が実験的に進められている。その実証実験等の結果から、今後、OSSは十分にその活用が期

待されるところであり、更なる学校現場への有効性の周知と普及が必要である。

●人材の育成は急務である

・ 教育現場における IT活用の実態調査等からも、ITを授業に活用するための支援体制を望む声

が高いことから、その解決策のひとつに「教育情報化コーディネータ(ITCE)」の役割が期

待される。教育情報化コーディネータは、欧米ではメディアコーディネータとも呼ばれ、学

校現場で学習支援の中核として活躍していると言われているが、我が国では制度的にはまだ

確立していない。(社)日本教育工学振興会では、こうした人材の育成として2001年度(平

成13年度)から「教育情報化コーディネータ検定試験」を実施している。この検定試験は、

教育情報化コーディネータに求められる4つの総合的な能力に対し、1級から3級の3つの

レベルに分けられている。4つの求められる能力は、①「教育工学」「教育情報学」「学習デ

ザイン」に関する基礎的な知識理解、②「学校経営」「教育システム」「教育と情報化」に関

する基本的な内容の理解、③情報技術の進展と教育利用に関する知識・技術及び理解、④ネ

ットワーク構築などの実践的な問題解決能力、コミュニケーション能力、である。3級資格

者は2級試験の受験資格を得て1次試験(準2級資格)および2次試験を経て2級の資格を

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第3章 教育分野の情報化

取得できる。2007年度末現在で1,566名(資格取得内訳:2級=136名、準2級=302名、3

級=1,128名)となっている。

資格取得者の職業は、主に学校関係者や企業(ITベンダー、教育コンテンツ制作、流通企

業など)である。

・一方で教育CIO等の必要性も言われている。市町村が逼迫する財政状況の中、教育予算をい

かに確保し、教育の情報化を進めていくか。そのために地方交付税の積算額に近い情報化予

算を組めるかが、教育CIOに求められる能力であり期待されるところである。一部先進地域

においては教育CIOあるいはCIO補佐官を配置し、その有用性が確認されている。今後は

教育分野においてもガバナンスの視点から、教育CIOの設置が必要となってくる。

●教育委員会や財政当局の「学校の情報化」に対する理解が不可欠である

・教育の情報化において環境整備は地方交付税に拠ることから、その使途については各地方公

共団体に任されており、教育委員会や財政当局の「学校の情報化」に対する理解が不可欠で

ある。

・先述の教育CIOの役割の必要性に加え、学校教育に関わる教育委員会、管理職教諭、財政当

局、情報担当教諭、ITベンダー・コンテンツ流通等の企業が、それぞれの立場での働きかけ

や連携により、その必要性と理解を求めていくことが必要となってくる。

●校務情報化ガイドラインが必要である

校務情報化の推進は、都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会との共通認識に基づいた

明確なビジョンの元に、学校長のリーダーシップにより推進していくことが求められる。そ

のためにも一定のガイドラインを定め、統合的に推進することが必要である。

●地域社会での情報モラル力の醸成が必要である

情報モラル教育に関しては、ユビキタスネットワーク社会において教育関係者のみならず、

学校社会をとりまく全て(保護者、地域等も含む)において、情報モラル力の醸成が求めら

れる。地域を巻き込んだ情報モラル教育の機会として、学校の役割は重要となってくる。

以上、本節では、IT環境整備と教員の IT活用指導力との関係を、文部科学省で実施されたア

ンケート調査結果等を中心に、その現状の把握と関西の傾向等を見てきた。その結果、教育委員

会と学校現場、学校長等管理職と教員の意識の差が確認されたことから、実際の現場の状況を把

握するため、ヒアリング調査を実施した。また、教育における ITの活かし方に関して、有識者か

ら見た展望を記する。

113

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第2節 ヒアリング調査結果

教育分野の情報化に関し、日ごろ教育行政を行う教育委員会および学校現場における情報化の

具体的な取り組み内容や IT環境整備、並びに教員の IT指導力についての考え方、実践事例を中

心にヒアリング調査を行った。

№ 訪 問 先 ヒアリングのポイント

1 京都府教育委員会 IT環境整備と IT指導力等の考え方

2 兵庫県教育委員会 IT環境整備と IT指導力等の考え方

3 京田辺市教育委員会 学校現場へのOSS導入の可能性

4 三木市教育センター IT活用の先進事例実践機関。取組み内容

5 兵庫県立西宮今津高等学校 IT活用の先進事例実践校。取組み内容

6 京都大学大学院情報学研究科田中研究室 授業支援向けサーチエンジンの開発

以下に概要を示す。

2.1 IT利活用状況等

(1) IT環境整備

IT環境の整備について、ネットワーク整備、PC(教員用、児童・生徒用)整備、校内 LAN整

備の状況を以下に示す。

ネットワーク整備の状況は、本ヒアリング調査の対象とした自治体すべてが光回線で常時接続

が可能な環境を整えている。京田辺市教育委員会では独自のネットワークを構築しており、その

他は府県あるいは市のネットワークをベースに運用されている。ただし、兵庫県教育委員会につ

いては、当初は独自の教育系ネットワークを構築していたが、現在は兵庫県の情報ハイウェイで

の運用となっている。

文部科学省が「e-Japan戦略」で目標としていた『高速インターネット』とは、回線速度が 400Kbps

以上を指しており、ヒアリング機関のように、光ファイバによるブロードバンド回線で文字通り

高速での接続が可能な回線速度を指すものではない。1Mbps足らずの回線速度でも『高速インタ

ーネット』接続に分類され、統計上では『高速』でも体感上では『高速』とは言い難く、また、

授業での活用においても我慢して使っている学校が他ではみられることが、本ヒアリングから明

らかになった。一方、「IT新改革戦略」では、『光ファイバによる超高速(30Mbps以上)インタ

ーネット』が目標となり、ようやく授業で活用し得る環境が目標に設定され、目標達成に向けた

整備が急がれる。

次に、教員用や児童・生徒用の教室配備の PC、校内 LANについてみると、所管する学校数が

少ない市部の教育委員会ほど整備が進んでいる。

教員用の PCについては、三木市と京田辺市では1人1台の整備を完了しており、兵庫県と京

都府においても、1人 1台を目指した整備が進められているところである。なお、兵庫県は平成

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第3章 教育分野の情報化

20年度で完了する予定であり、京都府も現時点で約 5割の整備が終わり、今後 3年間で約 7割ま

で整備を進める計画である。児童・生徒用教室配備 PCについては、三木市と京田辺市では普通

教室に各 1台配備されている。また、京田辺市では、2室目のコンピュータ教室を新たに整備し

ている学校もある。

校内 LANについては京都府と三木市では全校で 100%整備が完了している。京田辺市では、小

学校で 100%整備が完了している。

IT環境の整備に関しては、教員用よりも児童・生徒用を優先しており、教員用への整備を進め

校務への利活用が進めば、教員が児童・生徒と向き合う時間が生まれ、教育全体の質が向上する

ものと考えられる。

(2)IT利活用

IT利活用については、授業への利活用と校務への利活用の2つの側面がある。

授業への IT利活用については、「実施するためには準備に時間と手間がかかる」という現場の

先生の声があり、この点が授業への利活用のネックになっていると考えられる。これを解消する

方法として、京田辺市ではサポート体制の充実(機器の操作方法だけでなく、授業内容に応じた

使い方の提案やアドバイス、トラブルへの対応など)や、使いやすいコンテンツの提供など、先

生が気軽に使える環境が整えられていることから利活用が進んいる。

また、授業への IT利活用の効果については、具体的に数値で表すことは難しいと認識されてお

り、現在把握できていない状況にある。また、現時点では把握する予定がない自治体もある。

校務への IT利活用については、三木市では学校全体で取り組む必要のある通知表の処理に使わ

れており、その結果、利活用前に比べると先生に1週間程度の時間的余裕が生まれ、また通知表

の内容(質)が向上したという評価がなされている。

校務における IT利活用の浸透は、教員用 PCの整備が不可欠であるが、単に整備を進めるだけ

でなく、『使わざるを得ない状況・環境』を作り、IT利活用を促すことも必要であると考えられ

る。

(3)教員の IT指導力

文部科学省において、2007年 3月に全国の教員を対象に初めて実施された IT活用の指導力調

査は、ヒアリング機関においてもその捉え方は様々であった。調査内容が多岐にわたり、調査の

実施時期も異動時期であり、しっかり聞き出せたかという疑問が残るものである上に、自己申告

による調査であり、基準にブレがあると感じられているものであったとする認識が大半であった。

その結果に対する評価への疑問を残しながらも、三木市教育センターでは、教員自身の弱点を

知る上での指標となるもので、活用能力チェックリストに沿い課題を絞り込んだ研修を実施する

ことができるようになったと評価している。

(4)情報モラル教育、情報セキュリティ対策

学校で教えるのは ITの技術だけでなく、情報モラルについての教育も重要である。特に情報モ

ラル教育については、『学校裏サイト』等の問題も発生しており、社会的な問題となっているだけ

に早急な対応が求められている。学校現場からも情報モラル教育についての要望が教育委員会へ

出され、企画や資料提供、講習会の開催等、児童・生徒を対象とするだけでなく保護者も含めて

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の取り組みが行われている。三木市教育センターでは、保護者向けに家庭においてWeb上で情報

モラル学習ができるように教材の提供もなされている。また、西宮今津高等学校では入学予定の

1年生の生徒・保護者を対象に、情報に関するモラルマナーガイダンスが実施されている。

情報セキュリティについては様々な工夫がなされており、教員用 PCが1人1台整備されてい

る学校であれば、私用 PCの持ち込み完全禁止や、データを個人持ちとせず必ずサーバーに保管

することの徹底などがなされている。特に、京田辺市では校長用と教頭用を除く教員用 PCには

外部記憶装置へのデータ書き出しをロックしており、厳重な管理がなされている。京都府の場合

は PCの学校外持ち出しを禁止するのではなく、持ち出しにあたり、必ず『危険なものを持ち出

している』ことを自覚させるセキュリティ対策用ソフトウェアを全クライアント(私物を含む教

員用 PC約 4000台)にインストールする計画を立てている。

各校で定めている情報セキュリティポリシーについては、その基本形は教育委員会で作成され

ており、それをベースに学校長の名の下に学校独自でまとめているケースがほとんどである。

情報モラルや情報セキュリティについては、子供に対してはそれぞれの年代に応じた教え方が

あり、また、大人に対しては常日頃から言い続けておかなければ身につかないと考えられる。

(5)今後の課題

IT利活用を進めていく上での今後の課題には、以下が挙げられる。

第一には、環境整備(=予算確保)と情報担当できる人材の確保である。

IT環境の整備に関しては、予算の確保が困難な財政状況にあり、地方交付税を原資にするので

はなく、目的を明確にした補助金制度等の創設が望まれる。同時に、PC整備を進めるためには、

京田辺市のように旧型 PCの再利用およびそれに伴うOSS導入の検討など、自治体としての対応

策を検討する必要もある。

授業への IT利活用を進めるためには、誰でもが手軽に IT機器を使えるようになることと同時

に、準備に時間を使わなくても簡単に利用できる教科書に準拠したコンテンツの整備やサポート

体制の充実が不可欠である。校務への IT利活用には、校務用の統合システムや生徒情報を一元管

理できるシステムの開発が望まれる。

IT利活用の効果については、現時点では明確に示すことのできる指標や基準がないため、国(文

部科学省)による、わかりやすい形での効果判定方法の提示が望まれる。また、2007年(平成 19

年)3月に行われた『教員の IT活用指導力』に関する調査では、日常求められる活用能力が各都

道府県により異なることから自己評価に差が生じ、結果を一律に比較することができないため、

全国共通の評価基準が必要である。

また、教育分野における更なる IT利活用を図るためには、教育CIO設置に関する方針、教育

CIOの資格・基準の明確化を行った上で、教育CIOを設置する必要がある。

2.2 特徴的、先進的取り組み事例

特徴的、先進的な取り組み事例として、京田辺市教育委員会の『京田辺市地域プロジェクト』

における教育現場へのOSS導入に関する実証実験、兵庫県立西宮今津高等学校の IT活用授業の

実践、京都市立稲荷小学校と京都大学大学院田中研究室との小大連携による『INARIプロジェク

ト』があげられる。

これらの内容について、以下にその概要を示す。

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第3章 教育分野の情報化

(1)京田辺市教育委員会『京田辺市地域プロジェクト』

『京田辺市地域プロジェクト』は、経済産業省の教育分野における情報処理振興施策の一環で

取り組まれた財団法人コンピュータ教育開発センターが実施する教育情報化促進基盤整備事業

「Open School Platform」プロジェクトの中で、2005~2006年度(平成 17~18年度)に行われた

実証実験である。

実験結果からは、リサイクル PC活用の可能性、OSS環境導入に向けたサポート体制の重要性、

授業におけるOSS環境の実用性、既存の旧機種の活用により低予算で ITの整備・活用ができる、

児童・生徒はOSSを問題なく活用できる、OSS・非OSS環境の併用により教員の校務でも活用で

きることが明らかになっている。

(2)兵庫県立西宮今津高等学校

兵庫県立西宮今津高等学校では、2000年(平成 12年)から情報教育を開始し、当初から『ネ

ットワークを使ってコミュニケーション力を育成したい』という柱の下に、2002年(平成 14年)

から本格的に情報教育に取り組むようになった。現在では、国際交流、地域学校間交流、高大連

携、産学連携という交流学習を4本の柱とした『Global Communication Projects in Nishinomiyaimazu

Senior highschool (GCPN)』として、Webサイトをコミュニケーションの拠点とし、授業を ITの活

用(地域社会への情報発信の場となるWebサイトの構築、校内での教科横断型連携学習)の実践

の場としている。

情報モラル教育についても情報教育の開始と同時に始められ、情報教育の中心に『情報倫理教

育』を据え、3年間を通した取り組みとして効果を上げており、情報モラル研究指定校となって

いる。

(3)『INARIプロジェクト』

『INARIプロジェクト』は、京都市立稲荷小学校と京都大学大学院情報学研究科田中研究室が、

小学校と大学との連携(小大連携)により取り組んでいる情報教育の実践活動で、2006年(平成

16年)から授業協力を継続実施し、小学校高学年の『総合的な学習の時間』における体験的学習、

問題解決的学習を支援する一連の情報システムの構築と、これらのシステムと新たに作成した

Web活用システムを用いて、児童が年間を通して情報の収集、共有、検索、加工、発信の過程を

体得することで、情報活用能力の育成を図る実践授業を展開している。2007年(平成 19年)3

月には「第7回インターネット活用教育実践コンクール」において、実行委員会賞を受賞してい

る。2007年(平成 19年)4月の授業では、同校の小学5年生が修学旅行の準備を行うにあたり、

目的を持った気づき(動機)を促すものとして、Web検索を利用して修学旅行先の下調べをする

ことを目的とした授業を実施し、修学旅行中および帰京後に『体験ブログマップ』を活用し修学

旅行の記録を作成している。

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第3節 有識者から見た教育の情報化

デジタル学習環境を活かす

関西大学総合情報学部

教授 黒 上 晴 夫

1.情報教育・教育の情報化の充実

幼~中の新しい学習指導要領案が提示された。これは、これからの社会を知識基盤社会ととら

えて、そこにおいて「生きる力」を育成することの重要性を再確認するものとなっている。その

中で、情報教育については、日常化、高度化という意味で、ますます重視されることになる。

たとえば、現行指導要領において情報機器(コンピュータやインターネットなど)と関連が深

い記述は、以下の4点であった。

①総合的な学習の学習課題の例示の一つとして「情報」が揚げられている。

②全教科の指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項として、「指導に当たっては、児童がコン

ピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実

するとともに、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とされている。

③算数の内容の取り扱いにおいて「コンピュータなどを有効に活用し、数量や図形についての感

覚を豊かにしたり、表やグラフを用いて表現する力を高めたりするよう留意する」とされている。

④同様に理科の内容の取り扱いにおいて「観察、実験、栽培、飼育及びものづくりの指導につい

ては、指導内容に応じてコンピュータ、視聴覚機器など適切な機器を選ぶとともに、その扱いに

慣れ、それらを活用できるようにすること。また、事故の防止に十分留意すること」とされてい

る。

一方、新しい学習指導要領では、これらに加えて以下の項目が付け加えられている。

①総則において「各教科等の指導に当たっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークな

どの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを

身に付け、適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段

に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図る」とされている。

②国語の内容の取り扱いにおいて「児童が情報機器を活用する機会を設けるなどして、指導の効

果を高めるよう工夫すること」とされている。

③5年生社会の目標に「我が国の産業の発展や社会の情報化の進展に関心をもつようにする」こ

とが明示され、これに対応した学習内容として、「放送、新聞などの産業と国民生活とのかかわり」

あるいは「情報化した社会の様子と国民生活とのかかわり」について調査して、情報化の進展は

国民の生活に大きな影響を及ぼしていることや情報の有効な活用が大切であることを考えるよう

にすることが示されている。また、それ以外の学習内容も含めて、その取り扱いにおいて「学校

図書館や公共図書館、コンピュータなどを活用して、資料の収集・活用・整理などを行うように

する」とされている。

④道徳の指導上の配慮事項として、「児童の発達の段階や特性等を考慮し、第2に示す道徳の内容

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第3章 教育分野の情報化

との関連を踏まえ、情報モラルに関する指導に留意すること」とされている。

⑤総合的な学習内容として「情報」を扱う場合に「問題の解決や探究活動に取り組むこと

を通して、情報を収集・整理・発信したり、情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりする

などの学習活動が行われるようにする」とされている。

中学校においても同様に、各教科にコンピュータや情報機器を活用することが示されている他、

技術・家庭科における「情報とコンピュータ」の領域が「情報に関する科学」と改められ、その

中にどちらかを選択する対象としておかれていた「マルチメディアの活用」と「計測・制御」が、

その両方を履修させることとされている。その他に、マルチメディア作品の制作にあたって、自

分で設計するプロセスが設定されていることが注目されよう。

中学校で今回明確に記されたのが、知的財産権や肖像権についての項目である。これらは音楽

や美術において教えられることになる。

ちなみに、小学校と中学校の現行指導要領と新指導要領における情報教育に関連する事項を、

対照した表を作ってみた。新指導要領でのアンダーラインは、新しく設定されたり変更されたり

した項目である。国語は解釈によってはほとんどの項目が情報教育なので、明文化されているも

のだけ取り出してある。中学校の「情報とコンピュータ」「情報に関する科学」については、項目

化して、対応するものを線結びした図をつけた。

高等学校の学習指導要領案は未だ示されていないが、1月17日に出された「中央教育審議会答

申」によれば、これまで3科目であった普通教科「情報」が「社会と情報」「情報の科学」の2科

目に削減される。これは、小学校、中学校における情報教育において、従来の「情報A」の内容

が十分に履修されるという想定の下で、それを人文科学的な方向に発展させる「社会と情報」と、

情報科学的な方向をめざす「情報の科学」に再編し直すという意味だと考えられる。

こうしてみると、単純に項目が倍増しただけでなく、それは多様な教科においてコンピュータ

などを活用する「広める方向」と、例えば小学校5年生の社会科で、情報化と社会の関わりや情

報の有効な活用の重要性などを考えさせることや、中学校の「情報に関する科学」というような

「深める方向」での高度化が目指されていると言えよう。さらに、社会のメディア情勢を反映し

て、「情報モラル」に対する指導の早期化と強化についても、明確に示されている。

2.ICT活用の多様性

このような中で、教育現場でこれまで以上に積極的にICTを活用した授業を行うことが求め

られている。しかし当然のことだが、使うにあたってどう使うかを吟味することが一層求められ

よう。それは、学力向上に向けて授業の効率をあげることであったり、学習者のICT活用場面

を充実させることであったりする。何を目的に、どのように活用するかの整合性を検討して、意

図的に活用することが重要である。以下に、ICT活用の目的を8つに分けて考えてみたい。

(1)指示の明確化

ICT の効果について、最もよく指摘されることは、それが学習者の視線を集めて、集中度を高

めることである。これについては、実際の授業観察によるデータによって実証されてもいる(山

本朋弘ほか 2006)。ただし、授業時間中ずっと使うと、集中させる効果は減ってくる。重要なポ

イントに絞って利用するのが望ましいと言われている。

大きく提示できることから、指示を視覚化して効率的に伝えることにも有効である。例えば、

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通常の座席の形態を崩して机を並べ替えたりグループで座ったりするときに、そのフォーメーシ

ョンを図示し、その通りに座るように指示することで移動がスムーズになったり、算数や数学の

問題で線分を示すときに、口頭で「線分AB」といいつつ提示された図を指し示すことによって、

どこのことを指しているのかが正確に伝わるようになったりする。

(2)動機付け

放送教育の歴史の中では、映像番組の重要な効果として、インパクトのある映像情報を提示し

て学習意欲を高める効果が指摘されてきた。例えば、NHK の環境教育のための番組では、死んで

打ち上げられたイルカの胃袋にビニール袋がびっしり詰まっている映像や、食糧倉庫に余った米

が大量に積み上げられている映像などが示される。これを見せることで、驚きや疑問をもったり、

なんとかしなければというような気持ちを持たせ、その解決策を考えるような授業を展開するの

である。

一般に授業の設計は、単元レベルで考える。その際には、既習の単元でどのようなことを学ん

だか、それまでの学習者の生活の中でどの程度のことは常識として持ってるかといったことを検

討する。これらを前提知識という。しかし、それは新しい単元に入るときに常に十分思い出され

るとは限らないし、全員が同じ知識を共有しているということも考えにくい。したがって、単元

のはじめに、どうしても知っておいてもらいたいことについてコンパクトにまとめたコンテンツ

を見せるなどして、出発点を揃える目的でICTを活用することもある。このことで、新しい単

元で学ぶ内容が、既有知識とどのようにつながるのかを認識できて、学習に対する態度が積極的

になることを期待するのである。

学習事項に対して学習者の意識を近づける意味では、日常生活と学習内容の関連を実感させる

ことも重要である。ある学校では、コンビニエンスストアで利用されている情報システム(POS)

について学ぶときに、まず学校至近のコンビニのレジ付近の写真を大きく提示した。そこには、

そのコンビニにしかない手作りのポップカードがたてられた篭がある。それを見るなり、子ども

たちは口々に「あ、角のコンビニだ」という声をあげ、授業にのめり込んでいった。

(3)指導の効率化

文科省は「わかる授業」という標語でICTの活用を推進してきた。それは例えば、説明が難

しくイメージ化が重要な教材を短い映像やアニメーションなどで大画面で提示して、指導事項を

直感的にわからせることをねらうものである。これを実現するために、数多くのデジタルコンテ

ンツが開発されてもいる。

そこで用いられている技法はさざまだが、次のようなものがある。

・イメージ化:移動の奇蹟を残すなどして、公式がどのような経緯でできているのかを示すもの。

例えば、円周角の定理を示すために、複数の円周角を寄せ集めるアニメーションを用いたりす

る。

・モデル化:指導事項をそのまま見せるのではなく、重要な部分だけをモデルとして示すもの。

化学変化を示すために、3Dの分子モデルを動かして、結合状態がどのように変わるのかを見

せたりする。

・シミュレーション:理科や数学などでは、頭で考えたことを実験したり試したりすることが重

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第3章 教育分野の情報化

視される。しかし、それは時間をとったり実際にはやり難いこともある。そういう場合に、コ

ンピュータのシミュレーションで試行錯誤を保証する。例えば、中学校の数学では、立方体を

平面で切ったときの切り口を考える場面がある。授業では、大根や芋などで作った立方体を実

際に切るような実験が行われるが、それをコンピュータでシミュレートしてくれるソフトウェ

アも開発されている。このようなものを利用すれば、一人一人が多様な切り方を考え、切り口

を予想し、実際にやってみる試行錯誤が短時間で可能になる。

(4)情報収集の支援

学習者自身が情報を集めて学習を進める場面は、少なからずある。このデータ収集をインター

ネットは効率化してくれる。図書館で資料を調べるのに比べて、インターネットの検索では一度

に大量のデータを集めることが可能である。しかも、その際の検索対象が、図書館とは比べもの

にならないぐらい拡張される。同じことについてのデータが複数出てくることもある。こういっ

た場合、結果を比較対照してクロスチェックすることをうながすこともやりやすくなる。

(5)コミュニケーションの支援

ICTのCはコミュニケーションのCであるが、学習者同士がコミュニケーションをとりなが

ら学習を進める展開も模索されている。そこでは、協同的に学ぶことが期待され、それを通して、

学習事項がより自分のものとしてとらえられるようなことが起こっている。

地方の農業地域の小学校と、大都市の高層マンション群の中にある小学校で、農薬について議

論した例がある。農業地域の学校では、米作りの段階において、除草剤や農薬を使うことは当然

となっており、そのことで自分たちの健康が脅かされている危機感もない。一方、市販の野菜で

育てた虫の幼虫が(おそらく)残留農薬が原因で死んでしまった経験をもつ都市部の学校では、

米作りにおいても農薬を使うことには反対である。この2校の学習者同士がウェブページやテレ

ビ会議を通して大論争を進める中で、双方の立場を理解していった実践である。結論を出すこと

が目的ではなく、それぞれの立場を理解した上で例えば減農薬などの新しい知識を得て、考える

ための視座や態度を少しずつ多様化していくことが目的であった。こういったことは、教科書で

学ぶだけではおそらく不可能で、実際に立場がちがう相手とのコミュニケーションの中でこそ成

立する学習である。

このようなコミュニケーションを通した学習では、相手意識を如何にうまく創り、それを維持

するかが重要であり、これもICTは効果的である。相手と顔写真やプロフィールを交換したり、

日常的な学習の様子を伝え合ったりすることがインターネットを用いれば容易にできるからであ

る。

(6)思考の支援

アイデアプロセッサやアウトラインプロセッサというジャンルのソフトウェアがある。一部の

ワードプロセッサにも、この機能は搭載されている。このソフトウェアでは、書きたい内容を箇

条書きで項目化して、その下に文章を書いていくことが想定されている。

そして、項目ごとに前後を移動したり階層化したりしながら文章を考えることができるのである。

これと、項目を図示する機能が同時に備わっているものもある。これらは、作文だけでなく、集

めた情報を分類、比較、整理するときにも有用である。

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表計算ソフトに集めたデータを流し込んでグラフ化すると、数字からは読み取りにくかったさ

まざまなことが分かってくる。中学校の数学では、新しく「資料の活用」という領域が設定され

ているが、ここではこういうことを期待している。

(7)ふりかえりの促進

学習したことを記録し、それを見直しながら学習を振り返ることも推奨される。特に、総合的

な学習の時間など、複雑な課題に長期的に取り組む場合、それはさまざまな教科・領域に亘った

学習になる。学習成果をさまざまな観点から評価するという意味においても、学習の履歴が豊富

に残っていることが望ましい。このような活動の記録をポートフォリオと呼んでいるが、それを

コンピュータに蓄積する方法も開発されている。これをデジタル・ポートフォリオと言う。デジ

タル・ポートフォリオには、制作したものの写真や、活動の様子のビデオなども含めて一元的に

管理することができ、しかも保管場所をとらないため、有用度は高い。

デジタル・ポートフォリオは、米豪では早くから導入され、何学年も通してずっと蓄積してい

る所もある。それらを使って、小学校の卒業時に中学校の教師に何を学んだかを整理して手紙に

するような実践も見られる。

(8)デジタル社会のリテラシー形成

子どもが情報化社会で生きていくための情報能力を育成することも、極めて重要である。それ

には次のようなことがある。

・センスの育成:デジタル社会においては、知らず知らずのうちにさまざまなICTを利用して

物事が進んでいる。それが自分にとってだけ重要な場合もあれば、他者に影響を与えている場

合もある。例えば、先に見たPOSシステムでは、自分の購買行動が、いつの間にかデータと

なって商品の流通に影響を与えている。ウェブサイトを閲覧するとき、そのカウント数が先方

の広告収入に結びつくこともある。このような感覚を現代人は持つ必要がある。自分と情報社

会のさまざまな関わりについてのセンスを育成する必要がある。

・スキル育成:情報化社会で有能に生きるためには、一定のスキルが必要になる。それを一つ一

つの機器操作やアプリケーション操作のレベルで考えるか、情報操作のコンセプトのレベルで

考えるかは別にして、さまざまな形態の情報をネットワークを介して送るためのスキルや、も

らった情報を整理するスキル、大容量の情報を複数の人間で共有するスキルなど、さまざまな

ノウハウが必要となっているのである。

・情報モラルの育成:新指導要領では、とりわけ情報モラル教育について重視されている。情報

モラルについてはあらためて述べる必要もないし、H18 年度末の ICT 活用指導力の自己評価集

計においても、「情報モラルなどを指導できる」とする教員は 62.7%と結構多い(文部科学省

2007)。ただ、その指導事項が明確に定められているわけではない。これについては、例えば(社)

日本教育工学振興会が公開したキックオフガイド(日本教育工学振興会 2007)に、①情報社

会の倫理、②法の理解と遵守、③安全への知恵、④情報セキュリティ、⑤公共的なネットワー

ク社会の構築、の5つの項目に整理されている。

・メディアリテラシー育成:最後に近年ようやく市民権を得てきたメディアリテラシーの育成に

ついても考えておきたい。これは、マスメディアやその他のメディアで伝えられる情報を吟味

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第3章 教育分野の情報化

して、適切に目的的に活用することができる力を指す。メディアとどのように距離をおけばい

いかを自分自身で判断することも含む。

こういったさまざまな力(リテラシー)が、情報社会では求められる。(1)~(7)で見たよう

に、授業の中でどのようにICTを活用し、どのような力を育てるのかを検討しながら、同時

に情報モラルやメディアリテラシーにも気を配る必要が出てきているのである。

小学校情報関連項目新旧対照表 新学習指導要領 現行学習指導要領

総 則 ・ 配 慮 事 項

・各教科の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。(指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項)

・各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実するとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。(指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項)

総 則 / 総 合

・学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動,児童の興味・関心に基づく課題についての学習活動,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動などを行うこと。(指導計画の作成) ・情報に関する学習を行う際には,問題の解決や探究活動に取り組むことを通して,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。(内容の取り扱い)

・(総合的な学習の)ねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。

国 語

・(学習内容について)相互に密接に関連付けて指導するようにするとともに,それぞれの能力が偏りなく養われるようにすること。その際…児童が情報機器を活用する機会を設けるなどして,指導の効果を高めるよう工夫すること。

社 会

・我が国の産業の様子,産業と国民生活との関連について理解できるようにし,我が国の産業の発展や社会の情報化の進展に関心をもつようにする。(目標) ・我が国の情報産業や情報化した社会の様子について,次のことを調査したり資料を活用したりして調べ,情報化の進展は国民の生活に大きな影響を及ぼしていることや情報の有効な活用が大切であることを考えるようにする。 ア 放送,新聞などの産業と国民生活とのかかわり イ 情報化した社会の様子と国民生活とのかかわり ・(これらについて) ア アについては,放送,新聞などの中から選択して取り上げること。 イ イについては,情報ネットワークを有効に活用して公共サービスの向上に努めている教育,福祉,医療,防災などの中から選択して取り上げること。 ・学校図書館や公共図書館,コンピュータなどを活用して,資料の収集・活用・整理などを行うようにすること。

・我が国の通信などの産業について,次のことを見学したり資料を活用したりして調べ,これらの産業は国民の生活に大きな影響を及ぼしていることや情報の有効な活用が大切であることを考えるようにする。 ア 放送,新聞,電信電話などの産業と国民生活とのかかわり イ これらの産業に従事している人々の工夫や努力

算 数

・数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。

・コンピュータなどを有効に活用し,数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするよう留意すること。

理 科

・観察,実験,栽培,飼育及びものづくりの指導については,指導内容に応じてコンピュータ,視聴覚機器などを適切に活用できるようにすること。’

・観察,実験,栽培,飼育及びものづくりの指導については,指導内容に応じてコンピュータ,視聴覚機器など適切な機器を選ぶ…こと。

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中学校情報関連項目新旧対照表 新学習指導要領 現行学習指導要領

総 則 ・ 配 慮 事 項

・各教科等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。

・各教科等の指導に当たっては,生徒がコンピュ-タや情報通信ネットワ-クなどの情報手段を積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努めるとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。

総 則 / 総 合

・学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動,生徒の興味・関心に基づく課題についての学習活動,地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動,職業や自己の将来に関する学習活動などを行うこと。

・(総合的な学習の時間の)ねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。

国 語

・(話すこと・聞くことの能力を育成するため)目的や状況に応じて,資料や機器などを効果的に活用して話すこと。(2年生) ・新聞やインターネット,学校図書館等の施設などを活用して得た情報を比較すること。(2年生) ・生徒が情報機器を活用する機会を設けるなどして,指導の効果を高めるよう工夫すること。

・資料の収集,処理や発表などに当たっては,コンピュータや情報通信ネットワーク,教育機器の活用を促すようにする。

社 会

・地域に関する情報の収集,処理に当たっては,コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用するなどの工夫をすること。(地理) ・現代日本の特色として少子高齢化,情報化,グローバル化などがみられることを理解させる(公民)・資料の収集,処理や発表などに当たっては,コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用し,指導に生かす ・(その際)情報モラルの指導にも配慮する

・地域に関する情報の収集,処理に当たっては,コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用するなどの工夫をすること。(地理) ・現代日本の発展の過程」において,情報化の進展などが社会生活に与えた影響について気付かせること。(公民) ・資料の収集,処理や発表などに当たっては,コンピュータや情報通信ネットワーク,教育機器の活用を促すようにする。

数 学

・数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。 ・ 目的に応じて資料を収集し,コンピュータを用いたりするなどして表やグラフに整理し,代表値や資料の散らばりに着目してその資料の傾向を読み取ることができるようにする。(1年生:D資料の活用) ・ コンピュータを用いたりするなどして,母集団から標本を取り出し,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにする。(3年生:D資料の活用) ・各領域の指導に当たっては,必要に応じ,そろばん,電卓,コンピュータや情報通信ネットワークなどを適切に活用し,学習の効果を高めるよう配慮するものとする。

・各領域の指導に当たっては,必要に応じ,そろばん,電卓,コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用し,学習の効果を高めるよう配慮するものとする。

理 科

観察,実験の過程での情報の検索,実験,データの処理,実験の計測などにおいて,コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切にに活用するよう配慮するものとする。

観察,実験の過程での情報の検索,実験,データの処理,実験の計測などにおいて,コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用するよう配慮するものとする。

音 楽

・コンピュータや教育機器の活用も工夫すること。・音楽に関する知的財産権について,必要に応じて触れるようにすること。

・コンピュ-タや教育機器の活用も工夫すること。

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第3章 教育分野の情報化

美 術

・美術の表現の可能性を広げるために,写真・ビデオ・コンピュータ等の映像メディアの積極的な活用を図るようにすること。 ・美術に関する知的財産権や肖像権などについて配慮し,自己や他者の創造物等を尊重する態度の形成を図るようにすること。

・伝えたい内容を図や写真・ビデオ・コンピュ-タ等映像メディアなどで,効果的で美しく表現し伝達・交流すること。(1年生) ・表したい内容を漫画やイラストレ-ション,写真・ビデオ・コンピュ-タ等映像メディアなどで表現すること。(2,3年生) ・伝えたい内容をイラストレ-ションや図,写真・ビデオ・コンピュータ等映像メディアなどで,分かりやすく美しく表現し,発表したり交流したりすること。

保 健 体 育

・(健康の保持増進に関して)必要に応じて,コンピュータなどの情報機器の使用と健康とのかかわりについて取り扱うことも配慮すものとする。

・(健康の保持増進に関して)必要に応じて,コンピュータなどの情報機器の使用と健康とのかかわりについて取り扱うことも配慮するものとする。

技 術 ・ 家 庭 科

D 情報に関する技術 下記

B 情報とコンピュータ 下記

外 国 語

・生徒の実態や教材の内容などに応じて,コンピュータや情報通信ネットワーク,教育機器などを有効活用したり,ネイティブ・スピーカーなどの協力を得たりなどすること。

・生徒の実態や教材の内容に応じて,コンピュータや情報通信ネットワーク,教育機器などの有効活用やネイティブ・スピーカーなどの協力を得ることなどに留意すること。

道 徳

・生徒の発達の段階や特性等を考慮し,第2に示す道徳の内容との関連を踏まえて,情報モラルに関する指導に留意すること。

D 情報に関する技術 B 情報とコンピュータ

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参考文献

日本教育工学振興会 (2007)、すべての先生のための「情報モラル」指導実践キックオフガイド、

日本教育工学振興会

文部科学省 (2007)、学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果について(教員のICT

活用指導力に関する速報値)、http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/07/07071914.htm

[2008.3.15現在]

山本朋弘、清水康敬(2006)、 ITを活用した学習場面における集中度と行動分析に関する検討

-小学校5年社会科での IT を活用した授業の分析から-、日本教育工学会論文誌 30 巻増刊号

93-96

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第4章 医療分野の情報化

第第44章章 医医療療分分野野のの情情報報化化

→ 医療分野の情報化に関するポイント

◆医療情報を取り巻く環境の変化

● 病院の生き残りをかけた経営(経営戦略、機能特化、医療連携)が愁眉の課題になっている。

● 医療制度の改革(医療制度改革大綱、特定健診・特定保健指導の義務化等)が打出されている。

● 医療部門の新 IT化施策(IT新改革戦略、情報化新グランドデザイン等)が打出されている。

◆ヒアリング調査結果より

● 医療と情報を繋ぐ担当者レベルの人材は順調に育成が図られてきているが、医療情報のマネジ

メントや経営に繋げる人材(医療機関CIO)がまだ育っていない。

● 関連機関で整備が進められている医療情報のネットワーク化の基盤となる標準化について2

つの疾病分野に適用した実証実験が実施されている。他の疾病分野に水平展開していくにはク

リニカルパス(治療プロセスとスケジュールを示した計画表)に基づく治療業務の標準化のた

めのフレームワーク作りが課題となっている。

● 個人の生涯に亘る診療情報や健診情報を活用した予防や健康管理のサービスを可能とする基

盤として個人の医療・検診情報のデータウェアハウスが必要となってきている。

◆関西地域の強み

● 医療情報人材として医療情報技師は他の地域と比べ充実している。

● 医療情報のネットワーク化も多数取り組まれている。

● 個人の健康・医療情報の管理の取り組みが先進的に行われている。

第1節 医療分野の情報化の現状と調査の概要

2007年度の医療情報分野の実態調査に当たり、まず文献やインターネット等で医療情報分野を

取り巻く状況変化を把握し、また、2006年度のヒアリング調査結果も参考にしてヒアリング調査

を計画した。

1.1 医療分野の情報化の目的と情報化の歩み

(1)医療分野の情報化の目的と問題点

医療分野の情報化は、診療の質や安全性の向上、患者サービスの向上、医療機関の経営への貢

献(効率化・競争優位戦略の実現)を目的として進められている。

しかし、医療機関の情報化には下記のような問題点を抱えている。

● 多大な費用を伴う割には(病院では数億~数十億)、直接的な収益増に結びつきにくい

● 院内には様々なベンダの IT機器があり、データ互換性に乏しく有機的な活用が難しい

● レセプトコンピュータ(診療報酬明細書作成用)のデータは請求側が電子媒体(MO等)を

審査側に郵送し、双方で紙にアウトプットして内容チェックをするという無駄がある。

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(2)医療分野の情報化の歩み

日本の医療分野の情報化は、概ね次のような段階を経て進展してきた。

①個別部門での業務の省力化(1970年代~医事会計システム、部門支援システム)

②部門間連携による効率化(1990年代~オーダリングシステム)

③診療情報の院内共有化(2000年代~電子カルテ)

④地域の診療情報の共有化による医療連携(電子カルテによる医療情報ネットワーク化)

また、今後は保健福祉情報も含めた個人の医療関連情報の共有化・活用へ向かおうとしている。

1.2 医療分野の情報化を取り巻く内外の環境の変化

医療分野の情報化を取り巻く環境が激変しており、内部環境の変化と外部環境の変化に分けて

その状況を記載する。

(1)内部環境の変化

◆病院経営の悪化

内部環境の変化に関しては多くの医療機関で経営状況が悪化していることが挙げられる。主

な収入源である診療報酬がマイナス改定されたこともあり、病院の7割(内、自治体病院では

9割)が赤字経営となっているといわれている。業務を効率化し収支を管理、改善することが

医療機関の経営上の喫急の課題となっている。医療機関の業務や収支などの経営情報をリアル

タイムに把握して、業務の効率化、診療科別・疾病別コスト管理、病床利用率、在庫管理など

の情報から経営戦略の策定やマネジメントに役立つ統合的な経営支援システムが求められて

いる。

◆安全性、医療の質、サービスの向上への要請

患者の満足度向上や新規患者の獲得につながる医療現場での安全性、医療の質、サービスの

向上を図る必要がある。

安全性については、医療事故防止の観点から異常値や過誤に対する警告機能、診療情報の閲

覧性向上や情報共有化による伝達ミスの防止などが IT化に期待されている。

医療の質の向上については医学根拠に基づく診療支援システム(EBM: Evidence-Based

Medicine)により治療レベルの底上げなどが期待されている。

サービスの向上については患者への情報提供や待ち時間の短縮といったものがある。

◆地域医療連携への要請

医師や看護師の不足や偏在に伴い、地方などで医療機関の機能分化・再編成が進んでいる。

その対応策の一つである地域医療連携(中核病院、診療所間のシームレスな機能連携)には地

域の医療情報のネットワーク化(医療情報の共有化)が必要になる。また、画像診断や病理診

断などの高度な専門医不足から、僻地だけでなく都市部においても ITを活用した遠隔診断によ

る支援が期待されている。

(2)外部環境の変化

外部環境の変化に関しては、高齢化などに伴う医療費の高騰などを背景とした国の医療政策の

改変や IT構造改革力を期待した情報化政策の策定がある。

◆「医療制度改革大綱」

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第4章 医療分野の情報化

政府・与党医療改革協議会が 2005年 12月に策定した「医療制度改革大綱」には、医療制度の

構造改革として下記の内容が謳われている。

● 安心・信頼の医療確保と予防の重視(地域医療連携体制の構築、生活習慣病の予防等)

● 医療費の適正化の総合的推進(レセプトのオンライン化とデータ分析含む)

● 超高齢化社会を展望した新たな医療保険体系の実現

「医療制度改革大綱」を受けて、「高齢者の医療確保に関する法律」が改正され、下記の制度

が 2008年 4月から施行される。

● 特定健診・特定保健指導の義務化(40歳~74歳の人に対する内蔵脂肪型肥満の早期発見と

保健指導の医療保険者への義務化)

● 後期高齢者医療制度(75歳以上の後期高齢者に対する財源負担に関する制度)

また、上記「医療制度改革大綱」を受けて、その後に策定された国の IT施策には ITを使った

医療分野の課題解決策が盛り込まれている。

(1)「IT新改革戦略」

2006年1月に策定された「IT新改革戦略」(内閣官房、IT化を推進するための目標と方策の5ヵ

年計画)では医療分野の IT化が最重要課題の一つとして位置づけられている。また、その中で IT

による医療の構造改革の実現に向けて以下の5つの方策を挙げている。

● レセプトの完全オンライン化による事務経費の削減と予防医療への活用

● 個人が生涯を通じて健康情報を活用できる基盤作り

● 医療における効果的なコミュニケーションの実現(遠隔医療サービス、地デジ放送の活用)

● 医療情報化インフラの整備(医療機関CIO等の人材育成、セキュリティ基盤整備を含む)

● 情報化推進体制の整備と情報化新グランドデザインの策定

(2)「医療・健康・介護・福祉分野の情報化新グランドデザイン」

医療、健康等における統合的な IT化を重点的に推進するため、「医療・健康・介護・福祉分野の

情報化新グランドデザイン」(厚生労働省、2007年 3月)が策定された。その中で概ね今後の5

ヵ年アクションプランとして下記の7つの課題が提示されている。

①医療機関の情報連携のための標準化

②個人情報の安全な取り扱いについての取組み

③より高次な医療情報活用に向けた取組み

④健診結果等の収集、活用方策等についての取組み

⑤レセプトデータの収集・活用方策等についての取組み

⑥データ分析のための用語体系の開発

⑦障害福祉サービスに係る事業者の請求事務の効率化

なお、保健・医療に関する個人情報は、最もセンシティブな情報として考えられているので一

般の個人情報に比べて一層取り扱いに注意しなければならない。プライバシーとセキュリティに

関して2つのガイドラインが厚生労働省から出されている。

「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(2004年 12月)

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第 2版)」(2006年 3月)

129

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出典:「医療・健康・介護・福祉分野の情報化新グランドデザイン」(厚生労働省、2007年 3月)

(3)「IT新改革戦略政策パッケージ」

内閣府 IT戦略本部が「IT新改革戦略政策パッケージ」を 2007年 4月に策定した。「健全で安

心できる社会の実現」のための医療・健康に関する将来に向けた政策パッケージとして、「国民の

健康情報を大切に活用する情報基盤の実現」及び「国民視点の社会保障サービスの実現に向けて

の電子私書箱(仮称)の創設」がある。

● 国民の健康情報を大切に活用する情報基盤の実現

健康情報の電子的活用により下記の要素の提供が可能となり医療の質の向上が期待される。

そのための国民健康情報基盤を 2011年当初までに構築する。

①個人の健康情報を自らが管理し医師等に提示することによる病歴・体質に応じた医療の提供

②異なる医療機関間においても患者の健康情報が分断されない継続性のある医療の提供

③疾病情報や臨床データの分析による根拠に基づいた医療の提供

● 国民視点の社会保障サービスの実現に向けての「電子私書箱(仮称)」の創設

社会保障に関する国民個々の情報は、医療機関や保険者等、機関毎に個別管理されており、本

人が自由にアクセスし、活用できる状態にない。そこで、これらの情報を国民が自らのものと

130

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第4章 医療分野の情報化

して簡単に収集管理可能な仕組み「電子私書箱(仮称)(電子情報アカウント)」を検討し、2010

年頃にサービスを開始することを想定している。

「電子私書箱(仮称)」構想

出典:「IT新改革戦略政策パッケージ」(内閣府 IT戦略本部、2007年 4月)

131

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第2節 主な調査結果

2.1医療分野の情報化のヒアリング調査

2007年度の医療情報のヒアリング調査においては、「2006度関西情報化実態調査」の結果から

医療部門における情報化の課題として浮かび上がった3つの課題、①医療情報の人材育成、②医

療情報ネットワーク化の普及拡大の課題(標準化等)、及び③個人の医療健康情報の活用の将来像

等について東京地区の情報も含めて幅広く調査を実施した。

(1)ヒアリング先等

今年度は、医療情報分野の人材育成、地域医療情報ネットワーク化の進展状況、個人の医療情

報の活用などについて多用な角度から調査をするため病院、大学、関連団体、情報センター、ベ

ンダ、一般企業の有識者(15名)に対してヒアリング調査を実施した。下記にヒアリング先と

主なヒアリング内容を示す。

ヒアリング先及びヒアリング内容

病院  宮原 勅治 氏 ・病院経営へのIT活用とマネジメント神戸市立医療センター中央市民病院 北岡 有喜 氏 ・国立病院機構や京都市域の医療情報ネットワーク(独法)国立病院機構 京都医療センター ・病院のIT化に必要な人材、標準化 井上 通敏 氏 ・病院経営と情報化大阪府立病院機構 内藤 道夫 氏 ・上級医療情報技師大阪警察病院 ・DPCによる包括診療報酬制度

大学  入江 真行 氏 ・診療情報管理士、医療情報技師和歌山県立医科大学 ・和歌山地域の医療情報ネットワークの取り組み 阿曽沼 元博 氏 ・医療機関CIOの資質・役割り国際医療福祉大学 細羽 実 氏 ・医療情報の標準化(DICOM,HL7等)の取組み状況京都医療科学大学 宮本 正喜 氏 ・医療機関CIOの役割兵庫医科大学 今中 雄一 氏 ・医療の質の評価京都大学大学院医学研究科 ・医療経営人材育成

関連団体  山田 恒夫 氏 ・医療交互・コードの標準化(財)医療情報システム開発センター ・医療情報のネットワーク化 篠田 英範 氏 ・医療部門の標準化の取り組み保健医療福祉情報システム工業会 ・地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業 上野 智明 氏 ・医療部門のIT化の動向日本医師会総合政策研究機構 ・レセコンを使った情報システム「ORCA」の開発・普及

情報センタ  福田 清高 氏 ・加古川地区での保健・医療連携システムの運用情況加古川地域医療情報センター

ベンダー  山路 雄一 氏 ・医療分野を取り巻くIT化の動き富士通㈱ヘルスケアソリューション事業本部・医療分野の人材育成

一般企業  浦川 正博 氏 ・社員の健康作りシステム大阪ガス㈱健康開発センター

ヒアリング内容有識者及び所属組織

また、調査の一環として「連携医療セミナー」(2008年 2月、名古屋大学)に参加し、同セミ

ナーの一部として経済産業省委託事業「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」の平

成 19年度報告を聞いた。

2.2 病院内の情報化の推進に必要な人材育成

ヒアリング調査の結果から、医療部門の情報化に関連した人材の育成として「診療情報管理士」

132

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第4章 医療分野の情報化

(事務系)、「医療情報技師」(技術系)及び「医療機関CIO(仮称)」(経営系)について実情を

とりまとめた。

(1)診療情報管理士

診療録(カルテ)の内容を管理する「診療情報管理士」(1996年に「診療録管理士」から名称

変更)は、ICD国際疾病分類に基づいて病名をコード化し、情報をデータベース化する役割を担

っている。診療情報管理士の業務は、診療録が紙から ITへの移行に伴い、ITの知識と共に統計

学の知識(疾病毎の患者統計分析等)も必要とされている。(財)日本医療機能評価機構が医療水

準の向上を目的として第三者的立場から審査する「病院機能評価」(医療の質の評価、受審は任意)

の評価項目の一つとして診療録の管理がある。「診療情報管理士」が病院に存在することが医療情

報の品質管理がされているとして評価される。また診療報酬点数の加算項目にもなっており、「診

療情報管理士」は近年急速に増加している。更に、診断群分類DPC(Diagnosis Procedure

Combination)別包括評価制度の導入に伴って「診療情報管理士」は、国際疾病分類に基づくDPC

コードの付与、DPCベースの診療情報の統計処理・分析などの新たな業務を担うようになった。

(社)日本病院会が「診療情報管理士」認定試験を実施し、医療研修推進財団や病院団体により

共同認定されている。2007年時点の認定者数は約 9000で、2005度からは「診療情報管理士」の

技能・資質向上、管理者・指導者の育成を担う「診療情報管理士指導者」の認定も開始されている。

(2)医療情報技師

「医療情報技師」は、下記の役割を担っている。

①病院内で電子カルテを中心にした医療情報システムを構築する

②運用時において医療現場で業務をする従事者と情報システムのベンダとの橋渡し(通訳)の役

割を果たす

③効果的な医療情報システムにしていく

日本医療情報学会によると、このような役割を果たしていくために「医療情報技師」には医療

情報システムだけでなく情報処理技術及び医学・医療の3つの領域の知識の習得が求められてい

る。そのため各領域には以下の科目が用意されている。

・医療情報の特性と医療情報システムの現状 ・コンピュータの基礎 ・医学・医療総論・病院情報システム ・ネットワーク技術 ・医療制度・広域ネットワークが支える医療情報システム ・データベース技術 ・医療・病院管理・組織間の調整と契約 ・情報システムの開発と運用 ・社会医学・医療情報の倫理標準化 ・システム管理 ・臨床医学・医療記録の電子化 ・情報セキュリティ ・診療録およびその他の診療記録・医療情報の倫理 ・臨床看護・医療支援のためのデータ分析・評価 ・臨床検査

・医薬品の体系・安全で適切な医療・先進医療

医療情報システム 情報処理技術 医学・医療

「医療情報技師」の認定試験は日本医療情報学会により 2003年から実施され、2007年までに

6000人以上が認定されている。約半数はベンダの人である。関西地域においては神戸市立医療セ

ンター中央病院が「医療情報技師」の認定者数が 30人と突出しており、全国一のレベルにある。

なお、「医療情報技師」の資格認定制度は「関西医療情報処理懇談会」で 2001年頃から医療部門

133

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の情報技師の資格認定についてワーキングで検討してきた内容などが下敷きになっている。なお、

同学会の医療情報技師育成部会委員も関西地域は、関東地域についで多い。また、「医療情報技師」

の上位の資格である「上級医療情報技師」が 2008年 2月に初めて 81名が認定された。「上級医療

情報技師」は医療情報シスステムをマネージする立場の人を想定し、病院経営をにらんだシステ

ムの企画と開発・運用の調整と共に蓄積されたデータベースを活用し、新しい知見を生み出すこ

となどが期待されている。

地域(都道府県)の病院当たり医療情報技師数と電子カルテ導入率の間には相関が認められる。

関西地域では医療情報技師の資格取得に対して熱心な地域であることが見て取れる。

都道府県別病院当たり医療情報技師と電子カルテ導入率の相関(2005年度)

0%

5%

10%

15%

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4

病院当たり医療情報技師数(人/病院)

%)

出展:「厚生労働省統計表データベースシステム」(医療施設調査 2005年 10月)

「有限責任中間法人日本医療情報学会 医療情報技師育成部会」のHPより

(上記の医療情報技師数は 2003年~2005年に認定された数の累計数である)

(3)医療機関CIO(仮称)

病院の経営を担う人材(病院長や事務局長クラスの人)を対象とした「医療機関CIO(仮称)」

の育成も検討されはじめている。「医療機関CIO(仮称)」は上記「上級医療情報技師」の延長

線上にあるというよりもむしろ経営陣の一翼を担う立場の人物が考えられている。そのような

電子カルテ導入率(

(東京)大阪

(愛知)

和歌山

奈良

京都

滋賀

兵庫

地域別病院当たり医療情報技師と電子カルテ導入率の相関(2005年度)

0%

5%

10%

15%

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

病院当たり医療情報技師(人/病院)

)%(

導入率

テカル

電子

中国・四国 関西

関東中部

九州・沖縄

東北・北海道

134

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第4章 医療分野の情報化

認識から東京地区では「医療機関CIO(仮称)」の候補者を対象とした病院経営塾が開催され

ている。「医療機関CIO(仮称)」の役割り、必要な知識、資質等については、現在色々な機関

で検討、模索しているところである。例えば、国際医療福祉大学では経済産業省より 2004年

度に「医療情報管理者(CIO)育成のためのモデルプログラム開発事業」を受託し、育成プロ

グラムを作成し、教育を実施している。また、その教育支援ツールとして経済産業省の 2005

度委託事業「医療経営人材育成事業」として、医療経営人材育成テキストが作成された。更に

2006度には京都大学や大阪大学などを含む 5つの団体(コンソーシアム等)が同テキストに対

する補完教材の作成や実証授業を実施している。また、京都大学は医療経営の人材プログラム

を専門職大学院として有しており、「医療経営ヤングリーダーコース」を運営している。

アメリカでは特に珍しい存在ではない「医療機関CIO(仮称)」も日本では公的医療機関な

どの一部を除き、まだ余り存在していない。医療機関で IT化が急速に進んでいく中で院内に

おいて ITガバナンスを確立するためには、「医療機関CIO(仮称)」の存在が強く求められて

おり、その早期育成が待たれる。

ヒアリングを通じて得られた「医療機関CIO(仮称)」の役割、知識、資質についての一例

を下記に示す。

●「医療機関CIO(仮称)」の役割

・全体最適の視点から ITを活用した病院経営戦略の構築

・情報を目的に沿って活用し、課題を克服する

・経営トップや各医局とのコミュニケーションや調整

・病院内外の ITを活用した複数のプロジェクトを統合的にマネジメントする

・人間関係を押さえた上での IT関連組織の編制

・情報やベンダについて取捨選択の判断

・IT関連の人材育成

・取り巻く環境変化(法改正等)への早期対応策の検討

●「医療機関CIO(仮称)」に必要な知識

・経営に関する知識

・ITに関する知識

・診療に対する知識

・病院の仕組み知識

●「医療機関CIO(仮称)」に求められる資質

・コーディネート力(コミュニケーション、調整能力)

・経営的センス

・強いリーダーシップ

・統合的プログラムマネジメント能力

なお、「医療機関CIO(仮称)」の機能を一層発揮するためには、サポートする事務局(情報

収集、分析等)を組織編成することが望ましいといわれている。なお、規模の小さい病院では

医療情報部がその役割を担ってもよい。

2.3 医療情報の標準化

レセプトコンピュータ(診療報酬書類作成を主体とした医事会計システム)については各医療

機関にほぼ行き渡りつつある。その中でも日本医師会総合政策研究機構(日医総研)によるレセ

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プトコンピュータ(ORCAシステム)の診療所等への導入の伸びが特筆される。今後レセプト情

報のオンライン伝送化に伴い、医療保険事務コスト削減化や疫学的活用に向けた色々な分析が行

われようとしている。一方、電子カルテを中心とした院内システムの構築および地域の医療情報

ネットワーク化については、医療情報を共有することによりシームレスな高品質治療の確保、役

割分担をベースとした医療連携を行うことが目的である。従前の我が国の医療分野の IT化政策で

は電子カルテの導入自体が目的化され、標準化・相互運用の確保が十分に確保さないままに進め

られた結果、電子カルテはあまり普及をみず、また、地域の医療情報ネットワーク化の取り組み

もエリアの一層の拡大にはつながらなかった。その反省を踏まえ現在では、標準化や相互運用性

に力点をおいた地域の医療情報の連携化の実証実験が進められている。

(1)標準化の必要性

医療機関の情報システムはマルチベンダの各種システムが複合したシステムとなっている。

そのため病院内はもとより地域で医療情報を相互運用するためには標準化が必須の要件とな

る。医療分野が他の分野に比べて情報化が遅れている要因の一つとして標準化の遅れがある。

一連の標準化を行うことにより院内及び地域での相互運用が可能となり医療情報システムの

普及が促進される。

(2)標準化の要素

標準化には以下のような要素がある。

①診療記録の記載に必要な用語・分類コードの標準化(疾病名、薬名)

②医療情報交換規格の標準化(文字情報等のHL7、画像情報のDICOM)

③医療情報システム間の業務運用の標準化(IHE)

④セキュリティなどの基盤技術の標準化(公開鍵基盤の構築)

⑤診療プロセスの標準化(クリニカルパス)

⑥診療記録様式の標準化(POMR:Problem Oriented Medicai Record、電子カルテ記載内容)

● 用語・分類コードの標準化

(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)は、マスターの標準化を進めている。

厚生労働省の委託を受けて用語・分類コードの標準化として 9種の標準マスター(用語、コ

ードを分野別に体系化したもの)を作成し、公開している。①病名マスター、②手術・処置マ

スター、③臨床検査マスター、④医薬品マスター、⑤医療機器データベース、⑥看護実践用語

マスター・症状所見マスター・歯科分野マスター、⑨画像検査マスター

また、心電図や脳波の波形データの標準化としてMFER(Medical waveform Format Encording

Rules)交換規格の事務局を同センター内に設置し、日本から標準化を提案して ISO/TSに採択

された。

● 交換規格や業務運用の標準化

医療情報の業界団体である保健医療福祉システム工業会(JAHIS)は、関係機関の協力を得

て医療情報標準化推進協議会(HELICS Board)を、また医療用放射線機器等の業界団体である

日本画像医療システム工業会(JIRA)は関連学会の協力を得て日本 IHE協会(Integrating the

Healthcare Enterprise)などを設立し、標準化の推進に取り組んでいる。それぞれ国内の標準化

の一貫性を保つための調整・承認、標準規格を利用した医療情報連携のガイドライン作りなど

136

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第4章 医療分野の情報化

を行っている。交換規格は、HL7(Health Level Seven: 文字情報交換規格)については JAHIS

が、DICOM(DigITal Imaging and communications in Medicine: 画像情報交換規格)については JIRA

が中心になり国際的な取り組みの動向を踏まえながら標準化に取り組んでいる。

(3)標準化の実証試験

また、光ファイバー網などを利用した地域の医療情報ネットワークの相互運用性については、

経済産業省の委託事業「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」として名古屋地域

(脳卒中医療)や香川・東京・千葉・岩手地域(周産期医療)で実証実験が進められている。

ここでは、地域連携クリニカルパス(連携パス)という考え方が取り入れられている。

連携パスとは医療機関をまたがるクリニカルパス(治療プロセスとスケジュールを示した計

画表)で、機能分けした各医療機関が患者の疾病の一つの病期だけを取り扱い、連携して包括

的に治療するという仕組みである。脳卒中医療では、急性期、回復期、維持期に分けてそれぞ

れ救急病院、リハビリ病院、かかりつけ医/療養型施設が機能を分担し、シームレスに医療情

報を次の医療機関に伝達し、連携治療を行う。

地域連携クリニカルパス(連携パス)によるシームレス医療

出典:「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」(東海ネット医療フォーラム・NPO)

出典:「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」(東海ネット医療フォーラム・NPO)

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同プロジェクトは、3つの委員会(脳卒中連携医療推進委員会、標準化推進委員会、周産期

医療推進委員会)が設けられ、それぞれ東海ネット医療フォーラム・NPO、JAHIS、MEDIS-DC

が事務局となった。

実証実験にあわせて JAHISによって下記の3つの標準化が取り組まれた。

①地域連携パスに関わる診療情報コンテンツの標準化(診療情報提供書等)

②地域連携における診療情報共有の仕組みの標準化(医療機関毎の患者 IDの統一管理)

③地域連携に関わる情報セキュリティの標準化(個人情報管理に関わるガイドライン)

25の医療機関の参加による実証実験では4つの目的で実施された。

①システム間でデータの互換性を確保する

②システム間でデータの閲覧、利用性を可能とする

③システム間の相互接続性を高める

④セキュリティ等のシステムの共通基盤のあり方を示す

地域ネット医療センターでは医療情報のデータはありか情報だけ保有し、医療情報の実デー

タは各医療機関が保有する。必要に応じて患者の承認を得てデータを入手する方式を採用して

いる。今後、診療プロセスの異なる他の疾病(心筋梗塞、がん等)についても医療情報ネット

ワークを構築していくに当たり、疾病毎にシステムの姿がばらばらにならないように先ず共通

の開発フレームワークを作ることが課題となった(平成 19年度の同委託事業の報告会より)。

(4)日本における標準化の体制

医療情報の標準化に取り組んでいる諸団体を下図に示す。

政府

公的団体

学会

産業団体

国内窓口等

海外標準化組織

内閣官房(IT戦略本部)

(臨床検査データー規約)JAHIS

日本医療情報学会 日本医学放射線学会 日本放射線技術学会

JIRA(DICOM)

DICOM協議会

日本IHE協会(HL7,DICOMベースの運用ガイドライン)(HL7)

国際HL7協会

ISO TC215(医療情報国際規格化)

国際IHE協会

TC215国内対策委員会日本HL7協会

(用語・コードの標準マスター)

HERICS協議会(国内の標準化の一貫性の協議)

   医療情報の標準化に関わる主な体制

経済産業省(医療情報システム産業育成行政)

MEDIS-DC

厚生労働省(保健医療IT行政)

総務省(情報通信行政)

出典;JIRA資料を加工

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第4章 医療分野の情報化

2.4 個人の健康・医療情報の管理

特定検診制度の発足や個人の生涯にわたる医療情報の活用検討の世界的動向から個人の健

康・医療情報をデータベース化したビジネスが始動しようとしている。

(1)個人の診療情報の活用に関する海外及び国内政府の動向

年金問題に端を発し、最近では個人の情報は個人が管理するという意識が芽生えてきている。

欧米の先進国や韓国等では個人の生涯に亘る医療・健康情報をいつでもどこでも使える社会

システムEHR(Electronic Health Record)を構築するために、膨大な予算(1000億円~1兆円)

を投入し取り組んでいる。個人の生涯に亘る医療・健康情報のデータベース作りと地域から国

レベルにまで拡大した情報ネットワークを構築するための標準化や相互運用性が大きな課題

となっている。日本版EHRは 10年スパンの構想で、IT新改革戦略(2006年1月策定)にも

2010年までに「個人の健康情報を生涯を通じて活用できる基盤作り」をすることが主要目標の

一つとして謳われている。前述の標準化や名古屋等での相互運用の実証実験はその一環として

取組まれている。また、関西地域では加古川市と加古川地区の医師会が共同で 1988年から保

健医療情報センターを作って、保健・医療連携情報システムの先進的な実務運用を行っている。

(2)予防医療と健康管理のためのデータウェアハウスの構築

特定健診制度の発足に伴う企業等での生活習慣病予防のための健康診断の実施・保健指導の

義務化により、それらの情報を活用した新たな医療・健康サービスのビジネスが生まれようと

している。国レベルでは内閣官房や、厚生労働省、総務省、経済産業省が共同で ITを活用した

社会サービス基盤「電子私書箱(仮称)」(医療、社会保険など個別に管理されている情報を個

人が一括して自ら入手、管理できる仕組み)が提唱され、現在幾つかのワーキングで個別要素

の検討が始まっている。

また、民間では、富士通(株)などで自社グループ社員の健康診断結果のデータベースを構

築、蓄積し、そこから新しいビジネスを模索しようとしている。関西地域では大阪ガス㈱が早

くから社員の健康診断情報をデータベース化(1985年~)し、社員の健康づくりに活かしてい

る。医療・健康分野の新しいビジネスを展開、リードしていくには、関係者との合意形成を行

い、個人の健康・医療情報を正確でタイムリーに提供できるデータベースをいかに効率よく収

集、蓄積できるデータウェアハウスの構築がビジネスのイニシアチブをとれるか否かの分かれ

目になるであろう。

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第3節 有識者から見た医療の情報化

医療のIT化は国の利益

大阪府立病院機構 理事長

井上 通敏

IT化自体が目的ではない

IT化自体が目的ではなくて医療をよくするための手段の一つとして ITを使うのだが、某元首

相のように ITとは縁のない人までがイット、イットというものだから医療分野に限らず IT(イ

ット)自体が目的化していた時代があった。医療 ITについては厚労省が平成13年12月に「保

健医療分野における IT化の推進に関するグランドデザイン」を発表し、この中で“平成18年度

までに400床以上の病院の60%以上が電子カルテを導入する”という数値目標が掲げられて

いた。時の政府の IT推進政策に合わせて便乗した目標値であった。電子カルテを導入した病院に

はわずかではあるが診療報酬が加算された。このため多くの病院が電子カルテの導入を急ぐこと

になったが、「何のために電子カルテを導入するのか」という院内での議論を十分消化しきれない

ままに踏み切った病院が多かったのではないかと思う。電子カルテを導入するには莫大なお金が

必要だから見返りにあれもこれもと期待するのは無理もないが、このあれもこれもがユーザーと

ベンダの間で十分に詰めきれなかった病院が少なくなかったと思う。言い換えると、ユーザー側

に仕様書を書く能力があったのかということと、仮に立派な仕様書を提示したとしてもそれに応

える力がベンダ側にあったかという懸念があった。双方に未熟さがあって、導入後も溝がうまく

埋まらない状況が今も続いている病院が多いと感じている。

あれもこれもは虻蜂取らず

あれもこれもという ITに対する大きな期待があるが、病院にはたくさんの部門があり、各部門

の職員は自分たちの仕事に役立つように ITを活用したいと熱心に考えている。診療科だけでも2

0以上あり、各診療科を受診する患者の病態も異なるからそれぞれに合わせた電子カルテを作り

たいという希望はよく理解できる。しかし、全部の要望を満たすとどんどん内容が膨れ上がり、

とてつもなく複雑で巨大なシステムとなってしまう。その結果、予算も足りなくなってしまうこ

とになる。優先順位を明確にして内容を絞り込んだ電子カルテにすることが重要である。残念な

がらこの絞り込みをリードできる人材が病院には乏しい。院長が陣頭指揮すればよいのだが、多

くの院長は ITに自信がないからいきおい ITに強い若い人に頼ってしまう。頼られた者も ITにい

くら詳しくても、各診療科のそうそうたる部長を相手に絞込みのために要望のカットをお願いす

ることは非常に難しいから、結局は中途半端なシステムとならざるを得ない。その結果、運用段

階になって電子カルテに対する不平が院内に残ってしまう。

診療科レベルのあれもこれもの各論はそれぞれ理解できるが、そもそも電子カルテは何のため

に導入するのかという議論が十分に詰め切れていないと思う。1)省力化による経費節減、2)

正確な情報伝達による間違いの防止、3)診療支援による診療の質の向上、4)診療情報の蓄積

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第4章 医療分野の情報化

とその活用による臨床研究の支援、5)医師と患者が情報を共有して説明と納得を支援、6)地

域の医療機関が情報を共有して包括的な医療に役立たせる といったことが医療の IT化あるい

は電子カルテ導入の狙いである。これらの目的を最初からすべて実現することは到底無理なので、

当面どの目的に主眼を置くのかを院長が判断しなければならない。しかし、院長の耳には内外か

ら色々な意見が入ってくる。経営者の立場からは莫大な IT費用に見合うだけの収入増や経費節減

という見返りが本当に得られるのかという心理的圧力がかかる。診療現場からは業務が忙しいの

に面倒なキーボードを叩いてどれほど医療の質がよくなるのか、また、本当に患者のためになる

のかという疑問が発せられる。

アメリカと日本の違い

アメリカでも電子カルテの開発が急がれている。アメリカの場合は、民間の医療保険会社がた

くさんあって、一人の患者が複数の保険契約を交わしている場合が多い。患者を受け入れた病院

は診療内容を細かく分けて複数の保険会社へ請求しなければならないので事務経費が非常に高く

つく。これは一つの例であるが、総じてアメリカの医療事務経費率は非常に高くて、総医療費の

20%近くに達しているとも言われている。事務経費を下げることは病院にとっても保険会社に

とっても大きな利益が得られるので、双方が協力して診療情報のデジタル化HIPAA(the Health

Insurance PortabilITy and AccountabilITy Act)により保険請求事務の省力化を図ろうとしている。

捕らぬ狸の皮算用になるかもしれないが、HIPAAが成功すれば医療事務経費がアメリカ全体で約

2兆円分節約できると予測し、その分を電子カルテに投資しようと考えている。もちろん単に省

力化だけが目的ではなく、標準化された診療情報を保険会社が得ることにより病院別の診療能力

の比較評価が可能となり、病院間の診療能力の格差是正にも役立てようという訳である。

一方、我が国の場合は、医療事務に使われている費用はアメリカと比べると相対的に高くはな

い。医療事務費が医療費全体に占める割合はアメリカの 1/2~1/3くらいであると推定される。

したがって、医療事務の省力化のために ITを導入しても IT経費に見合うだけの効果はアメリカ

ほど期待することができない。日本では一体何のために IT化を推進するのかと言えば、待ち時間

の短縮などの患者サービスの向上、情報伝達の精度向上による医療事故の防止、情報支援による

診療の質の向上などが目的となる。いずれも患者の立場からは重要なことで、ぜひ実現して欲し

い目的である。しかし、このような目的の IT化は病院にとってはすぐに収益に結びつかない。こ

のようなことから、院経営者にとって投資意欲や開発意欲がいま一つ湧き上がってこないと言う

のが本音ではないかと思う。

ITは医療の質を改善できるか

医療関係者の IT化に対するモチベーションを上げるために、国は医療の安全性や質を高めるこ

とのできる ITシステムの導入に対して十分な診療報酬加算をすべきである。しかし、国の支出を

国民に納得していただくには医療の質や効率を改善できるシステムを開発し、その効果を検証し

てからのことになる。これまでも医療の質を改善するためのシステム開発が続けられてきたが、

その効果が検証できているかというと自信を持って示せる例は多くはない。

そもそも医療の質とは何であろうか。このことを仕様書、つまりコンピュータが理解できるよ

うに記述することから始めなければならない。

ピンの医療からキリの医療まで存在することは、まぎれもない現実である。患者は誰でもヤブ

141

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医者よりは名医に診てもらいたいと思っている。また、患者は一昔前の医療よりは最先端の医療

を受けたいと思っている。医療の質の改善にはニつの対策がある。一つの対策はピンの医療を更

によくすることである。これを可能にするのは医学研究である。これまでのものよりも優れた新

しい診断法、新しい薬、新しい治療法を開発することである。医療の質を改善するもう一つの対

策はキリの医療をピンの医療に近づける(底上げする)ことである。これを可能にするのは教育

であり、研修である。ITは研究という創造的な仕事にはあまり役立ちはしないが、キリの医療を

ピンの医療に近づけて質のばらつきを小さくすることであれば ITは大いに役立つ手段となる。製

造業では製品のばらつきを小さくする品質管理が重視されていて、その手段として ITが大きな威

力を発揮している。一方、医療のように人間を相手にするサービス業では製造業における品質管

理をそのまま適用できる訳ではないが、たとえば、同じような病態の患者の診療を行った場合、

医師間や病院間で治療方法が異なっていたり、同じ治療を受けても入院期間や費用に大きな差が

あるとすれば、この相違や格差を小さくすることが医療における品質管理に相当するのであろう。

極端な例を示すと、特定機能病院を対象に診断群分類による包括評価制度DPC

(Diagnosis-Procedure Combination)が実施されているが、公表された初年度のデータの一つに、

心臓バイパス手術の平均在院日数のもっとも短い病院は 18日、もっとも長い病院は 54日で実に

3倍の開きがあった。手術が下手なのか、術後の管理が悪いのか、結果として、患者には長い入

院生活という不便と莫大な費用負担をかけているし、国の総医療費の増大にも寄与したことにな

る。このような病院格差や医師格差を是正するにはどうすればよいのであろうか。学会などが診

療ガイドラインを作成することやこれを更に具体化してそれぞれの病態毎にクリニカルパス(治

療のステップとスケジュールの概要)を作成することが役に立つ。しかし、ガイドラインを作っ

ただけではだめで、研修などを通じて普及啓発しなければならない。最近はクリニカルパスを備

えた電子カルテも開発されているので、ばらつきの縮小化に大きな威力を発揮するものと期待さ

れている。

電子カルテは鏡の役割

電子カルテは従来の紙カルテの内容を電子化するだけではほとんど意味がなく、診療中の患者

の病態に関係した知識や情報を医師に提供して診療を助ける機能が期待される。クリニカルパス

はその一例である。極端に言えば、研修医が診察してもベテランの医師と変わらないほどの診療

ができるように誘導してくれるような電子カルテが理想である。

電子カルテのもう一つの大きな意義は“鏡の役割”であると思う。電子カルテに入力されたデ

ータはデータベースに蓄えられ、さまざまな集計や表示ができる。自分が行った診療や自分の病

院の診療データを見ることができる。自分の姿を見ることができるわけである。ネットワークで

他の病院とつながっておれば、あるいは全国の病院の診療データが集計されているデータベース

にアクセスできるならば、他の医師や他の病院のデータと比較することができる。先ほど例示し

た心臓バイパス術の在院日数であれば、その平均値やばらつきをA大学病院とB大学病院と比較

することができる。“他人の振り見てわが振り直せ”を可能にしてくれるのが電子カルテである。

電子カルテは“鏡の役割”である。これによって自分の姿を改善しようと努力することが医療の

レベルを引き上げる原動力となる。

比較可能の条件

142

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第4章 医療分野の情報化

他病院と公平な比較をするには、条件が同じでないと意味をなさない。たとえば、胃がんの手

術成績を比較する場合、どの程度の進行度のがんであるかを決めておかないと比較できない。病

名よりもっと細かい分類が必要である。アメリカで行われている診断群分類DRG(Diagnosis

Related Groups)の目的は診療報酬支払いのためのものであるが、臨床的には進行度や合併症を考

慮した分類となっており、DRG単位でデータが集計され、比較評価が行われている。日本におい

てもDRGと似た前述のDPCという分類が診療報酬支払いのために作られていて、この分類を単

位とした臨床比較評価が行われようとしている。

以上のような病態分類の標準化のほかに、検査や手術の用語と定義の標準化も必要である。(財)

医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)などが中心となって標準化の努力が続けられてきて、

ようやくわが国においても比較評価が可能になりつつある。

電子カルテの普及が思ったほど進まなかった理由の一つとして、上記の病態分類や用語の標準

化が遅れたことがあったが、この問題はようやくクリアされつつある。

地域での情報共有

診療情報が標準化されて電子化が進むと新たに2つのことが問題となる。

一つは地域にあるいろいろな医療機関の電子カルテをベースとした医療情報ネットワーク作

りである。医療機関だけでなく保健や福祉施設との間でも医療情報ネットワークを形成できれば

理想である。住民一人ひとりは地域の色々な診療所や病院に行くし、また、保健所や検診センタ

ーにも行く。それぞれの医療機関の間で得られた情報をお互いに参照することができれば無駄な

医療もなくなるし、それらの情報は診療の際にも大いに役立つ。これが地域の医療(保健)情報

ネットワーク化の狙いである。ところが医療情報のネットワークを形成することは簡単なことで

はない。まずネットワーク化のためには互いのデータの持ち方が標準化されていなければならな

いが、これはすでに述べたように解決されつつある。

もう一つは患者の個人情報の保護対策で、これが厄介な問題である。病院内のイントラネット

で情報のやり取りを行っている限りはよいのだが、いったん院外へ個人情報が出て公衆回線を使

うとセキュリティの確保が難しくなり、費用や手間もかかる。認証局の設置も必要だ。地域医療

情報ネットワークの有用さや必要性は誰もがわかっているのだが、個人情報の保護を軽視できな

いのでなかなか進展していない。情報ネットワークによらない方法として、それぞれの医療機関

で得られた情報を個人が自分で管理するという方法もある。CDやUSBメモリーなどの電子媒体

で管理する方法である。こちらのほうが技術的には問題が少ないが、紛失の危険性がある。また、

高齢者がデータを自己管理をできるのかという問題もある。

臨床研究に役立つ IT化を

薬害エイズや肝炎が大きな社会問題となり、病院は血液製剤を投与したかどうかを 20年以上前

にもさかのぼってカルテを調べなければならなかった。カルテの法律上の保管期間は 5年だが、

大きな病院では定められた期間よりも古いカルテを残しているところが多い。これらの中から当

該カルテを探し出すのは大変な苦労であった。仮にカルテが電子化されていたならば、作業は随

分簡単だったはずだ(但し、検索できるようにコード化されている必要がある)。発売後に薬剤の

予期し得なかった副作用が生じてしまうことはしばしば起こる。サリドマイドやキノフォルムの

時もそうだった。もしカルテが電子化され、データベース化されておればこのような予期しない

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副作用が起きたとしても、その範囲をすばやく見つけ出し、素早く対処することができるはずで

ある。また、全国レベルの医療情報ネットワークを動員した疫学研究も推進されるであろう。

電子カルテには国家的投資の値打ちがある

電子カルテの有用性を考えてみると、紙カルテはいずれ電子カルテに切り替えなければならな

い運命にあることは明白である。では何が支障になっているかというと、やはり IT化に要する費

用である。この費用負担を誰がすべきであるかという問題である。先に紹介したようにアメリカ

では電子カルテの導入によって保険会社と病院の双方に利益が得られる構造になっている。一方、

日本では電子カルテを導入しても病院の収益にあまり結びつかない。では誰が利益を得るのであ

ろうか。それは患者であり、国民である。電子カルテの導入によって医療の質のばらつきが縮小

したり、重複した医療が少なくなれば総医療費の節約ももたらされる。これは政府にとっても大

きな利益となるから国が電子カルテに投資する値打ちは十分にあると思う。国が支出する医療費

が年間 30兆円だからその5%に相当する 1兆 5千億円程度の投資を 3~5年間継続して行えば国

として十分な見返りがあるものと私は本気で信じている。

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第4章 医療分野の情報化

医療情報技師 ~医療の ICT化を担う新しいプロ~

日本医療情報学会医療情報技師育成部会

運営委員・上級医療情報技師担当

大阪警察病院 情報管理部

内藤 道夫

1.はじめに

1987年秋に関西医療情報処理懇談会が発足してから 20年が経過した。関西の様々な病院の情

報部門で働く実務担当者達が、学会や研究会とは異なり、日頃の苦労を本音で語り合い情報交換

する場として育んできたものである。医療がわかり、情報がわかる専門家の必要性を訴え、また

新たに育てるユニークな団体として活動を続けている。「医療情報技師」はその過程で少しずつイ

メージされ、2003年になって、時の日本医療情報学会井上通敏会長の指揮のもとに第1回医療情

報技師能力検定試験の実施によって実現したわけである。関西医療情報処理懇談会が「医療情報

技師」誕生に果した役割は大きなものだったといえるし、当初から本事業に関わってきた筆者と

しても、このような形で「医療情報技師」が認知されたことは大変うれしいことである。

日本医療情報学会ではこの医療情報技師育成事業を学会の重要な事業の一つとしてとらえ、医

療情報技師育成部会(以下、育成部会)を組織して活発に活動を続けている。

2007年までに実施した能力検定試験の結果、認定された医療情報技師が 6081名に達した。ま

た、2007年度からは、医療情報技師の中から、5年以上の実務経験を有し自立して判断ができリ

ーダシップがとれる能力を有する人を上級医療情報技師として認定する制度をスタートさせ、初

年度には 81名の上級医療情報技師が誕生した。

医療の ICT化を担う新しいプロとしてようやく認知されてきたこの医療情報技師および上級医

療情報技師について現状と将来を展望する。

2.医療情報技師育成事業

(1)医療情報技師および上級医療情報技師とは

医療情報技師は、「保健医療福祉専門職の一員として,医療の特質をふまえ,最適な情報処理

技術にもとづき,医療情報を安全かつ有効に活用・提供することができる知識・技術および資質

を有する者」と定義され、ユーザとしての医療機関だけでなく、メーカ・ベンダとしての企業に

も必要とされる人材である。認定者の分布はこれを裏付けている(図 1)。認定者数が減ってきた

ように見えるのは、試験開始後の 3年程で、本認定を取るべき人達が一渡り取り終えたからでは

ないかと見ている。

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  医療情報技師医療情報技師能力検定試験能力検定試験

合格者のプロフィール合格者のプロフィール

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

20032003年 年  20042004年 年  20052005年年   20062006年 年  20072007年年

医療機関医療機関

企業系企業系

図 1 医療情報技師認定者の推移と分布

上級医療情報技師は、医療情報技師であり、かつ、医療情報システムを含めて5年以上の情報

システムに関する実務経験があるものとし、次のような能力を有する者としている。

・ 自立して医療情報システムの企画、構築、運用、保守、リスク対策の実務管理にあたる実

務能力

・ 所属組織の有効な情報化政策に資するため、 責任者(CEO,COO,CIOなど)の諮問に応え

る分析判断能力

・ 実務管理を通じて後進を育て、かつ、情報システム利用者の情報倫理や法遵守を高める育

成能力

(2)医療情報技師に求められるもの

医療情報技師の育成に当たり、育成部会では、教科書出版、講習会・セミナー開催、能力検定

試験の実施を 3本柱として活動を続けているが、当初より必要とする知識・技術領域を 3つに分

けて示している(図 2)。医療情報技師誕生の背景にあった、医療がわかりかつ情報がわかるとい

う意味で、医学・医療系と情報処理技術系を、それらを統合してシステム化するという意味で医

療情報システム系を体系化している。また、医療情報技師の定義に含めた資質という意味で、3

つのC、すなわち、Communication、Collaboration、Coordinationという能力を求めている。多職種

が連携しながら組織的に動く病院の中で、情報システムを円滑に導入するために必要とする対

話・調整・協働能力は何にも増して重要であると考えるからである。

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第4章 医療分野の情報化

医療情報技師に求められる能力医療情報技師に求められる能力

● ネットワーク

● データベース

● 情報システム開発

● 情報セキュリティ

● 医療制度

● 医療・病院管理

● 社会医学

● 臨床医学

CommunicationCollaboration

Coordination

● 医療情報の倫理

● 医療情報システム

● 医療記録の電子化

● 医療情報の標準化

● 医療情報の分析

● ネットワーク

● データベース

● 情報システム開発

● 情報セキュリティ

● 医療制度

● 医療・病院管理

● 社会医学

● 臨床医学

CommunicationCollaboration

Coordination

● 医療情報の倫理

● 医療情報システム

● 医療記録の電子化

● 医療情報の標準化

● 医療情報の分析

情報処理技術

図 2 医療情報技師に求められる能力

医療情報技師は、数ある医療専門職に並ぶ新たな専門職というよりは、どの職種の人でもその

専門の上にさらに「医療情報技師」に求められる知識・技術を身に付けた能力を有する者として

認定している。医療機関所属の合格者の中には、技術に強いからと思われる臨床検査技師や診療

放射線技師が多いものの、医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、事務系職員など多くの職種の

人が含まれていて、機関全体および各職場の ICT推進役として活躍してくれているようである。

さらに、別の角度から整理してみると、図 3に示すようなイメージとなり、医療情報技師が現

場で実務経験を積みながら上級医療情報技師として育ち、その過程で病院管理や経営といった第

3の軸に沿った能力の重要性が増していくことがわかる。この経営側に立つCIOとしての役割に

ついても医療情報最高責任者として、今後定義し育成していく計画もある。

図 3 医療情報技師の能力モデル

医療情報システム

医学・医療

行動・態度 (資質)

JHIFT 2007研修委員会

OJT

医療情報技師の能力モデル

医療分野の専門性

医療分野の専門性

上級の医療情報技師上級の医療情報技師Senior Healthcare ITSenior Healthcare IT

医療情報技師医療情報技師Healthcare ITHealthcare IT

医療情報最高責任者(HCIO)医療情報医療情報最高責任者(最高責任者(HCIOHCIO))

病院病院経営・経営・管理の専門性管理の専門性

情報技術の専門性

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(3)上級医療情報技師の育成事業について

2007年度の第 1回上級医療情報技師能力検定試験の実施に先立って、医療情報技師の生涯研修

も兼ねて研修セミナーを全国 5ヵ所で実施した。同時に、上級医療情報技師に求めるものが何か

を育成部会から提示しながら医療情報技師から直接意見を聞く機会でもあった。この研修セミナ

ーでは、午前中はミニレクチャーで医療を取り巻く最新の状況を伝える一方、午後にはグループ

別に医療情報システムの開発企画会議を模擬したワークショップを行うなど、上級に求められる

ものを体験する形式も取り入れた。

講習会では、例えば図 4のようなショッキングなテーマを提示して、いかに対応するかという

トラブルシューティングについても皆で考えた。

病院情報システムの管理・運用病院情報システムの管理・運用

朝8時38分突然

システムが止まった!

