特 集 SPECIAL REPORTS 量販店向けPOSシステム提案における UX … ·...

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24 東芝レビュー Vol.69 No.10(2014) SPECIAL REPORTS 特  集 駒宮 祐子 ■ KOMAMIYA Yuko 東芝テック (株)は,リテールソリューション分野の主な商品であるPOS(販売時点情報管理)システムにおいて,国内約 50 % のシェアを保持し市場をリードしている。しかし近年,パソコンやスマートフォンの普及による消費者の購買行動の変化や 店舗運営の変化などにより,従来の商品開発手法だけで POS システムを開発していくことが困難になってきている。 そこで当社は,ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン手法を用いて買い物客の行動や思考を分析し,2020 年をターゲット とした新しい量販店向け POSシステムとサービスの提案を行った。カスタマージャーニー(CJ)マップを活用したアイデア発想 とアイデア展開のために考案した当社独自の UX デザイン手法により,様々な要求に対応した提案が可能になった。 In the field of retail solutions, Toshiba TEC Corporation leads the market for point of sales (POS) systems in Japan with a share of almost 50%. However, due to the changes taking place in both customers' purchasing behavior and store operations due to the wide dissemination of notebook PCs and smartphones in recent years, it has become difficult to develop POS systems using the product development approach as in the past. To solve this issue, we have developed proposals for new POS systems and services for general merchandising stores to be realized by 2020 through the analysis of customers' purchasing behavior and attitudes, based on a user experience (UX) design approach. Our proprietary UX design approach, incorporating an idea generation process using customer journey (CJ) maps, makes it possible to propose optimal solutions to meet various requirements. 1 まえがき 量販店向け POSシステムは,買い物客による購入点数の多 い食品スーパーマーケットなどで商品を登録する作業に特化 した縦型スキャナと,現金やクレジットカード,商品券など様々 な支払い方法に対応した支払い業務を行うPOSターミナルを 組み合わせたシステムとなっている。また,買い物客がみずか ら会計作業を行うセルフレジも多くの店舗が導入しており,買 い物客が会計方法を選択できる価値を提供している(図1 )。 一方,量販店では,ネットショッピングなどによる買い物客 の実店舗離れへの対策として,スマートフォンに実店舗で利用 できる電子クーポンを送信して買い物客を実店舗へ誘導する O2O(Online to Offline)サービスなどを導入している。 ここでは,食品や日用品を扱う大型・中型量販店をターゲッ トとした実店舗来店者数の増加促進に向け,新しいPOSシス テムとサービスを提案するためのアイデア展開に UXデザイン 手法を活用した取組みについて述べる。 2 現状把握と不満点からのアイデア発想 まず現状把握のために,横軸を買い物前,買い物中,会計, 及び買い物後の買い物のフローとし,縦軸を買い物客の属性 と店舗スタッフとしたカスタマージャーニーマップ(以下,CJ 量販店向けPOSシステム提案における UXデザインへの取組み Proposal of New POS Systems for General Merchandising Stores Utilizing UX Design Approach 星野 直樹 ■ HOSHINO Naoki マップと略記)のフォーマットを作成し,ターゲットである大 型・中型量販店と同様,一般的に利用される駅前狭小店及び 高級店も加えた 4 種類の店舗の CJマップを作成した。CJマッ プの作成では,デザイナー全員参加のディスカッションを店舗 種類ごとに 1 回ずつ行い,デザイナー自身が当てはまる買い物 客の属性については自分の行動や満足,不満などの主観的な 意見を,そうでない属性については観察による気づきや調査結 果から抽出した買い物客の意見をラベル化した。また,満足 点や肯定的意見,不満点や否定的意見,気づきや行動が直観 的にわかるように色分けした(図2)。 この結果,大型・中型量販店での買い物に不満点が多かっ セルフレジ SS-800 量販店向けPOSシステム M8500/IS-910T 図1.量販店向け POSシステムとセルフレジ 量販店で使われている POS システムで,一般にレジと呼ばれている。 POS system and self checkout system for general merchandising stores

Transcript of 特 集 SPECIAL REPORTS 量販店向けPOSシステム提案における UX … ·...

