世界の保険: 東への大旋回が続く - Swiss Redab6f6aa-4fa5-40c7-af55...Swiss Re...

52
No 3 /2019 01 エグゼクティブサマリー 03 保険会社を取り巻く マクロ経済環境 08 世界の保険市場のトレンド 21 2018年の地域別レビュー と見通し 32 方法論とデータ 34 統計付録 世界の保険: 東への大旋回が続く

Transcript of 世界の保険: 東への大旋回が続く - Swiss Redab6f6aa-4fa5-40c7-af55...Swiss Re...

  • No 3 /2019

    01 エグゼクティブサマリー

    03 保険会社を取り巻く   マクロ経済環境

    08 世界の保険市場のトレンド

    21 2018年の地域別レビューと見通し

    32 方法論とデータ

    34 統計付録

    世界の保険:東への大旋回が続く

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 1

    エグゼクティブサマリー

    2018 年の保険セクターは、 世界の GDP (国内総生産) 1 が実質3.2%拡大するなど、 世界的な経済成長に後押しされた。 2020 年の世界経済の伸び率は、 新興諸国は上昇するものの先進諸国と中国が減速するため、 約 2.8% に低下すると予測する。 昨年は中国が世界経済の伸びに最も大きく寄与したが、 2019 年と 2020 年についても当てはまると予想される。 鈍化しつつあるものの、 依然として見通しは明るい世界経済の成長環境と、 先進諸国における賃金および雇用の伸びが、 これからの 2年間、 引き続き保険需要を喚起するだろう。 しかし貿易の鈍化は関連する保険種目を悪化させることになる。

    長期的には、 新興市場が世界の元受計上保険料に占めるシェアの拡大が続き、 2018 年の推定 21%から 2029 年には 34%へ増加すると予想される。 これは新興市場の保険料がGDPより速いペースで伸び続けているためである。 しかしながらその規模を考えると、 今後10年間は、 成長率は低下するも先進国が引き続き保険料ボリュームの増加額の半分近くに寄与するだろう。 東への大旋回が続く中、 中国やその他諸国を含むアジア太平洋地域の新興市場、 そして同地域の先進諸国が2029 年には世界の保険料の 42% を占めると予想する。

    世界の元受保険料は 2018 年に史上初めて5兆米ドルの大台を超え、 5兆1,930 億米ドル(世界のGDPの 6.1%)に達した。 保険料総額は名目、実質のいずれにおいても上昇したが 2、生命保険セクターの減速により全体の伸び率は 2017年より低下した。 これは欧州、 中国および中南米諸国において市場が縮小したためである。 損害保険料の伸びは、 先進諸国では鈍化したものの新興市場で上昇したため、 3% と過去の平均を上回る堅調さであった。

    将来の見通しは明るい。 スイス・ リー・インスティテュートは、 2019/2020 年における世界の生命保険料の伸びは好調で、 過去10年の年平均をはるかに上回ると予想している。 これは主として新興市場、 とりわけ中国の回復によってもたらされることになる。 先進諸国における生命保険料の伸びは減速するだろうが、 これまでの平均よりは高い。 保険料の伸び率の面では、 米国とカナダが他の先進諸国を上回るだろう。 種目別にみると、 伝統的な貯蓄事業は、 低金利のため、 特に先進国において消費者にとって相変わらず魅力に乏しいものとなろう。 死亡保障ギャップは大きな成長機会を提供するが、 死亡リスクは貯蓄保険よりはるかに低い保険料しかもたらさない。

    世界経済は減速するものの、保険需要は今後2年間、持続すると思われる

    新興市場が世界の保険料におけるシェアを拡大させており、 アジア太平洋地域は2029 年までに世界の保険料の 42% を占めるだろう

    2018年における世界の保険料は史上初めて5兆米ドルの大台を超えた

    表1 実質保険料の伸び率:2018年推定、2008年から2017年までの平均、ならびに見通し(クリックしてsigma explorerの元データまで掘り下げる)

    Eは推定

    Fは予想

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    生命保険 損害保険 合計

    市場 2018年E 2008年‒2017年 2019年‒2020年F 2018年E 2008年‒2017年 2019年‒2020年F 2018年E 2008年‒2017年 2019年‒2020年F

    先進国 0.8% ‒0.7% 1.2% 1.9% 1.1% 1.8% 1.3% 0.1% 1.5%

    新興市場 ‒2.0% 8.1% 8.7% 7.1% 7.7% 7.0% 2.1% 7.9% 7.9%

    全世界 0.2% 0.6% 2.9% 3.0% 2.2% 3.0% 1.5% 1.2% 2.9%

    2019/2020 年における生命保険セクターの成長率は中国が主たるけん引役となろう。 低金利のため、 伝統的な貯蓄事業は引き続き苦戦するだろう

    1 世界のGDP成長率を集計するため、市場為替レートを用いている。購買力平価を用いる統計では、新興市場のウェイトが大きくなり、 世界の GDP成長率はより高く示される。

    2 本稿で引用されている保険料の伸び率は、 すべて実質ベースである。 すなわち、 国内消費者物価指数により調整されている。

    http://sigma-explorer.com/explorer/line_bar/index_drilldown_2levels_3bars_step1_bar.php?indis=rpgr&modi=life|nlife&regi=WOR&ext=1

  • 2 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    エグゼクティブサマリー

    損害保険においてもまた、 世界の保険料は今までの平均よりも速い速度で伸びるだろう。先進諸国では、 全体の経済成長と歩調を合わせ、 米国、 カナダおよび先進アジア太平洋地域が主導して保険料の伸び率が平均を上回り、先進 EMEA (欧州、中東およびアフリカ)は引き続き停滞するだろう。 新興市場における伸びは引き続き好調であるが、 中国およびその他の新興アジア市場の減速によって 10年平均を下回るであろう。 しかし、 その他の新興市場における保険料の伸びは大幅に改善する。 損害保険においては自動車保険が主要種目であり、 2018 年には世界の損害保険セクターの保険料の 3分の1を占めた。 先進運転支援システムの実用化や自動運転車への移行が進むにつれて、 この重要な保険料収入源に対する圧力は長期にわたって高まっていくと思われる。 こうした移行は長期的で予測困難なものであるが、 技術革新が時間とともに保険金の減少をもたらし、 またその結果として自動車保険料率や保険料ボリュームを低下させる可能性があると考える。

    保険会社は今後少なくとも 2年間は引き続き低金利環境の下で経営することになるが、 これは業界の収益性が圧力を受け続けることを意味する。 生命保険では、 特に欧州および先進アジア太平洋地域において、 低金利が収益性を落ち込ませ続けている。 損害保険では、 2018 年の株主資本利益率 (ROE) は 6~ 6.5% と引き続き概ね安定していた。 2017年末に始まった保険引受条件の改善が2018 年まで続いたことによって、 保険引受成績は若干プラスに転じた。 しかし、 ソフトマーケットの傾向が持続したことで、 損害保険セクターを今なお取り巻く収益性ギャップは大きく縮小するまでには至らなかった。

    本号シグマには、 印刷時点で入手し得た最新の市場データが含まれている。 ほとんどの保険市場において、 2018 年の最終確定データは入手できなかった。 したがって、 本号シグマ

    ではスイス・ リー・インスティテュートによる推計および監督当局や保険協会が発表した暫定的なデータも含んでいる。

    損害保険の伸びは広範囲にわたるだろう。 長期的に見ると、 技術革新が損害保険の主要種目である自動車保険の保険金支払および保険料ボリュームを引き下げる可能性がある

    低金利が引き続き保険業界の収益性へ重くのしかかり、 損害保険引受成績の改善はわずかに

    本研究におけるデータは印刷時点で入手し得た最新のもの

    図1 2018年推定の実質保険料総額の伸び率 (チャートをクリックしてsigma explorerを開く)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    データなし

    <-10.0%

      -10.0% から -5.0%

       -5.0% から -2.5%

       -2.5% から 0.0%

         0.0% から 2.5%

    2.5% から 5.0%

    5.0% から 10.0%

    >10.0%

    http://www.sigma-explorer.com/explorer/map/index_map.php?indis=rpgr&modi=total|&regi=WOR&ext=1

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 3

    保険会社を取り巻くマクロ経済環境

    世界経済の成長とインフレの見通し

    世界経済の伸び率は、 (2017年の 3.3% のあと) 2018 年は 3.2% と引き続き概ね安定していたが、 2020 年には 2.8% に減速すると予測される。 昨年の世界経済の成長には中国が最大の貢献 (1パーセント ・ポイント(ppt)) を果たした。 2020 年の同国経済の伸び率は6.1% に漸減するものの、引き続き世界経済の成長の 3分の1に寄与すると予測される。この貢献は、 金融危機前10年間の年平均ではわずか 0.5 パーセント ・ポイントであったことから見ると急増している。 米国の伸び率は、 財政刺激策の効果が薄れるため、 2020 年には1.6% に鈍化するだろう。 昨年の米国経済は、 減税と公共支出増によって景気が押し上げられた。

