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Chapter 1 人材マネジメントの変遷とフレームワーク Copyright ©Masahiko Fujimoto 米国の人事労務管理の歴史概観 年代 主な特色 18世紀後半 産業革命 「専制的人事労務」 内部請負制による徒弟的支配 19世紀後半 政府の労働者保護 と労働組合の結成 「親権的人事労務」 労働組合運動の発展 親が子供を監督・保護するような親権的、温情的な人事管理 20世紀前半 第一次世界大戦 産業民主主義 「近代人事労務管理」 F.テイラーの「科学的管理法」の台頭能率による生産性向上 (職能合理主義:職務内容と必要な能力を明確に定義して、該当する職務能 力を保有する労働者を採用し配置する) ホーソン工場実験を契機とする「人間関係論」の興隆 20世紀後半 第二次世界大戦後 の民主主義の発展 「現代人事労務管理」 「人間関係論」から「行動科学論」/「組織行動論」へ 「人的資本論」の興隆 出所)岩出博(1995)『LECTURE 人事労務管理(新版)』泉文堂、pp.6-13を参照して作成

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Chapter 1人材マネジメントの変遷とフレームワーク

Copyright ©Masahiko Fujimoto

米国の人事労務管理の歴史概観

年代 主な特色

18世紀後半

産業革命

「専制的人事労務」

内部請負制による徒弟的支配

19世紀後半

政府の労働者保護と労働組合の結成

「親権的人事労務」

労働組合運動の発展

親が子供を監督・保護するような親権的、温情的な人事管理

20世紀前半

第一次世界大戦

産業民主主義

「近代人事労務管理」

F.テイラーの「科学的管理法」の台頭→能率による生産性向上

(職能合理主義:職務内容と必要な能力を明確に定義して、該当する職務能力を保有する労働者を採用し配置する)

ホーソン工場実験を契機とする「人間関係論」の興隆

20世紀後半

第二次世界大戦後の民主主義の発展

「現代人事労務管理」

「人間関係論」から「行動科学論」/「組織行動論」へ

「人的資本論」の興隆

出所)岩出博(1995) 『LECTURE 人事労務管理(新版)』泉文堂、pp.6-13を参照して作成

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前近代産業の発展と工場管理

前資本主義的労働様式

農業の周期性に従って1年サイクルの中で収穫繁忙期と閑散期が存在(農業社会の労働様式)

一部の手工業的産業の労働様式(1600年以降)は、安息日(日曜日)には働かず週間サイクルとなった

(e.g. 織布工は家族労働(家内工業)による1週間分の毛織物を土曜日に市場で売ることが一般的)

18世紀には問屋制家内工業に発展し、織機や紡ぎ車を所有する家族労働者が、問屋から原材料を仕入

れて販売も彼らに委託することによって、賃金労働者に転化しつつあった

資本主義的工場制度の普及(18世紀中頃~19世紀末)の背景

技術決定論中央動力源に依存する動力機械が工場に労働者を集結させる工場労働制を普及させた

工場制度普及の背景

社会統制論労働者の怠惰な時間労働や部材の横領を統制することで生産性を向上させるために工場労働制を普及させた

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20世紀初頭までの内部請負制による工場労働の矛盾

内部請負制による労働様式:職種別労働組合(craft union)と「組織的怠業」の温床「内部請負人は、多くの点において、独立下請業者と似ていた。内部請負人は、製品の一部を製造し、各完成部品に対して一定の価格を受け取る契約を会社の工場長あるいは所有者と結んだ。[中略]内部請負人は、自分の領域の生産、かれ自身の従業員の雇用および作業過程の監督については完全な責任を負っていたが、この(次の)点では独立下請業者と相違した。かれらはその会社以外には取引はなく、企業は特定品目の生産のすべてをかれらに依存していた。より重要なことは、内部請負人として、かれらは企業が所有する工場の建物の内部で働き、その企業の機械、設備、原材料を使用していたということである。内部請負人は、その企業の従業員であり、多くの場合、企業から日給と完成品1個あたりいくらかの賃金を受け取っていた。」(Clawson, D. (1980) Bureaucracy and labor process: the transformation of U.S. industry, Monthly Review Press(今井斉監訳『科学的管理生成史』森山書店、1995年、p.71)

単純出来高払制度会社は完成品1個あたりの正当な価格を決め、その生産量に応じて労働者に賃金を支払う。したがって、労働者は余分な努力や自ら工夫や改善をすることによって生産量を増大させると、より多くの賃金を受け取ることができる。

⇒しかし、実際には、会社は出来高価格を調整して労働者の賃金を切り下げてしまうため、労働者はみせかけの生産高制限によって組織的に怠業し、労働強化をもたらす生産性の向上に貢献することはなかった。(e.g. 新参者の賃率破りが生産性を倍増させたが、彼の賃金は50%切り下げられた)(Clawson, D. (1980) Bureaucracy and labor process: the transformation of U.S. industry, Monthly Review Press(今井斉監訳『科学的管理生成史』森山書店、1995年、pp.181-221)を参照

記録保持と管理の発展(労働者の作業過程や生産高を克明に記録する)→生産性を向上

⇒未だ十分に管理技術が普及していたわけではなかった。

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内部請負制による工場労働の課題解決の方向性

記録保持と管理の発展労働者の作業過程や生産高を克明に記録することによって生産性を向上させることは明らかだったが、未だ十分に管理技術が普及していたわけではなかった。→F.テイラーの化学的管理法の普及へ

技術変革分業の進展と機械の導入は、低賃金の不熟練労働者の雇用を可能にし、作業過程における労働と生産の速度の統制を促進させることによって労働生産性を向上させた。(Clawson, D. (1980) Bureaucracy and labor process: the transformation of U.S. industry, Monthly Review Press(今井斉監訳『科学的管理生成史』森山書店、1995年、pp.181-221)を参照

19世紀のイギリスにけるラッダイト運動(機械破壊運動)

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F.W.テイラーの「科学的管理法」による組織的怠業の排除

差別的出来高給制一流の労働者の 短時間を「標準時間」に定め、その時間内に品質に問題がなく標準生産高よりも多くの成果を上げれば単位当りのもしくは1仕事当たりに対して高い賃率で支払う。逆に、品質が悪かったり時間が長くかかった場合は低い賃率で支払う。

計画部(計画)

現場ライン(執行)

仕事の順序および手順係

指導票係

時間および原価係

工場訓練係

準備係

速度係

検査係

修繕係

科学的管理法の本質 科学的管理法の4原理

目的は使用者と従業員の 大繁栄

①科学をめざし、目分量をやめる

②協調を主とし、不和をやめる

③協力を主とし、個人主義をやめる

④ 大の生産を目的とし、生産の制限をやめる

⑤各人を発達せしめて 大の能率と繁栄を来たす

①「大なる1日の課業」:毎日なすべき課業を明確にし、一流の工員並みに難しくする

②「標準条件」:仕事を与える際に標準化した条件と用具を与え、確実に課業が達成できるようにする

③「成功したら多く払う」:課業を達成したら必ず沢山払ってやらなければいけない

④「失敗すれば損する」:失敗すれば必ず損するようにしなければいけない

出所)F.W.テーラー(1911)「科学的管理法の原理」上野陽一・訳・編(1969)『科学的管理法 新版』産業能率短期大学出版部より作成

職能的職長制度と計画部の創設(計画と執行の分離)

指図票

固定給制 差別的出来高給制

日給 $2.50 $3.50

機械コスト $3.37 $3.37

1日合計コスト $5.87 $6.87

出来高 5個 10個

単位コスト $1.17 $0.69

出所)Hoopes,J(2003)False prophets : the gurus who created modern management and why their ideas are bad for business today, Basic Books(有賀裕子訳『経営理論 偽りの系譜』東洋経済新

報社、2006年p.71 )

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人材マネジメントの誕生:近代的人事労務管理(1920年代)

生産構造の転換熟練の解体を伴う大規模な協業体系の再構築により多くの(単能的)職務が形成された

20世紀初め米国での人事労務管理(人材マネジメント)成立の背景

企業競争市場の特質1900年代~1910年代の鉄鋼業などの独占的大企業の形成•市場競争激化に伴う固定費と間接費の圧迫•職務の専門化・細分化と生産技術革新に伴う熟練の分解と作業の単調化•労使関係の悪化

労働市場の特質大量の移民流入などによる未・不熟練労働者の増大と雇用(e.g.1919年USスチールの熟練労働者=30.4%、半熟練労働者=31.5%、不熟練労働者=38.1%)

労働力の疲弊と破壊(労災と病欠)の増大労働移動の増大(→コスト圧迫)

(e.g.1918年デトロイトの90%以上の企業が移動率100%超、7%が500%超)

1919年 大規模な労働争議の頻発cf.アメリカ労働総同盟(AFL:American Federation of Labor, since 1886):craft union

1921年 「無駄排除委員会」(Committee on Elimination of Waste)→労使協調による具体的な生産性向上を提案

職務分析や教育訓練などの人間工学や産業心理学に基づく産業民主主義による労使協調と新たな人間観を基礎とする人事労務管理(人材マネジメント)が成立し発展

出所)奥林康司(1973)『人事管理論』千倉書房、pp.25-143を参照

cf. “hire and fire”