24 東芝レビューVol.69 No.10(2014)

SPECIAL REPORTS特  集

駒宮 祐子■KOMAMIYA Yuko

東芝テック (株)は,リテールソリューション分野の主な商品であるPOS(販売時点情報管理)システムにおいて,国内約50 %のシェアを保持し市場をリードしている。しかし近年,パソコンやスマートフォンの普及による消費者の購買行動の変化や店舗運営の変化などにより,従来の商品開発手法だけでPOSシステムを開発していくことが困難になってきている。そこで当社は,ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン手法を用いて買い物客の行動や思考を分析し,2020年をターゲット

とした新しい量販店向けPOSシステムとサービスの提案を行った。カスタマージャーニー(CJ)マップを活用したアイデア発想とアイデア展開のために考案した当社独自のUXデザイン手法により,様々な要求に対応した提案が可能になった。

In the field of retail solutions, Toshiba TEC Corporation leads the market for point of sales (POS) systems in Japan with a share of almost 50%. However, due to the changes taking place in both customers' purchasing behavior and store operations due to the wide dissemination of notebook PCs and smartphones in recent years, it has become difficult to develop POS systems using the product development approach as in the past.

To solve this issue, we have developed proposals for new POS systems and services for general merchandising stores to be realized by 2020 through the analysis of customers' purchasing behavior and attitudes, based on a user experience (UX) design approach. Our proprietary UX design approach, incorporating an idea generation process using customer journey (CJ) maps, makes it possible to propose optimal solutions to meet various requirements.

1 まえがき

量販店向けPOSシステムは,買い物客による購入点数の多い食品スーパーマーケットなどで商品を登録する作業に特化した縦型スキャナと,現金やクレジットカード,商品券など様々な支払い方法に対応した支払い業務を行うPOSターミナルを組み合わせたシステムとなっている。また,買い物客がみずから会計作業を行うセルフレジも多くの店舗が導入しており,買い物客が会計方法を選択できる価値を提供している(図1)。一方,量販店では,ネットショッピングなどによる買い物客

の実店舗離れへの対策として,スマートフォンに実店舗で利用できる電子クーポンを送信して買い物客を実店舗へ誘導するO2O(Online to Offline)サービスなどを導入している。ここでは,食品や日用品を扱う大型・中型量販店をターゲッ

トとした実店舗来店者数の増加促進に向け,新しいPOSシステムとサービスを提案するためのアイデア展開にUXデザイン手法を活用した取組みについて述べる。

2 現状把握と不満点からのアイデア発想

まず現状把握のために,横軸を買い物前,買い物中,会計,及び買い物後の買い物のフローとし,縦軸を買い物客の属性と店舗スタッフとしたカスタマージャーニーマップ(以下,CJ

量販店向けPOSシステム提案におけるUXデザインへの取組みProposal of New POS Systems for General Merchandising Stores Utilizing UX Design Approach

星野 直樹■HOSHINO Naoki

マップと略記)のフォーマットを作成し,ターゲットである大型・中型量販店と同様,一般的に利用される駅前狭小店及び高級店も加えた4種類の店舗のCJマップを作成した。CJマップの作成では,デザイナー全員参加のディスカッションを店舗種類ごとに1回ずつ行い,デザイナー自身が当てはまる買い物客の属性については自分の行動や満足,不満などの主観的な意見を,そうでない属性については観察による気づきや調査結果から抽出した買い物客の意見をラベル化した。また,満足点や肯定的意見,不満点や否定的意見,気づきや行動が直観的にわかるように色分けした(図2)。この結果,大型・中型量販店での買い物に不満点が多かっ