    2018 年の欧州における経済活動は減速し (GDP の伸び率は 0.7パーセント ・ポイント低下して 1.8%)、 日本も同様に減速した (1.1パーセント ・ポイント低下して 0.8%)。 世界貿易の減速という逆風が2019年の欧州の製造セクターにとって重荷となり、 ユーロ圏全体の GDP伸び率は1.1% になるだろう。 とはいえ、 同地域の多くの国の財政は今後10年間で最大限に拡大し、 景気減速の勢いはいくらか弱まるだろう。 英国では、 EU 離脱 (ブレグジット) の不確実性が投資活動と成長 (1.3% の見通し) を引き続き制約することになる。 日本では、 大規模な財政面からの景気刺激策が一時的に経済活動を下支えするが、その後2020 年には成長率は 0.5% に低下するであろう。

    中国では、 世界の需要鈍化と米国との貿易摩擦が2019/2020 年における輸出の足かせとなるだろう。 2018 年の GDP伸び率は 6.6% と 0.3 パーセント ・ポイント低下したが、 財政刺激策と金融緩和政策が減速を緩和するだろう。 中国を除くと、 これからの数年間は新興市場における GDP の伸びは堅調が予測され、 中南米 (主としてブラジル) とアフリカ諸国の経済が若干上向き、 新興欧州の伸びはトレンドに遅れてやってくることになろう。

    2018 年の世界の経済環境は、 GDP の伸び率がわずかに前年より低下したものの、 引き続き保険会社に貢献するものであった。 先進国が減速することから、 スイス・ リー ・ インスティテュートは 2020 年における世界の成長率は約 2.8% に低下し、 新興市場の成長は改善すると予想する。 先進国における雇用および賃金の堅調な伸びは、 引き続き保険需要にプラスとなり、 一方で貿易の鈍化は関連する保険種目に打撃を与えるであろう。 保険会社は少なくとも今後 2 年間は低金利環境において事業を継続することになる。

    これからの2年間で世界の成長率は2.8%に鈍化すると予想され…

    …先進諸国の減速に伴い…

    …また中国では財政・金融政策が景気の鈍化を和らげている

    図2 地域別の実質GDP成長率

    主要市場の月次更新経済見通しはスイス・リー・インスティテュートのウェブサイトで入手可能

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    2019~2020年予想の平均年間成長率の見通し 2008~2017年の平均年間成長率 2018年推定成長率

    中東・アフリカ

    欧州・中央アジア

    中南米中国を除くアジア

    中国中国を除く

    新興市場

    新興市場アジア太平洋

    EMEA米国・カナダ

    先進国合計

    先進国 新興市場全世界

    0%

    1%

    2%

    3%

    4%

    5%

    6%

    7%

    8%

  • 4 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    保険会社を取り巻くマクロ経済環境

    2018 年は主として貿易の低迷が世界の成長の勢いを鈍化させた。 国際金融協会 (IIF)の分析では、 2018 年下半期に米国と中国が相互に課した関税は多大な影響を及ぼし、最近の米中間の緊張激化を考えると、 世界の貿易量は引き続き低下するであろう 3。 構造的に貿易は新興諸国にとって長期にわたる主な成長エンジンとなってきた。世界の製造業におけるバリューチェーンの成熟が貿易低迷の背後にある中心的な原因であると考えられる 4。世界貿易の減少は、とりわけ海上保険と貿易信用保険の保険料の伸びを低下させるだろう。しかしサービス貿易とデジタル化の隆盛は、 保険会社において、 例えば企業のバランスシートにおける収益リスクといった新たな無形リスクをカバーする機会を提供している。

    保険市場に重要な関わりを持つもう一つのマクロ経済動向は、 今後2年間の雇用の伸び鈍化による悪影響である。 2018 年の先進国における労働市場は堅調を維持した。2019/2020 年の雇用の伸びは鈍化するものの、 伸びは続くと予想する。 これは今年と来年の経済活動の減速予測と一致するものである。 米国では、 2018 年の非農業部門雇用者数の1ヵ月平均増加数は 223,000人となり、 2019 年第1四半期では減少したものの180,000人と、 依然好調である。 2018 年のユーロ圏の雇用者数は前年に比べて1.5% 増の 230万人の増加となった。 ユーロ圏の労働市場には余剰資源 (sparecapacity) が存在するものの、 ドイツのような一部加盟国ではすでに不足が生じており、 これがさらなる雇用の創出を妨げている。 英国では、 EU 離脱の不透明感にもかかわらず、 昨年の労働市場は引き続き好調で、 雇用の伸びは明らかに減速しているものの、 依然としてプラス成長を維持した。 好調な労働市場は団体生命保険需要を下支えするが、 このプラスの勢いもこれからの 2年は雇用の伸びが減速するとの予測に沿って鈍化していくだろう。 新興地域では、こうした傾向に一層のばらつきが見られる。 昨年の中国では、 国全体の雇用は 30年間で初めて縮小したが、 都市圏では引き続き堅調に伸びている (2.4%)。 新興 EU加盟国の労働市場は比較的逼迫しているが、 中南米、 中東、 アフリカ、 新興アジア数ヵ国などの他の地域では需給の緩みが見られる。

    インフレと賃金の動向は、 特に災害保険のようなロングテール種目については、 保険金支払額の重要な変動要因である。 米国における労働市場の逼迫は賃金の上昇圧力をもたらしているが、 いまだ消費者物価の上昇にはつながっていない。 米国における1時間当たりの平均賃金は 2月には前年比3.4% の上昇となったが、 これはほぼ10年ぶりの大幅上昇であった。 それでも米連邦準備理事会 (FRB) が重視するインフレ指標のコア PCEデフレーターは、 2019 年第1四半期に前年比1.3%低下している。 ユーロ圏のインフレ圧力は依然として緩やかである。 2018 年の賃金は多くの EU加盟諸国において上昇こそしたものの、労働市場の需給の緩みは米国より欧州の方が顕著である。 これまで数年間のコアインフレ率は1%程度で安定していたが、 成長率鈍化見通しを考えると、 その上昇ペースは極めて遅 と々したものにならざるを得ないと予想される。 2018 年の英国のインフレ率はポンド安によって押し上げられたが、その影響は今年には消滅し、インフレ率はイングランド銀行 (BoE)の目標値である 2%近くになると予想する。

    新興市場のインフレ率は、国内危機が続く市場(アルゼンチン、ベネズエラ、トルコ、ナイジェリア、エジプトといった国 )々 を除いて、 ほぼ抑制されたままとなっている。 その他の国では、 インフレ圧力が不在であることから、 中央銀行は年後半の利下げを目的として財政政策発動の余地を確保できる可能性がある。 原油輸入国で注目されるのは原油価格上昇の影響であろう。 2019/2020 年にかけての低水準のインフレ見通しから、 保険金支払額の上昇にかかる圧力は限定的なものにしかならないと思われる。 それでも、 保険金は災害保険や就業不能保険の支払額上昇を背景に増加する可能性があることから、 名目賃金の上昇が一段と重要性を持つことが判明するかもしれない。 プラス面では、 とりわけ団体生命保険セグメントの賃金上昇が生命保険会社の保険料の伸びを加速させるであろう。

    米中間の緊張は引き続き世界貿易の重荷になるだろう

    2018 年の労働市場は堅調を維持した。しかし、 雇用の伸び鈍化は団体生命保険需要を減少させそうである

    低水準のインフレの見通しについて…

    …保険金支払額にかかる圧力は限定的なものであろう

    3 エコノミック ・ ビュー - 中国に対する関税は機能しているのか?、 国際金融協会、 2019 年 2月5日4 エコノミック・インサイト:新興市場における貿易の鈍化:サプライ・チェーンの観点から、 スイス・リー・インスティテュー

    ト、 2019 年 2月

  • Swiss Re Institute sigmaNo3/2019 5

    金利とリスク資産

    世界の保険業界は少なくともこれからの 2年間は低金利環境のなかで事業を続けることになる。 米連邦準備理事会 (FRB) による予防的利下げの可能性は高い。 貿易摩擦や成長の鈍化を巡る不確実性が増す中で、 他の中央銀行もまた金融緩和モードに転じている。欧州では、 緩やかな成長率やインフレ見通しを考えると、 欧州中央銀行 (ECB) の預金利率は2021年までマイナス金利が続くと予想される。 2019年6月に公表された新たな「貸出条件付長期資金供給オペ第3弾」 (TLTRO- Ⅲ) は、 融資条件の不当な厳格化を防ぐのに役立つだろう。 一方、 イングランド銀行は、 ブレグジットやそれが成長に与える悪影響を巡る不確実性が続いていることを考えると、 2019年と 2020 年については現状維持を続けそうである。 2019 年 2月は日本のゼロ金利政策 20周年に当たり、 現在のところ終わりが見えない。 インフレ率は依然として極めて低いままであり、 成長には下方修正リスクがあることから、日本銀行(BoJ)が近い将来に金融政策の引き締めに移行するとは考えられない。また中国の中央銀行は、 貿易の減少によるマイナス効果を和らげるために金融緩和政策を続けそうである。

    当社のベースライン・シナリオでは、 長期債の利回りは今後数年の間、 ほんのわずかしか上昇しないと予想している。 米国における利回りは 2018 年後半の最高水準からほぼ100ベーシス・ポイント (bp) 低下して利上げサイクルが終焉を迎えており、 この先の数年でこうした水準に戻るとは考えにくい。ドイツおよび日本では、利回りが上昇する勢いはほとんどなく、依然としてゼロに近い水準のままであり、 英国の利回りは 2019/2020 年にわずかながら上昇する可能性がある。

    2019年に入ってハト派に転じた主要中央銀行

    長期債の利回りは極めて低いままで推移すると予想

    図3 長期国債の利回りデータと見通し(年度末)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    –1%

