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1 6 歳から 64 歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」 2021 3 17 日) <目次> はじめに 1. 小児および成人の肺炎球菌の血清型分布の動向について 2. 小児及び成人におけるハイリスク者について 3. 慢性心疾患 4. 慢性肺疾患 5. 慢性腎疾患 6. 慢性肝疾患 7. 糖尿病 8. 自己免疫性疾患 9. 悪性腫瘍・臓器移植後 10. 免疫不全(主に小児) おわりに 本稿で使用した略語 PPSV23: 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine (23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカ ライドワクチン) PCV13: 13-valent pneumococcal conjugate vaccine (13 価結合型肺炎球菌ワクチン) IPD: invasive pneumococcal disease (侵襲性肺炎球菌感染症) OPA: opsonophagocytic activity (オプソニン活性) RCT : Randomized controlled trial ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices

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「6 歳から 64 歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」

(2021 年 3 月 17 日)

<目次> はじめに

1. 小児および成人の肺炎球菌の血清型分布の動向について

2. 小児及び成人におけるハイリスク者について

3. 慢性心疾患

4. 慢性肺疾患

5. 慢性腎疾患

6. 慢性肝疾患

7. 糖尿病

8. 自己免疫性疾患

9. 悪性腫瘍・臓器移植後

10. 免疫不全(主に小児)

おわりに

本稿で使用した略語

PPSV23: 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine (23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカ

ライドワクチン)

PCV13: 13-valent pneumococcal conjugate vaccine (13 価結合型肺炎球菌ワクチン)

IPD: invasive pneumococcal disease (侵襲性肺炎球菌感染症)

OPA: opsonophagocytic activity (オプソニン活性)

RCT : Randomized controlled trial

ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices

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はじめに わが国では 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23、商品名:ニューモ

バックスNP®、ニューモバックスNPシリンジ®)と13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13、

商品名:プレベナー13 水性懸濁注®)が薬事承認されており、小児の定期接種ワクチンは

PCV13、65 歳以上の定期接種ワクチンは PPSV23 となっている。これまで PCV13 は 65

歳以上に対しては任意接種ワクチンとして接種が可能であったが、2020 年 5 月 29 日にそ

の接種適応が 6 歳から 64 歳にも拡大された。このことを受けて、日本呼吸器学会・日本

感染症学会は、日本ワクチン学会と共同で、「6 歳から 64 歳のハイリスク者に対する肺炎

球菌ワクチン接種の考え方」についても実地臨床医家を対象に提言することとした。また、

上記年齢のハイリスク者の基礎疾患として、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性肝疾患、慢性

腎疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、悪性腫瘍や臓器移植後、免疫不全等が知られている。

このため、上記 3 学会以外の診療領域を専門とする 5 学会(日本循環器学会、日本腎臓

学会、日本肝臓学会、日本糖尿病学会、日本リウマチ学会)に対し本提言の作成に協力を

依頼し、ご助言をいただいた。その結果、日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本ワクチ

ン学会の 3 学会は上記 5 学会との合意のもとに「ハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン

接種の考え方」を公表する運びとなった。

1. 小児および成人の肺炎球菌の血清型分布の動向について 2010 年 11 月から 5 歳未満の小児に対する 7 価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV7)接種の

公費助成が拡充され、2013 年 4 月から定期接種ワクチンとなった。その後、2013 年 11 月

には PCV7 は PCV13 に置き換わった。その結果、小児のワクチン血清型の侵襲性肺炎球菌

感染症(invasive pneumococcal disease, IPD)は劇的に減少した一方で、非ワクチン血清

型による IPD が増加した 1)。2019 年時点での 5 歳未満 IPD 症例における原因菌の血清型分

布では、PCV13 カバー率は 2.2%まで低下している。

一方、成人の IPD サーベイランスを開始した 2013 年時点において、既に成人 IPD の原

因菌の血清型分布において原因菌の PCV7 ワクチン血清型が減少していた。この結果は小児

に導入された PCV の間接効果と考えられた 2)。2014 年 10 月から、65 歳以上に対しては

PPSV23 が定期接種ワクチンとなったが、PPSV23 定期接種導入による成人 IPD の原因菌

の血清型分布に対する影響は明らかではない。2019 年時点での成人(全年齢)IPD サーベ

イランスの原因菌の血清型分布では、ワクチン血清型のカバー率は、PCV7 で 10.3%、PCV13

で 27.4%、 PPSV23 で 56.8%となっている 3)。また、2017 年以降、PCV13 の血清型カバ

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ー率は 30%を下回り、PCV13 と PPSV23 の血清型カバー率の差は約 30%となっている。

また Ubukata K らが実施したわが国の IPD 患者由来の肺炎球菌サーベイランスでは、

2016 年度の小児 IPD 由来株における PCV13 と PPSV23 含有血清型の割合はそれぞれ

12.1%と 52.5%、成人由来株ではそれぞれ 37.7%と 71.3%であった 4)。

引用文献 1. Suga S, et al. Nationwide population-based surveillance of invasive pneumococcal

disease in Japanese children: Effects of the seven-valent pneumococcal conjugate vaccine. Vaccine 2015;33(45):6054-6060. doi: 10.1016/j.vaccine.2015.07.069

2. Fukusumi M, et al. Invasive pneumococcal disease among adults in Japan, April 2013 to March 2015: disease characteristics and serotype distribution. BMC Infect Dis 2017;17(1):2. doi: 10.1186/s12879-016-2113-y

3. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症疫学情報. https://ipd-information.com. Accessed

March 2, 2021. 4. Ubukata K, et al. Effects of Pneumococcal Conjugate Vaccine on Genotypic Penicillin

Resistance and Serotype Changes, Japan, 2010-2017. Emerg Infect Dis 2018;24(11):2010-2020. doi: 10.3201/eid2411.180326

2. 小児および成人におけるハイリスク者について 肺炎球菌は小児、成人において、菌血症を伴わない肺炎、中耳炎等の非侵襲性感染症や

髄膜炎、菌血症などの侵襲性感染症を起こす。わが国の感染症発生動向調査における IPD

の報告数は 5 歳未満の小児と 60 歳以上の成人に多く、2 峰性を示している 1)。6〜64 歳の

年齢層では定期接種の対象年齢(5 歳未満と 65 歳以上)と比較すると、IPD の報告数は少

ない傾向だが、60〜64 歳では 65 歳以上とほぼ同等の IPD 報告数が認められている。従っ

て、60~64 歳の成人および 6~59 歳の IPD のリスクとなる基礎疾患を有する者がこの年

代の肺炎球菌感染症のハイリスク者と考えられる。

1) 6〜14 歳の小児における IPD の基礎疾患について

6歳以上でIPD罹患リスクが高い基礎疾患を有する小児に対しては、肺炎球菌ワクチンに

よる積極的な予防が推奨される。しかしながら、これまで、6歳以上の年齢のIPDハイリス

ク者に対してPCV13を接種することは、接種対象年齢適応外への接種となってしまうため、

積極的に接種勧奨しにくい状況にあった。実際、日本小児感染症学会会員を対象としたアン

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ケート結果では、定期接種年齢対象外のIPDハイリスク者に対してPCV13も、またPPSV23

も十分に接種されている状況ではなかった2)。

IPDハイリスク者に対して肺炎球菌ワクチン接種を積極的に推奨していくためには、国内

小児のIPD罹患リスクが高い基礎疾患を明確にしておく必要がある。今回、2014~2019年

の全国10道県の小児IPDサーベイランス調査(AMED「菅班」)の結果から、基礎疾患の有

無と基礎疾患の内容について表1にまとめた。この期間の小児IPD患者数は779人で、その

うち基礎疾患を有する者は116人(14.9%)だった。年齢別では、5歳までの基礎疾患がある

者の割合は11.6%(81/698)であったのに対して、6歳~14歳では43.2%(35/81)と高率で

あった。

主な基礎疾患は、先天性心疾患、ネフローゼ症候群を主体とした腎疾患、神経疾患、血液・

腫瘍性疾患、気管支喘息、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症、臓器移植後、髄液漏、

人工内耳、原発性免疫不全症などとなっていた。

2) 15〜64 歳の IPD 患者における基礎疾患について

2013〜2018 年度の期間に 10 道県で実施した成人 IPD サーベイランス(厚生労働科学研

究「大石班」)において 1,702 症例を登録し、その基礎疾患について 15 歳以上の全症例、

15〜64 歳と 65 歳以上に分けて表 2 に示した。15 歳以上の全年齢の基礎疾患としては糖尿

病が最も多く、次に固形癌(治療中)、ステロイド投与、慢性心疾患、自己免疫性疾患等の

順であった。65 歳以上では基礎疾患を認める症例は 72.2%だったが、15〜64 歳では 57.7%

と少ない結果であった。15〜64 歳の主要な基礎疾患としては、糖尿病、自己免疫性疾患、

ステロイド投与、慢性肝疾患、固形癌(治療中)と続き、免疫抑制剤投与、脾摘後、先天性

無脾/脾低形成、造血幹細胞移植後等が認められている。特に、65 歳以上と比べて、15〜64

歳において頻度が高い基礎疾患は自己免疫性疾患、慢性肝疾患、脾摘後、造血幹細胞移植後

等であった。

15〜64 歳の IPD 症例(n=534)の IPD 発症 5 年以内のワクチン接種率について調査し

た。この結果、同年代の PPSV23 接種例は 14 人(2.3%)であり、PCV13 接種例は 1 人も

確認されなかった。一方、65 歳以上の IPD 症例(n=1,168)のうち PPSV23 接種歴ありは

150 人(12.8%)、PCV13 の接種歴ありは 2 人(0.2%)、PCV13・PPSV23 の両方接種あり

は 4 人(0.5%)だった。このように、15〜64 歳の IPD 罹患患者における肺炎球菌ワクチ

ンの接種割合は低率であった。

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表 1 小児 IPD(n=779)の年代別基礎疾患 年代別患者数、No.(%) 年齢グループ 0~14 歳 0~5 歳 6~14 歳 患者数(%) 779(100) 698(100) 81(100) 基礎疾患あり 116(14.9) 81(11.6) 35(43.2) 基礎疾患の種類 先天性免疫不全症候群 4(0.5) 2(0.3) 2(2.5) 血液疾患、小児がん 14(1.8) 4(0.6) 10(12.3) 無脾症 5(0.6) 5(0.7) 0(0.0) 臓器移植後 4(0.5) 2(0.3) 2(2.5) 髄液漏、人工内耳、頭部外傷 4(0.5) 1(0.1) 3(3.7) 染色体異常 7(0.9) 4(0.6) 3(3.7) 神経疾患、てんかん 18(2.3) 13(1.9) 5(6.2) 心疾患 24(3.1) 24(3.4) 0(0.0) 先天性心疾患 24(3.1) 24(3.4) 0(0.0)

