Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的...

15
-1- 光の特性実験 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色LED)、赤外線発光ダイオード(赤 外線 LED)、半導体レーザダイオード(LD)の三種類について取り上げ、各素子の特性と特 徴を知る。また、赤色発光ダイオード(赤色LED)、赤外線発光ダイオード(赤外線LED)、 半導体レーザダイオード(LD)とフォトトランジスタ(PTr)を用いて、直接変調方式によ る E(電気信号)/O(光信号),O/E 変換の基礎と光の性質や周波数特性について理解す る。 関係知識 (1) 赤外線発光ダイオードについて 赤外線とは 赤外線とはその波長が可視光線よりも長く、マイクロ波よりも短い電磁波の総称で、 1800年頃発見された。ある温度の物体はすべて、その温度に応じた波長の光が、自然 に放射される。したがって、肉眼で見て光っていない物体も波長の長い赤外線も放射 されていることもありうる。 赤外線の波長範囲は760nmから1mm程度までの範囲で、直接目で見ることはできない が、太陽や白熱電球、人間や動物の身体、また熱せられた石やセラミックなどからも 放射されている。その中でも波長が760nm~1.5μmを近赤外線、1.5μm~5μmを中赤外 線、5μm~100μmを遠赤外線、100μm~1mmを極遠赤外線などと呼ばれて区別してい る。 赤外線発光ダイオード 発光ダイオード(LED:Light Emitting Diodeはpn接合によって構成され順方向通 電を行うことで電子の持つエネルギーを直接光のエネルギーに変換するデバイスであ る。LEDの中でも波長が、800nmから1000nmの赤外領域で発光するものを赤外線LEDとい う。 赤外線は、可視光線(人間の眼で感じることができる電磁波)ではない。そのため 赤外線ダイオードは表示用には使用できない。光を受光するフォトダイオード(PD: Photo Diode)やフォトトランジスタ(PTr:PhotoTrnsistor)といった受光素子と組 み合わせて、テレビやエアコン、携帯電話やパソコンのデータ通信などの光通信に用 いられている。 また、人間の目で確認できる可視光の発光ダイオードに比べて効率がよく、散乱が 少ない。短い周期のパルスであれば最大1[A]まで電流を流すことができる製品もあり、 電流に比例して発光強度(放射強度)が強くなる特性を持つ。 LEDが世の中に誕生した当初は、この赤外線発光だけで、発光輝度もあまり高くなか った。LEDが誕生して数十年経過した現在では、可視光での発光が可能となり、また電 気的エネルギーが少なくかつ長寿命であることから、家電製品のパイロットランプ、 自転車の電気や懐中電灯など照明に用いられるようになった。また、青色の高輝度LED も実現してフルカラーディスプレイとして競技場などの大型ディスプレイに使用され るなど、様々な装置の発光光源として幅広く活躍している。

Transcript of Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的...

Page 1: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-1-

Ⅲ 光の特性実験

1 目的

通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色 LED)、赤外線発光ダイオード(赤

外線 LED)、半導体レーザダイオード(LD)の三種類について取り上げ、各素子の特性と特

徴を知る。また、赤色発光ダイオード(赤色 LED)、赤外線発光ダイオード(赤外線 LED)、

半導体レーザダイオード(LD)とフォトトランジスタ(PTr)を用いて、直接変調方式によ

る E(電気信号)/O(光信号),O/E 変換の基礎と光の性質や周波数特性について理解す

る。

2 関係知識

(1) 赤外線発光ダイオードについて

ア 赤外線とは

赤外線とはその波長が可視光線よりも長く、マイクロ波よりも短い電磁波の総称で、

1800年頃発見された。ある温度の物体はすべて、その温度に応じた波長の光が、自然

に放射される。したがって、肉眼で見て光っていない物体も波長の長い赤外線も放射

されていることもありうる。

赤外線の波長範囲は760nmから1mm程度までの範囲で、直接目で見ることはできない

が、太陽や白熱電球、人間や動物の身体、また熱せられた石やセラミックなどからも

放射されている。その中でも波長が760nm~1.5μmを近赤外線、1.5μm~5μmを中赤外

線、5μm~100μmを遠赤外線、100μm~1mmを極遠赤外線などと呼ばれて区別してい

る。

イ 赤外線発光ダイオード

発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)はpn接合によって構成され順方向通

電を行うことで電子の持つエネルギーを直接光のエネルギーに変換するデバイスであ

る。LEDの中でも波長が、800nmから1000nmの赤外領域で発光するものを赤外線LEDとい

う。

赤外線は、可視光線(人間の眼で感じることができる電磁波)ではない。そのため

赤外線ダイオードは表示用には使用できない。光を受光するフォトダイオード(PD:

