内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ......

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内閣法制局一その制度的権力への接近 西 は じめに 第1章 内閣法制局という「制度」 第1節 沿 第2節 機 構 と人 事 パ タ ー ン 第2章 「制度」がふ るう力 第1節 法案審査 第2節 法制意見 第3節 「変革 」に立ちはだか る壁 第3章 ケー ススタデ ィ ・「政策遺 産」 破綻の軌 跡 一 湾岸 危機 か らPKO協 力法成立まで一 第1節 湾岸危機発生 と 「集団的安 全保 障」 第2節 湾岸 戦 争 勃 発 と 自衛 隊機 派 遣 問題 第3節 掃海艇派遣問題 第4節PKO協 力法の成立 むすびにかえて じめに 1996年11月7日,第138特 別 国 会 が 召 集 され,・第2次 橋 本 内 閣 が発 足 し た。 記 者 会 見 場 で 内閣 官 房 長 官 が閣 僚 名 簿 を読 み上 げ る。 そ の最 後 は内 閣 法 制 局 長 官 名 で 終 わ る こ とに な って い る。 名 簿 発 表 で は一 番 後 回 しに され るが, 実 は内 閣 法 制 局 は わが 国 の政 策 決 定,.そ の元 とな る法 案 作 成 に きわ め て 強 い 影響力を持つ。いかなる内閣提出法案 も内閣法制局が 「ノー」 と言えば,決 (1071)185

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内閣法制局一 その制度的権力への接近

西 川 伸 一

目 次

は じめに

第1章 内閣法制局 という 「制度」

第1節 沿 革

第2節 機構 と人事パ ター ン

第2章 「制度」がふ るう力

第1節 法案審査

第2節 法制意見

第3節 「変革 」に立ちはだか る壁

第3章 ケー ススタデ ィ ・「政策遺 産」 破綻の軌 跡一湾岸 危機 か らPKO協 力法成立 まで一

第1節 湾岸危機発生 と 「集団的安 全保 障」

第2節 湾岸戦争勃発 と自衛 隊機 派遣問題

第3節 掃海艇派遣 問題

第4節PKO協 力法の成立

むすびにかえて

は じ め に

1996年11月7日,第138特 別国会が召集され,・第2次 橋本内閣が発足 し

た。記者会見場で内閣官房長官が閣僚名簿を読み上げる。その最後 は内閣法

制局長官名で終わることになっている。名簿発表では一番後回しにされるが,

実は内閣法制局はわが国の政策決定,.そ の元 となる法案作成にきわめて強い

影響力を持つ。いかなる内閣提出法案 も内閣法制局が 「ノー」 と言えば,決

(1071)185

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して日の目を見ることはない。内閣提出法案はすべて内閣法制局の事前のチェッ

クを受 ける慣習 となっているか らだ。

予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

周知のとおりである。 しかし,定 員わずか74名,96年 度当初予算9億1302

万円(補 正後8億9567万 円)ほ どの内閣法制局が,そ れに劣 らない 「別格

視される最強力官庁」ωであるごとは,あ まり知 られていない。主計局の威

光 は,他 省庁の官僚をして 「主計局詣で」と自嘲的に語 らせるが,一 方,内

閣法制局は官界の 「鬼門」として官僚たちに恐れられているのだ。 この二局

の存在が国会独自の立法機能を大きく'制約 している,さ らには,「二局支配」

が日本の 「政治不在」を象徴 している,と いう指摘す らあるのである(2)。

この存在感を政治学の関心から読み解 くことはできないか。近年,政 治学

の新たな研究動向として注目されている新制度論(3)によれば,政 治アクター

は単に彼 らが代弁す る諸勢力の圧力や選好にのみ従 って,政 治過程における

行動を決定 しているわけではない。実は,彼 らが行動する政治過程 というア

リーナの 「構造」ないし 「制度」によって も,彼 らの下す選択は枠をはめら

れているという。オイルショック以降み られた先進各国の経済的パフォーマ

ンスの著 しい違いが,そ れを説明する要因 として 「制度」に着 目する問題意

識を喚起させたのである。

では 「制度」 とはなにを指すのか。 これをめぐって嬬 憲法,法 律など実

定法としそみなす狭義の規定から,政 治文化まで含める広義の規定まで,論

者によって様々にとらえ られる④。 しかしいずれにせよ,内 閣法制局は,後

述するように,わ が国の政治過程,わ けても立法過程を方向づける存在であ

り,そ の意味で,ま さに 「制度」的要因 として機能 しているのではないか。

そして,こ の 「制度」が 「粘着性(viscosity)」 をもっ ことで,わ が国の政

策選好にある一貫性を担保してきたのではないか。

たとえば,1996年 春,職 員採用における国籍条項撤廃 を目指 した各自治

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体の挑戦は,「当然の法理」に固執 し,時 代の変化に即応 しない内閣法制局

の 「粘着性」 との闘いであった。この場合,「 当然の法理」 とい う 「法律で

もない見解が強制されること」⑤の背後には,法 制局の見解が 「行政実例」

として生 き続けたという重みが働いていた。すなわち,歴 史的に蓄積された

政策,い わば 「政策遺産(policylegacy)」(6)が 政治過程 を強 く拘束 したと

いえよう。

これはほんの一例にすぎない。 これに限 らず,内 閣法制局がわが国の政策

形成の幅を制約 しているのは,こ の 「制度」が積み上げてきた 「政策遺産」

のためではないか。その縛 りの強さは,「別格」と形容 され ることにうかが

われよう。だが,そ れくらい 「政府部内で果た している重要な機能の割 りに

は世間に知られるところの少ない」(η官庁である。あるいは,当 事者 は 「黒

衣は黒衣でいた方がいい」(湾 岸戦争時の内閣法制局長官 ・工藤敦夫氏の言)

と考えているのかもしれない。 とはいえ,主 計局 と並ぶ別格の最強力官庁を

政治学の関心において軽視すべきではなかろう(8)。以下,本 稿では,内 閣法

制局の 「制度的」権力の リソースに接近 し,そ れが政治過程に与える独 自の

影響力を考察 していきたい。

第1章 内閣法制局 という 「制度」

第1節 沿 、 革

1985年12月23日,内 閣法制局 は創設100周 年 を迎 えた。当時 の中曽根

首相ほか各界代表者約400人 を招いて記念式典が催 され,同 日,内 閣法制局

百年史編集委員会により 『内閣法制局百年史』および 『内閣法制局の回想』

が出版された(9)。'詳細な沿革については両書に譲 るほかないが,本 稿の問題

意識にかかわる箇所を論 じておきたい。

法制局の起源は明治の初年までさかのぼることができるといわれるが,法

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制局という名のは じまりは,1875年7月3日 に太政官番外達 によって,正

院にそれまでの法制課に代わ って法制局が置かれたことによる。その後,法

制局廃止,法 制部設置(1880年3月3日 太政官達第17号),法 制部廃止,

参事院設置(1881年10月21日 太政官達第88・89号)と いう曲折を経て,

1885年12月22日 の太政官達第69号 で内閣制度が発足 した。 これに伴 い参

事院は廃止 され(同 日の太政官達第71号),翌23日 の内閣達第74号 で内閣

に法制局を設置する法制局官制が制定された。法制局は 「内閣総理大臣ノ管

轄三層」すると定められた(官 制第2条)。

法制局官制は,1890年6月12日 勅令第91号 で全部改正 された。 これに

より,法 制局は 「内閣二属」する(第1条)と され,内 閣に直属するという

位置づけが明確にされた。また,第1条 にはそれに続いて,法 制局の職務が

規定されている(ko)。さらに,1893年10月31日 勅令第118号 によって法制

局官制は再び全部改正される。これ以降は敗戦まで一部改正が随時施された

にすぎず,こ の1893年 官制が戦前の法制局のあり方を実質的に決定づけた。

しか し,全 部改正 といって も,法 制局の職務につ いての規則は1890年 官

制のそれとほとんど変わるところはなかった。む しろ,注 目すべきなのは,

法制局の位置づけが再度改め られた点であろう。それを定めた第1条 は,そ

れまでの 「内閣二属」か ら 「内閣二隷」へと修正された。その含意は,法 制

局の独立性を示す ことにあると解釈されている。国文学の専門家によれば,

「隷」 という表現は天皇との直結性を示唆するものであり,そ れだけ法制局

が絶対的存在であることを他省庁 にアピールする意図が込められていたので

はないか,と いうことである('1)。この表現をよりどころとして,戦 前の法制

局参事官は,そ の法律的意見は他省庁に干渉されない自律的なものと意識 し,

そこに強烈なプライ ドを感じたのである⑰。その トップである法制局長官は,

内閣書記官とともに 「内閣の両番頭」 といわれた。 その権勢ぶ りが推測でき

る。

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もちろん,戦 前の法制局の権威 は 「隷」という一文字に帰せ られるもので

はない。明治憲法下の戦前の国家体制がそれを制度的に裏づけていたのであ

る。すなわち,そ こでは帝国議会の立法権はきわめて制限されており(明 治

憲法第37・38条),代 わって勅令が多 くの事項をカバーしていた。 この勅令

案の審査権を握 っていたのが法制局である㈹。さらに,官 制(各 省庁の組織

定員などに関する法規)を 定める権限は,官 制大権として天皇に与えられた

(同第10条)。 この官制大権に基づいて,官 制は勅令によって決め られたの

である。 ということは,法 制局 は,各 省庁の組織,定 員についても大きな発

言力を保持 していたことになる。その上,高 等試験や恩赦に関する事務さえ

も担当していた。

これらを現在におきかえれば,総 務庁,人 事院,法 務省の仕事の一部まで

戦前の法制局は受け持 っていたのである。法制局参事官は明治官僚の中枢で

あったといってよい。 しかし,各 省庁の鬼門であったこの無敵の官庁にも鬼

門はあった。枢密院審査である。「いまで も夢にみるくらいにこわか った」

(佐藤達夫元法制局長官)と 回想される。法制局のフリーハ ン ドを縛 ること

ができたのは枢密院だけであった。

このように,法 制局は法律命令案の起草,審 査,意 見の上申ばかりか,予

算を除 く行政機構一般についての審査,立 案 も所掌 し,戦 前の統治機構 にお

いて鍵 となる役割を果た してきた。それだけに,敗 戦後,GHQは 内務省 と

ともに法制局を明治官僚の牙城 とにらんで,そ の解体を指示することになる。

1947年9月16日 付 け内閣総理大臣あてのマッカーサー書簡で,「 政府 の能

率と経済の見地か ら,現 在の内閣法制局 はこれを廃止することができるであ

ろう」(14)という方針が示され,12月17日 公布の法務庁設置法によって,法

制局は司法省 と合体 して法務庁 となるのである。

それによれば,「法律問題に関する政府の最高顧問」は 「法務総裁」 と規

定されており(第1条),法 制長官はやはり法務庁に置かれた法務調査意見

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長官,機 務長官,訟 務長官,法 務行政長官と同格の,総 裁の補佐役にすぎな

かった(第3条)。 こうした格下げのみならず,人 的構成 も完全に一新 され

ることになる。1948年2月ll日,GHQ政 治部は司法大臣あて書簡で 「法

制局が長い間非民主的慣行及び方法の下に活動 してきた事実にかんがみ,法

制局長官を法務庁法制長官として任命され得ることを例外として,法 制局の

一,二 級官のうち一人たり'とも法務庁に転用 されてはな らないと信ず る」㈲

と通告 してきた。 これに基づ き,2月15日 の法務庁設置法施行 と同時に,

それまでの次長,部 長,お よび事務官(1946年4月1日 勅令第195号 によ

り,「参事官」は 「事務官」に改称された)ll名 が廃官または転任を発令さ

れる。そ して,同 日施行の 「法務庁設置に伴 う法令の整理に関する法律」第

2条 において 「法制局は,こ れを廃止する」 と明記された。

加 え て,1949年6月1日 の 国 家 行 政 組 織 法 施 行 と と もに,同 日,法 務 庁

は法務府に改められ,5長 官制 は3長 官制へ簡素化された。法制長官と法務

調査意見長官は一本化されて法制意見長官となった。とはいえ,法 務総裁が

「法律問題に関する政府の最高顧問」であることには変わ りな く,法 制意見

長官がその補佐役という位置づけもそのままであった。なお,こ のときの法

務府組織規程により,「法制意見参事官」 として 「参事官」 とい う名称が復

活する。

さて,1952年4月28日,講 和条約が発効 し,わ が国は主権を完全に回復

した。 これに先立って,占 領中に肥大化 した行政機構の見直 しが行われ,法

務府の機構改革 も進められた。当初は,往 年 の司法省 が所管 して いた事務

(ただし,裁 判所に関する人事,予 算,事 務章程等の司法行政 は最高裁判所

へ移管)を 新設の法務省の所管とし,そ の外局的なものとして法制意見長官

とその下の法制意見各局を配する機構案が有力であった。 しかし,伝 えられ

るエピソー ドによれば,当 時の吉田首相の鶴の一声でこの案は覆 り,戦 前同

様の内閣に直属する法制局が復活することになったとい うことである㈹。

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1952年7月31日,法 制局設置法が公布され翌 日施行。法務府の名称は消え,

その所掌事務は法務省 と法制局に分掌された。

同 じ名称が復活 したとはいえ,当 然,新 憲法の下,法 制局の権限,所 掌事

務 は大 きく異なっている(17)。天皇大権の消滅により勅令の制度は廃止され,

政令に代わった。 しかも政令 は,上 位の法規を執行するための細目や手続を

定めた執行命令 と,法 律が委任する事項を定めた委任命令に限 られたため,

法制局の法制面での権限は,勅 令審査というフ リーハンドを握 っていた戦前

と比べ,縮 減されたといえる。 もちろん,設 置法に 「隷 シ」という表現はな

く,設 置を定めた第1条 は 「内閣に法制局を置 く」となっている。

ところで,戦 後,わ が国には法制局を名乗 る役所は3つ 存在 している。

1948年 に衆議院法制局および参議院法制局が設置されたか らである。 そこ

で区別を明確にするため,1962年 に法制局は内閣法制局 と改称され(総 理

府設置法等の一部を改正する法律 ・1962年4月16日 公布,内 閣法制局に関

する規定は7月1日 施行),今 日に至っている。

以上で沿革の概観を終え,次 に現在の機構 と人事パター ンの特徴をみてい

くことにする。

第2節 機構と人事パターン

内閣法制局の機構 は図1の ように4部1室 体制になっている。内閣設置法

第3条 で規定 された所掌事務がこれ らの組織に分掌される。このうち,長 官

総務室は他の省庁の官房にあたるもので,人 事,会 計,資 料の収集整理など

を担当する。第一部は意見部であり,内 閣設置法第3条 第3号 に掲げられた

「法律問題に関 し……意見を述べる」役割を主に果たす。 国会で憲法や法律

の解釈が議論になったとき,第 一部長が答弁するのはこのためである。第二

部か ら第四部は審査部であ り,各 省庁の法案を審査す るところである。閣議

に附される法案はここをパスしなければならない。内閣法制局設置法施行令

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図1内 閣 法 制 局 の 機 構一㊤図

内 閣 法 制 局

74人

「 塵

トー 内閣法制局長官II

   

卜州 内閣法制次長II

IL_.内 閣法 制局長 官秘 書

第 一 部 第 二 部 第 三 部 第 四 部

lIIl

lIll

IIlI

・一 ・1一区]ヨ ・堰=】 ・1口 ・llII

L内 閣法制局1内 閣法制局L内 閣法制局L内 閣法制局参 事 官**一 参 事 官**参 事 官**参 事 官**

憲 法資 料調 査 室

長官総務望

都1燃

1

・画 警1酪

L團 醤

第 一 課

第 二 課

・①晦

*部 長 は,内 閣法制局参事官を もって充て る。

て)**内 閣法制局参事官 は,各 部を通 じて兼職者 を除 き24人 を超え ることがで きな い。

自 は内部部局を示す。

ε3一 一一一一 は組 織体 とな らんで所掌事務の全部 また は一部 を統括整理す る等 の職 であることを示 す。

出典1総 務庁 行政管理 局監修 「行政機構図(1996年 版)』(行 政管理セ ンター編集発行)

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第2条,第3条,お よび第3条 の2に は,次 のようにそれぞれの部が担当す

る府省庁が定められている㈹。(省 庁名のあとに付 したアルファベ ッ トは,

図2で 用いる識別番号に対応する,省 庁名を示す略号である。)

第二部 内閣 ・総理府(公 正取引委員会,経 済企画庁,科 学技術庁,お

よび沖縄開発庁を除 く)・法務省(J:図2で は司法修習生出身

者をさす)・文部省(E)・ 郵政省(Pt)・ 建設省(C)

*警 察庁はPo

第三部 科学技術庁 ・沖縄開発庁 ・外務省(D)・ 大蔵省(F)・ 労働省

(L)・ 自治省(H)・ 会計検査院

第四部 公正取引委員会 ・経済企画庁 ・厚生省(W)・ 農林水産省(A)・

通商産業省(1)・ 運輸省(T)

定員は74人 。とりわけ意見 ・審査にあたる参事官は1972年7月1日 施行

の内閣法制局設置法施行令の改正で 「兼職者を除き,各 部を通 じ,24人 を

こえることができない」(第8条)と なっている。各部の構成は現在では,

参事官をもって充てる各部の部長を含めて,第 一部参事官7名(う ち東京地

検あるいは高検検事 との併任者1名 と総務主幹との兼任者1名 を含む),第

二部参事官7名(う ち検事併任者2名),第 三部参事官7名,お よび第四部

参事官6名 である。検事との併任者3名 を除けば,24名 になる。

また,他 省庁のように 「局」 といわず 「部」を用いているのは,内 閣法制

局が内閣法第12条 第4項(「 内閣官房の外,内 閣に,別 に法律の定めるとこ

ろにより,必 要な機関を置 き,内 閣の事務を助けしめることがで きる」)に

基づき内閣部内に置かれた組織であって,国 家行政組織法の適用を受けない

ためである。内閣法制局の参事官は他省庁の課長に,各 部長は局長に相当 し,

次長は事務次官 と同格にあたる。

次に,人 事パ ターンをみていく。いかなる人物が参事官に採用され,部 長,

次長,そ して長官ヘステップアップしていくのであろうか。

(1079)193

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一⑩軽

(一〇。。O)

図2-1参 事官経験者 の主 なキ ャリア(第 一部)

