APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 (...

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ボゴール目標に向けた APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 (仮訳) 2010 11 14

Transcript of APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 (...

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ボゴール目標に向けた

APEC 2010年エコノミーの進展に関する報告書

(仮訳)

2010年 11月 14日

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目 次

序文 3

第1章 ボゴール目標と貿易政策環境の変化 4

1. ボゴール目標 ................................................................. 4

2. ボゴール目標と貿易政策環境の変化 ............................................. 7

第2章 1994年ボゴール宣言以降のAPECの経済、貿易及び投資の成果 16

1. 物品・サービス貿易 .......................................................... 16

2. 海外直接投資 ................................................................ 21

3. 経済成長及び社会的成果の向上 ................................................ 24

第3章 ボゴール宣言以降の貿易・投資の自由化・円滑化 28

1. 概観 ........................................................................ 28

2. 個別分野の評価 .............................................................. 29

(1)関税 ...................................................................... 29

(2)非関税措置 ................................................................. 35

(3)サービス .................................................................. 41

(i) WTOにおける約束 ...................................................... 42

(ii) RTA・FTA ............................................................. 48

(iii) 国内措置及びその他の自由化措置 ....................................... 54

(4)投資 ...................................................................... 60

(5)貿易円滑化 ................................................................. 65

(i) 基準及び適合性 ....................................................... 67

(ii) 税関手続 ............................................................. 69

(iii) ビジネス関係者の移動 ................................................. 70

(iv) 原産地規則(ROO) .................................................... 71

(6)その他の措置 ............................................................... 71

(i) 知的所有権(IPR) .................................................... 71

(ii) 競争政策 ............................................................. 73

(iii) 政府調達 ............................................................. 73

(iv) 規制緩和・規制改革 ................................................... 75

(v) WTOにおける義務 ...................................................... 76

(7)自主的に報告されたその他の取組 ............................................. 76

(i) 多角的貿易体制の支持 ................................................. 76

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(ii) 環境 ................................................................. 76

(iii) 労働 ................................................................. 78

(iv) 電子商取引 ........................................................... 78

(v) サービス及び投資 ..................................................... 70

(vi) ビジネス環境の改善 ................................................... 80

第4章 結論 81

1. 今日までの進展 .............................................................. 81

2. さらに取り組むべき課題 ...................................................... 83

略語一覧 85

参考文献 86

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序文

本報告書は、APEC の 13 エコノミー(以下「2010 年エコノミー」)によるボゴール目

標の達成状況を評価するものである。APECの2010年エコノミーは、先進5エコノミ

ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

ならびに、2010年の評価に自発的に参加した途上エコノミーのグループ(チリ、中国香

港、韓国、マレーシア、メキシコ、ペルー、シンガポール及びチャイニーズ・タイペイ:

以下「APEC8」)で構成されている。APEC8が2010年の評価への参加を決定したこと

は、「途上エコノミー」としてのこれらのエコノミーの地位に何ら影響を与えるものでは

ない。

本報告書は、2010 年エコノミーによるボゴール目標の達成状況を分析した 4 つの章で

構成されている。第 1 章では、ボゴール目標の起源及び 1994 年にボゴール目標が設定

されて以降の貿易政策環境の変化を概観する。第 2 章では、ボゴール目標設定以降の

APEC 地域における貿易・投資の成果を取り上げる。第 3 章では、2010 年エコノミー

ならびにAPEC全体で生じた個別分野における自由化及び円滑化について分析する。第

4章では、2010年エコノミーによるボゴール目標の達成に向けた進展を評価すると共に、

更に取り組むべき作業がある分野を明らかにする。APECエコノミーが合意した、今回

の評価を実施するまでの様々な段階とそのスケジュールは、別添1に示したとおりであ

る。

本報告書における分析は、2010年エコノミーから提出された詳細なファクトシートを始

めとする様々な出典1のほか、参加エコノミーから提出された追加情報から得られたもの

である。

さらに、本報告書は、APEC政策支援ユニット(PSU)が別途行った詳細な評価報告書

である「APECボゴール目標の達成度―APEC政策支援ユニットの観点」(以下「PSU

報告書」)から得られた情報をも活用している。世界貿易機関(WTO)、経済協力開発

機構(OECD)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)

及び米州開発銀行(IDB)などの他の関連国際機関が作成した報告書に含まれているデ

ータ及び分析も、本報告書に適宜参考として活用されている。

APEC ビジネス諮問委員会(ABAC)、太平洋経済協力会議(PECC)及びその他の関

連団体・人物などの見解も、2009 年 12 月 9~10 日に日本の東京で開催された、2010

年APECシンポジウムにおいて表明された見解を含め、活用されている。

1 これらの文書はAPECウェブサイトにて入手可能。(http://www/apec/org/bogor_goals_2010_report.html)

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第1章 ボゴール目標と貿易政策環境の変化

1. ボゴール目標

1994年、インドネシアのボゴールに集まったAPEC首脳は、その第2回会合において、

多角的貿易体制を強化し、アジア太平洋地域における貿易・投資の自由化・円滑化を強

化し、かつ、アジア太平洋における開発協力を強化することを意図した、共通の決意宣

言(ボゴール宣言)を発表した。APEC首脳は、同宣言において、アジア太平洋地域に

おける自由で開かれた貿易・投資を 2020 年までに実現することを約束した。これは、

アジア太平洋地域において成長と繁栄を十分に実現するためには、自由で開かれた貿

易・投資が必要だという強い信念が共有されていたことによるものである。

APEC 首脳は、APEC 先進エコノミーがアジア太平洋地域において自由で開かれた貿

易・投資を実現するとの目標を実現する目標年を2010 年に設定した。APEC 首脳は、

APECエコノミーにおける経済発展の段階が異なることを考慮し、途上エコノミーにつ

いてはこの目標を2020 年までに達成するとすることに同意した。APEC 首脳は、これ

らのコミットメントを実現するためには、APECエコノミーの持続可能な成長と公平な

開発を実現するための重要な手段として、APECを通じてアジア太平洋地域における開

発協力を改善することが重要であることも認識した。

アジア太平洋地域における貿易・投資の自由化を強化するとのAPECエコノミーの目標

は、ボゴール宣言の中で次のように言及されている。

「アジア太平洋において貿易及び投資を拡大するとの我々の目的に関し、我々は、アジア太平洋にお

ける自由で開かれた貿易及び投資という長期的な目標を採択することに意見の一致を見た。この目標

は、貿易及び投資に対する障壁を更に削減し、我々の経済の間における財、サービス及び資本の自由

な流れを促進することによって迅速に追及される。我々は、この目標をGATTに整合的な方法によっ

て達成するとともに、我々の行動は、我々が引き続き完全にコミットしている多角的レベルでの更な

る自由化に向けた力強い弾みとなるものと考える。

さらに、我々は、アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を遅くとも

2020年までに完了するとのコミットメントを発表することに意見の一致を見た。実施の速度につい

ては、APEC経済間の経済発展段階の違いを考慮に入れ、先進工業経済は遅くとも2010年までに、

また、開発途上経済は遅くとも2020年までに自由で開かれた貿易及び投資という目標を達成する。

我々は、世界的な自由貿易を追求することから逸脱するような内向きの貿易ブロックの創設に対す

る強い反対を強調したい。我々は、世界全体における貿易及び投資の自由化を奨励かつ強化するよう

な方法で、アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資を追求していく決意である。かくして、

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アジア太平洋における貿易及び投資の自由化の成果は、APEC経済間のみならず、APEC経済と非

APEC経済との間における障壁をも実際に削減することとなる。この点に関し、我々は、GATT・

WTOの諸規定に従い、非APECの途上国も我々の貿易及び投資の自由化から裨益することを確保す

るため、これら諸国との貿易に対し特別の注意を払う。」

ボゴール宣言は、自由で開かれた貿易・投資に関する長期目標についての正確な定義と

いうよりはむしろ、APEC及び世界における経済協力と経済成長を達成する方法に関す

る指針を定めたものである。第1に、同宣言では、物品、サービス及び資本の自由な流

れを円滑にすることを目的として、障壁を削減するための措置を迅速に講ずるべきであ

ると述べられている。第2に、同宣言は、目標はGATT・WTO整合的な方法で達成す

べきと述べた。これが意味することは、WTO の下で実施されている規則及び原則に従

うべきであるということである。これに整合的に、APEC首脳は、APECメンバーの貿

易政策措置は、すべてのWTOメンバーに同様に裨益するという無差別性の原則にコミ

ットしている。この「開かれた地域主義」というアプローチは、APEC の特徴であり、

自由化された地域として、貿易の煩雑さを阻止することに貢献した2。APEC は、この

原則を承認した最初の国際的グループである。

実際、APECの自由化は、WTOの既存のウルグアイ・ラウンド及び他のWTO上の約

束、APEC エコノミーによる約束、並びに APEC エコノミーが競争力強化及び費用削

減のために行う一方的な市場開放措置を含む様々な手段のほか、APECエコノミーを巻

き込んで増加する多くの二国間の及び地域の自由貿易協定を通じて行われた。

APECは、合意に基づくが、拘束力がないという点において特徴的な国際フォーラムで

ある。この手法の採用は、APECが、規模が異なり、発展の段階も多様なエコノミーで

構成されているという事実に適したものであった。このような背景に照らしてみると、

ボゴール目標に基づく開かれた、高度に統合された地域という見方は、ますます印象的

なものになる。

ボゴール目標は、APECに対し、個別措置の探求を奨励し、かつ、調整された共同措置

を通じて、経済・技術協力に支えられた貿易・投資の自由化・円滑化を奨励するという

明確なビジョンを与えた。これは、1995 年の大阪行動指針(OAA)から始まったもの

2 次の2つの文書を参照。「1) S・アームストロング及びP・ドライスデール(2009年)、「経済及び政治が世界の貿易・

投資の流れの構造に与える影響」、オーストラリア国立大学クローフォード経済政治研究大学院。同論文は、2009年10月6~8

日にチャイニーズ・タイペイで開催された第33回太平洋貿易開発会議―「アジア及び太平洋地域における統合の政治学及び

経済学」―において提出された。2) APECポリシー・サポート・ユニット(H・リー及びJ・ハー、2009年)、「APEC地

域における貿易の創出:APEC設立以降の域内貿易の大きさ及び変化に見合った措置」。

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である。同指針は、2002 年に更新され、その後、APEC をボゴール目標に向けて前進

させるための基礎的枠組みとなった。メンバー・エコノミーがAPECの自由化・円滑化

プロセスを進める過程において、前記の枠組みの一部として、一連の一般的原則(包括

性、WTO整合性、同等性、無差別、透明性、スタンドスティル(現状維持)、同時開始、

継続的過程及び異なるタイムテーブル、柔軟性、協力、有用性、漸進性、有効性)が定

義された。OAA はまた、実施すべきものとして、15 の具体的措置を特定した。すなわ

ち、関税、非関税措置、サービス、投資、基準及び適合性、税関手続、知的財産権、競

争政策、政府調達、規制緩和・規制の見直しと改革、WTO 義務の履行(原産地規則を

含む)、紛争解決、ビジネス関係者の移動、情報収集及び分析ならびに経済法制度の整備

である。1996 年、APEC は、各エコノミーのボゴール目標の達成状況を追跡すること

を目的とした個別行動計画(IAP)を採択した。1997年、この計画は、ボゴール目標の

個々の達成度を検討するための相互評価プログラムによって補完された。2005 年、

APEC は、エコノミーのボゴール目標の達成に関する本格的評価を実施した(囲み 1.1

を参照)。

囲み1.1:ボゴール目標に関する中間評価3

ボゴール目標達成に向けた進展についての中間評価(MTST)は、2005年11月に韓国の釜山

で開催された第17回APEC閣僚会議において、承認された。

MTST報告書は、ボゴール目標に関するコミットメントの重要性を認定した。同報告書は、

自由で開かれた貿易・投資に関する目標は限定的又は固定的な方法で解釈してはならないと

いう事実を強調した。この点に関して、MTSTは、ボゴール目標の達成においては、貿易円

滑化と国内問題は貿易・投資の自由化に関する問題同様に重要であるということを明らかに

している。

同報告書は、1994年以降、貿易・投資の自由化・円滑化がボゴール目標の達成に向けて大き

く前進したことを認めた。この意味で、貿易・投資に関する多くの障壁は大幅に減尐した。

さらに、APECでは、この間、これらを円滑化するための努力が開始された。MTSTによる

と、次のとおりである。

APEC エコノミーの平均実行関税率は、11.4%ポイント低下した。

多くの非関税障壁は、除去されるか、又は、関税に転換された。その結果、全体的な保護

水準が低下した。

APEC域内の努力により、市場参入についての制限の緩和を伴って、サービス貿易に対する

3 APEC ポリシー・サポート・ユニット(2010年)、「APECポリシー・サポート・ユニットから見たAPECボゴール目標の

達成度」(以下「PSU報告書」)、7~8頁。

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障壁が緩和され、内国民待遇・最恵国(MFN)待遇が拡大された。

APEC地域は、制限を緩和し、投資円滑化措置を改善し、かつ、行政手続を簡素化したこと

により、海外直接投資(FDI)に対して開かれたものになった。

APECは、貿易・投資の円滑化に関連する分野の実績を改善するため、イニシアチブに基づ

いて作業を行うことに対する意欲が高まり始めた。

貿易・投資の障壁の緩和と、物品・サービス貿易・投資の流れの増加との間の相関関係が

見られた。さらに、APEC域内では、国内総生産(GDP)、1人当たりGDP及び雇用水準等

の変数も大幅に上昇した。

MTST報告書は、ボゴール目標の達成において、WTO整合的で質の高いRTA・FTAが果たし

た重要な役割についても言及した。MTSTは、これらの協定が市場の開放において有効であ

り得ること、かつ、貿易自由化にも有効であることを認めた。

2. ボゴール目標と貿易政策環境の変化

APEC地域における貿易・投資の環境は、1989年にAPECが設立されて以来、大幅に

変化した。非関税障壁は、域内の貿易の流れに与える影響が相対的に強まった。その結

果、APECエコノミーは、規制、物理的インフラ及び国内の市場・制度の質などの諸要

素を重視すると共に、地域内のそれぞれのエコノミーを結び付ける地域のサプライチェ

ーンの役割に対する認識を強めるようになった。

さらに、APECエコノミーは、総じて、多角的貿易制度の下で行う作業を補完するため

の手段として、地域貿易協定(RTA)及び二国間自由貿易協定(FTA)を締結している。

多角的貿易交渉の進展が予想以上に遅れていることを受け、APEC エコノミーは、貿

易・投資をさらに自由化するため、RTA・FTAを締結した。急速な技術的・社会的変化

を伴うこのような進展、及びつい最近の世界金融危機などの金融危機の緊張への対処の

必要性は、APECエコノミーの貿易・投資政策及びボゴール目標の追求方法に重大な影

響を与えている。APECは、かかる傾向や変化を踏まえ、優先事項や行動を変更する必

要性に迫られたが、ボゴール目標の達成が最大の目標であることに変わりはない。

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APEC及び多角的貿易体制

WTO4 によると、APEC エコノミーは、GATT 及び WTO を通じて多国間で貿易を自

由化し、かつ、規則に基づいた多角的貿易体制を強化する努力を先頭に立って行ってき

た他、1994年のウルグアイ・ラウンド交渉を成功裏に決着させた政治的合意を形成する

上で貴重な役割を果たした。APECエコノミーは、開かれた地域主義を追求するとのコ

ミットメントに基づき、最優先で、開かれた多角的貿易制度を強化することに尽力して

きた。APEC エコノミーは、ボゴール宣言を通じて、「ウルグアイ・ラウンドにおける

我々の約束を実施することを加速すること、及び、ウルグアイ・ラウンドの成果を深化・

拡大させるための対策を実施すること」に同意した。APEC の2010 年エコノミーは、

ウルグアイ・ラウンドにおけるその約束を効果的に実施した。

2001年11月、ドーハで開催された第4回閣僚会議において、多角的貿易交渉に関する

新たなラウンド―「ドーハ開発アジェンダ(DDA)」―が開始された。APECエコノミ

ーは、DDA に基づく現行の交渉のあらゆる分野において活発に活動した。5 今日まで

の成果に関わらず、DDAはまだ完了していない。APEC首脳は、DDAを成功裏に妥結

することを要求し続けており、2009 年 11 月には、「野心の高い、均衡が取れた方法で

ドーハ開発アジェンダを妥結すること」に対する支持を再確認した。これを受けて、多

くの WTO メンバー同様、APEC エコノミーは、RTA・FTA の締結を始め、貿易・投

資の自由化・円滑化を図るための追加的方策を追求した。

APEC地域内での RTA・FTA

ボゴール宣言以降、貿易・投資の自由化を促進するためにAPECエコノミーが締結した

RTA・FTAの数は大幅に増加した。APECの2010年エコノミーが締結した協定は、総

じて、WTO 規則に沿ったものになっている。WTO 規則は、ほぼすべての貿易におけ

る関税の撤廃、及び多くのサービス部門における実質無差別(サービス及び投資に関す

る約束が含まれる場合が多い)を要求している他、協定の対象外のエコノミーに対して

新たな障壁を設定してはならないとしている。

WTO 事務局報告書6 によると、ボゴール目標が発表された 1994 年には、APEC エコ

4 WTO 事務局(2010年)、 WTO 事務局による報告書、「APEC:ボゴール目標」(以下「WTO 事務局報告書」)、1

頁。 5 WTO 事務局報告書、1頁。 6 WTO 事務局報告書、1-2頁。

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ノミーが関与する協定は 3 件に過ぎなかった。7 ボゴール目標に関する中間評価

(MTST)が行われた 2005 年の時点では、「APEC エコノミーが締結した発効済みの

RTAの件数は約45件(そのほとんどは物品・サービスの両方を含む)であった。今日

では、13 のAPEC エコノミーは約 100 件のRTA を締結・発効させている。さらに、

すべてのAPECエコノミーがRTA交渉に参加している」。WTO事務局の報告によると、

「13のAPECエコノミーは、現在、APECメンバーとの間で40件のRTAを締結・発

効させており、非APEC メンバーとの間では推定で 59 件のRTA を締結・発効させて

いる」。8 同報告によると、APEC 域内 RTA・FTA の交渉において最も活発なのは、

シンガポール、日本及びチリで、それぞれ、13件、10件及び9件のAPEC域内RTA・

FTAを締結・発効させている。これに、オーストラリアが7件、マレーシア、ニュージ

ーランド及びペルーがそれぞれ 6 件、米国が 5 件と続いている。これらの APEC エコ

ノミーは、現在、APEC域内で更なる協定交渉を数多く行っている。この内、最も活発

なのは韓国で、7 件が交渉中ないし発効待ちの状況にある。WTO 事務局報告書による

と、非APECエコノミーとの間のRTAに関しては、メキシコとチリが最も活発で、そ

れぞれ、19件と11件が発効済みとなっている。これに、ペルーが7件、シンガポール

と米国がそれぞれ6件と続いている。9

RTA・FTAが普及した結果、APECエコノミーによるFTA締結エコノミーとの貿易の

比率は世界的に大幅に増加した。そのほとんどにおいて、輸出と輸入が共に増加した(表

1.1)。

表1.1 FTA締結エコノミーとの貿易の比率

% 輸出 輸入

1996 2009 1996 2009

貿易加重平均

APEC5 28.2 37.3 26.4 31.1

APEC8 19.0 45.5 16.0 44.4

2010年エコノミー 24.8 40.9 22.7 36.0

APEC 22.6 36.5 21.0 33.0

7 これらは、オーストラリアとニュージーランドによる「経済関係緊密化協定」(ANZCERTA)、ASEAN自由貿易協定

(AFTA)、及び北米自由貿易協定(NAFTA)である。 8 発効済のRTAの数には、WTOに通知済のものと、通知が行われていないものが含まれている。 9 APECの追加的なRTAの多く―特にメキシコとチリに関するものは、ラテンアメリカ統合連合(LAIA・ALADI)協

定の傘下に位置付けられる、範囲が限定された協定書である。

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注:この表は、1996年と2009年において、それぞれのAPECエコノミーによるFTA・RTAの締約エコノミー

からの輸出額・輸入額が全体に占める比率を示したものである。1996年の数字では、1996年12月31日までに

実施されたFTAが対象になっている。2009年の数字では、2009年12月31日までに実施されたFTAが対象にな

っている。

出典:PSU(原典:国際通貨基金(IMF)、国際貿易統計動向に関するオンライン・データベース;チャイ

ニーズ・タイペイ外国貿易局)に基づいて計算が行われたデータ。。

APECは、そのメンバー・エコノミーにWTO整合的で質の高い貿易協定に関する交渉

を行うことを奨励するために、重要な作業を行った。これらの協定に対しては、第三国

も交渉に基づいて参加することができる。10 2004年、APECエコノミーは、「APEC 地

域貿易協定・自由貿易協定(RTAs・FTAs)のベストプラクティス」11 に合意した。こ

のプラクティスは、特に、RTA がAPEC 及びWTO の原則と規則に整合したものであ

ること、WTO に対する現行の約束に基づいたものであること、WTO 規則の対象とな

っていない追加的分野において約束を行うこと、関税の撤廃や貿易・投資に対する非関

税障壁の撤廃及び重要品目保護の段階的廃止期間の短縮を始め、あらゆる部門の自由化

を含めた包括的な内容のものにすること、透明性、貿易円滑化を促進する努力、ならび

に、簡素な原産地規則にすることなどを要求している。12 さらに、2005年以降、APEC

エコノミーは、これらの原則に基づいて、APECエコノミーが協定に関する交渉を行う

際の指針として、RTA においてはほぼ普遍的に見られる 15 の章を対象として、

「APEC・RTA・FTAモデル措置」13 を策定した。14, 15 2009年には、APEC貿易担当

大臣は、APEC エコノミーの RTA における一致点と相違点を特定する作業を加速する

こと、また、この作業を拡大して、電子商取引及び協力に関する規定の分析を含めるこ

とに合意した。

さらに、これらの進展を踏まえて、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向けたあり得

べき道筋を含め、APEC エコノミーのRTA・FTA の統合を実現するためのさらに野心

の高い方法を協議しようという意欲が高まった。

10 WTO 事務局報告書、2頁。

11 http://www.apec.org/apec/apec_groups/other_apec_groups/FTA_RTA.MedialibDownload.v1.html?url=/etc/medialib/ap

ec_media_library/downloads/ministerial/annual/2004.Par.0004.File.v1.1 12 WTO 事務局報告書、2頁。 13 [APECのRTA・FTAに関するモデル対策に対するリンク] 14 これらは次のとおりである。貿易の円滑化(2005年に承認された)、協力・紛争解決・政府調達・貿易に対する技術的

