代数学演習 整数論入門 - 上越教育大学代数学演習 {整数論入門{中川仁...

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学演 2010 目次 1 平方三角数 2 2 ペル方程式 I 7 3 有理数で実数を近似する 8 4 ペル方程式 II 13 5 ユークリッドの互除法 18 6 実数の連分数展開 19 7 2 次無理数の連分数展開 27 8 ペル方程式 III 34 9 2 2 次形式の類数 (正の判別式) 41 10 2 2 次形式の類数 (負の判別式) 52 11 SL 2 (Z) の複素上半平面への作用 56 1

Transcript of 代数学演習 整数論入門 - 上越教育大学代数学演習 {整数論入門{中川仁...

代数学演習

– 整数論入門 –

中川 仁

2010年度後期

目 次

1 平方三角数 2

2 ペル方程式 I 7

3 有理数で実数を近似する 8

4 ペル方程式 II 13

5 ユークリッドの互除法 18

6 実数の連分数展開 19

7 2次無理数の連分数展開 27

8 ペル方程式 III 34

9 2元 2次形式の類数 (正の判別式) 41

10 2元 2次形式の類数 (負の判別式) 52

11 SL2(Z)の複素上半平面への作用 56

1

1 平方三角数平方数1, 4, 9, 16, 25, . . .は正方形に並べた点の個数になっている.

1 4 9 16 25

図 1: 平方数

三角数1, 3, 6, 10, 15, . . .は三角形に並べた点の個数になっている.

1 3 6 10 15

図 2: 三角数

そのとき,三角数の中に 1以外で平方数にもなるものがあるか,という自然な疑問がでてくる.三角数を求めていくと,

1, 3, 6, 10, 15, 21, 28, 36, . . .

であるから,36という平方数がみつかる.

36 = 62 = 1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8.

他にも解はあるだろうか.これを調べるためには,三角数を一般的に表す次の公式が必要になる.

1 + 2 + 3 + · · · + n =n(n + 1)

2. (1.1)

これは次のようにして求められる.S = 1 + 2 + 3 + · · · + nとおけば,

S = 1 + 2 + 3 + · · · + n − 1 + n

S = n + n − 1 + n − 2 + · · · + 2 + 1

2S = (n + 1) + (n + 1) + (n + 1) + · · · + (n + 1) + (n + 1)

= n(n + 1).

2

図 3: 三角数の求め方

したがって,S =n(n + 1)

2である.この計算は,次のように図を用いて説明できる.

三角数n(n + 1)

2が平方数m2であるとする.

m2 =n(n + 1)

2.

両辺に 8をかければ,

8m2 = 4n2 + 4n = (2n + 1)2 − 1, (2n + 1)2 − 2(2m)2 = 1

を得る.x = 2n + 1, y = 2mとおけば,

x2 − 2y2 = 1

となる.逆に,自然数 x, yが上の方程式を満たせば,x2 = 2y2 + 1より,x2は奇数であり,したがって,xは奇数である.x = 2n + 1とかけば,

4n2 + 4n + 1 = 2y2 + 1, y2 = 2n2 + 2n

である.これから,y2は偶数であり,したがって,yは偶数である.y = 2mとかけば,

4m2 = 2n2 + 2n, m2 =n(n + 1)

2

となり,平方数である三角数を得る.また,このとき,

n =x − 1

2, m =

y

2

である.以上によって,平方数である三角数 (以下,平方三角数とよぶ)を求めることは,方程式

x2 − 2y2 = 1 (1.2)

の自然数解 x, yを求めることと同じである.yが偶数の値をとるときの,2y2 + 1

の値を計算すれば,次の表を得る.

3

y 2 4 6 8 10 12 14 16 · · ·2y2 + 1 9 33 73 129 201 289 393 513 · · ·

x 3 17

y = 2, x = 3は平方三角数 1に対応し,y = 12, x = 17は平方三角数 36に対応する.これをもっと計算していくと,y = 70のとき,2y2 + 1 = 9801 = 992, x = 99

を得る.n =99 − 1

2= 49, m =

70

2= 35であり,492 =

35 × 36

2は平方三角数で

ある.492 = 1 + 2 + 3 + · · · + 34 + 35.

このような解は無数にあるか.あるとすると,どうやって求められるか.それは,√2を使うとうまくいく.x2 − 2y2 = 1の左辺は有理数の範囲では因数分解できないが,

√2を使うと,

(x + y√

2)(x − y√

2) = 1

とかきなおせる.これに,最小解である x = 3, y = 2を代入すると,

(3 + 2√

2)(3 − 2√

2) = 1 (1.3)

である.この両辺を 2乗してみる.(3 + 2

√2)2 (

3 − 2√

2)2

= 12 = 1.

ここで,(3 + 2

√2)2

= 32 + 2 · 3 · 2√

2 + (2√

2)2 = 9 + 12√

2 + 8 = 17 + 12√

2,(3 − 2

√2)2

= 32 − 2 · 3 · 2√

2 + (2√

2)2 = 9 − 12√

2 + 8 = 17 − 12√

2

であるから,

(17 + 12√

2)(17 − 12√

2) = 1,

172 − 2 × 122 = 1

となって,解 x = 17, y = 12を得る.(1.3)の両辺を 3乗してみる.(3 + 2

√2)3 (

3 − 2√

2)3

= 13 = 1.

ここで,(3 + 2

√2)3

=(3 + 2

√2)2

(3 + 2√

2) = (17 + 12√

2)(3 + 2√

2)

= 51 + 48 + (34 + 36)√

2 = 99 + 70√

2,(3 − 2

√2)3

=(3 − 2

√2)2

(3 − 2√

2) = (17 − 12√

2)(3 − 2√

2)

= 51 + 48 − (34 + 36)√

2 = 99 − 70√

2

4

であるから,

(99 + 70√

2)(99 − 70√

2) = 1,

992 − 2 × 702 = 1

となって,解 x = 99, y = 70を得る.一般に,次が成り立つ.

命題 1.1. 自然数 xk, yk (k = 1, 2, . . .)を(3 + 2

√2)k

= xk + yk

√2

によって定める.そのとき,方程式 (1.2)の自然数解はすべて (xk, yk), k = 1, 2, . . .

で与えられる.特に,方程式 (1.2)は無数に多くの自然数解を持つ.

[証明] (xk, yk), k = 1, 2, . . .が方程式 (1.2)を満たすことを kに関する帰納法で示す.k = 1のときは,明らか.k ≥ 1として,(xk, yk)が方程式 (1.2)を満たすとする.

xk+1 + yk+1

√2 =

(3 + 2

√2)k+1

=(3 + 2

√2)k

(3 + 2√

2)

= (xk + yk

√2)(3 + 2

√2)

= (3xk + 4yk) + (2xk + 3yk)√

2

より, {xk+1 = 3xk + 4yk,

yk+1 = 2xk + 3yk.(1.4)

そのとき,帰納法の仮定から,

x2k+1 − 2y2

k+1 = (3xk + 4yk)2 − 2(2xk + 3yk)

2

= 9x2k + 24xkyk + 16y2

k − 2(4x2k + 12xkyk + 9y2

k)

= x2k − 2y2

k = 1.

したがって,帰納法により,すべての k = 1, 2, . . .に対して,(xk, yk)は方程式 (1.2)

の解である.次に,方程式 (1.2)の任意の自然数解 (u, v)をとる.α = u+v

√2とおけば,v ≥ 2

であるから,α =

√2v2 + 1 + v

√2 ≥ 3 + 2

√2

である.したがって,自然数 kを(3 + 2

√2)k

≤ α <(3 + 2

√2)k+1

(1.5)

5

となるように定められる.

(xk + yk

√2)(xk − yk

√2) = x2

k − 2y2k = 1

より,1

(3 + 2√

2)k=

1

xk + yk

√2

= xk − yk

√2

である.したがって,不等式 (1.5)に1

(3 + 2√

2)k= xk − yk

√2をかけて,

1 ≤ α(xk − yk

√2) < 3 + 2

√2

を得る.ここで,

β =α

xk + yk

√2

= α(xk − yk

√2) = s + t

√2, s, t ∈ Z

とおけば,

β = (u + v√

2)(xk − yk

√2)

= (uxk − 2vyk) + (vxk − uyk)√

2.

よって,s = uxk − 2vyk, t = vxk − uykである.

s2 − 2t2 = (uxk − 2vyk)2 − 2(vxk − uyk)

2

= u2x2k − 4uvxkyk + 4v2y2

k − 2(v2x2k − 2uvxkyk + u2y2

k)

= (u2 − 2v2)x2k − 2(u2 − 2v2)y2

k = (u2 − 2v2)(x2k − 2y2

k)

= 1.

したがって,(s + t√

2)(s − t√

2) = 1である.1 ≤ s + t√

2であるから,s + t√

2

の逆数 s − t√

2は 1以下の正の実数である.よって,1 ≤ s + t√

2 < 3 + 2√

2,

0 < s − t√

2 ≤ 1より,

1 < 2s < 4 + 2√

2,1

2< s < 2 +

√2.

これから,s = 1, 2, 3である.s2 − 2t2 = 1となる整数 tがあるのは,s = 1で,t = 0のときだけである.ゆえに,β = 1, α = xk + yk

√2, u = xk, v = yk であ

る.

注意 1.2. 漸化式 (1.4)によって,(xk, yk)を計算すれば次の表を得る.ここで,m2 =

n(n + 1)/2は n = (x− 1)/2, m = y/2によって,(xk, yk)に対応する平方三角数である.

6

k xk yk 3xk 4yk 2xk 3yk n m m2 = n(n+1)2

1 3 2 9 8 6 6 1 1 1

2 17 12 51 48 34 36 8 6 36

3 99 70 297 280 198 210 49 35 1225

4 577 408 1731 1632 1154 1224 288 204 41616

5 3363 2378 10089 9512 6726 7134 1681 1189 1413721

6 19601 13860 58803 55440 19601 13860 9800 6930 48024900

2 ペル方程式 I

前節では方程式 x2 − 2y2 = 1の自然数解について調べた.これはペル方程式と呼ばれる,次の形の方程式

x2 − Dy2 = 1 (2.1)

の特別な場合であった.ここで,Dは平方数でない自然数である.D = 2の場合と同様に,最小解があれば,それを (x1, y1)とし,(xk, yk) (k = 1, 2, . . .)を

(x1 + y1

√D)k = xk + yk

√D

によって定めれば,方程式 (2.1)の自然数解はすべて,(xk, yk) (k = 1, 2, . . .)で与えられることが全く同様にして証明される.したがって,問題は,自然数解があるかどうか,自然数解の存在が一般的に証明できたとしたら,最小解を求めるにはどうすればよいかである.D = 2, 3, 5, 6, 7, 8, 10, 11, 12, 13について最小解を計算してみると次のようになっている.

D x y

2 3 2

3 2 1

5 9 4

6 5 2

7 8 3

8 3 1

10 19 6

11 10 3

12 7 2

13 649 180

D = 61のとき,x2 − 61y2 = 1の最小解は x = 1766319049, y = 226153980である.

7

3 有理数で実数を近似するペル方程式 (2.1)の自然数解を求めるとき,我々は

√Dを用いて,方程式を次の

ように変形した.(x + y

√D)(x − y

√D) = 1.

x, yが大きな自然数のとき,x + y√

Dは大きな実数であり,したがって,その逆数である

x − y√

D =1

x + y√

D

は 0に近い実数になる.そこで,ペル方程式の大きな自然数解について考えることと関連して,x − y

√Dをどれくらい小さく (0に近く)できるかという問題が生

じる.もし,x − y√

Dを非常に小さくとれれば,x, yはペル方程式の解を与えるかもしれない (実際はそうではないが,そのような x, yの組をうまく 2つ選べば,それからペル方程式の解が得られる).まず,自然数 yを任意にとるとき,自然数 xを

|x − y√

D| ≤ 1

2

となるようにとれる.実際,xをy√

Dに最も近い整数とすればよい.これをD = 13

の場合に実験してみよう.結果は表 1のようになる.この結果から,|x − y

√13|は y = 19や y = 24のときのように,ときどき,1/2

に近いときもあれば,y = 5, y = 28, y = 33, y = 38のときのように,ときにはたいへん小さくなることがわかる.誤差を |x− y

√13|yでおきかえた表は次のように

なる.表 2で,|x − y

√13|y < 1である部分を抜き出した表が表 3である.これをみる

と,|x2 − 13y2|は非常に小さな値になっている.不等式 |x− y√

13|y < 1を満たすような自然数 x, yが存在することを証明しよう.それには,鳩の巣原理,部屋割り論法,引き出し論法等と呼ばれる方法を用いる.それは次のような当たり前の原理である.

• N 個の鳩の巣があり,N + 1羽以上の鳩がいれば,2羽以上の鳩が入っている巣が少なくとも 1つ存在する.

• 空室がN室あるホテルに,N + 1人以上の団体客が宿泊するとき,少なくとも 1室には 2人以上宿泊することになる.

• 引き出しがN 個あるとき,N + 1個以上のものを引き出しに入れるとすると,少なくとも 1つの引き出しには 2個以上のものを入れなければならない.

練習問題 3.1. 表 1の最初の 5行から,図 4のような図が得られる.6羽の鳩,鳩0から鳩 5がそれぞれどの巣に入るか矢印で示せ.

8

x y |x − y√

13| x2 − 13y2

4 1 0.394449 3

7 2 0.211103 -3

11 3 0.183346 4

14 4 0.422205 -12

18 5 0.027756 -1

22 6 0.366692 16

25 7 0.238859 -12

29 8 0.155590 9

32 9 0.449961 -29

36 10 0.055513 -4

40 11 0.338936 27

43 12 0.266615 -23

47 13 0.127833 12

50 14 0.477718 -48

54 15 0.083269 -9

58 16 0.311180 36

61 17 0.294372 -36

65 18 0.100077 13

69 19 0.494526 68

72 20 0.111026 -16

x y |x − y√

13| x2 − 13y2

76 21 0.283423 43

79 22 0.322128 -51

83 23 0.072321 12

87 24 0.466769 81

90 25 0.138782 -25

94 26 0.255667 48

97 27 0.349884 -68

101 28 0.044564 9

105 29 0.439013 92

108 30 0.166538 -36

112 31 0.227910 51

115 32 0.377641 -87

119 33 0.016808 4

123 34 0.411257 101

126 35 0.194295 -49

130 36 0.200154 52

133 37 0.405397 -108

137 38 0.010948 -3

141 39 0.383500 108

144 40 0.222051 -64

表 1: |x − y√

13|

この原理を我々の場合には次のように適用する.D > 1を平方数でない自然数とする.N を大きな自然数とする.

