次世代ものづくり基盤加工技術調査 ·...

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東北経済産業局 平成23年度次世代ものづくり基盤加工技術調査事業 次世代ものづくり基盤加工技術調査 協力機関名 青森県産業技術センター 八戸地域研究所 (地独)岩手県工業技術センター 宮城県産業技術総合センター 秋田県産業技術センター 山形県工業技術センター 福島県ハイテクプラザ 東北大学 大学院 工学研究科 (独)産業技術総合研究所 東北センター 委託先:財団法人 青葉工学振興会

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東北経済産業局

平成23年度次世代ものづくり基盤加工技術調査事業

次世代ものづくり基盤加工技術調査

協力機関名

青森県産業技術センター 八戸地域研究所

(地独)岩手県工業技術センター

宮城県産業技術総合センター

秋田県産業技術センター

山形県工業技術センター

福島県ハイテクプラザ

東北大学 大学院 工学研究科

(独)産業技術総合研究所 東北センター

東 北 経 済 産 業 局

委託先:財団法人 青葉工学振興会

加 工 デ ー タ 集

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はじめに

東日本大震災で被災されました企業の皆様には、心よりお見舞い申し上げま

す。

東北経済産業局は、震災以来、被災地域の復興・復旧に全力で取り組んでお

り、引き続き企業の皆様や学官との連携を密にしつつ産業の復興に努めてまい

りたいと存じます。

さて、最近の経済状況は、一部に持ち直しの兆しはあるものの、震災の影響

により依然として厳しい状況にあり、また、長期の円高及び欧州政府債務危機

による先行き不透明等により、我が国景気が下押しされるリスクがあります。

このような中、地域経済の活性化を図る上で国際競争力を有する地域産業の

創出が大きな課題となっており、特に今回調査対象にしているものづくりにお

ける精密加工技術は、我が国製造業が国内外で競い合える高品質化・高付加価

値化の有効な手段であり、当該技術のさらなる高度化を目指すことは喫緊の課

題となっています。

精密加工技術は、半導体、精密機械、自動車、航空機、医療、電気・通信、

光等、身近な分野から専門的な工業製品まで、多岐にわたって関係しておりま

す。他方、素材の種類、工具材種、機械の剛性、計測技術、加工方法・条件等

によって、その加工品質が大きく左右されますが、特にサポーティングインダ

ストリーを担う中小企業が新たな技術開発や習得するに際し、加工方法・条件

等の決定と加工品質向上の両立において多大な時間を要しているのが実情です。

このため、産業技術連携推進会議 東北地域部会における公設研の連携を基に、

東北経済産業局、東北 6県公設研及び産総研 東北センターが共同で、次世代に

おける(新素材等の精密切削加工・研削加工を主とした)ものづくり基盤的な

加工記録を先駆的に探索し、そのデータベース化を図り、中小企業の加工技術

の高度化や新製品開発を支援するため、本調査を実施しました。

関係各位におかれましては、是非、本報告書をご活用され、技術のさらなる

高度化や新製品開発に取り組んで頂ければ幸甚です。

なお、本報告書の作成にあたり、調査主体となった財団法人青葉工学振興会、

技術面でご指導賜りました東北大学大学院工学研究科 厨川常元 教授及び全体

のコーディネートを頂きました産業技術総合研究所 東北サテライト 森由喜

男氏に謝意を申し上げます。

東北経済産業局長 地域経済部長 寺家克昌

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目 次

1.調査の目的、内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

2.次世代ものづくり基盤加工技術調査の概要・・・・・・・・・・・・6~11

3.(調査結果)

次世代ものづくりのための高効率な切削加工技術・・・・・・・・・・ 12~16

(青森県産業技術センター 八戸地域研究所)

生体材料の微細切削加工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17~22

((地独)岩手県工業技術センター)

高効率な切削・研削加工技術&超精密研削加工技術・・・・・・・・・ 23~40

(宮城県産業技術総合センター)

次世代ものづくりのための複合材料(CFRP)の切削加工技術・・・・・ 41~55

(秋田県産業技術センター)

次世代ものづくりのための脆性材高品位研削加工技術・・・・・・・・ 56~66

(山形県工業技術センター)

難削材の切削加工技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67~78

(福島県ハイテクプラザ)

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1.調査目的、内容

今後の自動車産業及び半導体産業では、次世代のものづくりにおける新材料等の採

用が活発化されることが予想される。例えば、複合材料の採用による軽量化、耐熱

向上を目指したセラミックスパワー半導体など、東北地域では一般化されていない

材料である。

上記の産業の東北地域での発展に伴い、地域のサポーティングインダストリーを担

う企業(以下、「地域サポイン企業」という。)には従来では経験のない材料に係

る加工依頼が発生することが予想される。

一方、加工条件の探索には、各企業が個々に事例を収集し、試行錯誤を経て条件を

決定しており、膨大な手間と時間を要している。

地域サポイン企業では事例収集にあたり、論文や技術報告書などを参考にしている

が記載上の条件で加工を行なってもそのとおりにならないことが多い。

地域サポイン企業における機械装置の条件や加工者の特性などがあり、条件探索の

記載だけでは伝えきれない領域があるということが認識される。

今回の調査は今後、必要となる次世代のものづくりに必要な新材料等の加工や製造

に係る加工技術調査を地域の大学及び公設研が連携して実施することにより、地域

サポイン企業の国際競争力強化を図ることを目的としたものとする。

東北6県における対象品の選定及び調査については、各6県の公設研の技術職員と

連携して行うこととする。

これらの6県公設研の活用を効率的にするため、技術的な内容の統括について東北

大学の専門家を招聘し、内容の調整を図る。

大学及び公設研などのアカデミアで対象となっていない領域について、地域産学官

で協議・決定し、かつ、産業界のニーズが高い領域について、東北大学と6県工業

技術センターの専門家で次世代のものづくりに係る加工データを調査する。

対象とする技術領域は、自動車産業や半導体産業に欠かせない切削・研削領域とす

る。

将来像として、本報告書を参考とした条件探索を行う地域サポイン企業が、「記載

だけでは伝えきれない領域」=「実際の感触」についての指導を希望する際はまさ

に公設研の技術職員がフェースtoフェースで指導することが可能であり、技術デー

タにモノ・人両面でアクセスフルな地域の強みを活かした取り組みのきっかけとな

るものを目指す。

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<調査イメージ>

産総研東北センター

委員会

福島工技

山形工技

宮城工技

秋田工技

岩手工技

青森工技

6県の産業の特色を勘案した次世代産業で加工が要求される次ぎの材料から選定・自動車の軽量化に資する高強度材として、

→難削材→複合材料・電子部品の高性能化に資する特殊材として、

→新規ポリマー材

データの収集を6県の工業技術センターの総力を結集して行う。必要に応じて実際の切削等の試験も工業技術センターで行うことも想定。

学術的な解明は東北大学においてサポートする。

最終的に、東北地域で発展が予想される自動車産業や電子部品産業において、地域にとって未経験の材料に対する受注を受けるかもしれない地域企業にとって、加工条件の最適化のための「アテ」となるデータを提示する。

地域サポイン企業が今後必要となる次世代のものづくりに必要な新材料等の加工や製造に係る加工技術調査を地域の大学及び公設研が連携して構築することにより、地域サポイン企業のはじめの一歩をより確実なものとし、もって、国際競争力強化

に資する。

平成23年度次世代ものづくり基盤加工技術調査に係る調査イメージ

事業体制のイメージ

<調査実施体制>

・青葉工学振興会を調査実施機関として、調査を実施。

・同機関を事務局として推進委員会を設置。2回開催。

事業統括

霜山忠男・青葉工学振興会

委員会

委員長 厨川常元・東北大学 教授

調査員兼事業管理

霜山忠男四十川千秋

全体調整

霜山忠男森由喜男

・産総研東北サテライト

委員

東北6県工業技術センター

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<委員会メンバー>

機 関 名 氏 名 役 職 備 考

(E-mail)

東北大学大学院工学研究科 厨川常元 教授 委員長

(地独)青森県産業技術センター

八戸地域研究所

中居 久明 主任研究員 hisaaki_nakai@aomor

i-itc.or.jp

秋田県産業技術センター 加藤 勝 主任研究員 [email protected]

ta.jp

(地独)岩手県工業技術センター

飯村 崇 主査専門研究員 [email protected]

p

宮城県産業技術総合センター

渡邉 洋一

齋藤 佳史

久田 哲弥

副主任研究員

研究員

副主任研究員

watanabe-yo436@pref

.miyagi.jp

[email protected]

yagi.jp

[email protected]

iyagi.jp

山形県工業技術センター 江端 潔 主任専門研究員 [email protected]

a.jp

福島県ハイテクプラザ 吉田 智 専門研究員 yoshita_satoshi_01@

pref.fukushima.jp

(独)産総研 東北サテライト 森 由喜男 招聘研究員 [email protected]

経済産業省東北経済産業局

地域経済部 産業技術課

酒井原 宏人 総括係長 オブザーバー

経済産業省東北経済産業局

地域経済部 産学官連携推進室

井元 尚充 総括係長 オブザーバー

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○次世代ものづくり基盤加工技術調査の概要

公設研名: 青森県産業技術センター八戸地域研究所

テ ー マ: 次世代ものづくりのための高効率な切削加工技術

選定材料: モリブデン

結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)モリブデンは S45Cに比べ、加工性が悪く表面粗さが大きくなる。

(2)モリブデンの旋削加工において、工具にモリブデンの溶着が見られ、加工面はむ

しれた状態になり、表面粗さは 8.9μmRzが最小であった。

(3)モリブデンのエンドミル加工において、コバルトハイスエンドミルを使用するこ

とで、S45C とほぼ同等の加工ができることが分かった。

(4)モリブデンのエンドミル加工において、不等リードエンドミルを適用した場合、

コバルトハイスエンドミルより仕上げ面は若干劣るが、表面粗さ 4.18μmRz まで仕

上げることが可能であることが分かった。

公設研名: 秋田県産業技術センター

テ ー マ: 次世代ものづくりのための複合材料(CFRP)の切削加工技術

選定材料: CFRP

結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)CFRP材の穴加工では、工具寿命の観点から、ダイヤモンド工具またはダイヤモン

ドコーティング工具の使用を推奨する。超硬工具でも穴加工は可能であるが、数

十穴で寿命に至る。

(2)ダイヤモンドコーティング工具は、コーティング膜厚が加工品質に影響する可能

性が高い。

従って、出来る限りシャープな切れ刃を有する超微粒・薄膜のコーティングが良

い。

(3)切削加工条件として、ダイヤモンド工具及びダイヤモンドコーティング工具を使

用する場合、切削速度は 100m/min程度、超硬工具を使用する場合は 50m/min 以下、

1回転当たり送りはいずれの工具も 0.05mm/rev以下が良い。

(4)粉状の切り屑が発生するので、できれば吸塵装置(掃除機でも可)を使用し、切

り屑は加工機に付着しないよう注意が必要である。

(5)ドリルによる穴加工実験では、D 社製の一体焼結ダイヤモンド工具が、バリやデ

ラミネーションの無い安定した加工性を示した。

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(6)出口側のバリやデラミネーションを抑制する手段として、出口側にバックアップ

材を添えて共削りする方法が有効である。ダイヤ系工具を使用する際は、バック

アップ材は非鉄金属(アルミや銅等)を推奨する。

(7)エンドミル工具を用いたヘリカル穴加工は、ドリル加工と比べると穴加工状態は

比較的良好であるが、工具の抜け際でバリ等が発生しやすい。また、工具摩耗も進

行しやすい傾向にある。

(8)ドリル加工では、穴精度は 0~0.05mm 以内で収まるが、超硬ドリルは摩耗の進行

により加工穴径は小さくなる傾向を示した。

(9)コスト面から、加工数が数穴から数十穴の場合は超硬工具、数十穴から数百穴の

場合はダイヤモンドコーティング工具、数百穴以上の場合はダイヤモンド工具を選

定するのが良いと思われる。

(10)一概に CFRP 材と言っても多種多様である。工具メーカが CFRP 加工用と推奨する

工具でも、すべての CFRP 材に適するとは限らない。従って、加工穴数やテスト加

工等を踏まえて工具選定することが望ましい。

公設研名: (地独)岩手県工業技術センター

テ ー マ: 生体材料の微細切削加工

選定材料: コバルト合金

結 言

本研究により、Co-Cr-Mo合金の研削加工について以下のことがわかった。

(1)cBN 砥石#230、周速 1600m/min、切り込み 5μmで安定した粗加工が可能である事

がわかった。加工条件としてはまだ余裕があり、さらに厳しい条件でも加工が可能

であると考えられる。

(2)cBN砥石#1000、周速 800m/min、最終切り込み 0.5μm、左右送り 7m/minでの加

工で、表面粗さ Rz0.086μm の良好な加工面を得ることが可能である。

公設研名: 山形県工業技術センター

テ ー マ: 次世代ものづくりのための脆性材高品位研削加工技術

選定材料:石英ガラス、結晶性ガラス

結 言

半導体等の次世代ものづくり分野で使用される石英ガラスと結晶性ガラスを対象に,

高品位研削加工技術を調査・研究した結果を以下にまとめる.

1.表面粗さとき裂深さの関係

石英ガラス等には鏡面かつクラックレスを求められることが多く,研削によるき裂を

研磨等で除去している.このとき,き裂深さを表面粗さで代用することがあるが,表面

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粗さとき裂深さの関係は明らかにされていないため,これを調査した.

(1) 石英ガラスの研削面を酸化セリウム溶液で斜めに,研削痕が見えない領域ができる

まで研磨し,さらに閉じているき裂をフッ酸で顕在化させ,その先端と非研磨面(研

削面)との高低差を測定することで,き裂深さを評価することができる.この方法は

結晶性ガラスにも適用できる.

(2) 極微粒レジンボンドダイヤモンド砥石で石英ガラスを加工するとき,初期の砥石摩

耗に伴って,表面粗さ Rz とき裂深さは低減する.このとき,き裂深さと Rzの比は1

に近づく.

(3) 砥石や研削条件等が異なるときは,表面粗さの値が同じであってもき裂深さは異な

るため,表面粗さからき裂深さを推測することは困難である.

(4) 仕上げ加工で表面粗さを向上させても,除去量が不十分であれば,前加工のき裂は

残留する.

(5) 荒加工で発生したき裂深さを調べ,その2倍を中加工の総切込み深さとし,さらに

中加工後のき裂深さの2倍を仕上げ加工の総切込み深さとすることで,き裂深さを小

さくすることができる.

(6) 結晶性ガラスの研削面に発生するき裂は,石英ガラスに比べて浅い.

2.外周刃加工におけるチッピングと諸要素の関係

外周刃切断で生じるチッピングは,外周研磨等によって除去される.チッピングを除

去しきるためには,その大きさを管理することが重要である.そこで,諸要素が石英ガ

ラスのチッピングに及ぼす影響を調べた.

(1) 切断砥石の側面振れを小さくすることが,チッピングの微小化に有効である.

(2) チッピングを小さくするには,砥粒層のエッジの砥粒をドレッシングで脱落させ

ないことが重要である.

(3) メタルボンド切断砥石よりレジンボンド切断砥石のほうが,チッピングを小さく

できる.

(4) 1 パス目を浅切込みとする 2 パス加工によって,1パス加工よりチッピングを小

さくすることができる.

3.結晶性ガラスの超精密曲面研削加工

結晶性ガラスの光学分野への応用を想定し,結晶性ガラス(オハラ製クリアセラム)

に,曲率半径 500mm の凹面を試作した.

(1) 砥石断面形状が高精度な円弧になるよう,カーブジェネレータ法で砥石を機上成形

した.

(2) 砥石成形後,#800,#1500 と順次研削し,#3000砥石によるステップ研削(砥石をス

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テップ送りしながら曲面を研削する方法)で仕上げた.

(3) 形状誤差は 0.45μm,表面粗さは,0.004μmRa であった.

公設研名: 宮城県産業技術総合センター

テ ー マ: 高効率な切削・研削加工技術&超精密研削加工技術

選定材料: 単結晶シリコン、アルミ、ステンレス、チタン

結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)単結晶シリコンを切削加工した場合、送り量が 1μm以下で割れの無い良好が加工

表面を得ることができる。また、切削速度 5.0~6.3m/min.(回転数 40,000~

50,000/min.)にて表面粗さが最小値となる。

(2)単結晶シリコンに三次元形状モデルの切削加工を行い、割れの無い良好な表面を

得ることができた。加工条件は以下のとおりである。

・工具 cBN ボールエンドミル(日進工具製 SFB200 0.1R)

・回転数 50,000 /min.

・切込 軸方向切込量 Ad 1.0μm、径方向切込量 Rd 1.0μm

・送り速度 50m/min

・冷却方法 オイルミスト

(3)アルミニウムの研削加工において、砥石 GC120F9V81R を使用することにより、ド

レッシングなしで仕上面粗さ 0.8~ を常時維持できた。

(4)ステンレス鋼の研削加工において、砥石 GC80G9V81Rを使用することにより、ドレ

ッシングなしで仕上面粗さ を維持できた。また、砥石 GC120F9V81R を使

用することにより、仕上面粗さ を得ることができた。

(5)チタン合金の研削において、砥石 GC80G9V81R 又は砥石 GC120F9V81R を使用するこ

とにより、反り発生をなくし、砥石磨耗を抑えることができた。仕上面粗さは

が通常可能となった。

(6)マグネットチャックの研削において、砥石 GC80G9V81R と砥石 GC120F9V81R を使用

することにより、研削焼けの発生をなくし、また、良好な平面度と仕上面を得るこ

とができるようになった。

(7)粒度#600までのダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシングにおいて、鋼材

と GC 砥石を交互に配置した複合研削砥石を使用すれば、10 分以内で高精度なツル

ーイング・ドレッシングが可能である。なお、粒度#170~#325 までは鋼材の長さが

50mm、粒度#600には 25mm が望ましい。

(8)粒度#1000以上の微粒ダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシング法として、

SUS304 法及び単石ダイヤモンドドレッサ法を開発し、超精密・鏡面研削加工に適用

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している。

(9)ダイヤモンド砥石を使用したセラミックスの研削において、砥石周速度に最適値

があった。

砥石 SDC170N100B を用いて Si3N4を切込量 でプランジ研削した場合には、砥

石周速度 1300m/min が最も大きい研削比を示した。また、表面粗さについては砥

石周速度の増大と共に小さくなった。

(10)研削加工後のセラミックスの強度は表面粗さに左右される。研削方向に平行に荷

重がかかった場合、表面粗さ Rzが mより大きくなると曲げ応力 は急激に低

下し、 では約 1/2 となった。

(11)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシングにおい

て、SUS304 法を使用すれば、表面粗さ Rz の最大値と最小値のばらつきの小さい結

果が得られる。

(12)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石では#3000→#5000→#10000 と砥粒径

が細かくなるほど表面粗さ Rzが小さくなった。今回の実験条件では砥石粒度#10000

が鏡面加工に適している。

(13)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石で加工する場合、砥石周速度V650m/min

で表面粗さRzの平均値と最大値および最小値のばらつきが最も小さくなった。今回

の実験条件ではV650m/minが鏡面加工に適している。

(14)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石ではボンド材BL1よりBL6の場合に表面

粗さRzの最大値と最小値のばらつきが小さくなった。またBL6の場合、砥石周速度

V650m/minでRzが最も小さくなった。今回の実験条件ではボンド材BL6が鏡面加工に

適している。

(15)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石SD10000L50BL1で超硬合金の仕上げ研