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近代的人事管理の施策 1/2

従業員代表制 利潤分配制 従業員サービス

制度概要

「一工場の従業員が自分たちの中から自らの手で選んだ代表者を通じてその工場の雇用条件の調整に集団的に参加する制度」

「企業が獲得した利潤の一部を賃金以外の形態で従業員に分配する制度」

従来の「温情主義を排し新しい従業員の個性重視の理念と投資原理に基づく」福利厚生制度

生成・発展・衰退

第一次世界大戦を契機に、1920年代の基幹産業の独占的大企業を中心に発展し、1930年代に消滅

第一次世界大戦を契機に生成し、1929年の大恐慌を境にスキャロン・プラン、退職金制度や年金制度などの福利厚生制度に移行

第一次世界大戦以後に普及したが、一部は社会保障制度や労働組合サービスに吸収された

主な目的

産業民主主義を旗印にして従業員の経営参加によってモラールを高め能率を向上し、労使協調を図る

労働組合を排除して「御用組合」による経営支配の強化

従業員の集団的生産能率増大(しかし、インセンティブ効果は小さい)

労使対立への対策

労働者の不満を解消し企業へのgood willを形成するために作業条件の改善、レクリエーション活動の導入、家庭生活環境の改善を実施

主な批判

不当労働行為として既存の労働組合が反発

賃金を利潤に連動させることは利潤減少に伴う賃金引下げにつながる

労働組合を無用化するサービスとして批判

出所)奥林康司(1973)『人事管理論』千倉書房を参照して作成

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近代的人事管理の施策 2/2

雇用管理 職務分析

制度概要

1920年代は主に労働者を採用する選択業務が中心(従業員と職務の適合を重視)

職務(job)に関するあらゆる事実を収集する方法あるいはその過程

生成・発展・衰退

政府や労働組合の制約がほとんどない段階において、人事管理の一環として1910年代(雇用部)に生成し、1920年代に発展

テイラーシステムの作業研究から出発し、産業心理学による個人の能力測定技法を活用して雇用管理の中に組み込まれることによって人事管理の一環として発展

主な目的

異常な労働移動に伴う莫大な損失への対処

半熟練・不熟練労働者の能率向上

労使関係の対立緩和など

作業能率の向上

雇用管理の改善

管理統制の強化

労務費の切り下げ

労使対立の緩和

主な批判

経営者の自由裁量の余地が大きいこと

(後に政府や労働組合による規制を受けてスタッフィングなどに移行)

経営者の管理強化が支援されることに労働組合が反発を強め、職務評価を主要目的とする制度に移行

出所)奥林康司(1973)『人事管理論』千倉書房を参照して作成

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「人的資源管理」という概念の誕生(1960年代~)

岩出博(1989) 『アメリカ労務管理論史』三嶺書房、奥林康司ほか(1992)『労務管理入門(増補版)』有斐閣を参照して作成

「人的資源管理」の誕生(1960年代後半)に関わる理念的基盤

集団的労使関係(Industrial Relation)から個々の従業員の能力開発や活用を主目的とした個別管理への転換

人材に対する価値観

人間的存在としての人間重視 経済的資源としての人間重視

主な人間観 行動科学に依拠した個人目的と組織目的の統合

労働経済学の人的資本論に依拠した重要な経営的資源としての人間

背景となる出来事

1964年の公民権法の制定(徹底した差別の撤廃)1960年代後半QWL(Quality of Work Life)運動による労働者の職場生活の向上( 「労働疎外」による労働生産性の低下防止策)

経済成長における人的資源の意義と人的資源開発の重要性の認識人的資本(人間の知識や技能)の増大をはかるための教育訓練を重視する「人的資本理論」が確立

※シュルツの「人的資本理論」(1961年):国民所得の増加率が物的生産資源の増加率よりも大きく乖離するのは、人的能力(human capacity)を中心とする投入の質の向上によるもの)

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戦略的人的資源管理の台頭(1980年代~)

人的資源管理(HRM) 戦略的人的資源管理(SHRM)

準拠する個別理論

「行動科学論」と「人的資本論」 「組織行動論」と「経営(競争)戦略論」

(経営戦略に従って、企業独自の持続的競争優位の源泉である特異な「HR」と「HRM」が存在する)

概念モデル

外部環境

産業構造、技術革新、労働市場などを「HRMの直接的環境」として認識

競争市場を措定

経営戦略

上記の環境認識に従って、「HRM方針」を策定

競争市場で持続的な競争優位性を確保するための「競争戦略」(コスト・リーダーシップ、差別化、集中化など)

組織構造

上記のHRM方針に従って、 「HRM施策」として個別の制度構築

計画、調達、活用、評価、報酬、育成などを中心に、個別の制度的対応の有機的な「HRM編成」

組織過程

労働生産性、モラール向上、離職率などで「HR成果」を直接的に評価

労働生産性、モラール向上、離職率などの「HR成果」は企業業績への媒介項として評価

業績 暗黙的に上記のHR成果は高業績に関係があるという因果律を前提

競争優位性の確保と業績に関して直接的に与えた影響

主な特徴 価値ある経済的資源としての人間

組織目的と個人目的の統合が目的

トップマネジメントとライン管理者のコミットメント

競争優位性を導く も重要な経営資源としての人間

個人目的よりも競争戦略に関係する組織目的が優先

ライン管理者よりもトップマネジメントのコミットメントが優先

競争戦略に関係するHRM施策に偏重

出所)岩出博(2002)『戦略的人的資源管理の実相』泉文堂、pp.56-61より作成

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1980年代以降の戦略と人材マネジメントと企業業績の関係

出所)岩出博(2002)『戦略的人的資源管理の実相』泉文堂, p.69を基にして作成

ベストプラクティス(普遍的)・アプローチ:ハーバード学派/コミットメントモデル(英)

コンティンジェンシー・アプローチ:ミシガン学派/適合モデル(英)

コンフィギュレーショナル・アプローチ

経営戦略を含むあらゆる状況・組織に普遍的に妥当する「 善のHR施策」(「内部/水平的適合」を強調)が企業業績を向上させることに有効であるという立場

経営戦略の特性に応じたHRM編成との整合性(「外部/垂直的適合」)を強調する戦略決定論的な立場

経営戦略とHRMの整合性を踏ま

えてHRM施策間の相乗的なシナ

ジーを重視したHRM施策の「

善の組合せ/編成」を強調し、よ

り経験的検証を重視する立場

企業業績

HRM HRM

経営戦略

HRM経営戦略

P1

P1

P1

P1

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ポジショニング競争戦略論と人的資源管理の関係

全般管理(インフラストラクチュア)人事労務管理

技術開発調達活動

購買物流

製造出荷物流

販売・マーケティング

サービス

マージン

競争優位を生み出す資源とそのマネジメント

出所) Porter, M. E(1985) Competitive advantage,Free press(土岐坤・中辻萬治・小野寺武夫訳『競争優位の戦略』ダイヤモンド社、1985年p.49)を一部加筆修正

出所)同上,p.63を一部加筆修正

基本戦略 必要な熟練と資源(Resource) 必要な組織のあり方(Management)

コストリーダーシップ戦略

長期投資と資金源探し

工程エンジニアリングの熟練

労働力の綿密な監督

製造を容易にする製品設計

低コストの流通システム

厳密なコスト統制

コントロール報告は頻度多く詳細に

組織と責任をはっきりさせる

厳密に定量的目標を実現した場合の報酬制度

差別化戦略 強力なマーケティング能力

製品エンジニアリング

創造的直感、基礎研究力

高品質またはテクノロジー主導という評判

業界内の歴が古くまたは他の事業経験からの熟練の独自の組合せ

流通チャネルからの強い協力

R&D、製品開発、マーケティングのうまい調整

定量的測定よりも主観的測定による報償

高熟練工、科学者や創造的人間を惹きつける快適さ

集中戦略 上記の政策を特定のターゲットに適合するように組み合わす

上記の政策を特定のターゲットに適合するように組み合わす

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コンティンジェンシー・アプローチ

ManagementLevel

Selection選抜

Appraisal評価

Rewards報酬

Development育成

Strategic如何なる人材が将来的なビジネス活動に必要か

長期的なHRのための政策とプログラムが世界的状況と組織戦略に適合

・長期タームのビジネス活動に必要とされる人材の特質を育成

・将来的なビジネスを反映する内外システムを描く

・長期タームでは何が価値あるのか

・将来的な局面を評価するための手段を開発する

・潜在能力の早期確認

・長期タームと思われる世界では如何にして力量が報われるのか

・長期ビジネス戦略に報酬を結びつける

・将来のビジネス活動を担う人材のための育成的経験を計画

・変化に適応するための柔軟性をもったシステムを描く

キャリアパスの開発

Managerial戦略的な傘の中で人材の獲得、リテンション、育成のための効果的なHR職能の保持

・選抜基準の検証

・採用マーケティング計画の開発

・新マーケット

・現在と将来的な潜在能力を結びつけるシステムを描く

・育成のためのアセスメントセンター

・個々人のための5ヵ年報酬計画

・カフェテリア様式のフリンジ・パッケージ

・マネジメント開発プログラムの組織化

・組織開発の実行

・自己啓発の支援

Operational組織の人間的な側面で日常的なビジネスを支援

・スタッフィング計画

・リクルーティング計画

・年度評価システム

・日常的統制システム

・日給と月給の管理

・ベネフィット計画

・仕事スキル訓練の普及

・OJT

出所)Devanna, M. A., Fombrun, C. J., Tichy, N. M. (1984) “A framework for strategic human resource management,” Fombrun, C. J., Tichy, N. M., Devanna, M. A. Strategic human resource management, Jhon Wiley & Sons, pp.43-44より一部加筆修正