Photo Diode)やフォトトランジスタ(PTr:PhotoTrnsistor)といった受光素子と組

み合わせて、テレビやエアコン、携帯電話やパソコンのデータ通信などの光通信に用

いられている。

また、人間の目で確認できる可視光の発光ダイオードに比べて効率がよく、散乱が

少ない。短い周期のパルスであれば最大1[A]まで電流を流すことができる製品もあり、

電流に比例して発光強度(放射強度)が強くなる特性を持つ。

LEDが世の中に誕生した当初は、この赤外線発光だけで、発光輝度もあまり高くなか

った。LEDが誕生して数十年経過した現在では、可視光での発光が可能となり、また電

気的エネルギーが少なくかつ長寿命であることから、家電製品のパイロットランプ、

自転車の電気や懐中電灯など照明に用いられるようになった。また、青色の高輝度LED

も実現してフルカラーディスプレイとして競技場などの大型ディスプレイに使用され

るなど、様々な装置の発光光源として幅広く活躍している。

Page 2: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-2-

ウ 構造と発光原理

発光ダイオードの基本構造は、pn接合ダイオードである。順方向電圧を加えたときp

型半導体側からは正孔が、n型半導体側からは電子がpn接合部に向かって移動して電流

が流れる。この接合部付近で正孔と電子が再結合してその際に自然発光する。正孔と

電子がそれぞれ持っていたエネルギー合計と再結合した後のエネルギーの合計を比較

すると、再結合した方が小さくなる。このエネルギーの差が光や熱となり放出される。

これが発光ダイオードが発光する原理である。

発光ダイオードは化学化合物を用いた直接遷移型(上位準位の原子が光エネルギー

を放出して下位準位に遷移すること)の半導体を使用する。赤外線発光ダイオードに

は活性層にインジウム・ガリウム・ヒ素・リンを用い、クラッド層にインジウム・リ

ンなどの材料が用いられる。放射する光の波長(発光色)は、構成される半導体の材

質や添加物により決まる。

(2) 半導体レーザについて

ア レーザとは

レーザ(LASER)とは、発明者の造語で、Light Amplification by Stimulated Emission

of Radiation(誘導放出を利用した光の発振・増幅器)の頭文字である。光をある仕

組みで増幅させて、波長や位相などの特性がそろったビーム状の光をレーザ光という。

その特徴としては、①指向性が高い②単色性がよい③可干渉性(コヒーレント)が良

いなどである。

発光は、原子の周りの電子がエネルギーの低い軌道へ落ちるとき、そのエネルギー

を光として放出することから生じる。電子の落ち方として、自ら光を放出する場合を

自然放出といい、その光は一般に自然光と呼ばれる。自然光はいろいろな波長が混ざ

り位相もずれている。太陽光や蛍光灯、白熱電球の明かりなど身の周りのほとんどの

光がこれに相当する。また、外部の光により電子に刺激を与えて強制的に発光する場

合を誘導放出という。この誘導放出によって生じる光は、外部からの光を与えるため、

その光を利用して、連鎖的に発光していく。そのため結果的に波長や位相がそろった

強い光が発せられる。これがレーザ光である。

p 型半導体n 型半導体

電子 正孔

再結合

発光

図Ⅲ-1 pn 接合ダイオード

Page 3: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-3-

レーザ光

イ 半導体レーザ

半導体レーザダイオードのことを単にレーザダイオード(Laser Diode)とも呼ばれ

LDと略す。その特徴を幾つか挙げる。小型で、高い強度の光を発生することが可能で

他の部品と一体化し光モジュールとして用いることができる。また、電流の強弱で簡

単にレーザ出力を制御できるため、変調という操作を行いデータ通信に利用可能であ

