章 実績から見た日本の...

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32 2015 年版 開発協力白書 ケニアにおいて2014 年 2 月に日本の支援により拡張された、アフリカ理数科・技術教育センター(CEMASTEA)。科学実験教室でアフリカ諸国の現職教員たちに教授法を伝えるシニア海外ボランティアの 新見さん。1998 年から続く技術協力「中等理数科教育強化計画(SMASSE)」 「アフリカ理数科教育域内連携ネットワーク(SMASE-WECSA)」がアフリカ地域の競争力を支えている(写真:久野真一/JICA) 2014 年の日本の ODA 実績(支出総額)は、前年 (2013年)に比べ約30.3%減で、経済協力開発機構 (OECD)の開発援助委員会(D ダック AC)加盟国における順 位は、米国、英国、およびドイツに次いで第4位となり ました。また、支出純額でも約 20.0%減で、順位は、米 国、英国、ドイツ、フランスに次ぎ第 5 位となりました。 〈注 3〉 対前年比で日本のODA実績が減少した主な要因は、 円安の進行によりドルベースでの金額が減少したこと に加え、前年には債務救済の実績の増加という特殊要 因によりODA実績が増大したものが、2014年には その要因がなくなったことなどによるものです。 2014年ODA実績の内訳は、支出総額では二国間 ODAが全体の約79.3%、国際機関に対するODAが 約20.7%、支出純額では、二国間ODAが全体の約 64.9%、国際機関に対するODAが約35.1%です。二 国間ODAは、日本と被援助国との関係強化に貢献す ることが期待されます。一方、国際機関に対するODA では、「日本の顔」も見える形で専門的知識や政治的中 立性を持った国際機関を支えることを通じて、直接日 実績から見た日本の 政府開発援助 1注1 支出総額(グロス)と支出純額(ネット)の関係は次のとおり。支出純額 = 支出総額-回収額(被援助国から援助供与国への貸付の返済額) 援助実績の国際比較においては、通常支出純額が用いられている。 注2 卒業国向け援助を除く。「卒業国を含む」実績値について、詳しくは図表Ⅳ-13(210 ページ )をご覧ください。 注3 日本以外は、暫定値による比較。 < 実績の分析 > 2014年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約157億754万ドル(約1兆6,626億円)で世界第4位、 政府貸付の回収額を差し引いた支出純額 〈注 1〉 は約92億6,629万ドル(約9,808億円)で世界第5位の実績で した。 〈注 2〉

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32  2015年版 開発協力白書  2015年版 開発協力白書  33

ケニアにおいて2014年2月に日本の支援により拡張された、アフリカ理数科・技術教育センター(CEMASTEA)。科学実験教室でアフリカ諸国の現職教員たちに教授法を伝えるシニア海外ボランティアの新見さん。1998年から続く技術協力「中等理数科教育強化計画(SMASSE)」「アフリカ理数科教育域内連携ネットワーク(SMASE-WECSA)」がアフリカ地域の競争力を支えている(写真:久野真一/JICA)

 2014年の日本のODA実績(支出総額)は、前年(2013年)に比べ約30.3%減で、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(D

ダ ッ クAC)加盟国における順

位は、米国、英国、およびドイツに次いで第4位となりました。また、支出純額でも約20.0%減で、順位は、米国、英国、ドイツ、フランスに次ぎ第5位となりました。〈注3〉

 対前年比で日本のODA実績が減少した主な要因は、円安の進行によりドルベースでの金額が減少したことに加え、前年には債務救済の実績の増加という特殊要

因によりODA実績が増大したものが、2014年にはその要因がなくなったことなどによるものです。 2014年ODA実績の内訳は、支出総額では二国間ODAが全体の約79.3%、国際機関に対するODAが約20.7%、支出純額では、二国間ODAが全体の約64.9%、国際機関に対するODAが約35.1%です。二国間ODAは、日本と被援助国との関係強化に貢献することが期待されます。一方、国際機関に対するODAでは、「日本の顔」も見える形で専門的知識や政治的中立性を持った国際機関を支えることを通じて、直接日

実績から見た日本の政府開発援助

第1章

注1 支出総額(グロス)と支出純額(ネット)の関係は次のとおり。支出純額=支出総額-回収額(被援助国から援助供与国への貸付の返済額) 援助実績の国際比較においては、通常支出純額が用いられている。

注2 卒業国向け援助を除く。「卒業国を含む」実績値について、詳しくは図表Ⅳ-13(210ページ)をご覧ください。注3 日本以外は、暫定値による比較。

< 実績の分析 >

 2014年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約157億754万ドル(約1兆6,626億円)で世界第4位、政府貸付の回収額を差し引いた支出純額〈注1〉は約92億6,629万ドル(約9,808億円)で世界第5位の実績でした。〈注2〉

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|第 1章 実績から見た日本の政府開発援助|

32  2015年版 開発協力白書  2015年版 開発協力白書  33

2014 年(暦年) ドル・ベース(百万ドル) 円ベース(億円)

援助形態 実績 前年実績 対前年比(%) 実績 前年実績 対前年比

(%)