シ リ

ア ル

No

識別番号197019751980198El9901995 現在 の

ポス ト

例16mE84な ら1961年11月 生。84

年文部省入省 を意味す る。

〈注記>1.原 則 と して1996年8月1日 現在 のデー タに基 づ き作成 しz識 別番号の最初の4ケ タは生年月,ア ル ファベ ッ トは 出身

その後 の異動 でデータが入手 できた もの はてある。 ただ し, 省庁,最 後の2ケ タは入省年次を示す。左例参照。更新 した。3.総 務主幹は第一部参事官を兼任す る。

○印は現在の参事官◎は幹部を示す

東京繊 判事 繧 購 華麗 局 壽是地裁 覇蚕高裁 餓1 3403」56 第 一 部 参 事 官 併 任

74,479,783.788・289・1295.11

仙台高裁長官

鵬 裁事務総局行政居 職 翼長兼 棘 職 半檸 膿 饗 騙 解 職2 3706J61 第 一 部 参 事 官 併 任

77・579.784.f92.;93・595t

東京高裁判事

鯨 地裁判事 轟奉職 鍛3 4006J65 第一部 参事官併任 総務主幹

84.890.792.1294:

最高裁人事局長

4鯨 地裁半騨 難 購 最高繍 館 ・ 現職

4907J72 第一部参事官併 任72司 法修習生744*東 京地裁判事84

.486.490.990.895.i

東京高裁判事

81.4京 地裁判輪 編 藩再務総局 覇畢蟹 鯨 臓 判事5 5605J79 第一部参串官 ○東京地検検

事との併任79司 法 修 習生85.8gl4g2.495.7

6 2404F49 霧譜 締 主幹 第三 部長 第一部長 鍛65,972,776,783,785.ll

7 3211F55 鐙 。.部参轄 ・税庁・蝋 造織 盟蓮肇 騰 難論1繍 嬢 鵬72.776.784985,6退 職89.493.395.7

ダイ エ ーOMC会 長

(96.5~)

理蝸 経済課長離 国有財産第1課長 造幣局長 甕鑛 蒙励8 3704F6(

詳}部 参事駄 曜 義 幽 現職農林中央金庫専務理事

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㎝●

①面

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(一〇。。一)

一8

大臣官房会計 銀行局保険 大臣官房92.12第2課 長 参事官課長補佐*第 三部長第一部参事官

9 4309F66 ◎

81.786.790・993.7*総 務 主 幹

響 第一部参鮪 翠羅 金 ・職10 4701F70

95.686.79L7

会計検査院事務総長官

房審議官

ll 5202F75

ニ ュー ヨー ク 理財局 中国財務局

総領事館 課長補佐 理財 部長 第 一 部 参 事 官

75入 省798289.E91 .796.7

理財局地方資金課長

12 5702F79

*第一部参事官

*・9入省 醐 財郷 餌 役

_94.7_96

灘 長 蕪 書房 離 社会保険脹 官社会保険診照 酬 騰 裂織13 3008W54 第一部参事官 退職 支払基金理事長1鞘 翅m長

92.9

社会 保険健康事 業財団理事 長(96.7~)70.174.1178.880.483.E84.885.886.8

翁難 局 第一部参事官 年鎌 麟 霰・コ 退職 年金・祉 社会保険審査会委員14 3803W60 事業団理事1現 職

74.且179.587988・692・8

社会局庶務 老人保健部 大臣官房 環境庁事務次官審議官計画課長課長補佐 第四部参事官 第一部参事官 退職15 3907W62

年 金福祉事業 団理事長(97.2~)89.699,i95.776.LO79.782.8

麟 糞導 第一部参事官 顯 長 社会保険庁次㌔職国民年金基金連合会常務理事(94.9~)

16 4401W6680.482」887 .993.E94・9

17 4903W71 。評  麟 糠 。 讐 一 事駁撃 鐸1厚生年金基金連合会上席調査役

18 5203W75・麟 灘 健 栃木県民生部 鎌 脚 第一脚 官 ム

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一㊤0

(一〇coトコ)

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198519901995

現在の

ポス ト

19 5407W78京都府福祉部93.7**社会・援護局

第 一 部施 設 人 材 課 対 策 官

参 事 官78入省○

9094.995 .i

20 3203A54

79,U*第 二部長 ・総務主幹事務取扱*農 林経済局

一 二 第 一 部 参 事 官 隻 ・ 第二部長 轟 森林開発公団脚1企 業癩 課長

72.779.4第 四部 長85.1]86.788.1退 職93.7

21

林野庁職賊 長 ・4.1・鑑欝 誤 長,4001A62 第 一 部 参 事 官 生研機構監事(注 労 現職

*北 龍 醗 局次長7a489.989,i90.E退 職94.4

国立国会図書館農林環

境調査室主任

経済局鮪 裸踊 佐 轟 書房 姫 朗 地方課長22 4610A70 第 一 部 参 事 官

84.990.899.295・7退 職

食品流通構造改善促進機構専務理事

23 5202A74

*野 菜供給安定基金業務第2部 長 農蚕園芸局種苗課長補佐、 現職

第一部参事官 一一→74入 省82 .889.490 .895.7

水産庁振興部沿岸課長

24 5305A78*講羅

。焔 響 響 臨 嘩 ○

自治大学校 資産評価システム 名古屋高速道路 道路管理センター 東京海上

25 2904H52 第_部 参 事 官 副校長1研 究セ ンター理事1公 社理事1常 務理事1顧 問1現 職

78,582,186,791 ,499.4

大氣社顧問

68,973.1175・476.7

福 岡県*第 三部長 ・総務主 幹事務取扱83.11財政課長

26 3209H57 第 一 部 参 事 官 鮪 主幹 ・ 第三部長 第四部長第一部長 次 長 長 官 轟

73.1蓋80,783,786,788 ,189,892.ll961

石川賭 工労働部長 鯨 県副購 書農購 書 鍛27 3904H63 第 一 部 参 事 官

80.787.789.492.995,i

宮内庁書陵部長

(注)生 研機構=「 生物系特定産業技術研究推進機構」

謬購

9

㎝・①壷

Page 13: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一〇Q。ω)

行政局振興 市町村*総 務主幹**税務局企画課理事官課長補佐**

28 4711H71 第一鯵 轄 撫C ◎71入 省848687

.792.596.E

大臣官房総務 高知県92.1*行政局行政課理事官課長補佐 総務部

29 5404H77 第 一 部 参 事 官77入省8臥889.4・ 」

92.'668箏 三部参事官

**77.・ 公営企業金融 ・3.]・.国 税庁直税部所得税獺30 2211F52 翻 響 退職 鰯 事1弁 護士登録 咽 税庁。査査。部。

東京弁護士会会員75.7

70.572.7(注)「 沖縄法制参事官の設置に関す る訓令」(1§70年4月27日)に よる

一り刈

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198519901995 現在 の

ポス ト

鯨 地裁判事 鯨 高裁判事 難 磁31 2901J54 第 二 部 参 事 官 併 任 同右委員

公正取引委員会中央更生保護審査会委員長(96.E~)67.977.383・29L593.1'退 職

暴露難 理局 羅 購 騙 鼓楼 嚴 顯 地裁 囎32 3610」59 第 二 部 参事 官 併 任

75・277.183.f86・991.794.4

東京高裁判事

東京地裁判事 東京地裁判事 東京高検検事 現職

33 4408J67 第二部参事官併任

83,689,792.795・7

東京地裁判事

*東京高裁判事 最高裁調査官*現 職

34 4601J69 ,第 二 部 参 事 官 併 任95.484

・489 .7949

東京地裁判事

*東京地裁判事 最高裁調査官* 第二部参

事官併任35 5002J74 ○74司 法 修 習 生87.893.494

.g

図2-2参 事官経験者 の主 なキ ャリア(第 二部)・ 壁

1

θ

♪㊦

Page 14: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

一㊤co

(「OQQ心)

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198519901995 現在 の

ポス ト

法務省刑事課長 最離 検事 最融 鮪 部長 綾羅 検最高裁判事36 2812J51 麗 麗 退職 ・1職

94.1*弁 護 士 登 録78 .984.1190.592.1265,872.5

東京地検 刑事局 東京地検 最高検

37 3210J55 .聾_第 二勝 事官併任 刑麟 刑事部 検・ 蝋 査庁次長 札騰 検事長 退。 参院議員(95.7~)

72.577.380・682.483・486・1291・1195・6

麗 筆 東京離 検事 最高検検事 退職第二部参事官併任38 3207J61 現職

75.E77 .i83ガ887,1293・7

公正取引委員会委員

轍 榊 耀,.部魏 併任 繍 検検事 騰 蜘 職39 4111J65

778L383 .887.993.995・9

大臣官房総務審議官

東京地検検事 第二部長 ・総務主幹事務取扱96・4

40 4505J68 第二部参事官併任 総務主幹 言 ◎8且87

.993.796.1

・棚 地検獅 東京地検検事 刑事局付 ・ 轟轟

41 5110J74 第二部参事官併任 ○74司 法修習生8188919293

.7

42 5201E79・灘 灘 縢 務 在米欄 ・

第二部参事官74入 省828790 .79L696.7

学術国際局研究機関課

43 5707E80痢 中局総 画官 大分県社会繍*第 モ難

80入 省8894r96.7

44 3203Pt56

戦 第二部参事官拶   撫   ∵   'NTTデ ータ通信常動

監査役

9

㎝・①畑

Page 15: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一〇◎Q㎝)

一りO

懇 懇 局 翻 難 局 大館 瀦 議官 貯金局長45 4008Pt64 第二部参事官

80.585.789β94.7

電気通信局長(96.7~)

・人事部長 肇離 離 局 ・ 郵務局企画課長 覆藍鵬 翼46 4608Pt70 第二 部 参 事 官

808485.790 .799.i

郵務局次長(96.7~)

47 5012Pt73

・貯鍋 計醐 査課長 委悪難潮 懸 離贅局 ・

第二部参事官73入 省828789.f90 .E95.6

通信政策局総務課長

・郵務局財務計醒 長 ・*澱 郵政局人事部長 蕪 轟臨 佐 ・・*

48 5503Pt78 第二部餌 官 ○

78入 省8892 .f94.795 .f

難 計画 計画局長 躰 下水道騨 団49 3007C54 第 二 部 参 事 官 住都公団理事}理 事長1現 職

91,995.7

日本不動産研究所理事長69.塾075.i8384β 退 職

都市計画課長87.f退 職

第二部参事官50 3507C58

,5.78。,81大 臣官房 繍 ノ8。48&426死 去

*国 土庁大都市圏整備局長 公園企画官 河川総務課長9L6退 職

第 二 部 参 事 官.51 3902C62 1現 職零

80.786.:92・793・5

横浜国大大学院国際経済法学研究科教授

*大 臣官房文書課企画官85 .1住 宅局民間 退職住宅課長**

52 4511C69*第 二 部 参 事 官**大臣官房審議官

86.;91.695.696.7

岡山県知事

53 5105C75

・住舩 団企画議 部企画課長 雑 羅 畑 …

第二 部 参 事 官75入 省*91

,696.7

住宅局住宅政策課長

54 5612C79

・第二部参轄 甥 県企醐 整部 ・・

**河 川鵬 企画官79入 省 、。95.696

.7

1

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Page 16: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

卜⊃8

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198P19901995 現在 の

ポス ト

警備局付 長官官房企画課長88.7警 察庁交通局長 退職

第二部参事官55 3602Po61

77.128L8蝸 賭 本部長 一ノ ・・.993・

甥 購 ・ 第二部参事官 顯 野 鶴 塞・・4.i講56 4112Po66

7981 .88、.892・1馨 雛 活

・刑事局騨 企画課騨 官 瀬野 髄 、 鵜 羅 難 壁57 4504Po68 第 二 部 参 事 官

80.485・586 .89L且0952

警 察庁刑事局長(96.12~)

58 5204Po76

長官官房企画課理事官(89.8~) 第二 部 参 事 官

76採 用91.1096.8

警察庁交通局交通規制課長

59 5704Po81

*第 二部参事官(95.2~)警 視庁外事2課 長** 区**刑 事局刑事企画課理事官81採 用96.396

.8

*外 務省条約局調査官 経済協力局 国際協力事業団 入国管JICA第二部参事官併任 ・ 萎諸 技術協力1課長 企画部長 理局長 騨

60 3707D61現 職1

95.'

経済協力開発機構代表部大使

・3無 品 トリア,6.874.4,9,8591.193.1・ 退 職

O㎝舘罫

α

①釦

図2-3参 事 官経験 者の主なキ ャ リア(第 三部)

(一〇Qo①)

シ リ

ア ル

識別番号1970197E1980198519901995 現在の

ポ ス ト

61 3001D54 無 ÷ 聴 罪 諮 瓢 蟹環 ∴ …96.1.9死 去

Page 17: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一〇co刈)

卜09

62 3309D56 _嘱 三勝 事官 条網 法規課長 外構 官 駐米公使 〆 官房翻 … 退職

71.7,4、 ・条鯛 法規課 ・4.787.E8・99α12驕 蝦 蟹

外務省参与(94.4~)

黍纈 』 膨 糠 喪 ・ナダ公使 魏 房 ・・ナ・大使63 3506D59 第三 部参事官

8285,191.174,877.4

ブ イ リ ピ ン

大 使

(96.6~)

*条 約局調査官第二部 経済協力局 国際協力事業団 入国管理JICA参鞘 併任 ・ 難 技陥 力'課長 企画部長 局長 卿

lg㌦60 3707D61経済協力開発機構代表部大使無 蓋 ト リア,4.677、,9.,8・9L1]93.:・ 退 職

峰 約局調館79.4国 連局科学課長 文鎌 長 講 一バー 職第三部参事官併任

64 3805D64 第三部*参事官

パプアニュー

ギニア大使兼

ソロモン大使79.58Ll87・490.495.2

欧亜局 西独 東独 大臣官房オーストリア大使館東欧課長 大使館 大使館 審議官第三部参事官

65 4409D66

81.183.is8688.594.8

シ ドニ ー総

領 事

(96.9~)

難 霜覆謝 析 輔 米1課長 輔 米局審議官66 4404D68 第三部参事官95 .1休 職

83.1(86.894.8

日本国際問題研究所所長代行

67 4706D71 購 書保障課 第三部参事官 騰 癬 現職7.入 省86

.890.894.9

在 ジュネーヴ代表部公

使

68 5404D77 :篇 撫 。硝 翠86  90.f・92.3・95.1

条約局法規課長(96.8~)

94.10

69 5105D78*条 約局法規調整官第三部参事官併任 第三部*

参事官 ○78入 省94

.6

*条約同轍50.4翻 撫 鵜 器官 難 大使館 現職第三部参事官併任 国連日本政府代表部

70 4308D65 第三部*参事官

総合外交政策局軍備管理 ・科学審議官

88.1(95.780,182.7

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Page 18: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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(一〇。。。。)

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198519901995 現在 の

ポス ト

奢購 書外蠣 第。講 官 縷 際在タイ大使館 奈騨71 4211D67

87,794.282,785.7

シカゴ総領

事(96.7~)

繍 雑 務魏'広 継 官 第三部参事官 繍 暴・ 難 ・72 4610D70

85,789.f93・894・8

大臣官房審議官 ・条約局併任(96.7~)

・ナダ大使館 簾 翻 無策三部参事官73 5007D74

74入 省86.789 .892.5

経済協力局技術協力課長(96.2~)

菩綴 喜保障課 第。部魏 現職74 5105D76

76入 省89.892,795.8

文化交流部文化第二課

75 5711D80 繍 雛 糧,。焔 一*鮮

・鍵懸鰭灘.臨 等76 5507D79

79入 省94 .694.u

在米大 使館参事官(96.1~)

国税庁直税部長 水資醐 発 細 銀行顧問 羅77 2809F51 第 三 部 参 事官 公団理 事1(82.6よ り専務)〕1現 職

8L79LlO92.6

日貿信社長78.f退 職68

,773.7

表難 局 第三鯵 轄 奄糠 醐 職 生研機構 抵当証券保管機構理事長

78 3108F55 電源醗 脚1副 脚 長1職(72~)

,3,7。,印 刷局長 」 ・5.691.7・3.・

*主 税局税制 第3課 長 総務主幹86・792・1296・1

第 三 部 参 事 官79 3810F62 *第 三 部 長 第一部長 次長 ◎

78.783.786.286.10第 三部長 ・総 務主 幹事務取扱

叫レ臥蓄

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Page 19: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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卜08

*関東財務嚴 証券局企酷 一 ↓ 瀦 暴夢 理財局次長退職80 4501F67 第三部参事官

*82.693 ,695.683,788.794 .7

国鉄清算事業団理頭(95.7~)

81 4907F72

*銀 行局保険2課 長 理財局総務課調査室長*現 職

第 三 部 参 事 官 一 一 →一一→72入省95.688 ,693.7

証券取引等監視委員会特別

調査課長

・国税庁東京国税局 蟹臨 実検 融.

