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特別支援学校における 主体的・対話的で深い学びとは 平成29・30年度 校内研究のまとめ 新潟県立東新潟特別支援学校 研究研修部

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特別支援学校における主体的・対話的で深い学びとは

平成29・30年度 校内研究のまとめ

新潟県立東新潟特別支援学校 研究研修部

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現代社会においては、人工知能(AI)の飛躍的な進化により、膨大な情報を記憶しておくことが可能となった。つまり、知識を記憶する学力から、今後私たちは人工知能(AI)を活用し、創造したり、イノベーションしたりしていく新しい学力観や指導観が求められている。このような時代や社会の変化に伴い、新学習指導要領では育成すべき資質・能力として、

3つの観点(「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力・人間性等」)で整理された。この資質・能力を身に付けるために、これまでの一斉学習ではなく、アクティブ・ラーニング(能動的な学習活動)を取り入れ、学習内容を深く理解することが重要である。なお、アクティブ・ラーニングという言葉は、誤解を招くことなく、より内容を充実させるために「主体的・対話的で深い学び」という言葉に言い換えらた。この「主体的・対話的で深い学び」とは、イメージとして以下のように示されている。「主体的な学び」とは、学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関

連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげること。「対話的な学び」とは、子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手

掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深めること。「深い学び」とは、各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働か

せ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かうこと。このようにイメージとしては示されたが、特別支援学校における実践例は少なく、新しい

切り口であるこの指導方法を具体的に明らかにしていく必要がある。我々は、当校の実態から「主体的・対話的で深い学び」のモデルを具現化するために、校内研究として取り組むこととした。

<研究の方法>

実施期間 平成29年度~平成30年度(2年間)

進め方

・新学習指導要領のねらいと改訂のポイントに関する全員研修・「主体的・対話的で深い学び(=アクティブ・ラーニング)」の小中学校等での事例研究

・各学級及び学習グループで、それぞれが考えるアクティブ・ラーニングの授業実践(12月ポスター発表で共有)

・全てのグループ実践(ポスター発表内容)を分析し、効果的指導のポイントを整理していく。教育課程類型別に効果的な実践モデル例などを紹介。

<研究設定理由>

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準ずる教育課程における事例

高等部・理科【主体的な学び★★ 対話的な学び★ 深い学び★】

●太陽系の理解を育む主体的な学び(写真1,2)

主体的に太陽系に関する知識を理解するために、以下のような活動を設定した。①スチロール球で惑星の模型を作る。②廊下を宇宙空間に見立て、生徒達が話し合いながら模型を並べる。③実際の縮尺に並べ直し、気づいたことや考えたことを述べる。このような体験活動を取り入れたことで、生徒たちは自発的に模型を作成

したり、模型を並べたりすることができた。また、生徒たちの自由な発言を聞きながら、適宜ヒントを与えることで、会話が活発になったり、内容の理解を深めたりすることもできた。

【主体的な学び★ 対話的な学び★★ 深い学び★】

●論理的思考を養う対話的な学び(写真3,4)

論理的な思考を養うために、対話的な学びを重視し、以下のような活動を設定した。①論理的思考を要する難易度の高い大学入試問題を各自が解く。②各自が考えた解答を発表、検討し、正解を導き出す。その際、論理を述べる。

各自の解答を発表したところ、その思考過程には違いがあった。生徒たちはその違いを認めながらも、話し合いを通してグループとしての解を論理的に述べることができた。しかし、グループとしての解は不正解であったので、教師がヒントを与え、再検討を促した。生徒たちは、このヒントを手掛かりに正解を導き出すことができた。

写真1

写真2

写真3

写真4

アクティブ・ラーニングの視点を授業に取り入れているかの目安を★(取り入れている)、★★(明確に取り入れている)で示しました。

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知的代替の教育課程

における事例

中学部・日常生活の指導「朝の会」【主体的な学び★★ 対話的な学び★ 深い学び★】

●魅力的な教材を用いた主体的な学び(写真5,6)

毎日行われる「朝の会」をより意欲的に取り組めるように、以下のような方法で実践した。①i-Padと音声ペンを提示し、使用方法を教える。②朝の会でi-Padと音声ペンの活用方法の見本を見せたり、一緒に使ったりする。

