沖縄トラフの現世黒鉱鉱床における変質鉱物 の組み合せについて ·...

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海洋科学技術センターlま麟研究報告JAMSTECTR DEEPSEA RESEARCH (1989) 沖縄トラフの現世黒鉱鉱床における変質鉱物 の組み合せについて 丸茂克 美 *` 伊 是 名 海穴で 発見 さ れ た現 世禺 砿 鉱床 に産 する 慶 質砿物を , x 線デ ィフ ラ クト メ ータお よび 分析 電子 顕 微鏡を 用い て 分析 した。 西 ド イ ツ譌 在船 ソ ン ネ号が 採取し た 鉱 石に は, クリ スト バ ライト , 石英 , 及びマ イカ /モ ンモ リロ ナイト 混合 層鉱物が 産 する。 ま たソ ン ネ号 の 探泥試料 か らは ,マ グ ネシ ウ ム質 クロ ラ イト, ア ル ミニ ウ ム質 クロ ライト, ハロ イサ イト, カ オ リ ナイト 夢 の, 熱水 性粘 土砿物を 伴う 白 色粘 土層 が 見い ださ れ た。 「 し んかい2000 」 の 沿航 綱 査で 得 られ たド ロマ イト 貿チ ムニ ーには, ハロイ サイ ト , ア ル ミニ ウ ム質 クロ ライト , カ オ リ ナイト 等 が 産する。 ハロ イサイト やア ル ミ ニ ウ ム 貿 クロ ライト のチ ムニ ー中 にお け る産出 は, こ れらの ア ル ミニ ウ ム質粘 土砿 物 の , 海底 熱水 系dこおけ る 形成が 可 能で あるこ と を実 征す る ものであ る。 なお,rし ん か い2000亅 が採 取 し た 母岩 には ,中 新 皀黒鉱 のそ れと同橡 に ,マ イカ /モ ンモリ ロ ナイト 混合居 鉱 物 か産 する。 Alteration of Mineral Assemblages in a Modern Kuroko Type Massive Sulfide Deposits in the Okinawa Trough Katsumi MARUMO** XRD (X-ray diffraction) and ATEM (analytical transmission electron microscope) studies have been carried out on sulfide ores, ^consolidated sediments, a dolomite'bearing chimney, and an alteration rock sample from a modern Kuroko-type massive sulfide deposts in the Okinawa Trough back-arc basin. Sulfide ores collected by the German research vessel "SONNE" contain cristobalitc, quartz, amorphous silica, and mica/nontmorillorute mixed layer minerals. The fine-grained whitish clay in the unconsolidated sediments is characterized by the presence of hydro thermal clay minerals (Mg-chlorite, Al-chlorue, halloysite and kaohmie), A dolomite-bejring chimney collected by "SHIMKAf 2000" contains halloysite, AhchJorite, ami kaolimte. AJthough the formation of these aluminum clay nunerals liave not been re pox ted in modern active submarine hydrothermal systems, the mineralogical studies of the cliimney strongly suggests that these aluminum clay mineiais would be formed in submarine *l 工槊 技 律丿院地 質凋 肖所 鉱 勧 資源 郎 *2 Geological survey of japan JAMSTECTR OEEPSEA R6SEARC 卜4 冂9891 2月

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海洋科学技術センターlま麟研究報告JAMSTECTR DEEPSEA RESEARCH (1989)