受付はどうなる?

図 4 トラブルシューティングの課題

(4)能力検定試験制度の見直し~更新制の導入~

医療情報技師能力検定試験の開始から5年経過し、上級医療情報技師能力検定試験をスタート

させるに当たり、育成部会では本検定試験を様々な角度から評価し、結果として更新制の導入に

踏み切った。医療の専門職も情報処理技術者試験も更新制がない中で、ともに変化の著しい医療

と情報分野に関わる資格試験に相当する医療情報技師が、一度取ったらそのままというわけには

いかない。5年の更新制により、常に最新の医療情報の知識と技術を持ち続けていこうというこ

とである。ポイント制にして、研究、実務、育成事業への寄与などに対してポイントを付与し、5

年間で 50ポイントの条件を設定した。2009年には第 1回の認定者が更新対象となる。

3.上級医療情報技師能力検定試験について

上級医療情報技師の能力検定試験は、単なる筆記試験だけで評価できるわけではないため、一

次と二次の 2回にわたって別の角度で評価する試験とした。

一次試験は医療情報技師とほぼ同じ形式の選択問題を中心とする筆記試験とした。但し、より

正確に、より確実に知識を身につけていて欲しいということから、一部を単語レベルではあるが

記述式の問題とした。また、問題のテーマは 3つの系には特には分けず、また管理・分析能力を

問う問題のウエイトを高くした。

二次試験は小論文と面接とし、筆記試験だけでは評価できない対話能力・取り組み姿勢などを

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第4章 医療分野の情報化

中心に評価した。

試験実施は、一次試験は札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の 5ヵ所で、二次試験は受検者には

負担をかけたが、東京のみで行った。

一次試験の受検者数は466名、合格者数は125名、合格率は26.8%であった。二次試

験の受検者数は120名、合格者数は81名、合格率は67.5%であった。一次試験の受検者

数に対する二次試験の合格者数(最終合格率)は17.4%であった。

試験の内容については、一次試験では、医療制度や統計に関する問題が多少多かったかとも思

うが、医学・医療、情報処理技術、医療情報システムに関する問題を網羅的に出題した。出題し

た側は、難易度の低い問題も出題したつもりであったが、試験時間に比して問題数がやや多かっ

たためか、難しかったという声も聞いている。

二次試験の小論文は、自らの体験を記載する論文1と、情報システムの安全に関する課題論文

を読み、医療にあてはめて自分の考えや意見を記載する論文2の2つの課題を出題した。論文1

は面接のための資料として用い、論文2は論文記述能力をみるものとして3名の採点員で採点し

た。論文2の採点にあたっては、「①課題の趣旨を正確にとらえているか」、「②論旨は明確で、よ

く構成されているか」、「③自分の主張は明確か」、「④適切な文章が書けているか」の 4つの観点

から評価した。

また、二次試験の面接試験については、受検者を9グループに分け、各グループ3名の面接員

で面接を行った。面接では、論文1に記載した内容に基づいて、これまでの実務経験から学んだ

こと、上級医療情報技師の資格をとる理由は何か、上級医療情報技師の資格を取得した場合、そ

れをどのように活かしていくのかなどを聞き評価した。

二次試験の最終的な合否判定は、上述のように、独立に採点した論文2の評価と面接の評価を

もって行い、二次試験の不合格者は認定保留とし2年間の猶予期間が設けられている。

第 1回の試験結果を見る限り、的確なる評価ができたのではないかと考えている。

4.おわりに

医療のICT化はますます加速しているが、危うい基盤の上に立っているともいえる。これは

医療に限らず規模の大きなシステムの宿命かもしれない。システム全体がわかる人間が少なく、

日進月歩で技術も制度そのものも次々と変化していく中で、本当に心配なことである。そんな中

で、医療分野では日本医療情報学会が人材育成を重要な社会的役割と認識し育成部会が主導して

やってきたが、厚生労働省はもちろん、MEDIS-DC(医療情報システム開発センター)、JAHIS(保

健医療福祉情報システム工業会)や他の各種団体による活動も活発であるし、また、大学や専門

学校でも医療情報技師コースを次々と新設している中で、育成部会が単独で行う限界にきている

ため新たな展開をはかる時期に来ていると思われる。経済産業省の情報処理技術者試験のうち、

初級アドミニストレータを「ITパスポート」として、より幅広く入門的な試験に衣替えしようと

する動きにも似て、医療情報技師の裾野をもっと広げる活動も始めた。e-Learningという手段も

大変有効であろう。また、勤務医の負担軽減のため医療秘書、ドクター秘書などを認めて保険点

数化するという時代になり、医療情報を取り巻く環境が刻々と変化している中で、必要とされる

人材もどんどんと変わっていく。医師でないとだめ、看護師でないとだめ、と言う時代から本当

の専門分化の時代へと進み、その中で「医療情報技師」も「上級医療情報技師」も医療現場で強

く求められる人材となってきていると思う。

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医療情報の標準化の意義と標準化の取り組み

-IHEのめざすもの―

日本IHE協会 副理事長

京都医療科学大学 教授

細羽 実

1.はじめに

わが国の医療分野の情報化については、2006年のIT戦略本部によるIT化重点計画、厚生労働省による

グランドデザイン、2007年のIT化重点計画など、矢継ぎ早に政策が出され、それに基づく各省庁事業

が展開されている状況である。世界的に見ても、国家レベルでの電子カルテ化(EHR:Electronic Health

Record)は、2004年頃から活発化し、ほぼ10年後完了を目指して進行中である[6]。電子カルテは、医

療機関内のIT化を行うと同時に医療機関間での医療情報の共有を目指している。情報共有により始め

て大きな価値を生み出すものであり、相互運用性の実現がキーとなる。達成するためには、しっかり

とした共通基盤と共有コンテンツの定義、日常業務の共通ワークフローの確立が前提となる。1999年

に米国で生まれたIHE(Integrating the Healthcare Enterprise)InITiativeは相互運用性の確立に

焦点をあて、標準化推進に大きく貢献してきた[1-8] 。ここでは、各国のEHR事業の基盤にもなりつつ

あるIHEの手法を、医療情報連携を例に挙げて紹介し、医療情報の標準化の意義と、その現状を明らか

にする。

2.医療情報の標準化とIHE

2-1.標準化のはじまり

コミュニティ(共同体)が機能するには、メンバーが共通の考えに同意し、共通の言葉が話せ、共通

の手続きに同意していることが前提となる。通常、コミュニティは、地域の中で自然発生的に形成さ

れるので、意志を持って標準を定めることはない。ところが、コミュニティが次々と発生し、コミュ

ニティ間で物や情報の交換をすることに利便性が見出されると、共通の物を特定する共通の言葉の必

要性が認識され始める。複数のコミュニティ間で交流が進むと、手続きは膨大かつ複雑となり、どの

相手とも共通の手続きと情報交換の言葉が必要となってくる。即ち、情報の交換が自由に行われる価

値を認識するところが標準化の出発点である。従って標準化への取り組みは、どんな時にどんな情報

交換をしたいかを明確にするところから始まる。これを「情報交換シナリオ」と呼ぶことにする。

2-2.情報交換シナリオ (医療連携の場合)

例えば、医療機関A、B、C、Dがあり、患者はA機関で救急の治療を受け、B機関に入院、C機関で長期

療養を行い、近隣の診療所Dで診療を受ける場合を想定する。診療所Dの医師は、患者から過去の治療

経緯を聞くだけではなく、医療機関A,B,Cから必要な医療情報を参照したいと考える。残念ながら、わ

が国の現状では、そのような手段は、ない。このシナリオを実現するためには、医療情報を一箇所に

集中させて管理し(管理センタの設置)、関連する医療機関がそこにある医療情報にアクセスすると

いう方法がある。医療機関は患者の同意を得て管理センタに情報を送信する。関連医療機関は必要に

応じて、医療情報にアクセスすることになる。しかしこのような大規模の管理センタの設置は必ずし

も現実的ではない。そこで、例えばコミュニティの内部に情報の所在管理だけを行うセンタを設置し、

実際の情報は各医療機関が保管しておく。診療所Dに行った患者の過去の情報がどこにあるかは、所在

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第4章 医療分野の情報化

管理センタへの問い合わせで即座にわかる仕組みである。図1にそのシナリオ例を掲げた。患者が医

療機関を転々とする状況は同じであるが、コミュニティの中では、患者はどの医療機関に行っても、

所在情報にアクセスして、情報の在り処を知り、過去の医療情報を利用することが可能となる。

提供共有情報の保管

医療機関C長期診療

医療機関D診療所など

所在情報の登録

共有情報の利用者

提供共有情報の保管

所在管理台帳

情報の検索

医療機関B急性期診療(入院)

提供共有情報の保管

患者ID管理

医療機関A初期治療、診療 (救急)

医師患者

図 1 医療情報連携のシナリオ例

2-3.機能単位と情報交換手続き

このように「情報交換シナリオ」が定められると、その中で重要な役割を果たしている機能をひとつ

の単位として抽出し、シナリオの抽象化を行うことができる。図1のシナリオでは、機能の単位とい

えば、所在管理台帳機能であり、提供共有情報の保管機能であり、情報を利用する機能である。情報

を提供する仕組みを考えると、図1に加えて情報を供給する元となる機能が必要になるし、患者のID

は医療機関でばらばらなため、患者IDの何らかの照合と特定が必要となり、患者ID管理機能が求めら

れる。以上の機能を抽出すると図2のようになる。

151

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提供共有情報の保管

共有情報の利用者

提供共有情報の保管

所在管理台帳

提供共有情報の保管

患者ID管理

医師患者

情報提供元

医療機関内の電子カルテシステム

図 2 医療情報連携の機能単位

機能の単位が抽出できると、このシナリオを成り立たせるにはどのような情報のやりとりが必要かを

決めなくてはならない。情報の交換には、通信規約と用語コードを定める必要がある。機能単位を実

装しようとする複数のベンダが参加できることがこのシナリオの普及に効果的であり、競争が成り立

つ状況も期待できる。そのためには、情報交換の手続きを標準化する必要がある。

2-4.規格にだけに頼る従来の標準化

機能単位の間の情報交換手続きは、「シナリオ」の全体を成り立たせるための情報のやり取りでなけ

ればならない。決してある機能単位とある機能単位の間だけの情報交換の言葉だけを取り決めればよ

いのではない。つまり、情報交換シナリオを実現するための言葉は、最もバランスのとれた整合性の

ある情報交換を目指して取り決める必要がある。これこそが新たな標準化の考え方であり、機能単位

間の接続だけを規格で定めることに留まっていた従来の標準化との決定的な違いである。

このことに気がつくまでには多くの年月を要した。医療情報の標準規格の中でもDICOMと呼ばれる規

格は、最も成功した事例とされており、世界的に普及を見たが、それには困難も伴った。規格として

の宿命は、あらゆる場面で使われることを想定しなくてはならないことである。そうなると膨大な場

合分けとその取り決めを行っていかなければならない。しかも、その膨大な選択肢ゆえ、規格の実装

段階では大変な手間がかかる。最終決定をするのはユーザ側であるが、その選択肢の意味を説明する

側の労力も大きく、また双方が合意を形成する時間は計り知れないものとなる。多くのトラブルの原

因は、選択の誤りよりも意味を説明する側の失敗、あるいは聞いている側の誤解によるものであった。

根本的には、判断する側が最終的にどんな業務を効率化したいかという明確な目的がないためであり、

また目的があったとしても、それと標準の選択肢とが結びつかないためであった。システム構築には、

何がやりたいかのシナリオづくりと、それを成り立たせる機能単位の特定と、それらが共同でなしえ

る情報処理のための情報交換の統合的な定義が必要とされるのである。DICOM、HL7という医療情報の

152

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第4章 医療分野の情報化

標準規格が整備されてきたにも関わらず、標準化が進まない原因が明らかになり、世界は一転して共

通のシナリオづくりと機能単位の特定、即ち少し抽象化したモデル化とその単位間の情報交換の標準

化へと向かい始めた。これがIHEである。

2-5.IHEの考え方

IHEにおける共通のシナリオ作りは、各医療機関の独自の情報化ではなく、共通した業務処理に基づ

くものであり、より広く使われる可能性を追求するものである。機能単位の特定は、実装する際に最

低限共通業務をこなすのに必要な機能の単位であり、どの装置にどう実装するかの選択を容易にする。

また標準的な情報交換は、異なるベンダの実装した機能単位と共通に接続できるものであり、ユーザ

が本来何の考慮もいらない部分である。

共通のシナリオを記述する際、そのアウトラインを書いたものはプロファイルと呼ぶことがある。

共通に使えるもの、各医療機関で、あるいは医療機関連携で使えるものであり、かついくつかの要素

を組み合わせ統合したものという意味で、これをIHEでは、Integration Profile(統合プロファイルと

訳す)と定義する。実態は共通の情報交換シナリオである。次に、登場した機能単位をActor(以下ア

クタ)とする。舞台で演技する、あるいはシナリオを展開する役者に準えている。アクタが共通にし

ゃべる言葉、しゃべる様式、即ち情報交換手続きをTransaction(以下トランザクション)と呼んで

いる。共通シナリオを記述する統合プロファイルは、アクタとトランザクションで構成される。これ

がIHEのモデル化の手法である。

2-6.医療連携のIHE

医療連携シナリオをIHEで説明してみよう。このシナリオ全体を施設間医療連携統合プロファイルと

名づける。英語では、Cross Enterprise Document Sharing Integration Profileと呼ばれている。

Enterpriseというと企業体をイメージするが、医療機関のことである。Documentは公式な文書であり、

コンピュータファイルでもあるが、ここでは医療情報を表わす。略号(コード名)でXDSという。医療連

携は医療情報共有、医療情報交換などととらえ、Health Information Exchange (HIE)と表現されてい

る。IHEからもじったと思われがちであるが、実はHIEの方がIHEより古い。 XDSプロファイル(統合プ

ロファイルのこと)では、アクタは図3のようである。所在管理台帳をRegistry(レジストリ)、共有情

報の保管場所をReposITry(リポジトリ)、情報提供源をSource(ソース)、情報の利用者をConsumer(コ

ンシューマ)と呼んでいる。正式にはこれらにDocumentという言葉がつき、ドキュメント・レジスト

リ、ドキュメント・リポジトリ、ドキュメント・ソース、ドキュメント・コンシューマというカタカ

ナ・アクタとなる。

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↓患者IDの供給

(Patient ID Feed)

患者IDソース

ドキュメントレジストリ

(文書登録簿)

ドキュメントコンシューマ(文書利用者

ドキュメントソース

(文書生成源)

ドキュメントセットの提供と登録(Provide and Register Document Set)

ドキュメントリポジトリ

(文書保存庫)

ドキュメントの問い合わせ(Registry Stored Query)

↑ドキュメントセットの登録

(Register Document Set)

ドキュメントの読み出し

(Retrieve Document Set)

図 3 XDS 統合プロファイル

2-7.テクニカルフレームワーク

XDSのアクタ間のトランザクションも図3に記述した。プロファイルを成り立たせるアクタは利用場

面ごとにある程度のバリエーションがあるが、トランザクションは決められた情報を相手に伝えるた

め厳密に定義され、標準規格を用いて記述される。この記述はベンダが実装可能な仕様書を構成する。

統合プロファイル、アクタ、トランザクションが記述された文書をTechnical Framwork(テクニカル

フレームワーク)と呼ぶ。

IHEはこのテクニカルフレームワークを策定し、インターネットを通じて世界に公開することで、標

準化を進めようという動きである。即ち、IHEは技術仕様書であり、標準規格の適用ガイドとなってい

る[1]。注意しなければならないのは、IHEは規格書そのものではないことである。いわば、規格の利

用方法指南書である。

2-8.コネクタソン

IHEは、公開された技術仕様であるだけではなく、実装をめざすベンダが、アクタとアクタ間の接続

を実際にテストする場の設定を行っている。各ベンダはレジストリ、リポジトリ、ソースなどを実装

し接続テストに臨む。テストは、参加ベンダ間で数多くの組み合わせとなるが、次々と相手を代えて

接続を試みる総当り戦である。ベンダはひたすら接続を試みる状態となり、接続(Connect)作業のマ

ラソン(Marathon)の状況を呈す。そこで、IHEはこのテスト会をConnect-a-thon(コネクタソン)と

名づけた。コネクタソンは各ベンダの開発技術者が集まり、接続テストに自ら参画してトランザクシ

ョンの成功を確実なものとして持ち帰るのである。アクタとアクタのトランザクションが成功すると

ベンダはアクタの実装について合格をもらう。統合プロファイルとアクタが横軸に、縦軸にベンダ名

がならんだ表で、その交点に合格のしるしである●が書き込まれる。この表は公表され、IHEを取り入

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第4章 医療分野の情報化

れようとするユーザ側にとって大いに参考となる。

3.HIEを構築するには

IHEのXDS統合プロファイルにより、医療連携の骨格が成り立つことがわかってきた。ただし、これだ

けでは、ひとつのシナリオは実現できるものの、医療連携の全体はまだできない。簡単な疑問として

出てくるのは患者IDの統一である。実際には統一せずとも、各医療機関の患者IDがどこへ行っても、

対応(マッピング)が取れればよい。さらに、HIE構築には、セキュリティ確保、コミュニティの設立

に関する様々な規定、コミュニティを超えるアクセス、などの課題がある。

3-1.患者IDの統合

図4に、患者IDのマッピング方法を示す。この場合のアクタは、患者IDソース(提供機能)、患者ID

相互参照マネージャ、患者IDコンシューマの3つである。患者IDは、各医療機関の患者IDソースによ

って中央にある患者ID相互参照マネージャに登録される。マネージャは、各医療機関からの患者IDを

入手し、マッピングを行う。各医療機関の患者IDコンシューマはマネージャに問い合わせ、自病院の

患者IDが医療連携するコミュニティ全体の中ではどのIDかを知ることができる。コミュニティ全体の

患者IDはドキュメント・レジストリに患者IDを提供するソースから入手する形となる。このプロファ

イルは、患者ID相互参照・統合プロファイル(Patient ID Cross Referencing: PIX)と呼ばれる。

また、患者名、生年月日などの基本情報から、患者IDを知ることのできる統合プロファイル(PDQ)も

ある。

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どこカル.ネットで安心安全なまちづくり

もう他人任せにはしない。地域の健康・医療・福祉環境は自分たちで守ろう!

独立行政法人国立病院機構 京都医療センター 医療情報部長

独立行政法人国立病院機構本部 情報化統括責任者(CIO)補佐官

北 岡 有 喜

【はじめに】

急速な高齢化の進展や出生率の低下、メタボリックシンドロームという言葉を生むに至った生

活習慣病などの慢性疾患の増加に伴う疾病構造の変化、医学・医療技術の進歩による医療の高度・

専門化、IT技術の保健医療への波及や相次ぐ医療事故など、近年の保健医療を取り巻く環境は大

きく変化しつつあり、住民の保健医療に対するニーズや関心が多様化かつ一層高まっている。

さらに、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどの新興感染症の発生、B

SE(牛海綿状脳症)やアスベストなどの有害化学物質による健康被害、災害など生命を脅かす

危機も多様化し、住民本位の保険・医療・福祉環境の整備が急務となっている。

今を遡ること10年近くに経済産業省および厚生労働省が行った30近い地域医療ネットワー

ク事業は、残念ながら具体的な成果として、これらの環境を整備するには至らなかった。また昨

今の年金にかかる種々の問題や後期高齢者医療保険制度導入など、生活弱者にとって安心安全な

生活環境が益々、脅かされていると感じる住民が増加している今、厚生労働省が根本的な解決を

目指して導入を予定している社会保障カードや電子私書箱の導入も疑問視する論客が多い。

本稿では、住民本位の保険・医療・福祉環境の整備、すなわち、安心安全なまちづくりに対す

る具体的な解決策の一つとして、我々京都医療センター医療情報部と特定非営利活動法人日本サ

スティナブル・コミュニティ・センター(SCCJ)が進めるユビキタス健康・医療・福祉ネットワ

ークプロジェクト「どこカル.ネット」を例に、地域循環型方法論を紹介する。

各地における安心安全なまちづくりの参考になれば幸いである。

【「どこカル.ネット」プロジェクト】

著者らは平成16年5月から特定非営利活動法人日本サスティナブル・コミュニティ・センタ

ー(SCCJ)内に「どこカル.ネット」というプロジェクトを立ち上げた(http://www.dokokaru.net/)。

さまざまな医療過誤や血液製剤の汚染問題、BSEや鳥インフルエンザなどの食の安全問題、

年金制度改変、後期高齢者医療保険制度導入など、近年、健康・医療・福祉環境の悪化が目に見

える形で進んでいる現状で、住民が望んでいるのは、いつでも、どこでも、だれでも、安心安全

で質の高い健康・医療・福祉をテーラーメイドかつ適価で受けることの出来る(すなわち、どこ

でもカルテが見ることが出来る)ような地域健康・医療・福祉環境である。「どこカル.ネット」と

は、そのような地域の情報化を住民の手で実現しようというプロジェクトである。

日本にはいくつか「地域医療情報ネットワーク」の試みがみられるが、「どこカル.ネット」は、

近年、少しずつ普及しはじめた医療機関毎の電子カルテシステムをインターネット上で安心・安

全に相互利用するための仕組みをつくることで、住民が主体となった地域の情報化を住民の手で

実現しようというプロジェクトである。

「どこカル.ネット」プロジェクトは、ただ単にセキュリティの高い地域健康・医療・福祉情報

ネットワークのハードウエアやソフトウエアを提供するだけではない。「どこカル.ネット」でつ

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第4章 医療分野の情報化

ながれた情報技術と人のネットワークを活用した様々な健康・医療・福祉情報を相互に有効利用

可能な形で一人一人の住民にテーラーメイドで提供することで、新時代のライフスタイルを提案

している。(図1)

(図1)どこカル.ネットのホームページ

【どこカル.ネットは安心安全なまちづくりにどう対処するのか】

どこカル.ネットは、地域の中核病院にWeb型の電子カルテシステムを導入・構築し、世界32

カ国で採用されつつある医療情報交換規約HL7(Health Level 7,www.hl7.org)や全世界で普及

している医療画像標準フォーマット規約DICOMⅢ(DigITal Imaging and Communication in

medicine Ⅲ)などの標準化規約を利用して、一地域一患者一電子カルテ環境を地域に構築しよう

としている。換言すれば、どこカル.ネットは地域の医療機関を“仮想の巨大単一医療機関”と見

なして、地域にある全てに医療資源を集約し、地域住民に最善最良の健康・医療・福祉環境をテー

ラーメイドに提供しようとしているのである。

(1) EBM(根拠に基づく医療)の根拠を創造

どこカル.ネットは、住民・医療提供者双方に、診断や治療方針決定のための“意志決定支援

(Clinical Decision Support (CDS))情報”を提供することを最終目標としている。提供する“意

志決定支援情報”は教科書的な一般論ではなく、個々の住民の保健医療履歴に基づくテーラーメ

イドな情報であり、この情報はWeb型電子カルテシステムにて集約された全ての地域住民データ

を、匿名性の担保下に自動分析(データマイニングという)し提供されるのである。(図2)

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(図2)HL7CDSシステムのモデル図:

住民は自宅から任意の日時に、自分の診療情報に極似した匿名集団の抽出データによる複数の仮想治療とそれぞれ

の結果を知り、自分の治療方針を選択することが可能となる。もちろん、その結果には、当該治療にかかる治療費

も提示させ、治療方針選択の一助となる。

この情報=分析結果がEBM(根拠に基づく医療)の根拠であり、日本人独自の民族性や当該地

域の風土・当該個人の保健医療履歴に基づき、最適化されていることが必要である。

そのためには当該地域の住民の保健医療履歴が包括的かつ高い精度で収集出来る仕組みづくり

が求められている。それを4段階に分けると以下のようになる。現時点ではまだ、第二段階を構

築しているのが本邦の現状である。

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第4章 医療分野の情報化

HL7.org: Electronic Health Record (EHR) / Clinical Research (CR) Functional Profile (based on HL7 EHR-S Functional

Model, Release 1 Feb 2007) CommITtee Level Ballot Release 1 March 2008 page9より引用

(図3)各医療機関の電子診療情報(EHR)からの分析システム(CR)へ匿名化データを収集・分析にかかる4段階

第1段階(最小必要条件):EHRからの匿名抽出電子データをCRに手動で導入

第2段階(近未来):CR側から必要なEHRデータを自動的に匿名抽出収集

第3段階(将来展望):EHRとCR間で相互に関連データの移行が可能

第4段階(理想像):国際的なネットワーク上でEHRとCRがシームレスに連動

(2)国民総医療費の削減と診療報酬の適正化

一地域一患者一電子カルテ環境が地域に構築されれば、①検査結果などの診療情報が共有可能

となるため、重複検査や処置が回避でき、②複数の医療機関や診療科間での重複投薬なども回避

可能となるため、医療費の削減だけでなく、過剰投薬や併用禁忌薬のチェックなどリスクマネジ

メントツールとしての効果も期待できる。

さらに、データマイニングなどの分析結果により、医療の質を維持・向上しつつも早期離床・

早期退院可能な条件が明らかとなり、結果的に診療報酬の適正化が可能となる。例えば、急性心

筋梗塞を初発した50歳代の男性の場合、心臓カテーテル検査及び冠状動脈拡張術を施行すると平

均5日間の入院で85%の人が退院可能というようなモデリングが可能となり、このモデルに基づ

く人件費も含めた原価計算をすれば、妥当な診療報酬設定が可能となる。また、結果的に入院期

間の短縮に繋がるため、病床数削減にも貢献すると考えられる。

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(3)医師確保の財源と診療科間の偏在打開

上述のように、妥当な診療報酬設定がなされれば、医療機関の財務状況は好転する。小児科な

ど、従来は診療報酬上、恵まれていなかった診療科も正当な対価を得ることが可能となり、他診

療科と同等の医師数の確保が可能となると思われる。

(4)地域偏在と医師確保

当「どこカル.ネット」プロジェクトは電子カルテや医療情報ネットワークのみを扱っている

わけではない。住民活動の一環として、相互のナレッジシェア目的の研修会や研究会、フィール

ドワークを行い、その結果をニーズとして把握し、そのニーズを満たすため地域産業界保有シー

ズとのマッチングや仕組み作りを行い、社会起業を推進している。しかしながら、医療の、特に

医師の地域偏在に関しては、地域の医学部や医系学校入学者に対する奨学金システムの確立程度

の打開策しか想定できていない。

プロジェクトが全国に広がれば、適正な医師配置数などをデータマイニングなどにより導き出

すことも可能であるが、今現在は机上の空論である。

NPO法人として、医療の地域偏在打開のために何が出来るか、さらに検討を重ねたい。

【ポケットカルテ】

本年5月12日 特定非営利活動法人日本サスティナブル・コミュニティ・センターの健康・

医療・福祉分野情報化プロジェクト「どこカル.ネット」と株式会社アピウス、株式会社メディカ

ルコミュニケーション、株式会社ウィルコムは、開発した健康・医療・福祉情報の個人管理サー

ビス「ポケットカルテ」の試験サービスの開始をプレスリリースする。

「ポケットカルテ」は全国の医療機関に散在する自己の診療情報を一元的に、より利用しやすい

形で管理する仕組みである。今回の試験サービスでは、個人がhttp://pocketkarte.netにブラウ

ザアクセスすることにより診療情報を登録・閲覧する仕組みを提供する。これにより、

・個人の医療履歴(診療情報や特定検診などの検診データなど)を自分で管理することができる

・転院などの際にも再検査などに煩わされず、無駄のない診察が受けられる

・担当医の診療方針・内容について他者に意見を求めやすくなり、安心して診療が受けられる(セ

カンドオピニオン)

などのメリットがある。

今後はこの試験サービスを発展させ、医療機関との連携などを進めることで、緊急医療や予防

医療、医療研究に応用していき、新しい社会インフラへの成長を目指している。

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第4章 医療分野の情報化

(図4)「ポケットカルテ」の個人画面(案)

【おわりに】

“どこカル.ネットは安心安全なまちづくりにどう対処するのか“

この大きな命題に対して、電子カルテネットワークとそのデータに基づくデータマイニングに

期待できるもの等をキーワードに概説を試みた。また、本年5月12日にプレスリリースする健

康・医療・福祉情報の個人管理サービス「ポケットカルテ」の試験サービスを紹介し、具体的な

命題解決の手がかりを提示した。

どうしても医療提供サイドあるいは行政サイドの論調になってしまい、自らの未熟さを実感し

ているが、多分、この大きな命題に対する解決の糸口はこれら医療提供サイドあるいは行政サイ

ドのどちらでもなく、受療者すなわち地域住民サイドが持っているように思われる。

永年、地域住民は「先生、お任せします。」の医療、換言すれば「与えられる医療」を受けて

きた。医療提供サイドあるいは行政サイドと地域住民サイドの間に、あまりにも大きな情報格差

があり、自らの病でありながら全く自己評価や自己判断するための情報や判断基準に乏しく、「与

えられる医療」を甘受するしか無かった。

しかしながら近年、e-JAPAN計画の恩恵で世界一高帯域のインターネット接続環境が安価で整

備され、Web上の検索サイトを利用すれば誰もが容易に医療関連の「高度専門知識」を無料かつ

日本語で入手可能となった。その結果、情報格差は解消し、むしろ一部に逆転化(医療提供サイ

ドより地域住民サイドの方がより良い情報を持っている)現象が見られ出している。住民は“よ

り良い医療”“より安心安全で質の高い医療”を求めて情報収集し、遠くても希望する医療機関へ

移動していくだろう。

「与えられる医療」から「求める医療」へ。この地域住民サイドの行動変容は消費行動では極

く当然のことであるが、この「求める医療」への行動変容が、正に“安心安全なまちづくりにど

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う対処するか“という命題に対する解決の糸口のように思われてやまない。

これを受けて医療提供サイドは地域住民から「選ばれ求められる医療機関」となるべく、提供

できる医療水準の向上に精進し、その結果を随時情報公開していく。地域住民はその情報を見て

再度、行動を変容するかどうか判断する。

この“情報のキャッチボール”こそが、解決の糸口と考えている。

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第5章 関西の IT産業の動向

第第55章章 関関西西のの IITT産産業業のの動動向向

→ 関西の IT産業の動向のポイント

関西は、全体の経済規模に比べ、IT産業では全国に占めるウェイトが低い。これは関西が低い

というよりはむしろ、IT産業が東京都に集中していることの反映である。

しかしその中にあって関西の IT産業は、

・大阪湾岸において薄型パネルの生産拠点の立地が進み、将来的に表示装置の世界的集積地とな

る可能性を持つ、

・コンテンツ産業の中で最大の輸出産業であり、日本が世界市場をリードする数少ないソフト産

業であるゲーム産業で高い全国シェアを持つ、

・電力系事業者の参入によって通信市場が競争的であり、FTTHによるブロードバンドサービ利

用可能環境が高い、などの特徴がある。

第1節 関西の IT産業

1.1 IT産業の域内総生産

産業連関表による平成 12年の、関西の IT産業の域内総生産は、製造系 1.7兆円、サービス系

3.0兆円、合計 4.7兆円で、IT産業の国内総生産 31.5兆円の 15.0%を占める。これは、関西の域

内総生産 83.3兆円が国内総生産 488.1兆円に占める割合 17.1%よりやや低い。

従って、域内総生産に占める IT産業の割合は、関西は 5.7%と、全国の 6.5%を下回る。

関西の IT産業は、全体の経済規模に比べ、全国に占めるウェイトが低い。

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IT産業の域内総生産  平成12年(2000年)  (百万円、%)近畿 全国

全国比272101 電線・ケーブル 80,567 20.5 393,041272102 光ファイバーケーブル 7,189 8.7 82,352302301 産業用ロボット 20,961 9.2 227,209302904 半導体製造装置 80,848 12.3 654,845311101 複写機 39,832 12.6 315,688311109 その他の事務用機械 31,842 11.9 267,526321101 電気音響機器 66,583 14.4 460,856321102 ラジオ・テレビ受信機 24,283 18.7 129,730321103 ビデオ機器 54,472 13.8 395,589331101 パーソナルコンピュータ 36,368 7.9 459,924331102 電子計算機本体(除パソコン) 880 0.6 157,173331103 電子計算機付属装置 92,730 12.8 723,369332101 有線電気通信機器 29,574 6.8 435,754332102 携帯電話機 49,256 15.1 326,801332103 無線電気通信機器(除携帯電話) 30,081 8.1 372,794332109 その他の電気通信機器 34,570 25.6 134,864333101 電子応用装置 77,402 14.4 536,663334101 半導体素子 128,528 25.8 497,864334102 集積回路 172,367 8.1 2,127,153335901 電子管 48,932 31.0 157,980335903 磁気テープ・磁気ディスク 27,142 16.0 169,657335909 液晶素子・その他の電子部品 599,147 16.8 3,575,511391902 情報記録物 3,621 3.6 100,789製造系 1,737,175 13.7 12,703,132731201 固定電気通信 1,271,832 27.0 4,714,411731202 移動電気通信 573,629 18.5 3,109,014731203 その他の電気通信 47,097 4.4 1,080,696731909 その他の通信サービス 7,531 17.6 42,715732101 公共放送 58,573 16.9 346,892732102 民間放送 120,531 14.2 849,280732103 有線放送 35,796 19.0 188,322851201 情報サービス 869,281 10.2 8,481,173サービス系 2,984,270 15.9 18,812,503IT産業計 4,721,445 15.0 31,515,635909900 内生部門計(域内総生産) 83,294,957 17.1 488,096,789

5.7 6.5(注1)域内総生産は、粗付加価値部門計から家計外消費支出(行)を差し引いた額である。数字は産業連関表の列番号を示す。出典:平成12年地域内産業連関表

列名

IT産業が域内総生産に占める割合

1.2 IT産業の事業所数、従業者数

事業所数や従業者数は平成 13年から 18年にかけて、関西、全国共に減少している。これは、

海外への生産移転や地価の下落、商店街の衰退などの中で、個人事業者や中小企業の廃業による

ものと推測される。その中で関西の全産業の対全国比は、事業所数が 17.4%から 17.1%に、従業

者数が 17.0%から 16.7%に低下しており、関西の全産業の事業所数や従業者数は、全国を上回る

減少をみている。

関西の IT産業の対全国比は、事業所数が 15.5%から 14.5%に、従業者数が 14.3%から 13.4%

に低下し、減少幅は全産業を上回る。また関西の IT産業は両年共に事業所数より従業者数の対全

国比が低く、規模が相対的に小さい。

上述のように、関西の IT産業の事業所数、従業者数は全産業のそれに比べ、両年共に対全国比

が低く、事業所数・従業者数の面からも関西の IT産業は、全体の経済規模に比べ、全国に占める

ウェイトが低い。

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第5章 関西の IT産業の動向

IT産業の事業所数、従業者数 (件、人、%)近畿 全国 近畿の対全国比

分類 産業名 平成13年 平成18年 平成13年 平成18年 平成13年 平成18年A~R 全 産 業 1,105,074 1,008,095 6,349,969 5,911,038 17.4 17.1F 製 造 業244 電 線 ・ ケ ー ブ ル 製 造 業 272 222 1,137 984 23.9 22.627 電 気 機 械 器 具 製 造 業274 電 子 応 用 装 置 製 造 業 282 254 1,597 1,529 17.7 16.628 情 報 通 信 機 械 器 具 製 造 業 624 525 5,364 4,451 11.6 11.829 電 子 部 品 ・ デ バ イ ス 製 造 業 1,820 1,544 14,215 12,108 12.8 12.8

事 32 そ の 他 の 製 造 業 32C 情 報 記 録 物 製 造 業 55 32 414 322 13.3 9.9

業 H 情 報 通 信 業37 通 信 業

所 372 固 定 電 気 通 信 業 245 161 1,438 1,095 17.0 14.7373 移 動 電 気 通 信 業 80 78 473 379 16.9 20.6

数 374 電気通信に附帯するサービス業 2,579 1,356 13,400 8,315 19.2 16.338 放 送 業 301 260 1,795 1,732 16.8 15.039 情 報 サ ー ビ ス 業 4,309 4,372 27,642 29,095 15.6 15.040 インターネット附随サービス業 133 505 825 3,206 16.1 15.841 映 像 ・ 音 声 ・ 文 字 情 報 制 作 業411 映 像 情 報 制 作 ・ 配 給 業 449 434 3,588 3,801 12.5 11.4412 音 声 情 報 制 作 業 13 24 137 336 9.5 7.1Q サービス業(他に分類されないもの)883 事 務 用 機 械 器 具 賃 貸 業 97 78 714 646 13.6 12.1IT産業計 11,259 9,845 72,739 67,999 15.5 14.5A~R 全 産 業 10,237,468 9,785,047 60,157,509 58,634,315 17.0 16.7F 製 造 業244 電 線 ・ ケ ー ブ ル 製 造 業 15,635 9,666 63,854 46,462 24.5 20.827 電 気 機 械 器 具 製 造 業274 電 子 応 用 装 置 製 造 業 14,073 12,350 72,769 70,269 19.3 17.628 情 報 通 信 機 械 器 具 製 造 業 41,936 33,681 377,230 275,586 11.1 12.229 電 子 部 品 ・ デ バ イ ス 製 造 業 105,670 87,553 711,068 616,170 14.9 14.2

従 32 そ の 他 の 製 造 業 32C 情 報 記 録 物 製 造 業 1,973 1,776 12,935 9,642 15.3 18.4

業 H 情 報 通 信 業37 通 信 業

者 372 固 定 電 気 通 信 業 21,315 13,394 124,863 84,168 17.1 15.9373 移 動 電 気 通 信 業 2,856 3,293 26,225 22,152 10.9 14.9

数 374 電気通信に附帯するサービス業 18,616 17,180 100,176 99,937 18.6 17.238 放 送 業 8,442 8,507 67,438 65,291 12.5 13.039 情 報 サ ー ビ ス 業 115,937 120,285 837,347 961,770 13.8 12.540 インターネット附随サービス業 818 4,907 8,275 47,021 9.9 10.441 映 像 ・ 音 声 ・ 文 字 情 報 制 作 業411 映 像 情 報 制 作 ・ 配 給 業 5,183 5,382 54,667 61,750 9.5 8.7412 音 声 情 報 制 作 業 88 137 4,552 6,349 1.9 2.2Q サービス業(他に分類されないもの)883 事 務 用 機 械 器 具 賃 貸 業 1,551 1,164 11,076 10,285 14.0 11.3IT産業計 354,093 319,275 2,472,475 2,376,852 14.3 13.4

出所:平成18年事業所・企業統計調査 IT産業を業種別に事業所数、従業者数の都道府県別構成比をみると、製造業に属する IT産業

するものは事業所数、従業者数ともに東京の構成比が抜きん出て高く、

IT産業のウェイトが低下していることをみたが、これは関西の低下というよりはむ

は大都市圏のみでなく土地の問題から地方圏にも分布し、特に電子部品・デバイス製造業では、

東北や九州など三大都市圏以外の地域で、事業所数に比べ従業者数の構成比が高く、事業所規模

が大きいことが窺える。

しかし、情報通信業に属

た東京は構成比において従業者数が事業所数をかなり上回り、事業所規模が大きいことを示す。

かつ平成 13年から平成 18年にかけて、東京はさらに構成比を高め、一極集中を強めている。特

に情報サービス業、インターネット附随サービス業、映像・音声・文字情報制作業で東京への集

積が高い。

先に関西は

ろ、東京一極集中の加速というべきもののようである。

165

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28情報通信機器製造業の都道府県別構成

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

鹿

(%)

H13事業所数H18事業所数

H13従業者数H18従業者数

29電子部品・デバイス製造業の都道府県別構成

-10

-5

0

5

10

15

鹿

(%)

H13事業所数H18事業所数

H13従業者数H18従業者数

37通信業の都道府県別構成

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

鹿

(%)

H13事業所数 H18事業所数

H13従業者数 H18従業者数

38放送業の都道府県別構成

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

鹿

(%)

H13事業所数 H18事業所数

H13従業者数 H18従業者数

166

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第5章 関西の IT産業の動向

39情報サービス業の都道府県別構成

-60

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

鹿

(%)H13事業所数H18事業所数

H13従業者数H18従業者数

40インターネット附随サービス業の都道府県別構成

-80

-60

-40

-20

0

20

40

鹿

(%)

H13事業所数 H18事業所数

H13従業者数 H18従業者数

41映像・音声・文字情報制作業の都道府県別構成

-70

-60

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

鹿

(%)H13事業所数H18事業所数

H13従業者数H18従業者数

出典:平成 18年事業所・企業統計

1.3 製造系の IT産業

(1)部品・デバイスのIT産業

平成 17年の関西の部品・デバイスの IT産業の製造品出荷額等は 3兆 87億円(秘匿の光ファイ

バーケーブル製造業を除く)で全国の 13.5%を占める。これは製造業全体の製造品出荷額等の全

国シェア 16.2%を下回る。細分類業種では関西は、半導体素子製造業、コネクタ・スイッチ・リ

レー製造業等で 20%以上の高い全国シェアを持つ。

167

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部品・デバイスのIT産業の事業所数、従業者数、製造品出荷額等  従業員4人以上の事業所  平成17年事業所数 従業者数(人) 製造品出荷額等(百万円)

産業細分類 近畿 全国 全国比 近畿 全国 全国比 近畿 全国 全国比2441 電線・ケーブル製造業(光ファイバケーブルを除く) 128 417 30.7% 5748 25754 22.3% 277212 1311577 21.1%2442 光ファイバケーブル製造業(通信複合ケーブルを含む) 1 22 4.5% 107 2662 4.0% X 102054 X2667 半導体製造装置製造業 213 1349 15.8% 8355 58888 14.2% 339597 2330785 14.6%2900 電子部品・デバイス製造業2911 電子管製造業 7 41 17.1% 677 6637 10.2% 13380 216104 6.2%2912 半導体素子製造業 23 173 13.3% 9405 45570 20.6% 356959 1625190 22.0%2913 集積回路製造業 11 196 5.6% 9447 102991 9.2% 454315 5903853 7.7%2914 抵抗器・コンデンサ・変成器・複合部品製造業 69 585 11.8% 7837 46735 16.8% 227820 1167282 19.5%2915 音響部品・磁気ヘッド・小形モータ製造業 18 176 10.2% 370 8068 4.6% 4874 236544 2.1%2916 コネクタ・スイッチ・リレー製造業 42 591 7.1% 2138 31967 6.7% 267002 1179601 22.6%2917 スイッチング電源・高周波組立部品・コントロールユニット製造業 26 229 11.4% 1084 15019 7.2% 20471 456060 4.5%2918 プリント回路製造業 179 1356 13.2% 9499 76452 12.4% 231397 1914490 12.1%2919 その他の電子部品製造業 333 2650 12.6% 22047 159073 13.9% 815648 6021030 13.5%部品・デバイスのIT産業計 1050 7785 13.5% 76714 579816 13.2% 3008674 22362514 13.5%

0000 製造業計 55008 276716 19.9% 1389095 8159364 17.0% 47822471 295800300 16.2%(注)Xは秘匿数値であり、斜字は秘匿を除いて計算されたものである。全国の「部品・デバイスのIT産業計」の製造品出荷額等に2442は含まない。 出所:平成17年工業統計

電子部品・デバイス製造業の製造品出荷額等の全国シェアは、関西では兵庫県が 3.4%で最も

高い。全国的には三重県、長野県、愛知県が 5%以上の高い値を占める。

29電子部品・デバイス製造業の都道府県別構成

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

鹿

(%)

事業所数

従業者数

製造品出荷額等

(注)香川、沖縄の製造品出荷額は秘匿である。 出典:平成 17年工業統計

近年の、部品・デバイスの IT産業の製造品出荷額の伸びの推移をみると、電子管の減少幅が大

きい。特に関西では平成14年から17年の3年間で1/10以下にまで落ちている。電子管の内容は、

受信用真空管,送信用真空管,放電管,ブラウン管,X線管,水銀整流管などとなっている。電

子管の出荷額の大幅減少は、テレビ受像機がブラウン管から薄型へ移行しつつあり、ブラウン管

テレビは国内では生産されなくなっていることも反映した傾向と考えられる。

168

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第5章 関西の IT産業の動向

部品・デバイスのIT産業の製造品出荷額の伸び近畿 全国

産業細分類 H14 H15 H16 H17 H14 H15 H16 H172441電線・ケーブル製造業(光ファイバケーブルを除く) 100 84.6 90.4 107.6 100 89.2 97.5 105.52442光ファイバケーブル製造業(通信複合ケーブルを含む) 100 X 75.8 X 100 115.5 76.8 77.32667半導体製造装置製造業 100 136.7 245.3 244.2 100 114.8 178.6 172.22900電子部品・デバイス製造業 100 111.3 113.7 106.0 100 109.6 117.4 117.82911電子管製造業 100 60.8 35.1 8.9 100 84.1 78.3 60.92912半導体素子製造業 100 114.3 118.9 83.4 100 120.9 123.4 112.82913集積回路製造業 100 97.0 94.4 91.7 100 107.9 112.4 109.22914抵抗器・コンデンサ・変成器・複合部品製造業 100 100.9 95.1 102.7 100 96.8 98.3 98.52915音響部品・磁気ヘッド・小形モータ製造業 100 102.9 112.2 83.8 100 93.2 92.0 87.12916コネクタ・スイッチ・リレー製造業 100 83.8 106.1 119.9 100 102.3 121.5 126.92917スイッチング電源・高周波組立部品・コントロールユニット製造業 100 X 66.9 70.8 100 100.1 126.3 126.42918プリント回路製造業 100 104.9 118.0 117.3 100 113.4 126.7 128.52919その他の電子部品製造業 100 150.6 164.2 161.1 100 115.5 126.8 135.40000製造業計 100 99.3 104.1 107.7 100 101.6 105.6 109.8(注)Xは秘匿数値である。 出所:各年工業統計

(2)製品のIT産業

平成 17年の関西の製品の IT産業の製造品出荷額等は 2兆 5015億円(電子計算機と記憶装置製

造の秘匿を除く)で全国の 14.1%を占める。これは製造業全体の製造品出荷額等の全国シェア

16.2%を下回る。細分類業種では情報記録物、事務用機器、無線通信機器、磁気テープ・磁気デ

ィスク、ラジオ受信機・テレビジョン受信機等の全国シェアが高い。これらには関西に集積のあ

る情報家電やゲーム産業分野の製品が含まれる。

製品のIT産業の事業所数、従業者数、製造品出荷額等  従業員4人以上の事業所  平成17年事業所数 従業者数(人) 製造品出荷額等(百万円)

産業細分類 近畿 全国 全国比 近畿 全国 全国比 近畿 全国 全国比2681 事務用機械器具製造業 93 786 11.8% 8331 54353 15.3% 460554 2313607 19.9%2698 産業用ロボット製造業 87 590 14.7% 2062 18911 10.9% 56189 582103 9.7%2741 X線装置製造業 17 85 20.0% 627 4431 14.2% 16387 277333 5.9%2742 ビデオ機器製造業 44 402 10.9% 7650 34287 22.3% 193954 2439604 8.0%2743 医療用電子応用装置製造業 11 93 11.8% 296 7061 4.2% 5234 316183 1.7%2749 その他の電子応用装置製造業 99 517 19.1% 3135 25029 12.5% 59210 927059 6.4%2793 磁気テープ・磁気ディスク製造業 3 34 8.8% 899 7369 12.2% 80874 426233 19.0%2800 情報通信機械器具製造業2811 有線通信機械器具製造業 8 176 4.5% 170 20507 0.8% 3183 1010804 0.3%2812 無線通信機械器具製造業 61 383 15.9% 12228 49506 24.7% 664775 3361197 19.8%2813 ラジオ受信機・テレビジョン受信機製造業 5 31 16.1% 1327 9649 13.8% 177675 1046943 17.0%2814 電気音響機械器具製造業 83 591 14.0% 6091 35805 17.0% 216777 1317587 16.5%2821 電子計算機製造業(パーソナルコンピュータ製造業を除く) 3 132 2.3% 86 12531 0.7% X 804537 X2822 パーソナルコンピュータ製造業 29 305 9.5% 1545 15724 9.8% 143894 1581544 9.1%2823 記憶装置製造業 2 65 3.1% 215 11596 1.9% X 596285 X2824 印刷装置製造業 17 183 9.3% 1925 18268 10.5% 131266 714867 18.4%2829 その他の附属装置製造業 34 263 12.9% 2055 19237 10.7% 39223 757718 5.2%3231 娯楽用具・がん具製造業(人形、児童乗物を除く) 79 484 16.3% 1315 8458 15.5% 20988 314586 6.7%3296 情報記録物製造業(新聞、書籍等の印刷物を除く) 12 80 15.0% 871 6113 14.2% 231357 398970 58.0%製品のIT産業計 687 5200 13.2% 50828 358835 14.2% 2501540 17786338 14.1%

0000 製造業計 55008 276716 19.9% 1389095 8159364 17.0% 47822471 295800300 16.2%(注)Xは秘匿数値であり、斜字は秘匿を除いて計算されたものである。全国の「製品のIT産業計」の製造品出荷額等に2821、2823は含まない。 出所:平成17年工業統計

情報通信機械器具製造業の製造品出荷額等の全国シェアは、関西では大阪府の 5.7%、次いで

兵庫県の 5.5%が高い。全国的には東京都、長野県、神奈川県、福島県、埼玉県が 7%以上の高い

値を示す。

169

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28情報通信機械器具製造業の都道府県別構成

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

鹿

(%)

事業所数

従業者数

製造品出荷額等

(注)和歌山、山口、香川、高知の製造品出荷額は秘匿である。 出典:平成17年工業統計

近年の、製品のIT産業の製造品出荷額の伸びの推移をみると、平成14年から17年にかけて関

西ではラジオ受信機・テレビジョン受信機が10倍以上、情報記録物製造業が30倍近い、非常に

高い伸びを示している。ラジオ受信機・テレビジョン受信機の伸びはブラウン管テレビから移行

しつつある薄型テレビの生産拠点が関西に集中していることに依るものと考えられる。情報記録

物製造業とは、オーディオディスク・テープ、ビデオディスク・テープ、磁気カード製造業(入力

まで行うもの)、電子応用がん具用カセット製造業となっており、近畿の出荷額は京都府が大半を

占めていることから、ゲーム産業に依るものであることが窺える。

製品のIT産業の製造品出荷額の伸び

近畿 全国産業細分類 H14 H15 H16 H17 H14 H15 H16 H172681事務用機械器具製造業 100 91.5 106.7 97.9 100 87.9 91.3 92.52698産業用ロボット製造業 100 93.9 105.1 107.0 100 126.1 150.7 136.02741X線装置製造業 100 89.8 102.8 111.7 100 116.0 114.0 138.52742ビデオ機器製造業 100 101.1 123.1 52.0 100 124.1 128.8 107.52743医療用電子応用装置製造業 100 160.0 169.5 128.2 100 87.3 95.7 117.02749その他の電子応用装置製造業 100 39.6 38.0 34.4 100 93.8 114.8 122.12793磁気テープ・磁気ディスク製造業 100 88.9 88.5 83.2 100 100.0 76.7 71.02800情報通信機械器具製造業 100 X 98.4 X 100 102.8 104.1 93.32811有線通信機械器具製造業 100 71.6 115.2 126.9 100 98.5 77.7 90.12812無線通信機械器具製造業 100 124.4 128.5 118.0 100 122.2 121.9 112.42813ラジオ受信機・テレビジョン受信機製造業 100 695.7 515.2 1103.4 100 122.4 184.2 141.82814電気音響機械器具製造業 100 75.1 56.1 56.2 100 98.9 99.4 76.82821電子計算機製造業(パーソナルコンピュータ製造業を除く) 100 66.7 56.9 X 100 90.3 81.0 77.62822パーソナルコンピュータ製造業 100 61.9 59.4 59.4 100 82.8 75.6 71.92823記憶装置製造業 X X X X 100 104.5 90.3 75.52824印刷装置製造業 100 61.4 69.7 116.3 100 105.9 115.2 137.22829その他の附属装置製造業 100 102.4 116.0 22.6 100 92.4 118.9 81.43231娯楽用具・がん具製造業(人形、児童乗物を除く) 100 9.5 8.1 6.7 100 75.0 14.9 38.43296情報記録物製造業(新聞、書籍等の印刷物を除く) 100 2372.5 2512.0 2951.8 100 202.4 214.1 225.40000製造業計 100 99.3 104.1 107.7 100 101.6 105.6 109.8(注)Xは秘匿数値である。 出所:各年工業統計

1.4 サービス系の IT産業

(1)情報サービス業

平成 18年の関西の情報サービス業の年間売上額は、ソフトウェア業が 1兆 2040億円、情報処

理・提供サービス業が 6965億円で、それぞれ全国の 8.8%と 13.5%を占める。これは事業所数 1689

170

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第5章 関西の IT産業の動向

と 888の全国シェア 15.7%と 16.2%、従業者数 66000人と 36000人の全国シェア 11.6%と 14.3%

に比べ低く、事業所規模が相対的に小さいことが窺える。

平成 18年の特定サービス産業実態調査は、調査対象事業所が事業所・企業統計調査に準じる

ものと変更されたため、前年までと大きく異なる。そのためこれまでゲームソフトの売上額が京

都府で高い傾向がみられたが、その事業者は主業格付けにより製造業者とされたため今回の調査

対象とはなっていない。従って京都府下のゲーム産業はゲームソフトの売上には表われないが、

工業統計の情報記録物の製造品出荷額から読みとることができる。

ソフトウエア業

全国 近畿福井 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 全国比

事業所数 10,789 72 49 141 1,133 261 10 23 1,689 15.7従業者数(人) 567,498 1,897 807 5,009 49,122 7,660 311 996 65,802 11.6年間売上高計 (百万円) 13,751,730 24,612 12,847 124,140 884,261 134,887 6,731 16,509 1,203,987 8.8

うち、ソフト ウェア業務 10,476,004 19,319 11,413 90,176 732,241 113,512 6,256 11,462 984,379 9.4受注ソフトウエア 9,046,907 12,616 8,846 80,533 621,907 102,971 5,985 11,286 844,144 9.3ソフトウェアプロダ 1,429,097 6,704 2,568 9,643 110,334 10,541 270 176 140,236 9.8

業務用パッケージ 942,686 6,446 X 5,110 87,526 8,887 270 X 108,239 X ゲームソフト 241,821 - X 3,780 17,684 1,582 - - 23,046 X コンピュータ等基本ソフト 244,589 258 X 752 5,124 71 - X 6,205 X

(注)斜字は秘匿の県を除く数値である。     出典:平成18年特定サービス産業実態調査

ソフトウェア業務の業務種類別

情報処理・提供サービス業全国 近畿

福井 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 全国比事業所数 5,473 34 31 73 560 153 10 27 888 16.2 従業者数 253,225 737 394 2,187 26,241 6,093 167 410 36,229 14.3年間売上高計 (百万円) 5,143,461 7,044 6,661 34,081 554,568 87,562 1,476 5,124 696,516 13.5

うち、情報処理・ 提供サー 4,058,359 5,599 4,992 26,434 457,329 60,300 1,107 4,230 559,991 13.81,735,055 2,364 3,254 14,030 242,472 22,177 436 2,788 287,521 16.61,253,530 1,280 1,406 6,558 122,308 13,729 243 X 145,524 X 255,006 33 X 776 24,281 749 X 765 26,604 X

インターネットによるもの 98,689 X X 385 12,401 628 X 291 13,705 X その他 156,316 X X 391 11,880 121 X 473 12,865 X

各種調査 238,229 11 X 1,427 28,835 965 X X 31,238 X その他 576,538 1,910 214 3,643 39,434 22,680 154 469 68,504 11.9

(注)斜字は秘匿の県を除く数値である。     出典:平成18年特定サービス産業実態調査

提供サービス業務の業務種類別

情報処理サービス

データベース・サービス

システム等管理運営受託

ソフトウェア業および情報処理・提供サービス業の立地は東京都に集中している。かつ東京都

は、事業所数、就業者数に比べ売上高のシェアが高く(60.7%および 56.2%)、規模の大きな事業所

が多いことが窺える。関西で最も高い売上高のシェアは大阪府の 6.4%および 10.8%に留まる。

391ソフトウエア業の都道府県別構成

0

10

20

30

40

50

60

70

鹿

(%)

事業所数

従業者数

年間売上高

171

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392情報処理・提供サービス業の都道府県別構成

0

10

20

30

40

50

60

鹿

(%)

事業所数

従業者数

年間売上高

出典:平成 18年特定サービス産業実態調査

(2)通信業

固定端末系伝送路設備の設置状況をみると、関西の府県の多くでNTTの占める割合が相対的に

低く、NCC(電力系事業者などの新規参入事業者)の割合が高い。光ファイバのみをみると更にそ

の傾向が強い。

固定端末系伝送路設備の設置状況 (全体 平成19年3月末)

92.5%

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

4,000,000

5,000,000

6,000,000

7,000,000

8,000,000

9,000,000

鹿

(回線)

60%

65%

70%

75%

80%

85%

90%

95%

100%

NTT東西 NCC NTT東西比率 NTT東西比率(全国平均)

固定端末系伝送路設備の設置状況 (光ファイバのみ 平成19年3月末)

78.9%

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

800,000

900,000

1,000,000

1,100,000

鹿

(回線)

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

NTT東西 NCC NTT東西比率 NTT東西比率(全国平均) 出典:電気通信市場の動向

http://eidsystem.go.jp/market_sITuation/telecom_market_sITuation/telecom_facilITies

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第5章 関西の IT産業の動向

次にブロードバンドサービスについてみると、関西の府県の多くは利用可能世帯の割合が高く、

サービスの内訳においてもFTTHの割合が相対的に高い。

そのFTTH市場の事業者別シェアにおいては、電力系事業者の割合が、近畿の30.2%をはじめ、

西日本において高くなっている。

ブロードバンドサービス利用可能世帯の割合 (平成19年3月末)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

鹿

ブロードバンド・ゼロ地域の世帯

FTTHサービスは未提供だが、ADSL、ケーブルインターネット等の何らかのブロードバンドサービスが提供されている地域の世帯

FTTHサービス(光ファ イバ)が提供されている地域の世帯

ブロードバンド契約の回線シェア (平成19年3月末)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

鹿

FTTHアクセスサービス DSLアクセスサービス CATVアクセスサービス FWAアクセスサービス

出典:平成19年版情報通信白書

FTTH市場の事業者別シェア(地域ブロック別)  (%)  2006年12月末NTT東西 電力系事業者 USEN その他

北海道 87.8 12.2東北 93.1 6.9関東 64.5 10.1 9.9 15.5東海 82.8 6.1 11.1北陸 97.1 2.9近畿 53.2 30.2 5.5 11.1中国 70.0 20.6 9.5四国 74.9 16.4 8.6九州 67.0 22.3 5.3 5.4沖縄 89.7 10.3(注)ここでの近畿は福井を除く2府4県を指す。福井は北陸に含まれる。出典:電気通信サービスの供給動向調査(平成18年度)http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/kyousouhyouka/data1_2006_1.html

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上記のように、関西の府県の多くで、FTTHによる固定端末系伝送路設備やブロードバンドサービス

の利用可能環境の割合が高いのは、関西の通信市場がNTTの独占ではなく、国内最大の電力系

NCCが存在し、テレビ、電話、インターネットのいわゆるトリプルプレイサービスを提供し、活発な

競争が行われていることがその要因の1つと言える。

(3)放送業

2006年度のNHK大阪放送局の、総放送時間の中で自局編成番組が占める割合は20.6%である。

ここ数年この割合に大きな変化はない。

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第5章 関西の IT産業の動向

NHKアナログ総合テレビの放送時間 2006年4月~2007年3月地域放送 全国放送 総放送時間 ③/② (①+③)

局名 ① ② 自局編成③ ④ /④時間 分 時間 分 時間 分 時間 分 % %

本部(東京) 988 3 7771 57 6619 46 8760 0 85.2 86.8地 大阪放送局 1308 23 7427 27 490 28 8735 50 6.6 20.6域 名古屋放送局 1087 21 7673 16 125 54 8760 37 1.6 13.8拠 広島放送局 1110 28 7635 52 39 34 8746 20 0.5 13.1点 福岡放送局 1160 56 7597 18 90 25 8758 14 1.2 14.3局 仙台放送局 1079 48 7675 8 38 27 8754 56 0.5 12.8

札幌放送局 1083 39 7664 5 35 42 8747 44 0.5 12.8松山放送局 959 35 7792 47 37 40 8752 22 0.5 11.4長野放送局 886 10 7869 54 2 40 8756 4 0.0 10.2新潟放送局 862 39 7893 48 4 1 8756 27 0.1 9.9甲府放送局 909 10 7847 28 5 12 8756 38 0.1 10.4京都放送局 1305 27 7426 9 27 42 8731 36 0.4 15.3神戸放送局 1311 27 7434 21 20 32 8745 48 0.3 15.2和歌山放送局 1327 11 7421 55 11 26 8749 6 0.2 15.3

県 奈良放送局 1321 10 7417 15 10 12 8738 25 0.1 15.2庁 大津放送局 1315 6 7428 46 7 21 8743 52 0.1 15.1所 金沢放送局 993 19 7745 38 20 32 8738 57 0.3 11.6在 静岡放送局 994 22 7764 38 13 46 8759 0 0.2 11.5地 福井放送局 956 59 7779 43 7 46 8736 42 0.1 11.0・ 富山放送局 963 47 7786 52 11 44 8750 39 0.2 11.1北 津放送局 1087 46 7669 52 6 51 8757 38 0.1 12.5九 岐阜放送局 1089 36 7662 38 5 38 8752 14 0.1 12.5州 岡山放送局 1025 13 7710 53 7 14 8736 6 0.1 11.8お 松江放送局 1032 15 7697 12 2 17 8729 27 0.0 11.9よ 鳥取放送局 1025 33 7710 57 1 43 8736 30 0.0 11.8び 山口放送局 1037 55 7712 1 4 15 8749 56 0.1 11.9北 熊本放送局 985 53 7756 42 5 1 8742 35 0.1 11.3海 北九州放送局 1175 16 7582 47 3 19 8758 3 0.0 13.5道 長崎放送局 994 52 7749 7 12 3 8743 59 0.2 11.5地 鹿児島放送局 1001 0 7747 33 8 36 8748 33 0.1 11.5方 宮崎放送局 998 39 7751 18 5 8 8749 57 0.1 11.5各 大分放送局 975 38 7771 51 7 0 8747 29 0.1 11.2放 佐賀放送局 995 54 7754 23 4 9 8750 17 0.1 11.4送 沖縄放送局 980 41 7775 8 9 43 8755 49 0.1 11.3局 秋田放送局 1033 10 7724 3 6 43 8757 13 0.1 11.9

山形放送局 1039 43 7707 19 5 17 8747 2 0.1 11.9盛岡放送局 1026 0 7729 30 8 5 8755 30 0.1 11.8福島放送局 1017 32 7745 23 9 1 8762 55 0.1 11.7青森放送局 1028 37 7730 27 10 10 8759 4 0.1 11.9函館放送局 1097 8 7631 57 4 46 8729 5 0.1 12.6旭川放送局 1082 34 7658 22 8 4 8740 56 0.1 12.5帯広放送局 1092 37 7653 20 3 26 8745 57 0.0 12.5釧路放送局 1094 30 7643 37 5 55 8738 7 0.1 12.6北見放送局 1089 20 7650 39 6 46 8739 59 0.1 12.5室蘭放送局 1090 29 7648 18 3 5 8738 47 0.0 12.5高知放送局 961 35 7783 8 5 50 8744 43 0.1 11.1徳島放送局 914 53 7826 8 7 19 8741 1 0.1 10.6高松放送局 938 59 7787 43 9 2 8726 42 0.1 10.9

その 浜松支局 994 22 7764 38 8759 0他の福山支局 1110 28 7635 52 8746 20放送佐世保支局 994 52 7749 7 8743 59局 鶴岡支局 1039 43 7707 19 8747 2出所:NHK年鑑2007

(注)本部(東京)は広域局として、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川県下も併せて所管する。

175

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一方民間放送局では次のような放送ネットワークを形成している。これらのうち、関東圏、中

部圏、関西圏の各テレビ局の放送時間を系列別に見たものが次の表である。

TV NEWS NETWORK(2007年 3月 31日現在)

出典:日本民間放送年鑑 2007

2007年 4月の 1週間における在阪民間放送局の、総放送時間の中で自社制作番組が占める割合

176

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第5章 関西の IT産業の動向

は、系列によって違いはあるものの、テレビ大阪を除き概ね 30%前後である。その中で朝日放送

の自社制作の割合が最も高い。これらの傾向もここ数年大きな変化はない。

関西の民間放送局の自社制作の割合は、中部圏の民間放送局のそれより高く、更にNHK大阪

放送局の自局編成割合より高い。

通信と放送の融合が進みコンテンツのマルチユースが進むと、地域放送局においては全国放送

枠の番組を持っていることは強みになる。地域放送と全国放送のベストミックスを図りながら、

地域からの情報発信の自立性を確保していくことが重要である。

民放テレビ系列別放送時間  調査期間2007年4月2日~8日

系列放送局 放送

時間Total NTV系 TBS系 CX系 EX系 TX系 その他

の局自社制作

その他の番組

DTV回線使用放送時間

分 10080 458 9622 368N % 100 4.5 95.5 3.7N 分 9825 6597 1509 1719 6150N % 100 67.1 15.4 17.5 62.6

分 9655 5387 3248 1020 4787% 100 55.8 33.6 10.6 49.6

分 10080 597 9483 537J % 100 5.9 94.1 5.3N 分 9971 6934 1576 1461 6342N % 100 69.5 15.8 14.7 63.6

分 10045 5430 2913 1702 4889% 100 54.1 29.0 16.9 48.7

分 10060 472 9588 413F % 100 4.7 95.3 4.1N 分 10080 6127 2462 1491 5410N % 100 60.8 24.4 14.8 53.7

分 9622 5567 2360 1695 4731% 100 57.9 24.5 17.6 49.2

分 9953 479 60 9414 479A % 100 4.8 0.6 94.6 4.8N 分 9945 5754 115 1645 2431 5484N % 100 57.9 1.2 16.5 24.4 55.1

分 9842 4273 60 3549 1960 3570% 100 43.4 0.6 36.1 19.9 36.3

分 9840 204 9636 204T % 100 2.1 97.9 2.1X 分 9892 5256 97 1003 3536 5293N % 100 53.1 1.0 10.1 35.7 53.5

分 9336 5785 915 2636 5130% 100 62.0 9.8 28.2 54.9

表の見方Total:その社の総放送時間各系列別:ファーストランの番組を各系列別にした放送時間その他の局:独立UHF局発、および民間放送教育協会の番組自社制作番組:自社で制作した番組、およびその再放送。ローカルニュース、天気を含む。その他の番組:自社制作以外の再放送、旧作の購入番組、CS番組DTV回線使用放送時間:総放送時間のうちDTV回線を使用して放送した番組の放送時間出所:日本民間放送年鑑2007

テレビ東京

テレビ愛知

テレビ大阪

関西テレビ

テレビ朝日

名古屋テレビ

朝日放送

中部日本放送

毎日放送

フジテレビ

東海テレビ

日本テレビ

中京テレビ

読売テレビ

東京放送

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第2節 関西の IT産業をめぐるトピックス

前節までのデータや最近の ITを取り巻く我が国、世界の動向を踏まえつつ、関西に特徴のある

製造系、サービス系各 IT産業から4トピックスを取り上げ、現状をヒアリング調査等により把握

した。(詳細は資料編を参照。)

2.1 製造系

(1)大阪湾岸における薄型パネル生産拠点の集積

前節で関西はラジオ受信機・テレビジョン受信機の製造品出荷額等の伸びが非常に高かった。

これは関西の家電メーカーが薄型テレビの生産を加速させていることを反映したものと思われる。

現在関西には液晶やプラズマのパネル・テレビの生産拠点が、建設予定を含め下図のように集

積している。

★★

■シャープ亀山第一工場 04年1月稼働 第6世代 6万枚/月 26型以上大型液晶テレビ 10万台/月亀山第二工場 06年8月稼働 第8世代 3万枚/月

■松下電器産業等姫路工場 08年8月着工 10年1月稼働予定 32型を中心とする液晶テレビ 125万台/月 (フル稼働時) 投資額3,000億円 将来有機EL事業検討

■篠田プラズマ07年6月本社及び生産工場完成プラズマチューブアレイ方式による薄型軽量・超大画面フィルム型ディスプレイ開発

■シャープ堺新工場 07年11月着工 10年3月までに稼働予定 第10世代 7.2万枚/月 投資額3,800億円

■松下プラズマディスプレイ茨城工場第一工場 01年稼働 3万枚/月第二工場 04年稼働 10万枚/月

■松下プラズマディスプレイ尼崎工場第三工場 05年9月稼働 25万台/月(42型換算)第四工場 07年7月稼働 50万台/月(42型換算)第五工場 07年11月着工 09年5月稼働予定 100万台/月(42型換算) 投資額2,800億円

関西における薄型パネル生産拠点

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第5章 関西の IT産業の動向

関西には国内の主要家電メーカーが立地しており、国内メーカーの、薄型テレビの基幹部材で

あるパネルの生産拠点は関西地域に集中している。もともと技術漏洩を回避するため海外生産は

行われてこなかったし、また何より技術進化の途上にある薄型パネルの生産は、研究開発拠点と

近接している方が効率的であるからである。

薄型テレビは世界的に需要拡大が続き、各メーカーは巨額の資金を投じ、新工場の建設に乗り

だしている。今後関西で3件の薄型パネルの新規工場が建設される。2007年11月には松下プラ

ズマディスプレイの尼崎の第五工場(投資額2800億円、生産能力42型換算で月産100万台)と、

シャープの堺新工場(3800億円、42型換算で月産108万台)が着工された。2008年8月には松下

電器産業等の姫路工場(3000億円、32型を中心とする液晶テレビ月産125万台)が着工予定である。

今後大阪湾岸は薄型パネルの生産能力において世界的な集積拠点となる。またこれらの合計投資

額は約1兆円に上り、ガラス基盤など関連部材メーカーの投資額も含め、大きな生産波及が生じ、

関西経済の牽引力となることが予測される。

大手メーカー以外に、フィルム型ディスプレイの開発に取組む篠田プラズマのような有力ベン

チャー企業も2007年6月にポートアイランド第2期区に進出している。

このように薄型テレビは関西の製造系 IT産業の大きなトピックスであるが、それに留まらず、

デジタル対応によって、アクトビラ(シャープ、東芝、日立製作所も出資し、松下電産とソニーを

中心に運営されるデジタルテレビ向けポータルサービス事業社)の例のように、通信で配信される

動画をテレビでみる、テレビを通信の世界に浸潤させていく、放送と通信の融合を端末側から推

進するという状況も生んでいる。これらについては次項で触れる。

2.2 サービス系

(1) 組込みソフト産業推進会議(関西経済連合会)

(なぜ関西で組込みソフトウェアなのか)

首都圏との格差が拡大し中部にも追い上げを受けている状況にあって、関西を何とか元気にし

たいという声は多い。このような中で、松下電器産業が尼崎に2800億円を投じてプラズマディス

プレイパネルの第五工場を、またシャープが堺臨海部に3800億円を投じて液晶パネル工場を建設

するなど大型投資が相次ぎ、既存の松下茨木工場、シャープ亀山工場を含め、薄型テレビパネル

の生産は関西に集中する。更に国内携帯電話機市場においてもシャープが最大のシェアを占め

(2007年第2四半期)、関西一円に関連部品メーカーも多く集積するなど、情報家電の生産は関西

に高い優位性があり、関西経済の牽引力として強い期待が寄せられている。

関西でソフトウェア産業を育成するのにどのような方向があるかを検討する中で、上記に鑑み、

組込みソフトウェアに注目することとなった。組込みソフトウェアとは家電、携帯電話、自動車

等に製造段階から搭載される内蔵ソフトウェアである。

関西は、情報家電メーカー、大学、専門学校など組込みソフトウェアのプレーヤーが揃ってい

る、オフショアの委託が進むアジアに近い、など組込みソフト産業を振興していくアドバンテー

ジがある。

ものづくりの競争力の源泉は従来は金型にあったが、情報化の進展に伴い、製品の品質や性能

が組込みソフトウェアの品質・性能に左右されるようになってきた。たとえば携帯電話のカメラ、

メール、GPS機能の品質・性能はソフトウェアによって実現されているといっても過言ではない。

日本のものづくりの競争力の維持のためには、組込みソフトウェア産業の強化が喫緊の課題であ

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ると言える。

(組込みソフト産業の現状と課題)

経済産業省の試算では、冷蔵庫等の生活家電、薄型TV等AV機器、携帯電話、カーナビなど組

込みシステムの産業規模は62兆円、うち組込みソフトウェアの開発規模は3兆2700億円(いずれ

も2005年値)である。

国内の組込みソフトウェア技術者は現在9.9万人が不足している。また情報家電の高機能化が

進むにつれてシステムも巨大化・複雑化し、ソフトウェアのバグに起因するトラブルで、製品の

リコールに及ぶ例も出ている。

組込みソフトウェアは最終製品という制約のもとに開発しなければならない。そのため仕様変

更が頻繁に発生し開発期間自体も短く、ハードウェアで実現できなかった機能はソフトウェアに

しわ寄せがくることが多く、またソフトウェアの容量もできる限りのコンパクトさが求められる。

日本のソフトウェア開発の請負費はかかった工数を人月単位で見積もる慣習があるが、この方

式だと、機能をできるだけ盛り込んで時間と人をかけたほうが儲かる、ということになる。その

ため、コンパクトで優秀なプログラムを短時間で開発してもお金にならない、というジレンマが

発生し、組込みソフトウェア開発の現場は3K(きつい、帰れない、給与が低いなど)と言われて、

人材不足が深刻化している。

さらに、中国、インド、ベトナム等へのオフショア開発(海外委託)が進展しており、国内産

業の空洞化が懸念されている。

(関経連の取り組み-組込みソフト産業推進会議)

関西経済連合会では、関西経済同友会のソフト産業振興委員会の、関西のものづくり力維持・

出典:組込みソフト産業推進会議資料

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第5章 関西の IT産業の動向

振興のためにも関西を組込みソフト産業の集積地としようという提言「大阪・関西を組込みソフト

産業の一大集積地に!」を受けて、その必要性を認識し、実現を図るべく、組込みソフト産業推進

会議を2007年8月に設立した。

本推進会議の組織と活動内容は前ページ掲載図の通りである。活動の主体は5つの部会であり、

幹事会がそのとりまとめを行っている。会員は63団体(2007年10月23日現在)である。活動

期間は2007~2009年度の3年を目途としている。

関西経済連合会が提唱した推進会議であるからこそ、情報家電業界からも複数のメーカーの参

加が得られた。情報家電メーカーはソフト会社を囲い込みたいが、ソフト会社は間口を広げたい

思いがある中でA社の仕様に合わせるとB社に使えない、又はその逆ということがある。共有と

個別の部分を分け、非競争領域を設定しその中でお互い協力していくことが必要である。

(2)全国発の IPラジオ放送の試み(IPラジオ研究協議会)

(協議会発足の経緯)

メディア別の広告費において、ラジオ広告費が微減、インターネット広告が伸びてきて、3年

前にラジオがインターネットに抜かれた。また、マンションだとFM放送に雑音が入る、AM放

送が入らない、といったラジオ難聴取世帯やエリアが増えている。

ラジオ難聴取対策と放送文化普及発展のために、2006年 12月に各放送局に声をかけ、調整を

行いながら 2007年 4月に協議会を立ち上げるに至った。

(IPラジオの仕組みと内容)

新聞等には放送と通信の融合として、IP

ラジオが通信のように紹介されているが、

技術的には通信であるが、実際はインター

ネットを用いた有線ラジオ放送として取組

んでいる。映像やハイビットレートではな

いので、電気通信役務利用放送でもなく、

純然たるラジオ放送である。 そのため通

常のインターネットラジオとは異なり、各

局のラジオ放送を受信し、これをデジタル

化して通常の放送エリア内に限定してイン

ターネットで再送信する。

放送エリアは、FM放送の県域局・AM 放

送の広域局が混在する会員放送局の最大公

約数を採り、大阪府内としている。

放送である限り1:nのマルチキャストで 出典:日本経済新聞07年10月25日記事

なければならず、それが可能な IPV6を使用

できるという要件から、NTT西日本のフレッツ光プレミアムに加入し、Windows VISTAパソコン

が利用できる大阪府内の方を対象に1000程度のサンプルユーザーを募集して、平成20年3月5

日より平成20年11月末までの予定で試験放送を開始した。サービス名称を「RADIKO(ラジコ)」

という。

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IPV4では1:1のユニキャストで通信になってしまい、また IPV4では抜け道があるが、IPV6で

は地域を特定することができ、府内の方かどうかをチェックできる。

エリア拡大についてはまず府内での目処がつけば、将来協議会として検討していく可能性はあ

る。ラジオ関西やKiss-FM、エフエム滋賀、京都放送、エフエム京都や和歌山放送が参加を希望

してくれば検討しなければならない。

(試験放送で検証しようとしている事項)

最も検証したいと考えるのはユーザーがどう捉えるかということである。

マンションだとFM放送に雑音が入る、ラジカセだとAM放送が入らない、ミニコンポだと入

らない、と言った難聴エリア対策に、IPラジオは有効である。そのためにもまず自宅やオフィス

でパソコンからラジオを聴く環境をつくり、昔のようにラジオを身近に聴く機会を増やしたい。

有線ラジオ放送であることを明確にするために、敢えてマスターアウトにしていないが、音質

は普通のラジオ放送より優れる。AM放送でも雑音がない。新たなラジオの楽しみが広がれば良

いと考えている。

ラジオは、テレビの録画のように、録音して聴く人が少ないが、IPラジオの出現でラジオの新

しい聴き方が出てくるかどうか。新しい曲を聴いてダウンロードに飛ぶ、というようなことは技

術的にはできる。徐々にいろいろな試みを広げていきたい。米国では、アップルの ITunesからラ

ジオが聴けるなど、IPラジオサービスが実用化されている。

放送は、365日 24時間定期的に流れていることから有用なコンテンツである。IP網が広がるに

つれ、様々なデバイスに放送コンテンツが入り込んでいくと考えられる。IPラジオはその一歩で

ある。

ユーザーの声をアンケートで把握し、次に採るべきステップを探りたい。受け手のログが取れ

ることも分析に役立つ。

(課題)

本格放送の実施を目指すためには、まだまだ課題が多く、協議会としては、この実験放送を通

じてその課題をひとつひとつ丁寧に作業し、クリアしていかなければならない。

例えば、IP再送信に関する、技術的、あるいは、著作権的な問題など、新しいメディアであ

るがゆえに、様々な考え方が存在していることもあり、関係者の理解を得る努力が必要である。

このような形で、マーケットやビジネス機会が広がり、みんながメリットを感じられるような結

果を出せるかどうか、検証していくことが今回の試験放送の目的である。

また属しているネットワーク系列で東京から配信される番組もあり、本格放送になれば関西局

だけでは無理で、東京局との連携が必要になってこよう。その点で東京局や中部のラジオ局も今

回の試験放送の行方を注目している。

(3)集客施設における顔認証システムの導入(USJ)

(USJが顔認証システムを導入)

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは年間パスを持つ来場者の入場に顔認証システムを昨年

(2007年)11月1日より導入した。これは国内の集客施設では初めての試みである。

年間パスにはこれまで貼付されていた顔写真が無くなり、代わりにQRコードが印刷されてい

る。これを装置にかざすとシステムが、初回の登録時に採取した顔情報を呼び出し、今回モニタ

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第5章 関西の IT産業の動向

ーに映った来場者の顔と照合し、本人

かどうかの確認を行う。初回の登録所

要時間は約 5秒、毎回の認証に掛る時

間は約 1秒である。顔認証エンジンは

NECの“NeoFace”を用いている。

これまでは係員が目視で顔写真と照

合していたが、顔認証システムの導入

でよりスムーズな確認を行うとともに、

年間パスも、プラスチック製から紙製

に変更し、環境にもやさしくなった。

(今なぜ、生体認証(バイオメトリクス)か)

情報の電子化やネットワーク化が発達する中で、企業や個人の情報管理が重要となり、それを

十全なものとするシステムセキュリティが求められる。特に重要な情報にアクセスする権限があ

るユーザーかどうかを電子的に認証することは、システムセキュリティの基本事項である。

従来、本人かどうかを認証するために、知識認証(暗証番号、パスワード等)や所有物認証(磁気

カード、ICカード等)が用いられてきた。しかしこれらは、忘失や紛失などによって本人でも認

証できなくなったり、漏洩、盗難、偽造などにより他人が認証される恐れがある。実際に後者の

ような犯罪事例の発生も少なくない。

そこで、暗証番号等を記憶しておく必要や物を携行する必要がなく、本人でさえあれば身一つ

で、本人の生物学的な特徴、バイオメトリクスを用いて認証する方式が注目されている。

バイオメトリクスのメリットはその人の支配下にあり、本人から切り離せず、メンテナンスの

必要もないこと、デメリットは、複製の可能性がある、ノイズがある、指紋のように社会的受容

性が低いものがある、などである。

(生体認証の方式)

生体認証に用いるのは、総ての人で異なり、かつ経年的な変化がない個人の特徴でなければな

らず、現在次のようなものが用いられている。

○身体的特徴

・ 指紋 万人不同(双子でも異なる)、終生不変という特徴から人を識別する上で絶対的な価値を

持っており、認識ミスは1万回に1回以下と言われるくらい信頼性が高く、犯罪捜査にも用い

られている。しかしそのイメージから利用者の心理的抵抗が、特に日本、アジアでは大きい。

・ 顔 顔の形を読みとる。次項で詳述。

・ 掌型 手のひらの大きさ、紋様、指の長さなどを読みとる。

・ 静脈 近赤外光を手や指に透過させ、得られる静脈パターンを読みとる。指紋の心理的抵抗を

回避できる。

・ 虹彩 虹彩(黒目の中、瞳孔の外にある模様)を読みとる。双子でも正確な認証が行える。装置

の小型化が困難。

・ 網膜 眼底の毛細血管の模様を読みとる。虹彩と同様に装置が大掛かりになる。

○行動的特徴

・ 音声 声紋などから判断する。

・ 署名 筆記時の軌跡、速度、筆圧の変化などの癖を読みとる。

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・ 打鍵 キーボードから入力する時のスピード、キーを押す間隔などから判断する。

(顔認証)