√Dの整数倍 0

√D, 1

√D, 2

√D, 3

√D, . . .,

N√

Dを整数部分と小数部分の和として次のようにかく.

0√

D = a0 + P0, a0は整数, 0 ≤ P0 < 1,

1√

D = a1 + P1, a1は整数, 0 ≤ P1 < 1,

2√

D = a2 + P2, a2は整数, 0 ≤ P2 < 1,

3√

D = a3 + P3, a3は整数, 0 ≤ P3 < 1,

...

N√

D = aN + PN , aNは整数, 0 ≤ PN < 1.

そのとき,N + 1個の実数 (N + 1羽の鳩) P0, P1, . . . , PN がある.これらはすべて区間 0 ≤ t < 1に入っている.そこで,区間 0 ≤ t < 1をN 等分して得られるN

9

x y |x − y√

13|y x2 − 13y2

4 1 0.394449 3

7 2 0.422205 -3

11 3 0.550039 4

14 4 1.688820 -12

18 5 0.138782 -1

22 6 2.200154 16

25 7 1.672012 -12

29 8 1.244718 9

32 9 4.049653 -29

36 10 0.555128 -4

40 11 3.728296 27

43 12 3.199384 -23

47 13 1.661834 12

50 14 6.688050 -48

54 15 1.249037 -9

58 16 4.978873 36

61 17 5.004319 -36

65 18 1.801387 13

69 19 9.395990 68

72 20 2.220510 -16

x y |x − y√

13|y x2 − 13y2

76 21 5.951888 43

79 22 7.086817 -51

83 23 1.663375 12

87 24 11.202465 81

90 25 3.469547 -25

94 26 6.647338 48

97 27 9.446880 -68

101 28 1.247800 9

105 29 12.731377 92

108 30 4.996148 -36

112 31 7.065224 51

115 32 12.084506 -87

119 33 0.554661 4

123 34 13.982726 101

126 35 6.800312 -49

130 36 7.205547 52

133 37 14.999696 -108

137 38 0.416042 -3

141 39 14.956510 108

144 40 8.882041 -64

表 2: |x − y√

13|y

個の区間 (N 個の鳩の巣)を

I1 =

{t ∈ R

∣∣∣∣0 ≤ t <1

N

},

I2 =

{t ∈ R

∣∣∣∣ 1

N≤ t <

2

N

},

I3 =

{t ∈ R

∣∣∣∣ 2

N≤ t <

3

N

},

...

IN =

{t ∈ R

∣∣∣∣N − 1

N≤ t < 1

}とする.N +1個の実数P0, P1, . . . , PN はN個の区間 I1, I2, . . . , IN のどれかに入っているから,鳩の巣原理によって,少なくとも 2つの実数が入っている区間が存在する.よって,ある区間 Ikに実数PmとPn (0 ≤ m < n ≤ N)が入っている.そ

10

x y |x − y√

13|y x2 − 13y2

4 1 0.394449 3

7 2 0.422205 -3

11 3 0.550039 4

18 5 0.138782 -1

36 10 0.555128 -4

119 33 0.554661 4

137 38 0.416042 -3

表 3: |x − y√

13|y < 1

のとき,k − 1

N≤ Pm <

k

N,

k − 1

N≤ Pn <

k

N

であるから,

|Pm − Pn| <1

N

である.m√

D = am + Pm, n√

D = an + Pn であるから,Pm = m√

D − am,

Pn = n√

D − anを上の不等式に代入して,

|m√

D − am − (n√

D − an)| <1

N,

|(an − am) − (n − m)√

D| <1

N.

x = an − am, y = n − mとおけば,x, y ∈ Zであり,

|x − y√

D| <1

N

である.m < nであるから,y > 0である.さらに,上の不等式が成り立つことから,x > 0である.実際,もし,x ≤ 0ならば,

1 ≤ |y| < |x| + |y|√

D = |x − y√

D| <1

N

となって矛盾である.また,0 ≤ m < n ≤ N より,y = n−m ≤ N である.以上によって,自然数 x, yで,

y ≤ N, |x − y√

D| <1

N

を満たすものが存在することが証明された.特に,0 < y ≤ N より,1

N≤ 1

yであ

り,したがって,

y ≤ N, |x − y√

D| <1

y

11

鳩 0 鳩 1 鳩 2 鳩 3 鳩 4 鳩 5

0.00000 0.60555 0.21110 0.81665 0.42221 0.02776

鳩の巣 1 鳩の巣 2 鳩の巣 3 鳩の巣 4 鳩の巣 5

0 ≤ t < 15

15≤ t < 2

525≤ t < 3

535≤ t < 4

545≤ t < 1

図 4: 鳩の巣原理

である.さらに,N を大きくとるたびに新たな xと yが得られる.なぜならば,x

と yを定めたとき,√

Dは無理数であるから,|x− y√

D| > 0である.したがって,N ′を十分大きくとれば,

|x − y√

D| >1

N ′

となる.このようなN ′に対して,新たな自然数 x′, y′で,

y′ ≤ N ′, |x′ − y′√

D| <1

N ′ < |x − y√

D|

となるものが存在する.以上によって,次の定理が得られた.

定理 3.1 (ディリクレの近似定理 バージョン 1). D > 1を平方数でない自然数とすれば,不等式

|x − y√

D| <1

y

を満たす自然数 x, yが無数に存在する.

この定理の証明で,√

Dが Dの平方根であることは使われていない.よって,√Dを任意の正の無理数 αでおきかえても全く同じ結果になる.よって,次の定理が得られた.

定理 3.2 (ディリクレの近似定理 (バージョン 2)). αを正の無理数とすれば,不等式

|x − yα| <1

y

を満たす自然数 x, yが無数に存在する.

12

例えば,αとして円周率

π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 · · ·

をとると,不等式 |x − yπ| <1

yを満たす自然数の組 (x, y)で互いに素なものは

y ≤ 500の範囲では,表 4の 5組しかない.6番目の組は x = 103993, y = 33102

である.有理数22

7,

355

113は πに非常に近く,それぞれ,3.14, 3.141592まで一致し

ている.ここでは,無理数 α > 0に対して,yαを計算し,それに最も近い整数 xをとって,|x − yα|y < 1であるものを見つけるという,力まかせの方法で,無理数をよく近似する有理数をに求めてきた.もっと効率のよい方法は連分数を用いるものである.

x y |x − yπ|y x/y

3 1 0.141593 3.00000000

19 6 0.902664 3.16666667

22 7 0.061959 3.14285714

333 106 0.935056 3.14150943

355 113 0.003406 3.14159292

表 4: |x − yπ|y < 1, gcd(x, y) = 1

4 ペル方程式 II

ペル方程式x2 − Dy2 = 1

の解を見つける問題に戻る.前節で見たように,この自然数解は |x−y√

D|を小さくするような組 (x, y)の中から探すべきである.なぜならば,ペル方程式の解は,∣∣∣x − y

√D∣∣∣ =

1∣∣∣x + y√

D∣∣∣ <

1

y

を満たすからである.しかし,不等式∣∣∣x − y

√D∣∣∣ < 1

yを満たしても,ペル方程式

の解になるかは保証されない.そこで,新たなアイディアが必要になる.これから使うアイディアは,不等式 |x− y

√D| < 1/yを満たすものから x2 −Dy2の値が

同じになる組を 2つとって,それらの「わり算」をするというものである.

13

D = 13を例として説明しよう.表1より,(x1, y1) = (11, 3)と (x2, y2) = (119, 33)

はともに x2 − 13y2 = 4の解である.そこで,次のようなわり算をする.

119 − 33√

13

11 − 3√

13=

(119 − 33√

13)(11 + 3√

13)

(11 − 3√

13)(11 + 3√

13)

=22 − 6

√13

4=

11 − 3√

13

2.

組 (11/2, 3/2)はペル方程式 x2 − 13y2 = 1の解であるが,整数解ではない!別のわり算,あるいは別の組でやったらどうか.

119 + 33√

13

11 − 3√

13=

(119 + 33√

13)(11 + 3√

13)

(11 − 3√

13)(11 + 3√

13)

=2596 + 720

√13

4= 649 + 180

√13.

(x, y) = (649, 180)ははペル方程式 x2 − 13y2 = 1の解である!今度はなぜうまくいったか.それは,

119 ≡ 11 (mod 4), 33 ≡ −3 (mod 4)

であるからである.

定理 4.1. D > 1を平方数でない自然数とする.そのとき,ペル方程式

x2 − Dy2 = 1

はいつでも自然数解を持つ.(x1, y1)を最小解 (xが最小になる解 )として,自然数xk, yk (k = 1, 2, . . .)を

(x1 + y1

√D)k = xk + yk

√D

によって定めれば,(xk, yk), k = 1, 2, . . .はペル方程式のすべての自然数解を与える.

[証明] ディリクレの近似定理 (定理 3.1)によって,自然数の組 (x, y)で,不等式∣∣∣x − y√

D∣∣∣ < 1

y(4.1)

を満たすものが無数に存在する.(x, y)をそのような組とすると,

x − y√

D <1

y,

x < y√

D +1

y,

x + y√

D < 2y√

D +1

y< 3y

√D.

14

したがって,∣∣x2 − Dy2∣∣ =

∣∣∣x − y√

D∣∣∣ · ∣∣∣x + y

√D∣∣∣ < 1

y

(3y

√D)

= 3√

D

である.よって,T を 3√

Dを超えない最大の整数とすれば,不等式 (4.1)を満たす無数に存在する自然数の組 (x, y)に対して,x2 −Dy2の値は 0にならないから,

−T, −T + 1, . . . , −1, 1, . . . , T − 1, T

のいずれかである.鳩の巣原理によって,これらの 2T 個のいずれかは,x2 −Dy2

がその値をとるような (4.1)を満たす自然数の組 (x, y) が無数に存在する.すなわち,整数M = 0, |M | ≤ T が存在して,「ペル風」方程式

x2 − Dy2 = M

が自然数解を無数に持つ.この解のリスト (無限に続く)を

(X1, Y1), (X2, Y2), (X3, Y3), . . .

とする.そのとき,Xiを |M |で割った余りをAi, Yiを |M |で割った余りをBiとすると, Ai, Bi ∈ {0, 1, . . . , |M | − 1}である.したがって,整数の組 (A,B)で,0 ≤ A,B ≤ |M | − 1を満たすものはM2個しかないから,再び鳩の巣原理によって,そのようなある組 (A,B)に対して,(Ai, Bi) = (A, B)となる iが無数に存在する.すなわち,

X2 − DY 2 = M, X ≡ A (mod |M |), Y ≡ B (mod |M |)

を満たす自然数の組 (X, Y )が無数に存在する.そのような 2つの組 (Xj, Yj)と(Xk, Yk)をとると,

X2k − DY 2

k = M, Xk ≡ A (mod |M |), Yk ≡ B (mod |M |),X2

j − DY 2j = M, Xj ≡ A (mod |M |), Yj ≡ B (mod |M |)

である.そのとき,x, yを

x + y√

D =Xj − Yj

√D

Xk − Yk

√D

=(XjXk − DYjYk) + (XjYk − XkYj)

√D

X2k − DY 2

k

,

x =XjXk − DYjYk

M, y =

XjYk − XkYj

M

15

によって定める.まず,この x, yがペル方程式 x2 − Dy2 = 1を満たすことを確かめる.

x2 − Dy2 =

(XjXk − DYjYk

M

)2

− D

(XjYk − XkYj

M

)2

=X2

j X2k − 2DXjXkYjYk + D2Y 2

j Y 2k − D(X2

j Y 2k − 2XjXkYjYk + X2

kY 2j )

M2

=(Xj − DY 2

j )(X2k − DY 2

k )

M2=

M · MM2

= 1.

次に,x, y ∈ Zであることを確かめる.

XjXk − DYjYk ≡ X2j − DY 2

j = M ≡ 0 (mod |M |),XjYk − XkYj ≡ XjYj − XjYj = 0 (mod |M |).

よって,x ∈ Z, y ∈ Zである.必要があれば,負の符号のものは置き換えて,x, y ≥ 0としてよい.そのとき,もし,x = 0ならば,−Dy2 = 1となって矛盾である.よって,x ≥ 1である.もし,y = 0とすると,XjYk − XkYj = 0になり,

Y 2k M = Y 2

k (X2j − DY 2

j ) = (XjYk)2 − D(YjYk)

2

= (XkYj)2 − D(YjYk)

2 = Y 2j (X2

k − DY 2k )

= Y 2j M,

Yk = Yj (Yj, Yk > 0).

これは,(Xj, Yj)と (Xk, Yk)が異なる組であることに矛盾する.ゆえに,y ≥ 1であり,ペル方程式の自然数解の存在が証明された.後半は,D = 2のときと同様である.(xk, yk), k = 1, 2, . . .がペル方程式 x2 −

Dy2 = 1の解であることを kに関する帰納法で示す.k = 1のときは,明らか.k ≥ 1として,x2

k − Dy2k = 1であるとする.

xk+1 + yk+1

√D = (x1 + y1

√D)k+1 = (x1 + y1

√D)k(x1 + y1

√D)

= (xk + yk

√D)(x1 + y1

√D)

= (x1xk + Dy1yk) + (y1xk + x1yk)√

D

より, {xk+1 = x1xk + Dy1yk,

yk+1 = y1xk + x1yk.(4.2)

16

そのとき,帰納法の仮定から,

x2k+1 − Dy2

k+1 = (x1xk + Dy1yk)2 − D(y1xk + x1yk)

2

= x21x

2k + 2Dx1y1xkyk + D2y2

1y2k − D(y2

1x2k + 2x1y1xkyk + x2

1y2k)

= (x21 − Dy2

1)x2k − D(x2

1 − Dy21)y

2k

= (x21 − Dy2

1)(x2k − Dy2

k) = 1 · 1 = 1.