腎疾患 16(2.1) 14(2.0) 2(2.5) ネフローゼ症候群 9(1.2) 7(1.0) 2(2.5)

アレルギー疾患 8(1.0) 6(0.9) 2(2.5) 気管支喘息 7(0.9) 5 (0.7) 2(2.5)

早産児、低出生体重児 6(0.8) 5(0.7) 1(1.2) その他 19(2.4) 11(1.6) 8(9.9)

表 2 成人 IPD(n=1,702)の年代別基礎疾患 年代別患者数、No.(%) 年齢グループ 15 歳以上 15〜64 歳 65 歳以上 患者数(%) 1,702(100) 534(100) 1,168(100) 基礎疾患あり 1,151(67.6) 308(57.7) 843(72.2) 基礎疾患の種類 糖尿病 255(15.0) 57(10.7) 198(17.0) 固形癌(治療中) 170(10.0) 36(6.7) 134(11.5) ステロイド剤投与 124(7.3) 39(7.3) 85(7.3) 慢性心疾患 123(7.2) 12(2.2) 111(9.5) 自己免疫性疾患 112(6.6) 41(7.7) 71(6.1) 悪性腫瘍の既往 109(6.4) 12(2.2) 97(8.3) 慢性閉塞性肺疾患 98(5.8) 9(1.7) 89(7.6) 慢性腎臓病 80(4.7) 16(3.0) 64(5.5) 心血管障害 73(4.3) 6(1.1) 67(5.7) 慢性肝疾患 72(4.2) 39(7.3) 33(2.8) 免疫抑制剤投与 44(2.6) 25(4.7) 19(1.6) 脾摘後 39(2.3) 22(4.1) 17(1.5) 先天性無脾/ 脾低形成 30(1.8) 17(1.3) 13(1.1) 造血幹細胞移植後 22(1.3) 19(3.6) 3(0.3) 生物製剤投与 21(1.2) 9(1.7) 12(1.0)

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引用文献 1. 国立感染症研究所. IASR 39 (2018 年 7 月号) 肺炎球菌感染症 2017 年 図 2.

https://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/1372-idsc/iasr-topic/8163-461t.html. Accessed March 3, 2021.

2. 竹下健一他 ハイリスク小児におけるインフルエンザ菌 b 型ワクチン、肺炎球菌ワクチン

接種状況に関するアンケート. 小児感染免疫 2018;30(1):57-62

3. 慢性心疾患 【病態の特徴】

慢性心疾患、特に慢性心不全で肺炎リスクが高まる理由として、心拡大に伴う気管支の圧

迫による換気障害、肺うっ血による気道分泌物の増量および喀痰の喀出困難などが考えら

れる。また心不全下では心拍出量が低下しているため、肺炎を発症した際は通常より容易に

低酸素状態に陥り心不全の急性増悪を来たしやすい。さらに肺炎によって誘導される炎症

性サイトカインや酸化ストレスによって動脈硬化の進展や心機能の低下が起こり、間接的

に心不全の急性増悪へとつながるおそれがある 1)。肺炎球菌性肺炎の患者では心房細動など

の不整脈や心不全などの心疾患イベントの発症リスクが高まることが報告されている 2)。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

デンマークで行われた 15 歳以上の肺炎患者 67,162 例とコントロール 671,620 例の症例

対照研究では、心不全患者と非心不全患者での肺炎リスクを比較検討し、慢性心不全を有す

る場合の肺炎発症リスクのオッズ比は 1.81(95%CI 1.76-1.86)と高かった 3)。

米国で実施された 2006~2010 年の医療費請求統合データベースを用いた基礎疾患別の

肺炎球菌感染症の発症率に関する後方視的解析では、慢性心疾患を有する 65 歳以上の高齢

者の肺炎球菌性肺炎の発症リスクは基礎疾患がない場合より 3.8 倍(95%CI 3.8-3.8)高か

った 4)。2008〜2009 年に英国で実施された IPD 22,298 例の解析では、致命率を並存疾患

ごとに評価し、基礎疾患のない 16〜64 歳は 5.4%であったのに対し、65 歳以上で慢性心不

全を合併した場合は 36.2%と極めて高いことが報告されている 5)。本邦では JMD(Japan

Medical Data Center)と MDV (Medical Data Vision)のデータベースを基に、1,040 万

人(19 歳以上)を対象として基礎疾患と肺炎球菌性肺炎および IPD の発症リスクに関する

後方視的観察コホート研究が実施されており、JMDC、MDV いずれのデータベースでも慢

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性心疾患を有する患者の健常人と比較した肺炎球菌性肺炎と IPD の発症リスクはそれぞれ

7.1(95%CI 5.7-8.8)、15.7(95%CI 8.8-28.0)および 2.6(95%CI 2.3-2.9)、4.7(95%CI

2.8-7.9)と高かった 6)。

慢性心疾患では肺炎球菌性肺炎や IPD を合併しやすく、その致命率も高いと考えられる。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