顔は常に外部に曝しているもので、指紋のように機器に接触させることなく認証でき、受容性

が高い。また相手に意識されずに認証を行うことも可能である。この特性が顔認証の最大のメリ

ットである。また人間が人を認証する時に使っている方式であり、システムに置き換えても、利

用する側に違和感を持たせにくい点も挙げられる。

指紋認証が誤る確率は1000万回に1回以下と言われ、限りなく100%に近く正しく判断する。

それに対して顔認証が正しく判断する確率は好条件下であっても、99%程度が限界という。これ

は、一見顔認証の精度が不十分と思える数値だが、人間が目視で同様の認証を行った場合の正答

率、確率80%未満より高いと評価する専門家もいる。

これは、人間は長時間チェックをし続けると疲労を伴うこと、見慣れない人種が大勢並ぶと、

脳に学習経験がない場合には、判別が難しくなることに対し、顔認証システムは人間と異なり、

時間経過による疲労を伴わない事や、人種に関わらずシステムに入力される顔情報のみを純粋に

利用し見極める事が出来る差に有ると言われている。

生体認証は、利用用途によって、採用される認証技術を見極める必要がある。万人が入退場可

能な部屋と、ごく限られた人間しか入場を許されない部屋では、利用すべき生体認証の種類が変

わってくる。これは、セキュリティのレベル分けだけの問題ではなく、生体認証技術の得手不得

手によっても変わってくる。たとえば顔認証は、候補者のデータを一覧にした際、データを検査

する人間がもっとも親しんだ検査方法、すなわち、人の顔写真を人間が確認する方法をとること

が出来る。しかも、認証結果のスコア順に並べ替えることで、たとえば、これまで1,000ページ

のリストすべてを見なければ、候補者が探せなかったような場合でも、似ている順に並べ替えて

表示を行うことで、確認するページ数を削減するなど、作業効率の改善に役立てることが出来る。

これが、指紋認証の場合であれば、精度は格段に高いが、専門家でなければ確認をすることは不

可能に近い。この利便性こそが、近年、国際港での本人確認に顔認証が用いられている理由の一

つといえよう。

さらに補足すれば、顔認証はセキュリティの色を出さない用途に持っていける利便性がある。

会社のPCにカメラを付ける需要は少ないが家庭のPCなら可能性がある。そのためコンシュー

マ向けに、顔認証を組み込んでどのようなソフトを出していくか、が顔認証技術の認知度を向上

させるための課題であると言う。

第3節 有識者からみた関西の IT産業の動向

3.1 放送と通信の連携・融合が進む中での在阪放送局の展開

放送と通信の連携・融合が進む中での在阪放送局の展開

株式会社毎日放送 メディア局メディア戦略部 専任部長 長井展光

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第5章 関西の IT産業の動向

1.進んでいる通信との連携

(1)ブロードバンドでの配信

放送と通信の融合についてややもすれば放送側は消極的、或いは「これまでの放送ビジネスを

守るために出来れば融合したくない」という意識を持っているように思われがちだが、果たして

そうであろうか。確かに「融合」という言葉は、ライブドアとフジテレビ、楽天とTBSという

大きな二つの経済事案とともに放送側としては、なにか「通信に呑み込まれる」というイメージ

がつきまとい、避けている言葉だが、これを「連携」に置き換えてみると、実は結構、進んでい

る。元々、放送業界というのは、基本的に「新しもの好きな」業界である。また、自らの影響力

の大きさについては認識し、「マスを相手にしているビジネス」であることを自覚していると同時

に、「個々の視聴者に対するアプローチをどうするか」或いは「個々の視聴者相手のビジネスを構

築すれば、これまでにない展開が開ける」ことを最近とみに認識している。こういったことから

放送局ではインターネットの商用開放以来、早い時期からインターネット展開に取り組んできた。

毎日放送のウェッブサイト開設は 1995年 8月で、今見てみると随分とシンプルな作りであった。

勿論、それまでもラジオ番組ではハガキがリスナーとのコミュニケーションの手段であったよう

に、放送は放送なりにアナログ時代でも視聴者・リスナーとの双方向性を大事にして来た。イン

ターネットの利点は、単に視聴者・リスナーからの声を聞くだけでなく、放送という限られた時

間内では伝えきれない情報を、より詳しく、いつでも見られるように送る補完的な情報伝達の手

段であったし、書き込みなどを通じての視聴者・リスナーとのコミュニケーションを進化させる

ことで次なる放送へのフィードバックが出来ることなどがある。90年代の中盤から後半にかけて

各放送局はホームページを開き、コンテンツを充実させていった。勿論、インターネットに視聴

者・リスナーがのめりこんでいったらテレビやラジオを見聞きしてくれなくなるのではないか、

という危惧の声は常々あった。しかし、例えばラジオではこれまでなかった映像の世界を、スタ

ジオにライブカメラを入れることによって可能にしたようにこれまでにない世界も開けていった。

このように多くの放送局、番組がインターネットを有効に利用しはじめた。しかしネットの急

速な進歩、高速インフラの整備は動画配信を可能にするブロードバンドの世界を構築していく。

ブロードバンドでの動画展開について考察する前に、ブロードバンド配信に至る「前史」につい

て少し触れておきたい。もともとテレビの世界は「放送されているその時にテレビの前にいなけ

れば見られない」世界であり、それゆえに「見たい番組と一緒にコマーシャルも見てもらえる」

というビジネスモデルも確立された。しかしビデオ録画機の誕生は、この時間の呪縛から視聴者

を幾分、解放した。録画さえしておけば、自分の見たい時にいつでも番組を見られるようになっ

た。と同時に「コマーシャルを飛ばして再生する」に始まって、「最初からコマーシャルを飛ばし

て録画する」機器の登場に至って、これまでの民間放送のビジネスモデルを幾分かではあるが侵

食しはじめてきた。現在の日本の視聴率調査は、放送された時に同時に見ている世帯だけがカウ

ントの対象となっている。いくら録画されて見られても放送局はもうからないのだ。

放送事業者は、自らの番組コンテンツを如何に放送以外でビジネス化するかに腐心するように

なった。まず手を染めたのが番組のビデオ化であり、ついで台頭してきた衛星放送CSやCAT

Vへの番組提供、配信である。ただ、CS衛星放送に自ら、或いはグループを組んで衛星放送事

業者として参画するためには新規衛星が上がる時や撤退事業者が出て送信枠に余裕が出た時に限

られた枠を総務省の認定を受けて得るために比較審査をパスしなければならない。また、トラポ

ンと呼ばれる送信機の使用料金は高額であるので、これをローカル局の体力で負担するのは事実

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上、不可能だ。そのため在京のキー局によるチャンネルのほかはCSに進出しているのは、在阪

局の朝日放送系のスカイAと毎日放送系のGAORA(いずれもスポーツ中心)と関西テレビの京

都チャンネルのみである。

これに対してインターネットでの番組配信のコストは格段に安い。著作権処理の煩雑さやIS

P事業者との提携という作業はあるにしても、何がしかのコンテンツを持つローカル局にとって

は利用価値が高い。またインターネット上での情報コミュニティの発達によってローカル番組情

報もニッチな層相手かも知れないが全国に知れ渡るようになり、番組コンテンツ流通の市場が放

送エリア外でもできるようになった。こうした中で、まず著作権的に問題が少ないニュースの動

画配信がナローバンドを手始めに広く行われるようになった。毎日放送の動画ニュースサイトは

1999年 1月に立ち上がった。今では数多くのローカル放送局がニュースの動画配信を行っている

し、系列として在京キー局が立ち上げているニュースのサイトで各地からのニュースも見られる

ようになっている。また、番組視聴の機会を増やす目的から予告編の配信も行われるようになっ

た。さらに進んで番組の本編そのままを配信する動きがようやく進んできた。

ただし、これまでのパッケージメディア化、衛星放送メディアへのマルチユースという「放送

内での展開」に比べると通信の世界であるブロードバンド配信には著作権の処理という大きなハ

ードルが立ちはだかり、そのスタートは容易ではなかったし、未だにそれは大きな障壁となって

いる。

(2)アニメが伸びた在阪局MBSの場合

毎日放送では 2002年 10月に「機動戦士ガンダムSEED」の動画配信をNTTフレッツ加入者

対象に始めた。放映中の新作をテレビと連動して他のメディアで配信する日本初の試みであった。

テレビ放送の翌日から 1週間無料で配信、番組は 1週間で次の回に切り替わるというもので、配

信が終了した回のものを有料提供するということはなしでスタートした。この取り組みはバンダ

イチャンネル、毎日放送、NTT東日本、NTT西日本の 4社の連携によるもので、その目的は、テ

レビとインターネットというメディアが相互に補完しあい、話題性や認知度が高まることを期待

すると同時に、ブロードバンドでの映像視聴状況のデータを分析し、今後のブロードバンドサー

ビスの展開に活用したいというものであった。この動画配信は毎週数十万アクセスを記録するな

ど大好評で、「原作マンガ、出版社、アニメプロダクション、放送局を介してのオンエア、DVD

化・映画化などのビジネス、キャラクター商品の開発・販売」という大きなアニメビジネスの中

に新しい一角を作るものであり、後の有料配信への道を開くものであった。

「機動戦士ガンダム SEED DESTINY」「鋼の錬金術師」(2004年)「天保異聞 妖奇士(あやかしあ

やし)」「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006年) 「DARKER THAN BLACK」(2007年) 「地球

(テラ)へ…」(2007年)などMBS制作アニメのブロードバンドでの配信は続き、無料視聴期間終了

後の有料配信も定着している。

また、アニメ以外では「スイッチを押すとき」というドラマを放送はMBSで、動画配信はUSEN

が運営する動画配信サービス「GyaO」でという座組みで 2006年 7月から実施した。

実は毎日放送での番組制作は、他の多くの在阪民放がそうであるように、大阪での本社制作分

と東京支社での制作分にわかれている。関西ローカルで放送されるものは原則、本社で制作。全

国ネットの番組のうち、土曜朝の情報ワイド番組以外のバラエティ、アニメは東京支社でという

のが役割分担で、これは他の在阪局も大差ない。またドラマは大阪本社と東京支社両方の制作分

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第5章 関西の IT産業の動向

があるが、比率は本社制作の方が多い。「機動戦士ガンダムSEED」はアニメで東京支社制作分

である。

このように「全国ネット番組発ワク」を持っているということは関西局の大きな強みである。

コンテンツをマルチユースする場合、その番組の認知度がどれ位あるかは大きなポイントで、全

国で見られているということは大きなマーケットが期待できる。またアニメを持っているという

ことはアニメファンという堅実な購買層を抱えるという点で有利であるのと同時に、ほとんどの

アニメが、いわゆる制作委員会方式で作られており、ブロードバンド配信なども得意なパートナ

ーがすぐそばに居るという有利さがある。

他方、大阪本社制作分についても、関西の文化という大きなリソースに恵まれている。お笑い

のタレントは全国区の人気者となっているし、雰囲気の全く違うところでは、京都・奈良の文化

財を取材した番組も多く、これまで多くの番組がビデオやDVDのパッケージメディア化され、

マルチユースされてきた。

毎日放送でも大阪本社制作分ではスポーツ中継を中心に、アニメに先立ってインターネット配

信が行われてきた。

甲子園球場での春の選抜高校野球ではライブ動画中継を 1999年から行なってきた。動画での

生中継に加え、Webサイトでは試合のスコアボードが表示されるなど速報体制も充実させ、各イ

ニングの点数をクリックするとオンデマンドで過去の試合の模様も視聴できるというサービスも

行ってきた。

これに続いてプロ野球阪神タイガースの公式戦のライブ動画中継を 2000年 8月から開始した。

こちらは有料での配信で、甲子園球場で行なわれる阪神タイガース主催試合のうち、巨人戦を除

く試合で、映像は球団映像のもの、実況音声には毎日放送ラジオ「タイガース・ナイター」のも

のを利用した。テレビの場合、実況中継カードは各局とも試合数が限られてくるが、ラジオでは

阪神のほぼ全試合を中継しているわけでそのリソースをマルチユースしたラジオ・テレビ兼営局

の強みを活かした展開であった。このライブ中継は、残業中でテレビが職場にないサラリーマン

や阪神戦のテレビ中継がない地域の阪神ファンに重宝された。

また毎年冬に東大阪市の近鉄花園ラグビー場で開催される全国高校ラグビー大会もMBSが

力を入れているスポーツイベントで、こちらは 1999年 12月から無料配信を行っている。1回戦

から 3回戦までの試合はダイジェスト版、準々決勝以降は 1試合すべて、準々決勝 4試合はスト

リーミングで生中継、準決勝・決勝は試合終了後に試合の模様を配信というようにテレビ中継と

役割分担しながら動画配信を行っている。

(3)双方向の研究と携帯ワンセグ

2000年 12月にBSデジタル放送がスタートした。この時、ハイビジョンと並んで話題を集め

たのがデータ放送を利用した双方向の番組で、クイズ番組に参加して賞品をゲットしたり、双方

向でサンプル品や資料請求のできるCM、番組本編で出演者が着ている服や小物が買えるという

ショッピング連動型のドラマなどが登場した。現在の地上デジタル放送と比べてもこれらのサー

ビスはかなり先進的なものだった。ただ、これら双方向サービスは長続きしなかった。BSデジ

タル放送そのものが日本の経済が低調であった時期に誕生したため思ったほど受信機の普及が伸

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びなかったこと、同時期にスタートしたブロードバンドがまずADSLを中心に普及して、また

iモードの台頭から携帯電話がパーソナル情報機器としての地位を確立し、テレビの双方向性や

データ放送にあまり関心が集まらなかったことが主な原因で、民放BSデジタル局の経営が厳し

い中、コストカットのためにこれらの双方向番組は次々と姿を消していった。ちなみにBSデジ

タルの双方向機能はダイヤルアップ方式で、受信機にはモデムが搭載され、電話回線をつなぐと

いうものであるが、テレビには電源コードとアンテナからの線は必須だが、なかなか電話線まで

は引いてもらえなかった。

これらの経緯もあって、2003年 12月にスタートした地上デジタル放送は、双方向回線はブロ

ードバンドとなり、イーサネットの口が受信機についた。ただ、地上放送事業者は、BSの反省

からか、双方向番組の数は著しく少ない。データ放送ではいつでも見られるニュースや天気予報、

スポーツ速報などのコンテンツが中心になり、番組連動型でもプロ野球中継でのスコア・選手情

報、他球場の経過のようなコンテンツなどに留まっている。ただ、放送波の一部を使ってデータ

を伝達しているデータ放送では送れる情報量が著しく限られているため、画像やより細かい情報

をブロードバンドを通じて局の専用サイトに取りに行くという仕組みが一部で使われている。ま

た、この機能を使ってデータ放送対応プリンターと接続してデータ放送の中に印刷専用コンテン

ツを置き、プリントするというサービスも行われている。MBSでもアニメ番組でオリジナルのポ

ストカードのプリントコンテンツを作っている。

毎日放送がはじめてデジタル放送で本格的な双方向番組に取り組んだのは 2005年 3月に放送

した単発番組「国民のルール」である。これはデータ放送の双方向機能に加え、デジタル放送の

特長のひとつである多チャンネル機能を使ったもので、二組の芸能人がこんなルールがあったら

良いという自分たちの持論を戦わせ、どちらが説得力があったかを視聴者がデータ放送と携帯電

話を通じて投票し、勝った方はそのままメインの番組に残ることができるが、負けた方はデジタ

ルでしか映らないサブチャンネルの方に落ちていくという趣向であった。深夜の番組ではあった

が、データ放送からはおよそ 1,000件の投票が、携帯電話のサイトからは(当時はまだワンセグ

の開始前であった)3万 9,000件の投票があった。携帯電話併用としたのは、当時まだ地デジ受

信機の普及率が低く、その上、さらに LANケーブルを接続している家庭は極めて限られていたた

めである。携帯を通じて多数の投票があったことは準備を進めていた携帯向け放送サービス、ワ

ンセグが使い方によっては、かなり有望な双方向ツールになることを予感させた。

2006年 4月、さまざまな期待を担って携帯向け放送ワンセグがスタートした。受信機のかなり

多数が携帯電話という通信機器になるため、この機能を使った双方向コンテンツに期待が集まっ

た。ワンセグでは受信端末をタテにして見ると上半分がテレビの映像、下半分がデータ放送画面

となっており、データ放送だけでは伝送できるコンテンツの量が限られているので通信の世界に

飛んで行き、さらに詳しいコンテンツや双方向コンテンツにアクセスするという仕組みになって

いる。もともと携帯向け放送が企画されていた頃には、この放送を有料化できないか、という意

見もあった。しかし、無料地上波放送の一部であること(法令的定義では補完放送)からこれは

見送られた。有料放送とすると元々の番組部分を含めて出演者などの著作権処理が煩雑になるこ

と、普及台数が少なく広告媒体としての価値が低く、従って新たな広告収入が期待できない初期

段階でのワンセグ育成を考えると「これまでの放送のビジネスモデルを大きく変えることなく、

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第5章 関西の IT産業の動向

とりあえず様子を見る」という姿勢は正解であったろう。かわりに放送事業者はデータ放送部分

からのビジネス展開を新たな収入源にしたいと期待している。携帯電話でのワンセグ普及のペー

スは速く、開始から 1年 8ヵ月後の 2007年末には全国でのワンセグ受信携帯電話の出荷台数は累

計で 2,000万台を超えた。ただその使用法は、放送局側の期待に反して、画面をヨコにしてテレ

ビの映像だけを見る(データ放送は映らない)のが主流である。毎日放送では、もっとも単純な

双方向機能として「応援ボタン」というものをプロ野球中継やアニメ番組のデータ放送で実用化し

ている。例えば野球中継では、好みのチームのボタンを押すと1票として局側サーバに計上され、

データ放送画面にリアルタイムで表示される。これで応援合戦をするというものである。またア

ニメ番組ではこのシーンがいいと思ったところでボタンを押すと、これも局側サーバに投票とし

て登録され、もっとも人気のあったシーンが翌週、番組のオンエアで紹介されるというものであ

る。

これまでは固定向け放送と同一内容の放送となっていたワンセグだが、放送法の改正で 2008

年 4月からはワンセグ独自編成が可能になった。今後、どのような双方向系コンテンツを開発し

ていくか、通信との連携の上で期待の大きな分野である。

(4)伝送系への応用 - 番組配信の変化

放送局間の伝送はアナログ放送の時代は長らくNTTの専用マイクロ線を使っての伝送が中心

であった。またニュース取材のビデオテープの伝送も中継車や支局から自営のマイクロ回線で送

るか、NTTの局舎内に設置した専用施設からマイクロ伝送するというのが主流であった。これ

に 1980年代後半には、各系列ごとに通信衛星のトラポン(通信機)を確保し、現場中継車と局、局

と局の間を衛星回線で結べるようになった。さらに近年、ニュース番組などを中心に、従来型の

中継ができない地域からの伝送に通信を介したものが増えてきた。FOMA中継と言われる携帯電

話の映像サービスを使ったもの、IP伝送などである。特に海外からのIP伝送は国際衛星を使

ったフル規格の映像伝送にくらべると格段に経済的である。

MBSではこの分野へのIP技術の導入に努力してきた。特にここ数年は次世代インターネッ

ト、IPV6マルチキャストの伝送実験を札幌雪まつり、プロ野球のキャンプ取材伝送で行ってきた。

札幌雪まつり中継は地元局の協力で雪像前に中継ポイントを設営し、IPV6網で結ばれた系列

各社がリポーターだけを札幌に出張させてくれば、そこから各局夕方のローカルワイド番組に生

中継ができる、というもので好評であった。伝送画質もハイビジョン映像にまで向上してきた。

これにより非常に経済的に多点間の中継、多局間の番組素材交換が可能になることを実証した。

これまでの東京中心の番組流通に、違う流れができれば、より頻繁な各地からの中継でこれまで

にない番組作りも可能になろうし、ローカル局同士の番組交換や共同制作、素材のシェアも可能

になり、番組、編成に変化を与える可能性があろう。

2.法制度の変化と環境の変化が与える影響

(1)放送法の改正によるNHKのブロードバンド進出

改正放送法が 08年 4月から施行される。その中にNHKの持つ番組ソフトのブロードバンド

配信を解禁しようというものが含まれている。放送終了後 1週間から 10日程度の番組の「見逃し

サービス」と本当にだいぶ昔の番組(アーカイブス)の両方があり、また配信方法もNHKが自

らサーバを準備して配信する直営(ただし受信料による放送とは別会計)と、コンテンツ配信事

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業者を通じての配信の両方を想定しているが、どちらも有料サービスとなる。これが実現した背

景には竹中元総務相時代に「NHKの過去の番組をブロードバンド上で積極的に公開すべきだ」

との指摘が再三あったことがある。NHKではこれを受けて平成 20年度の事業計画で今年(2008

年)12月からサービスを開始、見逃しの方は連続ドラマやニュース番組を想定、との内容を盛り

込んだ。最近、ブロードバンドで動画コンテンツを見ることが一般化し、またデジタルテレビの

受信機でブロードバンドにも対応しているものが増えてきつつあるだけに、この新サービスがど

の位、受け入れられるか注目される。また放送業界内的には、見逃しの対象となる今後制作され

る番組の出演者や脚本家などにブロードバンド部分としてどれ位に権利料を上積みするのか、注

目される。

(2)ブロードバンド接続の拡大による日本型IPTVの進化

ブロードバンドでの映像配信の展開については、あえてここで触れるまでもなく一般化してい

るし、映像がブロードバンドでの中心的コンテンツに成長することになろう。パソコンで利用す

る従来型のサービスもあるし、専用のブロードバンド接続端末を作りテレビ受像機で見せるもの

も増えてきた。これらのサービスは欧米的標準からは「IPTV」と区分されるべきものである。

日本ではさらに、松下、ソニーなどの家電メーカーが中心になってデジタルテレビ受信機のブロ

ードバンド接続機能を利用して「アクトビラ」という動画配信プラス静的コンテンツのサービス

を始めている。最初は静的コンテンツだけだったが、2007年秋からは動画コンテンツが本格的に

登場し、1話いくらというペイパービュー式のオンデマンド配信が行われている。これまでに在

京局ではTBSとフジテレビが番組提供に進出している。

一方、2008年 3月から次世代ブロードバンド網、NGNを利用したサービスが東京と大阪で始

まり、これにIP同時再送信の形で地上デジタル放送が乗るべく、調整が行われている。こちら

は著作権的にはCATVなどと同等、という整理になっている。

パソコンでデジタル放送を見ることは一般化するだろうし、大型テレビに映っている美しいハ

イビジョンの映像は実はオンデマンドでやって来ているIPTVのものでした、というように一

般ユーザのいだくイメージでは放送・通信双方の違いはかなり減ってこよう。

こういった状況で、関西というエリアの放送事業者としては、多メディア化の中、自社の持つ

コンテンツを如何に多くのウインドゥ内に出してマルチユースしていくかが大きな課題である。

おそらく放送は人々に親しまれ、より多く接してもらえるメディアで(少なくともここ当分は)

あり続けるだろう。ただ世の中の多メディア化の中で、従来型の広告中心のビジネスだけでは収

入が減っていくことは避けられない事実であるし、有効なリカバリー策を考えていかなくてはな

らない。関西が地域として持つエリア内のマーケット力、関西の放送局が持つ全国放送枠の番組

が作る関西エリア以外での認知度を活かした展開を考えていけば、IP・通信の世界を恐れ敵対

するのではなく、ポジティブに利用し、放送だけではできない、より便利な、新しい展開、新し

いビジネスが開け、ひいては関西の地盤沈下対策に少しでも貢献できるのではないだろうか。

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第5章 関西の IT産業の動向

3.2 NGN/新世代ネットワーク

1.NGN(Next Generation Network)とは

NGN(Next Generation Network)とは、次世代の電気通信サービス提供を目的に、ITU-T(※

1)と他標準化機関が連携して仕様を策定する「世界で議論する IP(Internet Protocol)をベ

ースとする次世代ネットワーク」である。

NGNを通信網の基盤として用いれば、電話網の「信頼性・安定性」を保ちながら IP電

話やデータ通信、コンテンツのストリーミング配信やディレクトリサービスといった多様

な情報通信サービスを柔軟に運用することが可能になり、IPネットワークの「柔軟性・経

済性」を備えた本格的なユビキタス社会の実現に向けた次世代の情報通信ネットワークと

なる。

すなわち NGNの目的は、インターネットと電話網の両方の良いところを連携させ拡大

することで、通信事業者や各種サービスプロバイダー(ISP(※2) 、ASP(※3)、NSP(※4)、

CSP(※5)等)がそれぞれの役割を分業し、異なるネットワーク間を相互接続してシームレ

スにサービスを実現すること、且つ将来の新サービスや新技術に柔軟に対応し新たな産業

基盤を創造するネットワークを構築・提供することである。また、セキュリティ・急増す

るトラヒック・アプリケーションが要求する QoS等の既存のインターネットにおける課題

を解決することや既存の固定電話網をマイグレーションし、コストを削減することも目的

とされている。

※1:ITU-T:国際電気通信連合 電気通信標準化部門

(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)

※2:インターネットサービスプロバイダ(Internet Service Provider)の略

※3:アプリケーションサービスプロバイダ(Application Service provider)の略

※4:ネットワークサービスプロバイダ(Network Service Provider)の略

※5:コマーシャルサービスプロバイダ(Commercial Service Provider)の略

2.特 徴

NGNは、既存電話網の信頼性・安定性とIP網の利便性・経済性を合わせ持った情報通

信の可能性を広げる次世代ネットワークであり、以下に示す①信頼性 ②品質保証 ③セ

キュリティ ④オープンインターフェイス 等の特徴がある。

①信頼性

既存電話網のネットワーク設計の運用技術、ノウハウを踏襲しており、キャリアグレード

の大容量・高信頼装置の採用と、通信回線や通信装置の冗長化に加えて、災害発生時やト

ラヒック集中などの、さまざまな状況を想定して、トラヒックコントロールや重要通信の

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確保など、利用者に安心・安全を提供するためのさまざまな先進技術が採用されている。

②品質保証「QoS」

多彩な通信サービスに最適な形で対応するため、従来の「ベストエフォートクラス」に加

えて、最優先・高優先・優先というように品質確保型の「優先クラス」を用意し、利用シ

ーンに応じた品質クラスを提供している。例えば、「優先クラス」は、テレビ電話のような

厳しいリアルタイム性が必要な通信や片方向の映像配信のような緩やかなリアルタイム性

が要求される通信のためのものである。すなわち品質確保「QoS」機能により、安定した

音声通話や高精細映像の配信の実現など、アプリケーション特性に応じた適切な品質クラ

ス選択が可能となっている。

また、網内装置でユーザ毎、アプリケーション毎に、ダイナミックなリソース割り付け、

流量制限を実施し、品質制御を実現している。これまでのヘビーユーザによる大量パケッ

ト送信が他のユーザの帯域を圧迫するというような課題等を解決し、各種サービスを快適

に提供するため、公平制御および優先制御機能を具備している。

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第5章 関西の IT産業の動向

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③セキュリティ

回線ごとに割り当てた電話番号や IPアドレスといった発信者 IDのチェックを行い、な

りすましを防止する。また、ネットワークの入り口に、異常なトラヒックをブロックする

機能なども具備している。

④オープンインターフェース

多様なサービスを提供する様々な業種のアプリケーション事業者が連携し、新しい付加

価値を創造することが可能となるようネットワークのインターフェース仕様を開示する。

それにより、異業種、他業界とのコラボレーションが進み多彩なサービスが実現される。

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第5章 関西の IT産業の動向

3.西日本におけるNGNの商用化開始とエリア展開イメージ

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「参 考」

NGN がもたらす社会変化として、以下のような利用シーンが期待されている。

・FMC(Fixed Mobile Convergence)固定通信と移動体通信の融合

屋外では携帯電話として使い、家の中では固定電話の子機として使えるというよう

に固定網の有線通信と移動体通信とを融合した通信サービスの形態のこと。

(利用イメージ)

・コンテンツビジネスの充実

高いセキュリティを誇る NGNであれば、違法コピー等のリスクがなくなると

ともに、帯域を個別に割り振ったり、帯域確保をするといったサービスで、コン

テンツの品質を確保できるなど、コンテンツビジネス市場の拡大が期待される。

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第5章 関西の IT産業の動向

(利用イメージ)

・通信と放送の融合

多チャンネル放送サービスと VOD(Video On Demand)サービスをひとつのネッ

トワーク上で楽しむことができる。

(利用イメージ)

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ココララムム 関関西西情情報報化化実実態態調調査査かからら ee--KKaannssaaiiレレポポーートトへへ

財団法人 日本情報処理開発協会

調査部長 高橋 眞理子

1.関西情報化実態調査3年を振り返って

関西情報化実態調査が始まって3年がたち、2005~2007年度の各年度報告書に加えて、3

年間の調査結果のエッセンスを集約した「e-Kansaiレポート2008」も発刊される。そもそも

の狙いである関西経済の基盤の底上げとそのための関西地域の情報化への提言も盛り込まれる見

込みである。

ここでは、関西らしさ(特色、差別化された内容)と夢をアピールすべきとされるが、それは、

当初からの難問である。IT産業の集積を始め、ことごとく東京一極集中が激しい日本で関東圏と

比較して関西圏が優位な点は多くはない。阪神大震災の経験からくる危機管理意識の高さは秀逸

として、ゲームコンテンツ、電子機器の製造、先進自治体等の存在もあるが、それは一部であり、

「関西の強み」としては強調しにくい。情報系に絞るとなると、さらに苦しい。

① 関西 IT産業の事例

こうした状況下で、2007年版では関西に特徴のあるIT産業に関わる6トピックスを取り上

げているが、具体例は興味深い。①大阪湾岸の薄型パネル生産拠点、②組み込みソフトの集積を

狙う推進会議、③全国初のIPラジオ研究協議会、④入場の顔認証システム、⑤在阪放送局におけ

るコンテンツのマルチユース、⑥次世代ネットワーク、と、いずれの事例も最新動向である。

② 実態調査の結論

このレポートの基本である実態調査については、アンケート数値情報の分析の難しさを感じる。

3年間の実態調査で上場企業、自治体、中小企業のIT利活用状況を探ってきた結果、各分野に共

通する課題として浮かび上がってきたのは、IT人材育成とIT投資効果測定であったとしている

が、これは関西に限ったことではなく、アンケートの設問設計からしても当然の結果といえなく

もない。アンケートの限界もあり、多岐にわたる調査で設問一つひとつの経年変化を見るのにど

れだけ意味があるかも、今後は考えてみなければならないだろう。とかくアンケートは労多くし

て収穫はそう多くない。また、回答母集団が少ない場合は分析にも注意が必要となる。

③ ヒアリング調査

アンケートを補足するヒアリング調査は、業種の異なる5社を対象に行われたが、全体のまと

めとして、SEの東京流出や東京中心の情報発信等、東京にばかり目が向いており、関西の元気

を示す話が出てこないのは残念である。視点を変えれば関西の長所が沢山見つかると思いたい。

④ 情報セキュリティ対策

情報セキュリティ対策に関しては、アンケートの数値のみならず政策情報を多用して丁寧にま

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とめている。CIOの有無と情報セキュリティ対策実施状況の相関関係を分析している点も興味深

い。ところで、情報セキュリティで必要不可欠な人材はセキュリティマネージャーであろうが、

CIOがセキュリティマネージャーを兼ねているのかどうか、独立したセキュリティマネージャー

がどれだけ存在するのか、さらに深掘りすると面白そうである。

⑤ 教育現場と医療分野

国の政策で重要項目と位置付けられた教育現場や医療分野の情報化の現状把握と課題抽出に

も先進事例のヒアリングを通して取り組んでいる。あらかじめ状況が分かるような、また、情報

の得にくい分野と思われるが、アプローチしたこと自体が評価に値する。

⑥ これからの留意点

まず、選択と集中である。手を広げすぎるとどうしても焦点がぼける。思い切って捨てるもの

があってもよいのではないか。「いい関西」にとって何が重要なのかである。アンケートによる数

値データは実数なだけに根拠としやすくオリジナリティがあるので

こうした調査では不可欠な要素となっているが、毎年、定点観測するべき項目に絞ったらどう

であろう。次いで、比較の対象である。関東圏や全国区との比較による関西圏の位置づけは、唯

一無二に有効であろうか。海外諸国の第2経済圏では、第1経済圏に対しての比較の観点から

自らを評価しているであろうか。関西圏独自に考えてもよいのではないか。最後に、構成とスト

ーリー展開を練って再考した方がよい。情報化白書も見直しが必要で、必ずしも良いお手本とは

ならない。

以下では、情報化白書の課題を列挙して、ご参考に資することとしたい。

2.情報化白書の課題

(財)日本情報処理開発協会編集の「情報化白書」は現在42冊目の編纂に向かっている。年

間書籍としてのとりまとめを続ける一方、Web化への対応として、過去21冊の情報化白書の

電子化を終え、公開時期と方法、検索等の付加機能の検討を行っているところである。

ここ数年の発行時期の遅延と不連続な広報活動の影響もあって頒布数は伸びていないが、情報

分野の総合的な白書として比類がないこと、40年にわたるブランド力に支えられて、「継続こそ

力」を励みに続投している。が、問題は山積している。

① 誰のための白書か

まず、読者対象である。産業企業、行政、社会、生活、一般個人へとすべてに情報化が広がっ

た現在、全方向に目配せするには範囲が広すぎて、限られた紙面では焦点がぼける。といって、

専門性の高い白書やレポートは多数刊行されている。

② 総合性か専門性か

総合性を特徴としてきたが、専門特化していく情報分野で総合性にどれだけのニーズがあるの

かである。リアルタイムに大量に提供され、すぐに消えていく情報が多い中で、年間で広範囲を

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総括したもの、残るものがあることへの安心感と後年への記録的価値はある。しかし、それだけ

でよしとしていいのか。

③ Webサイトの構築

そこでWeb情報発信との2頭立てを考えた。白書のWebサイトでは、書籍白書には欠けて

いるリアルタイム性と双方向性が望める。その仕掛けの第一歩として、過去の白書を電子化した

が、公開に向けてはコピーフリーや情報セキュリティ、信頼性の問題等、解決課題は多い。情報

提供手段の多様化を図る一方、肝心なコンテンツの充実を目指さなければならない。

④ 内容の充実

コンテンツ面では、さらに課題が多い。1965年に「コンピュータ白書」として創刊以来、経

営の情報化と企業情報システムの活用を最大のテーマとしてきたが、近年はシステムと業務実態

のキャッチアップさえ覚束ない。十分フォローできていない。したがって産業企業のニーズとの

かい離が生じている。また、政策面では政府IT戦略本部を中心に各省庁による情報政策のもと各

種調査が進み、ホームページを通じた成果公表も多い。そうしたなかで、魅力ある、他にはない

コンテンツを提供する必要がある。

⑤ オリジナル情報の提供

なんといっても、読者=利用者に役立つ、存在するに意味ある白書にしなければいけない。利

用者は、あえて特定せず、産業企業、政府行政のほか、一般社会、個人も視野に編纂しているが、

個人で日常的に白書を利用する層は少ない。個人をターゲットとするには別のアプローチが必要

になろう(簡便なもの)。むしろ消費者のニーズや動向を企業や行政に橋渡しするのが役割と認識

し、消費者の情報活用の実態を調査し、オリジナルデータとして掲載、継続的に定点観測する。

また、逆に、企業側は個人=消費者の意向をどうとらえ、どのように対応しているのか、その際、

Web環境をどのように利用しているのか、その実態も調査することとしている。暮らしとビジ

ネス両面からのWeb環境利用実態の把握である。

⑥ 特徴を生かした価値ある情報

定点観測によるオリジナル情報のほか、当協会ならではの特徴ある情報、価値ある情報で提供

できるものはないか、外部情報の利用もさることながら、近場の宝を見過ごしてはいなかったか

という反省を込めて内部情報を見直していく。

⑦人材が肝要

内部外部を問わず情報は無限にあるが、それをまとめていく人材が最も肝要である。アンテナ

を高く常に情報感度を磨いて価値ある情報を取捨選択し、俯瞰的に概要をつかむ。さらに論点を

絞り込んでポイントをまとめる。原稿の執筆力、編集力が問われるところである。しかし、専門

分化が進む中で、オールマイティな人材は望んでも得にくい。そこで、フィールドを持ち高い専

門性を有する人の知見・協力を求め、それを結集・調整していくコーディネイト人材に視点を当

てたい。一朝一夕には無理としても、変化のスピードが速い中で対応人材の育成も急ぐ必要があ

る。

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⑧ 個人の情報パワーの活用

コーディネイト人材が情報化の全体像に近づくには、各分野の高い専門性を有するエキスパー

ト人材のほかにも一般個人の情報パワーと視点を生かすべきである。ネットとパソコンで流通情

報量が増大し、Web.2.0が発達して、個人の情報パワーが格段に向上した今日、個人の知見と意

見はビジネス上でも重要な意味をもつようになっている。今後はますますWebによる利用者主

導型のIT利用環境が発展していくと見込まれるため、個人=消費者の意見を収集利用する仕組み

を構築する企業も増えてこよう。個人は社会と生活を代弁する情報の宝庫である。その情報力を

見逃す手はない。

⑨不易と流行の切り分け

白書編纂にあたっては、常に不易と流行を念頭に置いておく必要がある。情報分野は特に新し

いキーワードが生まれては消えていく、いわば「流行」が激しく移り変わる世界である。一方で

普遍的な問題も多く、これは継続的に地道に対応していくべきである。

この両面からのアプローチを心掛けたい。

全くの個人的感慨で思いつくままざっと挙げても以上のとおりである。さらに、もっと根本的に、

白書の今日的意義を考える必要も出てきている。

3.情報爆発と白書の簡素化

(1)情報爆発~情報選択と編集の時代

情報化時代は終わり、情報過剰時代になった、という人がいる。まだ情報「化」か、とは何年

も前から思ってきたことであるが、確かに情報量だけでいえば、すでに過剰で、人間の処理能力

を超えている。これからは、情報選択眼、その活用と編集能力がより重視されてこよう。

情報爆発、というキーワードが数年前から政策面でも取り上げられるようになった。世界中を飛

び交う情報量が増大し、1994年から2004年の10年間で321倍になったとも、1995年

から2005年までの10年間で410倍になったともいわれる(総務省「情報流通センサス報告

書」)。いずれにしても2000年以降、爆発的に増大している情報から真に必要とする情報を効

率よく取り出し、大量情報を管理する大規模情報システムを安定的に運用する技術が必要になっ

ている。こうした状況を背景に、文部科学省では、俗称「情報爆発プロジェクト」といわれる「情

報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究(平成17~22年度)」を実施している。また、経

済産業省では「情報大航海プロジェクト」(平成17~)で、情報の種類に依らず大量の情報の中

からユーザーが求める情報を的確に検索・解析する共通技術(「知的情報アクセス技術」)の開発

を目指し、コンソーシアムも設立(2006年7月)されて民・学連携による取り組みが行われてい

る。このように、大量で多様な情報の利活用に、技術面と社会制度の設計面からの取り組みが始

まっている。

Web環境下にあって、情報活用の手段もコンテンツ作りも変化しており、別の観点からではあ

るが、官庁の年次報告や白書も統廃合や簡素化が議論されている。情報化白書もこれまでと同じ

であることを前提とせず、編纂の意味、形態、内容、発刊周期、等々、抜本的に見直す必要が出

201

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てきている。

(2)官庁白書の簡素化

各省庁が毎年発行する白書には、法律で国会への報告が義務付けられている「法定白書」(28種

類)、法律の規定はないが閣議に報告される「非法定白書」(18種類)がある。このほか、国会

や閣議への報告義務のない「通称白書」もある。これら白書には、テーマや内容が重複するもの

もあり、その作成にかかる人的労力とコストの割には利用が少ない(3分の2が発行部数1万部

未満)として、統廃合や簡素化が検討されている。白書は政策分野ごとに政府の取り組みを紹介

する年次報告で、重要な情報公開手段であるため、一部は統合するとして、大半はスリム化の方

向(白書類等の見直し検討に関するワーキングチームの見直し案、2007年10月16日)にあ

るようである。

その議論の中で注目されたのは「白書が専門家だけでなく、広く国民から買って読まれる魅力あ

るものにしてほしい」との意見である。これは、官庁白書でもない在野の情報化白書では尚更の

ことである。情報分野で、簡便で一般にも魅力ある、を目指すとき、白書の冠の適否も含めて見

直す必要があるのかもしれない。

4.「e-Kansaiレポート」の発進

その意味でも、「e-Kansaiレポート」は良いネーミングだと思う。関西情報化実態調査は、当

初、関西情報化白書の作成を目指していたが、最終的には名称を「e-Kansaiレポート」とした。

よく時宜をとらえていたと思われる。内容量でも「大部の白書から簡易なリポートへ」の流れに

沿ったものである。大量の情報が流れている時代に、作り手には意味がある詳細情報も受け手に

は読み込む時間がなく、サマリーだけを拾い読みするのが一般であろう。詳細情報を必要とする

人には、別途、関西情報化実態調査が用意されてもいる。また、白書とは銘打っていないため、

年次報告にこだわる必要もない。広く一般に「いい関西」をアピールしつつ簡便な情報提供手段

として機能するとよいのではないか。しかし、内容を絞り込んで練り上げるのは簡単ではない。

継続して発行していきながら望ましい「e-Kansaiレポート」の姿を作り上げていかれることを

期待している。

202

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203

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補補論論

自治体と上場企業における IT利活用に対する CIOの効果

本稿では、関西地域の自治体と上場企業を対象として、CIOの設置やその能力、支援体

制が自治体や企業の情報化に与える影響を分析した。

具体的には、経済産業省が提唱する IT利活用ステージについて、アンケート結果からそ

の利活用進展度を指標化し、その得点と CIOの有無や CIOが備える能力、CIOをサポート

する体制等との関係を、統計的に分析した。

特に自治体へのアンケートでは、CIOの有無を直接尋ねているため、本稿では主に自治

体における CIOが IT利活用に果たす役割について述べている。上場企業で尋ねていないの

は、上場企業には CIOという名称ではなくとも、CIOに位置する人物は必ずいると予想さ

れたためである。

結果、自治体では CIOの存在が IT利活用の進展に寄与しており、特に CIO個人の能力が

影響していた。一方で、上場企業では、CIOを支援する組織が IT利活用の進展に寄与して

いた。

(1) IT利活用ステージ指標の設定

IT利活用について、アンケート結果より IT利活用ステージ指標を作成する。関西情報化

実態調査アンケートでは、上場企業と自治体に対して、以下の表の項目について、調査対

象機関において ITを導入することによって実現できているかどうかを、4段階あるいは2

段階で訊ねている。アンケート結果より、それぞれの ITによる実現度を、主成分分析によ

り合成し、作成した。

・ IT利活用ステージ指標

メジャメント項目 自治体 上場企業

組織形態 組織のフラット化

トップダウンによる IT 戦略の徹底

組織のフラット化

トップダウンによる経営方針の徹底

人材

人材評価への取り組み状況

職員スキルに応じた庁内人事

情報システム導入による職員数削減

人材評価への取り組み状況

人材流動化

人員整理

情報共有

トップにおける総合計画進捗度把握

危機管理対応の迅速化

住民の意見・要望の首長把握

職員における政策理念浸透度

トップにおける業績把握

出来事のトップへの迅速な報告

全社的課題のトップ・従業員の情報共有

従業員における経営理念浸透度

204

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補論

経営手法・経営スタイル

広域行政への対応

住民とのパートナーシップ

IT による行政サービスの提供

IT を活用した特徴あるサービスの提供

施策に応じた資源の選択と集中

グローバル・国際性

顧客重視の経営

株主重視の経営

自社独自の戦略打ち出し

経営資源の選択と集中

調達関係 全庁的な調達の最適化

調達先への絞込み・変更を含む見直し

サプライチェーンへの主体的な取り組み

取引先への絞込み・変更を含む見直し

変化への対応・BPR

業務の見直し(BPR)

庁内で連携が図れるシステム構成

PDCA サイクルの実践

庁内の役割分担の明確化

業務の効率的再編成

モジュール化されたシステム構成

PDCA サイクルの実践

あるべき業務プロセスの明確化

システム利用スキル 庁内システム利用スキルが職員に浸透

庁内 IT 人材システム利用スキルの把握

企業システム利用スキルが社員に浸透

企業 IT 人材システム利用スキルの把握

IT 投資効果分析 IT 投資目的の明確化

IT 投資評価の明確化

IT 投資目的の明確化

IT 投資評価の明確化

(2) 記述統計量

自治体に対するアンケートでは、CIOの確保を直接訊ねているため、CIOの確保が実現

しているかどうかでサンプルを分類し、平均値の差の検定を行った。結果は表の通り。ま

ず、自治体の基本データでは、人口の多い、一般会計予算額の大きい自治体の方が CIOを

確保しているが、IT投資額には差は見られないという結果であった。

IT利活用アンケートからは、CIOの有無によって数値に差があることが分かる。CIOを

設置している自治体の方が、ほぼ全ての項目について、平均値が高く利活用が進んでいた。

情報システム導入による職員数の削減のみ、差が見られなかった。また、それらから作成

した8つの IT利活用指標では、すべての指標について CIOの有無によって差があり、CIO

がいる自治体の方が達成度は高いという結果となった。

表.CIOの有無による平均値の差の検定(自治体)

全サンプル CIO有 CIO無 t-検定

IT利活用アンケート結果

組織のフラット化 1.66 2.04 1.39 ***

トップダウンによる IT 戦略の徹底 1.93 2.25 1.70 ***

人材評価への取り組み状況 1.84 2.04 1.67 **

職員スキルに応じた庁内人事 2.07 2.57 1.70 ***

情報システム導入による職員数削減 2.56 2.66 2.48

トップにおける総合計画進捗度把握 2.39 3.03 1.97 ***

危機管理対応の迅速化 2.32 2.75 2.01 ***

住民の意見・要望の首長把握 2.71 3.00 2.50 **

職員における政策理念浸透度 2.63 2.94 2.40 ***

205

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広域行政への対応 2.15 2.42 1.98 ***

住民とのパートナーシップ 2.05 2.27 1.90 **

IT による行政サービスの提供 2.51 2.79 2.31 ***

IT を活用した特徴あるサービスの提供 2.07 2.40 1.84 ***

施策に応じた資源の選択と集中 1.86 2.11 1.69 **

全庁的な調達の最適化 2.13 2.36 1.96 **

調達先への絞込み・変更を含む見直し 1.99 2.27 1.78 ***

業務の見直し(BPR)1 2.04 2.35 1.81 ***

業務の見直し(BPR)2 1.75 2.06 1.54 ***

庁内で連携が図れるシステム構成 2.95 3.23 2.75 ***

PDCA サイクルの実践 1.88 2.23 1.63 ***

庁内の役割分担の明確化 2.42 2.86 2.11 ***

庁内システム利用スキルが職員に浸透 2.51 2.67 2.40 *

庁内 IT 人材システム利用スキルの把握 2.02 2.32 1.78 ***

IT 投資目的の明確化 2.40 2.93 2.03 ***

IT 投資評価の明確化 1.54 1.90 1.29 ***

IT利活用ステージ指標

組織形態 0.03 0.53 -0.31 ***

人材 0.00 0.55 -0.53 ***

情報共有 0.10 1.30 -0.57 ***

経営手法・経営スタイル 0.05 0.93 -0.48 ***

調達関係 0.02 0.49 -0.29 ***

変化への対応・BPR 0.07 0.94 -0.55 ***

システム利用スキル 0.01 0.36 -0.24 ***

IT 投資効果分析 0.05 0.65 -0.37 ***

人口(人) 126411.8 203865.2 71813.56 **

平成 18年度 IT投資額(百万円) 1257.12 1178.4 1305.32

平成 18年度一般会計予算 38030.71 61516.55 22834 **

サンプル数 104 43 61

206

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

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補論

(3) CIOの有無との関係

次に、各 IT利活用ステージ指標を被説明変数とし、CIOの有無を説明変数として最小二

乗法により推定を行うことで、その関係を統計的に見た。推定式は次式で表される。コン

トロール変数には、人口と一般会計予算を用いた。

εβα ++= ii CIOITStage *

:IT利活用ステージ指標(8種類) ITStage :CIOの確保(有=1、無=0) CIO

結果、IT利活用ステージ指標では、CIOの確保は8つの指標中7つの項目で有意に関係

があるという結果になった。これは、各自治体において、CIOが存在することで ITの利活

用が進むという結果である。

ただし、システム利用スキルのみ無関係であり、ITシステムの利用スキルの職員への浸

透度や人材システム利用スキルの把握に関しては、CIOの有無は関係ないという結果とな

った。(1)においては CIOの有無で有意な差が見られたため、この差は人口規模や一般会

計予算によって生じたものと予想される。

表.CIOの有無による推定結果

推定値(β) t値 t-検定

IT利活用ステージ指標

組織形態 0.23 2.91 ***

人材 0.35 2.38 **

情報共有 1.67 3.25 ***

経営手法・経営スタイル 1.32 3.03 ***

調達関係 0.28 2.43 **

変化への対応・BPR 1.12 3.38 ***

システム利用スキル 0.24 0.26

IT 投資効果分析 0.80 3.25 ***

(4) CIOの能力指標

アンケート調査では、CIO(CIO相当役も含む)の能力について、10項目から実現でき

ているものを訊ねている。これらの能力を相関の高いもので分類し、うち8つの項目を用

いて、主成分分析によって CIOの経営戦略能力と CIOの管理能力の2つの指標とした。

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

207

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・CIOの能力指標

CIOの経営戦略能力

・組織の仕組みに対する知識と戦略立案能力

・組織の管理と人材育成能力

・社会環境の把握と予測能力

・戦略や企画を実行に移す実践力

CIOの管理能力

・業務手続や情報の管理と変更管理能力

・プロジェクト/プログラム管理能力

・投資リスク・変更管理能力

・電子商取引やウェブサービスの戦略管理能力

(5) IT利活用ステージ指標と CIOの能力の関係

CIO(相当役)の能力が IT利活用ステージに寄与しているかどうかを見るため、各 IT利

活用ステージ指標を被説明変数とし、CIOの能力指標と支援組織形態ダミーを説明変数と

して最小二乗法で推定を行った。コントロール変数としては、自治体は人口、上場企業は

資本金規模を用いた。推定式は次式のとおり。

εγγγγγ

ββα

++++++

++=

ii

iii

iii

SupportSupportSupportSupportSupport

AbilityAbilityITStage

5*4*3*2*1*

2*1*

54

321

21

ITStage :IT利活用ステージ指標

1Ability :CIOの経営戦略能力指標

2Ability :CIOのマネジメント能力指標

1Support :トップダウン型(CIOの支援組織体系)

2Support :オフィス型(CIOの支援組織体系)

3Support :チーム型(CIOの支援組織体系)

4Support :IT企画部型(CIOの支援組織体系)

5Support :CIO補佐官型(CIOの支援組織体系)

自治体においては、主に CIO(相当役)の経営戦略能力や管理能力が IT利活用ステージ

指標に貢献しているという推定結果であった。これは、関西の自治体における情報化に対

する CIO的機能の貢献は、主に CIOの能力や資質によるものであり、支援組織形態がどう

いう形であっても影響は少ないという結果である。唯一、情報共有に関する IT利活用につ

いては、CIOの能力、支援組織形態ともに関係していないという結果であった。

208

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補論

その一方で、上場企業では逆に、主に CIOの支援組織形態が関係しているという推定結

果が得られた。企業の IT利活用の進展には、CIO個人の能力ではなく、その支援組織が影

響しているという結果であり、特にチーム型組織は、5つの指標で5%有意となった。な

お、企業の結果では、F値が有意なもののみ結果を載せている。

表.CIO能力と IT 利活用ステージ指標との関係(自治体)

CIO能力 支援組織形態

説明変数

被説明変数 経営 マネジメント

トップダ

ウン オフィス チーム IT企画部

CIO補佐

IT利活用指標

組織形態 0.26 (3.68)

*** 0.05(0.72)

1.26(1.24)

-0.38(0.95)

0.38(1.31)

-0.08 (0.19)

0.14(0.52)

F=6.67(0.00)

人材 0.17 (1.74)

* 0.18(1.97)

* 1.59(1.39)

1.16(2.02)

**0.78(1.73)

* 0.57 (0.82)

0.32(0.73)

F=5.85(0.00)

情報共有 0.21 (1.40)

0.21(1.60)

0.82(0.54)

0.37(0.47)

0.60(0.96)

0.71 (0.84)

0.37(0.64)

F=3.70(0.00)

経営手法

・経営スタイル

0.06 (0.51)

0.44(3.52)

*** 0.09(0.07)

1.08(1.60)

0.61(1.28)

-0.23 (0.32)

-0.12(0.46)

F=6.01(0.00)

調達関係 0.16 (1.92)

* 0.21(2.38)

** -0.15(0.14)

0.21(0.46)

0.09(0.27)

-0.16 (0.33)

0.12(0.37)

F=4.10(0.00)

変化への

対応・BPR

0.21 (2.01)

** 0.08(0.85)

0.16(0.12)

0.33(0.57)

0.62(1.44)

-0.70 (1.13)

0.01(0.04)

F=6.67(0.00)

システム利用

スキル

0.15 (2.04)

** 0.08(1.10)

1.19(1.11)

0.29(0.69)

0.02(0.07)

-0.20 (0.41)

-0.16(0.51)

F=3.87(0.01)

IT 投資効果

分析

0.17 (2.15)

** 0.06(0.79)

0.45(1.11)

-0.08(0.20)

0.42(1.32)

-0.03 (0.08)

0.16(0.53)

F=5.46(0.00)

サンプル数 109

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

209

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表.CIO能力と IT 利活用ステージ指標との関係(上場企業)

CIO能力 支援組織形態

説明変数

被説明変数 経営

マネジメ

ント

トップダウ

ン オフィス チーム IT企画部 CIO補佐官

IT利活用指標

組織形態 -0.01 (0.10)

0.22 (1.42)

2.30(2.41)

** 0.97(1.50)

1.72(2.85)

*** 2.03 (2.35)

** 1.36(1.99)

*

F=2.40(0.03)

人材 -0.01 (0.08)

0.39 (1.51)

4.22(3.28)

*** 1.87(1.80)

* 2.54(2.43)

** 2.65 (2.16)

** 1.74(1.42)

F=2.32(0.06)

経営手法・

経営スタイル

0.07 (0.32)

0.23 (0.89)

3.89(3.01)

1.98(2.04)

* 3.06(3.13)

*** 3.93 (3.24)

*** 1.84(1.51)

F=3.22(0.01)

変化への

対応・BPR

0.05 (0.27)

0.25 (1.08)

3.02(2.11)

** 1.12(1.15)

2.16(2.38)

** 2.40 (1.84)

* 2.02(1.96)

F=2.16(0.05)

システム

利用スキル

-0.00 (0.06)

0.04 (0.34)

2.01(2.50)

** 1.37(2.50)

** 1.94(3.81)

*** 1.90 (2.59)

** 1.38(2.39)

**

F=3.50(0.00)

サンプル数 108

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

(6) 自治体における IT投資と IT利活用ステージ指標

次に、自治体における IT投資と、IT利活用の進展との関係を見る。IT投資と IT利活用

ステージ指標との間には、IT利活用が促進されることにより、例えば調達などが最適化さ

れ、情報化に関する支出が減る。または、システムを導入することにより、ランニングコ

ストが増加し IT投資額が増える、といった両方の影響が予想される。

本稿では、調査対象自治体の人口一人あたり IT投資額を被説明変数とし、IT利活用ステ

ージ指標より、経営手法・経営スタイル、調達関係、変化への対応・BPR、システム利用ス

キルの5つを説明変数として、最小二乗法によってその関係を見た。

結果、経営手法・経営スタイルと IT投資効果指標については、達成度が高いほど、人口

一人あたり IT支出が増加し、調達関係、変化への対応、システム利用スキルについては、

達成度が高いほど一人あたり IT投資は抑制されることが分かった。

210

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補論

表.人口一人あたり IT 投資と IT 利活用ステージ指標

推定

t値 t-検

IT利活用ステージ指標

経営手法・経営スタイル 0.01 3.36 ***

調達関係 -0.01 1.68 *

変化への対応・BPR -0.01 1.79 *

システム利用スキル -0.01 1.88 *

IT 投資効果分析 0.01 2.79 ***

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

(7) 上場企業における情報関係処理費と IT利活用ステージ指標

同様に、企業における情報関係処理費に対する、IT利活用の進展度を見た。具体的には、

情報関係処理費/総売上を被説明変数とし、IT利活用ステージの各項目を説明変数として

最小二乗法にて推定を行った。結果、変化への対応が進めば情報関係処理費は減り、IT投

資効果分析が進めば、情報関係処理費は増える。

表.情報関係処理費と IT 利活用ステージ指標

推定

t値 t-検

IT利活用ステージ指標

経営手法・経営スタイル 0.002 1.69

調達関係 0.000 0.36

変化への対応・BPR -0.002 1.76 *

システム利用スキル 0.001 1.15

IT 投資効果分析 0.004 2.44 **

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

211

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自治体と上場企業における情報セキュリティ対策に対する CIOの効果

本稿では、IT利活用と同様にアンケート結果を用いて、情報セキュリティ対策に対する

CIOの能力が与える影響を、関西の自治体と上場企業について統計的に見る。

(1) 情報セキュリティ対策指標の設定

まず、情報セキュリティ対策指標を作成する。情報セキュリティ対策を「組織的な取り

組み」、「物理的セキュリティ施策」、「事故対応」の3種類に分けて、それぞれの項目に当

てはまる結果から主成分分析によって作成した。情報セキュリティ対策のアンケートは自

治体、上場企業共通で、いずれも5段階で取り組み状況を尋ねており、数字が大きいほど

できている回答形式となっている。

・ 情報セキュリティ対策指標

組織的な取り組み(7) ・情報セキュリティポリシー等を規定し実践している

・経営層を含めた情報セキュリティ推進体制の整備

・情報資産の管理

・重要な情報を扱う上での適切な措置

・契約書にセキュリティ上の問題に対して記載

・従業者との秘密保持に関する書面取り交わし

・従業者への情報セキュリティ教育や指導

物理的セキュリティ施策(5) ・出入りの業者や人に対するセキュリティルールと実践

・建物や区画への必要に応じたセキュリティ対策

・情報機器や配線等に配慮した設置

・重要な書類や記憶媒体の適切な管理

・情報システムやデータの保護

事故対応(3) ・障害発生を想定した対策

・事件や事故への対応手続き

・事業継続の取り組み

表の通り作成した3つの情報セキュリティ対策指標を用いて、自治体において CIOの有

無で情報セキュリティ対策の得点に差があるかを見た。結果、3指標すべてで、CIOがい

る自治体の方が対策がとられているという結果であった。

212

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補論

表.CIOの有無による平均値の差の検定(自治体)

全サンプル CIO有 CIO無 t-検定

情報セキュリティ対策指標

組織的な取り組み -0.01 0.85 -0.60 ***

物理的セキュリティ施策 0.00 0.32 -0.22 *

事故対応 -0.02 0.30 -0.25 **

人口(人) 126411.8 203865.2 71813.56 **

平成 18年度 IT投資額(百万円) 1257.12 1178.4 1305.32

平成 18年度一般会計予算 38030.71 61516.55 22834 **

サンプル数 104 43 61

(2) 情報セキュリティ対策指標と CIOの能力の関係

関西の自治体と上場企業において、CIO(相当役)の能力が情報セキュリティ対策に影響

しているかどうかを見るため、各情報セキュリティ対策指標を被説明変数とし、CIOの能

力指標を説明変数として最小二乗法で推定を行った。コントロール変数としては、自治体

は人口、上場企業は資本金規模を用いた。推定式は次式のとおり。

εββα +++= iii AbilityAbilitySecurity 2*1* 21

Security :情報セキュリティ対策指標

1Ability :CIOの経営戦略能力指標

2Ability :CIOのマネジメント能力指標

推定結果より、自治体では CIOの経営戦略能力が、情報セキュリティ対策に寄与してい

ることが分かった。自治体においては、情報セキュリティ対策を進めるには、CIO(相当役)

に戦略立案能力や実践力を持つ人間を就けることが、ひとつの方法であるという結果であ

る。

その一方で、上場企業では CIOの能力は、情報セキュリティ対策に影響しないという結

果であった。企業の情報セキュリティ対策は、CIOとは関係の無いところで設置されてい

る。

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

213

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表.CIO能力と情報セキュリティ対策指標との関係(自治体)

自治体の CIO能力

説明変数

被説明変数 経営 マネジメント

情報セキュリティ対策指標

組織的な取り組み 0.46(3.62)

*** -0.08 (0.67)

F=17.6(0.00)

物理的セキュリティ施策0.28(2.40)

** 0.02 (0.24)

F=8.16(0.00)

事故対応 0.26(2.70)

*** -0.02 (0.22)

F=9.53(0.00)

サンプル数 107

表.CIO能力と情報セキュリティ対策指標との関係(上場企業)

自治体の CIO能力

説明変数

被説明変数 経営 マネジメント

情報セキュリティ対策指標

組織的な取り組み -0.23(0.81)

**

*

0.46 (1.45)

F=17.6(0.00)

物理的セキュリティ施策-0.20(0.83)

**0.08 (0.32)

F=8.16(0.00)

事故対応 -0.25(1.26)

**

*

0.13 (0.61)

F=9.53(0.00)

サンプル数 48

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

t-検定は有意水準 ***1%, **5%, *10%

214

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資料編

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第1部 ヒアリング事例

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

11..上上場場企企業業

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

ヒヒアアリリンンググ実実施施企企業業

No. 企業名 業種 主な質問項目

1. 株式会社堀場製作所 電気・精密機械 IT 投資による競争力の向上、効率化

IT 人材育成

2. 株式会社びわこ銀行 銀行・保険 IT 投資による競争力の向上、効率化

IT 人材育成

3. 株式会社フェイス 通信・通信サービス 内部統制に関する取り組み

4. 株式会社ロイヤル

ホテル その他

CIO の機能、支援組織

内部統制に関する取り組み

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

1.1 株式会社堀場製作所

◆ 企業概要

所在地 京都市南区吉祥院宮の東町 2

資本金 119億 52百万円 設立年 1953年 1月 26日

事業内容 自動車計測機器、環境用計測機器、科学計測機器、医用計測機器、半導

体用計測機器の製造販売。分析・計測に関する周辺機器の製造販売。分

析・計測に関する工事、その他の建設工事ならびにこれらに関する装

置・機器の製造販売

従業員数 4,976名

(1)基幹システムから OA系、CAD/CAEまでの統合を推進

堀場製作所では 1990年代に入り、企業規模拡大に伴って、情報システムの全体最適化を

図る必要が出てきた。その課題に取り組むために 1994年に設立されたのが、業務改革推進

センターである。一般でいう情報システム部門に当たるが、情報システムは戦略に役立ち、

改革や成果につながらなければ意味がないということで、業務改革推進センターの名のも

とに、そのような観点から業務を進めている。具体的には、OA系アプリケーションや

CAD/CAEのネットワークから基幹システムまでを一体化し、運営・管理している。1994

年の設立と同時に、ネットワーク化を徹底的に推し進めるために、社内ネットワーク

「HORNET」の構築に着手。その際には、当時からグローバルに対応できるよう、一太郎な

どの日本のソフトウェアや日本製 CADを原則、すべて廃止した。並行して、製品の開発期

間を短縮するために、コンカレントエンジニアリングをスタートさせ、さらに、基幹シス

テムを製販一体型に再構築した 2000年の段階で、堀場製作所本社のシステム統合はいった

ん完成した。

システム統合の一番の目的としては、「Ultra Quick Supplier」のスローガンのもとに、お

客様への納期短縮を最優先の評価軸に置いてきた。しかし、すぐれた情報システムを構築

し、納期状況がリアルタイムで把握できるようになっても、それを現場にフィードバック

するなど、有効に活用しなければ成果は上がらない。1997年、様々な施策や戦略、多くの投

資も満足な成果が得られない要因のひとつが企業基盤である”現場の意識と行動”にある

と判断し、社員が積極的に経営参画の意識もって取り組める風土をつくるため、現場の提

案や改善を活かせるマネジメントシステムを構築することとし、「BlackJack Project(BJ)」が

スタートした。この活動は、2007年度には、全世界の堀場グループ社員によるWorld Cup

を実施するなど、現場レベルでの地道な改善努力を続けており、システムをより生かして

いくための強力な牽引力として、BJとシステムは車の両輪と考えている。

BlackJack Project(BJ):21世紀に最強の企業として発展し続けたいとの”おもい”を込めて!!

ブラックジャック;21が最強の切り札『21世紀最強の企業に!』

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

(2)海外子会社を含む HORIBAグループ全体の ERPを導入中

2000年に堀場製作所本社のシステム統合が完成した時点で、OA系と CAD/CAEはすでに

グローバルに展開していた。しかし、基幹システムだけは各国の事情もあって統合されて

おらず、大きく分けても 4つの ERPが個別に動いていた。国内はインハウスで開発された

ERP、海外は SAP社をはじめ 3社の ERPである。ところが、2000年に入ると、連結子会社

40社以上から成る HORIBAグループ全体の経営強化が大きな方針として打ち出され、グル

ープ全体の業績を総合的に把握する必要が出てきた。グループの製品分野を大きく分ける

と、科学、自動車、医用、半導体の 4分類となり、マーケットはアメリカ、アジア、ヨー

ロッパの 3つに大きく分けられる。そこで、各社の枠を超えて、グループ全体を 4つの製

品軸と 3つの地域軸からなるマトリクスで捉えて業績把握することにより、HORIBAグルー

プを一体化した経営が目指されることとなった。2003年には創立 50周年を期して、

「HORIBA Group is One Company」が宣言されている。

しかし、ERPが別々に動いているようでは、グループ全体の経営指標をリアルタイムに把

握して、素早い経営判断を行うことはできない。そこで、マトリクス経営の導入に合わせ

てグループ統一情報システムの検討を開始。2005年には新基幹システム推進室が中心とな

り、グループ全体を統合する基幹システム「GEOジ オ

(Group ERP for One Company)」の構築が

スタートした。同時に、グループ各社のビジネスルールの統一も進められた。2007年 11月

の時点で国内 1社、海外 4社に導入済みで、このあと、2008年 1月に堀場製作所本社への

導入を皮切りに順次、連結子会社に導入していく予定である。それに備えて、すでに 2006

年 12月にグループ各社一斉に決算期を 12月に揃えている。なお、インハウスでは開発か

ら本番投入までのプロセスを組織として管理する仕組みをもたないので、内部統制には対

応できない。そこで、開発・テスト・本番の 3層構造を持ち、本番サーバへの追加・変更

は開発者ができない運用を実現できるERPパッケージ(SAP社製)を採用している。

堀場製作所の情報システムは、長いスパンで振り返ると、ステップアップするごとにユ

ーザの幅を広げてきたとも言える。e-ビジネスや CRMの仕組みでお客様や販社を巻き込み、

インターネット調達で取引先を巻き込み、現在、GEOによってグループ全社を巻き込んで

いる最中である。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

出典:株式会社堀場製作所様よりご提供資料

(3)生産現場主導で開発が進められる MES(生産実行系システム)

CADは全社統合サーバ・ネットワーク上で動いてはいるが、運営は製品化設計センター

内の CADチームに任されている。堀場製作所は 70%が受注製品なので設計図面は 総数

70万枚、年間 16万枚の更新にも及ぶが、手書きの頃の図面はすべて PDF化しており、現

在はすべて CADを使っているので、100%電子化できている。お客様から提供される専用

データは変換して使っているが、比較的 AutoCADがよく使われているので、グループ内も

二次元 CADについては AutoCADに統一した。三次元については Pro/ENGINEERに統一し

ている。

MES(Manufacturing Execution System=生産実行系システム)領域についても、インフラ

だけは業務改革推進センターで管轄しているが、システム自体は現場で開発している。い

わば、ライン全体や工場全体を情報設計する業務なので、生産技術や品質管理、工場内物

流などの現場に精通していることが必要で、情報システム部門だけでは扱えない領域であ

る。また、CADや ERPとも連動する総合的なシステムである上に、現在、グループ全体の

MES統合を進めている段階にあるため、人員を増やし取り組みを強化している。たとえば、

1品からの受注生産を行うための組立、調整、検査などの作業手順はすべてデータが画面表

示され、それに基づき作業している。また、その画面の切り替えのタイミングを分析して

工数管理などをしている。

現場への精通が必要であるという意味では、現在進めているグループ全体の ERP導入も

同様である。新基幹システム推進室が中心になってはいるが、現場に応じたシステムにす

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

るために、各部署から現場に携わるメンバー約 30名を集めたプロジェクトで開発・導入を

進めている。

ソフトウェアのうち、製品開発用のものだけは一元化していない。製品開発の業務では、

アプリケーションを制限できないからである。製品開発の部署も当然、共通のネットワー

ク環境にはあるが、開発用ソフトウェアだけは開発部署が独自に運営している。

(4)ITは経営そのもの。継続することで意義を持つ IT投資

堀場製作所では昔から、ITは経営そのものと位置付けてきた。そのため、IT投資は常に

一定規模を維持しながら積極的に行っている。業務改革推進センターと新基幹システム推

進室で管轄するものだけでも、直近の 10年間、ランニングコストで毎年約 5億円をコンス

タントに投資してきている。売上高比率にして、おおむね 1%強~2%を確保している。メ

ーカが設備投資を続けなければならないのと同様に、ITも常に新しい技術を取り込み続け

ないとすぐに陳腐化する。そのかわり、投資を継続して複数のシステムを幅広く運用する

ようになれば、毎年の投資規模が安定し、長期にわたり投資が計画的にできるという規模

のメリットが生じる。

投資効果の判断は、主にお客様への納期短縮とホワイトカラーの生産性向上に置いてい

る。単純に人員削減という尺度では判断していない。ただし、結果的には、会計や資材な

どは非常に少ない人員で運用されており、生産性は大きく向上した。反面、コンピュータ

化により業務プロセスがブラックボックス化したことで、システムを改修したり、新たに

開発したりするときに、業務プロセスに精通した人間が少なくなっているため、情報シス

テムをさらに推進していく際に、避けて通れない大きな課題だと痛感している。

ITは経営そのものだとの位置付けから、CIOの役割を果たしているのは社長である。す

べての投資案件を最終的に意思決定しているのは社長であり、また、グループ全社のシス

テム統合を円滑に推進するには、社長の強いリーダーシップとトップダウンしかあり得な

い。もちろん、具体的な投資計画の立案や予算管理、システムの企画などは、業務改革推

進センターが担っている。ただし、そもそも意思決定の権限と責任を有し、なおかつ、IT

技術にも長けた人間というのは普通には考えられないので、誰をもって CIOというのか、

その定義づけは難しい。

また、情報システム部門は、個別の IT技術に特化したスペシャリストの企画集団でなけ

ればならないとも考えている。それは、現場の責任者が集まってプロジェクト型で進める

ERPなどは別として、常に最先端の技術を踏まえて企画しなければ、全体最適な情報シス

テムは構築できないと考えるからである。もっとも、技術至上主義でもダメで、現場との

コミュニケーションを上手く取り、現場を知ることも重要である。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

(5)人事政策になくてはならない人事評価システム

人事政策における IT活用に、人事評価システムがある。堀場製作所本社に限っても 1200

名を超える従業員がいるので、今やシステムなしで適正な人事評価を行うことは考えられ

ない。2000年からは社員全員の個人目標と成果までを公開するとともに、個人の評価は部

門長により一次評価が行われ、次に部門を超えて 200名規模を対象とした二次評価が行わ

れる。例外的な評価対象者が見受けられた場合、さらに三次評価まで行われるが、スムー

ズシステムのおかげで非常にスムーズに実施できるようになった。また、人事評価は絶対

評価が原則ではあるが、相対評価の側面も抜きにはできないので、複数の人数で評価する

ことで納得度を高めることができている。データは個人を評価するだけにとどまらず、ど

のような人材や資格者がどのように配置されているかなど、全体の人材マッピングの把握

にも活用されている。これもシステムがないとできない機能である。組織の業績評価は、

部門長の目標達成度を組織の評価と位置付け、役員クラスで構成される人事会議で評価が

行われている。

この他、人材活性化の施策のひとつとして、社内ネット上での社内公募、海外研修生公

募などが活発になされている。海外研修生は毎年 10名程度を海外子会社に送り出しており、

社内公募は常時、多数の案件が挙げられている。それに伴う異動は、長期の人事計画とは

別に毎月の人事委員会で検討されているが、その際にも、個人の目標データや人材マッピ

ングなどが活用されている。

(6)一人 1台のパソコンですべての種類の情報を共有

堀場製作所では現在、OA系のアプリケーションから基幹システムまで、すべて共通のネ

ットワーク上で動いている。CADも従来はワークステーションで動いていたが、今は

Windows端末なので、ネットワークは共通である。システムによって、サーバはメインフレ

ームなのか、UNIXなのか、Windowsサーバなのかの違いはあるが、クライアントから見れ

ば、1台のパソコンですべて使える環境にある。使うアプリケーションによって、マシンの

スペックやディスプレイは多少異なるが、一人で 2台も 3台ものパソコンを使い分ける必

要はなくなった。これによるメリットは、ハードの購入コスト削減程度のレベルではない。

どこにいても必要な情報にアクセスして作業できるようになったことは、画期的な業務革

新である。たとえば、SEはお客様の現場でモバイルの CADで設計しながら、社内とメール

でやり取りしたり、基幹システムへアクセスしているが、これも持ち出すパソコンが 1台

で済むようになって実現できたことである。

また、トップをはじめ経営陣は国内・海外出張により会社に居ないケースが非常に多い

が、現場からの報告や稟議案件などを、モバイルを使いネットワークを介して把握してい

る。リアルタイムにあがる各部門の経営指標や業績も、いつでもどこにいても把握できる。

さらに、本社の社員約 1200名のうち、アシスタントを除く営業、マネージャー約 800名が

モバイルを活用している。中でもマネージャーは、現場の状況を常に把握しなければなら

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

ないので、システムを一番使っている層である。歩いて回って現場を知ることは重要だが、

四六時中張り付いているわけにはいかずマネジメントマネジメントするには、システムが

欠かせない。しかし、その割には時間外労働が減っていないので、まだまだ有効活用する

余地は残っていると考えている。いずれにせよ、高いレベルで実現している納期短縮や生

産性向上を維持し発展させるには、最早、すべてのシステムを統合したネットワークなし

には成り立たない。

以上のように、全社員、必要なデータにはいつでもアクセスできる環境にはあるが、ハ

ードウェアは外部のデータセンターに出しており、社員はどこにあるかは知らない。セキ

ュリティの面や BCP(事業継続計画)を考えた場合、コストはかかるがデータの外部化は

重要な施策である。地震対策や災害時の電源トラブルに備えて、バックアップセンターも

予定している。

(7)技術者が不足している関西の IT業界

関西の IT事情で問題なのは、情報システムの開発技術者が関西に少な過ぎることである。

人材が東京に偏り過ぎているので、関西で人を集めるのはたいへんで、やむを得ず東京の

技術者を高いコストをかけて集めているのが実情である。たとえば、ひとつのプロジェク

トにかかわる技術者のうち、関西の技術者は 1~2割程度しかいない。特に ERPの分野の技

術者不足、地盤沈下が激しい。

ただし、関西と首都圏の間の技術情報の格差はほとんど感じない。ひと昔前は、インタ

ーネットへの接続が京都では不利な時代もあったが、現在は全国どこでもインフラは整備

されているので、インターネットを通じて、あるいは、ITベンダーからの情報提供によっ

て、最新の情報収集は十分にできている。

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1.2 株式会社びわこ銀行

◆ 企業概要

所在地 滋賀県大津市中央四丁目 5番 12号

資本金 280億円 設立年 1942年 10月 2日

事業内容 総合金融業(銀行)

従業員数 874名

(1)情報資産の適切な管理のために開発と運用を明確に分離

びわこ銀行での IT計画立案のプロセスは、IT課題も含めた全社的な経営計画全般の策定

を企画部が行い、それを受けて企画部と相談しながら、実務レベルでの IT投資計画をシス

テム部が立案している。システム部は、さらに IT計画を実行するための実務作業も担って

おり、部の構成はシステム企画チームとシステム運用チームに分かれている。システム企

画チームは人員 10名で、システム計画、リスク管理、セキュリティ関連の業務や、開発業

務のアウトソーシングなどを担当。システム運用チームは人員 15名で、ホストコンピュー

タやオンラインの運用、ATMシステムの管理などを担当している。

システム開発業務は委託先のリモート開発室にアウトソーシングしている。リモート開

発室の人員は、金融業務を熟知しているびわこ銀行からの出向技術者を含めて、総勢 17名。

金融機関は一般企業以上に、顧客情報などの情報資産を慎重に管理しなければならないの

で、社内のシステム運用チームが行う運用業務と、リモート開発室にアウトソーシングし

ている開発業務は完全に切り離されている。たとえば、開発担当者は ATMに関わるプログ

ラムを組む際には、キャッシュカードに関する情報などには、一切近付けない体制で作業

が進められている。

(2)電子規程システムの導入などでペーパーレス化を推進

効果を上げている IT投資のひとつとして、社内 LANを使った情報の共有化がある。本部

の全部門と営業店の事務管理部門では一人 1台のパソコンが行き渡っているので、たとえ

ば、社内の通達事項や指示文書などはグループウェアで配信される。その際には、閲覧権

限を設けたり印刷の制限をかけたりすることで、情報管理を徹底している。また、全社的

に誰でもいつでも最新の規定を閲覧できるように、電子規定システムが導入されている。

部門ごとにも、従来、ペーパーベースで管理してきた情報のデータベース化を進めており、

最近増えているイメージ情報も OCRで読み込み電子化することで、情報の共有化や事務の

合理化に効果を上げている。この他、従業員の教育や活性化のための e-ラーニングシステ

ムがグループウェア上で運用されている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

(3)インターネットバンキングなど、営業面での IT活用

びわこ銀行では現在、経営資源を有効に活かすために専門店型営業を展開しており、業

務内容を法人取引、ローン取引、資産運用取引の 3つに分類し、県内の営業拠点はいずれ

かの専門分野を受け持つ体制に移行している。拠点数は法人営業本部が 15か所、ローンプ

ラザが 9か所、資産運用を担当する支店・出張所が 63ヵ所。経営資源の集中と選択を進め

るために、すべての業務を総花的に行う支店は原則として廃止した。それに伴い、それぞ

れの拠点で利益がどれくらい出ているかなどを個別に見るために、勘定系ホストとは別に

管理会計のシステムを構築。拠点ごとの個別の採算性を把握すると同時に、それを積上げ

ることで取引別の業績もすぐにわかるので、どの拠点にどのように資源を配分するかなど、

次の戦略立案に役立てられている。

営業面での IT活用としては、法人・個人ともに着実に加入者が増えているインターネッ

トバンキングや、顧客管理への IT活用があげられる。顧客管理についていえば、一人の顧

客に関する情報は、コールセンターで入力されたものも、支店の営業窓口での入力情報も、

すべて一元管理・共有されて CRM向上に役立てられている。組織が専門分野に分かれてい

るだけに、顧客情報の一元化は、部署を超えて共通顧客に適切に対応するために欠かせな

い仕組みである。

最近では、資産運用の業務が拡大しているので、顧客からの預かり資産の運用にも ITが

活用されるようになった。運用資産のすべての銘柄の時価などもシステムで管理できるよ

うになり、運用効果を上げている。住宅ローンについても一連の流れをデータベース化し、

トータルに判断して有利に働くよう管理されている。

(4)業務報告会の定期開催で PDCAのサイクルを確立

電子規程システムにしても、e-ラーニングシステム、顧客管理システム、資産運用システ

ムにしても、いずれも管轄する部門で起案され予算面から検討された上で、最終的に企画

部でトータルに計画・実行・管理される。IT関連に限らず、それぞれの案件を評価するた

めに、業務報告会などで PDCAが実践され、風土として定着していることが、びわこ銀行

の大きな特長である。

業務報告会とは、役員および各部門の責任者が出席する 30名規模の会議で、毎月 1回定

期的に開催され、部門ごとに取り組まれている案件が報告・検討されている。予算の進捗

状況を把握するための予算会議も毎月 1回開催されており、いずれも PDCAを実践すると

同時に、経営トップが案件の状況を把握する重要な場となっている。IT投資の評価方法と

しては、たとえば、業務拡大を新しいシステムで対応した結果、増員せずに済んだ場合な

どは、人件費という数値に換算して評価している。一方で、数値化できない投資案件につ

いても、当初の計画どおり進捗しているかどうか、期待した成果が上がっているかどうか

など PDCAを徹底することで評価が行われている。

業務報告会は月単位で開催されているが、おおもとにさかのぼれば、まず 2ヵ年の中期

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

経営計画があり、それが 4月から翌 3月の年度ごとの予算計画に落とされる。さらに、経

営環境は常に変化しているので、四半期ごとに施策検討会が開催され、月単位で業務報告

会と予算会議が行われている。現在の中期経営計画では、①営業力の強化、②内部管理の

高度化、③顧客保護の充実の 3本柱が基本方針である。このうちの②内部管理の高度化と

③顧客保護の充実は、①営業力の強化のための土台であり、すぐに収益に結び付くもので

はないが、今の金融機関にはこのような管理面の投資を優先することが求められている。

特に、生体認証システムの導入やセキュリティを高めるためのデータの暗号化など安全の

ための投資はコストのかかる投資ではあるが、長期的に顧客の信頼を得続けるためには避

けて通れない。

(5)部内でも社内でも円滑な CIOとのコミュニケーション

現在の CIOは、企画部とシステム部の担当役員が務めている。現場での支店長経験など

を経たのち、本部における企画部長、人材育成関係の部長を歴任して、今の役職に付いた。

情報システム系の現場の経験はないが、CIOの最も重要な能力は、銀行経営全般をかじ取

りする力と、同時に現場や本部を動かす実践力だと考えるので、その役割を十分に果たし

ている。

CIOとシステム部員との間で IT戦略などを共有するために、月単位でシステムリスクな

どをテーマにした会議が行われているが、それ以上に CIOは部員にとって非常に近い存在

であり、日常的にも活発に報告・連絡、ディスカッションが行われている。各部門とのコ

ミュニケーションも良好で、業務報告会の他、各部門を横断的に集めたシステム委員会が

定期的に開催され、各部門の部長や課長からの要望を収集している。

(6)内部統制と情報セキュリティの次の課題は BCP

金融機関は業種柄、これまでも内部統制は当然のこととして確立されている。そのため、

今、びわこ銀行で進めている内部統制に関する作業も、新しい規定に合わせて整合性を取

る作業が中心で、仕組みを一から組み立て直す必要はほとんどない。情報セキュリティ対

策についても、業種柄、一般企業に比べると高いレベルにある。入退室をひとつとっても

何重にも関所を設けて、非常に強固なセキュリティシステムを構築している。もうひとつ

例をあげると、パソコンデータの暗号化は全台に設定しており、さらにセンターの認証が

なければパソコンを使えない仕組みとなっていて、情報漏えいの防止には特に力を注いで

いる。万一、支店でパソコンが盗まれるようなことがあっても、暗号化と認証システムで

二重にセキュリティが働くようになっている。最近では、内部統制と情報セキュリティ対

策の次の課題として、BCP(事業継続計画)の取り組みが議論されている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

(7)外部セミナーや他行の事例見学などで IT教育を実施

システム部員の教育は、積極的に外部セミナーに参加させたり、業務に沿った新しいシ

ステムや他行の導入事例を見学に行かせたりしている。そして、そこで学んだことは必ず

レポートにして提出させ、部内で共有している。なお、セミナーなどは東京中心なので、

関西で開催される機会がもっと増えればいいと感じる。また、現場の実務を踏まえてシス

テム開発を進めなければならないので、部員の多くは、現場の経験者の中から IT業務に向

いた人材を探し、登用するようにしている。

IT関連の新しい情報については、金融業界では業界情報が入手しやく、ベンダーが新しい

情報を持ってきてくれたり、こちらからベンダーに問題提起するなど、常に情報収集に心

がけている。どこのベンダーも金融機関向けに専門チームを持ち、将来を見据えた先駆的

なシステムを、場合によっては提言しながら開発を進めるぐらいのスタンスで臨んでくれ

るので、そのような機会も積極的に情報収集の機会としてとらえている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

1.3 株式会社フェイス

◆ 企業概要

所在地 京都市中京区烏丸通御池下る虎屋町 566-1 井門明治安田生命ビル 4F

資本金 32億 1,800万円 設立年 1992年 10月 9日

事業内容 音楽配信技術のライセンス,ビジネスソリューションの提供・支援

従業員数 84名(連結 357名)