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経営戦略と人材政策の整合性

戦略タイプ 防衛型

比較的安定した製品・市場を事業ドメインとした効率性重視

探求型

製品・市場の新たな機会に敏感で変革や多様性を重視

分析(適応)型

防衛型と探求型の事業ドメインや戦略を同時に複合的に持つ

基本戦略 HRの育成 HRの獲得 HRの配置

募集、選考、配置

育成を重視

新入社員レベルより上の職位はほとんど募集しない

望ましくない従業員の排除を基本とする選考

獲得を重視

すべての職位レベルで洗練された募集

入社前の心理テストを必要とするような選考

育成と獲得の双方を重視

複合的な募集と選考の接近

要因計画、

教育訓練、能力開発

公式的、広範囲

スキル育成

広範な訓練プログラム

非公式的、限定的

スキルの確認と獲得

限定的な訓練プログラム

公式的、広範囲

スキルの育成と獲得

広範な訓練プログラム

限定的な外部募集

業績評価 プロセス志向の手続き

訓練ニーズの確認

個人/集団別の業績評価

時系列(対前年など)の比較

成果志向の手続き

要員ニーズの確認

部門/全社別の業績評価

部門間(他企業など)の比較

ほぼプロセス志向の手続き

訓練と配置ニーズの確認

個人/集団/部門別業績評価

主に時系列の比較+部門間の比較

報酬 組織階層上の職位志向

内部での報酬の公平性

業績志向

外部との報酬の公平性

主に職位志向+業績に配慮

内的公平性と外的優位性

出所)Raymond E. Miles & Charles C. Snow (1984) “Designing Strategic Human Resources System,” Organizational Dynamics, Summer, p.49より一部加筆修正

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コカコーラVS.ペプシコの人材政策

防衛型 探求型

事業戦略の特徴

伝統ブランドを基盤として市場での地位を維持する防衛型戦略

コカ・コーラの周辺で低価格・多角化による探索型戦略

HRMの基本戦略

トレード・マークに対する深い理解と思い入れのための熟練を教え込むための雇用システム

新たなマーケットを発見し識別するための革新的なアイデアと機敏な行動を尊重する雇用システム

要員計画 長期雇用を尊重。 非長期的雇用(やや不安定な雇用)。

募集・選考・配置

大学の新卒者を主に採用。内部昇進アプローチを採用。

中途採用と大学院卒を中心に採用。個人間の競争を促進し、勝ち残った人のための早期昇進アプローチを採用。

教育訓練・能力開発

新卒者向けの集中的な研修。会社全体のことを考えるように徹底的にたたきこまれるマネジャー教育。

新しいアイデアの継続的な流れ、迅速に変化する能力、異なるマーケットに特有の攻勢手段などの教育を重視。

業績評価・報酬

年功序列的な昇給。 業績評価は各部門ごとに個人レベルで評価。

コカコーラVS.ペプシコの事業戦略と人材政策の関係

出所)P.カッペリ、A.クロカーーヘフター(1999、原著:1997)「競争優位の鍵となる人材管理の実践」IMDインターナショナル、ウォートン・スクール、ロンドン・ビジネススクール『MBA全集7 組織行動と人的資源管理』ダイヤモンド社、pp.57-62頁より作成

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ベストプラクティス・アプローチ(ハーバード学派)

出所)Beer, M., Spector, B., Lawrence, P. R., Mills, D. Q., Walton, R. E. (1984) Management Human Assets, The Free Press(梅津祐良,水谷榮二訳『ハーバードで教える人材戦略』日本生産性本部,1990年) ,邦訳p.31

ステークホルダーの利益•株主•マネジメント•従業員のグループ•行政•地域社会•労働組合

状況的要因•従業員の特性•ビジネス戦略とその条件•経営理念•労働市場•労働組合•職務技術•法律、社会的価値

HRM制度の選択肢•従業員のもたらす影響•ヒューマン・リソース・フロー•報償システム•職務システム

HRの成果•コミットメント•能力•整合性•コスト効果性

長期的成果•従業員の福祉•組織の効果性•社会の福祉

HRM領域の概念マップ

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人材こそが持続的な競争優位の源泉

人材重視型戦略の効果

社員の能力を発揮させる経営(7つの成功条件)雇用の保証徹底した採用自己管理チームと権限の委譲高い成功報酬幅広い社員教育待遇の平等化業績情報の共有

実効力の向上変革柔軟性の向上顧客サービスの向上生産性の向上コスト削減学習と職能開発

模倣困難性

高収益の維持

出所)Pfeffer, J. (1998) The Human Equation, Harvard Business School Press(佐藤洋一監訳『人材を生かす企業経営者はなぜ社員を大事にしないか』トッパン、1998年)邦訳、p.324より改編

「戦略は建前ではない。実現しなければ価値がないものである。そして、戦略を実現するのは人である。企業の人材活用、従業員のスキル、能力、自立性、努力が、実現可能性を左右する。人材管理の改善は、戦略を立案するより難しいかもしれない。しかし、効果は絶大である」

出所)Pfeffer, J. (1998) The Human Equation, Harvard Business School Press(佐藤洋一監訳『人材を生かす企業経営者はなぜ社員を大事にしないか』トッパン、1998年)邦訳、p.18

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リソ-ス・ベース競争優位戦略と人的資源管理の関係

人的資本プールHuman Capital

Pool

人的資源行動Human Resource

Behavior

HRM施策Human Resource

Practice

持続的競争優位Sustained Competitive

Advantage

高品質の人的資本プールを創造し開発することによって,持続的競争優位の源泉としての人的資源開発を手助けする

人的資源が不完全にしか移転できないほど,特定の産業において 初に有効な選抜や報酬システムの組み合わせを開発した企業は,先駆的優位を獲得する

■「生産的な従業員行動を誘発するような適切なHR施策が適合するときにだけ,HR施策は,人的資本プールが持続的競争優位に帰結するような,人的資本プールと持続的競争優位との関係を節制する」

出所)Wright, P.M., McMahan, G.C. and McWilliams, A. (1994) “Human Resource and Sustained Competitive Advantage: A Resource-Based Perspective,” International Journal of Resource Management, Vol.5, No.2

Cf. 人事制度などの人材マネジメント施策は模倣可能だが・・・

より効率的な手段を開発することによって競争相手に対して相対的に生産性優位性を保有する

変化に応えるための戦略を開発し,これらの戦略を迅速かつ効果的に履行することによって,環境変化に即応するための大きなケイパビリティーを保有する

静態的な環境

動態的な環境

ハイレベルな人的資本

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20世紀の米国における人材マネジメントの変遷のまとめ

1900年代~ 1930年代~ 1960年代~ 1980年代~

時代背景 大量生産パラダイム 長期的な生産性の低下

1960年代後半からQWL運動

エクセレントカンパニーと日本的経営のブーム

知識労働者の台頭

概念呼称 Personnel Management:人事労務管理

Human Resource Management:人的資源管理

Strategic Human Resource Management:戦略的人的資源管理

人間観の基本理念

コスト還元的な生産要素の一つ

(経済人モデル)

モラールを尊重した人間味ある生産要素の一つ

(社会人モデル)

自己実現人と経済的資源としての人間重視の人的資源

(自己実現人モデル)

も重要な経営資源としての戦略的資源

(複雑人モデル)

直接的目的(目標)

職務の標準化による生産性の向上

モラールの向上と職務満足による生産性の向上

組織目的と個人目的の統合による「組織の有効性」と「個人の職業生活の充実」(QWL)

ハイパフォーマンス・マネジメントによる経営戦略の実現

準拠する概念や人間観

科学的管理法 人間関係論 行動科学論/組織行動論:

人間的存在としての人間

人的資本論:

経済的資源としての人間

経営戦略論(競争戦略やリソース・ベースト・ビューなど)

知的資本論:

ナレッジ・ワーカーの台頭

準拠するシステム理論

クローズド・システム理論

(職能合理主義による規範的な管理過程論「計画・組織・統制・評価」)

オープン・システム論

(状況適合的なシステム論「環境・戦略・組織構造・組織過程・業績」)

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人材マネジメントを重視している企業ほど業績が高い

米国でのマキンゼーのWar for Talent調査(1997と2000年に実施)

従来のやり方 新しいやり方

人材マネジメントは人事部が担当する CEOをはじめ全てのマネジャーが、マネジメント人材層を強化する責任を負う

企業は相当の給料と利益を提供する 企業、仕事の機会、待遇などを複合的に活用し、有能な人材にアピールする従業員への訴求価値を作り上げる

リクルーティングは、一方的に選ぶ買い物のようなもの

リクルーティングはマーケティングと同じくらい重要である

人材の育成はトレーニングプログラムを通じて行う

人材の育成は基本的に、実力を伸ばしてくれる仕事、コーチング、インフォーマルなアドバイスで行う

誰をも公平に扱い、誰もが同じ能力を持っていると考える

全ての社員の能力を認めるが、ランクによって扱いは変わる

出所)Michaels, E., Handfield-Jones, H., Axelrod, B. (2001) The War for Talent, McKinsey & Company (渡会圭子訳『ウォー・フォー・タレント』翔泳社、2002年)邦訳、p.52

”The War for Talent”(人材育成競争)