したがって,帰納法により,すべての k = 1, 2, . . .に対して,(xk, yk)はペル方程式 x2 − Dy2 = 1の解である.次に,ペル方程式 x2 − Dy2 = 1の任意の自然数解 (u, v)をとる.α = u + v

√D

とおけば,v ≥ y1であるから,

α =√

Dv2 + 1 + v√

D ≥√

Dy21 + 1 + y1

√D = x1 + y1

√D

である.したがって,自然数 kを

(x1 + y1

√D)k ≤ α <(x1 + y1

√D)k+1 (4.3)

となるように定められる.

(xk + yk

√D)(xk − yk

√D) = x2

k − Dy2k = 1

より,1

(x1 + y1

√D)k

=1

xk + yk

√D

= xk − yk

√D

である.したがって,不等式 (4.3)に1

(x1 + y1

√D)k

= xk − yk

√Dをかけて,

1 ≤ α(xk − yk

√D) < x1 + y1

√D

を得る.ここで,

β =α

xk + yk

√D

= α(xk − yk

√D) = s + t

√D, s, t ∈ Z

とおけば,

β = (u + v√

D)(xk − yk

√D)

= (uxk − Dvyk) + (vxk − uyk)√

D.

よって,s = uxk − Dvyk, t = vxk − uykである.

s2 − Dt2 = (uxk − Dvyk)2 − D(vxk − uyk)

2

= u2x2k − 2Duvxkyk + D2v2y2

k − D(v2x2k − 2uvxkyk + u2y2

k)

= (u2 − Dv2)x2k − D(u2 − Dv2)y2

k = (u2 − Dv2)(x2k − Dy2

k)

= 1.

17

したがって,(s+ t√

D)(s− t√

D) = 1である.1 ≤ s+ t√

Dであるから,s+ t√

D

の逆数 s− t√

Dは 1以下の正の実数である.よって,1 ≤ s + t√

D < x1 + y1

√D,

0 < s − t√

D ≤ 1より,t ≥ 0,

1 < 2s < 1 + x1 + y1

√D

である.Dy21 < Dy2

1 + 1 = x21より,y1

√D < x1である.ゆえに,

1 < 2s < 1 + 2x1,1

2< s < x1 +

1

2

である.sは自然数であるから,1 ≤ s ≤ x1である.これから,s = 1, 2, 3である.s2 − 2t2 = 1となる整数 tがあるのは,s = 1で,t = 0のときだけである.ゆえに,β = 1, α = xk + yk

√D, u = xk, v = ykである.もし,s = x1とすると,

s2−Dt2 = x21−Dy2

1 = 1より,t = y1であり,これは,s+ t√

D < x1 +y1

√Dに矛

盾する.ゆえに,s < x1である.しかし,このとき,t2D = s2 − 1 < x21 − 1 = y2

1D

より,0 ≤ t < y1であり,(x1, y1)が最小解であることから,t = 0, s = 1である.ゆえに,β = 1, α = xk + yk

√D, u = xk, v = ykである.

5 ユークリッドの互除法整数 a, bの最大公約数を gcd(a, b)で表す.例えば,35と 21の最大公約数は,35

の約数は,1, 5, 7, 35であり,21の約数は,1, 3, 7, 21であるから,公約数は 1, 7であり,最大公約数は 7である.しかし,二つの大きな数の最大公約数,例えば,2009

と 820の最大公約数はどうやって求められるだろうか.

補題 5.1. 自然数a, bに対して,aを bで割ったときの余りを rとすれば,gcd(a, b) =

gcd(b, r)が成り立つ.

[証明] m = gcd(a, b), n = gcd(b, r)とおく.aを bで割ったときの商を q とすれば,a = bq + r. a = ma′, b = mb′, a′, b′は整数とかける.そのとき,r =

a − bq = ma′ − mb′q = m(a′ − b′q).よって,mは bと rの公約数である.したがって,n ≥ m. 同様に,b = nb′′, r = nr′′, b′′, r′′ は整数とかける.そのとき,a = bq + r = nb′′q + nr′′ = n(b′′q + r′′). よって,nは aと bの公約数である.したがって,m ≥ n. ゆえに,m = n.

定理 5.2 (Euclidの互除法). 自然数 a, bに対して,

a = bq0 + r1, 0 < r1 < b,

b = r1q1 + r2, 0 < r2 < r1,

r1 = r2q2 + r3, 0 < r3 < r2,

· · · · · · · · ·rn−2 = rn−1qn−1 + rn, 0 < rn < rn−1,

rn−1 = rnqn (割り切れたとき)

18

であるとすると,gcd(a, b) = rn.

[証明] 補題 5.1によって,gcd(a, b) = gcd(b, r1)である.これを繰り返せば,

gcd(a, b) = gcd(b, r1) = gcd(r1, r2) = · · · = gcd(rn−1, rn) = rn.

例 5.3. 2009と 820の最大公約数を求める.

2009 = 820 × 2 + 369,

820 = 369 × 2 + 82,

369 = 82 × 4 + 41,

82 = 41 × 2.

したがって,gcd(2009, 820) = 41である.

6 実数の連分数展開

円周率 πの近似分数として,22

7,

355

113が知られている.また,

√3の近似分数と

して,71

41,

265

153,√

13の近似分数として,119

33,

393

109があげられる.

22

7= 3.1428571 · · · ,

355

113= 3.1415929 · · · ,

π = 3.1415926 · · · ,

71

41= 1.7317073 · · · ,

265

153= 1.7320261 · · · ,

√3 = 1.7320508 · · · ,

119

33= 3.6060606 · · · ,

393

109= 3.6055045 · · · ,

√13 = 3.6055512 · · · .

これらは,分母が比較的小さいにもかかわらず,非常によい近似になっている.このような近似分数はどのようにして求められるのだろうか.それは,連分数によって求められるのである.

19

ユークリッドの互除法を見直してみる.gcd(31, 23)を求める.

31 = 23 × 1 + 8,

23 = 8 × 2 + 7,

8 = 7 × 1 + 1.

これから,gcd(31, 23) = 1を得る.この計算を書き直して,31

23= 1 +

8

23,

23

8= 2 +

7

8,

8

7= 1 +

1

7.

したがって,31

23= 1 +

8

23= 1 +

1

2 +7

8

= 1 +1

2 +1

1 +1

7

.

一般に,a

b= a0 +

r1

b, 0 ≤ r1

b< 1,

b

r1

= a1 +r2

r1

, 0 ≤ r2

r1

< 1,

r1

r2

= a2 +r3

r2

, 0 ≤ r3

r2

< 1,

· · · · · · · · ·rn−2

rn−1

= an−1 +rn

rn−1

, 0 ≤ rn

rn−1

< 1,

rn−1

rn

= an.

これから,

a

b= a0 +

r1

b= a0 +

1

b

r1

= a0 +1

a1 +r2

r1

· · · · · · · · ·

= a0 +1

a1 +1

a2 +1

. . .1

an−1 +1

an

20

を得る.この右辺の形の分数を連分数といい,記号 [a0, a1, . . . , an]で表す.例えば,31

23= [1, 2, 1, 7].

上の計算において,有理数 α =a

bに対して,整数 aiと有理数 αi =

ri−1

ri

α0 = α, ai = [αi], αi+1 =1

αi − ai

(6.1)

によって定まる.ここで,実数 αに対して,[α]は,ガウス記号といい,

m ≤ α < m + 1

を満たす整数mを表す.したがって,αが無理数のときでも (6.1)によって,整数aiと実数 αiを定めることができる.そのとき,αが無理数であることから,常に0 < αi − ai < 1であり,この計算は無限に続く.

αi = ai +1

αi+1

であるから,

α = a0 +1

a1 +1

a2 +1

. . .1

an−1 +1

αn

(6.2)

である.この右辺も,記号 [a0, a1, . . . , an−1, αn]で表す.定義から,αi > 1 (i ≥ 1),

ai ≥ 1 (i ≥ 1)である.p0 = a0, p1 = a0a1 + 1, q0 = 1, q1 = a1とおき, n ≥ 2に対して,漸化式{

pn = anpn−1 + pn−2,

qn = anqn−1 + qn−2

(6.3)

によって数列 {pn}, {qn}を定める.明らかに,qnは正の整数であり,qn > qn−1

(n ≥ 2)である.また,次が成り立つ.

補題 6.1.pn

qn

= [a0, a1, . . . , an].

[証明] [a0, a1, . . . , an]において,最後の anのところを実数値をとる変数 tにしたものを考え,

[a0, a1, . . . , an−1, t] =pn−1t + pn−2

qn−1t + qn−2

(n ≥ 2) (6.4)

21

を nに関する帰納法で証明する.n = 2の場合は,直接計算して,

[a0, a1, t] = a0 +1

a1 +1

t

= a0 +t

a1t + 1=

(a0a1 + 1)t + a0

a1t + 1=

p1t + p0

q1t + q0

.

n = kのとき,(6.4)が成り立つとする:

[a0, a1, . . . , ak−1, t] =pk−1t + pk−2

qk−1t + qk−2

.

n = k + 1のとき,

[a0, a1, . . . , ak−1, ak, t] =

[a0, a1, . . . , ak−1, ak +

1

t

]=

pk−1

(ak +

1

t

)+ pk−2

qk−1

(ak +

1

t

)+ qk−2

=akpk−1 + pk−2 +

pk−1

t

akqk−1 + qk−2 +qk−1

t

=(akpk−1 + pk−2)t + pk−1

(akqk−1 + qk−2)t + qk−1

=pkt + pk−1

qkt + qk−1

.

よって,n = k + 1のときも (6.4)は成り立ち,すべての自然数 n ≥ 2に対して,(6.4)が成り立つ.(6.4)で,t = anとおけば,

[a0, a1, . . . , an−1, an] =anpn−1 + pn−2

anqn−1 + qn−2

=pn

qn

.

(6.2)と (6.4)より,

α = [a0, a1, . . . , an−1, αn] =pn−1αn + pn−2

qn−1αn + qn−2

(n ≥ 2). (6.5)

補題 6.2. pnqn−1 − pn−1qn = (−1)n−1 (n ≥ 1).

[証明] これも nに関する帰納法で証明する.n = 1のとき,

p1q0 − p0q1 = (a0a1 + 1)1 − a0a1 = 1

であるから,成り立つ.n = kのとき成り立つとする.

pkqk−1 − pk−1qk = (−1)k−1.

n = k + 1のとき,

pk+1qk − pkqk+1 = (ak+1pk + pk−1)qk − pk(ak+1qk + qk−1)

= pk−1qk − pkqk−1 = (−1)(pkqk−1 − pk−1qk)

= (−1)(−1)k−1 = (−1)k.

よって,n = k + 1のときも成り立つ.したがって,すべての自然数 nに対して,補題 6.2が成り立つ.

22

系 6.3.pn

qn

は既約分数である.

[証明] 補題 6.2より,gcd(pn, qn) = 1である.補題 6.2の両辺を qn−1qnで割れば,

pn

qn

− pn−1

qn−1

=(−1)n−1

qn−1qn

(6.6)

を得る.次の等式も成り立つ.

補題 6.4. pnqn−2 − pn−2qn = (−1)nan (n ≥ 2).

[証明]

pnqn−2 − pn−2qn = (−1)nan = (anpn−1 + pn−2)qn−2 − pn−2(anqn−1 + qn−2)

= an(pn−1qn−2 − pn−2qn−1) (補題 6.2を用いると)

= an(−1)n−2 = (−1)nan.

補題 6.4の両辺を qn−2qnで割れば,

pn

qn

− pn−2

qn−2

=(−1)nan

qn−2qn

(n ≥ 2). (6.7)

を得る.この等式から,nが奇数ならば,

pn

qn

− pn−2

qn−2

< 0,pn

qn

<pn−2

qn−2

であり,nが偶数ならば,

pn

qn

− pn−2

qn−2

> 0,pn

qn

>pn−2

qn−2

である.したがって,p2n−1

q2n−1

< · · · <p3

q3

<p1

q1

,

p0

q0

<p2

q2

< · · · <p2n

q2n

である.また,(6.6)から,

p2n

q2n

− p2n−1

q2n−1

=(−1)2n−1

q2n−1q2n

< 0,p2n

q2n

<p2n−1

q2n−1

であるから,p0

q0

<p2

q2

< · · · <p2n

q2n

<p2n−1

q2n−1

< · · · <p3

q3

<p1

q1

23

である.したがって,数列{

p2n

q2n

}は上に有界な単調増加数列であり,ある極限値

に収束する.同様に,数列{

p2n−1

q2n−1

}は下に有界な単調減少数列であり,ある極限

値に収束する.p2n

q2n

− p2n−1

q2n−1

=(−1)2n−1

q2n−1q2n

→ 0 (n → ∞)

であるから,これらの極限値は一致する.この極限値がαであることを示そう.実際,(6.2)から,α = [a0, a1, . . . , an, αn+1]であるから,(6.4), 補題 6.2より,

pn

qn

− α =pn

qn

− pnαn+1 + pn−1

qnαn+1 + qn−1

=pnqn−1) − pn−1qn

qn(qnαn+1 + qn−1)

=(−1)n−1

qn(qnαn+1 + qn−1).

ここで,αn+1 > an+1であるから,

qnαn+1 + qn−1 ≥ an+1qn + qn−1 = qn+1 > qn

である.したがって, ∣∣∣∣pn

qn

− α

∣∣∣∣ < 1

qnqn+1

<1

q2n

(6.8)

が成り立つ.したがって,lim

n−→∞

pn

qn

= α (6.9)

が成り立つ.そこで,α = [a0, a1, a2, . . .]

とかき,これを αの連分数展開という.

例 6.5. α =√

2とすれば,

α0 =√

2, a0 = [√

2] = 1,

α1 =1√

2 − 1=

√2 + 1, a1 = [

√2 + 1] = 2,

α2 =1√

2 + 1 − 2=

√2 + 1, a2 = [

√2 + 1] = 2,

. . . . . .

αn =√

2 + 1, an = 2.

したがって,√

2は循環する連分数√

2 = [1, 2, 2, . . .] = [1, 2]

24

として表せる.有理数を連分数展開すれば,ユークリッドの互除法によって,有限連分数になる.

√2は循環する無限連分数に展開されたから,

√2は有理数では

なく,無理数である.(6.3)より,p0 = 1, p1 = 3, q0 = 1, q1 = 2, n ≥ 2に対して,

pn = 2pn−1 + pn−2,

qn = 2qn−1 + qn−2,

n 0 1 2 3 4 5 6

pn 1 3 7 17 41 99 239

qn 1 2 5 12 29 70 169

pn/qn 1 1.5 1.4 1.416 · · · 1.413 · · · 1.41428 · · · 1.41420 · · ·

である.大きさの順に並べると,

1 <7

5<

41

29<

239

169<

99

70<

17

12<

3

2

である.