る。大量に安価で製造でき、光ディスクドライブやスキャナとして利用されている。

また、レーザ光の高い集光性からレーザポインタや計測機器に用いられている。

ウ 半導体レーザの基本的な構造

p型とn型の半導体を接合させたダイオード型の構造であり、このpn接合部が発光層

となる。この発光層のことを活性層と呼び、活性層をはさむ両側の層をクラッド層と

いう。p型とn型のそれぞれあるストライプ状の電極に電圧を加えることによって発光

する。図Ⅲ-2に基本的な構造を示す。図Ⅲ-3に半導体ダイオードを示す。

エ 安全基準

レーザ光を使用する場合、特性に合わせた安全対策を十分にとる必要がある。レー

ザ光の人体への影響を考慮して国際電気標準会議IECで最大許容露光量を設定した安

全基準が定められている。特にレーザ光が直接目に入ると網膜に損傷を受ける。使用

中に反射したレーザ光線が目に入るという事故や、可視光以外のレーザ光で、気がつ

かないうちに目にダメージを受ける事故もある。したがってレーザ光を使用する際に

は波長・強さに適合した防護めがねの着用が望ましい。表Ⅲ-1に、概要を示す。これ

により、レーザを用いた製品を製造しているメーカは、クラス2以上の製品には警告・

説明のラベルを貼ることが義務付けられている。また、JISにおいても許容被曝放出限

界が定められている。

図Ⅲ-3 半導体レーザダイオード(左)

図Ⅲ-2 基本的な構造

p 型半導体

pn 接合部

n 型半導体 発光層

電池

ストライプ状の+電極

Page 4: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-4-

(3) 光源の特性について

赤外線ダイオードと半導体レーザにおいて基本特性である光学的特性(順電流-光出力

特性)と信号を伝送するうえで重要となる周波数特性についての実験を行う。

ア 順電流-光出力特性(I-L 特性:Injection current-Light output 特性)

(ア) 赤外線ダイオードの I-L 特性

赤外線発光ダイオードは、pn 接合の順方向電流による正孔と電子の再結合時の発

光を利用しているため、定格以内の電流を流した場合、放射束1は電流にほぼ比例し

て増加する。図Ⅲ-4 に一般的な順電流―放射束特性を示す。

この光出力は周囲の温度に影響されやすい。周囲の温度が高くなるに従い光出力は

低くなる。これは温度上昇に伴い、発光するために使われる電流の割合が低くなるた

めである。ここで放射束をΦ[mW]で表す。

(イ) 半導体レーザのI-L特性

注入した電流に対するレーザ光の出力特性は、最も基本的な特性である。この特性

は、半導体レーザの電流を増減し動作させ、フォトダイオードの電圧から光の出力

を確認することで計測する。始めは自然発光で少しずつ光出力を増していくが、レ

ーザが発光し始めるしきい値電流Ith(発振開始電流)を超えるとレーザ発振が始ま

り、加えている電流と供に光出力が急激かつ直線的に増加する。実用上、このしき

い値の電流は小さいほど良い。図Ⅲ-5に光出力Lと電流Iとの関係を示した一般的な

I-L特性を示す。電流の増加⊿Iに対する光出力の増加⊿Lの比(傾き)を微分量子効

率ηp[mW/mA]と呼び、電流を増加させた時にどの程度の光強度が増加するかを表わし

1 放射束とは、単位時間あたり光の通過しているある面積を通るエネルギーの量を示す。単位は W(ワット)

を用いる。

クラス 基準・程度 使用例

1本質的に安全。どのような条件でも最大許容露光量を超えない。

レーザポインタ

2波長400nm~700nm(可視光)1mW以下の出力(まばたきで保護できる程度)

3A 連続波レーザ5mW以下

直視は危険

バーコードリーダ

3B 連続波レーザ0.5W以下光ディスクドライブ光ファイバ通信用光源

4A連続波レーザ0.5W超え散乱反射も危険皮膚障害や著しい人体障害を与える

部品加工・溶接用の炭酸ガスレーザYAGレーザ

図Ⅲ-4 順電流―放射束特性(両対数グラフ)