障壁・物品の貿易・透明性(2006年に承認された)、電子商取引・原産地規則・SPS対策(2007年に承認された)、及び

競争政策・税関業務・貿易円滑化・環境・保護・ビジネス関係者の一時的入国(2008年に承認された)。 15 WTO事務局報告書、2頁。

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貿易・投資の円滑化の重要性の増加

貿易・投資の円滑化は、当初から、ボゴール目標を達成するためのAPECの手法の主要

な柱であったが、特に地域内における国際物流網の重要性の増大を考慮すると、APEC

エコノミーが、非関税障壁が貿易・投資に与える影響をより良く理解するようになった

ことを受けて、その重要性が高まった(囲み 1.2 を参照)。さらに、関税が大幅に削減

されると、非関税障壁の削減・撤廃により、貿易・投資が大幅に増加する可能性が高く

なることが明らかになった。世界銀行によると、港湾の物流、基準の整合化、行政の透

明性、及び貿易円滑化に関連するその他の分野に関するAPECの取組が若干改善される

だけで、APEC 域内の輸出がさらに 10%、金額にして約 2,800 億米ドル増加する可能性

がある。同様に、ビジネス関係者の移動、国際教育及び観光の急増による地域内での人

の移動の急速な増加も、時間の経過と共に、円滑化対策の重要性を高めた。

この円滑化に関する課題によって、地域内の商業に影響を与えていた、規制、通関及び

インフラなどの要素に対する障壁を特定する際に、見通しを提供するために、産業界に

とって必然的な場が提供されている。

囲み1.2:APECにおける貿易・投資の円滑化

2001 年、APEC は最初の貿易円滑化行動計画(TFAP)を承認した。これは、2002 年

から2006年にかけて実施され、APEC全体で、貿易取引費用を5%削減した。TFAP I

の成功を受けて、2007年から2010年にかけて第2次計画(TFAP II)が実施された。

両計画は、税関手続、基準・適合性、ビジネス関係者の移動及びビジネスに対する規制

による貿易の障害を削減するための措置で構成されている。TFAP IIに関する中間評価

では、貿易取引費用をさらに5%削減するというTFAP IIの目標に対して、かなりの進

展が見られた。現在、TFAP II の最終的な評価が行われているが、この評価は2011 年

に完了する。2008年、APECは、2008年から2010 年にかけて実施される投資円滑化

行動計画(IFAP)を承認した。2009年には、APEC首脳は、物流網の開発が地域経済

のつながりに与える重要性を認識し、物流関連の重要な8つの優先事項を特定し、手続

の削減ないし解消するための将来の作業を指示する「APEC国際物流円滑化行動計画」

を承認した。これらの計画はすでに効果を上げており、コンテナ輸送料は世界最低水準

に近づいた。16

16 OECD (2010年)、「APEC先進エコノミーによる貿易・投資の自由化の進捗度」、7頁。

Page 13: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

12

技術の役割

同様に、技術の急速な変化、特に情報通信技術(ICT)の興隆は、APEC及び世界にお

ける貿易、投資及び経済を拡大させる上で重要な役割を果たした。その結果、重要な規

定として、RTA・FTAに電子商取引の規定が含まれることがより注目されることとなっ

た。新規技術の開発により、新たな産業、サービス及び市場の形成を通じて経済成長が

加速された。その結果、ビジネスの効率性の高まりと規模の経済により、雇用が創出さ

れ、消費者に対する物品・サービスの普及が拡大した。たとえば、電子商取引の発展に

より、中小企業(SME)は世界中の潜在的な消費者にアクセスすることができるように

なった。さらに、新規技術は、地域内の高度な物流網の発展を受けて、完成品の一部と

なる部品の貿易を促進した。また、ICTは、貿易の円滑化と透明性の改善を通じて、APEC

域内で行われる貿易の形態に大きな影響を与え、その結果、ビジネスの取引費用が低下

した。17 リアルタイムで情報を交換し、管理する電子フォーマットの利用が増大した結

果、APEC域内では、単一窓口システムとペーパーレス取引の利用が促進された。ICT

は、税関の情報に対するアクセスを改善することにより、税関手続の透明性を高めた。

その結果、ビジネスに関する確実性と予見可能性が高まった。

APECに対する世界金融危機の影響

アジア太平洋地域は、1997年と2008年の二度にわたって、大きな金融危機と経済危機

を経験した。これらの危機により、同地域と世界の経済成長率は深刻な影響を受けた。

1997 年のアジア金融危機の後、APEC はこの危機に適切に対処することができなかっ

たという議論も行われた。この議論は、自由で開かれた貿易・投資を唱道するAPECの

信用を貶めるものであった。しかし、APECは貿易・投資の自由化・円滑化の追求の継

続を可能としたことにより、このよう懸念は根拠がないということが証明された。2007

年世界金融危機の際には、APECエコノミーは、迅速にかつ決然と対処し、適切な経済・

金融対策を実施した。これらの対策が危機の影響を緩和する上で目に見える成果を上げ

た時、APEC閣僚及び首脳は、2008年にはリマにおいて、また、2009年にはシンガポ

ールにおいて、自由で開かれた貿易・投資を追求することを再確認した他、G20及びそ

の他の国際フォーラムと連動して、金融システムを回復するために引き続き指導力を発

揮し、かつ、保護主義を排除するとの強いメッセージを発出した。

2009 年、APEC 首脳は、あらゆる形態の保護措置に反対し、開放的市場を維持し、か

17 ヘルベ、シェパード及びウィルソン、「アジア太平洋地域における透明性及び貿易円滑化:改革による利点の推定」、世界

銀行、2007年。

Page 14: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

13

つ、物品・サービスに関する投資または貿易に対して新たな障壁を設けることはしない

とコミットした。2009 年にシンガポールで開催された第 21 回 APEC 閣僚会議では、

APECの閣僚は、「WTO協定に整合的と考えられる措置が保護主義的な影響を有する場

合には、その実施に対して引き続き最大限の抑制を働かせ、実施された措置については、

迅速にこれを正す。」ことをコミットした。18

危機の際、APECは、悪化した域内の貿易金融を改善し、景気回復を支援する努力を行

った。2009 年には、APEC 貿易担当大臣は、2008 年にリマで開催された APEC 首脳

会議以降に一部のいくつかの APEC エコノミー間の追加的な二国間再保険協定の設立

を含め、アジア太平洋貿易保険ネットワーク(APTIN)の設立を歓迎した。その際、

APECエコノミーの間で経験を共有することで、域内におけるそれぞれの能力が強化さ

れたことも認識された。

構造改革の重視及び経済成長の促進

2004年、APECは「構造改革実施のための首脳の課題」(LAISR)を採択した。これに

より、規制改革、公共部門の統治、競争政策、企業統治、及び経済的・法的基盤の強化

に重点を置いた新たな課題が確認された。一部のエコノミーの規制及び制度の弱点が明

らかになった世界金融危機も一因となって、APECエコノミーは、貿易・投資の自由化・

円滑化から最大の成果を得るためには、構造改革が重要であるとの認識を強めた。した

がって、構造改革は、安定的で効率的な経済を促進することによってボゴール目標の達

成を支援できる重要な要素であると見なされている。

APECエコノミーは、世界金融危機の他にも、自由で開かれた貿易・投資の促進にリス

クをもたらすような新たな課題にも対処する必要があった。APEC首脳は、貿易・投資

の自由化・円滑化の勢いを維持し、かつ、その成果を拡大させるためには、それぞれの

エコノミーの内部で均衡ある成長を目指し、参加型社会を実現し、環境を維持し、自然

災害・流行病・テロ攻撃・食糧不足によって引き起こされる混乱に対するエコノミーの

抵抗力を強め、準備を行わせ、かつ、革新と知識基盤経済を推進することによって潜在

的成長力を高めるような、総合的な長期成長戦略を策定する必要があるということを認

識した。構造改革は、持続的な経済成長を実現し、地域の経済統合を促進すること、あ

るいは、この逆のプロセスを実現する上で重要な役割を担うだろう。

18 第21回APEC閣僚会議、共同声明。

Page 15: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

14

経済・技術協力(ECOTECH)

APECエコノミーは、またはECOTECH活動の実施により、貿易・投資の自由化・円

滑化が迅速に進行するということを確信している。1996 年以降、ECOTECH 活動は、

エコノミー間の技術格差を是正し、規制の調和を実現し、持続可能な開発を促進し、繁

栄の共有を実現することに貢献した。1996 年から2010 年にかけて、APEC は、1,274

件のECOTECHプロジェクト(総費用:5,800万米ドル)を実施ないし承認した。19 2005

年に行われた中間評価の提言以来、ECOTECH の能力構築活動は、APEC のすべての

活動に組み込まれており、また、エコノミーのニーズに合わせて調整されている。APEC

が、特に能力構築活動を通じて貿易・投資の自由化・円滑化の進展に大きな貢献を行い、

次に、需要に基づく効率的な ECOTECH 活動を通じて、持続可能な経済成長と福利厚

生の向上に大きな貢献を行うことができる。

表 1.2 ECOTECH プロジェクト

自己資金***

承認プロジェクトへの総予算(米ドル)

エコテクプロジェクト案件数

エコテクプロジェクト総予算

(米ドル)

総予算(拠出)(米ドル)

エコテクプロジェクト案件数

エコテクプロジェクト総予算

(米ドル)

総予算(拠出)(米ドル)

エコテクプロジェクト案件数

エコテクプロジェクト総予算

(米ドル)

エコテクプロジェクト案件数

1993 977,395.00 28 685,540.00 7

1994 1,119,301.00 29 916,501.00 8

1995 2,001,607.00 43 1,229,917.00 11

1996 1,423,466.00 38 1,169,556.00 11

1997 1,788,354.00 36 1,522,679.00 4,274,388.78 18 2,101,164.00 9

1998 2,063,727.00 34 1,620,154.00 3,757,703.30 11 1,538,850.00 9

1999 2,436,932.00 40 1,856,999.00 4,201,327.63 10 922,758.00 161

2000 2,318,633.00 40 1,864,778.00 4,599,924.91 13 1,235,200.00 13

2001 1,880,484.00 37 1,623,169.00 4,186,125.95 28 2,690,816.00 22

2002 1,988,123.00 37 1,575,968.00 4,221,469.25 14 1,304,945.00 24

2003 2,021,226.00 43 1,693,276.00 2,755,742.10 23 1,908,776.00 15

2004 1,998,502.00 37 1,576,017.00 2,936,904.45 25 1,867,948.70 15

2005 2,109,237.00 40 1,961,067.00 2,051,656.31 20 1,686,740.00 779,000.00 0 0.00 38

2006 2,059,410.00 35 1,813,794.00 1,753,109.90 25 1,765,354.00 1,770,100.00 13 828,387.00 12

2007 2,452,116.00 32 2,166,323.00 2,552,541.00 15 1,233,380.00 4,959,300.00 31 840,454.00 5

2008 1,797,279.00 26 1,707,941.00 2,275,125.97 7 482,190.00 4,046,865.00 51 4,513,864.00 17

2009 2,686,150.00 30 2,499,315.00 1,586,480.00 10 634,117.00 4,822,161.53 70 6,133,650.00 14

2010**** 128,081.00 2 128,081.00 NA 2 91,500.00 2,320,300.00 10 971,716.00 6

合計 33,250,023.00 607 27,611,075.00 41,152,499.55 221 19,463,738.70 18,697,726.53 175 13,288,071.00 397

運営勘定(OA) TILF特別勘定 APEC支援基金(ASF)**

ECOTECHプロジェクトの総数:1,400。ECOTECHプロジェクトの総数(1996年~2010年):1,274。

ECOTECHプロジェクトの予算総額:60,362,884.70米ドル。ECOTECHプロジェクトの予算総額(1996年~2010

年):57,530,926.70米ドル

*2006年、SCEは、作業部会及びタスクフォースで提案されたプロジェクトである「ECOTECHプロジェクト」、

及び、すべてのASFプロジェクト(どのフォーラムで提案されたものであるかは問わない)を検討すること

に同意した。このリストでは、2006年より前のプロジェクトは、同一の方法で分類された。SCE(及びESC)

ならびに中小企業政策責任者グループ(2000年からはSMEWGに改組)から提案されたプロジェクトも、計算に

含まれている。

19 2010年に関しては、セッション1(3月)で承認されたプロジェクトのみが含められた。

Page 16: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

15

**一般資金及びすべての下位資金を含む。

***PDB・SCE報告書(利用可能な場合)に基づく。数字は、このリストのものより大きい可能性がある。

しかし、自己資金を使用するプロジェクトに関するすべての情報がPDBにアップロードされているわけでは

ないので、プロジェクトの正確な数を知ることは困難である。

****セッション1で承認されたものに限定されている。

出典:APEC事務局

Page 17: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

16

第2章 1994年ボゴール宣言以降のAPECの経済、貿易及び投資の成果

1994年のボゴール宣言以降、アジア太平洋地域は、大きく変化し、世界中で最も成長が

速く、経済的に最も開かれた地域になった。APECエコノミーの平均経済成長率は、他

の地域の同成長率を上回っており、さらに、APECの域内貿易額は、共通通貨という優

位性を有する欧州連合の同貿易額より大きい。20

ボゴール宣言は、域内の政策立案者に開かれた貿易・投資政策の推進に関する合意を形

成させることにより、かつ、健全な経済政策の策定において緊密な協力関係を構築させ

ることにより、このような成果を導き出す上で重要な役割を果たした。この政策リーダ

ーシップは、貿易・投資を通じて新たな機会を開拓しようとする域内産業界の努力を支

持した。貿易・投資の自由化・円滑化の加速は、経済成長率の引き上げと社会的成果の

改善に貢献し、域内の貧困水準を大幅に低下させた。

1. 物品・サービス貿易21

APECエコノミーによる輸出された物品の名目価額の合計は、1994年の2兆米ドル22 か

ら、2009 年の 5.6 兆米ドルに大幅に増加した(図 2.1)。同様に、同期間、APEC エコ

ノミーに輸入された物品の名目価額の合計は、2.1 兆米ドルから 5.8 兆米ドルに増加し

た(図2.2)。1994年以降、APECによる世界との物品貿易の額は、(輸出入ともに)年率

7.1%で増加した。

APEC の二国間貿易を見ると、APEC の域内物品貿易の価額は、1994 年から 2009 年

にかけて2.8倍に増加した。しかし、同期間においては、世界の他の地域に対するAPEC

の輸出の金額は、これ以上の増加率を示した。さらに、残りの世界と比較して、物品貿

易に占めるAPECのシェアも、1994年の28%から、2009年には33%に増加した。

20 PSU (リー及びファー 2009年) 21 この項の情報は、PSU報告書の17-23頁から得たものである。 22 1994年は、一般的に、ボゴール宣言以降の進捗度を評価する際に最新のデータと比較するための基準年として使用される。

しかし、データの利用可能性の問題もあるので、報告書では他の時期が使用されることもある。

Page 18: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

17

図2.1 物品の輸出

72%68%

76%76% 73%

72%

72%

67%89%

181%

120%

181%

0%

50%

100%

150%

200%

250%

300%

350%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1994 2009 1994 2009 1994 2009 1994 2009

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

増加率

十億米ドル

APEC域外

APEC域内

増加率(1994-2009)

注記:1994年と2009年の水準は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2009年に

かけての単純増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。APECの域内輸出額が総輸

出額に占める割合は、それぞれの柱の中に示したとおりである。

出典:PSU報告書(出典:国際通貨基金(IMF)、国際貿易統計動向に関するオンライン・データベース、

チャイニーズ・タイペイ外国貿易局)に基づいて編集。

APECによる世界の他の地域からの輸入額も、域内輸入額の増加率を上回った。APEC

域外からの物品の輸入も、1994年の26%から、2009年には33%に増加した。

図2.2 物品の輸入

70%67%

78%74% 73%

69%

72%

67%

126%153%

135%

180%

0%

50%

100%

150%

200%

250%

300%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1994 2009 1994 2009 1994 2009 1994 2009

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

増加率

十億米ドル

APEC域外

APEC域内

増加率(1994-2009)

注記:1994年と2009年の水準は、柱で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2009年にか

Page 19: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

18

けての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。APECの域内輸入額が総輸

入額に占める割合は、それぞれの柱の中に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:国際通貨基金(IMF)、国際貿易統計動向に関するオンライン・データベース)

に基づいて編集。

商業サービス貿易は、APEC域内において重要性が高まっている。APEC地域から輸出

される商業サービスの名目価額は、1994 年の4,324 億米ドルから、2009年には1.2 兆

米ドルに大幅に増加した。年間増加率は7.2%である(図2.3)。

同様に、APEC 地域が輸入する商業サービスの名目価額は、1994 年の 4,397 億米ドル

から、2009年には約1.2兆米ドルに増加した。年間増加率は6.8%である(図2.4)。

Page 20: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

19

図2.3 商業上のサービス貿易

151%

184%

160%

185%

0%

50%

100%

150%

200%

250%

300%

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

増加率

十億米ドル

1994

2009

増加率

注記:1994年と2009年の水準は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2009年に

かけての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。

出典:PSU報告書(出典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界銀行、「世界開発指標」に関す

るオンライン・データベース;世界貿易機関(WTO)、国際貿易時系列データに関するオンライン・デー

タベース)に基づいて編集。

図2.4 商業上のサービスの輸入

117%

185%

135%

169%

0%

50%

100%

150%

200%

250%

300%

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

増加率

十億米ドル

1994

2009

増加率

注記:1994年と2009年の水準は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2009年に

かけての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。

出典:PSU報告書(出典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界銀行、「世界開発指標」に関す

るオンライン・データベース;世界貿易機関(WTO)、国際貿易時系列データに関するオンライン・デー

タベース)に基づいて編集。

Page 21: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

20

図2.5 物品・サービスの輸出金額の対GDP比率

11.1

46.0

14.8 15.716.3

70.2

23.426.5

0

10

20

30

40

50

60

70

80

APEC5 APEC8 2010 年エコノミー APEC

1994

2008

GDPに占める割合(%)

注記:対GDP比率は、それぞれの柱の上部に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界貿易機関(WTO)、国際貿易

時系列データ)。

図2.6物品・サービスの輸入金額の対GDP比率

11.5

48.4

15.3 16.219.7

68.9

26.2 27.4

0

10

20

30

40

50

60

70

80

APEC5 APEC8 2010 年エコノミー APEC

1994

2008

GDPに占める割合(%)

注記:対GDP比率は、それぞれの柱の上部に示したとおりである。

出典:PSU報告書(出典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界貿易機関(WTO)、国際貿易

時系列データ)。

APECエコノミーによる物品・サービスの総輸出額がGDPに占める比率は、1994年の

15.7%から、2008年には26.5%に増加した(図2.5)。APEC5の同比率は、1994年の11.1%

Page 22: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

21

から、2008年には16.3%に増加した。APEC8の同比率は、1994年の46.0%から、2008

年には70.2%と大きく増加した。同様に、物品・サービスの総輸入額がAPEC地域のGDP

に占める比率は、1994年の16%から、2008年には27.4%に増加した(図2.6)。

2. 海外直接投資23

APEC の海外直接投資(FDI)の対外・対内直接投資は、2000 年代初めには変動した

ものの、1994年以降は上昇傾向を示している。

APEC地域への対内直接投資は、1994年から2008年にかけて4倍以上に増加した。年

間増加率は 13.0%であった。同対内直接投資は、2008 年には約 7,910 億米ドルに達し

た(図2.7)。APEC5 の場合、同期間中、対内直接投資は年率14.9%で増加した。これ

は、世界の同対内直接投資の年間増加率である14.4%を若干上回るものであった。しか

し、APEC8の場合、対内直接投資の増加率は年9.9%に留まった。

APECエコノミーからの対外直接投資も、1994年から2008年にかけて大幅な増加を示

した。年間増加率は12.7%であった。同FDI対外直接投資額は、2008年には過去最高

の 7,820 億米ドルに達した。この期間中、APEC5 からの対外直接投資は年率 12.6%で

増加したのに対し、APEC8からの直接投資額は年率8.7%で増加し、2008年には1,140

億米ドルに達した。

23 この項の情報は、PSU報告書の23-26頁から得たものである。

Page 23: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

22

図 2.7 APECのFDIの対外直接投資額と対内直接投資額

<対内直接投資>

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

APEC8 APEC5 APEC

十億米ドル

<対外直接投資>

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

APEC8 APEC5 APEC

十億米ドル

注記:2005年までベトナムは対外直接投資の統計は入手不可。

出典:PSU算出(出典:APEC,StatsAPEC-主要経済指標データベース,国連貿易開発会議(UNCTAD)、

海外直接投資統計に関するオンライン・データベース)。

APEC地域の対内直接投資残高は増加したが、世界の対内直接投資残高に占めるAPEC

のシェアは、1994 年の 48%から、2008 年には 39%に減尐した。APEC 地域の対内直

接投資残高は、この間、年率 11.8%の割合で増加し、2008 年には 6 兆米ドルに達した

(図2.8)。1994年には、APEC地域の対内直接投資残高の59%はAPEC5に帰属する

Page 24: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

23

ものであった。2008 年には、途上エコノミーのシェアが増加したことにより、APEC5

のシェアは55%に低下した。APEC5の対内直接投資残高は年率11.2%で増加したが、

APEC8の対内直接投資残高は年率11.7%で増加した。なお,世界の対内FDI残高は年

率13.4%で増加した。

図 2.8 対内FDI残高

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

APEC8 APEC5

APEC

十億米ドル

出典:PSU算出(出典:APEC,StatsAPEC-主要経済指標データベース,国連貿易開発会議(UNCTAD)、

海外直接投資統計に関するオンライン・データベース)。

世界の対外FDI残高に占めるAPECのシェアは、1994年の47%から、2008年には39%

に低下した。APEC地域の対外FDI残高は、この間、年率12.5%で増加し、2008年に

は6兆米ドルに達した(図2.9)。1994年には、APEC地域の対外FDI残高の86%は

APEC5に帰属するものであった。2008年には、途上エコノミーのシェアが増加したの

で、APEC5のシェアは72%に低下した。APEC5の対外FDI残高は年率11.1%で増加

したが、APEC8の対外FDI残高は年率17.7%の割合で増加した。ちなみに、世界の対

外FDI残高は年率14.0%で増加した。

Page 25: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

24

図 2.9 対外FDI残高

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

APEC8 APEC5

APEC

十億米ドル

出典:PSU算出(出典:APEC,StatsAPEC-主要経済指標データベース,国連貿易開発会議(UNCTAD)、

海外直接投資統計に関するオンライン・データベース)。

3. 経済成長及び社会的成果の向上24

APEC エコノミーは、1994 年のボゴール宣言以降、着実に成長し、1994 年から 2008

年にかけての世界の成長の62%を占めた。APEC地域の実質GDPは、1994年から2008

年にかけて54%増加した(図2.10)。

図 2.10 実質GDP

24 この項の情報は、PSU報告書の67-73頁から得たものである。

Page 26: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

25

注記:1994年と2008年の水準は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2008年に

かけての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。

出典:PSU報告書(出典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界銀行、「世界開発指標」に関す

るオンライン・データベース; チャイニーズ・タイペイ予算会計統計庁 (DGBAS))に基づいて編集。

1994 年から 2008 年にかけて、APEC 地域の 1 人当たり実質GDP は 37%増加し(年

率2.3%の増加)、世界の他の地域の増加率(年率1.3%)を上回った(図2.11)。APEC5

の 1 人当たり実質GDP は年率 1.6%の割合で増加し、APEC8 の 1 人当たり実質GDP

は年率2.9%の割合で増加した。

図2.11 1人当たり実質GDP

注記:1994年と2008年の水準は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりである。1994年から2008年に

かけての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;世界銀行、「世界開発指標」に関す

るオンライン・データベース;チャイニーズ・タイペイ予算会計統計庁(DGBAS))に基づいて編集。

APEC地域の雇用労働者数は、1996年から2007年にかけて14%増加した。さらに、域内

の失業率は、2003年以降、徐々に低下した。APEC5における失業率は2007年には4.5%,

APEC8においては3.8%に低下した。

2007年の失業率は、1996年のレベルを超えて、5.2%に達した。

Page 27: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

26

図 2.12 失業率

5.2

4.0

4.9

4.64.5

3.8

4.3

5.0

3

4

5

6

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

1996

2007

失業率(%)

注記:失業率は、それぞれの縦軸の上部に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;国際労働機関(ILO)、主要労働市

場指標(KILM)第6版に関するオンライン・データベース)に基づいて編集。

APEC全体における教育実績の向上は、雇用機会の増加と労働力の改善に貢献した。成

人の識字率は、1990年の82%から、2008年には約94%に上昇した。25 APEC地域の

女性の識字率は、1990年の74%から、2008年には91%に上昇した。他の教育実績の分

野でも、大幅な向上が見られる。たとえば、中等教育における就学率は、1990年の56%

から、2008年には82%に増加した。女子の場合、同期間中、同就学率は54%から84%

に上昇した。

APEC設立以降、人間開発及び貧困削減に関する指標は大幅な改善を示している。これは、

域内の生活条件が改善されたことを示すものである。UNDPの人間開発指標は、人間開発に

関する3つの基本的要素―長生きで健康的な生活、知識へのアクセス、まっとうな生活水準

―についての各国の平均的達成度を総合的に表示するものである。この指数を見ると、

APEC地域の数値は1995年から2007年にかけて11%増加しているので、同地域では人間開

発が大幅に進展したということである(下のパネル、図2.13)。

25 1994年から2年以内においては、成人の識字率に関するデータはないので、1990年のデータを使用した。

Page 28: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

27

図 2.13 人間開発指数

2.4%

8.8%

4.0%

10.9%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

変化率

1995

2007

変化率

人間開発指数値

注記:最大の数値は1.0である。1995年と2007年の指数は、縦軸で示し、数値は左側の軸に示したとおりであ

る。1995年から2007年にかけての単純な増加率は、三角印で示し、数値は右側の軸に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:APEC、StatsAPEC – 重要指標データベース;国連開発計画(UNDP)、HDIの傾

向及び指標(1980年~2007年))に基づいて編集。

図 2.14 貧困に関する指標

820.3

1,240.3

323.9

718.0

0

10

20

30

40

50

60

1.25米ドル/日 2米ドル/日

1994

2007

APECの人口に対する割合(%)