82 5401F76 課税第2部 長 第三部参事官○

76入 省8692.793.7

66.8******第 三部参審官

30 3211F52 ・灘 退職 錨 鍵 融、i#t3.10登録 。;;講 叢 灘 野

東京弁護士会会員75.i77 .670

,572.7

83 2804F53 一 第三惨 事官 主計官 理財局次長退職 動燃理。1鞭 囎,,6鞭 。;[70.575.778・780・686.i95β

関東財 環境衛生 勧魯証券顧問閤灘 国税局 第三部参事官 艦 齢 岩手勲 事 務局長 金融公庫

84 3405F59 邸1→ 専 務(93.5~)1囎

75.779.784.787.788.6退 職91・595.6

アイフル会

85 4107F64

*大臣官房騰 難 騨

第 三 部 参 事 官 関税局国・1・長 駐英公使 ・退職 現職

79.784.788.591.792.f

動燃開発事業団理事

・国防鐡 事務局郷 シンガポー・大使館 ・ 議 難 際 警蘇 蕪86 4512F68 第 三 部 参 事 官

78・483・684 .789.794.5

造幣局長(96.7~)

87 5011F74懸 垂騨 第三部騨 官 現職

74入 省89,795.6

関税局管理課長

88 5701F80

*銀行局保険1課課長補佐*第三部参事官 ○

80入省93.7

垂訓

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Page 20: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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(一8

0)

シ リ

ア ル

識別番号19701975 1980 198` 1990 1995 現在 の

ポス ト

大臣官房総労災管理部長 83・7退 職務課長補佐 日経連法制部長1 労働福祉事業団89 3210L55 第 三 部 参 事 官

一84.8(88.6~ 同常務理m) 理m(94.7ま で)

72.7 77.] 東京労働基準局長 92.7

*職 業安定局労災管理部長86・9

高齢者対策部長 **

第 三 部 参 事 官 退職JR東 海常勤監査役90 3603L59**大 臣官房 (94.iま で)

総務課長補佐 77.1 82.9*87

.3

串中央労働委員会事務局長 大臣官房総 職業能力開発局*務課長補佐 能力開発課長 退職 労働保険審

91 4204L65 第 三 部 参事 官査会委員

82.9 87.6 94,795.6

*大 臣官房参事官 職安局雇用保険 職安局雇用大臣官房審課長補佐 *

第三部参事官 保険課長92 4506L69 議官80.10 86.4 87.69L6

(96.7~)

*補 償課労災保険審理室長 職安局業務指導 政策調査部課長補佐*

93 4904L73 第 三 部 参 事 官 総合政策課73入 省 83.6 91.E 96.7

*第 三部参事官 **

*94 5408L79 **職 業能力開発局

外国人研修推進課長 7s入 省 95.696.7

*退 職 沖縄振興開発金融公庫 *大臣官房過疎対策管理官 第一生命顧問*零

総務部長など歴任 **行 政局選挙部管理課長 1(96.7ま で)95 3106H53 第三部参事官 双 ***1

67」B72.173.475.10 77.4休 職 ***公 営企業金融公庫融資課長 93.8

振興課長補佐 79.10 ホ 文部省へ出向 ・現職新潟大学法

96 3309H56 第 三 部 参 事 官 学部教授72.1 79.5 81.4 *自 治大学校副校長

*自 治大学校副校長 日本下水道事業団 *東 京理科大業務課長

= 理工学部教授1 現職 慶慮大学総合97 3905H62 第 _部 参 事 官 政策学部教授79.5 86.5

87.3退 職92 .4

謬購

①O瞭

㎝●①湘Ψ

Page 21: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一〇〇一)

*自 治大学校副校長 山口県総務部次長 国際復興開発銀行*退 職 全国市議会国際文化研修所副学長

98 4605H70 第 三 部 参 事 官

86.590.i94.9.96メ 霊

99 5201H74

・醐 予購 懸 購第三部参事官 ム

74入 省90,795.7

宮内庁東宮職事務主管

(96.3~)

100 5610H79

行政局振興課市町村跳 画官(94.4^一;擁

79入 省95.5

N8

シ リ

ア ル

Nn

識別番号197019751980198519901995 現在 の

ポス ト

101 2909W53 轡鐸 騨 薯 墜 論 難 …バイエル薬

品会長

102 3401W56 二 第。部参轄**塁 灘 気保全局 … 退職 瀟 灘 懸 臨 。。長

71.E76.1078.683.885.8***総 理府社会保障制度審議会車務局長

社会保険審査会委員(89.6~)

離 離 務 寿命難 部 大臣官房職 官 騰 官退職 年金 福祉事業団理事長(

97.2~)15 3907W62 第四部参事官 第一部参事官

76.1079,782,889.694・795・7

縫製事業団 縞糠局 難膿 緊難霧鍮 現職103 4101W63 第 四 部 参 事 官

89,691,694.779,784.9

衆院厚生委員会調査室長

・水道現職+画 課長 離 農***死 去

104 4601W68 第 四 部 参 事 官**総 理府社会保障制度審議会事務局総務課長83.fgL792.4。884

,988.6

図2-4参 事官経験者 の主 なキ ャ リア(第 四部)聾

1

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Page 22: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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(一〇㊤卜。)

シ リ

アル

識別番号1970197519801985199Cl995 現在の

ポス ト

105 4810W72

・大館 房政策謀企画官.懸 華箋無 職

第 四部 参 事 官72入省

87・988,692.795・7

総理府社会保険審査会事務局総務課長

・環境庁企醐 整局調館 蕪 雑 繍.

106 5210W75 第四部参事官 ○75入 省84 .1090.792 .i

騰 同組合長 ・ 退職 野菜供給 騨 難 ・国土脹 館 贈 官107 3102A52 第四部参事官 安定基金理事1**Il**全 国農地保有合理化

68,772,878.ll80.585.686.ll90.f協 会専務理事

繍 楚局 第四部参轄 籍鶴 林 ・L・死去 ・㈱ 善局農職108 3301A56

*82.8.1772

,876.12

大臣官房参轄7↓ 騰 翻 盤 難 局 退職109 3709A60 第四鯵轄 盤鶏難国

*農 蚕園芸局長75.f76.12・80.988.lgO・8*91.f

農業総合研究所長(94.E~)

轟曼懸 長一コ 嘉纈 農品 土地局畷 書庁110 3904A62 第四部参事官 退職

78・1280983 .791・693,595.7

農業者 年金基金理 事長

(95.8~)

・・哺 造改善局農政課長 轟 轟 轡 一 総務主幹92.'2.1F*****

111 4110A65 第四部参事官*第 四部長 ◎**構 造 改 善 局 計 画 部 長81 .783

.587.1092・i.・llg3.7*第 三 部 長

・水産庁漁政部企画・長 羅 轡 第一 ↓***退 職

112 4706A70 第 四部 参 事官**林 野 庁東 京営林 局長86

.494,995.787.109L8

生物系特定産業技術研究推進機構監事

113 5004A75

喰騰 理部主計課長 警語朧 螺 『マ第。部参事官.二

75入 省90.991.f95.7

畜産局 牛乳乳製品課長(95.12~)

①㎝諒

㎝●

①釦

Page 23: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一8

ω)

卜oO刈

114 5603A79 脳_館 鞠 轟 ○

62・6*第 四部参事官

115 1201147中小企業事業団 中小企業調査

*総 掘 幹 第 四 部 長 退職 副理事長1協 会顧問

84.970.ll72,779.1

116 3303156 鍵 第。部参事官 産業機構 ・3・ 事務次官「 遡1住 友金購.副 社長貿 易 局 長88.689.691(96.6ま で)70

.1275.7

原子力 福岡通産 公害防止資エネ庁鉱害課長7ユ 発電課長 局長*事 業団理事

117 371016( 第四部参事官1宇 部興産顧問→取締役*講 酵74

,5.77。98・.2・6.]8・689.(・5・ ま・)

讐顯 難 業「   8&6**

118 4001163 第四惨 事官 鱒 ・潔 第 二 部 異 議 ◎累第四部長 ・総務主幹事務取扱78

.7**貿易局為替金融課長79.984.f86.1088.189.896.1

舗 鰹 一1第 。鯵 鞘 騒 購 長94.i退 職119 4603168

82.・84 .689.、 鰭 庁繍 部長 」 ・5.6

戦略技術貿易センター

専務理事

・生活産織 維製品課長 繋 醒 ・コ第。部参鞘 ・120 4909173

73入 省88・689 .694.7

ジェ トロ企

画 部 長

(96.5~)

舗鎌 長 編 藏難 一↓121 5407177 第四部参事官 ○

77入 省79.293.5g4 .7

79.4第 四部長 。総務主幹事務取扱

122 3112153 第 四 部 参 事 官 総務主幹 第 四 部 長 次 長 長 官 退職1

地域 振興整

備公団総裁(93.7~)

68.1076.779。1第 一 部 長85.c86.789.892.12

鵬 第。部参轄 難 局 特許庁長官

住友化学工業専務(95.6~)

123 3412158 退職1住 友化学工業顧 問一》取締 役→常務86,787,289.974.ll76

,881.7

一卵θ豊漁

8煎ご♪θ

Page 24: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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(一〇設

)

シ リ

ア ル

識別番号197019751980198519901995

1

現在の

ポス ト

・立地公害局総務課長 総 裁.国 土舘 房職 官

124 3807162 第 四 部 参 事 官 退職 国際協力事業団理事

81.785.1189.690.6(90.f~95.6)

*餌 庁電源立地企画官 スペイン大使館・ 第。部参鮪 離 職

125 4703169

78・584,585 .ll90.6

大臣官房審議官(96.7~)

126 5108175

*貿 易保険課財務室長 スペイン大使館*

第 四 部 参 事 官

75入 省80 .489.i90 ,695.6

産業政策局調査課長

産業政策局商務室長

127 5601178 第四部参事官 ○

78入 省93.495.6

海運局 大臣官房'航 空局長 開銀 東京都地下鉄監督課長 審議官

128 3110T54 第四部参事官理事 建設社長,1現 職退職5

88,793.4

国鉄清算事業団理事長

67,1073,1079.!84.786・1

灘 議会 第。部参事官 騰 部 奮騨 海上保安庁長官 国職129 3207T58 退職 振興会会長1

73.1078.683.690・691.f95.7

・整備部管躍 長 ・ 騰 長 蕪 房 海上保安庁館 長銀顧問

130 3903T61 第 四 部 参 事 官 〆i現 職

56.E92.694.695.77778,683.6

国際観光振興会会長

**国 際運輸観光局政策瀬 鱗 課長**89.E*第 四部長 ●鞭 響 轍

131 4002T64 第四部参事官 墾嚢*第 四部長 退職***運 輸審議官(94.6~)81β

83.687β88.690.793.795.6

運輸省顧問

繋塁難 働一↓ 筆鞭 鰐132 4803T70 第 四 部 参 事 官

8687 .f91.6

海上保安庁総務部長(96.6~)

①㎝瞭

㎝●

①釦

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拙論

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く)『騒鯉醒臨く』

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総経章〉

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(1095)

Page 26: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

政経論叢 第65巻第5・6号

部にはそれぞれ担当の省庁からの出向となるが,す べての省庁の出身者がそ

ろうわけではない。第二部には,検 事併任者(2名)の ほか,警 察庁,建 設

省,郵 政省。 さらに,91年6月 より文部省が加わる。第三部は大蔵省(2名),

外務省(2名),自 治省,労 働省。そして,第 四部は通産省(2名),厚 生省,

運輸省,農 水省。併任者を除いて大蔵省のみが3名 を送 り込んでいるのに対

して,い わゆる新興の 「ハジパイ官庁」(21)は出向者を出すことができない。

元参事官の述懐によれば,出 向者を出 していないために不利益を被ることは

ないというが(22),「微妙な問題 もかなり多いだけに……[参 事官を出 してい

ることが一引用者]都 合がよい」(23)というのが本音であろう。いずれにせよ,

そこに省庁間の無言の格付けが現れていることは否めない。

それでは,出 向者を送 り込む省庁は,何 を基準に内閣法制局への出向者を

決めるのであろうか。図2に 付 した参事官経験官僚の最終到達ポス ト,な ら

びに天下 り先か ら浮かび上がる事実は,各 省庁が将来の幹部候補 と目する,

行政経験および法制面でも 「優秀」な人物を出向させてくるということであ

る。原則 として出向者はその出身分野の法案を審査することになるゆえ,人

選を誤っては出身省庁の法案審査に不都合が生 じることにもなりかねないか

らだ。ちなみに戦前には,「高文行政科試験を10番 以内」で合格 していなけ

れば,法 制局参事官になれないという評判があったという㈲。

一方,内 閣法制局側で も,法 案審査を受けに来る各省庁の課長補佐クラス

の応対ぶ りをよく観察 し,将 来の参事官適任者の目星をつける。すなわち,

出身省庁から 「優秀」 さを買われ,法 制局か らも認め られ請われた官僚だけ

が,参 事官になるのである。それだけに,キ ャリア官僚にとって参事官出向

を命ぜられることは,文 字どおりの 「栄転」であって,出 向者 は出身省庁の

「名誉にかけても頑張 らねば」 との意を強 く抱 く。ちなみに,人 事異動が掲

載される官報の表記には,出 身省庁か ら法制局 に異動する場合 はたいてい

「昇任 させる」が用いられ,参 事官をおえて本省に戻る場合は 「出向させる」

210(1096)

Page 27: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

内閣法制局一その制度的権力への接近

が用いられる。

このように,参 事官は各省庁からの出向者ばかりと駐う寄 り合い所帯のた

め,チ ームワークの問題が心配されようが,参 事官経験者の述懐をみる限り,

それは杞憂であるようだ㈲。同期入省者のうちから選ばれ 「昇任」 したとい

う意識が,彼 ら共通の求心力 となって働 くのであろうか。

図3は,長 官以下,次 長,総 務主幹,各 部長 といった内閣法制局幹部7ポ

ス トの歴代在職者について,出 身省庁および法制局内での異動の経緯を示 し

たものである。 これで明らかなように,長 官を含あ幹部ポス トを占めること

ができるのは,法 務(検 事併任者),大 蔵,通 産,農 水,自 治 の5省 出身者

に限られている(運 輸省出身の識別番号4002T64の み例外)。長官 ポス トは

特別職で,任 命権は内閣にあるという政治任用のポス トだが,現 実には行政

任用である。参事官→審査部の部長 ・総務主幹→第一部長→次長→長官 とい

うロイヤルロー ドは,法 制局が1952年 に再び置かれて以来,破 られたこと

はない。ただし,農 水省出身者は第一部長 まで しか進めず,長 官 ポス トはそ

れ以外の4省 出身者で占められる。現時点で次の長官は3810F62,「 次の次」

は4001163で あることは,確 定 している。 「次 の次 の次」 は農水出身の

4110A65は 第一部長になったとして も飛ば され,大 蔵出身の4110F66が 就

くのではないか。 この人事慣行は,内 閣法制局が 「政治」に屈 しない 「政策

遺産」を形成する1っ の素地になっていると思われる。

さらに,図3か らは長官の任期 もパター ン化 されていることがわかる。現

在では,か つての 「超記録」在職7年 半(0405J28),「 超々記録」在職9年

11ヵ 月(1001F32)と いった長期在職はな く,1009140以 後は,3~4年 で交

代するのが常態 となっている。ただ,戦 前の法制局長官 はほぼ内閣にあわせ

て異動 していたが,戦 後 は内閣が代わっても長官は留任するケースがむ しろ

一般的 といえる。復活 した法制局の最初の3代 の長官 は内閣退陣時に退官 し

ていたが,1009140以 降の7名 の長官で,内 閣交代 に併せて退官 したのは2

(1097)211

Page 28: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

卜◎一図

(一8

0。)

図3長 官 ぺ の 道

歴代首相74.1276」27&1279ユ180.782」183.1286.787」189.i90,291」193.894β96.196」1

三木 福哩3鈴 木 し 愚_C野 饗 。糊 臨 盆村山。本① ②

第一部長就任までの歴任ポスト

朔Nα

代 識別番号19751980198519901995

.

総務主幹 第二部長 第三部長 第四部長

135 51 1009140 團72,776.7

○ ○

136 52 1810J41 次長 長官 ○ ○72.776.779.n

137 53 2012H44第一部長 次 長 長 官 ○ ○72.776.779」183,7

138 54 2010F47 第三部長 第一部長 次 長 長 官 ○

139 55 2402J47 第二部長・検事併任 第一部長 次 長 長 官 ○73.1079.1183,786.789,8

6 2404F49 総務主幹

第 三 部 長 第一部長 S6.1死 去 ○ ○72.776.7A3.785.1且

79.4

122 56 3112153 第四部参事官 総務主幹 * 第 四 部 長些

嚢次 長 長 官

*第 四部長 ・

総務主幹事

務取扱○ ○

69」⑪76.779」85.ll86.789.892ユ2*総 務主幹79.11

20 3203A54 第一部参事官 * 葉 第 二 部 長 婁践

第一部長

**第 二部長 ・

退職 総務主 幹事

務取扱○ ○ ○

72.779.480.785.且186.7関 』

83.1*三 部 ・ 主

26 57 3209H57 第一部参事官 総務主幹 * 第三部長 第四部長

第一部長

次 長 長 官 ○ ○ ○73.1且80.783.786.7器.189,892.12 96」

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Page 29: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

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0)

N一Q。

図3長 官 へ の 道(つ づ き)

74」276」27&1279.1180,782,ll83」286.7871189,69029LllgB94.695ユgユ1

三木 福田繋 鈴木 ①一 。魯。_外 蕃摺 。観 訂醐 村山橋本① ②

第一部長就任までの歴任ポスト

シ リ

ア ル

Nq代 識別番号

197519801985 1990 1995総務主幹

第二部長

第三部長

第四部長

寧第二部長 ・総務主幹事務取扱86.2

* 第一部長 次 長 長官 ○ ○140 58 3705J60 総務主幹 第二部長

83.1且85. 189,892 1296」*総務主

第三部参事官 叢 第 三 部 長 第一部長 次長 ○ ○79 (59) 3810F62 *

78.7 83.786.2宰 寧第二部 ・総務主幹事務取扱92.12 96.1

率r 部長 ・総務主幹取扱 886

疑○ ○ ○118 (60) 4001163 第四部参事官

総務主幹

*第四部長 第 二 部 長

79.984f 86」0銘.189.896」翠 四。 ・ 主幹事 90:

第四部長 運輸省へ出向 ○ ○131 4002T64 第四部参事官 総務主幹

*

鴎.687.688,689,893,了

禰 裁判事 ○3 4006J65 第 一 部 参 事 官 総務主幹

84.8 90,792.12

*総 務主幹92.12」8

(92.12.11~)111 4110A65 第 四部 参 事 官 * 拳 第四部長 ○ ○ ○

83.787.1( 廓寧第三部長93.7

92」2」8

9 4110F66 第 一 部 参 箏 官 * 第三部長 ○ ○81,786.7 零総務主幹93.7

一 罫・* 96.4

毫舞 ○ ○40 4505J68 第 二 部 参 事 官 総務主幹

87.993.796」*総務主幹

[96.4

○28 4711H71 第 一 部 参 事 官

83,792.7

作成参照資料 は図2に 準ず る。

1

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Page 30: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

