炎症と免疫の制御療法 -...

7
1 北里医学 2019; 49: 1-7 Received 18 February 2019, accepted 28 February 2019 連絡先: 山岡邦宏 (北里大学医学部膠原病・感染内科学) 252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 E-mail: [email protected] 炎症と免疫の制御療法 山岡 邦宏 北里大学医学部膠原病・感染内科学 免疫疾患は炎症病態と自己免疫病態が表裏一体で存在し,各疾患により炎症と自己免疫 のバランスが異なる特性を持つ。関節リウマチ (RA) 2つの側面を併せ持った疾患であり, 炎症性サイトカインを強力に制御する生物学的製剤により治療スキームと同時に疾患概念も 大きく変化した。近年,サイトカインにより細胞内で活性化されるキナーゼJanus kinase (JAK) を選択的に阻害する低分子化合物が次々とRAを治療標的として開発・承認され,生 物学的製剤と同等以上の効果を示し注目されている。RA以外の免疫疾患で広く治験が行わ れており,今後の免疫疾患治療に新たなパラダイムシフトをもたらすことが期待されてい る。 Key words: 生物学的製剤,Janus kinaseJAK阻害薬,自己免疫疾患,関節リウマチ はじめに 免疫は本来,自己を外敵から防御する目的で真核生 物から存在するものである。免疫反応により炎症が惹 起される結果として外敵の排除が可能となり炎症は最 終的に制御される。しかし,自己免疫疾患では何らか の引き金により免疫が自己に対して反応することで炎 症が持続し,種々の臓器障害を引き起こす。一言で自 己免疫疾患と言っても疾患は多彩であり,臓器特異的 自己免疫疾患群 (甲状腺炎,下垂体炎,血小板減少性紫 斑病,重症筋無力症など) や臓器非特異的に全身に障害 をきたす疾患群である結合組織病,さらに関節・筋肉 を主体とした症状をきたす疾患群としてリウマチ性疾 (変形性関節症,強直性脊椎炎,結性関節炎など) がある。本邦で一的に膠原病と呼ばれる疾患群はこ れら3つの特を合わせ持ったものを言表的な疾 患として,関節リウマチ (RA),全身性マトース,多発性筋炎/皮膚筋炎,ーチェット病などがあられる。膠原病は前述3つの特する疾患群であ るが,盛んに自己体を生するがC反応性ンパ(CRP) 標とした炎症が上しない疾患 (全身性マトース,シグレン症群など) から,自己生をわないCRPをきたす炎症性疾患 (炎症性 疾患,脊椎関節炎など) で多彩である (1) 1 。いれの疾患においても共通していることは性炎症が期持続することにより的な臓器障害を来すこと である。これら疾患群のRAは自己免疫と自己炎症 双方兼ね備えた疾患であり,人口当たりの0.8%後ともっとも多く,本疾患に対する炎症制御 中心とした治療開発が在でも盛んに行われてい 1. 免疫疾患病態のりによる疾患の位置づけ

Transcript of 炎症と免疫の制御療法 -...

Page 1: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

1

 総  説 北里医学 2019; 49: 1-7 

Received 18 February 2019, accepted 28 February 2019連絡先: 山岡邦宏 (北里大学医学部膠原病・感染内科学)〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1E-mail: [email protected]