表Ⅲ-1 レーザ光線の安全基準

0.01

0.1

1

10

1 10 100 1000

順方向電流 IF [mA]

放射

束Φ

[mW]

Page 5: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-5-

ている。この傾きが大きいほど特性は良い。半導体レーザを評価する一つの指標と

して用いられるが、静電気などのサージによって半導体レーザが劣化してしまい光

学損傷を起こすと、この傾きが一定でなく途中で折れ曲がる(キンク)。図Ⅲ-6にそ

の例を示す。その他に効率が低く光出力が出ない場合がある。なお、I-L特性は温度

上昇に影響を受けやすく、しきい値が上がったり、また、効率が下がって出力が落

ちるなど、半導体レーザの劣化を確認することもできる。

図Ⅲ-5 I-L特性(一般) 図Ⅲ-6 I-L特性(キンク)

イ 周波数特性

周波数特性は、回路の周波数に対応する特性を示している。各デバイスにおいて構

成される回路での供給値、測定値などの性能量の値、または応答が周波数によって変

化する様子を示す。 実際には、増幅器などにおいて各周波数に対応する振幅又は増

幅度の関係を示す事が多い。

音声を例に挙げると、周波数特性から分かることは、どの周波数からどの周波数ま

で (低い周波数から高い周波数)の音を再現できるかということに対応している。数

値の幅が広いほど、低音域から高音域まで幅広く再現でき音が良く再生されたことに

なる。

(ア) 光通信

光通信には、光の伝送路によって、家電用リモコン装置に使われているような空

間伝送方式と、通信に使われる光ファイバ伝送方式がある。これまで通信用に使わ

れてきた電線(銅線)や電波による無線通信に比べ、表Ⅲ-2のような特徴がある。

光出力(強度)L

←キンク

注入電流 Iしきい値 Ith

光出力(強度)L

注入電流 Iしきい値 Ith

自然発光

レーザ発振

⊿L

⊿I

・電磁誘導などノイズの影響を受けないため安定した通信が可能である。

・レーザ光を使用した場合、高速かつ長距離の伝送が可能である。

・電波に比べて大容量の通信が可能である。

・高周波信号を電線で伝送すると、伝送距離が長くなるほど減衰が大きくなるが、光ファイバ

伝送方式では減衰が非常に少ない。

表Ⅲ-2 光通信の特徴

Page 6: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-6-

(イ) 光ファイバ

光ファイバは、図Ⅲ-7の様に鉛筆のような形状をしている。芯に相当する部分が

コア、その周りをクラッドと呼ぶ。コアとクラッドでは、屈折率の異なる物資で構

成されており、コアの屈折率は、クラッドより高い。コアの部分の屈折率分布の違

いからステップ型、グレーテッド型の2種類に分けられる。図Ⅲ-8は、屈折率の分

布形状を図式化したものである。グレーテッド型では、コアの外側に行く程屈折率

が小さくなることを表している。

(ウ) フォトトランジスタ

フォトトランジスタは通常、図Ⅲ-9のようにNPN型の構造で、受光部にはコレク

タ・ベース接合となっている。図Ⅲ-10に等価回路を示す。フォトトランジスタと

は、フォトダイオードがベースコレクタ間に接続されている構造となっている。

フォトトランジスタに次式(3・1)を満足する光が入射すると、電子はコレクタ

のn層へ、正孔はベースであるp層へ各々移動する。その結果、ベースエミッタ間

は順バイアスされ、通常のトランジスタ同様、エミッタより電子の移動が始まり、

ベースを通り抜け、少数キャリアである電子に対し順バイアスされているコレク

タに収束される。このように、光の強弱によってベース電流が制御され、増幅さ

れたコレクタ電流が制御される。コレクタ電流ICELはコレクタ・ベース間の光電流

ICBLのhFE倍された値となる((3・2)式)。

Eg<hν=hc/λ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3・1)

Eg:半導体のエネルギーギャップ、h:プランク定数、ν:振動数、λ:波長

ICEL≒ICBL×hFE・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3・2)