セルフレジ SS-800量販店向けPOSシステム M8500/IS-910T

図1.量販店向けPOSシステムとセルフレジ̶量販店で使われているPOSシステムで,一般にレジと呼ばれている。POS system and self checkout system for general merchandising stores

25量販店向けPOSシステム提案におけるUXデザインへの取組み

特  

たので,不満点から問題点や原因を分析して価値に置き換え,これらの価値からアイデア発想することを試みた。しかし,不満点からの価値は,単に不満を裏返した表現になり,アイデア発想につながらなかった。この原因としては,不満点が起点だと機器や設備などの直

接的な解決や買い物客のふるまいに視点が置かれ,本質的な価値抽出が阻害されることや,価値を表すことばが一般的で抽象的な表現になるため魅力がなく,アイデア発想のきっかけになりにくいことなどが挙げられる。これに対し,CJマップのディスカッションでは,現状把握を

目的としているにも関わらずアイデアに関する発言も多かった。このことから,CJマップの各ラベルに書かれた生の情報がアイデア発想の基点になりやすいと考えられる。そこで,CJマップを活用したアイデア発想を試みることにした。

3 CJマップを基点としたアイデア発想

3.1 テーマの設定2章で述べたCJマップから,各店舗ともクーポンやポイント

が使いにくいという意見が多く,O2Oなどのサービスが来店誘導にうまく作用していないことが推測された。また,駅前狭小店及び高級店での主な満足点である,わかりやすい商品情報や店舗スタッフの高いホスピタリティを大型・中型量販店でも実現させ,更に不満点も解消することが必要であると考えた。これらの考察から,発想のためのテーマを“店舗に誘導する送客の仕組み”及び“店舗での快適な買い物”とした。3.2 ターゲットの明確化次に,大型・中型量販店での不満点は,他の買い物客の行

動が原因になっている意見が多かったことから,店舗での快適な買い物を実現するためには,どのような買い物客にどのような要求があるのかを認識する必要があった。そこで,東芝テック (株)で今まで行ってきた店舗ヒアリング結果なども参考に,買い物の必要性と緊急性を軸に買い物客層を整理した(図3)。そして,様々な要求やシチュエーションの買い物客の中から,量販店のメインユーザーである,主婦及び高齢者をターゲットとした。しかし,ターゲットユーザーの中でも,急いで必要な商品だけを効率的に購入したいとか,店舗スタッフとコミュニケーションしながらゆっくり購入したいなど,求めるサービスや要求が大きく異なる買い物客が店舗内に同時に存在することが明らかになり,買い物客の満足を得るためには,従来のPOSシステムだけでは対応が難しいことが推測された。3.3 アイデアの発想と価値視点による検討設定したテーマやターゲット分析,4種類のCJマップを参考にしながら自由に発想し,45のアイデアを抽出した。また,駅前狭小店及び高級店の満足点を大型・中型量販店に盛り込むために,4種類のCJマップの合計約300の意見や情報,気づきのラベルを買い物客の求める価値という視点でA~ Sまでの19の価値にグルーピングし,1枚のUX価値マップにまとめた。この際,発想をより活発にするために,各々の価値だけでなく,価値を構成する個々のラベルも読めるように配慮した。横軸の買い物フローに沿って価値や思考を一覧化したことで,“量販店での買い物”という行為がどのような価値や思考で構成され,各ステップで価値や思考がどのように変化していくのかが直観的に理解できるUX価値マップとなった。抽出された45のアイデアは,O2Oなどのサービスに関するア

イデアや店舗内のシステムに関わるアイデア,具体的な機器のアイデアなど多岐にわたっていた。そこで,これらを価値という視点でUX価値マップ上にプロットし,価値とアイデアの関