    0%

    1%

    2%

    3%

    4%

    5%

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    2016

    2017

    2018

    2019

    2020

    F

    英国日本ドイツ米国

  • 6 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    保険会社を取り巻くマクロ経済環境

    全体的に見ると、 中央銀行の資産購入総額は数年にわたって拡大した後、 2019 年上半期になって若干のマイナスに転じた 5。 FRB は 2018 年初頭からバランスシートの縮小に動いており、 ECB は昨年末に資産購入を停止した。 BoJ および中国人民銀行 (PBoC) はバランスシートを引き続き拡大させるであろうが、FRB による縮小を相殺するほどにはならない。しかし、 今年10月時点で FRBがバランスシートの縮小を停止すると、 中央銀行による資産購入はわずかながら再びプラスに転じると予想される。 当社の見解では、 FRB などの中央銀行は、 経済や金融環境が著しく悪化した場合、 いつでも行動する用意ができている。 こうした 「中央銀行のプットオプション」 は維持される可能性があり、 以前ほど効果的ではないにせよ、 リスク資産を下支えし続けるだろう。

    見通しに対する主要リスク

    追加関税を含む米中間の貿易摩擦の最近の激化に顕著に現れているように、 世界経済に対する最大の脅威は貿易紛争の急激な再拡大である。 貿易紛争は今年中に交渉によって解決に向かう可能性はあるだろうが、 技術移転や知的財産権などの中・長期的な懸案事項は依然として残るだろう。 例えば米国の EU に対する新たな自動車関税など、 世界的な貿易戦争への拡大 (確率は 30% に上昇) がもう一つのリスクである。 そのうえ、 米国連邦議会が米国・カナダ・メキシコ協定の今年中における批准を引き延ばすのではないかとの懸念が根強く残っている。

    中国の突然のハードランディングが世界に悪影響をもたらすもう一つのリスクである。 中国の成長が急激に減速することは世界経済にとって極めて破壊的なものとなろう。 例えば中国の GDP成長率が3% にまで減速する状況になると、 世界の伸び率は 2 パーセント ・ポイント鈍化する可能性がある 6。

    合意なき離脱のリスクとは別に、 EU および通貨同盟の安定に関わる長期的な懸念は変わらない。 財政上の南北分断に加えて、 とりわけ移民問題に関わる東西間の断絶が広がっている。 ポピュリストやナショナリスト勢力が現在増大しているということは、 将来妥協に達することが一段と難しくなり、 結局は長期的な不安定化要因になる可能性がある。

    さらに、 このリスクは成長鈍化で和らぐものの、 特に米国ではインフレの過熱が可能性として残っている。 現在のところ米国では、 労働市場は好調であり、 賃金も上昇を続けているため、 インフレ・ リスクが上昇している。 物価上昇が一段と加速すれば、 FRB は期せずして引き締めに動く必要が出てくるかもしれない。 好調な成長と高インフレの期間の後に急激な減速と不景気が続くというブームバスト (加熱と急後退) サイクルが生じる可能性もある。米国のインフレ過熱リスクは、 債券の利回りの急上昇と世界中に大きな波及効果を持つ米ドル高を伴って広く伝播するかもしれない。 その他の地域でも、 金融政策の失敗は経済成長と金融市場に厳しい結果をもたらす可能性がある。

    「中央銀行のプットオプション」で引き続きリスク資産は下支えされる

    財政支援策や貿易紛争の収束可能性など、 いくつかの好材料は見られるものの、全体として下方リスクが存在する

    中国でハードランディング (硬着陸) が生じれば世界に深刻な悪影響をもたらす(確率は15% に上昇)

    EU の安定は引き続き長期的な懸念事項(確率は15%で変わらず)

    米国における急激なインフレ率上昇が依然としてリスク (確率は15%で変わらず)

    5 2019 年上半期における中央銀行の 6 ヵ月ローリング・ベースの資産購入は毎月平均しておよそマイナス 800 億米ドルであった。この月平均は2019年第4四半期には約400億米ドルと予測される。この分析における中央銀行は、FRB、 BoE、 BoJ および PBoC である。

    6 逆流が強まれば、 世界の成長率はどこまで低下するか?、 ドイツ銀行、 2019 年 2月6日

  • Swiss Re Institute sigmaNo3/2019 7

    図4 グローバル・リスク・モニター(最近の経済および金融リスクに関する洞察にアクセスするにはチャートをクリック)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    貿易戦争

    インフレ・リスク

    中央銀行の政策エラー

    EUおよびユーロ圏の不安定化新興市場への

    波及

    中国のハードランディング

    アップサイド・リスク

    世界経済の成長の急激な減速

    上昇

    下落 上昇世界の経済成長への影響

    イベ

    ントの

    可能

    https://www.swissre.com/institute/search-page.html?searchterm=Economic+and+financial+risk+insights&sort_by=Date

  • 8 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    世界の保険市場の規模と成長トレンド

    2018 年、 世界の元受保険市場における計上保険料総額は史上初めて 5兆米ドルの大台を超えたが (5兆1,930 億米ドル)、 これは世界の GDP のほぼ 6% に等しい。 保険料は、 名目ベースと実質ベースのいずれにおいても、 4.8% と1.5% の増加となった。 伸び率は2017年より低くなったが、 これは生命保険セクター、 とりわけ中国における低迷に起因している 7。 生命保険は同国の回復によって 2019/2020 年には好転すると予想する。 2018 年の損害保険の伸びは安定しており、 この傾向は今後も続くだろう。

    長期的な成長トレンド:東への大旋回 世界の保険の東へのシフトが続いている。 図 5 は、 7年移動平均による平準化した保険料の伸びを表しており、 過去数年の動きが現在でも引き続き世界の保険業界に影響を与えていることを示している。 すなわち、 (1) 先進国では、 損害保険料の伸びは引き続きマクロ経済の成長軌跡をほぼ忠実に追尾している。 一方で、 生命保険料の伸びは遅行している。低金利は当面の間続き、 伝統的な利率保証付き貯蓄型生命保険は現在の規制下では依然として魅力に欠ける。 しかし、 金利が上昇し始め、 規制が変更され、 保険会社が顧客に大きな魅力のある革新的な貯蓄商品を導入すれば、こうした状況は変化する可能性がある。(2) 新興市場では、 中南米やアフリカ、 それにとりわけ中国の生命保険セクターなどいくつかの市場が2018 年に激しい逆風に直面したにもかかわらず、 保険料は全体として引き続き経済成長を上回っている (詳細については地域別の章を参照)。

    2018 年の世界の計上保険料は 5 兆 2,000 億米ドルに達した。 生命保険料の伸びは低調であったが、 損害保険の業績は好調だった。2019 年と 2020 年の世界の保険料は、 生命保険では中国の力強い回復と、 損害保険では継続した着実な実績に支えられて、 およそ3% の伸びになると予測される。 新興市場の保険料は GDP を上回る成果を上げ、 世界の保険料に占める割合は 2018 年の 21% から2029 年には 34% になるだろう。 西から東へのシフトが続き、 2029 年にはアジア太平洋地域全体で世界の保険料の 42% を占めるだろう。 収益性については、 生命保険、 損害保険ともに依然として圧力がかかっている。 低金利により、 伝統的な貯蓄ビジネスは引き続き保険業界成長の足を引っ張ることになろう。

    2018 年の世界の保険料は史上初めて 5兆米ドルの大台を超えた

    新興市場における保険料の伸びは引き続き先進国を上回る

    図5 生命保険料および損害保険料の伸びと実質GDPの伸び(7年移動平均)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    –2.5%

    0.0%

    2.5%

    5.0%

    7.5%

    10.0%

    12.5%

    15.0%

    生命保険

    先進国 新興市場

    損害保険 実質GDP 生命保険 損害保険 実質GDP

    –2.5%

    0.0%

    2.5%

    5.0%

    7.5%

    10.0%

    12.5%

    15.0%2020F

    2018E

    2016

    2014

    2012

    2010

    2008

    2006

    2004

    2002

    2000

    1998

    1996

    1994

    1992

    1990

    2020F

    2018E

    2016

    2014

    2012

    2010

    2008

    2006

    2004

    2002

    2000

    1998

    1996

    1994

    1992

    1990

    7改定された 2017年の数字によれば、 伸び率は昨年のシグマで推定されたものより高くなっている。 この改定の主たる理由は、 米国における低下がそれほど重大ではなかったことと、 英国の急増が一度限りの巨額取引によってもたらされたことにある。

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 9

    中国における生命保険料の伸びは今年と来年に回復し (2019/2020 年の年平均成長率は約11%)、 損害保険市場は経済成長の鈍化 (2019/2020 年はプラス 9% で、 2018 年のプラス12%から低下) に合わせて減速すると考える。 しかし、 生命保険および損害保険の保険料の伸びはともに経済全体を大幅に上回っており、 保険普及率は上昇し続けるだろう。 中南米、 中東およびアフリカの他の新興諸国の経済回復は、 それぞれの保険市場を後押しすることになる。 同時に先進国では、 伝統的な貯蓄ビジネスの低下が生命保険の成長を抑制し、 経済環境の減速が生命保険と損害保険業界双方の伸びを抑えるだろう。 こうした動きは、 現在進行中の先進国から特にアジア新興保険市場への全般的なシフトをさらに後押しすることになろう。