注記:それぞれの縦軸の上に人数(単位:100万人)を示す。1日1.25ドル未満または1日2ドル未満で生活し

ている人口の比率は、2005年の国際価格を使用した購買力平価(PPP)を使用して計算したものである。PPP

換算比率が改訂されたため、個々のエコノミーの貧困率は過年度に報告されていた貧困率とは厳密に一致し

ていない。

出典:PSU報告書(原典:世界銀行、「世界開発指標」に関するオンライン・データベース)。

Page 29: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

28

第3章 ボゴール宣言以降の貿易・投資の自由化・円滑化

1. 概観

この章では、ボゴール目標の主要な柱である貿易・投資の自由化・円滑化に関する2010

年エコノミーの進捗度を評価する。2010 年エコノミーは先進エコノミー(APEC5)及

び APEC 先進エコノミーと共に評価対象になることを自発的に希望した途上エコノミ

ー(APEC8)で構成されており、この章では、APEC5とAPEC8の両方に関する詳細

な分析を行うほか、2010年エコノミー全体の貿易・投資の自由化・円滑化に関する措置

を検討する。

ボゴール目標は、APECの貿易・投資政策に直接的な影響を与えた。ボゴール目標に込

められた自由化への強いコミットメントは、貿易・投資に対する障壁を大幅に削減する

ことに貢献した。ボゴール目標は、APECの貿易・投資の拡大を阻害する非関税障壁を

削減することの重要性を明確に表現した。その結果、域内の政策立案者は、貿易・投資

の円滑化により大きな重点を置くようになった。この章では、1994 年以降における貿

易・投資の自由化・円滑化に関する2010年エコノミー及びAPEC全体のボゴール目標

に向けた進展について評価する。

この分析を行うに際しては、部門別に目標を達成するためのAPECの活動に関する枠組

みとして1995年にAPEC首脳が承認した大阪行動計画(OAA)に重点を置く。この活

動に関しては、各国は、毎年、個別行動計画(IAP)及び 2010 年エコノミーは、この

評価を行うために提出されたファクト・シートに基づいている。

次項で評価する分野と部門は、OAA 又は IAP の中で言及されているものである。第 1

に、利用可能であり、適切である場合には、ファクトシート、PSU報告書または関連す

る国際機関から得られた情報に基づく数値データを使用して、ボゴール目標の発表段階

から 2010 年エコノミーが実現した成果について世界の平均値/標準値とを比較しなが

ら,第 2 に、2010 年エコノミーによる関連国際約束の採択に留意する。第 3 に、特に

全体評価を行うための数値データが利用できない場合には、適宜、個々のエコノミーの

イニシアチブの例についても言及する。最後に、それぞれの項では、関連分野における

APECの主要なイニシアチブに言及する。

Page 30: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

29

2.個別分野の評価

(1) 関税

OAA に基づき、APEC エコノミーは、ボゴール目標が完全に達成されるまで関税を段

階的に、かつ、高い透明性を保ちながら引き下げることを約束した。

APEC エコノミーは、1994 年以来、多国間プロセスと一国でのプロセスの双方及び、

RTA・FTA の締結を通じて、関税率を引き下げてきた。たとえば、APEC エコノミー

によるWTOウルグアイ・ラウンド合意の実施、及び、一部の工業製品に関するウルグ

アイ・ラウンド後の多国間での追加的な約束により、関税率が大幅に引き下げられた。

しかし、APECエコノミーは、多角的貿易交渉に基づいて要求された内容を超える貿易

自由化を行った。ボゴール目標を達成するとしたAPECエコノミーの共同のコミットメ

ント、及び、この目標を達成するためのロードマップとしての OAA の受入れは、国内

産業の競争力を改善し、かつ、企業がサプライ・チェーンのグローバル化から利益を得

ることを可能とするための手段としての一方的関税削減を行いやすい環境を作りだした。

また、多国間及び一方的措置を通じての関税自由化により、APEC地域の実行関税率が

大幅に引き下げられた。APEC地域全体の単純平均MFN実行税率は、1996年の10.8%

から、2008年には6.6%に低下した。26 これに対し、2008年の世界の平均MFN実行

税率10.4%であった。27 APEC5の同平均実行税率は、1996年の7.0%から、2008年

には3.9%に低下した。同様に、APEC8の同平均実行税率は、同期間、8.9%から6.4%

に低下した28(図3.1<単純平均値>)。2008年の関税率をそれぞれの関税率による輸

入量で加重平均すると、貿易加重関税率はAPEC5が2.7%、APEC8が4.5%になった29

(図3.1<加重平均値>)。

「関税負担率」という概念は、RTA・FTA、一般特恵関税(GSP)及びその他の一方的

措置が重要でかつ有益な影響を与えていることを明らかにする上で役立つものである。

この関税負担率は、MFN 及びその他の特恵貿易協定を通じて行われる関税自由化に関

する総合的指標であるととらえることができる。これは、輸入関税の総収入額を総輸入

額で除すことで算出できる。たとえば、GSPに基づいて、途上エコノミー(特に後発途

上エコノミー)に認められる優先的アクセスは、国境において特定の物品に課される平

均税率を低下させるので、当該エコノミーにとっての市場アクセス条件は改善される。

26 PSR報告書、29頁。 27 PSU報告書、26頁、及び、PSU計算。 28 PSU報告書、26頁。PSUの計算は、WTOの関税率ダウンロード・ファシリティ・オンライン・データベース、UNCTAD

の関税分析情報システム(TRAINS)オンライン・データベース、及び、WTOの世界関税率プロフィール2009に基づ

く単純平均データ。 29 PSU報告書、26頁。

Page 31: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

30

2009年においては、関税負担率は、APEC5が1.5%、APEC8が1.1%であった(図3.2)。

図 3.1 MFN 実行関税率-1996年及び2008年

<単純平均>

<加重平均>

注記:2008年のデータに関しては、すべての関税率は2008年のものとして報告されたものである。ただし、

インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、タイ及びベトナムに関しては、2007年のものとして報告

されたものである。1996年のデータに関しては、すべての関税率は1996年のものとして報告されたものであ

る。ただし、次のエコノミーは以下の年による。タイ(1995年)、パプア・ニューギニア(1997年)、イン

ドネシア(1998年)、メキシコ(1998年)、ペルー(1998年)、マレーシア(1999年)及びベトナム(1999

年)。MFN実行税率は、それぞれの柱の上部に示したとおりである。

Page 32: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

31

出典:世界貿易機関(WTO)の関税率ダウンロード・ファシリティに関するオンライン・データベース、国連貿

易開発会議(UNCTAD)の貿易分析情報システム(TRAINS)に関するオンライン・データベース、及びWTO

世界関税率表2009年度版のWTO単純平均データに掲載されたデータに基づく PSU の計算(日本で再掲さ

れた)。

図 3.2 関税負担率-1996年及び2009年

注記:チリの1996年のデータ、及び、マレーシアの1996年と2009年のデータが利用できなかった。日本と韓

国に関しては、2009年の数字の計算のために、それぞれ2008年度と2008年の数字が使用された。

出典:2010年エコノミーから提出されたファクトシートに基づいて計算が行われた。

APECによる全体的な関税引き下げの進捗状況は、単純平均または加重平均の平均実行

税率の低下、及び関税負担率の低下に示されている通り大きなものではあるが、平均関

税率はすべての貿易品目(関税分類品目)の部門別の関税率の詳細な変化を示すもので

はない。一部の部門の関税は、国内での機微な事情に応じて、他の部門より高い水準に

留まっている。

Page 33: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

32

図 3.3 MFN実行税率の部門別単純平均-APEC 2010年エコノミー

出典:WTO関税率表2009年版

図 3.3 は、2010年エコノミーの全部門の単純平均実行税率の状況を示すものである。衣

料、農産物及び繊維の平均MFN実行税率は、APECエコノミー全体の平均MFN実行税率

を上回っている。対照的に、石油、非電気機器及び化学品のMFN実行税率は相対的に低

水準にある。この観点から、また、2010年エコノミーが5.4%の単純平均実行税率を維持

していることを考えれば、APEC2010年エコノミーは、地域における自由で開かれた物

品貿易を達成するためにはまだ尐し進む必要があるとの評価は妥当である。

Page 34: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

33

APEC内の関税率分布に関しては、APEC5において10%を超えるMFN実行関税率を有す

る関税分類品目がすべての関税分類品目(国際統一商品分類(HS)6桁レベル30)に占

めるシェアは7%である。PSU報告書によると、APEC5の関税分類品目の80%強は関税

率が5%未満となっている(図3.4)。31

図 3.4 関税率分布-HS 6桁レベル-APEC5

0

10

20

30

40

50

60

無税 0<=5% 5<=10% 10<=20% 20<=40% 40<=80% >80%

HS6桁(号)における割合(%)

1996年

2008年

出典:PSR報告書(原典:WTO の関税率ダウンロード・ファシリティに関するオンライン・データベース;

UNCTAD の TRAINS に関するオンライン・データベース)。

同様にAPEC8(図3.5)については1996 年から2008 年の間、全般的に低関税に移行

しつつあることも示している。ただし、これらのエコノミーにとっては、関税率分布に

おいて明確な2つの最頻値がある。1996年にはピークは10%から20%だったものが、

5%から10%の関税に移行しており、2008年には無税のピークが顕著なものになってい

る。関税率分布の2つの最頻値は、APEC8 の中で中国香港とシンガポールの無税エコ

ノミー及び関税を継続して削減しているAPEC8 の他のエコノミーの努力を示している。

2010 年エコノミーに関しては、平均関税率の引き下げは貿易に顕著な影響を与えた。

2010年エコノミーが無税で輸入している比率は、1996年の35%から、2008年には50%

に大幅に増加した。この間、課税対象輸入の比率は、関税率の多寡に関わらず、減尐し

た(図3.6)。

30 関税負担率は各2010年エコノミーから提出された輸入関税収入に基づくそれぞれの平均税率(平均税率=総輸入関税

収入÷総輸入額×100)を平均して算出した。1996年については2エコノミー、2009年については1エコノミーのデー

タが入手不可能である。

31 PSUから提供されたデータに基づく。

Page 35: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

34

図 3.5 関税率分布-HS 6桁レベル-APEC8

0

10

20

30

40

50

60

無税 0<=5% 5<=10% 10<=20% 20<=40% 40<=80% >80%

HS6桁(号)における割合(%)

1996年

2008年

図 3.6 実行税率別の輸入の比率-2010年エコノミー

出典:PSUの計算は、WTOの関税率ダウンロード・ファシリティ・オンライン・データベース、及びUNCTAD

の関税分析情報システム(TRAINS)オンライン・データベースに基づいている。

他の観点を示すため、フレーザー研究所の「2009 年世界経済自由度指数」(Gwartney,

James, et al)は、世界の平均関税率に関する評価指標を含めている。この指数は、WTO

の世界関税率表から得た関税データに基づいたものである。フレーザー研究所の同指数

は、APEC地域の平均関税率は、2010年エコノミーを含め、1995年から2007 年にか

けて低下していることを示している(図3.7)。32

32 PSU報告書、32頁。

Page 36: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

35

図 3.7 フレーザー研究所の世界経済自由度指数-平均関税率

8.448.15 8.26

7.31

9.18

8.618.83

8.58

5

6

7

8

9

10

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

1995年

2007年

自由度低

自由度高 世界平均(2007年): 8.14

注記:評価指標は0から10で、関税を課していない国には10が付与される。単純平均関税率が50%に近付く

と、その国に付与される評価は0に近付く。単純平均関税率に関する評価指標は、それぞれの柱の上部に示

したとおりである。

出典:PSU(原典:Gwartney, James, et al (2009)年))のデータに基づいて編集。

APECの関税制度の透明性は、多くのイニシアチブを通じて強化されてきた。2003年、

APECは、APEC透明性基準を採択した。この基準は、たとえば、多くの関心を持つ団

体が関税情報を利用できるようにするための指針を定めている。APECエコノミーの大

半は、それぞれの関税率表をインターネットで公表している。さらに、APEC は、「関

税率及び原産地規則(ROO)に関するAPEC透明性イニシアティブ」等の措置を通じて、

関税関連の情報の透明性を改善する努力を行っている。33

(2) 非関税措置

OAA に基づき、APEC エコノミーは、貿易歪曲の可能性を削減するために、非関税措

置(NTM)を可能な限り段階的に削減すること、WTO協定に違反する措置を廃止する

こと、WTO協定の約束に合わせた形でWTO協定を完全に満たすこと、及びAPECエ

コノミーのそれぞれの非関税措置の透明性を高めることをコミットした。

33出典:Gwartney, James, et al (2009).(PSU報告書に再掲)。

Page 37: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

36

囲み3.1: 非関税措置の定義34

非関税措置(NTM35)に関しては様々な定義がある。経済協力開発機構(OECD)のパ

サディラ及びリャオ(2006年)は、NTMを「貿易を歪める関税以外の措置」と定義し

た。36 さらに、パサディラ及びリャオは、ボールドウィン(1970年)がNTMを「国際

的に取引されている物品・サービス、または、物品・サービス生産のために使用される

資源を、潜在的な真の世界所得を削減するような方法で配分する(公的部門または民間

部門の)措置」と定義していることを発見した。

また、UNCTAD事務総長の非関税障壁(NTB)に関する高度専門家会合、及び多機関

作業部会は、途上国(特にLDC)が直面する諸問題に特に重点を置きつつ、貿易交渉に

おいてNTBに効果的に対処することができるようにすることを目的として、国境措置及

び国内措置を含め、NTBを特定し、分類し、かつ定量化する作業を行っている。37

その定義の多様さに加えて、NTMの類型も多様である。パサディラ及びリャオによる

と、UNCTADは、次のようなものをNTMであると定義している38:

非関税課徴金

量的規制

貿易への国家の介入及び類似の制限的政策

税関手続及び行政政策

技術標準:衛生植物検疫基準(SPS)及び貿易への技術的障壁(TBT)

様々な措置に関する情報を収集することが困難であるため、APEC内部におけるNTMの

量的分析を行うことは困難である。かかる情報の欠落に対処するための過去の取組、例

えばUNCTADのTRAINSは、2001年までは一部の2010年エコノミーがNTMデータに

関する報告を行っているに過ぎなかった。39 しかしながら、過去の一部の調査は、NTM

の発生頻度に基づいて興味深い調査結果を報告している。

34 http://www.apec.org/webtr.html 35 PSU報告書、31頁。 36一般的に、学者はNTMとNTBを同義に扱っている。World Bank(2008a)は、輸入需要を制限することによって国

内産業を保護することを目的として課されたことが明白である場合には、その措置は非関税障壁(NTB)であると指摘し

た。他の定義では、NTBはWTO規則に違反する措置であると指摘されている。 37 Deardorff and Stern (1977) は、NTMとNTBの区別が困難なのはその定義の曖昧さによるものであると指摘した。 38 UNCTAD, http://www.unctad.org/en/docs/c1l34_en.pdf 39 UNCTADは、輸出及び生産に関する措置は除外した(CIE 2006)。

Page 38: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

37

パサディラ及びリャオ(OECD, 2005年)は、NTMに関する分類のうち、TBTに関する

ものが530件で、障壁全体の約半数を占めており、次いで税関手続及び行政手続に関す

るものが380件、植物衛生検疫措置に関するものが137件であることを発見した。40

技術的規制及び適合性評価手続を始めとする標準関連措置など一部のNTMは、消費者

の福利を改善することができるとの正当な根拠を有している。41

これらの標準関連措置は、製品の品質を保証し、損傷しているかまたは危険な製品から

保護することによって消費者に便益を与えることができる。しかし、時代遅れになるか、

負担が重くなるか、差別的であるか、または、不適切なものである場合には、貿易に対

する不必要な障壁となることもあり得る。そのよい例として、技術的要件が国際的に受

け入れられているものより不必要に厳格なものである場合があることが挙げられる。こ

のため、NTMは、関税率に比べて、さらに複雑で分かりにくいものになっている。そ

の結果、とりわけ中小企業にとって,その結果として生じる適合性に関する負担は費用

負担となり、重大な貿易に対する障壁となる。42 また、留意すべきことは、要求事項

を国際的に受け入れられているものより厳格にする必要のある場合があるが、それには

正当な理由があることが多いということである。その1つの例としては、標準に地理や

気象の相違などを反映させなければならないような場合を挙げることができる。

WTO事務局報告書は、APECの一部エコノミーは、世界的な金融危機にも関わらず、貿

易自由化・円滑化のための措置を実施したと指摘している。オーストラリア、カナダ、

マレーシア及びメキシコは、輸入関税率、料金及び課徴金を引き下げた他、いくつかの

製品に関してNTMを除去した。さらに、2010年エコノミーから提出されたファクトシ

ートの中で報告されている情報によると、これらエコノミーは、保健、安全保障、保安

及び環境に関する正当な理由がある場合を除き、ほとんどNTMを活用していない。

さらに、APEC内部では、NTMの適用とその効果に対する認識が高まった。フレーザー

研究所の「2009年世界経済自由度指数」によると、2010年エコノミーにおいては、1995

年から2007年にかけて、APEC地域内での貿易に対する非関税障壁の適用状況に関する

企業部門の認識は改善した43(図3.8)。2010年エコノミーによるNTMの削減・撤廃努力

40 PSU報告書、36頁。

41 パサディラ及びリャオ(2006年)、フィリピンの農業輸出品が直面する非関税措置、東アジア農業開発ジャーナル、

第3巻、No.1/2(PSU報告書、37頁に再掲されたもの)。 42 PSR報告書,38頁。 43 前掲

Page 39: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

38

は、同エコノミーの貿易自由化に貢献した。これは、1994年から2007年にかけて輸入が

176%増加したことに表れている。

図 3.8 フレーザー研究所の世界経済自由度指数-非関税障壁

6.73

7.126.97

6.32

7.16 7.30 7.24

6.73

5

6

7

8

9

10

APEC5 APEC8 2010年エコノミー APEC

1995年

2007年

自由度低

自由度高

世界平均(2007年): 6.18

注記:評価指標は 0 から 10 。最も高い 10 は、非関税障壁の実施率が低いことを意味する。単純平均関

税率に関する評価指標は、それぞれの柱の上部に示したとおりである。

出典:PSU報告書(原典:StatsAPECの重要指標データベース;ジェームズ・グワートニー他、世界経済

自由度指数、フレーザー研究所(2009年))に基づいて編集。

2008年、南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネススクールは、ABACの委託を受け

て、非関税障壁に関する調査を行った。44 同ビジネススクールは、一部のNTMは意図

的な制限的・保護主義的非関税障壁(NTB)として「導入される」45 が、ほとんどはそ

うではないということ、NTMの策定に関する一般的に認められた基準が存在しないた

め、それらは「追加的で、異なるもの」46 になる傾向があったということ、ならびに、

先進エコノミーは、新たな協定を採用すること及び地域に適用される標準を策定するこ

とに関して他のエコノミーとの間で情報を共有するかまたは協力することに対する切迫

感が欠如していることが批判されているとの発見があった。さらに、同ビジネススクー

44 PSU報告書、36頁。「APEC地域における貿易非関税障壁:非関税措置が非関税障壁になる時-農業及び会計からの

洞察」、(2008年11月)、南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネススクールから提出されたもの。 45 「APEC地域における貿易非関税障壁:非関税措置が非関税障壁になる時-農業及び会計からの洞察」、(2008年11

月)、南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネススクールから提出されたもの。 46 同文書によると、「NTMは、健康、安全、栄養、環境保護、安全保障、品質保証、動物福祉、及び/または、宗教戒

律の順守等を目的として課される規制手段である。これらは、信頼できるものであり、必要なものである。これらは、個々

のエコノミーの安全と完全性を確保するという重要な目的を果たすものである。しかし、NTBは、貿易に不公正な障害

をもたらす非関税措置である」。

Page 40: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

39

ルは、新たに登場した重要な問題は、早い段階で協力的な方法で対処しない限り、既存

のNTB問題と相まって、一層複雑な新たなNTB問題に発展するということを発見し、

かつ、NTBを解決するためには次の4つの要素―アクセス、透明性47、標準・規制、及

び一貫した方法での実施―が必要になると指摘した。

IAP及びIAPピア・レビュー等の文書の中で報告されているとおり、2010年エコノミー

は、NTM・NTBの削減においてかなりの進展を示した。

オーストラリアは、2007年9月、輸入リスク分析(IRA)プロセスに重要な改革を加え

た。新たなプロセスの重要な特徴は、透明性と適時性の向上、重要な要素が規制されて

いること、科学的問題を独立的に検討する機会が増加したこと、及び利害関係者との協

議が改善されたことなどである。48

カナダは、WTO規則に反する措置は実施していないと報告している。カナダが、2009

年から2010年予算において、1,750の関税分類品目についてのMFN実行税率を一方的に

撤廃するという決断を下したことは、輸入業者がこれらの物品への原産地規制に従う必

要をなくしたことで、貿易業者の税関コンプライアンスの費用を著しく削減することに

役立った。49 さらに、後発途上国向け関税制度(LDCT)の対象となる輸入品に対し

てカナダが適用するROOは、世界で最も寛大な部類に入る。たとえば、このLDCTに基

づき、あるLDCにおいて生産された衣料品は、途上国で生産された繊維製品を使用する

ことができる他、カナダ市場に免税で参入することができる。このROOにより、後発途

上国と途上国の製品は、カナダ市場に参入しやすくなっている。また、カナダによる緊

急措置の活用は激減した。カナダのダンピング防止(AD)措置の件数は、2003年の91

から2006年6月末には48に減尐した。50

日本は、WTO規則に違反する措置は実施していないと報告している。日本は、2010年2

月、輸出入手続と港湾関連手続のシングルウィンドウを改良した。新たなシステムでは、

事業者は、輸出入・港湾関連情報処理センター(NACCSセンター)が運営している共

通ポータル・システムを通じて、税関手続、港湾・空港手続、入国手続、食品衛生・動

47同報告書によると、「追加的で、異なるもの」は、それぞれのエコノミーが、世界的指針を選択的に採用したり、これ

を変更したり、また、独自の指針を策定したりすることによって引き起こされる。 48透明性に関しては、禁止事項と割当枠に関するOECDの文書(チャガ、2004年)も、数量制限措置の透明性は貿易制

度の他の多くの側面と比較して低いと指摘している。P・チャガ(2004年)、「非関税措置の分析:禁止事項と割当枠に関

する事例」、OECD 貿易政策、No.6、OECDパブリシング、doi: 10.1787/650468803072 49 オーストラリア APEC 2008 IAP(PSU報告書、34頁で再掲された) 50 WTO事務局(2007年)、「貿易政策レビュー-事務局による報告-カナダ」、WT/TPR/S/179/Rev.1、2007年6月4

日、25頁。

Page 41: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

40

植物検疫手続、及び貿易管理手続を1回の操作で申告を行い、許可を取得することがで

きる。

ニュージーランドは、グローバル輸入承認保護制度を(1992年に)全廃しており、輸出

補助金も実施していない。51 ニュージーランドは、WTO規則に違反する措置は実施し

ていないと報告している。

米国は、WTO規則に違反する措置は実施していないと報告している。さらに、米国は、

規制制度の強固な中央管理、貿易政策に関する効果的な省庁間システム、及び透明な公

聴会制度を通じて、基準関連措置に関する貿易義務の実施を支援する健全なシステムを

維持している。さらに、米通商代表部は、独立機関である国際貿易委員会に対し、残存

している米国の主要な輸入規制が経済に与える影響を2年おきに公表するよう要請した。

途上エコノミーのAPEC8の中では、チリは、WTO規則に違反する措置は実施していな

いと報告している。さらに、チリは、2003年に3つの輸出補助プログラムを廃止した他、

一部の中古自動車を除き、市場参入制限、数量制限または内国民待遇制限は実施してい

ない。52

中国香港は、WTO繊維衣料協定の実施を受けて繊維割当を廃止した後、繊維輸出管理

制度を改良し、簡素化した。さらに、中国香港は、左ハンドル車・船外機に関する承認

条件、ならびに、TV・ビデオ・カセット・レコーダー・ビデオ・カセット・プレーヤー

の輸出に関する承認条件を廃止した。非関税国境措置もほとんど実施されていない。53

韓国は、塩に関する輸入税を廃止した他、WTO繊維衣料協定に従って、繊維・衣料に

対するすべての数量制限を撤廃した。54 さらに、韓国は、WTO整合的ではなかった、

すべての輸出補助金、輸出の量的規制または自主的輸出制限を撤廃したと報告した。55

マレーシアは、輸入税は課しておらず、輸出補助金も実施していない。マレーシアは、

2008年、機械・機器及び電気・電子製品などの48の関税対象品目について輸入承認条件

を撤廃した。2009年には、ガントリー・クレーン、油圧式積込クレーン及びクローラー・

51 ニュージーランドAPEC 2006 IAP(PSU報告書、34頁で再掲された) 52 チリ APEC IAP相互評価 (2008) (PSU報告書、34頁で再掲された) 53 中国香港APEC IAP 調査報告 (2007年) (PSU報告書、34-35頁で再掲された) 54 韓国 APEC IAP相互評価(2007年)(PSU報告書、35頁で再掲された) 55 韓国 APEC 2006 IAP. (PSU報告書、35頁で再掲された)