買い物前 買い物後買い物中 会計

大型量販店

ランチの予約をしてから買い物に行く

子供用に車内で食べるお菓子用意

買い忘れが嫌でメモ作成 一日つぶれた

感じがする

カートの車輪が上手く動かない

買いたい商品の前でずっと動かない人がいる

品出しの段ボールが邪魔

重たい商品を買うのは断念⇒本当は買いたいのに…

冷蔵庫内をスマホで撮影⇒ 無いものチェック

父親だけ車を運転家族は先に買い物

駐車した場所を頑張って覚える

昼食を兼ねてAM中に外出

財布の中身確認

ネットチラシをチェックする

駐車場の1Fが空いてると嬉しい

カバンを選ぶ

エコバッグを用意

待ち時間に洗車してるオッサン

会員カード確認

立体駐車場で酔う 駐車場が暑い!

駐車券を車内に置き忘れる

カートを大量に運ぶ職員・危ない 陳列している

店員さんがどいてくれない

子供用のでかいカートが邪魔

何かのついでに買い物

普段乗るバスのルートにある

カートにむりやり寄りかかる

自転車が邪魔でお店に入れない

歩行支援用カートに無理やりカゴを載せる

試食が楽しみ

アプリで覚えてもアプリを使い忘れる

買うものをメールで家に聞いて確認してから

スマホに買い物メモポイントで買いたい

⇒足りるか不安

値引きを待つ客が怖い…

買い物中はカバンが邪魔になる

カゴ持ちだと傘が邪魔になる

子供はお菓子売り場で待たせる

子供はベンチでDSさせる

カゴが濡れてるときがある

カゴに野菜くず

広すぎて迷う

子供用のカート選びが大変(キャラなど)

カートで遊ぶ子供が危ない

子供が走り回って危ない

子供が二人乗るカートが重い

日用品を買うにはカートが小さい

デジタルサイネージは誰も見てない

サイネージ五月蝿い!

コンテンツが退屈!

商品の場所が分からない時ある

ネット価格と店頭価格が違う

賞味期限が新しいものを奥から選ぶ人がいる

安い商品を見つけて買おうとするが、家にまだ残っているんじゃないかと迷う

値引き品ばかり買うのは人の目が気になる

お肉など、丁度いいグラム数が無い

惣菜に使われている肉は不安

孫のために菓子買う

家族と買い物に来てるから楽しい

ちょっと良い食材買う

値引きシールを貼ってとお願い

マグロサク⇒期限近い ⇒刺身に ⇒惣菜の材料に?

