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東北大学 工学部 材料科学総合学科 工業数学 II(小原) 57 6.ベクトル解析2 本章では主にベクトルの積分について述べる。本講義では、スカラー場およびベクトル場におい てベクトル関数の軌跡が描く曲線 C に沿って積分をする線積分のほか、2 重積分、面積分、体積分 について解説する。このほかのベクトルの積分として、被積分関数がベクトル関数である場合や、 積分変数がベクトル関数である場合の積分についても概説する。 6-1.線積分と 2 重積分 a) スカラー場の線積分 空間における曲線ܥに沿った積分を線積分という。ܥܥ上の距離ݏ(弧の長さ)により ݏሻൌ ݔݏ ݕݏ ݖݏ ݏ(6.1) で示されるとする(ܥ上の ݏの点を A ݏの点を B)。 ݖ ,ݕ ,ݔܥの各点で定義される与えられた関数であって、ݏの連続な関数とするとき、 ݖ ,ݕ ,ݔ ݏ ݔݏሻ, ݕݏሻ, ݖݏሻ൯ ݏ (6.2) ܥに沿った点 A から B までの関数の線積分という。 Fig. 6‐1 向きづけられた曲線 Fig. 6‐2 二次元領域 ݔݕ平面における線積分 ܥが任意のパラメータݐにより表わされている場合には、 ݐሻൌ ݔݐ ݕݐ ݖݐ ݐ ݐ ݐݖ ,ݕ ,ݔ ݏ ݔݐሻ, ݕݐሻ, ݖݐሻ൯ ݏ ݐ ݐ(6.3) ここで、 ݏ ݐ ݔ ݐ ݕ ݐ ݖ ݐܥに沿った点 A から B までに曲線が ܥ ܥ, ܥ,⋯ , の順とすると、関数の線積分は次式で表される。 ݖ ,ݕ ,ݔ ݏ ݖ ,ݕ ,ݔ ݏ ݖ,ݕ,ݔ ݏ ⋯ න ݖ ,ݕ ,ݔ ݏ (6.4) ܥと逆向きの点 B から A まで経路をܥとすると、関数の線積分は次の関係が成り立つ。 ݖ,ݕ,ݔ ݏ ݖ,ݕ,ݔ ݏ (6.5) A B C A B C x y f (x, y) f A B

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6.ベクトル解析2 本章では主にベクトルの積分について述べる。本講義では、スカラー場およびベクトル場におい

てベクトル関数の軌跡が描く曲線 Cに沿って積分をする線積分のほか、2重積分、面積分、体積分

について解説する。このほかのベクトルの積分として、被積分関数がベクトル関数である場合や、

積分変数がベクトル関数である場合の積分についても概説する。

6-1.線積分と 2 重積分

a) スカラー場の線積分

空間における曲線 に沿った積分を線積分という。 が 上の距離 (弧の長さ)により

(6.1)

で示されるとする( 上の の点を A、 の点を B)。

, , は の各点で定義される与えられた関数であって、 の連続な関数とするとき、

, , , , (6.2)

を に沿った点 Aから Bまでの関数 の線積分という。

Fig.6‐1向きづけられた曲線 Fig.6‐2二次元領域 平面 における線積分

が任意のパラメータ により表わされている場合には、

, , , , (6.3)

ここで、

に沿った点 Aから Bまでに曲線が , , ⋯ , の順とすると、関数 の線積分は次式で表される。

, , , , , , ⋯ , , (6.4)

と逆向きの点 Bから Aまで経路を とすると、関数 の線積分は次の関係が成り立つ。

, , , , (6.5)

A

B

C

A B

C

x

y

f (x, y) f

A

B

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【演習問題】

6‐1 cos sin 0 2⁄ で表される円弧の上で、 , 2 を積分せよ。

6‐2 Cが 平面上の直線 2 を A: ‐1,‐2,0 から B: 1,2,0 までに区切った線分であると

き、 を求めよ。

6‐3 曲線 cos sin 3 の A : 1, 0, 0 から B : 1, 0, 6 までの線分における

の積分を求めよ。

6‐4 変化する力 がある粒子に作用している場合を考える。粒子が空間に与えられた軌道 Cに沿

って動かされたとすると、この変位で がした仕事 は、線積分

で与えられる。今、 4 8 2 で示されるベクトル場において、粒子が以下の軌

道を通過する場合の仕事量を求めよ。

a 直線 2 , 2 に沿って、 0,0,0 から 3,6,6 まで

b 放物線 2 3⁄ , 0に沿って、 0,0,0 から 3,6,0 まで

b) 2 重積分

空間における 2 次元領域(平面) における積分を2重積分

という。閉領域 が

,

の形の不等式で記述できるとするとき、次式を閉領域 におけ

る , の2重積分という。

Fig.6‐32重積分の計算

Fig.6‐4

, , (6.6)