Page 42: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

41

クレーンなどの港湾クレーン、及びブルドーザー、ロードローラーなどの重機に関する

輸入承認も廃止された。56

メキシコもまた、多くの製品に関して、輸入承認条件を撤廃した。たとえば、2008年に

は、メキシコは、特定の保健製品、フランチャイズに基づく特定目的の車両、ならびに、関

税法第117条の条件に基づいて加工、変形または修理されるために一時的に輸出される製

品(鉱物燃料、鉱物油及び車両など)に関して、輸入承認条件を廃止した。57

ペルーは、輸出入税、輸出入承認、自主的輸出制限または輸出補助金は実施しておらず、

文化遺産及び生物多様性の保護、あるいは、安全・衛生及び植物衛生の理由により、制

限を行っているに過ぎない。58

シンガポールは、技術進歩や医学の進歩等を考慮し、かつ、不要な措置、承認条件及び

認証手続を簡素化することを目的として、定期的に NTM を見直していると報告した。59 2005年、シンガポールは、従来から禁止していたギャンブルを容認し、カジノの営

業を認めた。2007年には、郵便部門が自由化され、基本的郵便業務におけるシンガポー

ル郵便局(SingPost)による過去15年に及ぶ独占体制は終焉した。60

チャイニーズ・タイペイは、2002年にWTOに加盟した後、多くのNTMを廃止した。

これらのNTMは、多くの製品に対する輸入禁止、及び輸入の量的制限であった。61 輸

入の量的制限はすべて撤廃され、輸入禁止品目の数は、2002年1月の252から、2009

年9月には63に減尐した。62

(3) サービス

OAAに基づき、APECエコノミーは、サービス貿易に関する市場アクセスの制限を段

階的に削減すること、特にサービス貿易に関する最恵国(MFN)待遇と内国民待遇を

実施すること、かつ、規制部門に対しては、サービス貿易に関する規制と規制手続を、

公正で透明な方法で策定し、採択し、適用することをコミットした。

56 マレーシア APEC 2009 IAP相互評価(2009年)PSU報告書、35頁で再掲された) 57 メキシコAPEC 2009 IAP. (PSU報告書、35頁で再掲された) 58 ペルーAPEC IAP相互評価 (2008) (PSU報告書、35頁で再掲された) 59 シンガポール APEC 2009 IAP(PSU報告書、35頁で再掲された) 60 WTO事務局 (2009年) 、貿易政策検討-事務局による報告-シンガポール、WT/TPR/S/202/Rev.1、2009年9gつ26

日、 p.x.(PSU報告書、35頁で再掲された) 61 チャイニーズ・タイペイAPEC IAP相互評価 (2007) (PSU報告書、35頁で再掲された) 62 チャイニーズ・タイペイ APEC 2009 IAP(PSU報告書、35頁で再掲された)

Page 43: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

42

上記の目標を踏まえ、2010年エコノミーは、サービス貿易に関する市場アクセス及び

内国民待遇を段階的に拡大した。

囲み3.2: サービス貿易に関する一般協定(GATS、1994年)における約束

世界銀行の「世界貿易指標2009」データベースによると、2010年エコノミーの市場ア

クセス及び内国民待遇に関するGATS約束指標の平均は、それぞれ 36.37 と 40.44で、

世界平均のそれぞれ 24.08と26.76を上回っている。

表:市場アクセス及び内国民待遇に関するGATS約束指標の平均

GATS約束指標

- 市場参入 -

GATS約束指標

- 内国民待遇 -

APEC5の平均 55.44 55.07

APEC8の平均 22.74 30.00

2010年エコノミーの平均 36.37 40.44

世界平均* 24.08 26.76

*この「世界」は、WTOメンバー、オブザーバー及びその他のエコノミーで構成される211のエコノミーを意味する。

注記:1つのエコノミーについては、データは利用できない。

出典:世界銀行 (http://info.worldbank.org/etools/wti/3a.asp)

ウルグアイ・ラウンド終結後におけるAPEC エコノミーの進展状況を評価することは、

容易なことではない。ドーハ・ラウンドは、まだ終結していない。ほとんどのAPECエ

コノミーは、サービス貿易に関する約束についての現在のオファーをまだ、公表してい

ない。したがって、それぞれのエコノミーの現行の約束と、現行の約束を深化させる意

欲とを比較することは困難である。

しかし、現在のWTOドーハ・ラウンド交渉においてAPECエコノミーが提示している、

秘密指定が解かれた改訂オファー63、最新のFTAの中でエコノミーが行った約束、及び

エコノミーが一方的に行ったサービスに関する国内改革を検討することにより、APEC

エコノミーがサービス貿易をどの程度自由化する意向があるのかを知ることができる。

(i) WTOにおける約束64

GATSにおける約束ではサービス部門の実際の自由化・開放を必ずしも実態に即して反

映していないが、約束表(1994年)は、各エコノミーのサービス貿易自由化の出発点を

63 改訂オファーは2005年に公表された。 64 この項の説明及び情報は、主にPSU報告書の39-44頁から得たものである。

Page 44: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

43

示している。APECエコノミーによるサービスに関する約束には大きな差異が見られる。

図 3.9 GATS約束指標(1994年の約束表)

出典:PSU報告書(原典:APECエコノミーのWTOコミットメント・スケジュールに基づくPSUの計算)に

基づいて編集。

技術的な注記:計算は、ヘックマン(1995年)、「暫定的な第一歩:ウルグアイラウンド・サービス協定の

評価」(世界銀行政策研究報告書、WPS 1455)の中で報告されている手法を使用して行った。エコノミー

がWTOに約束したそれぞれの項目に対しては、固有の拘束力を反映させてスコアを付与する。全面的約束

(制限なし、つまり「なし」と申告した場合)には、スコアを1とする。約束を行わない(制限を適用する、

つまり「取り決めなし」と申告した場合)には、スコアを0とする。これらの中間の場合には、スコアを0.5

とする。各エコノミーの合計点は、総合点の1,240に対する合計点の比率として表示されている。ロシアに関

するデータは入手不能であった。チャイニーズ・タイペイに関しては、約束表は2002年に作成された。ベト

ナムに関しては、同スケジュールは2007年に作成された。

1994 年のデータは、、サービス自由化に関して APEC 全体のエコノミーと比較して

APEC5エコノミーがより多くの約束を行ったことを示している。

Page 45: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

44

表 3.1 分野別のGATS約束に関する指標(1994年の約束表)

% APEC5 APEC8

2010 年

エコノミー APEC

1. ビジネスサービス 46.0 24.4 32.7 26.3

2. 通信サービス 35.5 23.5 28.1 24.1

3. 建設・関連エンジニアリングサービス 59.5 30.6 41.7 34.6

4. 流通サービス 46.5 13.6 26.3 19.4

5. 教育サービス 22.3 7.3 13.1 11.4

6. 環境サービス 47.8 13.9 26.9 22.2

7. 金融サービス 51.1 29.0 37.5 36.3

8. 健康関連・社会事業サービス 9.4 8.2 8.7 7.3

9. 旅行関連サービス 58.8 33.4 43.1 37.3

10. 娯楽・文化・スポーツサービス 28.8 7.0 15.4 11.3

11.運送サービス 19.8 6.0 11.3 11.1

出典:PSU報告書(原典:APECエコノミーのWTO約束表に基づくPSUの計算)に基づいて編集。

技術的な注記:計算は、ヘックマン(1995年)、「暫定的な第一歩:ウルグアイラウンド・サービス協定の

評価」(世界銀行政策研究報告書、WPS 1455)の中で報告されている手法を使用して行った。エコノミー

がWTOに約束したそれぞれの項目に対しては、固有の拘束力を反映させてスコアを付与する。全面的約束

(制限なし、つまり「なし」と申告した場合)には、スコアを1とする。約束を行わない(制限を適用する、

つまり「取り決めなし」と申告した場合)には、スコアを0とする。これらの中間の場合には、スコアを0.5

とする。各エコノミーの合計点は、総合点の1,240に対する合計点の比率として表示されている。ロシアに関

するデータは入手不能であった。チャイニーズ・タイペイに関しては、約束表は2002年に作成された。ベト

ナムに関しては、同スケジュールは2007年に作成された。

部門別分析によると、健康に関連するサービス及び社会事業サービス分野がAPECの内

部で最も約束の数が尐なかった分野で、WTO に加盟している 20 のAPEC エコノミー

の内のわずか6エコノミーがこの分野で部分的な約束を行っているに過ぎない。観光サ

ービス及び旅行に関連するサービス(37%)、金融サービス分野(36%)、及び、建設サ

ービス及び関連のエンジニアリング・サービス(35%)は、APECエコノミーの中で最

も約束の数が多い部門である。約束の平均数が最も低いのは、健康に関連するサービス

及び社会事業サービス(7%)、娯楽、文化及びスポーツのサービス(11%)、及び、運送

サービス(11%)となっている。

Page 46: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

45

基準となる1994年の約束表と比較すると、2005年の改訂オファーは、メンバー・エコ

ノミーが現在のドーハ・ラウンド交渉において市場の開放性を高めることに意欲的であ

ることを示している。約束表の指標と改訂オファーの指標との差異は、メンバー・エコ

ノミーによるサービス貿易の自由化の進捗度の代用品として考えることができる。しか

し、改訂オファーは、WTO メンバーのドーハ・ラウンドにおける最終的な態度を示す

ものではなく、また、サービスに関する措置としてメンバーが実際に実行しているもの

を示すものでもないことを明らかにしておくことが重要である。改訂オファーは、WTO

メンバーが、公表時のドーハ・ラウンド多角的交渉の状況を考慮してオファーする意思

がある約束の水準に関する参考である。

図 3.10 GATS 約束指標の比較

9.4%

11.6%

0

10

20

30

40

50

APEC5 APEC

(改訂オファーを公表しているエコノミー)

1994 年約束スケジュール 2005 年改訂オファー

%

注記:1994年約束表と2005年改訂オファーのそれぞれの自由化レベルの差異は、2005年改訂オファーの柱の

上部に示したとおりである。この指標は、2010年エコノミーの内、2005年改訂オファーを提示した8エコノ

ミー(オーストラリア、カナダ、チリ、日本、韓国、ニュージーランド、ペルー及び米国)のみに関するも

のである。

出典:PSU報告書(WTOの1994年約束表及びAPECエコノミーの2005年改訂オファーに基づいてPSUが計算

したもの)に基づいて編集。

これらのエコノミーは、平均で約10%の追加的自由化を行うことをオファーした。特に、

ペルー、日本及び韓国は、サービスに関する約束を、それぞれ23%、14%及び13%改善

した。オファーを行うことは、及び自由化するサービスセクター・提供のモードの範囲

を広げたり、自由化度を高めたりする意思があることを示すものである。

Page 47: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

46

APEC5エコノミーでは、米国のGATS約束指標が最高レベルにあり、改訂オファーも

最高レベルにある。米国の 2007 年個別行動計画(IAP)調査報告によると、ドーハ・

ラウンドにおける最新のオファーは、電気通信、実務サービス、高等教育、運送及びエ

ネルギー・サービスに関して、GATSの約束を改善している。65

2005年改訂オファーを開示したエコノミーに関して分野別に見ると、増加率が高いのは、

通信サービス、実務サービス及び環境サービスとなっている(図3.11)。

図 3.11 GATS約束指標:分野別比較(1994年約束表と2005年改訂オファー)

11.5%

21.8%

7.3%

7.8%

12.0%

13.4%

0.6%

nil

2.5%

2.0%

4.8%

0 20 40 60 80

ビジネスサービス

通信サービス

建設・関連エンジニアリングサービス

流通サービス

教育サービス

環境サービス

金融サービス

健康関連・社会事業サービス

旅行関連サービス

娯楽・文化・スポーツサービス

運送サービス

APEC5 (%)1994年

2005年

17.3%

21.1%

6.7%

8.6%

11.6%

9.4%

3.8%

nil

3.9%

2.0%

6.3%

0 20 40 60

APEC

(改訂オファー公表エコノミー)

注記:1994年約束表と2005年改訂オファーのそれぞれの自由化レベルの差異は、2005年改訂オファーの柱の

上部に示したとおりである。

この指標は、2005年改訂オファーを提示したAPEC先進エコノミーとAPEC自発エコノミー(オーストラリ

ア、カナダ、チリ、日本、韓国、ニュージーランド、ペルー及び米国)のみに関するものである。

出典: WTOの1994年約束表及びAPECエコノミーの2005年改訂オファーに基づいてPSUが計算したものに

基づいて編集。

65 米国、APEC IAP 相互評価(2008年)。

Page 48: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

47

サービス提供のモード別で、現行の1994年約束表と現在の交渉での改善を比較すると、

オーストラリア及びペルーは第 1 モードに関して最も高く(16%)、日本、韓国及びペ

ルーは第 2 モードに関して最も高く(18%)、さらに、日本は APEC5 の中で第 3 モー

ドに関して最も高い(19%)。ペルーは、APEC8 の中では突出している(31%)。第 4

モードに関しては、APEC5 のすべてが、他のモードに比べて保守的な態度を示してい

る。しかし、現行のスケジュールと比較すると、改善されたオファーになっている。

図 3.12 GATS 約束指標:サービス提供モード別比較(1994年約束表と2005年改訂オファー)

注記:1994年約束表と2005年改訂オファーのそれぞれの自由化レベルの差異は、2005年改訂オファーの柱の

右側に示したとおりである。この指標は、2005年改訂オファーを提示したAPEC先進エコノミーとAPEC自

発エコノミー(オーストラリア、カナダ、チリ、日本、韓国、ニュージーランド、ペルー及び米国)のみに

関するものである。

出典:PSU報告書(WTOの1994年約束表及びAPECエコノミーの2005年改訂オファーに基づいてPSUが計算

したもの)に基づいて編集。

しかし、GATSの約束範囲は、サービス貿易の実際の自由化レベルを必ずしも反映した

ものではないということに留意することが重要である。総じて、多くのAPECエコノミ

ーにおけるサービス貿易の自由化の程度は、GATSの約束を上回る傾向がある。

Page 49: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

48

(ii) RTA・FTA66

APECエコノミーは地域または二国間のサービス貿易の開放度を引き上げるため、RTA

またはFTAを活用する頻度を高めているので、WTOでのサービスに関する約束は、自

由化の程度が控えめになっている。RTA・FTA で合意された約束は、WTO の GATS

における約束よりハイレベルなものになる傾向がある。近年、この2つの事実を明らか

にした多くの調査が公表されている。これらの調査結果の一部を以下に示す。

世界銀行(2008年)は次のように指摘した。すなわち、報告を行ったエコノミーの中で

は、韓国、日本及びシンガポールが、サービスに関する開放性を高めるために RTA・

FTAを活用する頻度が高かったということである。シンガポールは、12件のFTAの中

で、サブセクターとモードの86%において改善または新たな約束を行っている。同様に、

韓国と日本も、それぞれ、サブセクターとモードの76%と71%において改善または新た

な約束を行っている。67

さらに、WTOのロイ、マーケッティ及びリム(2006年)は、その論文の中で、特に以

下に示した主要APECエコノミーがRTA・FTAの中で行った新たな約束及び改善した

約束の種類を明らかにした。

オーストラリア:RTA・FTA の中で、GATS において行ったものを超える拘束

力のある約束は、(たとえば)次の分野に関するものである。法律サービスの改

善、小売サービスの改善(調剤に関する制限の撤廃)、観光サービスの改善(旅

行業や添乗サービスに関する拠点設置要求の除去)、及び、金融サービスの改善

(生命保険会社による支店の設置を認めることなど)を行うことに関する約束、

クーリエ及び音響・映像サービスに関する新たな約束、ならびに、鉄道運送サー

ビスに関する改善及び新たな約束。GATS を超えるこれらの改善のいくつかは、

オーストラリアの米国とのFTAには明記されているが、他のFTAにはない。

チリ:総じて、RTA・FTA におけるチリの約束は、自由職業サービス、クーリ

エサービス、電気通信、建設サービス、金融サービス、海運サービス、及び、全

ての形態の運送の補助的なサービスなどの分野に関しては、GATSにおける約束

を上回っている。一部の自由職業サービス及び実務サービス(特に第1モードに

関するもの)に関しては、FTAにおけるチリの約束は、WTOに提出したオファ

66 特に断りがない限り、この項の説明と情報はPSU報告書の44-50頁から得たものである。 67 世界銀行(2008年)、「東アジアのサービスに関する特恵貿易協定:自由化の内容とWTO規則」、ワールド・トレード・

レビュー、7:4、641~673頁。(PSU報告書に再掲された)。

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49

ーの中で行った約束を上回っている。米国とのFTAの中でチリが行った約束は、

他の FTA での約束を上回っている。たとえば、電気通信では国内市場への参入

を承認し、金融サービスでは越境取引で供給されるより多くのサービスの自由化

を承認し、かつ、米保険会社に支店を設立することを認めている。

日本:FTAにおける約束は、運送サービス、実務サービス及び流通サービス(対

象商品の拡大)に関しては、GATSにおける約束を上回っている。メキシコ及び

マレーシアとのFTAでは、日本は、シンガポールとの間で締結したFTAに比べ

て、サービスに関してより多くの約束を行っている。日本がシンガポールとの間

で FTA を締結したのが 2002 年であるのに対し、日本がメキシコ及びマレーシ

アとFTA を締結したのがそれぞれ2004 年と2005 年であることを考慮すると、

前記事実は、日本がサービス市場を開放する意欲を高めたことを示すものと解釈

することができる。

ペルー:米国との FTA の中で、ペルーは、第 1 モードを完全に開放すること

(GATSでは約束していない)を約束し、手工芸品を除き、問屋サービスに関し

て新たな約束を行っている。さらに、ペルーは、教育(教育に関するすべてのサ

ブセクターを含む)に関して、GATSを超える約束を行った。68

米国:FTA における約束は、多くのセクターでGATS 上の約束やオファーを上

回っている。金融サービス部門では、保険仲介の第1モード及びポートフォリオ

の運用サービスに関する新たな約束が行われている。GATSを超える他の約束と

しては、船舶の保守及び修理及び特定の港湾関連活動に関する新たな約束、並び

に、航空・道路・鉄道・運送の補助的なサービスに関する約束の改善などがある。

また、米国の FTA では、研究及び開発のサービスに関する新たな約束なども含

まれている。

米州開発銀行(IADB)も、エステバデオルディール、シアラー及びスオミネン(2008

年)による調査結果69 を公表した。この調査は、様々なRTA・FTA を通じて、南北ア

メリカ大陸のサービス貿易の自由化を分析した。同調査は、アメリカ大陸に関する

RTA・FTA の 60%以上が第 1 モード及び第 2 モードに基づく多くの規定を含んでいる

ことを指摘した。NAFTA(カナダ、メキシコ及び米国)のサービス章、ならびに、米

国とオーストラリア・チリ・ペルー・シンガポールとの FTA は、包括的な内容になっ

68 教育サービスに関するこれらの約束については、留保を行うことができる。この留保により、学校教育に関して、現行

の制約を維持するか、または、新たな制約を課すことができる。 69 エステバデオルディール、シアラースオミネン(2008年)、36-40頁。

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50

ている。70 米国に関連するFTAでは、投資章で、他のRTA・FTAより広範な規律が定

められている。

ヘイドン及びウールコック(2009年)71 によるいくつかのRTA・FTAに関する比較分

析によると、日本の協定は、多くのサブセクターとモードにおいてGATS上の約束を超

えているが、RTA・FTA における追加的自由化の程度はそれほど大きなものではない。

その一因は、日本がGATSにおいてすでに広範な約束を行っていることにある。さらに、

この調査は、RTA・FTA の日本の約束が GATS を超えているいくつかの事例に言及し

ている。たとえば、シンガポールとの協定は、GATSの電気通信に関する附属書の内容

を超える規定を有している。同様に、日本のタイとの協定は、GATSにおいては具体的

な約束が行われていないセクターに関する規定を含んでいる.

ヘイドン及びウールコック(2009 年)72 によると、シンガポールの協定は、サービス

部門の約束はGATSを超えており、かつ、投資に関しては包括的規定を定めている。同

調査は、韓国及びオーストラリアとのFTA が多くの面でGATS を超えていると指摘し

ている。たとえば、これら両国との FTA は、電気通信と金融サービスにおいて GATS

を超えている。さらに、韓国との協定では、海上運送の更なる自由化約束やプロフェッ

ショナルスタンダードの策定が含まれている。73

APECエコノミーではRTA・FTAを通じてサービス自由化が進展していることが、WTO

事務局による行ったいくつかの「貿易政策検討」の中で報告されている。その調査結果

の一部は次のとおりである。

オーストラリア74:「オーストラリア・ニュージーランド経済緊密化協定」

(ANZCERTA)によるサービス貿易の自由化。ANZCERTAに基づき、オース

トラリアは、航空輸送サービス、沿岸海運、放送・テレビ、第三者保険及び特定

の郵便業務に関する限り、留保を行っている。また、オーストラリアは、米国と

の協定の改訂オファーの中で、特に金融サービス、法律サービス、旅行代理店及

び添乗サービスに関して、GATSを超える約束を行っている。

70 米国の国際貿易委員会は、米国が、オーストラリア、チリ、ペルー及びシンガポールとの間で締結したFTAの部門別

の効果を分析するため、いくつかの報告書を作成した。これらの報告書は、これらの協定の潜在的便益を指摘した。その

便益の1つは、いくつかの約束がGATにおける約束を上回っていることにある。

(次を参照 http://www.usitc.gov/research_and_analysis/commission_publications_yearly.htm) 71 ヘルドン及びウールコック(2009年)、100-104頁。 72 前掲。 73 前掲。 74 WTO 事務局 (2007年)、貿易政策検討‐事務局報告‐オーストラリア-改訂、WT/TPR/S/178/Rev.1、2007年5月1

日、91~92頁。

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オーストラリア・タイ FTA は、特に電子商取引及びビジネス関係者の一時的入国に関

して、オーストラリアがGATSを超えるいくつかの約束を行っていることを示している。

チリ75:チリのほとんどの RTA・FTA は、サービス貿易に関する規定を含んで

いる。これらの規定は、電気通信、専門的サービス及びビジネス関係者の一時的

入国などの重要分野を対象としている。

中国香港76:中国との間での経済緊密化協定(CEPA)は、27のサービス部門77(サ

ービス部門の数は、2009 年には4278 に増加した他、2011 年には4479に増加す

ることが見込まれている)を対象とした自由化措置を定めている。この協定は互

恵的なものである。したがって、中国香港は、中国が自由化措置を実施している

分野においては、中国のサービス及びサービス供給者に対しては新たな差別的措

置は課さないことを約束した。上記は、対象となるセクターの数及び自由化の程

度の両面において、GATSにおける中国香港の約束を超えている。

韓国80:韓国の RTA・FTA はすべて、GATS を超えるサービスの約束を行って

いる。ASEAN、チリ及びシンガポールとの RTA・FTA は、すでに発効してい

る。ASEANとの協定では、海外のサービス提供者に開放されるセクター及びサ

ブセクターの数が増加した他、特定のセクター及びサブセクターにおける市場参

入と内国民待遇に関する制限が緩和された。シンガポールとの協定では、対象外

となるセクターの例外や現地拠点設置要求及びの禁止に対する例外はほとんど

ない。

マレーシア81:日本との FTA には、サービス貿易に関して、GATS を超える約

75 WTO 事務局 (2009年)、貿易政策検討‐事務局報告‐チリ-改訂、WT/TPR/S/220/Rev.1、2009年11月5日、108

頁。 76 WTO 事務局 (2007年)、貿易政策検討‐事務局報告‐中国香港-改訂、WT/TPR/S/173/Rev.1、2007年3月13日、

80頁。 77 CEPAには次のサービス部門が含まれている:会計、広告、航空輸送、視聴覚、金融、会議/展示会、文化、流通、

貨物輸送、個人商店、情報技術、保険、職業仲介、職業紹介代理業、法務、物流、経営コンサルタント、医療/歯科、弁

理士、専門資格の試験、不動産/建設、証券/先物、貯蔵/倉庫、電気通信、観光、商標代理業、及び、運輸(貨物/乗

客の路上輸送及び海上輸送を含む)。 78 追加された15のサービス部門は次のとおり:ビル清掃、コンピューター/関連サービス、環境サービス、市場調査、

写真撮影サービス、印刷、公益サービス、鉄道輸送、科学/技術コンサルティング・サービス、研究開発、鉱業関連サー

ビス、経営コンサルタント関連サービス、社会サービス、スポーツ、及び、翻訳/通訳。 79 2つの新たなサービス部門は、特殊デザイン、及び、技術テスト/分析/製品テストである。 80 WTO 事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐韓国-改訂、WT/TPR/S/204/Rev.1、2008年12月4日、26~