炎症と免疫の制御療法

山岡 邦宏

北里大学医学部膠原病・感染内科学

 免疫疾患は炎症病態と自己免疫病態が表裏一体で存在し,各疾患により炎症と自己免疫

のバランスが異なる特性を持つ。関節リウマチ (RA) は2つの側面を併せ持った疾患であり,

炎症性サイトカインを強力に制御する生物学的製剤により治療スキームと同時に疾患概念も

大きく変化した。近年,サイトカインにより細胞内で活性化されるキナーゼJanus kinase

(JAK) を選択的に阻害する低分子化合物が次々とRAを治療標的として開発・承認され,生

物学的製剤と同等以上の効果を示し注目されている。RA以外の免疫疾患で広く治験が行わ

れており,今後の免疫疾患治療に新たなパラダイムシフトをもたらすことが期待されてい

る。

Key words: 生物学的製剤,Janus kinase,JAK阻害薬,自己免疫疾患,関節リウマチ

はじめに

 免疫は本来,自己を外敵から防御する目的で真核生

物から存在するものである。免疫反応により炎症が惹

起される結果として外敵の排除が可能となり炎症は最

終的に制御される。しかし,自己免疫疾患では何らか

の引き金により免疫が自己に対して反応することで炎

症が持続し,種々の臓器障害を引き起こす。一言で自

己免疫疾患と言っても疾患は多彩であり,臓器特異的

自己免疫疾患群 (甲状腺炎,下垂体炎,血小板減少性紫

斑病,重症筋無力症など) や臓器非特異的に全身に障害

をきたす疾患群である結合組織病,さらに関節・筋肉

を主体とした症状をきたす疾患群としてリウマチ性疾

患 (変形性関節症,強直性脊椎炎,結晶性関節炎など)

がある。本邦で一般的に膠原病と呼ばれる疾患群はこ

れら3つの特徴を合わせ持ったものを言う。代表的な疾

患として,関節リウマチ (RA),全身性エリテマトーデ

ス,多発性筋炎/皮膚筋炎,ベーチェット病などがあげ

られる。膠原病は前述の3つの特徴を有する疾患群であ

るが,盛んに自己抗体を産生するがC反応性タンパク

(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ

テマトーデス,シェーグレン症候群など) から,自己抗

体産生を伴わないCRP上昇をきたす炎症性疾患 (炎症性

腸疾患,脊椎関節炎など) まで多彩である (図1)1。いず

れの疾患においても共通していることは慢性炎症が長

期持続することにより不可逆的な臓器障害を来すこと

である。これら疾患群の中でRAは自己免疫と自己炎症

の双方を兼ね備えた疾患であり,人口当たりの罹患率

が0.8%前後ともっとも多く,本疾患に対する炎症制御

を中心とした治療開発が現在でも盛んに行われてい

図1. 免疫疾患病態の偏りによる疾患の位置づけ

Page 2: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

2

る。本稿では,炎症制御を目的として開発された生物

学的製剤がRAとその他の疾患に及ぼした影響と次世代

RA治療薬として承認・開発が続いているJanus kinase

(JAK) 阻害薬について概説する。

生物学的製剤とその特徴

 特定の細胞外分子を標的とした製剤であり,抗原抗

体反応による標的分子阻害であるため特異性が極めて

高い。2003年にインフリキシマブが承認されたのを皮

切りに腫瘍壊死因子 (TNF) 阻害薬が5剤,Interleukin

( IL) -6受容体抗体が2剤,細胞表面発現共刺激分子

CD80/CD86に結合することでT細胞活性化を調節する

アバタセプト,破骨細胞分化に必須の因子である

Receptor activator for nuclear factor-kB ligand (RANKL)

