冬に強い道づくり スノーシェルター・スノーシェッ...

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10° 2.000% M F 道路中心 C L 1.はじめに 積雪寒冷地における高速道路の冬期交通確保は極めて重 要であり、建設時にそれらを考慮し設計、施工を行い、安 全性の高い道路を提供することがわれわれの責務である。 北海道横断自動車道の夕張~占冠間では全施工延長35. 6km(暫定2車線83%)に対する構造物(トンネル、 橋梁)延長比率は56.5%を占めており、そのなかでも 延長5.5~7km程度の連続トンネル群を3箇所も有し ている。このような道路構造で特に橋梁、トンネル手前で は雪氷対策スペースの確保ができず、除雪によるトンネル 内に持ち込まれる雪の堆雪やトンネル間の狭い区間の堆雪 により冬期交通の安全性に大きく影響を及ぼす。 そこで現地状況・条件を踏まえ冬に強い道づくりを前提 に課題を抽出し、防雪対策の必要性から、設置条件からの 構造検討、防雪対策工の検討を行い、北海道支社管内の高 速道路では初のスノーシェルター・スノーシェッドの施工 を行った。ここではトンネル間100m前後の箇所に設置 したスノーシェルター。スノーシェッドの構造選定内容と 防雪施設が供用してから初の冬を迎えることから防雪施設 自体の性能及びそれに関連する吹き込み防止、雪庇防止対 策等の防雪対策工が実際にどのような効果が得らたかを調 査した結果を報告するものである。 2.スノーシェルター・スノーシェッドの構造 構造は、連続トンネル区間のトンネル間が97m(橋梁 29m含む)と107m(橋梁20m含む)の2箇所で防 雪施設設置検討を行った。構造を選定する条件として以下 の課題があった。 ①トンネル坑口前の橋梁はすでに施工完了していた。(ス ノーシェルターの荷重が考慮されていない) ②防災等級の違うトンネル間で閉塞(災害等の煙が次のト ンネルに影響する構造)すると、1本のトンネルと見な され低い方のトンネルの防災等級が繰り上がる。当時ト ンネルは建設中で等級変更は不可能であった。 ③設置選定区間にはトンネルの電気施設があり、タンクロ ーリーが出入りできる開口部を設けなければならなか った。 防雪施設の構造について上記条件を考慮すると、区間す べて閉塞はできないため、閉塞型のシェルターと開口型の シェッドの組合せを選定した。各々の形状詳細については 次のとおりである。 2.1スノーシェルター構造 橋梁上は路面が凍結しやすく、また路肩が狭く除雪の雪 が堆雪しそのままトンネル内に持ち込まれるため、橋梁上 には閉塞型のスノーシェルターを設置することとした。 設置する橋梁は完成していたため、橋梁には最小限の荷 重負担を考えた構造にしなければならなかった。そこで設 計荷重において比較的影響の大きい積雪荷重の軽減ができ る構造を模索した。その結果、雪荷重を軽減できる北陸自 動車道のスノーシェルター構造(図-1)を参考に降雪が すべり落ちる構造(玉ねぎ型形状)を選定した。 図1 スノーシェルター構造 軽減理由:設計積雪量を10年再現確立年日最大降雪量と できる。 2.2スノーシェッドの構造 スノーシェッドは一方のトンネルに災害時の煙の影響を 与えない構造とすることが第一条件であり、次の条件とし て電気室への開口部を設ける構造としなければならない。 第一条件で参考にしたのが「秋田自動車道連続トンネルに おける換気特性調査検討業務報告書平成10年3月 日 本道路公団」である。こ れによると、 スノーシェッ ドの屋根勾配 を10度(図 2)にし、開 口部延長6D (D=トンネ ル代表断面長 8m)=48 mを確保する 図2 スノーシェッド構造 冬に強い道づくり スノーシェルター・スノーシェッドの構造とその効果検証 石黒将希 ※1 ※1 株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道

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10°

2.000%

M

F

道路中心

CL

1.はじめに

積雪寒冷地における高速道路の冬期交通確保は極めて重

要であり、建設時にそれらを考慮し設計、施工を行い、安

全性の高い道路を提供することがわれわれの責務である。

北海道横断自動車道の夕張~占冠間では全施工延長35.

