電力中央研究所はじめに...

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  • (表紙の写真は、火力発電所の循環水管に 10cm の厚みで付着したムラサキイガイです)

  • はじめに

    地球上には様々な生き物が、いろいろな場所で暮らしています。熱い

    温泉にも寒い南極にも生物がいます。私たちの生活になくてはならない

    電気を作る発電所に住み着く生き物もいるのです。発電所にとって生き

    物は運転の邪魔になることが多いのですが、住み着いた生き物にとって

    は住みやすい場所のようです。発電所は大量の水を発電のために使っているため、流れのある環境

    ができます。ここで暮らしている生き物たちは、流れてくるプランクトンなどの餌を十分にとり、

    魚などの外敵から身を守ることができます。

    私は、これらの生き物による被害を防ぐために、生き物の性質を調査し、対策に役立てる研究を

    これまで行ってきました。発電所の生き物についてあまり一般の方はご存じないので、研究の過程

    で出会った生き物について知っていただこうとこのパンフレットを作りました。これまで私が撮っ

    た写真を主に用いて見やすいように工夫したつもりです。研究の実施に際して多くの皆様のご協力

    をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

    発電所の水路に入って調査をする時間は限られており、写真撮影の腕前も素人ですが、皆様が、

    「こんな生き物が発電所にいるのか」と興味を持っていただくきっかけになれば幸いです。

                                            坂口 勇

  • 発電所の構造について

    発電所の構造についてご存知ない方もいらっしゃると思いますので、水の生き物と関係あ

    る部分について簡単に説明します。

    海水を冷却水として使用している発電所には、火力発電所と原子力発電所があり、本パン

    フレットでは両方併せて臨海発電所と表現しました。海水は、主に復水器で水蒸気を水に戻

    すための冷却水として使用されます。取水路には海水中のゴミを取り除くためのバースクリ

    ーン、ロータリースクリーンなどの除塵機があります。ゴミを取り除かれた海水は、循環水

    ポンプで汲み上げられて循環水管を通って、復水器に入り、多数の復水器管で蒸気の熱を冷

    やして、放水管をとおり、放水されます。

    水力発電所では、水の落差を利用して水車を回して発電します。ダムやえん堤などで蓄え

    られた水を、沈砂池で土砂を取り除いたあと、導水路を通じて発電所まで導きます。

  • 目次

    1.ムラサキイガイ ··················································· 1

    2.アカフジツボ ······················································ 3

    3.ミドリイガイ ······················································ 5

    4.管棲多毛類 ························································· 7

    5.クラゲ ······························································· 9

    6.付着細菌 ···························································· 11

    7.トビケラ ···························································· 13

    8.カワヒバリガイ ··················································· 15

  • 1

    1.ムラサキイガイ

    ムラサキイガイは地中海など世界の各地に生息しており、日本には 1920 年代に入ってき

    ました。フランス料理などの食材としてお馴な

    染じ

    みで、ムール貝という名前の方が良く知ら

    れていると思います。繁殖力がとても強いので、水産養殖の施設や発電所の水路に付着し

    て問題となります。日本の臨海発電所で最も大量に付着する生物で、通水の障害となるだ

    けでなく後の処理も大変です。発電所の付着生物の中では大きな方で、殻の長さが 9cm ぐ

    らいまで成長します。付着の仕方は、足から何本も前後左右に糸を出して水路の壁面や他

    のムラサキイガイに付着します。仲間の殻の上に積み重なって付着するので、付着層の厚