クラッド

コア

図Ⅲ-7 光ファイバの構造

図Ⅲ-8 屈折率の分布形状

n1

n2

n1

n1

n2

n1

ステップ型 グレーデッド型

図Ⅲ-10 フォトトランジスタとフォトダイオードを用いた等価回路

EB

フォトダイオード

RL

ICBL

IC=hFE×ICBL

図Ⅲ-9 NPN 型フォトトランジスタ

C:コレクタ

E:エミッタB:ベース

Page 7: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-7-

hFEは通常のフォトトランジスタで500程度、高出力のものではhFE=1000以上の

ものがある。フォトトランジスタの光電流は、フォトダイオードの光電流に比べ、

式(3・2)のようにhFE倍され、数百倍の値となる。フォトトランジスタより更に

出力が必要な場合は、ダーリントン接続されたフォトダーリントントランジスタ

を用いる。フォトダーリントントランジスタは、フォトトランジスタの数百倍の

出力を持ち、数Luxの照度で動作する。

(エ) フォトダイオード

通常逆方向に電圧を加えた時、ダイオードには電流がほとんど流れないが、こ

のダイオードの接合部に光を当てると、光のエネルギーにより、電流が流れるよ

うになる。このような原理で接合部に光が当たりやすくしたダイオードがフォト

ダイオードである。

3 実験

(1) I-L 特性実験

ア 使用機器

今回使用した機器一覧を表Ⅲ-3に示す。

表Ⅲ-3 I-L 特性実験の使用機器一覧

品 名 数量 備 考赤色半導体レーザダイオード 1 DL-3247-165(三洋電機㈱製)赤外線発光ダイオード 1 TLN105(東芝セミコンダクター社製)赤色発光ダイオード(赤色 LED) 1 TLSU180Pフォトトランジスタ 1 TPS603Aフォトトランジスタ 1 SPS135C抵抗 51Ω 1 発信回路に使用する抵抗 2.2kΩ 1 受信回路に使用する直流電源装置 2デジタルマルチメータ 2

(ア) 赤色半導体レーザダイオード(赤色 LD)

使用した赤色LD(DL-3247-165)の主な仕様を表Ⅲ-4に示す。また、形状とピン

配置を図Ⅲ-11に示す。

(イ) 赤外線発光ダイオード(赤外線 LED)

使用した赤外線LEDは、TLN105(東芝セミコンダクター社製)である。主な仕様を表Ⅲ-

5に示し、図Ⅲ-12に形状とピン番号、図Ⅲ-13に波長特性を示した。この製品は廃

止品で、代替品としてTLN105B(F)となっている。

図Ⅲ-11 DL-3247-165 の形状

・発振波長 :650nm・しきい値電流:25mA・動作電流 :35mA・動作電圧 :2.3V

表Ⅲ-4 赤色 LD の主な仕様(DL-3247-165:三洋電機製)

・直流順方向電流 :100mA・パルス順電流 :1A・ピーク発光波長 :950nm

表Ⅲ-5 赤外線 LED の主な仕様(TLN105:東芝セミコンダクター社製)

Page 8: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-8-

(ウ) 赤色発光ダイオード(赤色 LED)

TLSU180P(F)(東芝セミコンダクター社製)を使用した。この主な仕様を表Ⅲ-6に、波長

特性を図Ⅲ-10、形状とピン番号を図Ⅲ-11に示す。

(エ) フォトトランジスタ(PTr)

使用したフォトトランジスタは、TPS603A(東芝セミコンダクター社製)である。現在廃

止品で、代替品は TPS615(F)である。ピーク感度波長は 720nm である。形状を図Ⅲ

-16 に、分光感度特性を図Ⅲ-17 に示す。

図Ⅲ-14 波長特性(TLSU180P)出展(東芝セミコンダクター社)

図Ⅲ-13 ピーク発光波長 TLN105B(廃止品)出展(東芝セミコンダクター社)

・材料 :InGaAℓP ・直流順電流 :30mA・発光スペクトル :636nm

表Ⅲ-6 赤色 LED の主な仕様(TLSU180P(F):東芝セミコンダクター社製)

図Ⅲ-12 赤外線発光ダイオード(TLN105B)の形状とピン配置

Ⅲ-15 TLSU180P(F)形状とピン番号

出展(東芝セミコンダクター社)