右図(Fig.6‐4)において、領域 の面積 は、

(6.7)

曲面 , 0 の下方で 平面における閉領域 Rの上

方の体積 Vは、

, (6.8)

となる。

c) 2重積分の変数変換

, , , なる新しい変数 , を導入した場合の2重積分は、

, , , , | | (6.9)

x

y

R

h(x)

g(x)

a b

x

y

f (x, y)

z

R

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ここで、Jはヤコブ行列式(ヤコビアン)と呼ばれ、次式で与えられる。

,,

≡ ∙ ∙ (6.10)

変数変換の頻繁な例としては、デカルト座標系から極座標系への変換

cos , sin とするとき、

,,

cos sinsin cos

となるので、

, cos , sin (6.11)

【演習問題】

6‐5 極座標を用いて、 : 9, 0の領域における関数 2 の積分を求めよ。

6‐6 極座標を用いて、 :0 √1 , 0 1の領域における関数 の積分を求め

よ。

d) 平面におけるグリーンの定理(2重積分-線積分間の変換)

平面上に単純閉曲線(自分自身が交わることのない閉曲線) で囲まれた領域 Rの2つのスカ

ラー場 , と , に対して、次式が成り立つ(ただし、 の向きは反時計まわり)。

(6.12)

【演習問題】

6‐7 グリーンの定理を用いて、積分路 上の反時計回りの積分 を求めよ。

a 3 , 4 , : 0, 0 , 1, 0 , 0, 2 を頂点とする3角形の境界

b 2 , 3 , : 1

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6-2.面積分

a) 面要素によるスカラー場の面積分

空間スカラー場 , , の曲面 Sにおける微小面積

(面要素)による積分を面積分とよぶ。

Fig.6‐5

Fig.6‐6

, , (6.13)

空間スカラー場 , , に2つのパラメータ(媒介変数)

, を用いて曲面 Sが、

, , , , (6.14)

, は領域 内を動く点

で与えられているものとする。

スカラー関数 , , の曲面 における微小面積要素

(面要素) ∆Aは、右図(Fig.6‐6)のように2つの微小

ベクトル ⁄ ∆ , ⁄ ∆ の外積の大きさに等

しい。∆ → 0, ∆ → 0とすると、

(6.15)

よって、スカラー関数 , , の曲面 における面要素 による面積分は、次のように定義される。

, , , , , , , (6.16)

【演習問題】

6‐8 下記の空間スカラー場 の曲面 S をパラメータ表示(媒介変数表示)して面積分

∬ , , を求めよ。

2, S: 1, 0 1

b) 面積分-2重積分間の変換

空間スカラー場 , , の曲面 Sが , ( , は

領域 を動く点)で与えられているとき、スカラー関数

, , の曲面 における面積要素 による面積分は、

平面における平面領域 の2重積分に変換できる。

Fig.6‐7

, , , , ,

, , ,

(6.17)

【演習問題】

6‐9 空間スカラー場 であり、半球面Sが で与え

られているとき、面積分∬ , , について極座標変換を用いて求めよ。

x

y

f (x,y,z) z

S r

uu

r

vv

v 一定

u 一定

A r

u r

vuv

(u, v)

(u+Δu, v+Δv) (u, v+Δv)

(u+Δu, v)

ΔA

ru

u

rv

v

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6-3.ガウスの発散定理(体積分-面積分間の変換)

閉曲面 で囲まれた領域 がベクトル場 であるときの体積分と

面積分について、

Fig.6‐8閉領域 と閉曲面 の

単位法線ベクトル

∙ (6.18)

が成り立つ。ここで、 は の体積、 は の表面積とし、 は曲

面 上の面積要素ベクトルである。

ここで、 が曲面 の単位法線ベクトルであるならば、 を曲面

の に関して外向きの法線ベクトルにおける の成分とすると、

であるから、(6.18)式は以下のように表せる。

(6.19)

一般に、ガウスの発散定理の右辺よりも左辺の計算のほうが楽なので、右辺の計算の代わりに

左辺を計算するような問題が多い。

【例題6−1】空間ベクトル場 2 , 2 , 0 に2つの曲面 S : 4 0 と

S : 4 0 でできる閉曲面 Sが与えられている。

このとき、∬ を求めよ。

(解答)

閉曲面 Sは右図のとおりであり、Sに囲まれた領域を Rとする。

ガウスの発散定理より、∬ の代わりに ∭ を

計算する。 4 より、次式を計算すればよい。

Fig.6‐9

4 ①

, , の積分範囲は、曲面 S1と S2の方程式より、

0 4 , √4 √4 , 2 2 よって、式①は以下のように書ける。

4√

2 4√

√②

ここで、 cos , sin とおいて変数変換(極座標変換)すると、 平面では、

0 2,0 2 であり、ヤコブ行列式 、4 4 なので、式②は、

2 4

x

y

z 閉曲面S

領域R

0

n

n

n

x

y

z

2 2

2

-2

-2

S1: x2 +y2 +z2 =4 (z ≥ 0)