    図 6 は東への大旋回を視覚化したものである。 世界の保険市場に占める中国の割合は1980年の0%から2018年には11%へと上昇し、10年後には20%に達すると予想されるが、これは先進 EMEA (欧州、 中東およびアフリカ) 全体の予想占有率にほぼ匹敵する高さである。 2029年には、 アジア太平洋地域の保険市場合計で世界の保険料の 42% を占めると予想される。 中国は 2018 年には世界の保険市場で第2位の地位を確立し、 同年の計上保険料総額は 5,750 億米ドルとなった。 現在のところ中国市場はまだ米国市場の規模(1兆 4,690 億米ドル) の 40% に満たず、 また欧州における 3大市場の合計 (英国、 ドイツおよびフランスで 8,360 億米ドル) よりも小規模である。 この格差は解消される可能性が高く、 中国は極めて速い段階でこの水準に到達すると予想される。 スイス・ リー・インスティテュートの予測によれば、中国の保険市場は 2022年までに前述の 3大市場より大きくなり、2030 年代半ばまでに世界最大の市場である米国を上回ることが確実とみられている。

    世界の保険市場の東への大旋回については中国が引き続き主要なけん引役となるだろう

    2029 年には中国が世界の保険料の20% を占め、 2030 年代半ばまでに世界最大の市場になると予想

    図6 元受計上保険料の市場占有率(主要市場および地域別、1980~2029年F)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    世界の市場占有率

    1980 2018E 2029F

    1 米国 42% 28% 25%

    2 中国 0.0% 11% 20%

    3 日本 16% 8.5% 7.1%

    4 英国 7.4% 6.5% 4.7%

    5 フランス 5.5% 5.0% 3.5%

    6 ドイツ 8.6% 4.7% 3.5%

    7 韓国 0.4% 1.9% 3.3%

    8 イタリア 0.3% 3.4% 3.2%

    9 カナダ 1.8% 3.3% 2.7%

    10 台湾 2.7% 2.5% 2.4% 0%

    20%

    40%

    60%

    80%

    100%

    その他の新興市場中国を除く新興アジア

    先進アジア太平洋地域

    中国

    先進EMEA米国およびカナダ

    2029F2018E1980

    44%

    33%

    18%

    31%

    30%

    11%

    18%

    3%7%

    28%

    22%

    20%

    16%

    6%8%1% 4%

  • 10 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    さらに、 中国の保険市場は他の新興市場より速いスピードで成長すると予想する。 すでに中国は新興市場における保険料総額の 50%以上を占めており、 この割合は増加するだろう。 新興アジアにおける他の市場もまた、 一人当たり GDP が急速に拡大し続けていることから、 成長を遂げ、 保険需要も押し上げられている。 いくつかの大規模市場を擁していることが新興アジアの魅力を高めている。 すなわち、 一握りの市場にアクセスすることで、 アジアのほとんどの地域に進出することができる。 ハーフィンダール指数 8 は、 新興アジアで少数の大規模市場への集中が高いことを示している。 新興アジアにおける 3大市場の占有率は93% であり、 他の新興地域より著しく高い。 また、 新興アジアには小規模市場の数も他の地域より少なく、 こうした構図が国際的な拡大を促進しており、 適用される規制の枠組みも少ない。 対照的に、 例えばアフリカもハーフィンダール指数ベースでは集中が見られるが、 これは南アフリカが 71% の市場占有率を有しているからである。 この地域の残りは 53 の比較的小規模な市場に分かれている。

    2018 年における生命保険と損害保険の個別種目本号シグマでは、 保険種目の分類は地域間の比較が容易になるように調整されている。 つ

    まり、 傷害・医療保険は生命保険会社、 損害保険会社や複合保険会社のいずれが引き受けているかとは無関係に、 損害保険として分類される (方法論の章を参照)。 このような分類方法により、 2018 年の損害保険では自動車保険と傷害・医療保険がそれぞれ世界の保険料の 3分の1を占めた。 次に大きな種目は財物保険であった (図7を参照)。 新興市場においては、 自動車保険の割合が極めて高い (損害保険の 44%弱)。 また財物保険と賠償責任保険も大きな種目である一方、特殊 (スペシャルティ) 種目は極めて小さい。「その他」 のカテゴリーが大きくなっているのは、 先進国および新興市場のいずれの国別統計でも保険料詳細を特定の種目カテゴリーに振り分ける方法で統計されていないことが多いことによる。

    生命保険では、 貯蓄型保険料と保障型保険料 (すなわち、 バイオメトリック・ リスク 9) に分けて表示する。 保障型保険料からは傷害・医療保険料は除かれている (本号シグマで

    は損害保険に分類)。 こうした分類により、 図 7 で示すように、 2018 年には世界の生命保険料のおよそ 88%が貯蓄型保険に関連していた。 保障型商品の保険料はほんのわずかであった (3,300 億米ドル)。

    新興アジア地域は全体として魅力的な成長命題

    表2 保険料総額の地域別集中度(2018年E)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    ハーフィンダール 上位国の市場占有率

    国数 指数 正規化 上位3ヵ国 上位5ヵ国 上位10ヵ国

    新興アジア 20 0.60 0.58 93% 98% 100%

    アフリカ 54 0.51 0.50 80% 84% 91%

    中南米 39 0.25 0.23 70% 83% 93%

    新興中東 14 0.19 0.13 72% 85% 99%

    新興欧州および中央アジア 29 0.16 0.13 63% 77% 91%

    先進EMEA 26 0.12 0.09 54% 70% 88%

    損害保険では自動車保険が最大の種目であり新興市場ではなおさらである

    生命保険は貯蓄型保険と保障型保険(バイオメトリック・ リスク) に分けられる

    8 ハーフィンダール指数は大企業が市場をどの程度支配しているかを評価する。 ここではこれを地域内の異なる地域と国に当てはめている。 通常のハーフィンダール指数は 0 (すべての市場が同規模) から1 (1市場における完全支配) までの幅がある。

    9 「バイオメトリック・ リスク」 の用語は、 人間の生命状態に関わる全てのエクスポージャーを対象にしている。

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 11

    損害保険 (自動車) と生命保険 (貯蓄) における現行の主要種目において、保険セクター全体は 2 つの重要な脆弱性に直面している。 すなわち、

    ■損害保険サイドでは、 新技術が事故の頻度および損害規模と、 それに伴う保険金支払コストを低減することになれば、 今後数十年におよぶ先進運転支援システム (ADAS)の技術革新や自動運転車への移行が自動車保険料を減少させる可能性がある。

    ■生命保険サイドでは、 低金利およびリスク・ベースのソルベンシーの枠組みへの移行によって、 支配的な貯蓄型保険、 とりわけ伝統的な確定保証付き貯蓄型商品が圧力を受けている。 例えば、 先進欧州ではこれまでの10年間、 生命保険料は毎年1.1%減少してきた。 人口の高齢化と公的年金の削減は、 生命保険会社が提供する民間セクターによる高齢者向け商品の需要をかきたてるだろうと予想されるが、 生命保険会社はこうした需要を満たす魅力的な商品を取り入れる改革を行う必要があるだろう。 現在、 多くの市場では生命保険会社が死亡保険に一段と重点的に取り組んでいるが、 このセグメントにおける保険料ボリュームの見込みは貯蓄型商品が提供するボリュームに代わるほどのものにはならないだろう。 死亡保障ギャップの縮小は、 伝統的な貯蓄型保険の減少を埋め合わせるのに役立つ可能性がある。 しかしスイス・ リー・インスティテュートはこのセグメントの保険料見込みをおよそ 2,700 億米ドルと予想しており、 これは 2018 年の貯蓄型保険合計の10% をわずかに上回るに過ぎない 10。

    この分類は保険にとって 2 つの主要な脆弱性を露呈している

    自動車保険から自動車保険料が永久的に減少、 そして…

    …低金利と規制が貯蓄型商品の販売を引き続き弱体化させ、 生命保険セクターが縮小

    図7 世界の生命保険料および損害保険料における種目別区分(単位10億米ドル、%)、2018年推定

    * 生命保険会社が引受けた労働災害補償保険、医療保険および傷害・医療保険を含む

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    損害保険料:2兆3,730億米ドル生命保険料:2兆8,200億米ドル

    保障型保険 3,300億米ドル;12%

    自動車保険     7,750億米ドル;33%

    傷害・

    医療保険*     7,600億米ドル;32%

    財物保険      4,000億米ドル;17%

    賠償責任保険    1,800億米ドル; 8%

    海上保険       340億米ドル; 1%

    農業保険       340億米ドル; 1%

    信用保険       250億米ドル; 1%

    エンジニアリング保険  230億米ドル; 1%

    その他保険     1,420億米ドル; 6%

    貯蓄型保険2兆4,900億米ドル;88%

    10 シグマ 2018 年第 5号、 2020 年の世界経済と保険の見通し、 スイス・ リー ・インスティテュート、 を参照。

  • 12 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    世界の再保険市場の規模および地域構造スイス・ リー・インスティテュートの推定によれば、 2018 年の元受計上保険料のうち 2,600億米ドル、 すなわち約 5%が元受保険会社から世界の再保険市場に出再された。 この出再率 (出再保険料÷元受保険料) は、 損害保険 (8.4%、 2,000 億米ドル) の方が生命保険 (2%、 600 億米ドル) より高かった。 これは生命保険においては一般的に出再されない貯蓄型保険が支配的であるためである。 損害保険では新興地域、 とりわけ中国を除く新興アジア、 中東、 アフリカおよび中南米の出再率が全体より高く、 こうした国々では再保険セクターの重要性が元受事業より高いことを示している。