Page 9: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-9-

イ 実験回路図

測定に使用した発光回路図と受光回路図を、図Ⅲ-18と図Ⅲ-19に示す。図Ⅲ-18の発

光回路には、直列に電流計(A)を入れ電流値を測定できるようにする。電流値を変化

させるために、直流電源(E1)を可変させる。図Ⅲ-19の受光回路では、フォトトランジ

スタ(PTr)により回路に流れる電流が変化するので、抵抗R(2.2KΩ)の両端の電圧

を測定するようにした。実際の写真を図Ⅲ-20・図Ⅲ-21に示す。

図Ⅲ-20 受信回路と発信回路(上部) 図Ⅲ-21 受信回路と発信回路(側部)

LD

E1

R=51Ω

PTr

E2=5.0V

R=2.2kΩ

LD

LED

図Ⅲ-19 受光回路図Ⅲ-18 発光回路

図Ⅲ-17 分光感度特性TPS603A(廃止品)

(出展(東芝セミコンダクター社))

コレクタ

エミッタ

図Ⅲ-16 フォトトランジスタ(PTr)TPS603A(廃止品) 形状とピン配置

出展(東芝セミコンダクター社)

E1

E2=5.0V

Page 10: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-10-

ウ 実験手順

① 図Ⅲ-18、図Ⅲ-19のように結線する。

② 赤色LEDとフォトトランジスタを約3cm離し、向かい合わせて置く。

③ 外乱を防ぐためにカバー(図Ⅲ-22)を置く。

④ 発光回路の直流電源装置の電圧を0Vから次第に上げて、赤色LEDの電流を、3mA

ごと変化させて、フォトトランジスタの電圧値を測定する。同様に赤外線LED、LD

についても同様に実験を行う。

エ 実験結果

測定結果を、表Ⅲ-7に記録する。

オ 結果の整理

① 横軸に各光源に流れる電流、縦軸にPTrの電圧をとり、グラフを書くこと。

② グラフより、各光源のI-L特性にしきい値(発振開始電流)を確認すること。

③ 実験結果の一例を表Ⅲ-8、図Ⅲ-23、図Ⅲ-24、図Ⅲ-25に示す。

電流

[mA]

PTr の電圧[V]

赤色 LED V

[mV]

赤外線 LED

[V]

LD

[V]

0

3

6

9

12

15

18

21

24

27

30

表Ⅲ-7 I-L 特性

図Ⅲ-22 遮光用カバー

Page 11: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-11-

表Ⅲ-8 I-L 特性例

電流I[mA]

PTr の電圧

赤色 LEDV[mV]

赤外線 LEDV[V]

LDV[V]

0 0 0 0

3 58 0.66 0.0002

6 140 1.59 0.0006

9 231 2.48 0.0013

12 330 3.42 0.0031

15 428 4.18 0.0061

18 525 4.76 0.0145

21 623 4.80 0.0532

24 716 4.82 1.2800

27 809 4.82 3.3000

30 898 4.83 4.7300

④ 各自計測した値と比較し、考察すること。(例えば、しきい値の値とかについて)

図Ⅲ-23 I-L 特性(LED)例

I-L特性(LED)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

LEDの電流[mA]

PTrの

電圧

[mV]

図Ⅲ-24 I-L 特性(赤外線 LED)例

I-L特性(赤外線LED)

0

1

2

3

4

5

6

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

赤外線LEDの電流[mA]

PTrの

電圧

[V]

図Ⅲ-25 I-L 特性(LD)例

I-L特性(LD)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

LDの電流[mA]

PTrの

電圧

[V]

Page 12: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-12-

(2) 周波数特性実験

ア 使用機器

測定に使用する機器を、表Ⅲ-9に示す。

イ 実験回路図ならびに配線図

実験基板の回路図を、図Ⅲ-26 に示す。

ウ 実験手順

① 図Ⅲ-27、図Ⅲ-28のように、送信用実験基板と受信用実験基板を結線する。全体の

配線図を図Ⅲ-29に示す。

② 送信用実験基板と受信用実験基板に電源電圧 10V を加え、赤外線発光ダイオードと

フォトトランジスタの距離を 10cm 程度離して向かい合わせる。

③ オシロスコープで波形を見ながら、波形が歪まないように低周波発振器の出力電圧

を調整する。(実験環境により、かなり値に違いが出る。蛍光灯など消灯し、カーテ

ンを閉め、光素子の部分を囲い、外乱光に対する考慮が必要である。)