S2: x2 +y2 ≤ 4 (z = 0)

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【演習問題】

6‐10 空間ベクトル場 , , において、3つの座標平面と平面2x 2y z 2 0とで囲ま

れる領域を とし、 を囲む閉曲面を とする。このとき、∬ を求めよ。

ガウスの発散定理を直感的に理解をするために、以下のような物理現象を考える。

ベクトル場 を水の流れとする。ベクトルの発散( )は,湧き出しや吸い込みを意味するので、

定理の左辺の意味は『領域 内全体で、新たに増えたり減ったりする流れの総量』を表わす。今、

水の圧縮性を考えていない(非圧縮性流体)ので、もし、湧き出しや吸い込みが全くなければ、領

域 に流入する水量と流出する水量は同じになるはずである( 0)。もし湧き出しがあれば、

流出する水量の方が多くなり( 0)、吸い込みがあれば流入する水量が多くなる( 0)。

(領域 内にある水道の蛇口か何かによる湧き出し口をイメージしてみよう。)領域 全体での、水

量の増減がガウスの発散定理の左辺を意味する。

一方、右辺の中の ∙ は『この領域 の曲面 における、 の法線方向成分 』であるので、定

理の右辺は『領域の曲面 全域に渡る、曲面 を通過する流れの総量』を表わす。従って、ガウスの

発散定理の意味を現象論として記述すると以下のようになる。

(領域全体での増減)= (領域表面で出たり入ったりした量の差)

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6-4.ストークスの定理(面積分-線積分間の変換)

a) ベクトル場の線積分(接線線積分)

6−1節ではスカラー場の線積分について説明した。ここでは空間

ベクトル場の線積分について述べる。(さまざまな線積分が定義でき

るが、ここでは最も良く使われる接線線積分について定義を示す。)

空間ベクトル場: , , , ,

に、右図のような

曲線 : , ,

が与えられているとき、 と の内積の曲線 に沿った接線線積分

を次のように定義する。 Fig.6‐10接線線積分

(6.20)

上式は、

∙ ∙ ∙ ′ (6.21)

とも表され、 ′ は接線ベクトル , , であることから、接線線積分と呼ばれる。

ベクトル場の接線線積分においても、スカラー場の積分と同様に次の式が成り立つ。

∙ ∙ : → , : → (6.22)

∙ ∙ ∙ ⋯ ∙ (6.23)

【例題6−2】空間ベクトル場 , , 2 , , 2 、曲線 : , , 1 0 1 の

とき、ベクトル場の(接線)線積分 ∙ を求めよ。

(解答)

曲線 : , , 1 0 1 より、求める接線線積分は、

∙ 2 2

曲線 上のベクトル関数は、

, , 2 , , 2 2 , , 2 1

曲線 上に沿った について

1 , 2 , 1

であるから、

∙ Fig.6‐11

x

y

z

p'(t)

p(t)=[x(t), y(t), z(t)]

P

0 A

B 曲線C

p (t)

(t=b)

(t=a)

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2 ∙ 1 ∙ 2 2 1 ∙ 123

2 ∙12

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b) ストークスの定理

ベクトル場 , , において閉曲線 で囲まれた曲面 について、面積分と線積分の関係を表

すストークス定理は、以下の公式で与えられる。

∙ ∙ (6.24)

ここで、曲面 の単位法線ベクトル 方向の の成分を とすると、

また、

より、閉曲線 の接線ベクトル ′ 方向の の成分を とすると

Fig.6‐12ストークスの定理 ∙ ′ (6.25)

左辺はベクトル場 の回転と面の法線との内積の面積分であり、

右辺はベクトル と接線の内積の線積分であることを意味する。

ストークスの定理の場合、ガウスの発散定理と違って、左辺または右辺のどちらか一方が計算し

やすいというわけではない。

ストークスの定理を 平面で考えれば(ベクトル場を , , 0 と考える)、平面におけるグ

リーンの定理が導かれるので、ストークスの定理はグリーンの定理の曲面版と言える。

【例題6−3】 が原点から見て反時計回りに向きつけられた円 4, 3であって、右

手系のデカルト座標系に関して、 であるとき、 を求めよ。

(解答)

で囲まれた平面 4, 3を Sとする。平面 の法線ベクトル kなので、

∙ 1

であり、 3なので、 28

したがって、ストークスの定理を用いると、

28 28 4

(∵ ∬ は平面 の面積なので、4)

【演習問題】

6‐11 空間ベクトル場 , , 0 において、閉曲線 : 1 0 と で囲まれる平面

( 平面上の円板) がある。このとき、ストークスの定理の(6.24)式における

左辺および右辺をそれぞれ計算し、一致することを確かめよ。