沖縄トラフの現世黒鉱鉱床における変質鉱物の組み合せについて

丸 茂 克 美 *`

伊是名海穴で発見された現世禺砿鉱床に産する慶質砿物を,x線ディフラクトメ

ータおよび分析電子顕微鏡を用いて分析した。西ドイツ譌在船ソンネ号が採取した

鉱石には,クリストバライト,石英,及びマイカ /モンモリロナイト混合層鉱物が

産する。またソンネ号の探泥試料からは,マグネシウム質クロライト,アルミニウ

ム質クロライト,ハロイサイト,カオリナイト夢の,熱水性粘土砿物を伴う白色粘

土層が見いだされた。

「しんかい2000」の沿航綱査で得られたドロマイト貿チムニーには,ハロイサイ

ト,アルミニウム質クロライト,カオリナイト等が産する。 ハロイサイトやアルミ

ニウム貿クロライトのチムニー中における産出は,これらのアルミニウム質粘土砿

物の,海底熱水系dこおける形成が可能であることを実征するものである。なお,rし

んかい2000亅 が採取した母岩には,中新皀黒鉱のそれと同橡に,マイカ/モンモリ

ロナイト混合居鉱物か産する。

Alteration of Mineral Assemblages in a Modern Kuroko Type

Massive Sulfide Deposits in the Okinawa Trough

Katsumi MARUMO**

XRD (X-ray diffraction) and ATEM (analytical transmission electron

microscope) studies have been carried out on sulfide ores, ^consolidated

sediments, a dolomite'bearing chimney, and an alteration rock sample from

a modern Kuroko-type massive sulfide deposts in the Okinawa Trough

back-arc basin.

Sulfide ores collected by the German research vessel "SONNE" contain

cristobalitc, quartz, amorphous silica, and mica/nontmorillorute mixed

layer minerals. The fine-grained whitish clay in the unconsolidated sediments

is characterized by the presence of hydro thermal clay minerals (Mg-chlorite,

Al-chlorue, halloysite and kaohmie),

A dolomite-bejring chimney collected by "SHIMKAf 2000" contains

halloysite, AhchJorite, ami kaolimte. AJthough the formation of these

aluminum clay nunerals liave not been re pox ted in modern active submarine

hydrothermal systems, the mineralogical studies of the cliimney strongly

suggests that these aluminum clay mineiais would be formed in submarine

*l 工槊 技 律丿院地 質凋 肖所 鉱 勧 資源 郎

*2 Geological survey of japan

JAMSTECTR OEEPSEA R6SEARC 卜4  冂9891 2月

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hydrothcrmaJ systems.

in accordance with altered rock samples around the Miocene Kuroko

deposits, the equivalent of moderan analogue Kuroko-type deposits contains

imica/montmonllonite mixed layer minerals as the most predominant alter-

ation product.