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進化する戦略の焦点と人材マネジメントの関係

製品・市場志向の競争 資源・能力志向の競争 才能・夢志向の競争

戦略的目標 防衛的な製品市場ポジション 持続的な競争優位性 継続的な自己革新

主なツールと視点

• 産業分析,競合分析

• 市場選択とポジショニング

• 戦略的計画

• コア・コンピタンス

• 資源ベース戦略

• ネットワーク組織

• ビジョンと価値観

• 柔軟性とイノベーション

• 現場の起業家精神と試行錯誤

主要な戦略的資源

財務的資本 組織的能力 人的・知的資本

従業員に対する視点

生産要素としての人間観 価値ある資源としての人間観 才能への投資対象(talent investors)としての人間観

戦略における人事の役割

戦略の履行,支援 戦略への貢献 戦略の中心

主要な人事活動

採用,訓練,報酬の管理 戦略的意図を実現するための資源とケイパビリティーの連携

競争優位性の中核資源として人的資本の確立

出所)Bartlett, C. A. and Ghoshal, S. (2002) “Building Competitive Advantage Through People,” MIT Sloan Management Review, Vol.43, No.2, pp.35-37より作成

1980年代 1990年代 2000年代

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タレントマネジメント:人材資本力(People Equity)の構造

人材資本力(People Equity)

目標

組織結束(Alignment)

組織能力(Capabilities)

組織貢献(Engagement)

価値感

顧客志向

才能

情報

資源 従業員満足

コミットメント

貢献意欲

出所)Schiemann, W. A.(2009), Reinventing Talent Management, How to Maximize Performance in the New Marketplace, John Wiley & Sons, p.28 & 55

組織結束(Alignment)• 戦略の明快さ、目標の理解と整合性• 価値の整合性• 同時進行性、顧客価値の提供

組織能力(Capabilites)• 顧客ニーズを充足させる知識・スキル• 顧客ニーズを充足させる資源• 顧客ニーズを充足させる十分な情報

組織貢献(Engagement)• 従業員満足とコミットメント• 自発的な組織貢献• 自発的で献身的な努力

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日本の人事労務管理の変遷

年代 主な特色

19世紀末~1930年代

・財閥を中心とする工業化

・過酷な労働条件に対する工場法の成立(1911年)

明治時代の専制的労務管理と大正時代の温情主義(経営家族主義)労務管理

・低賃金と超過労働時間による劣悪な労務管理から温情主義的な労務管理へ

・「工場委員会」の設置による生産性向上への模索

・満州事変を契機とする準戦時体制の中で温情主義から皇国勤労観への変遷

1940年代~1950年代

・戦中/戦後の混乱期

・高度経済成長への布石

近代日本型人事労務管理の形成(温情的雇用慣行と米国型労務管理の混成)

・戦時中の「1940年体制」(「産業報国会」など)を基本とする労使協調による生産性向上への取り組み

・終戦直後の激しい労働争議と民主化による職工同一化

1960年代~1980年代

・経営の近代化・合理化

・オイルショックと合理化

・日本的経営の興隆

年功的な能力主義による現代日本型人事労務管理(「日本的経営」)の確立

・長期雇用を前提とする「人間形成」に帰結する「能力主義」が確立

・「三種の神器」=終身雇用,年功序列,企業別組合(「OECD報告書」,1972)

・オイルショックを契機に1975年以降は急速に職能資格制度が普及

・「日本的経営」ブームでの特殊性と普遍性に関する議論が活況

1990年代~

・バブル経済の崩壊と長期的なデフレ不況

・長期不況から脱却を模索

日本型人事労務管理の改革(成果主義人材マネジメントへの変革)

・経営戦略に呼応する戦略的人的資源管理の模索

・成果主義人事制度の普及と反動(モチベーションやチームワーク)

■「人事労務管理」(戦後の職工同一に伴う全従業員の管理)=「労務管理」(主に工場労働者の労使関係管理)+「人事管理」(主にホワイトカラーの管理)

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江戸時代の商家と職人の労務管理

商家の労務管理

商家の特徴:大阪を中心に発生した合名会社的集団家訓や店則による経営、所有と経営の分離、会計制度の確立、奉公人制度(内部労働市場) 幅広い層から商才のある人物を積極的に雇用し、経験的教育を実施する実力主義労務管理<職階と職務>:丁稚(10代前半)→手代(17歳前後:元服)→番頭(支配役)

手代になるのは奉公人の半数(5年未満で半数が淘汰)、番頭は1割に限られ、丁稚は無給,手代から有給だが、年金として「給金帳」に記録され必要に応じて支払われ、退職時に借金などの債務を清算(上村雅洋「商家の労務管理」経営史学会編『日本経営史の基礎知識』有斐閣,pp.24-25)

Cf. 欧米の株式会社組織の経営。江戸時代の株式会社に近似する組織=坂本竜馬の「亀山社中」(のちの「海援隊」)(坂本藤良(1977)『日本雇用史(上)』中央経済社)

職人の労務管理

幕府

職人組合

親方 親方 親方

下職(職人)

下職(職人)

下職(職人)

Ex. 畳職人の階層畳屋

(店と道具を所有し製造・販売)

手間取

(出来高払いの専属下請)

畳刺

(自立した非専属下請)

職人

(住み込み雇用職人)

弟子(10年間ほどの年季中は衣食住の提供と僅かな小遣いで休日はなし)

出居衆

(出来高歩合制の出稼ぎ職人)

出所)乾宏巳(1996)『江戸の職人 都市民衆史への志向』吉川弘文官より作成

Cf. 武士の労務管理 徳

川家康の功績と能力の峻別:「功ある者には禄を,能ある者には職を与えよ」

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19世紀末の日本の産業革命勃興期の労働者と労務管理

明治の工業化繊維産業(製糸業や紡績業)にはじまり,石炭産業や重工業へと発展 小作農の次男や三男もしくは女子などの過剰労働力が工場労働に従事•男子の長期的労働力確保のため,技能や能率による刺激賃金から年功賃金に次第に移行•女子は製糸工場や紡績工場で格安賃金での過酷な労働(寄宿舎で監視された半強制労働;平均勤続年数=8ヶ月)

一般労働者の劣悪労働と激しい労働移動 cf. 事業家と帝大卒のホワイトカラーは実力主義人事

「女工哀史」:労働者の労働条件と労働移動1日の労働時間=12時間~18時間(女工の深夜労働も常態化)Ex. 激烈な労働移動と労働者の逃亡1900年の鐘紡兵庫支店の従業員数は4020人だが,その年の入社6085人で退社7701人で,退社理由は82%が逃亡除名(間宏(1989;初版1963)『日本的経営の系譜』文眞堂,p102)

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19世紀末の重工業における日本の労働者と労務管理

大多数の渡り職人は流動性が高く、労働環境は劣悪で、労働者の職場規律は極めて低俗

「社会的地位が低く、会社への忠誠心を欠き、規律に従おうとしない流動的な労働者たちだった。経営者はやむなく、労働者を直接管理する仕事を親方に任せることで、この問題に対応した。しかし、それと同時に、渡り職工に狙いを定めて、賃金体系を刷新する試みが始まり、以後何十年もかかって日本独特の賃金構造を根付かせ、成長させることになったのである。」(Gordon, A. (1985) The Evolution of Labor Relations in Japan: Heavy Industry, 1853-1955, the President and Fellows of Harvard College(二村一夫訳『日本労使関係史 1853-2010』岩波書店、

2012年)邦訳、p.39) cf. 欧米のように地域を超えてネットワーク化された職能組合の発達には至らなかった

19世紀末の重工業化の勃興期における労働者と労務管理

しかし、1905年頃までに、間接的管理体制は崩壊し、技術革新に追随できなかった親方に代わって会社の管理機構に組み込まれた職長が台頭(同上、邦訳p.48を参照)

不熟練工員を組織的に教育訓練して短期間で大量の熟練工を育成し、熟練工の労働移動を抑制するための「養成工システム」が普及し(八幡製鉄の「幼年職工養成所」、日立製作所の「徒弟養成所」など)、小学校卒業者を低賃金の実習作業に従事させ、卒業後は自社の工員として強制労働させた→工場を渡り歩く熟練工並みの技能を修得した熟練工を安定的に雇用→大手企業の一部に見られる終身雇用慣行の部分的な基盤形成

Cf. 欧米ではギルドなどの徒弟制度に替わる職種 別労働組合が熟練工を養成して企業に斡旋

20世紀初頭の直接労務管理の確立と熟練工要請システムの萌芽

明治40年頃の賃金庶民の生活費は1日あたり33銭~45銭 cf. 三越の食堂で定食50銭,コーヒー5銭熟練労働者(日給): 大工=100銭,左官=104銭,車両工=60銭,活版工=49銭警察官(月給)=8円(日給で30銭)ホワイトカラー(月給): 三池炭鉱の事務長=150円,1等事務員=100円,2等事務員=80円

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20世紀初頭の新たな労務管理の模索

ホワイトカラーの台頭と日本的経営の萌芽(第一次世界大戦(1914年~1917年)後)

サラリーマンの台頭重工業労働者の比重が25%に急増し,大工場が増大し,男子労働者やホワイトカラーが増加年功システムのサラリーマン像(俸給生活者,勤め人,月給取り,洋服,腰弁)が成立し,1930年代に完成 学歴別・学校別の初任給や昇進コースなどの学歴別身分制度,就職試験や新入社員教育も普及(民間企業の学歴中心の資格身分制度は,明治政府の官吏身分制度による等級区分が波及したもの)•大正13年(1924年)の大卒初任給月給50円,国鉄の助役78円 cf. 月額食費30円,洋服タンス60円