    元受事業と同様、 米国およびカナダが再保険の支配的市場である (損害保険では世界の保険料の 3分の1、 生命保険では 53%)。 出再率は種目によって大きく異なる。 損害保険では自動車保険の出再率は極めて低いが (4%未満)、 財物保険 (16%) や賠償責任保険(14%)、それに航空保険、海上保険、あるいはエンジニアリング保険のような特殊保険(30%超) では一段と高くなっている。 新興市場、 とくに中国では、 自動車保険の出再が同様に低いが、 財物保険、 賠償責任保険および特殊保険などは先進諸国よりも高い。 元受保険会社が直面している先に述べた 2 つの脆弱性に関していえば、 再保険セクターは強みを有している。 第1に、 出再率が示しているように自動車保険は支配的ではない。 そして生命保険では、 再保険会社は基本的にバイオメトリック・ リスクをカバーしているため、 伝統的な貯蓄型保険が減少しても受ける影響は小さい。

    2018年には世界の保険料のおよそ5%が再保険市場に出再

    米国とカナダは世界最大の再保険市場

    図8 世界の再保険事業における地域別保険料ボユーム(単位10億米ドル、2018年推定)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    世界の再保険市場(元受保険会社の出再保険料)

    その他 30

    中国を除く新興アジア 13

    先進アジア太平洋 39

    中国 22

    先進EMEA 58

    米国およびカナダ 99 新興欧州および中央アジア 12

    中東およびアフリカ 14

    中南米およびカリブ海諸国 4

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 13

    2018 年の生命保険の総括と見通し

    2018 年の世界の生命保険料は実質ベースで 0.2%伸び、 2兆 8,200 億米ドルとなった。この伸び率は 2017年と比べて大幅な減速であり、 主として中国の縮小によるものである。これはまた、 過去10 年のすでに低迷していた年平均 (0.6%) をも下回った。 しかし、 見通しは明るくなっており、 今後2年間の世界の生命保険料は年率で約3%で伸びると予想される。 この改善のほとんどは、 特に貯蓄型商品に対する需要の回復が見込まれている中国を中心とした新興市場によるものである。 先進国の伸び率は依然として低いが、 強含んでいる。

    先進国における 2018 年の生命保険料の全体の伸び率は 2017年の1.2% から 0.8%へと減速したが、 これは先進 EMEA最大市場の縮小に主に起因するもので、 他の先進地域の伸び率は改善している。 米国の保険料は前年度に悪化した後、 主として貯蓄型商品と下支えする経済環境に後押しされて顕著に上昇した (2.4%)。 先進アジア太平洋地域の保険料は日本の回復に支えられて1.4% の伸びとなり、 2017年の同率の減少からの回復を果たした。

    新興市場の生命保険料は、2017年に13% の増加を見せた後、2018 年は 2.0%減少した。こうした急激な逆転は主として中国に起因するもので、 同国の保険料は貯蓄型商品の販売に関わる規制監督が強化されたことによって 5.4%減少した (次章における中国の項を参照)。 新興アジアの他地域における生命保険料は、 主要市場が力強く成長したため、 7.0%の増加となった。 新興欧州および中央アジアにおける伸び率は大幅に鈍化したが、 これは主にポーランドにおけるユニットリンク商品の販売が落ち込んで急速に減少したためである。中南米では、 ブラジル、 チリおよびコロンビアにおける貯蓄型商品の需要低迷により、 保険料は 2年連続で減少した。 中東およびアフリカでの伸び率は引き続き低迷した。

    2017年の中国は世界の生命保険料の伸びに対して最も貢献した国であったが、 この立場は2018年に逆転した。同国のマイナス寄与(-0.6%パーセント・ポイント)は、北米(0.5%パーセント ・ポイント) や先進アジア太平洋地域 (0.3% パーセント ・ポイント) および中国を除く新興アジア (0.3% パーセント・ポイント) におけるプラスの貢献のほとんどを帳消しにした。

    2019/2020 年には生命保険料は約 3%伸びると予想されるが、 これは過去の平均をはるかに上回るものである

    図9 2018年推定の実質生命保険料の伸び率(チャートをクリックしてsigma explorerを開く)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    データなし

    <-10.0%

      -10.0% から -5.0%

       -5.0% から -2.5%

       -2.5% から 0.0%

         0.0% から 2.5%

    2.5% から 5.0%

    5.0% から 10.0%

    >10.0%

    先進国における2018年の生命保険料の伸びは減速したが、その度合いは国によってまちまちである

    中国における貯蓄型商品の販売が落ち込んだことにより新興市場の保険料は減少

    中国が他地域のプラス寄与のほとんどを帳消しに

    http://www.sigma-explorer.com/explorer/map/index_map.php?indis=rpgr&modi=life|&regi=WOR&ext=1

  • 14 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    見通しこれからの 2年間、 世界の生命保険料は横ばいであった 2018 年の業績や過去10年の平均 (0.6%) を上回り、 実質ベースで年約3%の伸びになると予想される。 先進国では、米国およびカナダが2018 年より穏やかなペースではあるものの、 主導的な役割を果たすだろう。 先進アジア太平洋地域では、 人口の高齢化や豊の蓄積などの長期的成長要因が保険料の伸びを支えることになる。 しかし先進 EMEAでは、 低金利が引き続き貯蓄型商品の販売を妨げるため、 保険料は伸び悩むであろう。

    中国が成長エンジンとして復帰するため、 新興市場の保険料は今後2年間にわたって回復するだろう。 しかし、 中国の保険会社は、 競争が激化する一方、 保障型商品や課税繰延年金保険を推進するための対策を講じるには時間がかかるため、 短期的な課題には直面することになる。 他地域については、 税制優遇策 (例えば、 アルゼンチン) やいくつかのアジア市場における金融包摂スキームの促進などの好条件の政策が生命保険の需要を下支えする。 景気拡大や好ましい人口動態、 それに所得増加なども同様に生命保険需要を下支えするであろう。 新興市場の多くでは、 低金利のため貯蓄型商品を避け、 保障商品への関心が高まっている。

    今後2年間の世界の生命保険の伸び率については、 中国がほぼ半分 (1.4% パーセント ・ポイント) を占めると予想される (図11)。 これは米国およびカナダの寄与率 (0.6% パーセント ・ポイント) の 2倍以上である。 中国を除く新興アジアの寄与率は 0.4 パーセント ・ポイント、 先進アジア太平洋地域は0.3% パーセント ・ポイントとなろう。

    図10 実質生命保険料の地域別伸び率

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    中東・アフリカ

    欧州・中央アジア

    中南米中国を除くアジア

    中国中国を除く

    新興市場

    新興市場アジア太平洋

    EMEA米国・カナダ

    先進国合計

    先進国 新興市場全世界

    –6%

    –3%

    0%

    3%

    6%

    9%

    12%

    15%

    2019~2020年Fまでの平均年間成長率の見通し 2008~2017年の平均年間成長率 2018年E成長率

    これからの 2年間、 先進国の生命保険セクターにおける保険料の伸びは北米がけん引するだろう

    中国は今後2年間、 新興市場の成長エンジンとして復帰し…

    …世界の生命保険セクターの成長についても成長エンジンとして復帰

  • Swiss Re Institute sigmaNo3/2019 15

    収益性とりわけ欧州および先進アジア太平洋地域において、 低金利が生命保険の収益性を押し下げ続けている。 特に貯蓄型商品は、 保険会社が魅力的なリターンや元本保証、 将来の保険金、 給付金のほか、 魅力的な価格も提示できないため、 悪影響を受けている。 明るい材料としては、 北米においては解約払戻金や準備金の急増で昨年は悪影響を受けたものの、 金利が徐々に上昇してきたため収益性が次第に改善し始めてきている。 米国の複合保険会社および生命保険会社サンプル23 社の 2018 年の株主資本加重平均 ROE は11.3% となり、 2017年から 2.4 パーセント ・ポイント改善した。 アジア太平洋地域32社のそれは1.0 パーセント ・ポイント改善して 10.4% となったが、 欧州の保険会社18 社は1.0%パーセント ・ポイント悪化して 8.5% となった。

    図11 2020年予想の実質生命保険料伸び率の地域別寄与度

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    2.9

    0.03

    0.05

    0.1

    0.1

    0.3

    0.4

    0.6

    1.4中国

    米国およびカナダ

    中国を除く新興アジア

    先進アジア太平洋

    中南米およびカリブ海諸国

    新興欧州および中央アジア

    中東およびアフリカ

    先進EMEA

    全世界

    先進国

    パーセント・ポイント

    新興市場

    低金利は依然として生命保険会社にとって深刻な懸念材料であり…

    図12 世界の複合保険会社および生命保険会社73社のROE

    出典:ブルームバーグ、スイス・リー・インスティテュート

    11.3 8.5 10.4

    –5%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    2016

    2017

    2018

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    2016

    2017

    2018

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    2016

    2017

    2018

    中間50% 株主資本加重平均 2010年以降の線形トレンド

    北米(23保険会社) 欧州(19保険会社) アジア太平洋(32保険会社)