(1)事業拡大に伴い、情報システムグループを発足

株式会社フェイスは、携帯電話の着メロなどのコンテンツ配信サービスをコアにして急

成長してきた ITベンチャー企業である。そのため、創業社長を筆頭に社員の ITスキルが高

く、当初は通常業務を行う現場スタッフが、社内の情報系インフラの開発・運用まで行っ

ていた。しかし、業績が順調に伸び企業規模が拡大したために、ラインとは明確に切り離

して、社内の IT業務を担当する管理部門が必要となり、2007年 10月に総務部の下に情報

システムグループを発足させた。

情報システムグループの主な業務は、社内のグループウェアの整備や新たな基幹システ

ムの導入、サーバやネットワークの運営・管理などである。しかし、発足して間もないた

めに人員は 4名と少なく、実際には業務の大半を 100%子会社の株式会社フェイスビズにア

ウトソーシングしている。フェイスビズは、もともとはフェイスの一事業部として他社の

システム構築やサーバ管理の事業を担っていたが、その事業を拡大すべく、2007年 5月に

フェイスから独立した技術会社である。情報システムグループが、現在、取り組んでいる

大きな課題は、内部統制に対応する新しい基幹システムの導入である。さらに、いずれは

総務から離れて情報システム部として独立し、非連結を含めた 20数社のグループ全体のシ

ステムの最適化なども担当する部門として発展していくことが期待されている。

(2)テレビ会議やメールによる円滑なコミュニケーション

フェイスは、総務・経理などの管理部門を本社京都に集約させ、事業部隊の主力を大き

なマーケットである東京に置いている。また、中国や欧米に本社を置く海外子会社が現在 3

社ある。そのため、会議のほとんどをテレビ会議で行っている。以前は会議のたびに移動

が必要だったが、テレビ会議のおかげで時間や移動費用が大幅に削減できた。

テレビ会議以外でも、日常のコミュニケーションにメールを積極的に活用しているので、

最近では、管理部門が京都にあり、事業部隊が東京にあるという距離的ネックをほとんど

感じることはない。むしろ、機密性の求められる管理業務を本社に集約することで、情報

漏えいをリスクヘッジできたり、管理部門と事業部隊の馴れ合いを防げたりというメリッ

トの方が大きい。さらにいえば、離れているがゆえにコミュニケーション不足を補おうと

する努力が生まれるなど、京都・東京の距離が良い方向に働き始めている。メールについ

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

ては、声が届く距離にいてもメールでやりとりするなど、以前は、対人関係が希薄になる

のではないかとの否定的な意見もあった。しかし、業務的にはコミュニケーションの記録

が残るというメリットもあり、今では、テレビ会議もメールもなくてはならないツールと

して、ごく自然に定着している。

(3)グループウェアを活用して、スピード経営を実現

ITベンチャー企業の特性として、スピード経営を求められるフェイスでは、トップが各

部門の抱える課題や事業部の業績を速やかに把握し、判断することが非常に重要である。

そのため、創業当時より、グループウェア上のさまざまなシステムを活用して、情報の共

有化を図ってきた。

そのひとつに、早くから導入している電子稟議システムがある。言うまでもなく、グル

ープウェア上で稟議書を申請・回覧・決済するシステムで、決済者が海外出張中であって

も、VPN(バーチャルプライベートネットワーク)でグループウェアに入り、決済がスピー

ディーにできる。それぞれのプロジェクトを管理する仕組みもグループウェア上で動いて

おり、予実や進捗状況が一目でわかる。また以前から、物品の購入申請もグループウェア

上で行っており、物品に付いているバーコードを読めば購入時期や購入担当者が瞬時にわ

かり、ソートをかけて履歴なども閲覧できるので、煩雑になりがちな購入物品の管理を効

率よく行っている。社員の出退勤管理もグループウェア上で行い、データを吸い上げて給

与計算を行っている。

2006年 4月には人材評価システムを導入した。事業部ごとにヒアリングシートを配信し、

そこに数値などを入力すると、評価結果が出る仕組みである。それまでは、経営陣の個々

の判断に頼っていたものを、これによってシステム的に行えるようになった。しかし、こ

のシステムで 2回の評価を行ってきたが、まだ十分に浸透していないというのが実感であ

る。さらに現在、評価制度を抜本的に見直している最中で、2008年 4月には新たな人事評

価システムに入れ替える予定である。見直しのポイントはシステム上の問題ではなく、一

般社員の評価を各事業部の部長にまで降ろし、その部長たちを、つまりその事業部を経営

陣が評価するという制度に変えるところにある。また、現場に浸透させるにはどのような

評価方法が望ましいのか、制度の前提となる方法論についても議論している。

(4)内部統制に向けて新しい基幹システムを導入予定

前述したグループウェアは、創業 4~5年頃の 1990年代後半からオリジナルで開発を始

め、メンテナンスを重ねながら現在まで使用しているものである。グループウェア上をい

くつものシステムが動いているが、企業規模の拡大に伴い、システムが飽和状態となって

きた。また、オリジナルで順次、開発してきたため、引き続き運用するのは、情報システ

ムグループの担当技術者個人に依存しすぎるという問題もある。内部統制に基づく稟議規

定の見直しに対しても、今の電子稟議システムでは十分に対応し切れない。そこで、内部

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

統制の作業と並行して、今のグループウェアに代わり、新しい基幹システムの導入を進め

ているところである。

創業からの歴史が浅く、急成長している ITベンチャー企業にとって、企業規模を拡大し

ながら内部統制を進めるのは非常に負担が大きい。しかし、企業不祥事が問題となってい

る昨今、会社全体の課題をリアルタイムで把握し、リスクを顕在化していくためには、避

けて通れない重要なテーマである。

内部統制の IT戦略に関する責任者は、フェイスビズの社長を兼任しているフェイスの取

締役であるが、その者は同時に CIOに相当する役割も担っている。一般企業においては、

CIOの能力は戦略的な判断など経営能力が重視され、プログラム能力などの実務的な技術

まで求められることは少ないが、フェイスの CIOは業種柄、個別のプロジェクトリーダー

を務めるなど、経営能力と IT技術の両方に強みがあるのが特長である。組織形態は、CIO

が権限を持ち、ほとんど独力で業務を指示するトップダウン型である。ただし、CIO個人

の権限というより、社長を中心とした取締役会が組織上の強い権限を持っている。

(5)技術教育よりも重要な企業人としての教育

企業が急成長してきた事情から、これまでの採用はすべて、必要なスキルを有する IT技

術者の中途採用であった。そのため、入社後、制度としては特に技術的な教育は行ってい

ない。また、日々の作業の手順などについては、グループウェア上に作業フローの画面を

設けるなどして、いちいち質問せずに済むような仕組みを作っている。

その一方で、さまざまな経歴の人が集まってきているので、社会におけるフェイスの位

置づけやフェイスの経営状況などを認識してもらうために、グループウェアのニュースペ

ーパー機能などを活用し、決算情報や会社のさまざまなルールなどを管理部門から発信す

るようにしている。会社の全体像を理解して、同じ船に乗っているとの帰属意識を持って、

日々の業務に取り組んでもらうためである。ただし、昨年から新卒採用を始めたので、今

後は技術系の部署に配属する新卒者に向けて、なんらかの研修制度を用意していかなけれ

ばならいと考えている。

(6)クリエイティビティを損なわず、いかに管理するか。

個人情報の漏えいなどを起こすと、一気に社会的信用を落とすだけに、情報セキュリテ

ィ対策は経営層が今、非常に重視している事案である。もっとも、他社のサーバの保守管

理までを手掛けている IT企業として、必要な対策は講じられている。たとえば、入退室の

管理には指紋認証システムを導入。特に重要なエリア(サーバルームなど)への入室は、

認証のレベルを高め、カメラで監視も行っている。さらに社員に対しては、たとえば、離

席時にはパスワードの設定されたスクリーンセーバーをかけるだとか、パソコンにロック

をかけるだとかの注意喚起を行っている。ただし、システム的にセキュリティ対策をいく

ら強化しても、人間が扱うものである以上、最終的には個人の倫理観に委ねられる部分が

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

大きい。それだけに、今後はセキュリティの意識を高めるための教育を強化する予定であ

る。

しかし、中途採用でさまざまな会社から技術者が集まっている会社なので、共通ルール

のもとに意識の統一化を図るのは難しい側面がある。また、特殊なマシンや環境下でプロ

グラミングやクリエイティブワークを行っているため、管理部門があまり窮屈な決めごと

で足かせをしすぎると、クリエイティビティを損なう恐れがある。このような状況下で、

社員の意識を同じベクトルに向けることが、管理部門の大きな責務である。現在、最低限

の標準化を図りながら、作業者に最大限の自由を提供できるような体制を模索している。

それが実現できれば、他社をコンサルティングできる程のノウハウになると考えている。

そのためには、技術のこともわかり、総務的なこともわかり、全体を見渡した上で、人材

配置を含めた社内最適を考えられるゼネラリストを見つけ、育てることも大きな課題であ

る。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

1.4 株式会社 MonotaRO

◆ 企業概要

所在地 兵庫県尼崎市西向島町 231-2 プロロジスパーク尼崎 3F

資本金 16億 7,532万円 設立年 2000年 10月

事業内容 事業者向け工場用間接資材の販売

従業員数 60名

(1)IT業務を担当する ITサービス部について

株式会社 MonotaROは、米グレンジャー社と住友商事の合弁で設立された工具のカタロ

グ・ネット通販を行うベンチャー企業である。会社設立は 2000年 10月で、1年後にパイロ

ットプランが出来上がり事業をスタートさせた。2005年 12月期には当初の計画通り黒字に

転換し、翌 2006年 12月には東証マザーズに上場している。正社員数は 70名弱(他、派遣

社員とアルバイトが約 200名)で、業種柄、社員の ITスキルは全体に高い。2008年には初

めて新卒を採用するが、これまでの採用が中途採用だったので、社員の平均年齢は 37~38

歳と高めである。

システムを開発している ITサービス部の人員は 15名で、内訳は運用・開発が 12名、イ

ンフラ担当が 3名。システム開発は、コーディングの一部のみ中国の大連で行っているが、

基本的にほとんどすべてを社内で開発している。ただし、新しい物流システムなどの大規

模開発や繁忙時には、ITベンダーから請負社員に来てもらったり、派遣社員を雇ったりし

て対応している。

(2)商品の欠品防止や不良債権の防止に ITを活用

MonotaROでは、出荷ベースの売上高と粗利などをリアルタイムで確認できるシステムが

動いており、階層によって閲覧できる範囲にアクセス制限を設けてはいるが、日々の実績

がどのような状況にあるかを全社員で共有している。また、ネット通販の場合、業績に一

番悪影響を与えるのは、過剰在庫よりも欠品である。欠品はチャンスロスで売上げに響く

だけでなく、顧客の信頼を失う。取扱商品が 80万アイテムもあり、そのうち翌日配達を約

束している商品が 6万 5千アイテム。常に在庫状況を確認できることは当然のこと、売上

想定と過去の経験から安全在庫数をあらかじめ設定し、設定値を割り込むと自動発注がか

かる仕組みを作っている。売上げの約 4分の 1を占める海外輸入品は入荷に時間がかかる

ため、それが売れ筋商品の場合は、在庫の割り込みをすばやく把握して国内で代替品を調

達している。商品の発注はサプライヤーの事情もあって、今のところは電子取引(EDI)で

はなく、オート FAXを利用している。顔の見えないネット通販であるからこそ、サプライ

ヤーとのやり取りには、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションも大切にしてい

る。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

また、売掛管理や回収率の向上にも ITが有効に活用されている。たとえば、代金未回収

のお客様からの注文や与信限度枠を超えた注文が入った場合、注文された段階で警告表示

が債権管理担当に上がり、回収を促進する電話をかけたり、与信限度枠を上げられるかど

うかの審査が行われたりしている。一定期間、代金が回収されない場合は、自動で督促状

を発送して、債権の不良化を未然に防いでいる。さらに、取り込み詐欺はよく似た社名や

住所を使って繰り返される傾向があるので、過去のデータとのダブリをチェックし、80%

以上合致する場合は、警告表示が出るような仕組みを作っている。その結果、顧客の顔が

見えないネット通販事業にしては、不良債権が非常に少ないのが特長である。

新規登録客の 8割~9割は、登録と同時に商品を注文され、翌日配達されるものだと思っ

ているため、与信審査はそのタイミングですぐに行わなければならない。したがって、で

きるだけ個人の判断を入れずに審査ができる与信審査マニュアルを作成。即時即決できる

ワークフローを構築して、受注担当者全員に周知徹底している。通販事業会社としては当

然のことであるが、顧客データベースを構築し、顧客情報や購買履歴などを管理。購買傾

向に基づき FAXチラシやメールで販売促進を行っている。新規開拓のプロモーションも同

様に FAXチラシやメールで行っている。

(3)各種システムはフリーの OSやソフトで自社開発

システム開発については、創業当初は ASPのアプリケーションを利用していたが、すぐ

にオリジナルのシステムを自社開発し、現在の受発注システムや在庫管理、売掛管理のシ

ステムへと発展させてきた。自社開発の理由は、社内で独自のものを作ろうというベンチ

ャー企業特有の社風に加えて、日常の業務を理解している者が開発した方が、業務に即し

たシステムを短時間で開発・改修することができるためである。開発にあたっては、コス

トを下げるためにフリーソフトを採用。社内で使う PCも ITサービス部でパーツから組立

ているため、ハイスペックのマシンが低価格で導入できている。ただし、自社開発の場合

はアウトソーシングした場合と違い、投資コストが見えにくいので、工数から換算してお

およそのコストを算定するようにしている。

物流システムの仕組みそのものは、外部のコンサルタントからのアドバイスや、ネット

通販で先行しているアマゾンやアスクルなどのビジネスモデルを参考にしている。

(4)お客様の要望やクレームをシステム改善に活用

お客様からの要望やクレームを受けて、迅速にシステム改善ができることが自社開発の

有利な点である。お客様からの問合せや要望は、コールセンターに 1日 2,000件近く入り、

そのうち約 1割がクレームである。コールセンターでは電話対応しながら、問合せ内容を

入力し、すべて文章としてデータ化している。データ化された内容は社内のシステムに蓄

積されるため、誰でも問い合せやクレーム内容を見ることができる。また、コールセンタ

ーで処理しきれない問い合せについては、担当者にメールが入る仕組みができている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

クレームにはシステム改善のヒントが隠されていることが多い。そこで「お客さまの声

委員会」では、問合せやクレームを定期的にチェック。システムに関わる意見があった場

合は、委員会から ITサービス部に改善要望が出され、アップデートに活かされる。また、

特に重要な意見は幹部会にも報告があがる。

システムの開発・改修を社内の技術者が手がけると、迅速に対応ができる反面、ともす

れば個人の能力に依存しがちになる。そのリスクを回避するため、システム開発・改修は

一人で完結させず、複数人数であたるように指導している。また、開発仕様などのドキュ

メントを残すことも、これからの内部統制上で必要である。ベンチャーの IT活用は営業主

体になりがちだが、今後は管理面にも ITを活用し、できるだけ管理部門の人数を増やさな

い方向で内部統制にも対応していく予定だ。

MonotaRO の CIOは ITサービス部長が担っている。CIOが必要だということで、大手 IT

ベンダーから中途採用した。しかし、創業社長のリーダーシップが強く、実質的には社長

も CIO的立場を務めている。強力なリーダーシップは、強みにもなる反面、リスクにもな

り得る。したがって、今後の組織の理想としては、CIOに限らず個人の独走に陥らない、

世間のスタンダードに近い形の組織にしていきたい。

(5)ITとアナログ対応が良い意味で共存

売上げや受注件数などリアルタイムで状況が確認できるおかげで、従業員のモチベーシ

ョンは高い。たとえば、月曜日は大抵注文が多く、翌日出荷に間に合わせるための要員が

足りなくなる場合がある。そういう場合でも、事前に状況を把握できるので、事務所の社

員が倉庫に出向いて商品のピッキングや梱包を手伝う体制にある。

また、注文のうち 30%強は FAXで入り、中国の大連に転送して入力されているが、その

うち 30%は単価が違ったり欠品していたりして、エラーとして日本に返ってくる。返って

きたエラーについては、代行注文の部署でお客様に電話をかけて、単価が変更になってい

ることや、欠品中であることなどをお知らせして対応している。前述した出荷作業と同様

に、注文が増えれば比例してエラーも増えるので、通常の人数ではさばけない数になる。

そのときも事務所の人間が電話対応や入力の応援に入っている。

このように、常に売上げや受注件数を見ながら、「今日は注文が多いから入力を手伝おう」、

「倉庫を手伝おう」という意識を社員全員が持っている。

(6)情報セキュリティ対策と危機管理について

顧客データベースなど情報資産は商売の生命線なので、情報管理やセキュリティ対策は

最も重視している。特に内部からの情報流出は、企業の信頼を失うため、アクセス制限や

PCの持ち出し禁止(持ち出す場合は申請が必要)、データのメール添付の禁止、CDや USB

メモリなどへデータを書き込めない仕組みを取り入れ、物理的に社外にデータを持ち出せ

ないように、何重にも対策を立てている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

情報漏えいやデータの改ざん防止と並んで重要なのが、システムダウンやサーバトラブ

ルへの対策である。トラブルイコール業務停止状態となるのを避けるため、システム・情

報をすべて二重化し、リアルタイムでバックアップを取っている。また、サーバの物理的

な置き場所も変えて、どちらかにトラブルがあってもすぐに対応できるようにしている。

(7)関西の問題点は技術者の東京流出

関西が抱える大きな問題は、何と言っても技術者の東京流出だろう。日本の技術者の絶

対数が少ないため、首都圏でも苦労をしているのかもしれないが、関西では採用をかけて

もなかなか人材が集まらない。MonotaROは独自のシステムを構築しているので、さらに集

まりにくい。逆に関西のメリットは、人材派遣などの単価が若干安いこと。技術情報につ

いては、さまざまな媒体やインターネットを介して、日々、敏感にアンテナを張っている

つもりなので、首都圏と差はないと考えている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

1.5 株式会社ロイヤルホテル

◆ 企業概要

所在地 大阪市北区中之島 5丁目 3番 68号

資本金 181億 212万 5,750円 設立年 1932年 3月

事業内容 リーガロイヤルホテルグループの経営

従業員数 1,808名

(1)IT部門の概要と位置付け

株式会社ロイヤルホテルの情報システム部は、経理や売上げを集計する財務部計算セン

ターから出発し、その後、社長室、総合企画部など企画立案に関わる本社機能の下におか

れ、4年前、IT業務の重要性が高まったことから部として独立した。現在、20名のスタッ

フで運営し、同社の IT関連業務全般を担っている。構成はシステム開発課・Web課・情報

システム部付の 3部署。システム開発課では、10名のスタッフが全社のコンピュータシス

テムの維持・運営・管理を行っており、現場の要望をまとめながら、開発業務をアウトソ

ーシングしている。Web課では、ホームページのコンテンツ制作・更新やインターネット

予約システムの運営・管理などを担当。情報システム部付で IT関連全体の企画立案・調査

を行っている。

(2)グループホテルのシステム統合により全体最適化を実現

現在稼働している基幹システムは、2005年 4月の大阪のコンピュータの切り替えのタイ

ミングで、経営トップがグループ全ホテルのシステム統合を決断し、開発されたものであ

る。それまでは、海外を含めた 12軒のホテルで独自のシステムがバラバラに動いていたが、

これを機に本社にサーバを設置し、グループホテル間をネットワークで結んで、情報を一

元管理することとした。2007年 11月現在で、ほぼすべてのホテルのシステム統合が達成で

きている(一部、統合に向けて作業中)。

システム統合の大きな成果のひとつは、管理部門を本社へ集中したことによる事務コス

トの削減である。それまで各地のホテルごとに行っていた売上の集計、売掛の請求、決算

処理、購買発注などを本社に一括集中し、それぞれのホテルでの業務を日常の出納や納品

時の検品などに絞ることで、重複していた事務作業をなくし、グループ全体の事務にかか

わる人件費を大幅に削減した。また、統合に向けて業務の標準化を推し進めた結果、それ

によるコスト削減効果も上がっている。たとえば、ホテルごとに印刷していた専用の連続

帳票を廃止し、全ホテル共通の帳票にして、印刷コストを削減したのがその一例である。

集中購買によるコスト削減も進められている。NECのWEB購買 ASPサービス IPORTER

を利用し、各地のホテルがWeb画面で発注をかけたものをいったん本社で受け、本社が業

者を選別して集中発注することで食材などの仕入原価を大幅に削減した。現在も仕入先と

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

単価交渉を続け、適用する仕入先も広げて、さらなるコスト削減に取り組んでいる。

また同時期に、社員の身分証明書に IDカードを導入し、カードの読み取りで出退勤を管

理、そのデータをもとに給与計算も本社で一括して行うようにした。これにより、各地の

ホテルでタイムカードを入力・集計していた作業が一掃でき、ここでも人員を削減できた。

以上の業務の集中化・標準化や集中購買に伴うコストおよび人員の削減効果は数値で把握

され、経営会議で評価されている。なお、削減した人員は、派遣社員などで補っていた営

業活動の強化に向けられている。

(3)導入に際しては事務集中部を立ち上げ、説明・指導を徹底

システム統合は、従来の大阪のシステムをベースに進められた。本社が大阪にあること

と、大阪のコンピュータの切り替えに合わせたからである。しかし、勘定科目一つとって

も長年独自のやり方で運営してきたその他のホテルにとって、大阪のやり方への一元化は

押しけられたとの感覚のあったことは否めない。そこで、業務の標準化の周知徹底に向け

て、主要部署の横断的なメンバーを集めて事務集中部を発足。システム統合を進めるのに

並行して、3ヶ月に1度、各地のホテルを回り、説明・指導を行った。現在も、発足当初の

メンバーに代わり、事務畑の人員で役割を引き継いでいる(2008年 3月には解散予定)。

標準化による成果はコストの削減だけでなく、大阪の経理担当者が広島に転勤した場合

にもすぐに対応できるなど、人員の交流が容易になったことにもあらわれている。これに

より、人材育成費も小規模で済み、人員計画も立てやすくなった。

人事面についていえば、基幹システムの統合が一段落した本年度 2007年 4月から、イン

トラネット上に人事考課システムを導入し、運用を開始した。これは評価対象となる社員

の人事考課表をイントラに掲載し、社員本人がパソコンでアクセスして自己評価を書き込

んだあと、上司である課長、部長が権限の範囲で閲覧してコメントを追記できるシステム

である。最終的には人事に集約され、5段階評価されて、昇給・賞与を判断する資料として

活用される。導入 1年目で管理職のみを対象に実施し始めたばかりだが、今後順次、一般

社員に広げていく予定である。

(4)トップの迅速な業績把握や顧客満足度の向上にも効果を発揮

システム統合の結果、経営トップが迅速に業績を把握できるようになったことも大きな

成果である。以前は、各地のホテルの数値は FAXで本社に送られ、その都度、本社で再入

力してひとつの表にまとめられていたが、現在はホテルごとにサーバにアクセスして直接

入力された数値が、さまざまな指標として自動集計されている。トップはパソコンを開い

てサーバにアクセスするだけで、前日までの売上げや客室稼働率、グループ各社横並びの

GOP(ホテルの運営利益)などが簡単に確認できるようになり、経営状況の把握と判断が

迅速に行えるようになった。宿泊、宴会、レストランなど事業ごとにも状況を把握できる

ので、組織の業績評価にも役立っている。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

さらに、顧客情報も本社で一元管理できるようになり、顧客一人ひとりに対するサービ

スの質が向上している。たとえば、京都で宿泊した顧客が加湿器を利用された、あるいは、

塩分を抜いた食事を希望された、などの顧客情報はサーバに入力・共有され、東京でもア

クセス権を持つ宿泊・宴会係がいつでも閲覧できる。このように、同じ顧客が他のホテル

を利用する際には顧客情報が引き継がれ、より細やかな対応がとれるようになった。また、

顧客からのお褒めの言葉やお叱りは、アンケートやメールを通じてお客様サービス推進室

に届き、定期的に社内配信して、サービス改善に役立てている。今後は、ホームページの

内容やインターネット予約を充実させることでさらに顧客に対する利便性を高め、売上増

加に結び付けていきたい考えだ。

(5)IT部門の提案に対し、戦略的視点で判断を下す CIO

CIOは専務取締役(総合企画部・財務部・営業企画部・情報システム部を管轄する戦略

企画総本部の担当役員)が務めている。銀行出身で本社の総務・企画部門を経て、2007年

の株主総会で専務取締役に就任。戦略的な視点から、ITと企画、財務部門をまとめている。

銀行出身の CIOのため、セキュリティに対する意識が高く、サーバダウンやシステム障害

に備えてサーバや回線の二重化、コンピュータルームの上階層への移設など、次の課題と

して BCP(事業継続計画)の取り組みを指摘している。

IT投資案件の計画立案と決済は、まず、CIOから情報システム部に問題提起され、それ

を情報システム部で具体的な施策と予算に落とし込んだ上で、再度 CIOに戻され、経営会

議にかけるという手順が踏まれている。専門チームである情報システム部が CIOの考える

戦略をサポートするという体制である。

(6)個人情報保護やコンプライアンス意識向上の教育を強化

社長の考え方や経営状況などは、3か月に一度開催される「グループホテル経営情報打合

せ会」で発表される。そこで報告を受けた管理職は、職場に持ち帰って課員に伝えると同

時に、同じ内容がイントラネットに掲載され、社員全員に伝達される。それ以外でも必要

に応じて情報が掲載され、メールで配信される。

現在、注力している教育は、個人情報保護に関するものである。これまでに、セキュリ

ティポリシーを策定し、パソコンとデータの社外持ち出し禁止、退出時に鍵のかかるロッ

カーへ保管、USBロックの使用など各種の規約を作成してきたが、今後は、それを徹底す

るために意識向上に向けた教育を強化する考えだ。すでに、顧客情報等のデータやパソコ

ンの取扱いについて、コンプライアンス委員会を設け、教育を始めている。コンプライア

ンス委員会は、2007年の 4月に設置された内部統制委員会に統合され、引き続き社内業務

の見直しなどが行われている。内部統制に関しても、社内の意識を高めることが今後の課

題である。

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資料編1.上場企業ヒアリング事例

(7)メーカ報が東京に集中、関西ベンダーやメーカの SEの活躍を期待する

本来は地域性がないはずの ITだが、優秀な SEが東京に一極集中していることの弊害が

少なからずある。たとえば、企画提案のできる SEが関西には少なく、IT投資などの情報も

東京発信が中心で、常にこちらからアンテナを張り続けないと情報入手も遅れがちとなる。

あるいは、導入している給与計算ソフトの研修が東京でしか行われないために、参加する

には時間とコストがかかる。コンピュータシステムだけでなく、客室のビデオンデマンド

システムについても、メンテナンスは東京対応だ。リモートメンテナンスがある程度可能

とはいえ、ハード面でのトラブルが起きたとき、大阪と東京間の距離の隔たりは大きい。

東京に比較して関西は需要の絶対数が少ないという側面はあるが、関西ベンダーや SEの活

躍に期待をしたい。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

22..中中小小企企業業

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

ヒヒアアリリンンググ実実施施企企業業

No. 企業名 業種 IT 活用事例

1. 淀川変圧器株式会社 在庫管理システムでレンタル業務を効率化

2. 東海バネ工業株式会社 マーケットイン体制の構築と多品微量生産を支える生産システムへの変革

3. 株式会社共伸技研 Web サイト「ブラシビレッジ」によるオーダーメイドを1個から

4. 山岡金属工業株式会社 携帯電話と QR コードを利用した生産管理システム

5. 株式会社日本電機研究所 ERP(企業経営資源計画)によるスピ-ド経営の推進

6. 株式会社中田製作所 資料検索システムによる生産効率のアップと HP による新規顧客の獲得

7. 昭和電機株式会社 顧客データベースの管理・運用と営業部門の相談窓口「is 工房」

8. 株式会社シガウッド 顧客の住宅仕様ニーズに合わせた生産管理システムの構築

9. 八州電工株式会社 FAX 注文書を効率よく処理する受注システム「FAX お助け名人」

10. ホリアキ株式会社 得意先・仕入先情報の一元化による業務効率の向上

11. 理化工業株式会社 加工条件等のデータ管理のシステムの導入による生産効率の向上

12. 太洋工業株式会社 統合システムで受発注から社内業務まで効率化

13. 湖北工業株式会社 海外工場とのネットワークにより設備や部品等の組織管理の強化

14. 株式会社マザーズ WEB による個人顧客ニーズに対応した立体駐車場の製造・販売

15. 株式会社オーミヤ

製造業

産学連携によりロー付け作業をデータ化し、生産性の向上を図る

16. 株式会社栗原 顧客ニーズに基づく帽子デザインデザイン企画から生産までの一貫したシステムを構築

17. アンドール株式会社 デザイナーの職人技のデータベース化

18. 株式会社サカエヤ 安全情報の発信から地域活性化を目指す

19. 株式会社三晃

製造・

卸売業

ウィークリーマネジメントの導入による「惣菜キッド」事業の展開

20. オンテックス株式会社 グループウェアの導入でペーパーレスを実現

21. マデイラジャパン株式会社 煩雑な輸出入業務の効率化

22. 関西商業流通株式会社 顧客ニーズに合わせた業務再編と IT 化

23. 株式会社 RPS センター

サービス業

顧客へのスピーディーな大容量の製版データの納品・見積作成

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.1 淀川変圧器株式会社

所在地 〒664-0854

兵庫県伊丹市南町 2-7-4

代表者名 伊勢木 浩二 資本金 1億円 設立年 1936年 業務内容 受変電設備機器、各種変圧器、特高圧・高圧受電設備、キュービクル、

配電盤・制御盤等の製造、販売、レンタル 従業員数 60人

(1)事業の概要

創業は 1936年 7月で、大阪市福島区に太陽製作所を設立した。1965年に現在の淀川変圧

器株式会社へと社名を改称し、1970年 12月に兵庫県伊丹市に本社工場を移転した。

淀川変圧器㈱の主な事業は、受変電設備の製造・販売・レンタルであり、同設備の在庫数

では日本一の規模を誇る。個客のニーズに対応したオーダーメイド製品で豊富な実績を有

し、詳細な仕様の検討から提案・設計・製作・評価測定まで一貫したサポートを提供して

いる。

主にビル建設、ダム建設、トンネル建設といった工事期間が決まっているプロジェクト

にレンタルしている。この他、神戸ルミナリエにも「YODOGAWA」ブランドの受変電設備

を提供している。販売・営業拠点を東京、大阪、九州の三か所に設け、日本全国へ事業展

開している。

図 レンタル業務の流れ

(出典:)淀川変圧器㈱ホームページ

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①IT化推進のための三本柱

IT化を進めるためには、「人への教育」「コンプライアンス」「ハードへの投資」が重要で

あると考えている。従業員に対しても、データは知的財産であるという意識を徹底してい

る。その上で、現在では 1人 1台のパソコンを支給している。情報化に取り組みだした当

初は、50歳を超える営業スタッフが多かった。しかし、現在はパソコンスキルを持った若

い人材の採用もできている。従業員に対する特別な IT教育は行っていない。しかし、コン

ピュータの技術係にはセミナーを受講させ、全従業員にシステムの使い方のレクチャーを

行っている。

②レンタル事業は在庫が命

レンタル事業は在庫が命であるので、過去には、少なくとも 1~2ヶ月に 1回の棚卸しが

不可欠であった。在庫管理の情報化に取り組みだした当初は、紙の方が見やすいという意

見が社内でもあった。しかし、実際には製品がレンタル先から戻ってきているのに、紙ベ

ースで見るとその製品は社内に無いことになっているということもあった。受変電設備は

物が大きいので、戻ってきたらとりあえず倉庫に入れてしまい、在庫の把握状況が混乱す

ることもあった。また、請求書は 1ヶ月に 1,000枚以上にも及び、管理が大変であるので、

情報化が求められていた。

③ヒューマンエラーを回避

レンタルでは、製品を貸し出してから返却されるまでの製品の動きを把握する必要があ

るが、情報化によって「出荷した」「入荷した」日時を正確に発生単位で管理することがで

きる。物と連動して在庫管理をすることで、ヒューマンエラーを回避できる。また、人が

絡むことによる業務のスピードダウンを避けることが可能となる。

④製品の原価・稼働率を正確に知りたい

情報化を進める目的の一つとし、原価の算出がある。レンタルは仕入れて、貸して、戻

ってきて、また貸すというプロセスを経るので、原価をいくらにするのかの判断が難しい。

従来は、製品の稼働率やコスト回収率を感覚的に把握していたに過ぎなかった。

⑤社内の活性化を期待

新システムの導入当初は、従来のやり方が慣れていてやりやすいという従業員が少なか

らずいた。全社が一致して「良かった」ということはない。しかし全社を挙げて情報化を

進めることで、社内の活性化に繋がることを期待している。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①エクセルを使って情報化スタート

過去においては、紙で在庫確認を行ってきたが、在庫管理でも情報化を進めている。導

入初期(15年ほど前)は、エクセルに入力した表を印刷してまとめていた。現在は 3代目の在

庫検索ソフトを用いている。これまでは請求書を打ち出すといった程度しかできなかった

が、過去の履歴を確認できるようになり、より細かい作業が可能になった。設計部門は CAD

の使用、営業部門は在庫チェック、資材部門は部品等の受発注でコンピュータを使用して

データ入力を行っている。どこの部署でも在庫情報をタイムリーに確認できることが一番

のメリットである。仕組みは、仕入れた部品が入荷されるときにバーコードを貼り、リア

ルタイムに在庫を把握するものである。仕入れ状況(客先請求書)のデータも月次で確認

できるようになり、以前は納品書を 1枚 1枚チェックしていたので省労力化に貢献してい

る。

入力された電子データはエクセルに簡単に落とすことができる。また、グループウェア

を制作し、データベースを構築したことで、部署を超えてデータの共有ができるようにな

った。

②いつでも伝票等を確認

システムの導入以前は、部署毎の業務のタテ割り意識が残っており、紙の伝票は経理し

か見ていない状況であった。導入後は、他の部署が現在、どれくらい仕入れているかを見

ることができる。また、売上予測も随時確認できるといったメリットもあった。過去のデ

ータを最大限利用することで、営業の全国展開に活かしている。

③基幹ソフトである維新(ISIN)

基幹ソフトである「維新(ISIN)」は、ブラウザで見る形式である。VPN(Virtual Private

Network)を用いることで、社外からも閲覧できる環境にある。「維新」を利用して、販売管

理、請求管理、入金管理、売掛管理、原価管理、着荷検収を行っている。

製番原価管理では、製品をシリアルナンバーで管理している。シリアルナンバーを入力

するだけで、在庫場所、予約状況、稼働率、製品の詳細情報を閲覧できる。探している製

品が現在、レンタル中かどうかの確認に加え、「保有している全て」の製品といったカテゴ

リー別に在庫状況を把握できる。また、受注単価も確認できる。

④意思決定がスピードアップ

製番進捗一覧では、技術部品、製造部品、組立計画、手配決定(情報を確定)の 4つの

進捗状況一覧で閲覧できる。どの部品を追加し、取り外し、流用したかをその都度入力し

ていく。以前は前の図面と新しい図面を見比べて確認するといった、人手に頼った作業が

多かった。情報化によって、データ入力の手間はかかるが、不足部品の発注までの時間が

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

短くなり、意思決定は早くなった。

⑤正確な情報を把握

最初に製品在庫に関する膨大なデータを入力することには苦労したが、製品の出入りを

リアルタイムに把握できることは大きなメリットとなった。このシステムは、まだ半年ほ

どしか動いていないが、工場間の物品の移動も管理できるなど便利である。以前は人手で

管理していたので、実際には製品が別の工場に移っていることがあった。

導入したシステムでは、製品の稼働率も確認できる。ただし、稼働率のデータは、この

システムが稼働してからのものである。

技術情報管理として、部品のデータ(形式、仕様、発注先)を登録している。部品の保

有台数の管理もできる。

納品書や納品チケットにはバーコードがついている。このバーコードを読み込むと在庫

データが更新される仕組みとなっている。さらに、着荷実績、検収実績を検索できるので、

ここから相手の納品書とのすりあわせがすぐにできる。

棚卸については、エクセルデータをアップさせると、自動的に過去のデータと合算され、

理論在庫数を増減計算し実棚在庫数と合致する仕組みとなっている。

⑥原価計算

製造原価明細では、直接材料費、直接労務費を確認できるだけでなく、利益率も確認で

きる。「よく稼働する」「あまり稼働していない」という 2つのグループに分けて原価を計

算する。会計上の原価と経営(営業)上の原価は考え方と計算方法が異なるので、この 2

つの原価を把握することが重要である。

(4)IT投資とその効果

①金銭的には捉えられない

IT投資の効果を金銭的にはまだ捉えていない。システムを大幅に変えたので、社内はま

だ新システムを使い慣れていない。1~2期経てば見えてくると予想している。情報化を推

進することの効果は大きいと考え、損得関係なく投資をした。

②経営戦略にも活用

エクセルにデータを落とせる特徴から、データの管理が容易になった。こうしたデータ

を経営戦略に活かしている。

③自主的な取り組みで社内を活性化

情報化という新しい取り組みに全社を挙げて取り組むことで、社員全員が各自「こうな

ったら便利だ」ということを考えるようになった。

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(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①レンタル業の特性

レンタル業は他の製造業と異なるという点で、ベンダーに業務内容を把握してもらうこ

とに苦労した。レンタル業は、過去の履歴を追いにくいという特徴がある。通常はものを

作り、売ることに対応したシステムを構築しているが、淀川変圧器はものを作り、レンタ

ルし、再利用するといったようにプロセスが異なっている。受変電設備のレンタルを専門

的にやっている企業は日本中に 5,6社しかいないことから、ソフト作りに苦労した。

システム構築にあたり、部署毎に聞き取り調査を実施した。ヒューマンエラーのチェッ

クができないかについても社内で議論を交わした。

②1年間という期限

経済産業省より助成金を受けたので、今回の情報化プロジェクトを 1年以内に終わらせ

なければならなかった。それを実現するために、社内では経営企画部部長を含む 3人が中

心的役割を果たし、各部署のリーダーも入り 8人ぐらいでプロジェクトを進めた。社外も

含めると最大 20人が関わっている。

③膨大なデータの入力

何万点もの部品、製品を取り扱っているので、そのデータの入力に苦労した。データの

入力は人海戦術で行い、更新も人手でやっている。データ化した後で入力ミスが見つかる

こともあり、その修正も含めるとデータ入力を終えるまでには大変な労力を要した。

(6)情報セキュリティ対策について

①情報へのアクセス

部署ごとにアクセス権限を設定している。過去において、社内サーバを外部の人に使わ

れたという苦い経験から、セキュリティ対策は最重要課題と捉えている。また、社内では

セキュリティ対応の USBを使用している。

②社外からのアクセス

セキュリティ性の高い社外のサーバを利用し、ファイアウォールのソフトの入ったルー

タを使っている。VPN でつなぎ、九州・東京の営業所および大阪工場、東京工場からしかア

クセスできない仕組みとなっている。

(7)今後の取り組みと対応方向

現在、運搬車が倉庫に入るだけで物品の管理ができるようなシステムはないか検討して

いる。より良いシステムがあれば、今後もさらに投資を拡張していく方針である。

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2.2 東海バネ工業株式会社

所在地 〒553-0002

大阪市福島区鷺洲 3丁目 7-27

代表者名 渡辺 良機 資本金 9,644万 5,000円 設立年 1944年 業務内容 金属バネ製造 従業員数 75人

(1)事業の概要

1934年に大阪で金属ばねの製造を開始し、1944年に東海バネ工業株式会社を設立した。

現在、本社の他、伊丹工場、豊岡神美台工場を構える。高い技術力と開発力を武器に、熱

間コイルばね、冷間コイルばね、皿ばね、板ばね、ゲートロボ・ゲートリミッター・スミ

パックといった製品の製造を手掛ける。

受注は、年間2万5千~3万件で平均受注ロット5個という様々な種類の高品質・高機

能のオーダーメイドばねを、納期厳守率 99.97%で顧客に提供している。

マシニングセンター用皿ばね、安全弁用コイルばね、水門ゲート用安全装置・ゲートロ

ボでシェア No.1を誇る。ISO 9001と 14001の認証も受けている。

2007年の取引顧客は、北は北海道から南は沖縄まで約 1,000社。2006年の売上高は約 17

億円。同社は、「従業員の成長が企業の成長」と考え、従業員の教育に力を入れている。従

業員の成長を促すような人事評価、個々に対する教育システムを整備している。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①できるところから IT化

やれるところから ITを導入していかないと企業は生き残れない。難しく考えずにパソコ

ン、携帯電話、メールをどのように活用するかを考える。メールなら費用対効果で考えて

も費用はほとんどかからない。やれるところからはじめることが重要である。

②経営戦略ありきの IT化

中小企業といえども、経営戦略ありきである。段階的なものもあるが、自社の状況を素

直に把握できているか。「そのうち何とかなるだろう」という経営者では、改革は産まれな

い。状況を素直に把握すれば、次に何をするかが分かる。それも経営戦略に入るかもしれ

ない。そこで第 3者が介入することによって明確な地図作りができる。地図に基づく IT活

用が産まれる。第 1段階では ITありきでもいいが、ある程度の段階まで行くと戦略ありき

である。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

③多品種微量生産に特化したビジネスモデル

我々のビジネスモデルの特徴はバネの多品種微量生産である。コンピュータ導入以前か

らの特徴である。しかし、高度経済成長期で、大量生産大量消費が主流であったので、当

時は中量品も作っていた。大量生産大量供給の中で、中途半端な事業形態であった。コス

ト削減は非常に下手であった。その意味で業績がなかなか振るわなかった。その中でも 1944

年に会社組織にしてから、赤字は一度もない。しかし、赤字が出ないだけでそれほど業績

は良くなかった。その状況を打破するために、現在の社長が一つの方法として、選択と集

中をおこない、中途半端な中量生産はやめることを決断した。多品種微量生産に完全に特

化した。

当社のものづくりは職人中心のもの作りである。この職人中心のものづくりを活かしな

がら、かつコスト競争に巻き込まれないビジネスモデルを創り上げることに尽力した。当

時数 100社との取引があり、それぞれが個性のある顧客であった。1件 1件の特徴は営業ス

タッフが全部覚えていた。しかも定期的な注文は当時もなく、時々思い出したように来る。

それに間違いなく対応する仕組みはある程度はできあがっていたが、それをさらに強化す

るためにコンピュータの導入に至った。

④ITコーディネータ活用

ITコーディネータよるコンサルティングを受けた。コーディネータと今後の展開に関す

る密な会議を半年間行った。その結論は、「在庫をもたないこと」と「ノウハウの公開」と

いう従来の考え方とは全く逆のものであった。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①工程管理で納期を死守

1ヶ月の受注は約 2,500件。工場内では約 5000件が動いている。工程管理ができていな

いと、納期を守れない。受注入力すると工場の負荷を判定して納期を自動的に設定してい

る。このことにより、顧客の納期の問い合わせに対しても確実に現在の段階、納期に間に

合うかどうかを伝えることができる。納期厳守率は 99.7%、ほぼ 100%であり、言い値で買

ってもらえる体制を構築した。

②職人のノウハウデータベース化

数字についてはデータベース化できる。暗黙値は独特の職人の言葉として文字データと

して入力する。ただ両者とも厳密にはデータベース化するところまでには至っていないが、

職人はデータベースを見れば、作り方がすぐに分かるシステムとなっている。

③Webで顧客開拓

基幹システムを構築したときから、受注数、売上、利益は全てオープンにしており、当

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

社は元々ガラス張りであった。

当社の経営スタンスは、クリーン、フェア、オープンである。7~80人の中小企業はオー

ナーのワンマン経営が多いが、当社はそうではない。100%従業員にオープンにしている。

社長の持っている情報を現場の職人の持っている情報は同じである。

2003年からは、ホームページを会社概要的なものから、情報公開型のウェブサイトに変

更した。一番のコンセプトは、設計の人に使ってもらいたい、ウェブサイトを見ればバネ

の技術が分かるようにしたいという思いから、バネ製品の Eディクショナリー(辞書)的

なウェブサイトとした。

リニューアルした途端、問い合わせが来た。2003年には 100社の新規顧客を得、売上は

3000万円を計上した。5年間で 1000社、金額で 2億 1000万円をこのウェブサイトから得

た。情報を隠していると誰にも気づかれない。

すんなり踏み切ったわけではなかったが、公開しても他社がまねできるわけがないとい

う、ものづくりに対する絶対的な自信があった。数 10年前から続けている仕組をまねする

ことはできないという自信があった。ITコーディネータからは、情報を出したほうがメリ

ットが大きいという助言を頂いていた。

(4)IT投資とその効果

①コスト競争からの脱皮

IT導入の大きな効果としては、当時はコスト競争に巻き込まれていたが、言い値で買っ

てもらえるだけのサービスを構築できた。具体的には、3~5年ぶりの注文にもデータベ

ースから瞬時にそのデータを抜き出して対応できる。

当社の平均受注ロットは5個である。1~2個の注文もごく当たり前であり、顧客に確実

に納期通りに出荷できるのは、ものづくりの微妙な技術、品質面、技術面、ノウハウも 1

件 1件のデータベース化しているからである。

②新規顧客数が増加

2003年より新規顧客数が増えている。以前は顧客数は、500~600社しかなかった。2002

年までは新規顧客開拓はしなくてもいいといわれてきた。受注 1件あたりの金額は 5~6万

円。営業マンが新規開拓で走り回って新規受注をとっても、費用対効果では採算が合わな

い。我々の製品は特殊であるので、通常の営業活動では、値切られてしまう。注文は向こ

うからやってくると思っていた。口コミ等で年間 10社くらいの新規顧客はあった。

2002年の ITコーディネータによるコンサルティングを契機にウェブサイトを中心に新規

顧客開拓を行った。2003年の 1年で 100社の新規顧客を得、2003年から現在まで約 5年で、

1000社の新規顧客を得ている。既存の顧客の 2倍である。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

③営業を少数精鋭化

顧客の住所、社名、同社の製品の供給実績、製造スペックをデータベースに蓄積した。

加えて、これまで人頼みであった営業手法をデータベース化することで、誰でも瞬時に活

用できるようにした。従来は、営業スタッフは男性 20名、女性 20名で合計 40名の体制で

あった。人海戦術で数百社の不定期な注文に対応していた。その後、データベースの導入

により営業部門の少数精鋭化に成功した。現在は派遣入れて 15名、社員は 12名で対応し

ている。

④IT投資の 10倍の売上

基幹システムは別として、Webサイトのリニューアル、サーバ構築などで 2003年は 300

万円の IT投資で 3000万円の売上を生み出した。当社は粗利益率は 50%であるので、1500

万円は粗利益になる。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①ナレッジの共有・活用が行える体制作り

これからも多品種微量のばねメーカとしての当社のビジネスモデルの要はばね職人であ

る。ただこれまでのばね職人とは異なり、職人で有り続けるための手段方法に IT活用は必

要不可欠である。「21世紀型職人」とは何かを追求しながら、ナレッジの共有・活用を今後

効果的に行える体制作りや、個人的な技能や経験のバラツキを補える仕掛けなどが必要と

なる。

(6)情報セキュリティ対策について

◎社内情報はオープンに

社内情報を隠すこととはない。隠すから守秘義務が生じるのであって、守秘義務は考え

たこともない。当社に在籍した従業員が外に製品情報を漏らすことはないし、今後もない

という絶対的な自信がある。

ただし、顧客の情報セキュリティには万全の力を入れている。IT活用度の進展に合わせて、

特にノート PC使用環境を「Secure Mobile Platform(NSD Co LTD.)」を 2005年度から導入

して強化した。また、IT経営推進組織である IT委員会を、総合的なセキュリティ対策を行

う組織とし、2007年からは ITマネジメントシステムの運用も開始し、より効率的な情報セ

キュリティ対策を展開しつつある。

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2.3 株式会社共伸技研

所在地 571-0006

大阪府門真市上馬伏 444-3

代表者名 加藤 重信 資本金 1,000万円 設立年 1982年 業務内容 工業用ブラシの製造・販売 従業員数 23人

(1)事業の概要

株式会社共伸技研は、各種生産設備に組み込まれる工業用ブラシをオーダーメイドで、

1個ロットからの短納期生産を行っている。特に工作機械の扉部のスキマ埋め用シールブ

ラシは、国内有名機械メーカ数社でも採用されている。

ホームページ「ブラシビレッジ」を 2000年に開設し、強みをアピールする事によりユー

ザからの受注増に繋げている。また、多品種1個ロットからの注文に、迅速に対応できる

バックヤードシステムを構築し、最小人員で迅速な対応を行っている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①新規顧客の開拓をインターネットの可能性に見出す

2000 年6月に、自社ホームページを立ち上げた。出来上がったサイトは、会社案内程度

のサイトであり、ほとんどアクセスがないにもかかわらず、同年 9月に京都の企業から耐

熱性ブラシ製造の仕事を受注する。これがホームページからの初めての売上げ(25,800 円)

になった。

既存の取引先からの注文が景気後退と共に漸減していくなか、新規顧客の獲得が重要な

課題となっている中で、この京都の業者から“注文”が入ったことを契機に、しっかりと

したサイトを構築すれば、大きな可能性が広がると確信する。

これまでの横請けの業務から新規顧客の開拓をインターネットに可能性を見出すことで、

ホームページの改良に着手した。まずは、硬い印象だった文章をくだけた口調に変更し、

専務の似顔絵を掲載するなど、親しみのあるサイト構築を目指していった。

②1個でもネット受注

さらに、2001 年からは、インターネットで出会った顧客とのコミュニケーションの中か

ら、オーダーメイドブラシを1個から、製造できるという強みを再発見し、ホームページ

でそのことを強くアピールするとともに、商品写真を中心にしたサイトへのリニューアル

を行った。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

「オーダーメイド工業用ブラシを1個から」というキャッチフレーズを全面的に出すよ

うにしてから、非常に問い合わせが増加した。工業用ブラシの業界としては、昔から特注

のブラシを1個から作っており、特に不思議なことでも何でもないことである。

しかし、新規の顧客は、驚かれ、特徴のあることだったということを顧客から気付かさ

れ、それをストレートに言葉にしたのが「オーダーメイド工業用ブラシを1個から」とい

うキャッチフレーズである。

自社の特徴を上手に表すこと、キャッチフレーズというのが非常に大事であるが、自社

の特徴というのは案外分からないもので、インターネットで情報発信することで顧客から

来たアクション、顧客とのコミュニケーションの中からそのヒントは得ることが重要であ

る。

また、写真を出すことは非常に大事で、写真がないと誰も買ってくれない。写真という

のは非常に説得力あり、それをサイトに上げると、非常に効果がある。

多くの写真を載せることで、顧客の問い合わせがしやすい環境を作ることで、サイトか

らの受注が増加していった。

出典:ホームページ『ブラシビレッジ』 http://www.kyoushingiken.co.jp/

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①横請けからインターネット活用による新規顧客の開拓

インターネット営業は直接先方に出向くことがない分、迅速なメール対応が大切となる。

特にオーダーメイドの受注では、製品の精巧さが求められるためブラシの形状や寸法は

図で描いてもらい、製作過程のやりとりは顧客が返答しやすい YES・NO 形式の質問をするこ

とで効率化を図る。このような工夫が実を結び、開設 1年半で事業は軌道に乗った。

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②インターネット経由の売上高をWebで社外にも公開

また、友人のアドバイスに従い、ネットで毎月の売上高の推移を公開した。経営の透明

化が信用に繋がり、問合せ件数も増加した。

◇ネット営業の売上実績

・ 2001 年度:150 万円

・ 2002 年度:1,200 万円(前年度比 8倍)

・ 2003 年度:3,000 万円(前年度比 2.5 倍)

・ 2003 年 10 月に月商 400 万円を突破

・ 2003-10~2004-09 までの合計:4,170 万円

・ 2004-10~2005-09 までの合計:4,390 万円

・ 2005-10~2006-09 までの合計:4,350 万円

・ 2006-10~2007-09 までの合計:4,755 万円

現在ネット営業売上が全体にしめる割合は約 20%。新規顧客のほぼ 100%がネットから

の引き合いとなっている。

③文書管理データによる見積情報、図面、注文書の管理

販売管理データベースと工程管理データベースにより見積もりから納品までを一貫管理

を行っている。

システムは、枚岡合金工具㈱の製造の現場から生まれた、文書管理・図面管理システム

「デジタルドルフィンズ」を導入している。

デジタルドルフィンズ導入以前は、顧客からの電話問合せの際、図面を参照してほしい

というケースで、一旦電話を保留し、書庫から図面を探し出してきて電話での打合せを再

開するというパターンであった。

導入後は、電話口で顧客と話をしながら、図面データを検索して表示させ、電話を置くこ

となくそのまま打合せを続行できるので、迅速で円滑な対応を実現し、顧客満足度の向上

に資している。

(4)IT投資とその効果

①新規顧客は、年間約 100社の増加

Web サイトを使った、工業用ブラシのワンストップサービスを行うことにより、新規顧客

は、年間約 100 社の増加となった。現在ネット営業売上が全体にしめる割合は約 20%。新

規顧客のほぼ 100%がネットからの引き合いとなっている。

②顧客とのコミュニケーション

従来受注は、「横請け」であったが、顧客との直接取引を実現した。このことは、顧客ニ

ーズを直接的に得る事で、多くの改善に結びついた。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

インターネットで情報発信することで顧客から来たアクション、顧客とのコミュニケー

ションの中から業務上の様々なヒントは得ている。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

③技能のデータベース化

年輩の職人は IT 化になじみにくく、若手がサポートしている。手間と考えず誰でも簡単

に操作できるような工夫を考えている。

また、職人の「カン・コツ」の世界があり、ビデオ取りして、文書管理データベースで

管理し、技能の伝承を進めたい。

(6)情報セキュリティ対策について

ウィルス対策は、サーバ側クライアント側両方にしている。また、別のハードディスク

への自動バックアップを実施している。

一部データベースへのアクセスは制限することにより、セキュリティ対策を講じ得いる。

(7)今後の取り組みと対応方向

Webサイトを使った、工業用ブラシのワンストップサービスを行うことにより、新規顧

客の開拓と受注の2割増加を達成した。

また、これまで場当たり的であった工場の工程管理の強化を行いたい。2006 年6月から

取組始めた3S(整理・整頓・清掃)活動をベースに生産改革に努めている。個々の技術者

のスキルマップを作成し、技術情報の共有化に努めている。

2007 年9月からは、正しい作業手順や熟練技能を継承していくために、ビデオに記録し

始めている。今後これをデータベース化していく予定である。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.4 山岡金属工業株式会社

所在地 〒570-8585

大阪府守口市東郷通 2-7-30

代表者名 山岡 俊夫 資本金 4,000万円 設立年 1956年 業務内容 業務用調理機器の開発・製造・販売並びに付帯サービス等 従業員数 53人

(1)事業の概要

山岡金属工業株式会社は、たこ焼き器、焼き肉用無煙テーブルなどの調理機器の金属プ

レス加工を主軸に、屋外用ガスヒーター、電子エアーカーテンなど環境をテーマとした製

品ラインアップを増やしている。

1962年に「ヤマキン」ブランドで発売した家庭用のガス式たこ焼き器はこれまでに累計

200万台を販売し、家庭用たこ焼き器では約 96%のシェアを誇る。現在でも年間1万 5000

台を販売している。

また、当社は主力の工場をミュージアム化し、地元の小学生から海外の要人まで、さまざ

まな人を受け入れ、作業場を公開している。「技術開発館」では顧客のニーズを引き出し、

「技術工作館」と「技術組立館」で商品の加工組み立てを行う。「技術文化館」には、当社

の原点である、たこ焼き関連グッズと蓄音機やレコードなど昭和期の懐かしいアイテムを

集めた「たこ焼きミュージアム(昭和の歴史館)」をオープンし、これまでに累計約2万人

が訪れている。

現在のたこ焼き関連事業は売り上げの5%程度であり、新商品開発と販売体制を確立し、

屋外用ガスストーブや電子カーテンなどの環境関連製品が現在の主力商品となっている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①計画的な生産・販売による納期の短縮化

今日のものづくりの価格競争の厳しい中で、拡大生産の時代ではなく、計画的な生産・

販売が重要となっている。

当社では、競争の激しい厨房機器業界の中で増収減益状態にあり、経営を安定させるた

め従来型の厨房機器の製造から、付加価値の高い電子制御の厨房機器や新規厨房関連製品

の開発を進めている。

「電子カーテン」や全自動の釜飯炊飯器やピビンパ調理器などの電子制御による厨房調

理機器はその一例である。これらの製品には電子制御部品を使用しているが、こうした部

品は比較的高価であり、リードタイムの長いものが少なくない。

主な顧客である外食産業では、チェーン店展開を行うため、厨房機器は、独自仕様の設

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

計・施工が求められる場合が少なくない。こうした場合においても受注生産により対応す

ることとなるが、厨房機器業界で競争を勝ち抜いていくには、独自仕様の受注に対して、

納期をいかに短縮できるかが重要になってくる。

②エンドユーザーへのアフターサービスの充実

生産予測のデータベース化によるリードタイムの短縮化とともに、アフターサービスの

充実化(生産者責任)が重要である。

調理器具は、夜使用されることが多い。着火しないといったクレームが発生する前にセ

ンサーにより感知するなど、顧客管理データベース化とメンテナンス会社とのネットワー

クにより、アフターサービスの充実化(生産者責任)が重要である。

③製品の受注から出荷までの工程を正確に効率良く行えるシステムの構築

このため、社内の工程管理システムである POP(Point Of Production)だけでなく、協力

会社の工程管理を携帯電話と QRコードを利用することにより安価・簡便に社外 POPシス

テムを実現する。そのことによって、協力会社に高額なソフトや機器を購入してもらうよ

うな負担をかけることなく、携帯電話と QRコードといった安価かつ簡便な方式を利用する

ことで、リアルタイムに外注先の工程情報を入手できるシステムを構築することができる。

これにより自社では、比較的高価な製品である無煙ロースターや新分野進出製品(電子制

御製品等)を生産する場合の受注生産と比較的安価な従来型製品を生産する場合の見込み

生産を並行して効率よく行うことが可能となる。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①計画的な生産・販売管理システムの構築

当社のコンピュータ導入は早かったが、経営上の最低限のものであり、生産計画は棚卸

しデータに頼っていたのが現状であった。

このため、計画的な生産実現に向け、部品の発注、部品在庫の探索、外注先作業の進捗

管理などの生産投入と発注処理のシステム構築を図る。

見込み生産品に関しては、引当状況のリアルタイムの確認、入庫についての確実な把握、

生産の遅れの解消による欠品の減少などで、顧客からの商品問合せに確実に商品の在庫・

入庫について返答できるようになり、機会ロスの減少と顧客からの信頼度向上などが期待

できる。

また、受注生産品に関してはリアルタイムに確実な工程管理がおこなえることで、受注

商品として最も大きな問題である納期遅れが発生しないように管理することがすすんだ。

②QRコードと携帯電話による外注先の工程管理

協力会社の工程管理を携帯電話と QRコードを利用することにより、安価・簡便に社外

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

POPシステムの実現を図るため、以下の QRコードと携帯電話による外注先の工程管理シ

ステムの構築を進めた。

・発注情報を登録し、入庫予定を生産情報と関連づける。

・社内工程には作業伝票を発行する。

・外注先には生産情報と発注情報を登録した QRコードを発行する。

・外注先は QRコードを携帯電話で読み取り工程情報をメールにて送信し登録する。

・送られてきた外注先の工程情報は基幹システムに登録される。

・発注部品の工程情報を表示する。

・どの生産のどの発注の部品が入荷されたかを登録する。

・在庫される発注部品は在庫情報と関連づける。

・外注先からの納品伝票を受領して仕入れ計上を行う。

◎問い合わせ情報の管理システムの構築

また、ホームページの充実・リニューアルによる外部発信機能を高めるとともに、問い

合わせ情報の管理を充実化している。

(4)IT投資とその効果

①部品在庫管理の効率性の向上

システム導入により、部品の発注忘れ、重複発注、ピッキング作業の円滑化、部品在庫

の探索、外注先作業の進捗管理などの面で部品在庫管理に多くの人手を要していたことの

軽減が進んでいる。

また、協力会社に対しても納期の短縮や作業内容を把握できることで、協力会社の業務

負担を軽くすることが進み、それにより、協力会社との信頼関係の強化と外注購買費など

の点でコスト削減を図ることが期待される。

②ムダのない生産の実現

部品在庫管理が不十分であったため、生産開始までに部品がそろわないことがあった。

これにより、「生産を待つ」作業員の発生や直前の生産計画の見直し、生産の遅れに伴う欠

品による機会ロスなどの解消を図る。内作、外作ともに進捗管理ができるため、計画的な

生産の実現を図ることができつつある。

③顧客の信頼性向上

見込み生産品に関しては、引当状況のリアルタイムの確認、入庫についての確実な把握、

生産の遅れの解消による欠品の減少などで、顧客からの商品問合せに確実に商品の在庫・

入庫について返答できるようになり、機会ロスの減少に加え、顧客からの信頼度向上など

が期待できる。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

また、受注生産品に関してはリアルタイムに確実な工程管理がおこなえることで、受注

商品として最も大きな問題である納期遅れが発生しないように管理することがすすんだ。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①ITコーディネータの活用

当初、社内に情報化へのスキルを持った人材がいなかった。このため、ベンダーのいい

なりであった。

外注先管理に携帯電話と QRコードを利用した厨房機器等の生産管理システムの構築に

当たっては、経済産業省から「IT活用型経営革新モデル事業」の採択を受け、ITコーディ

ネータからのアドバイスを受け実施した。

ITコーディネータにより、ベンダーへの橋渡しができたが、個々の企業の実情を良く知

ることが必要で、固定した人材を長期に派遣して頂きたい。

②協力会社の理解と協力

携帯電話と QRコードを利用した外注先への発注システムは、外注の協力会社が従業員に

携帯を提供しているところでないとできない。また、協力会社の理解と協力が待たれると

ころである。成果が出るまでには時間もかかる。

(6)情報セキュリティ対策について

NTT 西日本のシステムを活用し、情報の外部流出がないようにしている。

(7)今後の取り組みと対応方向

①小規模の企業間の連携・協力によるサプライチェーンマネジメントの構築

製品自体に ICチップを入れて、携帯電話と QRコードを利用した生産管理システムを在

庫管理やマーケティングへの活用展開を図ることにある。

納期短縮をはかるためには、社内の工程管理だけでなく、社外の工程管理も行うわけで

あるが、社外の工程管理は従来、ソフト・ハードに多額のコストがかかり大企業でなくて

は導入が難しいことが少なくなかった。

しかし、当社が構築しようとするシステムでは、普及率 90%を超えた携帯電話と QRコー

ドといった安価かつ簡便な手段を利用することで、中小企業でもわずかな負担で導入でき

るものである。

本システムによる短納期化は、今後、小規模の企業間が連携し協力することで、サプライ

チェーンマネジメントを構築できる可能性があるとともにさまざまな製造業に波及してい

く可能性があると考える。

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2.5 株式会社日本電機研究所

所在地 〒551-0031

大阪市大正区泉尾 7-1-1

代表者名 福地 邦臣 資本金 4,500万円 設立年 1932年 業務内容 FAシステム制御、制御盤設計・製作 従業員数 160人

(1)事業の概要

株式会社日本電機研究所は、配電盤、制御盤及びモーターコントロールセンターの設計、

開発製造を行う企業である。

事業内容は、コンピュータを中核としたファクトリーオートメーション、コンピュータ

インテグレイテッドマニュファクチャリング、「情報と制御」の生産システム構築、各種プ

ラント・ビル・工場向け電気設備・配電盤・計装盤・自動制御盤といった多種の分野にわ

たる。

設計から製作までを、システム制御専門の立場から、これまで長年にわたり蓄積した自

動制御、プロセス制御、通信制御等、製造業に精通した多種の制御技術をベースとし、あ

らゆる産業にコンピュータを中核とした生産システム制御を、国内の多くの大手企業のみ

ならず海外へも広く提供している。

また、地球温暖化防止や省エネに向けた活動機運が高まる中、社屋の屋上緑化を行って

おり、社屋の室内温度が春夏は2度下がり、秋冬は2度上がるなど省エネ効果も出ている。

また社員が弁当を持って昼休みを過ごすなど福利厚生面でも好評で、社員の憩いの場にな

っている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①IT化は顧客の要望や時代の流れ

当社は、ファクトリーオートメーション(FA)業界である。創業時は、ブレーカーなどの部

品製造を行っていたが、大手の進出等により量産に太刀打ちできなくなり、ブレーカー、

マグネット、リレーなどを使う立場に変わっていった。

昔はコンピュータもなかったので、リレーで制御をしていた時代もあった。今でも大事な

ところはリレーで制御している。現在は、シーケンサーを組み込んだ制御板が当社の主力

商品である。

以前は、図面も手書きで書いていた。必然的に CADができて生産性が上昇した。1986年

に CADを導入した。一般的ではなく、全員が使えるものではなかった。1台 300万円する

ようなものを導入していた。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

最近はパソコンの性能が上がり、10年くらい前からは PCでできるようになった。1人 1

台全て行き渡っている。これにより、書く作業に使う時間を考える作業に使えるようにな

った。きれいにプリントアウトもできる。手書きだと字が汚い人もいるが PCならそういう

こともなく,品質向上ができる。

CADがシーケンサーになった。顧客にもシーケンサーを提案している。ハードの制作の時

間が減って、ソフトの比率が増えた。

高度なことをしないと付加価値が生まれない。IT化の転機は顧客の要望や時代の流れで

ある。

トップの方針で技術投資を重視している。前向きに新しいことをやっていこうとしてい

る。やってみないとわからないことも IT化にはある。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①受注から出荷まで一括で管理する ERP化

受注から出荷まで一括で管理する ERPというものがあり,市販のシステムも検討してい

るが、当社は 100%オーダーメイド(個別受注)であり、市販システムは、量産向けに特化

したものが多い。

個別受注に合わせようとすると、5,000万円くらいのものが必要となってくる。製品も良

くなっているが、オーダーメイドに対応できるものは出てきていない。

社内で作ったシステムで現状は行っている。しかし、少人数で業務の合間にシステムを

構築しており、改善に掛ける時間が難しい。できたら市販システムを購入して効率化を図

りたい。

また、国の助成を検討したい。現状では、受注して売上管理までをある程度把握して全

体を眺めるくらいのものであり、細かい分析までは作り込んでいない。営業、設計、製造

のトータルで ERPをまわしたいが、業務に力を注いでいるのが現状である。

②ペーパーレス化の推進

これまで年間 200万枚の紙を使っていたが、現在では 100万枚台になっている。ISO14001

を取得しているので紙を減らそうとしている。

設計部門は、A3の用紙を使うことが多い。それを画面で見てもよほど大きな画面でなけ

れば概要しか分からない。細かい線が見えない。拡大縮小しなければならない。結局プリ

ントアウトしてチェックしないといけない。ここが今後の課題である。

ISO14001を取得してからデータを取っているが、今まで年間 200万枚の紙を使っていた

が、100万枚台になっている。

最終的な形は紙に残すが、途中の段階での紙の使用を減らすことができる。それで約 30

万枚削減できている。

社内の連絡はほとんどが社内メール。それ以外は掲示板である。おかしいところがあれ

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

ば 30秒くらいで返事が来る。これまでは郵送や FAXで顧客に送っていたのがメールですむ

ことができる。電話が鳴ることも少なくなった。

③テレビ会議の導入

東京営業所とのテレビ会議を導入しようとしている。東京の顧客と会議を行うことによ

り、移動の時間と費用が節約できる。

顧客に対するシステムの導入納期は、長いもので半年、通常2,3ヶ月である。見積も

り会議からスタートし、顧客との打合せや週に 1回の内部での工程会議により、すりあわ

せしている。こうした、会議をテレビ会議システムにより、効率化するものである。

(4)IT投資とその効果

①情報化技術発表会を開催し、IT導入により効率化した内容を発表

IT投資に対しては、当社の専門であるので理解はある。その一方、専門的に知っている

ので慎重になる。

年に 2回、全社でコンピュータの導入によって効率化された部分を発表し合う技術発表

会を実施している。業種ごとに違うがベースが共通する部分はある。

10時間かかったものが 6時間でできるというような発表である。時間に換算すれば、お

金であらわすことができる。

生産部門は、10数年前からしており、設計部門は、5年前から実施している。努力賞や

技術賞、最優秀賞などの賞金も出して、奨励している。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①高額な IT設備の投資

社内で ERPの構築を進めているが、少ない人数で業務の合間にしているので、改善に掛

ける時間が難しい。

また、できたら市販のモノを購入して効率化を図りたいが、ERPは量産向けに特化した

ものが多く、個別受注に合わせようとすると、5,000万円くらいのものが必要となってくる。

社内の無駄な労力も減ることは確かである。それに何千万円も掛けられるかは難しい。

当社は専門知識を知っており、効果が計算できるので導入に踏み切りにくい。余力があれ

ば,投資したいがいまはその余力がない。

②海外のインフラの未整備

中国とテレビ会議等もしてみたいが、向こう側のインフラが怪しく、しっかりしたもの

ができない状態である。セキュリティ関係もしっかりしていない。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(6)情報セキュリティ対策について

①月 1回の IT会議を開催

IT 関連の専門部署はないが,情報システム課が先頭に立って IT 会議を月 1回開き、IT

やセキュリティに関する問題点をだしている。

当社にもだいぶ前にウィルスが入り込んだこともある。(顧客から)ウイルスチェックを

入れると PC のスピードが落ちるが、その対策をしなければならない。当社から顧客にウイ

ルスメールが行かないようにだけは注意している。

3連休だとスパムメールがたくさん来ている。大事なメールを誤って消去してしまう可

能性がある。出張先でモデムしかないときにメールを受け取るのに不便である。当社から

顧客にウイルスメールが行かないようにだけは注意している。

天津に関連会社があり、テストも何回かして,中国とテレビ会議等もしてみたいが、向

こう側のインフラが怪しく、しっかりしたものができない状態にある。セキュリティ関係

もしっかりしていない。現在研修生が 8名来ており、研修生が中国に帰ったら、テレビ会

議もしっかりしないといけない。

こうしたセキュリティ対策や IT 投資は、専務が CIO を努め、月 1回の IT 会議により、

対策や IT 投資などを決定している。

②サーバ専用室の設置

社屋の建物の改築投資を行っており、サーバ専用室の設置を行うこととなっている。新

しい建物は早ければ来年末、遅くとも再来年の3月には完成予定である。

(7)今後の取り組みと対応方向

東京営業所とのテレビ会議システムは、来年の 6月までにインフラを整備することとし

ている。

一方、モノだけ入れても人材がいなければ意味がない。景気がいいので、大手企業に人

材が行き、中小企業には、いい人材が来ない。2、3年で転職する人が、流れてくることも

あるが、ここ2、3年の新卒採用は難しい。

モノづくりの基礎を中国にとられていくことになる。大学の学部名も変わってきている。

制御科といった学科もなくなっている。

先般、当社に中学生が体験学習に来たが、モノづくりのすばらしさを子供達に植え付けて

行くところから行わなければならない。

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2.6 株式会社中田製作所

所在地 〒581-0851

大阪府八尾市上尾町 5丁目 1-15

代表者名 中田 寛 資本金 1,000万円 設立年 1977年 業務内容 アルミ精密部品の超精密切削加工、企画提案型のアルミ精密部品関連の

設計、極微小径穴加工(φ5µ)、微細溝加工等の微細加工、三次元測定器、表面粗さ測定器の検査データ作成業務

従業員数 25人(パート含む)

(1)事業の概要

株式会社中田製作所の創業は 1977年 1月で、現会長が創設者である。1982年 3月に会社

設立に至っている。設立当初の事業は、鉄、真鍮や樹脂の切削加工。どちらかと言えば数

量の多い商品(1ロット 1000~5000ぐらい)を扱っていた。当時は従業員が 4~5人と少な

く、家族経営で行っていた。

創業して 3~4年経った後、アルミのダイキャスト事業にも進出。樹脂もアルミもやって

いたので、加工用の刃物を揃えるのが大変、社員の増加ともに人の管理も大変になってき

た。そこで、アルミ一本で行く決心をした。

さらに、それまでの量産タイプから少量・単品生産にシフトすることを決め、現在の多

品種・少量生産体制を確立した。1個から注文を受け、最大 200個ぐらいまで生産している

が、通常は、1ロット平均 3~4個、多くても 10個ぐらいとなっている。

従来からの顧客は関西および名古屋地域に多かったが、インターネット営業を通して、

関東、九州へと顧客エリアを拡大している。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①現社長の就任が IT化のきっかけ

情報化のきっかけは、現社長の入社である。現会長が当時、営業先の相手は皆年下ばか

りであり、社員 15人ほどの会社を守っていくためには、若い営業マンと組織化が必要と考

えたことから、銀行で働いていた現社長が入社することになった。銀行は情報化の進んで

いる業種であったが、同社に来てからというもの、新聞以外のニュースは入ってこない生

活となり、不安を感じていた。この情報の「鎖国」状態から抜けだし、どうやって情報を

得るかと考えたとき、IT化にたどり着いた。2000年にインターネットを使って情報を得る

ことを目的にホームページの立ち上げに着手した。当時は、パソコンは一台もなく、現会

長をはじめ社員の誰一人としてパソコンの必要性は感じていなかった。CAD/CAMは使用し

ていたが、営業を含むその他の業務でパソコンを使用するという考えもなかった。

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当時の社員の平均年齢は 30歳ぐらい。20代の従業員も多かった。

②多品種生産への対応には不可欠

現在、多品種少量生産という特性上、年間約 6万アイテムの生産を手掛けている。1ヶ月

に扱う図面の数は 3000~5000枚。これは、1日当たり 150枚ぐらいの図面を扱う計算とな

る。以前は月に 500枚ほどであったので、管理システムなしでも事業に支障がなかったが、

3000枚となると、どの部品がどこにあり、納期はいつかといったことを管理する必要性に

迫られた。

③インターネット営業

2001年は ITバブルが崩壊したと言われる年で、アルミ業界の景気も落ち込んだ。新規営

業で顧客を獲得しなければならなくなったが、素人が営業に行くと足元を見られてしまう。

そこで、「どうしたら相手から来てもらえるか?」と考える中でホームページを製作して、

営業活動をすることになった。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①ISOの文書管理

業務に関する情報化は、ISOの文書管理から取り組んだ。

現在、「簡単ファイリング」というシステムの中で文書管理をしている。ある技術に関して

どういう手順書があるといった情報をデータベース化しており、誰が検索してもすぐに見

ることができる。

②他社の HPを徹底研究

ホームページを作成してまもなく、問い合わせが来て、取引がスタートすることになっ

た。ホームページの見栄えなどを改良する上で、他社のホームページを研究した。すると、

大企業はイメージ(地球に優しいなど)、中堅企業は作っている製品、中小企業は技術力、納

期、零細企業は「家族経営」をアピールしているといった特徴がわかった。

同社は中小企業に分類されるが、この規模の企業のホームページには、「日本一・・・・」

といった誇大広告が当時は多いことが分かった。正確な情報ではないこともある。そこで

同社は、本当のことしか載せないホームページを作ることを徹底した。これは、「嘘がない」

と大企業や取引先などの評判が良かった。

インターネット営業の他に問い合わせ等はメールで受け付けている。ホームページを活

用するにあたって、事実をアピールしたいとの思いから動画も制作した。

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③図面管理システムを導入

2000年 11月に図面管理システムを 300万円で導入した。既存ソフトでは同社の業務に対

応できないため、同社オリジナルの管理システムを外注業者と一緒に構築した。

総務で図面をパソコンに登録し、現場はパソコンを使用するのではなく、印刷した作業

仕様書を使って作業している。プログラムは CADCAMの担当者が手配する。用意した作業

仕様書を現場の課長に渡す。

パソコンの字なので見間違いがなくなった。また、リピートに関する手配が時間短縮さ

れた。現場としては、やりやすくなった以外にデメリットがない。

④現場の反応も良好

IT化推進に対する社内の反応は良かった。現場の作業が増えなかったことが一因。作業

時間などを記録することに対しても、記録しやすくなったとの声。一部の社員は作業が増

えることになったが、そうした社員からも、「おもしろい」「パソコンにあこがれていた」

といった好意的な感想がほとんどであった。

⑤仕様書への書き込みも進化

仕様書には個別の製品に関する注意書きが記入されている。初期においては作業内容を

全て記入していたため、初歩的な作業内容に関しての記入もあったが、最近は書く内容も

洗練されてきた。

(4)IT投資とその効果

①簡単な計算で効果を計測

図面の管理システムの効果を考えてみる。例えば、類似品の図面検索という作業を取っ

てみると、昔は紙ベースのファイルを事務所で保管しており、そこから探していた。

CADCAMを担当する技術者が類似品の図面を探す。一日に 10~50枚の図面を探していたこ

とを考慮すると、一日 3~4時間も古い図面を探していたことになる。この探している時間

を省きたい。

また、古い図面は現場で油まみれになり、見づらいという問題があった。さらに古い図

面には時間やアドバイスといった書き込みがあったが、それも見えなくなる。現場に古い

図面にある書き込みは役に立つのかと聞くと、役に立つけど逆に時間がかかるという意見

であった。

古い図面を探す時間がなくなれば、生産に従事できる時間が増えることになる。時給 1500

円で計算すれば、年間 240万円得すると計算。つまり、200万円以下の投資なら利益が出る

と確信した。

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②効果が出るまでの期間

投資の効果を考えるとき、1年でペイできるかどうかが重要と考えている。長くても 2年

以内にペイしそうになければ投資できない。3~4年経つと経済情勢が変わる恐れがあるた

めである。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①HPで情報発信する難しさ

2003~2004年頃は、月に 50~100件の問い合わせがあった。自社にしかできない付加価

値の高い製品を作りたいとの思いに反して、どこの会社でもできるような製品に関する問

い合わせばかりであった。

こうした事態が生じたのは、HPが的を射ていなかったためと分析した。自社の「価値」

を動画や HP上で上手に伝えるように改良してからは、そのような問い合わせはなくなって

いる。現在はインターネットを通しての問い合わせ件数は月 5~10件、多い時は 20件であ

る。ターゲットは、大企業の 10~20年後の開発を担当する部署である。

②現場の理解を得ながらのシステム構築

情報化の導入当初は社員からの積極的な協力はなかった。「検索」という言葉が分からな

いような時代だった。管理職会議では反発もあった。しかし、導入までに時間を掛けて、

実際にシステムを見せて説明した。システムの構築にあたり現場の声を聞いてまわった。

現場も自らが無駄を省くことができるシステムであると理解できるようなシステム作りを

心掛けた。

(6)情報セキュリティ対策について

①オフラインで情報流出を回避

ウィルスバスターはパソコンへの負担が大きく、業務に支障が出る。レンタルサーバー

を使用しており、そこでスパムメールを処理してもらっている。

経理はオフラインで処理しており、情報流出のリスクを最小限に押さえている。

経理はオフコンでやっている。セキュリティをどれだけ完璧にしようとしても、企業とし

てできることには限界がある。伝票の情報が流出するリスクを考えると、切り離しておい

た方が良いと判断した。

(7)今後の取り組みと対応方向

①「人がやるべき仕事を人がやる」

ITタグやバーコードによる検索システムについても費用対効果によっては、導入してい

きたい。また、営業から原価計算まで一貫管理できるシステムも構築したい。「人がやるべ

き仕事を人がやる」をモットーに情報化を進めていく。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.7 株式会社昭和電機

所在地 〒574-0052

大阪府大東市新田北町1-25

代表者名 柏木 武久 資本金 1,000万円 設立年 1956年 業務内容 産業用送風機、環境機器の製造 従業員数 171人

(1)事業の概要

株式会社昭和電機は、1950年に先代社長が、モーターの修理、販売業を始め、1956年に

は小型誘導電動機の製造を開始し、モーターを作るだけでなく、付加価値を高めるために、

モーターの軸に羽根を付けて送風機、砥石を付けてグラインダーをそれぞれ商品化した。

他社の追随を許さない技術により、日本国内だけでなく海外からも当社の風力技術は高

い評価を得、電動送風機では国内シェア 45%を獲得するに至っている。

また当社では、2001年から3年かけて商品を絞り込み、電動送風機、オイルミストを回

収する環境機器、中・大型の送風機(ファン・ブロア)、粉じん類を捕集する集じん機の4

つに特化させ、これを軸に新製品開発に積極的に取り組んでいる。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①良質な製品づくりと顧客への納期のスピード化

当社は電動送風機では業界トップシェアを誇るが、年間 5500種の製品を生み出す典型的

な多品種少量生産である。

流れ作業では対応できないので、数年前から、1人で製造から梱包まで行うセル生産(一

人一個生産)方式に取り組み、利益向上とコストダウンに成功し、納期も早まり顧客から

の評判も高まった。しかし、製品種類が多すぎて営業担当者が把握できないという顧客対

応上の問題が残っていた。IT化はこの解決のために選択された。

②IT化の導入には、会社の課題整理からスタート

IT化の導入に当たり、当社は、外部の専門家である大阪産業創造館の ITコーディネータ

の支援を得てプロジェクトチームを組織し、会社の課題を整理することから始め、本当に

同社の発展に役立つ IT化は何かを考えた。この結果生まれたのが「いろいろ相談」を略し

て「is(イズ)工房」。営業担当者からの質問に専任スタッフが一元的に対応するという、

一見 IT化とは逆行する人を介するシステムである。しかし、そこでの質疑応答をデータベ

ース化することで、営業担当者は、まずそのデータベースから顧客への回答を検索出来る

ようになった。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①「IS(イズ)工房」の創設

2002年 7月、市場から様々な問合せを受ける営業部門からの相談窓口として「is工房」

という部門を創設する。is 工房は「いろいろ・相談工房」の略で、もともとは新入社員の

知識を増やす狙いで、新入社員のさまざまな技術的な質問に答えるために始めたものであ

る。

この Q&A やお客様との相談内容をデータベース化し、お客様からの問い合わせに、is 工

房を活用して答えている。

また CAD 図面などの技術情報をデータベース化し、全国の営業担当者がどこからでも閲

覧できる図面検索システムも構築している。これにより、お客様の問い合わせや要望に素

早く対応でき、図面などを提供する時間も大幅に短縮された。

さらに「is工房」への相談内容は Q&Aとしてデータベース化し、社内どこからでも検索

可能で、営業部門のユーザへのレスポンスの短縮化と技術部門との双方向コミュニケーシ

ョン強化に役立っている。

また、ホームページ上に「風力の is工房」というサイトを運営して、送風機やその周辺

機器の問合せに答えて広く自社の技術やノウハウを公開している。

②技術書類提供システムの構築

さらに、新たに営業向け技術書類提供システムを構築。経済産業省の「IT活用型経営革

新モデル事業」の対象事業に採択されたこのシステムの導入により、従来は 1日から 10日

以上も要していた、顧客や販売店からの設計図面や仕様書等の請求に対し、営業担当者が

最短 10分で検索し回答出来るようになった。

この結果、設計部門は、営業からの問合せが減って、その分設計に専念できるようにな

った。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(4)IT投資とその効果

①顧客や販売店へのスピーディーな対応

同社では、ITを活用した受注生産システムを平成13年に導入したが、そこにとどまら

ず、ITコーディネータを活用して、徹底的な業務の見直しを行い、そこから見えて来た問

題を解決することで、顧客や販売店へのスピーディーな対応と顧客と接する時間の増加を

生み出すことが可能になった。

②ユーザの新規開拓

広く自社の技術やノウハウを公開し、ユーザからの問い合わせから営業展開する仕組み

をホームページ上に作り、新規開拓を行う。

新規顧客の見積依頼は、月に 32.8 件、問い合わせから受注に至った売り上げ実績は、約

5,000~6,000 万円に至っている。

風力の is 工房ホームページ

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①IT投資に対する数値化

スピ-ドが価値を生み顧客満足となる。また、「is 工房」ができてからは若い営業マンも

新規営業に行けるようになった。トップダウンで約 2年がかりで推進したが、こうした IT

投資に対して、その効果が売上げ向上となっているのか、または従業員の努力なのか判ら

ない。IT 投資に対する数値化された指標が有ると良い。

(6)情報セキュリティ対策について

ウィルス対策等セキュリティ対策を一元管理している。また、サーバのハードディスク

は二重化(ミラーリング)になっている。

日次単位でカートリッジテープにバックアップを行い耐火保管庫(0.5 時間耐火試験に合

格)に保管している。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

コンピュータ室内にサーバルームを設置し、さらに両者に施錠を施し管理を二重化してい

る。さらに、ホストコンピュータの設置を耐震構造としている。

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2.8 株式会社シガウッド

所在地 〒526-0834

滋賀県長浜市大辰巳町 151

代表者名 髙橋 文夫 資本金 3,605万円 設立年 1956年 業務内容 建築用木製組立材料(2×4及び在来住宅パネル加工)・木製パレット、

梱包箱製造 従業員数 47人

(1)事業の概要

株式会社シガウッドは、1971年に舶用ディーゼルエンジンと農機具メーカ梱包、木製品

製造の協力工場が4社合併して協業組合シガウッドとして成長発展した。1997年6月、組

織の若返りと、更なる飛躍を目指して「株式会社シガウッド」に組織変更。

当社は、住宅部門として、2×4住宅工法パネルやプレカット材等の住宅構造材の製造、

および建て方工事、物流部門として、木製パレット、梱包箱の製造、および樹脂製パレッ

ト・鉄製ラック、台車、合板加工品等の物流資材の販売を行っている。

特に、2x4住宅パネル生産に関しては、住宅構造材に対して安心と安全を顧客に提供して

いくために、より一層の品質向上と月産 2500坪の生産体制、およびローコストオペレーシ

ョンシステムの確立を目標としている。

また、顧客に2×4住宅を知ってもらうための工場見学会やWebを活用した営業情報な

どを掲載するホームページを作成し、積極的な顧客開拓を行っている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①生産体制の高度化とローコストオペレーションシステムの確立

将来にわたる住宅着工戸数の減少の中で生き残るため、より一層の品質向上のための生

産体制の高度化とローコストオペレーションシステムの確立を目標に、2×4住宅パネル

生産を行っている。

IT導入は、このためのツールとして、受注物件が多岐にわたり、かつ変更も多いため、

ミス無くスピーディー顧客管理と生産及び在庫管理を行う生産管理システムとして構築し

た。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①生産管理システムの導入

2×4住宅パネルの受注物件は、多岐にわたるとともに、住宅の仕様変更などによる変

更も多いため、納入の遅れなどの問題が発生していた。

このため、ミス無くスピーディー顧客管理と生産及び在庫管理を行生産管理システムの

構築を3年前に取りかかり、1年前よりその運用を開始した。

見積-受注-生産管理(一日の作業実績)-原価管理-在庫管理―発送・納品-請求書発

行の一連の流れを効率化するもので、2,500万円を投じ、オリジナルなシステムを構築した。

②ホームページの充実化

顧客に2×4住宅を知ってもらうための工場見学会やWebを活用した営業情報などを掲

載するホームページを作成し、積極的な顧客開拓を行っている。

工場見学会は、納得のいく家を建てようとする消費者や工務店に、2×4住宅を造って

いる現場を見て、その良さを体感してもらい、安心して頂くことを目的として、ビルダー

と当社の営業マンが工場を案内している。

(4)IT投資とその効果

①営業マンのカンを頼りにしていた見積の正確化など業務の効率化

生産管理システムの導入により、コスト管理や在庫管理などの原価管理を行うとともに、

営業業マンのカンを頼りにしていた見積の正確化など業務の効率化に寄与している。

しかし、IT は、ツールであって、クレーム削減や顧客満足度の向上などの日常業務にい

かに活用できるかである。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①従業員教育

従業員の情報化教育が課題となり、10年前から県のパソコン研修会に従業員が参加し、

パソコン操作を取得し、現在1人1台を供与している。

②物流コストの低減化

・物流コストの低減化が大きな課題である。神戸から福井までの関西圏と東海3県が営業

エリアであるが、業者間での共同化が必要である。

(6)今後の取り組みと対応方向

東海地区の同業者との協議会で、生産性の向上や技術のレベルアップなどを進めている

が、マーケットのシェアワークは無理なことではなく、共存共栄を前提とした同業種グル

ープでのローコストオペレーションシステムの構築を検討している。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

また、社内においては、ITも活用しながら、

・ お客様満足度アンケートのご要望、ご意見を速やかに営業活動や製造に反映させる

・ クレーム費用をデータ化して、クレーム低減に向けた根本的な改善改革に取り組む

・ 端材、残材、資源ごみ等の活用

・ 営業経費(車両レンタル費等)の見直し

・ 資材費の見直し(代替品、市場リサーチ)

を重点事項に業績アップの取り組みを推進しているところである。ITは、ツールであって、

いかに日常業務に活用できるかである。

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2.9 八洲電工株式会社

所在地 〒541-0046

大阪市中央区平野町 3-1-10

代表者名 山本 公義 資本金 3,000万円 設立年 1971年 業務内容 プルボックス、ダクト、架台等の製作及び販売 従業員数 106人

(1)事業の概要

八洲電工株式会社は、電気配線の分岐個所などを保護するプルボックスや、配線を保護

するワイヤリングダクト、それに各種の架台などの電気工事付属品を製造販売する会社で

ある。

なかでも主力商品のプルボックスは、国内市場で約 4割のシェアを占めるなど高く評価

されている。

同社は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡など国内 11ヶ所に営業拠点をもち、各

拠点から全国のお得意先へ、きめ細やかなサービスを展開している。

当社は、「最適な商品を、必要なとき、要求の仕様で、適正な価格で届ける」との経営理

念を掲げている。その実現のため、ISO9001の認証取得をはじめ、製販連動型情報システム

の構築や、それと連携した FAX受注システムの導入などを積極的に推し進めてきた。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①「最適な商品を、必要なとき、要求の仕様で、適正な価格で届ける」ことを目標に、情