出所)坂本藤良(1977)『日本雇用史(上)・(下)』中央経済社を主に参照

温情主義的労務管理の普及(大正時代:1910年代~1920年代)

温情主義の台頭:福利厚生を中心とする温情主義的な近代的労務管理の誕生「家」を中心とする商家の慣習を基盤とする「経営家族主義」が温床

•1917年 倉紡(倉敷紡績)の大原孫三郎が「労働問題に対する倉紡の主張」を講演し「人道主義」を主張従業員に持株分配、女工寄宿舎の近代化、学校の設立、病院の設立

•1919年 鐘紡(鐘ヶ淵紡績)の武藤山治が国際労働会議で『従業員待遇法』を発表現場主義的工場管理による「企業民主主義」を実践(上下意思の疎通を促進)

出所)西沢保「大正期の労使関係思想」伊丹敬之他編(1998)『ケースブック 日本企業の経営行動1』有斐閣を参照

労働争議の歴史明治19年(1886年)雨宮製糸の「女工争議」⇒日本 初の労働争議明治27年(1894年)天満紡績女工の一斉退社決議⇒日本 初の本格的ストライキ明治30年(1897年)鉄工労働者による「鉄工組合」(組合員1180名)⇒日本 初の労働組合の結成明治33年(1900年)「治安維持法」と「行政執行法」の公布により労働者の団結権とスト権を否認明治44年(1911年)過酷な労働条件に対する「工場法」の成立(1916年施行)(坂本藤良(1977)『日本雇用史(上)・(下)』中央経済社を主に参照)

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戦後の日本経済と人事労務管理の変遷

出所)香西泰(1981)『高度成長の時代』日本評論社、橋本寿朗(1995)『戦後の日本経済』岩波書店を主に参照して作成

年代 主な社会的・経済的な動向 主な労務管理(労使関係)の動向

復興期

1945 終戦直後の生産設備の荒廃と超インフレ 労働組合法(団結権・団体交渉権・争議権の保障)

1946 持株会社整理委員会の財閥解体開始 労働関係調整法(労使の利害対立争議調整)

1947 ・公職追放令(250社、2200人がパージ)

・石炭と鉄鋼業を中心とする「傾斜生産」

•「完全雇用」と賃上げのための労働争議の激化

•労働基準法/GHQのゼネスト中止指令→共産主義化を懸念した社会的労働運動の抑制政策(レッド・パージ)に転換

•電産型賃金(生活保障給+勤続給+能力給)の普及

1949 ドッジ安定政策(ドッジ・ライン)による超均衡予算とディスインフレ政策

高度成長期

1950 朝鮮戦争に伴う特需による好景気スタート •三井三池争議(1959~60)を境に戦後労使関係の転換→労使協調を前提とする長期雇用慣行の確立

•OECD『対日労働報告』(経済協力開発機構,1972年)にて「三種の神器」(「終身雇用」、「年功序列」、「企業別労働組合」)指摘

※労務管理(中高卒ブルーカラー)+人事管理(大卒ホワイトカラー)=人事労務管理

1955~

「もはや『戦後』ではない」宣言(『経済白書』56年度版)

→「投資が投資を呼ぶ」 (『経済白書』)メカニズムの中で、産業の技術革新、消費様式の革命、人口の大移動、完全雇用の実現などの成果としての「歴史的勃興期」

安定成長の調整期

1973 第一次オイルショックを契機とする高度経済成長の終焉

→有利子負債の削減を中心とする「減量経営」と省エネ政策によるエネルギー消費節約

60年代後半からの賃金コストの急速な上昇を背景に、新卒採用抑制、残業時間短縮、配置転換、賃金制度改革などによる「雇用調整」

日本的経営の「三種の神器」(「終身雇用」、「年功序列」、「企業別労働組合」)の確立

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戦後の日本企業の工場管理(労務管理)の特徴

ジェームズ・C・アベグレン(1958)『日本の経営』による見解

「工業化日本の発展は、欧米の工業化社会の成長モデルから期待されるものとは異なって、工業化前の、すなわち非工業的な日本の社会的組織と社会的諸関係にたいして、それほど大きな変化をともなわないで行われた」( Abegglen, J. C. (1958) The Japanese factory: aspects of its social organization, Free Press(占部都美『日本の経営』ダイヤモンド社、1958年)邦訳、180頁)

「本質的に封建的な組織体系と対応しているものは、たしかに、封建的な忠誠心、拘束、報酬、指導の方式の模写ではない。しかしそれは、近代工業の環境の中でそれらの封建的な要素を再編成したものとみることができるのである」(同上、182頁)

生産性に関する指摘「アメリカの生産では、労働が も重要なコストであるから、生産費を 小にし、生産性を 大にするためには、機械化の設備と方式を大量に入れ、その効果的な利用をはかることが、生産性を 大にする鍵となる。[中略]日本では、機械が も重要なコストをなしている。機械の費用とアメリカの労務費の状態の両者に比較すれば、もちろん労務費は非常に低い」(同上、156頁)

「日本における固定費が棚卸資産や設備といった項目に限られない、という事実である。労務費もまた、日本では固定費を意味し、状況の要求に応じて調節を行うことができないものである。 [中略]経営の問題は、生産に必要な労働量を節減する問題ではなくて、むしろ全体の労働力を積極的に利用し、それに比例して設備、動力、作業場にたいする投資量を節約することができるように、必要労働量を 大にすることである」 (同上、157頁)

近代的な生産技術(非人格的な合理主義)

封建的な社会制度(家父長的な組織集団への忠誠心と集団内の調和を尊重)

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日本の工場の特徴

決定的な相違(終身関係)

日本の生産集団における構成員は、永続的・終身的な構成員である。工場のどの段階にある従業員でも、通常唯一の会社でしか働かない。彼らは学業をおえるとただちに会社にはいり、その単一の会社で生涯をおくる。会社は会社自身にどんなに不利であっても、従業員の収入を確保し続けるものである。また、従業員は、他の会社に移ることによってどんなに良い利益が得られるにせよ、それを無視して、その会社に勤めつづけるものである。

求人と採用の制度

生産集団への採用は、特殊な職務や特殊な技能に関係することなく、個人的な特質にもとづいて行われる。選考は、主として、その個人の教育、人物、および一般的背景にもとづいて行われる。採用の後に示される不適任や無能力は、その集団から解雇する基礎とはならない。生産集団での身分は、その集団にはいったとき、広義の社会で占めていた身分の持続であり、その延長である。工員と職員とに従業員を大きく分ける二分制の結果、工場制度の中での個人の移動は、採用のときに、教育程度によって、属する資格を得た一般的な階層範囲に、主として限られている。

報酬と刺激の制度

生産集団における報酬は、その一部分だけが貨幣形態をとっているのであり、そして生産基準というよりむしろ広義の社会的基準にもとづいている。従業員の報酬は、全体の一部をなす従業員の実際の現金給与とともに、住宅、給食、個人的サービスといった諸項目からなっている。賃金は根本的に年齢、教育、勤続年数、家族の規模に基礎をおいており、職務給や能力は、労働報酬を決定する基準としては、ほんの小さな部分しか占めていない。

階層、昇格、公式組織

工場の公式組織は、広範囲にわたる。そしてかなり数の多い公式的職位をもっているという意味で、精巧にできている。その階層組織における公式の階層と肩書は巧みに定められている。しかし各階層の権限と責任はそうではない。一部にはその結果として、意思決定の機能は人々の集団で行われるが、その決定にたいする責任は個人にたいして割り当てられない。

従業員の社会における工場の地位

会社が従業員の経営外の諸活動にまではいりこんでいることや、会社が従業員にたいしてとっている責任は、広範囲なものである。経営者は、労働者の個人的財政、その子弟の教育、宗教活動、労務者の妻の訓練といったような、種々の個人的な問題にもかかわり合っている。会社は労務者とその家族の永続的な福祉に責任をもち、この責任は、フォーマルな人事管理の面でも、また労務者と監督者間のインフォーマルな関係の面でも、遂行されている。

出所) Abegglen, J. C. (1958) The Japanese factory: aspects of its social organization, Free Press(占部都美『日本の経営』ダイヤモンド社、1958年、pp.178-180)より作成

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高度経済成長期の日英工場経営比較

ロナルド・ドーア(1973)『イギリスの工場・日本の工場』による見解(大企業にみられる「市場志向型」から「組織志向型」への収斂仮説)

「日本の雇用制度は(日本の伝統的文化に直接由来する部分を別とすれば)、すべての先進産業社会に特徴的な一現象が一国規模にひろがっただけのことである」(Dore, R. P. (1973) British factory-Japanese factory: the origins of national diversity in industrial relations, University of California Press(山之内靖、永易浩一訳『イギリスの工場・日本の工場』筑摩書房、1993文庫版(下)p.67)日本の雇用制度が成立した条件とは、「まず第一に、--後発国に特徴的なことだが—日本では工業化の初期の段階から大企業がペースメーカーであったためであり、第二に、組合と経営者との関係が制度的に固まる前に、戦後の平等主義の大洪水が(占領軍の全面的バックアップのもとに)日本を襲ったということである」 (同上、p.67)「イギリスと日本の相違点は、すべて、一般的に先進国と後進国との相違--後発資本主義症候群の一部—とみなしうる。実際、発展が遅れて始まるほど、このような後発症候群は目立つようになり、労使関係に対する後発効果の影響もはっきりしてくる」(同上、p.191)