無償資金協力 2,449.75 7,031.92 −65.2 2,593.00 6,862.52 −62.2

 (うち、債務救済) — (4,020.86) (−100.0) — (3,924.00) (−100.0)

技術協力 2,630.07 2,803.60 −6.2 2,783.87 2,736.06 1.7

贈与計(A) 5,079.82 9,835.52 −48.4 5,376.87 9,598.58 −44.0

政府貸付等(D)=(B)ー(C) 931.81 −1,224.09 176.1 986.30 −1,194.60 182.6

(貸付実行額)(B) 7,373.06 9,721.31 −24.2 7,804.20 9,487.12 −17.7

(回収額)(C) 6,441.25 10,945.40 −41.2 6,817.90 10,681.73 −36.2

二国間政府開発援助計(総額ベース)(A)+(B) 12,452.88 19,556.83 −36.3 13,181.07 19,085.71 −30.9

二国間政府開発援助計(純額ベース)(A)+(D) 6,011.63 8,611.43 −30.2 6,363.16 8,403.98 −24.3

国際機関向け拠出・出資等(E) 3,254.66 2,970.16 9.6 3,444.98 2,898.61 18.8

政府開発援助計(支出総額)(A)+(B)+(E) 15,707.54 22,526.99 −30.3 16,626.04 21,984.31 −24.4

政府開発援助計(支出純額)(A)+(D)+(E) 9,266.29 11,581.59 −20.0 9,808.14 11,302.59 −13.2

名目GNI速報値(単位:10億ドル、10億円) 4,798.16 5,100.62 −5.9 507,872.90 497,774.40 2.0

対GNI比(%) 0.19 0.23 0.19 0.23

*1  四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。*2  [-]は、実績がまったくないことを示す。*3  卒業国向け援助を除く。*4  ここでの「無償資金協力」は、債務救済および国際機関を通じた贈与(国別に分類

できるもの)を含む。*5  政府貸付等は、債務救済を含む。債務救済には、円借款の債務免除、付保商業

債権および米穀の売渡し債権の債務削減を含み、債務繰延を含まない。*6  換算率:2014年=105.8475円/ドル、2013年=97.591円/ドル(OECD-DAC指定

レート)。

*7  卒業国とはDAC援助受取国リスト(図表Ⅳ-37参照、261ページ)の記載から外れた国をいう。

*8  DAC加盟国以外の卒業国で実績を有するのは次の19か国・地域(香港、シンガポール、ブルネイ、アラブ首長国連邦、イスラエル、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、セントクリストファー・ネーヴィス、トリニダード・トバゴ、バルバドス、ニューカレドニア、フランス領ポリネシア、エストニア、クロアチア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア)

図表�III-1�◆�2014年の日本の政府開発援助実績

本政府が行う援助が届きにくい国・地域への支援も可能になります。日本は、これらの支援を柔軟に使い分けるとともに相互の連携を図り、適切に援助が供与されるよう努力しています。 無償資金協力は、開発途上地域の開発を主たる目的として相手国政府等の要請に基づき必要な生産物および役務を購入するための資金を贈与する協力です。また、無償資金協力では大きな災害が発生したときなど開発途上国や国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応することができ、日本のリーダーシップを発揮できる大きな政策的効果があります。技術協力は、日本の知識・技術・経験を活かし、開発途上地域における経済社会開発の担い手となる人材の育成を行う協力で、開発途上国の技術水準の向上、制度や組織の確立や整備などに役立ちます。有償資金協力(政府貸付)は、資金の供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないよう、金利、償還期間等について緩やかな条件が付された有償の資金供与による協力です。無償資金協力と比較して、有償資金協力には大規模な支援を行いやすく、開発途上国の経済社会開発に不可欠なインフラ建設等の支援に効果的です。 以上の援助手法別に見ると、二国間ODAでは、無償

資金協力として計上された実績が約24億4,975万ドル(約2,593億円)で、ODA支出総額の実績全体の約15.6%となっています。うち、国際機関を通じた贈与は、約11億6,903万ドル(約1,237億円)で全体の約7.4%です。技術協力は約26億3,007万ドル(約2,784億円)で、全体の約16.7%を占めています。政府貸付実行額は約73億7,306万ドル(約7,804億円)で、ODAの支出総額全体の約46.9%を占めています。政府貸付実行額から回収額を差し引いた純額ベースでは、政府貸付等は約9億3,181万ドル(約986億円)となっています。また、債務救済については、2013年に約40億2,086万ドル(約3,924億円)でしたが、2014年の実績はありませんでした。

地域別の二国間ODAは次のとおりです。支出総額(支出純額)の順。 (以下の実績値は、卒業国向け援助を含む。)◆アジア:約72億7,126万ドル(約19億7,713万ドル)◆中東・北アフリカ:約14億4,274万ドル(約8億1,026万ドル)◆サブサハラ・アフリカ:約16億4,327万ドル(約15億5,742万ドル)◆中南米:約4億3,423万ドル(約2,975万ドル)◆大洋州:約1億2,806万ドル(約1億891万ドル)◆欧州:約1億9,237万ドル(約1億3,174万ドル)◆複数地域にまたがる援助:約13億5,307万ドル(約13億5,307万ドル)