二人で料理してると自分が買ったものが使われてる

売れ残りをどうしてるのか気になる

未開封で賞味期限○○⇒開封後の期限が知りたい

開店からずっと置いてる惣菜は不安

同じ商品で値札が違う事がある

カゴにマイバッグを入れてそこにキレイに詰めてほしい

小銭は出しづらいから端数はポイントで

レシートの上に小銭を乗せられるのは嫌だ

マイカゴは家での保管が面倒

クーポンの存在がウザい、不要

決済前に食べだす DQN

駐車場のゲートに手が届かず、車を降りてお金を払う

駐車場ゲートとスマホ・スマレシが連携してほしい

滞在時間が知りたい⇒ 駐車料金

レジ前の商品をついつい入れられてしまう

カゴをキャッシャー台に乗せるのが重い

他の家族が何を買うか気になる

何を買ってるか見られたくない

カートを待ち列においてまた商品見に行く

レジ待ち列が邪魔で通れない

縦並びのレーンの並び方がわからん

レジで小銭を落とすとパニック

袋不要って言ったのにマイバッグに入らず …結局袋をもらう

自分からクーポン使わなきゃならないのは嫌だ

レジ袋破れる

袋詰めスペース狭く、ストレス

買ったものを袋に詰め忘れる

レジ待ちの早さは運なのでイライラ

大量に買ったのに駐車料金かかりイライラ

おつりを綺麗な人に丁寧に渡され嬉しい

混んでいるのに全てのレーンが空いていない

空きレーンの近くに並ぶカートの下のトイレットペーパー会計忘れそう

自分の番にキャッシャーが離れると気まずい

自分の番にロール紙交換・イライラ

金額をぴったり払いたい

キャッシャーとついお話しちゃう

小銭をちゃんと用意したい

惣菜にカバーかけない⇒ 市場的なワクワク感の演出 カートの下段が見えない

大量万引きが不安

あんまり万引き対策しない?⇒ 全体から見たら些事

夜、店員が少ないからレジ稼働率悪い⇒客が少なくてもレジ待ち発生

縦型スキャナの脇に袋不要のカード

マイバッグカードが取りにくい

会員カードの種類が多すぎ

電子マネーにもポイント欲しい

お釣りをそろえて渡してほしいお釣り確認しづらい

マイバッグカードを入れても袋の有無を確認してくれる人がいる

スマホをかざすだけでクーポン・ポイントカード使いたい

クーポン袋を用意してる

袋の有無は最後に確認したい(スタッフ)

⇔ 袋の有無は最初に宣言したい(客)

袋詰めスペースで盗まれそう

買い忘れに気づいて残念

冷蔵庫に入れるのが面倒

車内で買ったものが転ぶ

主婦働く主婦

子連れママ

家族連れ

高齢者

サラリーマンOL学生

店舗スタッフ

夫婦

否定的内容肯定的内容 行動や気づきなど

試食が楽しみ

商品が限定されたクーポンは役立たない

クーポンの存在がウザい、不要

パンや総菜に売れ残り感

図2.大型量販店のCJマップ̶ 縦軸と横軸は同じ項目で4種類のCJマップを作成した。大型・中型量販店では不満などの否定的内容が多く,駅前狭小店や高級店では肯定的内容が多い。CJ map in case of large store

時間にゆとりがある

子ども連れ

高齢者

なにか良いものがあったら買いたい

専業主婦

仕事帰り兼業主婦週末家族連れ

子どもと楽しく買い物したい

手厚い接客をして欲しい

とにかく早く済ませたい

お得で賢い買い物がしたい買うものが多いので

楽に済ませたい

急いで済ませたい

買わなければならないものが多い

図3.大型・中型量販店の買い物客の要求分析̶買い物の必要性と緊急性で買い物客を分類した。様々な要求が存在し,従来のPOSシステムだけでは対応が難しい。Analysis of customer requirements in medium and large stores

26 東芝レビューVol.69 No.10(2014)

係が視覚的に確認でき,アイデアの統合や追加検討などが容易に判断できるUXアイデアマップに展開した(図4)。そして,価値と価値をつなげるPOSシステムやサービスの新たなアイデアが更に追加された。

4 デザイン提案

デザイン提案に向けて,他社のシステムやサービス,及び量販店が行っているサービスもUXアイデアマップにプロットし,他社とは合致せず,かつ量販店のサービスに関わる価値とは親和性があるアイデアに絞り込んだ。更に,その中から当社ならではの技術や仕組みを生かせるアイデアを選択した。その結果,テーマの一つである店舗に誘導する送客の仕組

みを実現するために“MEMOkaraTM ”サービスを,もう一つのテーマである店舗での快適な買い物を実現するために“ITエクスプレスレーン”,“カートtoカートセルフレジ”,及び“コンシェルジュレーン”の三つのレーンを用意することで,店舗スタッフを増やすことなく,急ぎの主婦からゆっくりとサービスを受けたい高齢者まで,様々な買い物客の要求に対応するデザインを提案した(図5)。MEMOkaraTMは,スマートフォンやタブレットに書いた買い

物メモを,購入予定情報として店舗が活用し,メモに対して有効なクーポンや情報を送り,買い物客を店舗へ誘導するO2Oサービスである。ITエクスプレスレーンは,電子マネー対応のお客さまカード