削加工を行った結果、超鏡面が得られ、表面粗さは17nmRzであった。仕上げ加工条

件は以下のとおりである。

・ツルーイング・ドレッシング: SUS304法

・砥石周速度:650m/min

・テーブル左右速度:18m/min

・テーブル前後送り:25mm/min

・加工プロセス:0.5μm×2 回→0.2μm×4 回→0.1μm×4 回→スパークアウト 3

公設研名: 福島県ハイテクプラザ

テ ー マ: 難削材の切削加工

選定材料: 超硬

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結 言

以上、難削材の切削加工実験を行った結果、次のことがわかった。

1) ワスパロイの旋削加工については、工具材種は硬度と靱性の高い超硬合金 K10、K20

種およびこれらにコーティングを施したものを用い、横切れ刃角の大きな工具を使用

するのが望ましい。

2)切削速度は 20m/min程度が工具摩耗の進行が小さく、適当な切削速度であると思われ

る。ただし、今回の実験では、横切れ刃角の大きな工具を用いた場合、50m/min でも

比較的長寿命を示していた。

3)コバールの小径エンドミル加工では、被削材の加工硬化や材料特性の変化を防ぐため、

摩耗した工具の使用は避け、刃先の鋭利な工具を使用する。また、スクェアエンドミ

ルはコーナー部の摩耗が進行しやすいので、可能であればラジアスエンドミルを使用

するのが望ましい。

4)チタン・チタン合金のエンドミル加工では、寸法誤差、平行度などの寸法形状に関し

ては、径方向切込みと工具材種の影響が大きく、切削抵抗による工具の変形量が小さ

くなる条件で加工精度がよくなる。

5)表面粗さについては、今回の実験条件の範囲内では加工条件による差は特に見られな

かった。

6)バリ高さは、ねじれ角が小さく、刃先の鋭利な工具で小さくなる。

7)加工精度の面から総合的にみた場合、工具はねじれ角 30°の超硬エンドミルの使用

が有効である。

8)切削速度 Vは、純チタンの場合は 150m/min 以下、Ti6Al4V合金では 100m/min 以下と

し、切り屑厚さが 0.016mm 以下になるように切削幅と一刃送りを設定する。また、切

削方向はダウンカットとし、湿式切削で加工する。

9)切削幅、一刃送りを設定する際、加工能率を重視する場合は切削幅を大きく、一刃送

りを小さくし、加工精度を重視する場合は、切削幅を小さく、一刃送りを大きくする。

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次世代ものづくりのための高効率な切削加工技術

(モリブデンの切削加工技術)

(地独)青森県産業技術センター八戸地域研究所 中居久明

1.緒 言

急速な発展を遂げるディスプレーや半導体

製造産業において、真空機器の需要が拡大して

いる。真空機器のチャンバーや部品には、多様

な金属材料が使用され、それぞれ優れた機能を

持っており、どれも次世代ものづくりを支える

材料と言える。本研究は地域のサポーティング

インダストリーを担う企業が今後必要となる

次世代のものづくりに必要な難削材料等の加

工や製造に係る加工技術調査を目的とする。

2.調査研究内容

真空機器を構成する材料において、難加工材

に属し、機械加工に際して熟練度を要すると言

われるモリブデンを取り上げ、切削特性の調査

を行った。以下にその詳細を記す。

2-1 モリブデンの加工実験方法

モリブデンの主な特性を表 1に示す。モリブ

デンの加工性を調べるために、旋削、エンドミ

ル加工について炭素鋼(S45C)と比較を行った。

旋削加工における加工条件を表 2に示す。工

具は一般的なひし形 80°ネガタイプを使用し

た。工具材種はサーメット、Ti コーテッド超

硬、(TiAlN,AlCrN)多層コーテッド超硬の中か

ら最適と思われるものを選択し、送りや切込量

を変え最適条件を調べた。試験片はφ30mm×

50mm の丸棒を使用し、つかみ代 20mm、他端か

ら 25mm を軸方向に切削した。切削はヤマザキ

マザック㈱製 CNC旋盤 Quick Turn8を使用した。

エンドミル加工において使用した工具と加

工条件を表 3に示す。最初は現状把握のため直

径 6.0mm、スクエアタイプ、ねじれ角 30°、2

枚刃、コバルトハイスの工具を使用した。次に

加工の効率化を目的に、不等リードエンドミル

による切削を試みた。不等リードエンドミルは

底刃を不等分割、外周刃を不等リードとし、び

びり振動を抑制して高速切削を可能とした工

具である。試験片は厚さ 5mm の板を使用し、

50mm の幅で端面削りを行った。工作機械は浜

井産業㈱製立フライス盤 MAC-55P-3A を使用し

た。

東 京 精 密 ㈱ 製 表 面 粗 さ 測 定 装 置

surfcom1400D で加工面の表面粗さを測定し、

アズワン㈱製デジタルマイクロスコープ

AM413ZT で加工面や工具の観察により加工性

の評価を行った。

表 1 モリブデンの機械的特性

モリブデン S45C

硬さ(HV) 230 180

ヤング率

(kg/mm2)

33.6×103 19.6×103

ポアソン比 0.324

0.31

熱伝導率

( W·m-1·K-1)

155 44

表 2 旋削加工条件

工具形状 ひし形 80°ネガ

工具材種 サーメット

切削速度(m/min) 50、100、150、200、250

送り(mm/rev) 0.03、0.07、0.14

切込量(mm) 0.1、0.2、0.3、0.5

切削液 水溶性エマルション

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13

2-2 モリブデンの加工結果

2-2-1 旋削加工

図 1 に工具材種別にモリブデンを加工した

ときの表面粗さと比較データとして S45C を

サーメットで加工したときの表面粗さを示す。

いずれも切削速度が大きくなると表面粗さは

小さくなり、200m/min あたりからほぼ一定と

なる。切削速度が低速な場合、Ti コーテッド

超 硬 の 表 面 粗 さ が 最 も 小 さ く 、 他 の

(TiAlN,AlCrN)多層コーテッド超硬やサーメ

ットとの差が大きく表れていたが、200m/min

以上は 3 種類とも表面粗さは約 10μmRz でほ

ぼ一定となった。S45C も切削速度が大きくな

るほど表面粗さは小さくなり、150m/min あた

りから約 6μmRz でほぼ一定となる。

理論最大高さ粗さ Rzth は(1)式で表され

る。

Rzth=f2×1000/(8r)・・・(1)

f:送り(mm/rev)

r:刃先ノーズ半径(mm)

送り f=0.14mm/rev、刃先ノーズ半径 r=0.4

の場合、理論最大高さ粗さ Rzth は 6.125μ

0

5

10

15

20

25

30

0 100 200 300

切削速度(m/min)

表面粗さRz(

μm)

サーメット

Tiコート

多層コート

S45C(サーメット)

図 1 工具材種が及ぼす表面粗さへの影響

mRz であり、S45C は理論値どおりであるが、

モリブデンは理論値に達していないので今回

の条件では、モリブデンは S45C より加工性が

悪いことが分かった。図 2 にサーメットによる

(a)モリブデンと(b)S45C の加工表面を示す。

モリブデンの加工表面は光沢が無く、S45C は

光沢のある表面であった。図 3 にモリブデン加

工後の工具の状態を示す。工具先端の刃先に溶

着が観察された。モリブデンが刃先に溶着し、

加工表面を粗くしたものと思われる。次に加工

表面を良くするために送りと切込量による効

果を調べた。工具材種は表面粗さで最小値を示

したサーメットを使用した。図 4 に送りが及ぼ

す影響を示す。送りを 4 分の 1 まで小さくし

たが、逆に表面粗さは大きくなった。図 5 に切

込量が及ぼす影響を示す。切込量を小さくする

と表面粗さは小さくなるが、切込量 0.1mm で

表面粗さ 8.9μmRz が最小であった。現時点で

は従来の仕上げ記号でいう(▽▽▽)の表面粗

さ区分を満たしておらず、課題を残すことにな

った。モリブデンは焼結品なので刃物で加工す

ると粒子がめくれあがって粗くなるのかもし

れない。それゆえ、鋭利な刃先を持つ工具で、

潤滑性の良い切削液を使用すればきれいな加

工面ができるのではないかと思われる。今後は、

表 3 エンドミル加工条件

コバルトハイス

エンドミル

不等リードエン

ドミル

工具材種 コバルトハイス TiAlN コーテッ

ド超硬

工具形状 φ6mm、スクエ

ア、2枚刃

φ6mm、スクエ

ア、4枚刃

ねじれ角 30° 36°/39°

切削速度

(m/min)

1000 4000

送 り

(mm/min)

100 1000

切削液 水溶性エマルシ

ョン

水溶性エマルシ

ョン

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14

今回試していない工具材種や工具形状でデー

タの蓄積を継続したいと考える。

(a)モリブデン

(b)S45C

図 2 モリブデン及び S45Cの加工表面

図 3 モリブデン切削後の旋削チップ

2-3-2 エンドミル加工

図 6 にエンドミル加工における表面粗さを示

す。コバルトハイスエンドミルによるモリブデ

ンと S45C の加工面は切込量に比例して表面

粗さが大きくなっており、ほぼ同等の値を示し

ていた。不等リードエンドミルによるモリブデ

ンの加工については、切込量の指数関数的に表

面粗さが大きくなる傾向を示し、コバルトハイ

スエンドミルによる加工より表面粗さが大き

くなることが分かった。また、不等リードエン

ドミルによる S45C の加工については、切込

0

5

10

15

20

25

30

0 0.05 0.1 0.15

送り(mm/rev)

表面粗さRz(

μm)

Mo

S45C

図 4 送りが及ぼす表面粗さへの影響

0

5

10

15

20

25

30

0 0.2 0.4 0.6

切込量(mm)

表面粗さRz(

μm)

Mo

S45C

図 5 切込量が及ぼす表面粗さへの影響

量 1.2mm までは表面粗さは一定で、モリブデ

ンより小さい値であったが、切込量 1.8mm に

なると加工音が大きくなり、急激に表面粗さが

悪化した。不等リードエンドミルは 4 枚刃で溝

が浅いので、深く切込んだ時に切りくずが排出

できず、切れ刃が切りくずを噛んでしまったた

め加工表面が悪化したものと思われる。図 7

に(a)コバルトハイスエンドミルと(b)不等リー

ドエンドミルによる加工面を示す。コバルトハ

イスエンドミルの加工面はほぼ平坦であった

1.0mm

1.0mm

1.0mm

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15

のに対し、不等リードエンドミルによる加工面

は波上の切削痕が見られた。多尐びびりが発生

しているものと思われる。次に不等リードエン

ドミル加工による表面粗さをどこまで小さく

できるか送りによる影響を調べた。その結果を

図 8 に示す。送りを小さくすると表面粗さは小

さくなるが、4.18μmRz が最小であった。図 9

にコバルトハイスエンドミルと不等リードエ

ンドミルによる加工面を示した。波打つような

切削痕は見られなくなった。以上のことから、

モリブデンの加工において不等リードエンド

ミルの適用が可能であり、高効率の加工が期待

できる。

0

4

8

12

16

0 0.5 1 1.5 2 2.5

切込量(mm)

表面粗さRz(

μm)

Mo-コバルトハイス

S45C-コバルトハイス

Mo-不等リード

S45C-不等リード

図 6 エンドミル加工における表面粗さ

3.結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)モリブデンは S45Cに比べ、加工性が悪く

表面粗さが大きくなる。

(2)モリブデンの旋削加工において、工具に

モリブデンの溶着が見られ、加工面はむし

れた状態になり、表面粗さは 8.9μmRz が

最小であった。

(3)モリブデンのエンドミル加工において、

コバルトハイスエンドミルを使用するこ

とで、S45C とほぼ同等の加工ができるこ

とが分かった。

(4)モリブデンのエンドミル加工において、

不等リードエンドミルを適用した場合、コ

バルトハイスエンドミルより仕上げ面は若

干劣るが、表面粗さ 4.18μmRz まで仕上げ

ることが可能であることが分かった。

(a)コバルトハイスエンドミル

(b)不等リードエンドミル

図 7 エンドミル加工面

0

5

10

15

20

0 400 800 1200

送り(mm/min)

表面粗さRz(

μm)

不等リード(4000rpm)

コバルトハイス(1000rpm)

図 8 送りが及ぼす影響

1.0mm

1.0mm

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図 9 送り 370mm/min の加工表面

1.0mm

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生体材料の微細加工

(地独)岩手県工業技術センター 飯村崇、堀田昌宏、和合健

1.緒 言

近年、医療機器を国内で製造する試みがなされてきている。しかし、既に大量生産の体制を取ってい

る欧米の企業に対し、国内メーカは製品の種類や価格において不利な立場にあることから、海外製品に

はない優れた特徴を持つ製品の開発が求められている。一方、医療機器に使用される材料は、生体適合

性等を考慮した特殊な材料が多く、その多くは難加工材に分類される物である。

そこで、このような生体適合性を重視した難加工材料の表面に、新しい機能を持たせるために微細加

工を施す研究を行った成果を報告する。今回は特に、Co-Cr-Mo 合金に対し研削加工を行った成果を報告

する。

2.Co-Cr-Mo合金の研削加工

Co-Cr-Mo 合金は、耐食性・耐摩耗性に優れた材料であることから、義歯床や人工関節等に使用される

生体材料である。また、成分を少し変えると車のエンジンの耐熱バネ等に使用されるほど耐熱性にも優

れている。しかし、このような材料のメリットはいずれも加工の観点から見るとマイナス要素であり、

加工の難しい材料となっている。そこで、この Co-Cr-Mo 合金を研削加工するための、加工条件につい

て検討を行う。

2.1 粗加工条件の検討

粗加工においては、手離れを良くするため、「長時間加工が可能であるか」と仕上げ加工の加工量を減

らすため、「切り込み量と実加工量の差を小さく抑えることができるか」の 2 点に着目した。

2.1.1 実験方法

GC 砥石・ダイヤモンド砥石・cBN 砥石の 3 種類について、1 回 5μm ずつ切り込み、トータルで 0.5mm

加工した際の研削抵抗と実加工量を測定した。加工条件の詳細を表 2-1に、ドレス条件を表 2-2に示す。

また、比較材として一般的な鋼材である S45C と、生体材料として広く使われている Ti-6Al-4V を同じ

条件で加工した。

表 2-1 粗加工条件 表 2-2 粗加工ドレス条件

加工に使用した研削盤は岡本工作機械製作所製 UPG-63NC で、研削抵抗はキスラー社の動力計

9256A2 を、実加工量の測定にはてこ式ダイヤルゲージと、研削盤の送り機能を使用した。

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図 2-1 Co-Cr-Mo 合金-cBN砥石

図 2-2 Co-Cr-Mo合金-ダイヤモンド砥石

図 2-3 Co-Cr-Mo 合金-GC砥石

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3 4 5 6 7 8

測定回数

研削抵抗(N) xAVE

xMAX

zAVE

zMAX

0

50

100

150

200

250

1 2 3 4 5 6 7 8

測定回数研削抵抗(N) xAVE

xMAX

zAVE

zMAX

0

20

40

60

80

100

120

140

1 2 3 4 5 6 7 8

測定回数(回目)

研削抵抗(N) xAVE

xMAX

zAVE

zMAX

2.1.2 実験結果

図 2-1~5に、材料と砥石の組み合わせを変えて研削

抵抗を測定した結果を示す。図 2-1~3は Co-Cr-Mo 合

金をそれぞれ cBN 砥石・ダイヤモンド砥石・GC 砥石

によって研削した結果である。cBN 砥石による加工で

は、研削抵抗が低いところで安定しており、切り込ん

だ分が安定して加工されていることがわかる。一方、

同じ超砥粒のダイヤモンド砥石を使用した場合、研削

抵抗が大幅に高くなっていくことがわかる。今回加工

した Co-Cr-Mo 合金には 29wt%の Cr が含まれている

が、Cr は高温で C と容易に反応し、クロム炭化物を生

成する性質があり、これによりダイヤモンドが急激に

摩耗した為と考えられる。GC 砥石の場合は z 方向の

研削抵抗が 120N 程度からあまり大きくなっていない

ことから、負荷をもう少し低く抑える様な加工条件の

採用により、安定した抵抗で研削できる可能性がある。

ただし、cBN 砥石の場合と比較すると、研削抵抗は 3

倍程度大きくなる。 図 2-4,5 は同じ条件で、被削材と

砥石を変えた場合の研削抵抗を示している。Ti-6Al-4V

をダイヤモンド砥石で加工した場合及び S45C を cBN

砥石で加工した場合、いずれも z 方向の研削抵抗が

30N 程度で安定した加工ができている。これに比べ、

Co-Cr-Mo 合金では 30~40N の間とやや高めではある

が、ほぼ同程度の加工を実現することができている事

がわかった。

図 2-6はそれぞれの組み合わせについて、砥石摩耗量(=総切り込み量-実研削量)を調査した結果

を示している。Co-Cr-Mo 合金では cBN 砥石を使用した場合の砥石摩耗量が最も小さく、加工精度の面

でも cBN 砥石を用いるのが良いことがわかった。ダイヤモンド砥石や GC 砥石(11C)については、砥石

の摩耗量が 15 ミクロンと大きくなっており、ダイヤモンド砥石を使用するメリットは全くない。一方、

GC 砥石については、研削抵抗が高いながらも安定することがわかっており、精度・摩耗量と砥石の価格

をあわせて検討すると良い。

図 2-4 Ti-6Al-4V-ダイヤモンド砥石 図 2-5 S45C-cBN 砥石

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3 4 5 6 7 8

測定回数

研削抵抗(N)

xAVE

xMAX

zAVE

zMAX

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3 4 5 6 7 8

測定回数

研削抵抗(N)

xAVE

xMAX

zAVE

zMAX

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一方、Ti-6Al-4V の場合は Co-Cr-Mo 合金とは逆で、ダイヤモンド砥石の摩耗が少なく、cBN の摩耗

が非常に大きくなっており、被削材に合わせた砥石の選定が非常に重要であることがわかる。また、タ

ブーとされている鉄系材料(S45C)のダイヤモンド砥石による研削については、摩耗量が非常に小さかっ

た。原因としては、S45C は加工条件を押さえれば、Ti や Co のような極端な発熱をしないためではない

かと考えられる。

図 2-6 砥石摩耗量

2.2 仕上げ加工条件の検討

仕上げ加工においては、形状を崩さないための「研削抵抗の低さ」と加工後のワークの「表面粗さ」

に着目し,調査を行った。

2.2.1 実験方法

粗加工の実験から、超砥粒の使用により研削抵抗を抑えることができることがわかっているので、実

験には cBN 砥石を用いる。また、仕上げ加工は切り込みが小さく、加工点での発熱が抑えられる可能性

もあることから、ダイヤモンド砥石についてもあわせて試験を行った。いずれの砥石も砥石粒度#1000、

ボンドはレジンボンドを使用している。表 2 に加工条件を示す。研削抵抗の低さについては、粗加工の

場合と同様にキスラー社の動力計 9256A2 を用いて評価し、表面粗さについては Zygo 社の NewView100

と Taylor Hobson 社の PGI1240 を使用して評価を行った。

表 2-3 仕上げ加工条件 表 2-4 仕上げ加工ドレス条件

-0.005

0

0.005

0.01

0.015

0.02

0.025

Co-Dia

Co-cBN

Co-11C

Ti6Al4V-

Dia

Ti6Al4V-

cBN

S45C-

Dia

S45C-

cBN

被削材-砥石

切り込み量-実研削量(mm)

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2.2.2 実験結果

図 2-7,9にはそれぞれダイヤモンド砥石と cBN 砥石の場合の研削抵抗の変化の様子を示す。ダイヤモ

ンド砥石の場合は、粗加工の場合と同様、研削抵抗の上がり方が大きく、切り込みを 1μm に落とした

後でも、しばらくすると研削抵抗が増加する傾向にあることから、加工条件を落としても Co-Cr-Mo 合

金にはダイヤモンド砥石は向かないことが確認できた。一方、cBN 砥石の場合、2μm ずつ切り込みを

与えている間は、抵抗が上がり続けるものの、1μm に落とすと抵抗は減少していくことから、切り込み

量1~2μmの間で最適な切り込みを見つけることで、安定した加工が可能であると考えられる。図2-8,10

には加工後の表面粗さ測定結果を示す。Co-Cr-Mo 合金の加工の場合、cBN 砥石が、表面粗さの面から

見てもダイヤモンドより適していることがわかる。

図 2-7 ダイヤモンド砥石による仕上研削抵抗 図 2-8 ダイヤモンド砥石による表面粗さ

図 2-9 cBN砥石による仕上げ研削抵抗 図 2-10 cBN砥石による表面粗さ

2.2.3 追加実験

表 2-5 仕上げ加工条件(その2)