1. は じ め に

西南北海道及び本州のグリーンタフ地域,とく

に東北日本内帯の北鹿地域には,金・銀・銅・鉛

・亜鉛等の金属資源の宝庫ともいえる黒鉱鉱床が

多数分布する。これらの鉱床の母岩となる周囲の

岩石は,海水を起源とする熱水の彫響を受けて変

質しており,その規模は砿床の周囲lk・以上に及

ぶことがある。新第三紀中新世の海底熱水系にお

いて,岩石一水相互作用で形成された変質帯は,

潜頭砿床を発見する際の重嬰なインディケータと

なるばかりでなく,当時の海底熱水系の規模を把

握する上で重要である。また,最近の黒鉱鉱床成

因諞の中には,岩石中の金属元素が熱水によって

抽出・連搬され,再び一ヶ所に沈澱して鉱床を形

成したとする鋭もある(Ohmoto, etal. 1983) 。

しかし,鉱床周辺の変質帯の一部は,鉱床形成

後の続成変質作用の彫響を受けてしまうことが多

い。 また,鉱床形成後に貫入岩の活動により変形

・破壊されてしまうヶ-スもある。 そのためこれ

らの鳩合には,鉱化作用に伴われた熱水活助によ

って形成された変質鉱物と,結成変質作用等で晶

出した変質鉱物とが混在して変質帯を形成してし

まうことになる。例えばVtado(1988)は黒鉱鉱

床産カオリンの形成は,鉱化作用の後の熱水活動

( 例えば温泉作用 )によるものと考えてい る。ま

た石川ら(1984 )は餌釣黒鉱鉱床産パイロフィラ

イトの形成を,鉱床形成後のネバダイト貫入岩活

助の産物として位置づけて いる。

伊是名海穴で発見された現世黒鉱鉱床周辺には,

新第三紀中新世の黒鉱鉱床の変質帯に対比される

熱水変質帯の存在を示唆する岩石(いわゆる鉱床

母岩)が産する。 また,現在活動巾のチムニーの

一部は,熱水が岩石と反応しつつある姿,韜・亜

鉛細脈を伴う鉱石は熱水と岩石と の反応が巾止さ

れた姿として,位置づけることができる。 また海

2j2 JAMSTECTR DEEPSEA RESEARCH < 1989-

底堆樋物中に産する熟水性砧土鉱物も,海底熱水

活動の産物とみなすことができる。従。て,これ

らの岩石・鉱石・チムニー,及び海底堆積物を分

析することは,黒鉱砿化作用において熱水一岩石

相互作用で初生的に形成された変質鉱物極を決定

する上できわめて有益である。

2. 賦料の採取地点と分析方法

伊是名海穴北東壁において,西ドイツ海洋鍼査

船ソンネ号が採取した鉛・亜鉛細脈を 伴う鉱 石

(Halbach etal 。 1989 ),海穴底の梅底堆積物,

及び「しんかい20〔χ〕亅 で採取さ れたチ ムニーと母

岩(加藤逹弘他,本号報告参照)を試料として選び,

分析の対象とした。これら試料の採取地点を図1に

示す。

採取した試料を構成する各種鉱物(粘土砿物,

シリカ鉱物, 硫化鉱物)をX線回折装卮及び透

過型分析電子顕微鏡を用いて分析した。X線回析

にあたっては理学電機製RAD-r A 型ディフ ラク

トメータを用い, Cu 球で40 KV・150 mA の

山力下で,スリット系 】゚ - 1°- 0.3u,走査速

度2ツ 分,時 定数 】秒で火施した。分析電子顕微

鏡による試料観察・化学分析にあたっては,フィ

リップス社裂透過型電子顕微鏡CM/12 STEM に

EDAX 社製PV9900 を付属させたシステムを用

い,加速電圧100 KV で実施した。

3. 分 析 結 果

3、1  鉱石に伴われる鉱物

酸性火山岩を閃亜鉛砿・方鉛鉱の網状脈が切る

鉱石や,酸性火砕岩の粒間を埋めるヶイ貧鉱染状

鉱は著しく変質し, ヶイ化ないし粘土化している。

X線回析の結果,これらの変質部は非晶質シリカ

【図2の 】60-3 -5λ クリスト″ ライト( 図 3

の160 -11 ),石英( 図 3の160 - 2 ), 及びマ

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図 丿 試料 採 取位 破。 扁印 は 「 しん かい200【】」|こよ る