第III部第1章

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*1 1990年以降の欧州地域に対する実績には卒業国向け援助を含む。*2 複数地域にまたがる援助等には、 複数地域にまたがる調査団の派遣等、地域分類が不可能なものを含む。

■支出総額ベース

0 20 40 60 80 100(%)

(暦年)

1970

1980

1990

2000

2010

2011

2012

2013

2014

アジア 大洋州中東・北アフリカ 欧州サブサハラ・アフリカ 複数地域にまたがる援助等中南米

94.494.4

72.872.8

61.761.7

60.160.1

63.963.9

58.358.3

48.448.4 11.411.4 19.419.4 5.25.2 13.013.0

11.611.6 13.213.2 3.53.5 10.910.9

11.511.5 14.814.8 6.76.7

7.87.8 8.58.5 8.88.8 12.512.5

10.810.8 10.610.6 7.77.7 5.95.91.91.9

8.88.8 10.810.8 5.95.9

3.03.0 1.81.8

0.20.20.50.5

1.01.0

1.41.4

1.31.3 1.01.0

0.70.7 0.30.3

1.01.0 1.51.5

1.11.1 1.61.6

56.256.2 15.415.4 12.712.7 3.33.3 10.710.71.11.1 0.60.6

53.153.1 15.315.3 12.012.0 6.66.6 10.210.21.31.3 1.51.5

0.10.1

0.70.7

2.02.0

図表�III-2�◆�日本の二国間政府開発援助実績の地域別配分の推移

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|第 1章 実績から見た日本の政府開発援助|

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■支出総額ベース

(暦年)

日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリア カナダ(百万ドル)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

2013 201420121995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

17,485

12,565

13,17612,903

15,141

16,300

12,625

12,23012,971

16,176

18,61917,064

13,584

17,475

16,451

18,865

18,662

22,527

20,247

15,708

出典:DACプレスリリース、DAC統計(DAC Statistics on OECD.STAT)*1 卒業国向け援助を除く。*2 2014年については、日本以外は暫定値を使用。

■支出純額ベース

(暦年)

日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリア カナダ(百万ドル)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

2013 201420121995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

9,266

14,489

9,35810,640

9,439

12,16313,508

9,8479,283 8,880

8,922

13,126

11,136

7,697

9,601 9,46711,058 10,605

11,58211,086

図表�III-3�◆�主要DAC加盟国の政府開発援助実績の推移

第III部第1章

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36  2015年版 開発協力白書  2015年版 開発協力白書  37

0 200 400 600 800 (ドル)1,000ノルウェー

ルクセンブルクスウェーデンデンマークスイスオランダ英国

フィンランドベルギードイツ

オーストラリアアイルランドフランス

オーストリアカナダ

ニュージーランドアイスランド

米国日本

イタリアスペインポルトガル

韓国スロベニアギリシャチェコ

スロバキアポーランド

983.2

805.2

645.5

532.1

437.4

332.1

302.4

299.9

213.9

201.3

180.2

176.2

158.1

135.0

119.4

111.6

107.3

103.5

72.8

56.0

40.2

40.2

36.9

29.9

22.5

19.9

15.0

11.4

出典:DAC統計(DAC statistics on OECD.STAT)*1 支出純額ベース。*2 卒業国向け援助を除く。*3 日本以外は暫定値を使用。

出典:DAC統計(DAC Statistics on OECD.STAT)*1 支出純額ベース。*2 卒業国向け援助を除く。*3 日本以外は暫定値を使用。

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 (%)1.2スウェーデンルクセンブルクノルウェーデンマーク

英国オランダ

フィンランドスイスベルギードイツ

アイルランドフランス

オーストラリアニュージーランドオーストリア

カナダアイスランド

日本ポルトガル

米国イタリアスペイン韓国

スロベニアチェコギリシャポーランドスロバキア

1.10

1.07

0.99

0.85

0.71

0.64

0.60

0.49

0.45

0.41

0.39

0.36

0.27

0.27

0.26

0.24

0.21

0.19

0.19

0.19

0.16

0.14

0.13

0.13

0.11

0.11

0.08

0.08

図表�III-4�◆�DAC諸国における政府開発援助実績の国民1人当たりの負担額(2014年)

図表�III-5�◆�DAC諸国における政府開発援助実績の対国民総所得(GNI)比(2014年)

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|第 1章 実績から見た日本の政府開発援助|

36  2015年版 開発協力白書  2015年版 開発協力白書  37

(百万ドル)

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0.30

0.35

0.40(%)

0.19

0.23

0.19

0.28

0.25

0.17 0.17

0.190.18

0.20

0.18

11,582

7,697

8,922

13,126

11,136

9,601 9,467

11,058 11,08610,605

9,266

2013 2014201220112010200920082007200620052004(暦年)

政府開発援助実績 対GNI比

*1 支出純額ベース。*2 卒業国向け援助を除く。

図表�III-6�◆�日本の政府開発援助実績の対国民総所得(GNI比)の推移

第III部第1章