やスマートフォンによる会計のスピードアップと買い物客に合ったクーポンの配信ができるPOSシステムで,レジ待ち解消が

期待できる(図6)。カートtoカートセルフレジは,買い物客のタブレットを装着して商品情報やレシピなどを見ながら買い物ができ,カートのまま横付けしてスムーズに会計できる。従来のセルフレジより設置面積が小さく,設置台数が増やせる(図6)。コンシェルジュレーンは,決済方法を自由に選べ,袋詰めなどは店舗スタッフが行う,よりホスピタリティの高いサービスを提供する。これは,ITエクスプレスレーン及びカートtoカートセルフレジで削減できる店舗スタッフでサービスが可能である。これらの中で,MEMOkaraTM,ITエクスプレスレーン,及び

カートtoカートセルフレジは,プロトタイプをリテールテックJAPAN 2014に出展し,好評を得るとともに多くの意見を収集することができた。

大型量販店 中型量販店 高級店駅前狭小店 高級店

会計買い物前 買い物中 買い物後

A. 買い忘れを避けたい

A. 買い忘れを避けたい

B. 必要な分を確実に買いたい

B. 必要な分を確実に買いたい

C. 買い物をイベントとして楽しみたい

C. 買い物をイベントとして楽しみたい

E.効率的に買いたい

E.効率的に買いたい

S.品ぞろえが豊富

S.品ぞろえが豊富

F. 近いから行きやすい

F. 近いから行きやすい

G. 商品が見やすい

G. 商品が見やすい

H. ポイントやクーポンが使いにくい

H. ポイントやクーポンが使いにくい

J. カートやかごが使いにくい

J. カートやかごが使いにくい

M. レジでイライラしたくないM. レジでイライラしたくない

I.店員さんと会話したいI.店員さんと会話したい

K. 店内が狭く買い物 しにくい

K. 店内が狭く買い物 しにくい

L. 子どもや高齢者が気になる

L. 子どもや高齢者が気になる

O. 配送サービス受付が面倒

O. 配送サービス受付が面倒

P. 冷蔵庫に入れるのが面倒

P. 冷蔵庫に入れるのが面倒

Q. 値引きミスや商品鮮度が心配

Q. 値引きミスや商品鮮度が心配

R. 駐車システムとの連携

R. 駐車システムとの連携

N. 持ち帰りやすく袋詰めしてくれたらうれしい

N. 持ち帰りやすく袋詰めしてくれたらうれしい

D. 欲しい商品がある

D. 欲しい商品がある

SS

SS

4種類のCJマップ

価値アイデア

図4.UX価値マップから展開したUXアイデアマップ̶ 4種類のCJマップのラベルを買い物客の思考や価値視点でグルーピングして一つにまとめたUX価値マップに,抽出したアイデアをプロットした。UX idea map obtained by developing UX value map

A. 買い忘れを避けたい

B. 必要な分を確実に買いたい

C. 買い物をイベントとして楽しみたい

E.効率的に買いたい

S.品揃えが豊富

F. 近いから行きやすい

G. 商品が見やすい

H. ポイントやクーポンが使い難い

J. カートやカゴが使い難い

M. レジでイライラしたくない

I. 店員さんと会話したいK. 店内が狭く買い物し難い

L. こどもや高齢者が気になる

O. 配送サービス受付が面倒

P. 冷蔵庫に入れるのが面倒

Q. 値引きミスや商品鮮度が心配

R. 駐車システムとの連携

N. 持ち帰りやすく袋詰めしてくれたらうれしい

D. 欲しい商品がある

S

S

A. 買い忘れを避けたい

B. B 必要な分を確実に買いたいい

C. C 買い物をイベントとしててて楽しみたい

E.効率的に買いたい

SSS 品揃えが豊富豊富がが

F. F.近い行き

G.G. 商品商見や

いいい買い物し難

O.配送サービスサ付が面倒が

庫にるのががが

商品鮮度が心配

D. 欲しいい商品ががある

S

S

いからきやす

品が品がががががががいいいいいいいいいいいいいやすすすすすすす

使い難いIIII.I. 店店員さんとんと員さんと会話したたいい話した話K.KKKKKKKKKK 店内が狭店内が狭店内が狭店内が狭店内が狭店内が狭店内 くくくくくくく買買い物し買い物し難いいい