  • 16 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    生命保険セクターの全体的な収益性は依然として圧力を受け続けるだろう。 最近の金融政策の方向転換を踏まえると、 低金利環境がさらに長期にわたって継続するからである。 北米の収益性は改善したが、 これからの 2年間はその水準で安定を維持すると予想する。先進 EMEAでは、 低金利に加えて一般データ保護規則 (GDPR) のような新しい規制がさらなる課題を提起している。 先進アジア太平洋地域においてもまた、 低金利が続くため、収益性は低水準で推移すると予想する。 新興市場、 とりわけ中国においては、 今年の株価の立ち直りが収益性の好転を示唆している。

    損害保険:2018 年のレビューと見通し

    昨年の世界の計上損害保険料は、実質ベースで一昨年比3%増の2兆3,730億米ドルとなった。 世界の保険料の伸び率は、 2019/2020 年は 3%前後の健全なペースを維持すると予想され、 10 年平均の 2%前後を上回るだろう。 先進国の保険料は、 大半の地域でそれぞれの長期トレンドに沿って 1.8%前後伸びる見通しである。 新興市場の保険料は 2018 年とほぼ同水準の7%前後伸びると見込まれるものの、 長期平均の7.7%を下回ることになろう。新興アジアの保険料の伸びは底堅く推移すると思われるが、 経済成長の減速と自動車保険の需要鈍化を背景に、 伸び率は著しく低下すると予想される。 その他の新興市場の伸び率は概ね改善するであろう。

    …セクターの収益性に引き続き圧力をかけ続けるだろう

    世界の損害保険料は今年と来年に実質ベースで3%伸びると予想

    図13 実質損害保険料の伸び率、2018年推定(チャートをクリックしてsigma explorerを開く)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    データなし

    <-10.0%

      -10.0% から -5.0%

       -5.0% から -2.5%

       -2.5% から 0.0%

         0.0% から 2.5%

    2.5% から 5.0%

    5.0% から 10.0%

    >10.0%

    http://www.sigma-explorer.com/explorer/map/index_map.php?indis=rpgr&modi=nlife|&regi=WOR&ext=1

  • Swiss Re Institute sigmaNo3/2019 17

    先進国における昨年の損害保険料の伸びは、 米国、 カナダ、 先進欧州の伸びが鈍化したことから、 若干低下して 1.9%となった (インフレ率の上昇が実質伸び率に影響を与えたことが一因)。 アジア太平洋地域の保険料は 2017年に 8.6%減となった後、 日本で安定して推移したため、 著しい改善を示した。 2018 年の新興国の保険料は前年より改善して 7.1%の伸びとなったが、 10 年平均 (7.7%) を下回った。 新興アジアは引き続き急拡大し、 保険料は11%超の増加となり、 中国では12%増となった。 新興欧州も、 堅調な経済環境と EU加盟国の金利上昇に支えられ、保険料は4.2%と力強く伸びた。 保険料が減少した地域は、中東とアフリカだけであった (1.3%減)。

    中国と北米は、 2018 年の世界の損害保険市場の成長にそれぞれ1.2 パーセント・ポイントと1.1パーセント ・ポイント寄与し、 最大のけん引役となった。 先進 EMEA と他の新興アジア諸国は、 いずれも同程度の 0.25 パーセント ・ポイント前後の寄与となった。 その他の地域の寄与は、 比較的低水準にとどまった。

    見通し今後2年間の損害保険料は、10年平均を上回る年率3%前後の伸びを示すと予想される。先進国の伸びは 2018 年より鈍化して 1.8%になると思われるが、 それでも過去の平均を上回る。 スイス・リー・インスティテュートの予想は米国とカナダの保険料が堅調に伸び続けるとの見通しに基づくものであり、 景気が減速する中で保険料率の引き上げが支援材料となると思われる。 他の先進地域の伸び率は、 長期平均トレンドに沿ったものとなるだろう。 先進アジア太平洋地域では、 伸び率が3%に近づくだろう。 これは、 日本における自動車保険料率の引き下げと長期火災保険契約の廃止による影響が薄れるためである

    昨年の伸びは主に新興市場によるものであった

    中国が最も寄与した

    米国とカナダでは、 底堅い経済成長と今なお上昇する保険料率を背景に堅調な業績を上げることが予想される

    図14 損害保険料の実質伸び率

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    中東・アフリカ

    欧州・中央アジア

    中南米中国を除くアジア

    中国中国を除く

    新興市場

    新興市場アジア太平洋

    EMEA米国・カナダ

    先進国合計

    先進国市場 新興市場全世界

    –2%

    0%

    2%

    4%

    6%

    8%

    10%

    12%

    14%

    16%

    2019~2020年予想までの平均年間伸び率の見通し(予想)2018~2017年の平均年間伸び率 2018年推定伸び率

  • 18 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    新興市場の保険料は 2019/2020 年に 7%前後伸びると予想される。 中国では、 伸び率は経済成長の一段の減速を反映し、 過去10年 (16%) より大幅に鈍化すると見込まれる(9%)。 また、 自動車種目は損害保険料全体にとって最大の貢献者であり続けるだろうが、保険料率の自由化や新エネルギー車への補助金減額の影響で、 伸び率は低下するであろう。 その他の新興アジアは最も急成長している地域であり、 医療、 賠償責任、 農業の保険種目が伸びると予想される。 中東、 アフリカおよび中南米では、 経済が引き続き力強さを増していることから、 損害保険セクターは徐々に回復することが見込まれる。 しかし、 保険料の伸び率は依然として過去の平均を下回るであろう。

    中国は、 今後2年間の世界の損害保険料の伸びに大きく寄与し (1.1パーセント ・ポイント、下の図15 を参照)、 その寄与度は北米を上回るであろう。 先進アジア、 新興アジアおよび先進 EMEA は、それぞれ、 2019年と 2020 年の世界の損害保険料の伸びに 0.2~ 0.3パーセント ・ポイント前後寄与するであろう。 なお、 先進国の伸びは中国より格段に緩やかなペースとなりそうだが、 それでも世界の予想伸び率のほぼ半分が先進国の寄与によるものとなるだろう (1.4 パーセント ・ポイント)。 シグマのデータによると、 現在、 先進国市場全体で世界の損害保険料ボリュームの78%を占めている (絶対ベース)。

    自然災害と損害保険金の支払総額2018 年の自然災害と人災による経済的損害は、 総額1,610 億米ドルであった。 その約半分(810 億米ドル)が保険セクターによって補償されたが、これは保険業界が1年間に支払った保険金総額としては史上4番目の高さであり、 過去10年間の1年当たり平均の710 億米ドルを上回った。 自然災害による損害は大きく報道されるが、 保険セクターによるレジリエンスへの貢献は、 災害イベントの補償額をはるかに上回っている。 これは、 総額1兆7,000億米ドルの損害保険セクター保険金が保険契約者に昨年支払われたというスイス・ リー・インスティテュートの試算によって証明されている。 810 億米ドルのうち、 自然災害によるものは損害保険総額のわずか 5%と世界の財物保険金請求の約3分の1に過ぎなかった。

    新興市場は、 新興アジアが中心となって2019/2020 年の損害保険セクターの成長をけん引するであろう

    中国は、 ある程度の鈍化が見込まれるものの、 世界の損害保険料の伸びの主たる貢献者であり続けるだろう

    図15 2020年までの損害保険料の実質年間伸び率(パーセント・ポイント)の域別寄与度(予想)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    3.0

    0.1

    0.1

    0.1

    0.2

    0.2

    0.3

    0.8

    1.1中国

    米国およびカナダ

    先進アジア太平洋

    中国を除く新興アジア

    先進EMEA

    中南米およびカリブ海諸国

    中東およびアフリカ

    先進EMEA

    全世界

    先進国

    パーセント・ポイント

    新興市場

    保険業界によるレジリエンスへの貢献度は、 自然災害による保険金支払額をはるかに上回っている

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 19

    収益性と業界の資本基盤 11

    保険引受状況は 2017年末頃に改善し始め、 2018 年にかけて改善が続いた。 これは、2017年にハリケーンによる多額の損害が発生したのを受けて、 財物保険の料率が上昇し始めたためである。 財物保険の回復傾向を支えたのは、 欧州大陸における料率の多少のハード化と、 中南米と英国における保険料率の安定化であった。 金融機関および専門職業人向け保険種目 (F&PL) の料率も、 全地域で回復傾向を示した。 特に注目すべきは、英国と中南米の料率がハード化したことと、 オーストラリアで料率が2年連続して 2桁改善したことであった。 他方、 新種保険の料率は 2018 年も (太平洋を除く) 全地域で軟調に推移し、 前年比で低下する傾向が2014 年以来続いている。

    それにもかかわらず、 保険引受サイクルは一部改善したにすぎず、 損害保険の収益性は2018 年も低いままで推移した。 近年のソフト ・マーケット ・ トレンドの安定化は、 損害保険セクターを依然悩ませている収益性ギャップを大きく縮小させるには十分でない。 世界の損害保険セクターの引受成績は、 2018 年に若干のプラスになったと推定される。 世界の損害保険全体の収益性は6~ 6.5%にとどまっており、 業界の資本コストを辛うじてカバーする程度である。 低金利が続いているのは主に欧州と日本だが、 米国も低金利状態にあり、運用収益は日本の 2.1%から米国とオーストラリアの 3.6%の範囲となった。 欧州の運用収益は、 こうした両極な事例の中間水準であった。

