網走国定公園小清水原生花園 風景回復対策協議会...
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網走国定公園小清水原生花園 風景回復対策協議会 殿
火入れ時刻の変更に関する提案
岐阜大学流域圏科学研究センター 津田 智
北海道大学 FSC 植物園 冨士田裕子
小清水原生花園の野焼きは1993年の事業開始以来,早朝の時間帯に実施されてきた.しかし
ながら近年,社会状況の変化や科学的新知見の蓄積などにより,早朝実施を変更できる環境が
整ったと判断できる.ついては火入れ時刻を遅らせ,日中に実施するよう提案する.
早朝に火入れを実施してきた経緯
これまでずっと早朝に火入れを実施してきたのにはいくつかの理由があったが,主な点は以
下の通りである.
1. 野焼き実施中に北風が吹くと交通に支障が出る可能性があるため,北風が吹きにくい午前
中に実施したかった.
2. 北風だった場合,煙発生により国道の通行が規制される可能性があるため,早朝の交通量
の少ない時間帯を選んだ.
3. 南風でも国道と鉄道の間(A 地区)を焼く場合に,釧網線を走る列車に影響が出るリスクを最
小限にするため,一番列車通過前にその部分だけは終了したかった.
日中に火入れを実施できる根拠
1. これまでの野焼きでも毎回南風が吹いていたわけでは無く,しばしば北風が吹いたことがあ
った.北風が吹いて国道方向に煙がたなびいた場合でも,徐行や注意喚起等の措置だけで
通行規制(迂回)が実施されたことは無かった.
2. 野焼きを始めた頃は釧網線を通過する列車の本数が多く,早朝以外のどの時間帯でも火入
れの実施中に列車が通過する可能性があったが,現在は列車本数の減少により,都合の良
い時間帯がいくつかできた.逆に,現在実施されている早朝の時間帯では,7 時台に列車が
3 本も通過し,むしろ影響の出るリスクが相対的に大きくなっている.
3. 直前まで天候が良く,燃料(枯れ草)が十分に乾燥していても,早朝の実施では夜露が乾き
きっていない状態での野焼きとなるため,煙(大半が湯気)が多量に発生する.このことは,
先に焼く国道と鉄道の間では煙がより多く,後に焼く鉄道とオホーツク海の間で煙が比較的
少ないことからもわかる.
4. ハマニンニク群落と燃料量(枯れ草量)が同程度のススキ草原では,たいてい野焼きを日中
に実施しており,煙の量は遙かに少ない.小清水原生花園でも日中に野焼きを実施すれば,
日光による燃料の含水率が低下することにより煙の発生量が低減でき,国道や鉄道に支障
をきたすリスクが下がると考えられる.(写真参照)
小清水原生花園の野焼き風景.煙が多量に発生する.2010.4.20
(左)秋田県寒風山ススキ群落の山焼き.2008.4.6 (右)神奈川県箱根仙石原ススキ群落の野焼き.2008.3.19
5. 小清水原生花園のハマニンニク群落と燃料量が同程度のススキ草原の燃焼率を比較すると水分量が少ないススキ群落の方が良く燃えるので,焼け残り量が少なくなる.ス
スキ群落では 16 %の燃料しか焼け残らないが,ハマニンニク群落では 20 %近くの燃料が焼け残る.重量にすると 50 g /㎡以上の差があり,その後の植生に影響することが予想される.(表 1参照)
6. 焼け残り量が少なくなると,在来種の芽生えが増加し,植物の種類組成に変化が生じる可能性がある.これは原生花園の植生回復において好ましい方向に変化することを
示唆している.寒風山(秋田)のススキ群落では焼かなかった場合の種子発芽個体密
度は 5個体/㎡で,小清水原生花園のハマニンニク群落の 3個体/㎡とほとんど差が無かったが,焼いた場合の差は大きく,小清水の 25 個体/㎡に対して 2 倍以上の 60 個体/㎡が芽生えた.(表 2参照)
以上のように,日中の時間帯の野焼きにより,煙の発生量が減ることで交通機関に支障
が出るリスクを減らせるのと同時に,枯れ草の燃焼率を増やすことで,原生花園の植生管
理をより効果的に進めることができると考えられる.2014年度の野焼きについて,早朝から日中の実施へと変更することを提案する. なお,順応的管理の考え方から,実施時刻を変更したときに不都合が生じた場合は時間
帯変更の再検討をすることも併せて提案する.