に対するデノスマブの計9剤がRA治療薬として承認さ

れている (表1)。同じTNF阻害薬であっても,キメラ,

ヒト型,完全ヒト型抗体やペグ化したものがあり,抗

体構造や阻害メカニズムが多少異なるが,臨床的効果

は同等である。また,IL-6受容体抗体は投与開始直後

よりCRPを陰性化させ,感染症発症時にCRPが指標と

なりにくくなるが,本邦で開発された薬剤で諸外国と

比較して使用経験が豊富であり,その効果はTNF阻害

薬と変わりない。また大きな特徴として,生物学的製

剤の単剤治療がRA治療のアンカードラッグであるメト

トレキサート (MTX) の単剤治療に勝る効果を示せてい

ない中で2-4,唯一アクテムラが単剤治療の有用性を証

明できている5。そのため,MTX内服後の消化器症状

山岡 邦宏

などの副作用や間質性肺炎,肝腎機能障害などの臓器

障害によりMTX内服困難な症例では単剤治療として用

いられることが多い。アバタセプトはonly one in class

である作用機序に特徴がある。サイトカインではな

く,細胞表面上の共刺激分子を阻害することで抗原提

示細胞からの刺激がT細胞に入らなくすることで炎症

を制御し,感染症の発症が少ない特徴がある6-8。その

ため,高齢RA患者で用いられることが多い。ここまで

の生物学的製剤はいずれも炎症を直接抑制することで

RAの活動性を制御し,多数の臨床試験や臨床研究でそ

の治療効果に大きな違いはないことが明らかにされて

いる6。そのため,最新の治療recommendationではいず

れの製剤もMTX治療に十分に治療効果が得られなかっ

た患者で投与を考慮することとなっている9。デノスマ

ブもonly one in classの特徴的作用機序を有するが,他

の生物学的製剤と決定的に異なるところは,炎症は制

御せずに破骨細胞分化を完全に抑制することで関節破

壊を抑制する点にある。RAの関節破壊はレントゲン上

の骨びらんと関節裂隙狭小化の2つ要素で評価するが,

デノスマブによって骨びらんは完全に抑制されるが関

節裂隙狭小化は抑制できない。これは関節内の炎症に

伴って産生されるプロテアーゼによる軟骨融解を抑制

できないためと考えられている。また,関節の腫れや

痛みに対する効果もないため,デノスマブの使用は関

節炎制御目的とした他の抗リウマチ薬投与下で骨びら

んが進行する場合に限られている。また,臨床試験中

に感染症の副作用が見られなかった点は他の生物学的

製剤と大きく異なる特徴である10。生物学的製剤の併

表1. 本邦で承認されている関節リウマチに対する生物学的製剤

一般的名称 インフリキシマブ エタネルセプト アダリムマブ ゴリムマブ

販売名 レミケード エンブレル ヒュミラ シンポニー

標的分子 TNF TNF TNF TNF

投与経路 点滴 皮下 皮下 皮下

投与間隔 4〜8週毎 毎週 隔週 4週毎

RA以外の適応症 ベーチェット病 なし ベーチェット病 潰瘍性大腸炎

 (特殊型,ぶどう膜炎)  (特殊型,ぶどう膜炎)     尋常性隔◎ 尋常性乾癬

乾癬性関節炎 乾癬性関節炎

強直性脊椎炎 強直性脊椎炎

クローン病 クローン病

潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎

     非感染性ぶどう膜炎 非感染性ぶどう膜炎

国内承認取得2003年7月 2005年1月 2008年4月 2011年7月

(RAに対する)

RANKL, Receptor activator for nuclear factor-kB ligand; TNF, Tumor necrosis factor; IL, Interleukin

Page 3: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

3

炎症と免疫の制御療法

JAK阻害薬とその治療効果

 生物学的製剤により大きな変革を遂げたRA治療であ

るが,経口内服薬であるJAK阻害薬はTNF阻害薬と同

等以上の効果を示しており,RA治療に新たな変革がも

たらされつつある。

用は,感染症の副作用を増やし,RA病態の改善に寄与

しないことが証明されているため原則行わない。しか

し,デノスマブの添付文書には他の生物学的製剤との

併用は避けるべきとの記載はなく,生物学的製剤を含

め,後述するJAK阻害薬や他の抗リウマチ薬との併用

療法が今後の治療選択肢である11,12。

セルトリズマブペゴル トシリズマブ サリルマブ アバタセプト デノスマブ

シムジア クテムラ ケブザラ オレンシア プラリア

TNF IL-6 IL-6 CD80/86 RANKL

皮下 点滴/皮下 皮下 点滴/皮下 皮下

点滴: 4週 点滴: 4週2〜4週毎 隔週 3〜6か月毎

皮下: 2週 皮下: 2週

なし 全身型若年性 なし 関節炎が主症状の 骨粗鬆症

 特発性関節炎  全身型若年性

キャッスルマン病  特発性関節炎

高安動脈炎

巨細胞動脈炎

2012年12月 2008年4月 2017年9月 2010年7月 2017年7月

図2. サイトカイン-サイトカイン受容体からのJak-Statシグナル伝達経路

Page 4: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

4

表2. サイトカインにより活性化されるJAK-Statと生物学的活性

サイトカイン 活性化されるJAK 活性化されるStat 生物学的活性

抗ウイルス作用IFN-γ JAK1/JAK2 Stat1

炎症惹起

IL-2 リンパ球の増殖/成熟IL-4 T細胞,NK細胞の分化/恒常性IL-7 B細胞クラススイッチ

JAK1/JAK3 Stat5/STAT6IL-9 炎症惹起

IL-15IL-21

IFN-α/IFN-β 抗ウイルス作用

IL-10 炎症JAK1/TYK2 Stat1/STAT 2

IL-20 抗腫瘍

IL-22 抗炎症作用

G-CSF ナイーブT細胞分化IL-6 T細胞恒常性の維持

IL-11 炎症JAK1/JAK2 /TYK2 Stat3/STAT4

IL-27 顆粒球分化増殖

白血病阻止因子

オンコスタチンM

IL-3 赤血球生成

IL-5 骨髄造血

GM-CSF 巨核球増殖

エイリスロポイエチン 血小板産生JAK2 Stat5

トロンボポイエチン 顆粒球・マクロファージ分化増殖

レプチン 細胞増殖

プロラクチン 乳房発育

成長ホルモン

IL-12 自然免疫活性化

IL-23 JAK2/TYK2 Stat4 Th17細胞分化/増殖炎症惹起

表3. JAK阻害薬の特性と開発状況

トファシチニブ バリシチニブ Pefecitinib Upadacitinib Filgotinib

開発企業 Pfizer Eli Lill Astellas AbbVie Gilead阻害選択性 JAK1/JAK3 JAK1/JAK2 JAK1/JAK3 JAK1 JAK1半減期 (時間) 3 14 7〜13 3〜4 7代謝排泄経路 肝代謝 腎排泄 肝代謝

関節リウマチ 承認済 承認済 承認申請中 III III投与量 (mg/日) 10 4 100/150 15/30 100/200全身性エリテマトーデス I/II相 III相 II相強皮症 I/II相潰瘍性大腸炎 承認済 III相 III相クローン病 開発中止 III相 III相乾癬 III相→未承認 II相 III相 II相乾癬性関節炎 III相 II相 III相 II/III相アトピー性皮膚炎 II相 III相糖尿病性腎症 II相脱毛症 III相 III相3割負担額 (円/4週) 43,873 43,873 未定 未定 未定

山岡 邦宏

Page 5: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

5

1. JAKとは 細胞外で浮遊しているサイトカインは細胞表面上の

特異的受容体に結合し,細胞内で様々なシグナル伝達

経路を活性化することで固有の生物活性を発揮する。

JAKは,サイトカイン受容体に恒常的に結合している

キナーゼである。サイトカインが細胞表面状の受容体

に結合直後に活性化され,転写因子Signal Transducer

and Activator of Transcription (Stat) を活性化する。Stat

は細胞の核内に移行し標的遺伝子の発現制御を行うこ

とで細胞外サイトカインによる核内遺伝子発現調整を

可能としている。これをJAK-Statシグナル伝達経路と

呼び (図2)13,JAK阻害薬はこの経路を特異的に阻害す

る。JAKにはJAK1,JAK2,JAK3とTyk2の4分子があ

り,様々なサイトカインにより異なる組み合わせで活

性化される (表2)。

2. 作用メカニズム JAK阻害薬は未承認薬も含めると10以上の化合物で

開発が進められているが,RAを対象としたものは承認

薬がトファシチニブとバリシチニブの2剤,未承認で開

発進行中のものがPefecitinib,Upadacitinib,Filgotinibの

3剤である (表3)。化合物によりJAK阻害選択性に違い

があると報告されている。そのため,前述の表2に基づ

いて阻害選択性により阻害されるサイトカインに違い

があることが想定されている。しかし,これらサイト

カインの細胞内シグナルは免疫細胞の中でも,T細胞

やB細胞などの獲得免疫系細胞とマクロファージなど

の自然免疫系細胞によってわずかに異なる14-18。また,

線維芽細胞などの間葉系細胞では免疫細胞と薬物動

態が異なることも知られ,全身投与した際に全ての細

胞において一様に作用するとは考えにくい。また,こ

れらJAK阻害薬はJAK以外のキナーゼの活性化にも必

須であるアデノシン三リン酸 (ATP) の結合部位を占拠

することで阻害作用を発揮するため,常にJAK以外の

off-target効果の可能性を考慮する必要がある。そのた

め,これら5つのJAK阻害薬の明確な抗炎症作用は不明

な部分が多いのが現状である。

3. 治療効果 いずれの薬剤も生物学的製剤として最も汎用されて

いるTNF阻害薬との直接比較試験が行われ,同等また

はそれ以上の効果がみられている。トファシチニブが

初めて同じ治験の中でアダリムマブの治療群を設定

し,統計学的直接比較は行われなかったが,同等の治

療効果を示すことを初めて証明した。バリシチニブ

は,同じくアダリムマブ治療群を設定し統計学的直接

比較を行い,有意差のある高い治療効果を示した。こ

れは,本邦で2003年に初めて生物学的製剤が承認され

て以降,初めてTNF阻害薬に統計学的に勝る治療効果

を有する抗リウマチ薬が承認されたことになる。さら

に,Pefecitinibは全世界に先駆けて本邦で承認申請中で

あり,本稿が発刊される頃には承認されている可能性

がある (2019.3.26承認)19。また,UpadacitinibとFilgotinib

は先行の3剤と比較してJAK1に阻害選択性を有する特

徴があり,第二世代JAK阻害薬とも呼ばれる。阻害選

択性を単一JAKに絞ることで治療効果にあまり違いが

ないことが明らかとなってきているが,後述の有害事

象への影響が今後着目されている。

4. 有害事象 抗リウマチ薬の宿命であり,治療効果と表裏一体の

有害事象である感染症はJAK阻害薬でも同じようにみ

られている。上気道炎,鼻咽頭炎等の頻度が最も高い

が,既存抗リウマチ薬と最も異なっているのが帯状疱

疹である20。生物学的製剤とMTXの間で帯状疱疹発症

率に差はないことが日欧米を中心に発表されている。

これに対して,JAK阻害薬治験では約4倍の発症が観察

され,欧米と比較して韓国と本邦での発症は約2倍に増

加する21。これはトファシチニブとバリシチニブの市

販後全例調査でも同様の発症率が観察されている。RA

患者における帯状疱疹のリスク因子は,人種を問わず

高齢とステロイド内服であることが明らかとなってい

る22。ワクチン接種が最も効率的な対応策であるが,

欧米と異なり本邦ではステロイド,MTX投与下では接

種禁忌である23。そのため現状では投与開始時の患者

教育と早期の抗ウィルス薬投与とリスクの高い患者で

の投与回避が現実的である。また,バリシチニブ治験

盲検期間中に実薬群でのみ血栓塞栓症観察されたこと

からJAK阻害薬と血栓塞栓症の関連が現在は注目され

ている。しかし,トファシチニブでは観察されておら

ずJAK阻害による凝固機能亢進や線溶抑制のメカニズ

ムは説明できないため,off-targetや偶発事象が重なっ

たとの解釈がなされることが多い。事実,前述の発症

事例は高BMI (35kg/m2以上),60歳以上で血栓塞栓症の

既往を有する症例であった。本事象のJAK阻害薬との

関連の有無は長期にわたる使用経験,特に本邦の市販

後全例調査が重要であり,結論を出すには時間を要す

ると思われる24,25。免疫を修飾する機能を有する抗リウ

マチ薬として重要な懸念事項としては常に悪性腫瘍の

発症が挙げられる。RAの活動性制御不良そのものが健

常人と比較した発ガン率を4〜20倍上昇させ,治療に

よる疾患制御により抑制されることが知られている。

JAK阻害薬の影響は市販後全例調査を含めて結論が出

るまでにしばらく時間を要すると思われるが26,ト

ファシチニブ治験時からの計9.5年にわたる観察では発

ガン率は既存薬と変わりなく,影響は最小限であると

考えられている27。JAK1選択性を高めた2剤の副作用は

観察期間が短く今後の情報蓄積が待たれるが,JAK阻

害薬間で治療効果に大差が見られていない点では,副

作用に差が見られるか否かが使い分けに影響するであ

炎症と免疫の制御療法

Page 6: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

6

ろう。

5. RA以外の疾患への応用 JAK阻害薬の大きな特徴は複数のサイトカインを一

度に抑制する点にある。既存生物学的製剤で治療効果

がみられている炎症を主体とした疾患だけでなく,自

己免疫が主要病態である疾患でも治験が行われている

(表3)。今後,RAだけでなく広範な疾患に広がりを見

せると考えられる28。

おわりに

 RAにおける治療を皮切りに炎症・免疫を制御する薬

剤の開発が続いており,今後は制御のみならず,治癒

を考慮した開発が望まれる。その点でJAK阻害薬はサ

イトカインのみを阻害する生物学的製剤と異なり,免

疫反応の始点である自然免疫にも作用する点で期待さ

れるが,現時点ではその望みは決して高くない。患者

ニーズやアンメットニーズを勘案すると異なる作用機

序を有する低分子化合物の開発,生物学的製剤との併

用などの治療スキームの再考など治癒に向けた取り組

みには多くの余地がある。

利益相反

研究費: 田辺三菱製薬株式会社,エーザイ株式会社,中

外製薬株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会

個人フィー: ファイザー株式会社,中外製薬株式会社,

武田薬品工業株式会社,アステラス製薬株式会社,

アッヴィ合同会社,ブリストルマイヤーズ株式会

社,田辺三菱製薬株式会社,グラクソ・スミスクラ

イン株式会社,イーライリリー,ヤンセンファーマ

株式会社,エーザイ株式会社,アクテリオンファー

マシューティカルズジャパン,旭化成ファーマ,ギ

リアド・サイエンシズ株式会社,イーライ・リリー

文  献

1. McGonagle D, McDermott MF. A proposed classification of theimmunological diseases. PLoS Med 2006; 3: e297.

2. Breedveld FC, Weisman MH, Kavanaugh AF, et al. The PREMIERstudy: A multicenter, randomized, double-blind clinical trial ofcombination therapywith adalimumab plus methotrexate versusmethotrexate alone or adalimumab alone in patientswith early,aggressive rheumatoid arthritis who had not had previousmethotrexate treatment. Arthritis Rheum 2006; 54: 26-37.

3. Emery P, Burmester GR, Bykerk VP, et al. Evaluating drug-freeremission with abatacept in early rheumatoid arthritis: results fromthe phase 3b, multicentre, randomised, active-controlled AVERTstudy of 24 months, with a 12-month, double-blind treatment period.Ann Rheum Dis 2015; 74: 19-26.

4. Klareskog L, van der Heijde D, de Jager JP, et al. Therapeuticeffect of the combination of etanercept and methotrexate comparedwith each treatment alone in patients with rheumatoid arthritis:double-blind randomised controlled trial. Lancet 2004; 363: 675-81.

5. Nishimoto N, Hashimoto J, Miyasaka N, et al. Study of activecontrolled monotherapy used for rheumatoid arthritis, an IL-6inhibitor (SAMURAI): evidence of clinical and radiographic benefitfrom an x ray reader-blindedrandomised controlled trial oftocilizumab. Ann Rheum Dis 2007; 66: 1162-7.