28日。 81 WTO事務局 (2010年)、貿易政策検討‐事務局報告‐マレーシア-改訂、WT/TPR/S/225/Rev.1、2010年2月15日、

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束が含まれている。同協定には4種類のモードが含まれており、これらは、通信

サービス、金融サービス観光サービス及び旅行に関連するサービス、コンピュー

ター関連サービス、建設サービス及び関連のエンジニアリング・サービス、教育

サービス、病院サービス、その他の実務サービス、及び自由職業サービスなどの

分野を網羅している。

メキシコ82:メキシコが締結した優遇協定は、GATSにおける約束に比べて自由

化の程度が高まっている。対象範囲は、実質上ほぼすべてに及んでいる。金融サ

ービス、健康サービス及び自由職業サービスの一部の活動に関しては、外国企業

による参入が柔軟に取り扱われている。

ニュージーランド83:ニュージーランドは、RTA・FTA交渉においては、サービ

ス貿易の自由化と国内規則に関する規律に関して、現行の GATS における約束

を超える約束を行っている。環太平洋戦略的経済連携協定(TransPac)では、

GATSより包括的な約束が行われている。同様に、シンガポールとの二国間協定

は、実務サービス、通信サービス、流通サービス、金融サービス、健康に関連す

るサービス及び社会事業サービス、観光サービス及び旅行に関連するサービス及

び運送サービスを含め、対象範囲が拡大している。

ニュージーランドと中国との間での FTA にも、教育サービス、環境サービス、コンピ

ューター関連サービス(コンピューターを含むオフィス用機械機器の保守・修理、及び

その他のコンピューター・サービス)、写真及び撮影・複写サービス、及び建設サービス

(建設サービスに関連するコンサルタント・サービス)などの部門を対象として、GATS

における約束を超える多くの了解事項が含まれている。

ペルー:チリとの FTA には、サービスの越境取引、ビジネス関係者の一時的入

国、投資、及び学位の相互承認に関する交渉の将来の約束に関する規定が含まれ

ている。米国との FTA には、投資、サービスの越境取引、金融サービス、電気

通信及び電子商取引に関する規定が含まれている。84シンガポールとの FTA で

は、投資、越境貿易、ビジネス関係者の一時的入国,電子商取引が範囲に含まれ

19頁。 82 WTO事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐メキシコ-改訂、WT/TPR/S/195/Rev.1、2010年5月2日、x

頁。 83 WTO事務局 (2009年)、貿易政策検討‐事務局報告‐ニュージーランド-改訂、WT/TPR/S/216/Rev.1、2009年7月

10日、24~30頁、84頁。 84 WTO事務局 (2009年)、貿易政策検討‐事務局報告‐ペルー-改訂、WT/TPR/S/189/Rev.1、2007年12月17日、21-22

頁。

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ている。カナダとの FTA では、投資、ビジネス関係者の一時的入国、電子商取

引、競争政策、独占及び国営企業、越境取引、電気通信、金融サービスが含まれ

ている。中国との FTA では、投資、ビジネス関係者の一時的入国、越境貿易が

含まれている。

シンガポール:二国間FTA において、金融サービス、実務サービス、自由職業

サービス、電気通信サービス、教育サービス及び運送サービスを対象としてシン

ガポールが行った約束は、GATSにおける約束を超えている。このさらなる自由

化約束の良い例は、ニュージーランド、日本、オーストラリア及び米国とのFTA

である。85

公式ウェブサイトの情報も、包括的にサービスセクターを含んだ RTA・FTA のメリッ

トを報告している。たとえば、ニュージーランド外務貿易省は、ANZCERTAにおいて

留保を行っているのは2つの部門のみ(航空輸送サービス及び沿岸海運)であると述べ

ている。さらに、同省は、一方の締約国・地域においてある業務を行うことが登録され

た人物は、他方の締約国・地域においても同一の業務を実施することができる(ただし、

医師は唯一の例外とする)としている。86

同様に、オーストラリアの外務貿易省は、米国との FTA におけるオーストラリアのサ

ービス提供者のいくつかのメリットを指摘している。同協定は、オーストラリアに対し、

たとえば、教育サービス、金融サービス及び自由職業サービスなどのセクターで WTO

を超える特権を享受することを認めている。87 さらに、同省は、チリとのFTAにおけ

るWTOを超えるメリットを指摘している。具体的には、このメリットを享受できるの

は、エンジニアリング、相談、フランチャイズ、教育・訓練、情報技術、観光及びイン

フラなどのセクターのオーストラリアのサービス提供者である。88

同様に、カナダの外務貿易省は、カナダとペルーの間での FTA に規定されているサー

ビス貿易のメリットを指摘している。この協定に基づき、カナダは、鉱業、エネルギー

及び自由職業サービス(エンジニアリング、建築、環境、流通、金融及び情報技術)な

どの関心のある主要なサービスセクターに関して、GATSにおけるペルーの約束を超え

る有利な市場アクセスを確保した。カナダとペルーは、FTAにおいて、銀行業務、保険

85 WTO事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐シンガポール-改訂、WT/TPR/S/202/Rev.1、2008年9月26

日、30頁、81~82頁。 86 次を参照。

http://www.mfat.govt.nz/Trade-and-Economic-Relations/0--Trade-archive/0--Trade-agreements/Australia/0-cer.php. 87 次を参照。 http://www.dfat.gov.au/trade/negotiations/us_fta/outcomes/05_services.html. 88 次を参照。 http://www.dfat.gov.au/geo/chile/fta/deal_at_a_glance.pdf.

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及び証券を含む金融サービスに関する包括的な規律についても合意した。FTAの金融サ

ービス章は、国際的金融サービス提供者とそれぞれの国に設立される金融機関の両者に

よる市場アクセスを承認する。89

また、中国香港は、最近、ニュージーランドとの間で「経済緊密化協定」(CEP 協定)

を締結した。この協定に基づき、中国香港とニュージーランドは、海上運送サービス、

物流関連サービス、映像音響サービス、様々な実務サービス、及びコンピューター関連

サービスを含む広範なサービスを対象として、広範な約束を行った。多くの約束は、

WTO における現行の約束のみならず、WTO における現行のサービス交渉におけるオ

ファーをも上回っている。90

米国では、米通商代表部が、最近発効した米国とペルーとの間の FTA のメリットを明

らかにしている。このFTAでは、ペルーは、WTOにおける約束を超える約束を行うこ

とに同意した他、現地人の雇用に関する措置、及び現地製品の購入を要求する措置など、

サービスと投資に関する大きな障壁を除去することに同意した。これらの及びペルーの

サービスと投資に関する制度の約束及び改善により、米国企業は、これだけに限定する

ものではないが、電気通信サービス、金融サービス、流通サービス、速配サービス、コ

ンピューター関連サービス、映像音響と娯楽サービス、エネルギー・サービス、運送サ

ービス、建設・エンジニアリング・サービス、観光、広告サービス、自由職業サービス、

及び環境サービスなどのすべてのセクターにおいて、協定に基づくメリットを最大限に

享受することができる。91

(iii) 国内措置及びその他の自由化措置92

多国間、地域及び二国間レベルでの貿易交渉で得られた了解事項に基づいてAPECエコ

ノミーが実施した措置の他、APECエコノミーは、一方的な国内改革を通じて、または、

特定の国際的なセクター別の合意を実施することを通じて、サービスの越境貿易の自由

化に向けて前進した。

一方的な国内改革に関しては、APECエコノミーは、かなり進展していることを報告し

た。APEC5の場合、総じて、開放度は従来からかなり高い水準にある。しかし、APEC

個別行動計画及び WTO 文書に示されているとおり、APEC5 エコノミーは、多くのセ

89 次を参照。http://www.international.gc.ca/trade-agreements-accords-commerciaux/assets/pdfs/fs-services-en.pdf 90 次を参照。http://www.tid.gov.hk/english/trade_relations/hknzcep/index.html.

91 http://www.ustr.gov/sites/default/files/uploads/factsheets/2007/asset_upload_file672_13066.pdf 92 この項の説明と情報はPSU報告書の50-53頁から得たものである。

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クターで改善の余地がある。一部の例を挙げると次のとおりである。

オーストラリアのサービス分野に対する市場アクセスは、比較的制約が尐ない。オース

トラリアは、電気通信の自由化及び競争の面で顕著な進展を見せた他、電気通信インフ

ラに関する投資の確実性の改善、テルストラ社の運営分離・民営化、及び及び、大規模

法人顧客に提供されるサービスに対する価格規制の撤廃などの新たな法律を成立させた。93 同様に、オーストラリアは、2009年下半期にビジネス・不動産投資制度を改革した。

これにより、外国人投資家に明確な進路が提供された。さらに、この改革により、一般

的に、オーストラリアの企業に対する投資は、2 億 3,100 万豪ドル(物価スライド式の

上限値)未満であれば制限を受けない。94

カナダでは、サービス分野の市場アクセスは比較的自由であったが、1998 年以降、さ

らに自由度が高まった。95 カナダの IAP相互評価(2008年)によると、サービス貿易

部門における市場アクセスの改善はGATSを通じて実現し、内国民待遇はNAFTAを通

じていくつかの動きがあり、かつ、自由職業サービス、実務サービス、観光サービス、

運送サービスの提供に影響を与える、州の差別的要求は削減された。カナダは、エネル

ギー・サービス部門におけるエンジニアリング・サービス、総合的エンジニアリング・

サービス、及び関連する科学及び技術的に関連する相談サービスに関する市民権要求を

撤廃した。

WTO 事務局によると、日本は、特にエネルギー、金融サービス及び航空輸送に関する

構造改革を継続した。さらに、日本は、競争を促進するためにガス部門の自由化を進展

させた。サービスセクターの自由化に関して最近進展したものは、音響・映像通信サー

ビスへの外国企業による参入の改善、ならびに、運送サービスとエネルギー・サービス

の部門における、サービス提供者の営業、免許及び資格に関する条件の改善である。96

ニュージーランドのサービス分野は、比較的自由で、競争的であり、参入障壁も低い。97 近年、エネルギー分野において重要な改革が行われている。1998 年電力産業改革法

が改訂され、送電事業者と供給事業者の間での相互参入を制限する規則が緩和された。

さらに、会計サービスに関しては、企業の法令順守費用を引き下げるため、外国人が25%

93 オーストラリアの個別行動計画 (IAP) 相互評価に関する報告書 (2007年)。 94 次を参照。

http://www.treasurer.gov.au/DisplayDocs.aspx?doc=pressreleases/2009/089.htm&pageID=003&min=wms&Year=20

09&DocType=0. 95 WTO 事務局 (2000年)、貿易政策検討‐事務局報告‐カナダ-改訂、WT/TPR/S/78、2010年11月15日、vii頁。 96 日本 APEC IAP相互評価 (2007年)。 97 WTO 事務局 (2009年)、貿易政策検討‐事務局報告‐ニュージーランド-改訂、WT/TPR/S/216/Rev.1、2009年7

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以上を保有する非大企業の申請条件を撤廃する変更が行われた。98

米国は、WTO事務局による報告書99 の中で報告されているとおり、分野ごとに固有の

配慮を行うこと、信用秩序維持を考慮をすること、及び国家安全保障を確保することを

条件として、従来から、外国からの投資に内国民待遇を付与する政策を維持している。

同報告書は、電気通信市場が外国企業に開放されて及びおり、厳しい競争が行われてい

るという事実を強調している。この分野では、設備投資に対する優遇措置を改善するた

め、分離に関する特定の条件の撤廃、及び国内の有料テレビ・サービス市場への新規企

業の参入促進などの措置が講じられてきた。100 州レベルでも、努力が行われている。

たとえば、自由職業サービスの分野では、バージニア州は、最近、外国法事務弁護士

(FLC)の承認に関する規則を採用した。その結果、FLC 規則を有する州の総数は 30

に増加した。101

APEC8 は、越境取引と投資を自由化するための国内措置の実施において、かなりの進

展を示した。サービス部門の自由化に対する障壁及び自由化の効果を評価するためのデ

ィヘル及びシェパード(2007年)102 による調査は、チリでは保険と固定電気通信サー

ビスにおいて、メキシコでは流通サービスにおいて、及びペルーでは保険、銀行業務及

び電気通信サービスにおいて、かなりの進展が見られることを示している。

APEC 個別行動計画においては、APEC8 は、越境取引と投資を自由化するための措置

に関する包括的リストを報告した。これらの措置は、WTO 事務局の貿易政策検討報告

書の中でも強調されている。これらの報告書に明記されているものの一部を以下に示す。

チリでは、国内外の電話サービスや携帯電話、及び付加価値ネットワークサービスを含

む電気通信サービスが、国内外のプロバイダーに完全に解放され、自由競争が行われて

いる。チリは、電気通信分野においては、外国企業の所有制限は行っていない。103.

中国香港は、自由なサービス貿易制度を実施している。FTAを適用することを条件とし

て、すべてのサービス及びサービス提供者に最恵国待遇が適用されている。一部のサー

ビスセクターにおいて維持されている居住要件を例外として、一般的に、外国のサービ

98 ニュージーランド、2007-2009 APEC IAP 更新版。 99 WTO 事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐カナダ-改訂、WT/TPR/S/200/Rev.1、2008年8月12日、vii

頁。 100 前掲、xi頁。 101 米国APEC IAP 2009. 102 ディヘルシェパード(2007年). 103 チリ APEC IAP 2009.

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ス提供者に対して内国民待遇が適用されている。市場は、段階的に規制が緩和され、自

由化されており、総じて競争が行われている。また、輸出入に関する障壁はほぼ存在し

ないが、適切な規制制度は存在している。中国香港のサービス貿易制度においては、数

量割当、外国人出資比率の上限等は存在しない。国内規則は、正当な政策目的または信

用秩序に関する理由から維持されているが、必要以上に制限的なものになってはいない。

中国香港は、外国からの投資を受け入れているが、国内と外国の投資家を差別すること

はしていない。中国香港の国際銀行の存在により、中国香港の中国の外資系銀行部門は

世界最大である(世界の100 大銀行の内の69 行が中国香港で設立された)。104 電気通

信サービス市場は、段階的に規制が緩和されている。固定回線を使用する電気通信サー

ビスは、2003年初めに完全に自由化された。無線電気通信サービスに関する市場アクセ

ス条件は大幅に緩和された。105

韓国は、GATSにおける約束を超えて、電気通信部門における外国人持株比率を一方的

に自由化した。銀行部門を海外直接投資に開放する措置により、競争が激化し、労働生

産性が向上した。106 教育サービスに関しては、韓国は、外国人によるサイバー大学の

設立または運営への参入を特定の事例においては柔軟に扱うことを決定した。107

WTO事務局によると、マレーシアは、2009年4月以降、サービス部門の自由化を一方

的に進めてきている。さらに、同国は、国内サービス提供者が外国のサービス提供者と

競争する準備ができている分野では、そのオファーを改善することを意図している。108

健康に関連するサービス及び社会事業サービス、観光、運送、実務サービス、及びコン

ピューター連サービスなどの 27 のサービスサブセクターに関しては、外国人出資比率

に関する制限が撤廃された。さらに、持分取得、合併及び買収に関する外国人投資ガイ

ドラインも廃止された。金融サービス(特にイスラム金融)、保険及び資本市場に関して

は、外国企業との競争の自由化が進展している。109

メキシコにおける国内法の市場アクセス規定及び優遇措置に関する協定は、GATSにお

ける約束を超えて自由化を認めている。110 メキシコのAPEC IAP 相互評価(2008年)

104 WTO事務局 (2007年)、貿易政策検討‐事務局報告‐中国香港-改訂、WT/TPR/S/173/Rev.1、2007年3月13日、

viii頁、80頁。 105 中国香港 APEC IAP 相互評価 (2007年)。 106 WTO事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐韓国-改訂、WT/TPR/S/204/Rev.1、2008年12月4日、xi頁。 107 韓国 APEC IAP 2009. 108 WTO事務局 (2010年)、貿易政策検討‐事務局報告‐マレーシア-改訂、WT/TPR/S/225/Rev.1、2010年2月15日、

17頁。 109 マレーシア APEC IAP相互評価 (2009年)。 110 WTO 事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐メキシコ-改訂、WT/TPR/S/195/Rev.1、2008年5月2日、x

頁。

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58

は、電気通信、放送、観光サービス及び旅行に関連するサービス、金融サービス及び天

然ガス・サービス―これらはすべて極めて機微なセクターである―に関して改善が行わ

れたことを指摘している。金融サービスでも改革が行われている。電気通信及び天然ガ

ス・サービスを対象とした更なる改善が、計画されている。メキシコ2009 IAPは、メ

キシコが中南米で初めて携帯電話番号の可搬性を認めたことを指摘している。この可搬

性により、サービス提供者の競争が公正に行われることになるので、この可搬性は電気

通信部門における競争と集中を促進する上で重要な要素になった。

ペルーは、総じて、銀行業務、保険及び個人年金基金に関して内国民待遇に係る制限を

課していない。111 電気通信部門では、2000年以降、自由化が進展した。同部門の規制

の枠組みは、新たな事業者による市場アクセスに対する障壁を緩和するために変更され

た。112

総じて、シンガポールは、開放的なFDI政策を維持しており、公益事業とサービスに関

しては開放度を強めている。たとえば、電力部門では、3 つの大手電力会社で再編と民

営化が開始された。ガス部門では規制緩和が継続され、シンガポール全体のネットワー

クを通じたガスの輸送について非差別的条件により認可されている。さらに、金融部門

と電気通信部門において、大幅な自由化が達成された。専門的サービスに関しては、シ

ンガポールは、特定の外国人専門家(特に弁護士)による市場アクセスを拡大した。郵

便サービス部門は2007年4月に自由化された。113

チャイニーズ・タイペイは、2008 年 7 月、サービス産業開発計画を承認した。同計画

の目的は、R&D と革新を促進し、規制改革を推進し、サービス輸出の競争力を高め、

かつ、人的資源の育成を強化するなどの措置により、国内サービス産業の全体的開発の

ための確固とした基盤を確立することであった。チャイニーズ・タイペイは、同計画の

実施を加速するため、2009 年 12 月サービス産業促進特別タスクフォースを設置した。

同タスクフォースは、サービス産業に対する投資と同産業の運営に対する障壁の除去を

調整し、サービス産業の発展を促進するような環境を構築し、かつ、前記計画及び関連

措置の実施状況を監視する任務が与えられている。チャイニーズ・タイペイは、国内の

構造改革を促進し、チャイニーズ・タイペイ以外の企業に対してより良い市場アクセス

を認めるための自由化措置を講じた。たとえば、電気通信部門の改革には、モバイル通

信サービスの自由化、衛星通信市場の開放、固定ネットワーク・サービス・第3世代移

111 Peru APEC IAP相互評価 (2008)年。 112 Ibid 113 WTO事務局 (2008年)、貿易政策検討‐事務局報告‐シンガポール-改訂、WT/TPR/S/202/Rev.1、2008年9月26

日、viii~x頁。

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59

動通信サービスに関する許認可条件の緩和、国内専用回線サービスの自由化などが含ま

れるている。これに関連して、国営の巨大通信事業者(Chunghwa Telecom)は 2005

年8月に民営化された。

特定部門の自由化は、セクター別の協定によっても実施することができる。航空運送サ

ービスはそのよい例である。グロッソ及びシェパード(2009年)は、多くの二国間協定

の中では、航空運送サービスに関する制限が残存しているが、APECエコノミーはこれ

らの制限の一部を緩和している、と指摘した。56 の航空サービス協定(ASA)は、貨

物に関するオープン・ルート・スケジュールを認めている。この数は、これに関するデ

ータが利用できる協定書全体の約20%を占めている。第3運輸権及び第4運輸権は、第

5 運輸権同様、一般的に認められている。ただし、第 5 運輸権に関しては、制限が課さ

れている事例が多い(106のASAで制限が課されているが、これは全体の50%強)。25

の二国間ASAは、貨物輸送に関して第7運輸権を認めている。114 また、貨物輸送に関

する運賃制限は、約 50 の二国間協定で撤廃されている。グランドハンドリングサービ

スの提供における国内での競争の導入(ASAの60%強)、及びセルフハンドリング(73

の協定で認められている)についても、大きな進展が見られた。

APEC5 の開放度はすでに高い水準にあり、既述のものを始めとする様々な努力が行わ

れているが、依然として、サービスセクターには制約が課されている。WTO 事務局に

よる報告書である「WTO 貿易政策検討(TPR)」の中の注記によると、2010 年エコノ

ミーが何らかの制約を課しているのは、これだけに限定するものではないが、金融サー

ビス、電気通信サービス、運送サービス(海上・航空運送を含む)、及び音響映像サービ

ス(ラジオ・テレビ放送)などである。また、APEC 全体でも、かつ、2010 年エコノ

ミーの間でも、4種類のサービスモードの内、モード4が最も自由化の程度が低い。115

APEC5の場合、約束表(1994年)と2005年改訂オファーとの間での自由化レベルの

格差は、4つのモードの内、モード4が最も小さい。116

サービス部門の自由化に関する定量分析を可能にするデータは限定されており、また、

一部の分野では制限が残存している可能性がある。しかしながら、APECエコノミーは、

サービス貿易の自由化において大きく前進した。GATSにおける約束、RTA・FTAの締

結、及び一方的に行われるその他の国内措置を通じてサービス貿易の自由化が進展して

いることは、APECエコノミーがボゴール目標の実現に向かって前進していることを示

114 グロッソ及びシェパード(2009年)、APECにおける航空貨物サービスの自由化、研究成果報告、パリ政治学院世界

経済グループ(GEM) 115 すべての航空運輸権の説明に関しては、次を参照。http://www.icao.int/icao/en/trivia/freedoms_air.htm 116 PSU報告書、41頁。

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60

すものである。

(4) 投資

貧困の削減と福祉の向上に必要な経済成長を実現するためには投資が重要であることに

ついては、国際的に合意が成立している。国際資本の移動は、資本の移動元のエコノミ

ーと移動先のエコノミーの経済成長に貢献する。その理由は、資本移動は、移動先エコ

ノミーの投資につながることのほか、及び移動元エコノミーにおける資本の効率性最大

化に貢献するからである。FDIは、移動先のエコノミーにおいて、高度生産技術の利用

と普及を通じて技術進歩の手段となりうる。APECは、投資制度の改善とさらなる自由

化を最終目標とする「APEC 非拘束投資原則」を1994 年に採択することによって、こ

の点に貢献してきた。117

OAAに基づき、APECエコノミーは、MFN及びと内国民待遇の段階的付与及び透明性

の確保を通じて、それぞれの投資制度の自由化に関する約束を証明してきた。さらに、

APEC エコノミーは、特に投資機会に関する情報交換などの技術支援・協力を通じて、

投資を促進してきた。

2010年エコノミーは、一部のエコノミーが海外企業の投資計画に課していた事前審査・

承認条件を緩和するなどの積極的政策措置を講じることによって投資環境の自由化を続

けてきた。2010年エコノミーの内、6エコノミーは、その投資制度が「APEC非拘束投

資原則」を全面的に遵守しており、その他のエコノミーは、その投資制度が「APEC非

拘束投資原則」を「ほぼ」遵守していると報告している。さらに、2010年エコノミーの

大半は、FDIに関する相殺条件または資本移転制限などの制限的措置を最早実施してい

ない。また、かかる措置が残存している場合でも、その適用範囲は極めて限定されてい

る。さらに、その中で 2010 年エコノミーが外国からの投資に対してMFN 待遇及び内

国民待遇を保証している二国間投資協定(BIT)または RTA・FTA の数は、APEC エ

コノミー間とAPECエコノミー以外の国とのものを合わせて、1996年の160から、2009

年には340に増加した。

投資に関する多国間協定が存在しないため、二国間協定は国際ルールを制定する上で中

心的役割を果たしている。しかし、これらの二国間協定は、当事国・地域に対し、第三

国・地域との間で締結した FTA に基づく約束の適用を免除している。したがって、高

度な約束と同等のものが自動的に適用されることはない。さらに、MFN 待遇からは、

国・地域と投資家との間の紛争解決に関する規定が免除されることが多い。

117 PSU報告書、44頁。

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投資政策措置に関するUNCTAD のデータベースによると、2010 エコノミーは、1996