慢性心疾患を有する患者のみを対象とした肺炎球菌ワクチンの免疫原性に関する評価は

行われていない。肺炎球菌感染症の罹患リスクを有する肺炎球菌ワクチン接種歴のない 6~

64 歳の日本人に PCV13 を単回接種したときの安全性、忍容性および免疫原性の評価が行

われている 7)。この非盲検試験では合計 200 名が PCV13 を接種され、接種対象者には心血

管疾患を基礎疾患に有する者が 6〜17 歳で 11.3%、18〜65 歳未満で 11.8%が含まれてい

た。免疫原性の評価は PCV13 接種 1 か月後のオプソニン活性(OPA)を 13 の血清型につ

いて評価し、その増加倍率(OPA GMFR)で行われている。その結果、65 歳未満の全被験

者において 13 種の血清型すべてについて PCV13 接種前と比較して高かった 7)。

また 105 名の介護施設入所中の 80 歳以上の高齢者(うっ血性心不全の患者が PCV7 接

種群で 24.5%、PPSV23 接種群で 19.6%を含む)を対象とした PPSV23 と PCV7 の免疫原

性の比較研究も行われている。免疫原性は IgG 抗体価 (GMC)と OPA で評価されており、

いずれのワクチンでも免疫原性は認められているが、PCV7 が PPSV23 と比較し高かった

と報告されている 8)。

慢性心疾患患者を含むハイリスク群及び高齢者において、肺炎球菌ワクチンの免疫原性

は十分認められ、特に結合型ワクチンにおいて高いと考えられるが、その維持期間について

は明確ではない。

【ワクチン予防効果】

肺炎球菌ワクチンによる心疾患の増悪抑制に関するエビデンスはまだ十分ではない。ス

ペインで実施された 60 歳以上の高齢者 27,204 例を対象とした population-based

prospective cohort studyでは、34%がPPSV23を接種されているが、ワクチン接種と心筋梗

塞の発症頻度に相関性は示されていない9)。一方、米国で実施された107,045名の心不全を

有する退役軍人を対象とした後方視的研究では、PPSV23接種により1年後の致命率が有意

に低下 (オッズ比0.77)したと報告されている10)。

慢性心疾患に限定し肺炎球菌ワクチンの効果を検討した論文は少ないが、肺炎球菌感染

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症の予防効果および心不全増悪・心血管イベント発症の抑制効果は期待できると思われる。

日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン(2017 年改訂版)では、心不全患者で

は感染症を契機に症状の増悪をきたすことが多いため、インフルエンザや肺炎球菌感染症

に対するワクチン接種による予防が推奨されている(推奨クラス IIa、エビデンスレベルC)

11)

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

1) 慢性心疾患患者に限定した肺炎球菌ワクチンの肺炎球菌感染症予防効果を検証した

randomized controlled trial(RCT)は存在しないが、肺炎球菌ワクチンの接種による

心保護作用 として、①炎症性サイトカイン制御による心不全の増悪・急性冠動脈症候

群への進展防止、②ワクチン接種によって誘導される肺炎球菌特異的 IgM 抗体の酸化

LDL コレステロールへの結合とマクロファージへの取り込み抑制による動脈硬化進展

の抑制が期待される 12)。

2) 心不全患者は、肺炎球菌性肺炎に罹患すると心不全の急性増悪や虚血性心疾患を併発

し生命予後が悪化する危険性があり、肺炎球菌ワクチンによる肺炎予防は重要である。

3) 慢性心疾患患者に対する肺炎球菌ワクチンの接種法について、米国 Advisory

Committee on Immunization Practices(ACIP)は 19 歳から 64 歳には PPSV23 の接

種を推奨している。また慢性心不全患者では重度の糖尿病や慢性腎不全などを合併し

免疫能低下が予想されため、そのような場合では PCV13-PPSV23 の連続接種が推奨さ

れている 13)。

引用文献 1. Bhatt AS, et al. Can Vaccinations Improve Heart Failure Outcomes?: Contemporary

Data and Future Directions. JACC Heart Fail 2017;5(3):194-203. doi: 10.1016/j.jchf.2016.12.007

2. Musher DM, et al. The association between pneumococcal pneumonia and acute cardiac events. Clin Infect Dis 2007;45(2):158-165. doi: 10.1086/518849

3. Mor A, et al. Chronic heart failure and risk of hospitalization with pneumonia: a population-based study. Eur J Intern Med 2013;24(4):349-353. doi: 10.1016/j.ejim.2013.02.013

4. Shea KM, et al. Rates of pneumococcal disease in adults with chronic medical conditions. Open Forum Infect Dis 2014;1(1):ofu024. doi: 10.1093/ofid/ofu024

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9

5. van Hoek AJ, et al. The effect of underlying clinical conditions on the risk of developing invasive pneumococcal disease in England. J Infect 2012;65(1):17-24. doi: 10.1016/j.jinf.2012.02.017

6. Imai K, et al. Risk of pneumococcal diseases in adults with underlying medical conditions: a retrospective, cohort study using two Japanese healthcare databases. BMJ Open 2018;8(3):e018553. doi: 10.1136/bmjopen-2017-018553

7. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. プレベナー13 水性懸濁注 審査報告書.

https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200512001/671450000_22500AMX00917_A100_1.pdf. Accessed March 4, 2021.

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9. Vila-Corcoles A, et al. Clinical effectiveness of pneumococcal vaccination against acute myocardial infarction and stroke in people over 60 years: the CAPAMIS study, one-year follow-up. BMC Public Health 2012;12:222. doi: 10.1186/1471-2458-12-222

10. Wu WC, et al. Association between process quality measures for heart failure and mortality among US veterans. Am Heart J 2014;168(5):713-720. doi: 10.1016/j.ahj.2014.06.024

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https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf. Accessed March 4, 2021.