報システムを構築。

当社が製造販売するのは、建設業の中で配線工事に使用するボックス、ダクト等の金属

製品であり、建設業の低迷化の煽りを受けて総受注量の減少、材料費の上昇による利益の

下落傾向が続いている。

この状況に対応する為には、価格競争ではなく「最適な商品を、必要な時、要求の品質

で、適正な価格で届ける」ということが、生き残る最善の方法であると考えている。

また、全体的な需要が拡大しない成熟した市場であり、従来の製品や販売ルートだけで

は、近い将来において経営規模の縮小が避けられない状況にある。

一方、納期優先(午前中受注で、当日製造・出荷)のため、受注確認、製品検査、配送

出荷や、さらには製造計画の決定のプロセスが正確さを欠いており、約1%(売上高比率)

の受注ミス、製作ミス、出荷ミスが発生しており、品質を確保しながら顧客の要望に応じ

て短納期で納入することが最大の経営課題となっていた。

このため、当社では、ISO9001の認証取得をはじめ、製販連動型情報システムの構築や、

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

それと連携した FAX受注システムの導入などを積極的に推し進めてきた。

また新規事業として、ホームセンター店頭にタッチパネル式の受注端末「まちのかじや

さん(商標登録済)」を設置し、一般のお客様から、規格品や特注品の注文を専用回線で受け

付ける得意の金属加工技術を活かしたビジネスもスタートさせた。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①FAXお助け名人(受発注管理システム)

得意先からの FAXを電子化し DB化し、受注入力後その情報を電子化し、得意先に自動

返信するシステムの構築を図る。

1台のパソコンに、ディスプレイが 2台接続されており、片方のディスプレイには基幹シ

ステムの受注入力画面を表示。もう一つのディスプレイには、画像化された FAX注文書を

表示させている。FAX注文書の画像を見ながら基幹システムで受注処理を行うものである。

画面に表示させた FAX注文書の画像は、拡大/縮小、回転、印刷、文字入力などのほか、画

像の差し替えも簡単に行える。

また、基幹システムで受注入力を終えると、「FAX受注センター」の送信用サーバから、

得意先へ注文請書を自動的に送信できるようにし、受注処理「受注登録~製造出荷処理(伝

票発行、チェック、配布)~顧客への受注回答(回答書作成、FAX送信)の事務処理シス

テムが付加されている。

加えて、製造・出荷現場でも、FAX注文書の画像が確認可能な製版連動型情報システム

であり、IT化により、受注段階で営業所の在庫、及び全国の在庫状況を瞬時に分かる「販

売システム」と受注時点で「生産管理システム」とを結合し、データを送り込むシステム

となっている。

(4)IT投資とその効果

①クレームの大幅減少と顧客満足の向上に寄与

得意先からの FAXを電子化し DB化し、受注入力後その情報を電子化し、得意先に自動

返信するシステムを構築し、クレームの大幅減少と顧客満足の向上に寄与している。

顧客クレームは、従来は受注件数の 1.53%に上っていたが、社内外の様々な業務の進め方

の見直しや注文請書を全件送信するようになってからは、0.13%にまで激減させることが出

来た。

②受注処理の効率化

また、受注処理の事務処理工数が、時間比で約 36%の短縮を可能としている。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(5)情報セキュリティ対策について

ウィスル対策等に関し、ファイアウォール&アンチウィルス GW 等によるセキュリティ対

策を一元管理している。

成功の社外流出防止策としてノート PC は廃止する方向とした他、CD ロム、USB メモリ等

の使用を制限し、社外への File 持出しを規制している。

マスタ及びトランザクションデータは日次単位でディスク又は DAT ファイルによるバッ

クアップを行ない、障害に備えている。また、サーバルームの入退出管理を実施している。

(7)今後の取り組みと対応方向

①新規事業「まちのかじやさん」(商標登録済み)の展開

新規事業として、ホームセンター店頭にタッチパネル式の受注端末「まちのかじやさん(商

標登録済)」を設置し、一般のお客様から、規格品や特注品の注文を専用回線で受け付ける

得意の金属加工技術を活かしたビジネスもスタートさせた。

この顧客の要望する商品を受注できる対面型専用端末システムの開発とWEBによるホー

ムページからの受注を行い新規市場への進出を図ることを推進している。

全国の営業・工場拠点において必要な情報が必要なとき取り出すことができる、情報共有

DBを構築する。

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2.10 ホリアキ株式会社

所在地 〒577-8537

東大阪市長田中 3-6-8

代表者名 堀 隆 資本金 5,000万円 設立年 1954年 業務内容 包装資材、包装機器、産業・農水産資材等の製造、輸入並びに販売 従業員数 120人

(1)事業の概要

ホリアキ株式会社は、1954年に前身の堀昭商店として創業した。1966年に現社名に変更

している。現在までに北は札幌から南は鹿児島まで全国 14カ所に営業所を開設している。

主な業務内容は、包装資材、包装機器、産業・農水産資材、ギフト用包装用品等のデザ

イン企画・開発、製造、輸入並びに販売である。主要商品である輪ゴムだけでも百数十種

類の商品を取り扱っており、全体ではマスタ・ベースで約 2万点の商品を扱っている。海

外の工場と OEM商品の生産を委託し、船便での輸入もしている。

主な販売先は、包装資材業界、農業資材業界、水産資材業界、花卉園芸資材業界、建築

資材業界、食品加工メーカ、菓子製造メーカ、ホームセンター、スーパーマーケットであ

る。

2003年には、ISO14001の認定を取得している。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①あいまいな受注情報

現在、700社の包装資材メーカ取引をしている。メーカ社が似たような商品を生産してお

り、各社がそれぞれの品番を商品に割り振っている。一方、顧客からは「いつもの『あれ』

をください」という曖昧な形で注文が来る。そのため、同社が各メーカ品番を翻訳して、

メーカ発注しなければいけなかった。この商品マスタの翻訳作業は人手と時間を必要とし

ていたので、受注業務の効率化が不可欠な状態であった。

また、ユーザからすると A社は電話、B社は FAXといったように発注方法が何種類もあ

るのは困る。Webサイトなどによって一気に通関できるシステムがあれば、大きなビジネ

スチャンスにもなり得る。

②CIOの考え方

CIOという役職は設置していない。CIOは、ただパソコンに詳しいという人では不十分

で、経営判断のできる人がふさわしい。

業務フローは日々変わっており、それに対応してシステムを構築・改良していかなけれ

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

ばいけない。また、現場しか知らない処理の方法というものが存在する。これらを理解せ

ずにシステムを作ると失敗しやすい。経理は最終的にチェックできるが、販売・管理はチ

ェックできていない。そこまで考えてシステムを組まないとうまくいかないだけでなく、

CIOも機能しないだろう。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①1996年よりネットワーク構築

1996年にルータを導入して、ISDNによるネットワークを構築した。各営業所がそれぞれ

データベースを保有していたので、そのデータを週に一度本社で吸い上げて管理していた。

現在稼働しているシステムは、2002年に導入したものである。サーバを本社集中とし、

各事業所はインターネット VPNの範囲の中で、データクライアントとして、本社のサーバ

にログインし、データベースにアクセスしている。データベースの集中化により、セキュ

リティ・業務の効率の面で能力が向上した。2000年頃にはグループウェアも導入している。

②注文履歴をもとにデータベース化

過去の顧客からの注文履歴を利用したシステムを作った。全体の 90%ぐらいをカバーして

いる。このデータベースを活用することで、受注してから発注するまでにかかっていた時

間を短縮することができた。

③人材研修

以前は、集合研修という形で人材教育を行っていた。現在は、①グループウェアを通し

てマニュアルを配布する、②遠隔操作によって行っている。派遣社員、バイト、社員全員

がグループウェアを通して情報を見ることができる。インターネット VPNでパソコン 1台

1台にアクセスできるので、クライアントのパソコンを誘導しながら遠隔操作できる。

(4)IT投資とその効果

①効果の測定が難しい

IT投資の効果は、後追いの話であって、はっきり見えない。さらに効果を測る指標の設

定が難しい。例えば、自動 FAXの導入などは、作業時間や残業時間が減ったなど目に見え

る部分の効果を計測できる。しかし、事業が拡大していると売上が増加するだけでなく、

紙などの使用量も増えるため費用も増大するといった場合に適切な測定指標の設定は困難

である。

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5.IT導入に当たっての課題とその解決策

①電商取引の難しい業界

業界の特性上、川上のメーカ大きな企業が多く、末端に向けて小さくなっていくため、

メーカよってマスタがばらばらである。さらに、そのマスタはエンドユーザーにわかりや

すいものではない。

書籍の販売では ISBNという共通のマスタがあるので EDIがスムーズにいく。できる限り

だけ広い商材で EDIできる体制を作りつつあるところ。現在までに、3割ぐらいのメーカの

間では EDIによる取引に移行している。発注側と受注側のマスタが合わないことが一番の

問題である。さらに受注の担当者が翻訳してマスタを変えている場合もあり、正確なマス

タがついていないケースが多い。

②商品マスタ

1995年頃把握していた商品マスタは約 3500点。コンピュータに入力していくと 2倍の

7000点存在していた。当時は汎用コードのような形式で処理していた商品が多く、正確に

各商品に商品マスタを振っていくと 1万 2000~3000点にまで増加した。現時点では 2万点

にまで増えている。これは取扱商品が急激に増えたからではなく、メーカ EDIによる取引

をするために、マスタの振り方そのものを変えて商品 1点ずつにメーカ・マスタと同じも

のを使用するように変更したためである。EDIを進めるためには、マスタの登録が正確にで

きるかどうかがネックとなる。

6.情報セキュリティ対策について

①セキュリティソフト

外部に持ち出すことのあるノートパソコンにはセキュリティソフトを入れることで対策

している。盗難されたとしても外部の人間が中の情報を見ることはできない。

②データのバックアップ

データのバックアップは三重、四重に行っている。一方のサーバがダウンした場合には、

もう一つのサーバを使用することになっている。しかし、本社の同敷地内に両サーバとも

あるため、本社と外部のラインが遮断された場合は対応できない。今後は東京あるいは名

古屋といった全く別の場所でのバックアップも考えていかないといけない。メンテナンス

の問題もあるが、あとから予備のサーバから主のサーバにデータ戻す作業を考えるとデー

タセンターに預ける方が良いかもしれない

7.今後の取り組みと対応方向

①Webサイトでの商品別一括注文

Web上で包装資材の商品別注文を一括して行えるシステムを作っていきたい。各メーカら

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

のデータをユーザに提供していくWebサイトの構築を目指している。Webサイトを通して

受注することで、メーカよっては発注方法が異なるというユーザ側の煩わしさも解消でき

る。

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2.11 理化工業株式会社

所在地 〒581-0035

大阪府八尾市西弓削 2-6

代表者名 森嶋 勲 資本金 1,000万円 設立年 1977年 業務内容 各種金属製品の熱処理加工 従業員数 41人

(1)事業の概要

理化工業株式会社は、1969年、現会長森嶋伸好が熱処理加工業を創業しスタートした。

当初は、小ねじの液体浸炭焼入れを行い、1972年当地に移転後、1973年頃には、国内では

他社に先駆けて連続炉でのガス浸炭焼入れを開始した。

品質に重点を置き、タッピングねじの浸炭焼入れにおいて順調にその基盤を築いてきた

が、1980年代、円高による輸出の低迷やコスト競争の激化などにより、他分野への転換を

図ることとなり、現在では約 80%を自転車や自動車、機械、建築などの新分野へ転換した。

この転機に当たっては、「品質管理」を更に高め、新分野の「熱処理技術」を習得する上

で、何よりも人材育成が大切であるということであった。社内教育や資格取得の支緩など

に努め、現在では、総勢 27名のうち、金属熱処理技能士 18名(特級 1名、1級 7名、2級

10名)、品質管理推進責任者 4名、公害防止管理者 1名(大気、水質、騒音)などの有資格

者を揃え、1999年には、「JISB6914」(鉄網の浸炭及び浸炭窒化焼入れ焼戻し加工)の認定

を、2004年 3月には ISO9001:2000の認証を取得した。

今後も、当社での熱処理加工と関連会社での塗装加工を中心とし、外注加工を活用して

の表面処理加工などを幅広く手がけることによって、顧客へ「便利さ」を提供し、「信頼」

に裏付けされた「パートナー」としてお客様とともに歩んで行ける企業であり続けたいと

考えております。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①多品種小ロットの幅広い受注に応えられる体制を目指す

当社は、輸出用の小ネジの焼入れという業務で発展し、この分野がほぼ 100%であったが、

85年の『プラザ合意』以降の円高の進行により、受注が激減した。

新分野への転換を迫られ、そのためには、業務を効率化し、スピーディーな作業指示によ

る短納期を実現しなければならなく、生産管理システムの構築を図ることとなる。

多品種・小ロット・短納期の対応を可能にしているのは、社員の技能と細かい仕事をこ

なしていく意識改革である。このための人材育成に努め、8割の技術者は熱処理技能士の

国家資格を有している。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

もう一つが、業務の効率化と品質を決定する加工条件等のデータ管理の一元化によるス

ピーディーな作業指示による短納期の実現である。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①社内 LANによる情報の共有化と品質管理

顧客情報や加工品情報を予めマスタ登録しておき、入荷の都度、登録情報から入荷入力

を行い、現品票や作業指示書、検査成績書、納品書、請求書などの帳票類を発行するシス

テムで、多品種短納期の要望に対して正確な処理が行われるようにしている。

約 9,000 件に及ぶ熱処理加工条件をデータベースに登録している。社内各部署にパソコ

ンを 10台設置して LAN接続し、多品種にわたる熱処理加工条件の一元化とデータの共有化

を図っている。

このシステムは、Access+Excelのシンプルなシステムで、現場のニーズをくみ取りながら

100%自社開発したものである。

各処理炉別の処理待ち品目数、延べ加工所要時間を自動算出表示させることにより、従

来の手書きと比較し、作成時間の大幅な短縮化を可能としている。

(4)IT投資とその効果

①顧客の確保に寄与

過去には受注の大半を占めていた小ネジ分野の受注比率を引き下げ、機械部品など、高

付加価値分野からの受注拡大を図るために積極的に体質を改善した。現在の顧客の9割が

DB による管理システム導入後の新規取引先となっている。

②ノウハウ(知識技能)の伝承に寄与

作業指示書は、Access から Excel へバーコードを介して転送しており、誤入力の防止や

作業の効率化を図っている。また、指示書には必要な注意事項などが明記され、作業者に

対しての正確な作業指示のみならず、ノウハウ(知識技能)の伝承にも大変役立っている。

③企業間ネットワークの構築にも寄与

IT 化により顧客や同業者(外注取引先)との連携を深め、自社技術だけでなく、協力会

社の技術も含めた複数の加工技術での注文を受け、全ての加工を完了した製品を納入する

便利屋としてのビジネスモデルも実施しており、複数技術を取りまとめることによる短納

期化、管理コスト低減のメリットを取引先に提供している。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①現場からのニーズを聞きながら開発

トップダウンで進めたのではうまくいかない。現場からのニーズを聞きながら開発して

きたことで、現場作業者もシステムの理解が深まり、積極的な改善要求を行うようになっ

ている。

こうした現場ニーズに対応し、より使いやすい用に改善していく事が必要である。

②安価なデータベースソフトを活用

大がかりな生産管理システムも存在したが、導入コストが数千万円単位になるため、中

小企業ではその導入は難しい。安価なデータベースソフトを活用することが得策と考え、

マイクロソフトの Access+Excelを組み合わせたシステムを、関連書籍を購入し VBAを独

学し試行錯誤を繰り返して、自社開発したものである。

(6)情報セキュリティ対策について

サーバのハードディスクは二重化(ミラーリング)し、日次単位で複数の CD-RWにバッ

クアップを取り、複数の場所に保管している。

また、人事、経理など、機密データは、暗証番号が必要なロックシステムにより、担当

社員以外の社員による閲覧は不可としている。

ウィルス対策用のソフトを導入し、データの保護を図っている。

(7)今後の取り組みと対応方向

IT 化により顧客や同業者(外注取引先)との連携を深め、自社技術だけでなく、協力会

社の技術も含めた複数の加工技術での注文を受け、全ての加工を完了した製品を納入する

便利屋としてのビジネスモデルも実施している。

熱処理のみでなく、企業間連携により自社製品の開発を推進していくことを考えている。

その1つに大阪府立大学の協力の下に、工場での水耕栽培など廃熱利用の研究に取り組ん

でいる。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.12 太洋工業株式会社

所在地 〒640-8390

和歌山市有本 661番地

代表者名 細江 美則 資本金 7億 9,325万円 設立年 1970年 業務内容 電子基板事業、基板検査機事業、プローバー事業、エレクトロフォーミ

ング事業、鏡面研磨機事業 従業員数 310人(派遣社員含む)

(1)事業の概要

太洋工業株式会社は、1960年に捺染用ロール彫刻及びめっき加工の対米輸出工場として

設立された。1981年よりプリント配線板製造を開始している。

主力事業は、ポリイミドなどの材料を使った、フレシキブルプリント配線板(FPC)の製造・

販売である。通常の家電製品には折り曲げることのできない基板が入っているが、FPCは

携帯電話、デジカメ、ノートパソコンといった小型化されたデジタル家電のよく折りまげ

る部分に使用されている基板である。一面に銅箔が貼られた基材にエッチングという手法

でパターン形成し、ハーネス(基板と機器本体を接続する配線)を代替する役割を果たしてい

る。

部品製造は、大きく「試作」と「量産」の 2つに分けられるが、同社は「試作」を手掛

けており、小ロット、短納期、多品種製造に強みを有している。

本社工場の他、東京事業所、川崎事業所、九州事業所、上海連絡事務所にて事業展開を

している。子会社は、和歌山市内に株式会社ミラック、タイに太洋テクノレックス(タイラ

ンド)株式会社がある。本社工場、東京事業所、川崎事業所は、ISO9001、 ISO14001の認証

を受けている。

2.IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①生命線である工程管理

FPCの試作は、少ないもので 6~8工程、通常は 20工程ぐらいに分かれる。各工程には 1

日に処理できるキャパがある。計画を立てているスタッフが 20数名いるが、システムを使

ってもの作りの計画を立てていく中でキャパを管理していかないと、部品が溢れてしまう

とか極端に少ないといった事態が生じてしまい、無駄が発生する。したがって、キャパの

範囲内でものづくりするように計画を立てる必要がある。

同社は 1日に 60~70種類の試作製品を扱っており、進捗管理が重要であることから、早

くから情報化に取り組んできた。

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3.IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①各種システムを順次導入

1984年にコンピュータ図形処理システム導入(TAIYO CAD SYSTEM-Ⅰ)、1998年 6月にフ

レキシブルプリント配線板生産情報管理システム(TAPICS-Ⅰ)、2002年 6月に外観検査シス

テム(AOIシステム)を導入している。

②生産管理システム

生産管理システムは 1998年に導入して、1999年から本格稼働している。このシステム導

入の目的は、システム化することでデータを一元化し、各種手配書、指図書、依頼書、注

文書の情報を出力し、製造の進捗、出荷管理、見積基準等の情報も管理し、作業の標準化

を計ることである。導入以前は、注文書、仕様書、外注先への依頼書、指示書は全て紙ベ

ースであった。そのため、一つの情報を伝えるためには、全ての外注先、工場、設計部門

のそれぞれに同じ指示をしないといけない状態であった。

主に FPC製造を担当している部署に導入した。営業とも連動しているので、受注した品

目が大まかにどのような仕様であるといった情報が入力される。その後、より具体的に材

料や仕様が決まる。ただし、経理はこのシステムとは別システムとなっている。納品書・

伝票等のデータは経理担当者が入力している。

③情報化の責任者

システムは複数の部署の業務にまたがっているので、営業、企画、設計の各部署の責任

者が情報化を担当している。

④従業員への教育について、

システムの導入にあたり、ベンダーから入力画面のイメージを使った説明があった。し

かし、システムの利用に関しての説明会の場を特別には設けていない。システムの構築に

際して、画面イメージで、どのような入力窓を作って欲しいといった要望をベンダーに伝

え、システム作りを進めてきた。

⑤部署間で情報を共有

情報化は部署毎ではなく、全社的に広く浅く進めてきた。まず、手書きの依頼書、指図

書を集めて、コンピュータでデータ入力するところから着手した。どの部署からもこのシ

ステムにアクセスすることができる。システム導入により、指図の重複を回避できただけ

でなく、移動伝票を動かす手間も省き、工場のキャパの管理もできるようになった。さら

に、部署間で日程の共有化と進捗状況の管理・確認が可能である。

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⑥リピート品の作業が迅速に

現在、1日に 35~40の新規試作を手掛けているが、それと同数のリピート品の試作をも

行っている。しかし、リピート品であっても、数量、工程、納期が変わる場合もあり、見

積金額も変わってくる。過去のデータをそのまま使えるわけではなく修正が必要となるが、

図面作成から全て手作業の場合と比べてスピードアップを図れている。

4.IT投資とその効果

①効率的な計画書の作成

システム導入以前は各工程の生産計画を人が記入して計画書を作っていた。一度計画書

を作成した後で、他の工程との兼ね合いで計画書をもう一度作り直すといった無駄が生じ

ていた。システム導入により、キャパを超えると警告が出るので計画作りも効率的になっ

た。

②スピードアップ効果

導入当初は使い慣れていない部分もあったので、効果が出てこなかった。しかし、リピ

ート品(一度作ったものを同じ内容で追加投入する製品)のケースで特に大きな効果があっ

たと実感している。紙ベースの時には、新たに全ての指示を紙面に書き直すために初回の

製造時と全く同じ作業時間がかかっていた。システム化した後は、過去のデータを再利用

できるので、作業のスピードアップが進んだ。

もう一つの効果としては、「見える化」が進んだことである。以前は資料を探すことに時

間がかかったが、現在では過去の作業をすぐに確認できる。

5.IT導入に当たっての課題とその解決策

①システム導入直後に苦労した点

一番苦労した点は、各部署から出されたシステムへの要望のとりまとめである。各部署

からの出された要望を整理して、システム化していく中で、入力する部署とそのデータを

使用する部署の関係づけ(例えば、見積りを作成する部署とその見積りを顧客に見せる部署)

が難しかった。ベンダーも入り、各部署との綿密なヒアリングを経て、部署間の調整をし

ていった。今後の課題は、販売管理と生産管理の連携である。

また、従来の手書きからデータ化していく難しさもあったが、担当しているスタッフに

比較的若手が集まっていたことも IT化にとってプラスに働いたかもしれない。

6.情報セキュリティ対策について

①データを細分化してアクセス権限を付与

関連部署のみが詳細データにアクセスすることが可能となっている。営業部門が見るこ

とのできる部分、生産管理部門が見ることのできる部分、設計部門が見ることのできる部

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

分といったように細分化して、アクセス権限を与えている。

生産企画課の担当者がシステムの保守管理をしている。この担当者がベンダーと一緒に

システムをカスタマイズしてきた。2008年 5月に予定しているシステムの変更に合わせて

セキュリティを強化する。システムを使うことのできる人を制限する方向で調整している。

7.今後の取り組みと対応方向

①大幅なシステムの変更を計画

これまでにシステムの大幅な変更はなく、各セクションでシステムのマイナーチェンジ

に取り組んできた。1年に 1~2回は工場毎に改善点をまとめ、ベンダーと打合せをして改

良してきた。とりわけ、情報入力でメインとなる生産企画課は、毎年必ずバージョンアッ

プをしてきた。追加変更を繰り返してきたが、追加したことによって不要になった機能を

省く作業はやってこなかったので、現在のシステム内には使われていない機能も残ってい

る。そこで、2008年 5月を目処に不要な機能を削減する作業を進めている。

同一情報の入力を複数箇所に必要な場合、全てに入力されていないことによるトラブル

も報告されている。データを 1箇所に入力するだけで、同一情報を入力しなくても済むよ

うにシステムを見直す時期に来ている。

2008年度に実施するシステムの変更は大きなものになる予定である。事前にレイアウト

についても技術者達からも意見を聞いておくことで、変更後の大きなトラブルを避けるこ

とができる。

②EDI導入も要検討

現在までのところ、外注相手(20社)と生産管理システムをつないでいない。資材の電子発

注はほとんどない。しかし、今後は顧客から EDIの導入を勧められることが増えていくと

予想している。

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2.13 湖北工業株式会社

所在地 〒529-0241

滋賀県伊香郡高月町高月 1623

代表者名 石井 太 資本金 5,000万円 設立年 1959年 業務内容 アルミ電解コンデンサ用リード線端子製造・販売、大型アルミ電解コン

デンサ用端子版製造・販売、光通信用部品の製造・販売 従業員数 310人

(1)事業の概要

湖北工業株式会社は、1959年、伊香郡高月町に湖北工業株式会社を創業以来、アルミ電

解コンデンサ用リード端子の製造販売を専業として、事業を拡大してきた。

創業当時、電化製品の普及に伴う必需部品として多様なニーズが見込まれていたアルミ

電解用リード端子の未来にビジネスチャンスを見出し、その量産を確立すべく工場設備や

機械類の自社開発に取り組んできた。その開発戦略が技術ノウハウ等の流出を防ぎ、さら

なる技術努力の積み重ねによる工場生産設備の独自性が競争力の源泉となり、国内で初め

て、従来手作業であったアルミ電解コンデンサ用リード線端子製造の完全自動化に成功し

た。

この 100%自社開発の高生産性を誇る自動機械および生産設備を武器に、1987年にはシ

ンガポールに子会社を設立。以降 1993年に同じくシンガポール、1994年にマレーシア、2001

年には中国に子会社を設立し、トップメーカーとしてのグローバルな展開を図っている。

当社は、こうした独自開発の機械設備により高品質、低コストを達成し、多数の海外拠

点ネットワーク(中国、マレーシア等)を駆使した供給体制を武器に、月産 60億本のアル

ミ電解コンデンサ用リード線端子を生産し、世界シェア 50%、国内シェア 50%を獲得して

いる。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①「made in market」に対応したグローバルネットワークの構築

エレクトロニクス製品に欠かせないコンデンサの主要部品「アルミ電解コンデンサ用リ

ード端子」の製造販売を行い、世界シェアの 50%を誇っている。

海外需要へは、当初は輸出で対応していたが、輸出では顧客が希望する納期の対応がで

きないことや物流コストが船便とはいえ当然係ってくることから、一定の規模の注文が取

れるのであれば、その地域に進出することとなった。

1980年代に、シンガポール、マレーシア、タイを中心に、日本のコンデンサメーカー6

社が進出し、この需要に対応し、1987年にシンガポールに会社を設立したのが海外進出の

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

最初であった。

その後中国が経済界改革開放政策を行い、1990年代に、台湾、韓国のコンデンサメーカ

ーが中国に進出した。特に台湾から中国へ進出した会社は、マザーボードなども生産して

おり、コンデンサの需要が多く、このコンデンサメーカーに納品する必要があり中国への

進出を行った。

現在では、当社製品の9割が海外生産となっており、本社では約1割の生産量で、高付

加価値品、高級品を生産し、海外工場は量産品で価格を抑える必要があるものを生産して

いる。

当初の進出目的は、そこに市場があるから進出したが、日本国内の納品においても、高

いものから、安いものまでニーズがあり、日本国内の生産ではどうしても実現できない価

格を、海外で生産し日本国内で販売することで、新たなメリットが出てきた。中国の場合

は近いので納期も対応し易く、クリーンルームを備えた工場で、光ファイバアレイの生産

も行っている。

こうしたことから、きめ細かなサービスを実現するグローバルなサプライネットワーク

の構築が必要となっている。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①サプライネットワークの構築

以前は、FAXで一週間、一ヶ月単位で生産管理であったが、顧客の要求は高度化し、最

近では環境対応への要求も多くなり、スピードも求められ、海外工場への迅速な指示が求

められている。

このため、マレーシア工場のサーバをキーに、専用線で生産管理を行い、工程の効率化

とスピード化への対応を図っている。

海外生産拠点とは、営業、生産、技術の基本的なところは本社がコントロールしている。

現地には、総経理や品質保証の責任者として、日本から 3~4人が出向している。

海外工場からも毎日、日報で状況が報告され、本社も遅れ無く状況把握を行い、生産管

理を実施している。

当社の販売ベースは、日系企業が 38億本、台湾系が 15億本、韓国系および香港・中国

系が各 5億本である。

(4)IT投資とその効果

①スピード化と工程の効率化を実現

海外の各工場の生産状況を迅速に把握することにより、顧客への納期のスピード化に資

している。

また、稼働状況による生産指示を行うことにより、工程の効率化を図り、無駄のない生

産管理を実施している。

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(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①IT化は、重要な経営資源の1つ

IT化は、単に1+1が2といった効果ではなく、重要な経営資源の1つである。

ものづくりが東アジアに展開し、日本の重要なものづくり技術・機能が失われていく感

がある。ITを活用し、日本ならではの、日本発のものづくりネットワークが構築できない

かと考えている。

(6)情報セキュリティ対策について

平成 18 年 7 月に知的財産部を立ち上げ、服務規程において秘密保持を徹底している。

また、当社には 50~60 件の特許を有しており、生産設備の根幹はブラックボックスとして

いる。

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2.14 株式会社マザーズ

所在地 〒577-0046

大阪府東大阪市西堤本通西 1-7-12

代表者名 大本 親吾 資本金 2,000万円 設立年 2000年 業務内容 発電器設備、蓄電池設備、立体駐車場設備の製造販売 従業員数 10名

(1)事業の概要

株式会社マザーズは、立体駐車場メーカしてスタートし、顧客ニーズ対応したオリジナル

な多段式立体駐車場を始めとし、ダニ駆除装置”ダニバスター”、屋上に多目的スペースを

提供する”屋上ガーデン”、介護者の負担を大幅に軽減する全自動介護用ベッド”21セン

チュリー” 様々な分野の商品を開発する一方、設立当初から“地球環境保全”をテーマに

“風力・水力による公害ゼロの2次発電器”の研究開発に取組むベンチャー企業である。

小型風力発電事業は、将来性の高い事業であるが、現在の当社業務を支える収益事業は、

駐車スペースに合わせて機械の幅・奥行きを本体価格内でカスタマイズ出来るオーダーメ

イド家庭・業務用立体駐車装置の製造販売である。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①インターネットの充実は、ユーザ自体が簡単にメーカとやりとりができる時代

立体駐車場の設置は、これまでは設計事務所や工務店が卸を介して個人ユーザに設置し

てきたが、インターネットの充実は、ユーザ自体が簡単にメーカと直接やりとりができる

時代となった。

以前は、個人ユーザが直接メーカに問い合わせることは、不可能であったが、インター

ネットを介して、ユーザの希望するものを、製造メーカがユーザーニーズに合わせ設計・

製造した商品を提供できる。

個人ユーザには、元々製造メーカへのオーダーメイドを提供して欲しいニーズがあり、

インターネットの充実がこれを可能にしている。

当社では、こうしたニーズに対応し、ネットでのわかりやすく仕様と販売価格、運送費

を提示し、オーダーメイド家庭・業務用立体駐車装置を低価格で提供している。

一方

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(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①Webサイトを使った個人ユーザからの立体駐車場の直接受注。

立体駐車場の設置を考えている個人ユーザにWebで手軽に導入を検討できるように、基

本図面と施工例、設置写真をアップし、わかりやすく設置費用を提供し、駐車スペースに

合わせて機械の幅・奥行きを本体価格内でカスタマイズ出来るオーダーメイド家庭・業務

用立体駐車装置の製造販売を行っている。

たとえば、地上 2段式立体駐車場は、標準仕様(三相 200V動力・単相 200V、100V家庭用

電源対応版)で、本体価格 680,000円(税込)であり、これに輸送費(大阪で2~3万円)

を加えた価格で施工している。

また、顧客の声による、低価格化とマイナーバージョンアップなど顧客ニーズを反映さ

せた仕様変更にも応えている。

(4)IT投資とその効果

①社内でホームページを作成・管理

ホームページの作成・管理や更新は、社内で行っている。研究開発や製造の合間に、行

っている。

会社自体の日も浅く、販路開拓の人材要員も不足する中で、IT は有能な販売要員である。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①顧客の懲り起こし

直接製造メーカへのオーダーメイドを志向し、立体駐車場の設置を検討する個人ユーザ

が当社のホームページにうまくヒットする工夫が必要である。

(6)今後の取り組みと対応方向

①立体駐車場と風力発電のセットでの普及

立体駐車場と風力発電をセットした設置ニーズもある。当社は、サボニウス型都市型小型

風力発電システムを製造販売しており、立体駐車場と風力発電セットで普及していきたい。

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2.15 株式会社オーミヤ

所在地 〒578-0922

大阪府東大阪市松原 1-2-42

代表者名 道野 龍治 資本金 1,030万円 設立年 1958年 業務内容 給排水機材・農事用品の製造販売 従業員数 50名

(1)事業の概要

株式会社オーミヤは、砲金・真鍮の金属加工を得意とし、自社で試作や別注品加工がで

きる熟練の技術者と量産体制のための独自に開発した専用機や最新の NCライン・マシンニ

ングを有し、水道配管用金属継手・バルブ部品・農業用噴霧機ノズル製品の開発と製造販

売を行っている。

これらの製品の開発から試作、厳密な製品検査、改良、量産システムの提案までのプロ

ジェクトを、豊かな経験と実績により他社にないスピードで実現している。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①ベテラン技能の経験値のデータ化

製品の製造工程でのロー付け作業は、厳しい作業条件の中での「見た目・カン・コツ」

といった経験値によるベテランの技能に大きく依存していた。

大手輸送用機械メーカ大量の部品発注の要請があり、ロー付け作業の電気炉による自動

化の可能性を模索していた。

電炉でのトライは、製品のバラツキ、強度不足、ローの流れすぎによる不安定さなどの

問題を抱え、多くの歩留まりを発生させていた。かつ製品は、見た目では判らずに、破壊

しないと判らずその対応に苦慮していた。

そのような折、立命館大学の技術シーズ説明会の参加を契機に、同大学の坂根教授のハ

ンダの信頼性研究を知ることになった。

産学コーディネータを介して、坂根教授を紹介頂くことになる。先生は、半導体のロー

付けが専門であり、100%の結果は困難かもしれないとの前提であったが、半年のスケジュ

ールで、研究がスタートすることとなった。

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(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①熟練技術者の「カン・コツ」を数値化

立命館大学坂根先生の指導の下、現場に測定機器が持ち込まれ大学院生が月2回、作業

者と、様々な条件を設定し数値化への取組を開始する。

ロー付けの最適化に向け、フラックス分布や炉の温度、時間、製品の並べ方やかさ上げ

の間隔、炉に入れる製品の個数、フラックスの種類など、多岐にわたる条件を仮設設定し、

検証していった。

当初予定の半年間の適正化研究は1年間に延期され、多様な条件設定による実証分析が

繰り返された。

ロー付けの最適化への要因は1つではなく、多様な要因が複雑に絡み合っている分析成

果とその数値化が図られた。

(4)IT投資とその効果

①生産性の向上のみならず、理論的な知識を取得

ロー付けの最適化への多様な要因が明らかになり、熟練技術者の「カン・コツ」から根

拠をもって加工することが可能となった。このことは、生産性の向上のみならず、理論的

な知識を得、顧客との商談もスムーズに行われるようになっている。

②技能伝承へ寄与

ロー付け作業は、作業環境が厳しく、技術者の高齢化と若手技術者の定着化が困難にな

っている中で、電気炉によるロー付け作業の最適化データは、技術継承に役立っている。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①産学連携による課題解決

短期間に自動化できるものは、中国にも流れていくとの考えから、熟練のカンやコツの

自動化が容易に出来るものとは、考えられなかった。「ダメもと」で、大学の門を叩いたが、

この結果、ロー付け加工が様々な要因が複雑に絡み合って可能になっていることが明らか

になった。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.16 株式会社栗原

所在地 〒550-0004

大阪市西区靱本町 2-7-6

代表者名 栗原 裕 資本金 4,800万円 設立年 1951年 業務内容 帽子の企画生産及び卸売事業、直営小売事業 従業員数 93名

(1)事業の概要

帽子業界で No1の実績を誇る株式会社栗原は、1922年に大阪の船場にて帽子の卸売業と

して創業した。既に 40年前になるが、レナウン・オンワードを見て、自社ブランドを持つ

にはどうすれば良いかを考えてきたが、知名度を獲得するまでには、他業界や失敗に学ぶ

という経験の積み重ねであった。

売上増進策として大型スーパーD社との販売提携を行い、一時期は当社の売上の 40%を

占めるまでの取引量まで膨らんだ。しかし、その拡大化が仕入方針の変更等により、当社

の在庫が過大となり、軌道修正せざるを得なくなった。

1社への集中した大量取引ではなく、複数の企業とのバランスの取れた取引をするため

には、商品の独自性が必要になり、そこでメジャーリーグやスポーツブランドの使用権を

取得して商品開発を重ねた。

これまでに培った生産ノウハウと独自商品を持って他の大手企業との取引を拡大して、

方向転換を図ることができた。また、1999年には、顧客情報をキャッチアップする必要性

から、原宿に初の店舗展開を行った。現在では、直営小売店舗 37店舗を運営するに至って

いる。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①IT化への取り組み

20年程前にオフコンの導入が盛んになったが、中小企業のレベルで2~3億円もコンピ

ュータに注ぎ込んでも実効が上がっていないということを聞いていた。また、将来は安く

て簡単なパソコンに移行するということに気づき、何とかパソコンで当社の仕組みを作れ

ないかと試行錯誤した。

2001年に西岡 IT塾への参加を契機に、指導者を得て現在の仕組みが定着した。この間の

企業成長を、効率的に無駄なく運営できているのも社内の IT化によるものだと思っている。

②経営戦略に基づく IT化推進

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

当社の IT化推進としては、IT化に当たって将来どのようにするのかという経営戦略・経

営課題を先ず明確にしてから取り組むことが重要であった。

業務と情報システムは車の両輪であって一方だけを先行させるのではなく、改善レベル

を越えた業務革新に取り組み同時進行でそれに適合する IT化を実行することだと考えてい

る。従って、旧来の経営手法や管理手法、営業の進め方等を一新した。

②在庫管理の徹底と物流効率化の推進

当社は毎年約2万アイテムの新たな商品を扱っており、3年間に6万アイテムとなる。

これを管理して、古い商品を早く出荷し新しい商品を在庫するような営業活動を展開でき

るだけの IT能力が必要となる。このため、2000年に商品センター業務を外部委託し、ロケ

ーション管理と単品バーコードシステムを導入し在庫管理の徹底と物流効率化を進めた。

③受注管理と営業管理システムの構築

また同時に、完全な在庫把握と共に受注を一括して引き受け迅速に顧客対応するために

受注センターを設けた。これにより、営業マンは販売促進に集中できるようになった。

2001年には、更に営業支援システムを導入して営業マンの生産性と営業の質の向上を図

っている。

同時期に、ショップ管理システムを導入して1週間単位での POSデータを開発・生産に

フィードバックしている。

その後、グループウェアを導入し、全社員のスケジュール管理や掲示板等、情報共有に

活用している。2002年には、管理会計システムを導入して経営体質の強化と人材育成に役

立てている。

2003年に仕様書・CAD・SCMシステムを導入したが、この SCMシステムが 2002年度の

IT活用型経営革新モデル事業に認定されたものである。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①国内外 SCMシステムの確立

帽子業界は、市場の動きが早い業界であるだけに売れ行きと在庫状況から判断し、迅速

に材料手配、工場生産対応~入荷までのリードタイムを大きく短縮することが求められる。

そのためには、それぞれ独立企業の製造工場(国内・外)と材料仕入先と卸・小売との間

の情報を一元的にネットワーク化することが不可欠となる。

そこで、有力パートナー先に呼びかけ、連動するトータルシステムとして、共に経営効

果を高めるものとする。

・ パートナー工場(海外、国内)と生産依頼情報、依頼回答、製品発注、支給材料、生産実

績情報、出荷報告をWebにて共有化。

・ 小売店舗の顧客の声を帽子デザインに落としこみ、商品化し販売できるように海外工場、

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

国内工場との情報共有を進め(SCM)トータルリードタイムの削減を図る。

・ トータルリードタイムとは①市場変化に即応(売れ筋を作る)、②意思決定の迅速化、③

過剰在庫の抑制④有力工場、資材調達先とのパートナーシップの確立である。

・ テレビ会議システムを活用した東京・大阪間の連携(営業・商品企画・生産)

・ 店舗情報を基にした企画会議

・ グループウェアによる社内情報活用

(4)IT投資とその効果

①トータルリードタイムの短縮に寄与

i 発注から納入までの所要日数がわかり、トータルリードタイム短縮への努力が現

れている。

ii 仕様書連動により原材料、副資材発注が効率化されている。

iii パートナー企業との協力が拡大し、相互信頼関係が築かれている。

iv 弊社小売運営における実売動向に基づく QR 生産体制の確立が可能となる。

v 得意先とのパートナーシップ構築により実売動向に基づく発注対応が可能となる。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

いかに SCMを活用していくかにあり、現在、製版連携システムと商品企画システムを開

発している。加えて社員風土改革運動を行っている。

小売は流動的であり、シーズンの予測見込み、売れ筋商品の品薄の回避など小売情報か

ら必要なデータを選択し、スピーディーに顧客に提供できる「経営情報トータルシステム

構想」を推進しているところである。

(6)情報セキュリティ対策について

情報システム、セキュリティに関して一元管理を実施

(7)今後の取り組みと対応方向

高額なため導入には至っていないが、ICタグの研究を行っている。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.17 アンドール株式会社

所在地 〒662-0918

兵庫県西宮市六湛寺町 12-10

代表者名 岸村 裕子 資本金 4,800万円 設立年 2000年 業務内容 婦人衣料下着の企画、製造、OEM販売 従業員数 10人

1.事業の概要

アンドール株式会社は、「すべてにおいて超一流のクオリティを」を目標に、デザイン・

パターンをひとつひとつ起こし、素材選びから縫製、品質管理、納品までを一貫して行う

婦人下着の製造・販売メーカある。

製造部門として中国・大連に協力工場をもち通販会社等の OEM生産をはじめとする顧客

への生産体制を有している。

オリジナル商品は、YAHOO!JAPANへの出店によるネット販売を行っている。

2.IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①生産の精度向上と生産工程の短縮化による業務の効率化を目指す

当社は、2年前に経営の悪化に陥った。経営改善には、顧客ニーズにいかに迅速に対応

し競争に勝ち抜くかであり、そのために必要なことは、顧客ニーズである小ロット多品種

への対応であった。

デザイナーの作業は依然としてアナログである。そして多くのデザイナーは手書きの習

慣がある。しかし、デザイナーが手書きであることは、個人ごとに描く表現方法にばらつ

きが発生し、下流工程の効率化が図れない。また、使用する素材・部品も多岐にわたるた

め、アナログ作業には限界がきていた。一部のデザイナーはその点に気がつき始めている

が、使用できるソフトウェアはイラストレータ程度であり、十分にデザイナーの要望や機

能を果たせていなかった。

また、デザイナーが一度作成したデータや、パーツデータのベース作業は、再活用でき

るにもかかわらず蓄積ができていないため、新しい業務を行うたびに企画書をそのつど作

成していた。また、企画書や生産指示書等を手作業で作成しているため、伝達間違いや勘

違いなど生産部門との行き違いも起きていた。

加えて、顧客ニーズが多様化し、春夏物と秋冬物の年間2回の供給が、現在では春夏、

夏、秋冬、冬、と季節ごとに年4回の供給になっている。年間4回の供給体制を取ると、

季節ごとの商品が輻輳し、業務プロセスは一層煩雑になり、ミスの発生を招くことになる。

企画書を元に製造部門では、型紙の作成、縫製仕様書作成、材料調達、そして生産出荷

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

指示書作成等を行っている。しかし、デザイナーと製造部門との情報の行き違いや記入ミ

ス、漏れが発生すると品質及び納期に大きな影響を及ぼす。

3.IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①デザイン企画書関連情報システムの開発

デザイナーの作業である生産工程の上流からデジタル化を図り、下流までの情報の流れ

の円滑化を図るため、各部位をパターン化し、データベースとして登録し、各部位に必要

な資材情報等をデジタル化した。デジタル化されたデザインや部品図、デザイン企画書等

をサーバで管理する。

②生産・業務管理情報のシステム開発

デザイン企画書から、生産に必要なデータ抽出を正確に迅速に行い生産時間の短縮と迅

速で正確な見積書を作成するため、サーバにあるデザイン企画書等を元に、必要資材の調

達や縫製確認、商品構成表等の帳票作成ならびに、見積書の作成を早く正確に行う機能と

した。 生産管理情報までデジタル化でき、海外(中国)工場とのデジタルでのデータの交

換も可能になり、生産性が一気に向上した。

③売上管理用のデータベース開発

社内業務の上流から下流全体がシームレスにつなげ、売上管理の円滑化を図るため、売

上管理用のデータベースができると、それを元に伝票発行や債券の管理を行い、正確に迅

速な業務処理を行えるものとした。

4.IT投資とその効果

①企画から生産開始までの工程の短縮化

デザイナーチームの一人あたり平均残業時間が、月40時間から10時間に短縮される

など、企画書作成作業の短縮化と工場への依頼書類作成時間が大幅に短縮化され、業務効

率化に寄与している。

②熟練していない社員でも、規定のデザイン画の作成と変更ができる。

部品のパターン登録により、熟練していないデザイナーでも一定のレベルのデザインが

短時間で描けるようになった。

③見積書の作成時間の短縮

従来の見積り方法は紙ベースで行っていたが、見積りに必要な情報がデジタル化され大

幅な作成時間の短縮化をもたらしている。

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(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①顧客へのスピード対応

これまでは、デザイナーと製造部門との情報の行き違いや記入ミス、漏れが発生すると

品質及び納期に大きな影響を及ぼし、顧客へのスピィ-ディな納期対応を阻害していた。

今回の職人技のデジタル化によって、4シーズンに対応した企画デザイン開発や小ロッ

ト・多品種化へのスピーディーな対応を可能とし、飛躍的な業務改善が図れた。

(6)今後の取り組みと対応方向

今後の取り組みとしては、今回構築したシステムを引き続き育てていくことである。加

えて、当社の有する技術、ノウハウ、人材、組織力、経営理念、ネットワークなど財務諸

表には表れてこない、見えにくい経営資源である「知的資産」をまとめていきたい。

この「知的資産」は「知的財産」とは異なり、どんな会社でも持っている「経営資源」を

目に見える形に掘り起こすもので、自分達の会社の新たな発見にもなり、また対外的なア

ピールにも活用できる。

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2.18 株式会社サカエヤ

所在地 〒525-0046

滋賀県草津市追分町 1247

代表者名 新保 吉伸 資本金 300万円 設立年 1999年 業務内容 食肉販売、加工 従業員数 5人

(1)事業の概要

1999年にラ・ベル・アヴァンスを設立し、2006年に株式会社に改組し、社名を現在の株

式会社サカエヤに変更した。現在、草津駅前店、アルプラザ草津店、南草津店、新旭エス

パ店の 4店舗を展開している。

こうした店頭での販売に加え、近江牛のネット通販を手掛けている。現在、Webサイト

上で、ホームページ「近江牛ドットコム」「牧場レポート」「トレーサビリティシステム」「ム

ービーレポート」>を開設している。「近江牛ドットコム」は、登録商標出願中である。昨今

の食品に対する不安が広がる中、安全性をアピールすることで、売上を毎年伸ばしている。

2007年には外部業者も入ってホルモン専門の新会社、株式会社 アヴァッツを設立。近江

牛もつ鍋家「右近」を草津駅前ショッピングセンター内に開店した。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

◎BSEで窮地に

2001年に BSE(牛海綿状脳症)問題が取り沙汰され、ニュースのあった翌営業日から注

文はゼロになった。売上が全く立たない経たない状況が続いた。それまでは店舗の売り上

げは好調であったが、落ち込み始めたため、インターネット販売に頼らざるを得ない状況

に追い込まれた。そこで、2002年から 2003年にかけて 12の牧場を社長自らまわって取材

し、データベースを自社で構築した。

①HP上で安全宣言

国の BSE安全宣言が出る前に、同社が先駆けて HP上で BSE安全宣言を行った。2003年

にはトレーサビリティや肥料も公開した。当時、こうした取り組みを行っていたのはサカ

エヤだけである。2004年からは動画の配信をスタート。生産者の生の声や牛の牧場での様

子を公開した。同時にブログを立ち上げ、仕入れも全て公開に踏み切った。2006年には 24

時間のライブカメラを近江牛放牧場、繁殖牛舎、分娩舎、子牛牛舎の 4箇所に設置して、

動画を配信している。出産シーンといった様子も顧客に見てもらっている。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

②安全性という付加価値

売上最優先では、安全性を確保できないと考えている。生産量に見合った売上を保つこ

とが重要である。売上より安全性を重視しており、HPでの情報発信以外、広告は出してい

ない。店頭などの張り紙広告は見てもらえないが、ネットで情報を流せば見てくれる人が

多いことが分かっており、効果的である。

③大手企業にはない極め細かさ

大手企業が真似できないことに取り組むことが不可欠である。現在、3つの牧場のお肉は

責任をもって販売している。牧場の取り組みもネットで公開しており、細かい仕事で差別

化を図っている。

③マイナスの情報も提供

価格だけでなく、牛の病歴といったマイナスの情報も全て公開している。これが結果と

してクレーム「ゼロ」に結びついている。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①ホルモン専門の通販サイト

2001年 2月に「近江牛ドットコム」、同年 4月に「ホルモンドットコム」の HPを開設し

た。当時、ホルモンを通販して欲しいとの要望があったが、通販サイトは存在しなかった。

そこで、ホルモン専門の通販サイトの立ち上げを決意した。

本当は「horumon」というドメインを希望していたが、すでに取得されていた。どうして

も「ホルモンドットコム」が欲しかったので、「holumon.com」のドメインを取得した。この

サイトは好調な滑り出しを見せ、サイト開設後の 1ヶ月間に 30万円の売上を記録した。多

くの顧客がリピーターとして現在でも同サイトを利用している。

②ブログで全て公開へ

2004年にブログを立ち上げ、現在までに、生産者 4名にもブログを書いてもらっている。

これによって顧客にも親近感を持ってもらえるという効果がある。また、ブログを通して

生産者同士の交流が行われている。近江、松阪、神戸、但馬、富山の生産者との交流会も

開催した。

③トレーサビリティ

店頭およびホームページ上で購入したお肉には 10桁の番号が付いている。この番号を HP

上の「近江牛個体識別システム」に入力すると、と畜検査書、子牛登記、生産履歴、生産

牧場といった情報を確認できる。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

④発想の転換で安定成長

BSE前に業務用精肉の取引先は 200を超えていたが、BSE問題でゼロになってしまった。

そこで安全性の確保を最優先した結果、以前はこちらから取引をお願いする営業であった

が、現在は全国の飲食店から取引のお願いが来るようになった。現在までに取引先は BSE

以前と同水準にまで回復してきている。

HPを通しての情報発信により認知度が上がることで、問い合わせが増え続けている。目

下の課題は売上ではなく、生産量と人的資源の確保である。牧場の取り組みもネットで公

開することで、生産者と消費者の距離を縮めることに成功した。

⑤落札情報をタイムリーに提供

インフォメーションのページではセリの落札情報を提供している。毎週木曜日の午後 1

時にセリがスタートして、午後 2時に終了する。その日の午後 5時頃には落札情報をアッ

プしている。

(4)IT投資とその効果

①メーリングリストが会議を代替

社員同士はメーリングリストで情報のやりとりをしている。メーリングリストは、①ス

タッフ間、②生産者間、③外注業者(1社)の 3つを設けている。外注業者にはデザインや

システムについて、顧客からの要望を伝達するのに使っている。

メーリングリストを使うことで、バイトや生産者にも即時的にお客さんの意見・要望を

見せることができる。会議のような使い方ができて便利である。取引のある牧場は車で 1

時間ほど行った琵琶湖周辺に集中しており、時間を節約できる。また、社内の電話は Skype

を利用して通信費の削減に成功した。

②地元にも喜ばれるWebサイト

Webサイトを利用してくれる顧客からの注文は、2003年は東京からがほとんどであった。

2005年も東京が最も多く、次いで大阪からの注文が多かった。しかし、2006年には東京か

らの注文が最も多いのは変わらないが、地元の滋賀県が 2番目に多くなった。県内からの

注文が伸びているのは、贈り物として購入する人が増えてきているためである。解体した

肉を動画で取り、HP上で配信していることが、県外へのギフトの際に喜ばれている。

③値引きしなくてすむ営業戦略

HPの隅々まで見て、価格や品質について納得した上でコンタクトを取ってくる業者がほ

とんどである。商品の質には自信があるので、一切、値引き交渉はしていない。そもそも

生産できる量は決まっているので、こちらが販売先を選ぶことができる。中には取引を 4

年待ってもらうケースもある。「安全」という情報を HPから発信することで、以前の「こ

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

ちらからお願いする」営業は、「業者からお願いが来る」形に転換できた。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①わずか 1件の問い合わせ

1999年に初めてホームページを立ち上げた。「ホームページビルダー」を用いて作成し、

無料の買い物カゴをくっつけた簡易なWebサイトであった。しかし、2000年までの 1年間

のホームページを通しての売上はわずか 1件。自分だけでは HPの制作は難しいことを痛感

した。そこで、外注業者に HP制作を依頼した。携帯電話サイトを手掛けていた知り合いに

依頼し、携帯電話サイトを立ち上げた。

②メールマガジンにトライ

当時はまだ珍しかったメールマガジンによる情報提供を開始した。主に店頭に買いに来

てくれる 30~40人ほどの顧客を相手にしたものであった。しかし、紙に顧客のメールアド

レスを記入してもらうので、間違いも多く、メールアドレスの変更によって届かなくなる

こともしばしばであった。

③社名の無い HPを開設

こうした状況でホームページもできないかと模索していた。当時、肉の販売を専門に扱

うホームページとしては松阪牛のサイトがあった。どうせ HPをつくるなら一番を目指そう

と考えた。そこで、近江牛の味噌漬けをクローズアップしたサイトを立ち上げた。有名に

なったらすき焼き用のお肉も販売しようと考えた。しかし、サイト上の会社名がないとい

う致命的ミスにより注文が来ることはなかった。

(7)情報セキュリティ対策について

①サーバによるクライアント一括管理

ウィルス対策は、サーバによりクライアント一括管理をしている。ウィルス定義も最新

版に自動更新している。社内のファイルサーバーは RAID6による自動バックアップ体制を

設けており、システム障害時には、メーカから出張保守を受けることになっている。顧客

からの情報は SSL にて暗号化している。個人情報保護に関しては誓約書を HP 上に掲載して

いる。

(7)今後の取り組みと対応方向

①安全の追求・情報発信で地域を活性化

近江牛のワンランク上を目指したオリジナルブランド「淡海(あふみ)牛」の生産に乗りだ

し、商標出願も済ませている。牛の「生産」「育成」「販売」「食」まで一貫して行い、注文

を一括して受けるビジネスモデルを確立しており、今後は同業者を巻き込んだ地域の活性

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化を目指している。

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2.19 株式会社三晃

所在地 〒639-1124

奈良県大和郡山市馬司町 532-2

代表者名 黒田 久一 資本金 1,000万円 設立年 1978年 業務内容 総菜製造販売 従業員数 241人

(1)事業の概要

株式会社三晃は、中央卸売市場の青果仲卸業を母体とする企業であり、永年の青果仲卸

業で培われた野菜に関するノウハウを活かしつつ、食の外部化と野菜摂取量の低下や 青果

物流通の激変などの環境の変化に対応するため、青果仲卸業にとどまらず、青果の小売や

惣菜の販売、野菜を主力メニューとする外食産業などへも事業を展開している。

その中でも、重要な位置づけとなる事業が「惣菜キット」の開発と提供である。「惣菜キ

ット」とは、例えば、「酢豚キット」のように、カットや一次加熱などの加工済みの野菜、

加工済みの肉、タレ等をキット化し、スーパーマーケットやレストランなどで、簡単な最

終加工をするだけで、スピーディーに出来たての惣菜が提供できるようにした商品で

ある。

HMRのカット野菜や惣菜キットは、関西圏を中心に、1,100店舗のスーパーやデパ地下の

店舗等との取引があり、消費者の中食・外食需要にヒットする商品として、当社の主力商

品となっている。

また、ケータリング事業として、平成 15年から弁当店「はないちばん」を展開し、その

後、飲食店「はな膳」へと業態転換し、飲食事業に加え、ブランド構築に向けてのテスト

マーケッティング機能も有するものである。

ケータリング事業として近年好調なのが、おせち調理である。売上高は2年前の 3,000万

円から昨年の 6,300万円、さらに本年には 8,300万円と成長している。

当社は、「惣菜のわかる八百屋」として、消費者の健康志向に応えるフレッシュな野菜に

特徴のある商品を提供している。また、仕入れ部門の強みをもち、顧客の多様な注文に短

時間で対応できる受注から生産まで一過した体制を確立し、市場ニーズに応えている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①「惣菜キット」事業の確立上の課題

中央卸売市場の青果仲卸業であるグループ企業と連携して、青果物情報を共有し、旬の

おいしさや健康と安全の追求などを提案していく商品開発を進め、取引先とのプレゼンや

直営店での新メニュー開発などを通じて、「惣菜キッド」事業を展開し、売り上げは毎年増

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

加していた。

しかし、生産プロセスが、社員やベテランパートの経験に頼っていたため、需要に応え

るためのこれ以上の増産は困難であった。また、原材料調達についても、場当たり的な調

達であり、生産要員配置についても受注を反映したものではなかった。このため、売り上

げは伸びても経常赤字を招いていた。このため、以下のような経営課題の解決が必須とな

っていた。

i 生産を効率化し増加する需要に応えられるようにする

ii 規格化された部品ではない野菜を主原料とする労働集約的な労務費を適正に把

握し減価を低減する

iii 相場商品である野菜を主原料とすることによる原価の変動を経営管理に迅速に

反映する

このような原材料である青果物が「相場商品」であること、生産指示の標準化や「歩留

り管理」が困難であったことから、ITを活用した経営革新に取り組む。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

課題解決のため、抜本的な業務プロセスの改革により、受注に基づいた計画的な生産管

理、労務管理、原価管理を行い、週単位の経営コントロール(ウィークリー・マネジメン

ト)を実現し、カンと経験に基づいた家内制手工業からデータに基づく本格的な製造業へ

と変革することを基本戦略とした。

◎ウィークリーマネジメント(週間管理)を実践する統合システム

相場原価や個人注文に左右される生産をタイムリーに管理し、短期に経営判断を行うた

めの、ウィークリーマネジメントを実践できるシステムを構築する。

◎生産管理システム

機械部品のように標準化できない野菜が原材料であっても、商品規格から生産指示、生

産管理が一貫して実施できる生産管理システムを構築する。実現のポイントは、当社がこ

れまで蓄えてきた生産のノウハウをレシピとして規格化し、部品展開することにより実現

する。

◎ワークスケジュール(勤怠)システム

当社は各スーパーマーケットや外食産業向けのカット野菜加工を主に行っているため、

生産計画に応じて、人員をうまく週間単位でコントロールできるシステムを構築すること

により、収益性の確保できる商品を、いつでも、安心して、安く、お客様に提供できる生

産体制を確立できる。あわせて、製品ごとの労務費の集計を可能にし、原価管理に情報を

提供する。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

◎原価管理システム

主力食材が野菜の為、食材の安定した供給が難しく、天候等による相場高騰などで収益

性が著しく悪化する。また、労務費の原価に占める比率も大きい。

そこで、原材料費に加え、製品別の労務費を適切に把握することにより、商品別や取引

先別の原価管理を可能にする。

現状システムの月次分析では、食材確保のマネジメントが遅れ、有効な対策をすばやく

打ち出せない。週間管理のタイムスケジュールで原価を追求することにより、お客様が安

心できる食材を安定して提供でき、収益性を確保することが可能になる。

(4)IT投資とその効果

①社員の意識改革

経営情報のフィードバックにより、パートを含む全社員の参加意識が高まって、全社的

な問題共有と部門化の連携が向上した。

②商品企画提案力の向上

生産管理システムの導入のために整備した商品規格書のデータ化により、材料、中間品、

完成品などのアイテムが明確になった。今後の顧客への商品企画・提案力の向上にもつな

げることができる。

③利益改善に寄与

IT 経営を行う以前の平成 14 年度の経常利益は、マイナス 800 万円であったものが、平成

18 年には、1,100 万円へと改善した。なお、平成 18 年度は、中国産食品の不安が広がり国

産品へ切り替えたことによる原料高のため、17年度の経常利益3,900万円を下回っている。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

IT 活用による成果を一層高めていくために、一層の歩留まり向上を実現し、原価の低減

を図ることが必要である。

加えて、アイテムの増加に対して、効率的な業務プロセスを実現するため、商品アイテ

ムの標準化と顧客への提案強化を図っていくことが必要である。

(6)情報セキュリティ対策について

システムへのアクセス権限を明確にし、データ保護を行っている。

(7)今後の取り組みと対応方向

ウィークリーマネジメント(週間管理)の実践により、今まではロス率の高かった生鮮野菜

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

の管理を徹底し、鮮度の良い野菜を使用した高品質で、安心、安全、安価な「惣菜キット」

の生産を強化することにより、消費者の健康志向や「ファイブ・ア・デイ運動」「地産地消運

動」とともに、日本人の野菜摂取量の低下防止とバランスの良い食生活の提案を実践してい

く。

また、天候等に左右される生鮮食材の発注計画の精度を向上し、納入業者との連携によ

るジャスト・イン・タイムな在庫管理を可能にし、鮮度の充実した商品を顧客に提供して

いく。

難しい「農産物の原価管理」を確立し、農産加工事業のモデルとしてその充実を図るととも

に、IT化の遅れている中小の農産加工事業において、商品企画から必要な原材料の発注、

生産指示、製造、出荷、販売までが一貫したシステムで運営するシステムモデルとしてそ

の充実を図っていく。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.20 オンテックス株式会社

所在地 〒556-0017

大阪府大阪市浪速区湊町 2-2-45

代表者名 小笹 公也 資本金 2億 3,840万円 設立年 1988年 業務内容 事業内容 一般住宅・ビル・マンションのトータルリフォーム

(塗り替え、内装、増改築、バリアフリー、インテリア、エクステリア、

防蟻・防湿・防腐、建物補強、耐震リフォーム等の販売・施工)

不動産事業、温浴事業、WEB事業 従業員数 750人

(1)事業の概要

前身は 1984年創業のオザサ塗料工業。2000年の CI(コーポレートアイデンティティ)導

入を期に社名を現在のオンテックス株式会社に変更した。一般住宅・ビル・マンションの

外壁、屋根のトータルリフォームを中核事業と位置付け、「環境」「健康・福祉」「情報・通

信」をテーマに「生活総合支援企業」として事業展開している。2005年にWEBショッピン

グサイト「オンテックス・スクエア(楽天)」を開設したほか、スーパー銭湯もオープン。2006

年には岩盤浴エステ事業にも進出するなど、事業の多角化を進めている。

リフォーム事業では、関西支社、東北支社、関東支社、東海支社、中国支社、九州支社

を設置し、この他に全国 32か所の営業拠点(支店)を構える。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①事務でのパソコン利用からスタート

1998年には、パソコンを数台導入していたが、事務のみが利用していた。顧客管理に

「Access」を使用し、会計・給与計算ソフトを導入していたものの、手作業レベルで管理で

きる程度しか情報化をしていなかった。当時の会社規模は約 10支店、社員約 100人で、関

西のみで事業展開していた。

②事務でのパソコン利用からスタート

1999年、物を買う前の「稟議」を従来の手書きからパソコン入力へ転換した。当時は代

表に決済を毎日もらいに行く状況であった。そのため、出張などで代表が不在の場合は決

済が滞っていた。ちょうど Eメールが利用され始めた頃であったので、エクセルで稟議書

を作り、メールでのやりとりで対応できないかという会長の発案で、Outlookのメールとエ

クセルを組み合わせた仕組みをスタートした。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

③情報化に理解のある会長

会長がパソコン好きで、自分で何でもやるタイプである。CIOという名称の役職は設置

していないが、会長が実質的に CIOを兼任している状態である。会長自身がベンチャー協

議会などに参加して、情報を仕入れてくる。会長が情報の共有化を進めていこうとリーダ

ーシップを発揮している。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①グループウェアの導入

社員の情報化の意識を高める目的もあり、一時的にパソコンを各自持ち込んでいた期間

もあった。しかし、情報漏洩の問題が頻繁に取り沙汰される前の 2000年頃にはその方針を

変更し、会社がパソコンを支給することになった。また、2000年に情報の共有化を目指し

てグループウェアのロータスノーツ(Lotus Notes)を導入している。

②支店では PCを共同利用

事務系職員にはパソコンを支給しているが、外に出ていく営業と現場管理にはパソコン

を支給していない。拠点(支店)にパソコンを 1台置いて、それを共同で使用している。支店

には職員 3~4人に 1台、支店長に 1台のパソコンを支給している。現場からは稟議書は出

るが少なく、データ入力は営業が自ら行うのではなく、事務に任せている。

③情報共有化のための手段

会社の情報を共有化にあたって、まず、グループウェア上に掲示板をつくった。さらに、

決済、業務日報の電子化を進めた。以前からエクセルで日報を作り、上司にメールで送っ

ていた。現在では、各自の携帯電話から日報を送ることもできる。売上や顧客の声といっ

た情報も社内全員で共有している。

これ以外にも社会の動き、会社の動きといった情報を共有化している。各部署が必要な

情報を必要なときに自主的にアップロードしている。

④社内でシステム構築

現状では、全て社内でシステムを構築している。財務会計、給与計算、写真の管理シス

テムなどは部分的にパッケージを購入している。

(4)IT投資とその効果

①投資の効果は示しにくい

IT導入の効果は測定できていない。IT投資は莫大な費用がかかるが、費用対効果は明確に

示しにくい。そもそも IT投資は後から振り返ってみて初めて効果が分かる。導入してすぐ

は効果よりもマイナスの部分ばかりに目がいく。グループウェアの導入を例に挙げると、

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

現在は日報を見て上司が部下の仕事の業況を把握できていることが普通になっているけれ

ども、導入してみなければ、こうした効果を掴むことは難しい。実際にグループウェアの

導入前に、その効果までは考えていなかった。

②IT投資のメリット

しかし、情報がリアルタイムに見えるようになったという「見える化」が進んだことを

メリットとして挙げることができる。

近年、人を雇いにくい状況になってきた。人数が減って行く中で人を管理していくかが

重要となる。人材確保が困難であれば、それを ITでカバーしていくことが必要になってき

ている。

③ペーパーレスと会議の効率的運営を実現

ペーパーレス化に成功している。社内での情報伝達は電話ではなく、掲示板を通して行

う。契約書の作成方法といった情報から会社でイベントを実施するといった連絡もまわし

ている。毎日チェックすることで、いろいろな情報が入ってくる仕組みになっている。掲

示板やメールを通して情報を共有しているので、紙ベースでの情報の回覧をしていない。

役職会議は月に 2回開いていたが、会議を月 1回に減らすことができたので、経費節減

につながっている。会議にパソコンを持ち込んで行うことで、紙ベースの会議資料を一切

使用していない。以前は会議に出席した人だけが情報を入手できたが、現在は掲示板を通

じて全ての人が情報にアクセスできる。さらに、事前に情報をアップしておくことで、会

議も効率的に運営できる。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①社員の理解を得るまで 2~3ヶ月

全体的に便利だと気づかせる、理解させるまでには時間がかかる。便利なシステムだと実

感してもらうまでに 2~3ヶ月を見ている。システム構築にあたっては、「自分たちが使い

やすい」ことを念頭に置いている。

(6)情報セキュリティ対策について

①担当部署で個人情報を一括入力

情報セキュリティに関しては、情報システム部が担当している。人員は 13人で、そのう

ち半分は個人情報管理の業務についている。顧客の個人情報については、入力情報の統一

をはかるために、営業が収集した情報を情報システム部で一括して入力をしている。

②リフォーム前後の写真の取扱い

リフォームの契約を結び、工事に着工する前に施行前後の写真を撮影させてもらうこと

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

を顧客に伝えている。撮影した写真などは、基本的には営業に利用しない。他で利用する

場合には、再度、顧客の許可を取ってから使用する。営業部門は、過去の工事の情報を持

っていない。

リフォームした家の施行前後に撮影した写真は、情報システム部が管理をしている。こ

の写真データ等については、関連部署だけがアクセス権限を持っている。

③顧客情報の管理ルール

ノーツ上で顧客情報を管理している。顧客情報のうち、住所の番地と電話番号は公開し

ていない。営業のスタッフが営業にまわる前に情報システム部に申請して、その地区の顧

客情報を入手できる。情報入手にあたり責任者を明確にすることで、何か問題が生じても

迅速に対処できる。入手した情報は、利用後、廃棄することを義務付けている。

④運用上のルールで管理

情報が漏れないように、システムというよりも運用上のルールで厳しく管理している。

パスワード認証等を伴うセキュリティ USBメモリなどは導入していない。

(7)今後の取り組みと対応方向

①事業の多角化

現在、外壁のリフォーム事業が売上の約 9割を占めており、多角化する必要に迫られて

いる。最近では、楽天のWebサイトで、インテリア関係の小物の販売も行っている。

②営業アプローチの見直し

リフォーム業界の訪問販売が厳しくなってきている。従来の直接訪問というアプローチ

ではなく、電話アプローチや展示会といったもので集客することが求められている。Web

サイトを通してのアプローチも現在検討している。

③全体最適化を目指す

これまでノーツを 5年ぐらい使ってきた。不具合ではないが、将来の売上を確保したい

という目標などを鑑みて、時代にマッチしていないシステムではないかと考えている。ま

た、全体が最適化されていないことから、現在のシステムを見直そうということで、ベン

ダーを入れて、ノーツをベースにしたシステムの見直しに取り組んでいる。

④新規事業も組み込めるシステム

事業の多角化をはかっている最中であるが、新たな事業である温浴事業、不動産事業は

システム化が図られていない。今後こうした新しい事業の売上が占める割合が拡大してい

く中で、すぐに組み込んでいけるシステムのベース作りをしたい。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

各部署を横断的に統合管理できる ERPシステムや営業支援システムの導入を検討してい

る。ただし市販のパッケージでは様態が合わない。

⑤営業プロセスのデータベース化

これまでは、成約した顧客の情報しかデータベース化できていなかった。今後は、アプ

ローチした全顧客情報をデータベース化したい。次々と人員を増やして売上を確保するこ

とが難しい情勢の中で、システムによって少ない人数でも売上を確保できるような営業の

サポートを考えている。ただし営業支援ソフトの導入にあたり、「IT」プラス「考え方」を

伝えていくことが重要である。

⑥セキュリティの強化

セキュリティ面に関しては、今は運用の部分で管理している。しかし、今後は運用の部

分での管理ではカバーできない部分が生じると考えられる。そこで、システムの部分での

管理を強化していきたい。

情報を持ち出せない仕組み作りが肝心である。現在までに、USBメモリ情報持ち出しはで

きない仕組みになっている。最終的にはパソコンを持ち出しても中の情報を勝手に見られ

ないようにしたい。

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2.21 マデイラジャパン株式会社

所在地 〒599-8253

大阪府堺市中区深坂 1810 ウラオビル 2F

代表者名 トマス・ピーター・シィール 資本金 1,000万円 設立年 1993年 業務内容 刺繍糸の輸出入および縫糸・刺繍関連資材の輸出 従業員数 6人

(1)事業の概要

マデイラジャパン株式会社は、1993年に大阪市内で創業した。工業用・手芸用の高品質

な糸の輸出入・販売を手掛けている。2004年に現在の堺市内に事務所を移転した。

親会社であるマデイラ本社はドイツ(フライバーグ)にあり、イギリス・アメリカ・シ

ンガポール・インドネシア・香港・タイ・マレーシア・スペイン・イタリア・日本など世界

中に支社がある。

マデイラジャパン㈱の主たる業務は、ドイツ本社/グループの注文に応じて、日本の糸

メーカに原糸・染色を発注したり、商品によっては原糸を輸入して、北陸や京都で染め加

工を経て、半製品をドイツ本社/グループに輸出するものである。ドイツ本社/グループ

はそれらを現地で商品化し、ミシン刺繍・手刺繍・キルト用と広範囲にわたる高品質の糸

を世界中に販売している。又、マデイラジャパン㈱は商品化されたものを再輸入し、国内

販売を展開している。ホームページは開設しているが、オンラインでの販売はしていない。

糸の見本を送り、色も確認してもらった上で販売している。

現在、従業員は社長を入れて 6人。創業以来、刺繍糸の輸出入および販売を手掛けてい

る。主要取引先は、マデイラのグループ会社と縫い糸および刺繍糸製品の世界的大手メー

カである。ドイツを中心にアメリカ、イギリスなど多くの国へ輸出している。

2.IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①日々の業務は IT顧問が担当

CIOは設置していないが、CIOに相当する IT顧問が情報化に関して対応している。パソ

コンのインストラクター経験を持つ IT顧問が、日常の不具合についてもできる範囲で対応

している。

②安定したシステムが第一

海外とのやりとりは全てメールで行われるので、システムを安定して運用してすること

を最優先に考えている。日々の業務が忙しく新しいソフトを導入する時間がとれないので、

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

バージョンアップの方が望ましい。昨今のハード・ソフトのめまぐるしい変化についてい

けない。

③社内の活性化に一役

IT化は、使う側にとって仕事のマンネリを防ぐという効果があると考えている。技術の

進歩に追随して、常に新しいことにチャレンジすることができる。業務が忙しいので新し

いソフトの導入時に従業員を教育している。

3.IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①ドキュメント作成ソフト

貿易業務に必要なドキュメントを作るソフトとして、㈱バイナル社の輸出入貿易ソフト

「TOSS」を使用している。専門ソフトのため非常に高額であるが、貿易業務全般をカバー

したソフトである。独立前の前身の会社(刺繍の機械の会社)でも使用しており、同社の創業

時から利用している。

インボイスには、何を送っているかの詳細と金額が明記されている。パッキングリスト(何

が積まれているかを記載されている)も作成できる。さらに、伝票ナンバーを入れるだけで、

過去のインボイスやパッキングリストを呼び出すことができる。

②経理ソフト

経理ソフトとして、PCA会計を使用している。ソフトの保守契約をしているので、サポ

ートを受けることができる。

③シンプルなシステム

サーバを使用したり、複雑なシステムを組んだりせずにシンプルに使用している。デー

タの管理は各自が行っているので、会議の際にデータを突合している。また、データのバ

ックアップを毎週金曜日に行っている。

④人間らしさを残した情報化

同社は、フロッピーで顧客管理している。従業員 1人 1人にパソコンを割り当てている

わけではなく、必要なときに、そのパソコンを使用するというスタンスである。また、こ

の規模ではオンラインでパソコンをつなぐ必要性もない。従業員の規模によって必要な事

柄が異なってくる。

4.IT投資とその効果

①少人数で対応が可能に

輸出入業務は文書作成の手間がかかるが、貿易関連のソフトを導入したことで、この人

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

数(全従業員 6人)でも対応することができる。昔は電報やテレックスで対応していたので、

ITというのは夢の道具のように感じる。

5.IT導入に当たっての課題とその解決策

①ウイルスソフトで作業に支障

ウイルスソフトはパソコンの CPUを使うため、他の作業に支障がでる。古いパソコンで

あればメモリを増やすように言われるが、最終的に新しいパソコンを購入せざるを得なく

なった。

6.情報セキュリティ対策について

①従業員のモラル向上が情報漏洩防止の鍵

大手セキュリティ会社の警備サービスを利用しており、部外者が中に入れないようにし

ている。最悪のケースでは情報が悪用されることもあると認識しているが、従業員同士は

お互いに目の届く距離にいるので、互いの信頼関係によって漏洩を防ぐように務めている。

大手企業のようにルールなどを作っても、最終的には従業員個人のモラルに依存する部

分が大きいので、個人個人のモラルを高めることが漏洩を防ぐ最善策と考える。

システムとして組んだ場合、業者を信用して依頼するわけであるが、その情報がどのよ

うに扱われるかが分からないことが怖い。リスクの分散という観点からもサーバで一括管

理することはリスクが高い。バックアップのサーバについても、何重にバックアップすれ

ば良いかも分からない。

②スパムネール対策

スパムメールをどのように削除するかが大きな問題である。外国とのやりとりが多いの

で、英語のスパムメールと注文のメールの区別が付かない。インターネットで便利になっ

た反面、新たに困難に直面している。

③オフラインでリスク回避

あえてオンラインでつながないことで、サーバのダウンなどのリスク回避をはかってい

る。

ネットワーク障害で顧客からの注文・問い合わせに対応できないことが事業の特性上、

一番困る。サーバの迷惑メール対策が原因でトラブルになったこともある。

7.今後の取り組みと対応方向

①Webサイトのリニューアル

注目度アップのためにもWebサイトの充実を考えている。ただし、人とのコミュニケー

ションを重要視しているので、オンラインショッピングはしない。今後は、リニューアル

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

したWebサイトを利用してもらい、販売店さんおよび刺繍教室(先生方)に喜んで頂けるよう

な方向にもって行きたいと思っている。又、一般のユーザさんにも、幅広い商品情報をお

伝えしたいと思っている。

②システム統合で無駄をなくしたい

販売や経理のデータと TOSSのデータが共有できていないので、データを転換して、一元化

したい。海外とのやりとり(インボイス)と国内販売のやり方が違うので、形式を統合するこ

とで無駄な入力を減らしていきたい。

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2.22 関西商業流通株式会社

所在地 〒577-0015

大阪府東大阪市 1-8-13

代表者名 達城 久裕 資本金 1,000万円 設立年 1986年 業務内容 総合物流サービス、IT等のネットワークを利用した商品売買のシステム

設計、開発、運用および保守、印刷、3D企画・販売、貨物運送事業、コールセンターおよびデータ加工センター事業

従業員数 84人(社員 36人、グループ会社を含む)

(1)事業の概要

1986年 4月に有限会社軽サービスとして設立され、1996年 3月に株式会社へ組織変更し、

社名を関西商業流通株式会社とした。本社を東大阪に構え、総合物流サービスを手掛けて

いる。従来の印刷と物流業務、通販業務に加え、最近ではコンテンツ(情報教材の通販)業務

にも力を入れている。

東大阪市内に第 1物流センター、第 2物流センター、大阪市内にサテライトオフィスがあ

る。グループ会社には、㈲関通倉庫、ロジエステート株式会社、関東通商流通株式会社、

関連会社に㈱西尾倉庫がある。2007年 4月にはプライバシーマーク(第 A440039(01)号)を取

得。2008年 3月を目処に組織再編成を進めている。

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

①地理的優位を有効に活用

同社は 4年前から、①印刷・物流業務、②通販業務、③コンテンツ業務を 3本柱として

事業展開している。それまでは B to Bの仕事がほとんどを占めていた。

コンテンツ業務はテレビ通販の配送業務から始まった。業務の拡大とともに、エンドユ

ーザーへ送るシステムを作りあげてきた。その後、東京の顧客が増えてきたこともあり、

東京にグループ会社を設立している。

現在のインターネット環境であれば、日本中どこからでも注文を受け、どこへでも発送

できる。関西は地理的に日本の中心にあたるので、物流基地としての優位性を有している。

②組織改編を含む抜本的な改変

B to Bの業務は、荷主から依頼を受けた配送先まで荷物が到着することを確認するところ

までなので、トラックが出発した後は、1箇所の配送先に電話するだけでよかった。しかし、

B to Cの業務は配送先が多数なので、確認などの手間と時間がかかる。B to Cの業務をよ

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

り効率よく運営するためには、組織の再編成が必要であると考え、現在取り組んでいる。

③業務に合わせて組織を再編成

第 1情報システム部は本社にあり、事務処理、配送準備処理を担当、第 2情報システム

部は主に倉庫管理をしてきた。しかし、顧客ニーズの変化・多様化が進展する中で、組織

と業務のミスマッチが生じてきた。そこで、組織の再編成が必要となる。

現状では、顧客を大きく 5つのグループに分けることができる。①HP上で受け付けた情

報から発送準備・商品の発送までを依頼してくる顧客グループ、②印刷部門の B to Bをし

ている顧客グループ、③インターネットで物販を手掛ける顧客グループ、④自分の所でデ

ータを集約しているコンテンツ事業を手掛ける顧客グループ、⑤コピーロジスティクス(各

種簡易製本、DM宛名印字・発送、DVD・CDコピー、梱包、各種加工、保管、ニュースレ

ター発送・代行、各種発送)を利用する顧客グループである。この 5つのオペレーション

に対応するように組織を再編成している。

④アイデア豊富な社長のリーダーシップ

社長が各種イベント等に参加して、アイデアを見つけてくる。それを社内でも実践して

いる。「お客様」を最重要視しており、ニーズを満たすためには組織を改編することも厭わ

ないという社長の考え。現在の顧客が満足していない状態は何なのか、それを受けて満足

してもらうために何をすべきかを考えるというところから全てがスタートしている。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①コールセンター・データ加工センター業務

第 2情報システム部では、コールセンターおよびデータ加工センター業務を主に担当し

ている。クライアント(荷主)から情報を受けて、その情報通りに出荷するというのが本来の

業務である。最近多くなってきた要望は、ホームページで受けつけたフォーム形式の情報

をそのまま同社に転送したいというものである。このデータの発送データ化変換をコンピ

ュータで自動的に行っている。

基本的にはエンドユーザー向けに商品を発送している。現在、顧客のほとんどが東京。

情報企業家の人がホームページ上で勉強用の情報教材の注文を受けており、その情報が東

京からこちらに送られてきて、教材を勉強したい人に東大阪から直接発送している。教材

の配送は現在、36社の商品を扱っている。DM等も東京からデータを飛ばしてもらって、東

大阪で印刷して発送する。このスピード感が顧客へのセールスポイントになっている。

②B to C業務

物販・通販についてもエンドユーザー向けの業務である。形式的には情報教材の場合と

同じで、ホームページから受けた情報をいったんクライアント側で取りまとめて、そのデ

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ータを受け取り発送するように指示される。しかし、最近では、ホームページから直接リ

ンクを貼ってもらうというところまでいっている。発送伝票へのデータの変換も同社がし

ている。通販の場合は、クライアントから送られてきたデータを同社で納品書に転換して

いる。

③顧客ニーズに合わせてシステム構築

顧客の要求が幅広くなればなるほど、オペレーションは変化する。最初の 2年間はオペ

レーションとしてできる様々なものを社内体制としてシステムを構築した。現在、コンテ

ンツ部門で月間 1万件ぐらい、通販部門で月間 1万 5,000~2万件ぐらいの商品を発送して

いる。送り状の発行まで行っているケースもある。

④オペレーションの統一の必要性

B to C業務が増えて、顧客が入力したデータを直接受け取るということになると、社内

において人の目によるチェックが必要になってくる。通常の通販では、クライアント側が

取りまとめた後のデータが送られてくる。顧客が打ち込んだ情報をそのまま受けることに

なれば、人件費もかさむ。

実際に、市町村合併で住所変更が頻繁にあったので、運送会社のシステムでエラーが頻

発し、そのたびに修正作業が必要になっている。それについても対応してきたが、売上構

成を考えると今後の方向性としてはオペレーションを統一していかなければならない。

⑤月 2~3件のシステム作り

1ヶ月間に 2~3件のシステムを作り上げることが限度である。顧客に応じて納品書のレ

イアウトや要求事項を満たすためのデータベースを作るのに、その変更には最低でも 10~

15日かかる。

⑥システムの 3本柱

現在、発送準備のシステム、発送するまでの工程を検査するためのシステム、財務管理

システムの 3つを大きな柱として動かしている。システムの改造がしやすいように、アク

セスを使ったシステムを自分たちで作り上げてきた。しかし、財務管理については、しっ

かりと管理していかなければならないということで、外部の会社にシステム開発を委託し

ている。

⑦商品管理

商品管理はシステム的にしているので、バーコード・ターミナルを使い物品のロケーシ

ョンが瞬時に把握できるようになっている。1~2年前にこのシステムを導入し、現在、1

台 30万円するバーコードリーダーを 60台使っている。担当者が商品に付いているバーコ

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ードを読み、納品書と照合して出している。その結果は集約して、クライアントにデータ