命題 6.6. α > 1を無理数とする.p, q, r, s ∈ Z, q ≥ s > 0, ps − qr = ±1とし,

β =pα + r

qα + sとおく.そのとき,αの連分数展開は βの連分数展開の最初の何項か

を取り除いたものである:

β = [a0, a1, . . . , an−1, an, an−1, . . .], α = [an, an−1, . . .].

[証明] 有理数p

qの連分数展開を

p

q= [a0, a1, . . . , an−1] (n ≥ 1)

とする.ここで,nは偶数,奇数のいずれにもとれる.実際,

p

q=

{[a0, a1, . . . , an−1 − 1, 1], an−1 > 1 または n = 1,

[a0, a1, . . . , an−2 + 1], an−1 = 1 かつ n ≥ 2

とかける.よって,n ≥ 1を (−1)n = ps − qrとなるようにとる.もし,n = 1ならば,p = a0q, q(a0s− r) = −1, q > 0より,q = 1である.q ≥ s > 0より,s = 1,

a0 − r = −1, r = a0 + 1である.そのとき,

β =a0α + a0 + 1

α + 1= a0 +

1

1 + α.

したがって,α = [a2, a3, . . .]とすれば,β = [a0, 1, a2, a3, . . .]である.

25

n ≥ 2とする.p0 = a0, p1 = a1, q0 = 1, q1 = a1とし,i = 2, . . . , n− 1に対して,

pi = aipi−1 + pi−2,

qi = aiqi−1 + qi−2

とおけば,補題 6.1より,p

q= [a0, a1, . . . , an−1] =

pn−1

qn−1

である.これらはともに分

母が正の既約分数であるから,p = pn−1, q = qn−1である.また,nのとり方と補題 6.2より,

pn−1qn−2 − pn−2qn−1 = (−1)n−2 = ps − qr

である.したがって,

pqn−2 − pn−2q = ps − qr, p(qn−2 − s) = q(pn−2 − r)

である.gcd(p, q) = 1であるから,q|qn−2 − sである.0 < qn−2 ≤ qn−1 = q,

0 < s ≤ qより,|qn−2 − s| < qである.これが qで割りきれるから,qn−2 − s = 0,

qn−2 = sである.したがって,r = pn−2である.よって,

β =pα + r

qα + s=

pn−1α + pn−2

qn−1α + qn−2

= [a0, a1, . . . , an−1, α]

である.ゆえに,α = [an, an+1, . . .]とすれば,β = [a0, a1, . . . , an−1, an, an+1, . . .]

である.

練習問題 6.1. d = 3, 5, 7, 10, 11, 13について,√

dの連分数展開を計算せよ.それらに共通するパターンはあるか?

練習問題 6.2. 連分数展開が [1, 1, 1, . . .]となる数は何か.連分数展開が [1, 2, 3, 1, 2, 3, 1, 2, 3, . . .]

となる数は何か.

26

7 2次無理数の連分数展開α =

√7の連分数展開を計算してみる.

α0 =√

7, a0 = [√

7] = 2,

α1 =1√

7 − 2=

√7 + 2

3, a1 =

[√7 + 2

3

]= 1,

α2 =1√

7 + 2

3− 1

=3√

7 − 1=

√7 + 1

2, a2 =

[√7 + 1

2

]= 1,

α3 =1√

7 + 1

2− 1

=2√

7 − 1=

√7 + 1

3, a3 =

[√7 + 1

3

]= 1,

α4 =1√

7 + 1

3− 1

=3√

7 − 2=

√7 + 2, a4 =

[√7 + 2

]= 4,

α5 =1√

7 + 2 − 4=

1√7 − 2

=

√7 + 2

3= α1, a5 =

[√7 + 2

3

]= a1,

...

したがって,√

7は循環する連分数

√7 = [2, 1, 1, 1, 4, 1, 1, 1, 4, . . .] = [2, 1, 1, 1, 4]

として表せる.α = s + t√

7 (s, t ∈ Q)に対して,α′ = s − t√

7とおく.α′を αの共役という.

√7の連分数展開において,αn, α′

n, これらの満たす整数係数 2次方程式 (最高次係数は正,係数の最大公約数は 1)を ax2 + bx + c = 0とするとき,これらを求めると次のようになっている.

n αn α′n a b c b2 − 4ac

0 2.645751 −2.645751 1 0 −7 28

1 1.548584 −0.215250 3 −4 −1 28

2 1.822876 −0.822876 2 −2 −3 28

3 1.215250 −0.548584 3 −2 −2 28

4 4.645751 −0.645751 1 −4 −3 28

この表から,常に b2 − 4ac = 28である.また,n ≥ 1に対しては,αn > 1, −1 <

α′n < 0である.

27

次に,α =√

13の連分数展開を計算してみる.

α0 =√

13, a0 = [√

13] = 3,

α1 =1√

13 − 3=

√13 + 3

4, a1 =

[√13 + 3

4

]= 1,

α2 =1√

13 + 3

4− 1

=4√

13 − 1=

√13 + 1

3, a2 =

[√13 + 1

3

]= 1,

α3 =1√

13 + 1

3− 1

=3√

13 − 2=

√13 + 2

3, a3 =

[√13 + 2

3

]= 1,

α4 =1√

13 + 2

3− 1

=3√

13 − 1=

√13 + 1

4, a4 =

[√13 + 1

4

]= 1,

α5 =1√

13 + 1

4− 1

=4√

13 − 3=

√13 + 3, a5 =

[√13 + 3

]= 6,

α6 =1√

13 + 3 − 6=

1√13 − 3

=

√13 + 3

4= α1, a6 =

[√13 + 3

4

]= a1,

...

したがって,√

13は循環する連分数√

13 = [3, 1, 1, 1, 1, 6, 1, 1, 1, 1, 6, . . .] = [3, 1, 1, 1, 1, 6]

として表せる.√

7のときと同様な表を作れば,次のようになっている.

n αn α′n a b c b2 − 4ac

0 3.605551 −3.605551 1 0 −13 52

1 1.651388 −0.151388 4 −6 −1 52

2 1.535184 −0.868517 3 −2 −4 52

3 1.868517 −0.535184 3 −4 −3 52

4 1.151388 −0.651388 4 −2 −3 52

5 6.605551 −0.605551 1 −6 −4 52

この表から,常に b2 − 4ac = 52である.また,n ≥ 1に対しては,αn > 1, −1 <

α′n < 0である.

定義 7.1. 無理数 αが ax2 + bx + c = 0, a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1, の根であるとき,αは 2次無理数であるといい,D = b2 − 4acを αの判別式という.

α =−b +

√D

2aとするとき,α′ =

−b −√

D

2aを αの共役という.

28

命題 7.2. αを判別式Dの 2次無理数とし,

k = [α], β =1

α − k

とおけば,βも判別式Dの 2次無理数である.

[証明] αは ax2 + bx + c = 0 (a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1)の根であると

する.β =1

α − kより,α = k +

1

βである.よって,

a

(k +

1

β

)2

+ b

(k +

1

β

)+ c = 0,

ak2 +2ak

β+

a

β2+ bk +

b

β+ c = 0,

(ak2 + bk + c)β2 + (2ak + b)β + a = 0.

ここで,gcd(ak2 + bk + c, 2ak + b, a) = 1である.実際,もし,p|ak2 + bk + c,

p|2ak + b, p|aとすると,p|a, p|b, p|cとなって,gcd(a, b, c) = 1に矛盾する.よって,gcd(ak2 + bk + c, 2ak + b, a) = 1である.したがって,βは判別式

(2ak + b)2 − 4(ak2 + bk + c)a = b2 − 4ac = D

の 2次無理数である.

補題 7.3. 2次無理数αは ax2 + bx + c = 0 (a, b, c ∈ Z, a > 0)の根であり,α > α′

とする.そのとき,

α > 1, −1 < α′ < 0 ⇐⇒ a + b + c < 0, a − b + c > 0, c < 0.

[証明] f(x) = ax2 + bx + cとおく.a > 0であるから,f(x) = 0の根を α > α′

とする.y = f(x)のグラフを考えれば,

α > 1, −1 < α′ < 0 ⇐⇒ f(1) < 0, f(0) < 0, f(−1) > 0

である.f(1) = a + b + c < 0, f(0) = c < 0, f(−1) = a − b + c > 0であるから,補題を得る.

29

x-

y6

y = ax2 + bx + c

x = 1x = −1

α′ α

定義 7.4. 2次無理数αが,α > 1, −1 < α′ < 0 (α′はαの共役) を満たすとき,簡約であるという.

命題 7.5. αが判別式Dの簡約 2次無理数とするとき,

k = [α], β =1

α − k

とおけば,βも判別式Dの簡約 2次無理数である.

[証明] 命題 7.2より,βは判別式Dの 2次無理数である.α > 1, −1 < α′ < 0

とする.k = [α]とおけば,k < α < k + 1であるから,0 < α − k < 1であり,

β =1

α − k> 1である.また,α = s + t

√D (s, t ∈ Q)とかくとき,α′ = s− t

√D

であるから,

β =1

α − k=

1

(s − k) + t√

D=

(s − k) − t√

D

(s − k)2 − t2D,

β′ =(s − k) + t

√D

(s − k)2 − t2D=

(s − k) + t√

D((s − k) + t

√D)(

(s − k) − t√

D)

=1

(s − k) − t√

D=

1

α′ − k.

α′ < 0より,α′ − k < −k ≤ −1,したがって,

−1 < β′ =1

α′ − k< 0

である.よって,βは簡約 2次無理数である.

30

命題 7.6. 与えられた判別式Dを持つ簡約 2次無理数は高々有限個である.

[証明] αを判別式Dの簡約 2次無理数とし,ax2 + bx + c = 0の根であるとする.ここで,a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1である.b2 −4ac = D, a+ b+ c < 0,

c < 0, a − b + c > 0である.このような整数の組 (a, b, c)が有限個であることを示せばよい.a + b + c < 0, −a + b − c < 0より,2b < 0, b < 0である.よって,a > 0, b < 0, c < 0である.また,

b2 + 4|a||c| = b2 − 4ac = D

より,|b| ≤√

D, 4|a||c| ≤ Dである.したがって,このような整数の組 (a, b, c)は有限個である。

命題 7.7. 簡約 2次無理数 αの連分数展開は純循環する.

α = [a0, a1, . . . , al−1].

[証明] αを判別式Dの簡約 2次無理数とする.αの連分数展開を [a0, a1, . . .],

α0 = α, a0 = [α0],

α1 =1

α0 − a0

, a1 = [α1],

α2 =1

α1 − a1

, a2 = [α2],

...

αn =1

αn−1 − an−1

, an = [αn],

...

とする.そのとき,命題 7.5より,αi, i = 0, 1, 2, . . .はすべて判別式Dの簡約 2次無理数である.命題 7.6より,判別式Dの簡約 2次無理数は有限個であるから,ある n ≥ 0, l ≥ 1が存在して,αn+l = αnである.nをこのような最小の非負整数とする.そのとき,n = 0である.実際,n > 0とすると,

αn+l−1 = an+l−1 +1

αn+l

= an+l−1 +1

αn

, αn−1 = an−1 +1

αn

より,αn+l−1 − αn−1 = an+l−1 − an−1 ∈ Z

である.したがって,共役をとれば,

α′n+l−1 − α′

n−1 = an+l−1 − an−1 ∈ Z

31

であり,αn+l−1, αn−1は簡約であるから,−1 < α′n+l−1 < 0, −1 < α′

n−1 < 0であり,したがって,それらの差の絶対値 |an+l−1 − an−1|は 1より小さい.しかし,これは整数であるから,an+l−1 −an−1 = 0である.よって,αn+l−1 = αn−1となって,nの最小性に矛盾する.ゆえに,n = 0である.したがって,αl = α0であり,その先の連分数展開について,al+i = ai, αl+i = αi (i = 0, 1, . . .)である.

α = [a0, a1, . . . , al−1].

定理 7.8. 2次無理数 αの連分数展開は循環する.

α = [a0, . . . , an, an+1, . . . , an+l].

[証明] αの連分数展開を [a0, a1, . . .],

α0 = α, a0 = [α0],

α1 =1

α0 − a0

, a1 = [α1],

α2 =1

α1 − a1

, a2 = [α2],

...

αn =1

αn−1 − an−1

, an = [αn],

...

とする.そのとき,pn

qn

= [a0, a1, . . . , an]とおけば,(6.3)によって,pn, qnは定ま

る.特に,

qn = anqn−1 + qn−2 ≥ qn−1 + qn−2 > qn−1 > · · · > q1 = a1 ≥ 1 = q0

である.(6.8)より, ∣∣∣∣pn

qn

− α

∣∣∣∣ < 1

q2n

→ 0 (n → ∞)

である.一方,(6.5)より,

α =pnαn+1 + pn−1

qnαn+1 + qn−1

であり,これを αn+1について解けば,

αn+1 =qn−1α − pn−1

−qnα + pn

= −qn−1

qn

·

pn−1

qn−1

− α

pn

qn

− α.

32

この共役をとれば,

α′n+1 = −qn−1

qn

·

pn−1

qn−1

− α′

pn

qn

− α′(7.1)

を得る.ここで,(6.8)より,∣∣∣∣pn

qn

− α′∣∣∣∣ =

∣∣∣∣pn

qn

− α + α − α′∣∣∣∣ ≥ |α − α′| −

∣∣∣∣α − pn

qn

∣∣∣∣ > |α − α′| − 1

q2n

である.同様に,∣∣∣∣pn−1

qn−1

− α′∣∣∣∣ =

∣∣∣∣pn−1

qn−1

− α + α − α′∣∣∣∣ ≤ |α − α′| +

∣∣∣∣α − pn−1

qn−1

∣∣∣∣ < |α − α′| + 1

qn−1qn

である.したがって,

|α′n+1| <

qn−1

qn

·|α − α′| + 1

qn−1qn

|α − α′| − 1

q2n

=

|α − α′|qn−1 +1

qn

|α − α′|qn − 1

qn

.