チ ムニ ー 鄙 腴胤 a。 139 ,141 ,154, およ び

】62 の 各 数 字は 丙 ド4 ツ海 洋 圃 矗船 ソ ンネ 号が

実 施 し た1 力 式 コ アラ 一掬 泥。戉

Fig. 】Sampling points shows t he location

of chimney collected by ” SHIN ・

KAI 2000 ’ Numbers J39, 141,

154, and 162 show core sampling

points carrid out by ’ SONNE ’。

イカ/モンモリロナイト混合屬鉱物【 図3の】60

-1】及び160 -2 )からなることが明らかにされ

た。

とくに,酸性火砕岩の柆問を埋めるケイ質鉱染

状鉱の巾では,7イ カ/モンモリロナイト混合層

昿物とクリストバライトとが共存するが( 図3の

j60 -H ),こうした鉱物糾み 合せは中新世の黒

砿鉱床の変質帯にはほとんど 見られない。

3.2  海穴底平坦面の海底堆稽物の構成鉱物

1988年6月に内ドイツ海洋綢食船ソンネ号が実

晧した重力式コアラーによる採泥により,洵穴底

孛坦而の海底堆積物中に,厚さ数10C・の白色粘土

屑が伴われることが判明した。この白色粘土層は

2本のコアで確認さ れ, かっ それらは随伴する凝

灰質川との関係から,ほぼ同一屑準に位置するも

のと 考えられる( 中村,私信)。

これらの粘土別は亜鉛の濃度異常を示し( Hal-

bach eta1 1989 ),かつマグネシウム質クロライ

ト・アルミニウム質クロライト・ハロイサイト・

カオリナイト等の熱水性粘土鉱物を 伴っている。

これらの粘土鉱物のうち,154 コアの深度131 ~

135 cmの試料の,分析心了・顕微鏡によるX線化学

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図 3  鉱 石お よ び母岩 の X線 回折 結 燿。 上よ り 鉱 石中

の ク り スト パ ラ4 卜と マイ カ/ モ 冫 モり o ナ イ

ト 耀合 眉 鉱 物(160 -II ), 鉱 石中 の 石英 と マ

4 カ/ モ ンモ リ ロ ナ イト 混合 麪 砿勧【 】60-2 )。

母岩 中 の 石 英 と マ イ カ/ モ ンモ リ ナ4 卜 混 合 励

鉱 物( 399 - 1 )。Cr : ク リ スト バ ラ イ ト

(Cristobalite ). Q: 石英( Quarlz ),

M: マ4 カ ノ モ ン モ1リロ ナ4 卜混 合眉 鉱 物

( mica/montmorilloni 卜e miχed layer

minerals),Sph : 閃 亜鉛 鉱(Sphaleri-

te)

Fig. 3 χRD patterns of ores and a wall・

rock. Fr{}閨top lo bclt om as lall か嵋 ;

Cristobal ile and mica./ montmorill ・nite

mixed layer minerals in the sulfide

ore( 160 ―11), quarts and mica/ mon-

tmorillonite mixed la yer minerals in

the sulfide or e【 】仭 -2 ),q・rti and

mica/ montmorillonit e mi χ2d layer

minerals in the wall ・「ock(359 -| ),

●gsf  d .●・s瞿w  s●●v- ・ laal

図4 154 コ ア の 深 度13 】- 135 co中| こ含 ま れ る マ グ

ネ シウ ム 鬟 クロラ 4卜 , ア ル ミニウ ム 貿 クロ ラ 4卜 。

・ ロヽ イ サ イ ト , お よ ぴ カ オ リ ナ イ ト の X 槻 化 学 分

析 結 果 。

Fig. 4 E Dχ palt erns{}f clay minerals in the

1S4core(131 ―135cadepth )≫ Prom

top to bottom as fol lows ; Mg-chlort・

le, Al-chlorite. halloysite , and

Kaolinite.

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閃5 151 コ ? の 深 度20-40c・ 巾l ご含 ま れ る 餃 首 クo

ラ イ ト と モ ン モ リ ロ ナ イ ト の X 綿 化 学 分 听 結 果

Ei^.5 ED χ patterns of clay minerels in the

154cor e(20 -40 ・deplll s ).Fe・chlo・

「ite (t op )and monlnlori 】Ionile (bolt ,

om ).

写 真1 18417 の 深 度131 - J 35 cm中|こ含 まれる マダ

ネ シウ ム質 ク ロ ラ4 }とチ .一プ 状 ハ ロ4サイ

ト 。

Photo. 1 Mg-ch!orite and hallo芦ite in the 151

core ( 131 ―135m depth >.