経営権神授

対立的な二つの陣営

協力的な二つの陣営

上からの企業集団主義

民主的企業集団主義

組織の規模・複雑さ

平等さ

出所)同上、p.109

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市場志向型 VS. 組織志向型(1)

市場志向型システム 組織志向型システム

労働者の移動率が高く、平均して、3、4年に一回は職を変える(市場に復帰する)。

賃金や俸給は一定の技術に対する「現行の賃率」を示しており、その違いは市場の違いを反映している。「同一労働同一賃金」というのが企業間を律する唯一の原則である。

個人の市場価値を高めるような訓練は(つまり一定の企業とはあまり結びつかないような訓練)はその個人か、公共の負担となる。

どのような地位でも外部からの参入が可能。

社会保障は基本的に労働者個人か、国家の責任である。

組合の目的は同じような技術を有する者を団結させ、市場に出すことであり、また、同一産業内の企業をカバーするような全国的、もしくは地域的な協定を結ぶことである。

第二次的なアイデンティフィケーションについてみると、専門家としてのアイデンティティ、熟練職工としての意識、階級意識、地域への帰属意識などの方が、企業意識よりも強いと思われる。

仕事への動機付けとしては、個々人の物質的利害がもっとも頼りにされており、その中には次のようなものが含まれている。出来高制の多用/個人、特に管理職の場合の責任範囲の明確化/個々の責任を果たせなかった場合の処罰、これは極端な場合には降格や解雇に至ることもある/個々人同士の競争(たとえば昇進に関して)

労働者の移動率が低い。終身雇用の常用労働者は、臨時工や下請けの現業労働者から制度的に明確に分けられている。

「現行賃率」という考え方はない。賃率決定の整合性は組織内に求められる。組織内では勤続年数、年齢、「功労」などが、職能と同様あるいはそれ以上に評価される。つまり、賃金は人間によって決まるのであって、職務によってではない。

訓練は会社が行ない、労働者の質が高まることで会社が得をする。

会社への参入は低い地位からしかできない。高い地位につくのは内部で昇進した者である。ホワイトカラーだけでなくブルーカラーにも「出世」の見込みがある。

労働者の身分保障と福祉については会社が責任をもつ。

組合は企業を基盤としており、似たような会社間での調整はあるにしても、交渉は企業レベルで行われる。

市場志向型とは逆であり、経営者は意識的に企業への「参加」意識を育成する。

会社の繁栄や名声への集団的な利害も動機の一つとなる。このため/出来高制は集団を基盤としており、個々人の実績に基づくことはほとんどない/仕事は個人にではなく、部課や一定の集団に任される/降格や解雇がほとんどないので、安心感が生まれる/個々人同士の競争の機会は(昇進に際して年功が重視されるため)、制度的に制限されており、集団での協調性が重視されている

出所) Dore, R. P. (1973) British factory-Japanese factory: the origins of national diversity in industrial relations,University of California Press(山之内靖、永易浩一訳『イギリスの工場・日本の工場』筑摩書房、「1990年版へのあとがき」より(1993文庫版(下)pp.206-208)

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市場志向型 VS. 組織志向型(2)

市場志向型システムの成立条件 組織志向型システムの成立条件

会社は法的にみても社会的にみても基本的に「株主の所有物」となっていること。株主に利潤が得られると納得させさえすれば、誰でも会社を乗っ取ることができる。

「会社の構成員」は株主である。

管理職は、株主の信任を受けた代理人として、部品やサービスの提供者と同じように労働者と(事務的な)契約を結び、労働者は労働を提供する

短期的に利潤や配当金を維持して株主を満足させることが優先の目標となる。規定としてそうなっているだけでなく、

資産の評価が下がれば乗っ取りの恐れがあるのだからそうせざるをえないのである。

会社の社会的規定は基本的には(法的な規定とは矛盾するが)人々の共同体(コミュニティ)となっていること。合意の上での合併はあるが、敵対的な乗っ取りはない。

「会社の構成員」は従業員である。

管理職は会社という共同体(コミュニティ)の上級のメンバーである。信頼関係は管理職と株主の間ではなく、管理職と他の労働者との間にあるべきものである。株主は、銀行家や保険会社、下請業者、流通業者などと同じく、管理職がそのサービスを心掛けるべき一つのグループにすぎない。

短期的な利益やその株価への影響などは管理職にとっては副次的な問題でしかないので、長期的な展望に立つことができる。たとえば、将来の労働力(つまり構成員)余剰にそなえた長期にわたる多角的な投資など。

実際のイギリスの市場志向型 実際の日本の組織志向型

会社は株主資本に大幅に依存しており、この株式は株主の手にあり、株主は自分たちの金銭面での見返りが 大限になることが 大の関心事である。

株式市場は相対的にみて公正なものであり、株価がその会社の将来や管理職の業績などに対する「情報に通じた同業者の判断」を表わすという完全市場にかなり近いものとなっている。

全体的な経営風土は金銭志向型である。

会社は銀行資本により多く依存しており、その株式資本の多くは取引銀行、下請業者、保険業者の手にある。彼らが関心をもっているのはその会社との取引であって、株の見返りではない。

株式市場はかなり不公正である。株価は、市場操作の結果でありもあるし、情報通の投資家の「基本指標」に対する判断の結果でもある。

全体的な経営風土は生産志向型である。

出所) Dore, R. P. (1973) British factory-Japanese factory: the origins of national diversity in industrial relations,University of California Press(山之内靖、永易浩一訳『イギリスの工場・日本の工場』筑摩書房、「1990年版へのあとがき」より(1993文庫版(下)pp.206-208)

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戦後の年功主義からの脱却

日経連による職務主義政策の展開(1950年代後半)

日経連主導による「同一労働同一賃金」による職務給制度の導入

職務給の根底にある「機械的な人間論」に対する批判

「労働者は、賃金の絶対的高さに関心を払うとも、それにも況して、隣り近所に働く同僚との相対的賃金に強い関心をもっている。しかも、その賃金はかれらの、忠誠心や緊張や努力などの主観的なものに直ちに報いるものであってほしいと感じている。賃金が客観的な仕事の重要性や困難性や熟練度によって決定され、又その職務に異動がない限り賃金は個人の努力如何ではどうにもならぬという、いわば人格的主張に対して直接に応ええないこの制度の無情性は正しく認識されねばならない」→という職務給に対する批判は、制度運用において「公平性」や「信頼性」の原理によってこうした問題が克服されると主張(日本経営者団体連盟(1955)『職務給の研究』pp.89-90)

1950年代後半から企業経営や人事管理の近代化による生産性向上政策の模索

客観的な合理性と公平感 勤労意欲の向上 生産性の向上

「近代的な経済人」仮説

「個々の企業では経営の徹底的な合理化、近代化による生産性の向上が急務とされ、特にコスト引き下げのための経営合理化の重要なる一環として賃金制度の合理化が再び真剣に養成せられるに至った。(中略)従来の如き学歴、年齢、性別等人を中心とする賃金制度は不合理であり採るべきでなく、提供される労働の質と量とに対応した、合理的賃金制度即ち職務給制度の確立や能率給、生産奨励金制度の整備、再検討が本格的に取上げられなければならない」 (日本経営者団体連盟(1955)『職務給の研究』p.2)

出所)(石田光男(1990)『賃金の社会科学 日本とイギリス』中央経済社、pp.31-32より作図

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能力主義人事管理の確立

能力主義人事管理の確立(1960年代後半)

「30年代の終わりごろから40年代のはじめにかけて、人間能力の活用と開発を総合した「能力主義の人事労

務管理」が経営戦略として比重を高めるにいたったとみることができる。いまや人事労務管理の基調は、年功主義から能力主義へ転換を遂げつつある」 (日本経営者団体連盟(1968)『二十年の歩み』p.9)

能力>勤続・年齢

「日本的「能力」概念はそれ自体「人柄」「人格」とほとんど同義であるから、「能力開発」や「技術向上」は、ほとんど無矛盾的に「人間形成」として倫理化される。経営理念のこうした倫理化こそ、“能力主義”管理の根源的特徴である」 (石田光男(1990)『賃金の社会科学 日本とイギリス』中央経済社、p.47)

能力主義の概念定義

従業員の職務遂行能力を発見し、より一層開発しさらにより一層有効に活用することによって労働効率を高めるいわゆる少数精鋭主義を追求する人事労務管理施策の総称(p.17)

能力主義管理の理念

企業における経済合理性と人間尊重の調和(p.18)

能力の定義 企業目的達成のために貢献する職務遂行能力であり、業績として顕在化されなければならない(pp.18-19)

能力主義の背景

雇用構造の老齢化や学歴構成の高度化に伴う賃金水準の上昇、大卒の量的拡大と質のバラツキの増大、技術革新に伴う再訓練や配置転換のニーズ、貿易自由化に伴う国際競争の激化と経営の国際化、若年労働者の価値観の変化、労働移動増大に伴う定着対策(pp.19-20)

能力主義管理の特徴

能力主義管理の中心的考え方は、職務中心主義をもとにして各人の適性に応じた個別管理であるが、それを急ぐあまりともすれば看過されがちな日本人の民族性の特性である集団主義についてはこれを再認識し、むしろ小集団による能力の発揮をはかるべきである(p.20)