ここで,qn → ∞ (n → ∞)であるから,nを十分大にとれば,

qn − qn−1 ≥ qn−2 >2

|α − α′|

にできる.そのとき,

|α − α′|qn − 1

qn

−(|α − α′|qn−1 +

1

qn

)= |α − α′|(qn − qn−1) −

2

qn

> 2 − 2

qn

> 0,

したがって,|α′n+1| < 1である.また,nが十分大ならば,

pn

qn

−α′およびpn−1

qn−1

−α′

は α − α′に近いから,α − α′と同符号である.したがって,(7.1)より,α′n+1 < 0

であり,−1 < α′n+1 < 0である.また,an = [αn], 0 < αn − an < 1であるから,

αn+1 =1

αn − an

> 1

である.よって,αnは簡約である.命題 7.7より,αn+1 = [an+1, . . . , an+l] である.したがって,

α = [a0, . . . , an, αn+1] = [a0, . . . , an, an+1, . . . , an+l].

命題 7.7の逆,および定理 7.8の逆が成り立つことは容易に証明できる.

33

命題 7.9. 実数 αが純循環する連分数展開を持てば,αは簡約 2次無理数である.また,実数 αが循環する連分数展開を持てば,αは 2次無理数である.

[証明] α = [a0, . . . , al−1]とする.l ≥ 2としてよい.そのとき,a0 = al ≥ 1である.よって,α > 1である.また,p0 = a0, p1 = a0a1 + 1, q0 = 1, q1 = a1, n ≥ 2

のとき,

pn = anpn−1 + pn−2,

qn = anqn−1 + qn−2

によって定まる pn, qn ∈ Zはすべて正であり,pn > pn−1, qn ≥ qn−1 (∀n ≥ 1)である.αl = α0 = αであるから,

pn

qn

= [a0, . . . , an] (n = 0, 1, . . .)とすれば,(6.5)

より,α =

pl−1α + pl−2

ql−1α + ql−2

である.これから,ql−1α

2 + (ql−2 − pl−1)α − pl−2 = 0.

f(x) = ql−1x2 +(ql−2−pl−1)x−pl−2とおけば,ql−1 > 0である.f(0) = −pl−2 < 0,

f(−1) = ql−1 − ql−2 + pl−1 − pl−2 > 0である.したがって,f(x) = 0の根α > 1以外の根 α′は−1 < α′ < 0を満たす.ゆえに,αは簡約 2次無理数である.次に,α = [a0, . . . , an, an+1, . . . , an+l]とする.β = [an+1, . . . , an+l]とおけば,前半の結果より,βは簡約 2次無理数である.また,(6.5)より,

α = [a0, . . . , an, αn+1] =pnαn+1 + pn−1

qnαn+1 + qn−1

である.ここで,αn+1 = [an+1, . . . , an+l] = βであるから,

α =pnβ + pn−1

qnβ + qn−1

を得る.これを βについて解いて,βの満たす 2次方方程式に代入すれば,αも整数係数の 2次方程式の根であることがわかる.連分数展開が無限連分数になるから,αは有理数でない.したがって,αは 2次無理数である.

8 ペル方程式 III

連分数展開を用いて,ペル方程式の最小解を計算することができることを説明しよう.平方数でない自然数を d2m, d,m ∈ Z, d ≥ 1, m > 1は平方因子を持たない自然数,とかく.D = 4d2mとおく.αを判別式Dを持つ簡約 2次無理数とする.

34

例えば,α = [d√

m] + d√

mとおけば,α > 1, α′ = [d√

m]− d√

m, −1 < α′ < 0より,αは判別式D = 4d2mの簡約 2次無理数である.αの連分数展開を [a0, a1, . . .],

α0 = α, a0 = [α0],

α1 =1

α0 − a0

, a1 = [α1],

α2 =1

α1 − a1

, a2 = [α2],

...

αn =1

αn−1 − an−1

, an = [αn],

...

とする.また,pn

qn

= [a0, a1, . . . , an]とする.命題 7.7より,ある l > 0が存在して,

αl = α0 = α, α = [a0, a1, . . . , al−1]である.(6.5)より,

α =pl−1αl + pl−2

ql−1αl + ql−2

=pl−1α + pl−2

ql−1α + ql−2

である.これから,ql−1α

2 + (ql−2 − pl−1)α − pl−2 = 0

を得る.αの満たす 2次方程式を

ax2 + bx + c = 0 (a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1)

とすると,ql−1x2 + (ql−2 − pl−1)x − pl−2は ax2 + bx + cの自然数倍である.よっ

て,v ∈ Z, v ≥ 1が存在して,

ql−1 = av, ql−2 − pl−1 = bv, −pl−2 = cv (8.1)

である.b2 − 4ac = D = 4d2mより,bは偶数である.補題 6.2より,

pl−1ql−2 − pl−2ql−1 = (−1)l−2

である.(8.1)をこれに代入して,

p2l−1 + bpl−1v + acv2 = (−1)l−2.

u = pl−1 +b

2vとおけば,u ∈ Zであり,(

pl−1 +b

2v

)2

−(

b2 − 4ac

4

)v2 = (−1)l−2,

u2 − d2mv2 = (−1)l−2.

35

したがって,lが偶数ならば,(u, v)はペル方程式

x2 − d2my2 = 1

の解である.もし,lが奇数ならば,(u, v)は方程式

x2 − d2my2 = −1

の解である.この場合には,

(u2 + d2v2m)2 − d2m(2uv)2 = u4 + 2d2u2v2m + d4v4m2 − 4d2u2v2m

= (u2 − d2mv2)2 = 1

であるから,(u2 + d2v2m, 2uv)はペル方程式

x2 − d2my2 = 1

の解である.逆に,(u, v)をペル方程式

x2 − d2my2 = 1

の最小の自然数解とする.そのとき,

p = u − b

2v, q = av, r = −cv, s = u +

b

2v

とおけば,p, q, r, s ∈ Zである.さらに,αは簡約であるから,a > 0, c < 0,

a + b + c < 0, a − b + c > 0であり,b < 0である.よって,p = u − b

2v > 0,

q = av > 0, r = −cv > 0である.

ps − qr =

(u − b

2v

)(u +

b

2v

)+ acv2

= u2 −(

b2 − 4ac

4

)v2 = u2 − d2mv2 = 1

である.よって,ps = qr + 1 > 0, s > 0である.

α(qα + s) − (pα + r) = qα2 + (s − p)α − r = avα2 + bvα + cv

= v(aα2 + bα + c) = 0,

α =pα + r

qα + s.

ここで,q ≥ sである.実際,もし,s > qとすると,b < 0であるから,

u +b

2v > av > 0, u > av − b

2v > 0

36

である.したがって,

1 = u2 − d2mv2 = u2 − b2 − 4ac

4v2

>

(av − b

2v

)2

− b2 − 4ac

4v2

= a2v2 − abv2 + acv2

= a(a − b + c)v2 ≥ v2 ≥ 1

となって矛盾である.ここで,αは簡約であり,a − b + c > 0であることを用いた.ゆえに,q ≥ s > 0である.ps − qr = 1, α =

pα + r

qα + sであるから,命題 6.6よ

り,α = [a0, a1, . . . , al−1, α]である.以上まとめると,

定理 8.1. m > 1を平方因数を持たない自然数とし,dを任意の自然数とする.α

を判別式D = 4d2mの簡約 2次無理数とし (例えば,α = [d2√

m] + d2√

m),αの満たす 2次方程式を

ax2 + bx + c = 0 (a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1),

αの連分数展開を α = [a0, a1, . . . , al−1],pn

qn

= [a0, a1, . . . , an] (n = 0, 1, 2, . . .)とす

る.ただし,lはこのようなもので最小にとる.そのとき,

v =ql−1

a, u = pl−1 +

b

2v

とおけば,(u, v)は方程式x2 − d2my2 = (−1)l

の最小の自然数解である.

例 8.2. ペル方程式x2 − 13y2 = 1

の最小解を求める.α = [√

13] +√

13 = 3 +√

13の連分数展開は α = [6, 1, 1, 1, 1]

37

(l = 5)であった.

α0 = 3 +√

13, a0 = 3 + [√

13] = 6,

α1 =1

3 +√

13 − 6=

√13 + 3

4, a1 =

[√13 + 3

4

]= 1,

α2 =1√

13 + 3

4− 1

=4√

13 − 1=

√13 + 1

3, a2 =

[√13 + 1

3

]= 1,

α3 =1√

13 + 1

3− 1

=3√

13 − 2=

√13 + 2

3, a3 =

[√13 + 2

3

]= 1,

α4 =1√

13 + 2

3− 1

=3√

13 − 1=

√13 + 1

4, a4 =

[√13 + 1

4

]= 1,

α5 =1√

13 + 1

4− 1

=4√

13 − 3=

√13 + 3 = α0, a5 =

[√13 + 3

]= a0.

n 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

an 6 1 1 1 1 6 1 1 1 1

pn 6 7 13 20 33 218 251 469 720 1189

qn 1 1 2 3 5 33 38 71 109 180

α = 3 +√

13の満たす 2次方程式は

x2 − 6x − 4 = 0

であるから,a = 1, b = −6, c = −4である.p4 = 33, q4 = 5であるから,

v =q4

a= 5, u = p4 +

b

2v = 33 − 3 × 5 = 18

とおけば,u2 − 13v2 = 182 − 13 × 52 = 324 − 325 = −1.

p9 = 1189, q4 = 180であるから,

v = av = 180, u = 1189 − 3v = 1189 − 3 × 180 = 649

とおけば,

u2 − 13v2 = 6492 − 13 × 1802 = 421201 − 421200 = 1.

よって,ペル方程式 x2 − 13y2 = 1の最小解は (649, 180)である.これは,

(18 + 5√

13)2 = 182 + 25 × 13 + 180√

13 = 649 + 180√

13

からもわかる.

38

練習問題 8.1. 次のペル方程式の最小解を求めよ.

(1) x2 − 19y2 = 1.

(2) x2 − 31y2 = 1.

(1) α = [√

19] +√

19 = 4 +√

19とおけば,

α0 = 4 +√

19, a0 = [4 +√

19] = 8,

α1 =1√

19 + 4 − 8=

√19 + 4

3, a1 =

[√19 + 4

3

]= 2,

α2 =1√

19 + 4

3− 2

=3√

19 − 2=

√19 + 2

5, a2 =

[√19 + 2

5

]= 1,

α3 =1√

19 + 2

5− 1

=5√

19 − 3=

√19 + 3

2, a3 =

[√19 + 3

2

]= 3,

α4 =1√

19 + 3

2− 3

=2√

19 − 3=

√19 + 3

5, a4 =

[√19 + 3

5

]= 1,

α5 =1√

19 + 3

5− 1

=5√

19 − 2=

√19 + 2

3, a5 =

[√19 + 2

3

]= 2,

α6 =1√

19 + 2

3− 2

=3√

19 − 4=

√19 + 4 = α0, a6 = [α0] = a0.

よって,α = [8, 2, 1, 3, 1, 2] (l = 6)である.

n 0 1 2 3 4 5

an 8 2 1 3 1 2

pn 8 17 25 92 117 326

qn 1 2 3 11 14 39

αの満たす 2次方程式は,x2 − 8x − 3 = 0であるから,a = 1, b = −8, c = −3である.よって,

v = q5 = 39, u = p5 +b

2v = 326 − 4 × 39 = 170.

よって,(170, 39)が x2 − 19y2 = 1の最小解である.

39

(2) α = [√

31] +√

31 = 5 +√

31とおけば,

α0 = 5 +√

31, a0 = [5 +√

31] = 10,

α1 =1√

31 + 5 − 10=

√31 + 5

6, a1 =

[√31 + 5

6

]= 1,

α2 =1√

31 + 5

6− 1

=6√

31 − 1=

√31 + 1

5, a2 =

[√31 + 1

5

]= 1,

α3 =1√

31 + 1

5− 1

=5√

31 − 4=

√31 + 4

3, a3 =

[√31 + 4

3

]= 3,

α4 =1√

31 + 4

3− 3

=3√

31 − 5=

√31 + 5

2, a4 =

[√31 + 5

2

]= 5,

α5 =1√

31 + 5

2− 5

=2√

31 − 5=

√31 + 5

3, a5 =

[√31 + 5

3

]= 3,

α6 =1√

31 + 5

3− 3

=3√

31 − 4=

√31 + 4

5, a6 =

[√31 + 4

5

]= 1,

α7 =1√

31 + 4

5− 1

=5√

31 − 1=

√31 + 1

6, a7 =

[√31 + 1

6

]= 1,

α8 =1√

31 + 1

6− 1

=6√

31 − 5=

√31 + 5 = α0, a8 = [α0] = a0.

よって,α = [10, 1, 1, 3, 5, 3, 1, 1] (l = 8)である.

n 0 1 2 3 4 5 6 7

an 10 1 1 3 5 3 1 1

pn 10 11 21 74 391 1247 1638 2885

qn 1 1 2 7 37 118 155 273

αの満たす 2次方程式は,x2 − 10x − 6 = 0であるから,a = 1, b = −10, c = −6

である.よって,

v =q7

a= 273, u = p7 +

b

2v = 2885 − 5 × 273 = 1520.

よって,(1520, 273)が x2 − 31y2 = 1の最小解である.

40

9 2元2次形式の類数 (正の判別式)

これまで,平方数でない判別式D > 0を持つ簡約 2次無理数の連分数展開を考えてきた.これを別のものと対応させよう.有理数係数 2元 2次形式

F (x, y) = ax2 + bxy + cy2 (a, b, c ∈ Q)

を考える.D(F ) = b2 − 4ac

を F (x, y)の判別式と呼ぶ.F (x, y)を変数変換して得られる 2元 2次形式を考える.そのために,Q上の 2次の一般線形群

GL2(Q) =

{(p q

r s

) ∣∣∣∣∣ p, q, r, s ∈ Q, ps − qr = 0

}

を導入する.2次形式 F (x, y)への α =

(p q

r s

)∈ GL2(Q)の作用を,

(αF )(x, y) = (det α)−1F ((x, y)α) = (det α)−1F (px + ry, qx + sy) (9.1)

によって定義する.α1, α2 ∈ GL2(Q)とすると,

(α1α2)F = α1(α2F )

が成り立つ.実際,G = α2F とおけば,

G(x, y) = (det α2)−1F ((x, y)α2),

G((x, y)α1) = (det α2)−1F ((x, y)α1α2)

であるから,

(α1(α2F ))(x, y) = (α1G)(x, y) = (det α1)−1G((x, y)α1)

= (det α1)−1(det α2)

−1F ((x, y)α1α2)

= (det α1α2)−1F ((x, y)(α1α2)) = (α1α2F )(x, y).