を報告している。

⑧正確なピッキング作業

ピッキングのフロアに行き、バーコードリーダーを使い納品書の情報を流すと、どの顧

客か教えてくれる。次に商品コードを流すと、この番号のエリアに行きなさいと指示が出

る。ロケーション番号は決まっている。そのエリアに行けば、商品があるので、その商品

のバーコードにバーコードリーダーをかざして、一致していればそのまま準備ができる。

間違っていればブザーが鳴って間違いを教えてくれる。正しい商品のバーコードを読みと

るまでは次に進めない仕組みである。

⑨海外からの商品の管理

中国で作ってコンテナで商品が入ってくる場合もある。それを保管していて、検収作業

の後で指示されたとおりに商品にバーコードを貼っていく作業もしている。製造主からで

はなく、港から直接コンテナで商品が搬入される。提携企業である㈱西尾倉庫は保税倉庫

としての役割も持っている。内陸部で保税倉庫の免許を持っているところは少ない。保税

倉庫から出た日時が製造年月日となるので、それらの情報も納品書等に記載する業務も受

け持っている。

⑩コピーロジスティクス

コピーロジスティクス部門には最低限のロットを設定していない。本社には、1分間に

85枚、75枚、65枚印刷できる機械を 1台ずつ揃えている。様々な顧客ニーズに応じた印刷

物を提供している。

(4)IT投資とその効果

①全体的に効果あり

IT投資をした効果は全体的に出ている。業務の特性上、IT投資は初期投資だけであり、

継続してかかるものではない。機械を購入すれば、無駄を出さないように使用するので、

必ず効果が出る。

ただし、システムを外注していたシステム会社が倒産してしまい、メンテナンスができ

なくなった。IT投資はある程度のスパンを見ておかないといけない。同社では 3年ぐらい

のスパンを考えている。それを 4回繰り返した 12年を一括りに考えている。今回の件で外

注した相手が倒産することも有ることを経験。システム会社への公的支援があってもいい

のではないか。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

②従業員の意識向上に一役

従業員の意識向上の点でも効果があった。従来は、「働いている時間が長ければ OK」と

いう考え方もあったが、最近では従業員自身が会社に提供する時間の判断ができるように

なってきた。ITに携わっている従業員の意識の変化はより早い。また、ITを利用して実績

を挙げて、収入の増加に結びついた従業員が増えたことも意識改革を加速させている一面

がある。

(5)IT導入に当たっての課題とその解決策

①顧客ニーズに合わせた結果

幅広い顧客の要求に合わせてオペレーションを整備した結果、オペレーションが複雑に

なり、多くの問題が発生するようになった。そこで、同社は組織形態を変えてまでもオペ

レーションを統一する方針を固めた。

現在、オペレーションの種類をわけて、システムを統一した形で人を動かしていこうと

いう方針で進めている。操作の負担が小さくなるということは、オペレーションが早くな

るということに繋がる。業務の効率化に向けて、過去 2年半ぐらいかけて業務の精査をす

ませてきたところである。

②迷惑メールとして処理される

大きな問題点としては、多くの顧客に送る「配送お知らせメール」を送っているが、プ

ロバイダによっては迷惑メールとしてカットされることがある。プロバイダに問い合わせ

てもセキュリティの秘密事項に関わるので対応が難しいようだ。今後、携帯電話にメール

を送ることが増えると予想されるが、そこでも同様の問題に直面するだろう。顧客にとっ

ては携帯電話でお知らせメールを受け取ることができれば便利であるのだが、それを迷惑

メールとしてプロバイダでカットされる。なぜなら顧客がそのメールの受け取りを望んで

いるか、望んでいないかをプロバイダ側では判断できないし、それが有料なのですべてブ

ロックされてしまっているという状況である。対策としては、メールの送信スピードを落

とすプログラムを使用して送信している。

③依然残るヒューマンエラーの可能性

現在の商品管理システムは、顧客の承諾の上で全ての商品にバーコードが貼ってあるこ

とが前提条件である。現在、バーコードを貼れない商品については、管理を担当する人の

棚にバーコードを貼ることで対応しているが、そこではヒューマンエラーの可能性が残っ

ている。事故が起こる可能性がある。一番正確なことは、商品にバーコードが貼ってあり、

それに一致していることである。現在、できる限り顧客の承認をもらうようにしている。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

④運送会社によって異なる入力システム

運送会社によっても入力システムが異なっている。文字の入力時に全角のみの会社と半

角も含む会社がある。システムの違いによってエラーが発生することが多かった。郵便番

号を優先するシステムと文字入力を優先するシステムもある。こうしたシステムの違いが

あるので、情報をこちらで修正しなければ発送できない。

(6)情報セキュリティ対策について

①Pマークを取得

セキュリティ対策に関しては、Pマークを取得するなど積極的に推進している。メディア

媒体の管理は本社が集約して行っている。利用するためには、ISOの中で定められていると

おり文書に記録しなければならない。インターネットについては、すべてサーバを一旦経

由してから、サーバから配信するという一極集中で監視する体制である。

第 2情報システム部では、顧客のデータが入っているルータとインターネットで単純に

情報収集などに使うルータの 2つを使い分けている。

配送先データに関しては、配送が終わった時点でデータをクライアントに返却している。

ハードディスク上の情報に関しても、Pマーク担当者がデータを消去する。パソコンの処理

は部長が担当し、ハードディスクを処理している。会社としてはデータを取得するのでは

なく、一時的に預かるというスタンスで扱っている。受け取ったデータを紙にしてクライ

アントに返却するので、同社では顧客のデータベースを一切保存していない。

社内のデータに関しては、サーバのミラーリングで毎日終業時にバックアップしている。

(7)今後の取り組みと対応方向

①ICタグ利用の可能性

ICタグは、1.5円を切る時代が来れば利用できる。数年前にある大手印刷会社との間で IC

タグを使用するという話があったが、当時は 1つ 5円ぐらいであった。ゲートを通過する

際に ICタグの情報を読みとることになるが、同社の場合は現在のゲートを小さくするなど

の対応が必要となる。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

2.23 株式会社 RPSセンター

所在地 〒537-0024

大阪市東成区東小橋 2-2-21

代表者名 巽 年弘 資本金 2,000万円 設立年 1984年 業務内容 グラフィックデザイン・電子製版・刷版・CTP・印刷・製本・webデザ

イン 従業員数 20人

(1)事業の概要

株式会社 RPSセンターは、昭和 45年にスタートしたが、当時は写真店を営んでいた。現

在は、7割の製版事業を中心に、デザイン事業が2割、印刷事業が1割の構成で事業を行

っている。

印刷事業は、最盛期の約 15~20%減っている。しかし、印刷業者は多く価格競争が起こ

っている。アメリカでは印刷物が縮小しており、急速なネットの普及などにより日本でも

活字離れの傾向にある。

デザイン事業は、父親が行ってきたものである、写真事業からの現在の事業への転換は、

プロが撮らなくてもデジカメやスキャナ等できれいに印刷できる時代になり、需要の減少

を背景に、写真に関連する製版事業へと展開したものである。

製版は、印刷用の白黒フイルムを製作するもので、さほどの技術も必要なく、こんな簡単

な作業でよいのかといった不安があったが、顧客からのクレームも無くスタートできた。

カラーの製版も行い、絵を描くように色を分けるものであった。

当社の近隣には、印刷大手の大日本印刷があり、営業担当者が、相談に来られたことを

契機に、製版事業が拡大していった。

また、新規事業として、Web事業をスタートしたところである。「がんばるゾう」は、自

分の目標とする言葉とイラストを選び携帯電話にダウンロードして保存、待ち受け画面に

設定使用するもので、月額 315円の料金を取っているが、収益には至っておらず、また問

い合わせも少なく、あまり力を入れていない。

いま1つのWeb事業「RAPAShop(ラパショップ)」は、レストラン、CDショップ等の店舗

を対象にした携帯用ポータルサイトで、携帯を利用して、店自体が顧客を増やせるような

コンテンツを提供していきたい。ぐるナビなどの検索サイトになる可能性もある。これも

スタートしたばかりの事業である。

当社は多様な事業を展開しているが、RPSという社名も、あいうえお順で最初に来るし、

製版事業以外の事業展開にも通用するようにという意図でつけた。

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

(2)IT化による競争力の向上、業務の効率化への考え方

◎大容量となる製版データのスピーディーな送信

製版データは、大容量であり、製版のデータとなると何 100枚となるし、タイムラグも

ある。できるだけ瞬時に顧客に送信できることが、顧客満足に繋がる。

◎正確な見積もり設定

製版や印刷業務にはファジーな部分があり付加価値でもある。こうしたファジーな部分

の評価となる価格設定には苦慮することもある。価格設定が場当たり的になれば、顧客か

らの信頼を失いかねない。

製版のコンピュータシステムの導入や複雑な付加価値創造の見積設定のコンピュータ化

など「新しいもの好き」な性格もあり、早くから情報化投資を積極的に進めてきた。

(3)IT導入により、効率化等を図っている業務内容

①大容量となる製版データのスピーディーな送信システムの構築

顧客からの要請ではなかったが、7、8年前であり、当時は ISDNであったが、大容量の

製版データをできるだけ瞬時に送りたいということで、東京から大阪にデータを瞬時に送

る装置を自社開発した。

顧客の要請ではなく他ではやっていない頃であり、トラブルも多かったが、新規顧客の

開拓にも繋がった。

②複雑な付加価値創造の見積設定のコンピュータ化

製版や印刷というものは複雑でファジーな部分があり、業務ごとに価格設定が変わって

くる。このファジーな見積もり設定をコンピュータで扱えないかと悩んでいた。

印刷用のプログラムを開発したソフト会社があり、作成を依頼した。原価管理もでき、

約 500万円の投資であった。

③既存ソフトでの伝票・納品書の発行

同じ依頼に対しては同じ価格の見積もりであるが、過去のデータを探すのに伝票での検

索では困難であった。既存ソフトを活用し過去の検索と伝票・納品書等の事務処理システ

ムをかなり以前に、時間をかけて構築している。

④製版のコンピュータシステムの導入

15年ほど前までは、演算に時間がかかるために余り使えなかったが、その後の 12年程前

に、使えそうなものが出てきたことから、他社に先駆けて導入した。システム一式で 1億 6

千万円のシステムであり、5年リースで、月額 250万円であった。その後に出たものは、価

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資料編2.中小企業ヒアリング事例

格も安く、性能も良い。現在は、大日本スクリーンと NTTコミュニケーションズ、富士フ

イルムが製作したシステムを活用している。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

33..自自治治体体

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編3.自治体ヒアリング事例

ヒヒアアリリンンググ実実施施団団体体

No. 自治体名 人口規模 ヒアリングの主なポイント

1 京都市 100 万人以上 IT 投資によるサービスの向上、IT 人材育成

2 堺市 30 万人~100 万人 IT 投資によるサービスの向上、CIO 機能と支

援組織

3 枚方市 30 万人~100 万人 IT 投資によるサービスの向上、CIO 機能と支

援組織

4 宝塚市 10 万人~30 万人 IT 投資によるサービスの向上、IT 人材育成

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資料編3.自治体ヒアリング事例

3.1 京都市

◆ 自治体概要(平成 20年 3月 1現在)

総人口 1,467,211人

世帯数 610,665世帯

面積 827.90km²

高齢化率 21.6%(平成 19年 9月 15日現在)

職員数 16,167人(平成 19年)

(1)「e-京都 21」の基本方針を情報化推進室を中心に実行

京都市では IT化推進の基本方針として、毎年、「高度情報化推進のための京都市行動計画」、

通称「e-京都 21」が策定される。策定に際しては、副市長をトップに各局の局長クラスを

メンバーとする高度情報化の本部会議で報告・検討され、年度の中間時期である翌年 8月

頃に開催される同本部会議で進捗が確認される。

総合企画局内の情報化推進室・情報政策課は、「e-京都 21」に基づき計画される各局の具

体的な施策を実行するために、必要な情報システムを開発・保守し、その基盤となるハー

ド面の運用を担っている。京都市の大きな特長は、汎用機で稼働する住民サービス系のシ

ステムのほとんどを庁内の自前のスタッフで開発していることである。情報政策課に所属

する職員のうち 24名が開発・保守を担当。もちろん、効率を考えて一部を外部に委託して

いるが、原則として自前での開発である。外部に頼りすぎると開発の経緯がブラックボッ

クスとなり、ベンダー任せになりがちになること、および、庁内のスキルが育たないこと、

の理由から、京都市では長年、直営方式を続けている。庁内ネットワークについては 1995

年から、外郭団体である(財)京都高度技術研究所と連携して構築してきている経緯もあ

り、課内の担当は 4名で、主には同研究所に運営を委託している。

一方、ホームページやコールセンターの運営は総合企画局の中の広報室が担当し、各局

のホームページの更新は管轄の部署で行っている。また、すべての部署に情報化推進の支

援員を 1名置いており、システムやハードの開発・運営は情報政策課で行ってはいるが、IT

化推進全般は庁内挙げての取り組みとなっている。

京都市では総合企画局長が CIOの立場にあるが、ITの専門的なノウハウや技術を持って

いるわけではない。むしろ、総合企画局長として、京都市全体の総合的な企画を進めるポ

ストにあり、人事面や予算面にも発言できる立場にあるので、そのような戦略的な視点か

ら IT化推進の取り組みを指揮することが重要な役割だと考える。専門的な能力は、情報政

策課を中心として各部署で組織的に支えている。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

(2)市民サービス向上に向け、HPやコールセンターを充実

2007年度の取り組みの一つに、ホームページ(以下、HP)の作成を支援するための CMS

(コンテンツマネジメントシステム)の導入がある。京都市では全国に先駆けて、従来か

ら HPのアクセスビリティを重視してきたが、その上で各部署での HPの更新をさらに迅速

にするために、2007年 10月に CMSを導入した。HPの更新は各部署で行っているが、JIS

規格に基づくアクセスビリティのガイドラインに沿って作業するには一定のスキルが必要

で、スキル不足のために更新が滞っている部署も少なくなかった。また、今はスキルのあ

る担当が定期的な更新を行っていても、担当替えにより更新が止まることもあり得る。そ

れに対して、導入された CMSを使えば、誰でもガイドラインに沿った更新作業がWordを

扱う感覚で行えるので、フォントのサイズやカラーの設定、音声の読み上げ、携帯対応な

ども簡単にできるようになった。導入してまだ 2ヵ月程度だが、早速、更新頻度が高まり、

迅速に最新情報を提供できるようになって、好評を得ている。

2006年 1月に開設したコールセンターも、市民とのコミュニケーションを高めるために

実施された施策である。これまでも、「市長への手紙」という制度で、手紙やメールで市民

の意見・要望を積極的に募っていた。「市長への手紙」を存続させながら、さらにそれを発

展させたのがコールセンターである。2006年度の実績では、「市長への手紙」が 708件、コ

ールセンターへの問合せが 38,910件(電話 30,998件、FAX4,076件、メール 3,836件)であ

った。内容は意見・要望の他、時期によっては苦情が殺到することもあり、京都市ならで

はの観光情報の問い合わせも多い。集まった意見・要望・苦情はすべていったん広報課で

まとめられ、原本と一緒に市長や各局に回されて、次の基本方針や施策の立案に活かされ

る。この他に 2007年度に導入したシステムで評判がいいのは、グーグルマップを利用した

京都市関連の施設情報の提供や、携帯向けサイトでの観光情報の提供、市バス・地下鉄な

どの運行情報の提供などがあるが、市民サービス向上には特に力を入れているので、それ

以外にもさまざまな施策を推し進めている。

京都府と共同で開発している市民の電子申請システムも、2007年度からサービスを開始

した。一般的に本人確認が必要なものや、手数料の発生するものなど、単に申請行為だけ

で済まないものの利用が特に低いので、まずは単純な届出を中心に普及を進めていきたい

考えだ。京都市に限らず、全国の自治体や国レベルも同じ傾向にあり、電子申請システム

が普及するには、もう少し時間がかかりそうである。

(3)文書管理システムと電子決裁で業務効率を向上

内部管理事務的なものでいえば、2003年度に人事給与システム、2005年度に財務会計シ

ステムを順次導入し、2007年度には文書管理システムを導入して、内部管理システムが完

成した。現在、本庁では職員一人 1台のパソコン体制ができており、出先機関でも担当者

にはパソコンを配備しているので、すべての申請・決裁を電子処理に移行することとした。

一部、紙の添付資料のあるものはペーパーベースで回す方が速いのでそうしているが、そ

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資料編3.自治体ヒアリング事例

のような例外を除いて、すべてシステム上で処理するように指導している。当該部署でし

か閲覧してはならない情報や、閲覧者を特定する必要のある個人情報などは、起案の際に

閲覧できる範囲を設定することで情報管理を適切に行っている。情報公開の対象となる文

書かどうかについても、同様に区分して、市民への情報公開につなげている。

文書管理システム導入の効果は、ひとつに申請書類作成の手間が減ったことである。申

請書を作成する者は、閲覧できる範囲内で同類の決定書類を検索し、それを流用すること

で、書類を一から作成する手間が非常に少なくなった。もうひとつの成果は、決裁が迅速

になったことである。申請書類がペーパーベースであったときは、係長、課長、部長、局

長、市長と順番に回していかなければならなかったが、システム導入後は、パソコンでア

クセスするだけで、決裁することができる。また、進捗を見ることができるので、滞りが

あってもすぐに見つけて決裁を促すことができる。急ぎの案件で決裁担当者が出張などで

いない場合には、先に上にあげて決裁する「代決」も円滑にできるようになった。申請書

の滞留が減り、決裁は確実には速くなっている。

(4)従来から先駆的に運用されてきた行政評価の仕組み

京都市では、IT関連の案件に限らず、取り組んでいる事業の成果や費用対効果などを評

価する行政評価の仕組みを、全国に先駆けて構築、実施してきた。評価の種類は、上位の

政策を評価する「政策評価」「施策評価」、および、政策の実現手段である個々の事業を評

価する「事務事業評価」に分類される。このうち、事務事業評価については、事業ごとに

費やされた人件費を含む経費を把握し、費やされた経費と事業実績や事業進捗を照らし合

わせて、当初の目的どおりの業績が上がっているかなどが評価される。複数年度にわたる

事業については、単年度だけでなく、経年的な推移も評価される。

こうして評価された結果は、その事業を継続するのか、拡充するのかなどを判断する材

料となっている。また、評価結果はすべて HP上にも掲載され、市民に情報公開されている。

なお、ITという要素は、ほとんどの事業に関わる要素なので、ITという切り口で費用対効

果などを評価することは行っていない。

(5)職員のレベルに応じて、さまざまな教育を準備

一般職員に対する IT教育は、集合教育と e-ラーニングが併用されている。集合教育につ

いては、基本的なワード、エクセルの使い方や HP作成の研修が職員研修センター主催で、

情報政策課の職員が講師を担当して、年に何度か行われている。ただし、これはパソコン

を触りながらの研修なので、多人数は受講できない。申し込みは多いのだが、受講者は年

に 300人程度に限定される。それを補うために、同様のコンテンツを e-ラーニングでも学

べるようなっている。また、各種の情報システムの操作方法などは、庁内ネットワーク上

にオンラインマニュアルを置いているので、それにアクセスして使い方を学ぶこともでき

る。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

情報化推進の支援員に対する集合教育に力を入れている。庁内を挙げて IT化を推進する

ために、すべての部署に 1名の情報化推進の支援員を置いているが、部署の数だけいるの

で、その人数は約 400名にものぼる。本庁ではパソコン一人 1台の環境が整っているが、

それを積極的に活用してもらうために、支援員の果たす役割は非常に大きく、継続的に教

育することは重要である。教育内容は、個人情報保護やセキュリティに関するもの、情報

システム構築に際しての手続きに関するもの、情報共有を積極的に推進するための庁内ネ

ットワークの活用方法、2007年度に限っては CMS導入に向けたアクセスビリティに関する

ものなど、非常に幅広い。必要に応じて専門の外部講師も招いている。

情報政策課の職員に対する教育は、まず配属直後に 2ヶ月間、プログラムの作成やシス

テム管理など基本的な内容の研修を受けてもらっている。その後、1年目の秋と 2年目の秋

に 2週間、追加の研修を行っているが、2か月と 2週間だけでは必要なスキルは十分には身

につかない。そのため、最初の 2年間は毎日が、先輩がついて行う OJTによる研修期間だ

と考えている。つまり、2年かけてやっと一人前のレベルになる。したがって、情報政策課

は、他の部署よりも所属期間が長い。最初の 2年間を研修期間と位置付けているので、他

の部署では 5年がひとつの周期だが、情報政策課ではそれが 7年程度となっている。

(6)セキュリティを徹底するために業務の再委託を一切禁止

かつては、情報セキュリティ対策といえば、コンピュータウイルスの対策が中心だった

が、今は個人情報の管理、個人情報の漏えいをいかに防ぐかが一番の課題である。京都市

でも 3年程前から個人情報保護に関して、職員自身に関する施策と委託業者に関する施策

の両面から、重点的に取り組んできた。

職員に対しては、使用するパソコンデータへの暗号化を進め、なおかつ記録媒体を含め

て持ち出しを禁止しているが、ルールを徹底するために、セキュリティ意識を高めるため

の研修に力を入れている。また、年に 1~2ヶ月間をセキュリティ強化月間と位置づけ、記

録媒体の管理や入退室のルールなど、マニュアル化された手順が徹底されているかどうか

を組織的に厳しくチェックしている。

一方、委託業者からの情報漏えいを防ぐため、業務委託に際しての様式には、情報管理

が徹底できるように点検項目が盛り込まれている。さらに、管理の行き届かない再委託先

からの情報漏えいのリスクが特に大きいので、再委託は原則として認めず、すべて契約の

当事者になってもらうこととした。契約上で明確に情報持ち出しに縛りをかけると同時に、

万一持ち出しがあった場合は、個人情報保護条例上の罰則が適用される。また、強化月間

には、業者もチェックを行っている。再委託の禁止については、2007年 5月に、ある自治

体で委託業者から個人情報漏れの事故があったときに、対応状況について京都市にも国か

ら照会があったが、そのときにすでに対応済みを報告している。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

(7)個性的に IT化を推進している自治体が多い関西

関西には、セキュリティに関して先行した仕組みを作っている兵庫県や、震災を契機に

独自の取り組みを進めている西宮市、その他にも、神戸市、大阪市、豊中市、池田市など、

高い問題意識を持って個性的に IT化を推進している自治体が集中している印象があり、そ

れが強みだと考えられる。しかも、力点の置き方がそれぞれ違うので、それらを持ち寄っ

て知恵を出し合えば、さらに関西の情報化は進むのではないだろうか。もっとも、政令指

定都市レベルでは公式な交流会があるのに対して、これらの自治体が公式に交流する機会

は今のところはない。しかし、NTTドコモ主催のモバイル活用に関する研究会や、スルッ

と KANSAIの ICカードの研究会など民間の研究会に参加した折りには、先に挙げた自治体

の皆さんと出会うことがあり、その機会に交流、情報交換を行っている。参考になること

が非常に多く、この延長で、なんらかの連携を作ることができればいいと考えている。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

3.2 堺市

◆ 自治体概要(平成 20年 3月 1現在)

総人口 835,138人

世帯数 336,049世帯

面積 149.99km²

高齢化率 27.3%

職員数 6,167人(平成 19年)

(1)情報システム課と情報化推進課を中心に実施計画を推進

堺市では、2006年 6月に策定された「堺市行政情報化実施計画・改定版」(初版は 2003

年 3月策定)に基づき、電子市役所の構築に向けた取り組みを進めている。また、この実

施計画に基づき企画された施策やその進捗状況は、CIOにあたる副市長をトップに、各局

長から構成される「堺市 IT推進庁内委員会」で確認・検討され、必要に応じて弾力的な見

直しが行われている。副市長(当初は助役)が CIOを務めるようになったのは、2003年に

はじめて実施計画が策定されたタイミングで、副市長の強いリーダーシップによって実施

計画を庁内に浸透させている。

IT業務を担当する部署としては、総務部内に情報システム課と情報化推進課の 2課があ

る。情報システム課は 2係から構成されており、そのひとつの運用管理係(職員 5名)で、

主に汎用機や庁内 LANの運用・管理、アウトソーシング先の全体管理などを担当。もうひ

とつのシステム最適化係(同 5名)で、最適化を進めるためのオープンシステムへの移行

に取り組んでいる。一方、情報化推進課では、企画調整係(同 3名)で情報化施策全体の

企画・調整や情報セキュリティ対策を担当。同課の推進係(同 5名)で庁内 LANの積極活

用をはじめとする情報化推進の役割を担っている。推進係には民間枠として IT経験者を数

名採用している。

(2)庁内 LANにより情報共有と業務の効率化を推進

情報化の取り組みの一環として、庁内 LAN上で各種システムを運用しているが、最近、

一人 1台のパソコン体制が完成し、システムがより有効活用できるようになった。

そのひとつが、庁内ポータルサイトによる情報の共有化である。庁議での市長の発言な

どは政策担当秘書が庁内ポータルにアップして全職員に伝える一方で、各部局で進められ

ている総合計画の進捗情報などは担当部署が掲載し、庁内で共有されており、庁内通知等

はペーパーレス化が図られている。また、市民の声とそれに対する各部署のレスポンス内

容が、データベース化され、閲覧できるようになっている。電話や FAX、メールで届く市

民からのお問合わせや意見・要望は、広聴のルールでは担当部署が 2週間以内になんらか

の回答をすることになっているが、回答と同時にデータベースにも登録されて、政策形成

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資料編3.自治体ヒアリング事例

のプロセスで活用されている。

この他、庁内 LAN上では文書管理システムが稼動しており、電子決裁により決裁が迅速

に行われている。現在、導入中の大きなシステムは、人事評価システムである。どこまで

の職員を評価対象にするか詳細までは決められていないが、約 5000名もの職員を人事評価

するには、システム的に実施しないと適切にできないところまできている。すでに評価基

準は整備されており、あとはそれを IT化するだけで、2007年度から 2年間試行を重ねてシ

ステム構築を進めている。

(3)全体最適化を図るためにオープンシステムに順次移行

行政情報化実施計画の施策のひとつとして、庁内の情報システムの全体最適化を図るた

めに、大型汎用機からオープンシステムへの移行を進めている。その際に、実際のプログ

ラミングは原則すべて、アウトソーシングしている。以前は、汎用機のシステムのプログ

ラミングや運用は現場の職員が行っていたが、現場の職員が開発業務に携わると、メンテ

ナンス用の書類を残す手間をかけられないために、引き継ぎが非常に難しかった。逆に、

そのような事情から容易に人事異動ができず、組織の活性化が損なわれるという側面もあ

った。また、プログラミングのような技術的な作業を職員が行うべきかとの疑問もあった。

そこで、今では新規の情報システム開発をはじめ、従来の汎用機のシステム改修もアウト

ソーシングしている。

(3)ランキングでも評価の高い堺市の HP

堺市では従来から、市民への情報提供やサービス提供を充実されるため、ホームページ

の運営に注力しており、いくつかの民間機関の評価でも上位にランキングされている。各

部署から提供される情報の更新など、運営は広報課が担当。実際の更新作業はアウトソー

シングされている。最近、採用したコンテンツでよく活用されているものに、地図情報を

提供する「e‐地図帳」などがある。

大阪府との共同取り組みで導入した電子申請システムは、利用があまり進んでいないの

が実情である。そこで最近は、市の主催するイベントへの申し込みなどに、積極的に電子

申請を活用するようにしている。イベントの申し込みには、もともとは電子申請を使う予

定はなかったが、認証を必要とせず手続きが簡単なので、電子申請システムを普及させる

ための第一歩として、広く知ってもらうためにいい機会である。

(4) IT調達のガイドラインと審査・評価の仕組みを構築

(IT調達は最適化の一環)

2007年度から、IT調達を行う際の企画・調達ガイドラインを策定し、そのガイドライン

に沿って計画された情報システムの妥当性を、事前に情報システム審査会で審査する制度

の運用を開始した。今後、一定期間を使用したのち、審査の際のドキュメントをもとに事

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資料編3.自治体ヒアリング事例

後評価も行うことになっている。審査・評価の仕組みを構築したのは、従来、情報システ

ムは原課ごとに調達されていたので、全体最適化の視点から見てムダのあるシステム投資

がなされる懸念があったことと、調達から評価まで仕組みを統一することで全庁的にノウ

ハウを蓄積するためである。

企画・調達ガイドラインには、調達の際に考慮すべき事項や仕様書の書き方、機能面お

よび安全面でクリアすべき基準などがまとめられている。原課ではこれに沿って新たな情

報システムを計画すると同時に、調達の方法やシステムの組み方などは情報化推進課がア

ドバイスを行っている。

情報システム審査会は、財政部や人事部、行革推進担当などの組織横断的なメンバーか

らなる庁内組織で、情報化推進課が事務局を担当している。同審査会では、情報システム

の必然性、システム規模や予算・スケジュールの適正、省力効果をはじめとする費用対効

果など、企画の段階でさまざまな面から妥当性が審査され、投資の是非が検討される。審

査会で認められた計画は、次に財政部での査定を受ける。ここでは、財政面から計画が査

定され、場合によっては予算が削られたり、計画の段階的実施を指示されたりする。なお、

財政部の査定の客観性を高めるため、現在、コンサルティングファームのアドバイスを受

けている。この審査・評価の仕組みは運用してまだ間がないので、導入効果を評価するに

は至っていないが、今後は費用対効果などを事後評価し、効果が不十分であればその原因

はどこにあるのか、どのように見直せばいいのかなどが検討される。

(5)アプリケーションを活用した情報分析などの研修が好評

IT技術に関する教育は、情報化推進課で年間の計画が立てられ、実施されている。研修

のひとつに、全職員を対象にしたワード、エクセル、パワーポイントなどアプリケーショ

ンソフトの使い方の集合研修がある。これは実際にパソコンを操作しながら行っている研

修で、1回につき 3~4日の研修日程で受講者は約 20名。パソコンの台数に限りがあるため、

ひとつの科目について年間を通しても受講者は 100名程度に限られる。それを補うために

庁内 LAN上で e-ラーニングシステムを動かしているが、実際にパソコンを操作する集合研

修の方が人気はあるようだ。また、研修室が空いているときは、各部署が自前で講師を立

てて自主研修を行っている。最近、実施し始めて評判がいい研修は、ある部署で実際にア

プリケーションを使って行った情報分析などを紹介するケーススタディである。今後は、

このようなケーススタディを増やして、パソコン一人 1台体制をさらに有効活用してもら

いたいと考えている。

情報セキュリティに関する研修も年間 800名規模で実施している。すでに、セキュリテ

ィポリシーも策定し、それに基づき必要なシステムを導入しているが、それを周知徹底さ

せるために、セキュリティ研修をはじめとして、その有効な方法を模索している。また、

その効果測定も必要と感じている。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

(6)2007年度、IT教育強化のために教育予算を倍増

情報システム課と情報化推進課の職員に対する教育は、2007年度を教育強化の初年度と

位置づけ、教育予算を倍増。LASDECや富士通ラーニングなどの社外研修に積極的に参加さ

せている。また、情報システム系の業務は専門性が高く教育に時間がかかりので、職員の

所属期間も他の部署よりも長い。また、他部署に出したくない人を確保することもある程

度、認められている。

情報システム課と情報化推進課以外にも、かつて汎用機の開発業務に直接携わっていた

職員が現場に残っており、各部署で情報化を進める際に、電算担当という形で窓口になっ

てくれている。また、情報システムを持っている部署では、情報システムの主坦者を公式

に養成している。庁内 LANの運用については、情報化推進員を各部署に置いて、積極的な

活用を推進している。このように、IT業務を担当する職員を庁内全体に配し、情報化推進

には全庁を挙げて取り組んでいる。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

3.3 枚方市

◆ 自治体概要(平成 20年 3月 1現在)

総人口 406,069人

世帯数 155,551世帯(平成 17年)

面積 65.08km²

高齢化率 19.3%(平成 22年(2010年)推計)

職員数 3,370人(平成 14年)

(1)市長をトップにした情報化推進本部を設置

枚方市には市長を本部長にした情報化推進本部が設置されており、主要な IT関連の取り

組みは同本部の会議で討議・決定されている。会議は部長以上の役職で構成されており、

約 35名。すべての部長が参画することで、具体的な取り組みがより円滑に執行にできるよ

う、庁内における情報の共有化を図っている。なお、実務レベルでの企画立案作業は情報

推進課が担っている。

枚方市は平成 12年にテレトピア地域の指定を受け、それを契機にITインフラの整備やIT

に対応するための組織再編に取り組んできた。現在の組織は平成 14年に設置されており、

職員は庁内ポータルから共通のネットワークに入り、グループウェアや人事システム、財

務システム、事業評価システムなどの各種システムを利用している。中でも事業評価シス

テムとは、担当職員が入力した事業計画を部長が承認し、進捗状況を確認できるシステム

で、毎年の行う、事務事業評価の見直しにおける基礎データとしても活用され、その結果

については市民にも公開されている。

(2)最適な IT投資をめざして、事前協議制度を導入

従来は、各業務システムは各部署で独自に計画が立てられ、予算化され実行されていた

ため、総合的な判断が十分に行われないまま複数のシステムが稼動していた。現在は、投

資効果や投資の優先順位、あるいは、データの共有化が可能かどうかなどを情報推進課で

チェックする「事前協議制度」が導入されている。事前協議においては、全体最適を意識

したIT投資が行われるよう、全庁のシステム状況を踏まえたうえで、計画の見直しや再検討

が必要と判断されることもある。また、IT投資に対する評価指標についても、来年までには

確立させたい考えである。評価指標が確立できれば、PDCAサイクルにより、投資効果の測

定やリプレイスするのかどうかの判断なども的確に行えるようになる。

投資の優先順位が高いのは、全国的にも重点課題とされており、助成制度があるもの、

業務の効率化が図れて人件費が削減できるものなどである。住民基本台帳カードに関する

システムにも優先的に取り組んでおり、カード利用が進むことで、事務の効率化も期待で

きる。また、ホストコンピュータのシステムをオープン系に置き換える、いわゆるレガシ

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資料編3.自治体ヒアリング事例

ー対策も引き続いての重点課題のひとつである。情報推進課では、新しいシステムを開発

する際には、ホストにつなぐのではなく、汎用データベースサーバに接続して、オープン

に利用できるように指導している。

(3)施設の予約も簡単に、ホームページで情報提供

自治体の IT投資で業務の効率化と並んで重要視されるのが、市民に提供する行政サービ

スの向上である。枚方市のホームページは、ユニバーサルデザインに対応するために、2年

前に全面リニューアルを実施した。各種お知らせや会議の議事録、防災情報を載せた GIS

(地理情報システム)などの情報提供を行っている。コンテンツは各部署で作成して、広

報課等で内容をチェックしたのち、情報推進課でサーバにアップする方法をとっている。

枚方市では市政情報の提供だけでなく、スポーツ施設や生涯学習市民センターなどの施

設の空き情報の確認や予約が行える「施設予約システム」を導入している。このシステム

より、市民は抽選のためだけにわざわざ施設に出向く必要がなくなり、自宅にいながら 24

時間施設予約が行えるようになった。予約には事前に ID登録が必要だが、空き情報の確認

だけなら、ID登録なしで行える。さらにインターネットから予約した場合は、クレジット

カードで利用料の支払いが行えるなど、サービスが進んでいる。また、抽選時における職

員の負担が軽減されるというメリットも生まれている。その一方で、以前からの施設利用

者の一部には「抽選に当りにくくなった」との声も聞かれるが、これは利便性が向上した

ことにより、利用する市民が増えた結果と言えるだろう。

このほか、市民からの問合せが多い内容については「よくある質問と回答集」として FAQ

コーナーを設けて、情報提供に努めている。2006年の秋の開設から今までの 1年間でアク

セス実績は約 59,000件になる。FAQのコーナーは、市民の質問に答えるという本来の役割

だけでなく、職員が問合せに対して FAQを見ながら回答することで、職員の回答レベルを

揃えるという目的も併せ持っている。また、市民が電子メールで担当部署に問合せができ

る提言要望システムも採用しており、各部署に寄せられた提言や要望は、各々担当部署で

対応するほか、情報推進課、広報課、市民相談課でも共有されている。

(4)地域コミュニティの活性化をめざし、全小学校に Webシステムを導入

枚方市には、小学校区単位でいくつかの自治会が集合したコミュニティ組織が全小学校

(45校)区で結成されている。この全組織(全小学校)にコミュニティWebシステムを導

入したことにより、従来は、個人で管理していたコミュニティの情報をコミュニティ全体

で共有されるとともに、情報の発信や回覧などに活用されている。

このシステムは、市のサーバとネットワークを利用し、各学校にコミュニティ用のパソ

コンを配置したものであるが、メールの配信やポータルサイトの構築・運営については、

各コミュニティ組織で行われている。さらにその組織のもとでは、自主防災会により、市

の GISを活用した地域の防災情報の提供なども行われている。また、16のコミュニティ組

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資料編3.自治体ヒアリング事例

織ではホームページを外部に公開している。

このシステムの導入当初は、市の職員が各コミュニティ組織に出向いて説明していたが、

現在では各コミュニティにおいて、比較的スキルの高い人が自主的にリーダーになり、そ

の人が中心になって運営されている。また、市が主催する、リーダーを集めたパソコン担

当者向けのフォーラムをサイト内に設置し、運営をサポートしている。今後も、必要な基

盤整備や技術的なサポートについては市が提供するが、どのように活用するかは、各コミ

ュニティの自主性に任せている。

(5)各部署に情報化推進リーダーを配置、BPRを推進

枚方市では各部に 1人、情報化推進リーダーを配置している。情報化推進リーダーはイ

ンフォメーションリーダーの頭文字をとってILと呼ばれており、ILに対しては技術的な研修

だけでなく、自治体経営やCRMなどについての研修も行っている。さらに、各部署でITを

活用したBPRを推進するため、平成 15年から、ILが中心になってコンサルタントの指導を

受けながら、業務改善に向けた提案・実践活動を行ってきた。また、最終の報告書につい

ては、他部署でも活用できるように庁内ポータルで公開している。さらに、平成 18年から

は一般職員からもIT活用の提案を受け付ける「職員提案制度」を実施しており、優れた提案

に対しては表彰を行っている。ちなみに、これまでの提案では、ファイル管理に関するも

のが多くなっている。現段階では、あくまでも気づきを促すための取り組みだが、ITを活用

してBPRを推進していくためには、こうした方法でも活用しながら、職員一人ひとりの意識

を改革していく必要がある。

また、枚方市では管理職以上に目標管理システムを導入している。庁内ポータル内に課

長なら課長の、部長は部長としてのそれぞれの目標を掲載し、目標が達成できたかどうか

の評価を行っている。このシステムは、市の目標を達成するために、各組織の管理職がそ

れぞれの職責と役割に応じた目標を設定し、その目標と目標達成に向けたプロセスを共有

化するとともに、その達成度合いについても被評価者と評価者が共有し、今後の取り組み

に生かすこととされている。また、達成度合いに対する評価については、勤務評価の一部

とされている。

(6)情報セキュリティ対策と危機管理について

住民の個人情報を取り扱う行政は、情報セキュリティ対策は特に厳密でなければならな

い。枚方市では、住民情報に関するもの、行政情報に関するもの、Webで取り扱うものなど、

ネットワークによってセキュリティレベルに違いを設けて情報を管理している。また、情

報漏えいに対する物理的な対策としては、

パソコンの ICカードによる使用認証・権限認証、使用パソコンの外部持ち出しの原則禁

止、記憶媒体の使用禁止(やむを得ず使用する場合は事前に申請する)、ネットワークの VPN

化、庁内データの暗号化、ICカードによる入退庁管理などを実施している。

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資料編3.自治体ヒアリング事例

システムの危機管理については、システムトラブルが起きた場合にもサービスが停止し

ないことを目標に、オープン系のサーバシステムについては冗長化を行っている。ホスト

については、冗長化に大きなコストがかかるため、一部シングルで稼動しているものもあ

るが、速やかに復旧ができるように定期的にバックアップを取ってリスクに備えている。

(7)システム開発の委託化と IT担当職員の養成

現在、自治体のシステム開発は、自らシステム開発を行っているところと、委託してい

るところに二極化している。以前は枚方市も内部でシステム開発を行っていたが、平成 14

年からは「小さな市役所」をめざし、システム開発を委託化した。その背景には、開発担

当職員への負担が大きすぎることや技術的な限界があるが、基本は民間でできるものは民

間に出し、市役所でやるべき本来業務に専念しようという考えに基づいている。

今後、オープン系のシステムに移行するに際しては、必要な ITの知識とスキルを備えた

職員の先細りが心配されている。職員に対する IT研修については、エクセルやアクセスな

どアプリケーションの集合研修を定期的に行うだけでなく、各部署で 1~2名程度について

は、ホームページ作成の研修も行っている。特に、最近ではセキュリティに関する研修に

力を入れている。一般業務を進める上では十分な研修とも言えるが、それ以上のスキルア

ップは望みにくい。現状では、ジョブローテーション(原則として3年ごとに職場を替わ

る)による人事異動も影響もあり、IT業務を担当する職員と一般職員の間のスキルの格差

や IT担当者の育成・確保が課題となっている。このため、枚方市では IT担当職員の養成研

修に参加するよう、要請を行っている。

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3.4 宝塚市

◆ 自治体概要(平成 20年 3月 1現在)

総人口 222,123人

世帯数 88,371世帯

面積 101.80km²

高齢化率 19.0%(平成 18年 2月 1日現在)

職員数 1,526人(平成 19年)

(1)情報政策課を中心に、基幹システムの最適化に着手

宝塚市では平成 14年に IT化推進のための基本計画として「宝塚市電子自治体アクション

プラン」を策定、その後も毎年、内容を見直しながら継続している。各課から吸い上げた

要望を事務局である情報政策課で原案にまとめ、市長をトップとした都市経営会議で毎年

のアクションプランとして採択されたのちに、それに基づき IT化推進に向けた各種事業が

進められている。

情報政策課の職員は課長以下 11名で、ホストコンピュータやネットワークの管理・運用・

保守を担当。ホームページ系の作業は一部を課中でやっているが、ホストコンピュータ上

の業務システム運用開発は 10年ほど前から基本的にアウトソーシングしており、委託先の

社員や派遣社員が 10名常駐している。

従来、住基・税等の基幹業務は情報政策課で一括開発運用していたが、介護保険・戸籍・

障害福祉等の新しい各業務システムはそれぞれの担当部署が、個別に計画し予算を立てて

開発運用している。今後は全庁をあげて基幹システムの最適化を図るために、すべてのシ

ステムを情報政策課で管轄する体制への移行の検討を進めている。その手始めに、平成 18

年度の後半に、全庁の情報システムの調査を実施。どのくらいのコストがかかっているの

か、どのくらいの業務量をこなしているのか、どのような課題を抱えているかなど、詳細

に現状把握した。この調査を踏まえて、平成 21年度以降を目標に、基幹システムの最適化

を図り、総合窓口のより一層の内容拡充等の市民サービスの向上を実施し、システム経費

の増大を抑制していく予定である。

(2)早くから CMSを採り入れ、各課が情報発信

現在、パソコンは一人に 1台配備されており、庁内ポータルに職員全員がアクセスし、

たとえば文書管理システムを使って、電子的に稟議、決裁、情報共有のできる体制が取ら

れている。また、人事評価システムも導入されており、課長級以上の人事評価が行われて

いる。すでに全庁的に説明は済んでおり、来年度には評価対象者を係長級にまで降ろし、

その後、全職員へと広げていくことになっている。

ホームページのコンテンツは、今から 5年前という早い時期に CMS的な仕組みを採り入

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資料編3.自治体ヒアリング事例

れて、そのときから各部署で作成している。「CMS的」というのは、その当時はまだ CMS

という言葉は広く知られておらず、仕組み自体も宝塚市で独自に開発したものであるから

だ。庁内ポータルを管理しているサイトセンターに、各部署がアクセスして、CMSのフォ

ーマットに従ってコンテンツを作成・更新。それを情報政策課でアップロードして、市民

に公開している。庁内ポータルも同様で、例をあげれば、人事課では福利厚生情報の一部

を適時、発信している。

(3)市民によく活用されている施設予約システム

市民に提供しているサービスでよく利用されているのは、ひとつが施設予約システムで

ある。体育施設については、5年前からインターネットのみの予約受付としている。携帯か

らの予約もできる。利用者が若い層だからかもしれないが、ネットでしか予約できないこ

とに対して不便であるとの苦情はない。公民館についても、時期を見てインターネット予

約をはじめ、予約を可能とし、利便性の向上を図る考えである。

電子申請システムの利用度はあまり高くなく、利用を進めるために、来年度より兵庫県

の電子申請共同運営システムで簡易申請システムが追加される。ID登録や認証の必要ない

簡単な受付事務や市民アンケートなどに活用する予定である。

ところで、関西の自治体の行政サービス面での IT化の取り組みは、各自治体が分散的に

行う傾向が強いように感じる。他の地域では、県や近隣自治体との連携で事業を進めるこ

とによって、広域的に行政サービスレベルの底上げができているように見受けられる地域

もある。関西では自治体によって独自性が強く、取り組み姿勢に温度差があるからかもし

れないが、電子申請共同運営システムのようにもっと県が音頭を取って、連携して事業を

進めることがあってもいいのではないだろうか。

(4)評判がいいメールによる市民への情報提供

評判がいいサービスにもうひとつ、メールによる情報提供がある。メールを受信するに

は登録が必要で、希望する市民だけが受け取れる。イベント情報をお知らせするメール、

防犯・防災情報を流す「安心メール」、男女共同参画センターからのメールマガジンなどが

あり、中でも特に登録者数が増えているものに「ごみの日メール」がある。宝塚市ではゴ

ミの細かな分別を市民に協力してもらっているが、ゴミの種類によって出す日が地域ごと

に異なるので、ホームページ上で掲示すると同時に、希望者には「ごみの日メール」を送

信してお知らせしている。新聞等に取り上げられたこともあって、2007年 9月から始めて

数カ月で、すでに登録者数は約 1,100名になっている。

一方で、市民からの意見や要望、苦情をメールで受け付けている。各課のページに問合

せフォームを設けて、市民からのメールは各課と広聴相談課に届くようになっている。各

課で回答した内容も広聴相談課に報告される。広聴相談課に集約された内容は、次の施策

立案などに反映するように努めている。ただし、市民からの意見や要望、苦情を制度的に

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資料編3.自治体ヒアリング事例

採り入れるプロセスまではできていないので、今後はその仕組みを作り、FAQに反映させ

たり、寄せられた意見がどのように取り扱われているのかを公開したりすることも重要だ

と考えている。

(5)アクションプランに基づき、OA研修を実施

庁内の IT教育については、宝塚市電子自治体アクションプランに基づき、平成 14年から

の 3カ年計画で、Microsoft Officeソフト研修を集中して実施した。ちょうど庁内にパソコン

やグループウェアを普及させる時期にあたり、ワードやエクセルの使い方、グループウェ

アの使い方などを教育することによって、業務を進める上で、パソコンを普通に使いこな

せるようになってもらうためである。さらに、各課で代表 2名程には、CMSを使ったホー

ムページコンテンツ作成やアクセスビリティについての研修も受けてもらっている。いず

れも、研修効果の達成レベルを数値化して評価まではできていないが、最近では情報政策

課への問合せも特にないので、日常的に使いこなしてくれていると判断している。この他

の IT教育としては、県が主催する OA研修や民間企業のセミナー情報などを提供し、参加

を呼びかけている。

なお、各課に 1名、IT推進リーダーを置き、各課における IT化の推進や情報セキュリテ

ィの実施などをサポートしてもらっている。そのために、全庁で 120名程度いる IT推進リ

ーダーには、OA研修などを優先的に受けてもらっている。ただし、庁内の IT担当者のス

キルアップは、人事異動などもあってなかなか定着しないのが実情である。情報政策課で

はシステム開発よりも政策的な業務を担うべきであり、効率化という側面からも、10年前

よりシステム開発は原則、アウトソーシングしてきた。しかし、システムを利用して現場

で実際に業務を行なう者が、自らシステムの構築や運用・管理に積極的に携わることが望

ましいとする EUC(エンドユーザーコンピューティング)の観点からは、庁内の ITスキル

の維持・向上は今後の大きな課題である。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

44..教教育育分分野野

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

ヒヒアアリリンンググ実実施施教教育育機機関関

No. 教育機関 ヒアリングのポイント

1 京都府教育委員会 ・ 環境整備と IT 指導力、校務情報化、情報モラルの考え方等について

2 兵庫県教育委員会 ・ 環境整備と IT 指導力、校務情報化、情報モラルの考え方等について

3. 京田辺市教育委員会

・ 「京田辺市地域プロジェクト」への取り組みについて(経済産業省/OSP 事業)

・ 学校現場へのOSS(オープンソース・ソフトウェア)導入の普及の可能性について

4. 三木市立教育センター

・ 「地域・学校の特色を活かした ICT 環境活用先進事例に関する調査研究」先導的実践事例(文部科学省)

・ 環境整備と IT 指導力、校務情報化、情報モラルの考え方等について

5 兵庫県立西宮今津高校

・ 「地域・学校の特色を活かした ICT 環境活用先進事例に関する調査研究」先進事例実践校(文部科学省)

・ その他、具体的事業への取り組み

6 京都大学 田中克己研究室

・ 「授業支援向けサーチエンジン」の開発について (第 7回インターネット活用教育実践コンクール実行委員

会賞受賞(文部科学省)「感じて・見つけて・考えて・いきい

き学びあう子-ITによる『総合的な学習の時間』の効果的

支援小大連携プロジェクト-」INARIプロジェクト[京都大学

大学院情報学研究科・京都市立稲荷小学校])

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

4.1 京都府教育委員会

〈概要〉 (H20.3.1現在) ・ 総人口 2,636,706人 ・ 世帯数 1,103,968世帯 ・ 面 積 4,613.00k㎡ ・ 府立中学校 2校 ・ 府立高等学校 55校 ・ 特別支援学校 15校

京都府教育委員会の「平成 20年度 指導の重点」

においては、情報教育について、以下のように示し

ている。

「社会の高度情報化に伴い、児童生徒の発達段階

に応じ、『情報活用の実践力』、『情報の科学的理解』、『情報社会に参画する態度』で構成さ

れる情報活用能力の育成に努める。特に、情報の価値についての認識を高めるとともに、

情報モラルに関する指導の充実に努める。

また、学校における教育の情報化を推進するため情報教育の総合的・計画的な取組に努

める。」

具体的対応:①情報通信ネットワークやコンピュータなどの情報手段を用いた問題解決

能力等を育成するなど、教育活動全体を通じて情報活用能力の育成が図れるように、各教

科等の学習内容と情報教育の目的や内容との関連付けを明確にした年間指導計画を作成し、

総合的・計画的な指導に努める。

②個人情報の取扱い、著作権などについて配慮するとともに、学校全体で体系的な情報

モラルの指導に取り組む。

具体的対応:①情報通信ネットワークやコンピュータなどの情報手段を用いた問題解決

能力等を育成するなど、教育活動全体を通じて情報活用能力の育成が図

れるように、各教科等の学習内容と情報教育の目的や内容との関連付け

を明確にした年間指導計画を作成し、総合的・計画的な指導に努める。

②個人情報の取扱い、著作権などについて配慮するとともに、学校全体で

体系的な情報モラルの指導に取り組む。

校種別目標:

小学校 ①情報通信ネットワークやコンピュータなどの情報手段に慣れ親しみ、身

近な道具として適切に使いこなせる能力と態度の育成

②プライバシーの保護や著作権などの基礎的な情報モラルやマナーの育成

中学校 ①情報通信ネットワークやコンピュータなどの情報手段を主体的に学び、

他者とコミュニケーションを行う道具として積極的に活用する能力と態

度の育成

②情報化の影の部分についての理解の深化と情報モラルの育成

高等学校 ①教科「情報」の学習及び情報通信ネットワークやコンピュータなどの情

報手段の活用を通して、主体的に学び考え、自分の意見を的確に表現で

きる能力と態度の育成

②多様な目的のための情報活用能力の育成と情報通信ネットワークなどの

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

活用に伴う倫理観の育成

特別支援学校 児童生徒の実態に合わせた情報手段及び教育機器の積極的な活用と情報活

用能力の育成

(1)IT環境整備

①情報化の進め方

施策を場当たり的に考えていくのではなく、有識者の意見も聞きながらアクションプラ

ンを練り上げ、それに従って施策化している。

京都府では『地域と人を結び育てる IT活用プラン(2003年(平成 15年)12月公表)』で

教育の情報化推進の方向を示し、アクションプランに示された各種事業の実現や情報教育

を統括するセクションとして、情報教育推進担当を 2004年(平成 16年)5月に府教育委員

会内に置いた。

『地域と人を結び育てる IT活用プラン』では、教育系の超高速回線である『京都みらい

ネット』を活用し、教育分野の情報化を進めて IT先進地づくりを図ることとしている。

具体的には、教育情報の統合窓口としての HPの開設、ITを活用した多用な学習機会の充実、

府立学校の普通教室等での IT活用環境整備、人材育成や人材活用支援の充実といった項目

がある。また、ITの特性を生かした魅力ある授業や交流学習、学校間連携など、学習機会

を通して確かな学力を築き、新しい時代を逞しく生きる力を育む施策を展開し、教育の情

報化や情報教育を総合的計画的に推進している。

それらの重点施策に対応して、校内 LAN、PC教室の整備更新、さらに今年度からは教員

の校務処理用 PCの配備を実現してきた。

これらの整備は、高速ネットワークを使って子供たちの学力充実、ITを使って確かな学

力をつくり、生きる力を育てていくということを目標として行われている。

②整備状況

京都府下は『デジタル疎水ネットワーク(2.4Gbpsの超高速回線)』により、あまねく IT

環境整備が行われており、ダブルループに支線で各学校へ引き込んでいる。デジタル疎水

全体の運営は京都府の業務改革推進室で実施している。『京都みらいネット』はそのサブシ

ステムとして運営しており、ネットワーク維持にかかるサーバ類の保守費用などを教育委

員会で予算化している。

専用線で学校間のネットワークを作る試みは、全国的に見ても京都府は早く、1997年度

(平成 9年度)に現在の『みらいネット』の前身となる『京都みらいネット』が構築され

た。当初は府立学校間だけであり各支線の回線速度は 60Kbpsであった。今から比べればナ

ローバンドであるが、当時としては「これほどの回線が必要なのか」と驚きの声があがっ

たほどであった。いち早くネットワーク環境を作り、2003年度(平成 15年度)からは『デ

ジタル疎水』の整備により、支線の回線速度は 100Mbpsとなった。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

ただし、京都みらいネットへは府下全部の学校が参加しているのではなく、現在も8市

町村が未加入である。

※ 未接続…小学校 249校中 102校、中学校 100校中 41校

学校数の多い市部(長岡京市、宇治市、京田辺市、亀岡市、舞鶴市)では独自に高速ネ

ットを構築しており、京都みらいネットには参加していない。

しかし、京都みらいネット内では、様々なサービスを提供しており、京都府教育委員会

としては、みらいネットの利点を訴え、市町村の加入を呼びかけていく。

③機器配置

教育としての IT環境整備の数値目標は特にあげていないが、府立学校の校内 LANについ

ては 100%達成の目途がたっている。京都府は全国的に整備がたち遅れていた方であったが、

昨年度から 5年計画ですべての府立学校の普通教室に校内 LANを整備している。また、コ

ンピュータ教室はすべての府立高校にあり、計画的に更新している。

教員用 PCについては、これまでは予算的な配備は行ってこなかったが、国の目標で 1人

1台の整備と示されたこともあり、それに近づくよう今年度からの事業で整備を進めはじ

めた。

3年後には、教員数に比して約半数程度の PCを整備する予定であり、既存の校務用 PC

も含めると7割程度の教員に公用 PCが行き渡る計算である。

④利活用阻害要因解消方策

利活用の阻害要因の第一には、先生方が慣れていないことがあげられる。1コマの授業

の中でどの部分で用いるのが効果的かを考え、補助的にワンポイントで活用するところか

ら始めることを勧めているが、準備に手間がかかるため、授業の合間の 10分では、準備時

間が足りない。スイッチひとつでできるようになればよい。

先生方も二極化し、スタイルでもはっきりと分かれている。「あるのなら使いたい、使え

ば良い資料が見せられる」という先生や、「なくても授業はできる」という先生もいる。

国への要望として、地方交付税ではなく目的を持った形での補助として欲しい。

(2)IT利活用指導力

(1)教員の自己評価結果

活用スキルを持つ教員の割合は、京都府は低率ではない。しかし、これは教員数でかな

りの割合を占める京都市が高い率で『活用できる』と回答されているためで、京都市を除

く郡部では全国平均を下回り、府立高校では 5~10%下回っている。

校務への活用度は高いが、授業への活用では、必要性を感じない先生もいる。有効だと

いうことが普及するにつれ、少しずつ利用が増えているが、浸透の度合いは遅い。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

自己評価の結果だけでは判断できない面もあるが、環境整備で上位の所が必ずしも指導

力で上位にきている訳でもなく、逆に下位の所が指導力で上位にきたりもしているため、

あまり関連が無いと考えられる。

あくまでも自己申告による調査なので、基準にブレがあると感じられる。調査内容が多

岐にわたり、調査の実施時期も異動時期にあたるため、しっかり聞き出せているかという

疑問も残る。

(3)校務情報化への IT利活用取り組み実態

①リーダーシップ

府立学校長の IT利活用に関する有効性やセキュリティに対する意識がかなり変わってき

ている。

②校務用コンピュータの個人単位導入

校務用パソコンに必要なスペックとして、ワープロと表計算に活用できる程度のものを

想定している。動画編集等を行う場合には、コンピュータ教室のパソコンを用いている。

また、シンクライアント機の導入について検討したが、費用が高く、また、サーバが数

多く必要であることから、管理費用が負担できない。ただし先行事例として、京田辺市で

は、セキュリティ面や、各校の管理運用の負担軽減のためにシンクライアント機を導入し

ている。

(4)IT投資と人材育成

①投資効果

IT活用授業の効果は、検証されつつあるが、まだまだ十分な検証がされておらず、これ

からの課題であると認識している。

②情報担当者

府立学校ではみらいネット担当者を各校で割り当てており、校内の IT利活用の普及や運

用管理を行っている。各学校において、年度当初に活用法や情報セキュリティ講習を行う

よう指導している。

しかし、十分な人的支援が行えているとは言い難い現状である。雇用促進事業でのサポ

ートは、現在打ち切られ、現状では人件費の予算獲得は極めて困難である。

③ 材育成

小学校では特にサポート体制が重要で、ボタンひとつですべてできる、というようにな

れば使われるようになる(テレビ等を活用する授業スタイルになれている)と思われる。

中学・高校は、各校数名の先生がアドバイスを行い、IT活用の普及と推進に努めておられ

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

る。

校内研修や、活用の有効性を伝える講座などを実施することで、少しずつ人材育成を進

めている。教育委員会として、環境整備面と教員の資質向上の両面について、総合学習セ

ンターと協力して取り組んでいる。

教員の研修、育成は主に京都府総合学習センターで取り組まれ、初任者研修、一般教員

研修などで活用法についての研修を行い、IT推進指導者研修においてリーダーの養成を行

っている。ITを校務では使えても授業で使うことはなかなか難しいが、使いたいと思って

いる先生は多いと考えている。

(5)情報モラルへの対応

ネットワーク環境の整備時期が早かったこともあり、京都府立学校の先生方はコンピュ

ータをよく活用されている。しかし、パソコンの整備は十分ではなく、文部科学省が行っ

ている教育情報化実態調査では、私物パソコンの持ち込み率が高く約 70%となっている。

全国平均が 50~60%なのに対し、京都は多くの先生が私物パソコンを持込んでいることに

なる。国も教員パソコン1人1台の方針を打ち出しており、セキュリティ対策の面からも、

今回公的に配備することとした。

『みらいネット』は教育系 LANであり、生徒が使うことを中心に考えられている。府立

学校すべてが大きなネットワークになっているため、個人情報等を扱う職員用とは分ける

必要があり、各府立学校には必ず職員用と生徒用とに切り分けるファイアウォールが入っ

ている。

個人情報を含むファイルを持出す場合には『所属長の許可を得てから』という形を取っ

ているが、教員の勤務形態を考えると完全に止めてしまうことは不可能である。従って、

持出し時に『危険なものを持出している』ということを自覚してもらうことが必要と考え、

今回の配備にあたりセキュリティを意識してもらうための運用管理ソフトウェアを全クラ

イアントに導入する計画を立てた。府立学校内の教員パソコン(私物を含む)約 4000台すべ

てにインストールし、各学校のセキュリティポリシーに従い運用してもらうこととした。

各校共通の最低限の設定として、警告が出るようにし、意識付けの面でセキュリティ対策

の向上が図れるようにした。すべてダメだといっても実効性が薄く現実問題として意識づ

けを中心に考えている。

教育委員会では、府立学校情報セキュリティ実施手順を策定し、それをベースに各学校

では、校長指導の下、それぞれの実情に合わせたセキュリティポリシーを作成し、そのポ

リシーにあわせた設定を行い運用している。

情報モラルについては、裏サイト等の問題を含め、生徒指導の問題としても考えている。

倫理観や人権意識の育成と合わせた情報活用能力の育成を目指している。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

(6)課題

現在は校内 LAN等の校内環境整備を行っている段階であり、各教室へのプロジェクタや

パソコン配備については未定であるが、京都府教育委員会としては、簡単な操作で IT機器

を利活用できる環境を整え、『児童・生徒がイキイキと学習できる』授業を目指し、人材育

成を含めた形で計画を進めていく予定である。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

4.2 兵庫県教育委員会

〈概要〉 (H20.3.1現在) ・ 総人口 2,636,706人 ・ 世帯数 1,103,968世帯 ・ 面 積 4,613.00k㎡ ・ 府立中学校 2校 ・ 府立高等学校 55校 ・ 特別支援学校 15校

兵庫県教育委員会では『兵庫の教育改革プログ

ラム(平成 15年7月)』の中で情報教育の充実とし

て、「社会の情報化が急速に進展する中で、教育

情報ネットワークの基盤整備を進める一方、児童

生徒に高度情報通信社会を主体的に生き抜く力

を身につけさせることが重要な課題となっている。IT(情報通信技術)や情報を適切に活

用する能力を育て、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の基本的な特性

や適切な活用方法を理解させるとともに、望ましい情報社会の創造に向けて、社会の中で

情報や情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、情報モラルや情報に対する責任感

などを育成することが大切である。

また、教職員のIT活用能力の向上を進める一方で、高度情報通信社会における情報教育

の在り方についての教職員の理解と指導力の向上を図り、子どもたちの興味・関心等に応

じ、積極的に情報手段を使いこなし、思考力や判断力、創造力、表現力等の育成に努めて

いくことが重要であり、国や市町の取組と連携した総合的な施策の展開が求められてい

る。」と示している。

また、今後の重点的な取組として、以下のように示している。

ア 国や県の指針を踏まえた上で、初等教育から後期中等教育までの本県の情報教育

の系統的な在り方を示す指針を策定し、国や市町の取組と連携した情報教育を推

進する。

イ 教員のICT活用能力の向上を一層進め、高度情報通信社会における子どもたちの

情報教育の在り方に対する理解と指導力の向上を図る。

ウ 大容量の情報が交信可能な教育情報ネットワークの供用開始に伴い、教育委員会

や各学校、地域や家庭等の間で、動画等を含めた各種情報が双方向に交信するな

ど、新たな学習の場の創造に努める。

エ 県立及び市町組合立学校の情報教育環境の充実のために、校内LANや高速通信

ネットワークなどの基盤整備を促進する。

(1)ICT環境整備

①整備状況

兵庫県情報ハイウェイの運用が開催された 2002年(平成 14年)より前から教育委

員会独自の情報教育ネットワーク(当初ISDN 128Kbpsの幹線)を構築し、県下の教

育事務所を拠点に設けて各学校とダイヤルアップで接続した。キャリアとの契約を短

期で行っているため、拠点間の回線速度を徐々に上げていくことができ、光ファイバ

ー1.5Mbpsまで上げ、京阪神間で学校数が多い拠点との間には回線を2本引く整備も行

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

った。その結果、県下全体の高速の教育情報ネットワークが構築できた。各学校から

はダイヤルアップもしくはISDN、1Bか 2Bの専用線で接続した。よく使う学校は専用

線でつないだ方がコストを安く押さえることができ常時接続のネットワーク化を図っ

た。

県情報ハイウェイが完成した時点で、情報ハイウェイに乗り換えている。県の特長

として南北に長いため、その中心に位置する加東市にある「兵庫県立教育研修所」を

インターネット接続ポイント及びサーバ機器を置き、教育情報ネットワークの運営管

理を行っている。

県下の各学校の校内LANの整備は全国平均より進んでいる。神戸市、尼崎市、伊丹

市は総務省の地域イントラ整備によって、早期に取り組まれている。しかし、人口規

模によって総務省の補助金が大きく変わるわけではなく、阪神地域のような都市部は

地域イントラでの校内LANまでの整備は難しい。自治体の情報化では進んでいると評

価されている西宮市、篠山市においては、校内LANの整備率が低い状況にある。

②機器整備

県立学校の教員1人1台のPC整備を5ヶ年計画で実施しており、今年(2007年度(平

成 19年度))で4年目である。来年1年で整備が終わり1人1台の整備が完了する予

定である。

また、特色ある学科を持った高等学校には、情報教育を推進するにあたり、コンピ

ュータ教室が1室では足りないため、県の整備方針で2室目を整備している例もある。

③政府による整備方針

文部科学省の情報化の実態調査の結果には地域特性がある。大阪府の学校は、国が

示す基準に近い学校規模形態であり、クラス数が相当あって、小規模校が少なく人口

が多い割に学校数が少ないことを背景に高速インターネットの接続率が高い。PC一台

あたりの生徒数の項目では、鳥取県や島根県など学校規模が小さく、生徒数も少ない

所では、導入台数が少なくても国の整備基準値を満たすことができるが、学校規模が

大きい都市圏などでは、国の整備基準値には程遠くなる。

文部科学省は全国自治体の整備状況を数字で示しているが地域特性を炙り出し、科

学的な分析により適切な整備方針を十分に示すことが望まれている。『高速インターネ

ット接続率』についても、40台の PC教室から接続するにはWebサイトを授業で活用

するには十分でなく、家庭環境よりも遅い1Mbps足らずの接続速度を今までの基準値

としていた。ようやく、30Mbps以上の接続を『超高速』と呼び、『高速』は 400Kbps

以上という基準になった。

大阪は都市部であり必要な接続距離も短いため、光ファイバーを引くことができる。

ケイ・オプティコム等複数の事業者が頑張っているので光ファイバーの接続率が高い。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

ここでいうインターネット接続環境は、授業においてストレスの少ないものでなけ

ればならないのだか、400Kbps や 30Mbpsという商業ベースの商品呼称の通信速度を基

準で示した根拠はあるだろうか、単に2つの基準で調査しそれを整備目標とすること

でなく整備台数や、学校規模、授業時間帯などに実質的な通信速度が確保されている

測定方法を基準として示し、整備基準としなければならない。今の学校からインター

ネットに接続できる環境は国が示しているような数値だけでは実態を表すことが難し

いと考える。

コンピュータ教室で調べ学習にインターネットが使えるからと言って、子供達が一

斉に使えるような授業形態は難しく、それでも我慢して使っている小・中学校は山程

あるのが実態である。

(2)教員の ICT活用指導力について

2007年(平成 19年)3月に実施されたIT活用指導力調査は、各府県によって評価基

準が異なるため、やや信頼性に欠ける。更に具体的な調査を再考中と聞いている。

(3)校務情報化への ICT利活用取り組み実態

①トラブル、サポート

教育情報ネットワークの運用コスト削減のため現在では常駐のSE配置ができない、

週2日配置の運用サポート契約しかできていない。このため不便と感じることは山程

あり、利用者の学校に迷惑をかけることが多いが、担当職員が頑張っているため、大

きなトラブルは余り発生していない状況である。

校務のIT化を全県立学校で完全実施するためには、完全なサポート体制が必要であ

る。現状であれば、出来る先生に負担がかかるだけとなっている。但し、モデル校を

指定し実施計画をしているが、予算面で課題があるのが現状である。

(4)ICT投資と人材育成

①情報担当者

国がいう教育 CIO職の設置は、必要性の高いことであるが、その方針を明確にし CIO

職として教育行政専門職としての人材育成と権限を持った配置が求められる。

2001年度(平成 13年度)から学習環境の支援体制として「教育情報化コーディネー

タ」の必要性がいわれているところであり、社団法人日本教育工学振興会(JAPET)

が「教育情報化コーディネータ(ITCE)」の資格検定試験を行っているが、まだ制度的

には確立していない状況である。

20年前、文部省の調査事業でアメリカへ行ったが、その報告書に情報施策の企画や

情報教育、コンピュータ教育を推進する人の資格は、教育系の専攻とさらに情報系の

専攻した学歴を必要とする州が多くある。情報化の予算立案やその人が使える予算枠

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

を決めることも任されており(権限で決定できる)、『コンピュータ・コーディネータ』

と呼ばれ、給料もそれ相応に手当てされていた。

(5)情報モラルへの対応

①情報セキュリティ、情報モラル

教育情報ネットワーク全体をWebサイトへのアクセスのフィルタリングするシステ

ムの導入は、日本国内でもかなり早い時期に行い、ブラックリスト方式で対応した。

導入当初は、是非の議論も多くあったが現在、子どもたちへの有害情報対策としての

フィルタリングが求められていることから間違いはなかった。今や、企業や官公庁の

職員の大人向けにも業務に不必要なサイトへのアクセスやセキュリティ対策の一環と

してもフィルタリングの導入が行われている。

フィルタリングは、完全に子どもたちに対して有害情報対策として機能させること

は不可能である。フィルタリングに漏れて覗けたアダルトなサイトなどがあっても見

ないように、また大人たちが指導することが大事である。

また、接続を始めた時からインターネット接続に対してすべてのログを取っており、

現在も全部保管しており、時間をかければいつどこからがどんな接続をしたかという

記録は出せるようにしている。教育におけるインターネット接続状況を研究対象とし

て分析も不可能ではない。

教育情報ネットワークとして学校が、安心して利活用できる環境を長い期間運用し

提供し続けていることは、兵庫県の情報教育の推進に需要な貢献を果たしている。

(6)課題

先生がITを使って校務処理等を行わなければならないことは何か。単にメール、ワ

ードやエクセルなどツールの利用や旅費計算、成績処理や文書ファイルの共有などア

プリケーションの利用を考えていることが多いが、本来ならば子どもたちと触れ合う

ゆとりの時間を生み出す雑務からの開放と子どもたちをより理解し指導するために調

査、集計、分析や評価等の共有などに利活用することであろう。学校現場では、先生

が個人で和文タイプ、ワープロ、パソコンと情報機器を自らが導入し始め、それらを

利活用し事務や授業等の改善を図ってきたが、国の施策では子どもたちのコンピュー

タ導入が優先され先生一人一台のコンピュータ導入は後回しになり、やっと教員一人

一台の整備基準が示された。

先生が子供と向き合うためには、単に情報化されただけで改善されることと、そう

でないこととがある。それら分析した上での校務処理システム開発が行う必要がある。

現在、標準仕様やガイドライン作りが進められている。本当にいいシステムが学校現

場にこれから提供されようとし、ようやく国も動き出してきた。

学習指導要領の改訂時期を向かえ、見直された情報教育の体系により情報化社会に

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

生きる人材を育む体制に向けた新たにデザインされたITを活用できる組織と機能する

教育情報環境を構築し日常化することが課題である。

(7)その他

①ICT利活用実践事例

平成 19(2007)年度の ICT利活用実践事例について、教育委員会のホームページで

紹介されている。

出典:兵庫県教育委員会教育企画課 HP(http://www.hyogo-c.ed.jp/h19jirei/)

図 平成 19 年度 ICT 利活用実践事例集

表 平成 19 年度 ICT 利活用実践校一覧

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

4.3 京田辺市教育委員会

最近の傾向として、基本的に非 OSSのソフトウ

ェアであるとアプリケーションソフトは当然なが

ら OS自体も高性能なパソコンを想定して設計さ

れている。それに伴いハードウェアに求められる

性能も、実運用するには高級化している。

〈概要〉 (H20.3.1現在) ・ 総人口 61,771人 ・ 世帯数 23,652世帯 ・ 面 積 42.94km² ・ 小学校:9校 ・ 中学校:3校 ・ 幼稚園:8園

文部科学省のIT戦略の中では『必要台数を確

保する』と示されており、その中で既存の古くなった PCについて何とか再利用できないか

ということを検討した。この場合 OSSにすれば、旧世代の「一般的な性能」の PCであっ

ても、ある程度軽快に動かすことができる。そこで、児童生徒用パソコン更新・追加と同

時に既存パソコンの再利用により、台数も確保でき一石二鳥ではないかという発想が生ま

れた。

(1)京田辺市地域プロジェクト

①プロジェクト概要

先に示した経緯のもと、経済産業省の教育分野における情報処理振興施策の一環と

して、財団法人コンピュータ教育開発センター(以下「CEC」)が実施する教育情報化

促進基盤整備事業(Eスクエア・エボリューション)「Open School Platform」プロジェ

クトに参加し、『京田辺市地域プロジェクト』に取り組んだ。

平成 17(2005)年度には『学校教育現場において OSSデスクトップ環境を活用するた

めの望ましい「運用・サポートモデル」「教員研修方法」を構築する事』を目標として、

京田辺市を実証フィールドとした実証実験を行った。

さらに、平成 17(2005)年度の結果を踏まえ、平成 18(2006)年度には、「取り残された

課題の解決」として USBブート方式による OSSの活用ならびに教員の校務での活用を、

「新たな試み」としてクラスルーム PC管理の実施を目指し、市内小・中学校各1校を

実証フィールドとして、取り組んだ。

なお、このプロジェクトで導入した PCは、すべて以前使用していた PCの再利用で

ある。

②プロジェクトにおける ICT環境

平成 17(2005)年度の事業では、富士通のノート PCの基本メモリ 128MBに 256MBを

増設して納入を受け、OSは Linux(TurboLinuxFUJI)で運用し、中学校1校、小学校2校

で実証実験をした。この時に、ある学校で PCがよくフリーズするという状況が発生し

たため、平成 18(2006)年度はメモリを 128MB+256MB=384MBではなく 256MB×2=

512MBにして、継続的に2ヶ年の実証実験をさせてもらった。512MBであればほとん

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

どフリーズすることなく、順調に動いて事業を完遂することができた。

平成 18(2006)年度については中学校1校、小学校1校の2校で実証実験をしたが、実

証実験が終わった後も学校からの要望があり、平成 19(2008)年度もその教室については

引き続き 40台ずつのノート PCを配置して、今でも学校現場で使用されている状況で

ある。

京田辺市の場合は約 10年前から、教員にノート PCを1台ずつ貸与しているが、教

員サイドでは実証実験用 PCに対してある程度の抵抗感があった。それは、基本的には

それまでは非OSSのWindowsであったが、OSSでの実証実験に用いたものがTurboLinux

の FUJIと HOMEというソフトウェアであったため、指導者側は、その名前を聞いただ

けで、ソフトについての知識が皆無であるため、まず拒絶反応を起こしてしまう。そ

の中でサポートの時に、『そんなにも違いはないよ』ということを示しても、やはり「授

業をする時にはサポートについて欲しい」とか、「サポート要員がいなければ、何かあ

った時に不安だ」というように、どうしてもサポートに頼ろうとしがちである。

一方、児童・生徒は、「え?これWindowsと違うの?」、操作性は何ら変わりはない

ので、「単なるバージョンアップにしたのか?」とか、ある中学校へ行くと「え?Linux

入ってるやん」などと、逆に子供の方が柔軟的な思想をしており、たやすく受け入れ

ている。

小学校でも、マウスのカーソルにデザインを加えることが教室内のあるテーブルで

拡がると、それが順次拡がってくる。ところが教師にすれば、それが自分達の手に負

えない部分であるので、逆に怖くなってくるようである。

③プロジェクトの成果

2ヶ年にわたる実証実験の結果から明らかになった事柄は、以下のとおりである。

〔平成 17(2005)年度〕

リサイクル PC 活用の可能性

OSS 環境導入に向けたサポート体制の重要性

授業における OSS 環境の実用性

〔平成 18(2006)年度〕

既存の旧機種の活用により低予算で ICT の整備・活用ができる

児童・生徒は、OSS を問題なく活用できる

OSS・非 OSS 環境の併用により、教員の校務でも活用できる

④今後の課題

OSSの欠点は OSS対応のプリンタドライバーを提供しているメーカが少ないため、

利用できるプリンタが限られてしまうことである。

システムに関しては、OSS対応のソフトウェアが増えることを期待している。非 OSS

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

の市販ソフトであれば何かトラブルがある場合、ソフトウェアがブラックボックスで

あるために原因調査するためだけに多額の費用がかかり身動きできなくなる。OSSな

らソースの内容が読めればある程度の修正は可能である。ただし、補助金で開発され

た OSSでは、補助金が打ち切られた時点でサポートに必要な情報すら入手できなくな

ることがある。

(2)その他

①京田辺市における ICT環境整備状況

平成8(1996)年、当初から常時接続による日本初の全校インターネット導入を実施し

ている。教育委員会では『情報教育推進室』を設けて常時6名が待機し、ICT教育に関

するサポートを独自に行っている。

PCの整備については、教員用にはノート PCを 1人 1台貸与している。

小学校(9校)に対しては、校内LANを設けて普通教室に PCを各 1台、メディア

教室、図書室等に PCを 10台程度配備している。なお、いわゆる「コンピュータ教室」

は別途作っていない。

中学校(3校)に対しては、既存のコンピュータ教室1室に加えて、さらにもう 1室

整備している。

平成 20(2008)年1月からは幼稚園(8園)にも配置した。

また、各校で格納庫に PCを 10台収容し、移動利用ができるようにしている。さら

に、教育委員会でプールしている PCも、必要に応じて各校で利用可能である。

②利活用実態

小学校における ICT利用は、調べ学習を中心に行っているが、その効果に関しては、

数値で現せるものではない。

教員の指導力向上のためには、サーバの中に利用ソフトウェアのマニュアルおよび

コンテンツを入れてあるので、自主学習できる環境を構築している。

③サポート体制

情報教育推進室では、教員等に対するサポートとして毎日2名が放課後に1人2校

ずつ、市内各小・中学校へ3日に1回訪問するローテーションを組み、PC操作の説明、

ソフトの使用状況の説明、「学校でこういった授業をしたいけれども、それに対してど

ういうソフトがあるか、どういうソフトの使い方をすればいいか」など授業への導入

支援等のサポートも充実させている。

なお、情報教育推進室は市の単独予算で、情報教育コーディネータ派遣、ネットワ

ーク運用・保守を外部委託しているが、教員に対する指導体制も以前から確立してい

たため、スムーズなサポートができていると考える。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

また、情報教育推進室では簡単な修理にも対応している。簡単な修理は、学校の費

用ではなく教育委員会の費用で行うため、費用を気にすることなく安心して修理依頼

が可能である。リース期間中の機器は保守契約で修理できるが、保守契約期間が切れ

た旧型マシンのサポートのために、部品取り用のマシンも確保し、素早く対応できる

体制を整えている。

④情報セキュリティ、情報モラルへの対応

OSSマシンにはセキュリティソフトは意図的に入れていない。

教員用の PCは情報教育推進室からリモート操作ができるようにしてあり、外部記憶

装置への接続はできなくしてあるうえに、ハードディスクの内容を固定化するソフト

ウェアを導入しており、無許可でソフトウェアをインストールしても、再起動すれば

貸与時の状態に戻るからである。更に常時通信量を計測しており、ウィルス等による

不審な動きを監視しており、ファイルサーバでウイルスチェックしている。外部記憶

装置にデータを書き出す必要がある場合には、USBポートへの書き出しができる各校

の校長用あるいは教頭用 PCを使うことにしている。事務扱いの諸費処理はフロッピー

ディスクでのやり取りであるため、情報教育推進室へ電話をしてリモート操作による

ロック解除を受け、データをフロッピーディスクに書き出すようにしている。

データについては個人持ちをせず、その都度ファイルサーバに格納するようにして

いる。サーバのデータバックアップは毎日実施している。

管理職の許可を得てデータを家に持ち帰った場合には、インターネットのラインを

抜いて作業をするように指導している。

情報モラル教育については、現在企画中である。子供も含め、『今の段階から始めな

いといけない』と考えている。携帯電話、メール等、危険がわかる仕組みを作る必要

がある。

353

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

4.4 三木市立教育センター

〈概要〉 (H20.2.29現在) ・ 総人口 83,935人 ・ 世帯数 31,128世帯 ・ 面 積 176.58k㎡ ・ 小学校:16校 中学校:8校 特別支援学校:1校

・ 教育センターは、教職員をはじめ教育関係者が指導力の向上や教育上の諸問題の解決を図るための事業の推進と生涯学習の観点から広く市民に開かれた事業を展開している。

三木市立教育センターは、2006年度(平成

18年度)文部科学省委託事業で社団法人日本教

育工学振興会(以下「JAPET」)が行った『地域・

学校の特色等を活かした ICT環境活用先進事例

に関する調査研究報告書』(2007年(平成 19年)

3月)において、国内先進事例調査の『情報シ

ステム担当外部専門家実践地区訪問調査』に、

CIO(Chief Information Officer)や CIO補佐官に相当する担当者を有すると思われる、とし

て取り上げられた。

(1)地域・学校の特色等を活かした ICT環境活用先進事例に関する調査研究

この中で三木市立教育センターについて、次のように述べられている。

三木市立教育センターでは、情報担当指導主事(教育センター所長)と保守会社から

派遣の出向者が協力して、サーバ管理やネットワーク制御まで行う体制が作られてい

たが、このような仕組みができるまでには長い試行錯誤の積み重ねが必要だったと思

われる。

また、訪問調査結果の概要として、以下のように述べられている。

①研修制度

・ 教職員用グループウェアの導入で、使わなければならない環境の構成

・ 導入機器、ソフトに関する研修(出前も)と問合せ対応等のサポート面充実など、

硬軟両面で充実した対応

・ 情報通信技術はあくまでもツールで、元々の授業構成がうまくなければ ITを効果

的に使った授業はできない

・ 使用を敬遠しがちな教員には簡単な使い方から紹介し、それだけで十分効果があ

ることを体験させ、子供に対する機会を保証させる

・ 市全体で研究員を募り、情報モラルや授業での IT活用に関する実践研究

②行政との折衝

・ 日常的に体系的な取り組み

③今後の課題

・ 文部科学省の設置基準に基づく整備が基本となり、設置基準のない整備は難しい。

設置基準があれば強く迫れる。モデルとなる IT環境の将来像を具体的に示し、設

置基準を打ち出してほしい

・ IT利活用を進めるための業務は多岐にわたっており、全てをこなすリーダーの育

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

成には 30代半ばから5~6年はかかる

(2)三木市における ICT環境

①整備状況

三木市の情報ネットワークは平成 14(2002)年秋に完成した地域イントラネットの中

に教育系ネットワークと行政系ネットワークという2つの論理的な輪を構築しており、

行政系ネットワークとは市長部局の情報システム課と連絡を取り合い、相互理解がで

きている状態である。

ネットワークは光ファイバー回線で市内の小学校、中学校、高等学校、特別支援学

校、幼稚園、教育委員会、行政機関がそれぞれ結ばれている。

平成 14(2002)年のネットワーク完成時に校内 LANの整備も完了し、各教室に PCを

配備している。

教員用 PCは平成 15(2003)~17(2005)年で1人1台体制にし、私用 PCは完全に持ち込

み禁止とした。

授業への利活用に関しては、日常的に、準備のかかるような ICTの使い方では継続

した利活用ができないため、教育センターにおいて、教科書準拠コンテンツ、資料集

としての副読本など、準備に時間を使わなくても簡単に利用できるコンテンツを整備

し、各学校で自由に使えるようにしている。

利活用が進まない要因の1つとして、設備不足があげられる。現在プロジェクタは

3教室に1台という整備であり、その台数が問題となっている。学校によっては、人

気で取り合いになっている所もある。

文部科学省への要望として、市町村毎のランキングについて、「教育の情報化ができ

ていない所はここだ」というように、具体的に示してもらえるとありがたい。

②ICT指導力自己評価に対する支援等

今年(平成 19(2007)年)の活用能力のチェックリストは、従来より具体的になったの

で良いと思う。ただし、活用能力チェックリストに A1、A2、A3と記されているが、

文章を読んだだけでは「A1とは何か」具体的なイメージがしにくい。独立行政法人メ

ディア教育開発センター(以下「NIME」)のホームページ上の細かい文面を読めばわか

るが、パッと見ただけでわかるようにした方が良いのではないか。

三木市では、3月だけでなく、「自分の弱い所をこの1年間で必ず3にしよう」と各

自年間目標を立て、それに絞った研修を実施している。明確に絞り込みができている

ので、研修をする方も、受ける方もしやすいようである。

また、NIMEや兵庫県の『eラーニング研修』も実施されている。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