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表 2-3の加工条件では表面粗さが Rz で 0.1μm 以上であり、仕上げ加工面として不十分であることか

ら、Rz0.1μm 以下を目指して、切り込み量 0.5μm での加工を追加した表 2-5の条件で再度実験を行っ

た。図 2-11には研削抵抗を、図 2-12には表面粗さを示す。

研削抵抗は狙い通り低いところで安定し、良好な加工が行われていることがわかる。加工後の表面粗

さも Rz0.086μm と Rz0.1μm 以下を実現することができた。図 2-13は加工した Co-Cr-Mo 合金サンプ

ルの写真である。

図 2-11 仕上げ加工時の研削抵抗 図 2-12仕上げ加工後の表面粗さ

図 2-13 Co-Cr-Mo合金の仕上げ加工サンプル

3 結 言

本研究により、Co-Cr-Mo 合金の研削加工について以下のことがわかった。

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(1)cBN 砥石#230、周速 1600m/min、切り込み 5μm で安定した粗加工が可能である事がわかった。

加工条件としてはまだ余裕があり、さらに厳しい条件でも加工が可能であると考えられる。

(2)cBN 砥石#1000、周速 800m/min、最終切り込み 0.5μm、左右送り 7m/min での加工で、表面粗

さ Rz0.086μm の良好な加工面を得ることが可能である。

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高効率な切削・研削加工技術&超精密研削加工技術

宮城県産業技術総合センター 久田哲弥、渡辺洋一、齋藤佳史

(独)産業技術総合研究所 東北サテライト 森 由喜男

1.諸 言

近年、製品サイクルの短縮と更なる高精度化に伴い、各種材料の高効率かつ高精度な加工技術

が求められている。特に、MEMS デバイス等に使用される単結晶シリコン、金型や構造部材への

適用が進められている超硬合金および各種セラミックス、さらには輸送機部品に適用が進められ

ているチタン合金は早急な高効率な高精度加工技術の確立が求められている。しかし、脆性材料

である単結晶シリコンは切削や研削で加工すると微細な割れやむしれが発生するために高精度な

加工が難しく、また高硬度材料である超硬合金や各種セラミックス及びチタン合金は加工時の工

具磨耗が著しいために高効率な高精度加工が難しいという課題があった。

このような難加工材料に対し、宮城県産業技術総合センターでは切削加工および研削加工によ

る高効率な高精度な加工技術の開発を進めている。本報では、①微細工具を使用した高効率な切

削加工技術と②平面研削における高効率研削加工技術および超微粒ダイヤモンド砥石を使用した

超精密研削加工技術についての研究成果を報告する。

2.高効率な切削加工技術-単結晶シリコンの微細切削加工

単結晶シリコンは半導体製造プロセスで作製される MEMS 回路の材料や、赤外線に対する屈折

率の高さより、光学レンズの材料として利用されている。これらの材料は半導体製造プロセスに

よりマイクロメートルオーダーのサイズで製造されているが、加工能率が悪い、任意形状が加工

できない等の問題がある。一方、切削加工に用いられる工具は、近年小径化が進み、直径 0.1mm

以下の工具が製造されるようになった。これにより、マイクロメートルオーダーの切削加工が実

現可能となったが、単結晶シリコンなどの脆性材料の切削加工技術は確立されていない。本研究

では、微細切削工具を用いて単結晶シリコンの高効率な加工技術を確立する。

単結晶シリコンの切削加工に関する研究では、負のスクイ角を持つダイヤモンドバイトによる

旋削加工において、切込深さを 1μm 以下にすることで延性モード切削が実現されることが報告さ

れている。本研究ではこれらの情報を踏まえ、負のスクイ角を持つ cBN 製ボールエンドミルを用

いて単結晶シリコンの切削加工条件を確立する。実験では切削速度と送り量をパラメータとし、

表面性状の観察と表面粗さを評価項目とした。また、最適化された条件を基に、三次元の立体形

状の試作を実施した。

2.1 切削条件の最適化

2.1.1 実験方法

cBN 製ボールエンドミルによる単結晶シリコンの切削加工実験を行い、切削条件(切削速度及

び送り量)が加工表面に与える影響について調査を行った。実験は直径 0.4mm の cBN ボールエン

ドミルを使用し、工具を軸方向に切り込んだ後、X 軸方向に走査させる方法で実施した。図 2-1 に

工具軌跡を示す。被削材は厚さ 0.5mm のシリコンウエハである。詳細な加工条件については表 2-1

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に示す。加工後の表面は走査型電子顕微鏡(SEM)による表面の観察と、表面粗さ計による表面

粗さの評価を行った。

加工実験には東芝機械(株)製 F-MACH442 を使用し、表面性状の評価には走査型電子顕微鏡、

表面粗さの評価には非接触三次元表面粗さ測定機(AMETEK テーラーホブソン事業部製タリサ

ーフ CCI6000)を使用した。

X

Y

Rd=20[μm]

2.5[mm]

:工具軌跡

シリコンウエハ

Ad=1[μm]

エンドミル

図 2-1 工具軌跡

表 2-1 加工条件

工具 cBN ボールエンドミル

(日進工具製 SFB200 0.2R)

回転数 10,000~60,000 /min.

切込※ Ad(軸方向切込量)1.0 μm

Rd(径方向切込量)20.0 μm

送り量 0.1~10.0 μm/tooth

冷却方法 オイルミスト

2.1.2 実験結果

図 2-2に回転数 10,000 /min.、一刃あたりの送り量(以後「送り量」と表す)1.5μm の加工表面

の SEM 画像を示す。表面に数 μm の空孔や割れが発生している様子が観察された。図 2-3に回転

数 20,000 /min.、送り量 0.75μm の加工表面観察像を示す。工具切れ刃の軌跡に従って微小割れ・

むしれが発生している。図 2-4 に回転数 30,000 /min.、送り量 0.83μm の加工表面観察像を示す。

表面に割れ・欠けが無く良好に加工されている様子が観察された。図 2-5 に表面性状の観察結果

を示す。グラフの横軸は切削速度、縦軸は送り量を示し、良好な加工表面を「■」、微小割れ・む

しれがあるものを「▲」、空孔・割れがあるものを「◆」で表記した。送り量が概ね 1.0μm 以下で

あれば、切削速度によらず割れがない表面が得られることが分かった。

図 2-6 に切削速度と二次元表面粗さ Rz の相関関係を示す。送り量 1μm 以下において切削速度

が 5~6.3m/min.すなわち工具回転数 40,000~50,000 /min.にて表面粗さが極小値となり、0.2μmRz

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以下となることが分かった。

図 2-2 回転数 10,000 /min. 送り 1.5μm の表面

図 2-3 回転数 20,000 /min. 送り 0.75μm の表面

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26

図 2-4 回転数 30,000 /min. 送り 0.83μm の表面

0.10

1.00

10.00

0.1 1.1 2.1 3.1 4.1 5.1 6.1 7.1 8.1 9.1

切削速度[m/min.]

送り量[μm]

割れあり

割れ無し

微小割れ むしれ

図 2-5 表面性状の観察結果

0.0000

0.5000

1.0000

1.5000

2.0000

0 1 2 3 4 5 6 7 8

切削速度[m/min.]

二次元表面粗さRz[

μm

]

送り量0.25μ m

送り量0.5μ m

送り量0.75μ m

送り量1.0μ m

図 2-6 切削速度と表面粗さの関係

2.2 三次元形状作製

前項で得た最適加工条件をもとに、単結晶シリコンへの三次元形状加工を実施した。モデルは

三次元 CAD で設計し、1 辺の長さ 0.1mm、高さ 0.35mm の角柱モデルを作製した。表 2-2に加工

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27

条件を示す。加工されたモデルの観察像を図 2-7 に示す。表面に微小な欠陥が無く、良好な加工

表面を得ることができた。

表 2-2 加工条件

工具 cBN ボールエンドミル

(日進工具製 SFB200 0.1R)

回転数 50,000 /min.

切込 Ad(軸方向切込量)1.0 μm

Rd(径方向切込量)1.0 μm

送り速度 50 m/min.

冷却方法 オイルミスト

図 2-7 角柱モデル

3.高効率な研削加工技術と超精密・鏡面研削加工技術

まず、3.1 項ではこれまでの研究成果から次世代に役立つ高効率な研削加工技術について報告す

る。続く 3.2 項では、当調査研究の超精密・鏡面研削加工技術について報告する。

3.1 次世代に役立つ高効率な研削加工技術

3.1.1 平面研削における高効率研削加工事例

一般砥石の中でも最も多く使用される砥石は A 系砥石であり、主に鋼材の仕上げ加工に用いら

れているが、非鉄金属や鋼材の鏡面加工に GC 砥石が威力を発揮することはあまり知られていな

いので、まず、これらの事例を紹介する。

(1)アルミニウムの研削

アルミニウムの加工は切削加工が主流であるが、寸法精度が要求されるようになった最近

では、研削加工のニーズも高まっている。しかし、研削加工は切削加工に比べ仕上面が劣り、

また、目詰り等により砥石寿命が短くなるため、ドレッシング回数が増大し、研削能率が非

常に悪くなる。従来、この研削に使用していた砥石は A 系砥石であるが、これを GC 砥石に

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換えることにより、ドレッシングなしで、仕上面粗さ 0.8~1mRz を常時維持することがで

きるようになった。使用した GC 砥石は GC120F9V81R である。

(2)ステンレス鋼の研削

ステンレス鋼(SUS304)の研削には、A 系砥石が通常使用されている。しかし、仕上面

が悪く、砥石磨耗も大きいため、粗加工、仕上げ加工と二段階に分けて研削しなければなら

ず効率が悪かった。これを GC 砥石に換えることにより、ドレッシングなしで仕上面粗さ

0.8mRz が維持でき、仕上面向上と能率向上に寄与することができた。使用した砥石は

GC80G9V81R である。また、鏡面研削も可能であり、GC120F9V81R 砥石を使用することに

より、0.4mRz を得ることができた。

図 3-1に A 系砥石(SN80G7V、SN46I7V)および GC 砥石(GC80G9V、GC46I7V)を使

用し、プランジ研削で SUS304 材を研削した場合の単位砥石幅当りの設定研削量 Z と表面粗

さ Rz の関係を示す。なお、Z=0 mm3/mm の場合の Rz は、ツルーイング・ドレッシング直

後の砥石面の粗さである。図より A 系砥石に比べて GC 砥石の場合に表面粗さが小さく抑え

られており、また Z=15mm3/mm の場合においても 2mRz 程度の表面粗さが得られた。

0

1

2

3

4

5

6

7

0 4 8 12 16

研削量Z mm3/mm

表面粗さ

Rz  

m

GC80G9V

GC46I7V

SN80G7V

SN46I7V

図 3-1 研削量と表面粗さの関係(被削材 SUS304)

(3)チタン合金の研削

チタン合金(Ti-6Al-4V)研削の最大のネックは反り発生防止である。従来、A 系砥石を

使用して研削していたが、反り発生が甚大であり、しかも砥石磨耗が大きいため寸法精度も

出し難かった。これを GC 砥石に換えることにより、反り発生をなくし、砥石磨耗を抑える

ことができた。仕上面粗さも 2mRz が通常可能となった。使用した砥石は、GC80G9V81R

と GC120F9V81R である。

(4)マグネットチャックの研削

平面研削における加工物の取付けにマグネットチャックを使用するが、このマグネットチ

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29

ャックの平面度は、加工物の精度にそのまま影響するため、寸法精度の厳しい製品の加工の

前には、細心の注意を払ってマグネットチャックを研削しなければならない。この研削には、

通常 A 系砥石が使用されているが、研削焼けが発生し易く、切込量を小さくしながら時間

をかけて研削しなければならなかった。これを GC 砥石に換えることにより、研削焼けの発

生をなくし、また、良好な平面度と仕上面を得ることができるようになった。使用した GC

砥石は、GC80G9V81R と GC120F9V81R である。

3.1.2 超砥粒砥石によるセラミックスの高効率加工

一般砥粒(A 系砥石、GC 砥石)に対して超砥粒と呼ばれているのが、cBN 砥石とダイヤモン

ド砥石である。cBN は主に鋼材研削に使用され、ダイヤモンド砥石は超硬合金やセラミックス等

の非常に硬い材料の加工に使用される。ここでは宮城県産業技術総合センターで開発した、ダイ

ヤモンド砥石によるセラミックス加工の特徴的なものを紹介する。

(i)ダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシング

ダイッシヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシングには通常 30 分以上の時間を要する

が、宮城県産業技術総合センターが開発した複合研削砥石を使用すれば、10 分以内で高精

度ツルーイング・ドレッシングが可能である。この複合研削砥石は、ダイヤモンド砥石で鋼

材を研削する時に生ずる拡散磨耗を効果的に利用したものである。図 3-2 に複合研削砥石の

鋼材と GC 砥石の配列寸法を示す。この複合研削砥石は粒度#600 までのダイヤモンド砥石

のツルーイングとドレッシングに適用でき、通常の研削同様にマグネットチャックに固定し

た複合研削砥石を削るだけで図 3-3のような凹凸を持った面を短時間に修正できる。砥石面

粗さは、粒度#170 のダイヤモンド砥石で 3m が維持できる。なお、粒度#170~#325 までは、

鋼材の長さが 50mm、粒度#600 には 25mm が望ましい。複合研削砥石によるツルーイング・

ドレッシング条件を表 3-1に示す。

また、当センターでは、粒度#1000 以上の微粒ダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッ

シング法として、SUS304 法および単石ダイヤモンドドレッサ法を開発し、超精密・鏡面研

削加工に適用している。

図3-2 複合研削砥石

100 100

100 100

(25) 50

100

30 100 (25)

50 100

(25)

50 100

GC 砥石

100

鋼材(SKS2)

100

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30

修正前の砥石面 修正後の砥石面

図 3-3 複合研削砥石によるダイヤモンド砥石のツルーイング及びドレッシング面(転写)

表 3-1 複合研削砥石でのツルーイング・ドレッシング条件

砥石周速度 900m/min テーブル左右速度 18m/min テーブル前後送り量 5→7.5→10→7.5→5 mm/回

切込量 4μm

(ii)ダイヤモンド砥石の最適砥石周速度

ダイヤモンド砥石の砥石周速度に最適値がある。図 3-4 は砥石 SDC170N100B を用いて

Si3N4 を切込量 6m でプランジ研削した場合の砥石周速度 V と研削比 G(図中○)および表

面粗さ Rz(図中□)の関係を示す。G についてはピークがあり、V に最適値があることを

示している。即ち、V の小さい範囲では機械的すりへり磨耗、V の大きい範囲では熱的磨耗

の影響が大と考えられる。本実験では、V=1300m/min が最も大きい G を示した。Rz につい

ては V の増大と共に小さくなる。

0

100

200

300

400

500

0 900 1300 2000

砥石周速度V m/min

研削比

G

0

1

2

3

4

5

表面粗さ

Rz  

m

GRz

図 3-4 砥石周速度と研削比の関係(被削材 Si3N4)

(iii)セラミックス研削における表面粗さと強度

セラミックスの強度は表面粗さに左右される。図 3-5は試験片と研削方向を示したもので

あり、図 3-6は研削方向に対し直角に荷重が加わった場合(図中○)と平行方向に荷重が加

わった場合(図中●)、曲げ強度に対し表面粗さ Rz がどのような影響を及ぼすかを示した

ものである。なお、実験に供した被削材は Si3N4 である。図より研削方向に平行に荷重がか

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かった場合はRzが 0.8mより大きくなるとは急激に低下し、2.5mRzでは約 1/2となった。

図 3-5 試験片と研削方向

0

200

400

600

800

1000

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

表面粗さRz m

曲げ強度 

N/m

m2

試験片A

試験片B

図 3-6 研削方向の相違による表面粗さ Rz と曲げ強度の関係

3.2 超精密・鏡面研削加工技術

宮城県産業技術総合センターでは、高硬度材料の鏡面研削加工において、砥石粒度#3000 のダ

イヤモンド砥石を使用して表面粗さ 50nmRz 以下を達成する技術を確立している。しかし、現在

では更なる表面粗さの向上が要求されている。このような表面粗さを高い形状精度と共に達成す

るためには、遊離砥粒による研磨加工ではなく、固定砥粒による研削加工で行う必要がある。こ

のため、表面粗さの向上を目指すには#3000 よりも平均粒径の細かい砥粒の#5000 や#10000 の砥

石を使用して研削加工する必要がある。しかし、これらの超微粒砥石では、#3000 の砥石に比べ

て砥石の成形・目立てを行うツルーイング・ドレッシングが難しく、また砥石の目詰りや目潰れ

が生じやすいなど、安定した高精度加工が非常に困難であるために加工技術の開発が望まれてい

る。

そこで本報では、砥石粒度#5000 や#10000 の超微粒砥石を使用した超精密鏡面研削加工技術の

研削面 切断面(Rz 0.2m)

A

B

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32

開発を行った。特に、被削材が超硬合金の場合において、砥石仕様、ツルーイング・ドレッシン

グ方法および加工時の砥石周速度 V が表面粗さ Rz に及ぼす影響について調査したので報告する。

3.2.1 実験条件

本実験では、SD2000L50BL1で中仕上げ加工された研削面を更に鏡面加工することを目的とし、

砥石粒度が#3000、#5000および#10000の超微粒有気孔レジノイドボンドダイヤモンド砥石を使用

した。また、ボンド材による影響を把握するため、#3000の場合において標準的な高硬度材料研

削加工用ボンド材BL1とBL1よりも軟質なBL6を比較した。なお、結合度Lと集中度50は全て同一と

した。砥石のツルーイング・ドレッシング方法には、SUS304法と単石ダイヤモンドドレッサ法の

二種類を採用し、比較した。研削加工条件は、加工時の砥石周速度Vを650、800、1300、1800m/min

と変化させ、砥石左右送り速度および砥石前後送り速度などの実験条件は同一とした。ただし、

総切込み量は砥石の平均砥粒径を考慮し、各砥石粒度で変えた。詳細な実験条件を表3-2に示す。

実験には、ナガセインテグレックス社製の平面研削盤SGM-52E2(図3-7)を使用した。また、

加工面の表面粗さ評価には、非接触で三次元表面粗さが測定可能なタリサーフCCI6000(AMETEK

テーラーホブソン事業部製)を使用し、表面粗さRzはフィルタ処理後(ガウシアンフィルタ、フ

ィルタサイズ0.25mm)の二次元表面粗さ曲線プロファイルよりJIS B 0651:2001に準じた計算方法

を採用した。Rzは加工面上の10点をランダムに測定し、10点の平均値と最大値および最小値で評

価した。

表3-2 超硬合金の鏡面研削に関する実験条件

前加工面 SD2000L50BL1(東京ダイヤモンド工具製作所製) による研削面

仕上げ用砥石 SD3000L50BL1、SD3000L50BL6 SD5000L50BL1、SD10000L50BL1 (東京ダイヤモンド工具製作所製)