政経論叢 第65巻第5・6号

名(2402J47と3209H57)だ けである。建前上は政治任用の特別職ではあ る

が,事 実上行政任用であるために起こりうるのである。 もちろん,こ うした

形式論よりも,戦 後の法制局長官が制度的に,法 制面での専門家的性格を強

め,独 立性 ・中立性を高めたことが,長 官留任の実質的な理由であろう(26)。

とはいえ,内 閣法制局長官 は,政 府 ・与党の法律面での知恵袋として,閣

議および国会の委員会(通 常は首相が出席する両院の予算 ・決算両委員会の

み)に 出席する。閣議では,各 省庁が閣議請議 した法律案,政 令案について

説明することが仕事である。これは第1次 鳩山内閣の時に,当 時の長官が行っ

て以来慣例化 している。閣議の構成員でない長官がその意思決定に加わるこ

とはあってはならないが,好 むと好まざるとにかかわらず,閣 議での議論や

政治的機密事項 も耳にすることになる。ここに中立性の限界があり,「 政治

的方向のすっかりちが う内閣に歴任す るとい うことは,ほ とんど不可能

だ」⑳ との林修三氏の指摘は当然 といえる。

一方,政 府委員として国会の委員会に出席 ・答弁することも,長 官の大 き

な職務である。それでも戦前は,法 制局の幹部全員が政府委員の辞令を受け

たものの,長 官でさえ答弁することはまれであったという。 しかし,戦 後は

すでに述べた吉田首相の 「鶴の一声」を契機に,憲 法問題,法 律問題につい

ての政府 ・与党対野党の論戦の最前線に立つ。そ して,政 府提出法案の弁護

や審議がス トップした際の政府統一見解の発表など,委 員会審議ではなくて

はならない存在になっている。特に憲法9条 をめぐる攻防では,「 黒を白と

いい くるめる」知恵者ぶ りを発揮 してきた㈲。 ここでは,内 閣法制局のきわ

めて政治的な一面が露になる。

そして,こ うした長官の 「労」に報いるのが,好 条件の天下りと叙勲であ

る。表1に 歴代長官の天下り先 と受章 した勲章を示 した。天下り先として目

立っのは,地 域振興整備公団なる特殊法人である。1009140以 降の長官 で法

曹界に転 じた者以外の3名 全員が,そ の総裁に就任 している。内閣法制局長

214(llOO)

Page 31: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

(一一〇一)

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表1戦 後歴代長官の退職後

シ リ

アル

No

代 識別番号退官年

退 官 後 の 主 な 経 歴 叙 勲

140 48 0405J28 1954 (1955~62)国 会 図 書 館 専 門 調 査 員;(1962~1974)人 事 院 総 裁;1974.9.12死 去

141 49 1001F32 1964(1965~71)首 都高速道路公団理事長;(1972~87)駒 沢大学教授;(1978~89)

弁護 士登録;(1987~1989)国 土利用計画審議会会長;1989.6.21死 去

勲一等瑞宝章(且980)

勲一等旭 日大綬章(1989)

142 50 1001H35 1972(1973~1980)最 高裁判事;(1988.12~1989.E)竹 下改造内閣法相;(1987~ 現在)

麻薬覚醒剤乱 用防止セ ンター理事長勲一等旭 日大綬漁(1980)

135 51 1009140 1976(1976~1984)地 域 振 興 整 備 公 団 総 裁;(1986~91)日 本 コ ンベ ン シ ョ ンセ ン ター

社 長;(1989~ 現 在)プ ロ野 球 コ ミ ッシ ョナ ー

勲一等瑞宝章(且988)

勲一等旭 日大綬章(1995)

136 52 1810J41 1979 (1980~81)弁 護 士 登 録;1981.1.10死 去

137 53 2012H44 1983 (1983~1990)最 高裁判事;(1993~ 現在)東 証規律委員長 勲一等旭 日大綬章(1993)

138 54 2010F47 1986 (1986~90)地 縛振興整備公団総裁;(1991~94)野 村 証券特別参与 勲一等瑞宝章(1992)

139 55 2402J47 1989 (1990~1994)最 高裁判事;(1994~ 現在)弁 護士登録 勲一等旭 日大綬章(199E)

122 56 3112153 1992 (1993~ 現在)地 域振興整備公団総裁

26 57 3209H57 1996

作成参 照資料 は図2に 準ずる。

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政経論叢 第65巻第5・6号

官の天下 り先の指定席か。また,長 官経験者 は,1964年 より再開 された生

存者叙勲で勲一等瑞宝章,長 官退官後最高裁判事を務めると初動で勲一等旭

日大綬章が授与 される。その 「上」には三権の長が受ける勲一等旭 日桐花大

綬章 と,ほ とんど皇室 ・皇族 ・外国国家元首だけに授与される 「大勲位」の

二つの章があるにすぎない。 ちなみに,長 官の給与は96年 度 の改定以後,

月額で1,583,000円,国 務大臣(1,653,000円)の ワンランク下である。

これまで述べてきた機構と人事パターンが 「制度」を形成するとき,い か

なる力を発揮するのであろうか。

第2章 「制度」がふるう力

第1節 法案審査

「国会は,国 権の最高機関であって,国 の唯一の立法機関である。」

この憲法41条 の規定を掲げるまで もなく,法 治主義を根拠と した立法権

の優越は今 日の民主主義の基本的前提である。 しか し,周 知のとおり,わ が

国ではこれはフィクションになって しまつ亡いる。議院内閣制の下,法 案は

各省庁が原案を作成 し,閣 議決定を経て国会に提出される 「行政スタイルの

政策決定方式」㈹ が一般化 しているか らである。 それは多 い内閣提出法案

(閣法)と その高い成立率によって裏づけられる(表2参 照)。

特に近年では,閣 法成立率100%が 続いている。成立率の高さは,与 党側

が数を頼みに成立を図ることだけが原因ではない。内閣法制局という立法技

術のプロ集団が各省庁提出の法案の審査にあたり,法 案を 「妥協の余地のな

いほど完壁なもの」 に仕上げることにも大 きく因っている。 ともすれば,そ

の行きすぎを職権濫用とそしられることもあるが,そ れだけ法案審査に内閣

法制局の 「制度」 としての力の リソースがあるともいえる。審査過程はどう

なっているのか。

216(1102)

Page 33: 内閣法制局一その制度的権力への接近 · 影響力を持つ。 ... 予算編成権を武器に大蔵省主計局が絶対的な権力をふるってきたことは,

内閣法制局一その制度的権力への接近

その例として図4は,1973年 の 「国立学校設置法等 の一部を改正す る法

律案」の審査過程を図式化 したものである。 このように手続の上では,内 閣

法制局の審査は,法 律 ・政令案を作成 した各省庁か ら出される内閣総理大臣

あての閣議請議書が回付されてから始められることになっている(図4で い

えば,文 部省案→法制局第二部)。 しか し,実 際には各省庁の立案作業中に,

各省庁の担当者が法制局の審査担当参事官に非公式に法律的意見を打診 して

くることも多 く,ま た内容が固まったものについては予備審査(下 審査)と

いう方式で事前審査が行われている㈹。

審査では,① 憲法および他の現行法制との関係ならびに立法内容の法的妥

当性,② 条文の表現および配列の適否,③ 用字 ・用語における誤 りの有無等

をはじめとして 「あらゆる角度か ら検討を加え」 られる。手順は読会制,す

なわち,法 律案の骨子 ・大綱→条文の配列などの構成→個々の条文 と,読 会

が進むにしたがって細部を詰めていくや り方がとられる。 この過程で,極 端

な場合,無 修正ですんだのは題名と附則の字だけだったこともあったという。

審査を受けにきた各省庁の担当者は,「『又ハ』,『若クハ』,あ るいは 『並二』,

『及 ヒ』の使い分け」に至るまで法案を精査される。それほどまでに,「実に

詳細 に検討いたしまして法案としての完ぺきを期 しております」と長官は胸

を張 るのである(31)。

審査が済みこれでOKと いうことになると,「別紙○○大臣請議○○法律

案を審査 したが,右 は講義のように閣議決定の上,国 会に提出されてよいも

のと認める。」という表書き(赤 枠の罫紙のため 「赤紙」 とよばれる)を 付

けた閣議請議書が作成 され,上 司の決裁を仰 ぐことになる。最終的な長官の

決裁が済むと 「赤紙」がはずされ,同 文の表書 きをっけかえ(青 枠の罫紙の

ため 「青紙」 とよばれる)長 官の印が押 された文書が内閣官房に回付される。

これが事務次官等会議を経て閣議へ,そ して閣議決定ののち国会へと上程さ

れるのである。それだけに国会では,長 官はじめ法制局の幹部が政府委員と

(1103)217

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表2内 閣提 出法案 の多 さと成立率 の高 さ卜o一QQ 法 案 総 数 内 閣 提 出 法 案 衆院提出法案 参院提出法案成 立 状 況

国会(会 期) 提出'C) 成立(b) 提出(c) 成立(ω 成立率(dτ) 提出 成立 提出 成立

内 閣 提

出 率(C)a

成立法案内閣

提 出率(亘b)

第112通 常(87.12.29~88.5.25) 101 84 83 75 90.4% 15 9 3 0 82.2% 89.3%

第114通 常(88.12.30~89.6.23) 90 64 78 60 76.9% 10 4 2 0 86.7% 93.8%

第118通 常(90.2.27~90.6.26) 94 74 70 66 94.3% 16 8 8 0 74.5% 89.2%

第120通 常(90.12.10~91.5.8) 114 93 93 83 89.2% 18 10 3 0 8L6% 892%

第123通 常(92.L24~92.6.21) 102 87 84 80 95.2% 12 7 6 0 82.4% 92.0%

第126通 常(93.L22~93.6.18) 118 79 76 72 94.7% 26 6 16 1 64.4% 91.1%

第129通 常(94.L31~94.6.29) 93 80 75 67 89.3% 13 10 5 3 80.6% 83.8%

第132通 常(95.L20~95.6.1E) 128 lll 102 102 100.0% 20 7 6 2 79.9% 9L9%

第136通 常(96.L22~96.6,19) 120 HO 99 99 100.0% 16 10 5 1 82.5% 90.0%

出典:西 尾 ・村松編 『講座行政学第4巻 』(有 斐閣,1995年)118-119頁,お よび 『イ ミダス』(1997年 版)306頁 。継続審議法案 は除 く。 醤

9

図・ 「国立大学設置法等の一部を改正する僻 案」の審査過程 蟻

文 部 省 内 閣 法 制 局 α/一 一 一 一一 一 一 一 一 一 一一 一 一 一一 一 \ ・

雁 垂}一圓一圓一團一個一国一国一匿垂璽]一第二部長

→長

①如

(立 案)(省 内で審査)(第 二 部 で 審 査)(決 裁)

艶言⇒(二

)

内閣官房

会 事務次

官臓 等 團一

閣議決定

可国 決

会 歳立

国立学校設 置法 の一部 を改

正す る法律

1973年9月29日 公布 ・施行

参 照:『 内閣法 制局 百年 史』

68-69,226-227頁

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内閣法制局一その制度的権力への接近

して出席 し,法 制局の権威にかけて 「完ぺきを期 して」審査 した法案成立の

ため,全 力でその弁護に務めることになる。

さて,法 律用語の定義の 「莫迦 らしい厳密さ」については,井 上ひさしの

パロディ(32)に譲るとして,こ こで指摘 したいのは,内 閣法制局 の審査が法

案の法律技術面での審査にとどまらず,そ の実質的政策内容にまで及んでい

る点である。 それは 「超記録」長官だった佐藤達夫氏自身が認めている。

「国法の統一確保 といっても,法 形式だけの面での統一な らばいざ知 らず,

各法令案の矛盾てい触を調整するという段になると,そ れは必然的に法案の

実体の問題に関連 して くる。 しか し,こ れらのことは,わ れわれにとってむ

しろ第一の任務と考えざるを得ないのであるか ら,こ のような角度の法令案

の実体に影響が及ぶことは当然といわなければならない。」(33)

最近の例 としては,国 連平和維持活動(PKO)協 力法案 をめ ぐる内閣法

制局と外務省の 「罵声の飛び交う」こともあった対立が挙げられる。自衛隊

の海外派遣を支持する人々は,い きおい法制局の政治性を指弾することにな

る(鈎)。あるいは,各 省庁の審議会で法案作成の話になると,「 そういって も

法制局は通 らないで しょう」「法制局でひっかかって,こ うな りま した」 と

いわれて議論の腰が折 られることがままあるという。「実務官庁の実質的判

断に法制局が介入する」のは確かにおか しいのである。㈹ 一方,事 情通はこ

の点を逆手にとって,自 分の意に官僚を従わせるのに法制局の権威を用 い

る㈹。いずれにせよ,法 制局が 「変革」(そ のベクトルの向きは保革 どち ら

にせよ)を 阻む現状維持的機能を果たしている点については,第3節 でもう

一度論 じる。

繰 り返 しいえば,法 案の審査過程は内閣法制局の 「制度」としての 「力」

を跡づける重要な証拠である。予備審査を含めて,法 案立案省庁の担当者と

法制局の担当参事官がいかなる議論をたたかわせたのか,そ して法案はどの

ように修正 されていったのか等々,そ の現場を記 した ドキュメントは存在す

(1105)219

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政経論叢 第65巻第5・6号

るのであろうか。『内閣法制局百年史』によれば,「法律案の審査過程におけ

る資料は,一 切当局において,… …永久保存 されることとなっている。 この

資料には,主 務省庁が作成した原案,各 読会 ごとの修正案,そ の修正に当たっ

ての主務省庁の意見,審 査担当参事官の意見,審 査を行うに当たって参考と

された関係資料がすべて収録 されており,そ の立案の経緯を知 る上で貴重な

資料となっている。」(37)

しかし,元 文部官僚で 「法制局通いを命ぜられた」安嶋彌氏はこれに疑問

を投げかけている。すなわち,予 備審査が慣例化された結果,閣 議講義 され

る法文は当然予備審査以前の原案とは異なっている。請議以降の修正は技術

的なものがほとんどで,「法案修正の実質的な経過は,公 的にはなん ら残 ら

ないという結果 となった。」安嶋氏は予備審査を含めた資料を法制局に保存

するのみならず,国 立公文書館に引き継 ぐべし,と 提案 している㈹。予備審

査のプロセスがブラックボックスのままでは,意 味がないのである。

第2節 法制意見

以上の法案審査に加えて,内 閣法制局の 「力」を見せつけるものに,法 制

意見がある。その法的根拠は,内 閣法制局設置法中の所掌事務を規定 した第

3条 第3号 「法律問題に関 し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対 し意

見を述べること」にある。すでにみたように,こ の事務は第一部が担当する。

法律 ・政令の解釈について諮問された場合,法 制局としての見解を明らかに

することが仕事である。そして,こ こで注意すべきなのは,こ れが単なる参

考程度の意見にとどまるものではなく,事 実上,行 政部内の統一的解釈とし

て各省庁を律するきわめて強い拘束力をもつ点 だ。 法制意見㈹ が有権解釈

として政治や行政を動かすのである。

最近話題となった,地 方公務員の受験資格としての 「国籍条項」が提起 し

た問題は,法 制意見の威力,さ らには内閣法制局の 「政策遺産」の規定力を

220(1106)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

示 した典型的な例であろう。橋本大二郎高知県知事がその撤廃を目指 したの

に対 し,自 治省 は1953年 の法制局見解を盾に反対 した。 その見解 とは,

1953年3月25日 に当時の高辻正己第一部長が出 した,「 公務員に関する当

然の法理として,公 権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務

員となるためには,日 本国籍を必要とする」 という内容の回答である。 この

見解は1973年 に,自 治省から大阪府への回答で,地 方公務員に も適用す る

ことが明確にされた。「国家意思の形成」 は 「公の意思(あ る・いは,地 方公

共団体の意思)の 形成」 と読み替え られたことになる。

この 「国籍条項」のルーツは,1948年8月17日 の法務調査意見長官回答

(当時は法制局は解体され,法 務庁に属 した)に までさかのぼることがで き

る。 このとき,「わが法令の解釈上 日本国政府警察官 となるには,日 本国籍

を必要 とするか」 との照会に対 して,「 日本国政府警察官 となるには,日 本

国籍を必要 とする」 と回答。その理由は,「それらの者は……国家か ら,そ

の公権力の行使を委ねられるものであるか ら,国 家が充分にこれを信頼 し得

るものであり……」などとしている。要するに,外 国籍の者は信用できない

というわけである。 さらに,外 国人 はその属する国家に対 して忠誠義務をも

つであろうから乳彼 ・彼女を採用 し日本国への忠誠を義務づけることは 「そ

の者の属する国家の対人主権をおかすおそれがある……。」㈹ こうした相互

主義 は,1953年 の法制局見解に付けられた参照資料 に盛 り込 まれ,今 日の

議論でも内閣法制局が必ず持ち出す論法である㈹。法制局が過去の見解を忠

実に固守 しているのがわかる。

ではなぜ,明 文の規定がないのか。法文に記載がないか ら,法 制意見を求

められたのである。法務調査意見長官回答は続 く。「ひとりわが国のみ文明

諸国と異なる立場をとっているものとは考え難いから,わ が法令上明文のな

いことをもって日本政府の官吏たるには日本国籍を必要 としないと解すべき

でなく,官 吏たるには原則 として日本国籍を必要 とすることを当然 とする立

(1107)221

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場か ら,特 に明文を設けなかったものと解すべきである。」㈹ 法律以前の,