(3)校務情報化への ICT利活用取り組み実態

①校務省力化の実現

グループウェアを組んで校務情報のやり取りをしており、基本的に成績処理は PCで

行っている。また、通知票処理に利用している学校は増えている状況にある。近年で

は、毎年小学校で2校ずつ増えてきており、中学校では全校で実施されている。

通知票処理を PCで行うことは、間違いの訂正が手軽にできると同時に、処理日数を

1週間短縮できることから、教員に時間的な余裕がうまれる。ある校長先生によると、

『所見の質が良くなった』『通知票の質が高まった』『より緻密な所見になった』とい

う良好な評価である。コメントに関して試行錯誤ができ、また、校長先生も気楽に意

見が言えるようになったことが、通知票の質の向上につながったと考えられる。

②リーダーシップ

校長の理解ができている。理解がないケースは、コンピュータの授業や、実際の指

導を見ずに、知らなくて言っていることが多いのではないかと思われる。

③重要性認識向上のための啓蒙活動等

教育 CIOは制度化してもいいのではないかと考える。推進システムをどの市町村も

設置することは大事である。教育 CIOは,教育長や次長がその職にあたり,実際の仕

事を行うのは補佐官であり、その人が中心になって動くものである。熊本県教育委員

会は、既に教育 CIOを置いている。

教育 CIOはどういう資格で、どういう知識が必要であるのか等、現在検討中である。

教育界でも一部では注目しており、形だけでも作ることが大事だと思われる。

④トラブル、サポート体制

機器だけがあっても、サポートがなければ利活用に困るため、サポート体制は重要

であると考えている。サポート体制としては、日常的な運用上の質問やちょっとした

トラブル対応は,保守会社から常駐の派遣1名と、教育センターとして IT教育指導員

の2名で行っている。また,機器のハードトラブルは,保守契約によりメーカサポー

トを依頼している。

(4)ICT投資と人材育成

①投資効果

投資に対する効果に関しては、数値での比較は難しい。

NIMEに協力して調査した時に、ITを使う、使わない、での差は出てきており、使っ

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

ていく方が効果に高いレベルを示している。授業がわかりにくい子供ほど理解しやす

く、授業についてきやすいという結果が出ている。

また、教科による理解度の違いについても差があることが報告されている。

ただし、現場の先生方は効果を実感しており、IT機器をいかに手軽に使えるかどう

か、ということが次の課題である。

②情報担当者

情報担当者は、昔から情報機器に詳しい人がなっていたが、最近は担当になった人

には女性も増えてきており、他市よりも多いと考えられる。

担当者には特別に技術スキルを求めるのではなく、授業や校務に ITをどう使うかと

いうことを校内に広め企画するような、応用に熱心な先生が望ましく、修理技術は必

要ないと考えている。

(5)情報モラルへの対応

①情報モラル教育

セキュリティに関しては、校務用と生徒・児童用とでネットワークを完全に分け、

問題が生じないようにしている。

先にも触れたが、私用 PCは完全持ち込み禁止にしている。

先生方へのセキュリティや情報モラルに関する研修は、1995年(平成7年)の教育

センター開設以来、独自に企画して実施しており、先生は2~3年間のうちに1回は

受けるようにしている。

セキュリティポリシーは、教育センターが作ったものを基準に、各学校で利用して

いる。管理している側からは情報モラル、セキュリティは関心事であるが、全体に浸

透させるのは難しく、常に言い続ける必要がある。

最終的には人の問題で、セキュリティに関しては、国でも積極的に動いているとこ

ろである。

②教育現場への支援

情報モラル教育については関心が高く、保護者にも呼びかけている。各学校ででき

るだけ参加者を集めて開くよう、勧めている。指導は教育センターが行う場合と、各

学校の指導者が行う場合とがある。

生徒がコンピュータ教室で PCを使う時に、各自にログイン ID、パスワードを持たせ

ている。

また、広島県教科用図書販売㈱のWeb版のネットモラル教材を保護者用の家庭学習

教材として、Web上で使えるように提供している。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

出典:三木市立教育センターHP(http://www.miki.ed.jp/center/index.cfm/1,0,46,html)

図 事例で学ぶ Net モラル Web 版(保護者用)

(6)課題

誰でもが手軽に IT機器を使えるようになるか、という点が課題である。

また、将来的には校務の統合システムが必要であると考えている。合わせて生徒情報の

一元管理もできれば良い。保健情報、成績情報等、今は手作業で行っている転記が省力化

できるだろう。ただし、個人情報そのものであるため、生徒が触れる様な所からは見えな

いようにしておく必要があるが、校務統合システムとして1つになっていると便利である。

教育センターとして情報化の課題は予算の問題である。

(7)その他

OSSは、Webベースで動き、クライアントにソフトを入れる必要がなく、OSの種類を問

わず、ブラウザが動けば使えるものというのが現在の流れになり、使いやすくなっている。

最近は表計算もWebベースできれいに動くようになっている。しかし、教育現場、校務シ

ステムでは実用レベルにはまだ達しておらず、OSSの浸透はまだ少し先のことであろう。

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

4.5 兵庫県立西宮今津高等学校

〈概要〉 ・ 所在地 兵庫県西宮市甲子園

4-1-5 ・ 創 立 1977年 ・ 阪神地区で3番目、県下で 12番目の総合学科高校。国際交流、地域学校間交流などを授業に取り入れ、魅力ある・特色ある学校づくりに力を入れている。

兵庫県立西宮今津高等学校では、2000年(平成 12

年)に情報教育を開始した当初から『ネットワーク

を使ってコミュニケーション力を育成したい』とい

う柱があった。2002年(平成 14年)にホームペー

ジを立ち上げ、本格的に情報教育に取り組むように

なった。2003年(平成 15年)には学力向上フロン

ティアハイスクールの指定を受け、ネットワークコ

ミュニケーションをテーマに、情報教育が支える ITの活用と確かな学力の向上を目指した

3年間の研究成果を報告している。

情報モラル教育については、2002年(平成 14年)の学校ホームページ開設に伴う情報公

開について保護者の了承を得ることから始まり、現在は入学予定1年生の生徒・保護者を

対象に、情報に関するモラルマナーガイダンスを実施し、情報倫理教育を中心に据え3年

間を通して情報教育に取り組みながら実績を上げている。その成果から、2005~2006年(平

成 17~18年)に、文部科学省委託事業『情報モラル等サポート事業』の実践研究協力校の

指定を受けている。

図 兵庫県立西宮今津高等学校情報教育推進概念図

また、2006年度(平成 18年度)文部科学省委託事業で社団法人日本教育工学振興会(以

下「JAPET」)が行った『地域・学校の特色等を活かした ICT環境活用先進事例に関する調

査研究報告書』(2007年 3月)において、国内先進事例調査の『先進事例実践校訪問調査』

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

に、IT環境の整備だけでなく活用の工夫を含め様々な先進的な取り組みが見られる学校と

して取り上げられた。

(1)特徴的な取り組み状況

国際交流、地域学校間交流、高大連携、産学連携という交流学習を4本の柱とする

『Global Communication Projects in Nishinomiyaimazu Senior highschool (GCPN)』プロジェ

クトが行われている。これは同校のWebサイトをコミュニケーションの拠点として、

地域社会への情報発信の場となるWebサイトの構築と、校内での教科横断型連携学習

の実践として行われているものである。

実践例には、以下の例がある。

①国際交流

2002年(平成 14)年から韓国シンモク高等学校との異文化交流を、学校設定科目「国

際文化」、「情報コミュニケーション」で実施し、掲示板やテレビ会議を利用した交流

を継続的に実施している。

インターネットは外国文化を学び・調べることができる。このため、OSは韓国語や

アラビア語をはじめ、様々な言語が使えるよう多言語対応 OSを導入している。

平成 20年度からは、新たにラオスとの交流学習を実施予定である。学校設定科目「情

報コミュニケーション」において、テレビ会議システムやWebを活用し、「視野をひろ

げる」というテーマで交流学習を行う。

②地域学校間交流

4本柱の中で最初の取り組んだのが地域学校間交流であり、車椅子トイレマップや

ユニバーサルデザイン&アクセシビリティについて、生徒の自主的活動により情報収

集を行い、情報発信者としての責任ある姿勢を体験的学習活動により学んでいる。

(2003年度 兵庫県教育長より最優秀表彰を受賞)

同校のWebページを地域の方々が閲覧し、掲示板で地域の人々との意見交流を行い、

生徒達は遠くの人々に見てもらっている喜びとともに、情報発信者としての責任を体

験的に学んでいる。

また、兵庫県立のじぎく養護学校、兵庫県立川西緑台高等学校、兵庫県立尼崎西高

等学校とのテレビ会議等も実施している。

小高連携では、『ネットデイ』として、兵庫県教育委員会および県の教育事務所と連

携して、土日を使って高校生、教員、地域の人達と一緒に、西宮今津高校生の母校で

もある西宮市立今津小学校の ITインフラ整備(ネットワークを配線して教室で PCを

使えるようにした)を行っている。その後、1年生の科目「情報 C」のネットワークコ

ミュニケーション実習において、同校とテレビ会議システムを使った実習も実施して

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

いる。小学校側では、総合的な学習の時間の中で、「伝え合う」をテーマに実施された。

③高大連携

高大連携は、1年生「情報 C」および「総合的な学習の時間」では甲南大学と、3年

生教科情報の学校設定科目「情報コミュニケーション」では、兵庫県立大学、同志社

大学文化情報学部と、専門科目「コンピュータデザイン」では上田学園と連携してい

る。2年生の学校設定科目「環境と情報」では、同志社大学工学部から大学教授の講

義や西宮今津高等学校の OBがアシスタントを務める授業を実施している。

④産学交流

産学連携では、専門家とのティームティーチングによる実社会との接点を持てる授

業の実践で、社会への興味・関心を向上させ、産業社会の将来を担う人材の育成につ

ながることを期待している。

2002年(平成 14年)近畿経済産業局の「起業家大使プロジェクト」から始まり、く

ら寿司とはロサンゼルスへの出店計画プロジェクトとして、企画から場所、メニュー

等、1つの店を作り上げていく過程を、くら寿司の社長をはじめ社員の方々に教わり

ながらまとめ上げている。他に、神戸製鋼とは「スペースボールプロジェクト」を、

㈱canopusとは「映像制作」を実施している。

(2)ICT利活用への取り組み実態

①IT環境整備

IT環境については、当初は情報教室には鍵がかけられ誰も使っていない状態であっ

たが、環境を整え各種機器を整備することで、普通教室、特別教室、図書館、体育館、

生徒集会所などでも ITを活用した授業が実施できるスペースとなった。

今では普通教室棟の各フロア、図書室にプラズマディスプレイを配置し、その場で

も教室でも自由にいつでも使えるようになっていることから、情報教室でなくても利

用できる環境となった。

②活用の工夫等

地域貢献の一環として、PTAの教育振興・教育支援により、授業だけでなく、PTA・

地域向けのパソコン講習会を年数回開催している。また、外国人の受け入れにも対応

できるよう多言語対応の OSを導入している。

(3)ICT利活用体制

情報教育を開始した当初は1人で行っていたが、その後、社会科(地歴科)や他教

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

科も巻き込み、現在、情報科のスタッフとして6人程の体制で取り組んでいる。

さらに「情報教育委員会」という組織を全学年・全教科から委員を 20人で編成し、

必要に応じて議論しつつ進めている。

(4)情報モラル教育

①啓発・指導

情報モラル教育・情報倫理、情報安全教育が、今社会から求められており、教育現

場としてははずせないと考えられている。

高校として情報活用の実践力の保証が求められており、パソコンを使う能力ではな

く、情報機器も情報もすべて活用して実践的に扱える人材を育成するということと考

えられている。その中で絶対はずせないのが情報モラル・情報倫理、情報安全教育で

ある。これらについては警察や文部科学省はじめ、各界でやろうとしているが、本来、

小・中・高当学校でしなければならないものである。

2000年の情報教育の開始と同時にモラル教育を取り入れており、その実績から情報

モラルの指定校となっている。

また、『ネット社会と向き合う』というフォーラムに生徒がパネルで発表をして、来

場の青少年育成関係の警察関係、保護者代表、親父の会代表等との質疑応答を経験さ

せている。

モラル、マナーが具わっていないと、被害者、加害者になる可能性があり、また、

乱用されても困るという思いで授業をしている。

②個人情報保護・著作権に関する教育現場での対応

教育に使うものであっても、著作権はフリーではないということがある。生徒達が

調べ学習や発表をする場合、参考資料や利用素材の扱いについて、著作権処理に関す

る学習をかならず行う。例えば、「この資料は、△△△のような理由で、授業での発表

には利用できるが、○○○のような場合での発表は著作権違反になる」というように、

授業や個人の利用では許されている範囲が、一般的ではないという認識をもち、さら

には「どこで調べなの?」という問いかけから、情報の信憑性を重視し、責任ある情

報の発信を心がけるなど、情報を扱い、使いこなせるメディアリテラシ的な力を伸ば

す教育を目指している。

(5)課題

新学習指導要領では、新たに「情報教育」が追加され、小中学校の発達段階に応じ

た情報教育の必要性が取り上げられている。

小学校1年生から情報や ITを活用し、「読み書きソロバン」、いわゆる基礎学力を培

うなかで、情報モラル・倫理教育、情報安全教育も発達段階に応じて繰り返し行う必

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

要性がある。ただ使わせるだけでは意味が無く、小学校にも求められている内容は同

じである。例えば、「これどこからコピーしてきたの?」とか、写真をパチッと撮った

事に対し、「なぜ撮りたかったのか?」、「撮るためにはどうしたらいいのか?」、「許可

をもらわなければ、ダメだよ」と小学校の先生がわかりやすく教えれば良い。高校の

「教科情報」では、それまでの段階で子供の年齢に応じた情報教育がその都度なされ

ていることを前提に授業をし、社会へ送り出す責任がある。例えば、当然使えるはず

のキーボードを使えない子がいるのであれば、高校で使えるようにする必要がある。

また、県立学校は予算が少なく、お金のないところにどうやってモノを集めるかと

いうことと、人材の確保に苦労をしている。『環境整備と人材』は西宮今津高等学校だ

けのことではなく、他の学校でも苦労している課題である。

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4.6 ITによる『総合的な学習の時間』の効果的支援小大連携事業「INARIプロジェクト」

(京都大学大学院情報学研究科 田中研究室)

京都大学大学院情報学研究科 田中研究室では、情報教育の実践活動を京都市立稲荷小

学校との連携で『INARIプロジェクト』に取り組んでいる。このプロジェクトは平成 19(2007)

年3月に、文部科学省・インターネット活用教育実践コンクール実行委員会主催の『第7

回インターネット活用教育実践コンクール』において、学校教育部門・社会教育部門の両

部門にかかわる活動として、実行委員会賞を受賞(「感じて・見つけて・考えて・いきいき

学びあう子─ITによる『総合的な学習の時間』の効果的支援小大連携プロジェクト─」)し

ている。

また、『INARIプロジェクト』は、平成 16(2004)年度より取り組んでいる「文化財などの

知的資産をアーカイブし、誰もがそのコンテンツを享受できる環境の実現に向けた文部科

学省委託事業である『知的資産プロジェクト(「知的資産の電子的な保存・活用を支援する

ソフトウェア技術基盤の構築」) 授業支援』」の中の取り組みの1つである。

この知的資産プロジェクトは「文化財のデジタル・アーカイブ化」と「教育機関向けデ

ジタル・アーカイブ利用システム」の2つ領域に分かれており、本調査におけるヒアリン

グ対象とした教育分野における ICT利活用の実践は後者(「教育機関向けデジタル・アーカ

イブ利用システム」)に該当する。

(1)特徴的な取り組み状況

京都市立稲荷小学校との連携により実施して

いる情報教育の実践活動『INARIプロジェクト』

において、平成 18(2006)年から継続して授業協

力を実施している。

(www )

『第7回インターネット活用教育実践コンク

ール』において実行委員会賞を受賞した実践内

容は、小学校と大学との連携(小大連携)によ

り、小学校高学年の『総合的な学習の時間』に

おける体験的学習、問題解決的学習を支援する

一連の情報システムの構築と、これらのシステ

ムと新たに作成したWeb活用システ

ムを用いて児童が年間を通して、情報

の収集、共有、検索、加工、発信の過程を体得す

図る実践授業を展開した。

目的を持った気づき(動機)を促すもので、平

364

資料:京都大学ニュースリリースHP .netcon.gr.jp/piece_data/2006_pdf/6_4.pdf -

ることにより情報活用能力の育成を

成 19(2007)年4月の授業では、同校の

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

小学5年生が修学旅行の準備を行うにあたり、Web検索を利用して修学旅行先の下調

べ(旅行先である吉備路や、瀬戸大橋など行程中に遭遇するスポットに関する事柄)

をすることを目的とした授業を実施している。また、修学旅行中は児童各自が PDAを

携帯し、その時、その場で気付いたこと、感じたことを記録し、帰京後に後述の『体

験ブログマップ』の作成に活用した。

これまでのWeb・サーチエンジンでは、様々な話題に関するページが混在してサー

チされるため、語彙の少ない子供にはサーチ結果を絞り込むキーワードを思いつくこ

とが困難であった。このため、想起支援のツールとして、調査したいテーマに関する

代表的な話題をWebから発見してくれる『話題の成分表』および、各地を実際に訪れ

た人がそこでどのような体験をしているかをサーチできる『体験ブログマップ』とい

うシステムを開発している。また、これまでの画像サーチエンジンでは、サーチする

キーワードの数が増えるとヒットするものが少ないという欠点があったが、それを克

服する画像サーチエンジンも開発している。

①体験ブログマップ

ブログに載っている各個人の行動を集約し、地図や衛星写真上で検索できるシステ

ムであり、ブログ上に記述された

文章から体験を表す文を集約し、

観光客がそれぞれの場所で実際

にどのような体験をしたかとい

うことを閲覧することができる。

たとえば、「食べる」で検索した

場合、それぞれの場所で観光客が

どのようなものを食べているか

を調べることができる。

稲荷小学校の修学旅行でも、児

童各自が携帯した PDAに記した

感想を用いて、修学旅行の

記録を体験ブログマップ

にまとめた。

出典:体験ブログマップHP(http://www.dl.kuis.kyoto-u.ac.jp/blogmap/blogmap.cgi)

図 体験ブログマップ

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

(2)課題

Web検索の分野では、『みんなが探しているが、まだ誰も探していないものを見つけ

るサーチエンジン』の開発が課題であり、宝探しの要素でもある。

平成 18年度の授業実践からの課題としては、

(ア) これまで蓄積された児童が作成したコンテンツなどの有効利用システムの

構築

(イ) 情報スキルが十分に備わっていない教諭でも簡単に利用できるような整備

(ウ) 児童の思考の流れを大切にした学習活動の計画

(エ) 他教科での有効な活用法の研究など

があげられる。さらに、本実践を通して得られた成果をもとにした授業モデルの構築

や、テーマに応じたユニット学習の提案などがあげられる。

また、今日の日本の社会情勢は欧米に続いて、若者の情報離れが始まっている。か

つては人気のあった大学の学部・学科でも情報系に進む学生が来ない有り様で、ITの

中身に興味を持っていないようである。このため、小・中学校ぐらいから ITに興味を

持たせるようにする必要がある。現在、ようやく危機感を感じた大学の先生達が中学

校へ教えに行くようになった。

(3)その他(田中研究室での取り組み事例)

教育・学習支援システムは、今後、教育現場での授業支援を通して、教育機関向け

サーチエンジンの利活用の検証が行われる予定である。INARIプロジェクト以外でも取

り組まれているサーチエンジンについてふれる。

①知的資産プロジェクト「教育機関向けデジタル・アーカイブ利用システム」

「教育機関向けデジタル・アーカイブ

利用システム」は、ユビキタス時代にお

いて学習者が、いつでもどこでも異なる

メディアやデジタル・アーカイブから必

要な情報を入手し、自主的な学習をする

ことが可能な技術を構築することが求

められているため、ユビキタス技術や情

報検索・収集技術を活用した eラーニン

グ用ソフトウェアの基盤技術について

研究開発を行うものである。

図 「教育機関向けデジタル・アーカイブ利用システム」イメージ

m

366

出典:知的資産のための技術基盤HP

(http://www.cc-society.org/about/about01.ht

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

②京都大学ジュニアキャンパスへの授業提供

京都大学全学の連携により毎年開催されている『京都大学ジュニアキャンパス』に

おいて、中学生を対象とした講義/演習形式の授業を提供している。

平成 19(2007)年9月の授業では中学生8名、保護者3名の参加があり、2時間の枠内

で前半は「検索」の一般的な仕組みに関する講義(サーチエンジンの仕組み、使い方、

画像サーチエンジンを使った演習、ソフトの説明)、後半は田中研究室で開発されたシ

ステムを実際に使用したWeb検索で、調べ学習を行う演習(体験ブログマップ、ほんと?

サーチ、やーやら)を実施している。

③兄弟語検索システム

ある言葉について、兄弟語や話題語が検索でき、それぞれの言葉とのつながり(関

係)を視覚的に現したり、その言葉について書かれているホームページがわかるシス

テムである。

(http://ww

資料:兄弟語検索システム解説

(http://www.dl.kuis.kyoto-u.ac.jp/~ohshima/wiki/index.php?plugin=attach&refer=YayalaMap&openfile=YayalaMapHowToUse.pdf)

図 兄弟語検索システム

④ゆるめて画像サーチ

今までの画像サーチエンジンでは、サ

ーチするキーワードの数が増えた場合、

見つかる画像や動画の数が少ないとい

う傾向があったが、テキスト検索エンジ

ンと画像/動画検索エンジンを組み合

わせて使うことで、より多くの画像/動

画を取得できるシステムである。

367

出典:ゆるめて画像サーチ HP

w.dl.kuis.kyoto-u.ac.jp/blogmap/blogmap.cgi)

図 ゆるめて画像サーチ

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資料編4.教育分野ヒアリング事例

⑤ほんと?サーチ

出典:ほんと?サーチ HP(http://hontolab.org/product/honto/)

膨大なWeb情報から、不確かな知識

類似するもの、対立するものを自動的

に抽出し、それぞれの知識がWeb上で

「どれくらいよく言及されているか」を

測定するシステムであり、不確かな知識

の相対的な位置づけを多数決的に知る

ことが可能となる。

図 ほんと?サーチ

368

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

55..医医療療分分野野

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

ヒヒアアリリンンググ実実施施先先

No. 有識者及び組織 組織の区分 主なヒアリング内容

1 宮原 勅治 氏 (神戸市立医療センター中央市民病院)

病院 ・ 医療分野へのプロジェクトマネジメント(PMBO)フレームワーク導入等

2 北岡 有喜 氏 (独立行政法人国立病院機構京都医療センター)

病院 ・ 国立病院機構の情報ネットワーク、京都医療情報ネットワーク

3 井上 通敏氏 (大阪府立病院機構)

病院

・ 経営者の立場から見た欲しい医療情報

・ 関西での取り組み、府立病院医療情報ネットワーク

4. 内藤 道夫氏 (大阪警察病院)

病院 ・ 上級医療情報技師について

5. 入江 真行 氏 (和歌山県立医科大学)

大学 ・ 医療情報管理士、医療情報技師

6. 阿曽沼 元博氏 (国際医療福祉大学)

大学 ・ 医療 CIO のあり方について・ 医 療 情 報 の 標 準 化(DICOM,HL7 等)の状況

7. 細羽 実 氏 (京都医療科学大学)

大学 ・ 医 療 情 報 の 標 準 化(DICOM,HL7 等)の状況

8. 宮本 正喜 氏 (兵庫医科大学)

大学 ・ 医療 CIO、医療情報の動向

9. 今中 雄一 氏 (京都大学大学院医学研究科)

大学 ・ IT 活用による医療の経済的評価・医療の質の評価等

10. 山田 恒夫 氏 (医療情報システム開発センター 研究開発部 部長)

関連団体 ・ 医療コードの標準化、地域医療情報ネットワーク化等

11. 篠田 英範氏 (保健医療福祉情報システム工業会)

関連団体

・ ベンダー団体としての医療情報の標準化の取り組み、地域医療

・ 情報ネットワークの取り組み

12. 上野 智明氏 (日本医師会総合政策研究機構)

関連団体 ・ 医師会における情報化の取り組み

13. 福田 清高 氏 (加古川地域保健医療情報センター)

関連団体 ・ 加古川地域の医療情報ネットワーク

14. 山路 雄一 氏 (富士通(株)ヘルスケアー ソリューション事業本部)

ベンダー ・ 電子カルテ等の普及の実態、ベンダー内医療情報の人材育成

15. 浦川 正博氏 (大阪ガス株式会社健康開発センター)

一般企業 ・ 企業における健康開発システム

16. 連携医療セミナー(名古屋) セミナー

・ 「地域医療情報システムの標準化及び実証事業」平成 19年度報告会

・ 講演会「社会が求める医療基盤の現状と将来」

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.1 宮原 勅治 氏(神戸市立医療センター中央市民病院 外科医長)

(1)神戸市立医療センター中央市民病院の概要

神戸市立医療センター中央市民病院は 960床を有する兵庫県下有数の病院であり、神戸

市の基幹病院である。2011年に先端医療センターの隣接地に新築移転を予定し、準備が進

められている。神戸医療産業都市構想の中核施設である先端医療センターとの連携を一層

深めることができるものと期待されている。

(2)医療経営環境を取り巻く環境

急性期の医療を担う病院では、医療報酬体系が従来の出来高払い方式から包括評価

(DPC:Diagnosis Procedure Combination)方式に移行してきている。手術、麻酔料など一部

は出来高部分は残るものの、診断群分類毎に一日当たりの点数が決められ、それに入院日

数を乗じて診療報酬が支払われる。レセプト作成や審査の事務が軽減される半面、経営面

では診療経費(コスト)に対する意識が高まる。将来はアメリカのような DRG(Diagnosis

Related Group:診断群別定額支払い制)型に移行するかもしれない。医療現場では経費削減

を中心とした経営努力が一層求められている。

(3)病院の IT経営への活用状況

病院現場には経営と情報システムの両者に長けた人材は少ない。経営に資する情報を

どのように集め、どう利用してよいのかがよく理解されていない状況にある。その理由

の一つは、医療の分野ではそもそもそういった人材を育成してこなかったし、従来の出

来高払いの環境ではそうした必要も少なかったからと考えられる。医長や副理事長など

になって初めて経営にタッチするので無理がある。投入する資源の全体最適化を求める

情報システムとして ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)がある。一般企

業では 30%程度導入されており、上手に導入し情報を活用している企業は業績もよい。

しかし医療分野での ERPの導入率は 0.3%に留まっている。原因としてハード面で技術的

にインターフェース(接続)の部分がうまくいかないことや情報知識を有する人材が医

療部門に少ないことがある。ERPという言葉は、まだ医療分野ではでは余り知られてい

ない。しかし、そうした中でも JA長野厚生連や倉敷中央病院などで ERPを導入し、活用

している。特に後者では関連企業からの経営ノウハウを導入し、経営的にも成功をおさ

めている。

(4)日本医療情報学会での経営、プロジェクトマネジメントの取り上げ

医療分野では、医療と情報と経営の3つのことを理解した人材が必要な時代になって

いる。2007年 11月に神戸で開催された日本医療情報学会では、マネジメントのセッショ

ンが設けられ、経営の面と ITプロジェクトの両面から討論がされた。特に後者では、米

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

国 PMI(Project Management Institute)の日本支部である PMI東京との共催となった。

(5)医療分野への ITCのフレームワーク導入構想

米国 PMIの管理する PMBOK(Project Management Body of Knowledge )は、プロジェク

トマネジメントの事実上の国際標準で、ITコーディネータのフレームワークとも整合性

も高い。さらに経営分析・経営戦略策定の ITコーディネータのフレームワークは、今後

是非とも医療部門に採り入れていきたいと考えている。ITコーディネータ自体が医療分

野では知られておらず、医療分野での ITコーディネータの取り組みを期待している。財

団法人関西情報・産業活性化センター(KIIS)が ITコーディネータと医療業界・医療情

報分野との橋渡しをしていただければありがたい。医療分野ではこうした人材が不足し

ているので、ITコーディネータから見ても新しい市場と考えられる。

(6)神戸市立医療センター中央市民病院の情報化の取り組み

来年、当病院の独立法人化に伴い、医療経営は一層重要になる。これを情報システム

で支えることのできる ITコーディネータの資格を持つような人材も養成したいと考えて

いる。すでに当院には、医療と情報処理の両分野の能力を持つ医療情報技師(日本医療

情報学会認定資格)が 30人おり、日本一充実している組織であると自負している。こう

した中から、経営の知識を学び、それを情報システムに活かせるような人材の育成を考

えている。宮原先生ご自身が新病院医療情報システムの開発責任者をつとめており、現

在、神戸大学大学院 MBA(Master of Business Administration )コースに在学し、研究してい

る。

(7)医師の文化特性

医師の世界は、その専門性の高さゆえに、比較的閉鎖的な世界であると思う。医師は

自分の専門領域での知識や技術を極めることを目指し、医療情報や経営の分野に目を向

ける者は多くない。また、医師は例え病院が経営的に破綻したとしても、別の病院に移

ればよい、あるいは開業すればよいと思っている者もいる。一方、医師は「お金のため

に働いているのではない」という意識が強く、経営というとお金を連想し、快く思わな

い者もいる。こうした点で病院経営者との間で軋轢を生じることもある。米国において

も、MBAの資格を持ち、医療経営の専門トレーニングを受け、キャリアを積んだ病院の

最高経営責任者 CEO(Chief Executive Officer)ですら医師とぎくしゃくすることを問題点に

挙げている。そのため、医師は医師同士の発言には耳を傾ける性向があるため、医師の

免許を持った人が CEOになるのが望ましいという報告も散見される。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.2 北岡 有喜 氏(独立行政法人国立病院機構 京都医療センター 医療情報部長)

(1)国立病院機構と京都医療センターの概要

①国立病院機構について

国立病院機構全体が単一の独立行政法人になっており、146の医療機関を有する日本最大

の病院チェーンである。また、6万のベッド数を有し、5万人の職員が在席している。

②京都医療センターについて

国立病院機構の京都医療センターは 600床を有する京都で3番目に大きい病院である。

内分泌・代謝性疾患、成長医療、がん、循環器及び腎疾患、エイズ及びその他感染症を専門

とした高度専門医療施設に選定されている。また、京都市南部~京都府南部の中核病院の

機能を担っている。

(2)国立病院機構の情報ネットワーク化

①国立病院機構の情報化

全システムを単一のシステムに標準化するのではなく、インプット、アウトプットに的

を絞って要求仕様書の標準化を図り、施設をまたがっても情報を一元化することができる

ことを期待している。

国立病院時代は、与えられた予算を単年度に消費するという感覚であり、収益を考える

発想はあまりかったが、独立行政法人化を契機に収益を意識せざるを得なくなった。つま

り、医療を事業としてとらえ、損益分岐点を上回るように努力している。

地域の住民に安心して診療を受けていただくためには情報公開をしていく必要がある。

そのためにはまず診療情報の可視化をしていかねばならない。情報には経営に係る情報、

診療に係る情報、患者に係る情報などがあるが、全国の国立病院がまず情報共有を図って

いく必要がある。

②国立病院機構全体としての情報ネットワーク構築

国立病院機構全体としての情報ネットワークを構築することにより、そこから得られた

データから診療内容やその成果、医療費や入院日数などを分析することができる。

現状、国立病院機構各医療機関の情報システムは個々に導入されているため、各ベンダ

ーによる医療システムの規格が統一されていない現状では、入力の仕方などのヒューマン

インターフェースが異なるために医療の安全面からみても問題がある。医療機関間の情報

連携を目的に、特定のベンダーの IT機器に統一してしまうと、次第に競争原理が働かなく

なり、良いものを適正な対価で使えなくなってしまう。特定のベンダーに IT機器を統一す

るのではなく、各階層(例えば部門システム)のセグメント化を図り、プラットフォーム

上でマルチベンダーのシステムが使える姿が理想である。システムのインターフェース、

データ通信規格、診療情報の項目など標準化を図り、マニュアルをいちいち見なくても使

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

うことのできるシステムを目指している。

③医療情報システムの開発経緯と本来の姿

一般的に言われている病院情報システムの開発流れは、医事会計システム→ オーダリン

グシステム→ 電子カルテ となっており、開発思想がそもそも間違っている。本来は最初

に診療現場の記録ありきで、診療情報→ 医事会計システム/処方オーダー→ 原価計算/マ

ーケティング というように診療情報から色々なシステムへ広がりをみせて発展させてい

くのが自然の流れと言える。なお、診断情報は発生源で医師や看護師など行為者が自ら入

力することが原則である。

④独立行政法人国立病院機構総合情報ネットワーク(HOSPnet)

HOSPnetは、国立病院機構本部・ブロック事務所、病院、厚生労働本省、国立高度専門

医療センター、ハンセン病療養所を専用線で結ぶ情報ネットワークシステムであり、財務・

会計システム、人事・給与システム等の業務支援や医薬品情報システム等の診療支援のた

めのシステムである。国立病院機構のそれぞれの医療機関が個別にシステム調達するより、

システムを中央配置し、共同利用することにより効率化を図ることを目的としている。

当初の HOSPnet(1997年 3月稼働開始)には①通信速度が遅い、②制約条件が多くてセ

キュリティが不十分、③維持管理費が高い などいう問題点があった。

次期 HOSPnetとして、質を上げ経費を節減するために、二次通信事業者からダークファ

イブ(光ファイバー)通信回線を安価に購入し、2007年 11月以降は新しいバックボーンで

システムを運用している。セキュリティは HPKI認証により最高レベルの安全性の確保を試

みている。

当初の HOSPnet(1997年 3月稼働開始)には①通信速度が遅い、②制約条件が多くてセ

キュリティが不十分、③維持管理費が高い などいう問題点があった。次期 HOSPnetとして、

質を上げ経費を節減するために、二次通信事業者からダークファイブ(光ファイバー)通

信回線を安価に購入し、2007年 11月以降は新しいバックボーンでシステムを運用している。

セキュリティは HPKI認証により最高レベルの安全性の確保を試みている。

⑤診療履歴の入力項目のテンプレート化

診療科ごとにテンプレートを作る。管理サーバで全データを保管して、データマイニン

グで活用する。データマイニングを活用して最適なクリティカルパスにも活用していく。

クリティカルパスのドロップアウト率など各種統計に基づく医療の質の向上も検討してい

る。

(3)京都医療センターの IT投資効果

①IT投資効果

独立行政法人化により IT投資額の妥当性を考えるようになった。診療報酬の3%をめど

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

に IT投資を行った。マーケティング的視点から売り上げを伸ばし、経費を下げることを考

えた。支出分析を行い、高額支出のランキング 500位を抽出してその原因を探った。例え

ば心臓用のカテーテルが各医師の個人的な要望でばらばらに買ったり、在庫させていたも

のを合理的に整理し購入・在庫することにより削減できた経費で、初年度でインフラ投資

分が回収できた。

このような支出分析に基づいた対策を講じることで病院全体の IT投資(12億円)分を 2

年で回収できた。なお、2007年度は 6億の黒字になる見通しである。その他、IT化の効果

として病床回転率をあげることもできた。IT化に基づく業務貢献を人事評価にも少しずつ

反映することを望む。

(4)医療機関の必要人材

①医療 IT化推進で病院が必要な事項

ITに長けた人材、なかでも IT化の要件定義が病院内でまとめることができる人材を育

成・確保する事が喫急の課題である。京都医療センターでは、現行システム稼働後の 2004

年からだけでも 160回のシステムの改修会議を開催してきた。ほぼ週一回のペースで定例

会議を行っている。日本だけでなく、世界中で医療情報システム自体がまだ発展途上であ

り、今後も改善を続けていく必要がある。医師が望むようなシステムになるには後 5年位

かかるものと思っている。システムが高度化し、使い勝手が良くなるにつれて、医師に IT

リテラシーがなくても対応できるシステムが出来つつある。開発においてもモジュール単

位での標準化を目指し、マルチベンダープラットフォーム化を意識した開発を行っている。

②医療機関の CIOの役割

病院に一人は病院内のしくみを熟知した ITリテラシーに富むキーパーソンを育成してい

く必要がある。医療機関の情報化において個人情報の管理がずさんで、孫受けのレベルで

情報漏洩が起きている。医療機関の CIOは情報管理の徹底させることが必須条件となる。

将来的には院長や病院管理者の補佐官として病院に1人は CIOがいることを義務づけるべ

きであると思う。現在のような認定資格レベル(医療情報技術士など)の乱立では、全体

的な技術質が低下していくと考えられるので、CIOを育成するには、情報処理技術者試験

を実施している(独法)情報処理推進機構(IPA)の協力を得て医療情報システムの国家資

格制度などを設置すべきである。国際福祉大学大学院のように医療経営や医療情報に特化

した教育機関も設置されてきている。医療技術者を増やすことによって医療全体の業務効

率の向上が図れるものと思われる。

(5)地域の医療情報連携

①新しい IT技術を使った医療情報検索の試み

ア.みあこネット

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

日本にはいくつか「公衆無線インターネット」の試みがあるが、みあこネットは

市民の手で自分の住んでいる地域を情報化しようというプロジェクトで、VPN接続

によりセキュリティを確保し安全な無線通信環境を提供していることで他に類が無

く、高い評価を受けている。市民有志の負担でアクセスポイントを設置し、無線が

利用できるエリアを広げている。市民自らがつくる情報インフラ整備プロジェクト

として、みあこネットは世界に類をみない取り組みとして実施している。

(なお、名称の極似から混同されている後発のまいこネット(京都地域連携医療推進

協議会)とは、一切、無関係である。)

イ.どこカル.ネット

どこカル.ネットは上記みあこネット上で電子カルテ等の個人情報をネットワー

クで患者自身が自由に情報コントロール出来ることを目指したプロジェクト(日本

版PHR)である。重複検査や重複治療を削減でき、その結果、治療の迅速化と治

療費の削減をすることなどを期待している。

どこカル.ネットでは、患者がインターネットを介して、自分の医療情報を後述

の HL7CDAR2形式で貯めたデータバンクから、いつでも、どこからでも閲覧するこ

とができる。みあこネット方式の高度なセキュリティを持った ASP型電子カルテ(ホ

ームページ閲覧ソフトのみで利用可能)で、患者の識別(認証)は共通診察券と指

静脈紋認証の組み合わせにより世界最高レベルのセキュリティを確保している。

NPO法人 SCCJどこカル.ネットの事務局は京都医療センター医療情報部内に設置

している。

②地域の情報化の取り組み

伏見医師会の情報システム担当理事という立場で、伏見医師会の診療所の IT化を促進す

るため、日本医師会のレセプトコンピュータ ORCAシステムの導入を進めてきた。同シス

テムは ITリテラシーさえあれば格安できること、また診療報酬マスタが変わっても自動的

にマスタをアップデートされるなどのメリットがある。レセプトコンピュータ(ORCA)と

連携システムを組む電子カルテも日医のライセンスを得たベンダーが開発しており、診療

所の医療の質を高めながら、レセプト事務の効率化を図っていくことが期待されている。

(6)標準化に関する活動

①標準化に関する国際活動

ANSI(アメリカ標準規格)の SDO(標準規格策定団体)として認可され、ISO(国際標準

化機構)や CEN(ヨーロッパ標準規格)とも規格の共通化を試みている“HL7(Health Level

Seven)”の規格を採用し、標準化に対応する活動を国立病院機構でおこなっている。4月か

ら 40際以上の勤労者の原則全員を対象として開始した特定検診結果も、HL7の CDAR2と

いう形式でデータを受診者に還元出来ることを要件としており、本邦でも採用が加速され

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

ると思われる。

HL7では年 3回のWGM(規格策定会議)を行っており、ISO/CEN/HL7の調整会議も定

例化されている。京都医療センターの北岡医療情報部長も米国テキサス州のサン・アント

ニオで 2008年 1月に開催されるWGMに出席することになっている。国際標準化が確立さ

れると、国内のベンダーに対してもデータフォーマット標準化が促されて電子カルテの規

格標準化が促進されると思われる。

国立病院機構では、規格標準化として、HL7以外にもDICOM規格(Ver.3)や IHEを採用し、

国際標準への適合と国際社会への情報発信を目標としている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.3 井上 通敏 氏(大阪府立病院機構 理事長)

(1)大阪府立病院機構について

地方独立行政法人大阪府立病院機構は、大阪府全域に高度専門医療を提供することを

目的とした下記5つの医療施設を運営する組織である。なお、本部は急性期・総合医療セ

ンターの敷地内にある。

①急性期・総合医療センター(住吉区、662 床)、②呼吸器・アレルギー医療センター(羽

曳野市、589 床)、③精神医療センター(枚方市、514 床)、④成人病センター(東成区、

500 床)、⑤母子保健総合センター(和泉市、363 床)

(2)病院経営のあり方について

病院経営とは、病院を構成する人と物をしっかり管理して、いかに質のよい治療を患

者さんに提供するかを考えることであると思う。病院では非営利的な考えが強いために

戦略的なマーケティング思考が他の業界に比べて根付いていない。自病院の強みや弱み、

および内部や外部の環境変化からくるチャンスやピンチを SWOT分析することや、マー

ケットリサーチから患者が自病院に期待しているニーズを的確に把握して、強みを活か

して患者さんのニーズにフィットした経営戦略を立てている病院は少ない。また財務に

繋がるビジネスモデルやガバナンスもあまり可視化できていない。例えば、各診療科に

どの位の患者が来て、そこにはどの位の医療従事者がいて、治療や事務管理でどのくら

いの費用を支出し、診療報酬からどのくらいの収入を得て、最終的に病院全体でどの程

度の収益が確保されるかといった一連の業務の流れの構造があまり可視化できていない。

従って、それぞれのパラメータを変化させた時のシミュレーションをすることができな

い。部門ごとの業績評価指標(収入、支出、1人当たり生産性等)は週報や月報で知る

ことができるが、個々の医師の業績評価を行って人事や報酬や投資に反映できている病

院は少ないのが実情である。

(3)IT化の効用

オフィスオートメーションによる事務の効率化については民間企業と何ら代わりがな

い。人事管理、給与計算、在庫管理、診療報酬請求事務などは ITの導入によって効率化

されている。診療面での ITの活用としては、1)予約システムと待ち時間の短縮、2)

職員間や部門間の情報伝達の正確性と迅速性による過誤の防止、3)診療レベルの向上

などである。とくに今後の進歩を期待されているのが3)である。

臨床判断支援システムによって経験が不足している医師の診療の質を底上げすること

が期待される。インターネットを介して医学研究から得られた最新の知見を根拠とする

診療を行うことができる。クリニカルパス(クリティカルパス)は、疾患ごとに標準的

な治療のステップとスケジュールを掲示したもので、情報の共有化により医師、看護婦、

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

医療技師など連携によるチーム医療をスムーズにすることができる。また、治療スケジ

ュールを患者に提示し、治療に対する理解を助けることや医療費の節約にも役立つ。平

成 15年度から特定機能病院で始められた診断群分類 DPC(Digital Imaging and

Communication in Medicine)に基づく包括的診療報酬制度は診療の標準化(悪く言えば政

府による管理医療)の一環で、この制度によって診療内容と医療費のばらつきが縮小す

ると期待されているが、一律化したり、医師の裁量を狭めることのデメリットにも留意

しておく必要がある。このような診療報酬制度は ITによって初めて可能になったことで、

将来、ITを活用してさらに適切な診療評価と診療報酬制度が構築されることを期待した

い。

病院経営や診療評価の観点から言うと、ITは病院の経営状態や診療レベルを鏡に映し

出す(可視化する)道具だといえる。電子化された医療データは医療関係者間や病院間

で相互に閲覧できるようにならなければならない。相対的な姿(病院の実態)が映し出

されることにより業務改善や経営改善のためのマネジメントに生かすことができるよう

になる。

IT化の効用は、安全性の向上、医療の質の底上げの他、医療の標準化にも役立つこと

である。用語・コードの標準化、情報交換のためのデータ形式や画像規格の標準化などが

ある。病院経営者は ITの効用について省力化や効率化の部分に目が行きがちで、IT化に

よる医療の質の向上が病院経営の改善に寄与するということに気付いていない。バラン

ススコアーカード(BSC)のような非財務的な改善が財務の改善に結びつくといったビジ

ネスモデルを構築できていないこともその一因かもしれない。ITを導入するには何億円

もの費用がかかり、また省力化や効率化以外の効果がはっきり見えていないので、経営

者が IT化に取り組む意欲を減退させている。

(4)アメリカ等の医療制度の比較

アメリカの病院では医療費の内、事務経費が 15~20%と大きなウエイトを占めている。

日本とは制度が違って、民間の健康保健会社が系列の病院を持っている。事務の効率化

に対する健康保健会社と病院の利害が一致して IT化が進んでいる。金持ちである程、高

い保険料を払って質の高い病院に入院することができる。従って IT化により医療の質を

高めた病院程、高い診療報酬を受け取ることができる。お金のない人は東南アジアの病

院などへ行って安い手術を受けたりするようなことが起きている。

一方、日本では IT 投資をして医療の質を高めても、一律の診療報酬制度になっている

ので IT化に対してインセンティブが働いていない。

韓国の医療政策は国家管理で、アメリカは自由競争主義で、日本は両国に比べてどっ

ちつかずの中途半端な状態にある。医療を受けることは人権であるから身分貧富を問わ

ず公平であることが望ましい。どちらかというと社会主義的に実践されるべきであるが、

自由主義社会で医療だけ社会主義的に行う難しさがある。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(5)IT化のネック

IT投資率は一般企業で売り上げの 5%程度で、一般の医療機関においては2%程度であ

る。但し、大学病院は 5%程度となっている。医療機関ももう少し医療の質をよくする方

針を立てて欲しい。厚生労働省が平成 13年に策定した保健医療分野の情報化のグランド

デザインでは平成 18年度に電子カルテの導入率が 60%という目標を掲げたが、達成には

遠く及ばなかった。標準化を先行させないままに電子カルテの導入普及をあおったため、

メーカシェア拡大を目指して開発に走り、異なるベンダー間の情報の交換がうまく機能

しなかったことが失敗の大きな要因となった。またセキュリティ確保の仕組みの構築が

遅れたこと、IT化以前に医療プロセスの効率化の検討を十分にしていなかったことも電

子カルテの普及が低迷したことの要因の一つとなっている。また、医療の質の可視化や

情報開示に対して抵抗する医療団体もあった。自病院や自診療所の保有医療機器、情報

機器の開示すらいやがったというのが実態であった。経済産業省が以前に医療情報ネッ

トワークのプロジェクト実験を日本各地で多数展開したが、興味を持って実験に取り組

んだものの結局はビジネスとして成立しなかった。

(6)情報の個人保有意識の芽生え

最近は患者に自分のカルテ情報は自分で管理したいという意識が出てきている。MRI

の画像情報も CD などにコピーしてくれて提供してくれる病院もある。レセプトの内容を

患者に渡さないのもおかしいと思う。何にどれだけ支払われているか患者にも知っても

らいたい。セカンドオピニオンに対しても心理的抵抗がなくなってきた。病院側と患者

側で情報を共有し、病院の仕組みを新しい時代にフィットしたものにしていかなければ

ならない。

(7)医療情報技師

医療情報技師の認定資格は「関西医療情報懇談会(KMI)」で議論されてきたことが下

敷きとなっている。ベンダーの人はコンピュータのことだけでなく医療のことも知らな

ければならない。一方、医療従事者は医療の質向上のために ITを活用して医療の質の底

上げを図って欲しい。医療情報技師は ITをよく知らない医師や看護婦とベンダーのつな

ぎ役のとして、ベンダーのいいなりの IT化にならないようにして欲しい。毎年数千人の

受験者があり、医療情報学会の経済的基盤の安定に寄与してきた。医療情報技師の資格

は就職する時に有利な資格となっている。診療録の管理をする診療情報管理士の資格を

持っていれば更に有利となっている。ベンダーの方も若い人を中心に積極的に医療情報

技師の資格を取らせている。国家資格化という意見もあるが、国はこれ以上国家資格を

増やさない方針である。上級医療情報技師はマネジメントすることができる情報医療技

師で、CEO などに対して経営に関する情報を提供する役割(CIO)担う。大学病院の医療

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

情報部は直接収益を伴わないので院長直属の組織にするとよい。医療機関だけでなく企

業の IT化の取り組み動向などの情報も幅広く収集・分析し、バランススコアーカードの

考えなどに基づくビジネスモデルを構築できること(の作成など)。情報収集に当たって

信頼性があり、有意義な情報か否かを判断することが必要である。プレゼンテーション

能力を高め、関係者との合意形成ができるようになること。医師や看護師などに対して

情報教育を実施すること。また情報を活用するためには入力された情報の信頼性をチェ

ックするプログラムを準備しておくことも必要である。医学に特化した最新情報を効率

よく参照できるナレッジデータベースも構築して欲しい。データベースの活用には2つ

のニーズがある。一つは何か事が起きた時に、同様の事例が過去にないかを探索すると

いうニーズ、もう一つは臨床データの積み上げ情報などを比較試験に利用したいという

ニーズである。

(8)標準化

日本では標準化に取り組んでいる組織が乱立している。用語・コードについては政府主

導により関連組織や委員会あるいは学会が作った案を、パブリックコメントを参考にし

て確定していっている。医療分野の間で用語の標準化ができていないと情報の連携が困

難である。病院の IT化はメーカシェア争いという利害関係を伴うので経済産業省の指導

の下に業界団体 JAHIS 等の内部で調整をしている。以前は他メーカコンピューターにデ

ータが移行しないようにメーカ囲い込みをしていたが、最近は標準化で利便性が向上し

て医療部門全体の IT投資が増えて結局その方が自分たちの利益につながるという考え方

にシフトしてきた。ただ、医療現場では医師たちによる他病院との ITシステムの違いの

構築というわがままな要求をつきつけられることが多いので困惑しているようである。

(9)医療情報のデータセンター

医療情報のデータセンターは、患者側のニーズがないと成り立たない。そのためには

レセプト明細書や診療データを患者側に提供し、保管確認してもらうことを喚起する運

動を起こすというのも一つの方法である。年金問題から自分のデータは自分で管理して

おかないと安心できないという意識が芽生えてきている。病院をはしごしている患者が

見受けられる。このような患者は医療の勉強をしていない人が多い。逆に医学や病院の

ことをよく勉強し、正しい情報を持っている人は上手に医療機関を利用している。

ビジネスとして医療情報を安心して預けられる医療データの銀行のような所があればよい。

関西でこのようなプロジェクトが立ち上がることを期待している。人間ドッグや健康診断

機関からの健康情報なども一緒に預けることができればよい。公的立場にあり健康保険な

どのコンピュータ処理で実績のある KIISがこのような医療・健康情報バンクになる可能性

を検討してみる価値はある。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.4 内藤 道夫 氏(大阪警察病院 情報管理部 部長)

(1)大阪警察病院の概要

大阪府警察病院は、警察の職域病院として設立されたが、職域患者は約1割程度で、実

態的には地域の中核病院として地域医療や救急医療を支えてきた。病床数は 580床で、25

の診療科を有する。近年、電子カルテや最新の画像診断機器の導入を図るなど医療の高度

化の充実を図っている。

(2)大阪警察病院の IT化

情報化設備としては IBM製の電子カルテシステムを核として種々の部門システムが入っ

ているが、ベンダーとしては NTT東日本が統括している。IT化のコストパフォーマンス指

標として、患者サービスの向上、医療の質の向上などがある。バランスト・スコアカード

BSC(Balanced Scorecard)の考え方を導入しており、各種の分析結果からアクション(プ

ロセス)の改善につなげることができる。

BSCにおける評価指標には病院機能評価の指標を一部取り込んでいる。なお、病院機能

評価を受審するために、使いもしないマニュアルを数多く作るなど、仕組みが形骸化され

る向きがあるのは問題である。本来、マニュアルというものは仕事の流れを徹底させるた

めにある。また、医療の質に関する評価項目のサンプルが提示されているが、患者サービ

スの視点からもよく検討する必要がある。

(3)医療情報技師と上級医療情報技師

政府が作成したグランドデザインに医療情報を担う人材の重要性が示された。医療情

報技師の数は 6000人を超え、活躍の場が拡がっている。上級医療情報技師は、プロジェ

クトリーダー的存在を想定しているが、医療現場での具体的なイメージはこれから構築

していくことになる。さすが上級医療情報技師だねといわれるようなステータスのある

資格にしていきたい。そのために試験は難しい内容になっており、第 1回検定試験の合

格率は 17.4%であった。

上級医療情報技師の延長線上に医療機関 CIOが必ずしもあるとは言えないが、一部の

経営的センスを有する上級医療情報技師が医療機関 CIOになってもよいと思う。

(4)医療機関への IT導入

①医療機関への IT導入

厚生労働省が立てたグランドデザインでは手段としての電子レセプトや電子カルテの

導入率という数値目標は消え、その代わりに人材育成などがクローズアップされている。

また、2011年以降は電子レセプトの伝送情報しか受けとらないとされている。IT化によ

るメリットは、即座に複数の医療関係者が同時アクセスできることである。紙として保

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

管したり、運んだりすることから開放されるメリットも大きい。IT化の問題点は入力業

務が紙の手書きよりも負担となっていることやそのために診療時間が従来よりも延びる

ことである。操作性の改善としてはタブレットにペン入力する方法が開発されているが

まだまだ改善の余地がある。音声認識やボタン方式などの活用も考えられる。用紙保存

が必要な書類の保存に関して、法的に認められた第三者認証(タイムスタンプ)の仕組

みが未だ導入されていない病院ではスキャナで読み込んで記録・保管している。京大病院

など一部の大学病院はシステムによる第三者認証の仕組みを導入しているが、できれば

厚生労働省が無償で各病院にこのようなサービスを行って欲しい。IT分野でのハードウ

ェアの分野では近年目覚しい技術革新が起きている。一方、ソフトウェアの分野におい

ては画期的なものが出てきていない。 ベンダーはソフト開発において現在の延長線上

(付加的なもの)でなく、もっと革新的なものにチャレンジをして欲しい。医療情報技

師の資格を有する人の約半分はベンダーの人なので、同じ資格を持った人達同士で医療

機関を含めた横の人的ネットワークを構築し、情報や意見を交換して画期的なソフトの

アイデアを生み出して欲しい。

②IT の導入状況

もともと病院情報システムは医事会計を中心に発展してきた経緯があるので、電子カ

ルテシステムでもその制約を受ける事が多い。医師の情報リテラシーの差による医療機

関の情報格差も出てきている。最近の開業医は若手の医師も増えてきているので ITに対

して心理的抵抗が少なくなってきているが、年配の医師の中には FAXが使えるレベルで、

今まで紙でさっと書けていたものが、キーボード入力になり考え込む医師もいる。もっ

と医師の思考の流れを妨げる事なく簡単に使えるシステムに練り直す必要がある。医療

情報ネットワークが普及するにも時間がかかる。大阪地区では OCHIS(Organization for

promotion Community Healthcare Information Systems)という医療情報ネットワークがある

が、残念ながら参加する病院も診療所もまだ少なく、内容も、医療データの共有使用に

は至らず、紹介状のやりとりのレベルに留まっているようである。

③標準化

医療に関わるコードやマスタに関する標準化はかなり進んでいるが、情報の標準化以前

に、医療業務の進め方の標準がないこと自体が問題である。業務の流れを変えるのは大

変である。人の考え方の切り替え以外に、病院のレイアウトが既存業務を合理的に行え

るように設計されているので、業務の流れを変えにくい面もある。レイアウトを変える

としても一時的に移る場所もないのが現状である。また、業務の流れの変更は本当に合

理的なものでないと関係者間で合意形成ができない。日本 IHE協会では埼玉医科大学な

どで医療業務の標準化の実証に取り組んでおり、この成果が全国の共通基盤になること

が期待されている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(5)DPCによる包括的診療報酬制度

医療の質に関係なく診療報酬が病院に支払われる制度から医療の質を高めた病院ほど

高い診療報酬が支払われる制度に移行しようとしている。現行の出来高払いによる診療

報酬制度では、医療技術や医療の質の評価、医療機関の運営コストが評価に反映されず

また、過剰診療になりやすいという問題点があった。DPC(診断群分類:Diagnosis Procedure

Combination)に基づく診療報酬では包括評価部分と一部の出来高部分(手術料、麻酔料

等)から構成されている。包括評価報酬額は、診断群分類毎の一日当たり点数×医療機

関係数×入院日数×10円 で計算される。また、医療機関係数は機能評価係数(診療録

管理加算、紹介外来加算等)+調整係数(前年実績を反映、2010年廃止予定)で計算さ

れる。病歴の整備や地域の医療連携など病院の機能を高める努力をしている病院は、機

能評価係数が高くなる。2003年から大学附属病院、国立がんセンター、国立循環器セン

ターなどの 80余りの特定機能病院に DPCによる包括医療制度が導入された。2006年度

には 360病院がその対象となり、2008年度には約 1400病院が対象となる(なお、病院の

全体数は約 9000件)。急性期医療を行っている大半の病床が対象となり、同じ DPCに基

づくデータが収集され、それが適切に分析されることによって、過去にない有用な情報

が得られるはずである。DPCに関連する分析研究も多いが、それが単なる収益性の追及

ではなく、医療の質の評価に直結し、患者さんへの直接の利益となるよう活用していく

ことが我々の責務だと考えている。

(6)医療・健康情報のデータセンターについて

医療機関同士の連携(病病連携や病診連携)を考える時に、患者さんのデータをいか

に共有するかは重要な課題である。患者個人が、健康情報が記録されたカードを持つ方

法もあるが、どの医療機関でも共通に利用できるように標準化しつつ、最新情報に保た

れたカードを常に携帯することは難しい。セキュリティが確保されるならばデータセン

ターを構築して共同利用する方がメリットは大きいと考えられる。

そのような医療・健康情報のデータセンターを構築する場合に、個人情報の管理とい

う点から、各医療機関が勝手に患者データを提供するわけにはいかない。患者がそのよ

うなサービスを認め提供に同意することが求められる。そのための手続きが必要であり、

それを活用するためのネットワーク基盤も必要である。問題・課題は多いが、大阪地区

における OCHISなどの地域医療ネットワークを運営するような諸機関と連携しながら、

総合的なネットワークが構築できればいいと願っている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.5 入江 真行 氏(和歌山県立医科大学 医学医療情報研究部 准教授)

(1)和歌山県立医科大学の概要

和歌山県立医科大学は、1945年に設立された和歌山県立医学専門学校が発祥となってい

る。和歌山県唯一の医科大学であり、医学部、保健看護学部、大学院がある。

隣接地に附属病院(800床)と紀北分院(224床)を有している。和歌山県は紀南地方や山

間僻地など和歌山市から離れた地区の遠隔医療のニーズが高く、2003年にはドクターヘリ

を導入し、就航 3年で 1,000回を超える患者搬送を実施している。また、「開かれた大学」

と「地域・社会貢献のできる大学」の一環として小・中・高校生を対象とした出前授業(分

かりやすい医学、健康の話)を実施している。また、全国初の観光医学講座(観光資源に

よる癒し効果、医療サービスを付加した観光企画等)も開催している。

(2)医療情報技師の育成

医療現場はニーズを持っているが、医療情報の技術者(ベンダー)にどのように伝えて

よいのかわからないというのが実情である。医療の専門用語を投げかけてユーザ側とベン

ダー側の橋渡し(翻訳)をできる人材つまり、医療側にとっては情報化の要求仕様書が書

ける人材、一方ベンダー側にとっては技術仕様にきちっと展開できる人材が求められてい

る。大病院といえども世の中から見ると中小企業にすぎず、システムの運用がきちんとで

きていないなど情報部門は弱体化している。関西における医療情報の情報化推進を目指し

て約 20年前から関西医療情報処理懇談会(KMI、元日本医療情報学会の井上会長が初代会

長となって立ち上げ)を活動させている。関西地域ではざっくばらんに議論ができる風土

があり、横の連携が他地域と比べて進んでいる。6、7年前から医療部門の情報技術者のラ

イセンス(資格認定)を目指して有志がワークショップを開いて検討を進めてきた。日本

医療情報学会において 2002年夏から具体化検討を進め、翌年から医療情報技師の資格認定

(能力検定)試験を行った。医療情報技師の対象はユーザ(病院)の情報室のスタッフや

ベンダーSEの医療現場部隊の人などを想定している。更に上のユーザ側の医療情報部門の

マネージャーや情報室の長及びベンダーのプロジェクトマネージャー等を対象とした資格

(上級医療情報技師)も必要となり、2007年の 8月に 1次試験、12月に 2次試験を開始し

た。5年間で医療情報技師が 6000人を超えた(病院が 9000近くあり、オーダリングシステ

ムが導入されている病院が半分にも満たない状況から考えると、順調な伸びである)。医療

情報技師が世の中から認知されつつあり、有資格者の求人が医療機関から出てきている。

ベンダーでも医療情報技師の資格を名刺に刷っている。

(3)医療 CIO育成の動き

病院の経営戦略を担う病院長、事務長クラスの人を対象とした資格(医療情報管理者

/医療機関 CIO)の設置も想定している。以前に経済産業省の医療機関 CIO育成プログ

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

ラムの募集があった。国際医療福祉大学の提案が採用され、医療機関 CIO育成のトレー

ニングを行っている。同大学には医療機関 CIO関係者として元富士通の部長であった阿

曽沼教授や長谷川助教授などがおられる。一般企業では情報部門が単に情報を扱う部署

ではなく経営企画部との一部して経営と情報を一体化する時代に移っていっている。医

療と経営に関する取り組みとして例えば京大の吉原先生が医療情報グループだけでなく

経営企画グループも受け持たれている。

(4)診療情報管理士

診療情報管理士のルーツは日本病院会(大きな病院が参画)の診療録管理士(事務系)

で 40年近い歴史を有する。なお、診療録の俗称はカルテである。昔は紙カルテをきちっ

と整理保管して取り出しやすくする役割を図書室の管理と兼務している人が多かった。

現在は ICD国際疾病分類に基づいて病名をコード化し、情報をデータベース化しておく

のが主な役割である。IT化が進む以前は何らかの形でデータベース化して、疾病の統計

をとっていた。通信教育をして終了した人に対して資格認定を行う。診療録の紙から IT

への移行に伴って、1996年から診療情報管理士に名称が変更された。診療情報管理士は

ITの知識と共に統計学の知識も必要とされる。入江准教授は通信教育の講師と日本病院

会の教育委員会の委員を務めている。最近、情報システム部門に医療情報技師の資格を

取った人が現れたので、協働が望まれる。病院機能評価制度(医療の質の評価、受審は

任意)の評価項目の一つとして診療録の管理があり、診療情報管理士が病院にいること

が、医療情報がきちっと品質管理されていると評価がされる。また、診療情報を管理す

る人の存在が保険点数の診療報酬の加算項目にもなっている。診療情報管理士の資格を

取る人が、近年急速に増加している。診療情報管理士は認知度も高く、大学や専門学校

でコースを設けているところが、全国にそれぞれ 10数校、30校ある。和歌山県立医大で

も有資格者が 2人いる。

(5)和歌山県立医科大学への電子カルテの導入

関西地域が病院レベルでは電子カルテの導入が高いのに対して、診療所レベルでは低

い理由として、規模の比較的大きい病院では情報の共有化でチーム医療ができるという

メリットがあるが、診療所では電子カルテを導入しても儲けに繋がらないのでインセン

ティブが低いためと推測される。現状レベルの電子カルテの導入では、パソコン操作で

診療時間が従来よりも余計にかかるため、午前中で診療が済んでいた診療が、大幅午後

にずれ込むこともある。電子カルテ導入のタイミングは他システム更新の時期とあわせ

て行われることが多い。電子カルテのベンダーは地域で偏ることが多い。理由として医

師会などで見学会にいってその時に気にいったベンダーの機器に決まることが多い。ま

た、ベンダー側としても地域にサービスを濃密に行いやすいから。大病院で富士通製電

子カルテが多いのは、最初に導入された島根県立中央病院でノウハウをつかんで先頭を

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

走ったからだと思う。三洋製電子カルテが診療所で多いのはレセコンのトップベンダに

つき、同一ベンダーに揃えたいと思うことも関係がある。

(6)和歌山地域での医療情報化の取り組み

地域医療情報ネットワーク化のプロジェクトが実証試験の後に挫折することが多い理

由は、まだビジネスモデルとして一人歩きできるような状態になっていない(社会シス

テムとして成熟していない)からで、金(補助金)の切れ目が縁の切れ目となっている。

またキーマンのリーダーシップにたより過ぎで、仕組みとしてまだうまく機能していな

いところが多い。和歌山地域での地域医療情報ネットワーク化の取り組みとしては、橋

本市近辺エリアの伊都医師会での「ゆめ病院」(ネットワークの名称)がある。4病院、

24診療所が「ゆめ病院」ネットワークに参画している。地域住民(11万人)の 6割弱が

患者としてネットワークシステムに登録されている。

共有サーバが紀和病院(私立)に設置されており、参画の病院、診療所から患者の医

療情報をWEBから見ることができる。共有の医療情報は以下の 8項目(多すぎず、少な

すぎず)となっている。①病名・既往症、②禁忌・アレルギー情報、③予防接種歴、

④治療内容、⑤検体検査結果、⑥画像情報、⑦血圧(同一条件下測定)、⑧自由記載欄

また、和歌山は無医村があったり、光ファイバーがあまり設置されていないなどの問題

がある。和歌山県の後押しもあって ITを使った過疎地医療対策を推進するため和歌山地

域医療情報ネットワーク協議会を立ち上げている(代表幹事:入江氏)。「ゆめ病院」は

今年度の総務省の情報化月間で取り組みが表彰された。

(7)遠隔医療の取り組み

一口に遠隔医療といっても送る情報によって幾つかの種類がある。

① 遠隔病理診断(テレパソロジー)癌等の病理組織を判断する高度な専門医が

少ない

② 遠隔放射線診断(テレラジオロジー)難読レントゲン画像の読影診断

和歌山県では病理医が 8~9人しかいない。日赤病院と県立医科大学病院の2大病院な

どに手術中に癌細胞が残っているかを遠隔で迅速診断してもらっている。

(8)その他医療制度の問題

医大は地域に医師を供給する役割を担っていたが、厚生労働省がその枠組みを壊してし

まった。従来、一定期間は当該医大のある地域で医療に従事することが通常であった。研

修医療制度の変更により臨床研修が必修となり、どこの医療機関に行くのかを自由に選択

できるようになった。その結果、大都会志向や特定医診療科(産婦人科、小児科)を避け

るようになり、地域の医師不足が顕著になってきた。ただ日本全体としてリタイアー分を

差し引いても毎年 3000人ずつ増えているが、偏在が問題となっている。大学から医者がい

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

なくなって、地域の病院にいてもらった医師を引き上げざるを得なくなっている。その結

果、地域の病院の医師不足に拍車がかかり、残った医師が過労働に陥り、辞めていくとい

う地域の医療体制の崩壊が始まっている。和歌山県立医科大でもいかに卒業生を地元に残

留してもらうかで必死になっている。例えば、先輩医師との人間関係作りに色々と気を使

ったり、魅力的な研修プログラムを提示するなど涙ぐましい努力をしている。地域の医療

連携を図って医師不足に対処するために ITの活用が益々必要となってきた。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.6 阿曽沼 元博氏(国際医療福祉大学 大学院医療福祉経営学分野 教授)

(1)国際医療福祉大学の概要

国際医療福祉大学は、医療福祉の分野で様々な関係者が綿密に連携を組んでケアーに当

たるというチーム医療のニーズに応えることのできる医療福祉の専門職の育成や医療機関、

福祉施設の経営を担う医療経営マネジメントの専門家の育成などの教育を実施している。

大学の学部は保健医療学部、医療福祉学部、薬学部、小田原保健医療学部、福岡リハビ

リテーション学部の5学部から構成され、大学院として医療福祉学研究科がある。

また、多数の大学の附属臨床施設(病院、介護施設等)を有している。

(2)CIOの役割と取り組むべきこと

①CIOの役割

情報システムはあくまでツールであり、情報を目的に沿って活用し、課題を克服する

ように活用するのが CIOの役割。情報(ハード、ソフト)やベンダーについて取捨選択

できる人でなければならない。

②CIOが具備すべき素質

・ 経営や運営マネジメントがわかっている人で、医療に思い入れのある人

・ 統合的なプロジェクトメイキングができる人

・ 運営マネジメントでは経営資源(人、モノ、金、情報)を有効活用を図れる人

・ 一に人柄、ニに知識、三に行動力、四、五がなくて六に人柄である

③CIOが取り組むべきこと

プロジェクト案件ごとに必要な人を選んで組閣し、実効性のある組織をデザインする。

医療制度や診療報酬の仕組みの本質をよく理解し、医療の質向上や病院経営の効率化、

患者サービスの向上などのために洞察力をみがき、データ解析に活用する。病院内の運

用や地域連携の運用の問題点を把握して、課題解決に向けた目標管理(目標設定および

目標達成のためのアクションプランを策定)し、PDCAを回すための不断の努力を怠らな

い。ワークフローを理解できマネジメントできる人材を育成する。ITの導入に当たって

は、現状の課題抽出、地域のマーケット分析や医療ニーズを把握し、費用対効果を保守

的にシミュレーションすることにより、将来を見据えて病院に適切な ITシステムを導入

する。経営管理は単に数字を見て単純に判断するのではなく、基盤となる医療従事者の

満足度を高めることがベースとなる。人間関係で組織は成り立っていることを理解し、

各部門とのコミュニケーションを怠らない努力をする。医療情報企画部門はコストセン

ターではないが、IT投資に対して得られる付加価値を計算できるようにし、目標設定を

行う。目標設定や効果測定に BSC(バランスト・スコアーカード)のようなツールを持

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

つと CIOは目標管理がやりやすくなる。BSCでは戦略目標を4つの視点(人材開発の視

点、病院機能の視点、患者の満足度の視点、財務の健全性の視点)で設定する。戦略目

的達成に実のある効果を出すためには、まず医療従事者のスキル向上に加えて改善力の

エネルギーの源になるモチベーションの高揚がベースとなる。そのためには医療従事者

のモチベーションを上げたり、維持するためのツールが必要となる。モチベーションは

従事者の業務が病院の掲げるビジョンや戦略に貢献できることであり、病院の成長と共

に自分も成長できる環境があることで高まる。つまり組織体制の中で自分の役割が明確

に示され、自分に係わる目標・アクションプランの定期的な達成状況やそれへの改善の取

り組み結果が可視化されることでモチベーションが高揚・維持される。

BSCの戦略マップは、自分の業務遂行が病院のビジョンや戦略にどう繋がっていくか

の連動性の大枠を可視化しているので、個人レベルまで合意形成に役立ち、モチベーシ

ョンの高揚・維持のツールの一つになる。

なお、参考として国際医療福祉大学が経済産業省から 2004年に受託した「医療情報管

理者(CIO)育成のためのモデルプログラム開発事業」の一環として作成したテキスト「病

院経営と情報化 ―医療機関 CIOのための基礎知識―」には、病院における CIOの役割、

位置づけ、必要な知識と心構え、必要な資質として以下のように記載されている。

(参考)「病院経営と情報化 ―医療機関 CIOのための基礎知識―」より抜粋

ア)病院における CIOの役割

・ 病院長から病院の情報化に関する権限の委譲を受け、情報の活用を推進すること。

また、それに伴って相応の責任を担う。

・ 情報システムの計画や実施に関して、経営層と頻繁に情報交換を行い重要な情報戦

略を経営と一体になって行うとともに、病院内の各部門とコミュニケーションをと

って調整をはかること。

・ 情報システムによって得られる診療情報を解析して、病院経営における IT活用に関

する資料を継続的に病院長や利用部門等に「目に見える形」で提供していくこと。

・ 新たな病院モデルの創出を情報技術により支援する。

・ 情報化への支出を判断する経営陣に対してはもとより、各部門に対してもその成果

を納得させられるように、極力客観的な指標により事前事後の情報化の価値の効果

測定や評価を行う。

イ)病院組織における CIOの位置付け

現在の病院の組織を考えると、通常は病院長、副病院長、事務局長、看護部長、薬

剤部長などが病院の幹部会を形成し、病院の経営に当たり、各診療科や病棟などの

責任者がそれぞれの部門の管理を行うのが通例である。こうした組織の中で、医療

機関 CIOは、副病院長と同格の立場で幹部会の一員として経営戦略に加わるべきで

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

ある。

事実国立大学法人化後の国立大学附属病院では、このことが規定となっている。

ただし、すべての病院にこのような組織がすぐ普及するとは思えないため、それが

定着するまでの間は、情報部門の責任者が複数の副院長の中の副院長を兼務し、幹

部会の一員となることも考えられる。

ウ)病院における CIOに必要な知識と心構え

・ 病院経営管理に関する知識

-医療を取り巻く環境変化、医療政策、業績評価や改善方法など、病院の管理と運営

に関する知識。

・ システムに関する知識

-システム導入の影響と効果やコストに関する知識。また導入するための手順や準備

等に関する知識。

・ 診療情報管理に関する知識

-用語やコードの標準化や医療情報交換のための標準規格に関する知識。統計解析等

診療情報の活用に関する知識。また、セキュリティとプライバシーの保護等に関す

る知識。

・ 情報を取り扱うものとしてのモラルや倫理観に対する心構え

―絶対的な権限を持って情報を取り扱う立場にあることを常に意識し、倫理観やモラ

ルを持って職務を遂行すること。

エ)病院における CIOに必要な資質

・ 医療経営とシステムの両方の知識を持っていること。

・ 現状と将来を見据えて、情報化による的確な経営戦略を立てられること。

・ 組織横断的な動きを主導しながらも、各部門のモチベーションも大切にするために、

全体の集約の動きと各部門の自由な動きに対するバランス感覚を持っていること。

・ コミュニケーションに優れ、調整能力を持っていること。

・ 強いリーダーシップを発揮できること。

(3)IT化と標準化

開発ベンダーにおける自社システムの普及は、システムの出来栄えもさることながら、

いかに医療に対して思いやりのある営業や SEを育てるかで決まってくる。人材の確保や

教育にいかに多くの時間と資源を投入するかで決まってしまう。現在の病院情報のシス

テムは、各部門毎にそれぞれの専門的なメーカが担当する傾向になっており、モザイク

模様となっている。それぞれ部門間でデータのやり取りをするのが重要で、データ交換

のあり方やマスタなどが標準化がされないスムーズにことが運ばず、効率が阻害される。

現在は多くの関係機関やベンダーが協力して標準化の方向に進んでいっているが、もっ

と早い時期に、国が音頭をとって標準化を義務付けるべきであった。国は病院システム

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

導入のために補助金をばらまいて電子カルテシステムを導入させるよりも先に、標準化

を促進するために開発ベンダーにも相応の補助金を出して欲しかった。そうすれば医療

機関の IT化がもっともっと進んだはずである。

(4)関西地域の貢献

新しい試みや新たな商品化するのは関西のメーカが向いているし、ユーザも新しいものに

関心を示し、積極的に参加しようという傾向がある。関西は常に前向きで、明るく、くよ

くよせず「ともかくやってみよう」という活力がある。新たなシステムを生む原動力のあ

る関西、そしてそれを製品や商品として売れる仕組みを作る関東という図式で病院情報シ

ステムは育ってきたように感じる。

390

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.7 細羽 実 氏(京都医療科学大学 医療科学部 教授)

(1)京都医療科学大学の概要

京都医療科学大学は、1927年の(株)島津製作所のレントゲン技術講習所(各種学校)

に端を発し、1970年に京都放射線技術専門学校、1983年に京都医療技術専門学校、1989

年に京都医療技術短期大学、2007年に京都医療科学大学と教育内容の拡充と高度化を進め

てきた。診療放射線技師に関する日本で最古の歴史を有する教育・育成機関となっている。

(2)標準化の種類

医療情報の主な標準規格として、画像情報通信に関する DICOM(Digital Imaging and

Communication in Medicine)と検査結果や処方内容などのテキスト情報に関する HL7(Health

Level 7)があり、いずれも情報を一つのまとまった構造にして情報通信をする。HL7は V2.

5が最新バージョン(メッセージ交換主体)として使われており、世界標準として ISO化

されている。診療記録 CDA (Clinical Document Architecture)の交換機能などを付加した V3.

