第1 号 2008年4 月30 日 アマパ州の氾濫原における …...⑥...

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JICA(国際協力機構) 1 2008 4 30 アマパ州の氾濫原における森林資源の持続的利用計画 プロジェクト通信 プロジェクト事務所: Avenida Procópio Rola, 90 Centro Administrativo, Macapá, Amapá CEP:68900-081 (アマパ州森林院内) TEL&FAX+96-3212-3121 E-mail(担当:渡邉):[email protected] ブラジル 面積:851.2 km 2 人口:約 1 8400 万人(2007 IBGE一人当たり GDP5,714 米ドル(2006 年) ブラジルの生物多様性 植物:約 55,000 種類(世界合計の約 22%) 哺乳類:524 種類(固有種 131 種類) 鳥類:1,622 種類(固有種 191 種類) 両生類:517 種類(固有種 294 種類) 爬虫類:468 種類(固有種 172 種類) 淡水魚:約 3,000 種類 アマゾン熱帯林 ブラジル、ペルー、ボリビア、コロンビア、エク アドル等、合計約 600 km 2 法定アマゾン アクレ、アマパ、アマゾナス、マラニョン(一 部)、マットグロッソ、パラー、ロンドニア、ロライ マ、トカンチンスの9州 約 500 km 2 =ブラジル国土の約 60はじめに 400 km 2 という広大なブラジルのアマゾン熱帯林の 特徴は、世界最大の流域面積(700 km 2 )と流量(年平 均推定毎秒約 20 万㎥)を誇るアマゾン川と深く関係してい ます。アマゾン川は全体的に海面からの高低差が小さく、 河口から 1,600km 遡っても高度は 8090m しかありませ ん。そのため雨季は中流域で水深5~10m増水し、川沿 いの至るところに「バルゼア(Várzea)」と呼ばれる氾濫原 が出現します。またアマパ州からパラー州にかけての河 口付近では、海面の干満の影響により毎日水位が変動す るため、上・中流域とは異なる氾濫原が広がっています。 これら氾濫原は、法定アマゾン地域全体の約6%(約 30 km 2 )を占めるのみですが、森林と河川による特別な生 態系が形成され、約 150 万人の川岸住民が暮らしている と推定されています。しかし、森林の無秩序な伐採や魚介 類の乱獲等によって、貴重な自然資源は急速に失われて います。特に経済的な価値の高い木材は既にかなりの量 が伐採されており、川岸住民の生計基盤そのものが脅か されつつあります。 アマパ州の氾濫原は、州面積全体の約 16%を占めてい ます。そこでは大規模な森林伐採は進んでいませんが、 氾濫原に居住する住民(川岸住民)は、木材に生計の多く を依存し、森林の伐採、加工、販売は無計画に行われて います。このまま不適切な森林管理、木材利用が続け ば、アマパ州に残された氾濫原の貴重な森林資源は減少 し、川岸住民の生活にも多大な影響が生じると懸念され ています。 そのため、アマパ州政府は、氾濫原の森林資源の持続 的利用に関する支援を JICA(国際協力機構)に要請し、 2005 11 月、「アマパ州の氾濫原における森林資源の 持続的利用計画」がスタートしました。 氾濫原(バルゼア) アマゾン川河口付近の氾濫原地帯

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JICA(国際協力機構) 第 1 号 2008 年 4 月 30 日

アマパ州の氾濫原における森林資源の持続的利用計画

プロジェクト通信

プロジェクト事務所: Avenida Procópio Rola, 90 Centro Administrativo, Macapá, Amapá CEP:68900-081 (アマパ州森林院内)

TEL&FAX:+96-3212-3121 E-mail(担当:渡邉):[email protected]

ブラジル 面積:851.2 万 km2 人口:約 1 億 8400 万人(2007 年 IBGE) 一人当たり GDP:5,714 米ドル(2006 年)

ブラジルの生物多様性 植物:約 55,000 種類(世界合計の約 22%) 哺乳類:524 種類(固有種 131 種類) 鳥類:1,622 種類(固有種 191 種類) 両生類:517 種類(固有種 294 種類) 爬虫類:468 種類(固有種 172 種類) 淡水魚:約 3,000 種類