年から2008 年にかけて、計242 の投資関連措置を実施した。この内、224 の措置(全

体の93%)は、投資環境を外国投資家に有利にするものであった。外国投資家に有利な

措置をもっとも多く行った国は、韓国(34件)であり、マレーシア(31件)、チャイニ

ーズ・タイペイ(25件)、シンガポール(24件)、オーストラリア(21件)、カナダ(20

件)及び日本(18件)が続いている。2006年から2008年にかけては、計32の措置が

実施された。この内、24件(全体の75%)は外国投資家に有利なものであった。118

たとえば、ボゴール目標採択後では次のとおりである。オーストラリアは、発行部数の

多い民族系新聞及び放送事業(テレビ事業を含む)に関しては、非居住者による直接投

資を保留するリストを撤廃した。カナダは、カナダ投資法に基づく審査条件に関して、

及び電気通信・エネルギー分野に関しては、非居住者による直接投資を保留するリスト

を縮小した。日本は、日本法に基づいて設立された銀行または証券会社が、銀行業また

は証券業ならびに真珠養殖業に従事する企業に投資することに関しては、居住者による

海外直接投資を保留するリストを撤廃した。ニュージーランドと米国は、非居住者によ

る直接投資を保留するリストは全く撤廃しなかった。119 その理由は、この両国の場合

には、すでに 1990 年半ばまでに数多くの自由化措置が取られており、残存している制

限の数が極めて尐ないためである。120

APEC8 に関しては次のとおりである。チリは、外国投資家に対し、その利益の 100%

まで(従来は65%に制限121)再投資することを認めている他、その利益を生み出した企

業とは異なる起業にその利益を再投資することも認めている。中国香港は、すべての

WTO メンバーに MFN 措置を適用している。また、その投資制度は、対内投資・対外

投資にも制約を課しておらず、外貨も統制しておらず、企業の所有または特定部門にお

ける所有に対しても制約を課していない。韓国は、2000年から2001年にかけて、漁業

(沿岸・近海)、牧畜、牛肉の卸売及び通信社に対する部門別FDI 制限を部分的に解除

し、2006年には、劇場用アニメ市場を全面的に開放した。マレーシアは、2009年4月、

保健、社会サービス、観光、対事業所サービス及びコンピュータ-関連サービスなどの

サービス部門に関する自由化措置を拡大することを決定した。さらに、いくつかの金融

サービスに関しても、外国投資に関する制限を緩和した。1993 年に制定されたメキシ

118 PSU 報告書、65頁。 119 UNCTAD 「APECの9エコノミーによるFDIの自由化・円滑化に関する評価」 (2010年6月) (以後「UNCTAD報告書」。

UNCTAD 報告書の作成時期により、評価対象国は次のようになっている:オーストラリア、カナダ、チリ、中国香港、

日本、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及び米国。

120 OECD 報告書、 付属書及びP52 121 政令600の対象となる投資家に限られる。

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コの外国投資法(FIL)は、同法に具体的に言及されていないすべての活動は完全に規

制緩和し、ほとんどの経済部門に対する外国投資は 100%まで認めるとの一般的規則を

定めた(第 4 条)。FIL は、1995 年、1996 年、1998 年、1999 年、2001 年、2006 年

及び 2008 年に改訂され、投資制度が自由化され、外国投資家にとっての確実性と透明

性が高まった。ペルーでは、1990 年代において、鉱業部門、発電・配電部門及び電気

通信部門を対象として大規模な民営化が行われ、その後、外国投資を引き付けるための

計画が実施された。ペルー政府は、2004年7月、テレビ・ラジオ法によって、テレビ・

ラジオ事業者に対する外国投資を認めた。シンガポールとチャイニーズ・タイペイも、

外国人持株比率に関する制限を撤廃した。たとえば、シンガポールは、国内銀行と電気

通信部門に関する持株比率制限を撤廃した。チャイニーズ・タイペイは、証券・先物取

引を行う上場企業、航空貨物運送業者・ターミナル、発電所及び国内銀行に関する持株

比率制限を撤廃した。122

2010年エコノミーのこれらの措置は、地域の投資自由化に大きく貢献したと評価するこ

とができる。これは、国内の措置、政治の安定及び経済の成長とあいまって、域内のFDI

の流れの大幅な増加をもたらした。2010年エコノミーの大半は、外国からの投資に何ら

かの制限を課している分野を有しているが、その制限が適用される範囲は限定されてい

る。

OECD も、2010 年エコノミーによるボゴール目標達成度を評価する作業を行った。123

OECD は、その報告書の中で、2010 年エコノミーはすべて、その自由化の程度は異な

るものの、開放的投資制度を維持しているとの結論を出した。OECDの FDI規制制限

指数によると、2010年エコノミーのほとんどに関しては、FDI制限の程度は低い。OECD

は、2010年エコノミーのほとんどは、1980年代から1990年代にかけて、投資自由化に

向けて大きく貢献したこと、かつ、今日においても、そのほとんどが、対内直接投資に

は限定的な制限しか課していないということを指摘した。これまで、特に外国人持株比

率に関する制限の緩和、及び外国からの投資に関する審査条件の適用範囲の制限を通じ

て、更なる投資自由化が行われてきた。2010年エコノミーは、外国企業に支配されてい

る企業に内国民待遇を付与する点で進展を示した。2010年エコノミーのほとんどにおけ

る内国民待遇に関する例外は、総じて、特に鉱業、輸送、漁業、放送及び電気通信など

の部門に限定されている。2010年エコノミーのほとんどにおいて投資自由化を進展させ

ている重要な原動力は、無差別や現状維持等の重要原則の実施を通じて、自由化を前進

させるとする強固なコミットメントであった。このため、これらエコノミーの政府は、

122 PSU報告書、56-59頁。 123 OECD報告書

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外国からの投資に対する制限の維持や、新たな制限の付加を行うことはなかった。2010

年エコノミーは、投資の透明性に関する原則を順守することを約束している。2010年エ

コノミーのほとんどは、投資に関する OECD の文書に基づき、法的に拘束力のある報

告条件を履行している。124

2010年エコノミーにおけるFDIの自由化・円滑化に関するUNCTADの評価報告書は、

エコノミーによる投資制度の自由化・円滑化に大きな進展が達成されたと結論づけてい

る。125

UNCTAD報告書は、2010年エコノミーが高いレベルの投資自由化を実現し、かつ、透

明で効果的な投資制度を確立したと述べている。しかし、すべての 2010 年エコノミー

は、その程度は異なるものの、禁止または資本の上限設定の形式による分野別の投資制

限を維持している。また、これらのエコノミーの一部は、分野別制限の他、FDIに関す

る一般的審査制度を維持している。126すべての2010年エコノミーは、(投資優遇措置及

びエコノミーの投資促進機関による業務を通じて)投資の促進・円滑化に積極的に取り

組んでいる。127

UNCTAD は、かかる進展は主として 2010 年エコノミー各国の努力によって達成され

たものであり、いくつかは国内投資制度に関する政策の大幅な変更を求めるものであっ

たと指摘している。さらに、多くの国際投資協定(IIA)―特に、これらのエコノミー

が、長年にわたり、他のAPEC エコノミー及び非APEC エコノミーとの間で締結した

FTA・RTA―の中で行われた国際的約束は、地域内における開放的で、安定的で、予測

可能な投資環境を提供する各国の進展を支える助けとなった。自発的自由化と IIA主導

の自由化という2つの推進力に加えて、過去15年間において様々なレベルのAPECプ

ロセス(ABACを含む)を通じて生じた相互の圧力も、いっそう開放的な投資環境を追

求する動きの勢いを維持する上で一定の役割を果たした。128

APEC は、ボゴール目標の達成を推進するため、「APEC エコノミーの強化に向けた投

資自由化とビジネス円滑化のための選択肢に関するメニュー―IAPへの自主的な統合の

ために」(1999年)及び「投資の透明性に関する基準」(2003年)などの投資関連イニ

124 OECD 報告書、7頁。 125 UNCTAD報告書、4頁。 126 PSU報告書(83頁)は、2010年エコノミーから提出されたファクトシートは外国投資に対する何らかの制限が課さ

れていることを示しているとしている。しかし、これらは、重要であると見なされた戦略的関心事項にほぼ限定されてい

る。 127 UNCTAD 報告書、4頁。 128 UNCTAD報告書、4頁。

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シアチブを講じてきた。APECエコノミーの投資に関する規則及び手続きを紹介してい

る「APECエコノミーの投資制度に関する手引書」の出版は、各エコノミーの投資に関

する透明性を高めており、同手引書は定期的に改訂されてきた。同手引書のオンライン

版は、2010年に公表予定となっている。

APEC首脳は、2007年、シドニーにおいて、この分野におけるAPECの活動を強化す

るための投資円滑化行動計画(IFAP)の作成に合意し、IFAPは2008年に承認された。

囲み 3.3: IFAPの要約

IFAPの主な目標は次のとおりである。

地域の経済統合を強化する

APECエコノミーの競争力及び経済成長の持続可能性を強化する

APEC地域の繁栄及び雇用機会を拡大する

ボゴール目標の達成に向けてさらに進展を図る

IFAP は次の8つの原則から成り立っている。

投資関連政策の策定と運営に関する情報の利用可能性と透明性を促進する

投資環境の安定化、資産の保障及び投資保護を強化する

投資関連政策の予測可能性と一貫性を高める

投資手続きの効率性と有効性を高める

利害関係者との建設的関係を構築する

投資環境を改善するために新技術を利用する

投資政策を監視・検討するための仕組みを確立する

国際協力を促進する

APECエコノミーが優れた投資円滑化戦略を策定することを支援するため、IFAPは、8

つの投資円滑化原則それぞれに基づいた共同措置に関するメニューを含んでいる。129

IFAPの実施の進捗度を評価するため、APECは、PSUの支援を得て、複数の主要業績

評価指標(KPI)を設定し、業績を評価する手法を確立すべく取り組んでいる。

129 詳細については、APEC 2008/MRT/R/004を参照。

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(5) 貿易円滑化

貿易円滑化は、市場において、かつ、複数の市場の間で事業を展開する際の費用を削減

することを目的とする措置を含む。貿易円滑化は、国境を越える物品・サービスの円滑

な流れを阻害する行政手続に関する負担を、たとえば、税関手続の簡素化、基準の整合

化及び手続のペーパーレス化を通じて削減することを意味するものである。関税率が低

下したことを受け、貿易円滑化の相対的重要性が高まった。

APEC エコノミーが2002 年と2007 年にそれぞれ第1 回と第2 回の貿易円滑化行動計

画(TFAP I/II)を採択したことは、地域内の貿易を円滑にするための強固な共同での努

力である。2002年から2006年にかけて、TFAP Iは、域内における企業の貿易取引費

用を5%削減するとの目標を達成した。

同様に、2007年から2010年にかけてさらに5%削減することを求めたTFAP IIも、大

きな効果を上げた。APEC政策支援ユニットは、最近、TFAP IIの中間評価を完了した。

同評価によると、APEC地域における2007~2008年の貿易取引費用は、同評価の基準

として使用された2006年の水準と比較して低下した。

2010年エコノミーは、この2つのTFAPに基づき大きな進展を見せた。2009年末まで

に、2010年エコノミーは、税関手続、基準及び適合性、ビジネス関係者の移動及び電子

商取引の改善を通じて貿易を円滑化することを目的とした906の措置を実施した(表3.3

を参照)。実施された措置の数が多いのは、貿易円滑化は貿易相手にもたらす利益と同等

の利益が実施エコノミーにももたらされるとの認識が広まっていることによるものであ

る。

APECエコノミーは、アジア太平洋地域における貿易を促進するため、二国間技術協力

を行っている。この分野では、国際開発金融機関も活発に活動している。世界銀行、ア

ジア開発銀行(ADB)及び及び米州開発銀行は、APEC地域の税関行政の効率性と有効

性を高めるため、税関近代化プロジェクトを実施した。2010 年 9 月、APEC エコノミ

ーの税関の代表者は、税関近代化のためのキャパシティ・ビルディングに関して国際開

発金融機関との協力を強化することで合意した。

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表 3.3: CTIの優先順位に基づいた2010年エコノミーの措置:サブフォーラ別の貿易円滑化

選定 実施済み 完了 実施中 未実施

[a] [b] [c] [d] = [b] – [c] [e] = [a] – [b]

税関手続 576 504 411 93 72

(100.0%) (87.5%) (71.4%) (16.1%) (12.5%)

基準 258 216 157 59 42

(100.0%) (83.7%) (60.9%) (22.9%) (16.3%)

ビジネス関係者の移動 73 64 49 15 9

(100.0%) (87.7%) (67.1%) (20.5%) (12.3%)

電子商取引 132 116 72 44 16

(100.0%) (87.9%) (54.5%) (33.3%) (12.1%)

その他(該当する場合) 14 13 0 13 1

(100.0%) (92.9%) (0.0%) (92.9%) (7.1%)

合計 1046 906 685 221 140

(100.0%) (86.6%) (65.5%) (21.1%) (13.4%)

出典:オーストラリア IAP 2006、カナダ IAP 2008、チリ IAP 2007、中国香港 IAP 2005、日本 IAP 2009、韓

国 IAP 2006、マレーシア IAP 2005、メキシコ IAP 2005、ニュージーランド IAP 2006、ペルーIAP 2007、シ

ンガポールのファクトシート、チャイニーズ・タイペイ IAP 2006、米国 IAP 2007。

物流業績評価指標(LPI)及び越境貿易に関するビジネス環境指標は、関税以外の条件が

特定エコノミーの企業による国際貿易の実施を支援ないし阻害する程度を診断するために

世界銀行が使用する手段である。

図3.13 世界銀行の LPI:地域間の比較

2.002.202.402.602.803.003.203.403.603.804.00

(1=非効率的,5=効率的)

注:LPI指標及び「APEC平均」には、1エコノミーのデータが含まれていない。

出典:世界銀行、物流業績評価指標。(OECD及び日本で再掲された)

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APEC地域及び特に2010 年エコノミーは、LPI に基づく国際比較において、効率性が

高いことを示した。OECD の報告書の中で行われた分析によると130、2010 年エコノミ

-及びAPEC全体は、世界銀行による地域区分に基づく他のすべての地域を上回った。

(i) 基準及び適合性

総じて、APEC における基準と適合性に関する活動では、国際規格への整合化及び試

験・認証結果の相互受入を含め、域内の基準と適合性に関する多様な手法を整合化する

ことに重点が置かれてきた。かかる努力は、技術的専門知識やインフラの構築、特定の

基準に関する情報の共有、透明性の強化、及び、相互承認協定(MRA)の締結などの規

制に関する協力の促進に焦点を当ててきた。

2010 年エコノミーは、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)及び国際食

品規格への参画などを通じて、特定分野における国際規格への整合化が相当程度実現し

ている。国内の標準化団体、規制機関または市場参加者が、特定の商業・政策目的の遂

行において適切で効果的であるような国際規格を採用し、使用することによって、整合

化が起こる。

目標となる国際規格に統一化された国内規格の数を見ると、APEC 5は大きな進展を見

せていることが分かる。日本は、2009年時点で、ボランタリーアクションプラン(VAP)

の対象規格である268の国内規格の内、254件の国際規格に整合化した(1996年には、

38 の国内規格の内、1 件を国際規格に整合化しただけであった)。ニュージーランドで

は、2009 年時点で、3,036 の国内規格の内、1,333 件を国際規格に整合化した(1996

年には、2,159の国内規格の内、620件を国際規格に整合化しただけであった)。オース

トラリアでは、1996年には6,000の国内規格の25%を国際規格に統一化し、2009年に

は 6,500 の国内規格の 43%を国際規格に統一化した。カナダでは、1996 年には国内規

格全体の50%を ISO・IECなどの国際規格に整合化し、2009年には167の国内規格の

内、120件(72%)が国際規格に整合化された。ISO・IEC基準の最大の利用者の1つ

である米国は、ボランタリーな規格を強制的に採用させる政策は実施しておらず、特定

の基準の適切性と有効性に関しては利用者の判断に任せている。

APEC8 に関しては次のとおりである。チリは、VAP の対象である 168 の IEC 基準の

100%に関して、国内基準を国際基準に統一化した。韓国も、VAP を対象として、168

130 OECD報告書、28-29頁。

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の IEC基準の100%に関して、国内規格を国際規格に整合化した。中国香港も、168の

IEC 基準の 100%に関して、域内規格を国際規格に整合化した。マレーシアは、1996

年から 2009 年にかけて、3,376 の国内規格を定めたが、その整合化の比率は 21.6%か

ら60.1%に上昇した。メキシコも同様で、2009年時点では、国際規格に整合化した765

の技術基準(1996年では138)を登録し、4,291の規則(1996年では58)をボランタ

リーな規格として登録した。ペルーは、2009年時点では、81件の技術基準の内、43件

を国際規格に整合化した(1996年には9件の内の3件)。シンガポールは、すべての国

内規格を国際規格に整合化した。チャイニーズ・タイペイは、国際規格に整合化した国

内規格の数を1996年の35件から、2009年には94件に増加させた。131

APECでは、MRAの成功に影響を与える要因に対する理解が高まった。その結果、2010

年エコノミーが締結した二国間・多国間MRAの平均数は増加した。締結されたこれら

MRA の数は、オーストラリアが 18 件、メキシコが 11 件、ニュージーランドが 10 件

(二国間)となっている。中国香港は、10件に関して、締結したかまたは締結の意思が

あることを通知している。チリは、2件のMRAに参加している。米国は、7件のMRA

を締結したかまたは締結交渉を行っている他、政府間のものではないが9件のMRAを

締結している。特定の部門に関する APEC エコノミー間の規制協力も徐々に増加し、

2010年には、化学品、電気・電子機器、エネルギー、食品、医療機器及び玩具に関して

規制協力が行われた。

国際規格を使用して透明性及び客観性を向上させることに関しては、ほとんどの 2010

年エコノミーは、技術基準、基準及び適合性評価手法に関する通知・調査時期の設定に

際して、WTOの「貿易の技術的障害に関する協定」を順守していると報告した。2010

年エコノミーの一部は、さらに、RTA・FTAの中で類似の条項を実施していると報告し

た。132

OECD報告書は、多くの2010年エコノミーでは、国内規格が国際規格に整合化されて

おり、国際規格の使用を促進する多国間貿易規則や良い規制慣行が各国の国内の標準

化・規制制度に組み込まれてきていると結論づけている。2010年エコノミーのほとんど

は、適合性評価結果に関する多くのMRAを締結している。これは、各国の規制制度の

相違に起因する貿易費用を引き下げることに貢献している。133.

131 PSU報告書、83頁及びファクトシート。 132 PSU 報告書、84頁。 133 OECD報告書、7頁。

Page 70: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

69

(ii)税関手続

ボゴール目標の採択後、APEC地域における税関手続の速度、透明性及び予測可能性は

大幅に改善した。特に、2010年エコノミーでは大きな進展が見られた。

2009 年現在、すべての 2010 年エコノミーが、「商品の名称及び分類についての統一シ

ステム(HS)2007 年品目表」を採用している。134 また、同年現在、2010 年エコノ

ミーの内の7ヵ国は、世界税関機構が採択した「税関手続の簡易化及び調和に関する国

際規約の改正議定書」(改正京都規約)に加入した。他方、一部のエコノミーが改正京都

規約の税関業務を採用していることから、未加入であることが(貿易円滑化の)障害と

なっていない。2010年エコノミーの大半は、税関手続に関する情報をウェブサイトで公

表すること、ならびに、特にパブリックコメント、相談、不服申し立て、利害関係者フ

ォーラム及び照会のための窓口を確立することを通じて、税関手続の透明性を高めた。

すべての 2010 年エコノミーは、輸出入手続のためのコンピューター化された通関シス

テムを構築している。また、ほとんどの 2010 年エコノミーは、貿易関連省庁と協力し

て、すでにシングルウィンドウシステムを導入している、または、導入を開始した。さ

らに、すべての 2010 年エコノミーは、国際貿易の安全を確保し、円滑にするための法

令順守プログラム、及び/または、リスク管理システムを導入している。多くのエコノ

ミーは、安全確保や円滑化をさらに最適化するため、認定事業者(AEO)制度を実施し

ている。また、他のエコノミーも同制度を実施するために作業を進めている。

APECエコノミーは、貿易を円滑化するため、税関手続に関する国際条約、協定及びベ

スト・プラクティスを採択した。その例を挙げると、事前教示制度、「関税と貿易に関す

る一般協定の第VII条の実施に関する 1994年の協定(WTO関税評価協定)」、「物品の一

時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA 条約)」、及び、「即時引き取りガイドライ

ン」などである。

OECD報告書は、2010年エコノミーの税関手続と運用は一段と透明性が高まり、シングルウ

ィンドウシステムの導入や国境関連の活動を調整・統合する措置により、通関が簡素化された

と結論付けている。2010 年エコノミーでは、これらの措置により、貨物の通関が最も効率的と

される水準に達した。コンテナが 2010年エコノミーの国境を通過するのに要する料金は、世

界で最も低い水準にまで低下した。135 さらに、ほとんどの 2010 年エコノミーは、「国境関連

134 OECD報告書、84頁。 135 OECD報告書、7頁。

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70

省庁の透明性」に関して高得点を得ている。136

(iii)ビジネス関係者の移動

APEC参加エコノミーは、ビジネス関係者の移動の円滑化で大きな進展を見せた。

APEC ビジネス・トラベル・カード(ABTC)制度は、最も成果を上げた APEC の活

動の1つである。2009年3月、同カードの保有者は約57,000人に増加した。APECエ

コノミーは、ABTC制度への参加のほか、手続き的及び行政的な負担を削減することに

よって、ビジネス旅行者による国境の通過を容易にする取組を行った。

特定の職業専門家による移動に関しては、APEC は、相互承認に基づく資格を有する

人々の移動を円滑化するため、APEC エンジニアと APEC アーキテクトの枠組を創設

した。APECエンジニアの枠組に参加している13 APECエコノミーの内の9エコノミ

ー、及びAPECアーキテクトの枠組に参加している12 APECエコノミーの内の8エコ

ノミーは、2010年エコノミーである。

ビザに関しては、2010 年エコノミーから報告されたビザなし措置の数は0から約 170

までばらつきがある。ビザなし措置又はビザ免除措置の数に関しては、中国香港がトッ

プ(170 件)で、これに、韓国(90 件)、チリ(87 件)、日本(63 件)、ニュージーラ

ンド(58 件)、メキシコ(55 件)、カナダ(54 件)及びチャイニーズ・タイペイ(39

件)が続く。マレーシアは、38 ヵ国からの入国者に限り、ビザを課している。米国は、

ビザなしプログラムの数は 2 件のみであるが、ビザ免除プログラムには 35 ヵ国が参加

していると報告している。同様に,ペルーは、ビジネス目的のビザなし措置の数は2件

のみであり,うち1件はAPECエコノミーとの間のものであると報告している。しかし、

ペルーの制度では、外国人は、ペルーの領土に到着した段階でその地位を観光客からビ

ジネス旅行者に変更することが認められている。また、同制度では、19 の APEC 参加

エコノミーのパスポート所有者には観光ビザの取得が求められていない。オーストラリ

アは、全員に共通のビザ制度を採用しており、ビザなし措置は講じていないが、34のエ

コノミー(APECの7エコノミーを含む)の住民に対しては、電子入国許可(ETA)を

オンラインで申請することを認めている。この制度では、通常、即座に許可が下りるだ

けでなく、ビザなし旅行と同一の多くの便益を享受することができる。

これに加え、ビザ取得に必要な時間も、1996年から2009年にかけて着実に短縮された。

ほとんどの 2010 年エコノミーにおいては、現在、短期商用ビザの許可取得に必要な平

136 OECD報告書、20頁。

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均的時間は5日以内となっている。

(iv)原産地規則(ROO)