12. Ciszewski A. Cardioprotective effect of influenza and pneumococcal vaccination in patients with cardiovascular diseases. Vaccine 2018;36(2):202-206. doi: 10.1016/j.vaccine.2017.11.078

13. Matanock A, et al. Use of 13-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine and 23-Valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine Among Adults Aged ≥65 Years: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2019;68(46):1069-1075. doi: 10.15585/mmwr.mm6846a5

4. 慢性肺疾患

【病態の特徴】

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支拡張症、間質性肺炎をはじめとした慢性肺疾患患者

では、気道クリアランスの低下に伴い、末梢気道の炎症による喀痰量増加や局所免疫の低下

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がみられ、また、ステロイドや免疫抑制剤等の使用によって全身的な免疫低下を来している

場合も多い。その結果、健常者と比較しウイルス感染や二次性の細菌感染症を起こしやす

く、末梢気道の狭窄や肺胞構造の破壊による呼吸機能低下が基礎にあるため、重度の呼吸不

全を合併しやすい。COPD と下気道感染症はそれぞれ世界の死亡原因の第 3 位、第 4 位と

されている。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

1) IPD 発生頻度

国外データ:米国 ABCs(Active Bacterial Core surveillance)と NHIS(National Health

Interview Survey)を用いた報告 1) では、1999〜2000 年の成人慢性肺疾患患者における

IPD 罹患率は 10 万人対 62.9 で、健常者と比較して 5.6 倍と高かった。65 歳未満において

も慢性肺疾患患者は健常者と比較して IPD 罹患率が高く、年齢別では、35~49 歳で 10 万

人対 16.3、50~64 歳で 57.2 であった。同サーベイランスを用いた PCV13 導入前後の IPD

発生頻度をみた研究では 2)、65 歳未満の成人慢性肺疾患患者における IPD 罹患率は 2007

〜2008 年 10 万人対 16.0(健常者 7.7)、2013〜2014 年 13.9(健常者 3.9)であり、PCV13

導入後の IPD 血清型は PCV13 型が減少し、PPSV23 型や非ワクチン型が増加していた。

また、米国の医療費請求リポジトリ―(2006〜2010 年)を用いた報告 3)においても、65 歳

未満の慢性肺疾患患者での IPD 罹患率は健常者と比較して高く、18~49 歳で 6.3 倍、50~

64 歳で 7.7 倍であった。

国内データ:JMDC(Japan Medical Data Center)データベースを使用して算出した 65

歳未満の慢性肺疾患患者における IPD 罹患率は 10 万人対 73 であり、健常者と比較して

12.9 倍であった 4)。MDV(Medical Data Vision)データベースを使用して算出した 65 歳

未満の慢性肺疾患患者における IPD 罹患率は 10 万人対 33 であり、健常者と比較して、19

~49 歳で 6.5 倍、50~64 歳で 21.4 倍であった。

2)肺炎球菌性肺炎発生頻度

国外データ:米国医療費請求リポジトリ―(2006〜2010 年)を用いた報告 3)では、健常者

と比較した慢性肺疾患患者における肺炎球菌性肺炎罹患率は、18~49 歳で 8.9 倍、50~64

歳で 9.8 倍であった。

国内データ:JMDC データベースを使用して算出した 65 歳未満の慢性肺疾患患者における

肺炎球菌性肺炎罹患率は 10 万人対 729 であり、健常者と比較して、19~49 歳で 8.2 倍、

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11

50~64 歳で 12.8 倍であった。MDV データベースを使用して算出した 65 歳未満の慢性肺

疾患患者における肺炎球菌肺炎罹患率は 10 万人対 435 であり、健常者と比較して、19~49

歳で 5.6 倍、50~64 歳で 6.8 倍であった 4)。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

国外データ:台湾の成人 COPD 患者(n=80、65 歳未満 11 例含む)に PPSV23 を接種し、

6 週後に 8 種の血清型(4、6B、7F、9V、14、18C、19F、23F)に対する特異 IgG 濃度を

測定した結果、すべての血清型において 2 倍以上の IgG 濃度上昇がみられた 5)。また米国

の 40 歳以上の成人 COPD 患者 181 名を PPSV23 接種群(90 人、平均年齢 64 歳)と PCV7

接種群(91 人、平均年齢 63 歳)に割り付けて、接種1か月、1 年、2 年後にそれぞれ 7 種

の血清型に対する特異的 IgG および特異的 OPA を測定した結果、PCV7 群は PPSV23 群

と比較して、大部分の血清型に対して特異的 IgG および OPA 値が高い傾向を示した 6,7)。

国内データ:40 人の慢性肺疾患患者(平均年齢 77 歳)に対して PPSV23 を 2 回接種し、

4 種類の血清型(6B、14、19F、23F)に対する特異的 IgG 濃度と OPA を測定した結果、

血清型 6B 以外においては IgG 濃度と OPA 値の上昇がみられ、さらに 2 回接種による安全

性も確認された 8)。

【ワクチン予防効果】

12 の RCT を解析対象としたシステマティック・レビュー・メタアナリシスで、PPSV23

の COPD 患者(2,171 人、平均年齢 66 歳)に対する肺炎予防効果について検討した結果、

PPSV23 接種群は非接種群と比較して、市中肺炎の発生が有意に減少し(OR 0.61、95%CI

0.42-0.89)、COPD の増悪予防効果が見られた(OR 0.60、95%CI 0.39-0.93)が、肺炎球

菌性肺炎の発症率には有意差は見られなかった(OR 0.26、95%CI 0.05-1.31)9)。

このメタアナリシスに含まれる論文で、596 人の COPD 患者を対象とした RCT(平均年

齢 65.8 歳)における 65 歳未満の部分集団での比較では、PPSV23 接種による市中肺炎へ

の予防効果(76%)がみられ、肺炎球菌性肺炎 5 例はすべて PPSV23 非接種群に発生して

いた 10)。また、%FEV1.0 が 40%未満の群で市中肺炎の予防効果(91%)がみられた。

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

1) 肺炎球菌感染症の発生頻度について、健常者と比較して 65 歳未満の成人では 5 倍以上

の IPD と肺炎球菌性肺炎の発生リスクがある。65 歳未満の重症例を含む COPD 患者

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において PPSV23 接種の肺炎予防効果が確認されていることから、同年齢層の重症例