6km(暫定2車線83%)に対する構造物(トンネル、

橋梁)延長比率は56.5%を占めており、そのなかでも

延長5.5~7km程度の連続トンネル群を3箇所も有し

ている。このような道路構造で特に橋梁、トンネル手前で

は雪氷対策スペースの確保ができず、除雪によるトンネル

内に持ち込まれる雪の堆雪やトンネル間の狭い区間の堆雪

により冬期交通の安全性に大きく影響を及ぼす。

そこで現地状況・条件を踏まえ冬に強い道づくりを前提

に課題を抽出し、防雪対策の必要性から、設置条件からの

構造検討、防雪対策工の検討を行い、北海道支社管内の高

速道路では初のスノーシェルター・スノーシェッドの施工

を行った。ここではトンネル間100m前後の箇所に設置

したスノーシェルター。スノーシェッドの構造選定内容と

防雪施設が供用してから初の冬を迎えることから防雪施設

自体の性能及びそれに関連する吹き込み防止、雪庇防止対

策等の防雪対策工が実際にどのような効果が得らたかを調

査した結果を報告するものである。

2.スノーシェルター・スノーシェッドの構造

構造は、連続トンネル区間のトンネル間が97m(橋梁

29m含む)と107m(橋梁20m含む)の2箇所で防

雪施設設置検討を行った。構造を選定する条件として以下

の課題があった。

①トンネル坑口前の橋梁はすでに施工完了していた。(ス

ノーシェルターの荷重が考慮されていない)

②防災等級の違うトンネル間で閉塞(災害等の煙が次のト

ンネルに影響する構造)すると、1本のトンネルと見な

され低い方のトンネルの防災等級が繰り上がる。当時ト

ンネルは建設中で等級変更は不可能であった。

③設置選定区間にはトンネルの電気施設があり、タンクロ

ーリーが出入りできる開口部を設けなければならなか

った。

防雪施設の構造について上記条件を考慮すると、区間す

べて閉塞はできないため、閉塞型のシェルターと開口型の

シェッドの組合せを選定した。各々の形状詳細については

次のとおりである。

2.1スノーシェルター構造

橋梁上は路面が凍結しやすく、また路肩が狭く除雪の雪

が堆雪しそのままトンネル内に持ち込まれるため、橋梁上

には閉塞型のスノーシェルターを設置することとした。

設置する橋梁は完成していたため、橋梁には最小限の荷

重負担を考えた構造にしなければならなかった。そこで設

計荷重において比較的影響の大きい積雪荷重の軽減ができ

る構造を模索した。その結果、雪荷重を軽減できる北陸自

動車道のスノーシェルター構造(図-1)を参考に降雪が

すべり落ちる構造(玉ねぎ型形状)を選定した。

図1 スノーシェルター構造

軽減理由:設計積雪量を10年再現確立年日最大降雪量と

できる。

2.2スノーシェッドの構造

スノーシェッドは一方のトンネルに災害時の煙の影響を

与えない構造とすることが第一条件であり、次の条件とし

て電気室への開口部を設ける構造としなければならない。

第一条件で参考にしたのが「秋田自動車道連続トンネルに

おける換気特性調査検討業務報告書平成10年3月 日

本道路公団」である。こ

れによると、

スノーシェッ

ドの屋根勾配

を10度(図

2)にし、開

口部延長6D

(D=トンネ

ル代表断面長

8m)=48

mを確保する 図2 スノーシェッド構造

冬に強い道づくり

スノーシェルター・スノーシェッドの構造とその効果検証

石黒将希※1

※1 株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道

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ことで自然換気でも隣接するトンネルへ煙の影響はないと

実験結果報告から判断した。ちなみに、両トンネルには換

気設備が設置されているため、2重の換気対策となり煙の

侵入に対しては安全側である。

シェルター、シェッドでの防雪対策区間は、冒頭で説明

したとおり2箇所あり、その中で楓トンネル~大夕張トン

ネル間では現地条件及び区間延長より48m(6D)の開

口部を設けることが難しく、シェッド構造で次の工夫をし

延長を確保した。

① 張出しを長くする(図3)。

② 本線直角方向にシェッド柱を長く取る長方形構造(図

4)を採用した支柱となっている。

凡例

赤⇔は開口延長 青⇔は開口延長(張出部)