法律に謳 うまでもない当然の事柄,と いうことか。 ともかく,「当然の立場」

か ら 「当然の法理」まではほんの一歩だ。

しか し,こ こに大 きな落と し穴がある。法律ならその規定が時代にそぐわ

なくなった場合,手 順を踏めば変更す ることもできようが,「 当然の法理」

は法制意見ゆえに変えようがない。時代が変更を要請 しても,そ れを可能に

する手続がないからだ。内閣法制局はその見解を 「政策遺産」 として代々

「相続」 してゆ く。 こうして,法 治国家において,法 律で もない法制意見が

政治や行政を支配す るというパ ラドクスが生 じるのである。一役所が示 した

解釈にすぎないものに政治や行政が縛 られる。すなわち,こ こに内閣法制局

が 「最強力官庁」といわれる所以がある。 もちろん,そ れは厳 しく批判 され

る㈹。

とはいえ,こ のような法制意見の一貫性と拘束力が,歴 代政権の統一的な

行政運営を保証 して きたことも見落とせない。かって林修三氏は 「政治の風

向き'によって政府の法律解釈を変えるようなことがあっては困るのだ」 と語

り,工 藤敦夫氏の口癖は 「[内閣法制局の仕事 は一引用者]だ れが首相でも,

だれが長官で も変わ らない」であった。そして,こ れを内外に強 く印象づけ

るのが,国 会での長官答弁である。

「超々記録」長官の林修三氏の述懐によれば,長 官の仕事で最 も心を砕い

たのは,法 案審査よりも憲法 ・法律の解釈問題 わけてもその公式表明であ

る国会答弁であったという。それは行政部内では最高権威をそなえた最終的

答弁を意味するか らだ。 ここでの意見 ・解釈が有権解釈 として実質的に法律

等の解釈を定め,政 治や行政を動かす規範となる。それだけに 「前にいった

ことはまちが っていましたなどとは簡単にはいえないのである。」㈹

本来,法 令の解釈は裁判所の判決によって確定されるはずである。しかし,

現実には,内 閣法制局長官の国会答弁を頂点とした法制意見がその解釈を事

222(llO8)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

実上決定づけている。そこにはなん ら法的拘束力はないが,事 実の圧力が行

政部を従わせる。法制局内に,「わが国法制の支柱的存在」「自分が法治国家

を支えている」という責任感なり使命感がみなぎるのはこのためである。そ

れだけに,湾 岸危機からPKO協 力法成立に至る時期は,内 閣法制局が政治

か らの強い圧力にたじろぎ,そ の解釈の後退を強いられた苦悩の時期であっ

た(第3章 参照)。 そこに進む前に,こ の 「法の番人」 としての自負心が逆

機能的に働いている点にも目を向けなければならない。

第3節 「変革」に立ちはだかる壁

これまで述べてきたように,内 閣法制局 という 「制度」の力の源泉は,審

査権 と解釈権 としてまとめることができる。その機能は整合的な政策執行の

確保にあるが,そ れに固執するあまり,創 造的 ・弾力的な法案や解釈を圧殺

して しまう弊を免れない。現状に不満を抱き,法 律の範囲内で大胆な 「変革」

を志す人々にとっては,法 制局は最も目障りな存在なのである。彼 らの指摘

を手掛かりに,法 制局の逆機能的な働きを考えてみたい。

まず審査権についてみれば,各 省庁はすでに原案作成の段階において,内

閣法制局の審査を意識 して法案を起草することになる。すなわち,そ こには

法制局審査を通過することを念頭においた自主規制が働かざるをえない。そ

のため,各 省庁か ら出てくる法案は,現 状改革 とは無縁な当たり障 りのない

「保守的」性格を帯びる㈹。その上で,法 制局の法案審査が行われる。憲法,

他の法律やこれまでの国会答弁などとの整合性が徹底的に吟味され,法 案に

みが きがかけられる。それゆえ,過 去の積み重ね,つ まり法制局の 「政策遺

産」にそぐわない閣法が出てくることは決 してありえない。法制局の論理を

超える大胆な閣法は望むべ くもない。「規制緩和」「地方分権」 という時代の

キーワー ド実現を目指す立場からすれば,最 大の難関なのである㈹。

一方,こ れほど慎重に審査 されるのであるか ら,内 閣法制局が審査 した法

(1109)「223

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政経論叢 第65巻第5・6号

律で最高裁が違憲判決を下 した ものは1例 もない。政令に1件 あるだけであ

る(47)。しか し,見 方を変えればこうした事態は,憲 法81条 が謳 う最高裁の

権能(法 令の合憲性についての最終審)を 法制局が代行 していること,つ ま

り事前の違憲審査所になっていることを意味する。法制局が審査 した閣法で

違憲のものは1っ もないという事実が これを裏づける。 このことは三権分立

の原則か らの重大な逸脱といわざるをえない。官僚は法律を立案 し(立 法権),

執行する権利(行 政権)ば かりか,そ れが憲法に合致 しているか審査する権

利(司 法権)ま で,現 実には手中に収めているのだ㈹。

次に解釈権に?い てみれば,内 閣法制局が疑似憲法裁判所として果たして

いる役割がよりはつきりする。裁判所が政治の領域 に関 して憲法解釈を行 う

ことについては抑制的なのに対 して,法 制局がその任に当っているからだ。

最高裁に代わって,最 終の有権解釈を行うのである。戦後,憲 法9条 の解釈

を事実上決めてきたのは,法 制局である。最高裁が自衛隊の合憲性そのもの

に判決を下 したことは一度 もない。

積み上げられた内閣法制局見解によれば,憲 法9条 は以下のように解釈さ

れる。同条は独立国家としての固有の自衛権まで否定するものではない。そ

れゆえ,自 衛のための必要最小限度の戦力は保持できる。層自衛隊はこれに該

当 し,第2項 に禁止 された 「戦力」ではないbま た,交 戦権が否認されてい

るため,日 本は自衛戦争はできないが,個 別的自衛権の行使 としての自衛行

動は可能である。 しか し,国 際法上認められている集団的自衛権については,

日本は観念 としてもってはいるが,憲 法上行使することはできない。

そして,周 知のとおり,こ の9条 解釈をめぐって国会を舞台に,野 党議員

と内閣法制局幹部が丁々発止の論戦を繰 り広げてきた。 ここで野党議員が代

弁 したのは,9条 の拡大解釈に対する護憲勢力の懸念であった。 しか し,近

年 目立っのはむ しろ,集 団的自衛権 も行使できるようにさらに柔軟に解釈 し

て 「普通の国」を目指せという主張である(49)。あるいは,法 制局の高い壁を

224(ll10)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

逆手にとって,現 行解釈の 「元凶」である9条 そのものを明文改憲せよと進

言する㈹。「普通の国」を目指す勢力にとっても,法 制局 は頭 の痛 い関門な

のである。

これらの考察から明らかになることは,内 閣法制局 という 「制度」のきわ

めて強い自律性である。「社会」の様々な要求に屈することな く,法 制局 は

自らの固有の意思を貫 くことができる。 この場合の固有の意思とは,行 政の

一貫性の確保,す なわち,審 査 ・解釈に際 して積み重ねられてきた 「政策遺

産」の堅持である。それを変更することは 「首相の リーダーシップ」でさえ

容易にできない。要するに,そ こには 「従来どおり」を固守するという意味

での 「保守性」が大 きく作用 しているのである。法制局の硬直性が指摘され

る所以だが(51),そこに日本の 「強い国家」ぶ り(52)を見 いだす ことは容易で

あろう。

第3章 ケ ー ススタデ ィ ・「政 策 遺産」 破 綻 の軌跡

一湾岸危機からPKO協 力法成立まで一

前章で検討 した内閣法制局 による法案審査と法制意見には,実 は法制局の

もつ2つ の使命がないまぜにされている。1っ は法治国家を支えるために一

貫 した法体系を堅持するという使命であり,も う1つ は政府の法律顧問とし

て,法 律で示された時の政府の政策を全力で擁護するという使命である。後

者が前者へと連動するときはよいが,実 際には両者は矛盾することの方が多

い。言葉を換えれば,法 制局は法律の番人と政治の侍女とのいわば二重人格

性を兼ね備えているのである。その解消法は 「時の政府の政策を法治国家の

レールの上に置 く」こと(53)だが,い かにそれが困難であることか。 その例

証 を湾岸危機か らPKO協 力法成立に至る法制局の対応に求めたい。それは,

法制局の 「強さ」を担保 した 「政策遺産」を法制局自らがないが しろにして

(ll11)225

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政経 論叢 第65巻 第5・6号

ゆ く軌跡 で もあ る。

*以 下,登 場 人 物 の 肩 書 き は いず れ も当 時 の もの で あ る。

第1節 湾岸危機発生と 「集団的安全保障」

1990年8月2日 未明,イ ラク軍がクウェー ト領内に侵攻 し,約6時 間後

には首都 クウェー ト市を制圧 した。湾岸危機の始 まりである。 アメリカは多

国籍軍によるイラク包囲を目指す一方,日 本にも航空機や輸送船の提供,資

金拠出など具体的な支援を要請 してきた。日本政府は,集 団的自衛権の行使

を禁 じた憲法(と いうより,内 閣法制局の解釈)の 範囲内で,い かなる中東

支援ができるかを模索することになる。 また,9月 早々からはその法的根拠

としての 「国連平和協力法案」づ くりを本格化させた。 もちろん,そ の最大

の焦点は,自 衛隊の海外派遣の是非であった。

当初,政 府は,自 衛隊の多国籍軍,あ るいは将来結成が予想される国連軍

への参加 について,「集団的安全保障」という概念を持ち出 し,こ れを実行

する多国籍軍,国 連軍への自衛隊の派遣 は 「集団的自衛権」の行使とは異な

るという論法で,現 行憲法下での自衛隊の多国籍軍,国 連軍への参加に道を

開こうとした。そ して,国 際社会で 「名誉ある地位」を志向するという憲法

前文の文言にその合憲性の理由を見 いだ し,こ れらを組み込んだ新たな憲法

解釈を提唱した。㈲ この新解釈は小沢幹事長はじめ自民党側か らの強い意向

を受けて,外 務省が中心にまとめたものであった。

1990年10月12日,い わゆる中東国会(第119臨 時国会)が 開会。 その

夜,首 相官邸では党側が海部首相に憲法解釈の見直 しを迫 った。 しかし,首

相はこれに難色を示す。内閣法制局が新解釈に慎重な姿勢を固めていたから

である。 これに業を煮やした加藤六月政調会長は,「内閣法制局長官を辞あ

させて しまえ」と首相に詰め寄 った。(55)このように,肝 心の憲法解釈をめぐっ

て政府部内で調整がっかないまま,10月16日,国 連平和協力法案が上程 さ

226(1112)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

れる。その審議 において,法 制局はあくまで憲法解釈の一貫性にこだわるの

である。

すなわち,10月18日,工 藤敦夫内閣法制局長官は国会内で首相な らびに

坂本三十次官房長官に対 して,「武力行使を認めない憲法9条 がある以上,

『集団的安全保障』の概念を導入 しても武力行使を伴 う自衛隊の国連軍参加

は不可能」 と述べている。これまでの憲法解釈の積み上げか ら判断 して 「武

力による威嚇または武力の行使」を放棄 した憲法9条 がある以上,武 力行使

を伴う自衛隊の国連軍参加はできない,と 。(56)将来の国連軍参加のハー ドル

を少 しでも低 くしたい外務省の思惑とは真っ向からぶつかる見解である。

翌10月19日 の衆院予算委員会では,工 藤長官は,国 連憲章に基づ く正規

の国連軍が組織された場合の自衛隊参加について,「任務が 日本を防衛する

ものとは言い切れないような国連軍への自衛隊参加は憲法上,問 題があるの

ではないか」と,憲 法上の疑義を指摘 した。その際 も,同 長官が強調 したの

は 「憲法9条 の解釈,適 用のつみ重ね」である。

ここには,「どちらの概念を持ち出 したところで,武 装 自衛隊を海外 に出

すのは違憲だ」「『新解釈』 も何 もない。憲法解釈をし残 している部分はない」

といいきる内閣法制局の立場がス トレー トに反映されていた(57)。法制局内に

は,「いくら研究 しろと言われても(自 民党執行部が)期 待する結論が出 る

ほどこれは生やさしい問題ではない。全 くのナンセンスだ」働 との声す ら出

ていたのである。政治の圧力に屈 しない法律の番人 としての毅然たる態度 と

いえよう。当時の内閣官房副長官石原信雄氏の証言によれば,「 与党 はあな

たの更迭を言 っているよ」 と与党内の空気を伝える石原氏に対 し,工 藤長官

は 「私はクビになるならなってもいい。(見 解を)変 えるわけにはいかない。

憲法解釈上,最 も重要な点だからね」 と答えたという(59)。

さらに工藤長官は,10月24日,こ の日始 まった衆院国連平和協力特別委

員会の質疑において,自 衛隊の武力行使を伴う国連軍参加には憲法改正が必

(1113)227

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政経論叢 第65巻第5・6号

要になる旨答弁 し,そ の違憲性を重ねて表明した。 これを受けて,同 日夜に

は外務省首脳が,25日 には海部首相がそれぞれ この答弁を支持 し,憲 法の

新解釈論議は一時沈静化に向か う。坂本官房長官は25日 夕の記者会見で,

政府 として,自 衛隊の参加を可能とする憲法解釈の変更は行わないことを公

式に確認 した。憲法解釈にこだわるあまり,国 連平和協力法案の審議が進ま

ないのは得策ではないとの計算が働いたのである。(60)

そこで政府は,多 国籍軍,国 連軍への関わりを 「参加」と 「協力」とに使

い分けることで,ブ レイクスルーを図ろうとした。10月26日 の衆院国連平

和協力特別委で,中 山太郎外相が発表 した 「国連軍への参加 と協力」に関す

る統一見解がそれである。 自衛隊の参加する平和協力隊の国連軍への関与に

ついて,国 連軍司令官の指揮下に入る 「参加」 と,組 織の外か ら行う 「協力」

を分け,国 連軍の武力行使 と一体とならないような 「協力」は合憲,と いう

判断を示 した。内閣法制局か ら 「武力行使 と一体でない協力は憲法上は可能」

との事前の了解を得てのものだったが,「武力行使と一体 とな らないような

「協力」の意味がはっきりせず,そ のためのもう1っ の統一見解が必要だ,

という指摘が出るほどであった〔61)。

これについて,衆 院国連平和協力特別委の審議では,10月29日,工 藤長

官は 「法律上,ぎ りぎり(の 歯止め)は どこだということと,政 策的選択と

してどこで止めるかというのとは,お のずか ら別個の問題だ」とし,最 終的

にはその時点での政府の判断で決めるしかない,と かわ した(62)。すなわち,

自衛隊の国連軍 「参加」には明確に 「ノー」を貫 いたが,国 連軍への 「協力」

には余地を残 したわけである。政治の侍女 としての顔をかいまみせた答弁で

あった。

いずれにせよ,国 連平和協力法案審議は,首 相周辺にも 「急 ぎ過 ぎ」 との

批判がくすぶる.ほど拙速をきわめたものであった。相次 ぐ答弁のもたつきと

食い違い,そ のたびに出される統一見解の数々がそれをよく物語 っている。

228(1114)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

結局,自 民党内にも次第に反対論が噴出し,11月8日,自 社公民4党 幹事

長 ・書記長会談で,自 民党は同法案の廃案表明を余儀なくされた。代わって

同日,自 公民3党 は,r自 衛隊とは別個に,国 連の平和維持活動 に協力する

組織をつ くるJこ とを謳 った 「国際平和協力に関する合意覚書」(い わゆる

自公民3党 合意)を まとめた。

この時点では,「集団的安全保障」概念をその 「政策遺産」 で一蹴 した内

閣法制局の権威 は,ほ とんどほころびを見せることはなか ったのである。

第2節 湾岸戦争勃発と自衛隊機派遣問題

1991年1月16日,国 連安保理決議が設定 したイラクのクウェー ト撤退期

限はついに切れた。 それか ら半日あまりして,米 軍主力の多国籍軍がイラク,

クウェー ト占領地内の戦略拠点の爆撃を開始。湾岸危機は戦争という最悪の

事態に至った。多国籍軍が くりだすハイテク兵器の威力に世界の耳目は集ま

ることになる。

一方 ,自 民党首脳は湾岸支援策として,イ ラクか らの避難民の脱出が予想

されるヨルダンのアンマンか らカイロまでの移送を自衛隊機によって行 うこ

とを海部首相に提案,1月17日 の記者会見で首相 は 「自衛隊輸送機 の使用

も検討する」と述べた。問題はその法的根拠をどこに見いだすかである。

当初,防 衛庁などは自衛隊法100条(訓 練目的の輸送業務委託)と 同法施

行令121条 によって,派 遣は可能であるとの解釈を取 った。 しかし,1月17

日の安全保障会議で工藤内閣法制局長官は,「100条 には 『訓練の目的に適

合する場合』とある。海外での輸送事業が,ど のような訓練に役立っと言え

るのか」と,100条 に基づ く自衛隊機派遣の難点を指摘 した(63)。法制局 には

「『訓練』を根拠にした場合,有 事の際はいっでも自衛隊機を出せることにな

り,歯 止めがきかなくなる」㈹ との懸念があったのである。

自民党内には内閣法制局の慎重姿勢への不満が再び渦巻 いた(55)が,政 府

(1115)229

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政経論叢 第65巻第5・6号

は法制局の判断を尊重せざるをえなかった。そこで,次 に考え られたのは,

国賓などの輸送を定めた自衛隊法100条 の5に 基づ く派遣である(1月22

日)。同法100条 の5に は,「防衛庁長官は,国 の機関から依頼があった場合

には,航 空機による国賓,内 閣総理大臣,そ の他政令で定める者の輸送を行

うことができる」旨規定 されている。「その他政令で定める者」 に避難民を

含めようと したのである。24日 の政府 ・自民党首脳協議で,こ れに基づ く

特例政令(「 湾岸危機に伴う避難民の輸送に関する暫定措置に関する政令」)