③i-Padや音声ペンを使用して係活動を行う友達が見えるようにする。生徒たちに上記の教材を提示したところ、教材への注目度が高まった。さ

らに、それらを使う生徒たちは真剣な表情や笑顔を見せた。このことから、i-Padや音声ペンが生徒たちにとって魅力的な教材であったことが分かった。加えて、それらを朝の会に導入し、生徒が使用することで自信をもって係

の発表をしたり、友達の様子を注意深く見守ったりする姿も見られた。ICTなどの教材の導入が積極的な学習参加を生んだと言える。

自立活動を主とする

教育課程における事例

小学部・音楽【主体的な学び★ 対話的な学び★ 深い学び★★】

●見比べて考える深い学び(写真7,8)

障害の程度が重い児童に対しても深い学びが可能となるように、以下のような方法で実践した。①楽器に注目できるように楽器を遠くからゆっくり鳴らしながら近づき、目の前で提示する。

②児童が好きな楽器を選択肢に入れ、2つの楽器から好きな方を選ぶ。③楽器の位置を左右替えて、再度選ぶ。遠くからゆっくり楽器が近づいてくることで、音が鳴っているという気づ

きやそれに対する注目が高まった。また、2つの楽器を提示したことで、左右を見比べて選んでいた。このことから、どちらを手にしたいかを児童なりに思考していたと考える。楽器の位置を替えることで再思考することができ、児童は納得や確信をもって楽器を選び、演奏に取り組むことができた。

写真5 写真6 写真7 写真8

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「主体的・対話的で深い学び」の実践上のポイント

【主体的な学び編】

●児童生徒があっと驚く授業の始まりにする

<EX>・ICT機器の提示/・場所や食べ物など本物を見せる/

・テンポの良い曲を流す/・少し難しい問題を投げ掛ける 等

●授業の中で「動」の場面を設定する

<EX>・模型を作成する/・楽器を演奏する/・体を動かす/・実験する/

・絵を描く/・文字を書く/・調理をする/・物を操作する 等

【対話的な学び編】

●人の思考に触れる機会を作る

<EX>・小グループで話し合う/・教師や友達の見本や活動を見聞きする/

・先人や地域の人などの話を聞く/・教師がヒントや助言を与える 等

●自ら思考を広げる機会を作る

<EX>・インターネットや書籍で調べる/・自問自答をする 等

【深い学び編】

●考える場面(「静」の場面)を設定する

<EX>・物やカードを見比べる、選択する/・応用問題を解く/

・自分の行動等を振り返る/・教師がヒントや助言を与える 等

●新しいアイデアを想像させる

<EX>・行事等を企画する/・将来の夢ややってみたいこと等を語る

・物語を絵にする/・オリジナルの曲を作る 等

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NEXT CHALLENGE~次に取り組むべき研究~

予測不可能な社会や時代を切り拓いていく子供たちに、今育てていかなければならない力は、知識を中心とする暗記型学習から、様々な課題を自ら考え解決していく思考型学力「考える力の育成」である。新学習指導要領に示されている育成すべき資質・能力は3観点で整理され、各教科

の内容も観点別に整理された。これまでは、「主体的・対話的で深い学び」という指導方法について取り組んできたが、今後はこの資質・能力(3観点)をどう身に付けさせるかという研究を進めていく。また、これまでの校内研究における授業実践

や文献等をもとに「学びの構造(右図)」としてまとめた。この概念図を参考にしながら、授業づくりの際にどんな力を身に付ければよいか、学習内容をどう構成すればよいかを考え、育成すべき資質・能力の習得を目指していく。

オススメ情報~参考となる本やHP等~

<書籍>分藤賢之・川間健之介・長沼俊夫(2016)『肢体不自由教育実践授業力向上シリーズNo.4-アクティブ・ラーニング」の視点を生かした授業づくりを目指して-』ジアース教育新社

三浦 光哉(2017) 『特別支援教育のアクティブ・ラーニング-「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善-』ジアース教育新社

田村 学(2018)『深い学び』東洋館出版社

<HP>合田哲雄(2016)『成熟社会に相応しい教育と学習指導要領改訂について』https://www.sky-school-ict.net/shidoyoryo/160610/

くぼようこ『「アクティブ・ラーニング」と「主体的・対話的で深い学び」の違いは?』 Educedia(エデュケディア)http://www.educedia.org/entry/2018/02/11/235411

文部科学省『新しい学習指導要領の考え方 -中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-』http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf