第4版の序 1no.9 “Milky way”と“No manʼs land” 221 マンモグラム読影の実際...

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基本的撮影法と追加撮影法 Ⅰ.基本的撮影法(MLO 撮影および CC 撮影) 1 1)よいマンモグラフィとは? 1 2)MLO 撮影において重要なことは? 1 3)CC 撮影において重要なことは? 2 Ⅱ.追加撮影法 2 1)ML(mediolateral)撮影 3 2)外側強調(exaggerated)CC 撮影 3 3)spot 撮影 4 4)拡大撮影 4 Ⅲ.撮影条件 5 乳房の正常構造 1)正常乳房のマンモグラフィ 7 2)乳房の構成とバリエーション 9 3)乳房の微細構造 9 マンモグラム読影にあたっての基本事項 1)ハードコピー診断(フィルムに焼き付けた読影の場合) 13 2)ソフトコピー診断(モニタ診断) 14 病変の位置 1)1 方向撮影の場合 23 2)2 方向撮影の場合 23 読影と所見用語の説明 Ⅰ.腫 瘤 27 Ⅱ.石灰化 40 Ⅲ.その他の所見 52 目 次 初版本を出版してから 12 年が過ぎました。乳癌をとりまく環境はこの 10 年の間にかなり変化 し,私たちは診断,治療にわたり様々な新しい情報を手にしています。しかし診断面においてマン モグラフィが乳癌診療の画像診断の大きな柱であることは変わりなく,ますますその重要性が増し ているといってよいでしょう。 今までの 2 回の改訂にあたっては,大筋は変化なく,そのときにあわせて必要な事項を追加変更 してきましたが,今回は,大きな改訂をさせていただきました。まず日本のマンモグラフィの多く がデジタル化されました。フィルムに焼き付けたハードコピーで読影するにせよ,モニタ診断する にせよ,以前のアナログとイメージの質も少しずつ変化しています。そこで,今回,デジタルマン モグラフィに対応した内容としました。診断の基本はアナログと変わりませんが,モニタ診断では 特有のコツや読影の手順といったものがあります。その手順や工夫について 1 つ章を新たに設けさ せていただきました。さらに,症例写真はすべて入れかえ,デジタル画像としました。 マンモグラフィの本を執筆するにあたっていつも苦労することは,スペースが限られていて,画 像が小さくなってしまうということです。今回もできるだけ見開きで一症例が完結するようにしま したので,実際のマンモグラムよりも小さくなっています。腫瘤の境界部の性状や石灰化の形態な どは十分に把握できない場合があるかと思います。そこで,今回,症例のマンモグラフィは本に掲 載されているイメージを電子情報としてお届けできるようにしていただきました。金原出版のホー ムページにアクセスすることで,マンモグラフィを PDF でご自分の PC あるいはタブレットでご 覧いただき,必要に応じて拡大して詳細を確認することができます。読者の皆様にとってよりよい 勉強の場を提供できると確信しています。マンモグラフィの読影の助けとなる超音波画像や MRI 画像の掲載,所見のまとめや最終診断,カテゴリー判定,診断の際に注意すべきポイントなどにつ いては,初版より継承しております。 最後に何度も足をお運びいただき,改訂に携わっていただいた宇野氏,佐々木氏,またこれまで 初版よりサポートいただいた金原出版の皆様方に厚く御礼申し上げます。 2013 年 8 月 東野英利子 角田博子 第 4 版の序 1 2 3 4 5

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Page 1: 第4版の序 1no.9 “Milky way”と“No manʼs land” 221 マンモグラム読影の実際 Ⅰ.腫 瘤 67 1)境界明瞭平滑な腫瘤 68 2)微細分葉状,微細鋸歯状,境界不明瞭な腫瘤

基本的撮影法と追加撮影法

Ⅰ.基本的撮影法(MLO撮影および CC撮影) 11)よいマンモグラフィとは? 12)MLO撮影において重要なことは? 13)CC撮影において重要なことは? 2

Ⅱ.追加撮影法 21)ML(mediolateral)撮影 32)外側強調(exaggerated)CC撮影 33)spot 撮影 44)拡大撮影 4

Ⅲ.撮影条件 5

乳房の正常構造

1)正常乳房のマンモグラフィ 72)乳房の構成とバリエーション 93)乳房の微細構造 9

マンモグラム読影にあたっての基本事項

1)ハードコピー診断(フィルムに焼き付けた読影の場合) 132)ソフトコピー診断(モニタ診断) 14

病変の位置

1)1方向撮影の場合 232)2方向撮影の場合 23

読影と所見用語の説明

Ⅰ.腫 瘤 27Ⅱ.石灰化 40Ⅲ.その他の所見 52

目 次

初版本を出版してから 12 年が過ぎました。乳癌をとりまく環境はこの 10 年の間にかなり変化し,私たちは診断,治療にわたり様々な新しい情報を手にしています。しかし診断面においてマンモグラフィが乳癌診療の画像診断の大きな柱であることは変わりなく,ますますその重要性が増しているといってよいでしょう。今までの 2回の改訂にあたっては,大筋は変化なく,そのときにあわせて必要な事項を追加変更

してきましたが,今回は,大きな改訂をさせていただきました。まず日本のマンモグラフィの多くがデジタル化されました。フィルムに焼き付けたハードコピーで読影するにせよ,モニタ診断するにせよ,以前のアナログとイメージの質も少しずつ変化しています。そこで,今回,デジタルマンモグラフィに対応した内容としました。診断の基本はアナログと変わりませんが,モニタ診断では特有のコツや読影の手順といったものがあります。その手順や工夫について 1つ章を新たに設けさせていただきました。さらに,症例写真はすべて入れかえ,デジタル画像としました。マンモグラフィの本を執筆するにあたっていつも苦労することは,スペースが限られていて,画

像が小さくなってしまうということです。今回もできるだけ見開きで一症例が完結するようにしましたので,実際のマンモグラムよりも小さくなっています。腫瘤の境界部の性状や石灰化の形態などは十分に把握できない場合があるかと思います。そこで,今回,症例のマンモグラフィは本に掲載されているイメージを電子情報としてお届けできるようにしていただきました。金原出版のホームページにアクセスすることで,マンモグラフィを PDFでご自分の PCあるいはタブレットでご覧いただき,必要に応じて拡大して詳細を確認することができます。読者の皆様にとってよりよい勉強の場を提供できると確信しています。マンモグラフィの読影の助けとなる超音波画像やMRI画像の掲載,所見のまとめや最終診断,カテゴリー判定,診断の際に注意すべきポイントなどについては,初版より継承しております。最後に何度も足をお運びいただき,改訂に携わっていただいた宇野氏,佐々木氏,またこれまで

初版よりサポートいただいた金原出版の皆様方に厚く御礼申し上げます。

2013 年 8 月

東野英利子角 田 博 子

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Page 2: 第4版の序 1no.9 “Milky way”と“No manʼs land” 221 マンモグラム読影の実際 Ⅰ.腫 瘤 67 1)境界明瞭平滑な腫瘤 68 2)微細分葉状,微細鋸歯状,境界不明瞭な腫瘤

no.1 デジタルマンモグラフィの撮影条件 6no.2 カテゴリー判定 26no.3 腫瘤と局所的非対称性陰影(focal asymmetric density:FAD)と 乳腺の一部との鑑別法 62no.4 乳癌のサブタイプ分類 130no.5 組織学的治療効果の判定基準 131no.6 乳癌の進展範囲と画像診断 145no.7 ステレオガイド下吸引式組織生検について 160no.8 石灰化を指標とした針生検の病理診断 161no.9 “Milky way”と“No man’s land” 221

マンモグラム読影の実際

Ⅰ.腫 瘤 671)境界明瞭平滑な腫瘤 682)微細分葉状,微細鋸歯状,境界不明瞭な腫瘤 693)スピキュラを伴う腫瘤 69

Ⅱ.石灰化 70Ⅲ.その他の所見 72Ⅳ.総合判定 74

病 理

Ⅰ.腫 瘤 751)境界明瞭平滑な腫瘤 752)微細分葉状,微細鋸歯状,境界不明瞭な腫瘤 763)スピキュラを伴う腫瘤 76

Ⅱ.石灰化 771)壊死型 772)分泌型 773)間質型 78

Ⅲ.その他の所見 781)構築の乱れ 78

症 例

腫 瘤1~21 92~137石灰化1~25 138~193その他の所見構築の乱れ1~13 194~220FAD(局所的非対称性陰影)1~9 222~239

術 後1~10 240~260正常バリエーション等1~7 262~273

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92● 8章.症 例 腫瘤 1● 93

マンモグラム所見• 乳房の構成は乳腺散在• 右 Upper-Outer 領域の乳腺実質辺縁に短いスピキュラを有する 1.4×0.9×1.4 cm の腫瘤がある。• 正常乳腺組織よりわずかに高濃度である。

• 浸潤性乳管癌(硬癌)

• マンモグラムとよく一致する。早期相からよく造影される不整形の腫瘤で浸潤癌と診断される。

• 浸潤性乳癌(硬癌)• カテゴリー 5

腫瘤

境界・辺縁の所見

スピキュラを伴う

カテゴリー5スピキュラが明瞭でない場合や,中心濃度が低いまたは小さい場合は カテゴリー4 とする。

腫瘤 1 60 歳代後半検診マンモグラフィで腫瘤を指摘された

右 左MLO view 右 左CC view

Conclusion

最終診断

MRI所見

診断のポイント

乳房温存療法が施行された。MLO撮影では乳腺の上縁は病変がない場合でもスピキュラ様に毛羽立ってみえることがある。所見として取りすぎないように注意が必要である。この症例では周囲より高濃度の腫瘤が認識でき,浸潤性乳管癌(硬癌)と断定できる。CC撮影では周囲の引きつれがよりよく認識可能である。

MRI:造影早期,矢状断像

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マンモグラム所見• 乳房の構成は不均一高濃度• 左乳房 Lower-Outer 領域を中心に pleomorphic な石灰化が区域性に配列する(白矢印)。• 広がりは 5.8×3.3×2.7 cmと広範である。• スポットで見ると明らかな腫瘤はないものの,石灰化に重なって濃度上昇がみられる。• 両側乳房に点状の石灰化が,数は少ないが散在して認められる(細矢印)。基本的には両側同質の石灰化であり,良性石灰化がベースにあるものと考えられる。• 右乳房 9時方向で,amorphous な石灰化が集簇して存在している部位がある(太矢印)。

• 右乳房には吸引式組織生検が施行され,閉塞性腺症と硬化性腺症が混在する乳腺症と判明した。左乳房はDCIS(solid,cribriform,papil-lary type の乳管内成分)で,5.0 cmの広範な進展を示した。

• 右:乳腺症疑い,DCIS の可能性を考慮• 左:DCIS• 右:カテゴリー 3,左:カテゴリー 5

Conclusion

最終診断

診断のポイント

石灰化の形態は pleomorphic な典型的悪性石灰化である。マンモグラフィで乳管内成分主体の乳癌を考えるのは容易である。このような広範な病変の場合には,どこかで浸潤部分がないかどうか検討することも重要である。また,全摘を余儀なくされるとしても,広がりが乳頭乳輪まで達しているかどうか,また末梢への進展の範囲など,注意して読影する必要がある。

• 左乳房D領域を広範に占拠し,乳頭に達する低エコー域が存在する。その中にマンモグラムの石灰化に相当する無数の点状高エコーが認められる。乳管内成分主体の乳癌を考える所見である。どこかで浸潤部分があってもおかしくない。

超音波所見

良性石灰化 微小円形 淡く不明瞭 多形性 微細線状分枝状

びまん性領域性

集簇性

線状区域性

形態

分布

138● 8章.症 例 石灰化 1● 139

石灰化 1 50 歳代後半検診マンモグラフィで異常を指摘された

右 左MLO view

右 左CC view

左CCスポット

カテゴリー 2 カテゴリー 2 カテゴリー 3 カテゴリー 5

カテゴリー 5カテゴリー 4カテゴリー 3カテゴリー 3

カテゴリー3 or 4 カテゴリー 4 カテゴリー 5 カテゴリー 5

超音波:Bモード

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• 乳房の構成は脂肪性• 左乳房Upper-Outer 領域の脂肪組織の中に,MLO撮影でみると不整形腫瘤として,CC撮影でみると細い線状の構造として病変が描出される。この線構造に向かって周囲脂肪組織,乳腺組織を牽引するような,さらに細い線状の構造が認められる。• 構築の乱れのある部位には明らかな腫瘤は指摘できない。• MLO撮影での小さい腫瘤も乳腺実質とほぼ等濃度である。• 右乳房MLO撮影で大胸筋の前方,Milky way 部分(p.221 参照)に 0.6 cm大の境界明瞭な腫瘤が認められる。リンパ節として断定できず,乳腺内病変も考慮するべきである。嚢胞,もともと存在していた線維腺腫,乳管内乳頭腫,ごく小さい乳癌のいずれも考えられる。右乳房にはその他いくつかの小さい円形の density があるようにもみえるが,いずれもはっきり同定できるものではない。

マンモグラム所見

• 針生検,次いで吸引式組織生検が施行された。• 硬化性腺症および放射状硬化性病変• すでに 5年が経過し,画像で変化がないことを確認している。

• 右:境界明瞭な小腫瘤は良悪性のいずれも考えられる。左:浸潤癌疑い• 右:カテゴリー 3,左:カテゴリー 4

Conclusion

最終診断

診断のポイント

病変はかなり引きつれが強い割に,CC撮影では濃度が低く,線状構造が中心となっている。年齢を考慮すると癌の可能性ももちろんあるが,このような病変では硬化性腺症などの良性病変である可能性も十分に考えておく必要がある。

• 左 11 時方向と 1時方向に 2カ所の中心を有する構築の乱れを認める。11 時方向の構築の乱れは 1点に集まる構築の乱れである。C領域の引きつれの中心は 1点ではなく,脂肪組織よりむしろ高エコーな細長い構造を形成する。• マンモグラムでの右の小腫瘤は反応性腋窩リンパ節に相当することが分かった。

超音波所見

194● 8章.症 例 構築の乱れ 1● 195

構築の乱れ 1 50 歳代後半左乳房に鈍い痛みを自覚して来院

右 左MLO view 右 左CC view

超音波:Bモード