いま,a = 0とし,2次方程式 F (x, 1) = ax2 + bx + c = 0の根 θ, θ′は有理数でないとする.これは,D = b2 − 4acが有理数の平方でないことと同じである.

F (x, y) = a(x − θy)(x − θ′y)

であるから,

D(F ) = b2 − 4ac = a2

((b

a

)2

− 4c

a

)= a2(θ − θ′)2

41

を得る.α =

(p q

r s

)∈ GL2(Q)とすれば,

(αF )(x, y) = (det α)−1F (px + ry, qx + sy)

= (det α)−1a((px + ry) − θ(qx + sy))((px + ry) − θ′(qx + sy))

= (det α)−1a ((−qθ + p)x − (sθ − r)y) ((−qθ′ + p)x − (sθ′ − r)y)

= (det α)−1a(p − qθ)(p − qθ′)

(x − sθ − r

−qθ + py

)(x − sθ′ − r

−qθ′ + py

)= (det α)−1F (p, q)

(x − sθ − r

−qθ + py

)(x − sθ′ − r

−qθ′ + py

).

したがって,(αF )(x, 1) = 0の根は

sθ − r

−qθ + p,

sθ′ − r

−qθ′ + p

である.αに対して,1次分数変換

α(z) =pz + q

rz + s

を対応させる.1次分数変換は次の性質を持つ.

補題 9.1. α, β ∈ GL2(Q)とすれば,

α(β(z)) = (αβ)(z).

特に,w = α(z)ならば,α−1(w) = zである.

[証明] α =

(p q

r s

)とすれば,

α

(z

1

)=

(p q

r s

)(z

1

)=

(pz + q

rz + s

)= (rz + s)

(α(z)

1

)

である.β =

(p′ q′

r′ s′

)とすると,

β

(z

1

)= (r′z + s′)

(β(z)

1

)

であるから,この両辺に左から αをかけて,

αβ

(z

1

)= (r′z + s′)α

(β(z)

1

)= (r′z + s′)(rβ(z) + s)

(α(β(z))

1

)

42

であるが,一方,αβの第 2行を (r′′, s′′)とすれば,

(αβ)

(z

1

)= (r′′z + s′′)

((αβ)(z)

1

)

であるから,α(β(z)) = (αβ)(z)を得る.(αF )(x, y)の表示に戻って,

tα−1 = (det α)−1

(s −r

−q p

)

であるから,

(αF )(x, y) = (det α)−1F (p, q)(x − tα−1(θ)y

) (x − tα−1(θ′)y

)(9.2)

が成り立つ.すなわち,(αF )(x, 1) = 0の根は

tα−1(θ), tα−1(θ′)

と表せる.そのとき,

tα−1(θ) − tα−1(θ′) =a(det α)(θ − θ′)

F (p, q)(9.3)

である.実際,

tα−1(θ) − tα−1(θ′) =sθ − r

−qθ + p− sθ′ − r

−qθ′ + p

=(sθ − r)(−qθ′ + p) − (sθ′ − r)(−qθ + p)

(−qθ + p)(−qθ′ + p)

=(ps − qr)(θ − θ′)

a−1F (p, q)=

a(det α)(θ − θ′)

F (p, q).

また,判別式については,

D(αF ) = D(F ) (α ∈ GL2(Q)) (9.4)

が成り立つ.実際,

D(αF ) = (det α)−2F (p, q)2(tα−1(θ) − tα−1(θ′))2

= (det α)−2F (p, q)2

(a(det α)(θ − θ′)

F (p, q)

)2

= a2(θ − θ′)2 = D(F ).

43

以下,2元 2次形式F (x, y) = ax2 + bxy + cy2は整数係数とする.gcd(a, b, c) = 1

であるとき,F (x, y)は原始的という.変数変換も整数係数であり,その逆変換も整数係数であるようなものを考える.すなわち,GL2(Q)の部分群

GL2(Z) =

{(p q

r s

) ∣∣∣∣∣ p, q, r, s ∈ Z, ps − qr = ±1

}

による作用を考える.α ∈ GL2(Z)とすれば,(αF )(x, y)は明らかに整数係数である.また,F (x, y)が原始的ならば,(αF )(x, y)も原始的である.実際,G = αF

とおけば,α−1G = α−1(αF ) = (α−1α)F = F であるから,もし,Gの係数がすべてある整数 d > 1で割りきれるとすると,F = α−1Gの係数もすべて d > 1で割りきれ,F が原始的であることに矛盾する.ゆえに,G = αF は原始的である.以上まとめると,

命題 9.2. F (x, y) = ax2 + bxy + cy2を原始的な整数係数 2元 2次形式とする.そのとき,α ∈ GL2(Z)ならば,(αF )(x, y)も原始的な整数係数 2元 2次形式であり,D(αF ) = D(F )である.

D > 0を平方数でない整数とし,D(F ) = Dとなる原始的な整数係数 2元 2次形式の全体を考える.それをQ(D)で表す.F, G ∈ Q(D)に対して,α ∈ GL2(Z)

が存在して,G = αF となるとき,F とGは同値であるといい,F ∼ Gとかく.これはQ(D)の同値関係である.F の属する同値類を [F ]で表す.

定義 9.3. 正の判別式を持つ整数係数 2元 2次形式 F (x, y) = ax2 + bxy + cy2が

a > 0, c < 0, a + b + c < 0, a − b + c > 0

を満たすとき,簡約であるという.判別式Dの簡約な整数係数 2元 2次形式は有限個しかない.

定理 9.4. Q(D)の同値類の数は有限である.

[証明] Q(D)の任意の元 F に対して,γ ∈ GL2(Z)で,γF が簡約な 2次形式であるものが存在することを示せばよい.F (x, 1) = 0の根を θ > θ′とする.定理7.8より,2次無理数 θの連分数展開は θ = [a0, a1, . . . , an, an+1, . . . , an+l]となる.ξ = [an+1, . . . , an+l]とおけば,命題 7.9より,ξは判別式Dの簡約 2次無理数である.ξの満たす 2次方程式を ax2 + bx + c = 0, a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1とすると,ξは簡約であるから,c < 0, a+b+c < 0, a−b+c > 0である.したがって,G(x, y) = ax2 +bxy+cy2とおけば,G ∈ Q(D)は簡約である.

pn

qn

= [a0, a1, . . . , an]

とすれば,θ = [a0, . . . , an, θn+1], θn+1 = [an+1, . . . , an+l] = ξであるから,(6.5)より,

θ =pnξ + pn−1

qnξ + qn−1

= α(ξ), α =

(pn pn−1

qn qn−1

)∈ GL2(Z)

44

である.

β = tα =

(pn qn

pn−1 qn−1

)とおけば,β ∈ GL2(Z)であり,tβ−1 = α−1である.そのとき,

(βF )(x, y) = (det β)−1F (pn, qn)(x − tβ−1(θ)y)(x − tβ−1(θ′)y)

= (det β)−1F (pn, qn)(x − α−1(θ)y)(x − α−1(θ′)y)

= (det β)−1F (pn, qn)(x − ξy)(x − ξ′y)

である.すなわち,(βF )(x, 1) = 0は ξ の満たす整数係数の 2次方程式であり,(βF )(x, y)は原始的であるから,係数の最大公約数は1である.したがって,(βF )(x, y) =

±G(x, y)である.Gは簡約であるから,(βF )(x, y) = G(x, y)ならば,βF は簡約で

ある.もし,(βF )(x, y) = −G(x, y)ならば,τ =

(0 −1

1 0

)とすれば,det τ = 1

であるから,

((τβ)F )(x, y) = (τ(βF ))(x, y)

= −(τG)(x, y) = −G(y,−x)

= −(ay2 − byx + cx2)

= (−c)x2 + bxy − ay2.

−c > 0, −a < 0, −c + b − a = −(a − b + c) < 0, −c − b − a = −(a + b + c) > 0であるから,(τβ)F は簡約である.

定義 9.5. 定理 9.4より,Q(D)の同値類の数は有限である.これを h(D)で表し,判別式D > 0の 2元 2次形式の類数とよぶ.

例 9.6. h(13)を求める.F (x, y) = ax2 + bxy + cy2をD = 13の簡約形式とすれば,b2 − 4ac = 13, a > 0, c < 0, a + b + c < 0, a − b + c > 0である.

b2 + 4|a||c| = 13

より,|b| ≤ 3である.a + b + c < 0, a − b + c > 0より,b < 0である.また,bは奇数である.よって,b = −1,−3である.b = −1のとき,ac = −3より,(a, c) = (1,−3), (3,−1)である.b = −3のとき,ac = −1より,(a, c) = (1,−1)である.よって,(a, b, c) = (1,−3,−1), (1,−1,−3), (3,−1,−1)である.a+b+c < 0,

a − b + c > 0より,(a, b, c) = (1,−1,−3), (3,−1,−1)は除かれる.よって,簡約形式は F (x, y) = x2 − 3xy − y2の 1つだけである.ゆえに,h(13) = 1である.F (x, 1) = 0の根を θ > θ′とすると,

θ =3 +

√13

2

45

である.θの連分数展開を求める.

θ0 = θ =3 +

√13

2, a0 =

[3 +

√13

2

]= 3,

θ1 =1

3 +√

13

2− 3

=2√

13 − 3=

√13 + 3

2= θ0, a1 = [θ0] = 3.

θ = [3]である.

例 9.7. h(21)を求める.F (x, y) = ax2 + bxy + cy2をD = 13の簡約形式とすれば,b2 − 4ac = 21, a > 0, c < 0, a + b + c < 0, a − b + c > 0である.

b2 + 4|a||c| = 21

より,|b| ≤ 4である.a+b+c < 0, a−b+c > 0より,b < 0である.また,bは奇数である.よって,b = −1,−3である.b = −1のとき,ac = −5より,(a, c) = (1,−5),

(5,−1)である.b = −3のとき,ac = −3より,(a, c) = (1,−3), (3,−1) である.これらの中で,a + b + c < 0, a − b + c > 0を持たすものは (a, b, c) = (1,−3,−3),

(3,−3,−1)の 2つだけである.よって,簡約形式は F1(x, y) = x2 − 3xy − 3y2とF2(x, y) = 3x2 − 3xy − y2の 2つだけである.F1(x, 1) = 0の根を θ > θ′とすると,

θ =3 +

√21

6

である.θの連分数展開を求める.

θ0 = θ =3 +

√21

2, a0 =

[3 +

√21

2

]= 3,

θ1 =1

3 +√

21

2− 3

=2√

21 − 3=

√21 + 3

6, a1 =

[√21 + 3

6

]= 1,

θ2 =1

3 +√

21

6− 1

=6√

21 − 3=

√21 + 3

2= θ0, a2 = [θ0] = 3.

θ = [3, 1]である.θ = 3 +1

θ1

=3θ1 + 1

θ1

より,

α =

(3 1

1 0

), β = tα = α

とおけば,

(βF1)(x, y) = −F1(3x + y, x) = −(3x + y)2 + 3(3x + y)x + 3x2

= −9x2 − 6xy − y2 + 9x2 + 3xy + 3x2

= 3x2 − 3xy − y2 = F2(x, y)

46

である.ゆえに,F1 ∼ F2であり,h(21) = 1である.

例 9.8. h(229)を求める.F (x, y) = ax2 + bxy + cy2をD = 229の簡約形式とすれば,b2 − 4ac = 229, a > 0, c < 0, a + b + c < 0, a − b + c > 0である.

b2 + 4|a||c| = 229

より,|b| ≤ [√

229] = 15である.a + b + c < 0, a − b + c > 0より,b < 0

である.また,bは奇数である.よって,b = −1,−3,−5,−7,−9,−11,−13,−15

である.−ac =229 − b2

4より,b = −1のとき,ac = −57, (a, c) = (1,−57),

(3,−19), (19,−3), (57,−1)である.b = −3のとき,ac = −55, (a, c) = (1,−55),

(5,−11), (11,−5), (55,−1)である.b = −5のとき,ac = −51, (a, c) = (1,−51),

(3,−17), (17,−3), (51,−1)である.b = −7のとき,ac = −45, (a, c) = (1,−45),

(3,−15), (5,−9), (9,−5), (15,−3), (45,−1)である.b = −9のとき,ac = −37,

(a, c) = (1,−37), (37,−1)である.b = −11のとき,ac = −27, (a, c) = (1,−27),

(3,−9), (9,−3), (27,−1)である.b = −13のとき,ac = −15, (a, c) = (1,−15),

(3,−5), (5,−3), (15,−1)である.b = −15のとき,ac = −1, (a, c) = (1,−1)である.これらの中で,a+b+c < 0, a−b+c > 0を満たすものは (a, b, c) = (5,−7,−9),

(9,−7,−5), (3,−11,−9), (9,−11,−3), (3,−13,−5), (5,−13,−3), (1,−15,−1) の7つだけである.よって,簡約形式は

F1(x, y) = 5x2 − 7xy − 9y2,

F2(x, y) = 9x2 − 7xy − 5y2,

F3(x, y) = 3x2 − 11xy − 9y2,

F4(x, y) = 9x2 − 11xy − 3y2,

F5(x, y) = 3x2 − 13xy − 5y2,

F6(x, y) = 5x2 − 13xy − 3y2,

F7(x, y) = x2 − 15xy − y2

7つである.F1(x, 1) = 0の根を θ > θ′とすると,

θ =7 +

√229

10

47

である.θの連分数展開を求める.

θ0 = θ =7 +

√229

10, a0 =

[7 +

√229

10

]= 2,

θ1 =1

7 +√

229

10− 2

=10√

229 − 13=

√229 + 13

6, a1 =

[√229 + 13

6

]= 4,

θ2 =1√

229 + 13

6− 4

=6√

229 − 11=

√229 + 11

18, a2 =

[√229 + 11

18

]= 1,

θ3 =1√

229 + 11

18− 1

=18√

229 − 7=

√229 + 7

10= θ0, a3 = [θ0] = 2.