アマゾン熱帯林 ブラジル、ペルー、ボリビア、コロンビア、エク

アドル等、合計約 600 万 km2

法定アマゾン アクレ、アマパ、アマゾナス、マラニョン(一

部)、マットグロッソ、パラー、ロンドニア、ロライ

マ、トカンチンスの9州 約 500 万 km2

=ブラジル国土の約 60%

■ はじめに 約 400 万 km2 という広大なブラジルのアマゾン熱帯林の

特徴は、世界最大の流域面積(700 万 km2)と流量(年平

均推定毎秒約20万㎥)を誇るアマゾン川と深く関係してい

ます。アマゾン川は全体的に海面からの高低差が小さく、

河口から1,600km遡っても高度は80~90mしかありませ

ん。そのため雨季は中流域で水深5~10m増水し、川沿

いの至るところに「バルゼア(Várzea)」と呼ばれる氾濫原

が出現します。またアマパ州からパラー州にかけての河

口付近では、海面の干満の影響により毎日水位が変動す

るため、上・中流域とは異なる氾濫原が広がっています。

これら氾濫原は、法定アマゾン地域全体の約6%(約 30

万 km2)を占めるのみですが、森林と河川による特別な生

態系が形成され、約 150 万人の川岸住民が暮らしている

と推定されています。しかし、森林の無秩序な伐採や魚介

類の乱獲等によって、貴重な自然資源は急速に失われて

います。特に経済的な価値の高い木材は既にかなりの量

が伐採されており、川岸住民の生計基盤そのものが脅か

されつつあります。

アマパ州の氾濫原は、州面積全体の約 16%を占めてい

ます。そこでは大規模な森林伐採は進んでいませんが、

氾濫原に居住する住民(川岸住民)は、木材に生計の多く

を依存し、森林の伐採、加工、販売は無計画に行われて

います。このまま不適切な森林管理、木材利用が続け

ば、アマパ州に残された氾濫原の貴重な森林資源は減少

し、川岸住民の生活にも多大な影響が生じると懸念され

ています。

そのため、アマパ州政府は、氾濫原の森林資源の持続

的利用に関する支援を JICA(国際協力機構)に要請し、

2005 年 11 月、「アマパ州の氾濫原における森林資源の

持続的利用計画」がスタートしました。

氾濫原(バルゼア)

アマゾン川河口付近の氾濫原地帯

州都マカパ市の港と上流へ向かう大型船

■ アマパ州

アマパ州は 1988 年に連邦直轄地

から本格的な自治権を得ました。同

州はアマゾン川河口北側に位置し、

州南部には赤道が走っています。高

温多湿な熱帯気候で、平均気温は、

最低 22-23 度、最高 32-33 度で

す。2つの季節があり、雨季(冬季)

は 1 月から 7 月頃、乾季(夏季)は 8

月から 12 月頃となっています。面積

は約 14.3 万 km2(国土の 1.68%)

で、法定アマゾンの中では最も小さ

い州ですが、北海道、四国、九州の合計面積にほぼ等しく、州内には 16 の市・郡があります。人口は約 47.6 万人

(IBGE.2000。2007 年の推定人口は約 56.4 万人)、そのうち約 36.3 万人が州都マカパ市と隣のサンタナ市に集中し

ています。

アマパ州は、大西洋に面し、アマゾン川本流と支流のジャリ川を挟んでパラー州と州境を、北部はフランス領ギアナ

と国境を接しています。そのため、特にフランスとの関係は強く、その点が州の特徴でもあります。

アマパ州の植生は水域を除き6つに区分されています(括弧内は占有率。出展 GEA/IEPA. 2002)。本プロジェクト

が対象とする氾濫原の森林資源は主に④の氾濫原林です。これまで無計画な伐採、非効率な製材が盛んに行わ

れ、資源の枯渇化が懸念されています。

① 台地林(Floresta da Terra Firme)(71.86%)

② 氾濫原草原(Campos de Várzea)(11.20%)

③ セラード(Cerrado)(6.87%)

④ 氾濫原林(Floresta da Várzea)(4.85%)

⑤ 移行林(Floresta de Transição)(2.72%)

⑥ マングローブ林(Manguezal)(1.94%)

アマパ州は 20 年前まで連邦直轄地だったこともあり、州土の 88%が国有財産又はその分譲地です。また州土の

72.52%が自然保護区に指定され、熱帯林地帯では世界最大級のモンターニャス・ド・トゥムクマッキ国立公園

(3,867,000ha)や、大西洋岸沿岸のカーボ・オランジ国立公園(619,000ha)、自然資源の持続的利用を目的とする

アマパ国有林(412,000ha)、リオ・カジャリ採集保護区(501,771ha)等があります。

アマパ州

パラー州

フランス領ギアナ スリナム

パラー州

大西洋

アマゾン川河口

マラジョー島

州 都 マ カ パ

プロジェクト・エリア

アマゾン川満潮時(マカパ市)

波が歩道にまで水を押し上げます。

アマゾン川干潮時(マカパ市)

河床が現われ、サッカー場になります。

木材を筏にして輸送する川岸住民

プロジェクト・エリア: 本プロジェクトでは、アマパ州の中でも、南部にあるマザガウン郡の 2 ヶ所の氾濫原を

プロジェクト・エリアと定めました。1 ヶ所は連邦政府農地改革院(INCRA)所管のマカパ農業採集入植地内

(5,549ha)、もう 1 ヶ所は企画予算省国家資産局地方事務所(GRPU)所管の土地(8,816ha)です。

■ 氾濫原(バルゼア) アマゾン川は世界の淡水魚の約 25%、約 3,000 種が生息するといわれ、そのうち約 200 種類が商業用に利用され

ています。これらは氾濫原に重要な産業を生み出し、約 7 万人の雇用を創出しています。一方、氾濫原の森林資源も

豊富で、セドロ(Cedro. Cedrela odorata L.)、パウムラト(Pau Mulato. Calycophyllum spruceanum Benth)、クラブウッ