⇔の合計延長は 48m

図3 夕張シェッド開口概要図

図4 シェッド支柱断面図

上記の結果からの設計成果が図5の図面である。また、

長和トンネル~穂別トンネル間のシェッド区間延長には少

し余裕があるため、経済的な正方形構造の支柱を採用した。

図5 シェッド側面図

3.スノーシェルター・スノーシェッドの現地条件及び防

雪対策工

スノーシェルター、スノーシェッドの設置状況及びその

周りの地形状況、冬期の風向は写真1、2のとおりである。

写真1 楓トンネル~大夕張トンネル間(97m)

写真2 長和トンネル~穂別トンネル間(107m)

3.1現地条件

① 設置箇所はどちらも山岳部の谷間(河川あり)の箇所

で、建設当初に行った気象調査では風が弱い地区という

結果が得られていた。また、降雪は比較的多い。供用後

われわれが行った調査を付け足すと、写真1の楓トンネ

ル~大夕張トンネル間(以降夕張地区と呼ぶ)の風向は

川下から川上へ吹き抜ける。また、写真2の長和トンネ

ル~穂別トンネル間(以降穂別地区と呼ぶ)は山から吹

き下ろし、河川上流側に抜ける。

② トンネル電気室方向はシェッド部に車両開口部を設

けているため、シェッド屋根勾配は雪の落雪を考慮し車

両開口部逆側を勾配の低い方としている。

3.2防雪対策工

防雪対策工については防雪施設の施工完了から供用開

始までの間で一冬期も迎えることなく供用するため、現地

施設設置状況、考えられる雪による影響、維持管理作業等

を考慮し下記対策工を設置した。

① 防雪網の設置

東北自動車道(秋田道)ではシェルターとシェッドの接

続部(道路幅員)だけ雪庇対策のための防雪網が設置され

ている。網の規格(径φ2.6目 25mm)はこの雪庇を防止し

ている実績と菱形金網の生産されている最小規格で選定し

た。用途と範囲は次のように考えた。

M

M F

本線縦断勾配 i=3%

車両用 開口部

道路進行方向

道路直角

方向

杭 橋脚

点線から実線

へ構造工夫

風向

風向

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用途:雪庇及びつららによる本線内影響の防止、風雪の抑

範囲:開口箇所は車両開口部以外全面張りを基本とし、車

両開口部は路面高から5m確保しその上部は雪庇対

策で網を設置。またそれ以外の開口部は共同溝等の

出入り、その他維持管理作業の出入りを考え路面高

から1m開けて設置した。(網の全面張は高速道路で

は当該区間が始めての事例になる)

写真3 防雪網設置状況

② 吹込み防止柵の設置

シェッド開口部は路面から1m開けて防雪網を設置してい

る。この開口範囲において次のとおり吹込み防止柵高さ 1

m(材質:無孔鋼板)を行った。

用途:シェッド屋根から落雪及びつららの落下等から本線

への侵入を防ぐ、地面からの吹込みを防止(地吹雪

等)

範囲:シェッド開口部(車両開口部は含まない)延長とし、

設置位置は防護柵背面とした。

写真4 吹込み防止柵設置状況

4.冬期現地調査による効果

防雪施設が完了してから初めての冬を迎え、冬につよい

道造りを前提にシェルター・シェッド施設と、その構造を

補う防雪対策工の総合効果を検証するために冬期現地調査

を行った。調査は降雪の度に現地に行き、気温、降雪量、

雪庇・つらら発生状況等を計測し、降雪と悪天候の条件下

での効果について調査を行った。その中でもっとも効果を

期待している冬期交通の安全性確保の大きな要因である除

雪によるトンネル内の持込み雪の検証及び吹雪による視程

障害の抑制検証について報告する。

4.1除雪によるトンネル内への持込み雪について

シェルター・シェッドの第一の目的は除雪によるトンネ

ル内への持込み雪の防止である。そこで写真-4、5のよ

うに防雪施設がないトンネル(隣接トンネル気象条件同一)