を新設することが決められ,25日 に閣議決定された㈹。

しか し・そもそもこの自衛隊法100条 の5は,1986年 の東京サ ミッ トに

合わせてフランスか ら購入したヘリコプターを自衛隊に移管 した際に追加さ

れた規定であった。 しかも,そ の法改正にあたっての質疑応答で,大 森政輔

内閣法制局第二部長は,「『その他政令で定ある者』の内容は 『国賓,内 閣総

理大臣』 という例示,列 挙されたものとおよそかけ離れた者は予想 していな

いという場合にこのような表現を使 う」と答弁 している(1986年12月 参院

内閣委員会)(67)。それゆえ,そ こに避難民を含めることは拡大解釈 もはなは

だしいことになる。法制局の 「政策遺産」に反することは明 らかだ。本来な

ら自衛隊法改正を要する事柄である㈹。それでもなぜ,あ えて法制局はゴー

サインを出 したのか。

もちろんそれは,内 閣法制局が政治からの強い圧力についに抵抗 しきれな

くなったからである。 自衛隊機派遣の抜 け道を模索する海部首相や橋本竜太

郎蔵相に 「何 とかならないか」「髪の毛一本のすきでもいい」 と迫 られ,工

藤長官は 「やってみましょう」 と約束 したという㈹。 ここにおいて法制局は

政治的配慮を優先させるあまり,法 体系を堅持するといういま1っ の使命を

放棄 したのである。 これがその後の国会で,工 藤長官に苦 しい答弁をさせる

ことになる。

1月25日 に再開された第.120通 常国会は,多 国籍軍への90億 ドルの追加

230(1116)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

支援問題 とならんで,自 衛隊機派遣問題が論議の主な焦点であった。2月4

日の衆院予算委員会で,藤 田高敏氏(社 会党 ・護憲共同)は,過 去の政府答

弁と今回の特例政令による派遣の食い違いを追及 した。藤田氏は,自 衛隊法

100条 の5に ある 「その他政令で定め る者」 に避難民を当てはめることは

「かけ離れた者」にあたるのではないか,ま た,海 外邦人救出の場合で も自

衛隊法に任務の規定がないため,法 改正が必要だと防衛庁幹部が答弁 してい

る㈹ と質 した。

これに対 して,工 藤長官は,一 般的 ・恒久的任務と緊急 ・暫定的任務の使

い分けを示 し,「これ[防 衛庁幹部の答弁 一引用者]は,自 衛隊に海外邦人

の救出を一般的な任務として与えるためには,任 務を付与する明確な規定が

必要であろうということで,今 回のような特に人道的な見地か らの臨時応急

の場合まで想定 したものではない」 と答えた。さらに 「その他政令で定める

者」 については,「決 していわゆるVIP,高 位高官を念頭に置 いた というこ

とでは必ず しもない。む しろ,国 としての輸送の必要性などか ら規定される

ところだ。そういう観点から,今 回の避難民を臨時応急のものとして政令で

指定 していくのは,決 してはずれたものではない」と述べている㈹。

自衛隊法改正は必要なく,特 例政令で行うことに問題はないという見解で

ある。「人道的な見地」の重要性はいうまでもないが,過 去 の答弁 に 「実 は

あれは一般的な任務を規定 したにすぎなかった」 と今になって言い繕っても,

とても納得できるものではない。あるいは,何 をもって 「臨時応急の場合」

とす るか,何 をもって国が 「輸送の必要性」を認めるかについて,政 府の裁

量次第で無限に拡大解釈 される危険性 もある。政治の要請 に内閣法制局が合

わせた当然の帰結であった。

翌5日 の衆院予算委員会でも,市 川雄一公明党書記長がこの工藤長官の説

明について,「過去の質疑での質問は,『緊急時に』 と言 っているのであり,

『一般的な任務』 として聞いているのではない。また,政 府側 も 「一般的な

(1117)231

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任務』 として答弁 していない」 と重ねてその矛盾を衝いた。そして,政 府に

統一見解の提出を求めたのである㈹。これを受けて,政 府は8日 の予算委員

会に文書で政府見解を提出した。そこでは 「緊急時」で も法改正が必要とし

たがっての政府答弁に制約されて,「一般的」には法改正が必要だが 「緊急

時」には不要 という前日の論法は取 り下げられた。代わ って,「 国による輸

送の必要性その他諸般の事情を総合 して評価すべきである」 と して,「 輸送

の必要性」 を 「100条の5」 が行われる基準だとした(73)。つま り,国 が必要

と認めれば,法 改正を経ずに可能 ということになる。どう言葉を弄 しても,

自衛隊の海外派遣には法改正が必要 との従来の立場が,事 実上変更されたこ

とは疑いなかろう。

当然 こうした見解は海外邦人救出をめぐる議論に連動 してゆく。2月12

日の衆院予算委員会で工藤長官は,「特殊な事態なら」 自衛隊機 は避難民輸

送のみならず海外邦人救出も行うことができるのかとの質問(佐 藤敬治氏 ・

社会党)に 対 して,「特殊な緊急事態の発生にあたっては全 く許 されないわ

けではない」と述べた㈹。特例政令の擁護に自縄自縛となり,こ れまで現行

法では不可能とされていた海外邦人救出 も,「臨時応急」の措置 として 「別

個の特例政令」を定めれば可能だ,と 新たな見解を示さざるをえなかったの

である。 これによって,理 論的には,政 府は政令を根拠に自衛隊機派遣を思

いのままにできるようになった。

さて,事 実上,湾 岸戦争は6週 間で決着がっ き(正 式停戦は4月12日),

結果的に,日 本政府が自衛隊機派遣を要請されることはなか った。特例政令

は用いられることなく,4月19日 の閣議で正式 に廃止 された。 しか し,過

去の政府答弁という 「政策遺産」にこだわり続けてきた内閣法制局が,こ の

問題に関 して一転 して 「政治的答弁」に踏み込んだことのもつ意味は小 さく

ない。 いったん,政 治的要請を受け入れると,も はや後戻りはできなかった。

次に見る掃海艇派遣問題でも,内 閣法制局は政治の侍女 として振 る舞わざる

232(lll8)

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内閣法制局一 その制度的権力へ の接近

をえ なか った の で あ る。

第3節 掃海艇派遣問題

政府 ・自民党は,湾 岸危機 ・戦争を通 じて日本の 「人的貢献」が思 うに任

せないことを憂慮 していた。アメリカをはじめ国際的に非難されるのが必至

と思われたからである。そうした折,1991年3月 初旬,ド イツが掃海艇の

ペルシア湾への派遣を決定 した。日本でも掃海艇派遣が急浮上 したのはむし

ろ必然であった。

自衛隊法99条 は,機 雷除去を自衛隊の任務と定めている(「海上自衛隊は,

長官の命を受け,海 上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれ

らの処理を行うものとする。」)。これは,ア ジア太平洋戦争中か ら残 ってい

る日本近海の機雷が船舶航行の邪魔 になることか ら,海 上自衛隊が除去に当

るために設けられたもので,日 本近海での行動 しか想定 していなかった。そ

れゆえ,ペ ルシア湾への掃海艇派遣を可能にするためには,次 の2っ の疑問

に答えなければならなかった。

第1に,自 衛隊の主 たる任務を定めた自衛隊法3条(「 自衛隊はわが国の

平和 と独立を守 り,国 の安全を保っため,直 接侵略及び間接侵略に対 しわが

国を防衛することを主たる任務 とする。」)に 照らして,掃 海艇をペルシア湾

まで派遣するのは,任 務の逸脱ではないか。第2に,こ の点をクリアしたと

しても,自 衛隊の活動範囲にはおのずと地理的限界があるのではないか。

これに対 して,工 藤内閣法制局長官は3月27日 の衆院予算:委員会で,「99

条は,本 来の任務 とは若干異なり,い わゆる雑則で機雷等の除去を行いうる,

との権限を海上自衛隊に与えたもの」と述べている。法制局内には,100条

以下で南極観測への協力などのサービス業務を定めているところが ら,「99

条もサービス業務という読み方をすれば,3条 の拘束を受けない」 という見

方 もあったという㈹。

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さらに,第2の 点については,中 曽根内閣時代の1987年9月 に出された