砥石外形 平型砥石(直径 200mm、幅 8mm) 砥石周速度 650、800、1300、1800m/min

ツルーイング・ドレッシング SUS304法、単石ダイヤモンドドレッサ法 テーブル左右速度 18m/min テーブル前後送り量 50mm/min

→ 最終切り込みおよびスパークアウトに 25mm/min 加工プロセス 0.5μm×数回 → 0.2μm×4回 → 0.1μm×4回

→ スパークアウト 3回

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図3-7 実験に使用した平面研削盤

3.2.2 実験結果

(イ)ツルーイング・ドレッシング方法の検討

ツルーイング・ドレッシング方法の評価は、SD3000L50BL1、SD5000L50BL1および

SD10000L50BL1の砥石を使用した場合に、SUS304法(図中SUS)および単石ダイヤモンドド

レッサ法(図中SD)でツルーイング・ドレッシングした後、実際に超硬合金を研削して、そ

の加工面の表面粗さを測定することで行った。加工時の砥石周速度Vは800m/minとした。図3-8

に砥石粒度とツルーイング・ドレッシング方法の各組合せと表面粗さRzの関係を示す。ここ

で、●はRzの平均値であり、Iは最大値と最小値の範囲を示している。この結果より、SUS304

法の方がRzの最大値と最小値のばらつきが小さく、SUS304法の方が超微粒ダイヤモンド砥石

のツルーイング・ドレッシングに適している。また、砥石粒度が表面粗さ向上に大きく起因

し、砥石粒度が#3000よりも#5000、#10000と砥粒径が細かくなるほどRzが小さくなったこと

から、鏡面加工には砥石粒度#10000が適している。図3-9は、SD3000L50BL1を使用した際に

得られた加工面の二次元表面粗さプロファイルの一例であり、(a)はSUS304法の場合、(b)

単石ダイヤモンドドレッサ法の場合である。図より、単石ダイヤモンドドレッサ法ではうね

りのような周期的な凹凸が見られ、表面粗さが大きくなった。これは単石ダイヤモンドドレ

ッサ法では砥石作業面の成形が均一に行われなかったために加工面に微細なうねりが発生し

たことに起因すると考えられる。このため単石ダイヤモンドドレッサ法を使用する場合には、

再度ドレッサの先端形状やドレス条件を見直す必要がある。

さらに、ドレス方法の違いにより加工時における加工音の動向にも違いが見られた。特に

SD10000L50BL1を使用した場合には、SUS304法では加工初期から加工音が大きく、総切込量

が1.5m以上になると非常に大きな音が発生した。一方、単石ダイヤモンドドレッサ法のでは

2m程度切込みを行った後で徐々に加工音が大きくなり始め、総切込量で3m程度まで切り込

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みが可能であった。

0

20

40

60

80

100

120

140

3000-SUS

3000-SD

5000-SUS

5000-SD

10000-SUS

10000-SD

砥石粒度とツルーイング・ドレッシングの組合せ

表面粗さ

Rz 

nm平均値

図3-8 砥石粒度とツルーイング・ドレッシング方法の各組合せと表面粗さRzの関係

(V800m/minの場合)

(a) SUS304法

(b) 単石ダイヤモンドドレッサ法

図3-9 二次元表面粗さプロファイル(SD3000L50BL1、V800m/min)

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(ロ)加工時の砥石周速度の検討

図3-10、図3-11、図3-12にそれぞれSD3000L50BL1、SD5000L50BL1、SD10000L50BL1の場

合における砥石周速度Vと表面粗さRzの関係を示す。ツルーイング・ドレッシング方法は

SUS304法を用いた。ここで、□、◇、△はそれぞれRzの平均値であり、Iは最大値と最小値の

範囲で示している。SD3000L50BL1の場合では、Rzの平均値はVに関係なくほぼ一定であった

が、Vが1300m/minおよび1800m/minでは100nm以上の大きなクスラッチが発生し、Rzの最大値

が大きくなった。SD5000L50BL1およびSD10000L50BL1では、Vが大きい場合でもスクラッチ

は発生しなかったが、Rzの最大値と最小値のばらつきは大きくなった。Rzの平均値は

SD5000L50BL1の場合にはVが800m/minで最も大きくなったが、SD10000L50BL1ではVが大き

くなるほど大きくなった。また、SD3000L50BL1、SD5000L50BL1、SD10000L50BL1において、

Vが650m/minでRzの平均値および最大値と最小値のばらつきが最も小さくなり、特に

SD10000L50BL1では20nmRz以下が得られた。超微粒ダイヤモンド砥石で鏡面加工を行う場合、

今回の実験条件では最もV650m/minが適している。

0

20

40

60

80

100

120

140

650 800 1300 1800

砥石周速度V  m/min

表面粗さ

Rz  

nm

平均値

図3-10 SD3000L50BL1の場合の各砥石周速度Vと表面粗さRzの関係

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0

20

40

60

80

100

120

140

650 800 1300 1800

砥石周速度V m/min

表面粗さ

Rz  

nm

平均値

図3-11 SD5000L50BL1の場合の各砥石周速度Vと表面粗さRzの関係

0

20

40

60

80

100

120

140

650 800 1300 1800

砥石周速度V m/min

表面粗さ

Rz  

nm

平均値

図3-12 SD10000L50BL1の場合の砥石周速度Vと表面粗さRzの関係

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(ハ)ボンド材の検討

図3-13にSD3000L50BL6を使用した場合の砥石周速度Vと表面粗さRzの関係を示す。ツルー

イング・ドレッシング方法はSUS304法を用いた。ここで、*はRzの平均値であり、Iは最大値

と最小値の範囲で示している。図3-10で示したボンド材BL1の場合にはVが1300m/minと

1800m/minの場合にスクラッチが生じていたが、BL6の場合には実験した全てのVでスクラッ

チは発生せず、Vが大きい場合でもBL1と比べてRzの最大値と最小値のばらつきは小さくなっ

た。BL6の場合、Vが1300m/minでRzは最も大きく、V650m/minでRzは最も小さくなった。こ

の結果より鏡面加工を行う場合、ボンド材はBL6の方が適している。

0

20

40

60

80

100

120

140

650 800 1300 1800

砥石周速度V m/min

表面粗さ

Rz  

nm

平均値

図3-13 SD3000L50BL6の場合の砥石周速度Vと表面粗さRzの関係

(ニ)鏡面研削加工の実例

今回行った実験において最も鏡面加工に適した SD10000L50BL1 を使用し、超硬合金の鏡面

研削加工を行った事例を紹介する。加工条件は表 3-3のとおりである。図 3-14、図 3-15およ

び図 3-16は、加工済サンプルの外観写真、加工面の鳥瞰図および二次元表面粗さ曲線プロフ

ァイルである。超鏡面が得られており、表面粗さは 17nmRz であった。

表3-3 超硬合金の鏡面研削加工条件

砥石 SD10000L50BL1 砥石周速度 650m/min

ツルーイング・ドレッシング SUS304法 テーブル左右速度 18m/min テーブル前後送り量 25mm/min

加工プロセス 0.5μm×2回 →0.2μm×4回 →0.1μm×4回

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→スパークアウト 3回

図3-14 加工済みサンプルの外観写真

図 3-15 加工面の鳥瞰図

図 3-16 加工面の二次元表面粗さ曲線プロファイル

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4.結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)単結晶シリコンを切削加工した場合、送り量が 1μm 以下で割れの無い良好が加工表面を得

ることができる。また、切削速度 5.0~6.3m/min.(回転数 40,000~50,000/min.)にて表面粗さ

が最小値となる。

(2)単結晶シリコンに三次元形状モデルの切削加工を行い、割れの無い良好な表面を得ることが

できた。加工条件は以下のとおりである。

・工具 cBN ボールエンドミル(日進工具製 SFB200 0.1R)

・回転数 50,000 /min.

・切込 軸方向切込量 Ad 1.0μm、径方向切込量 Rd 1.0μm

・送り速度 50m/min

・冷却方法 オイルミスト

(3)アルミニウムの研削加工において、砥石 GC120F9V81R を使用することにより、ドレッシン

グなしで仕上面粗さ 0.8~1mRz を常時維持できた。

(4)ステンレス鋼の研削加工において、砥石 GC80G9V81R を使用することにより、ドレッシン

グなしで仕上面粗さ 0.8mRz を維持できた。また、砥石 GC120F9V81R を使用することによ

り、仕上面粗さ 0.4mRz を得ることができた。

(5)チタン合金の研削において、砥石 GC80G9V81R 又は砥石 GC120F9V81R を使用することに

より、反り発生をなくし、砥石磨耗を抑えることができた。仕上面粗さは 2mRz が通常可能

となった。

(6)マグネットチャックの研削において、砥石 GC80G9V81R と砥石 GC120F9V81R を使用する

ことにより、研削焼けの発生をなくし、また、良好な平面度と仕上面を得ることができるよ

うになった。

(7)粒度#600 までのダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシングにおいて、鋼材と GC 砥

石を交互に配置した複合研削砥石を使用すれば、10 分以内で高精度なツルーイング・ドレッ

シングが可能である。なお、粒度#170~#325 までは鋼材の長さが 50mm、粒度#600 には 25mm

が望ましい。

(8)粒度#1000 以上の微粒ダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシング法として、SUS304

法及び単石ダイヤモンドドレッサ法を開発し、超精密・鏡面研削加工に適用している。

(9)ダイヤモンド砥石を使用したセラミックスの研削において、砥石周速度に最適値があった。

砥石 SDC170N100B を用いて Si3N4 を切込量 6m でプランジ研削した場合には、砥石周速度

1300m/min が最も大きい研削比を示した。また、表面粗さについては砥石周速度の増大と共に

小さくなった。

(10)研削加工後のセラミックスの強度は表面粗さに左右される。研削方向に平行に荷重がかか

った場合、表面粗さ Rz が 0.8mより大きくなると曲げ応力は急激に低下し、2.5mRz では

約 1/2 となった。

(11)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石のツルーイング・ドレッシングにおいて、SUS304

法を使用すれば、表面粗さ Rz の最大値と最小値のばらつきの小さい結果が得られる。

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(12)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石では#3000→#5000→#10000 と砥粒径が細かくな

るほど表面粗さ Rz が小さくなった。今回の実験条件では砥石粒度#10000 が鏡面加工に適して

いる。

(13)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石で加工する場合、砥石周速度V650m/minで表面

粗さRzの平均値と最大値および最小値のばらつきが最も小さくなった。今回の実験条件では

V650m/minが鏡面加工に適している。

(14)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石ではボンド材BL1よりBL6の場合に表面粗さRz

の最大値と最小値のばらつきが小さくなった。またBL6の場合、砥石周速度V650m/minでRz

が最も小さくなった。今回の実験条件ではボンド材BL6が鏡面加工に適している。

(15)超微粒レジノイドボンドダイヤモンド砥石SD10000L50BL1で超硬合金の仕上げ研削加工を

行った結果、超鏡面が得られ、表面粗さは17nmRzであった。仕上げ加工条件は以下のとおり

である。

・ツルーイング・ドレッシング: SUS304法

・砥石周速度:650m/min

・テーブル左右速度:18m/min

・テーブル前後送り:25mm/min

・加工プロセス:0.5μm×2回→0.2μm×4回→0.1μm×4回→スパークアウト 3回

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次世代ものづくりのための複合材料(CFRP)の切削加工技術

秋田県産業技術センター 加藤 勝、沓澤 圭一

1.緒 言

複合材料であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、その軽くて強い特性によって省

エネルギーを実現するものとして、航空機のみならず自動車や家電等に更なる応用が期待

されている。しかしながら、CFRPの切削加工(穴あけ、トリミング等)では、工具摩耗が

激しいこと、バリやデラミネーション(層間剥離)等が発生することが課題となっており、

高能率・高品質に加工することが求められている。また、CFRPはその成形方法の相違によ

って特性に違いがあり、加工形態にも相違が見られる材料である。

近年、各工具メーカからCFRP加工用と称される工具が販売されるようになってきた。そ

こで本報では、現状最もニーズが多い穴加工を対象に、数種類の工具(ドリル、エンドミ

ル)を用いて、ドリルによる穴加工及びエンドミルによるヘリカル穴加工実験を行い、工

具摩耗やCFRPの加工状態について調査したので報告する。工具選定や加工条件選定の参考

になれば幸いである。

2.調査研究内容

2-1 の項では、一般的な CFRP の特性について紹介し、2-2 の項ではドリルによる穴加工

技術、2-3 の項では出口側バリを抑制する加工方法、2-4 の項ではエンドミルによるヘリカ

ル穴加工技術について述べる。

2-1 CFRP の特性

CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic:炭素繊維強化プラスチック)は、炭素繊維

に合成樹脂(一般的にはエポキシ樹脂)を含浸した後、硬化させて成形した複合材料

(Composite)である。炭素繊維は 5~10μm の太さの極細繊維であり、優れた力学的特性を

持っているが、PAN 系とピッチ系があり、弾性率、強度だけでなく、熱的特性など物理的

性質でも多くの種類がある。製品

の性能要求を満たすために適した

炭素繊維を選定する必要があり、

希望の特性を得るために PAN 系と

ピッチ系を組み合わせて使うこと

もある。

一般的な CFRP 成形では、材料と

してエポキシ樹脂マトリックスの

プリプレグシート(一般的な厚み

は 0.1mm から 0.3mm 程度)を用い

る。プリプレグシートには、一方

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向のみに炭素繊維を引き揃えた UD 図 1 各種材料の比強度・比弾性率

材と、縦・横に炭素繊維を織り込んだクロス材がある。成形品は UD 材を同じ方向に積層し

て成形した場合と、縦と横に方向を変えて積層して成形した場合では、成形品の性能が大

きく変化する。また、プリプレグシートは、-20℃以下の冷凍保存が必要であり消費期限も

3~6 ヶ月程度と短いため、近年は平織した炭素繊維を真空引きしながらエポキシ樹脂を含

浸させて成形する Vatrm(Vacuum Assist Transfer Resin Mold)成形法が普及しつつある。

図 1に各種材料の比強度・被弾性率を示す。CFRPは軽くて強い材料であることがわかる。

また、表 1 に参考として複合材料(CFRP・GFRP)やその他材料の機械的特性等を示す。比

重はステンレス鋼の 1/4 以下でありながら、引張り強さは約 3 倍と非常に優れていること

がわかる。但し、CFRP は耐衝撃性は低いので注意が必要であるとともに、積層材であるの

で、内部欠陥が生ずる可能性がある。使用に当たっては超音波探傷装置等で検査を必要と

する場合もある。

表 1 複合材料や他材料の主な機械的特性

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2-2 CFRP のドリル加工技術

2-2-1 実験内容

市販の CFRP 材(穴織カーボン製:厚さ 5mm、平織クロスタイプ、両面つや無し)を対

象に、ダイヤモンド一体焼結ドリル 1 種類、ダイヤモンドコーティングドリル 4 種類、特

殊コーティングドリル 1 種類、超硬ソリッドドリル 3 種類の計 5 社 9 種類のドリルを用い

て、マシニングセンタ(日立精機製 VKC45Ⅱ)で G81 のノンステップ送りによる穴あけ

ドリル加工実験を行った。CFRP 材はバイスに挟んで固定し、各ドリルとも時間の関係上

30 穴まで加工した。各ドリル形状や切削加工条件を表 2 に示す。それぞれ特徴のあるドリ

ル形状であるのがわかる。

表 2 CFRP 材のドリル加工条件

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2-2-2 実験結果

2-2-2-1 CFRP 材の加工状態について

図 2 CFRP 材のドリル加工後の入口側・出口側の加工状態

図 2 に CFRP 材の 15 穴及び 30 穴加工後の入口側・出口側の加工状態を示す。9 種類の

ドリルとも 30 穴までの加工は可能であったが、①の一体焼結ダイヤを除く 8 種類のドリ

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ルに、出口側のバリの発生やむしれが見受けられた。特に⑥のダイヤコーティング、⑧・

⑨の超硬ソリッドは出口側のバリやむしれの発生が著しく、⑥は入口側にも一部デラミネ

ーションが観察された。表 1 のドリル形状を見てわかるように、⑥と⑨はドリル片部が複

数の角度から形成され、ねじれの無い直刃形状になっている。スラスト(工具軸)方向の

荷重を軽減し出口側のデラミネーションを抑制する構造にはなっているものの、炭素繊維

を綺麗に切断するまでには至っておらず、実験で用いた CFRP 材には不適であった。⑧は工

具摩耗の進展によるバリ等の発生と考えられる。

⑦は鎌形形状(一般的にローソクドリルと呼ばれる)のドリルであり加工状態は比較的

良好であった。鋭利な外周刃が炭素繊維を綺麗に切断している様子がわかるが、30 穴目の

出口側では若干むしれが観察された。⑤の特殊コーティング品も穴加工数の増加に伴いバ

リやむしれの発生が増加する傾向が見られた。これらも工具摩耗の進展によるものと考え

られる。

一方、②・③・⑤のダイヤコーティング品は、平均的に僅かな出口側のバリが観察され

た。これは穴加工数の増大によってバリが増加しているわけではなく、散発的に始めから

バリが出ている工具は出るという感じであった。以前にも通常のダイヤコーティングドリ

ルで CFRP 材のドリル加工を行ったことがあるが、それらのドリルはダイヤコーティングの

膜厚が 10~20μm 程度であり、鋭利な切れ刃はどうしても丸みを帯びてしまっていたた

めに、出口側のバリを発生させていた。近年、ダイヤコーティングの超微粒・薄膜化が図

られ、各社が CFRP 用と称して販売を始めたのでドリル加工実験を行ってみたが、以前より

はバリの程度は軽減しているものの、全くバリの無い加工というまでには至らなかった。

また、出口側バリを抑制するために、1回転当たりの送りを 0.01mm/刃にして加工実験を

行ってみたが、やはり出口側のバリはどのダイヤコーティングドリルでも発生したので、

加工条件で変更だけではバリの発生は完璧に抑制できないものと考えられる。

①の一体焼結ダイヤは出口側のバリも殆ど無く、総じて最も良好に加工が可能であった。

2-2-2-2 工具摩耗状態について

図 3 に 30 穴加工後の各ドリルの工具摩耗を示す。参考までにドリル形状及び新品状態も

示している。①の一体焼結ダイヤ及び②~④・⑥のダイヤコーティングは、30 穴程度では

殆ど摩耗は観察されなかった。従って、上述した CFRP 材のバリの発生は工具摩耗によるも

のではなく、ドリル形状及びダイヤコーティングによる刃先の丸みが起因するものと推定

される。今回は時間の関係上、これらの工具寿命まで穴加工を行うことが出来なかったが、

今後検討していきたいと考えている。

⑤の特殊コーティング品は刃先部の摩耗が観察された。以前、DLC コーティング品でも

加工実験を行ったことがあるが、ほぼ同様の摩耗形体であったことから、これらのコーテ

ィング品は数十穴で工具寿命になることがわかった。

⑦~⑨の超硬ソリッド品は、総じて中心部及び刃先部に摩耗が観察され、特に⑦は外周

刃先部の片側先端が欠けていた。⑦は鎌形形状なので CFRP の加工状態は比較的良好であっ

たが、工具摩耗は著しいことがわかった。従って超硬ソリッド品は、数穴から数十穴程度

の CFRP 材の穴加工は可能であるが、それ以上の穴を加工する場合は一体焼結ダイヤまたは

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ダイヤコーティングが適している。

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図 3 30 穴加工後の工具摩耗状態

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2-2-2-3 加工穴径について

図 4 に穴加工数による目標穴径との誤差を示す。⑥のダイヤコーティングドリルは著し

くバリやデラミネーションがあったため、誤差が 0.13~0.14mm 程度大きくなっているが、

その他のドリルは誤差が 0~0.05mm 以内である。①及び②から④の一体焼結ダイヤ及びダ

イヤコーティングは、穴加工数の増加による穴径の変化は殆ど無いが、⑤及び⑦から⑨の

特殊コーティング及び超硬ソリッドは、穴加工数の増加に従い、穴径が小さくなる傾向が

見受けられる。特に⑨のドリルはその傾向が著しい。これは工具摩耗により穴径が小さく

なっているものと推定される。従って、穴加工精度の観点からも一体焼結ダイヤまたはダ

イヤコーティングの使用が推奨される。

また、加工コストついては、今回は一体焼結ダイヤ及びダイヤコーティングのドリルの

寿命判定を行っていないので、明確な算定は出来ないが、超硬が 5~6000 円程度、ダイヤ

コーティング系は超硬の約 5~6 倍、一体焼結ダイヤは超硬の約 9~10 倍であるので、総加

工穴数と工具コストを見極めた上で選定していただきたいと思う。

図 4 穴加工数と穴径誤差の変化

2-3 CFRP 材のバリを抑制する加工法

2-2 項で示したように、CFRP 材をドリル加工する際は、バリやデラミネーション等を完

璧に抑制することは難しく、加工条件を下げて対応しても、出口側バリ等が発生する可能

性が高い。しかしながら、これらの問題を解決する一手段として、出口側にバックアップ

(B/U)材を添えて共削りする方法を紹介する。

当センターで成形した CFRP 材(厚さ 3mm、平織クロスタイプ、表面つや有り、裏面つや

無し)の下側に、アルミ板(A5052、厚さ 3mm)を添えてバイスに固定し、一体焼結ダイヤ

1 種類、ダイヤコーティング 2 種類、超硬ソリッド 1 種類の計 4 種類の工具を用いてドリ

ル加工実験を行った。図 5 に CFRP 材の加工状態を示す。2-2 項で記載した①と⑦の工具は

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

10 20 30

加工穴数(ヶ)