坑口部と防雪施設があるトンネル坑口部を比較した。

防雪施設がないトンネルでは、本線除雪により持ち込ま

れた雪が坑口内に堆積し高さは監視員通路まで覆い隠し

(1.2m程度)、雪の持込み延長は150mにも及んでい

た。それに比べ、シェルター・シェッド設置箇所はこの冬

期間は持込み雪が確認した限りでは無い状態であった。

写真6 持込み雪状況

防雪網では風雪による抑制が目的のため、風が強い時は

外に比べ少量だが本線にも雪が薄く積るが除雪してもトン

ネル内に持込むほどの雪の量ではないこと、また、車両の

走行に支障与える降雪量ではないことから、防雪効果は間

違いなく発揮されている調査結果であった。

1m 1m

150m

1.2m 程度

坑口部には持込み雪はない

この雪は開口部除雪によるシェッド

開口部支柱の堆雪

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4.2吹雪等による視程障害について

吹雪発生時にスノーシェルター・スノーシェッドの構造

及び防雪対策工の効果を調査した。

風は本線左側から右方向に吹いていた。写真7では車両

開口部を境に立って内部と外部の状況を確認したものであ

る。防雪施設内部はしっかり次のトンネル坑口まで見え視

界は良好なのに対し、防雪施設外では吹雪で視界が悪い状

況であった。写真8はその時の外の状況で視界はかなり悪

い状況だったことがわかる。

写真7 吹雪時の比較

写真8 本線外側の同時刻視界状況

吹雪時の防雪対策工については図6のように吹き込もう

とする風雪が吹込み防止柵外で吹き溜まりを形成していた。

図6 防雪状況概要図

目視調査の結果、防雪網では完全に風雪は防いでいない

が、外の猛吹雪に比べ、網部通過では風力を低減させてい

る効果が見受けられた。また、この時点での外の降雪量は

12.3cmあり、防雪施設内路肩部では降雪量2~3c

m程度であった。このことからも、風雪に対して抑制効果

が発揮されていることがわかる。

この調査結果より、シェッド及び防雪対策工により視程

障害は抑制され冬期の交通安全の確保及び維持管理の軽減

に対して効果が検証できた。

5.まとめ

冬期交通確保を目的に狭小坑口間のスノーシェルター・

スノーシェッドを設置条件により構造を選定し、その構造

を補うこと及び追加効果のために防雪対策工を考案し設置

した。その防雪工に対して効果を検証するために一冬期目

の調査を行った。防雪対策の最大の目的である走行の安全

性については調査結果から本線スノーシェルター・スノー

シェッドとシェッド開口部に設置した吹込み防止柵、防雪

網の総合防雪対策により、本線への吹雪による吹込みを抑

制し、大幅な降雪量の低減、視程障害の防止についての効

果が発揮されていることが分かった。また、冬期の雪氷対

策(除雪・排雪等)の軽減にもつながり、安全面だけでは

なく、雪氷対策費の削減にも貢献している。

また、防雪網の目をもっと細かく(菱形金網にネットの

設置)すれば防雪効果は向上できるが、構造条件で記述し

ている「閉塞しない(隣り合うトンネルへの煙の影響を与

えない)」ことを、この対策で立証しなければならない。今

回の調査で確認していないトンネルからの空気の流れにつ

いてだが、シェッド内ではトンネル内からの空気の流れが

あり開口部上部で外側へ流出して、外部からの風雪の侵入

を抑制し防雪に対する一つの要因になっている可能性も考

えられ、網を細かくしてもシェッド外部に空気の流れが流

出しているのを確認できれば、走行の安全性の向上及び雪

氷対策費の削減をより図ることができる。そのためにも、

防雪網内の空気の流れを計測し、外部へ流出する最小の網

目の大きさを調査していければと思っている。

最後に現地条件にもよるが、積雪が厳しい地域で、冬期

の交通確保が難しい狭小区間での防雪対策として、この報

告文が他の防雪対策工の参考にできる資料となれば幸いで

す。

写真8