    2019 ~2020 年については、 大規模自然災害の影響を除く引受成績が若干のプラスとなり、 運用収益が低位にとどまるとすると、 平均 ROE は 7~ 8%になると予想される。 現状では、 2 つのシナリオが想定される。 すなわち、 引受状況がすでに軟調であることと保険金請求が若干上昇していることを踏まえると、 財物保険と金融機関・専門職業人向け保険の最近の改善がまもなく終わるか、 または新種保険の料率や引受条件が改善するというシナリオである。 とはいえ、 引受状況が改善したとしても、 小幅な改善にとどまり、 シグマ2018 年第 4号で指摘したセクターの収益ギャップを埋めることはないであろう 12。

    企業向けの料率は、 新種保険を除き、2018 年に改善した

    ソフト・マーケット・トレンドの安定化により、収益性の顕著な改善にはつながっていない

    図16 損害保険主要8市場における収益の正味既経過保険料に対する比率(1999~2020年予想)、ROEを除く)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    –15%

    –10%

    –5%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    2020

    F

    2019

    F

    2018

    E

    2017

    2016

    2015

    2014

    2013

    2012

    2011

    2010

    200

    9

    200

    8

    2007

    200

    6

    200

    5

    200

    4

    200

    3

    200

    2

    2001

    200

    0

    199

    9

    税引き後株主資本利益率(%)運用成績保険引受成績

    米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、日本、オーストラリアの合計

    保険引受の改善は (あったとしても) 小幅にとどまり、 損害保険の収益性ギャップは残ると予想

    11本セクションは、 8 つの主要成熟市場 (米国、 カナダ、 ドイツ、 フランス、イタリア、 英国、日本およびオーストラリア)   の財物保険および新種保険の分析に基づくものである。 新興市場の保険セクターの収益性については、 入手可   能なデータがほとんどない。12 スイス・ リー ・インスティテュートのシグマ 2018 年第 4号:「損害保険事業の収益性:ギャップに注意」 を参照。

  • 20 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    世界の保険市場のトレンド

    世界的な景気後退が損害保険業界の収益性に及ぼす影響2019 年、 2020 年の世界の景気減速が景気後退へと変化すれば、 その景気後退は2008 年の金融危機後の景気後退より穏やかではあるものの、長期化するものと思われる。経済成長は約2%減速し、総合インフレ率は3年間に年率1%低下すると推測される。 また、同期間中には、過去の景気後退期と同様、国債、特に米国やユーロ圏中核国の国債が 「質への逃避」 の恩恵を受けることから、 リスク資産は著しくアンダーパフォームするであろう。

    保険引受成績は景気後退の前段階で悪化する傾向にあり、 景気後退期入り後に通常改善する。 悪化は好況時のインフレ圧力の高まりによるものと考えられる。 景気後退が本格化すると、 ディスインフレとそれに伴う準備金の取崩しによって、 新契約の保険金支払負担が減少する。

    各保険種目は一般物価水準の変化に対して異なる反応を示す。 保険金請求が主に医療費の上昇によって増加する場合 (新種保険、 医療保険等)、 これらの保険種目は一般物価インフレ率の変化に対する感応度が高いことから、 ディスインフレによって最も恩恵を受ける。 一部の保険種目はインフレに対する感応度がゼロである (生命保険、 信用保険など)。保険会社にとって最悪の経済シナリオは、 スタグフレーションである。 スタグフレーションは保険金請求の増加につながるが、それを埋め合わせる投資収益の拡大がないためである。

    スイス・ リー・インスティテュートの景気後退シナリオでは、 世界の成長は 2%減速すると想定

    景気後退の本格化に伴い、 新契約の保険金支払負担が低下する

    図17 過去3回の景気後退期における米国の損害保険の 米国の元受保険会社の推定インフレ・エクスポージャー平均コンバインド・レシオ(大規模災害調整後)

    出典:スイス・リー・インスティテュート 出典:IBNRウィークリー

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    住宅所有者総合自動車財物損傷

    個人自動車賠償責任企業自動車賠償責任

    労働災害補償企業マルチペリル

    医療過誤特別賠償責任一般賠償責任

    専門職業人賠償責任生産物賠償責任

    合計90%

    92%

    94%

    96%

    98%

    100%

    102%

    +5年

    +4年

    +3年

    +2年

    +1年

    景気

    後退

    入り

    -1年

    -2年

    その他社会消費者物価上昇率賃金医療

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 21

    2018年の地域別レビューと見通し

    はじめに

    過去5年間、 世界の保険料に占める新興市場のシェアは上昇し、 2018 年には 4.5 パーセント ・ポイント上昇して 21.3%になった。 これは世界の GDP に占める新興市場のシェア (同期間中に 0.8 パーセント ・ポイント上昇して40.8%となった) をかなり下回っている。 世界の生産高に占めるシェアに比べて保険のシェアがかなり低いことは、 新興市場における保険のキャッチアップ余地が大きいことを示している。 また、 低所得国はGDP に占める保険支出のシェアが高所得国より低いことも示している (いわゆる Sカーブとの関係) 13。 世界の保険市場において新興市場のシェアが上昇したのは、 主として中国の力強い伸びによるものである (図18 を参照)。 中南米、アフリカおよび新興欧州の主要市場は近年苦戦しており、その他の新興市場も不振である。 しかし、 今後数年については、 その他の新興市場でも保険料がこれまでより速いペースで伸びると予想される。 一方、 先進国では小幅な伸びにとどまる見通しである。

    本章では、 地域別の成長と収益性の傾向について概説する。 新興市場では、 保険の普及率が明らかに上昇傾向にあり、 この傾向が続くと予想される。 中国は今後 2 年間にわたって新興市場の保険料の伸びを引き続き主導するであろうが、 新興アジア全体や新興欧州でも好調な伸びが見込まれ、 中南米では伸びが回復するであろう。 先進国では、 生命保険の普及率が低下傾向にあり、 損害保険の普及率は堅調を維持する。 2019/2020 年には、 北米と先進アジア太平洋の全体的な保険料と先進 EMEA の損害保険料がそれぞれ若干伸びると予想される。

    新興市場においては、 S カーブに沿ってGDP に占める保険支出のシェアは高まると予想

    図18 世界の計上保険料およびGDPに占める新興市場のシェア(1980/2029年予想)

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    GDP 中国を除く計上保険料

    2018年推定; 40.8%

    2018年推定; 21.3%

    2018年推定; 25.2%

    2018年推定; 10.3%

    2025F2020F20152010200520001995199019851980

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    13R.Enz著、 「Sカーブ、 1人当たり所得と保険普及率の関係」、 リスクと保険に関するジュネーブ・ペーパー―課 題と実践、 第25巻第3号、2000年7月

  • 22 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    2018年の地域別レビューと見通し

    先進国

    保険普及率と保険密度先進国の全体的な保険普及率 (保険料/GDPと定義される) は過去10年間、 生命保険事業の縮小に伴って低下してきた。 損害保険の保険普及率は、 飽和市場で予想される通り、ほぼ安定して推移している。 先進国における 2018年の1人当たり平均保険支出額(保険密度) は 3,737米ドルとなり、 保険普及率 (保険料/GDP) は 7.8%であった (図19 を参照)。

    図19 先進国における保険密度(米ドル)と保険普及率(%)、2018年推定

    出典:スイス・リー・インスティテュート

    香港

    スイス

    デンマーク

    アイルランド

    台湾

    ルクセンブルク

    シンガポール

    フィンランド

    オランダ

    英国

    米国

    G7

    平均

    フランス

    スウェーデン

    ノルウェー

    日本

    韓国

    カナダ

    EU15ヵ国

    オーストラリア

    ドイツ

    イタリア

    ベルギー

    オーストリア

    イスラエル

    ニュージーランド

    アイスランド

    スペイン

    ポルトガル

    マルタ

    キプロス

    ギリシャ

    0% 5% 10% 15% 20% 25%

    GDP比保険料(%)

    0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

    1人当たり保険料(単位:米ドル)

    1人当たり生命保険料 全体の保険普及率(下目盛り)1人当たり損害保険料

    0%1%2%3%4%5%6%

    2018年(推定)

    2010年2000年1990年1980年

    保険普及率

    損害保険生命保険

  • Swiss Re Institute sigma No 3/2019 23

    米国とカナダ:2019 年 /2020 年の保険料の伸びは概ね小幅にとどまる

    生命保険米国とカナダにおける 2018 年の生命保険料は、 前年の急落から回復して 2.3%増加した。米国では、 2017年の販売を著しく阻害した労働省の受託者規則が裁判所により無効の判決が下りた後、 貯蓄型商品、 特に年金のけん引で 2.4%に回復した。 ほぼ1年を通して見られた緩やかな金利上昇、好調な株式市場、そして良好なクレジット市場も寄与した。 一方、保障型商品の伸びは変動の大きい団体生命保険セグメントが重石となって低下した。 年金の伸びは 2019/2020 年に鈍化するものの、 比較的底堅く推移すると予想され、 他のセグメントはトレンドに沿った伸びとなろう。 カナダでは、 生命保険料の実質成長率は 2018 年にほぼ半減し、 1.4%になったと推定される。 個人生命保険の販売は 2017年の税制優遇措置の縮小後もまだ均衡点を探っており、 団体生命保険は比較的低調に推移し、 年金保険料の伸びは横ばいで推移した。 インフレ率の上昇は実質ベースでの比較に影響を及ぼした。 2019/2020 年については、 トレンド成長への回復が予想される。