0が開発されている。HL7の名前の由来は、HLはヘルスレベルで、7はオープンシステム

通信参照モデルの第7層(アプリケーション層)で相手にメッセージを通信することから

HL7と名づけられ、第7層だけが規格として規定されている。HL7の対象となる機器は日

本の医療制度に基づいた国内商品が多く、そのベンダーの団体として医療福祉情報システ

ム工業会(JAHIS)がある。なお、DICOMの方が先に標準化され、通信において画像情報

の通信と付随するレポートの通信の双方においてシェイクハンドの仕方を決めている。画

像情報機器は国際商品が多く、そのベンダーの団体として(社)日本画像医療システム工

業会(JIRA)がある。

(3)IHEの取り組み

IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)は、元々、アメリカの医療情報・管理シス

テム学会と北米放射線学会がスポンサーとなって設立された組織で、HL7や DICOMの

標準規格の実現場使用において通信上(解釈)の食い違いが生じないためのガイドライ

ンを作成している。現在、アメリカ、カナダの他、欧州11カ国、日本、韓国、中国も

参加した国際組織となっている。具体的には標準規格(DICOM、HL7)の使い方や統合

プロファイルを実現するために必要な機能と機能間の情報伝達を定義し、ドキュメント

に記述している。わが国では、日本 IHE協会でガイドライン通りにうまく機能するのか

を各社のシステムの実証接続実験(コネクタソン)を実施し確認を行っている。コネク

タソン自体は毎年全世界各地域で数回開催される。ベンダーの自主参加による IHEに準

拠した製品同士を接続し、その結果はホームページ上で公開されている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(4)地域医療連携の実証実験

医療情報の共有化に関してアメリカ政府は地域の医療機関の間に立ち医療情報を共有

する場(地域や州の機関)として RHIO(Regional Health Information Organization)という

地域密着型医療情報ネットワークを考えている。そして RHIO同士が相互接続され、最終

的に全国医療情報システム NHIN(National Health Information Network)に統合される構想

を打ち立てている。地域医療連携ネットワーク(日本版 RHIO)の構築に関して名古屋地

区で東海ネット医療フォーラム・NPOが脳卒中医療の医療情報ネットワーク化の実証実

験(経済産業省委託事業)に取り組んでいる。ここでは IHEの枠組みによるシステムの

相互接続を行っている。病院外にデータを送るときの標準仕様については保健医療福祉

情報システム工業会(JAHIS)が担当している。その他に、医療情報連携として病院内の

電子カルテをベースとした EMR(Electronic Medical Record)や個人の健康・医療情報に関

する PHR(Personal Health Record)がある。医療情報連携における大きな課題は標準化と

セキュリティである。セキュリティの仕組みはあるにはあるが、まだ安く簡単な仕組み

になっていない。セキュアネットワーク基盤を効率よく整備するための活動として保健・

医療・福祉情報セキュアネットワーク基盤普及促進コンソーシアム(HEASNETコンソー

シアム)がある。要件定義や普及促進、技術的課題等について検討し、標準化や相互接

続等の技術、セキュアネットワーク基盤実現に必要なフレームワークを検討している。

IHEでは医療情報基盤は、分散リポジトリー・アーキテクチュアで考えており、データ管

理の負荷を最小限にし、地域や国レベルでの連結の拡張性を有している。つまり元の診

療データは各医療機関で格納・保管し、中核の情報センターは診療データの所在場所を

管理するデータベースを保有し、情報ネットワークを通じて各医療機関から診療データ

を利用することができるという仕組みである。遠隔画像診断は遠隔地診療だけでなく都

市部における普通の診療所(CT装置や MR装置を保有)とのビジネスとして成り立って

いる。医療情報ネットワークを通じて専門医が病理診断を分担している。

(5)個人の健康情報の活用の検討

内閣官房や厚生労働省、総務省、経済産業省が共同で ITを活用した社会保障サービス基盤

「電子私書箱(仮称)」が検討されている。共通情報基盤(プラットホーム)の上に乗るア

プリケーションの一つとして国民の個人健康情報システムがあり、ワーキングでそのアプ

リケーションの検討が始まっている。日本版 EHR(Electronic Health Record)は 10年スパン

の構想で、IT新改革戦略(2006年~2010年の5ヵ年計画)にも取り組みが記載されている。

名古屋等での実証実験や JAHISの標準化の取り組みもその一環として位置づけられる。EHR

の技術上の最重要ポイントは相互運用性である。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.8 宮本 正喜 氏(兵庫医科大学 医療情報学 教授)

(1)兵庫医科大学の概要

兵庫医科大学は、大阪医科大学、関西医科大学、近畿大学医学部と共に関西地域の4医

学系私立大学の一つである。大学の医学部医学科、大学院の医学研究科及び先端医療研究

所から構成されている。また附属病院をメインキャンパスのある西宮(1044床)と篠山(200

床)の2箇所に持っている。前者は難しい手術や先進的な治療行う特定機能病院として指

定されている。

(2)CIOの位置付けと役割

①CIOの位置付け

CIOは上級情報技術者の上位に位置するが、ITの知識、医療知識、病院知識に加え、

経営知識が求められる。経営知識が強く求められるところが上級情報技術者と大きく違

う点である。医療情報部を設置する病院が増えている。病院の IT化投資をしているが、

どれだけ病院経営に具体的な効果があったのか不明確で、金食い虫と見られている。企

画段階ではそれらしき効果を経営者に示して、構築していざ運用段階になると IT効果の

フォローがいい加減なことが多い。このような状況を見ると医療機関に CIOのような人

材がいる。ITを使わないと経営分析ができないのでアメリカでは ITは経営戦略の一部と

みなされている。医療機関 CIOを育成するための CIO講座もできつつある。CEOをサポ

ートし、支出や収入のコスト分析を行い経営戦略の妥当性を検討、検証する。CIO教育

の対象者としては、経営者では病院長や副院長が想定される。また、大学病院では理事

長や情報担当理事が CIO教育の対象となる。公立の病院では上に立つ役人の方に CIOの

考え方を身につけて欲しい。

②CIOの役割

幾つかの病院間を統合的に情報ネットワークで連携することも CIOの役割である。CIO

は医療を取り巻く様々な情報を的確に把握し、必要に応じて戦略を見直さなければなら

ない。CIOはそのような情報に対して鋭敏なアンテナを張り巡らして収集する仕組み(サ

ポート事務部隊等)を作ることが必要である。重要な医療関係情報として例えば国等の

医療政策変更がある。例えば患者の支払い料の変更方針(診療所の患者の支払いを減ら

して行きやすくし、逆に二次医療機関の病院の支払いを上げる)が出された。病院はこ

のような情報をすばやくキャッチし早期に対応策を打つ必要がある。薬の在庫に対する

従来の考え方では病院で買う薬はまとめ買いをしてコストを下げていた。今では、薬価

の逓減、在庫や利用期限の観点から院外処方にするといった発想の転換が求められてい

る。CIOが経営的視点からアイデアを出し、経営企画室などを使ってシュミレーション

し、また実験的に運用し、新しいアイデアが本当に効果があるか否を分析し検証するこ

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

とが期待されている。過去の情報を使って比較分析するためにはデータウェアハウスの

考え方で、古い情報を消去して新しい情報に更新のではなくて情報を時系列的にきちっ

と残しておくことが必要である。情報分析の精度を向上させるためには、按分などで割

り振っている情報を、元データに基づき詳細に分析する必要がある。これは CIOの仕事

というよりは CIOをサポートする事務局の仕事である。CIOが収集すべき経営判断に資

する情報として医療関係情報や IT関係情報に加えて世の中の動向などの情報も必要であ

り、これらを収集する仕組みが必要である。例えば聖路加国際病院では4~5人の CIO

サポートスタッフが情報収集と経営分析を行い、経営層にその情報を提供している。し

かし規模の余り大きくない病院では医療情報担当がこのような業務をせざるを得ない場

合もある。病院の規模などによって CIOの位置付けやサポート体制は異なる。人材育成

はトップダウン的要素が強い。経営的な視点から人材育成を考えて欲しい。トップ自身

がもっと勉強して人材育成の指示を出して欲しい。CIOは経営層の中にいて判断をしな

ければならない。 従って経営的センスを有する人材に ITの勉強をさせていくのがよい

と考えられる。

3.海外及び国内の医療情報の取り組みの動向

①アメリカの医療情報の動向

アメリカなどの IT化の動きとして GRD/PPSでは日本のように複雑ではなく値段表に

よって単純に決まり、請求するとコンピュータがチェックし、すぐに支払われる(割切

った考え方)。一方、日本のレセプトにかかわる医療報酬制度は天下り組織が関与したた

めか複雑な仕組みとなっている。アメリカでは RIHOと言われる地域医療連携が急速に進

んでいる。医療情報ネットワークを駆使して個人の医療情報を社会全体で有益に活用す

ることを考えている。患者の診療ドキュメントを地域の医療情報データベースに登録し

共有利用しょうとしている。例えば、ハーバード財団が経営する病院間では患者の医療

情報の共有化が既にできている。

②日本の医療情報の動向

総務省、厚生労働省、経済産業省が共同で進める個人カ-ドの構想がある。

年金情報や個人の医療情報 EHR(Electronic Health Record)などを同じプラットフォーム上に

載せて情報の有効活用をしようと考えている。これらの前提として情報のセキュリティ管

理や標準化が重要な問題がある。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.9 今中 雄一 氏(京都大学 大学院医学研究科 医療経済学分野 教授)

(1)京都大学大学院医学研究科・医療経済学教室の概要

京都大学医学研究科・医療経済学研究室は、「医療の質と経済」に焦点を置き、問題解決

指向型の学際的、多領域、総合的な分野として教育・研究・実践活動を行い、社会に貢献す

ることを目的として研究開発を行っている。2008年 2月時点の研究開発内容は下記の5項

目である。

① 医療の質の指数化・改善プロジェクト

② 医療原価計算:政策、経営とシステム開発

③ 病院機能評価、医療マネジメントシステム

④ 病院の組織文化・職員満足度と患者満足度

⑤ 地域の医療資源・費用・パフォーマンスの研究

(2)医療の質の指標化と改善プロジェクト

医療の質の指標化・改善 QIP(Quality Indicator/Improvement Project)プロジェクトの目的

は、診療の成果や経済性を反映する客観的な数値指標を測定し、その情報をフィードバッ

クすることで参加施設の診療の質の向上に寄与することである。全国の45の病院(北海

道~沖縄、公立、私立)がプロジェクトに参加し、定期的(月1回)に医療データを事務

局に送付してもらっている。 共有データの統計分析結果(数値指標)を参加病院にフィ

ードバックし、統計上のばらつき範囲の中で自病院(医科)の相対的な位置を図や数値で

把握することにより医療の質の向上(高質医療側への改善のインセンティブ)に繋げるこ

とを狙っている。医療プロセスや医療体制の改善による指標改善の効果を時系列に可視化

して把握できるようにもしている。但し、地域により患者の年代等の特性が異なるので生

データに補正をかけて相対比較ができるように工夫をこらしている。例えば、抗生物質の

使い方の投与時期、回数、抗生物質の種類(世代)は、病院によって様々である。最新の

知見では手術前の第一世代の抗生物質だけでよいとなっているが、医療現場では必ずしも

そうはなっていない。また、病院間だけでなく病院内(医師間)ですら標準化ができてい

ないこともある。DPC(診療群分類による包括評価制度)の観点から標準的な医療とかけ離

れた治療に対して、通常は批判的にとられかねないので理由を聞きにくいが、統計データ

から外れている理由の質問することは容易にできる。医師は説明根拠が求められることか

ら標準的な治療方法へ誘導されることになり、病院経営上からも好ましいことになる。DPC

のデータの利用者は主に医局の部長や事務局部門であり、マネジメントに活用することが

できる。QIPは、医療情報の交換を通じて医療の質の向上と病院経営の質の向上に役立って

いる。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(3)医療原価の算定

厚生労働省の医療原価算定プロジェクトに参画し、病院間での医療原価の比較可能な共

通基盤を作った。今まで診療報酬を支払い原価の実態(内訳)がよく分からなかったので

患者毎のデータを多角的に分析して可視化をした。例えば患者1日当たりのコストを色々

なパラメータ(開設者別、地域別、病床別等)で見てみると、開設者別では国の病院機構

等でのコストが民間やその他の公立・公的病院に比べて安いことが分かる。地域別では東

北、中国・四国での診療コストが安いことが分かる。病床数(特定機能病院除く)では病床

数が大きくほどコストが安くなる傾向がある。診療科毎の収入と利益の関係を分析すると、

例えば小児科や産婦人科は利益率が低く、当該疾病分野の医師不足の一因にもなっている。

それらのパラメータ別に医療コストの内訳を可視化していくと様々な実態が浮かびあがっ

てくる。中央社会保険医療協議会(中医協:支払側、診療側、公益側からの 20名で構成)

において診療報酬額を審議し厚生労働大臣に建議しているが、その根拠となるデータはま

だ十分には整備されていない。中医協から協力要請に基づき、日本医師会や全日本病院協

会等の関係機関と協力して実施した今回の大規模な調査データは国の医療政策(診療報酬

制度の評価情報等)や病院経営にも活用することができる。

(4)病院機能評価・医療マネジメントシステム

医療の質に関する評価として客観的な第三者が実施する病院機能評価審査制度がある。

書面審査(病院自ら調査した結果を審査)とヒアリングを中心とした訪問審査とからな

っている。病院機能評価結果から病院の改善課題が明確になり、また受審対応のプロセス

を通じて職員の意識改革やコミュニケーションを促すことができるなど病院経営体質の変

革に役立てることができる。一方、患者側にとっても病院の品質が審査の認定基準を満た

していることが証明されているので安心して診療を受けることができるというメリットが

ある。病院機能評価の内容は年々充実を図り、現在(Vr.5)では以下の8つの領域で評価し

ている。

① 病院組織の運営と地域における役割

② 患者の権利と安全確保の体制

③ 診療環境と患者サービス

④ 医療提供の組織と運営

⑤ 医療の質と安全のためのケアプロセス

⑥ 病院運営管理の合理性

⑦ 精神科に特有な病院機能

⑧ 療養病床に特有な病院機能

2000年から病院機能評価における医療安全の評価体系の研究開発担当理事として、評価

プログラムの作成にかかわってきた。安全のためのケアプロセスでは、患者の立場を配慮

した説明による同意が得られているか、また患者の安全を確保するための重要な手順が各

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

領域で確立されているかが評価される。 また、医療マネジメントシステムに関しては、

研究室レベルで情報セキュリティマネジメントシステム(ISO27001)の認証を受け、維持

している。これを背景に ISOマネジメントシステムと経営評価体系、BSC(Balanced

Scorecard)も含めた医療における統合的戦略経営の構築・実践を研究している。

(5)病院の組織文化・職域満足度と患者満足度

病院経営を運営していく上で職員の意識は大きな影響を及ぼす。しかし職員の意識は病

院間でかなり格差がある。病院の組織文化を下記の8つの観点から調査し、結果を病院間、

部署・職種に分けて可視化し、データを提供協力のあった病院にフィードバックし、好評を

得ている。

①チームワーク、②情報共有、③士気・やる気、④プロとしての成長、⑤組織の価値観、

⑥資源、⑦責任と権限、⑧改善のシステム

また職員の職務満足と患者満足には正の相関が認められ、一般的に職員が満足している

病院では患者の満足度が高いという傾向がある。

(6)医療情報等のデータベースセンター構想

地域的な医療情報システムのネットワーク化が日本の各地で試みられているが、医療情

報がネットワークでつながっているものの、十分な活用がまだできていないというのが実

情である。セキュリティシステムの問題やデータを集めてどのように活用するかについて

の研究が十分に進んでいないことなどがこの理由として考えられる。国の各省(総務省、

厚生労働省、経済産業省)が協力して日本版 HER(個人の生涯健康管理記録システム)を

含む地域情報プラットフォームをベースとした統合的な社会データ活用システムを構想し

ているが、まだ具体化には至っていない。また、健康診断データも活用ができていない状

況にある。当教室では健康関連統合データベースの活用について研究を進めようとしてお

り、現在スポンサーを募っている。

(7)医療情報経営の人材育成

経済産業省の医療人材育成事業を 2005年から受託している。自治体病院協議会などとコ

ンソーシアム「医療経営・人材育成戦略機構」を組み、また大学院とも連携してワークショ

ップやフォーラムを開催し、活発な意見交換を通じて医療経営人材育成の教育プログラム

や教材を検討した。教材には自治体病院に特有な部分も収録している。既に経済産業省か

ら医療経営人材育成テキスト「医療経営の基本と実務(戦略編、管理編)」が公表されてい

るが、一般的なマネジメントの考え方を医療分野に適用した記載内容になっている。従っ

て医療分野の人が具体的に活用しようとすると内容的に物足らないので、上記の補完テキ

ストとして将来の医療経営を担う人材のための実務的な標準テキスト案を作成し、医療業

務に運用しながらその内容の改良を進めている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.10 山田 恒夫 氏(医療情報システム開発センター 研究開発部 部長)

(1)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)の概要

財団法人医療システム開発センター(MEDIS-DC)は、医療情報システムに関する基本的か

つ総合的な調査・研究・開発及び実験等を行っている。これらの成果の普及及び要員の教育

研修等を行うことにより医学、医術の進展に即応した国民医療の確保に資し、もって国民

福祉の向上と情報化社会の形成に寄与することを目的として 1984年に設立された。これ等

の目的達成のために以下の事業を行っている。

① 医療情報システムに関する基本的かつ総合的な調査・研究・開発及び実験

② 医療情報システムに関する安全性及び信頼性の研究

③ 医療情報システムの開発成果の普及啓発

④ 医療情報システムに関する教育、研修及び啓蒙

⑤ 医療情報システムに関する資料その他情報の収集及び提供

⑥ 医療情報の収集及び提供

⑦ 医療情報システムの研究開発に関する国際協力

⑧ 前各号の実施に伴う内外関係機関との提携と交流

(2)医療コードの標準化

MEDIS-DCは厚生労働省の委託を受けて病名と用語、コードの標準化に取組でいる。下

記の9種の標準マスタ(用語、コードを分野別に体系化したもの)を作成し、公開してい

る。①病名マスタ、②手術・処置マスタ、③臨床検査マスタ、④医薬品マスタ、⑤医療機

器データベース、⑥看護実践用語マスタ、⑦症状所見マスタ、⑧歯科分野マスタ、⑨画像

検査マスタ

レセプト(診療報酬請求)ではマスタ変更や報酬内容の変更がたびたびあり、レガシー

システムの医療コード規格との不一致が問題となっているが、標準マスタとの対応付け

により処理をしていることが多い。電子カルテのシステムについては、文字情報、画像

情報、波形情報がある。文字情報は HL7(Health Level 7)などの標準規格が作成されつつ

ある。

京大などが中心となって進めているドルフィンシステムの翻訳規格などもレガシーシス

テムが多く残っている現状としては、有用である。心電図波形についても標準化がされ

た。MFER(Medical waveform Format Encoding Rules)交換規格といい、医療情報分野の規

格として初めて ISO/TSに採択された。従来、画像情報となっていた医療波形が情報とし

て再利用ができるようになった。MEDIS-DCに MFER委員会を設置している。画像情報

については、従来から DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格があ

り、世界的にこの規格で動いている。画像情報については、(社)日本画像医療システム

工業会(JIRA)が日本の DICOM委員会を設置している。

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(3)医療情報機器のベンダー情報

国内の医療情報システムのベンダーとしては、一般的に NECと富士通が両雄である。

電子カルテの時代になってからは、特に大型システムは富士通が優位を占めている。オー

ダリングシステム中心の時代は IBM,東芝、日立のシステムも多く見られた。診療所レベル

の小型の電子カルテは三洋製が多い。なお、医療情報機器の普及率は、統計データ(都道

府県別)が調査した機関によってデータ異なっているが、厚生労働省のデータが一番信頼

性が高いのでこの普及率を採用するとよい。3年に一回の頻度ではあるが、全数調査をして

いるので信頼性が高い。なお、データ未提出の病院・診療所に対しては保健所が督促をかけ

ている。

(4)医療情報のネットワーク化

医療分野では、専門医師の人数が少なくなく、しかも偏在化しているという問題をか

かえている。その問題の解決策の一つとして医療情報のネットワークを使った遠隔医療

が試みられている。地域医療連携(医療情報ネットワーク)推進の要因の一つとして、

地域医療連携を知事選挙の公約にして当選した県においては進展することがよくある。

周産期医療(妊娠 22週~生後 7日までの期間の医療)の電子カルテネットワークの実証

実験に関して岩手、東京、千葉、香川の 4地域で標準化実証実験を行っている。四国の

香川大学病院の原先生がリーダー的役割を果たしている。周産期医療の情報化ネットワ

ークの問題点として、例えば胎児の心拍数は従来カルテの備考に記載されていたが、産

婦人科医師では診断に必要なデータにも関わらずデータしてとれないし、統計すらない

ことが挙げられる。岩手県では地域における周産期医療確保のため、患者搬送や受療動

向を反映した4つの周産期医療圏を設定し、各周産期医療圏の地域周産期母子医療セ ン

ターの拠点機能の強化を図ることとしている。遠野市の県立病院では産婦人科医師がい

ないため、助産師が心拍数をインターネットやモバイル端末(携帯電話)を利用して釜

石市の県立病院にデータを伝送し、産婦人科医師の指示サポートを可能としている。

病理医学の分野でも医療情報のネットワークを利用した遠隔病理診断により病理医師

の少数、偏在への対処が行われている。細胞のガン化診断などを行う病理医師は全国に

1800人しかいなく、しかも大病院に偏在している。医療現場で抽出した細胞片(プレパ

ラート)の画像を病理医師にデータ伝送し、病理医師の診断結果を返送してもらってい

る。関西の京大、府立医大の先生が遠隔医療の分野では有名である。健康保険証の情報

化については、愛知県の豊田市ではトヨタ系の病院で ICカードの健康保険証が発行され

ている。当該地域限定で、まだ他の地域では利用することができない。海外の医療情報

化については、レセプトのオンライン化は韓国が進んでいる。海外の医療情報化の状況

は JAHISが調査し、報告書を発行している。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(5)医療情報ネットワークに関するセキュリティ確保

電子カルテ情報のネットワーク化の実績はまだ余り多くないが、その一つの要因とし

てセキュリティの問題がある。VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)や PKI

(公開鍵基盤:暗号化)によりセキュリティの確保ができるようになり今後の進展が期

待される。専用回線によるネットワーク化が望ましいが多額の費用がかかるが、セキュ

リティの高いインターネットとして VPNがでてきた。VPN(保護カバー内)のトンネル

を利用して第三者からの盗聴などを阻止し、情報を安全に、安価に伝送することができ

ようになった。PKIという鍵の暗号化による情報交換ができるようになった。電子的に認

証局を立ち上げ、公開鍵証明書を発行して送受信の相手の正当性を確認する。病院内の

医者であれば誰でも患者の情報を覗いてよいわけではない。例えば芸能人などのカルテ

を興味本位で覗く医師もいないとは限らない。厚生労働省が医療情報の安全管理のガイ

ドラインを発表している。

(6)医療情報化が普及しない理由及び阻害要因

都会の開業医は高齢化しており、自分の時代は現状の紙ベースのやり方でいいと思っ

ている人が多い。法律である時期までに導入が義務化され、加算もつくがその金額が少

ないためにインセンティブが働いていない。普及促進の一環として厚生労働省が自治体

系の病院にどのような医療情報機器が導入されているかを公表する仕組みを作った。

現在、自治体にて調査中である。処方箋がメール伝送できない理由として、処方箋への

サインか押印が必要と厚生省が定めていることが壁となっている。なお、医薬分業の方

針に基づいて病院、診療所は特定の薬局を紹介してはいけないことになっている。医療

検査値も、検査に用いる試薬が違うことなどで標準化(全国レベルで統一)ができてい

ないために再検査が必要となっている。

(7)その他

自治体系病院経営が悪化している理由の一つとして、医療費の徴収もれがある。その対

策として自治体系の病院で住民基本台帳カードを利用してもかまわないようになってい

る。但し、民間の病院では住基カードを利用することはできないので、地域内で情報を

共有化する動きもある。MEDIS-DCでは医療分野に限定して個人情報保護のための Pマ

ーク制度の審査機関となっている。また、ポータルサイトに医療 ITに関する最新情報を

整理して掲示している。このポータルサイトの情報は、関係者から厚生労働省のホーム

ページの情報より見やすく充実しているとの好評を得ている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.11 篠田 英範 氏(保健医療福祉情報システム工業会 標準化推進部長)

(1)保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の概要

保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)は、保健医療福祉情報システムベンダーの共通

の利益の追求や医療ソフトウェアの安全性の確保、標準化の推進を図ることにより、保健

医療福祉情報システム工業の健全な発展と国民の保健、医療、福祉に寄与することにより

健康で豊かな国民生活の維持に貢献することを目的とする業界団体である。

組織として運営会議の下に2つの部(戦略企画部、標準化推進部)と3つの部会(医事

コンピュータ部会、医療システム部会、保健福祉システム部会)、1つの事業部門(事業推

進部)を有している。

(2)医療部門の IT化と標準化の現状

レセプトコンピュータは医療機関で必須の IT機器となっている。オーダリングシステ

ムは 400床以上の病院では 70%程度導入されており、日本は世界的に見てもオーダリング

の分野の IT化は特に進んでいる。電子カルテは同じく 400床以上(大病院)では約 840病

院の内 30%近くに導入されている。日本全体(約 9000病院)の 10数%の電子カルテ普及

率となっている。民間病院では赤字の医療機関も多く、IT化を自ら進めることは困難な状

況にあるところもある。ただ、情報化により事務や医療現場での業務効率が上がることが

証明することができればもっと IT化が進むものと思われる。国立を含む公的病院は予算化

がされやすいので民間病院に比べて情報化が比較的早く進んでいる。病院によって業務の

仕方が異なるので、なかなか医療情報の標準化が進まない状況でもある。情報化をより進

められる状況を作るため、厚生労働省は業務フローの標準化にも取組んでいる。放射線医

療部門では業務が比較的標準的に行われているので IHE活動(Integrating the Healthcare

Enterprise、院内のみならず地域・国の健康管理事業の統合化)をはじめとして標準化には

比較的理解がある。診療情報の入力作業自体は代行者が行ってもよいが、内容確認の責任

は医師に残る。なお、処方(投薬の指示)の入力は医者が行った方よいとされている。標

準化の三大要素としてコンテンツ、データ交換、セキュリティに係るものがある。データ

交換規約では HL7(Health Level 7)、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)が

主たる規格である。それぞれ JAHIS、(社)日本画像医療システム工業会(JIRA)、が中心と

なり標準化活動を行っている。コンテンツに係わる用語・コードは医療情報システム開発

センター(MEDIS-DC)が中心になって標準化に取り組んでいる。医療情報推進化協議会

(HELICS Board:Health Information and Communication Board)を関係11団体が立ち上げ

て複数の異なる視点からの標準化の妥当性(日本の標準としてこれでよいか)を審査して

いる。医療情報の標準も使用するベンダーによって HL7や DICOMの解釈が異なることが

ある。日本では使い方を規定し、互換性を持たせて情報が繋がるようにしなければならな

いが、JAHIS標準はそのような規格としている。この面では JAHISの方が JIRAよりも努力

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

している。

(3)経済産業省の委託事業

経済産業省の「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」における標準化の事

業を JAHISが担当している。なお、2008年 2月 23日に名古屋で 2007年度の報告会がある。

医療情報の地域連携については7年程前に経済産業省の委託事業で電子カルテを中心とし

た地域医療の情報化の取り組みが全国 26地域で行われたことがある。地域内では繋がった

が、他の地域には拡がらなかった。これらの地域医療ネットワークの取り組みも現在は1

4地域しか運用されていない。これには幾つかの要因がある。①補助金以降の運用資金が

続かなかったこと。②手間の割りには医師にメリットが感じられなかったこと。③情報を

ネットワーク化するという手段が一人歩きして連携の目的があまり明確でなかったことな

どがあげられる。このような過去の反省を受けて名古屋地域での医療情報の相互運用では、

範囲を脳卒中医療の領域に絞り、情報の相互運用により提供する医療領域のトータル機能

を明確にした上で医療情報システムを構築し、本当にそのような機能を提供できるという

相互運用性が得られたことを実証しようとしている。また、相互運用のための基盤として

情報の標準化を日本の医療制度の実態にマッチしたものにするということに取り組んでい

る。具体的には脳卒中診療を急性期(治療)、回復期(リハビリ)、維持期(在宅ケア)の

3つの治療期に分けて、各段階で診療に携わる医療機関を情報ネットワークで連結し、患

者の診療情報を共有化する仕組みを構築している。JAHISが担当している標準化の作業とし

ては、①交換・共用する診療情報(診療情報提供書などのコンテンツ)の標準化、②情報交

換・共用の仕組みの実装ガイド(医療機関ごとに異なる患者 IDを統一管理する仕組み)、③

診療情報の安全運用(個人情報管理)に係わるガイドラインなどがある。

(4)将来に向けた医療情報の取り組みについて

日本全体で患者の医療データを共用し、どこの医療機関に行ってもその患者の情報を参

照できるようにする検討も進められている(日本版 EHR)。また、厚生労働省は医療情報の

基盤整備の一環として ASP版(アプリケーション・サービス・プロバイダ)電子カルテを構

想しており、来年度から検討に入る。総務省では安全な情報交換のネットワークの仕組み

を検討している。セキュリティ対策の費用は、今のところ認証局との契約が少ないので高

価な対策費になってはいるが、今後、多くの医療機関が参加すれば価格は下がるものと期

待される。医療従事者が共有できる一覧性のあるデジタルの世界が実現できることが期待

される。

医師法では個人情報をもらしてはならないと規定されている。従って医師法が適用され

ない機関が個人の医療情報を預かることに対して抵抗がある。民間事業者が保存できるよ

うにすることを検討されているが、それなりの条件が課せられることになるだろう。診療

所の IT化はシステムを使う人がメリットを感じていないことも進んでいない原因となって

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

いると思う。しかし 2013年頃には100%レセコンが導入されオンラインでレセプトデー

タが伝送される。日本の年間医療費は約33兆円で、人件費が 50%、薬が 30%、画像関係

0.6%(2000億円)、情報システム関係1%強(約 3400億円)となっている。医療分野は法

規制という制約が大きいために急な改革は困難である。JAHISでは状況を見ながら厚生労働

省と協議しつつ法規制の改訂も含む改革を議論している。

(5)医療情報技師制度について

ベンダーと医療従事者との仲介を行い医療のニーズを解釈してもらう人が必要となる。

このような役割を果たす人が医療情報技師であり、各ベンダーも社内で医療情報技師の資

格保有者を増やそうとしている。日本医療情報学会では、医療機関に CIOを置く施策を展

開している。CIOは医療情報から経営的判断ができる人と定義されている。その前提とし

て院内で医療情報資源がどのように使われているかといった実態を把握しておかなければ

ならない。システムの導入による目に見える効果としては、事務の効率化で事務員が何人

か減る程度である。ITをうまく活用すれば色々な業務の基盤ツールとして経営の質の向上

にも役立つものとなると考える。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.12 上野 智明 氏(日本医師会総合政策研究機構 主任研究員)

(1)日本医師会及び日本医師会総合政策研究機構の概要

(社)日本医師会は、1916年(大正5年)に設立され全国の各都道府県医師会の会員か

ら構成されている。会員の大部分は診療所及び病院の医師で 164,000人が加入している。日

本医師会総合政策研究機構(日医総研)は、日本医師会の関連団体(医療や社会保障等の

シンクタンク)として 1997年4月に設立された。調査、研究、情報収集等を通じて日本医

師会の目指す「国民のための医療政策の立案、展開」の実現に協力、支援をしている。ま

たその成果は日本医師会の政策や提言に活用されている。

(2)医療部門 IT化の動向

欧米では EHR(Electronic Health Record)に対して多額の投資を行い政財界がこぞってそ

のシステムの構築に取り組んでいる。医療部門はコンピュータがなくても業務をすること

が可能なので IT化の進展が遅れている。ピーター・ドラッガーも医療部門は金融部門など

に比べ業務内容が複雑なので IT化が遅れるだろうと予測していたが、残念ながらその予想

が的中している。医療部門の IT化は2つに大別される。一つは診療報酬請求に用いられる

レセプトコンピューター(略称:レセコン)に代表される医事会計の事務効率化のための

システム、もう一つは医療現場で医療の質向上を狙った電子カルテに代表される診療シス

テムである。医療現場ではレセコンは病院で 9割8分、診療所では8割以上導入されてい

る。レセコンと電子カルテなどのシステムをつなごうとすると外部のインターフェースが

ないためにレセコンのメーカのオプション製品を買うしかない。日本医師会は医療機関の

IT化として電子カルテではなく普及が進んでいるレセコンにフォーカスした「オルカシス

テム ORCA(日医標準レセプトソフト)」を構築した。日医総研がオルカプロジェクトチー

ムを組み、開発、運用、普及・広報を担当している。

過去、日本では補助金付きの電子カルテ導入を狙った国のプロジェクトを何回か実施し

てきたが補助金がなくなると持続できなくなるというパターンに陥っているというのが実

情である。医療分野では収入源となる医療請求のためのレセコン情報は抜けなく入力され

るが、電子カルテ情報は別途入力必要なので手間の問題から長続きがしない。IT機器の導

入率と入力の確実性から日本医師会では医療部門の IT化をレセコンにフォーカスして進め

ることにした。日本では紙レセプトが 20億枚あり、海外のベンダーからみて市場参入の障

壁と思われている。ちなみに医療分野の市場規模は約 30兆円で 2025年には約 50兆円にな

ると予想されている。国としては今後の医療費負担を減らしたいし、民間はこの分野に参

入したいと思っている。健康保険の適用外の判断は医師の裁量権であり、保険請求の情報

には含まれない。国は電子カルテ導入の推進が困難であることを認識して、直近のグラン

ドデザインでは電子カルテ導入率の目標数値が消えて、IT化はレセプト情報のオンライン

伝送化を進めることに重点が移った。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(3)日本におけるレセコンの状況と厚生労働省のレセスタ

レセコンのメーカはサンヨー、東芝住電、富士通、日立、NEC、日本事務機、NTTデー

タの主要7社がシェアの7割以上を占め、寡占状態となっている。日本では各メーカが医

療機関や地域を囲い込み、各社が独自のシステムを進化させてきた。そのため標準化がな

かなか進まなかった。厚生労働省は、2010年までの病院(診療所は 2013年)のレセプト情

報のオンライン伝送化の義務化の切り札としてレセスタ(Recesta)というレセプト文字デ

ータ変換ソフトを開発した。これはレセプトの出力情報(アナログ文字情報)を取り出し

て OCR的に読み取ってデジタル情報に変換するというシステムで 17億円の費用を投じて

開発したものである。国内主要7社のレセプトシステムに対応が可能となっている。医療

機関は無償でソフトを利用することができるため、安価に電子レセプトを採用できるだけ

でなく、電子レセプトのメーカを変更することも容易になる。しかしメーカの立場から見

れば、自社製品の囲い込みができなくなるので販売のインセンティブが働かないことや国

の管理をきらうこともあり、現在約 30の病院にしか普及していない。レセプト情報のオン

ライン伝送が NTTの光プレッツを使って始まっている。従来はレセコンの電子化情報を紙

に打ち出してチェックの上、MOなどの電子媒体にデータを落とし込み支払基金や国保連や

郵送するか、人が直接運び込んでいる。受け取った方も紙にアウトプットして審査(チェ

ック)をしていた。このような状況から情報化による業務の効率化には寄与していなかっ

た。ネットワークを通じて直接伝送できない理由として情報セキュリティの仕組みが確立

していなかったことも大きな要因となっていた。

(4)ORCAプロジェクト

日本医師会は、ネットワークの端末コンピュータにレセプト機能を付加したシステム

「ORCA」(Online Receipt Computer Advantage)を開発し、オープンソースで提供(無償公

開)している。OSは、Windowsのようには規制を受けない Linuxを採用している。なお、

ユーザが慣れたWindows版を作るメーカもある。ORCAは目覚しい勢いで普及し、昨年度

のレセコン全体の 11%を占めるにいたっている。現在 6,000台に近づいており、メーカの

レセコンシェアで言えば4位に相当する。メーカやベンダーが任意にハードを作って対応

してよい建前であるが、信頼性を担保するために認定制度を採用し、140社(大~小)が認

定されている。またORCAシステムつながる電子カルテを開発しているメーカが 17社あり、

2ヶ月に1台のペースで増えている。診療所の医師が息子の代に移り電子カルテを使いたい

ニーズが出てきた時に、とりあえず安くて評判のよい ORCAのレセコン・電子カルテを採

用するところが増えてきている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.13 福田 清高 氏(加古川地域保健医療情報センター 情報センター課長)

(1)加古川地域保健医療情報センターと地域との取組

加古川地域保健医療情報システム(以下「システム」という)が、システム構築に取

り組んで約18年の実績があるが、現在医療分野の情報化において求められる先進性や

先端性の追求を目標にしているわけではない。過去のニューメディア・コミュニティ構

想の時代からシステム開発や運用を続けているが、目標とする理念やポリシーは、当時

と変わっていない。

そういう意味からも、システムの果たすべき役割や活動範囲も、1990年(平成3年)

にまとめた基本設計思想(プライマリケアの充実、病診連携促進、インフォームド・コ

ンセント)からは変化していない。地域住民の生活を支える基盤整備のひとつとして、

高齢社会を踏まえ、保健・医療・福祉の3分野について、加古川地域(加古川市、稲美

町、播磨町)の住民の健康づくりを幅広く支援するシステムを構築運用している。特に

インフォームド・コンセント(患者への十分な説明と同意)に力を入れている。

(2)システム開発に関するポリシー

加古川地域保健医療情報センター(以下「情報センター」という)のシステム開発方

針については、当初事業着手の意思決定がトップダウン(行政の長と医師会の会長)で

あったことも踏まえ、初期段階は、医療関係者や住民のニーズの把握を中心にコンセン

サスの確立に傾注した第 1期と、モデルシステムとして医療現場での機能評価や個人情

報保護対策の充実を図った第 2期と地域内での更なる普及や福祉分野の充実を図った第 3

期の3つに分けて事業が推進された。

膨大な開発作業の中では、実際の医師(ユーザ)が使って見て意見を頂き、医師と一

緒に作り上げていく姿勢を尊重し、特に開発ベンダー等の主導によるシステムに限定し

ない事に注意を払っている。ユーザが自ら設計して活用するシステムを目指している。

さらに、情報センターにおけるプログラム品質管理を徹底することにより異常動作やバ

グはほとんど無く、安定した使い勝手のよいシステムにできあがっている。しかし、開

発過程の中で OSの遷移は大きくその基本機能に影響を与えており、時代にあった最新の

OS導入を基本とし、当初から数えれば、DOS→WIN3.1→WIN95→WIN2000→WINXPと変

遷している。近年はとくにセキュリティ関係の機能は影響を受ける範囲が大きいが、加

古川地域では IP-メンバーズによる IP-VPNと暗号化を併用しネットワーク接続時に認証

センターを活用し一部 HPKI機能の先行導入を実施しているところである。当初の大日程

計画から言えば平成10年が完成年度であり、それ以降は、維持運用を中心としつつも、

ICカードの次世代化や前述のような NW機能の高度化などを随時実施している。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(3)情報センターの組織体制

情報センターが所属する財団法人加古川総合保健センター、加古川市・稲美町・播磨

町と加古川市加古郡医師会が共同出資して設立した財団である。行政立の検診センター

機能及び医師会立の共同利用施設としての検査センター機能を中心に事業展開される中

で、長年にわたり蓄積された膨大な検査・健診データを、地域住民の健康づくりにさら

に役立てようと、経済産業省のニューメディア・コミュニティ構想の応用発展地域の指

定を受けた事を機に、事業化が始まった。但し、国からの補助金は受けておらず、これ

までの事業費は全て地元行政である加古川市・稲美町播磨町の一般財源で負担されてい

る。

システムが収集する情報に関しては、厳密に定義してあり、患者本人の同意のもと、

対象となるデータが収集され NWを通じて必要な各関係機関の間で共有される仕組みに

なっている。また、システムが取扱う様々な情報の安全な運用管理のために OECDの8

原則に基づく個人情報の自己コントロール権の考え方にのっとり、その都度患者の情報

開示の同意書がないと情報公開できない仕組みになっている。

当該システムは、検査・健診データを共有すること重点的に考えて設計されている。

限定はされるが、重複した検査などを排除して診療報酬請求の適切性にも貢献すること

ができる側面ももったシステムになっている。現在、地域内の中核4病院(加古川市民

病院、県立加古川病院、神鋼加古川病院、甲南病院)にも導入されて病診連携機能を実

現している。このなかで、検査結果が発生する4施設間の各検査項目について、専門の

委員会を設置し精度管理や標準化を検査機器の特性や試薬の相違の側面も含めて、数年

にわたり検討を重ね標準化の問題をクリアし、過去10年単間の検査・健診データを保

管している。これにより、個人の平常値の健康状態を指し示す健診データを総合的に活

用できることから、住民への健康指導や通院時における健診データを活用した、その患

者の健康状態の的確な把握と診療に結びつけるなど、保健や医療の面でのデータ連携が

可能となっている。先進諸国が導入を先行していることもあり、個人の生涯を通じた健

康データ管理 HER(Electronic Health Record)ということが国レベルでも導入構築に向け

た動きが活性化しているが、各省庁の基本方針には開きがあり、保険制度の維持や透明

化も含めた医療費の効果的再配分や削減につながるような、潮流の形成には至っていな

い。情報センターでは、hPKI(保健医療個人認証の公開鍵基盤)による認証を一部導入し

ているが、情報センターに接続するには、認証局による接続承認が必要となる。ただ、

セキュリティが強固である分、利便性の部分においては使い勝手がよくないというトレ

ードオフの関係があるのも事実である。

(4)e-JAPANにおける情報化の軌道修正

過去の e-JAPAN政策は、政府は電子カルテの普及率を数値目標に掲げていたが、現在

は政策から外し、医療機関の自由裁量にまかせている。しかし、その替わりに EHRの構

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

築を進めようとしているが、これは多くの側面を持ち、個人の生涯を通じた健康管理に

役立てることを理念に、医療費の抑制や効果的再配分のための活用や、特定健診にみら

れるような、慢性病になることを防ぐための住民へ決め細やかな健康指導や、産業的に

活用できないかなども検討の課題となっている。

危険であるのは、医療分野の IT化を住民がメリットを明確に認識し真に望んでいるの

かをもう一度原点に戻って検討しなければ、国や地方自治体、またそれらを取り巻くベ

ンダーの押し付けになり、エンドユーザーである住民がなんら恩恵を受けることができ

ないというような仕組みづくりにならないことが肝要ではないかと思われる。医療にお

ける IT化は、各省や IT推進者側の想いと、本当に税金を払っている国民が恩恵をうける

価値を見いだし、同じ想いを持たない限り進んでいかないのではとの議論がある。ITの

為の IT化の議論が往々にして散見されるので、そこが問題ではないかと感じた。各ベン

ダーも、EHR については積極的であるが、実際は市場等での優位性や利益確保の側面を排

除しきることは当然難しいので、やはり EHR については“官”が中心に公益性を確保し

ながら進める必要がある。しかし、近年プログラムの経済的・効率的開発のために、諸

外国への外注化や内部での開発すら外注化比率が大きくなりすぎ、ベンダー内部のプロ

ジェクトマネージャーでもアプリケーションのクオリティコントロールが出来ていない

のが実情である。しかし、公益性があるシステムにおいてはこういった課題は大きな EHR

普及阻害要因であり、国内で導入されると想定される数年先には、様々な面での規格化

などの統一的な仕組みが必要である。

患者本人が、医療対して正しく治療を受けて、それに則った正しい診療報酬請求がさ

れているのか、認識を持って知る必要がある。

今後、医者が医療経営に深く携わる事により、医療が営利的な側面で捉えられていく

ことに、非常に危機感を覚える。やはり、医療といった性質上、医師という特殊な立場

には高い倫理性が求められている。医療においては、IT化を推進する前に、もっと重要

な課題が山ほどある。例えば専門医がいないからといって救急患者搬入を拒否する問題

なども、何が原因なのかをよく考えて解決していかなければいけない。

(5)システムの評価について

加古川地域のような地域情報化の一部としての保険料分野の情報システム化事業が、

継続的に運用できるポイントは要因で分類すれば、第1要因は費用(財政基盤)、第2要

因は個人情報保護(プライバシー)、第3要因はシステムの評価、第4要因は医師会と行

政のコンセンサスである。この、中でシステムの評価というのが非常に難しい。連携医

療の妥当性、有効性の評価指標に何を設定すればよいのかに悩んでいる。医療費削減を

設定するのか、患者治療の満足度を指標におくのか、安全安心の面で評価するのか色々

な評価指標が考えられる。基本的には地域住民の税金で賄われている事業である以上、

行政は議会で報告する義務があるのは当然であるが、評価指標の定めを具体化していな

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

いことから住民や議会に対して十分な説明が出来ないのが大きなネックとなっている。IT

投資効果がどうかなども評価が困難なので、予算を確保するのに苦慮している。

(6)加古川地域の行政と医師会との関係・連携

加古川地域でシステムがうまく運用できているのは、地域のリーダーである自治体の

長が医師会の長とコンセンサスを得て、政策として力を注いだことが大きな要因となっ

たと思われる。加古川地域のシステムは、行政が財政的基盤を与え、主導している側面

を持っている一方、住民に対してはインフォームド・コンセントを中心に健康管理の側

面では医師会が主体となって運用している。お互いにWin-Winの関係にあり、結果的に

は住民が恩恵を受けている。KIND CARD(ICカード)を使うと、患者は参画している

医療機関の共通診療券として使え、個人の保健医療情報が記録されている(但し、画像

関係は履歴と所在管理のみ記録されている)ので住民は自らの意思で健康管理にデータ

を活用したり、不慮の事故の際にも対応ができるというメリットがある。2007年 12月現

在システム登録者(同意者)74000人の内、46000件のカード所有者がいる。

保健医療福祉の情報化に関しては、公益的側面の強いので行政が音頭をとって各地域

のステイクホルダーとの連携を考えて進めていく必要があると思う。

なお、行政の財政事情により事業費が年々減少していく傾向にあるが、このままでは

システムの維持すら困難になってくることも予想されるため、応用発展地域の主旨も踏

まえ同様のシステムを希望する地域がれば、その地域にカスタマイズしたシステムの構

築をコンサルタントする事業も考えている。

(7)ベンダーのかかわり

加古川地域の場合は、中核病院のシステムにおいても色々なベンダー(NEC、富士通、

日立、NTT データ等)が開発に携わっている。今の医療ネットワークは、外部とのネット

ワークの接続を全く認めないのが原則、基本住民台帳と全く同じ考え方に基づいている

ところが多い。情報センターでは、どこのベンダーであってもデータがしかるべきフォ

ーマットで入っていれば問題がない。標準化に関しては情報センターで把握・調整をし

ている。開発をベンダー任せにしていないので、このようなことが可能になっている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.14 山路 雄一 氏(富士通(株)ヘルスケアーソリューション事業本部 副本部長)

(1)富士通(株)ヘルスケアーソリューション事業本部の概要

富士通(株)は 1970年より医療情報システムに着手した大手ベンダーで、現在国内の医

療情報システムのトップベンダに位置づけられている。病院でのシェア 40%、診療所市場の

シェアは16%を有している。近年は電子カルテシステムを初めとする先進的な大規模社

会システムの導入も進みつつあり、全国に医療分野に精通した SA/SEを配置する等顧客の

一層の獲得とサポート強化に邁進している。

(2)医療分野を取り巻く IT化の動き

医療分野の IT化は遅れている。オーダリングシステムの導入は 400床以上の病院で 6

割程度にすぎない。但し、医療報酬に係わるレセプトシステムの導入率は 100%近い。IT

化が普及しないのは経営者にとって効率化や利便性などのメリットが見えないからであ

る。海外ではイギリスやカナダ、アメリカで個人の医療情報を全部の病院で一元化管理

し、どこからでも見られるといった EHR(Electronic Health Record)に国家的プロジェク

トとして取り組んでいる。連携医療は、病院間で医療情報を共有できれば大きなメリッ

トがあるのだが、システム化する前の話として病院によって治療プロセスが違うことが

大きな問題となっている。まず、各疾患の治療プロセスを標準化することが必要である。

また、医師間で自由なやりとりをするための合意形成ができていないことも大きな要因

となっている。40歳~74までの人を対象に生活習慣病を引き起こしやすい体質であるメ

タボリックシンドロームに着目した特定検診・特定保健指導制度が2008年4月から

始まる。国はこの制度により医療費の削減を狙っている。電子私書箱(国民が健康、保

険、年金などの自己の情報を一元的に統合管理・活用する仕組み)が検討されている。ま

だ、色々なアイデアが出ている段階で、具体的な内容はこれから各種ワーキングで検討

されていく。医療分野では電子カルテの導入・活用によって医療の質が向上すると思われ

るが、電子私書箱は国民にメリットが得られることがはっきりすれば進めるべきである。

アメリカでは年間 7000人が投薬ミスで死亡している。また 150万人が投薬ミスの被害に

会っている。電子処方箋やバーコードなどの IT化によってかなりのミスや複合投薬作用

による事故は防ぐことが可能であるといわれている。そのためにはネットワーク化によ

る医療情報の共有が必要である。日本では色々な実態を調べようとしてもデータが不足

しており、まずデータを収集する仕組みが必要である。ほとんどの医療機関に導入され

ているレセコンのデータを統計解析すれば色々な実態が浮かび上がり、医療分野の課題

解決につながる。自治体にコールセンター構想があり、その中に健康・疾患にかかわるデ

ータベースを持ち、そこから今までの病歴を見て診断の判断材料の一つとすることも考

えられる。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(3)健康情報をベースとしたビジネス化の動き

医療制度改革の動きに対応して色々な企業が個人の健康情報のデータベースを基にし

た健康関連のサービスビジネスに参入してきている。富士通では「ベストライフ・プロ

モーション」という小会社を 2007年 4月に設立し、富士通グループの従業者の特定検診

のデータを管理し、指導する予定である。対象者はグループ全体で 12万人おり 2008年 4

月からの特定検診に適用する。なお、6万人の扶養者については 2007年度末までに同シ

ステムに乗るように準備をしている。まずはグループ内の健康データを分析活用し、そ

こから得られたノウハウを今後の健康ビジネスにつなげることを想定している。個人の

健康歴をパーソナルレコードの一つとして管理する。NTTデータでは「三健人」という

個人向けのインターネットを使った健康管理・増進支援サービスを 2000年から行ってい

る。保健士や栄養士を雇って健康増進プログラムを作成し、ホームページや電子メール

を活用して生活習慣の向上・改善に役立つ情報やアドバイスをする会員制サービスであ

る。タニタも体組成計、歩数計や血圧計などの測定データをグラフ化してWebサイトで

見られるサービス「からだカルテ」を行っている。ニンテンドーはバランスWiiボードを

使ってリビングでフィットネスや健康管理ができるものを発売している。このように医

療機関側と個人が情報ネットワークで結ばれるという「お茶の間健康相談所・病院」が試

みられている。また、健康に関する世の中のニーズを受けて大学でも健康学を作る動き

がある。

(4)医療分野の人材育成

医師不足により、医療サービスの仕組みが崩壊している地域が拡大している。 医師

の必要人数を確保する方式として島根県方式が注目されている。県で医師を採用し、プ

ールした医師を県内で回す仕組みである。医療情報技師は、比較的若手の医療従事者で

ITを使った診療を補助できるような人材をイメージしている。最近できた上級医療情報

技師は、プロジェクトマネジメント力が求められる。事務長クラスや ITを駆使できる医

師をイメージしている。医療機関 CIOはコーディネート力やリーダーシップが要求され

る。上級医療情報技師の延長線のイメージではなく、ITを知り経営的センスが求められ

る。現実にはそのような立場にいる人は、銀行などから天下りで来た人で ITの知識もな

く機能していないようなことがよくある。病院は経営を建て直したり、医療連携をどう

するかなどの課題を多く抱えているが、残念ながら CIO的な人材を育成する機関が少な

い。経営的センスを育成の場として東京都の病院の今後の経営層等になる人を対象とし

た病院経営塾(隔週開催)が開催されている。

(5)その他医療情報の問題点

医療連携のためには退院サマリーをきちっと書いて次のステージの医療機関に情報提

供しなければならない。医療連携のための標準化されたコミュニケーションツール(重

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

要点を整理編集)が必要である。この標準化は比較的容易と思われる。また医師不足な

どから医療連携は県単位で必要にせまられており情報の共有化ができないと医療連携が

機能しない。画像診断に携わることのできる病理の専門医が不足しており、遠隔医療連

携の課題となっている。疾患の治療法(プロセス)そのものが納得のいく標準化ができ

ていないことが情報化のネックになっている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.15 浦川 正博氏(大阪ガス株式会社 健康開発センター)

(1)大阪ガス健康開発センターの事業概要

①社員の健康づくりを経営方針の一環として推進

大阪ガス株式会社では、1943 年に健康管理室を設置して社員の健康管理を行うとともに

スポーツ活動を中心とする体力づくりを推進するなど、いち早く健康づくりの取り組みを

行ってきた。創業70周年にあたる 1975 年には長期経営方針の1つとして「社員の健康づ

くり推進」を打ち出し、その具体的施策の1つとして健康開発センターが開設され、翌年

10 月から活動を開始した。

それから 20 年を経て、1993 年に京都健康管理センター、1994 年に神戸健康管理センタ

ー、平成8年に大阪健康管理センターがドームシティガスビル内に開設され、健康開発セ

ンターも移設されたことにより、3拠点体制による運営が開始された。その後、2004 年 4

月から拠点を1拠点(大阪)に集約し、コストダウンを含めた効率化を実施するとともに、

従来から行っている疾病の早期発見と予防及び健康増進に重点を置いた活動を展開し、現

在に至っている。

秘書部

人事部

資材部

人事サービスチ

人材開発チーム

健康開発センタ 健康保険組合

本社健康管理センタ総務・人事部

健康開発センターのスタッフは

て外部の登録医を活用)、医療スタ

健康開発センターでは、大阪ガ

及び関係会社の従業員約 6700 名を

康保険組合では主に従業員の家族

(2)大阪ガスにおける健康づくり

①健康診断

同社が実施している従業員向け

にも様々な種類の健診が実施され

れている点が特徴的である。

また、健康保険組合による婦人

出典:大阪ガスの健康管理・健康づくり活動パンフレットより

、マネージャー以下、常勤の産業医 2名(必要に応じ

ッフ 30 名、トレーナー2名等により構成されている。

ス株式会社の従業員約 8100 名(出向者・嘱託を含む)

対象とした健診・事後指導等を行っている。また、健

を対象とした健康づくり等を行っている。

活動の概要

健康診断の内容は、以下の通りである。法定健診以外

ており、特に運動機能検査など体力づくりにも力を入

科健診や歯科検診も併せて行われている。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

<従業員向けの健康診断>

<区分別健康診断実施項目>

(2008 年 3 月現在)

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

②健診から指導までの流れ

上記の健診結果に基づき、1人 1人に合わせた個別指導が行われる体制が整備されてい

る。また、健康開発センターだけでなく、事業所での日々の取組みも重要であることか

ら、看護師が事業所に出向き、出張健康指導を行っている。

出典:大阪ガスの健康管理・健康づくり活動パンフレットより

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

(3)大阪ガスにおけるシステムを活用した健康づくりの取組み

①システム活用による効果的な健康づくりに向けて

他社に先駆けていち早く健康づくりを進めてきた同社だが、時代の変遷に伴い、近年

は拠点の集約やスタッフの削減等、効率化を進めている。

効率化を後押しするのが、情報システムの活用である。25 年以上前から健康管理シス

テムを導入しており、過去データとの比較を行いながら、個々人に合わせた効果的な指

導を行うことができる。指導方法についても、過去データから傾向分析を行い、より効

果的な方法の考案に知恵を絞ってきた。

また、従業員自身が会社のパソコンから自分の入社時から現在までの自分の健診結果

を閲覧できる環境が整備されており、健康づくり意識の向上に寄与しているものと思わ

れる。

同センターがここ 3年ほど力を入れているのは、「脱・肥満大作戦」である。対象者(標

準体重を 10%以上上回っている人)に健康診断までの 2ヶ月で 2kg 減量するよう、呼び

かけている。

対象者に電子メールで以下のようなエクセルファイルを送付し、体重を記録して健康

診断当日に持参するよう促している。

対象者のフォローを行うのは看護師で、1人あたり 20~30 人程度が割り当てられ、そ

の結果(減量目標達成者数等)が看護師の評価に反映される仕組みである。フォローの

方法(電話、電子メール等)は看護師の裁量に任されており、それぞれのやり方で成果

を上げることが求められている。

このように、様々な取組みを

に肥満対策)である。例えば、

出典:大阪ガスの「脱・肥満大作戦」PR資料より

行っていても、なかなか結果が出ないのが健康づくり(特

スポーツジムに通う人を減量させるのはさほど難しくな

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

い。なぜなら、既に行動変容している人たちを対象としているからである。会社におけ

る健康づくりの難しさは、健康づくりに対する意識の低い人たちに対してもアプローチ

し、行動変容させなければならないところにある。

2008 年度から健康保険組合に特定健診・特定保健指導が義務付けられ、にわかに健康

づくりがクローズアップされているが、実際には一夜漬けでできる事業ではない。健康

づくりとは、根気よくデータを積み重ね、効果を検証しながら、真摯に取り組む姿勢が

求められるものではないだろうか。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

5.16 連携医療セミナー(地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業

平成 19年度報告会含む、2008年2月)

(1)経済産業省委託事業「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」平成 19年

度成果報告会

①脳卒中及び周産期医療に関する医療連携パスにおける医療情報の連携性実証実験

医療連携パスにおける医療情報の連携性実証実験は、脳卒中については名古屋地区、周

産期医療に関しては香川・東京・千葉・岩手地域において疾患別地域完結型医療の実証モ

デル実験が行われている。

脳卒中については、患者の立場からみた地域の医療機関の機能を急性期病院(救急医療)、

回復期病院(リハビリ医療)、維持期病院(在宅・療養医療)に分け、上記2つの疾病にお

ける各機能別病院の治療プロセス管理手法であるクリニカルパスを設定した上で、それぞ

れに必要な医療情報システムを開発し、ITを使って発症から社会復帰までのクリニカルパ

スの伝達・連携(医療連携をスムーズに行うための情報とそれに基づく手続きの仕組み)が

うまく機能することの実証実験を実施している。

周産期医療では地域の病院と診療所の機能を、現状では診療所と病院の分娩(出産)場

所の比率は半々であるが、電子化の流れによってハイリスクの部分だけを病院にシフトす

るということを狙っている。妊娠管理は診療所で分娩は病院という分業体制で考えている。

自治体は今後、どの地区に妊婦や胎児がどれだけいるのかを情報把握しなければならな

くなる。周産期電子ネットワークプロジェクトでは医療機関と在宅を結ぶネットワークを

日本全体で完成させることを狙っている。1年目にシステムを作り、2年目の今年度に実

証実験し、3年目は人のネットワークを作り4地域を相互に接続するサーバ構築行い、デ

ータ保存やセキュリティの検証を行う。キーとなっている技術がWeb版周産期電子カルテ

で、ソフトのインストールが必要なくWebプラウザを通じてどこからでも利用できる。デ

ータもセンターのサーバに保存されるのでセキュリティなどデータ管理が容易である。ま

た、電子カルテは日母標準フォーマットを利用しているので大病院の電子カルテシステム

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

との診断情報を相互共有することができる。

②標準化

標準化については JAHISが担当し、データの互換性、システムの相互接続性(ベンダー

間接続実験)、システムの共通基盤(診療情報コンテンツの標準化、情報共有の仕組みの標

準化、情報セキュリティの標準化)の観点からこれを行っている。また、標準化をベース

とした外部仕様の提供(実証実験に反映)を行い、欧米の標準化動向について調査を行っ

ている。課題は、共通ゲートウェイへの情報の方法の標準ガイドラインである。情報コン

テンツとしては診療情報項目と書式を決めるのであるが、どこまで標準化すべきか悩んで

いる。疾病毎に作ると膨大になるし、ばらばらの形態になる恐れがある。他の疾病に適用

するためには標準を作るための枠組みを先ず考える必要があることがわかった。標準ガイ

ドラインは稼動したシステムの運用実績をフィードバックし、改訂をしている。

(2)講演会「社会が求める医療基盤の現状と将来」

①「医療分野における IT化及び EHRの国際動向」

(MIT 客員教授 秋山昌範氏)

医療連携は標準化しないとできない。リアルタイムの情報を用いた連携が必要で、

後でまとめて一括して情報を記録するようなやり方ではなく、治療と並行して記録す

るようなやり方が求められる。日本の標準化はアプリケーションとしての標準化とい

う視点が抜けている。 欧米での EHRの成功例では同じアプリケーションを使ってい

る。最初からつなぐことを前提としてアプリケーションを作っていく必要がある。後

でつなごうと思っても結局はつながらない。

また情報連携をするには関係者間の信頼関係の構築が必要で、フェイス・トゥ・フ

ェイスの関係が理想的である。また、プライバシーに余りとらわれ過ぎてもいけない。

アメリカのようにプライバシーを守りながら連携するという発想が大切である。

データを一ヶ所に集めようとすると記憶媒体の容量と収集・記録のタイムラグで問

題が生じる。情報のありか情報を集める(レジストリー登録を共有する)という方法

がよい。

安心、安全の情報システムでは、トレーサビリティがあって当該問題の範囲が即時

に特定できること、即ち何か事が起こったときは、直ちにその影響範囲を正確に把握

することが強く求められる。それができないと全体が問題の対象になり、事実上対応

不能な状況に陥ってしまう。

また、院内のどの端末からもリアルタイムに最新データにアクセスできる事が医療

事故防止の観点から見ても大切である。製造から患者までの間のトレーサビリティを

確保するにはコンビのようにバーコード等で単品単位の集計がとれるようにするとよ

い。データにはこのように正確性とリアルタイム性が要求される。このような考え方

をエビデンス・ベースト・マネジメントという。

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

個人の医療情報は患者と国民全体の権利(個人のプライバシーと公益性)の間では

トレードオフの関係にある。このことに関する一つの成功例(北欧など)は、1つの

データを皆で共有するという考え方である。1患者生涯1カルテが理想的で、POS

(Problem Oriented System:問題指向型医療システム)といわれるアメリカで考案され

たカルテの記録方式がある。カルテの所見等から患者の健康状態の全体像を把握した

上で、優先順位をつけて情報収集し、患者の問題点を把握して診療計画を立案し、治

療を行う方法である。医療従事者間で問題点や情報を共有するのに有効であり、この

考え方は電子カルテにも採用されている。セキュリティについては「医療情報システ

ムの安全管理に関するガイドライン第3版」(チェックシート)を2月20日にパブリ

ックコメントを出したところである。

③名古屋地域における EHT実証に向けての取り組み

(名古屋大学医学部 教授 吉田 純氏)

2003~2004年頃から世界同時に EHR(Electronic Health record:生涯電子カルテ)の構築に

向けて動き出した。アメリカでは国民(個人)の健康医療記録を地域密着型医療情報ネッ

トワーク(RHIO:Regional Health Information Organization)を構築し、さらにそれ等の情報を

国レベルで接続するという二段がまえの形での構築を考えている。日本では、2001年に策

定された e-Japan戦略でまず高速情報ネットワークによる医療情報の交換が言及され、2005

年から医療情報システムにおける相互運用性の実証テスト及び標準化を開始した。また、

2007年の厚生労働省の情報化グランドデザインにおいてもその取り組みが明記された。脳

卒中の疾病分野では、NPO東海ネット医療フォーラム、JAHIS、MEDIS-DCが協力して取り

組んでいる。2008年に委託事業は終了を予定している。

これまでの医療機関の立場からの「医療連携」から患者の立場からの「連携医療」にシ

フトして行っている。連携医療においては、連携する時に落ちのないシームレス医療が望

まれる。

1年がかりで脳卒中の普及型のクリニカルパス(日常生活動作を共通の指標)を完成させ

た。エクセル形式で作っているので使いやすいパスであると自負している。それを関係部

門に配り始めている。

患者用のクリニカルパスは、患者自身が今どの治療工程に存在し、今後どのような治療を

どの医療機関でどの程度の期間受けるのかを漫画を取り入れて視覚的に分かりやすく理解

できるようにしている。これがあることにより患者の治療に対する不安を低減し、理解を

深めることができる。

名古屋地域での医療情報の地域連携では、参画医療機関(25機関)がすべて同じデータ

(情報)を共有している。また、地域医療センターは情報のありか情報だけを保有し、元

データは各医療機関が保有しているという方式をとっている。ネットワークインフラには

光ファイバー専用線を利用し、VPN(Virtual Private Network)技術により暗号化通信網を形

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

成し、外部への情報漏洩を防止している。

(3)その他(医療分野の情報化の限界と個人情報管理のあり方等)

(秋山客員教授:MIT)

データの格納の仕方では、どこかのデータベースに一括記録してリアルタイムにアクセ

スできればと考えるのは幻想である。検索スピードが重要で、データセンターはありか情

報だけ格納すれば十分である。

2008年 8月 31日からすべての工業製品にバーコードを付けなくてはならないことを ISO

で決定された(日本では JIS化)。従来、QRコードで識別できるのでよいという考えは通用

しなくなった。理想的には世界中で1箇所だけで生産する体制であると対策を打ちやすい。

物は一元管理した方がよい。

将来の治療については、何もかもシステムで行う治療(ロボティック・サージャリー)は、

できたとしても最終的に使われないだろう。システムは人間が行う診療行為をサポートす

る(ロボティック・アシスト・サージャリー)ものでなければならない。

(石川理事長:医療法人輝生会 初台リハビリテーション病院)

現在、エビデンス・ベースメント(根拠に基づく医療)の考え方で医療が進歩していっ

ているが、人の潜在能力が定量化できるかは疑問に思っている。

治療においては本人のやる気が大きなウエイトを占めている。リハビリにおいては、本

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資料編5.医療分野ヒアリング事例

人が寝込んだままでよいと思ってしまったら、結果的にちっとも改善しない。

脳卒中治療においては、心の持ち方が元々本人の性格なのか、脳の挫傷が原因でそのよ

うなになったのかは判別が困難である。

人間は健康でなければならないという考えかたがベースにあるが、リハビリに携わる者

としてはどんな障害、ハンディキャップを持った人でも普通の人であるという考え方を持

っている。個人情報は慎重に取り扱いたい。

(柳院長:名古屋第二赤十字病院)

人間は多様であるが、同じアウトカムで対応したい。そのためには融通のある安全な情

報が求められる。完全に個人情報の秘密が守られればすばらしいが、情報提供のためには

相互信頼が前提である。そのためには各人の誠意が大切である。

なお、情報化と余り関係のない講演内容については、議事録から割愛した。

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資料編6.IT 産業分野事例

66..IITT産産業業のの動動向向

ヒヒアアリリンンググ事事例例

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資料編6.IT 産業分野事例

トトピピッッククススのの分分野野ととヒヒアアリリンンググ対対象象機機関関

ヒヒアアリリンンググ対対象象機機関関

No. トピックスの分野 ヒアリング対象機関

1 組み込みソフト 関西経済連合会

2 国内初 IP ラジオ 株式会社電通

3 顔認証システム 日本電気株式会社

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資料編6.IT 産業分野事例

6.1 組込みソフト産業推進会議(組込みソフト産業推進会議)

(本稿は、関西経済連合会へのインタビューに基づき、弊財団の文責において、とりまとめたものである。)

(1)なぜ関西で組込みソフトウェアなのか

首都圏との格差が拡大し中部にも追い上げを受けている状況にあって、関西を何とか元

気にしたいという声は多い。このような中で、松下電器産業が尼崎に 2800 億円を投じてプ

ラズマディスプレイパネルの第5工場を、またシャープが堺臨海部に 3800 億円を投じて液

晶パネル工場を建設するなど大型投資が相次ぎ、既存の松下茨木工場、シャープ亀山工場

を含め、薄型テレビパネルの生産は関西に集中する。更に国内携帯電話機市場においても

シャープが最大のシェアを占め(2007 年第 2四半期)、関西一円に関連部品メーカも多く集

積するなど、情報家電の生産は関西に高い優位性があり、関西経済の牽引力として強い期

待が寄せられている。

関西でソフトウェア産業を育成するのにどのような方向があるかを検討する中で、上記

に鑑み、組込みソフトウェアに注目することとなった。組込みソフトウェアとは家電、携

帯電話、自動車等に製造段階から搭載される内蔵ソフトウェアである。

関西は、情報家電メーカ大学、専門学校など組込みソフトウェアのプレーヤーが揃って

いる、オフショアの委託が進むアジアに近い、など組込みソフト産業を振興していくアド

バンテージがある。

ものづくりの競争力の源泉は従来は金型にあったが、情報化の進展に伴い、製品の品質

や性能が組込みソフトウェアの品質・性能に左右されるようになってきた。たとえば携帯

電話のカメラ、メール、GPS機能の品質・性能はソフトウェアによって実現されていると

いっても過言ではない。日本のものづくりの競争力の維持のためには、組込みソフトウェ

ア産業の強化が喫緊の課題であると言える。

(2)組込みソフト産業の現状と課題)

経済産業省の試算では、冷蔵庫等の生活家電、薄型 TV 等 AV 機器、携帯電話、カーナビ

など組込みシステムの産業規模は 62 兆円、うち組込みソフトウェアの開発規模は 3兆 2700

億円(いずれも 2005 年値)である。

国内の組込みソフトウェア技術者は現在 9.9 万人が不足している。また情報家電の高機

能化が進むにつれてシステムも巨大化・複雑化し、ソフトウェアのバグに起因するトラブ

ルで、製品のリコールに及ぶ例も出ている。

組込みソフトウェアは最終製品という制約のもとに開発しなければならない。そのため

仕様変更が頻繁に発生し、開発期間自体も短く、ハードウェアで実現できなかった機能は

ソフトウェアにしわ寄せがくることが多く、またソフトウェアの容量もできる限りのコン

パクトさが求められる。

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資料編6.IT 産業分野事例

日本のソフトウェア開発の請負費はかかった工数を人月単位で見積もる慣習があるが、

この方式だと、機能をできるだけ盛り込んで時間と人をかけたほうが儲かる、ということ

になる。そのため、コンパクトで優秀なプログラムを短時間で開発してもお金にならない、

というジレンマが発生し、組込みソフトウェア開発の現場は 3K(きつい、帰れない、給与

が低いなど)と言われて、人材不足が深刻化している。

さらに、中国、インド、ベトナム等へのオフショア開発(海外委託)が進展しており、

国内産業の空洞化が懸念されている。

(3)関経連の取り組み-組込みソフト産業推進会議

関西経済連合会では、関西経済同友会のソフト産業振興委員会の、関西のものづくり力

維持・振興のためにも関西を組込みソフト産業の集積地としようという提言「大阪・関西を

組込みソフト産業の一大集積地に!」を受けて、その必要性を認識し、実現を図るべく、組

込みソフト産業推進会議を 2007 年 8 月に設立した。

本推進会議の組織と活動内容は下図の通りである。活動の主体は 5つの部会であり、幹

事会がそのとりまとめを行っている。会員は下表の 63 団体(2007 年 10 月 23 日現在)であ

る。活動期間は 2007~2009 年度の 3年を目途としている。

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資料編6.IT 産業分野事例

会員リスト 2007年10月23日現在一般会員アークライト・ソフト㈱ ㈱システム検証研究所㈱アイセル ㈱システムセンター・ナノ㈱iTest シスメックス㈱㈱池田銀行 シャープ㈱伊藤忠テクノソリューションズ㈱ 新明和ソフトテクノロジ㈱NECシステムテクノロジー㈱ Sky㈱㈱NTTデータ 住友電気工業㈱㈱エヌ・ティ・ティ・ドコモ関西 清風明育社エルミック・ウェスコム㈱ ダイキン工業㈱沖電気工業㈱ ダイハツ工業㈱オムロン㈱ ㈱電通関西電力㈱ 東洋紡績㈱関電プラント㈱ 西日本電信電話㈱キヤノンマーケティングジャパン㈱ 日本電気㈱(財)京都高度技術研究所 ㈱日本ビジネス開発協和テクノロジィズ㈱ 日本ユニシス㈱㈱グローバルサイバーグループ ネクストウェア㈱㈱コア関西カンパニー ㈱日立製作所神戸電子専門学校 富士通㈱㈱コミューチュア 松下電器産業㈱産業技術総合研究所システム検証研究センター 三菱地所㈱サントリー㈱ 三菱電機㈱三洋電機㈱ ユアサM&B㈱㈱CSKシステムズ西日本 リコーソフトウェア㈱シークス㈱特別会員大阪大学 近畿経済産業局大阪市立大学 大阪府大阪産業大学 大阪市大阪電気通信大学 (独)情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター

奈良先端科学技術大学院大学 (社)組込みシステム技術協会兵庫県立大学 (財)関西情報・産業活性化センター立命館大学和歌山大学

5 つの部会の活動内容は次の通りである。

① 先進的組込みソフト産学連携プログラム検討部会

高度組込みソフトウェア技術者の育成策を検討。大阪大学を中心に取組んでいる「IT

Spiral」(文部科学省事業)と連携する。「IT Spiral」はエンタープライズ系(企業情報シス

テム向け)ソフトウェア人材育成プログラムだが、そのカリキュラムを参考に組込み

ソフトウェアの人材育成プログラムを作成する。

② STC(Software Training Center)検討部会

初級・中級レベルの組込みソフトウェア技術者育成講座の開設を検討。専門学校と大

学が連携し、初級・中級レベルの技術者育成を目的とした講座を開設する。

カリキュラムを作成し、2008 年度試行、2009 年度本格運用開始の予定である。

③ アジア開発リソース検討部会

大学と企業の連携によるアジア留学生の誘致策を検討。経済産業省「アジア人財資金構

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資料編6.IT 産業分野事例

想」、大阪府「留学生インターンシップ事業」等と連携する。

アジアから留学生を誘致し、架け橋となってくれるブリッジ人材を育成する。オフシ

ョアがこれからも進むのは避けられないが、言語や文化の違いからうまくいかず、か

えって高くつく場合もある。海外の技術者も人材と捉え、その橋渡しとなる人材を長

期的視点で育成する方策を探る。

④ 組込みソフト開発機構検討部会

先進的な組込みソフトウェアの研究開発の実践やベンチャー企業の創出に向けたフィ

ージビリティスタディを実施。

開発機構という組織がソフトウェアベンチャー企業を目利きし、ベンチャーキャピタ

ルが出資する判断基準を提供する、あるいはライセンスビジネスの仲介を実施し、ラ

イセンスフィーを得る、といったことができないか、検討を進めている。

⑤ 資格認定評価制度検討部会

組込みソフト会社・技術者の技術力の見える化に資する評価制度のフィージビリティ

スタディを実施。組込みソフトの資格制度は既にあるので、それを活かして会社の評

価制度ができないか、検討を進めている。

関西経済連合会が提唱した推進会議であるからこそ、情報家電業界からも複数のメーカ

参加が得られた。情報家電メーカソフト会社を囲い込みたいが、ソフト会社は間口を広げ

たい思いがある中で A社の仕様に合わせると B社に使えない、又はその逆ということがあ

る。共有と個別の部分を分け、非競争領域を設定しその中でお互い協力していくことが必

要である。

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資料編6.IT 産業分野事例

6.2 IPラジオ研究協議会-全国初の IPラジオ放送の試み (IPラジオ研究協議会)

(本稿は、IPラジオ研究協議会へのインタビューに基づき、弊財団の文責において、とりまとめたものである。)

(1)協議会発足の経緯

メディア別の広告費において、ラジオ広告費が微減、インターネット広告が伸びてきて、

3年前にラジオがインターネットに抜かれた(下表参照)。

また、マンションだと FM放送に雑音が入る、AM放送が入らない、といったラジオ難聴

取世帯やエリアが増えている。

ラジオ難聴取対策と放送文化普及発展のために、2006年 12月に各放送局に声をかけ、調

整を行いながら 2007年 4月に協議会を立ち上げるに至った。

業務種別広告費 (億円)

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年総広告費 61,102 60,580 57,032 56,841 58,571 59,625マスコミ四媒体広告費 39,707 38,886 35,946 35,822 36,760 36,511新聞 12,474 12,027 10,707 10,500 10,559 10,377雑誌 4,369 4,180 4,051 4,035 3,970 3,945ラジオ 2,071 1,998 1,837 1,807 1,795 1,778テレビ 20,793 20,681 19,351 19,480 20,436 20,411

SP広告費 20,539 20,488 19,816 19,417 19,561 19,819DM 3,455 3,643 3,478 3,374 3,343 3,447折込 4,546 4,560 4,546 4,591 4,765 4,798屋外 3,110 2,992 2,887 2,616 2,667 2,646交通 2,450 2,480 2,348 2,371 2,384 2,432POP 1,695 1,698 1,720 1,725 1,745 1,782電話帳 1,748 1,652 1,559 1,524 1,342 1,192展示・映像他 3,535 3,463 3,278 3,216 3,315 3,522

衛星メディア関連広告費 266 471 425 419 436 487インターネット広告費 590 735 845 1,183 1,814 2,808出所:日本の広告費 ㈱電通

広告代理業務の業務種別年間売上高(2006年) 広告代理業務の都道府県別年間売上高(2006年)総額  6兆7879億円 順位 都道府県 年間売上高 構成比新聞 15.6% (百万円)  (%)雑誌 7.4% - 全国計 6,787,911 100テレビ 33.6% 1位 東京 4,467,120 65.8

構 ラジオ 2.1% 2位 大阪 887,390 13.1成 交通 6.3% 3位 愛知 340,528 5.0比 SP・RP・催事企画 17.7% 4位 福岡 204,580 3.0インターネット 2.8% 5位 北海道 96,783 1.4その他 14.5% - 上位5県の計 5,996,401 88.3

出所:平成18年特定サービス産業実態調査 広告代理業

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資料編6.IT 産業分野事例

(2)協議会の組織

協議会の会員は下記の7社で電通が事務局を務める。会長には宮原秀夫大阪大学前総長

に就任いただき、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ研究機構の協力を得ている。

同学の中村伊知哉先生は総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」にも参画

されており政策提言の面でご協力をいただく。

(IPラジオ研究協議会)

会員:朝日放送㈱ ㈱毎日放送 大阪放送㈱ 関西インターメディア㈱

㈱FM802 ㈱エフエム大阪 ㈱電通(事務局)

理事会:会長 宮原秀夫((独)情報通信研究機構理事長、大阪大学前総長)

理事 中村伊知哉(慶應義塾大学教授、総務省参与、国際 IT財団専務理事)

朝日放送取締役、毎日放送メディア局長、大阪放送常務取締役、

関西インターメディア代表取締役常務、FM802代表取締役専務、

エフエム大阪取締役、電通常務執行役員

(3)IPラジオの仕組みと内容

新聞等には放送と通信の融合として、IPラジオ

が通信のように紹介されているが、技術的には通

信であるが、実際はインターネットを用いた有線

ラジオ放送と

して取組んでいる。映像やハイビットレートでは

ないので、電気通信役務利用放

送でもなく、純然たるラジオ放送である。 その

ため通常のインターネットラジオとは異なり、各

局のラジオ放送を受信し、これをデジタル化して

通常の放送エリア内に限定してインターネット

で再送信する。

放送エリアは、FM放送の県域局・AM 放送の

広域局が混在する会員放送局の最大公約数を採

り、大阪府内としている。

出典:日本経済新聞 07年 10月 25日記事

放送である限り 1:nのマルチキャストでなければならず、それが可能な IPV6を使用でき

るという要件から、NTT西日本のフレッツ光プレミアムに加入し、Windows VISTAパソコ

ンが利用できる大阪府内の方を対象に 1000 程度のサンプルユーザーを募集して、平成 20

年 3 月 5日より平成 20 年 11 月末までの予定で試験放送を開始した。サービス名称を

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資料編6.IT 産業分野事例

「RADIKO(ラジコ)」という。

IPv4では 1:1のユニキャストで通信になってしまい、また IPV4では抜け道があるが、IPV6

では地域を特定することができ、府内の方かどうかをチェックできる。

エリア拡大についてはまず府内での目処がつけば、将来協議会として検討していく可能

性はある。ラジオ関西や Kiss-FM、エフエム滋賀、京都放送、エフエム京都や和歌山放送が

参加を希望してくれば検討しなければならない。

(4)試験放送で検証しようとしている事項

最も検証したいと考えるのはユーザがどう捉えるかということである。

マンションだと FM放送に雑音が入る、ラジカセだと AM放送が入らない、ミニコンポだ

と入らない、と言った難聴エリア対策に、IPラジオは有効である。そのためにもまず自宅

やオフィスでパソコンからラジオを聴く環境をつくり、昔のようにラジオを身近に聴く機

会を増やしたい。

有線ラジオ放送であることを明確にするために、敢えてマスターアウトにしていない(下

記の参考を参照)が、音質は普通のラジオ放送より優れる。AM放送でも雑音がない。新た

なラジオの楽しみが広がれば良いと考えている。

ラジオは、テレビの録画のように、録音して聴く人が少ないが、IPラジオの出現でラジ

オの新しい聴き方が出てくるかどうか。新しい曲を聴いてダウンロードに飛ぶ、というよ

うなことは技術的にはできる。徐々にいろいろな試みを広げていきたい。

米国では、アップルの iTunesからラジオが聴けるなど、IPラジオサービスが実用化され

ている。

放送は、365日 24時間定期的に流れていることから有用なコンテンツである。IP網が広

がるにつれ、様々なデバイスに放送コンテンツが入り込んでいくと考えられる。IPラジオ

はその一歩である。

ユーザの声をアンケートで把握し、次に採るべきステップを探りたい。受け手のログが

取れることも分析に役立つ。

(参考) 有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律

(昭和二十六年四月五日法律第百三十五号) 最終改正:平成一三年六月二九日法律第八五号

(目的)

第一条 この法律は、有線ラジオ放送の業務の運用を規正することによつて、公共の福祉

を確保することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において「有線ラジオ放送」とは、次の各号の一に該当するものをいう。

一 一区域内において公衆によつて直接受信されることを目的として、ラジオ放送(当該

放送の電波に重畳して、音声その他の音響、文字、図形その他の影像又は信号を送る放送

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資料編6.IT 産業分野事例

を含む。以下同じ。)を受信しこれを有線電気通信設備によつて再送信すること。

二 一区域内において公衆によつて直接聴取されることを目的として、音声その他の音響

を有線電気通信設備によつて送信すること。

三 道路、広場、公園等公衆の通行し、又は集合する場所において公衆によつて直接受信

されることを目的として、音声その他の音響を有線電気通信設備によつて送信し、又はラ

ジオ放送を受信しこれを有線電気通信設備によつて再送信すること

(5)課題

本格放送の実施を目指すためには、まだまだ課題が多く、協議会としては、この実験放

送を通じてその課題をひとつひとつ丁寧に作業し、クリアしていかなければならない。

例えば、IP再送信に関する、技術的、あるいは、著作権的な問題など、新しいメディア

であるがゆえに、様々な考え方が存在していることもあり、関係者の理解を得る努力が必

要である。このような形で、マーケットやビジネス機会が広がり、みんながメリットを感

じられるような結果を出せるかどうか、検証していくことが今回の試験放送の目的である。

また属しているネットワーク系列で東京から配信される番組もあり、本格放送になれば

関西局だけでは無理で、東京局との連携が必要になってこよう。その点で東京局や中部の

ラジオ局も今回の試験放送の行方を注目している。

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6.3 顔認証システム -日本の集客施設で初めて USJが導入 (日本電気株式会社)

(本稿は、日本電気株式会社へのインタビューに基づき、弊財団の文責において、とりまとめたものである。)

(1)USJが顔認証システムを導入

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、年間パスを持つ来場者の入場に顔認証システム

を 2007年 11月1日より導入した。これは国内の集客施設では初めての試みである。

年間パスにはこれまで貼付されていた顔写真が無くなり、代わりに QRコードが印刷され

ている。これを装置にかざすとシステムが、初回の登録時に採取した顔情報を呼び出し、

今回モニターに映った来場者の顔と照合し、本人かどうかの確認を行う。初回の登録所要

時間は約 5秒、毎回の認証に掛る時間は約 1秒である。顔認証エンジンは NECの“NeoFace”

を用いている。

これまでは係員が目視で顔写真と照合していたが、顔認証システムの導入でよりスムー

ズな確認を行うとともに、年間パスも、プラスチック製から紙製に変更し、環境にもやさ

しくなった。

出典:朝日新聞 07年 9月 20日記事

以下は

http://www.nec.co.jp/biometrics/

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E4%BD%93%E8%AA%8D%E8%A8%BC

等を参照して作成したものである。

(2)今なぜ、生体認証(バイオメトリクス)なのか

情報の電子化やネットワーク化が発達する中で、企業や個人の情報管理が重要となり、

それを十全なものとするシステムセキュリティが求められる。特に重要な情報にアクセス

する権限があるユーザかどうかを電子的に認証することは、システムセキュリティの基本

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資料編6.IT 産業分野事例

事項である。

従来、本人かどうかを認証するために、知識認証(暗証番号、パスワード等)や所有物認

証(磁気カード、IC カード等)が用いられてきた。しかしこれらは、忘失や紛失などによっ

て本人でも認証できなくなったり、漏洩、盗難、偽造などにより他人が認証される恐れが

ある。実際に後者のような犯罪事例の発生も少なくない。

そこで、暗証番号等を記憶しておく必要や物を携行する必要がなく、本人でさえあれば

身一つで、本人の生物学的な特徴、バイオメトリクスを用いて認証する方式が注目されて

いる。

バイオメトリクスのメリットはその人の支配下にあり、本人から切り離せず、メンテナ

ンスの必要もないこと、デメリットは、複製の可能性がある、ノイズがある、指紋のよう

に社会的受容性が低いものがある、などである。

(3)生体認証の方式

生体認証に用いるのは、総ての人で異なり、かつ経年的な変化がない個人の特徴でなけ

ればならず、現在次のようなものが用いられている。

○身体的特徴

・指紋 万人不同(双子でも異なる)、終生不変という特徴から人を識別する上で絶対的な

価値を持っており、認識ミスは 1万回に 1回以下と言われるくらい信頼性が高く、犯罪捜

査にも用いられている。しかしそのイメージから利用者の心理的抵抗が、特に日本、アジ

アでは大きい。

・顔 顔の形を読みとる。次項で詳述。

・掌型 手のひらの大きさ、紋様、指の長さなどを読みとる。

・静脈 近赤外光を手や指に透過させ、得られる静脈パターンを読みとる。指紋の心理的

抵抗を回避できる。

・虹彩 虹彩(黒目の中、瞳孔の外にある模様)を読みとる。双子でも正確な認証が行える。

装置の小型化が困難。

・網膜 眼底の毛細血管の模様を読みとる。虹彩と同様に装置が大掛かりになる。

○行動的特徴

・音声 声紋などから判断する。

・署名 筆記時の軌跡、速度、筆圧の変化などの癖を読みとる。

・打鍵 キーボードから入力する時のスピード、キーを押す間隔などから判断する。

上記の方式別に市場規模をみると、2007 年度の総額 254.4 億円のうち、警察などで採用

される指紋が 40.8%、近年金融機関での導入が進む静脈が 54.4%と、この 2方式で 95%以

上を占める。時系列データをみると、静脈の伸びが大きい。

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資料編6.IT 産業分野事例

バイオメトリクス国内市場規模 方式別、用途別バイオメトリクス国内市場規模(2007年度)年度 億円 識別方式 億円 % 用途 億円 %

2005 152.0 指紋 103.8 40.8 出入管理用途 54.1 21.32006 232.0 虹彩 4 1.6 PC等アクセス用途 158.0 62.12007 254.4 顔貌 4 1.6 機器組込み用途 42.0 16.5

2010(予測) 424.7 掌型 0.45 0.2 その他 0.3 0.1声紋 0.55 0.2 合計 254.4 100.0署名 2 0.8静脈 138.4 54.4その他 1.2 0.5合計 254.4 100.0

出所:矢野経済研究所 バイオメトリクス市場白書

出典:2005 年国内バイオメトリクス市場調査 バイオメトリクス・セキュリティ・

コンソーシアム

(4)顔認証と“NeoFace”

顔は常に外部に曝しているもので、指紋のように機器に接触させることなく認証でき、

受容性が高い。また相手に意識されずに認証を行うことも可能である。この特性が顔認証

の最大のメリットである。また人間が人を認証する時に使っている方式であり、システム

に置き換えても、利用する側に違和感を持たせにくい点も挙げられる。

顔認証検索エンジン NeoFace(製造:日本電気株式会社)は、まず目の候補を探す方法で検

出を開始する。これは、入力された画像の中にある目の候補の中から、2つの点を選出し、

この二つが事前に与えられた許容角度や距離の範囲内に並んでいる事を確認することで、

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資料編6.IT 産業分野事例

目であることを定義する。その後、目候補を基準に、事前に学習されているテンプレート

を用い、顔であることを定義する。

顔の領域定義の後、領域を幾つかのゾーンに分割してゾーン毎に特徴量を生成し、照合

を開始する。この特徴量が事前に与えられた照合閾値を超えれば、本人であると認証する。

従って NeoFace は顔の形や目、鼻の様なパーツを見ているものではない。

人間の顔を用い照合を行う場合、登録時と認証時の表情が違ったり、向きや光の当り方

が異なったりということがある。

この点に対しては、大局的変動(顔がすべて動く、光の当り方が違うなど)と局所的変動

(口が開いたり、ほっぺたが膨らむなど部分が変わるなど)に分けて対策を行っているとい

う。

大局的変動への対応策として、画像登録時に、予想される変化に対応するための推定画

像を3次元データ生成の技術を応用し、あらかじめ自動生成し、変動に対応する。

局所的変動へは、分割されたゾーンの中で、変動が少ない領域と多い領域との類似度の

総合評価で照合を行う。つまり、類似度の高い情報を持っているゾーンのスコアを利用し、

本人判定を行いやすくしている。

この方法は、表情の変動だけでなく、サングラスやマスクで顔の一部が隠れている場合

にも適用することで、当該条件下での本人判定を実現している。ただしサングラスとマス

クの双方を着用して顔の大部分が隠れているような場合など、極端に顔が見えない部分が

多い場合には、事前に設定される閾値により、判定を行わない指示を与えることも可能だ。

(5)顔認証の展開

市場規模で指紋が大きいのは警察など公的需要があるためで、一般用途では指紋と顔に

大きな違いはない。

指紋認証が誤る確率は 1000 万回に 1回以下と言われ、限りなく 100%に近く正しく判断

する。それに対して顔認証が正しく判断する確率は好条件下であっても、99%程度が限界

という。これは、一見顔認証の精度が不十分と思える数値だが、人間が目視で同様の認証

を行った場合の正答率、確率 80%未満より高いと評価する専門家もいる。

これは、人間は長時間チェックをし続けると疲労を伴うこと、見慣れない人種が大勢並

ぶと、脳に学習経験がない場合には、判別が難しくなることに対し、顔認証システムは人

間と異なり、時間経過による疲労を伴わない事や、人種に関わらずシステムに入力される

顔情報のみを純粋に利用し見極める事が出来る差に有ると言われている。

生体認証は、利用用途によって、採用される認証技術を見極める必要がある。万人が入

退場可能な部屋と、ごく限られた人間しか入場を許されない部屋では、利用すべき生体認

証の種類が変わってくる。これは、セキュリティのレベル分けだけの問題ではなく、生体

認証技術の得手不得手によっても変わってくる。たとえば顔認証は、候補者のデータを一

覧にした際、データを検査する人間がもっとも親しんだ検査方法、すなわち、人の顔写真

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資料編6.IT 産業分野事例

を人間が確認する方法をとることが出来る。しかも、認証結果のスコア順に並べ替えるこ

とで、たとえば、これまで 1,000 ページのリストすべてを見なければ、候補者が探せなか

ったような場合でも、似ている順に並べ替えて表示を行うことで、確認するページ数を削

減するなど、作業効率の改善に役立てることが出来る。これが、指紋認証の場合であれば、

精度は格段に高いが、専門家でなければ確認をすることは不可能に近い。この利便性こそ

が、近年、国際港での本人確認に顔認証が用いられている理由の一つといえよう。

一例として、香港入国管理局では、昨年(2007 年)7 月に開通した香港-深圳間の新道の

ゲートでの入国管理に、トラックドライバーが乗車したまま受けられる顔認証システムを

導入したが、これにも NeoFace の技術が用いられている。香港-広東省間の物流が活発化

するに伴い、増大するトラックドライバーの入国審査業務をより正確かつ効率的に処理す

ることを目指したものと言う。

さらに補足すれば、顔認証はセキュリティの色を出さない用途に持っていける利便性が

ある。

会社の PC にカメラを付ける需要は少ないが家庭の PC なら可能性がある。そのためコン

シューマ向けに、顔認証を組み込んでどのようなソフトを出していくか、が顔認証技術の

認知度を向上させるための課題であると言う。

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第2部 アンケート集計結果

第2部 アンケート集計結果

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委委員員会会開開催催記記録録

■ 第1回委員会

日時:2007年 7月 6日(金) 15:00~17:00

場所:第二吉本ビルディング 貸会議室

議事:平成 18年度調査報告、平成 19年度調査概要について 等

■ 第2回委員会

日時:2007年 10月 4日(木) 15:00~17:00

場所:第二吉本ビルディング 貸会議室

議事:アンケート途中経過報告、ヒアリング調査について 等

■ 第3回委員会

日時:2008年 3月 14日(金) 15:00~17:00

場所:財団法人関西情報・産業活性化センター 第一会議室

議事:報告書案審議、次年度調査について 等

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委委員員名名簿簿 平平成成 1199年年度度 関関西西情情報報化化実実態態調調査査委委員員会会

(敬称略、順不同)

主査 大阪市立大学大学院 創造都市研究科 教授 中野 潔

委員 近畿経済産業局 地域経済部 情報政策課長 福田 秀俊

近畿総合通信局 情報通信部 情報通信連携推進課長 今井 盛

京都府 企画環境部 企画参事 中村 重夫

大阪府 商工労働部 産業労働企画室 参事(情報政策担当) 本田 隆

兵庫県 企画管理部 教育・情報局 情報政策課長 金澤 直樹

京都市 総合企画局 情報化推進室長 鷲頭 雅浩

豊中市 政策企画部 情報政策室 主幹 長澤 伸之

西宮市 電子自治体推進担当理事 CIO補佐官 吉田 稔

NTTデータマネジメントサービス株式会社 参与 松岡 勝義

大阪ガス株式会社 理事 情報通信部長 松坂 英孝

関西電力株式会社 経営計画・IT本部 IT企画部長 谷岡 匠

住友電気工業株式会社 執行役員 情報システム部長 長谷川和義

西日本電信電話株式会社 法人営業本部 ソリューションビジネス部 担当部長 喜瀬 眞史

日本電気株式会社 関西支社 関西官庁・公共営業部公共ソリューション推進部長 寺野 陽三

松下電器産業株式会社 事業開発グループ システムインテグレーションチーム チームリーダー 加治屋和成

財団法人日本情報処理開発協会 調査部長 高橋眞理子

社団法人情報サービス産業協会関西地区会 事務局長 下村 宗一

事務局 財団法人 関西情報・産業活性化センター 常務理事 荒井喜代志

財団法人 関西情報・産業活性化センター 調査グループ 部長 太田 智子

財団法人 関西情報・産業活性化センター 調査グループ 主席研究員 橋本 恵子

財団法人 関西情報・産業活性化センター 調査グループ 主席研究員 山岸 隆男

財団法人 関西情報・産業活性化センター 調査グループ 研究員 牧野 尚弘

財団法人 関西情報・産業活性化センター 調査グループ 研究員 布施 匡章

(所属・役職は平成 20年 3月 31日現在)

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執執筆筆者者一一覧覧

教育分野

関西大学 総合情報学部 教授 黒上 晴夫

奈良教育大学 学術情報研究センター 准教授 伊藤 剛和

医療分野

大阪府立病院機構 理事長 井上 通敏

大阪警察病院 情報管理部 部長 内藤 道夫

京都医療科学大学 医療科学部 教授 細羽 実

国立病院機構 京都医療センター 医療情報部長 北岡 有喜

IT産業の動向

株式会社毎日放送 メディア局メディア戦略部 専任部長 長井 展光

西日本電信電話株式会社 法人営業部 ソリューションビジネス部 担当部長 喜瀨 眞史

コラム

財団法人日本情報処理開発協会 調査部長 高橋眞理子

(所属・役職は平成 20年 3月 31日現在)

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平成 20年 3月発行

関西情報化実態調査 2007

報 告 書

発行 財団法人関西情報・産業活性化センター 調査グループ

〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田一丁目3番1-800号

大阪駅前第1ビル8階

電話 06-6346-2641

e-mail [email protected]