よって,θ = [2, 4, 1]である.θ = 2 +1

θ1

=2θ1 + 1

θ1

より,

α1 =

(2 1

1 0

), β1 = tα1 = α1

とおけば,

(β1F1)(x, y) = −F1(2x + y, x) = −5(2x + y)2 + 7(2x + y)x + 9x2

= −20x2 − 20xy − 5y2 + 14x2 + 7xy + 9x2

= 3x2 − 13xy − 5y2 = F5(x, y)

である.ゆえに,F1 ∼ F5である.θ1 = 4 +1

θ2

=4θ2 + 1

θ2

であるから,

α5 =

(4 1

1 0

), β5 = tα5 = α5

とおけば,

(β5F5)(x, y) = −F5(4x + y, x) = −3(4x + y)2 + 13(4x + y)x + 5x2

= −48x2 − 24xy − 3y2 + 52x2 + 13xy + 5x2

= 9x2 − 11xy − 3y2 = F4(x, y)

である.ゆえに,F5 ∼ F4である.次に,F2(x, 1) = 0の根を ξ > ξ′とすると,

ξ =7 +

√229

18

48

である.ξの連分数展開を求める.

ξ0 = ξ =

√229 + 7

18, a0 =

[√229 + 7

18

]= 1,

ξ1 =1√

229 + 7

18− 1

=18√

229 − 11=

√229 + 11

6, a1 =

[√229 + 11

6

]= 4,

ξ2 =1√

229 + 11

6− 4

=6√

229 − 13=

√229 + 13

10, a2 =

[√229 + 13

10

]= 2,

ξ3 =1√

229 + 13

10− 2

=10√

229 − 7=

√229 + 7

18= ξ0, a3 = [ξ0] = 1.

よって,ξ = [1, 4, 2]である.ξ = 1 +1

ξ1

=ξ1 + 1

ξ1

より,

α2 =

(1 1

1 0

), β2 = tα2 = α2

とおけば,

(β2F2)(x, y) = −F2(x + y, x) = −9(x + y)2 + 7(x + y)x + 5x2

= −9x2 − 18xy − 9y2 + 7x2 + 7xy + 5x2

= 3x2 − 11xy − 9y2 = F3(x, y)

である.ゆえに,F2 ∼ F3である.ξ1 = 4 +1

ξ2

=4ξ2 + 1

ξ2

より,

α3 =

(4 1

1 0

), β3 = tα3 = α3

とおけば,

(β3F3)(x, y) = −F3(4x + y, x) = −3(4x + y)2 + 11(4x + y)x + 9x2

= −48x2 − 24xy − 3y2 + 44x2 + 11xy + 9x2

= 5x2 − 13xy − 3y2 = F6(x, y)

である.ゆえに,F3 ∼ F6である.F7(x, 1) = 0の根を η > η′とすると,

η =15 +

√229

2

49

である.ηの連分数展開を求める.

η0 = η =15 +

√229

2, a0 =

[15 +

√229

2

]= 15,

η1 =1

15 +√

229

2− 15

=2√

229 − 15=

√229 + 15

2= η0, a1 = [η0] = 15.

したがって,η = [15]である.以上によって,Q(229)は [F1] = [F5] = [F4], [F2] =

[F3] = [F6], [F7] の 3つの同値類に分かれることがわかる.命題 9.9より,これらはすべて相異なる.よって,h(229) = 3である.

命題 9.9. F (x, y), G(x, y) ∈ Q(D)をともに簡約形式とする.F (x, 1) = 0の根をξ > ξ′ とし,ξ の連分数展開を ξ = [a0, . . . , al−1], ξ = [a0, . . . , an−1, ξn]とする.G(x, 1) = 0の根を η > η′とする.そのとき,次は同値である.

(1) F ∼ G.

(2) ある n ≥ 0が存在して,η = ξnである.

[証明] (2) ⇒ (1). Gn(x, y) ∈ Q(D)をGn(x, 1) = 0の根が ξnであるものとする.nに関する帰納法によって,F ∼ Gn (∀n)を示す.n = 0, η = ξとすると,明らかに,

F = G0である.n ≥ 1として,F ∼ Gn−1とする.ξn−1 = an−1 +1

ξn

=an−1ξn + 1

ξn

であり,α =

(an−1 1

1 0

), β = tα = αとおけば,tβ−1(ξn) = α−1(ξn) = ξn−1で

あるから,(9.2)より,

(βGn)(x, y) = −Gn(an−1, 1)(x − ξn−1y)(x − ξ′n−1y)

である.ここで,命題 7.5より,ξn−1は簡約 2次無理数であるから,

ξn−1 > [ξn−1] = an−1 ≥ 1 > 0 > ξ′n−1 > −1

である.よって,0 = Gn−1(ξn−1, 1) > Gn−1(an−1, 1)である.(βGn)(x, 1), Gn−1(x, 1)

ともに ξn−1を根に持つ整数係数 2次式であり,x2の係数は正であり,係数の最大公約数が 1であるから,(βGn)(x, y) = Gn−1(x, y)であり,Gn ∼ Gn−1 ∼ F である.よって,すべての n ≥ 0に対して,Gn ∼ F である.ある n ≥ 0が存在して,η = ξnならば,G = Gn ∼ F である.

(1) ⇒ (2). F ∼ Gとする.α =

(p q

r s

)∈ GL2(Z)が存在して, G = αF であ

る.必要なら,αを−αで置き換えることによって,q ≥ 0または q = 0, s > 0としてよい.(9.2)より,

G(x, y) = (αF )(x, y) = (det α)−1F (p, q)(x − tα−1(ξ)y

) (x − tα−1(ξ′)y

)50

である.したがって,tα−1(ξ) = ηまたは tα−1(ξ) = η′である.また,x2の係数を比べて,

(det α)F (p, q) > 0

である.そのとき,(9.3)より,tα−1(ξ) > tα−1(ξ′)である.よって,tα−1(ξ) = η,

ξ = tα(η)である.Case 1. det α = 1のとき.もし,q = 0とすると,s > 0であるから,ps =

det α = 1より,p = s = 1である.そのとき,ξ = η + rまたは ξ = η′ + rである.ξ = η′ + rとすると,ξ′ = η + r, r = ξ−η′ > 0, r = ξ′−η < 0となって矛盾である.ξ = η + rとすると,ξ′ = η′ + r, r = ξ′−η′, −1 < ξ′, η′ < 0より,r = 0, η = ξである.q = 0とすると,q > 0である.そのとき,F (p, q) = F (1, 0)(p−qξ)(p−qξ′) > 0

より,p − qξ > 0, p − qξ′ > 0,または p − qξ < 0, p − qξ′ < 0である.したがって,

p

q> ξ > 1または

p

q< ξ′である.次の 2つの場合がある.

Case 1-1.p

q> ξのとき.η =

sξ − r

−qξ + p> 1, p−qξ > 0であるから,sξ−r > 0で

ある.共役をとって,η′ =sξ′ − r

−qξ′ + pであり,η′ < 0, −qξ′+p = p−qξ+q(ξ−ξ′) > 0

より,sξ′ − r < 0である.よって,s(ξ − ξ′) > 0, s > 0である.p

q> ξ > 1より,

p > q > 0である.η′ =sξ′ − r

−qξ′ + p> −1, −qξ′ + p > 0より,sξ′ − r > qξ′ − p,

p − r > (q − s)ξ′である.ここで,もし,q < sとすると,ξ′ < 0より,p − r >

(q − s)ξ′ > 0である.そのとき,

1 = ps − qr = p(s − q) + q(p − r) ≥ 1 + 1 = 2

となって矛盾である.よって,q ≥ s > 0である.命題 6.6より,η = ξn (∃n)である.

Case 1-2.p

q< ξ′のとき.p − qξ′ < 0, p − qξ = p − qξ′ + q(ξ′ − ξ) < 0である.

η =sξ − r

−qξ + p> 1より,sξ − r < p − qξ.共役をとって,η′ =

sξ′ − r

−qξ′ + pであり,

η′ < 0, −qξ′ + p < 0より,sξ′ − r > 0である.よって,s(ξ − ξ′) < 0, s < 0である.p < qξ′ < 0である.もし,r < 0とすると,1 = ps − qr = |ps| + |qr| ≥ 2となって矛盾である.ゆえに,r ≥ 0である.sξ′− r > 0より,r < sξ′ = |s||ξ′| < |s|,0 ≤ r < |s|である.ここで,もし,|p| > qとすると,

1 = ps − qr = |p||s| − qr > q|s| − qr = q(|s| − r) ≥ 1

となって矛盾である.ゆえに,|p| ≤ qである.η =sξ − r

−qξ + p=

|s|ξ + r

qξ + |p|であるか

ら,命題 6.6より,ξ = ηn (∃n)である.よって,ηnは周期 lを持つ純循環連分数であり,したがって,ηも周期 lを持つ純循環連分数である.これから,n < lとしてよく,η = ηl = ξl−nである.

51

Case 2. det α = −1のとき.F (p, q) = a(p− qξ)(p− qξ′) < 0, a > 0より,q = 0,

よって,q > 0, ξ′ <p

q< ξ, p− qξ < 0, p− qξ′ > 0である.η =

sξ − r

−qξ + p> 1より,

sξ − r < p− qξ < 0.共役をとって,η′ =sξ′ − r

−qξ′ + pであり,η′ < 0, p− qξ′ > 0よ

り,sξ′ − r < 0である.よって,sξ < r, sξ′ < rである.もし,r ≤ 0とすると,sξ < r ≤ 0より,s < 0である.しかし,0 < sξ′ < rとなって矛盾である.ゆえに,r > 0である.もし,p > 0, s < 0とすると,

1 = qr − ps = |qr| + |ps| ≥ 2

となって矛盾である.したがって,p ≤ 0または s ≥ 0である.p = 0とすると,

1 = qrより,q = r = 1である.そのとき,η = −s +1

ξであるから,ξ = η1,した

がって,η = ξl−1である.s = 0とすると,1 = qrより,q = r = 1である.その

とき,ξ = p +1

ηであるから,η = ξ1である.p < 0のとき,−1 < ξ′ <

p

q< 0よ

り,−q < p < 0, |p| < qである.このときは,η =sξ − r

−qξ + p=

−sξ + r

qξ + |p|であるか

ら,命題 6.6より,η = ξn (∃n)である.p > 0, s > 0のときは,s ≤ qである.実際,もし,s > qとすると,

1 = qr − ps = qr − pq + pq − ps = q(r − p) + p(q − s) < q(r − p),

したがって,r − p > 0である.しかし,

pη′ + r > pη′ + p = p(η′ + 1) > 0,

qη′ + s ≥ qη′ + q = q(η′ + 1) > 0,

ξ′ =pη′ + r

qη′ + s> 0

となって矛盾である.ξ =pη + r

qη + s, 0 < s ≤ qであるから,命題 6.6より,ξ = ηn

(∃n), η = ξl−nである.

注意 9.10. ガウスは h(D) = 1となるD > 0が無数に存在すると予想したが,これは現在でも未解決の予想である.

10 2元2次形式の類数 (負の判別式)

D < 0を負の整数とし,F (x, y) = ax2 + bxy + cy2を b2 − 4ac = Dとなる原始的な整数係数 2元 2次形式とする.そのとき,a > 0ならば,F (x, y)は正定値である(F (x, y) > 0 ∀(x, y) = (0, 0)).a < 0ならば,F (x, y)は負定値である (F (x, y) < 0

∀(x, y) = (0, 0)).以下,正定値のものだけを考える.

52

D(F ) = Dとなる原始的な整数係数 2元 2次形式の全体を考える.それをQ(D)

で表す.F,G ∈ Q(D)に対して,α ∈ GL2(Z)が存在して,G = αF となるとき,F とGは同値であるといい,F ∼ Gとかく.これはQ(D)の同値関係である.また,α ∈ SL2(Z)が存在して,G = αF となるとき,F とGは狭義に同値であるという.F の属する狭義の同値類を [F ]で表す.

定義 10.1. 負の判別式を持つ整数係数 2元 2次形式 F (x, y) = ax2 + bxy + cy2が

−a < b ≤ a < c または 0 ≤ b ≤ a = c

を満たすとき,簡約であるという.判別式Dの簡約な整数係数 2元 2次形式は有限個しかない.実際,b2 − 4ac = D < 0, 4ac − b2 = |D|,

4a2 ≤ 4ac = b2 + |D| ≤ a2 + |D|, 3a2 ≤ |D|, 0 < a ≤√

|D|3

.

より,aのとり得る値は有限個であり,|b| ≤ aであるから,bのとり得る値も有限個である.b2 − 4ac = Dより,a, bに対して,cは高々1つ定まる.

例 10.2. D = −3のとき.ax2+bxy+cy2をD = −3の簡約形式とする.b2−4ac =

−3より,bは奇数である.0 < a ≤√

3

3より,a = 1.|b| ≤ a = 1, bは奇数である

から,b = ±1である.よって,12 − 4 · 1 · c = −3より,c = 1.a = c = 1だから,0 ≤ b ≤ a = c = 1,よって,b = 1である.したがって,判別式−3の簡約形式はx2 + xy + y2だけである.

例 10.3. D = −4のとき.ax2+bxy+cy2をD = −4の簡約形式とする.b2−4ac =

−4より,bは偶数である.0 < a ≤√

4

3より,a = 1.|b| ≤ a = 1, bは偶数である

から,b = 0である.よって,02 − 4 · 1 · c = −4より,c = 1.したがって,判別式−4の簡約形式は x2 + y2だけである.

補題 10.4. F (x, y) = ax2 + bxy + cy2 ∈ Q(D)を簡約な 2次形式とすれば,

min(x,y)∈Z2

(x,y) =(0,0)

F (x, y) = a

である.F (x, y) = aとなる (x, y) ∈ Z2 は,D = −3ならば,(±1, 0), (0,±1),

(∓1,±1)だけであり,D ≤ −4, a = cならば,(±1, 0)と (0,±1)だけであり,D ≤−4, a < cならば,(±1, 0)だけである.

[証明] |b| ≤ a ≤ cより,(x, y) ∈ Z2, (x, y) = (0, 0)ならば,

F (x, y) = ax2 + bxy + cy2 ≥ ax2 − a|x||y| + ay2 = a(|x|2 − |x||y| + |y|2) ≥ a

である.F (±1, 0) = aであるから,最小値は aである.

53

D = −3とする.例 10.2より,F (x, y) = x2 + xy + y2である.x2 + xy + y2 = 1

とすれば, (x +

1

2y

)2

+3

4y2 = 1.

これから,|y| ≤ 1である.y = 0とすると,x = ±1である.y = ±1とすると,x2 ± x = 0, x = 0,∓1である.