    保険料の堅調な伸びにもかかわらず、 解約返戻金と準備金が2018 年に急増したことが米国の生命保険会社の営業利益に悪影響を及ぼした。 一方、 投資収益は着実な金利上昇による恩恵を受けた。 全体として、 米国の生命保険会社は 2018 年に11%という堅調なROE を達成したとみられ、 2019/2020 年の収益性はその水準で安定的に推移すると予想される。 カナダでは、 生命保険会社の収益性は10%前後に改善し、今後もやはり底堅く推移すると予想される。

    損害保険北米の損害保険料の伸びは 2018 年に若干鈍化して 2.7%となったが、 それでも堅調な水準にある。 名目ベースでの力強い伸びは、インフレ率の上昇により覆い隠された。 米国では、基礎となるエクスポージャーの大幅増加と料率の小幅引き上げが保険料の伸びを支えた。自動車セグメントでは、 特に企業保険分野が引き続き成長のけん引役となり、 保険金支払コストの上昇に追いつくために保険料率が大幅に引き上げられた。 財物保険と賠償責任保険セグメントも、 伸びが加速した。 財物保険では 2017年の大規模災害による記録的な損害を受けて料率設定にやや改善が見られたものの、料率の引き上げは当初の期待を下回った。 米国の損害保険料の伸びは、 経済成長の減速に伴い、 2019/2020 年に低下すると予想される。 特に 2018 年に料率を引き上げた大半のセグメントで引き上げペースの鈍化が見込まれるためである。 カナダでは、 継続的な料率調整により、 財物保険種目が2018年の成長を主導したが、 自動車と賠償責任の保険料の伸びも加速した。 米国同様、 経済成長の減速と料率引き上げペースの鈍化により、 2020 年までは全保険種目で保険料の伸びがさらに低下すると予想される。

    米国では、 2018 年の損害保険会社の全体的な収益性は前年より改善し、 ROE は約 8%になったと推定される。 2018 年1月1日に発効した米国税制改革の税源浸食濫用防止税(BEAT) の規定を受けて、 特に企業保険セグメントでは、 取引を国内にとどめるケースが増えた。 しかし、 この影響を正味ベースで受けるのは前年比で低下したソルベンシー・レシオのみである。 大規模災害による損害額が高止まりし、 ハリケーン・マイケルやハービー、 そしてカリフォルニア州の山火事で多額の損害が発生したが、 史上最高に迫る損害が発生した2017年よりは改善し、 保険引受成績が赤字に陥るほどではなかった。 同様に、 カナダでも、 大規模災害による損害とそれ以外の損害がともに多発したにもかかわらず、 損害保険セグメント (政府系自動車保険会社を除く) は 2018 年に辛うじて小幅な保険引受利益を確保したと推定される。運用成績はほぼ変わらず、当セクターは6%前後のROEを達成した。今後2年間については、 小幅ながらもプラスの保険引受成績 (大規模な自然災害の影響を除く) が続き、 低いながらも安定した運用収益が見込まれることから、 米国とカナダの当業界の ROE はともに概ね安定した水準になると予想される。

    米国における2018年の生命保険料の伸びは、 年金の力強い伸びによってもたらされたが、 2019 年 /2020 年には鈍化すると予想

    北米の 2018 年の損害保険料も、 比較的堅調に伸びた

    米国とカナダの保険料(2018年推定)

    10億

    米ドル

    世界における

    市場シェア

    生命保険 647 23%

    損害保険 950 40%

    –2%

    –1%

    0%

    1%

    2%

    3%

    損害保険生命保険

    保険料の実質伸び率

    2018年の推定伸び率

    2008~2017年の平均年間伸び率

    2019~2020年の平均年間伸び率(予想)

    0%1%2%3%4%5%6%

    2018年(推定)

    2010年2000年1990年1980年

    保険普及率

    損害保険保険

  • 24 Swiss Re Institute sigma No 3/2019

    2018年の地域別レビューと見通し

    先進 EMEA:生命保険セクターは伸び悩み、 損害保険は小幅成長

    生命保険先進 EMEAの生命保険料は、 2017年が 4.4%伸びたのに対して、 2018 年は 0.6%減少したと推定される。 インフレ調整後の減少幅が極めて大きかったのは、 スペイン (-3.4%) とオランダ (-4.1%) で、 貯蓄型保険の販売不振が主因であった。 英国、 フランスおよびドイツの保険料は、 実質ベースで1.5 ~2%程度減少した。 しかし、 名目ベースでは、 保険料収入は概ね横ばいで推移した。 当地域では、 2018 年の生命保険会社の全体的な収益性 (ROE) は 8.5%前後となった 14。 低金利がさらに長期間続き、 セクターにおける保有契約の収益性に悪影響を及ぼすだろう。 また、 規制当局が許容保証水準を継続的に引き下げており、 伝統的な貯蓄型保険の魅力をさらに低下させることになろう。 ユニットリンク契約は給付金がミューチュアルファンドの運用実績に応じて変動するが、 こうした契約へのシフトが続いている。 EU 一般データ保護規則 (GDPR) などの新たな法律は、 さらなる課題を提起している。 GDPR はコンプライアンス体制の徹底のために高額の費用がかかるレガシーIT システムの更新を余儀なくするとともに、 革新的な技術を利用することのリスクを高めている15。

    先進 EMEAの保険料収入は 2020 年まで伸び悩むと予想される。 運用保証付きの伝統的な貯蓄型保険の損失を埋めるために、 ユニットリンク型貯蓄商品の販売促進が引き続き行われるだろう。 規制当局は許容される保証水準を引き続き下げる見通しであり、 バリュー・プロポジション (顧客に提供する価値) の低下を招くだろう。 一方、 バイオメトリック関連の保障型保険は成長し続けると予想され、 スイス・ リー・インスティテュートの死亡保障ギャップの数字は当地域におけるキャッチアップの余地が依然として大きいことを示している (潜在的保険料は430 億米ドルであり、 EMEAの現在の生命リスク保険の約50%に相当)。

    損害保険先進 EMEA における 2018 年の保険料の伸び率は1.1%に鈍化したが (2017年は 2.7%)、依然として 10 年平均の 0.7%を上回っている。 主要市場における伸び率は 0.1~1.4%であった。 ドイツの保険料は、主に堅調な自動車保険と財物保険を背景に1.1%増となったが、傷害保険と医療保険は伸び悩んだ。 フランスの保険料は主な保険種目のすべてで横ばいとなった。 英国では、 保険料は国際事業の伸びにより微増となったものの、 国内個人向け種目 (自動車と住宅) は低調であった。 北欧諸国はまちまちであり、 デンマークとスウェーデンの保険料が3%超の伸びとなった一方、 フィンランドは1.0%の減少となった。 EU 南欧諸国では、 保険料はポルトガルとギリシャで堅調に伸びたが、 スペインではわずか 0.8%増にとどまった。 イタリアでは、 保険料は 2007年以来減少し続けていたが、 2017年の微増(0.3%) に続いて拡大した (1.4%)。 中核セグメントである強制自動車賠償責任保険を除き、成長は幅広い種目で見られたほか、 保険料率の引き上げによっても下支えされた。 欧州経済領域における保険引受の収益性は、 概ね安定的に推移している。 損害率が2017年の60.9%から 2018 年には 3四半期にわたって 60.3%に低下したほか、 自然災害による損害が平均を下回ったことも一因となっている。 欧州の大規模市場全体の収益性 (ROE) は 6~7%程度であった。

    2019/2020 年の損害保険料は、マクロ経済環境の一時的な悪化を反映し、 小幅な伸びにとどまると予想される。 また、 低インフレもロングテールの保険種目 (賠償責任、 自動車賠償責任など) の保険金請求の増加を抑制した。 企業保険の料率に幾分引き上げの動きが見られるが、 保険料率を取り巻く情勢は概ね安定的とみられる。 保険引受の収益性は大幅な改善が見込めず、 引き続き目標を下回るであろう 16。 運用利回りの低さから、 運用収益も低迷が続くと思われるが、 最近の再投資利回りは昨年、やや改善した。

    先進 EMEAの生命保険料は 2018 年に0.6%減となった後、今後2年間伸び悩むと予想

    損害保険の伸びは鈍化するものの、 過去平均を引き続き上回るだろう。 一方、保険引受の収益性は依然として目標を下回っている

    先進EMEAの保険料(2018年推定)

    10億

    米ドル

    世界における

    市場シェア

    生命保険 934 33%

    損害保険 627 26%

    –2%

    –1%

    0%

    1%

    2%

    損害保険生命保険

    保険料の実質伸び率

    2018年の推定伸び率2008~2017年の平均年間伸び率

    2019~2020年の平均年間伸び率(予想)

    0%1%2%3%4%5%6%

    2018年(推定)

    2010年2000年1990年1980年

    保険普及率

    損害保険生命保険

    14 サンプルとして抽出した欧州生命保険会社18 社に基づく株主資本加重ベース ROE。15 「保険会社がGDPR 適用の問題点を指摘」、 Insurance Europe、 2019 年 4月、https://www.insuranceeurope.eu/insurers-highlight-challenges-applying-gdpr16前掲のシグマ 2018 年第 4号も参照のこと。

  • Swiss Re Institute sigmaNo3/2019 25

    先進アジア太平洋:足元は弱