原産地規則は、物品の原産国を決定しており,これに基づき、輸入エコノミーにおいて

特恵措置を享受する用品目が決定される。アジア太平洋地域では、ROO は、潜在的に

FTAの中で最も困難な面がある。FTAに関する幾つかの研究では、複雑なROOは企業

の取引費用を引き上げ、かつ、制限的なROOはFTAに基づく特恵待遇の利用を抑止す

ると論じられている。

9つのAPECエコノミーが、企業の法令順守費用を削減し、質の高いFTA及びRTAの

利用を促進することを目的とした、APEC原産地自己証明パス・ファインダー・イニシアチ

ブに参加した。さらに、貿易担当大臣は、貿易を行う企業のために ROO 情報の透明性と

利用可能性を高める,関税率及び原産地規則に関するAPEC透明性イニシアチブを承認

した。各エコノミーは、それぞれのウェブサイトにおいて、かつ、APEC関税・ROOs

ウェブサイト(WebTR)を通じて、最新の関税及びROOに関する情報を一般に公開す

る。

(6) その他の措置

(i) 知的所有権(IPR)

知的所有権(IPR)に関しては、APEC は全体として、IP に関する貴重な政策についての情

報交換を促進し、かつ、「世界貿易機関(WTO)・知的所有権の貿易関連の側面に関する協

定」(TRIPS 協定)に基づく約束の地域全体での実施を奨励すると共に、世界知的所有権機

関(WIPO)の主催の下で締結された多国間協定、及びその他の多国間間の IPR 協定の広

範な採択を奨励した。

2010年エコノミーは、IPRの付与の加速、APEC地域内における IPR制度の調和、IPR制

度を施行するためのより効果的な方法の策定を目的として、法令の改正又は新規施行及び

必要な措置の採択によりそれぞれの IPR 制度を改善するための多大な取組を行ってきた。137 多くの2010年エコノミーは、特許協力条約(PCT)(12エコノミー)、著作権に関する世界

知的所有権機関条約(WCT)(10エコノミー)、実演及びレコードに関する世界知的所有権機

関条約(WPPT)(10エコノミー)、植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)(9エコノ

ミー)のほか,WTOメンバーとして、TRIPS協定(すべての2010年エコノミー)を締結してい

る。また、すべての 2010 年エコノミーは、パリ条約及びベルヌ条約のようなその他の国際条

約も締結している。

137 PSU報告書、85頁。

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72

APECの知的所有権専門家会合(IPEG)は、IP資産の管理・活用などの重要テーマに関す

る議論に積極的に関与する他、特許分野における協力の強化、国境での IPの執行の改善、

APECの知的所有権専門家会合(IPEG)は、知的財産の資産管理・活用等の重要テーマに

関する議論,特許分野における協力の強化、国境での知的財産権の執行の改善、地域にお

ける知的財産に関する訓練と能力構築の強化、及び中小企業における知的財産に関する教

育と公衆意識の啓発などに取り組んできた。

APEC は、模倣品・海賊版取引の削減、不正コピーの防止、インターネット上の模倣品・海賊

版の販売防止、知的所有権に関する効果的な公衆意識のキャンペーンの実施、模倣品・海

賊版からのサプライチェーンの保護、及び知的所有権に関する能力構築の強化のために,

「APEC模倣品・海賊版対策イニシアティブ」に基づく6つのガイドラインを含め、一連の知的

所有権モデル・ガイドラインを定めた。それに加え、「特許取得手続におけるAPEC協力イニ

シアティブ」は、域内の権利保持者のための適切で効果的な特許権を保護するため,知財庁

の運営,人材及び特許審査の分野において,IP知財庁の改善と強化を図る。

2010 年エコノミーの特許庁に対する特許出願及び PCT(特許協力条約)に基づく国際出願

の増加(表3.4と表3.5を参照)は、APECエコノミーが実施した措置の有効性を示すもので

ある。

表 3.4: 特許庁に対する特許出願:居住者及び非居住者による区分(1996年、2004年~2008年)

特許庁

出願者の

種類 1996 2004 2005 2006 2007 2008

2010年 居住者

520,87

4 674,898 709,865 707,065 715,337 697,629

エコノミーの合計

非居住者

232,12

6 353,726 384,733 416,914 428,439 414,912

合計

753,00

0 1,028,624 1,094,598 1,123,979 1,143,776 1,112,541

出典:WIPO統計データベース、2009年12月

注記:数字は特許出願日のものである。居住者による出願は、出願の中で最初に氏名が記入されている人物の住所がある国の特許庁、または、同国を担当している特許庁に提出された出願を意味する。非居住者による出願は、出願の中で最初に氏名が記入されている人物の住所がない国の特許庁、または、同国を担当している特許庁に提出された出願を意味する。

データが利用できないエコノミー:1996年と2007年は2エコノミー、2008年は3エコノミー。

表 3.5: 特許庁に提出された、PCTに基づく国際出願(2004年~2009年)

2004 2005 2006 2007 2008 2009*

2010年エコノミーの

合計 71,670 81,070 89,295 94,053 93,439 79,690

出典:WIPO統計データベース、2009年12月

注記:データが利用できないエコノミー: 3エコノミー。2009 年のデータは暫定的なもので、不完全なものである(2009年11月現在)。数字は国際出願日のものである。

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73

(ii) 競争政策

1996 年には、APEC エコノミー全体の約半数は、競争法も競争当局も有していなかっ

た。その後、APECは、競争政策を理解し、設計し、実施するためのエコノミーの能力

を強化することに大きく貢献した。138

2010年エコノミーは、それぞれの競争政策制度の有効性と透明性を高めるために多大な

努力を行ってきた。一部エコノミーは、執行方法と判例法適用を改善する観点から、か

つ、「競争と規制改革を促進するためのAPEC 原則」を追求するために既存の競争制度

を大幅に改正してきた。

APECは、途上エコノミーに対し、効果的な競争政策制度を実施する上で必要な技術支

援を行うという強いコミットメントを堅持してきた。APECエコノミーは、参加エコノ

ミーの間での競争政策の執行協力に関する二国間及び多国間の協定の数に表れていると

おり、競争関連の問題に関して積極的に協力関係を構築することを追求してきた。APEC

域内のRTAs・FTAsのうち19の協定には競争に関する章が設けられている。

(iii) 政府調達

1999 年、APEC は、「政府調達に関する APEC 非拘束原則」(以下、この項において

「NBP」)を策定した。139 2010 年エコノミーは、政府調達情報の開示、契約政策に関

する指針の提供、及び国内の調達機会に関する通知の公表等を通じて、政府調達に関す

る障壁を除去するための多大な努力を行ってきた。すべての2010年エコノミーは、2009

年までに、電子的手段を通じて政府の調達手続に参加するためのシステムを実施し、そ

れぞれの政府調達手続の利用可能性と透明性をさらに改善した。

ほとんどの 2010 年エコノミーは、法令及び入札制度の透明性を向上させることで政府

調達の透明性を高めるための国内制度を確立している。また、政府調達において外国の

産品・サービス及び供給者に課される制限の撤廃について大幅な進展があったが、引き

続き課されている制限があり、国内供給者の優先も残っている。ほとんどの 2010 年エ

コノミーは、相互主義要件は適用していないと報告している。

138 APEC経済政策報告書 2008年、4頁。 139 NMPは、透明性、金額に見合う価値、開放的で効果的な競争、公正な取引、説明責任、正当な手続、及び無差別で

構成されている。

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表 3.6 2010年エコノミーにおける1996年から2009年にかけての進展状況

エコノミーの数

法令及び入札制度の透明性、並びに、入札参加

資格及び落札者を決定する方法の透明性の向上

(新たな法令を制定し、又は関連法令を改正し、

若しくは、政府調達章を含むFTAを締結したエ

コノミー)

13

外国の産品、サービスまたは供給者に対する制

限、あるいは、国内の供給者の優先

- 改善により、差別なし:2

- 1996年以降差別なし:3

- 改善はしたが、若干の例外的差別あり:2

- 改善なし、若干の差別あり:5

- 報告なし:1

政府調達市場への参入に関する相互主義要件 - 従来は相互主義要件を課していたが、

現在は相互主義要件なし:1

- 相互主義要件なし:7

- 従来も、現在も、相互主義要件あり:3

- 従来は相互主義要件を課していなかったが、現在は

相互主義要件を課している:1

- 報告なし:1

「政府調達に関するAPEC非拘束原則」の遵守 - 改善により、完全に遵守している:4

- 1996年以降、完全に遵守している:4

- 完全に遵守しているが、1996年の状況については報

告なし: 2

- 改善により、ほぼ遵守している:2

- 1996年以降、ほぼ遵守している:1

政府調達のための電子的手段の導入 - 1996年時点で導入していた:3

- 新たに導入した:10

出典:ファクトシート

2010年エコノミーのうち7エコノミーは、「WTO政府調達協定」(GPA)の締約国・地

域である。このうち 4 エコノミーは、この協定を 1997 年より後に批准した。二国間協

定に関しては、APECエコノミーにより締結された17件のFTAが政府調達章を含んで

いる。このうち14 件では、同FTA の一方の締約国・地域がGPA の締約国・地域でな

くても政府調達に関して法的に拘束力のある約束がなされている。

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(iv) 規制緩和・規制改革

2010年エコノミーは、規制緩和及び規制改革の実現を目指して一貫性のある取組を行っ

てきた。

APECエコノミーは、それぞれの規制の枠組みを積極的に見直すことにより、政策の有

効性及び市場効率を改善するうえで積極的な役割を果たしてきた。規制改革に関しては、

2010年エコノミーの内の7エコノミーが、「競争と規制改革を促進するためのAPEC原

則」のすべてを履行したと報告した。一部の2010年エコノミーは、同原則の「一部」

ないし「ほとんど」を実施していると報告した。

一部のエコノミーは、新たな規則の質を高めるため、規制的手法、システム及び手続を

採用した。たとえば、米国は、重要な規制改革を実施する前に、規制影響調査を実施す

る。これらの調査では、費用便益分析や規制影響分析(RIA)が行われた。また、オー

ストラリアは、特に「ベスト・プラクティスに関する規則」の活用を通じて、RIAの枠組みを採

用している。これらの影響調査は、政策立案者が、企業及びその他の主要利害関係者に影

響を与える既存の規制及び手続を見直し、かつ、特定の政策課題に対処するために実施さ

れるであろう複数の規制措置または非規制措置の中から措置を選択するための手段としても

機能する。規制影響調査は、証拠に基づいて、客観的で信頼できる分析を行うことがで

きるので、国民の認識を高め、かつ、規制変更案に対する支持を得ることが可能になる。

140

APECは、共同活動として、OECDと協力して、「APEC-OECD規制改革統合チェッ

ク・リスト」を策定した。同チェック・リストは、規制、競争政策及び市場開放など、

公共部門の様々な改革に関する指示をとりまとめたもので、2005年にそれぞれの機関に

よって承認された。6エコノミー(2010年エコノミーではない1エコノミーを含む)は、

2010年2月までに、同チェック・リストを使用して自己評価を実施した。

2004年に「構造改革実施のための首脳の課題」(LAISR)が承認されて以降、規制改革

に関するAPECの取組が加速した。LAISRは、構造改革アジェンダの基礎となる5つ

の優先分野(規制改革、公共部門の統治、競争政策、企業統治、及び経済的・法的基盤

の強化)を設定している。これらに関しては、規制改革に関する制度的枠組みの策定(規

制改革担当大臣の任命、及び規制改革を監督する新たな政府機関の設置など)、規制制定

手続の改革(既存の規制体系・分野の見直しと改革、RIAの強化)、並びに国民あるい

は実業界などの利害関係者との協議の強化などの成果が得られている。

140 APEC 経済委員会 (2009年), APEC経済政策報告書 2009、55頁。

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APEC中小企業作業部会は、規制的な環境がビジネスにとって大きな障害になり得るこ

とを認識し、不要な障害を除去することによって、ビジネスの発展を支援する複数年に

わたる活動を行うための民間部門開発アジェンダを2006年に策定した。2009年、APEC

は世界銀行の「ビジネス環境の改善」(EoDB)に関する指標のうち 5 つの指標(起業、

与信獲得、契約執行、許可取扱い、越境貿易)に焦点を当てて規制改革を実行すること

でビジネス環境を改善するイニシアチブを開始した。APECは、能力構築プログラム及

びビジネスに影響を与える規制的な環境の改善を通じて、これら 5 つの分野における

APEC の総合順位を、まずは 2011 年までに 5%引き上げ、最終的には 2015 年までに

25%引き上げるという野心的目標を掲げた。

(v) WTOにおける義務

すべての 2010 年エコノミーは、WTO メンバーとしてのそれぞれの義務を確実に実施

したと報告した。

(7) 自主的に報告されたその他の取組

エコノミーは自主的に、ボゴール目標の進ちょくのために妥当であると判断した追加的

な措置に関する情報を提供した。

これらのエコノミーが報告した措置は、多角的貿易体制の支持、環境、労働、電子商取

引、サービス・投資及びビジネス環境の改善を含む。

(i) 多角的貿易体制に対する支持

一部の 2010 年エコノミーは、自由な貿易・投資制度を維持することによって、多角的

貿易体制を支持していることを強調した。例えば、中国香港は、輸入製品には全く関税

を課しておらず、量的制限も課していない他、許認可制度は、国民の健康、安全、安全

保障及び環境を保護するため、ならびに、国際的義務を履行するために、一部の品目に

限って適用していると報告している。

(ii) 環境

一部の 2010 年エコノミーは、自らの貿易政策制度において環境保護の強化のための措

置を講じたと報告した。2010 年エコノミーの内の 7 エコノミーは、二国間協力協定の

活用、または、それぞれの RTA・FTA の中に環境保護を強化するための措置を含む旨

報告した。共通要素としては、貿易パートナー間での環境協力の推進、環境保護のため

の国内法の執行の促進、環境に影響を与える新たな国内法や規則の制定における透明性

確保と国民参加の促進などが挙げられる。

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環境物品・サービス(EGS)は APEC の課題にごく最近加えられるようになったテー

マだが、EGSに関する貿易・投資の自由化のための参加エコノミーの努力は定着しつつ

ある。参加エコノミーは、WTO ドーハ環境物品・サービス交渉への参加に加え、ドー

ハ・ラウンド改訂オファーの中で更なる自由化を行う意欲があることを表明した。さら

に、一部の2010年エコノミーは、RTA・FTAまたは附属協定の中に環境に関連する規

定を盛り込んでいる。141

米国は、「2002 年貿易促進権限法」の成立後、すべての RTA・FTA は、それぞれの締

約国にその環境法を効果的に実施することを要求する規定を盛り込んでいると報告した。

142

カナダは、相互支援的な貿易・環境政策を促進するため、FTAと平行し、各締結国に対

し、環境法を効果的に執行し、同法の改善に向けての取組を継続することを求める交渉

を実施した。

「APEC の EGS 作業プログラムに関する枠組み」が 2008 年に承認されて以来、この

新たなプラットフォームは、環境政策及び EGS に関する規制措置の策定に関する開か

れた対話を促進するために十分に活用された。同枠組みに基づき、カナダ、ニュージー

ランド及び米国は、協力してワークショップを開催した他、APEC EGS 情報交換ウェ

ブ・ツールを創設した。143

国内政策及び規則に関しては、エコノミーは、EGSに関する投資・貿易を円滑化するた

めの一方的措置を講じた。オーストラリアは EGS に関する関税を引き下げた。メキシ

コは、EGSの問題に関して利害関係者との間で協議を行っている。ペルーは、環境一般

法に基づいて、環境関連部門に関するプログラムと戦略を策定した。

141 PSU報告書、91頁。 142 前掲 143 前掲

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78

(iii) 労働144

一部の 2010 年エコノミーは、労働基本権を、貿易政策を策定する際の 1 つの重要な要

素に含めた。一部のエコノミーは、労働基本権を保証・適用するための法律及びその他

のイニシアチブを導入した。好例として、オーストラリアの 2009 年公正労働法、日本

の労働基準法と雇用契約法、及びペルーの「義務的労働者登録」に関するイニシアチブなど

を挙げることができる。さらに、報告を行ったエコノミーは、裁判手続に関する手続上の保証

と透明性を改善するための措置を実施している。たとえば、ペルーは、2010年初め、労働裁

判手続を口頭で行えるようにして迅速化を図るため、新たな労働手続法を制定した。

報告によると、エコノミーは、様々な教育プログラムと戦略を通じて、労働基本権に関

する国民の認識を高めた。例えば、オーストラリアは「公正な労働についての教育・情報

プログラム」を実施し、日本は職業訓練と人的資源開発により重点を置き、ペルーは労働基

本権に関する周知度を高めるための手段としてマスメディアを活用している。米国の RTA・

FTA は、締約国・地域に対し、労働者の権利に関する情報を一般公開することによって、労

働者の権利に対する意識を高めることを求めている。ニュージーランドも、その RTA・FTA

の中に類似の条項を含めていると報告した。

以上報告のように、ほとんどの2010年エコノミーは、労働に関する章を有するRTA・

FTAの締約国・地域である。米国の場合、そのRTA・FTAは締約国・地域に対してそ

れぞれの労働関連法の執行を要求しており、また、最近の協定は、さらに、締約国・地

域に対して、国際労働機関(ILO)が定めた基本原則及び権利を順守するよう要求して

いる。さらに、多くの 2010 年エコノミーは、二国間または多国間の「労働協力協定」

(LCA)を締結している。これは、ILOが定めた権利と原則を反映した協力の仕組みを

確立することに役立っている。カナダは、ほとんどの場合、その自由貿易協定の交渉に

並行して、締約国・地域の労働法規の効果的実施、国際的に認められた労働者の権利と

原則の尊重、及び労働問題に関する協力を通じて、締約国・地域の労働条件を改善する

努力を行っている。

(iv) 電子商取引145

技術の発展は、1994年にボゴール目標が設定されて以降、変化する貿易政策環境におい

て重要な役割を果たしてきた。電子商取引は、国際貿易の重要な促進手段であると広く

144 この項の情報のほとんどは、2010年エコノミーから提出されたファクト・シートに基づいて作成されたPSU報告書

の90-91頁から得たものである。 145 この項の情報のほとんどは、2010年エコノミーから提出されたファクト・シートに基づいて作成されたPSU報告書

の91-92頁から得たものである。

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79

見なされている。一部の2010年エコノミーは、それぞれのFTAの中に電子商取引章を

盛り込んでいる。

米国は、2004 年以降、電子商取引によってもたらされる経済成長と機会、及び電子商

取引を活用することに対する不要な障壁を回避することの重要性を認めて、その FTA

の中に電子商取引章を盛り込んでいる。米国の FTA に盛り込まれている電子商取引章

では、電子認証・電子署名、オンライン消費者保護(電子商取引における詐欺的・欺瞞

的商慣行を取締る法律の執行に関する協力を含む)、ペーパーレス取引、ならびに、電子

商取引に関する法律や規則等を公表することによって透明性を確保することを含め、電

子商取引を促進するための措置に関する条項が規定されている。日本も、電子商取引を

活用するための機会を創出する努力を強化した。日本・スイス経済連携協定(EPA)に

は、デジタル製品・サービスの非差別的取り扱い、市場参入に関する規則、オンライン

消費者の保護、及びペーパーレス貿易の管理を目標とする規定が盛り込まれた。ペルー

も、その FTA の中に電子商取引章を盛り込んでいる。たとえば、ペルーとカナダとの

間、及びペルーと米国との間で締結された FTA の中の電子商取引章には、電子商取引

に関するモデル措置に含まれている事項(認証、関税率、透明性、消費者保護、ペーパ

ーレス取引、個人情報保護及び協力)が規定されている。

日本では、国内の法令,規則及びガイドラインを通じて電子商取引が促進されている。

法令の例としては、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」、「特定商取引に関する

法律」及び「電子商取引等に関する準則」が挙げられる。

米国は、電子商取引に関し、APEC、OECD及びWTOにおいて多国間イニシアチブに

積極的に関与している。米国は、WTO において、電子商取引に対する関税のモラトリ

アムを強く支持している。

(v) サービス及び投資

シンガポールでは、タクシー、電気通信市場、郵便サービス市場、及び金融サービス分

野の保険部門と証券部門が完全に自由化された。投資に関しては、シンガポールは、国

家安全保障に関わるものや特定の産業を除き、国内企業に関する外国人持株比率に対し

ては制限を課していない。シンガポールは、外国人技能労働者に対しては、「門戸開放」

政策を採用している。ビジネス上の必要性に応じて、様々な入国管理手法が定められて

いる。たとえば、新会社・新事業を興す準備ができていて、事業に積極的に従事するこ

とができる外国人企業家は、アントレパス・スキームに基づいて、当初は最長2年間の

効力を有する就労許可証を取得することができる。

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(vi) ビジネス環境の改善146

チャイニーズ・タイペイは、APECビジネス環境向上行動計画に沿って、事業開始に要

求される手続を簡素化した。その結果、必要な手続の数は25%削減され(8つから6つ

へ)、必要な時間は45%削減された(42日間から23日間へ)。さらに、最低資本金額は

撤廃された。これにより、事業申請及び開始に伴う費用は大幅に削減された。

146 この項の情報のほとんどは、チャイニーズ・タイペイから提出されたファクト・シートに基づいて作成されたPSU報

告書の92頁から得たものである。

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第4章 – 結論

本報告書の中で示されたデータ及び分析は,APEC 2010 年エコノミーが自由で開か

れた貿易・投資に向けて顕著な進展を示したことを明らかにしている。しかし,2010

年エコノミーによるボゴール目標のコミットメントの達成状況を十分かつ客観的に評価

するためには,この評価を行う適切な背景を明らかにしておくことが重要である。

ボゴール宣言が発表された1994 年以降,APEC の地域経済の概観は大きな変容を遂

げた。地域及び世界中のエコノミーは,かつてなくより密接に関連し合っている。伝統

的な経済的・地理的境界を越えたサプライチェーンの活用により,ビジネス機会はより

拡大し,多国間化している。「デジタル経済」の台頭は,あらゆる規模の企業の世界市場

へのアクセスを向上させ,国際貿易に劇的な影響を与えた。

関税率及びその他の国境措置が緩和され,貿易・投資をさらに自由化する世界の取組

は,国境措置だけでなく,貿易・投資の円滑化と非関税障壁の削減に大きな焦点を当て

てきている。この傾向は,APECの貿易・投資課題に反映されている。

過去 15 年間,金融危機,自然災害及び紛争は,市場に破壊的な影響を与え,場合に

よってはその事象自体から地理的に離れた地域においてさえ貿易・投資の流れを阻害し

た。APEC の中核的任務である貿易及び投資の自由化及び円滑化から逸脱せずに

その関連性を維持するには,APECは,グローバル化による利益を享受する機会を制限

せずに,開放を奨励する方法でこれらの事象に対処しなければならない。

この背景の中で,また,世界の多様な発展状況を考慮すると,本報告書の中で示され

た証拠は,更に取り組むべき作業が残っているものの,2010年エコノミーがボゴール目

標に向けた顕著な進展を遂げたとの見解を支持している。

1.今日までの成果

貿易の成長

ボゴール宣言以降,すべてのAPEC参加エコノミーによるボゴール目標の追求は,地

域に多くの利益をもたらした。1994年から2009年にかけて,APECの対世界の物品の

貿易は,年率 7.1%で増加し,2009 年には輸出が 5.6 兆米ドル,輸入が 5.8 兆米ドルに

達した。APEC地域におけるサービス貿易の名目価額も,年率約7%で増加し,2009年

には合計 2 兆 4000 億米ドルに達した。1994 年以降,海外直接投資(FDI)の APEC

地域への投資量は年間13.0%,APEC地域からの投資量は年間12.7%増加した。ボゴー

ル宣言以降,すべてのAPEC参加エコノミーによる貿易の増大は,世界の他の地域のそ

れを凌駕している。同期間,APEC域内の物品貿易額は約3倍に増加した。さらに,APEC

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の他の地域との貿易のシェアは,1994 年の 28%から,2009 年には 33%に増加した。