6. Schiff M, Keiserman M, Codding C, et al. Efficacy and safety ofabatacept or infliximab vs placebo in ATTEST: a phase III, multi-centre, randomised, double-blind, placebo-controlled study inpatients with rheumatoid arthritis and an inadequate response tomethotrexate. Ann Rheum Dis 2008; 67: 1096-103.

7. Weinblatt ME, Moreland LW, Westhovens R, et al. Safety ofabatacept administered intravenously in treatment of rheumatoidarthritis: integratedanalyses of up to 8 years of treatment from theabatacept clinical trial program. J Rheumatol 2013; 40: 787-97.

8. Takeuchi T, Matsubara T, Urata Y, et al. Phase III, multicenter,open-label, long-term study of the safety of abatacept in Japanesepatients with rheumatoid arthritis and an inadequate response toconventional or biologic disease-modifying antirheumatic drugs.Mod Rheumatol 2014; 24: 744-53.

9. Smolen JS, Landew R, Bijlsma J, et al. EULAR recommendationsfor the management of rheumatoid arthritis with synthetic andbiological disease-modifying antirheumatic drugs: 2016 update.Ann Rheum Dis 2017; 76: 960-77.

10. Takeuchi T, Tanaka Y, Ishiguro N, et al. Effect of denosumab onJapanese patients with rheumatoid arthritis: a dose-response studyof AMG 162 (Denosumab) in patients with RheumatoId arthritison methotrexate to Validateinhibitory effect on bone Erosion(DRIVE)-a 12-month, multicentre, randomised, double-blind,placebo-controlled, phase II clinical trial. Ann Rheum Dis 2016;75: 983-90.

11. Lau AN, Wong-Pack M, Rodjanapiches R, et al. Occurrence ofSerious Infection in Patients with Rheumatoid Arthritis Treatedwith Biologics and Denosumab Observed in a Clinical Setting. JRheumatol 2018; 45: 170-6.

12. Hasegawa T, Kaneko Y, Izumi K, et al. Efficacy of denosumabcombined with bDMARDs on radiographic progression inrheumatoidarthritis. Joint Bone Spine 2017; 84: 379-80.

13. Yamaoka K, Saharinen P, Pesu M, et al. The Janus kinases (Jaks).Genome Biol 5: 253.

14. Musso T, Johnston JA, Linnekin D, et al. Regulation of JAK3expression in human monocytes: phosphorylation in response tointerleukins 2, 4, and 7. J Exp Med 1995; 181: 1425-31.

15. Tortolani PJ, Lal BK, Riva A, et al. Regulation of JAK3 expressionand activation in human B cells and B cell malignancies. J Immunol1995; 155: 5220-6.

16. Malabarba MG, Kirken RA, Rui H, et al. Activation of JAK3, butnot JAK1, is critical to interleukin-4 (IL4) stimulated proliferationand requires a membrane-proximal region of IL4 receptor alpha. JBiol Chem 1995; 270: 9630-7.

17. Oakes SA, Candotti F, Johnston JA, et al. Signaling via IL-2 andIL-4 in JAK3-deficient severe combined immunodeficiencylymphocytes: JAK3-dependent and independent pathways.Immunity 1996; 5: 605-15.

18. Yamaoka K, Min B, Zhou YJ, et al. Jak3 negatively regulatesdendritic-cell cytokine production and survival. Blood 2005; 106:3227-33.

山岡 邦宏

Page 7: 炎症と免疫の制御療法 - 北里大学mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI49-1/KI...(CRP) を指標とした炎症が上昇しない疾患 (全身性エリ テマトーデス,シェーグレン症候群など)

7

19. Takeuchi T, Tanaka Y, Iwasaki M, et al. Efficacy and safety of theoral Janus kinase inhibitor peficitinib (ASP015K) monotherapy inpatients with moderate to severe rheumatoid arthritis in Japan: a12-week, randomised, double-blind, placebo-controlled phase IIbstudy. Ann Rheum Dis 2016; 75: 1057-64.