誤差(mm)

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B/U 材の有無にかかわらず、比較的良好な穴加工状態であったものの、O 社ダイヤコーティ

ングと⑥は、B/U 材の効果により出口側バリが非常に抑制されているのがわかる。従って、

B/U 材は高品質な加工を行う上で大変有効であると言える。

なお、この実験では O 社ダイヤコーティング及び⑥、⑦の工具は、入口側にデラミネー

ションが観察されたが、①の一体焼結ダイヤはデラミネーションは無く良好な穴加工状態

であった。従って、この実験でも一体焼結ダイヤの有効性が示された。

図 5 B/U 材の有無による CFRP 材の穴加工状態

2-4 CFRP のエンドミルによるヘリカル穴加工技術

2-4-1 実験内容

近年、エンドミルを用いて螺旋状に工具を-Z 方

向に進行させ穴加工を行うヘリカル加工機能が付

いたマシニングセンタが普及してきた。そこで、

市販の CFRP 材(穴織カーボン製:厚さ 3mm、平

織クロスタイプ、両面つや有り)を対象に、CFRP

加工用とは称していない一般的なダイヤコーティ

ングエンドミル 4 種類、DLC コーティングエンド

ミル 1 種類、一体焼結ダイヤエンドミル 2 種類、

PCD エンドミル 1 種類の計 6 社 8 種類のエンドミ

ルを用いて、マシニングセンタ(日立精機製

VKC45Ⅱ)でヘリカル穴あけ加工実験を行った。

表 3 ヘリカル加工条件

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工具径はすべて 3mm で仕上がり穴径は 4mm とした。CFRP 材はバイスに挟んで固定し、

各エンドミルとも時間の関係上 40 穴まで加工した。切削加工条件を表 3 に示す。B/U 材は

無しである。

2-4-2 実験結果

2-4-2-1 CFRP 材の加工状態について

図 6 CFRP 材のヘリカル加工後の入口側・出口側の加工状態

図 6 に CFRP 材の 20 穴及び 40 穴加工後の入口側・出口側の加工状態を示す。8 種類の

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エンドミルとも 40 穴までの加工は可能であった。2-2 項のドリル加工と比較して、全体的

にバリが発生する頻度は小さく綺麗な穴加工状態であったが、①及び③のダイヤコーティ

ング及び⑧の PCD は、40 穴の出口側に大きめのバリが観察された。バリが発生している箇

所はほぼ同じであり、ちょうどエンドミルが CFRP から抜け始める箇所に相当していた。従

って、エンドミルが抜け始めの箇所にバリが発生しやすいことがわかった。⑧の PCD エン

ドミルのバリが比較的大きいが、これはエンドミルがねじれの無い直刃形状であったこと

が原因であると推定される。従って、炭素繊維を綺麗に切断するためには、やはりエンド

ミルもすくい角が正のねじれが必要であると考えられる。

⑤の DLC コーティングは、他に比べて比較的バリや僅かなデラミネーションが突発的に

発生することが多かったが、これは以前実験したドリル加工と同様に工具摩耗の進行が原

因と推定される。

また、①と②、⑥と⑦のように、同じメーカ同士でスクエアエンドミルとラジアスエン

ドミルの相違による影響を比較した。形状的にはラジアスエンドミルの方が、スラスト(工

具軸)方向の荷重を低減できるので優位ではないかと思ったが、明確な差は認められなか

ったことから、どちらが優位とは言い難い。

更に、ダイヤコーティングと一体焼結ダイヤの相違も明確には認められなかった。今回

使用したダイヤコーティングは、CFRP 加工用ではなく一般用であるが、ドリル加工で見ら

れたようなダイヤコーティングによる切れ刃の丸みの影響は、ヘリカル加工では小さいと

思われる。全体的にドリル加工と比較して加工時間はかかるものの、穴加工状態は良好で

あったことから、エンドミルによるヘリカル穴加工も一手段として有効であると言える。

また、本実験では試していないが、2-3 項のように B/U 材を添えることにより、出口側バ

リを抑制できるものと推測される。

2-4-2-2 工具摩耗状態について

図 7 に 40 穴加工後の各エンドミルの底刃と側刃(片側)の工具摩耗を示す。参考とし

て底刃は新品状態も示してある。

①から④のダイヤコーティングについては、底刃及び側刃の刃先に若干の摩耗は見受け

られたものの、まだ継続使用が可能な状態であった。しかし、2-2 項で記載したドリル加

工時の摩耗量よりは多かったことから、ヘリカル加工は CFRP 材と擦れ合う時間が長い分、

工具の消耗も早いと考えられる。また、側刃より底刃の方が摩耗量は多かったことから、

底刃で切削している方が多いと思われる。

⑤の DLC コーティングは、底刃及び側刃の刃先にコーティング剥離のような著しい摩耗

が観察された。従って、上述した CFRP 材のバリの突発的な発生は工具摩耗によるものと判

断でき、ヘリカル加工においても、DLC コーティング品は数十穴で工具寿命に至ることが

わかり、ドリル加工と同様に、DLC コーティング品は CFRP 材の加工には不向きであること

がわかった。

⑥、⑦の一体焼結ダイヤはドリル加工と同様に工具摩耗は殆ど観察されず良好であった。

また、⑧の PCD も底刃に若干の摩耗が見受けられたが、ダイヤコーティングよりは摩耗が

小さかった。⑧は直刃形状であったためにバリの発生が多かったが、工具摩耗的には一体

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焼結ダイヤ、PCD、ダイヤコーティングが優れており、これらが工具選定の対象になるであ

ろう。また、B/U 材と共削りする場合は、アルミや銅などの非鉄金属との使用を推奨する。

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図 7 エンドミルの底刃と側刃(片側)の工具摩耗

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2-2-4-3 加工穴径について

図 8 に穴加工数による目標穴径との誤差を示す。穴精度はマシニングセンタの精度も影

響するので参考程度にしかならないが、-0.03~0.04mm 以内の精度で収まっており、比較

的良好であった。⑤の DLC コーティング品以外は、いずれの工具も穴加工数の増加による

穴径の変化は明確には見受けられず、まだ工具は使用可能であると判断できる。⑤も穴径

の減少幅は 0.015mm 程度に収まっていた。

また、加工コストついては、今回も一体焼結ダイヤ、PCD 及びダイヤコーティングのエ

ンドミルの寿命判定を行っていないので、明確な算定は出来ないが、ダイヤコーティング

エンドミルが 15000~20000 円程度、PCD は 25000 円程度、一体焼結ダイヤは 50000~55000

円程度であるので、総加工穴数と工具コストを見極めた上で選定していただきたいと思う。

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

10 20 30 40

加工穴数(ヶ)

誤差(ッm)

図 8 穴加工数と穴径誤差の変化

3.結 言

本研究により以下のことが明らかになった。

(1)CFRP 材の穴加工では、工具寿命の観点から、ダイヤモンド工具またはダイヤモンド

コーティング工具の使用を推奨する。超硬工具でも穴加工は可能であるが、数十穴で

寿命に至る。

(2)ダイヤモンドコーティング工具は、コーティング膜厚が加工品質に影響する可能性

が高い。従って、出来る限りシャープな切れ刃を有する超微粒・薄膜のコーティング

が良い。

(3)切削加工条件として、ダイヤモンド工具及びダイヤモンドコーティング工具を使用

する場合、切削速度は 100m/min 程度、超硬工具を使用する場合は 50m/min 以下、1 回

転当たり送りはいずれの工具も 0.05mm/rev 以下が良い。

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(4)粉状の切り屑が発生するので、できれば吸塵装置(掃除機でも可)を使用し、切り

屑は加工機に付着しないよう注意が必要である。

(5)ドリルによる穴加工実験では、D 社製の一体焼結ダイヤモンド工具が、バリやデラミ

ネーションの無い安定した加工性を示した。

(6)出口側のバリやデラミネーションを抑制する手段として、出口側にバックアップ材

を添えて共削りする方法が有効である。ダイヤ系工具を使用する際は、バックアップ

材は非鉄金属(アルミや銅等)を推奨する。

(7)エンドミル工具を用いたヘリカル穴加工は、ドリル加工と比べると穴加工状態は比較

的良好であるが、工具の抜け際でバリ等が発生しやすい。また、工具摩耗も進行しや

すい傾向にある。

(8)ドリル加工では、穴精度は 0~0.05mm 以内で収まるが、超硬ドリルは摩耗の進行によ

り加工穴径は小さくなる傾向を示した。

(9)コスト面から、加工数が数穴から数十穴の場合は超硬工具、数十穴から数百穴の場合

はダイヤモンドコーティング工具、数百穴以上の場合はダイヤモンド工具を選定する

のが良いと思われる。

(10)一概に CFRP 材と言っても多種多様である。工具メーカが CFRP 加工用と推奨する工

具でも、すべての CFRP 材に適するとは限らない。従って、加工穴数やテスト加工等を

踏まえて工具選定することが望ましい。

参考文献

(1) 「炭素繊維の最先端技術」 シーエムシー出版

(2) 「航空機材料」 (社)日本航空技術協会

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次世代ものづくりのための脆性材高品位研削加工技術

山形県工業技術センター 江端 潔,松田 丈

半導体等の次世代ものづくり分野で使用される石英ガラスと結晶性ガラスには,鏡面かつクラックレスを求められる

ことが多く,研削によるき裂を研磨等で除去している.このとき,き裂深さを表面粗さで代用することがあるが,表面粗

さとき裂深さの関係は明らかにされていないため,これを調査した.(1.に記載.)

研削切断時に生じるチッピングも同様に,外周研磨等によって除去される.チッピングを除去しきるためには,その

大きさを管理することが重要である.そこで,諸要素がチッピングに及ぼす影響を調べた.(2.に記載.)

また,結晶性ガラスの光学分野への応用を想定し,高精度曲面研削を試行した.(3.に記載.)

その結果を以下に報告する.次世代ものづくりの一助となれば幸いである.

1.表面粗さとき裂深さの関係

1.1 緒 言

石英ガラスは光学や検査分析,半導体等の分野に不可欠

な材料である.また結晶性ガラスは,熱膨張率が低い均質な

新材料として高い評価を得ている.いずれの材料(以下,石

英ガラス等と記述.)も,鏡面かつクラックレスを求められること

が多いが,脆性材であるため,研削加工のみで要求品質を

実現することは難しく,ラッピングやポリシング等の後工程に

依存している.研削で発生したき裂(クラック)の深さを把握し

て後工程に反映することが,加工時間や研磨剤の削減,製品

の信頼性といった面から求められるが,その深さを測定するこ

とは難しく,また測定方法も普及していない.そのため,加工

面品位は表面粗さのみで評価されることが多い.それにもか

かわらず,表面粗さとき裂の関係は明らかにされていない.そ

こで,石英ガラス等の研削における表面粗さとき裂深さの関

係を調べた.

1.2 実験方法

1.2.1 研削加工

被削材である石英ガラスと結晶性ガラスの試験片は 1 辺が

25mm の正方形で,鋼板に貼り付けられている.この試験片を,

テーブル往復型横軸平面研削盤(ナガセインテグレックス製

SGU-52HP2)のテーブル上に配置し,研削した(図 1.1).研

削抵抗を測定するときは,研削抵抗計(キスラー製 9257B)を

追加した(図 1.2).

研削前には,軟鋼法(図 1.3)またはカップツルア法(図

1.4)で,ダイヤモンド砥石をツルーイング・ドレッシングした.

1.2.2 研削面のき裂深さの評価

石英ガラス等の研削面のき裂深さは,酸化セリウム溶液に

よる試料の傾斜研磨とエッチング,形状測定を組み合わせて

評価した.まず,研削した試験片を研磨治具に接着し,さらに

研削面の半分に厚さ 0.1mmのガラス板(カバーガラス)を接着

する(図 1.5(a)).使用した試料研磨機(ビューラー製ミニメット)

は試験片に点荷重を与える方式のため,倒立した研削面は

着脱式検鏡片

石英ガラス

研削抵抗計検出器

図 1.2 研削抵抗の測定

カップ砥石 OD90×ID50

テーブル送り

図 1.4 カップツルア法

(a) 接着 (b) ポリシング

図 1.5 傾斜研磨法(点荷重)

試験片 研削面

カバーガラス

研磨治具

研削痕方向 アーム

クロス

荷重

研磨運動 酸化セリ ウム溶液

図 1.1 平面研削加工

テーブル送り

クロス送り

ダイヤモンド砥石

石英ガラス

鋼板

図 1.3 軟鋼法

SUS304

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酸化セリウム溶液によって斜めにポリシングされていく(図

1.5(b)). ポリシングは,定期的に光学顕微鏡で研削面を確認

しながら,研削痕が見えない領域ができるまで続ける.その後,

バッファードフッ酸溶液で 2~5分間エッチングすると,見えな

くなっていたき裂先端が顕在化する(図1.6).その位置をレー

ザプローブ式形状測定機(三鷹光器製 NH3-SP)上で光学像

を見ながら特定し,き裂先端とポリシングされていない研削面

の高低差を測定して,き裂深さとした(図 1.7).

この方法では,石英ガラス等より軟質な酸化セリウムのみを

用いるため,研磨の際にき裂が進展する恐れが尐ない.しか

し,研磨レートが低いため,評価に長時間を要してしまうという

欠点がある.そこで,酸化セリウム溶液の前にダイヤモンド研

磨液を使用することによって,研磨時間を短縮した.使用した

試料研磨機(マルトー製ダイヤラップ Ace)では,研磨定盤に

対して一定の傾斜を保ちながら,1 辺 12mm の正方形の試験

片を研磨することができる(図 1.8).図 1.9 に傾斜研磨された

石英ガラスの SEM 写真を,図 1.10 にレーザプローブ式形状

測定機で測定した断面形状に示す.図 1.7 と図 1.10 は砥石

SD3000B を用いて同時加工した試験片の評価結果であり,き

裂深さの測定値が同じであることから,適切な研磨条件下で

は,酸化セリウム研磨液の前にダイヤモンド研磨液を用いても,

き裂が進展しないことが確認できた.この方法は,セラミックス

研削における焼結粒脱落の評価等にも応用できる(図

1.11).

なお,深いき裂の観察には,試験片を研削面に垂直に切断

し,樹脂で包埋してその切断面を研磨する方法のほうが高効

率である.図 1.12は試料研磨機(ビューラー製エコメット 250/

オートメット 250)による石英ガラスの研磨例である.別途傾斜

研磨法で調べたき裂深さと同じ深さのき裂が確認できる.

1.2.3 表面粗さの評価

表面粗さは,走査型白色光干渉式顕微鏡(Zygo 製 New

View 7300)を用いて測定した.測定視野は 0.70×0.52mm

(640×480 ピクセル)である.測定例を図 1.13に示す.

粗さパラメータには,算術平均粗さ Ra と最大高さ粗さ Rzを

採用した.Ra は,測定表面の算術平均高さである.一方,Rz

(Zygoでは SRzXと表記する.)は,測定表面をもとに,研削痕

と直交する方向に長さ 0.70mmの測定断面曲線を 480本生成

し,それぞれの最大断面高さを求め,さらにそのうちの大きい

ほうの半分だけを残して平均した値で,測定表面の最大高さ

Rt(Zygo では PV と表記する.)に比べてノイズ等の影響を受

けにくい.本報中の”き裂深さ”は,平均面からき裂先端まで

の距離であるため,比較対象としては Rzより最大谷深さRvの

ほうが適切であるが,解析ソフトの機能の制約上,Rz で代用

することとした.

1.2.4 砥石作業面の観察

砥石作業面を直接観察するのは困難であるため,実験中

は,2液硬化エポキシ樹脂に砥石作業面性状を2段転写した

レプリカを作製した 1).実験後は供試砥石から検鏡片を取り外

し,砥石作業面をSEM(FEI製Quanta400)で直接観察した.

図 1.8 傾斜研磨法(全体荷重)

定盤

中軸 荷重(重り) ガイド

試験片 傾斜貼付板

図 1.7 研磨試験片の断面形状とき裂深さ(点荷重)

マスクでエッチングされな

かった研削面(基準面) エッチングされた研削面,研磨面

き裂深さ 3.5μm μm

mm

図 1.6 研磨試験片のき裂(点荷重)

研磨面 研削面

100μm

100μm

図 1.9 石英ガラス

研磨試験片(全体荷重)

図 1.10 研磨試験片の断面形状とき裂深さ(全体荷重)

mm μm

き裂深さ 3.5μm

-2

-1

0

1 μm

(a) 測定表面 (b) 測定断面曲線

図 1.13 走査型白色光干渉式顕微鏡の測定例

200μm

図 1.11 アルミナセラミックス

研磨試験片(全体荷重)

50μm

図 1.12 樹脂包埋研磨

(SD200B研削試験片)

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1.3 結果及び考察

1.3.1 実験 1 砥粒摩耗と表面粗さ,き裂深さ(石英ガラス)

まず,加工面粗さと砥石寿命のバランスが良く,仕上げ加

工に適した#1200 レジンボンドダイヤモンド砥石について,き

裂深さを調べた.一般にダイヤモンド砥石でガラスを研削する

と,砥石摩耗の初期に,砥粒切れ刃高さの整列の進行に伴っ

て表面粗さが向上することが知られている.しかし,そのときの

き裂深さの挙動は知られていない.そこで,研削抵抗計に配

置した合成石英ガラス試験片 5個を研削し,除去体積の増加

にあわせて試験片を1個ずつ取り外して,表面粗さとき裂深さ

の変化を調べた.各種条件を表 1.1(右上)に示す.

図 1.14 に観察した砥石作業面の変化を示す.十分に突き

出していた砥粒が,研削とともに摩滅しながら埋没し,突出し

量が微小となって結合材と被削材が接触したことが推測でき

る.そのため,除去体積と研削抵抗法線成分の関係を示した

図 1.15 では,研削抵抗が上昇している.同図に,除去体積と

表面粗さの関係を併せて示す.Ra,Rz ともに低減しているが,

これは砥粒の摩滅と埋没によって,同時作用砥粒数が増えた

ためと考えられる.

図 1.16に Rz とき裂深さの変化を示す.研削抵抗が増加す

る(図 1.15)にもかかわらず,き裂深さは Rzとともに小さくなり,

Rzに近づいていくことがわかる.図 1.17に Rz とき裂深さの関

係を示す.Rz に対するき裂深さの比は一定ではなく,減尐し

ていくことがわかる.

今後は図 1.17を用いることで,本実験と同じ加工を行うとき

に,表面粗さからき裂深さを推測することができる.同様に,

砥石や各種条件等が同じで,表面粗さが異なる原因が砥石

摩耗状態のみであるときは,あらかじめ調べたデータをもとに,

表面粗さからき裂深さを推測可能といえる.

本実験では,き裂がポリシングによって完全に除去されて

いる合成石英ガラスを研削した.この場合,初回切込みにお

いて脆性研削に遷移するとき,深いき裂が発生する(図 1.16

内 3次元画像)2).砥石作業面の砥粒切れ刃高さが整列した

状態(図 1.15②)であっても,新しい試験片を研削すると,深

いき裂は同様に発生する(図 1.16丸枠内).