を含む慢性肺疾患患者に対して PPSV23 接種が推奨できると考えられる。

2) 免疫原性については、ワクチン接種後に大部分の血清型について特異的 IgG 濃度が上

昇し、OPA も得られている。PCV13 と PPSV23 の免疫原性の比較では、PCV13 の方

がやや優れている。また、PPSV23 の 2 回接種による安全性や抗体価の再上昇も得ら

れていることから、65 歳未満での PPSV23 の 5 年間隔での再接種は可能な選択肢であ

る。

3) 65 歳未満の重症慢性肺疾患患者に対する PCV13 と PPSV23 の連続接種についても可

能な選択肢と考える。

引用文献 1. Kyaw MH, et al. The influence of chronic illnesses on the incidence of invasive

pneumococcal disease in adults. J Infect Dis 2005;192(3):377-386. doi: 10.1086/431521 2. Ahmed SS, et al. Early impact of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine use on

invasive pneumococcal disease among adults with and without underlying medical conditions-united states. Clin Infect Dis 2020;70(12):2484-2492. doi: 10.1093/cid/ciz739

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5. Lai CC, et al. Antibody responses to pneumococcal polysaccharide vaccine in Taiwanese patients with chronic obstructive pulmonary disease. J Formos Med Assoc 2007;106(3):196-203. doi: 10.1016/S0929-6646(09)60240-0

6. Dransfield MT, et al. Superior immune response to protein-conjugate versus free pneumococcal polysaccharide vaccine in chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med 2009;180(6):499-505. doi: 10.1164/rccm.200903-0488OC

7. Dransfield MT, et al. Long-term comparative immunogenicity of protein conjugate and free polysaccharide pneumococcal vaccines in chronic obstructive pulmonary disease. Clin Infect Dis 2012;55(5):e35-44. doi: 10.1093/cid/cis513

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13

9. Walters JA, et al. Pneumococcal vaccines for preventing pneumonia in chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev 2017;1:CD001390. doi: 10.1002/14651858.CD001390.pub4

10. Alfageme I, et al. Clinical efficacy of anti-pneumococcal vaccination in patients with COPD. Thorax 2006;61(3):189-195. doi: 10.1136/thx.2005.043323

5. 慢性腎疾患 【病態の特徴】

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)では免疫能の低下が指摘されており、B リ

ンパ球の減少、CD4 陽性 T リンパ球数の減少が認められ、T リンパ球の抗原刺激に対する

反応性低下、好中球の機能低下も指摘されている。したがって、CKD 患者では感染症の併

発リスクが高い。腎機能低下が進み末期腎不全、血液透析となるとさらに感染症の併発リス

クが上昇し、感染症は血液透析患者の死因では心不全に次いで第 2 位である。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

CKDの感染症による入院リスクについて行われた研究1)では、感染症による入院リスクは

腎機能正常者(eGFR ≥90 mL/min/1.73 m2)に対して、eGFR 15~29 mL/min/1.73 m2で

はhazard ratio(HR)2.55(95%CI 1.43-4.55)、eGFR 30~59 mL/min/1.73 m2では1.48

(95%CI 1.28-1.71)と高い。感染症の中では肺炎が最も多く、腎機能の低下とともに併発

リスクが増し、それぞれのeGFRでHR 2.21(95%CI 0.95-5.11)、1.44(95%CI 1.15-1.79)

であった。CKD患者の感染症による入院後の30日以内の死亡は、それぞれのeGFRでHR

3.76(95%CI 1.48-9.58)、1.62(95%CI 1.20-2.19)と高く、CKDにおいて感染症は予後

不良因子である。

わが国の national database(NDB)を用いた肺炎による入院患者の予後研究 2)でも、

CKD が肺炎による死亡リスク因子であるという報告があり、CKD 患者の肺炎による入院

後 30 日以内の死亡リスクは HR 1.78(95%CI 1.24-2.47)であった。

CKD 患者の生命予後を規定する肺炎の原因菌としては肺炎球菌が最も多く、CKD 合併

肺炎(n=203)の原因菌の 28.1%を占めたという報告 3)がある。

基礎疾患の有無による IPD のリスクを年齢層別に検討した(2008~2009 年、イングラ

ンド)結果 4)では、IPD は 22,298 例(2~15 歳 1,507 例、16~64 歳 9,577 例、65 歳以上

11,214 例)あり、CKD 患者の死亡率は 16~64 歳 26.1%、65 歳以上 44%と高く、基礎疾

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患のない症例と致命率を比較すると、16~64 歳ではオッズ比(OR)6.2(95%CI 4.8-7.9)、

65 歳以上では OR 1.9(95%CI 1.7-2.2)であった。

CKD では肺炎球菌性肺炎や IPD を合併し、致命率も高いと考えられる。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