政府答弁書の見解が踏襲された。当時,イ ラン・イラク戦争 に関連 して,中

曽根首相がペルシア湾への掃海艇派遣に意欲を示 した。87年9月 に出 され

た政府答弁書は,処 理する機雷が公海上にある,そ れが日本船舶の航行の障

害にな っている,と いう2点 の条件が満たせば,自 衛隊法99条 による派遣

は可能とした㈹(実 際には,後 藤田官房長官の 「政治判断」により見送 り)。

99条 の当初の立法趣旨から離れて,条 文が 「独 り歩 き」 して しまったこと

がわかる。

それでも内閣法制局は掃海艇派遣に関 しては,こ の答弁書ですでに法的問

題 は解決ずみ,と の立場を取 った。当時の中曽根首相の 「独走」に法制局が

あわててまとめた答弁㈹ に,い わば救われたのである。工藤長官 は 「自衛

隊法の規定は,日 本の船舶の航路の安全を確保するために,自 衛隊の出動を

認めている」という99条 解釈を繰 り返すにとどまった。 その出動範囲をめ

ぐっては,津 野修第三部長が3月15日,衆 院外務委員会で 「(自衛隊が活動

する)地 理的範囲はおのずと限界があり,そ の時々の状況を勘案 して(派 遣

可能か)判 断すべきだ」「(ペルシャ湾への派遣の可否については)地 域の状

況やわが国船舶航行 の安全確保 の観点 か ら十 分判 断 して決 め るべ き

だ」㈹ と答え,明 言はしなか った。取 り方によっては,自 衛のためなら公海

上どこへで も派遣できるということにもなる。

仮にここで,内 閣法制局の解釈を受け入れるとしよう。 しかし,そ れでも

釈然としない問題が残 される。今回の機雷除去作業は,海 域を米国などと分

担する見通 しであった。 自衛隊の掃海艇が 「日本船舶の航行の障害になって

いる」機雷のみを掃海するとは,も ちろん限 らないのである。派遣を正当化

する 「自衛的見地」からはみ出る恐れが多分にある。法制局内で も,「 国際

協力の観点がら,日 本船に関係ない海域まで掃海するのは,論 理的に無理」

との見方が根強かった㈹。さらには,ペ ルシア湾の機雷敷設についての情報

234(1120)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

をにぎっていたのは,米 中東艦隊である。掃海作業は米軍との共同行動にな

らざるをえない。これは集団的自衛権の行使にあたるのではないか。

しかし,こ れらの点はほとんど詰めきれないまま,4月26日,海 上 自衛

隊のペルシア湾掃海派遣部隊が出発 した。法解釈と政治決断で再び法治主義

の原則が破 られたのである。内閣法制局 もこれに手を貸 した ことになる。4

月中旬,自 民党国会対策委員会の関係者が本音を洩 らしている。 「法改正を

やろうとして も,法 制局審査に1ヵ 月半 もかかる。それでは,モ ンスーンに

入る6月 までに,掃 海艇がペルシア湾に着 くことができない。」㈹ 先に掃海

艇派遣ありき,だ った。

第4節PKO協 力法の成立

湾岸戦争の終結,掃 海艇派遣という既成事実,そ して国民間での 「国際貢

献」意識の高まりを踏まえて,政 府 ・自民党は国連決議に基づ くPKOに 対

象を絞った法案を準備 した。「国連平和維持活動等 に対 する協力に関する法

案」(PKO協 力法案)で ある。先の国連平和協力法案が,多 国籍軍への協力

も含んでいたためもあって廃案に追い込まれたことを教訓としたのである。

同法案には,い わゆるPKF(平 和維持軍)へ の自衛隊員 を含む人員 の参

加が盛り込まれた。これは憲法で禁 じた武力行使を伴 うのではないか。 この

点,1991年6月 末に内閣官房がまとめた法案の基本案は,「武力行使」 と自

衛のための 「武器使用」は全 く意味が違 うという新 しい解釈を打ち出すこと

で,乗 り切ろうとしていた。

だが,内 閣法制局は当初,こ うした言葉の使い分けには否定的であった。

「政策遺産」が重 しとなったのである。1980年 の政府答弁書には 「(停戦監

視団や平和維持軍の)目 的 ・任務が武力行使を伴 うものであれば,自 衛隊が

参加することは憲法上許されない」とある。工藤内閣法制局長官はこれに基

づいて,1990年ll月 の衆院国連平和協力特別委員会 で,「 平和維持軍は,

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政経論叢 第65巻第5・6号

紛争再発の抑圧まで考えたもので,軽 武装 しており,停 戦監視団とは性格が

違 う。……平和維持軍的なものは参加することが困難な場合が多い」と述べ

ている。それを今回,平 和維持軍の武器使用は武力行使ではないか ら合憲と

するには,あ まりに落差が大 きすぎた(81)。

もちろん,こ の法制局の 「壁」 に対 し,自 民党内には,た とえば三塚博氏

が 「内閣法制局がオールマイティーということでは,法 制局があって政治が

ないという批判が起きないとも限らない」 と発言するなど,苛 立ちが募 っ

た(82)。「法制局たたき」の構図が三たび生まれっっあったのである。

党内にそんな声が飛び交 う中,政 府は1991年7月31日 夕,PKO協 力法

の基本案を決定する。翌8月1日,自 民党に,2日 には公明 ・民社両党にも

これを提示 した。その最大の目玉 は,自 衛官を併任で参加させる 「平和維持

活動協力隊」の新設とPKFへ の自衛隊部隊の原則参加であった。特 に後者

については,憲 法の制約上 「武力行使」 はで きないが,正 当防衛のための

「武器使用」 は可能 とされた。PKF出 動 は当事者間の休戦協定の成立が前提

となっている。 とすれば,紛 争当事者同士が停戦を受け入れている 「停戦状

態」においては,当 事者からの攻撃はありえず,こ れに対する 「武力行使」

の必要性 は論理的に出てこない。攻撃を受けるとすればゲ リラ活動などであ

るから,個 人の自衛の範囲での 「武器使用」によって対処できる。一方,停

戦協定が破れ 「停戦が完全に崩れた状態」では,PKF派 遣 の前提が崩れた

わけで,た だちに撤収する。 その際の生命を守るための正当防衛 としての

「武器使用」は認められる。

問題 は 「停戦が崩れかけた状態」である。当事者の代表間では停戦が成立

しているものの,そ の指令が徹底せず散発的な攻撃がある場合,い かなる行

動をとるべ きか。部隊として反撃できるのか。 これについては,7月30日

夜の内閣法制局と外務省の綱引きの結果,「武力行使」 にあたるか どうかは

日本自身が判断 し,そ れに相当する組織的な応戦をせざるをえないと判断す

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内閣法制局一その制度的権力への接近

れば,独 自に撤退させるとの合意に達 した。法制局 としては,憲 法判断は自

国が行 うというギリギリの線をなんとか確保 した形で,政 府原案をまとめる

ことができたのである⑯。

もちろん,停 戦の状況をこのように杓子定規に場合分けすることに,ど れ

だけ現実性があるかはなはだ疑問である。 ゲ リラなどには正 当防衛 として

「武器使用」ができるといって も,相 手が何者かわからない不測の事態は十

分考えられる。紛争当事者からの 「散発的な」攻撃かもしれない。 また,個

人的な 「武器使用」 と組織的な 「武力行使」の間はなにをもって線が引かれ

るのか。 さらに,日 本の独 自の判断で撤退できるとしたが,自 民党内か らは

「何十か国も平和維持軍(PKF)に 参加 している中で,日 本だけ引 き揚げる

わけにはいかない」 という批判 も出された㈹。

いずれにせよ,こ の政府の基本案は,8月5日 召集の第121臨 時国会で論

議の的となる。 自民党か らの圧力,お よび政府原案作成へのコミットによっ

て,内 閣法制局にはもはや,PKF参 加を合憲 とする以外に選択肢はなか っ

た。

お盆休み明けの8月22日,衆 院予算委員会で工藤内閣法制局長官は草川

昭三氏(公 明党 ・国民会議)の 質問に答えて,「 目的任務が武力行使を伴 う

PKF参 加でも,わ が国 として自ら武力を行使せず,か つPKFの 武力行使 と

一体化 しないのであれば,わ が国の武力行使と評価を受けることはない」 と

述べ,PKF参 加が憲法に反 しないという新見解を明 らかに した。 これまで

は 「仮にわが国が武力行使 しなくともPKFの 武力使用と一体化するため,

日本による武力行使 と同様の評価を受ける」としてPKFを 違憲と してきた。

が,今 回の場合,① 停戦合意が崩れPKFが 武力行使を行 う場合は撤収する,

②武器使用は要員の生命防護など必要最小限に限定する,と いう二つの条件

を遵守すれば,「維持軍の武力行使と一体化 しないので」憲法 に反 しないと

した㈹。

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政経論叢 第65巻第5。6号

これによっそ内閣法制局としては,従 来の見解との整合性を図ったという

ことなのであろう。 しか し,こ こに見 られるのは,自 衛隊機派遣時と同 じ論

法といえる。過去の見解は前提を設けない一般論を述べたにすぎない,と す

るもρだ。つまり,あ る行為を違憲 としてきた従来の見解に対 して,あ とか

ら 「ただし……の場合はこの限りでない」式の但 し書きを状況追随的に付け

加え ることによって,解 釈を拡大するやり方である。 その際,必 ず新たな概

念が言い繕いの便法として 「考案」 される(例 ・「参加」に対する 「協力」,

「武力の行使」に対する 「武器の使用」)。これが濫用されれば,そ れこそ法

治国家の根幹をゆるがすことになる。つまり,こ こに至って,内 閣法制局は

法律の番人 としての 「政策遺産」を完全に食いつぶ して しまったのである。

PKO協 力法案 は9月19日 の臨時閣議で閣議決定 された。 そ して9月25

日,PKO法 案提出を受けた衆院国際平和協力特別委員会で,工 藤長官は再

び,撤 収 ・武器使用の2条 件でPKF参 加 は合憲であるとの見解を表明 した。

とはいえ,現 場の状況 には千差万別のグレーゾーンがあり,そ れ らをこの見

解か ら胴分けするのに,さ らなる言い繕いが行われることになる。

工藤長官は武力行使 について,「 わが国の人的物的な組織体 による,国 ま

たは国に準ずる組織に対する武力紛争の一環 としての戦闘行為」と定義 し,

隊員個々の判断で生命防護のために行 う武器使用とは区別されるとした。組

織的に武器使用 した場合は武力行使につながるとの見解である。ただし,池

田行彦防衛庁長官 は,武 器使用の判断を 「上官の もとで束ねる形はありうる」

と述べ,組 織的な武器使用に含みを持たせている。厳格な指揮命令系統によっ

て動 く自衛隊員 には,「自分の判断で撃 っていいとの訓練 はできていない」

現実をにらんでの留保発言である。それでも 「部隊としての使用はない」と

の立場は譲 らず,防 衛庁の畠山防衛局長 は 「組織ではなく,あ くまでも組織

的に行 う」 と補足 した㈹。

「組織としての使用」は武力行使にあたり違憲,「 組織的使用」は 「組織体

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内閣法制局一その制度的権力への接近

による戦闘行為」ではなくあくまで武器の使用であって合憲という,ほ とん

ど論理的に成り立たない言い抜けである。ともあれ,PKO協 力法案 は国会

の残 り会期が少なか ったため採決に至 らず,10月3日 継続審議 となった。

審議は次の臨時国会に持ち越された。

自民党総裁選挙の結果を受けて,第122臨 時国会が11月5日 に召集 され

た。武器使用をめぐって,特 にここで問題にされたのは,自 衛の範囲の取 り

方について,国 連の基準と政府見解で食い違いがある点である。国連は自衛

目的の武器使用として,要 員の生命防護 とともに 「平和維持軍の任務遂行妨

害」 も認めてきた(即)。しか し,政 府の立場は,武 器使用は要員の生命防護の

ために限るというものであった。 これ以上は 「憲法の禁 じる武力行使にあた

る可能性がある」(内 閣法制局)。 ところが,PKO協 力法案作成の基礎となっ

た国連文書が明らかになり,こ れには 「任務遂行の妨害排除」のための武器

使用が盛 り込まれていたことから,実 際の運用上,本 当に自衛隊の行動が国

連文書に拘束されないのか,疑 問がわき上がった。 これが,11月18日,再

開された衆院国際平和協力特別委員会での審議の中心となった。

さらにこれと関連 して,国 連文書にある 「軍事要員は事務総長の命を受け

た現地司令官のコマンド(指 揮)下 に入り,出 身国の指揮を受けない」との

規定 も問題にされた。政府は,部 隊への 「指揮権」は日本側にあ り,国 連の

コマン ドは懲戒権を伴わない 「指図」だという説を展開 した。その背景には,

国連に指揮権を認めて しまうと,「任務遂行の妨害排除」 のための武器使用

が避け ら・れない,「停戦合意が崩れPKFが 武力行使を行 う場合 は撤収する」

というPKF参 加の原則が守 られない,と いう懸念があった。(as:しか し,二

重の指揮権がいかに現場に混乱をもた らすかはいうまで もない。

こうしたあいまいさを残 しなが らも,11月27日,自 民,公 明両党は国際

平和協力特別委でPKO協 力法案を一部修正め上強行採決,12月3日 には衆

院本会議で可決され,参 院に送付された。そして12月5日,参 院国際平和

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政経論叢 第65巻第5・6号

協力特別委へと舞台は移される。 ここで も,「任務遂行の妨害排除」 のため

の武器使用,お よび上官が 「束ねる」集団的な武器使用について質されたの

であった。

矢田部理氏(社 会党)が この点を追及 したのに対 して,外 務省の丹波国連

局長は 「(任務の遂行を妨害する行為を止めるため)説 得 した り空砲 を撃 っ

ている途中で,相 手が鉄砲を発射 しそうになった場合,自 衛官は武器の使用

を許される」 というマ ンガ的な答弁なが ら,任 務遂行の妨害排除のための武

器使用を容認する見解を示した。 これを受 けて工藤長官 は,任 務遂行妨害に

対する武器使用や上官の指揮 に基づく集団的な武器使用については 「すべて

憲法の禁止する武力行使 に当たるとは思わない」 と答弁 した(89)。

この言い抜けば論理的に破綻 している。それまで,任 務遂行の妨害排除の

ための武器使用はすべて,自 衛のための 「武器使用」を逸脱 した 「武力行倒

にあたるとしていたにもかかわらず,突 如 ここで,任 務遂行の妨害排除のた

めのある 「武器使用」は 「武力行使」にあたらない,と 主張 しているのであ

る。「すべてのXはYで ある」(A)と主張 した場合,「 あるXはYで ない」

ことが指摘 されれば,主 張(A)は論理的に成 り立たなくなる。つまりは,任 務

遂行の妨害に対 して 「武器使用」ができるし,部 隊 としての 「武器使用」 も

できるといっているのに等 しい。事実上の 「武力行使」の肯定といえる。内

閣法制局はついに,自 分 自身で課 した最後の一線さえ守 りきることはできな

かったのである。

結局,PKO法 案 はこの国会でも成立に至 らず,再 び継続審議 とな った。

1992年1月24日 召集の第123通 常国会で自民党は,公 民両党を取 り込んで

の法案成立を目指す。公明党が主張 したPKFへ の参加の凍結,お よび民社

党が掲げた国会の事前承認を自民党が受け入れ,6月1日 に3党 共 同で

PKO法 案の修正案を提出した。参院本会議で社共両党は牛歩戦術 で抵抗 し

たが,同 修正案は6月9日 未明,参 院を通過。衆院に送 られた。衆院では自

240(1126)

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内閣法制局一その制度的権力への接近

公民3党 の強行姿勢の下,ス ピー ド審議となり,12日 には衆院本会議が開

かれた。そして,議 員辞職願を出 した社会党 ・社民連両党議員141人 が欠席

する中,6月15日 に衆院本会議で可決,「 国連平和維持活動協力法」が成立

した。

「同局[内 閣法制局]'の 法律上の意見の開陳は,法 律的良心により是なり

と信ずるところに従 ってすべきであって,時 の内閣の政策的意図に盲従 し,

何が政府にとって好都合であるかという利害の見地に立ってその場をしの ぐ

というような無節操な態度ですべきではない。そうであってこそ,内 閣法制

局に対する内閣の信任の基礎があり,そ の意見の権威が保たれるというもの

であろう。」㈹

これは元内閣法制局長官 ・高辻正己氏の言葉である。湾岸危機発生か ら

「PKO法 成立 までの内閣法制局の見解の動揺と後退は,官 僚の 「最後の牙城」

を誇 った法制局が政治の論理と都合に完全に屈伏 していった軌跡であろう。

高辻氏の言葉になぞ らえれば,そ こに示された 「盲従」「その場 しのぎ」 お

よび 「無節操な態度」によって,「 その意見の権威」は完全 に失墜 したとい

えるのではないか。

むすびにかえて

本稿が目指'したのは,内 閣法制局が知 られざる 「最:強力官庁」であること

の例証である。その 「強さ」が,い かにわが国の政治過程における 「制度」

的要因となっていることか。 これまでみてきた内容を最後にいま一度まとめ

ておきたい。

第1章 では,戦 前の法制局が,枢 密院によってしか縛 られないフリーハン

ドを明治憲法体制下で制度的に与えられていた別格官庁であったこと,そ れ

(1127)241

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政経論叢 第65巻第5・6号

を受 け継 いだ戦後の内閣法制局の機構面での特徴,お よびその別格性を保障

するたあに練り上げられた人事異動の準則などについて論 じた。そして,そ

れを補強する材料として,1970年 以降の参事官経験者の主 な履歴を図表化

してみた。

彼 らえり抜 きのエリー トたち(キ ャリア官僚 しか,さ らにその中でも特定

の省庁の官僚 しか参事官になれない)が,国 民の審判を全 く受けることなく,

わが国の立法過程,広 くとれば政策決定過程に対 して,実 質的な支配力を行

使 している。 この点を第2章 では指摘 した。 もちろん,わ が国の 「行政 スタ

イルの政策決定方式」 においては,各 省庁の官僚が実際の政策形成を取 りし

きっている。 しかし,内 閣法制局の官僚たちは,そ の立案内容を審査 し,法

制局の 「政策遺産」にそぐわないと判断 した場合,拒 否権すら用いることが

できるのである。その意味で,法 制局は 「官庁の上に君臨する官庁」 といっ

てもよかろう。

あるいは,内 閣法制局は,法 制意見を示 したり憲法の有権解釈権を事実上

独 占することによって,国 が重大な方針の転換を行おうとする際には,必 ず

ブレーキをかける。「法制局見解」の権威にあらがうことは首相 です ら容易

ではない。確かに,こ れは統一的な行政運営の確保の観点からみて重要であ

ろう。だがその一方で,「政策遺産」にこだわり,そ の無謬性を信 じて疑わ

ないあまり,時 代の要請に即応 した政策展開を阻害 している点 も否定できま

い。50年 前近 く前に出された法制意見である 「国籍条項」 を維持する合理

性が,現 在どこにあるのか。

すなわち,今 日の日本で立法的手段によう 「変革」を考えれば,必 ずそこ

に内閣法制局が大 きな壁となって立ちはだかる。それは時には 「内閣内の野

党」 とさえなる。その壁を突き崩す制度的な手立てはない。そこで,苛 立っ

政府 ・与党は,外 圧に後押 しされた国際貢献 というきわめて強い政治の圧力

によって,強 引に一点突破を図ったのである。第3章 ではこれを,法 制局の

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内閣法制局一その制度的権力への接近

側から 「政策遺産」が放棄されてゆく経緯として描いた。それは憲法の番人

が政治の ピエロに成り下がる顛末でもあった。

このように,政 治の都合で法解釈を改あ,そ れにもかかわ らず従来の解釈

との整合性を強弁する内閣法制局の姿勢は,法 治国家として由々しき事態 と

いわざるを得ない。政府 ・与党のごり押 しには柔軟に対応 し(91),市民や地方

政府か らの要請には従来の見解を頑として譲 らない。これはほとんどダブル

スタンダー ドに近い。われわれの声のつぶてが大石となって,「最強力官庁」

を動かすことはできないのであろうか(92)。

今回の検討では,た とえば審査過程の現状に十分実証的に迫れず,「 壁」

の高さを具体的に提示で きなかったなど,論 じ尽 くせなかった点は数 しれな

い。本稿を踏み台にして今後 さらに考究を深めたいと思 っている。

《注》

(1)「 内 閣 法 制 局 一大 蔵 省 主 計 局 と並 ぶ 別 格 官 僚 機 構 」 『選 択 』1991年4月 号,

126頁,生 田 忠 秀 「ニ ッポ ン官 僚 よ ど こへ 行 く』(NHK出 版,1992年)145頁 。

(2)岩 井 奉 信 「立 法 過 程 』(東 大 出版 会,1988年)43頁,伊 藤 憲 一 「主 計 局 一 法

制 局 の二 局 支 配 の罪 の深 さ を認 識 せ よ!」 「財 界 』1992年2月18日 号,22頁 。

(3)こ れ に つ い て は,拙 稿 「研 究 ノー ト 国家 論 ア プ ロー チ と新 制 度 論 」 『政 経

論 叢 』 第64巻 第3・4号(明 治大 学 政 治 経 済 研 究 所,1996年)で 論 及 した。

(4)真 渕 勝 「大 蔵 省 統 制 の政 治経 済 学 」(中 央 公論 社,1994年)52頁 。

(5)徐 龍 達 「論 壇 『国 籍 条項 』 は法 治主 義 に 反 す る」 『朝 日新 聞」1996年5月28

日。

(6)M.WeirandT.Skocpol,"StateStructuresandthePossibilitiesfor

`Keynesian'ResponsestotheGreatDepressioninSweden,Britain,andthe

UnitedStates",inP.EvansetaL(eds.),BringingtheS∫ α'θBαcんIn(Cam-

bridge:CambridgeUP,1985),p.119.こ の論 文 で ウ エ ア ー と ス コ チ ポ ル は,

1930年 代 の大 恐 慌 時 に ス ウ ェー デ ン,イ ギ リス,ア メ リ カ が と った 政 策 的 対

応 を比 較 し,そ の 相 違 の 説 明 を 各 国 の 「国 家 構 造(statestructures)」 と

「政 策 遺 産 」 の違 い に求 め て い る。

(7)高 辻 正 己 「内 閣 法 制 局 の あ ら ま し一再 建20周 年 に 寄 せ て 一 」 「時 の 法 令 』

1968年8月3日 号,34頁 。

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政経論叢 第65巻 第5・6号

(8)筆 者が調べ た限 りでは,政 治学,行 政学の分野 で,内 閣法制局を主題'として

論 じた書物,論 文 は これまで ほとん どなか った。

(9)な お,そ の9年 前 の1973年 に,同 局の内閣復帰20周 年を記念 して,内 閣法

制局史編集委員会 によって 『内閣法制局史』が公刊 されて いる。

(10)第 一条 法制局ハ内閣二属 シ左 ノ事務 ヲ掌ル

ー 内閣総理大臣 ノ命二依 リ法律命令案 ヲ起 草 シ理由 ヲ具 ヘテ上 申ス

ニ 法律命令 ノ新定廃止改正 二付 意見 アル トキハ案 ヲ具ヘ テ内閣 二上 申ス

三 各省大臣 ヨ リ閣議 二提 出スル所 ノ法律命令案 ヲ審査 シ意見 ヲ具へ又ハ

修正 ヲ加ヘ テ内閣 二上 申ス

四 前項二掲 クルモノ \外 内閣総 理大 臣 ヨ リ語詞 アル トキハ意見 ヲ具ヘ テ

上 申 ス

内閣法制 局百年 史編集委員会編 『内閣法制局百年 史』(内 閣法制 局,1985年)