APEC地域におけるサービス貿易の名目価額も,年率約7%で増加し,2009年には輸出

と輸入を合わせた合計金額は 1.2 兆米ドルに達した。APEC 地域のGDP に対する比率

で見ると,物品・サービスの輸出総額は,1994年の15.7%から,2008年には26.5%に

増加した。アジア太平洋地域は,いまや世界で最も速く成長し,最も経済的に開放され

ている。

関税率の低下

ボゴール目標の設定に当たり,APEC参加エコノミーは,開かれた地域主義は長期的

な成長の鍵であるとの共通の信念を反映し,WTO ウルグアイ・ラウンドの約束よりも

さらに踏み出すことを決意した。1994年以降,2010年エコノミーは関税を大幅に削減し,

2010年エコノミーの単純平均実行関税率は,1996年の8.2%から2008年までに5.4%

まで低下しており,世界平均の10.4%を大きく下回っている。2008年には,2010年エ

コノミーによる輸入の50%が無税となった。関税の削減に貢献しているもう一つの重要

な要素は,アジア太平洋地域における二国間及び地域的な自由貿易協定(RTA・FTA)

の数の飛躍的な増加であり,それは,輸入品全体への実際の関税率(関税負担率)が,

平均MFN実行税率よりも低いことを意味している。

サービスの重要性の増大

1994年のボゴール宣言以降,サービスは地域及び世界の貿易においてますます重要な

要素になった。APECエコノミーは,大阪行動指針及びWTOのサービス貿易に関する

一般協定(GATS)に基づく約束と整合的な方法でサービス貿易の自由化について重要

な進展を続けている。さらに,2010 年エコノミーのほとんどは,GATS に基づく約束

を上回る内容のサービス章を含んだRTA・FTAに参加している。また,2010年エコノ

ミーは,国内政策の一方的改革及び国際的な分野別協定の実施を通じて,サービス市場

を開放した。

重要な投資の連結

2000 年代初めの変動にも関わらず,APEC 地域への海外直接投資(FDI)の対内投

資額は,1994年以降,年間13.0%増加し,対外投資額は,年間12.7%増加した。APEC

におけるこの成長及び投資自由化の継続の重要な推進力となったのは,自由な投資体制

の維持に対する力強い共同のコミットメントであった。実際,OECDは,すべての2010

年エコノミーは,その自由化の程度は異なるものの,「開放的な」投資体制を有している

と報告している。外国からの投資に対する最恵国待遇及び内国民待遇を確保する二国間

投資協定(BIT)やRTA・FTAの数は,1996年の160件から,2009年には340件に

増加した。

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貿易円滑化による大きな便益

関税率が低下するにつれて,貿易円滑化による潜在的利益は相対的に増加してきた。

この分野では,APEC地域は,税関手続の効率化,業務のペーパーレス化,ビジネス関

係者の越境移動の円滑化,及び基準・適合性手続きの調和について極めて重要な措置を

講じてきた。さらに,APECエコノミーは,APEC貿易円滑化行動計画に基づき,2002

年から 2006 年にかけて,域内の貿易取引費用を 5%削減した。また,APEC は,今年

完了する第二次貿易円滑化行動計画に基づき,同費用をさらに 5%削減する努力を行っ

ている。さらに,APECは,貿易円滑化を促進するため,キャパシティ・ビルディング

に関して国際開発金融機関との協働を開始しており,これらの機関によるさらなる貢献

が歓迎される。

経済・技術協力(ECOTECH)

1996年以降,ECOTECH活動は,総額5,800万米ドルにのぼる1,200以上のECOTECHプロ

ジェクトを通じて,参加メンバー間の技術格差の縮小,持続可能な発展の促進,組織及

び人材の能力の構築,並びにより大きな共通の繁栄の達成のために貢献してきた。経済・

技術協力活動は,2020年までにボゴール目標を途上エコノミーが達成することを支

援するための,戦略的で需要主導かつ目標指向的な方法で実施されるべきである。

2.さらに取り組むべき課題

2010年エコノミーの自由で開かれた貿易及び投資に向けた顕著な進展は,それらエコノ

ミーの作業が完了したことを意味しない。国際経済は新たな技術とビジネス形態を取り

込んで進化しており,新たな経済的機会とリスクに対応していることから,APECは

引き続きこの問題にうまく対処しなければならない。この継続する挑戦に対処するため

には、自由で開かれた貿易と投資というボゴール目標に向けたAPEC参加エコノミーに

よる進展をAPECエコノミーが評価するための適切な評価プロセスを2011年に探求す

ることが重要である。

関税に関して,関税の引下げ及び撤廃は,あらゆる分野で均一な進展があったわけでは

ない。衣料,農産品及び繊維の関税は,APECエコノミーの全品目の平均関税率より

依然として高い。サービスに関しては,金融,通信,運送(海運と航空を含む。)及び映

像音響サービス(ラジオ・テレビ放送を含む。)を含むがこれらに限定されないいくつか

の分野において規制が残っている。更に,4つの異なるサービス供給形態の中で,特に,

ビジネス関係者の移動(第4モード)にもっと注意を向けることが可能である。投資に

関しては,ほとんどすべての2010年エコノミーは,いくつかの分野において、禁止

措置あるいは資本上限規制といった形態での分野別の投資規制を、程度は異なるものの

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引き続き維持しており,また,一部のエコノミーは,海外直接投資(FDI)に対する一

般的な審査制度を適用し続けている。

貿易についての非関税措置の影響を削減するため,より力強い取組も必要とされている。

更なる作業の必要な分野には,基準・適合性,税関手続,知的財産権及び政府調達が他

の問題と共に含まれる。APEC は,また,ビジネス環境改善(EoDB)イニシアチブを

通じ,構造改革の促進により,「国内での」課題に更に対処していく。

これらを考慮すれば,2010年エコノミーは,地域の自由で開かれた貿易を達成する

ために,まだ尐し進む必要があり,1994年のボゴール目標において列挙された諸問

題は,今日においても引き続き適切であると言うことは妥当である。

APECは,その設立以降,多くを成し遂げ,世界で最もダイナミックかつ経済的に開か

れた地域であるアジア太平洋地域における有数の経済フォーラムに進化してきた。過去

15年間を振り返れば,自由で開かれた貿易及び投資という目標の追求にあたっての

APECの進展は,ボゴール目標が,貿易及び投資の自由化及び円滑化に関する作業の引

き続き目指すべき方向であることを強調している。全てのAPEC エコノミーは,関税,

サービス貿易及び投資に関する規制の削減及び撤廃、非関税措置を含むその他の分野に

おける改善の促進により,貿易と投資を更に自由化し,円滑化するための,個別の及び

共同のコミットメントを維持しなければならない。

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85

略語一覧

ADB Asia Development Bank アジア開発銀行

CAP(s) Collective Action Plan(s) 共同行動計画

DDA Doha Development Agenda ドーハ開発アジェンダ

ECOTECH economic and technical cooperation 経済・技術協力

FDI foreign direct investment 外国直接投資

GATS WTO General Agreement on Trade in Services

WTO サービスの貿易に関する一般協定

GATT WTO General Agreement on Tariffs and Trade

WTO 関税及び貿易に関する一般協定

GDP gross domestic production 国内総生産

IAP(s) Individual Action Plan(s) 個別行動計画

IFAP Investment Facilitation Action Plan 投資円滑化行動計画

MFN most-favored-nation 最恵国

MTST Mid-Term Stocktake of Progress Towards the Bogor Goals

中間評価報告書

OAA Osaka Action Agenda 大阪行動指針

OECD Organisation for Economic Cooperation and Development

経済協力開発機構

PSU APEC Policy Support Unit APEC政策支援ユニット

RTAs/FTAs regional trade agreements and free trade agreements (or regional and

bilateral free trade agreements)

地域貿易協定/自由貿易協定

TFAP Trade Facilitation Action Plan 貿易円滑化行動計画

UNCTAD United Nations Commission for Trade and Development

国連貿易開発会議

WTO World Trade Organization 世界貿易機関

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(2010), Mexico (2008), New Zealand (2009), Peru (2007), Singapore (2008) and

United States (2008). (reproduced in APEC PSU (2010))

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別添1

2010 年ボゴール評価は、原則として、以下に示す概要のとおり、「APEC 先進エコノミ

ーのボゴール目標達成評価に関する作業計画」 (2009/AMM/012)に従って実施されて

きた。この作業計画は、シンガポールで開催されたAMMにおいて承認されたが、主に

APECエコノミーの間でコンセンサスを得るため、しばしば調整を必要とした。

スケジュール 活動

2010年1月末まで

- 日本は、政策支援ユニット(PSU)及びAPECエコノミーと協議・

調整の上、先進エコノミーが提出するファクトシートのひな型を策

定する。

- PSUは、ファクトシートのひな型を配布する。

- 先進エコノミーは、それぞれの最新の IAP(個別行動計画)とその

毎年の更新版及びMTST報告書に基づき、ボゴール目標達成に関

係したそれぞれの貿易・投資の自由化・円滑化のための措置につい

て、ファクトシートのひな型に記入する。

- PSUは、先進エコノミーから提出されたファクトシートを取りまと

め、これを日本及びその他のエコノミーに提供し、PSU報告書を

提出する。

2009 AELM - 2010 SOM (高級

事務レベル会合)1

- ISOMと並行して、日本はボゴール目標の達成に特化したABAC

との対話を行うため、非政府機関の専門家が参加するオープン・セ

ミナー、ならびに、のSOMを開催する。

- ABAC、太平洋経済協力会議(PECC)、及び、オープン・セミナ

ーに関するAPECスタディ・センター・コンソーシアムからの専

門家は、オープン・セミナーに参加する。アジア開発銀行、米州開

発銀行、世界銀行及び国連貿易開発会議からの専門家も、同セミナ

ーに参加する。

- 日本は、PSUから提出された文書、オープン・セミナーの結果及

びABACとの対話に基づいて、ボゴール目標の達成に関する評価

報告書を作成する。

2010 SOM1 – SOM2 - 日本は、議論を行うための第1回評価報告書案を提出する。

- SOM 1での議論及びAPECエコノミーから出されたコメントを踏

まえ、かつ、関連国際機関、ABAC、PECC及び非政府機関の専門

家からの意見を踏まえ、日本は評価報告書を修正する。

2010 SOM2 and MRT(貿易担

当大臣会合)

- コンセンサスが得られた後、MRTでの検討及びあり得べきコンセ

ンサスを得るため、SOMは評価報告書をMRTに提出する。

2010 MRT – 2010 CSOM - SOM は、必要に応じて、評価報告書を更新する。

2010 AMM/AELM - 評価報告書は、APEC閣僚とAPEC首脳に提出され、検討・採択

される。

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別添 2

ボゴール目標の達成のために講じられた措置

1. 1995 年大阪行動指針、及び 1996 年マニラ行動計画(個別行動計画(IAP)及び共

同行動計画(CAP)を含む)

アジア太平洋地域において自由で開かれた貿易・投資の実現を目指すAPECのボゴール

目標を達成するため、APEC メンバー・エコノミーは、1995 年に日本国大阪において

APEC首脳の間で合意され、かつ、2001年、2002年に改訂された戦略的ロードマップ

を実行した。このロードマップは大阪行動指針(OAA)として知られている。1

OAA は、政策対話及び経済・技術協力に裏打ちされた、貿易・投資の自由化、ビジネ

スの円滑化及び分野別活動を通じて、ボゴール目標を達成するための枠組みを提供する

ものである。この枠組みの一環として、APEC自由化・円滑化プロセスを実行する各エ

コノミーのために、一連の一般原則(包括性、WTO整合性、同等性、無差別、透明性、

スタンドスティル(現状維持)、同時開始、継続的過程及び異なるタイムテーブル、柔軟

性、協力、有用性、漸進性、有効性)が定められた。2 OAA は、これらの一般原則に従

い、15 の具体的分野―関税、非関税措置、サービス、投資、基準・適合性、通関手続、

知的所有権、競争政策、政府調達、規制緩和・規制見直し、原産地規則を含むWTO義

務の実施、紛争の調停、ビジネス関係者の移動、情報収集・分析、及び、経済的・法的

インフラ基盤の強化―における目標、及び、その目標を達成するために講じるべき措置

を明らかにしている。

1996年、APEC首脳は、OAAを実施するための自発的なコミットメントの履行に関する

個別・共同イニシアチブを取りまとめたマニラ行動計画(MAPA)を承認した。MAPA

には、OAAに従って、2010年及び2020年までにボゴール目標を達成するための、段階

的及び包括的な貿易・投資の自由化・円滑化に関する最初のステップが明記されている。

MAPAは、3部―個別行動計画、共同行動計画、経済技術協力に関する共同活動―で構

成されている。

APECメンバー・エコノミーは、毎年、APECに提出されるIAP及びCAPを通じて、自

由で開かれた貿易・投資に関する目標の達成状況を報告する。IAPは、自由で開かれた

貿易・投資に関して自らが設定した目標を達成するために講じた措置の記録である。

APECメンバー・エコノミーは、独自の予定と目標を設定し、自発的に拘束力のない形

1 APECのウェブサイト (http://www.apec.org/content/apec/about_apec/how_apec_operates/action_plans_.html) 2 大阪行動指針 (2002 年更新版)、 2002年。

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でこれらの措置を講じる。報告は、OAA及び追加的4分野の中に明記された15分野―自

由貿易協定(FTA)・地域貿易協定(RTA)、透明性、APEC食品制度、貿易円滑化―を

対象として行われる。CAPは、OAAに明記された15分野を対象としてすべてのAPEC

エコノミーが講じた共同措置の詳細を示すものであり、分野毎の活動を進行させること

を意図したものであり、かつ、目標の達成状況を監視し、報告するための手段となるも

のである。3

毎年、一部のAPECエコノミーは、自発的に、相互審査プロセスを通じて、それぞれの

IAPに対する検討を受けている。2002年には、客観性と透明性が向上した相互審査プロ

セスが導入され、同プロセスでは、特に、APECエコノミーの間でIAPを継続的に改善

するための協議が行われる。1997年に初めて実施された相互審査プロセスには、相互審

査を実施する正式な検討チーム、独立した経済調査・分析を実施する専門家、及び、民

間部門の独立機関であるABACの関与といった新たな要素も導入された。4

2. 2001年の上海アコード

APECは、1997年の終わりにに発生したアジア金融危機によって引き起こされた困難に

対処すると同時に、世界経済と地域経済における変化に対処・適合することの必要性に

対する認識を高め、ボゴール目標の達成努力を継続した。2001年の上海APEC首脳会議

において特筆すべきは,同会議に参集したAPEC首脳が、APECが1989年の設立から2

回目の10年紀に入ったことを受け、将来のためのヴィジョンを、充実させ、見直し、明

確化することの必要性を認識したことである。本観点から、APEC首脳は、2回目の10

年紀におけるAPECの目標が、ボゴール目標を達成すべく継続的進展を遂げること、成

長による便益をより広く、より公平に共有することによって共同体意識を深めること、

そしてAPECを、地域経済協力のための緊密で強固なパートナーシップに育て上げると

いうヴィジョンを描いた。

同ヴィジョン達成のため、APEC首脳は、2001年、今後のAPECの発展を図るための戦

略的で将来志向の課題である上海アコードを発表した。同アコードは、以下のことを行

うことにより、将来のAPECのビジョンを拡大することを定めている。すなわち、1)新

世紀においてAPECを導くための概念・政策の枠組みを特定すること、2)2005年に全

体的進展を中間評価することにより、ボゴール目標を予定通りに達成するためのAPEC

の道筋を明らかにすること、OAAを拡大・更新すること、ボゴール目標を達成するため

の特定のAPECイニシアチブを実施するに当たってパスファインダー・イニシアチブ(ア

3 マニラ行動計画1996。 4 APEC電子個別行動計画 (e-IAP) (http://www.apec-iap.org/peerReview/)

Page 95: APEC 2010 年エコノミーの進展に関する報告書 ( …...ー(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド及び米国:以下、「APEC5」)、

プローチ)を採用すること、ニュー・エコノミーのための適切な貿易政策の採用を促進

すること、APEC貿易円滑化原則を継続すること、及び、経済統治において透明性を高

めること、ならびに、3)IAP相互審査プロセスの強化、及び、ECOTECH及び能力構

築活動の増強を通じて、APECの実施体制を強化することである。5

3. OAA(大阪行動指針)の更新

1995年以降の進展及び変化を考慮し、2000年に開催されたMRTにおいて、OAA指針を

基に改訂された包括的アプローチが採択された。本アプローチに基づき、2000年から

2002年にかけてOAAの改訂が数回にわたって行われた。その結果、2002年、ボゴール

目標の達成に向けての強固なコミットメントが盛り込まれた拡大OAAがAPEC首脳に

よって承認された。この拡大OAAは、世界経済及び地域経済の変化にも対応したものに

なっている。

4. 中間評価、2005年釜山ロードマップ及び2006年ハノイ行動計画

2001 年、APEC 首脳は、ボゴール目標の達成にむけた進展度合いを測り、かつ、エコ

ノミーが各々の目標を達成するのを支援する上で必要な措置を明らかにするための評価

作業を開始した。本目的のため、2005年に閣僚によって承認された「ボゴール目標の中

間評価」(MTST)報告書は、APEC の 21 全エコノミーから提出され、独立した貿易・

経済専門家によって分析された情報に基づいて作成されたものである。MTST報告書は、

ボゴール目標が、各エコノミーが貿易・投資の自由化・円滑化において大きな進展を遂

げた今日においても、1994 年にAPEC 首脳によって初めて合意された時とその重要性

が変化していないと指摘した。6

MTSTは、ボゴール目標に関する確約の重要性を認識した。MTSTは、自由で開かれた

貿易・投資という目標は、絶対的あるいは不変であると解釈すべきではないという事実

を強調した。本観点から、MRSTは、ボゴール目標の達成においては、円滑化及び国内

の制度が貿易投資の自由化に関する問題同様に重要であるということを明確にした。さ

らに、MTST は、ボゴール目標の達成に向けて、WTO 整合的で質の高い RTA・FTA

が果たしている建設的役割に言及し、これらが、市場開放の利点を実証することによっ

て貿易自由化にプラスの効果を与えることができることを指摘した。

MTSTの結果に基づき、APEC首脳は、国際貿易環境が変化する中で生じた新たな課題

5 APEC首脳宣言、中国上海、2001年10月21日。

6 APEC のウェブサイト

(http://www.apec.org/content/apec/news_media/fact_sheets/200908fs_midterm_stocktake.html)

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に対処し、かつ、発表されたスケジュールに従ってボゴール目標を達成するために、ボ

ゴール目標に向けた釜山ロードマップを承認した。釜山ロードマップは次のことを強調

した。「中間評価により、APEC が意義ある存在であり続けるためには、APEC は今日

のより複雑で連結したビジネス環境及び変化している貿易・投資環境にダイナミックに

進化、対応する準備ができていなければならないことが示された。APEC は、多国間、

地域的及び二国間貿易協定を通じて、貿易・投資の自由化を引き続き促進する。(中略)

さらに、中間評価は、特に国内問題に重点を置いた総合的なビジネス環境円滑化に対す

る関心を高めることにより大きな便益が生じると指摘した」。

釜山ロードマップは、多国間貿易制度、共同・個別対策の強化、質の高い RTA・FTA

の促進、釜山ビジネスアジェンダ、能力構築に関する戦略的アプローチ、及び、パスフ

ァインダー・アプローチへの支持を強調した。7

ボゴール目標達成に向けた釜山ロードマップを実施するため、APEC首脳は、具体的措

置、スケジュール及び能力構築に関するイニシアチブで構成された 2006 年ハノイ行動

計画を承認した。8

5. TFAP I (2002年~2006年)、TFAP II (2007年~2010年) 及びIFAP (2008年~2010

年)

ボゴール宣言はまた、貿易・投資の自由化のための努力を補完する円滑化プログラムを

実施することの重要性に言及している。したがって、APECは、メンバー・エコノミー

に対し、貿易・投資円滑化措置を実施することを奨励してきた。APEC貿易円滑化行動

計画(TFAP I/II)及び投資円滑化行動計画(IFAP)の承認は、ボゴール目標の達成に

向けた重要な柱となる。

TFAP Iは、APECによる貿易円滑化に向けた作業の的を絞り、調整するための試みで

あった。TFAP Iは、貿易円滑化に関するAPEC原則に基づき、APEC首脳が2001年、

上海において、各エコノミーに対し、ボゴール目標達成のために2002年から2006年に

かけてAPEC域内にまたがる貿易取引費用を5%削減することを求めたことに対し、こ

れに正式に対応したものであった。TFAP I は、取引費用を削減し、かつ、一定の期間

内に管理及び手続に関する必要事項を簡素化するための行動と措置で構成されていた。

TFAP Iが完了した時点では、APECエコノミーは、全部で1,400を超える行動と措置

を選択しており,内 62%は完了していた。APEC 首脳は、2006 年、ハノイで開かれた

7 APEC首脳宣言、韓国、釜山、2005年11月18~19日。 8 APEC首脳宣言、ベトナム、ハノイ、2006年 11月18~19日。

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会議において、5%の削減目標が達成されたことを歓迎した。9

TFAP IIは、APEC首脳が、2005年の釜山会議において、2007年から2010年の期間

に取引費用をさらに5%引き下げることを求めたことに対応したものであった。TFAP II

の主なメニューは、メンバー・エコノミーがTFAP Iで策定した4つの分野―税関手続、

ビジネス関係者の移動、基準・適合性及び電子商取引―に関する行動と措置を更新・見

直したものであった。APEC政策支援ユニットは最近、TFAP IIに関する中間評価を完

了したが,基礎となる世界銀行の詳細な二国間・多国間貿易データ詳細の改訂を受け、

現在、貿易取引費用の変化に関する最初の推定の見直しが行われている。したがって、

本項は、同見直し完了後に更新される。

IFAP は、2008 年、域内の投資環境を改善することを目的として貿易担当大臣(MRT

に承認されたものである。IFAP の主な目的は、地域の経済統合を強化し、競争力を強

化し、各エコノミーの経済成長の持続可能性を強化し、APEC地域の繁栄と雇用機会を

拡大し、かつ、ボゴール目標の達成に向けて更なる進展を図ることである。10 現在、

IFAP の実施の有効性を計るための主要業績評価指標(KPI)に関する議論が行われて

いる。IFAPに明記されている措置の成果は、KPIをを頼りに評価される。

6. 構造改革

2003年、APEC首脳は、APEC地域における構造改革を加速することに同意し、かつ、

アジア太平洋地域における持続可能な経済成長と開発を確実化するために構造改革を継

続することに対する APEC の強固な政治的コミットメントを改めて表明した。APEC

地域における構造改革をさらに進めることに対する政治的コミットメントを再確認し、

リーダーシップを発揮するため、APEC 首脳は、2004 年に「構造改革実施のための首

脳の課題」(LAISR)を採択し、かつ、2005 年に「構造改革実施のための首脳の課題に

関する 2010年までのAPEC作業計画」(LAISR 2010)を採択した。この課題は、5つの分

野―規制改革、競争政策、公共部門の統治、企業統治、及び、経済的・法的基盤の強化

―を対象としている。APEC経済委員会(EC)は、2007年、5つのテーマのそれぞれ

に関して、詳細で意欲的な作業プログラムを策定した。2008 年、LAISR 推進のため、

初のAPEC構造改革閣僚会合が開催された。

2010年、ECはLAISRの活動内容を把握する調査を実施し、APEC及び参加エコノミ

ーの進捗を特定した(その詳細については‘APEC エコノミーにおけるLAISR イニシ

9 APEC 2007/MRT/004 10 APEC 2008/MRT/R/004

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アチブ及び構造方針の進捗状況把握’を参照)。また、現状下で構造改革をより円滑化さ

せるべく、EC は優先順位分野を再構成し、競争政策、会社法と企業統治、ビジネス環

境の向上、公共部門管理、規制改革を優先分野に定めた。競争政策・法グループは、専

門家グループとして存続することとなった。

さらに、LAISRの大きな進捗を踏まえ、APECは2010年、構造改革課題の範囲を拡大

し、高級実務者のリーダーシップの下、‘APEC 構造改革のための新戦略(ANSSR)’

の実施を決定した。同戦略は、次の事項をカバーしている:LAISRの目指している、よ

り開かれた、機能する、透明性の高く競争力のある市場;より機能する、規則の整った

金融市場;労働市場の機会、訓練及び教育;女性及び脆弱な層への、中小企業の発展及

び機会の強化;そして効果的かつ財政持続性のあるセーフティネット計画、である。