表 1.1 実験1 ツルーイング・ドレッシング,研削条件

ドレッシング後(レプリカ) 研削中 図 1.15①(レプリカ)

研削中 図 1.15 ②(レプリカ) 研削後(検鏡片)

ツルーイング工具回転方向

砥石回転方向

50μm

50μm 50μm

50μm

砥石回転方向

砥粒

砥粒

砥粒 砥粒

図 13 砥石作業面状態の変化(SEM) 図 1.14 砥石作業面状態の変化(SEM)

図2 表面粗さとき裂深さの変化

2.6

9.5

10.0

4.6

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

0 100 200 300 400 500

累積研削除去量 mm

表面

粗さ

 R

z,き

裂深

さ 

μm

図 1.16 表面粗さとき裂深さの変化

3

き裂深さ

Rz(図 1.15に同じ)

図1 研削抵抗と表面粗さの変化

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 100 200 300 400 500

累積研削除去量 mm

表面

粗さ

 R

z R

a μ

m

0

3

6

9

12

15

研削

抵抗

法線

成分

 N

図 1.15 除去体積と研削抵抗,表面粗さの関係

3

研削抵抗法線成分

Rz

Ra

① ②

図3 表面粗さとき裂深さの関係

0

2

4

6

8

10

12

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0表面粗さ Rz μ m

き裂

深さ

 μ

m

図 1.17 表面粗さとき裂深さの関係

Rz=き裂深さ の直線

1 μm

-4

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1.3.2 実験 2 残留き裂を考慮した研削加工(石英ガラス)

実験 1では,ポリシングされた合成石英ガラスを#1200砥石

のみで研削したが,一般には荒加工から仕上げ加工までを

複数の砥石で順次加工することが多い.そこで,#400,#1000,

#2000 の砥石で順次研削を行い,き裂深さの変化を調べた.

砥石はいずれもレジンボンドダイヤモンド砥石である.

残留き裂を浅くするには,#400 砥石による加工面のき裂を

#1000 砥石で,同砥石による加工面のき裂を#2000 砥石で除

去しきることが望ましい.そこで,前加工面のき裂深さを調べ,

#1000 砥石と#2000 砥石の総切込み深さを設定した.本研究

では,1試料につき1つの傾斜研磨面からき裂深さを評価して

いる.そのため,同一試料内により深いき裂が存在する可能

性がある.そこで各砥石の総切込み深さは,測定されたき裂

深さの 2倍とした.各種条件を表 1.2に示す.

図 1.18に,本実験の加工プロセスとき裂深さの変化を示す.

#400砥石加工後(①)のき裂深さより,#1000砥石での累積切

込み深さのほうが小さい加工②では,加工後もそのき裂が残

留している.このとき,き裂の進展は認められない.一方,累

積切込み深さが①のき裂の2倍以上である加工④では,加工

後に①のき裂は除去されている.同様に,#2000 砥石での累

積切込み深さが,#1000砥石加工後(④)のき裂深さの 2倍以

上である加工⑦では,加工後に④のき裂は除去されている.

図 1.19 は Ra と Rzの変化を表したものである.①における

値を基準としたとき,Rzは Raほど変化しない.これは Raが良

くなっても,図 1.13 のように比較的深い研削痕は発生し続け

ていることを示す.傾斜研磨によって見出される深いき裂は,

このような条痕部に存在する.

図 1.20 には Rz とき裂深さ,研削除去量の変化を示す.き

裂は加工が進むとともに小さくなり,図中の破線と同等の 1.2

μm に達している.この破線は,加工⑦の後に新たな試験片

を#2000 砥石のみで研削したときのき裂深さで,#400 砥石と

#1000砥石の影響を受けていない.

同図では,加工①と③の Rzがほぼ同じであるにもかかわら

ず,①のき裂深さは③の 4倍となっている.このことから,砥石

や各種条件等が異なるときは,表面粗さが同じであっても,き

裂深さが同じとは限らないことがわかる.

1.3.3 実験 3 砥石の種類とき裂深さの関係(石英ガラス)

その他のダイヤモンド砥石についても,石英ガラスの研削

における表面粗さとき裂深さの関係を調べた.その結果を図

1.21 に,各種条件等を表 1.3 に示す.表面粗さとき裂深さに

表 1.2 実験 2 ツルーイング・ドレッシング,研削条件

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

表面粗さ Rz μ m

き裂

深さ

 μ

m

図 1.21 表面粗さとき裂深さの関係

SD200B

SD800B

SD800M

SD400B

SD2000B SD3000B

SD1000B

図2 表面粗さの変化

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

最大

高さ

粗さ

Rz

μm

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

算術

平均

粗さ

Ra

μm

Ra

Rz

図3 表面粗さとき裂深さの変化

0.0

2.5

5.0

7.5

10.0

12.5

15.0

Rz,

き裂

深さ

μ

m

0

50

100

150

200

累積

研削

除去

量 

mm

図 1.20 表面粗さとき裂深さの変化

Rz(図 19に同じ)

累積研削除去量

き裂深さ

図1 

加工

プロ

セス

とき

裂深

-45

-40

-35

-30

-25

-20

-15

-10

-50

総切込み深さ,き裂深さ μm

図1 加工プロセスとき裂深さ

-45

-40

-35

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

総切

込み

深さ

,き

裂深

さ 

μm

図 1.18 加工プロセスとき裂深さ

図 1.19 表面粗さの変化

加工① 研削面#400

加工② #1000 切込み深さ 1μm×8

加工③ #1000 1μm×7

加工④ #1000 1μm×15 0.5μm×2 0.1μm×2 0μm×2

加工⑦ #2000 0.2μm×2 0.1μm×2 0μm×2

加工⑤ #2000 0.5μm×5

加工⑥ #2000 0.5μm×5

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は明確な関係が見られない.そのため,砥石や各種条件,砥

石摩耗状態等が異なっている場合は,表面粗さからき裂深さ

を推測することは困難であるといえる.

また図 1.21 中の,粒度が同じ#800 のメタルボンド砥石とレ

ジンボンド砥石を比べると,前者のほうがRzに対するき裂深さ

の比が大きいことがわかる.1種類ずつの比較でしかないが,

結合材の影響を考えるときの材料としたい.

1.3.4 実験 4 結晶性ガラスとき裂

次に,結晶性ガラス(オハラ製クリアセラム)を#800 のメタル

ボンドダイヤモンド砥石とレジンボンドダイヤモンド砥石のそ

れぞれで研削し,表面粗さとき裂深さを調べた.各種条件を

表 1.4 に示す.また,実験結果を図 1.22 に示す.同図には,

図 1.21から抜粋した石英ガラスの結果を併記する.研削面に

発生するき裂は,結晶性ガラスのほうが石英ガラスよりも浅い

ことがわかった.

1.4 結 言

(1) 石英ガラスと結晶性ガラスの研削面のき裂深さを,酸化セ

リウム溶液による試料の傾斜研磨とフッ酸エッチング,形状

測定を組み合わせて評価することができる.また,適切な

研磨条件下では,酸化セリウム研磨液の前にダイヤモンド

研磨液を用いても,き裂は進展しない.

(2) #1200 レジンボンドダイヤモンド砥石を用いて,切込み深

さ一定で石英ガラスを連続加工したとき,研削初期に,砥

粒の摩滅摩耗と埋没によって同時作用砥粒数が増え,最

大高さ粗さ Rz が低減する.このとき,研削抵抗が増大する

にもかかわらず,き裂深さは Rz とともに小さくなり,き裂深さ

と Rzの比も減尐する.

(3) 砥石や各種条件等が同じで,表面粗さが異なる原因が

砥石摩耗状態のみであるとき,あらかじめ調べたデータをも

とに,表面粗さからき裂深さを推測することができる.

(4) 一方,砥石や各種条件が異なっている場合は,表面粗さ

が同じであってもき裂深さは異なるため,表面粗さからき裂

深さを推測することは困難である.

(5) 仕上げ加工によって表面粗さを向上させても,除去量が

不十分であれば,前加工で発生したき裂は残留する.

(6) 荒加工で石英ガラスに発生したき裂深さを調べ,その2倍

を次の SD1000B加工の総切込み深さとし,さらに SD1000B

加工後のき裂深さの2倍を SD2000B 仕上げ加工の総切込

み深さとすることで,き裂深さを 1.2μmまで小さくすることが

できる.

(7) 結晶性ガラスの研削面に発生するき裂は,石英ガラスに

比べて浅い.

1.5 参考文献 1) 塚本真也,大橋一仁:研削加工の最新計測技術,(2003)232-237.

2) 江端,松田,齊藤,横山:石英ガラスの研削における砥粒摩耗の影響,

2011年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,(2011)533-534

0

1

2

3

4

5

6

7

8

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

表面粗さ Rz μ m

き裂

深さ

 μ

m

表 1.3 実験 3 ツルーイング・ドレッシング,研削条件

表 1.4 実験 4 ツルーイング・ドレッシング,研削条件

図 1.22 石英ガラスと結晶性ガラスの比較

石英ガラス メタルボンド砥石

クリアセラム メタルボンド砥石

クリアセラム レジンボンド砥石

石英ガラス レジンボンド砥石

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2.外周刃加工におけるチッピングと諸要素の関係

2.1 緒 言

石英ガラスを製品に応じた大きさに切断する際に生じるチ

ッピングは研磨等によって除去する必要があるため,その大

きさを管理することが重要である.切断にはワイヤソーや内周

刃切断等のいくつかの方法があるが,ここでは外周刃切断に

おいて,諸要素がチッピング等に及ぼす影響を調べた.

2.2 実験方法

チッピングに影響を与える要素としては,切断砥石の側面

振れ,ドレッシング方法,切断砥石の結合材や粒度,加工条

件が考えられる.それぞれについて実験を行い,チッピング

の大きさを測定するとともに切断砥石の摩耗を評価した.被

削材は 1.でも使用したポリシング仕上げの合成石英ガラス

(東ソー・クォーツ製 ES)である.

効率を考え,実験はフルカットではなく,外周刃切断機(ナ

ガセインテグレックス製 SPG150-ALS3)による溝加工とした

(図 2.1).溝加工後は,溝幅とチッピングの大きさを画像測定

機(ミツトヨ製 SQV303PRO)で測定した(図 2.2).

2.3 結果及び考察

2.3.1 実験 1 切断砥石の側面振れの影響

砥石フランジのセルフカットの前後における切断砥石の側

面振れ,溝幅拡大量,チッピングの大きさの変化を調べること

により,側面振れとチッピングの関係を把握した.セルフカット

(図 2.3)とはフランジ端面を機上で旋削することであり,溝幅

拡大量とは加工溝幅と砥石幅の差である.

実験は,表 2.1 の条件で石英ガラスに 100mm 長の溝を加

工して行った.また,プランジ研削で快削性カーボン板に転

写した砥石の回転包絡形状の幅と,マイクロメータで測定した

砥石幅の差から切断砥石の側面振れを求めた.

図 2.4 にセルフカット前後における溝幅拡大量の変化の例

を示す.側面振れの大きい左図では,切断砥石の切り込みに

したがって溝幅拡大量が小さくなり,被削材から切断砥石が

抜けるときに再び大きくなっている.一方,側面振れが小さい

右図では,大きな溝幅の変化は見られない.

図 2.5 に加工条件と溝幅拡大量平均値の関係を示す.前

述した同一溝における溝幅拡大量の変化幅は,最大値・最

小値として同図中に示す.図 2.6 には加工条件とチッピング

の関係を示す.送り速度と切込み量が同一の場合,セルフカ

ット後のほうが溝幅拡大量の変化幅,チッピングともに小さい

ことがわかる.このことから,側面振れが大きいほど溝加工時

の切断砥石の弾性変形量が大きくなり,切断砥石側面の砥

粒が被削材により大きな力を作用させ,チッピングを大きくす

ると考えられる.

以上より,切断砥石の側面振れを小さくすることがチッピン

グの微小化に有効であることがわかった.切込み量が大きい

ときは,側面振れを小さくすることが特に重要といえる.

表 2.1 実験 1 加工条件

図 2.2 チッピングの測定

チッピングの大きさ(最大)

図 2.3 セルフカット

旋削用 バイト

砥石

フランジ

図 2.4 溝幅拡大量の変化(切込み量 0.8mm)

左図:セルフカット前(振れ 0.135mm) 右図:セルフカット後(振れ 0.025mm)

テーブル送り方向

送り 25mm/min 送り 25mm/min

送り 100mm/min 送り 100mm/min

図 2.5 加工条件と溝幅拡大量の関係

セルフカット後

セルフカット前

最大

最小

テーブル送り mm/min テーブル送り mm/min

切込み量 0.2mm

切込み量 0.8mm

図 2.6 加工条件と最大チッピングの関係

セルフカット後

セルフカット前

テーブル送り mm/min テーブル送り mm/min

切込み量 0.2mm

切込み量 0.8mm

図 2.1 外周刃加工

テーブル送り

切断砥石

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2.3.2 実験 2 ドレッシング方法

一般砥石への溝加工(以下,溝入れ法と記述.図 2.7)とカ

ップツルア(図 1.4 リード製 RS-50P) のそれぞれの方法でド

レッシングを行い,溝加工で生じるチッピングの大きさを比較

した.ここでのチッピングの大きさとは,溝全長のなかで大きい

方から 10 個のチッピングの平均値である.実験条件を表 2.2

に,結果を図 2.8 に示す.メタルボンド砥石では,溝入れ法よ

りカップツルア法のほうがチッピングが大きい.一方,レジンボ

ンド砥石では大きな差は見られない.

SEM写真(図 2.9)からは,溝入れ法ではエッジが丸くなっ

て角形に成形できないが,カップツルア法では角形成形が可

能であることがわかる.なお,砥粒が小さいほうがエッジは鋭

利に成形される(図 2.18).

また,メタルボンド砥石では,溝入れ法に比べカップツルア

法のほうがエッジ部の砥粒脱落が多いことがわかる.これは,

カップツルアのドレッシング工具(以下,成形工具と記述.)が

砥粒を脱落させる方向に回転することが原因と考えられる.そ

こで,成形工具速度を低くしてメタルボンド砥石をドレッシング

したのち,同条件で溝を加工し,砥粒保持状態とチッピングを

比較した.ドレッシング後の砥石の状態を図 2.10に,チッピン

グの大きさを図2.11に示す.成形工具速度が低い条件のほう

が砥粒の脱落が尐なく,チッピングも小さい.このことから,図

2.12 のようにエッジ部の砥粒が脱落すると,エッジ部の砥粒

切込み深さが大きくなり,チッピングが大きくなると推測され

る.

2.3.3 実験 3 結合材

#600 メタルボンド砥石と#600 レジンボンド砥石について,

加工条件(砥石速度,送り速度,切込み量)を変化させ,結合

材がチッピングに与える影響を調べた.ドレッシング条件は表

2.2 と同じとした.結果を図 2.13~15に示す.メタルボンド砥

一般砥石

図 2.7 溝入れ法

メタルボンド

■溝入れ法 □カップツルア法

レジンボンド

図 2.8 ドレッシング方法と

チッピングの関係

実験回数 = 2

脱落

エッジ部 の砥粒 □カップツルア法

図 2.12 砥粒の脱落

図 2.9 ドレッシング後の砥石作業面(SEM)

溝入れ法 メタルボンド カップツルア法 メタルボンド

溝入れ法 レジンボンド カップツルア法 レジンボンド

100μm 切断砥石速度 8m/s 成形工具速度 3.8m/s

脱落

100μm

切断砥石速度 8m/s 成形工具速度 1.9m/s

図 2.10 ドレッシング後の

砥石作業面(SEM)

成形工具速度 3.8m/s

図 2.11 ドレッシング条件と

チッピングの関係

実験回数 = 2

1.9m/s

表 2.2 実験 2 実験条件

レジンボンド

メタルボンド

テーブル送り mm/min

図 2.14 テーブル送りの影響

砥石速度 30m/s 切込み量 1.0mm

レジンボンド

メタルボンド

砥石速度 m/s

図 2.13 砥石速度の影響

テーブル送り 50mm/min 切込み量 1.0mm

レジンボンド

メタルボンド

切込み量 mm

図 2.15 切込み量の影響

砥石速度 30m/s テーブル送り 50mm/min

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石よりレジンボンド砥石のほうが,すべての加工条件において

チッピングが小さい.集中度が異なるため単純に比較できな

いが,結合材の弾性の違いが原因と考えられる.

また,表 2.2 の条件で摩耗試験も実施した.溝加工後の砥

石作業面を図 2.16に示す.メタルボンド砥石,レジンボンド砥

石ともに砥粒が摩滅し,砥粒切れ刃が後退している.また,砥

粒の脱落も見られる.このことから,石英ガラスのクリープフィ

ード研削では,砥粒の摩滅が切れ味低下の主な原因といえる.

自生発刃作用は期待できないため,切れ味を回復させるに

は,砥粒が新出するまでドレッシングを行う必要がある.

2.3.4 実験 4 粒度(レジンボンド)

2.3.3 のレジンボンド砥石#600 砥石に加え,#1200 砥石と

#2000 砥石について加工条件(切断速度,切込み深さ,送り

速度)を変化させ,粒度がチッピングに与える影響を調べた.

集中度は 100,砥石幅は 0.5mm とした.#1200 砥石は

GC1000G_Vの,#2000切断砥石はGC2000G_Vのカップ砥石

で成形した.結果を図 2.17 に示す.粒径が小さいほど,すべ

ての加工条件においてチッピングが小さいことを確認した.

また,摩耗試験も実施した.#600 砥石では溝を 60 本加工

できたが,#1200砥石では 47本目で負荷が上昇し,#2000砥

石は 2 本目の溝を加工中に破壊した.#1200 砥石の砥石作

業面の変化を図 2.18 に示す.以上から,粒径が小さいほどド

レスインターバルが短いことが確認された.

2.3.4 実験 5 2 パス加工

レジンボンド砥石#1200および#2000はチッピングの微小化

に適するが,ドレスインターバルが短く,生産性が低い.そこ

で,より生産性の高い砥石#600 を用いて,同等のチッピング

で溝を加工する方法を検討した.

図 2.15から,浅切込みがチッピングの微小化に有効である

ことがわかる.そこで 1 パス目を浅切込み,2 パス目を深切込

みとする 2 パス加工を試行した.総切込み量は 1mm,砥石速

度は30m/s,テーブル送りは50mm/minとした.ドレッシングは

表 2.2のカップツルアの条件で行った.結果を図 2.19に示す.

切込み量 1mm の 1 パス加工よりも,チッピングを小さくするこ

とができた.図 2.20は,研削能率が等しい複数の加工条件に

おけるチッピングの大きさを示したものである.#600 砥石によ

る 2 パス加工の方が,#1200 砥石による 1 パス加工よりもチッ

ピングが小さいことがわかる.以上より,2 パス加工によってチ

ッピングを小さくできることが明らかとなった.

2.4 結 言

(1) 切断砥石の側面振れを小さくすることがチッピングの微小

化に有効である.

(2) 切断砥石のエッジ部の砥粒が脱落するとチッピングが大

きくなるため,脱落させないドレッシングが重要である.

(3) メタルボンド切断砥石よりレジンボンド切断砥石のほうが,

チッピングを小さくできる.

(4)レジンボンド切断砥石では粒径が小さいほどチッピングを

小さくできるが,ドレスレスインターバルは短い.

(5) 1パス目を浅切込みとする2パス加工によってチッピングを

小さくすることができる.