CKD 患者では免疫能の低下により、ワクチンの免疫原性は低下すると考えられる。

33 人のネフローゼ症候群患者に PCV7 を接種し、血清型特異的抗 IgG 抗体を測定したと

ころ、1 か月後には抗体価の有意な上昇を認めたが、健常者と比べ抗体価はやや低値で、1

年後には低下傾向であった 5)。

42 人の小児ネフローゼ症候群患者に PCV13 を接種し、血清型特異的 IgG 抗体を測定し

たところ、3 か月後には抗体価の上昇を認め、1 年後にも高い抗体価を維持したという報告

もある 6)。

155人の血液透析患者においてPPSV23およびPCV13接種後の血清型特異的 IgG抗体、

OPA を比較した前向き研究 7)では、接種後 4 週目ではともに IgG 抗体、OPA が上昇した。

PCV13 の方が有意に上昇した血清型は抗 IgG 抗体では 6 種類、OPA では 2 種類であった。

しかし、52 週後には抗体価は低下し、PCV13 の方が有意に高値を示したのは IgG 抗体 1

種類であり、OPA には差が無かった。また、PPSV23 を先行して接種した群に PCV13 を

接種した場合、PCV13 の免疫原性は低下していた。

CKDにおける肺炎球菌ワクチンの免疫原性は健常者に比べやや低下するものの十分認め

られる。しかし、どのくらいの期間維持されるかについては明確ではない。

【ワクチン予防効果等】

CKD 患者では肺炎と IPD のリスクが高いが、肺炎球菌ワクチンによる両者の予防効果

についての RCT はない。しかしながら、臨床的な有効性を示す報告がある。

肺炎で入院したCKD患者203人では、PPSV23の接種歴がある群で有意に死亡の割合が低

かった(OR=0.05、95%CI 0.005-0.69)3)。ただし、死亡原因についての言及はない。

米国で2003~2005年に血液透析を開始した患者118,533人を対象にPPSV23の入院およ

び死亡に対する効果をみた研究8)では、PPSV23は死亡を有意に減らし(HR 0.94、95%CI

0.90-0.98)、心疾患死を減らし(HR 0.91、95%CI 0.85-0.97)、菌血症・敗血症・ウイルス

血症による入院を減らした(HR 0.95, 95%CI 0.91-1.00)。PPSV23とインフルエンザワク

チンを接種した群の死亡はHR 0.73(95%CI 0.68-0.78)であった。

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血液透析患者において 2005/2006 年のインフルエンザシーズンにインフルエンザワクチ

ンと PPSV23 を接種した群では全死亡が有意に減少し、両ワクチンは独立して効果を示し

た 9)。

わが国の血液透析患者 510 人について PPSV23 の効果をみた研究 10)では、PPSV23 接種

群では非接種群に比べ、全死亡が有意に減少し(HR 0.62、95%CI 0.46-0.83)、心血管疾患

による入院が有意に減少し(HR 0.44、95%CI 0.20-0.9)、心疾患による死亡が有意に減少

した(HR 0.36、95%CI 0.18-0.71)。しかしながら、肺炎による入院と死亡については両

群に差がなく、著者らは PPSV23 の心血管疾患に対する直接的な予防効果と推察している。

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

CKDにおける肺炎球菌ワクチンの有効性を検討した論文は少ないが、上記のように心血

管疾患死亡や生命予後の改善効果を期待でき、免疫原性からも接種が推奨されている11,12)。

CKD 患者は腎障害だけでなく、高齢、免疫抑制剤使用、糖尿病・慢性呼吸器疾患・慢性

心血管疾患の合併などの肺炎球菌性肺炎の予後不良因子を多数抱えていることがあり、そ

の点からも肺炎球菌ワクチンの投与は必要であると考えられる。

免疫能の低下した CKD 患者に対する肺炎球菌ワクチンの接種法については PCV13-

PPSV23 の連続接種が推奨されている。米国 CDC が 2012 年に示した推奨では 19 歳以上

の免疫能低下者では PCV13 接種後 8 週間以上の間隔をあけて PPSV23 を接種するとして

おり、その対象疾患に CKD、ネフローゼ症候群が含まれている 13)。さらに PPSV23 接種 5

年後に PPSV23 の 2 回目接種が推奨されている。この基準は変更されておらず、CKD 全病

期(血液透析患者を含む)、腎移植患者において推奨されている 14,15)。

ドイツにおいても CKD およびネフローゼ症候群を免疫不全者として、PCV13-PPSV23

の連続接種が推奨され(ただし 6~12 か月間をあける)、6 年ごとに PPSV23 の再接種が推

奨されている 16)。英国ではネフローゼ症候群、ステージ 4 及び 5 の CKD、透析患者、腎移

植患者では PPSV23 の接種が推奨されており、5 年ごとの再接種が推奨されている 17)。

国によってワクチンの接種法が微妙に異なるのは、血清型置換によるワクチンのカバー

率の低下、費用対効果、連続接種の有効性などについて国ごとに判断が異なるからである。

わが国においては PCV13-PPSV23 連続接種の免疫原性、安全性、有効性に関するデータが

現時点ではないので、CKD に対しては PPSV23 の接種が推奨されている 12)。しかしなが

ら、CKD はハイリスク群であるという点を考慮して、症例毎の臨床判断(shared decision

making、共有意思決定)で PCV13-PPSV23 連続接種も選択肢として考えられる。

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引用文献

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10. Ihara H, et al. 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine improves survival in dialysis patients by preventing cardiac events. Vaccine 2019;37(43):6447-6453. doi: 10.1016/j.vaccine.2019.08.088

11. 日本腎臓学会. エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018. エビデンスに基づく

CKD 診療ガイドライン 2018. Accessed March 4, 2021.