を図2に示す。14.5 A および7A に粘土鉱物に

特徴的な底面反射が認められるが。これらのデー

タのみからは, 粘土鉱物插の決定は困難である。

一方, 分析電子顕微鏡による粘土鉱物の形態観察

の結果,チa-ブ状のハロイ サイトと考えられる

結品が見いだされた( 写真2 )。 この結晶のX線

化学分析の結果を図6( 最上 )に示す。アルミニ

ウムとシリカのピークのみが見いだされ,かつそ

れらのピーク強度比がほぼ 】: 】に近いことから,

この結品はハロイサイトと断定できる。なお,八

ロイサイトのほかにも,アルミニウム質クロライ

ト,及び六角板状のカオリナイトの存在も分析電

子顕微鏡観察の結果明らかになった( 図6 )。

分折結果を図 4に,マグネシウム質 クロライトと

ハロイサイトの電子顕徽鏡写爽を写 戮1に示す。

また一方,白 色粘土層以外の廊底堆積物には,こ

れらの粘t 鉱物の代わりに鉄 クロライトやモンモリ

ロナイトが含まれる。154 コアの深度20 ㎝~40C。の

試料のX線化学分析結果を図 5に示す。

3,3  ド ロマイト質チ ムニー中の粘土鉱物

「しんかい2000」の潜航調査ではいくつかのチ

ムニー試料が裸取されたが,そのうちの一つ(359

-3 )は,径 5-大のドロマイト球粒状結品を伴

うことで特徴づ けられる( 宵一木, 丸茂,加藤, 本

号報告, 写真1 )。このチムニーは 全体に変質し,

岾t.イ匕している。この粘t賀・部分のX線川析結果

3.4  母岩に 産する変質鉱物

「しんかい2000 」の潜航調 査で採取された 母岩

タフ(359 -1 , 加藤幸弘ほか, 本号報告, 写真

5 )は 全体に 弱変質 しており, 北鹿 地域の新第三

紀中 新世の 黒鉱鉱床周囲の, 下盤 タフでしば しば

見ら れるように淡緑 色を 呈す る。こ の母岩の タフ

のX線回析結果を図3 (359 -1 )に示す。 石災及

びマイカ/モンモリロ ナイト混合層鎔物の同析ピークの

みか顕著で, 長石や炭酸塩鉱物を特徴づけるピ ー

クは ほとん ど見られない。マ イカ /モンモリロ ナ

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写真2 ドロマイト賀チムニーに含まれるチa-プ状

八p4サイト

Phot0.2 Hal 】oysite in the dolomite-bearing

chimney・

写真3 母岩申|こ含まれるマイカ/モンモリロナ4卜

混合駟鉱物

Photo. 3 Mica/ mont morillonite mixed layer

minerals in the wall ・rock.

JAMSTECTR DEEPSEA RESEARCH  。19891

図6 ドロマイト質チムニーに含まれる・ ロヽイサ4卜,

カオリナイト,およびアルミニウム貿クロ ライト

のX轢化学分折紡果

Fig. 6 EDX patterns of clay minerals in the

dolomile・bearing chinney. From top

to bottom as follows ; halloysite.

Kaolinite, and A 】・chlorite.

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図7 母岩に含まれるマイカ/モンモリロナイト混合

眉肱初のX線化学分折結果

Fig.7 An EDX pattern of mica/montmoril 】。

onite miχed layer minera Is.