    みが 10cmを超えることもあります。付着時期は冬から春が多く、東京湾では 4 月頃が最

    も付着が盛んで、東北などの寒い地方では少し遅れて5~7月頃になります。

    ムラサキイガイの浮遊幼生は遊泳力が弱いので水流が速いと付着できません。アカフジ

    ツボなど流れの速い環境でも付着できる種類が付着した後には、水路の壁面に凸凹が生じ

    て流れの遅い場所ができるので、ムラサキイガイが付着できる環境となります。

    ムラサキイガイの付着個体数は、東京湾など幼生がたくさんいる海ほど非常に多く稚貝

    がびっしりと発電所の水路等に付着します。これが全部生き残って成長すればものすごい

    数になるのですが、成長する過程で徐々に数が減少して、生息できる密度に落ち着くよう

    です。

    ムール貝なら発電所のムラサキイガイも食べればいいじゃないかとお考えの方もいると

    思います。水路に付着したムラサキイガイを除去するのには時間がかかる、大きさが大小

    さまざま(養殖されているムール貝は選別して育てられます)、海域によっては海水が汚れ

    ているイメージがあるなど食材として利用するにはネックとなることがいくつかあります。

    でもできるといいですね。

  • 2

    上:防汚塗装した取水路の壁面と天井に付着したムラサキイガイ

    下:取水槽で除去したムラサキイガイとアカフジツボ

  • 3

    2.アカフジツボ

    フジツボは、エビやカニの仲間の甲殻類に分類されます。

    富士山の形に似た殻の中に軟体部が入っていて、蔓つる

    のような

    脚を殻口から広げてプランクトンをこしとり、掻きこむよう

    に動かして餌を取ります。

    アカフジツボはフジツボ類の中では大型で、発電所の水路

    でも多く生息しています。殻が大きいこと、仲間どうしで積

    み重なって付着する、成長が速い、固着力が強いことなどか

    ら発電所の運転に悪い影響を及ぼす主要な生き物です。

    アカフジツボは、キプリス幼生が付着変態して成体となります。キプリス幼生は柿の種に似

    た形をしており、二本の触角でペタペタと付着場所を探して歩き回ります。アカフジツボはあ

    まり湾の奥にある発電所より、外洋水の影響を受ける発電所に多いようです。流速が速い循環

    水管にも付着しています。強固に付着し剥がすのが大変です。

    アカフジツボは復水器の管板に付着して、成長して復水器管の径を狭めることがあります。

    管径が狭まると、管内の生物被膜除去に使用されているスポンジボールが通過できなくなり復

    水器管の中が汚れたままとなります。復水器の管板にアカフジツボが付着している水室は流れ

    の出口側であることが多く、入口側はスポンジボールが当たってアカフジツボの幼生が剥がれ

    るため少ないのではないかと考えています。

    アカフジツボは、ロープにも付着することができます。殻の底からセメント物質を出して、

    ロープの形に沿って殻を作ってしまいます。フジツボの殻にはキプリス幼生の付着を誘う物質

    が含まれていて、アカフジツボの上に幼生が付着変態して、2 階建て、3 階建てのアカフジツ

    ボを見ることが珍しくありません。

  • 4

    上:取水路に付着したアカフジツボ

    壁面は付着を防ぐ塗装をしているが、塗装後

    年数が経過して付着を防ぐ性能が低下している

    中(左):復水器水室壁面に付着したアカフジツボ

    中(右):取水路から採集したアカフジツボ

    大きな個体の上に小さな個体が付着している

    下:復水器管板に付着し、スポンジボールの

    通過を妨げているアカフジツボ

  • 5

    3.ミドリイガイ

    ミドリイガイは、フィリピ

    ン以南、インドから西太平

    洋にかけて広く分布してお

    り、高水温を好みます。東

    南アジアでは養殖して食用

    にしています。日本では 1967 年に兵庫県相生で初めて発見された外来種です。現在は、東

    京湾、相模湾、伊勢湾、三河湾、大阪湾、瀬戸内海の一部、豊後水道の一部で確認されてお

    り、分布域を広げています。

    大きな個体では殻の周囲が緑、中央部が褐色ですが、小さな個体は殻全体が鮮やかな緑色

    をしています。付着して間もない微小なミドリイガイは実体顕微鏡で観察すると、透明な殻

    に褐色の筋が入っていてきれいです。インドやマレーシアでは春と秋の年2回付着期があり

    ますが、日本では夏のみの年1回です。夏に付着した貝が 12 月には 3cm ぐらいまで成長し

    ます。熱帯から来た貝なので寒さが苦手で、冬の低水温期に多くの貝が死んでしまいます。

    しかし、水温の高い海域や、発電所の放水口、放水路に付着し、生き残るものがあり、翌年

    の夏には殻長が 5cm以上に成長するものもいます。ムラサキイガイが取水路に生息するの