20. Winthrop KL, Curtis JR, Lindsey S, et al. Herpes Zoster andTofacitinib: Clinical Outcomes and the Risk of ConcomitantTherapy. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 1960-8.

21. Yamaoka K. Benefit and Risk of Tofacitinib in the Treatment ofRheumatoid Arthritis: A Focus on Herpes Zoster. Drug Saf 2016;39: 823-40.

22. Curtis JR, Xie F, Yang S, et al. Herpes Zoster in Tofacitinib: Riskis Further Increased with Glucocorticoids but not Methotrexate.Arthritis Care Res (Hoboken) 2018. doi: 10.1002/acr.23769. [Epubahead of print]

23. Winthrop KL, Wouters AG, Choy EH, et al. The Safety andImmunogenicity of Live Zoster Vaccination in Patients WithRheumatoid Arthritis Before Starting Tofacitinib: A RandomizedPhase II Trial. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 1969-77.

24. Desai RJ, Pawar A, Weinblatt ME, et al. Comparative risk ofvenous thromboembolism with tofacitinib versus tumor necrosisfactorinhibitors: A cohort study of rheumatoid arthritis patients.Arthritis Rheumatol 2018. doi: 10.1002/art.40798. [Epub ahead ofprint]

25. Scott IC, Hider SL, Scott DL. Thromboembolism with Janus Kinase(JAK) Inhibitors for Rheumatoid Arthritis: How Real is the Risk?Drug Saf 2018; 41: 645-53.

26. Tamura N, Kuwana M, Atsumi T, et al.【Session Title: RheumatoidArthritis - Treatments Poster II: PROs, Safety and Comorbidity】Malignancy in Japanese Patients with Rheumatoid Arthritis Treatedwith Tofacitinib: Interim Analysis of All-Case Post-MarketingSurveillance [abstract]. 2018 ACR/ARHP Annual Meeting: https://acrabstracts.org/abstract/malignancy-in-japanese-patients-with-rheumatoid-arthritis-treated-with-tofacitinib-interim-analysis-of-all-case-post-marketing-surveillance/.

27. Cohen S, Tanaka Y, Mariette X, et al.【Session Title: 3S108 ACRAbstract: RA Treatments II: Safety (958-963)】Long-Term Safetyof Tofacitinib up to 9.5 Years: A Comprehensive Integrated Analysisof the RA Clinical Development Program [abstract]. 2018 ACR/ARHP Annual Meeting: https://acrabstracts.org/abstract/long-term-safety-of-tofacitinib-up-to-9-5-years-a-comprehensive-integrated-analysis-of-the-ra-clinical-development-program/.

28. Furumoto Y, Smith CK, Blanco L, et al. Tofacitinib AmelioratesMurine Lupus and Its Associated Vascular Dysfunction. ArthritisRheumatol 69: 148-60.

Treatment of inflammation and the immune system

Kunihiro Yamaoka

Department of Rheumatology and Infectious Diseases, Kitasato University School of Medicine

Immunological diseases possess two faces that are the inflammatory and autoimmune faces on the same coin.Each different disease has its own feature predisposing to one side of the coin. Rheumatoid arthritis (RA) isa disease with a combination of both sides. Biologics that strongly and specifically suppress inflammatorycytokines have changed the treatment scheme along with the general picture of the disease. During the recentyears, compounds targeting Janus kinase (JAK) an intracellular kinase have been developed and approved forRA. Clinical trials have demonstrated either equaling or surpassing treatment effect compared to biologics.These compounds are currently under development for a wide variety of immunological diseases other thanRA and are expected to trigger the next significant change in the field.

Key words: biologics, Janus kinase, JAK inhibitor, autoimmune disease, rheumatoid arthritis

炎症と免疫の制御療法