機器の名称 記号 備考

実験基板(自作) 図Ⅲ-26に示す。

低周波発振器 OSC 10Hz~1MHz

電子電圧計 Vi,Vo 0~200mV

オシロスコープ OS 2現象,20MHz

直流電源 E1,E2 10V

OSC 1μF

10kΩ

15kΩ

2SC1815

100Ω

TLN105

100μF 10V

Vi

10V

Vo

100μF

LM386B

250μF

0.047μF

1μF

10kΩ

SPS135C

10Ω

スピーカOS

図Ⅲ-27 送信用実験基板 図Ⅲ-28 受信用実験基板

表Ⅲ-9 使用機器

図Ⅲ-26 実験回路図

(a)送信回路 (b)受信回路

Page 13: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-13-

④ 発振器の周波数を20Hz~5kHzまで変化させ、各出力電圧Vo[mV]を表Ⅲ-11に記録

する。このとき、Vi=100mVに固定する。同様に光源を可視光LED(赤色)とLD(半

導体レーザ)に換えて実験する。

⑤ 信号波の周波数1kHzのときの波形を、グラフ用紙にスケッチする。波形は2周期以上

スケッチする。

エ 実験結果

各素子の測定結果を表Ⅲ-10 に記録する。

表Ⅲ-10 各素子の周波数特性

周波数 f [Hz] 20 30 50 70 100 200 300 500 700 1k 2k 3k 5k

出力特性

Vo[mV]

赤色 LED

赤外線 LED

LD

オ 参考例

参考に測定した結果を表Ⅲ-11、図Ⅲ-30、図Ⅲ-31 に示す。

Ⅲ-11 光通信の周波数特性(Vi=100mV 一定)

周波数 f [Hz] 20 30 50 70 100 200 300 500 700 1k 2k 3k 5k

出力特性

Vo[mV]

赤色 LED 105 132 161 171 180 183 182 182 181 176 156 132 98

赤外線 LED 66 85 103 110 113 118 118 118 116 112 100 88 63

LD 12 21 22 21 20 21 21 22 21 22 19 16 12

図Ⅲ-31 オシロスコープの波形(参考)

図Ⅲ-29 実験装置全体

光通信の周波数特性

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

20 30 50 70 100 200 300 500 700 1k 2k 3k 5k 7k 10k

周波数 f [Hz]

出力

電圧

Vo[mV]

赤色LED

赤外線LED

LD(半導体レーザ)

図Ⅲ-30 周波数特性(参考)

Page 14: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-14-

(3) 距離と信号の測定

ア 実験手順

① 図Ⅲ-32のように、送信用実験基板と受信用実験基板の距離を5cmを隔てセットす

る。

② 送信用実験基盤に、一定の周波数(1kHz)を信号周波数として加え、発信させる。

③ 受信側の、電圧を表Ⅲ-12に記入する。その後、距離を5cm間隔で変化させ、その

ときの出力電圧を測定する。20cmまで測定する。

④ 測定結果をグラフに記入する。

⑤ 実験結果の一例を表Ⅲ-13、図Ⅲ-33に示すので、各自が測定したものと比較せよ。

イ 実験結果

距離[cm] 5 10 15 20

出力電圧 Vo[mV]

ウ 参考例

表Ⅲ-13 と図Ⅲ-33 に参考データを示す。

表Ⅲ-13 距離と信号の測定

距離[cm] 5 10 15 20

出力電圧 Vo[mV] 289 123 79 55

図Ⅲ-32 距離と信号の測定

表Ⅲ-12 距離と信号の測定

図Ⅲ-33 距離-出力電圧

0

50

100

150

200

250

300

350

5 10 15 20

距離[cm]

出力電力Vo[mV]

Page 15: Ⅲ 光の特性実験 · 2012. 3. 29. · -1-Ⅲ 光の特性実験 1 目的 通信に利用される光として、赤色発光ダイオード(赤色led)、赤外線発光ダイオード(赤

-15-