    に対してミドリイガイは放水路に多く生息します。何年も生きるとサイズが 10cm以上に

    もなり、ムラサキイガイよりも大きくなります。

    インドの臨海発電所の取水路にはムラサキイガイがおらず、もっぱらミドリイガイが付着

    しています。地球温暖化で日本沿岸の海水温が上昇するとミドリイガイが現在よりもさらに

    分布域を広げ、東北地方や北海道にも生息するようになるかも知れません。

    右ページの写真(中、下)は、臨海発電所の取水路の除塵機で回収されたミドリイガイで

    す。取水路に付着していたミドリイガイが死亡して、脱落し、水流に流されてきたもので、

    ほとんどが殻だけになっています。一時に大量に流入すると、除塵機で処理しきれなくなる

    ことがあり困ります。

  • 6

    上(左):ロープに付着したミドリイガイ

    上(右):養殖されているミドリイガイ

    中、下(左)、下(右):除塵機で回収されたミドリイガイ

  • 7

    4.管棲多毛類

    釣りの餌にするゴカイは、環形動

    物の多毛類に分類されます。ゴカイ

    は自由に動き回りますが、棲管を作

    ってその中に住んでいる種類があ

    り、これを管棲多毛類と呼びます。

    管棲多毛類は、円筒形の殻を作り、殻の口から鰓を出して呼吸と餌を摂ります。発電所で

    良く見られる管棲多毛類はエゾカサネカンザシで、石灰質の殻を作り強固に付着します。

    殻の蓋の形が 2 段の円筒形になっているのでカサネカンザシと名前がついたようです。

    このページの上(右)の写真は、1 ヶ月間海水中に沈めた塩化ビニル板に付着した管棲多

    毛類です。このように夏に多数が一度に集中して付着することがあります。上(左)の写真

    は、冷却水冷却器のマンホールの蓋に付着した管棲多毛類です。管棲多毛類は、流速の速

    い場所にはあまり付着せず、取水路、冷却水の冷却器、循環水ポンプの胴体などに付着し

    ます。臨海発電所で海水ポンプのインペラ(羽根車)にエゾカサネカンザシが付着し、ポ

    ンプが起動できないという故障がありました。常時運転しているポンプでは、このような

    ことは起きないのでしょうが、たまにしか動かないポンプでインペラと壁の間を接着する

    ように管棲多毛類が付着してしまったようです。右ページの写真は、海水ポンプに付着し

    た管棲多毛類を示します(除去作業中なので一部取り除かれています)。びっしりと積み

    重なって付着している様子が分かります。

    密集して付着すると石灰質の棲管は、最初基盤に沿って付着していたのがだんだん殻の

    口が立ち上がってきます。発電所以外では、浜名湖のカキ養殖の杭に管棲多毛類が円筒状

    に付着して元の杭の直径の何倍にも太くなったのを見たことがあります。水産養殖に影響

    を与えており、管棲多毛類が大発生して広島のカキ養殖に大きな痛手を与えたことが過去

    に報告されています。

  • 8

    上:ポンプに付着した管棲多毛類(除去中)

    中:ポンプに付着した管棲多毛類の棲管の拡大写真

    下:循環水ポンプの胴体に付着した管棲多毛類

  • 9

    5.クラゲ

    クラゲの中で最も発電所に流入することが多く、問題と

    なる種類はミズクラゲです。ミズクラゲは、発電所へ短時

    間に大量に流入して取水口に設置されている除塵機(ゴミ

    を取り除く装置)を詰まらせることがあります。このため、

    多くの発電所では、クラゲ防除ネットを設置しています。また、クラゲの流入を監視したり、

    クラゲの出現情報を近隣の発電所と連絡しあったり工夫をこらしています。さらに、除塵機

    で取り上げたクラゲの処理や悪臭の対策も行っています。

    報道でご存知と思いますが、最近はエチゼンクラゲなどの大型クラゲが日本海沿岸に来襲

    することが多くなり、漁業に深刻な影響を与えています。大型クラゲは発電所へも流入して

    くることがあるので、その対応に苦労しています。

    クラゲの調査で船に乗ると、なかなかクラゲに出会わない時があります。ミズクラゲは、

    遊泳力がないと一般的には思われていますが、群れを積極的に作ります。右ページに私が出

    会った一番濃密なミズクラゲの群れの写真を載せました。こんな群れが発電所に入ってきた

    らと思うとぞっとします。

    クラゲの他に、サルパというホヤの類が 5 月頃に大発生することがあります。寒天状で大

    きさは数ミリから数 cm ぐらいです。単体でいることもありますが繋がって群体を作ること

    があります。大発生したトガリサルパが原子力発電所に流入し復水器入り口のストレーナ(ゴ

    ミを取り除く装置)を詰まらせて、ストレーナのフィルター(細かな穴の開いたステンレス板)