イト混合層鉱物は短冊状結品で,かつそのカリウ

ム含有量はおおむねマイカの半分ほどである( 写

貞3および図7 )。

4. 考察と桔論

伊足名海穴の現世黒鉱砿味産の鉱石の変質は,

マイカ/モンモリロナイト混合川鉱物と, クリス

トバライトといった鉱物組み合せによって特徴づ

けられている。 この 2つの鉱物の糾み合せは新第

三紀巾新世の照砿鉱味ではほとんどみられず, ク

リストバライトに代って石英が産している。堆積

岩巾の非品質シリカは続成作川の過槻でクリスト

バライトを経て石英に変化し,かつこの変化は温

度と時間の関数であることが知られている(Mi-

zutani 1974, Kano 1978) 。現t!t黒鉱鉱味で見い

だされた非晶質シリカを伴う鉱石,クリストバラ

イトを伴う鉱石は,いずれも地質学的時問スケー

ルで続成作用を受けた場合,新第三紀中新t!tの黒

鉱砿床産鉱石のように,非晶質シリカやクリスト

バライトに代って石英を伴うことになると考えら

れる。

ドロマイトを伴うチムニーにはチ 。-ブ状ハロ

イサイトが産してい るが,晦底熱水系における自

生ハロイサイトの記載はこの轍告が初めてである。

晦底熱水系では跌・マグネシウム質粘t鉱物( 例

えば スメクタイトやクロライト )の産出は多数報

告されているが( 例えばCole. 1983 ), ハロイサ

イトのようなアルミニウムとシリカを主とするカ

オリン紅物の生成は,ほとんど知られていない。

しかしRiverin and Hodgson (1980)は熱力学的

データに基づき,梅水起源の熱水が温度低下(200

℃以下)に伴りてカオリン鉱物を晶出しうること

を予沮】した。 またHaymon and Kastner (1986)

やHoward and Fisk (1988)は, 現在の海民熱水

系でアルミニウム質粘土鉱物(バイデライトやク

ロ ライト /モンモリロナイト混合屆鉱物)やベー

マイトの産出を報告している。いずれにせよ,八

ロイサイトの産山が報告されたことにより, 海底

熟水系でカオリン鉱物の形成が可能であることが

実証されたことになる。なお,ドロマイトを伴う

チ ムニーでは,ハロイサイトに伴ってアルミニウ

ム質クロ ライトが産しているが,この鉱物の海底

熱水系における記載も今回が最初である。

洵穴底平坦面で確認された白色粘土層は, 2ケ

所の地点において同一層凖に位置している。また,

白色砧土層に含まれる粘土鉱物はドロマイトを伴

うチムニ ーに含まれるもの(アルミニウム晢クロ

ライト,ハロイサイト,カオリナイト)や, 新第

三紀巾新皀の黒鉱砿床に多産するマグネシウム質

クロライトである。一方,白色粘土層以外の堆積

物中には,鉄質クロライトやスメクタイト等の海

底堆積物にしばしば 見られる粘土砿物がましてい

る。また白色粘土層とその上下の堆積物との間に

は,熱水が岩石や堆積物を交代した際にしばしば

見られる変質鉱物細み合せの,析移的な変化を示

す累帯配列は見られない。これらのことがらから,

白色粘土層は周囲の熱水系から粘土鉱物が吹き飛

ばされ,洵穴底に運ばれて堆稍したものと考えら

れる。

粘土鉱物か海庭熱水系から放出され,一定の広

がりをもって堆積するような証処は,北鹿地域の

新第三紀中新世の黒鉱鉱床では見いだされてはい

ない。これは北鹿垉城の黒砿砿床が鉱味形成後に

結成作月jを受けており,海底熱水系で放出されて

再堆積した蒔い粘土喞の識別が困難になってしま

ったためであると考えられる。しかし,北海道の

南白老黒紅型鉱味のように,続成作用の彫弊の少

ない鉱床では,そうした粘h 鉱物(主にカオリン)

の噴出・堆積の証処が見つかっている(丸戊,

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1989) 。

いずれにせよ。 海底熱水系から放出 され, 一定

の広がりを もって 堆禎する粘土層の広がりは, 海

底熱水系 の探査を する上で 皿要なインデ4 ケータ

ーaこなりうる。 分析電子顕微鏡のよ うな分折手段

が実用化されて いる現在では,海底堆積物中の熱

水系粘土鉱物 の検出はき わめて容易Sこなりつつあ

るので, 今後 の梅底熱 水系の探査には海展堆積物

のチ 。ツクが重要にな るであろう。

謝   辞

こ の研究で活用した試料は西ドイツ海洋調査船

ソンネ号及び「 しんかい2000」 によ 。て採取 され

たものである。こ れらの試料を提供 して下さった

地質 綢査所海洋地質郎の中村光一氏, および 海上

保安庁水路部の加藤幸弘氏には深く感謝の意を表

したい。 また, 作業を逃 める|こあ た。ては地貿調

査所鉱物資源部の補辺徹郎氏及びill木正博氏には

多くの助言をい ただい た。

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(原科受理 1988 年6月12日)