出所)日本経営者団体連盟(1969)『能力主義管理』p.17-20を参照して作成

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戦後に確立した「日本的経営」の特質とは何か

日本的経営

「集団主義と人間主義の尊重」

欧米型近代経営

「個人主義と没人間主義の尊重」

職務と権限構造

組織運営の実質的な単位は個々人ではなく職場集団にあり、個々人の仕事の範囲と権限が曖昧

近代的な官僚主義に従って、没人間的で客観的に定義された仕事の範囲である職務が人に先行し、個々人の権限構造によって組織が運営される

職場秩序

職場集団の中は年功的な平等が尊重され、職場の長は部下に対する日常の温情的、人間的な配慮と信頼関係を基盤にしたリーダーシップによって職場秩序が形成される

雇用や解雇の権限を付与された職場の長は専制支配的になりがちで、権限やルールによって職場秩序が形成される

マネジメントの側面と労使関係

人間の情緒的側面を基点とする人間化を前提として、職場集団を媒介することによって個人が直接的に巨大な組織と対決せずに労使協調が確保される

人間の理性的側面を基点とする没人間化を前提として、個人が巨大な組織と対決することによって労使が対立する

間宏(1963)による日本的経営と欧米型近代経営の比較

出所)間宏(1989、初版1963)『日本的経営の系譜』文眞堂、pp.275-291より作成

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日本社会と日本的経営の関係

欧米社会と企業経営の関係 日本社会と企業経営の関係

家庭

社会生活の場

共同生活体

企業雇用労働

生活手段

報酬

家庭

社会生活の場

共同生活体

企業雇用労働

出所)津田眞澂(1977) 『日本的経営の論理』中央経済社、p.199 出所)同上、p.204

日本人の人生観と仕事観の形成

「企業で働く人間はすべて、その生涯における も活動的な時間を大部分企業において働くことに投入しているし、また、その社会的なつながりや活動の場は主として企業にあり、企業を中心に展開している。したがって、人生そのものを企業に託しているといってよく、人生の目的を企業の仕事の中に見出すことを望むのが当然である」(日本経営者団体連盟(1969)『能力主義管理』p.66)

「日本的経営」とは①参加メンバーの社会的全人格の発動の場所である。②権威の所在は共同生活体としての性格を維持し繁栄させることにある。

③その権威は業績の達成-合理性、能率性(非人格性)と理想的人格への帰依-共感による納得性、合意(人格性)の二重で成り立つ。④権威の二重性は権威の対抗をうみ、参加メンバーの閥=派閥を内在させる。出所)津田眞澂(1977) 『日本的経営の論理』中央経済社、p.255

高権威

合理性、能率性

納得性、合意

(基本原理の二重性)

出所)同上、p.299

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「日本的経営」の普遍性

ウィリアム・G・オーウチ(1981)「セオリーZ」(労働者の存在こそが生産性向上の鍵)

「われわれアメリカ人はこれまでテクノロジーとこれへの科学的アプローチに対する価値観を作りあげてきたが、その間、“人”というものについては特別の注意を払わないできた。[中略]アメリカでの生産性の問題は、財政政策では解決しない。研究開発投資をしても解決しない。この問題は、人びとが効果的なやり方で一緒に働くことができるようにするためにはどんな管理をすべきか、を学んで初めて解決するのだ」(ウィリアム・G・オーウチ(1981,原著:1981)『セオリーZ』CBS・ソニー出版)

日本の組織(Jタイプ) アメリカの組織(Aタイプ)

終身雇用

遅い人事考課と昇進

非専門的な昇進コース

非明示的な管理機構

集団による意思決定

集団責任

人に対する全面的な関わり

短期雇用

早い人事考課と昇進

専門化された昇進コース

明示的な管理機構

個人による意思決定

個人責任

人に対する部分的な関わり

出所)同上、88頁より加筆修正

Jタイプは決して日本に限定されたものではない

Zタイプ:①信頼②ゆきとどいた気配り③親密さIBM、HP、イーストマン・コダック、P&Gなどの日本企業に類似した多くの特徴を持つ、アメリカでおのずから発展してきた企業組織 cf.D.マグレガーの「X理論とY理論」

「“Z型社風”の中には多くの価値観があるが、その中で、 “Z型社風”が従業員の人間的なあり方に関わるものであるということが も重要である」(同上、260頁)

「<セオリーZ>は、人間的な労働条件が企業の生産性や利益を高めるだけでなく、労働者の自尊心をも高めることを示唆している。[中略]アメリカの経営者は、これまで技術が生産性を高めると思ってきた。しかし、 <セオリーZ>が提案しているのは、企業世界における人間関係に対する考え方の再認識ということである」 (同上、261頁)

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「日本的経営」の原理としての「人本主義」

資本主義経営VS. 人本主義経営

人本主義とは、「資本主義がカネを経済活動のもっとも本源的かつ希少な資源と考え、その資源の提供者を中心に企業システムが作られるものと考えるのと違って、人本主義はヒトが経済活動のもっとも本源的かつ希少な資源であることを強調し、その資源の提供者たちのネットワークのあり方に企業システムの編成のあり方の基本を求めようとする考え」(伊丹敬之(1987)『人本主義企業 変わる経営 変わらぬ原理』筑摩書房、pp.29-30)

資本主義企業 人本主義企業

企業の概念 株主主権 従業員主権

シェアリングの概念 一元的シェアリング 分散シェアリング

市場の概念 自由市場 組織的市場

出所)同上、p.37

産業構造の転換という環境変化に対して、従業員主権に基づく「雇用の保証」を前提とする職種転換を伴う労働者の移動は、内部と外部の中間に位置する「組織的市場」としての「中間労働市場」(雇用者≠使用者)が重要となる

人本主義企業の長所と問題点とは何か?

出所)同上、pp.177-192を参照して作成

長所 問題点

参加

協力

長期的視野

情報効率

「閉鎖性」(大きく物事を考えられない)

経験と情報が限定的

全員参加がエリートの育成を阻害

職場の濃厚な人間関係のしがらみ

今後の課題

人本主義原理の徹底(本質を十分に理解しないで中途半端な適用が自己目的化してしまったが故に)

市場原理の組織内部への取り入れ(人本主義企業システムの中に市場原理を機能させる)

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「日本的経営」における仕事と人材のマネジメントの特質

公式承認モデル(欧米型経営) 柔軟貸借モデル(日本的経営)

基本的概念 職務=責任 職務<責任

組織構造 剛構造組織モデル(個人に配分し尽くされて曖昧な領域なし)

柔構造組織モデル(個人に配分され尽くさない曖昧なスキマ領域を許容)

準拠する社会的規範

欧米社会に特徴的な公式的な契約的職務観:明示的な契約的義務としての仕事(狭く限定的な責任)

日本社会に特徴的な非公式的な心理的契約観:暗黙の関係的(役割)期待としての仕事(広く非限定的な責任)

ポテンヒットの調整メカニズム

上司のイニシアティブによって関係者間での交渉と合意を形成して職務の再割り当てを公式的に承認

上司が示す方針や枠組みに従ってメンバーが主体的、協力的に職務の再割り当てを非公式に決定(貸し借りが成立)

マネジメントの特徴

垂直的(タテ)管理とトップダウンを尊重(有事の際のミーティング)

水平的(ヨコ)管理とボトムアップを尊重(日常的な報告・連絡・相談)

交換関係 経済的交換関係(公式的な職務に対する正当な見返り:等価交換)

社会的交換関係(貸し借りによる協力的な互恵的交換)

評価と評判 明示的人材情報に基づく短期的な公式的評価を尊重

暗黙的人材情報に基づく長期的で非公式な「評判」を尊重

報酬と生産性 職務=責任=報酬:生産性=1

(職務+責任)÷2=報酬:生産性>or<1(ばらつきあり)

配置と昇進 ポスト先行型の適材適所による配置決定と明示的評価に基づく昇進

適解としての配置決定(本人希望、能力開発、適材適所を総合的に考慮)と上位ポストほど暗黙的評判に基づく昇進

職務と能力開発の関係

責任=職務>能力:狭く深い限定された能力開発

責任>能力>職務:広く深い能力開発

出所)大藪毅(2009)『長期雇用制組織の研究 日本的人材マネジメントの構図』中央経済社を参照して作成

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21世紀の「日本的経営」

二つの資本主義社会

アングロサクソン型資本主義 ライン・日本型資本主義

所有概念 株主の所有物 社会的な共同体

目的概念と価値観

経済的な目的=資本の 適化(株主利益創出):個人の成功と短期的な利益

社会的な目的=資本と人材の 適化:コンセンサスに基づく集団の成功と長期的な利益

人材理念 企業競争力は個々人の競争力の 大化に起因し、彼らの市場価値に見合う報酬を提供することを前提に雇用と処遇は個人的で変動的

従業員を原材料のようにその時の市場価値で処遇や雇用を決定せず、彼らに雇用保障、忠誠、教育などの長期的な義務を負う

社会構造 貧富の格差の拡大による不平等社会(その帰結としての高犯罪率などの社会的コスト負担)

社会的な平等性と安定性を尊重(中流階層が圧倒的な社会的マジョリティを構成)