    が破損したことがありました。フィルター交換のために発電所の出力を 40%に下げて約 20

    日間運転せざるを得なくなり、発電所に甚大な被害を与えました。微小な生物といえども数

    が多くなると決してあなどれません。

    ミズクラゲは浮遊するクラゲの時期と付着するポリプの時期を持っています。右ページに

    ポリプの写真を示します。ポリプからクラゲの幼生が発生してクラゲの成体に成長しますの

    で、ポリプはクラゲが大発生するかどうかを左右する重要な存在と考えられます。しかしポ

    リプは微小なため(2~3mm)調査が難しく、まだ十分な知見が得られていません。

  • 10

    上(左):水族館のミズクラゲ

    上(右):ミズクラゲのポリプ

    中:船による調査で観察されたミズクラゲの濃密な群れ

    下(左):赤い線が鮮やかなアカクラゲ

    下(右):ミズクラゲの調査の様子

  • 11

    6.付着細菌

    臨海発電所の復水器には多数の冷却用の細管(復水器管)があり、この中を海水が通過し

    て復水器管の外側を通る水蒸気の熱を奪って水に戻す働きをしています。復水器管内の海水

    の流速は、2m/s ぐらいと速いためフジツボなどの大型の生き物は付着することができません。

    しかし、付着細菌は速い流速でも付着することができ、付着した後に、増殖し、分泌する粘

    液に水中の有機物や土砂などの無機物が付着して、付着層が厚くなっていきます。これを生

    物皮膜またはスライムといいます。生物皮膜は、復水器管の伝熱性能を低下させ、発電所の

    熱効率を低下させるので、大きさは微小ですが発電所にとっては大きな問題となります

    右ページに示した付着細菌の大きさは 0.5 から 2μm ぐらいですが、長く伸びる糸状菌も

    あります。管棲多毛類のように生物皮膜があると付着しやすい生物もいるので大型の付着生

    物にとっては、重要な存在といえます。

    発電所では、塩素注入やスポンジボール洗浄を行って、生物皮膜が厚くならないように対

    策しています。スポンジボール洗浄は、復水器の細管が汚れた時に行います。復水器の入り

    口からスポンジ状のボールを投入し、出口の放水管の回収装置で回収して、スポンジボール

    移送ポンプで再び投入という工程を繰り返します。順調にスポンジボールを回収できれば良

    いのですが、何らかの原因で海域にボールが流れ出てしまうことがあります。スポンジボー

    ルは環境に害を与える物質ではないのですが、景観上問題になることがあるようです。その

    ため、放水口にさらに一つの回収装置を設置する発電所もあります。

    アクリル製の模擬復水器管に海水を流して付着細菌の移り変わりを観察したことがありま

    す。付着細菌はいろいろな形をしています。最初は球状の菌や桿菌(細長い菌)が基盤に付

    着します。2 週間後には、付着した細菌が上流側から下流側に向かってコロニーを発達させ

    ました。コロニーの形はまるでほうき星のような形で、肉眼でも見ることができ、非常に興

    味深いものでした。

  • 12

    上(右):付着細菌のコロニー(電子顕微鏡写真)

    上(左):アクリル製実験管に付着した生物皮膜

    下:冷却水冷却器に付着した生物皮膜

  • 13

    7.トビケラ

    トビケラは昆虫の仲間です。幼虫は、1cm ぐらい

    の大きさで水中のプランクトンや有機物を巣の入り

    口に作る捕獲網でこしとって餌にします。幼虫は川床

    の石や水力発電所の導水路に巣を付着させます。トビ

    ケラ幼虫の巣が導水路に付着すると、流量を減少させ

    る原因となるため、発電害虫と言われています。

    トビケラ類にはいろいろな種類がありますが、導水路に多く付着するのは、ウルマーシマ

    トビケラ、ナカハラシマトビケラの 2 種類です。トビケラの幼虫が付着した石や、付着の時

    期を調べる付着板を水中から取り出して観察すると、巣から幼虫が這い出してくるのをよく

    見ます。河川、湖沼では渇水などで水位が変動することがありますので、干上がった巣から

    逃げ出し、水中に移動しようとする習性なのかも知れません。

    数箇所の発電所の導水路で付着したトビケラ類の巣を見ましたが、最大でも 1cm 程度の厚

    みで、臨海発電所で見たことがあるムラサキイガイやアカフジツボの 10cm もの厚みから比

    べると小さなものです。しかし、わずかな厚みでも壁面の凸凹が水の流れを妨げるので、長

    い導水路(長い所では 20km もの長さがあります)を持つ水力発電所ではトビケラの巣の付

    着により 10%も発電量が減少することがあります。

    水力発電所の導水路入り口でトビケラの付着時期の調査を実施したことがあります。毎月

    新しい付着板を浸漬して 1 ヶ月間に付着するトビケラ幼虫の巣の数を調査しました。平滑な

    付着板にはトビケラ幼虫の巣は全く付着しませんが、溝を刻んだ付着板には、多数のトビケ

    ラ幼虫が定着し、夏に巣の付着数が多く、11 月から 4 月の低水温期にはほとんど付着しない

    ということが分かりました。この結果から、導水路の掃除の時期はいつが適切かを考えると、

    夏に除去してもすぐにまた新しい巣ができてしまうこと、秋に除去すれば翌年の 5 月ごろま

    では新しい巣が付着しない状態で水を流せることが分かりました。また、この調査から溝の

    中のような流れに直接さらされない場所があるとトビケラ幼虫が巣を作りやすいことがわか

    りました。

  • 14

    上:導水路入り口壁面に付着したトビケラの巣(中央に残した部分が 20×20cm)