図 2.16 溝 60本加工後の#600砥石の砥石作業面

(SEM)

メタルボンド レジンボンド

20μm

図 2.18 #1200 レジンボンド砥石の変化(SEM)

メタルボンド

100μm

溝 47本加工後 ドレッシング後

20μm

レジンボンド

メタルボンド

図 2.20 切込み量の影響 研削能率一定 砥石速度 30m/s

Fはテーブル送りを表す

F25 1パス

F50 2パス

F25 1パス

#600

#1200

レジンボンド

メタルボンド

図 2.19 切込み量の影響 粒度#600 砥石速度 30m/s

テーブル送り 50mm/min

1パス加工

2パス加工

レジンボンド

メタルボンド

砥石速度 m/s テーブル送り mm/min

テーブル送りの影響 砥石速度 30m/s

切込み量 1.0mm

砥石速度の影響

テーブル送り 50mm/min

切込み量 1.0mm

切込み量 mm

切込み量の影響 砥石速度 30m/s

テーブル送り 50mm/min

図 2.17 粒度と加工条件の影響(レジンボンド砥石)

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3.結晶性ガラスの超精密曲面研削加工

3.1 緒 言

結晶性ガラスの用途のひとつである反射鏡等の光学素子

の製造においては,研磨仕上げに多大な時間を要している

ため,研削加工の形状精度と加工面品位の向上が求められ

ている.そこで,当センターの技術シーズをもとに,結晶性ガ

ラスの高精度・高品位曲面研削を試行した.

3.2 加工方法

直径 50mmのクリアセラムに,曲率半径 500mmの凹面を曲

面研削した.加工には,高い運動精度と剛性を備えた超精密

非球面研削盤(ナガセインテグレックス製 N2C-53US4N4)を使

用した.

砥石をステップ送りしながら曲面を研削する加工(以下,ス

テップ研削と記述.)では,砥石の断面形状が加工面に転写

されるため,断面形状が高精度な円弧になるようツルーイング

(以下,成形と記述.)する必要がある.そこで,成形精度に優

れるカーブジェネレータ法 1)(図 3.1)で成形を行った.成形工

具はカップ型の一般砥石である.これをロータリテーブルの中

心に固定し,テーブルごと回転させる.さらに研削砥石の中

心を成形工具の中心軸上に位置決めし,下方の成形工具に

切り込んでいくと,砥粒層に球面の一部が創成される.

このようにして成形した研削砥石の断面形状をカーボン板

に転写し(図 3.2),レーザプローブ式形状測定機を用いてそ

の半径を調べた.さらにこの値などをもとに,NCプログラムを

生成した.

研削加工は,#800砥石によるロータリ研削(図 3.3),#1500

砥石による左右方向送りのステップ研削(図3.4),同砥石によ

る前後方向送りのステップ研削(図 3.5),#3000 砥石による前

後方向送りのステップ研削の順に行った.砥石はいずれもレ

ジンボンドダイヤモンド砥石である.条件を表 3.1に示す.

なお,カーブジェネレータ法では,円弧断面形状の半径が

砥石半径(120~125mm)とほぼ同じになるため,例えば短手

方向の曲率が小さいトロイダルミラー等の加工には適さない.

このような場合には,直交ツルア法(図 3.6)によって,研削砥

石を小半径の円弧断面形状に成形することができる.1)

3.3 加工結果

形状誤差は 0.45μm であった.図 3.7 に,レーザプローブ

式形状測定機で評価した誤差曲線を示す.測定ピッチは 100

μm,評価長さは 40mm とした.

図 3.4 ステップ研削

(左右方向送り)

図 3.3 ロータリ研削

図 3.5 ステップ研削

(前後方向送り)

図 3.7(a) 誤差曲線(左右方向)

形状誤差 0.45μm

表 3.1 ツルーイング・ドレッシング,研削条件

図 3.1 カーブジェネレータ法

一般砥石

切込み

(手動)

図 3.2 砥石断面

形状の転写

カーボン板

図 3.6 直交ツルア法

研削砥石

ツルーイング工具

ドレッシング工具

図 3.7(b) 誤差曲線(前後方向)

形状誤差 0.20μm

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図 3.8 は,微分干渉顕微鏡(Carl Zeiss 製 LSM5 Pascal)

で観察した凹面中心の性状である.脆性破壊とは異なる微小

切削痕の集まりによって加工面が形成されているが、面内に

は残留き裂と考えられるピット状の凹部が点在している.

表面粗さは,Ra が 0.004μm,Rz が 0.046μm,Rt が 1.76

μmであった.測定条件は 1.2.3 と同じである.前述のピットを

解析から除外したときは,Ra が 0.001μm,Rz が 0.003μm,

Rtが 0.010μmであった.

3.4 結 言

(1) 直径 50mm の結晶性ガラス(クリアセラム)を曲面研削し,

形状誤差 0.45μmの凹面を創成することができた.

3.5 参考文献 1) 松田丈,金田亮:光学ガラスの曲面研削加工における砥石成形精度の影

響,山形県工業技術センター報告 No.39(2008)15-18

図 3.8 加工面(微分干渉顕微鏡)

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まとめ

半導体等の次世代ものづくり分野で使用される石英ガラスと結晶性ガラスを対象に,高品位研削加工技術を

調査・研究した結果を以下にまとめる.

1.表面粗さとき裂深さの関係

石英ガラス等には鏡面かつクラックレスを求められることが多く,研削によるき裂を研磨等で除去している.こ

のとき,き裂深さを表面粗さで代用することがあるが,表面粗さとき裂深さの関係は明らかにされていないため,

これを調査した.

(1) 石英ガラスの研削面を酸化セリウム溶液で斜めに,研削痕が見えない領域ができるまで研磨し,さらに閉じ

ているき裂をフッ酸で顕在化させ,その先端と非研磨面(研削面)との高低差を測定することで,き裂深さを評

価することができる.この方法は結晶性ガラスにも適用できる.

(2) 極微粒レジンボンドダイヤモンド砥石で石英ガラスを加工するとき,初期の砥石摩耗に伴って,表面粗さ Rz

とき裂深さは低減する.このとき,き裂深さと Rzの比は1に近づく.

(3) 砥石や研削条件等が異なるときは,表面粗さの値が同じであってもき裂深さは異なるため,表面粗さからき

裂深さを推測することは困難である.

(4) 仕上げ加工で表面粗さを向上させても,除去量が不十分であれば,前加工のき裂は残留する.

(5) 荒加工で発生したき裂深さを調べ,その2倍を中加工の総切込み深さとし,さらに中加工後のき裂深さの2

倍を仕上げ加工の総切込み深さとすることで,き裂深さを小さくすることができる.

(6) 結晶性ガラスの研削面に発生するき裂は,石英ガラスに比べて浅い.

2.外周刃加工におけるチッピングと諸要素の関係

外周刃切断で生じるチッピングは,外周研磨等によって除去される.チッピングを除去しきるためには,その

大きさを管理することが重要である.そこで,諸要素が石英ガラスのチッピングに及ぼす影響を調べた.

(1) 切断砥石の側面振れを小さくすることが,チッピングの微小化に有効である.

(2) チッピングを小さくするには,砥粒層のエッジの砥粒をドレッシングで脱落させないことが重要である.

(3) メタルボンド切断砥石よりレジンボンド切断砥石のほうが,チッピングを小さくできる.

(4) 1パス目を浅切込みとする 2パス加工によって,1パス加工よりチッピングを小さくすることができる.

3.結晶性ガラスの超精密曲面研削加工

結晶性ガラスの光学分野への応用を想定し,結晶性ガラス(オハラ製クリアセラム)に,曲率半径 500mm の凹

面を試作した.

(1) 砥石断面形状が高精度な円弧になるよう,カーブジェネレータ法で砥石を機上成形した.

(2) 砥石成形後,#800,#1500 と順次研削し,#3000 砥石によるステップ研削(砥石をステップ送りしながら曲面

を研削する方法)で仕上げた.

(3) 形状誤差は 0.45μm,表面粗さは,0.004μmRaであった.

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難削材の切削加工技術

福島県ハイテクプラザ 吉田 智、齋藤俊郎、夏井憲司、山口泰寿

1.緒 言

工業製品の機能向上に伴い、優れた特性を持

つ新素材の開発が次々と進められているが、こ

れらの材料はその優れた特性ゆえに難削性を

示すことが多い。本研究はこれらの材料の加工

技術について調査研究を行い、地域サポイン企

業が今後必要とする次世代ものづくりのため

の技術基盤を構築し、国際競争力強化に資する

ことを目的とする。

2.調査研究内容

本研究では、航空・宇宙、輸送、電気・電子

分野などで用いられることの多いニッケル基

超耐熱合金、低熱膨張材料、チタン・チタン合

金を取り上げ、加工実験を通してそれらの切削

特性について調査を行った。以下にその詳細を

示す。

2-1 ニッケル基超耐熱合金の旋削加工

ニッケル基超耐熱合金はガスタービン、ジェ

ットエンジンなどの超高温環境下での使用を

目的として開発された材料で、優れた高温強

度・高耐食性を持つ一方、極度の難削性を示す

ことが知られている。ここでは、この材料の中

からワスパロイを取り上げ、スローアウェイ工

具を用いた旋削加工実験を行い、その加工性に

ついて検討を加えた。

2-1-1 実験内容

ワスパロイの機械的特性を表 1 に示す。試験

片形状は図 1 のとおりで、φ100×300mm の円

柱状の被削材をボルトで治具に固定してある。

また、旋盤への取り付けは、治具の部分をチャ

ッキングし、他端を回転センターで支持する方

式とした。

表 1 ワスパロイの機械的特性

図 1 試験片形状

本実験では、工具材種、工具すくい角、ホー

ニング形状、横切れ刃角の異なる工具を用意し、

これらが加工性にどのような影響を与えるか

を調べた。実験に使用した工具の仕様を表 2

に示す。なお、それぞれの標準条件は、工具材

種は超硬 KS20、すくい角 14°、ホーニング形

状 15°-0.01mm、横切れ刃角 0°とし、一つの

条件のみを変化させて実験を行った。

これらの工具について、切削速度を 20、50、

70m/min と変化させて旋削実験を行い、一定切

削長毎に工具摩耗、切削抵抗、加工面粗さを調

べて被削材の加工性を検討した。切削速度以外

の加工条件は、切込み d=1.0mm、送りf

引張り強さ(MPa) >1100

降伏点(MPa) >760

伸び(%) >15

絞り(%) >18

硬さ(HB(10/3000)) >310

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68

=0.2mm/rev、水溶性切削液による湿式切削とし、

加工にはオークマ㈱製 CNC 旋盤 LB-15 を使用

した。なお、工具摩耗については工具の横逃げ

面摩耗幅の測定を行い、0.5mm を超えた時点で

寿命と判定した。

表 2 実験に使用した工具

2-1-2 実験結果

2-1-2-1 工具材種を変化させた場合

図 2 に各工具材種による工具寿命の変化、図

3に切削速度20m/minにおける工具摩耗の進行

状態を示す。図 2 において、グラフの上端に数

値が記してあるものは寿命に達しなかった工

具で、その時点の工具横逃げ面摩耗幅を上部に

記してある。これらの結果をみると、同一切削

速度ではサーメット工具(N302,NS530)、セラ

ミックス(FX90)は比較的短い時間で寿命に

達しているのに対し、超硬工具(TH10、KS20)、

コーティング工具(PS20)は安定した切削性

を示している。また、切削速度が高くなるにつ

れてすべての材種において寿命は短くなるが、

コーティング工具(T823)では寿命の低下率

が他の材種に比べて小さく、高速切削時におけ

るコーティングの効果が表れている。

図 4-(a)、(b)は寿命到達時における TH10 の

工具横逃げ面の SEM 像である。これらの工具

摩耗状態を見ると、切削速度が高くなると切削

境界部における摩耗もしくは欠損の発生が著

しいことがわかる。この傾向は他の工具材種で

も同様で、サーメット、セラミックス工具で特

に顕著にみられた。また、切削速度が高い条件

では、超硬、コーティング工具で図 4-(b)のよ

うな櫛刃状の摩耗が確認されるが、これは切削

加工時に発生する熱による損傷とみられる。

図 2 工具材種による寿命の変化

図 3 工具材種による工具摩耗の進行状態

(切削速度 20m/min)

(a)切削速度 20m/min (b)切削速度 70m/min

図 4 超硬工具(TH10)の逃げ面摩耗

切削抵抗については、いずれの工具・切削速

工具材種

サーメット(N302、NS530)、超硬

(TH10、KS20)、コーテッド超硬

(PS20(TiC)、T823(Al2O3))、セラミ

ックス(FX90)

すくい角(゚) 0、10、14、22、30、38

ホーニング形状

(角度(゚)-幅(mm))

0-0、0-0.05、0-R0.02、5-0.05、

15-0.05、15-0.10

横切れ刃角(°) 0、15、30、45

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0 50 100 150 200 250

切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

N302

NS530TH10

KS20PS20

T823FX90

0

50

100

150

200

250

300

N302 NS530 TH10 KS20 PS20 T823 FX90

工具材種

切削長 (m)

20m/min

50m/min

70m/min

0.099mm

0.112mm

0.218mm

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69

度においても、切削開始時において主分力が

700N 程度、送り分力、背分力が共に 300N 程

度とほぼ同じ値を示し、工具摩耗の進行にとも

なって増加する傾向がみられた。

また加工面粗さについては、T823 以外の工

具では切削開始直後は 8μmRy 程度で、工具摩

耗の進行に伴って 16μmRy 程度まで大きくな

り、その後安定した状態を示した。T823 につ

いては、切削開始直に 24μmRy 程度まで急激

に大きくなった。この原因としては、T823 は

CVD コーティングで、コーティング層が厚く、

加工中のコーティング層に欠損が生じたため

と考えらえる。

2-1-2-2 すくい角を変化させた場合

図 5 に工具すくい角による工具寿命の変化、

図 6 に切削速度 20m/min における工具摩耗の

進行状態を示す。切削速度が低い領域では、す

くい角 14~30°の工具が安定した切削性を示

しているが、切削速度が大きくなると、工具寿

命に差がみられなくなっている。これは高速切

削による熱損傷の発生に加えて、すくい角の大

きな工具では切れ刃のチッピングなどにより

切削性が不安定となるためと考えられる。また、

摩耗形態は工具材種に関する実験結果と同様

に、境界部における摩耗または欠損が多く見ら

れた。しかし、すくい角 30~38°の工具では、

低速域において境界摩耗が発生せず、切れ刃部

分の摩耗により寿命に達していた。

図 5 工具すくい角による工具寿命の変化

図 6 工具すくい角ごとの工具摩耗の進行状況

(切削速度 20m/min)

切削抵抗については、各分力ともすくい角が

大きくなるに従い小さくなっており、送り分力

で特にこの傾向が強くみられた。前節の工具材

種の結果と同様に、工具摩耗の増加に伴って

徐々に大きくなる傾向がみられた。

表面粗さについては、工具すくい角による差

異は認められなかったが、すくい角の大きな工

具で切削加工時の切りくずが加工面にあたっ

て生じた細かい傷が確認された。また、工具す

くい角が大きくなるについてれ、切削により発

生するバリが小さくなる傾向がみられた。

2-1-2-3 ホーニング形状を変化させた場合

図 7 にホーニング形状による工具寿命の変

化、図 8 に切削速度 20m/min における工具摩

耗の進行状況を示す。

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0 50 100 150

切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

10°14°

22°30°

38°

0

50

100

150

200

250

0° 10° 14° 22° 30° 38°

工具すくい角 (°)

切削長 (m)

20m/min

50m/min

70m/min

0.112mm 0.097mm 0.104mm 0.252mm

0

50

100

150

200

250

300

350

0-0 0-0.05 0-

R0.02

5-0.05 15-

0.05

15-

0.10

ホーニング形状 角度(°)-幅(mm)

切削長 (m)

20m/min

50m/min

70m/min

0.345mm 0.383mm 0.220mm

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70

図 7 ホーニング形状による工具寿命の変化

図 8 ホーニング形状ごとの工具摩耗の進行状況

(切削速度 20m/min)

この結果では、切削速度 50m/min 以上では

各工具の寿命はほぼ同じだが、切削速度

20m/min の低速域では、ホーニング角度・幅の

大きな工具で摩耗の進行がやや遅くなる傾向

がみられた。

切削抵抗については、ホーニング形状による

差異はほとんど認められなかった。また、表面

粗さについても同様に違いは見られなかった。

2-1-2-4 横切れ刃角を変化させた場合

図 9 に各横切れ刃角を変化させた際の工具

寿命、図 10 に切削速度 50m/min における工具

摩耗の進行状況、図 11 に切削速度 20m/min に

おける工具摩耗の進行状況を示す。

図 9 横切れ刃角による工具寿命の変化

図 10 横切れ刃角ごとの工具摩耗の進行状況

(切削速度 50m/min)

図 11 横切れ刃角ごとの工具摩耗の進行状況

(切削速度 20m/min)

工具摩耗の進行は、横切れ刃角 30°の工具

を除けば、横切れ刃角が大きくなるにしたがっ

て小さくなり、切削速度 20m/min では横切れ

刃角による差はほとんどなくなる。ここで、横

切れ刃角 30°の工具の寿命が短くなっている

のは、今回使用した工具ホルダーの横逃げ角が

他のホルダーに比べて 3°と小さく、横逃げ面

摩耗が進行しやすいためと考えられる。

図 12-(a)は切削速度 20m/minにおける横切れ

刃角 15°の、図 12-(b)は同じく横切れ刃角 45°

の工具の横逃げ面の電子顕微鏡写真である。両

工具とも切れ刃部分では定常摩耗状態を示し

ており、切削境界部における異常摩耗・欠損等

はほとんどみられない。

0.0

0.2

0.4

0.6

0 50 100 150 200 250

切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

0゚-0

0゚-0.050゚-R0.02

5゚-0.0515゚-0.05

15゚-0.10

0.0

0.1

0.2

0.3

0 50 100 150 200

切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

15゚

30゚45゚

0.0

0.1

0.2

0 50 100 150 200 250

切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

15゚

30゚

45゚

0

50

100

150

200

250

300

350

0゚ 15゚ 30゚ 45゚

横切れ刃角 (°)

切削長 (m)

20m/min

50m/min

70m/min

0.112mm

0.156mm

0.296mm

0.190mm

0.303mm

0.178mm

0.178mm

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71

(a)横切れ刃角 15° (b)横切れ刃角 45°

図 12 逃げ面摩耗(切削速度 20m/min)