将来方向 米国などの一部優良企業や上流階層が注目され、アングロサクソン型が勢力を拡張しつつある

出所) Albert, M. (1993) Capitalisme contre capitalism, Basic Books(小池はるひ訳『資本主義対資本主義』竹内書店、1996年)

1990年代は「失われた10年」か(ジェームズ・C・アベグレン)

「この十年は,日本企業が戦略と構造を再編する決定的な動きをとってきた時期であった。きわめて重要な再設計の十年であり,停滞していたどころか,緊急に必要だった新しい制度をつぎつぎに確立した十年であった」( Abegglen, J. C. (2006) 21st CENTURY JAPANESE MANAGEMENT: New Systems, Lasting Values, Palgrave Macmillan(占部都美『新日本の経営』日本経済新聞社、2004年)

→産業構造上の再設計:①あらゆる産業での過剰な企業数の再編,②過度な事業多角化の再編 日本的経営の維持・終身雇用制→21世紀の日本企業の平均勤続年数は世界一で欧米企業を凌駕している・年功序列→成果主義人事制度による修正はあったが,米国企業に比べると所得格差は依然小さい・企業別労働組合→影響力は低下したが,経営者以上に会社の長期的な利益を尊重しているcf. 米ボーイング社の1993年の大量人員削減が90年代後半からの市況回復に適応できず,雇用を維持したエアバスに逆転された

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今日の日本企業の雇用や人材育成に関する考え方

1.調査対象:民間信用調査機関が所有する企業データベースを母集団に、全国(農林漁業、鉱業、公務を除く)における、従業員規模100人以上の企業1万社を、産業・規模別に層化無作為抽出した。また、同企業を通じ、正社員のミドルマネジャー(課長、部長等管理職と相当の専門職)5万人分(100~299人は3枚、300~999人は6枚、1,000人以上は12枚)の調査票配付を依頼した。2.調査項目数:企業26問、正社員ミドルマネジャー16問3.調査方法:郵送配布・郵送回収4.調査期間:平成26年2月22日~3月末日(2月1日現在の状況について回答)5.有効回収数:企業1,003社(10.0%)、正社員ミドルマネジャー4,227人(8.5%)

出所)独立行政法人 労働政策研究・研修機構、「人材マネジメントのあり方に関する調査」および「職業キャリア形成に関する調査」結果

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近年の日本企業の年功賃金の推移

出所)清家篤(2013)『雇用再生 持続可能な働き方を考える』NHK出版、p.142

※ただし、企業規模によって年功賃金の度合いは異なる

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近年の日本企業の企業規模別の年功賃金の格差

出所)清家篤(2013)『雇用再生 持続可能な働き方を考える』NHK出版、p.123

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日本の事業所数と従業者数の構成

3,225,428, 58%1,090,283, 

20%

650,018, 12%

230,983, 4%

161,096, 3%101,321, 

2% 38,678, 1%

10,387, 0% 12,247, 0%21,193, 0%

事業所数

1~4人 5~9人

10~19人 20~29人

30~49人 50~99人

100~199人 200~299人

300以上 出向・派遣従業者のみ

6,897,835, 12%

7,137,319, 12%

8,758,990, 15%

5,483,081, 10%

6,052,377, 11%

6,913,604, 12%

5,243,560, 9%

2,508,010, 4%

8,432,928, 15%

0, 0%

従業者数

1~4人 5~9人 10~19人

20~29人 30~49人 50~99人

100~199人 200~299人 300以上

出向・派遣従業者のみ

出所) 総務省統計局「平成26年経済センサス」より

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日本企業の人事労務管理から人材戦略マネジメントへ

■従来の日本型人事労務管理 VS.日本型人材戦略マネジメント

従来の日本型人事労務管理 日本型人材戦略マネジメント

人間観と視点

経済合理的に活用すべき労働力

教育投資すべき人的資源

ハイ・パフォーマンスに貢献する戦略的な資産

ハイ・キャリアを実現する自律的な個人

直接的な目的

労働力の効率的活用のためのモラールやモチベーションの向上

長期的な従業員の能力の向上

ハイ・パフォーマンス・マネジメント(経営戦略への貢献と組織能力の醸成)

ハイ・キャリア・マネジメント(多様なインセンティブ提供と職務キャリアの充足)

マネジメントの主体とスタイル

本社人事部門を中心とした中央集権的な「包括的一元管理」

トップマネジメント、現場のライン管理者、従業員などの組織的なコラボレーションを前提とする個(人)別管理(Employee Relation Management)

マネジメントの対象と内容

正規従業員の時間単位労働力の計画、調達、配置、教育、作業環境、労使関係などの総合的な制度運用管理

非正規従業員の活用と時間単位労働力に限定されない知的資産(専門的な知識や技術および技能など)の有効活用および開発などに焦点化

人事施策や制度の整合性

人事施策や制度と経営戦略との垂直的整合性、人事施策間や制度間の水平的整合性がルース

人事施策や制度と経営戦略との垂直的整合性、人事施策間や制度間の水平的整合性がタイト

人事情報管理

人事部門に集中させる非冗長的な人事業務管理データ(句読点を必要としないデータ)

組織的なコラボレーションを前提とする現場主導の冗長的な人材・組織マネジメント情報(句読点を必要とする情報)

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日本企業の人材戦略マネジメントの機能と役割

意思決定の次元

本社人事スタッフ

(コーポレート人事)

ライン人事スタッフ

(事業企画や部門人事)

ラインマネジャー

従業員

本人

戦略的

意思決定

(中長期)

全社戦略に従う全社的な人的資源の計画・調達、活用、開発の人材政策の決定

全社共通のコア・バリューの浸透や組織能力の構築などの文脈的な組織政策の決定

事業戦略に従う事業部門内の人材の計画・調達、活用、開発の人材政策および文脈的な組織政策の決定

自部署の人材政策の決定

長期的なキャリアビジョンの決定

執行的

意思決定

(短中期)

全社的な人材の採用計画、配置計画、人材開発計画、サクセッション計画などの立案

全社共通の人事諸制度の設計

事業部門内の人材の配置計画や人材開発計画などの立案

部下の人材マネジメント計画の立案

中期的なキャリアデザインの策定

運用的

意思決定

(年度単位のオペレーション)

人事諸制度をはじめとして採用、配置、人材開発、サクセッション計画などの運用(給与計算や福利厚生などのオペレーション実務は効率化もしくはアウトソーシングの方向)

現場の上司への人材マネジメントと従業員へのキャリアマネジメントに関するコンサルティング支援

部下の業績目標達成と能力開発の実践

業績目標達成と能力開発の実践

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これからの人材マネジメントの目標

成果による戦略達成への貢献を高める

戦略を構築する能力を獲得し、その能力を向上する

公平で、情報開示に基づいた評価と処遇を提供する

キャリアを通じた人間としての発達や成長を支援する

経営の

視点

個人の

視点

短期的目標 長期的目標 「戦略からは相対的に独立した人材マネジメント自体のデリバラブルを設定し、そこから具体的な人材マネジメントの活動を考えていくことが可能になる。このように人材マネジメントによって獲得、維持される組織能力の代表が、変革を起こす力であり、組織が変革をする能力を維持するために、人材マネジメントが貢献する部分は大きい」(同左、p.24)

出所)守島基博(2004)「経営に資する人材マネジメントをどう考えるか」労働政策研究・研修機構『企業の経営戦略と人事処遇制度等に関する研究の論点整理』労働政策研究報告書 No.7 2004 、p.17

提供価値 活動 中核システム 役割のメタファー

成果による戦略達成への貢献を高める

戦略目標と一人ひとりの貢献を適合する仕組みをつくる

パフォーマンス・マネジメント

(経営の)戦略的パートナー

戦略やビジョンを構築する能力を獲得し,その能力を向上する

戦略的に考えることのできるリーダーを供給する

キャリアと経験を通じた選抜型育成

経験のプロデューサー

公平で情報公開に基づいた評価と処遇を提供する

公平で納得性の高い評価が行われるようにシステムを組み現場を支援する

フィードバックと従業員支援

審判

キャリアを通じた人間としての発達を支援する

人材が価値を高め,その中で働き甲斐と働きやすさを支援する

キャリア開発支援 コーチ

■デリバラブル(提供価値)に基づく人材マネジメントの活動と役割

出所)金井壽宏・守島基博編著(2004)『CHO 高人事責任者が会社を変える』東洋経済新報社,p.230より一部加筆修正

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組織と個人の新たな相互依存関係

組織と個人の資産価値に関する相互依存関係

知識集約型産業においては、人的資源に依存する無形資産(知的資産)の割合が増加し、組織と個人の相互依存関係はますます深まることになる。そして、人的資源とは企業組織が所有したり譲渡したりすることができない資産である。したがって、企業組織が競争優位性を確保し維持するためには、特異な市場価値を保有する稀有な人材を獲得し、長期的に雇用して育成するかということが要求される。

一方、個人の側からすると、企業組織が自分の自己実現やキャリア開発に有益な修行の場としての主観的な魅力をどれだけもつのかが問題となる。つまり、会社に対する従業員のパワーが相対的に強くなり、新たな雇用関係を前提とした「選ばれる会社」のための人的資源管理の時代が到来してきた。

時間単位労働力

有形資産

無形資産

(知的資産)

個人の労働市場における資産価値

(エンプロイアビリティ)

企業組織の業界市場における資産価値

(時価総額)

市場において希少価値があり模倣困難な知的資産が持続的な競争優位の源泉