    中:付着板に付着したトビケラの巣とトビケラの幼虫

    下(左):トビケラ幼虫の巣の入り口に立ち上がって広がる捕獲網

    下(右):水路壁面に高圧水を吹きつけてトビケラ幼虫と巣を除去する

  • 15

    8.カワヒバリガイ

    カワヒバリガイは河川、湖沼などの淡水域の岩や

    コンクリートの表面に足糸で付着して生息します。

    中国、台湾、韓国、南米などに分布し、1990 年代

    に日本に入ってきた外来種です。大きさは4cm 程

    度まで成長し、日本では夏に産卵して付着します。

    1990 年代は、琵琶湖・淀川水系、長良川・木曽川水

    系などに限られていましたが、2000 年代になってから愛知県の矢作川、静岡県の天竜川、

    群馬県、茨城県の利根川水系などへも急速に分布域を広げています。日本に移入した経路

    は、輸入したシジミに付着して入ったというのが有力です。成貝は黒一色ですが、右ペー

    ジの下(左)に示すように稚貝の殻の下部はきれいな黄色です。英名のゴールデンマッセルと

    いう名前が付いたのが分かるような気がします。

    水力発電所の導水路、冷却機器の配管、ストレーナに付着したり、はがれた貝が詰まっ

    たりして害を及ぼします。引っ張って剥がそうとするとかなり強固に付着していて、海産

    のムラサキイガイやミドリイガイより付着力が強いように感じました。

    カワヒバリガイを水槽で飼育していると、水槽の壁面を這い登ってくるのを観察すること

    ができます。右ページの下(右)に、ビーカーの壁面を足で這い登る写真を示しました。水

    面まで上ってそこに付着します。ムラサキイガイやミドリイガイも同様の行動をします。

    カワヒバリガイの付着時期の調査に付着板(塩化ビニル板)を用いたことがあります。ト

    ビケラの幼虫と同様で平滑な板には付着しにくいので、溝付きの板を用いました。右ページ

    に凹みに付着したカワヒバリガイを示しましたが、このような凹みを好んで付着します。

    カワヒバリガイは、水力発電所のみならず農業用水や水道などいろいろな利水施設に付着

    し悪影響を及ぼすことが心配されています。カワヒバリガイは環境省が特定外来生物に指定

    して、原則として飼育、保管および運搬などを禁止していますが、いったん河川、湖沼で繁

    殖すると駆除が非常に難しいので、新たな水系に拡散するのを防ぐことと、既に繁殖してし

    まった水系では生態系の一員として上手に付き合うことが重要と思います。

  • 16

    上:水力発電所の導水路のカワヒバリガイを除去する

    中(左):カワヒバリガイは凹みに付着する

    中(右):暗渠に付着したカワヒバリガイの稚貝

    下(左):カワヒバリガイの稚貝

    下(右):ビーカーを這い登るカワヒバリガイ

  • おわりに

    本冊子は、坂口さんが当研究所に入所後、爾来 35 年間、発電所の運転にとってはなはだ迷惑な生物

    達と向き合ってきた研究生活から、彼等の素顔をわかりやすく写真を中心に紹介したものです。管路に

    びっしりと張り付いている貝類のようすなど多くの写真を掲載できるのは、坂口さんならではの研究実

    績によるところが多い。 発電所のみえないところでこのような生物が付着や流入によって発電に影響をおよぼすこと、このた

    め発電所はその防止対策に苦労していることについては、多くの方々にはほとんど知られていないこと

    と思います。坂口さんが研究所生活に一区切りされるのを機に、関係者向きの報告書とは異なるこのよ

    うなかたちの冊子の作成をお願いしたところ、貴重な写真を中心に興味深い内容の読み物に仕上げて戴

    いた。 皆さんが、今後、発電所を訪れた折、プラント本体だけでなく、安定した発電を支えるみえない部分

    へも目を向けて戴くことに、本冊子がお役に立てば幸いです。

    環境ソリューションセンター長 下垣 久

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