アルヴァックスの集合的記憶論における 過去の実在性slogos/archive/34/kin2010.pdf25 ソシオロゴス NO.34 /2010 1 はじめに――構築主義的記憶論の克服
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6.記憶 記憶研究の意義
• 記憶は人の「内面生活」を支える基本。
• つまり人格と時間の永続性の基盤。
6.記憶
1.記憶理論の変遷 2.記憶のシステムと脳 3.日常生活の記憶
1.歴史的経過と理論の変遷
(1)最初の記憶研究 (2)記憶の古典的情報処理モデル (3)古典的モデルへの批判 (4)活性拡散とネットワーク・モデル
(1)最初の記憶研究
• Hermann Ebbinghaus (1850-1909) 無意味綴り(Nonsense
Syllables)を用いた精密な定量的研究。
実験今から8個の無意味綴り(ぬよ、など)が順番に画面に提示されます。あとで思い出していただきますので、がんばってよく記憶してください。
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なね ぬむ
終了です
提示された8個の無意味綴りを、順不同で書き出してください。
無意味綴りの暗記実験からわかる記憶の性質
*時間と忘却の関係(忘却曲線) *系列位置効果(Serial Position Effects) *保持努力=リハーサルの重要性
忘却曲線 系列位置効果初頭効果 終末効果
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リハーサルの重要性
• 「頭の中」で音響的に情報をくりかえすことが、記憶の保持には重要である。
以下で述べるように、リハーサルを妨害すると再生成績は顕著に低下し、また系列位置効果に影響する。
(2)古典的情報処理モデル
① 短期記憶と長期記憶の区別 ② 短期記憶の特徴 ③ Atkinson & Shiffrin (1968) の情報処理モデル
① 短期記憶と長期記憶の区別 (Short vs Long Term Memory)
「記憶」といってもひとつではない。 努力しないとすぐに忘れる記憶と、 努力しなくても忘れない記憶がある。
② 短期記憶の特徴
*容量の限界(space limit) 非常にわずかの情報量しか保持できない。 Magical Number 7±2 (Miller,1956) *時間の限界(time limit) 保持努力をしないと急速に失われる。 リハーサル妨害の効果 (Peterson & Peterson,
1959)
③ Atkinson & Shiffrin (1968) の情報処理モデル
3つの記憶システムが直列に結合。 ①感覚貯蔵庫が大量の情報を一瞬保持。 注意のフィルタを通過した情報のみが、 ②短期記憶へ転送され、意識化される。 そのうち十分にリハーサルされた情報が、 ③長期記憶へ転送され、「知識」となる。
③ Atkinson & Shiffrin (1968) の情報処理モデル
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③ Atkinson & Shiffrin (1968) の情報処理モデル
このモデルは、エビングハウスの伝統を集大成し、さらにブロードベントの注意のフィルタモデルを統合した情報処理モデル。初期の認知心理学成立の象徴でもある。
「現象」に「説明」を与えることに成功した。
「現象」に「説明」を与えた例
• 遅延再生やリハーサル妨害によって終末効果が減少する=短期記憶機能の反映
(3)古典的モデルへの批判
① 理論上の問題点 • 3つの構造が独立とはいえないことを示す実験結果が多く報告された。
• 柔軟性に欠け、 意味と知識の役割をとらえきれない。
• 無意味つづりの丸暗記学習以外にはあまりよく当てはまらない。
(3)古典的モデルへの批判
② 古典モデルでは取り扱えない、興味深い記憶現象
• 処理の深さ (Craik & Lockhart, 1972)
• 状況依存記憶 (Baddeley, 1976)
処理の深さ(処理水準)
• 方向付け課題による偶発的学習を測定。
• 深く処理した情報は想起しやすい。
• 物理構造→音韻→カテゴリ→文 の順で処理は深くなる。一番深いのは自己参照的な処理。
状況依存的記憶
• 記銘時と再生時の状況の類似性が想起成績に影響する(Baddeley,1976)
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もう一つの伝統:記憶と意味
• Sir Frederick C. Bartlett (1886-1969) 記憶における意味の重要性を早くから指摘し、エビングハウスの伝統を批判。現代の日常記憶研究の先駆。
(4)活性拡散とネットワーク・モデル
• 処理の深さや状況依存記憶は、「意味」が記憶に決定的であることを意味する。
• 記憶研究は「意味の構造=長期記憶の性質」へと向かう。
• Collins & Luftus (1975)などによるネットワーク・モデルの提唱。
Semantic Network 活性の拡散
モデルを支持する実験的事実
• ① 意味プライミング効果 • (Meyer & Schvaneveldt, 1971)
• ② 扇効果 (Anderson,1974)
• ③ 再生と再認の比較
実験まず単語が、次に単語か無意味つづりが提示されます。2つ目の刺激が意味のある単語かどうか判断し、できるだけ早くボタンを押してください。
意味プライミング効果
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① 意味プライミング効果
• 先行刺激(プライム)と標的刺激(ターゲット)の間に意味的関連があると、ターゲットに対する反応時間が短くなる。
関連あり 中立 関連なし
抑制効果
促進効果
反応時間
② 意味プライミング効果
• プライムの提示が意味ネットワークのある領域を活性させる。
• そこに活性領域の意味的な「近く」にあるターゲットが提示される。
• 前もって活性が上昇している分、ターゲットの処理が早くなる=促進効果
• 音韻やつづりによるプライミングも存在する。=心理言語学の有力な武器となった。
多義語を用いた2重プライミング
• Chiarello (1998)
おかし あめ
かさ
さとう
文脈プライム 多義語プライム ターゲット
(文脈に不一致)
(文脈に一致)文脈一致条件のみでプライミング効果。
=意味の絞り込み機能
(文脈に一致)
② 扇効果
• 文の再認課題 • 「太郎は公園にいる。」「花子は学校へいる。」
太郎 花子
公園 学校
② 扇効果
• 活性ルートが増加すると成績が低下する。
太郎 花子
公園 学校
モデルと実験事実から…
• 拡散する活性が低く、また結合が多すぎて扇効果が大きくなると、探している情報に活性が到達できなくなる=「思い出せない」
• つまり、忘却とは情報の消失ではなく、「検索の失敗」である。