切削抵抗については、工具の横切れ刃角が大

きくなるにしたがって送り分力が小さく、背分

力が大きくなる傾向がみられ、特に背分力の増

加が顕著にみられたが、主分力については大き

な変化は認められなかった。また、表面粗さに

ついても、他の実験結果と同様に工具による差

異は認められなかった。

2-1-3 工具摩耗形態について

今回の実験における工具摩耗の形態として

は、切削速度が高い領域では切削熱による損傷

が支配的であり、低速になるにつれてこの影響

は小さくなることが確認されたが、ほとんどの

工具で切削境界部における摩耗や欠損が観察

された。これらの工具損傷は異常摩耗に分類さ

れ、工具寿命の低下だけではなく、著しいバリ

の発生や加工物の温度上昇を伴う。

この境界部の異常摩耗の原因のひとつとし

て、切削抵抗の変動があげられる。切屑の状態

を観察すると、図 13 のような鋸刃状の切屑で

あることがわかる。このような形態の切屑が生

じる切削では切削抵抗の変動が大きく、今回の

実験では主分力で最大 300N程度の変動が見ら

れた。この切削抵抗の変動により、切削境界部

でチッピングが発生しやすくなる。

(a)横切れ刃角 0° (b)横切れ刃角 45°

図 13 切屑の SEM 像

また、加工硬化層の形成も原因のひとつと考

えられる。今回の実験では、すくい角-6°の工

具で HV520(表面から 0.15mm)、すくい角 8°

の工具でも HV460(表面から 0.05mm)程度の加

工硬化層が生じていることが確認された。この

ため、切削条件によっては加工硬化層の擦過に

よる摩耗が進行しやすく、チッピング等が生じ

た場合摩耗が急速に進行する。

そのほか、被削材の機械的強度が高いため、

切削時の発熱量が大きく、切削境界部では水溶

性切削液の冷却効果により熱衝撃を受けやす

いことなどが考えられる。

この境界部の摩耗の抑制には、今回の実験結

果から、横切れ刃角の大きな工具の使用が有効

と思われる。今回の実験で横切れ刃角の大きな

工具の寿命が長いことが確認されたが、これは

送り量が同じ場合、横切れ刃角の小さい工具に

比べて切屑の厚さが減尐して切屑内部でのせ

ん断変形量が小さくなり(図 13-(b))、切削熱の

発生や切削抵抗の変動が抑えられているため

と考えられる。すくい角を大きくとった場合も

同様にせん断変形量が小さくなるが、刃先強度

が低下して切れ刃の信頼性が失われる。

2-2 低熱膨張率合金の切削加工

コバールは低熱膨張率合金の一種でガラス

と同程度の熱膨張率を持つため、電子管材料や

光通信機器などのガラス封入材として需要が

増加してきている。本節では、福島県内の精密

機械部品製造企業にご協力いただき、電子部品

用ベースを想定したモデルを作製して、小径エ

ンドミルによる高速切削加工条件について検

討を加えた。

2-2-1 実験内容

図 14 は今回作製した電子部品用ベースのモ

デルで、サイズは L29×W18×H3.85mm、底部

の厚さは 0.8mm である。要求精度は寸法公差

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72

±0.02mm、底面平面度・平行度 0.02mm とし

た。また、協力企業の現状設備による加工時間

は、5 個取りで 80 分(工具 9 本使用)と想定

した。このモデルを㈱牧野フライス製作所製

マイクロ FF加工機HYPER5を使用して加工し、

工具摩耗や加工精度、加工時間などからツーリ

ングおよび加工条件の検討を行った。

図 14 電子部品用ベースモデル

モデル形状が矩形主体の単純な形状をして

いるため、ツーリングはスクェアエンドミルを

主体として考え、荒加工時の工具摩耗の変化に

ついて調べた。

2-2-2 実験結果

図 15-(a)は、φ6mm4 枚刃スクェアエンドミ

ルの切削長 28m 時の工具摩耗であるが、コー

ナー部の局部的な摩耗が観察される。これに対

して図15-(b)のφ6-R0.3mm4枚刃ラジアスエン

ドミルでは、同条件での加工でもコーナー部の

摩耗が比較的小さくなっている。

(a)φ 6 スクェアエンドミル (b)φ 6 ラジアスエンドミル

図 15 コバール加工時の工具摩耗

加工条件

主軸回転数:15,000rpm、一刃送り:0.04mm/tooth

切込み:0.1mm、ピックフィード:3mm

切削方式:ミストクーラント

コバールの被削性はオーステナイト系ステ

ンレスSUS304に近く、硬度は高くない(170HV

程度)が加工硬化を生じやすい。このため図

15-(a)のように摩耗が進み、大きな切削力のか

かる状態で加工を続けた場合、加工硬化による

工具摩耗の増大のほか、被削材の組織変化によ

る変形、材料特性(磁性など)の変化などを引

き起こす。よって、この材料に関しては荒加工、

仕上げ加工とも設計上許容できる範囲でラジ

アスエンドミルを使用し、微小切込みを避ける

のが望ましいと考えられる。

この結果をもとにモデル加工の際のツーリ

ングおよび加工条件を決定した(表 3)。

表 3 モデル加工のツーリングと加工条件

表 3 の条件でモデル加工を行った結果、単体

の加工に要した時間は約 40 分(工具交換や主

軸変位安定化のための暖機運転時間を含む)で、

工具の異常摩耗等もみられず、加工精度も十分

満足していた(図 16)。この結果から 5 個取り

の加工時間を算出すると、暖機運転等の時間が

短縮できるため加工時間は 120 分程度と推定

され、現状設備による予想加工時間に対して

1.5 倍ほど加工時間が長くなる。これは、今回

実験に使用した加工機の最大工具径がφ6mm

と制限されていたためで、φ20mm 程度の工具

が使用可能な加工機を用いれば短縮可能と考

えられる。

工具 工程 加工条件

φ 6×R0.3 R.E.M.

(TiAlN coated WC) 荒加工

S=15,000rpm,F=3,600mm/min

dz=0.05mm,Pf=3.0mm

R0.75mm B.E.M.

(TiAlN coated WC) 穴加工

S=15,000rpm,F=600mm/min

dz=0.1mm

φ 3 S.E.M.

(TiAlN coated WC) 仕上げ

S=20,000rpm,F=2,400mm/min

dz=0.05mm

φ 1.5×R0.1 R.E.M.

(TiAlN coated WC) 仕上げ

S=15,000rpm,F=1,200mm/min

dz=0.05mm

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73

図 16 電子部品用ベースモデル加工結果

2-3 チタン・チタン合金の切削加工

チタン・チタン合金は、比重が小さい・比強

度が高い・耐食性が高いなどの優れた特性を持

つことから、工業製品の高品位・高機能化に対

応してその用途が拡大してきている。しかし、

同時に熱伝導率が低い・ヤング率が小さいとい

った特性も持っており、加工時にはこれらの特

性が工具寿命の低下や加工精度を出しにくい

ことの原因となり、加工コストを下げることが

難しくなっている。本節では、チタンの機械加

工で一般的に行われているエンドミル加工に

ついて高精度かつ能率的な加工条件の選定を

目的として加工実験を行った。

2-3-1 加工条件が加工精度に及ぼす影響

2-3-1-1 実験内容

本節では純チタンのエンドミル加工(側面切

削加工)について、切削速度、送りなどの加工

条件が加工精度に対してどのような影響を与

えるかを調べるため、品質工学に基づく手法を

用いて実験を行った。

まず表 4 に示すように加工精度に影響を与

えると考えられる切削条件(制御因子)を取り

上げ、各因子について予備実験の結果や文献を

もとに 2~3 の水準値を設定した。これらを直

交表 L18(21×37)に割り付けて実験条件を決

定した。表 4 で制御因子として取り上げた条件

表 4 制御因子と水準

因子 水準

1 2 3

A 切削方向

B 送り fz(mm/tooth)

C 切削速度 V(m/min)

D 径方向切込み dr(mm)

E 軸方向切込み dz(mm)

F 工具材種

G 工具ねじれ角 (°)

H 誤差列

up cut

0.02

50

0.25

5

粉末ハイス

30

-

down cut

0.04

75

0.50

10

超硬

45

-

-

0.06

100

0.75

15

コーティング

60

-

表 5 その他の切削条件

工具形状

工具突出し長さ

切削方式

2枚刃エンドミル(工具径 10mm)

30mm

湿式(エマルジョンタイプ)

以外の切削条件は表 5 のとおりである。

実験は図 17 に示す試験片の平行な 2 側面を

割り付けた実験条件で加工し、条件ごとに加工

精度を測定した。各実験条件での切削パス数は

片面 2 パスずつとし、実験は 2 回反復して行っ

た。

実験に使用した試験片は純チタン(不純物

0.2%、660℃焼鈍し)のブロック(L100×W80

×H60mm)で、マシニングセンター(三菱重

工業㈱製 M-V5B)のテーブル上にバイスで固

定した。

図 17 加工実験概要図

加工精度の評価項目として、加工面間の寸法

誤差と平行度、各加工面の平面度と表面粗さ、

エッジ部に生じるバリの高さを取り上げた。

2-3-1-2 実験結果

実験結果の解析は以下の手順で行った。まず、

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各評価項目の測定結果について、寸法誤差は目

標値 0 の望目特性、その他は望小特性として実

験条件ごとに SN 比ηを計算し、評価項目ごと

に分散分析を行って各因子の効果の大きさを

調べた。図 18 は、各制御因子の水準ごと SN

比の平均を求めて図示したものである。図中、

有意であると思われる因子については黒丸で

記してある。図 18 から、寸法誤差については

切削方向、径方向切り込み、工具材種、ねじれ

角、反復による効果が見られ、特に径方向切り

込みで水準間の SN 比の差が大きく、誤差が小

さくなる各因子の水準は、上向き切削(Up Cut)、

径方向切り込み 0.25mm、超硬、ねじれ角 60°

となっている。これらの結果は、いずれも切削

抵抗に直接影響を及ぼす因子であり、切込みが

小さくなると、切れ刃の接触長さが短くなり、

切削抵抗が小さくなる。またねじれ角が大きく

なると、切れ刃の接触長さが短くなるのに加え

て工具の接線方向の力が小さくなる。

図 18 各特性値の SN比の因子・水準別平均

切削方向については、切削抵抗が加工面に対

して小さい角度で作用するためで、工具材種の

効果は工具の剛性によるものと考えられる。ま

た反復については、工具の摩耗や刃先へのチタ

ンの圧着などによる切削抵抗の増大が原因と

考えられる。

平行度については、切削方向、径方向切り込

み、軸方向切り込み、工具材種の効果が見られ、

径方向切込みと軸方向切り込みの効果が大き

くなっている。これらは寸法誤差と同様に切削

抵抗による工具の変形量の差異と考えられる

が、軸方向切込みについては平行度の測定方法

による影響が現れているものと考えられる。

平面度では径方向切り込みの効果が見られ、

寸法誤差、平行度と同様に径方向切り込みの小

さい水準で平面度が小さくなっている。ただし、

平面度も平行度と同じ測定データから計算し

ているので、この解析結果にも測定位置による

誤差の影響が含まれていると考えられる。

表面粗さに関しては、今回の実験では全実験

条件を通じて粗さの測定値がほぼ 1~4μmRy

と小さく、分散分析の結果でも誤差分散がかな

り大きいことから、設定した条件範囲では取り

上げた因子による効果は小さいと考えられる。

バリ高さについては径方向切り込み、工具材

種、ねじれ角の効果が大きくなっており、工具

材種では粉末ハイスと超硬でバリ高さが小さ

くなっている。

(a)超硬 30° (b)コーティング 30°

図 19 工具切れ刃の SEM 観察像

図 19 は今回使用した工具の切れ刃の電子顕

微鏡写真であるが、図 19-(b)のコーティング工

具では切れ刃の研削後にコーティングを施し

-28-26-24-22-20-18-16-14-12-10

寸法誤差

-28-26-24-22-20-18-16-14-12-10

平行度

-24-22-20-18-16-14-12-10

平面度

-14-12-10-8-6-4-202

表面粗さ

-42-40-38-36-34-32-30-28-26

1 2 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2

バリ高さ

A B C D E F G

R

因 子

S

N

(d

B)

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ているため、刃先に数μmの R がついており、

バリの発生に関する工具材種の効果は、この刃

先の鋭利さの差異によるものと考えられる。ま

た、ねじれ角については切削方向(切れ刃の進

行方向)が送り方向を向くため、角度の小さい

工具でバリが小さくなることがわかった。

評価項目全体の傾向としては、径方向切込み

と工具材種の効果が大きく現れている。また、

切削速度と送りの影響は加工精度に関しては

ほとんど見られなかった。

2-3-2 加工条件が工具摩耗に及ぼす影響

2-3-2-1 実験内容

一般に、エンドミルによる切削加工において

工具摩耗に対して影響を与える切削条件とし

て、切削速度、一刃送り、切削幅(径方向切込

み)、工具材種が挙げられるが、ここでは工具

刃先の仕事率に着目し、図 20 に示すように、

工具刃先に作用する切削抵抗の大小に大きく

関与する切り屑厚さ、切削抵抗が作用する長さ

を表す実切削長、刃先が仕事をする時間を表す

切削速度の 3 条件を実験条件として取り上げ

た。切り屑厚さ t、実切削長lは工具半径 R、

一刃送り fz、切削幅 dr から次式により近似的

に計算される。

図 20 エンドミル加工における切屑厚さおよび実切削長

これらの条件をそれぞれ表 6 に示す範囲で

変化させて実験を行った。ただし、表中の実切

削長は、切削長(=工具送り量)50m 時の一刃あ

たりの実切削長の総和で表している。工具材種

については、前節の実験結果から高精度な加工

に有効であることが確認されている超硬とし、

切削速度 500m/min 以上の実験については工具

径 6mm、4 枚刃のエンドミルを使用した。その

他の実験条件については表 6 のとおりである。

表 6 実験条件

以上の条件で純チタン(JIS2種、660℃焼鈍し)

のブロック(L100×W80×H60mm)を側面切

削加工し、一定切削長ごとに工具摩耗を観察・

測定した。なお、切削速度 500m/min 以上の実

験は、リュータースピンドル(日本精密機械工

作㈱製 HS2500 Max40,000rpm)を取り付けて

行った。

2-3-2-2 実験結果

図 21 は、切削速度を変化させたときの工具

摩耗(逃げ面摩耗)の変化である。切削速度 100

切 削 速 度

切 屑 厚 さ

実 切 削 長

工 具 材 種

工 具 形 状

工具突出し長さ

軸方向切り込み

切 削 方 向

切 削 方 式

100~750m/min

0.012~0.037mm

500~1,500m/tooth

超硬(WC)

φ 10mm、2 枚刃(ねじれ角 30 ゚)

φ 6mm、4 枚刃(ねじれ角 30 ゚)

(切削速度 500m/min~)

30mm

3.0mm

ダウンカット

湿式(エマルジョンタイプ)

22

22 drRfzdrRRRt

R2fzsin

RdrRcosRl 11

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~150m/min では、工具摩耗量および切削長 50

~100m 間での摩耗の増加量も小さく、摩耗の

図 21 切削速度による工具摩耗の変化

実験条件:fz=0.04mm/tooth、dz=3.0mm

dr=0.25mm、R=5mm (V=100~250m/min)

dr=0.1mm、R=3mm (V=500~750m/min)

進行が安定していることがわかる。しかし、切

削速度 200m/min 以上では摩耗量が増加し、摩

耗の進行が不安定になっている。

図 22 は切り屑厚さを変化させたときの工具

摩耗の変化である。切り屑厚さ 0.016mm 以下

では摩耗幅は小さく摩耗の進行が安定してい

るが、0.018mm 以上になると急激に摩耗が進行

している。

図 22 切屑厚さによる工具摩耗の変化

実験条件:V=100m/min、dz=3.0mm、L=50m(l=500m)

t=0.012:fz=0.040mm/tooth、dr=0.250mm

t=0.016:fz=0.045mm/tooth、dr=0.315mm

t=0.018:fz=0.049mm/tooth、dr=0.375mm

t=0.025:fz=0.057mm/tooth、dr=0.503mm

t=0.018:fz=0.070mm/tooth、dr=0.754mm

図 23 は実切削長を変化させたときの工具摩

耗であるが、摩耗幅は実切削長の増加にともな

ってやや大きくなっているものの、摩耗の進行

は安定しており、実切削長の影響は小さいこと

図 23 実切削長による工具摩耗の変化

実験条件:V=100m/min、dz=3.0mm、t=0.012mm、L=50m

l=500 :fz=0.040mm/tooth、dr=0.250mm

l=1,000:fz=0.028mm/tooth、dr=0493mm

l=1,500:fz=0.023mm/tooth、dr=0.747mm

がわかる。

2-3-3 工具の摩耗形態について

前節の実験で使用した工具の切れ刃部を外

周方向から観察すると、図 24 のように摩耗部

では超硬合金の粒子が観察され、境界部にチタ

ンが溶着している。また、観察箇所によっては、

切り屑の一部が摩耗部全体を覆うように溶着

しているのが観察された。

図 24 工具の逃げ面摩耗状態(×2,000)

V=100m/min、t=0.017mm、l=1,000m/tooth

(fz=0.04mm/tooth、dr=0.5mm)

この摩耗部の断面形状を、工具の外周方向か

チタン溶着部 逃げ面

摩耗部

0.000

0.010

0.020

0.030

500 1,000 1,500

実切削長 (m)

逃げ面摩耗 (mm)

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120

100 150 200 250 500 750

切削速度 (m/min)

逃げ面摩耗 (mm)

切削長100m

切削長50m

0.000

0.025

0.050

0.075

0.012 0.016 0.018 0.025 0.037

切り屑厚さ (mm)

逃げ面摩耗 (mm)

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77

ら測定した結果が図 25 である。このときの逃

げ面摩耗幅は約 0.01mm で、チタン溶着部の形

状はエンドミル外周の接線方向に平行になっ

ているが、超硬合金粒子が現れている部分は、

接線方向に対して約 25°の角度で摩耗してお

り、刃先に負のすくい角がついた状態になって

いることがわかる。

図 25 摩耗部の断面形状(LSM観察)

このような摩耗が生じるのは、チタンの親和

性が高く、エンドミルによる加工が断続切削で

あることから、切れ刃先端部で切り屑が溶着・

脱落を繰り返し、このときに超硬合金の粒子が

同時に脱落していくためと考えられる。また、

すくい面には、鋼切削などで通常見られる切り

屑の擦過痕やクレーター状の摩耗がほとんど

観察されないことから、切削は切れ刃先端の極

限られた領域で行われているものと考えられ

る。

このため、切削速度の高い条件では刃先温度

が上昇しやすく、摩耗が急激に進行する。また、

切屑厚さが大きくなると、刃先に作用する切削

抵抗が大きくなり、チッピングが発生しやすく

なるものと考えられる。

2-3-4 チタン合金の加工実験

以上の結果を基に、チタン合金(Ti6Al4V、

750℃焼鈍し)のブロック(L100×W80×

H60mm)を、切削速度を 50~150m/min の範囲

で変化させて側面切削加工を行い、工具摩耗を

調べた結果、切削速度 100m/min 以下で摩耗の

進行が安定しており( fz=0.04mm/tooth 、

dr=0.25mm、超硬エンドミル)、図 26 のように

摩耗形態は純チタン加工時と同様の形態をし

ていた。

図 26 工具の逃げ面摩耗状態(×1, 000)

V=100m/min、t=0.012mm、l=500m/tooth

(fz=0.04mm/tooth、dr=0.25mm)

また加工精度に関しては、純チタンと同条件

で平行な 2 面を加工した場合、平面度、平行度、

加工面粗さについては純チタンの結果とほと

んど差が見られなかったが、機械的強度が純チ

タンに比べて大きい(引張り強さ Ti:340~

510MPa、Ti6Al4V:980Mpa)ため、寸法誤差

がやや大きくなる傾向が見られた。

3.結 言

以上、難削材の切削加工実験を行った結果、

次のことがわかった。

1) ワスパロイの旋削加工については、工具材

種は硬度と靱性の高い超硬合金 K10、K20 種

およびこれらにコーティングを施したもの

を用い、横切れ刃角の大きな工具を使用する

のが望ましい。

2)切削速度は 20m/min 程度が工具摩耗の進行

が小さく、適当な切削速度であると思われる。

ただし、今回の実験では、横切れ刃角の大き

な工具を用いた場合、50m/min でも比較的長

寿命を示していた。

3)コバールの小径エンドミル加工では、被削材

の加工硬化や材料特性の変化を防ぐため、摩

摩耗部+

切り屑の溶着 逃げ面

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耗した工具の使用は避け、刃先の鋭利な工具

を使用する。また、スクェアエンドミルはコ

ーナー部の摩耗が進行しやすいので、可能で

あればラジアスエンドミルを使用するのが

望ましい。

4)チタン・チタン合金のエンドミル加工では、

寸法誤差、平行度などの寸法形状に関しては、

径方向切込みと工具材種の影響が大きく、切

削抵抗による工具の変形量が小さくなる条

件で加工精度がよくなる。

5)表面粗さについては、今回の実験条件の範囲

内では加工条件による差は特に見られなか

った。

6)バリ高さは、ねじれ角が小さく、刃先の鋭利

な工具で小さくなる。

7)加工精度の面から総合的にみた場合、工具は

ねじれ角 30°の超硬エンドミルの使用が有

効である。

8)切削速度 V は、純チタンの場合は 150m/min

以下、Ti6Al4V合金では100m/min以下とし、

切り屑厚さが 0.016mm 以下になるように切

削幅と一刃送りを設定する。また、切削方向

はダウンカットとし、湿式切削で加工する。

9)切削幅、一刃送りを設定する際、加工能率を

重視する場合は切削幅を大きく、一刃送りを

小さくし、加工精度を重視する場合は、切削

幅を小さく、一刃送りを大きくする。