ド(Andiroba. Carapa guianensis Abul.)などの建築用、家具用、薬用樹木が多数あります。木材の年間生産量は、推

定 300 万㎥(法定アマゾンで生産される約 10%)で、約 3 万人分の雇用を創出しています。近年、日本を含め世界的

に消費量の増えているヤシ科のアサイー(Açaí. Euterpe oleracea)も、アマゾン氾濫原の典型的な森林資源です。ア

マパ州ではアサイーの輸出量は木材輸出量を上回っており、注目が集まっています。(データ出展:ProVárzea)

「バルゼア」という用語は日本語で「氾

濫原」と訳されていますが、「バルゼア」

の法律上の明確な定義はありません。一

般的には、河川の増水時に浸水する湿

地帯を指しますが、雨季に数ヶ月間冠水

するタイプや、アマゾン川河口付近のよう

に干満の影響で毎日又は年に数回冠水

を繰り返すタイプなど様々です。ブラジル

で は 、 1831 年 の 平 均 満 潮 水 位 点

(LPM-1831)又は通常の満潮平均水位

点(LEMO)を基準とし、その水際から 33

m幅は連邦政府の管轄地となっているた

め、市街地等の区画整理された土地を除き原則としてバルゼアは国有財産で、個人所有が認められていません。

しかしバルゼアには伝統的に人々が住んでおり、そうした人々は川岸住民(Riberinho)と呼ばれ、先住権のようなも

のが認められていることから、強制退去を命じられることはありません。その一方、土地の使用権、正式な居住権を得

るためには特別な手続が必要で、それがないと、原則として森林資源の利用や各種融資制度の活用ができません。

この手続を行う機関が企画予算省国家資産局地方事務所(GRPU)や農地改革院(INCRA)で、同事務所を通じて、

森林資源の個人使用権が認められたり、公共の入植地や自然保護区等が創設されたりします。

河川断面からみたバルゼアの概念図(出展:GRPU/AP)

陸地 陸地

中洲

政府管轄地

高地氾濫原

中洲

低水位線 低水位線

マカパの市場で売られるツクナレ

(Tucunaré. Cichla spp.) 氾濫原の森林(アマパ州マザガウン郡) 氾濫原で管理されたアサイー林

(アマパ州マザガウン郡)

低水位時(干潮時)の川岸住民の家の様子 高水位時(満潮時)の川岸住民の家の様子

この水が豊かな栄養分を畑や森林へ運ぶ 食用となるヤシ科アサイーの芽(パルミット)

を運ぶ川岸住民

■ プロジェクトの内容

アマゾン熱帯林の保全と地域住民の生計向上を両立させるためには、まず

森林資源の持続的利用を支援する実施体制の構築が不可欠です。そして住

民が森林管理を継続的に実施できるよう指導し、さらにアグロフォレストリー・

システムのような氾濫原に適した土地利用方法に改善しなければなりません。

一方、地域住民が森林管理制度を理解し、それを所得向上につなげるために

は、公正な市場の存在が重要です。そこで本プロジェクトでは、アマパ州の木

材産業の中で将来性が有望視され、州政府からの協力の要望があり、かつ日

本に技術的優位性のある家具業界と連携を図ることにしました。

プロジェクト内容の要約は以下の通りです。

□ プロジェクト・エリア アマパ州マザガウン郡の氾濫原地帯(マラカ地区・マザガウン・ベーリョ地

区)

□ 実施機関 アマパ州農村開発局(森林院、農村開発院)、商工鉱局 経済開発特別

局、他

□ 上位目標 アマパ州氾濫原の森林資源の持続的利用によりプロジェクト・エリアに居

住する川岸住民の生計が改善される。

□ プロジェクト目標 氾濫原にあるプロジェクト・エリアにおいて、川岸住民の生計向上に資す

る森林資源活用の方法が改善される。

□ プロジェクトにより期待される成果 ① アマパ州政府内にプロジェクト・エリア内の氾濫原における森林資源

の持続的利用のための技術的枠組が構築される。

② 森林の持続的管理が川岸住民によって行われる。

③ アグロフォレストリー・システムが川岸住民によって確立される。

④ 川岸住民と家具業者の連携が構築され、強化される。

□ 日本側投入 チーフアドバイザー、森林管理、アグロフォレストリー、木材加工(業務調

整兼任)の各専門家、機材、現地業務費、本邦研修等

マザガウン郡

ブラジル国

アマパ州

違法に伐採された氾濫原の樹木

川岸住民の製材所

製材技術の向上と端材の有効活用が期待

されている

プロジェクト・エリアの住民集会

川岸住民によるアグロフォレストリー

マカパ市内の家具業者

次号からプロジェクトの進捗状況などをお知らせします。