D = −4とする.例 10.3より,F (x, y) = x2 + y2である.x2 + y2 = 1とすれば,(x, y) = (±1, 0), (0,±1)である.

D < −4とする.a < cとする.y = 0ならば,

ax2 + bxy + cy2 > a(x2 − |x||y| + y2) ≥ a

であるから,a = ax2+bxy+cy2とすると,y = 0, x = ±1である.a = c, 0 ≤ b ≤ a

とする.b2 − 4ac = b2 − 4a2 < −4より,a > 1である.a = ax2 + bxy + cy2, y = 0

ならば,a = ax2 + bxy + cy2 ≥ a(x2 − |x||y| + y2) ≥ a.

よって,y = ±1, ax2 ± bx + a = a, x(ax ± b) = 0である.a > 1, gcd(a, b, c) =

gcd(a, b) = 1より,ax± b = 0となる x ∈ Zは存在しない.よって,x = 0である.y = 0ならば,x = ±1である.よって,(x, y) = (±1, 0)および (0,±1)である.

定理 10.5. Q(D)の狭義の同値類の数は有限である.それは,判別式Dの簡約形式の個数と等しい.

[証明] 狭義の同値類の数が有限であることを示すためには,Q(D)の任意の元F に対して,γ ∈ SL2(Z)で,γF が簡約な 2次形式であるものが存在することを示せばよい.F (x, y) = ax2 +bxy+cy2をQ(D)の元とする.D = b2−4ac < 0, a > 0

より,c > 0である.もし,a > cならば,γ1 =

(0 −1

1 0

)とおき,F1(x, y) =

(γ1F )(x, y) = a′x2 + b′xy + c′y2とおけば,

F1(x, y) = F (y,−x) = cx2 − bxy + ay2, a′ = c, b′ = −b, c′ = a

である.a′ = c < a = c′である.a ≤ cならば,γ1 = I2, F1 = F とする.b′ ≤ −a′

または b′ > a′ ならば,b′ = 2a′q + r, −a′ < r ≤ a′ となる q, r ∈ Zがとれる.

γ2 =

(1 0

−q 1

)とおき,F2(x, y) = (γ2F )(x, y) = a′′x2 + b′′xy + c′′y2とおけば,

F2(x, y) = F (x−qy, y) = a′(x−qy)2+b′(x−qy)y+c′y2 = a′x2+rxy+(a′q2−b′q+c′)y2,

より,a′′ = a′, b′′ = r, c′′ = a′q2 − b′q + c′である.−a′ < b′ ≤ a′ならば,γ2 = I2,

F2 = F1とする.この操作を繰り返せば,有限回の後に,γ = γn · · · γ1 ∈ SL2(Z),

54

(γnF )(x, y) = Fn(x, y) = anx2 + bnxy + cny2は−an < bn ≤ an ≤ cnを満たす.ここで,an < cnならば,Fn(x, y)は簡約である.また,an = cn, −an < bn < 0なら

ば,γn+1 =

(0 −1

1 0

)とおいて,Fn+1(x, y) = (γn+1Fn)(x, y)とおけば,

Fn+1(x, y) = Fn(y,−x) = cnx2 − bnxy + any2

であるから,Fn+1(x, y)は簡約である.以上によって,F は簡約な 2次形式と狭義に同値である.判別式Dを持つ簡約な 2次形式は有限個であるから,Q(D)の狭義同値類の数は有限である.

F (x, y), G(x, y) ∈ Q(D)が簡約であり,G(x, y) = (γF )(x, y)となる γ ∈ SL2(Z)

が存在したとする.そのとき,F (x, y) = G(x, y)であることを示す.D < −4としてよい.

F (x, y) = ax2 + bxy + cy2, G(x, y) = a′x2 + b′xy + c′y2, γ =

(p q

r s

)とする.G(x, y) = (γF )(x, y) = F (px + ry, qx + sy)であるから,補題 10.4より,a′ = G(1, 0) = F (p, q) ≥ aである.F (x, y) = (γ−1G)(x, y) = G(sx− ry,−qx+py)

であるから,同様にして,a = F (x, y) = G(s,−q) ≥ a′である.ゆえに,a = a′である.a < cとすれば,F (p, q) = aであるから,補題 10.4より,(p, q) = (±1, 0)

である.したがって,γ = ±

(1 0

r 1

)である.

G(x, y) = F (x + ry, y) = ax2 + (2ar + b)xy + (ar2 + br + c)y2.

b′ = 2ar + b, −a ≤ b′ ≤ a, −a < b ≤ aより,

−2a ≤ 2ar = b′ − b < 2a, −1 ≤ r < 1.

もし,r = −1とすると,b′ = −a, b = aである.しかし,このとき,b2 − 4ac =

b′2 − 4a′c′より,c′ = c > aである.G(x, y)も簡約であるから,−a < b′ ≤ aとなって,矛盾である.ゆえに,r = 0, γ = ±I2, G(x, y) = F (x, y)である.

a = c, 0 ≤ b ≤ aとすれば,F (p, q) = aであるから,補題 10.4より,(p, q) =

(±1, 0), (0,±1)である.したがって,γ = ±

(1 0

r 1

)または γ = ±

(0 1

−1 s

)である.前者ならば,a < cのときと同様に,F (x, y) = G(x, y)である.後者ならば,

G(x, y) = F (−y, x + sy) = ax2 + (2as − b)xy + (as2 − bs + a)y2.

b′ = 2as − b, −a ≤ b′ ≤ a, 0 ≤ b ≤ aより,

−a ≤ 2as = b′ + b ≤ 2a, 0 ≤ s ≤ 1.

55

もし,s = 1とすると,b′ = b = aである.しかし,このとき,b2−4ac = b′2−4a′c′

より,c′ = c = a, D = b2 − 4ac = −3a2 < −4より,a > 1, F (x, y)は原始的であることに矛盾する.ゆえに,s = 0である.そのとき,b′ = −b, c′ = c = a,

G(x, y) = F (−y, x) = ax2 − bxy + ax2

も簡約であるから,b′ = b = 0である.D = −4a2 < −4, a > 1, F (x, y)は原始的であることに矛盾する.以上によって,各狭義同値類は簡約形式を含み,異なる簡約形式は狭義同値ではないから,狭義同値類の個数は簡約形式の個数と等しく,それは有限である.

定義 10.6. 定理 10.5より,Q(D)の狭義同値類の数は有限である.これを h(D)で表し,判別式D < 0の 2元 2次形式の類数とよぶ.

例 10.7. h(−23)を求めよう.ax2 + bxy + cy2 ∈ Q(−23)をD = −23の簡約形

式とする.b2 − 4ac = −23より,bは奇数である.0 < a ≤√

233

= 2.7 · · · より,a = 1, 2である.a = 1のとき,−1 ≤ b ≤ 1, bは奇数だから,b = ±1である.1− 4c = −23より,c = 6 > a = 1である.−1 < b ≤ 1より,b = 1である.a = 2

のとき,−2 ≤ b ≤ 2, bは奇数だから,b = ±1である.1 − 4 · 2 · c = −23より,c = 3 > a = 2である.よって,F1(x, y) = x2 +xy+6y2, F2(x, y) = 2x2 +xy+3y2,

F3(x, y) = 2x2 − xy + 3y2 の 3つが判別式 −23の簡約形式である.したがって,h(−23) = 3である.

11 SL2(Z)の複素上半平面への作用判別式 D < 0の 2元 2次形式 F (x, y) = ax2 + bxy + cy2 (a > 0)に対して,

F (x, 1) = ax2 + bx + c = 0の根を θ, θ (ℑ(θ) > 0)とする.γ ∈ SL2(Z)とすると,(9.2)より,(γF )(x, 1) = 0の根は,

tγ−1(θ), tγ−1(θ)

である.このうち虚部が正であるものは,tγ−1(θ)である.実際,γ =

(p q

r s

)と

するとき,(9.3)より,

tγ−1(θ) − tγ−1(θ) =a(det α)(θ − θ)

F (p, q)=

2aℑ(θ))

F (p, q)i (11.1)

であり,2aℑ(θ))

F (p, q)> 0である.このように,正定値2元2次形式FとFをγ ∈ SL2(Z)

で変換した 2元 2次形式 γF について,それらの根で虚部が正のものは,θと θをtγ−1 ∈ SL2(Z)による 1次分数変換によって変換した tγ−1(θ)である.前節で正定

56

値 2元 2次形式について調べたことを,正の虚部の根についてのことばで書き直してみる.複素平面において,虚部が正の部分

H = {z ∈ C | ℑ(z) > 0}

を複素上半平面という.実数を成分とする行列式 1の 2次行列の群

SL2(R) =

{(a b

c d

)∣∣∣∣∣ ad − bc = 1

}

を 2次特殊線形群という.g =

(a b

c d

)∈ SL2(R)の z ∈ Hに対する作用を

g(z) =az + b

cz + d

によって定義する.z = x + yi, x, y ∈ R, y > 0とかけば,

g(z) =az + b

cz + d=

(az + b)(cz + d)

(cz + d)(cz + d)

=aczz + bd + adz + bcz

|cz + d|2

=ac(x2 + y2) + bd + ad(x + yi) + bc(x − yi)

|cz + d|2

=ac(x2 + y2) + bd + (ad + bc)x + (ad − bc)yi

|cz + d|2

=ac(x2 + y2) + bd + (ad + bc)x + yi

|cz + d|2.

したがって,

ℑ(g(z)) =y

|cz + d|2=

ℑ(z)

|cz + d|2> 0 (11.2)

である.ゆえに,g(z) ∈ Hである.すなわち,SL2(R)の元による 1次分数変換によって,Hの点 zはHの点 g(z)にうつる.補題 9.1と同様にして,g1, g2 ∈ SL2(R)ならば,g1(g2(z)) = (g1g2)(z)である.また,I2(z) = z, (−I2)(z) = zである.Hの領域Dを次のように定義する.

D =

{z ∈ H

∣∣∣∣ |ℜ(z)| ≤ 1

2, |z| ≥ 1

}

命題 11.1. 任意の z ∈ Hに対して,γ ∈ SL2(Z)が存在して,γ(z) ∈ Dである.

57

-実軸

6虚軸

−1 1

i

−12

12

0

D

図 5: SL2(Z)\Hの基本領域

[証明] σ =

(1 1

0 1

), τ =

(0 −1

1 0

)∈ SL2(Z)とおく.任意の z = x + yi ∈

Hに対して,σまたは σ−1によって zを何回か変換することによって,zを帯状領域 {

z ∈ H∣∣∣∣ |ℜ(z)| <

1

2

}に入るようにする.そのとき,もし,z /∈ Dならば,|z| < 1であり,

τ(z) = −1

z= − z

|z|2

であるから,

ℑ(τ(z)) =ℑ(z)

|z|2> ℑ(z)

である.z を τ(z) = −1

zで置き換えて,このプロセスを繰り返すことによって,

γk = σ−qk(τσ−qk−1) · · · (τσ−q1) ∈ SL2(Z) (k = 1, 2, . . . , n) が存在して,

|γk(z)| < 1,

|ℜ(γk(z))| <1

2,

ℑ(γk+1(z)) = ℑ(τ(γk(z))) > ℑ(γk(z)) (1 ≤ k ≤ n − 1)

となる.したがって,γk, k = 1, 2, . . . , nは相異なる SL2(Z)の元であり,γk =(ak bk

ck dk

)とかけば,(11.2)より,k = 1, 2, . . . , nについて,

ℑ(γk(z)) =ℑ(z)

|ckz + dk|2(> ℑ(z))

58

は単調増加であるから,|ckz + dk|2 (k = 1, 2, . . .)は単調減少である.また,

1 > |ckz + dk|2 = (ckx + dk)2 + c2

ky2

より,c2k < y−2, −1 − ckx < dk < 1 − ckxである.このような整数 ck, dkは有限個

しかないから,このプロセスが無限に続くことはない.ゆえに,ある nに対して,γn(z) ∈ Dとなる.

命題 11.2. z1, z2 ∈ D, z1 = z2, ある γ ∈ SL2(Z)が存在して,z2 = γ(z1)であるとする.そのとき,次のいずれかが成り立つ.

(1) ℜ(z1) = ±1

2, z2 = z1 ∓ 1.

(2) |z1| = 1, z2 = − 1

z1

.

[証明] 対称性から,ℑ(z2) ≥ ℑ(z1)としてよい.γ =

(a b

c d

)∈ SL2(Z),

z2 = γ(z1)とする.そのとき,

ℑ(z2) =ℑ(z1)

|cz1 + d|2≥ ℑ(z1)

より,|cz1 + d|2 ≤ 1である.z1 ∈ Dより,ℑ(z1) ≥√

3

2である.よって,

√3

2|c| ≤ |c|ℑ(z1) ≤ |cz1 + d| ≤ 1,

c ∈ Zより,|c| = 0, 1である.

c = 0 のとき.γ = ±

(1 b

0 1

)であり,z2 = z1 + b, ℜ(z2) = ℜ(z1) + b,

|ℜ(z2)|, |ℜ(z1)| ≤1

2, z1 = z2 であるから,b = ±1であり,(1)が成り立つ.

|c| = 1のとき.条件 |cz1 + d|2 ≤ 1は

(ℜ(z1) ± d)2 + ℑ(z1)2 ≤ 1,

(ℜ(z1) ± d)2 ≤ 1 −ℑ(z1)2 ≤ 1 − 3

4=

1

4,

|ℜ(z1) ± d| ≤ 1

2.

これから,|d| ≤ 1である.もし,|c| = |d| = 1ならば,上の不等号はすべて等号

であり,したがって,ℑ(z1) =

√3

2, |ℜ(z1) ± 1| =

1

2,したがって,z1 = ±1

2+

√3

2i

である.これは,(1), (2)ともに満たしている.もし,|c| = 1, d = 0ならば,条

59

件 |cz1 + d|2 ≤ 1は |z1| ≤ 1となるが,z1 ∈ Dより,|z1| ≥ 1, |z1| = 1である.

γ = ±

(a −1

1 0

)であり,z2 = a − 1

z1

= a − z1である.|ℜ(z1)| =1

2ならば,

a = 0, z2 = − 1

z1

であり,(2)が成り立つ.|ℜ(z1)| =1

2ならば,z1 = ±1

2+

√3

2iで

ある.これは,(1), (2)ともに満たしている.

60