L.L.L こどもやややががががが者ががががががががががが高齢者高齢者が齢者が齢者が齢者が

気になる気になる気になる気にな気にな気になにななるるるなるなるる

. 配受受

冷蔵冷蔵冷蔵蔵庫入入入れる面倒面

Q. Q 値引きミスや商品鮮度が

R.

らららららららららららたたたら

S

にいい

たくないたくないたくないたくないいななな

OOOOOOOO

たくなく

.冷冷冷冷冷冷冷入入入入

やトやトやートやートやートーーカカカゴがカゴがカゴがカゴがカゴがカゴがカゴが PP.P.P.P.PP.PPPPP 冷冷冷

ち帰ち帰り持ち帰り持ち帰りりりやすやすやすややすくやすくやすくやすくすくししめしめしめしめしめしめしててくれたてくれたてくれたてくれたてくれたてくれたてくれたたたたたたため詰め袋詰め袋詰め袋詰め

うれしいうれしうれしうれしうれうれうれうれしいれしいららすすいいいいいいいいいいいいいJ.J.J.JJJJJJJJ

クーポンがが使い難使い難いい難い難い難い

JJJ カカカカカカカ

NN.N. N. N.NNNNNNN 持ち帰持ち帰り持ち帰り持ち帰りややややO

すすすすすくすくすくくくHHHHHHポポポポイントポイントポイントポイントポイントポイントポイントントややややややややH

MMMMM.M. M. レジでイレジでイライライラしライラしイラしイラしイラしラしララララ たたた

HHHH.. H. ポポインポイントトややク ポンク ポンが NNNN 持ち

. ムム駐車シス駐車シス駐車シス駐車シス駐車シス駐車シス駐車シス駐車シス車システテムテムテムテムテムテムテムム車車車車車車車 ムムムムとの連携とのとのとのとのとのとのとの連携の連連

量販店が注力している価値 他社のサービス

買い物前 買い物中 買い物後会計

コンシェルジュレーン

ITエクスプレスレーン

カートtoカートセルフレジMEMOkaraTM

図5.デザイン提案をプロットしたUX提案マップ̶ 図4のアイデアから,価値と価値のつながりを視点にブラッシュアップしたデザイン提案を行った。UX proposal map showing plotted design proposals

会員事前認証及び電子マネーチャージ機

車で買い物に来た家族連れの買い物客など,子どもと楽しく会計しカートのままスムーズに駐車場へ。

カートtoカートセルフレジ

とにかく早く会計を済ませたい買い物客に対応した,スピード優先の電子マネー専用レーン。クーポンも利用しやすく賢い買い物が簡単に。

ITエクスプレスレーン

利用可能なクーポンが自動的に利用される。

電子マネー決済機

現金を事前に電子マネーに。レジ袋不要も事前に宣言。

サイネージ及びデジタルクーポン発券機クーポンを会員カードやスマートフォンをタッチして取得。

図6.ITエクスプレスレーンとカートtoカートセルフレジ̶ 店舗での快適な買い物を実現するサービスを提案した。また,モックアップを作成し,リテールテック JAPAN 2014に出展し多くの意見を収集した。IT express lane and cart-to-cart self checkout system

27量販店向けPOSシステム提案におけるUXデザインへの取組み

特  

5 東芝テックのUXデザインプロセス

ここまで述べてきた取組みから,買い物客の行動や思考,気づきなどのラベルで構成されたCJマップ層をベースに,UX価値マップ層からアイデアや提案に対する意見や評価結果などのフィードバック層へと情報を順にレイヤ状に重ねて可視化することで,各層で新しいアイデアの発想やブラッシュアップを促進する方法が見いだされた(図7)。また,一つのツールを最大限活用することで,ツール作成の時間を最小限にとどめ,アイデア発想に時間を配分しやすくなることも大きなメリットになった。