350-351頁 。

(11)梅 谷文夫一橋大 学名誉教授 の解釈。 中村 明 『戦後政治 にゆれた憲法九条一内

閣法制局 の自信 と強 さ一』(中 央経済社,1996年)42-43頁 。

(12)1947年6月4日 か ら1954年12月11日 まで(片 山内閣か ら第5次 吉 田内 閣

まで)法 制局長官 を務 めるという 「超 レコー ド」 を打 ち立 てた佐藤達 夫氏 は,

戦前 の参事官 の意識 をこう証言 して いる。「法制局が独立 だ とい う ことにつ い

て は,当 時,先 輩 たちか ら法制局官制 に 「法制局 ハ内閣 二隷 シ』 とな っていて,

他 の外局 のよ うな 『……大臣 ノ管理 二属 シ」 とい うのとちが うんだ ・とい うこ

とをよ く聞 かされた。当時の官制で 「隷 シ』 を使 っていたのは文官部局 では法

制局 と賞勲局 だけであった。」佐藤達夫 「法案作 りの四半世紀(II)」 「自治時

報』1955年3月 号,28頁 。

(13)注10に 列挙 された法制局の所掌事務の うち,「二」「三」 の規定 が根拠。

(14)前 掲 『内閣法制局百年史』136頁 。

(15)同 書,140頁 。

(16)こ れ につ いて,林 修三元内閣法制局長官 は以下 のよ うに記 して い る。 「昭和

27年 の春 の第13回 国会でハ プニ ングが起 こったので ある。3月6日 の参議 院

の予算委員会で,野 党側の委員の質疑 に対 し,吉 田首相が,憲 法第9条,特 に

第2項 の解釈 に関 して,佐 藤法制意見長官が出席 して いないと ころで,そ れ ま

での政府 の解釈 を若干逸脱す るような答弁を行 い,大 きな問題 を引 き起 こ した

ので ある。……24日 に,吉 田首相 じき じきの ことばで,法 制 局 を昭 和23年2

月 に法務庁が発足す る前の内閣に直属す る部局 と して復活せ よという話が 出た

ので ある。……私 ど も法制 意見各局 側 は,こ れ[法 制局的機能 を法務省 の外局

的な もの と してつ ける機構案]に は大不満で…… そういうところに出 てきたの

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内閣法制局一その制度的権力への接近

が吉 田首相 の鶴 の一声 で,こ の一声 に基 づ いて,右 の構想 はご破算 になり,法

務省 と法制意見部 を分離 し,法 制 意見部 の方は,従 前の法制局のよ うに内閣 に

直属 する組織 になる ことにな ったのであ る。法制意見部側 にとって は吉田 さん

の失言 は,ま さに天佑 であ った ともいえ よう。」内閣法制局百 年史 編集 委員 会

編 『内閣法制局 の回想』(内 閣法制局,1985年)7-8頁 。

(17)設 置法第3条 に所 掌事務 が掲げ られて いる。

第三 条 法制局 は,左 に掲げ る事務をつか さどる。

一 閣議 に附 され る法律案 ,政 令案及 び条約案 を審査 し,こ れ に意見 を

附 し,及 び所要 の修正を加えて,内 閣 に上 申す ること。

二 法律案及 び政令案を立 案 し,内 閣 に上 申す ること。

三 法律問題 に関 し内閣並 びに内閣総理大臣及 び各省大 臣に対 し意見 を

述べ ること。

四 内外及び国際法制並 びにその運用 に関す る調査研究 を行 うこと。

五 その他法制一般 に関す ること。

前掲 「内閣法制局百年史」400-401頁 。

(18)同 書,438頁 。

(19)歴 代長官が参事官の登用方針 につ いて述 べて いると ころによれ ば,「 参 事官

には,各 省又 は司法部内 における実務 の経験 を もち,法 律家 的素養 のある,な

るべ く若 い人を採用す ることに している」(佐 藤達夫 「法律 が生 まれ るまで」

「法律時報』1953年1月 号,47頁),「 内閣法制局参事官 は……通常,行 政,司

法 の実務 をおおむね10年 以上経験 した,法 律 及び実務 につ いての知 識 も経験

も豊か な者か ら任命 され る」(高 辻正 己,前 掲論文,38-39頁)。

(20)と はいえ,現 在の参事官24名(併 任者 を除 く)の うち,司 法試験 合格者 が5

名(シ リアルNo.9,12,82,88,100)い る。 大蔵 省 はと りわ け,79年7月

(シ リアルNo.85が 法制局入 り)以 来,出 向 させ る3名 のポス トすべ てを司 法

試験合格者 で固 めている。 すなわち,第 一部で はNo.8~12の5名 が,第 三 部

ではNo.77~82の6名 と,No.85~88の4名 が司法試験合 格者 であ る。

(21)歳 川隆雄 「大蔵省 「権力 の秘密」』(小 学館,1995年)79-80頁 。

(22)「 出身省 の法案担 当者 には厳 しく接 し,他 省庁の法案担当者 には親切 に な っ

て しま ったよ うであ る。参事 官を出向 させていない省庁 は,割 を食 った ような

感 じを受 ける らしいが,実 際はその反対 であ る。」中村四郎 「第 四部 の源流 の

中で」前掲 『内閣法制局 の回想』362頁 。

(23)荒 井 勇 「法制局十 八年」 「ファイ ナンス』1972年6月 号,42頁 。 なお,荒 井

葵氏は1942年8月 大蔵省 入省,1953年7月 の発令 で法制 局入 り。 以 降18年

間にわた って在 職 し,1971年 に内閣法制局第三部長 を最後 に退職 した。

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政経論叢 第65巻 第5・6号

(24)林 修三 『法制局 長官生活 の思 い出』(財 政経済 弘報社,1966年)8頁 。

(25)2名 の参事官経験者 の述懐 を紹介 してお く。 「法制 局 は,明 治 以 来の伝 統 あ

る役所 とい う誇 りをみん なが もっているせいか,寄 り合 い所帯 であるに もかか

わ らず,法 制局 とい う役所 に対す る出向職員 の気持 ちが,大 方 の寄 り合 い所帯

的官庁 とは全然 ちが って いる… ほか の寄 り合 い所帯的官庁 のよ うに,そ の出身

官庁 の方ばか りを向いて仕事をす る傾向 は全 くなか ったといって よい。」 林 修

三,前 掲書,253頁 。「仕事の方 は,必 ず しも楽 ではな か ったが,法 制 局 に は

寄 り合 い世帯 にあり勝 ちな感情的な対立や遠慮,気 づ まりといったものはなく,

公私 にわた り実 に楽 しく過す ことがで きたことは真 に幸せであ った。」 竹 内勉

「法制 局時代の思 い出」「ファイナ ンス』1985年12月 号,63頁 。

(26)林 修三,前 掲 書,30頁,高 辻正 己,前 掲論文,38頁 。

(27)林 修三,前 掲書,31頁 。

(28)た とえば,佐 藤内閣時の高辻正 己内閣法制局長 官は,「核 兵 器 は必ず し も憲

法違反 ではない」 とい う政府答弁 を示 し,そ の理 由 として 「もしピス トル型 の

核兵器 が完成 し,ピ ス トル程度 の威力 とい う場合 は,自 衛 の範 囲を超 え るもの

ではない」 とい う珍妙 な論理 を展開 した。 ピス トルで満 たせる威 力を核兵器 な

どでっ くる必要 があろ うか。森岸生 『首 相官邸 の秘 密』(潮文社,1981年)124

頁。

(29)村 松岐夫 「日本 の行政』(中 公新書,1994年)31-32頁 。

(30)前 掲 「内閣法制局百年史』214,222頁 。事前審査 を行 う理 由 と して,内 閣

法制局が挙 げて いるのは,次 の3点 である。

① 正式 の閣議講義後審査 を開始 したのでは,数 多 くの法律案 を少数 の参事

官で短期間 に集 中的 に処理す るのに適 しない。

② 特 に原案 に大修正を加え ることになったときにその修正 のための事務処

理が いたず らに煩雑で ある。

③ 大修正が加 え られ るような場合その ような閣議講義書 は主務省庁 にとつ

'ても余 り名誉 なことで はな い。

(31)小 島和夫 『法律がで きるまで』(ぎ ょうせ い,1979年)83頁 。

(32)井 上ひ さ し 「パ ロディ志願』(中 央公論社,1979年)83-9E頁 。

(33)佐 藤達夫 「法制局 あれ これ」「法律の ひろば』1952年11月 号,22頁 。

(34)上 坂冬子 ・西元徹也 ・桃井真 「もう寝 たふ りはで きない」『THISIS読 売』

1996年7月 号,122-123頁 。

(35)加 藤一郎 「参与会 に参加 して」 前掲 『内閣法制局の回想』71頁 。

(36)(加 藤寛氏の発言)「 そ して最 後に[行 政改革をや る一引用者]文 書をつ くる

わけですが,役 人 は自分に損にな らないよ うに手をいれ ます。 それを直 させ る

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内閣法制局一その制度的権力への接近

には,内 閣法制局 に 『これでいいんで しょうか』 と持 ち込む。 法制 局 は自分の

権威が あるか ら,必 ずケチをっ けます。 それを持 って帰 って,『 これ では法 制

局 は通 らんよ』 とや る。」加藤寛 ・岩井奉信 ・田原総一朗 「列 島再 編 『究極 の

行革』試案」『現代』1993年4月 号,43頁 。

(37)前 掲,『 内閣法制局百年史』227-228頁 。

(38)前 掲,『 内閣法制局の回想』468-469頁 。

(39)本 稿で は便宜上,法 令解釈 につ いての内閣法制局 の見解 を 「法制意見」 と総

称す るが,よ り正確 には,各 省庁の照会 に対す る文書 での意見 回答 を 「法制意

見」 といい,口 頭 による回答 は 「口頭意見回答」 とよばれ区別 され る。法制意

見 は,法 務庁時代にすで に 『法務総裁意見年報」(1948~52年 度)と して出版

され,そ の後 『法制局意見年報』(1952~61年 度)お よび 『内閣法制 局意 見年

報』(1962~68年 度)に 引 き継がれ た。 また,1985年 には内閣法制局創設百年

を記念 して,代 表的な法制意見を集め刊行す るという企画が なされ,当 時 の第

一部長であ った前田正道氏(1986年1月2日 急逝)の 編集で 『法制意 見百 選」

(ぎ ょうせ い,1986年)と して出版 された。

(40)前 掲,「 法制意見百選」367-368頁 。

(41)1953年 の法制局見解に付 けられた参照資料 には 「公 務員 は,そ の 国 の法令

に全 面的に服 しなければな らない関係上,本 国の法令 に も服 しなけれ ばな らな

い外 国人 が公務 員にな ることは,当 人に対す る本国の主権を侵す恐れが ある」

とある(『朝 日新 聞』1996年3月4日)。 そ して,1996年5月23日 の参院地方

行政委員会 で,秋 山牧 第一部長 は 「国籍条項」 につ いて,外 国人を公権力の行

使 などに携 わる公務員 に採用 した場 合は,外 国人が国籍を持つ国の主権を侵す

おそれがある,と 述 べてい る(『朝 日新 聞」1996年5月24日)。 在 日外 国人 の

歴史 的事情 を考慮 に入 れない杓 子定規 な法律 論 と批判せ ざるをえな い。

(42)前 掲,『 法制意見百選』368頁 。

(43)た とえば,「法制局見解 は,行 政 が民衆 を支配 す るとい う旧憲法 の思 想 があ

る」(イ ンタビューに対 する橋本大二郎知事 の答え)「 日本経済新聞』1996年2

月26日 。 あるいは,「『当然 の法理」 な るものは,… …実は,決 して,法 理 論

的 に 「当然』 であるわけの ものではない。 それは,要 す るに,外 国人が公務員

になれないのは当然 である,と い う固定観念 ない し俗論 の表明に過 ぎず,実 定

法上 に明文 の根拠 を有 する ものでない ことは もちろん,法 理論 的に確た る根 拠

に裏打 ちされた もので もないのである。」浦部 法穂 「外 国人 の公 務 就官 と国 籍

条項」「都市問題」第84巻 第11号(1993年11月)3-4頁 。

(44)林 修三,前 掲書,33-34,64頁 。

(45)五 十嵐敬喜 『議員立法」(三 省堂,1994年)106-107頁 。古 くは,敗 戦直 後

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政経論叢 第65巻 第5・6号

に末広厳太郎 が,「原案 を立 てる所管官庁 で も法制局 が うる さいか らといふ よ

うな理 由か ら,と か くあり来 た りの形式 を追 うて保守 的にな り易 い」 と指摘 し

て いる。 同 「法律時評」 『法律時報』1947年2月 号,1頁 。

(46)な お,そ の ブレイ クスルーを議員立法 に求 めよ うに も,事 態 は悲観的である。

議員立法 は国会上程以前 に議院法制局 を通 すとい う慣例 があ り,そ こで内閣法

制局 とほぼ同様 の法案審査が行 われる。議員が いかに斬新 な立 法をつ くろ うと

も,議 院法制局 において骨抜 きにされて しま うの だ。 渋谷 修 「議 会 の時代 」

(三省堂,1994年)189頁 。

(47)戦 後,最 高裁 が違憲判決 を下 した法律 は4件 あるが,い ずれ も議員立法 で内

閣法制局 の審査 を経 たものではない。 また,違 憲判決 を受 けた唯一の政令 とは,

農地法施行令第16条 の規定 である。 中村明,前 掲書,29頁 。

(48)渋 谷修,前 掲書,58頁,五 十嵐敬喜 ・小川 明雄 『議 会』(岩 波新書,1995年)

72頁 。

(49)以 前 であれば,法 制局が,参 事官 の保守 的気質 と結 びついて 「前進 的施 策」

の展開 を阻んでい る面 が批判 された。(た とえば,佐 藤竺 「司法 官僚 と法 制 官

僚」『岩波講座現代 法6現 代 の法律家』岩波書店,1966年,59頁 。)つ ま り,

法制局 は革新 的な 「変革」 に対 す る反動 の砦 とみなされたのである。 しか し今

日では,集 団 的自衛権 の容認 などの保守 的な 「変革」 に対 して,従 来 の憲 法解

釈 に固執 す る元 凶だ として,法 制局 は保守層 か らもや り玉 に挙 げ られてい る。

たとえば,次 のよ うな主張 がなされる。

「多 くの人 が言 っているよ うに,日 本 は集 団的自衛権 を保 持 して い るが行 使

できない とい う,内 閣法制局 のばかばか しい硬 直ぶ りは,ア ジア情勢下 で 日本

を危険 に してい る。 今や法律 家たちの孤立 した独善 が国民感情 か ら遊 離 し,集

団 的非常識 に走 るのが時代特 徴である ことに,わ れわれは批判 の 目を向け るべ

きと きではな いか。」西尾幹二 「国民 か ら遊離 した法 律 の世 界 」 『産 経新 聞』

1996年4月18日 。

(50)西 元哲 也前 防衛庁統合幕 僚会議議 長 「米 側か ら要請 があ った場合,民 間が燃

料補給 を支援 し,輸 送や整 備を支援す ることはよ くて,自 衛隊がやれば 『集団

的自衛権 の行使」 という憲 法の解 釈に抵 触す るとい う点は,何 とか検討の余地

はないのかな,と 思 うのですが……。」上坂冬子氏(作 家)「 問題 は,こ ういう

やや こしい話 の元凶 は何か とい うことです。」前掲,上 坂他 「も う寝 たふ りは

で きない」123-129頁 。 また,産 経新聞 も,集 団的 自衛権の行使を明文 改憲 に

よ って可能 にせ よという立 場を鮮明に してい る。 「産経新聞 は集団 的 自衛権 の

行使を認あ るべ きだ とい う立場 に毅然 と して立つ。 しか し,そ れを憲法改正で

可能にす るのか,あ るい は憲法解釈を広 げて可能にす るのか。 これ は重大 な岐

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内閣法制局一その制度的権力への接近

路 である。 ……憲法 を形骸化 させるよ りも,守 るに足 る透 明性 の高い憲法に改

める方が,日 本 に衿持 を もた らし,他 国の信頼感 を与 え る最良 の道 であ る。 そ

の大事業 を平時 にな し得 る英知 ある国民 か どうかが今問 われてい る。」 「主張 」

『産経新聞』1996年5月3日 。

(51)1954年6月 か ら1967年4月 まで参事官 を務 めた成 田頼 明氏 は こう述 べて い

る。「それ と併 せて もう一 つ,ぜ ひお願 い してお きたい ことがあ る。 それ は,

過去 の先例 や固定観念 に とらわれないで,と きには新 しい考 え方 を法制度 や法

解釈 に取 り入れ て戴 きたいとい うことであ る。 ……審議会 や研究会 で新 しい提

案 を したと ころ,法 制局 における法案審査 の段階 や法制局 の固 い解釈 のために

流れて しま った ものが ある。 ……ときにはその手堅 さが法 の進歩 を妨 げ,世 の

進展 に適合 した望 ま しい制度 の創設 を阻 む こと もあ りうるとい うことをあえて

申 し述べて おきたいので ある。」前掲,『 内閣法制局 の回想」275-276頁 。 元参

事官の言葉だ けに貴重で ある。

(52)ノ ル ドリンガー(E.Nordlinger)の 「国家の 自律性 」の3分 類 によれ ば,

「強 い国家」 とは 「国家官僚層 は,そ の選好が 『社会』 の選好 と異 な る状 況 に

お いて さえ,自 らの選好 に基づ いて行動す る」国家 である。前 掲,拙 稿,343

頁。

(53)片 岡寛光 『内閣 の機能 と補佐機構』(成 文堂,1982年)258頁 。

(54)「 毎 日新聞』1990年10月15日 。

(55)「 知 られざ る内閣法制局の実態」『週刊東洋経済』1991年2月23日 号,39-40

頁,「朝 日新聞』1990年10月20日 。

(56)「 毎 日新聞」1990年10月19日 。

(57)『 朝 日新聞』1990年10月20日 。

(58)「 毎 日新 聞』1990年10月19日 。

(59)「 証言 ・官 と政 石原信雄 ・前内閣官房副長官 の7年 」『毎 日新聞』1995年9

月13日 。

(60)『 朝 日新 聞』1990年10月26日,『 毎 日新聞』1990年10月28日 。

(61)『 朝 日新 聞』1990年10月29日 。

(62)『 朝 日新 聞』1990年10月30日 。

(63)「 朝 日新 聞』1991年1月19日 。

(64)「 読売新 聞』1991年1月20日 。

(65)た とえば,1月18日 夜の 自民党首脳の次の発言が伝え られて いる。 「内 閣法

制局幹部 が 自衛隊機派遣 に首をか しげてい るら しいが,首 をか しげ る ぐらいな

らば,首 を切 って しまえばい い。法制局 は内閣が決めた政策に理屈をつ けるの

が仕事 であ り,内 閣の足を引 っ張 るような ことはすべ きで はな い。不満 なら辞

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政経論叢 第65巻 第5・6号

めるのが筋 だ」『朝 日新聞』1991年1月19日 。

(66)「 朝 日新聞』1991年1月31日 。

(67)「 朝 日新聞」1991年1月26日 夕刊。

(68)1973年9月 の衆 院予算委員会で,当 時の吉国一郎 内 閣法制 局長 官 はす で に

次の ように答弁 している。「避難民を輸送す るという全 く平和 目的 に限定 す る

なら憲法9条 で問題 にな るような事柄で はな い。 ただ,自 衛隊法上 そういう責

務 は任務 と して規定 されて いないので,法 律の手当て はいると思 う。」「毎 日新

聞』1991年2月5日 。

(69)「 工藤法制局長官 の苦 しい答弁」 『AERA』1991年3月5日 号,20頁 。

(70)1987年8月 の衆院内閣委員会 での依田防衛庁官房長の次の答弁 を指す。 「海

外邦 人の救出 ということになる と,平 和的手 段で救出す るという場合にお いて

も現在 自衛隊法で任務が与 え られていな い。 したが ってその場合 には自衛隊法

の改正が必要であ る。」

(71)「 朝 日新聞』1991年2月5日

(72)「 朝 日新聞」1991年2月6日 。

(73)「 毎 日新 聞」1991年2月9日 。

(74)「 毎 日新 聞』1991年2月13日 。 層,

(75)「 朝 日新 聞』1991年4月13日,『 毎 日新 聞J1991年4月12日 。

(76)「 朝 日新 聞』1991年4月13日 。

(77)1987年8月,衆 院内閣委員会 で中曽根首相 は,「 ペル シア湾で も(日 本 近海

と)法 的に(機 雷除去について)差 があ るとは思 わな い。(掃 海 艇派遣 は)武

力行使 に もあた らな いし,海 外派兵 に もあた らない」 とい う新見解 を打 ち出 し

た。 しか し実 はこの とき,内 閣法制局 が用意 した答弁 資料 は 「問題 な しとは し

ない」 とな っていた。自衛隊法99条 の当初 の立法 趣 旨を踏 まえて の判断 で あ

る。首相 の 「独走 」 に法制局 はあわてた。法 的整合性 を保 つための政府答 弁書

が同年9月 に出 され,「公海上 に遺棄 された と認 め られる機雷 が,我 が国 船舶

の航行 の障 害にな っている場合,そ れを除去 す る行為 は自衛 隊法上 可能」 とせ

ざるをえなか ったのである。「朝 日新 聞』91年5月14日 。

(78)「 読売新 聞」1991年3月16日 。

(79)「 朝B新 聞』1991年4月13日 。

(80)「 朝 日新 聞』1991年4月25日 。

(81)『 朝 日新 聞』1991年7月28日 。

(82)「 朝 日新 聞』1991年7月23日 。 また,こ の三塚発 言 に呼応 す る よ うに,西

岡武夫総務会長 が27日,当 時 の党首脳 と しては じめて,「過去 の答弁 に縛 られ

て政策 の対応 を誤 ってはいけな い」 と法制局 の対応 に疑問 を投 げかけた。三塚

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内閣法制局一その制度的権力への接近

派幹部か らは 「法制局長官 は閣僚で な く,幕 僚 にす ぎないの だか ら,気 に入 ら

なければ罷免すれば いいんだ」 といった強硬論 も飛 び出 し,政 府内か らも 「過

去の答弁に 自縄 自縛 にな って いる」 との声が上が った。r朝 日新 聞』1991年8

月1日 。

(83)『 毎 日新 聞』1991年8月2日 。

(84)『 読売新聞』1991年8月2日 。

(85)『 毎 日新聞』1991年8月23日 。

(86)『 毎 日新 聞』1991年9月26日 。

(87)キ プロス国連平和維持軍(UNFICYP)派 遣 に際 して,平 和維持軍 の 「過 剰

防衛」を防 ぐために,当 時の国連事務総長 ウ ・タ ントが作成 した 「キプロス国

連平和 維持軍 の機 能 お よび諸 活動 に関 す る若干 の 問題 につ いて の覚 え書 」

(1964年4月10日 公表)に お いてすで に,「 自衛の要件」 と して 「指揮 官 の命

令に基 づ く兵員 の任務 遂行を武力 により阻止 しようとす る企ての場合」が掲 げ

られて いる。1973年 の第二次国連緊急軍(UNEFH)設 置時 の事 務総 長報 告

も 「任務遂行 の妨害排除」を 「自衛 」の事例 に含 める見解 をと り,さ らに1978

年の レバ ノ ン国連暫定軍(UNIFIL)に ついて も,こ れが引 き継 がれて い る。

香西茂 『国連 の平和維 持活動』(有 斐閣,1991年)176,271-272,294頁 。

(88)「 朝 日新 聞』1991年11月28日 。

(89)『 毎 日新 聞』1991年12月5日 夕刊。

(90)高 辻正 己,前 掲 「内閣法制局のあ らま し」42頁 。

(91)法 案 が内閣法制局 を通 るか どうか は,高 度に専門化 した 「政治」が もの をい

い,そ のため,政 界 において実力者 とな るに は,法 制局に人脈を もち,圧 力の

ルー トを確保 する必要 があ るとの話 さえあ る(五 十嵐敬喜,前 掲 『議員立法』

117頁)。 法制局 にカオの きく政治家 はだれか,興 味をそそ られ る。

(92)地 方 公務員 の国籍 条項 に関 して は,96年11月22日,白 川勝 彦 自治相 が

「一般事務職 の採用 は基本 的に は,地 方 自治体が公務員の基本 原則 を踏 まえ た

上 で,責 任を もって適 切な判 断を して も らう」 との大臣談話を発表 し,従 来の

内閣法制 局見解 に固執 しない新たな立場を示 した。 これ以降,大 阪府,神 戸市,

滋賀県,神 奈川 県,横 浜市 で,国 籍条項の 「条件つ き」(外 国 籍 の者 は管理 職

に昇任 させない)撤 廃 表明が相次 いでい る。『朝 日新聞』1997年1月25日 。

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