て買い物ができる環境やシステム,サービスなどのアイデアを提供していくことを目標にしている(図8)。今回のデザイン提案は,「お客さまがうれしい」と「お店がうれしい」に注目したアイデアとなった。

7 あとがき

アイデア発想のためには,知識や経験をデザイナー自身の思考の中で醸成することが必要である。UXデザイン手法の活用は,CJマップをデザイナー自身が作成することで知識や経験の背景となる価値に対する意識が醸成され,アイデア発想につながりやすい。また,CJマップに情報を積層していく一連の手法は,知識や経験,ディスカッションでの意見,アイデア発想などを思考しやすい形で視覚的に整理し,定着する手段として効果的であるとともに,アイデアの検証にも利用できる。今後,デザイン提案に対する買い物客や店舗スタッフの意見や技術的課題などもフィードバック層に反映させ,製品化の方向性を検討していく。

駒宮 祐子 KOMAMIYA Yuko東芝テック (株)商品・技術戦略企画部 デザイン室参事。製品デザイン,及びユーザビリティやユニバーサルデザイン,UXデザインの企画運営に従事。日本デザイン学会会員。Toshiba TEC Corp.

星野 直樹 HOSHINO Naoki東芝テック (株)商品・技術戦略企画部 デザイン室主務。製品デザイン,ユーザビリティ評価,及びユニバーサルデザイン,UXデザイン推進業務に従事。Toshiba TEC Corp.

CJマップ層現状を一覧化全体像を把握して,まずは思いつくままにアイデア創出

UX価値マップ層価値を視点に情報をグルーピング,価値と価値とのつながりから発想

UXアイデア層アイデアを一覧化してアイデアとのつながりから新たに発想

UX提案層アイデアの統合と他社や市場動向を確認提案へ

フィードバック層提案に対するVoCや評価結果から提案の有効性確認と方向性を分析

アイデアⅠ

アイデアⅡ

アイデアⅢ

アイデアⅣ

アイデアV

VoC:顧客の声

図7.CJマップによる東芝テックのUXデザインプロセス̶ CJマップ層をベースに,情報をレイヤ状に重ねて可視化することでアイデアを発想する手法を開発した。Toshiba TEC Corporation's UX design process with CJ maps

ユニバーサルデザイン=アクセシビリティ+ユーザビリティ

「このお店があるからうれしい」につながる機器やシステム,サービス提案を目指します。

街がうれしい

お客さま,お店,街の皆さまの求める価値をどなたでもわかりやすく,使いやすいカタチでの提案を目指しています。

お客さまのご要望に答えやすく,サービスしやすい,「店舗スタッフの皆さまがうれしい」を目指します。

お店がうれしい

お客さまがうれしいお子さまからご高齢の方まで,多様なお客さまの「私がうれしい」を目指します。

図8.リテールソリューション事業におけるUXデザインの考え方̶買い物客の満足を第一に,店舗運営や社会における店舗のあり方も考慮したコンセプトである。UX design concept for retail solutions business

6 リテールソリューション事業におけるUXデザインの考え方

東芝グループのUXデザインコンセプトを基に,当社リテールソリューション事業に展開したUXデザインの考え方は,店舗で商品を購入する買い物客の満足を目指す「お客さまがうれしい」,店舗スタッフが買い物客の要望に応えやすくサービスがしやすいを目指す「お店がうれしい」,更に地域の暮らしに役だつ店舗であるための機器やシステム,サービスの提案を目指す「街がうれしい」と位置づけている。そして,使いやすさであるユーザビリティと高齢者や障がい者などに対しての配慮であるアクセシビリティとの実現による,誰でも使いやすいユニバーサルデザインをベースに,より多くの買い物客が満足し