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12. 日本透析医会. 透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(五

訂版). http://www.touseki-

ikai.or.jp/htm/05_publish/doc_m_and_g/20200430_infection%20control_guideline.pdf. Accessed March 4, 2021.

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14. Krueger KM, et al. Practical Guide to Vaccination in All Stages of CKD, Including Patients Treated by Dialysis or Kidney Transplantation. Am J Kidney Dis 2020;75(3):417-425. doi: 10.1053/j.ajkd.2019.06.014

15. Freedman MS, et al. Advisory Committee on Immunization Practices Recommended Immunization Schedule for Adults Aged 19 Years or Older - United States, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020;69(5):133-135. doi: 10.15585/mmwr.mm6905a4

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6. 慢性肝疾患 【病態の特徴】

肝臓は腸内細菌・ウイルスなど微生物の曝露を受けるため、高度な免疫能を備えた臓器で

ある。慢性肝疾患、ことに肝硬変では免疫応答が障害される。門脈圧亢進症を合併した場合

微生物が肝臓を通ることなく全身に広がる。こうした免疫応答の障害は肝硬変のステージ

が進むほど強くなる。C 型肝炎の患者では感染の原因の一つとして事故・手術などによる脾

摘の際の輸血が挙げられる。こうした患者は莢膜を有する細菌の感染があった場合重症化

する。また、血小板低下症に対する治療として Partial Splenic Embolization(PSE)を受

ける患者は一般に進展した肝硬変を伴っている。

肝硬変患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、菌血症を伴いやすく敗血症性ショックに

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なりやすいことが指摘されている 1)。また、肺炎球菌は非代償性肝硬変患者の生命予後に大

きな影響を及ぼす特発性細菌性腹膜炎の原因菌となることも報告されている 2)。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

日本の Japan Medical Data Center (2009~2014 年)からの解析によると、非侵襲性

肺炎球菌性肺炎は 19~49 歳の年齢層で、基礎疾患のない症例の発生頻度:6.3 人/10 万人・

年に対し、慢性肝疾患の症例では 24.3 人/10 万人・年(RR: 3.9)、50~64 歳の年齢層では、

基礎疾患のない症例の発生頻度:11.5 人/10 万人・年に対し、慢性肝疾患の症例では 38.6 人

/10 万人・年(RR: 3.2)と報告されている。また、IPD は 19~49 歳の年齢層で、基礎疾患

のない症例の発生頻度:0.3 人/10 万人・年に対し、慢性肝疾患の症例では 1.0 人/10 万人・

年(RR: 4.1)、50-64 歳の年齢層では、基礎疾患のない症例の発生頻度:1.6 人/10 万人・年

に対し、慢性肝疾患の症例では 20.4 人/10 万人・年(RR: 11.9)と報告されている 3)。

米国の Healthcare claims repositories(2006~2010 年)からの解析によると、非侵襲性

肺炎球菌性肺炎は 18~49 歳の年齢層で、基礎疾患のない症例の発生頻度:14 人/10 万人・

年に対し、慢性肝疾患の症例では 90 人/10 万人・年(RR: 6.4)、50~64 歳の年齢層では、

基礎疾患のない症例の発生頻度:25 人/10 万人・年に対し、慢性肝疾患の症例では 148 人

/10 万人・年(RR: 5.8)と報告されている。また、IPD は 19~49 歳の年齢層では基礎疾患

のない症例の発生頻度:1.8 人/10 万人・年に対し、慢性肝疾患の症例では 18.7 人/10 万人・

年(RR: 10.2)、50~64 歳の年齢層では、基礎疾患のない症例の発生頻度:4.5 人/10 万人・

年に対し、慢性肝疾患の症例では 28.5 人/10 万人・年(RR: 6.4)と報告されている 4)。

英国の GP records(2002 年~2009 年)からの解析によると、脾摘、脾機能不全、慢性

肺疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、免疫抑制状態、人工内耳、髄液瘻の中で、

IPD の発生リスクは慢性肝疾患の症例で最も高かった。2~15 歳の年齢層で、基礎疾患の

ない症例の発生頻度:3.9 人/10 万人・年に対し、慢性肝疾患の症例では 117 人/10 万人・年

(OR: 29.6)、16~64 歳の年齢層では、基礎疾患のない症例の発生頻度:5.2 人/10 万人・

年に対し、慢性肝疾患の症例では 172 人/10 万人・年(OR: 33.3)と報告されている。また、

IPD の死亡リスクは 2~15 歳の年齢層で、基礎疾患のない症例の死亡率 1.8%に対し慢性

肝疾患の症例の死亡率 11.1%(OR: 7.0)、16~64 歳の年齢層では、基礎疾患のない症例の

死亡率 5.4%に対し慢性肝疾患の症例の死亡率 26.1%(OR: 10.3)であった 5)。

これらの報告より、65 歳未満の慢性肝疾患を基礎疾患に有する症例の肺炎球菌感染症の

発生リスク、死亡リスクはともに高く、肺炎球菌ワクチンによる予防が必要である。

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【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

1) 肝硬変

肝硬変のなかでも臓器全体の機能に影響が及ぶのは主として Child-Pugh 分類で Grade

B 以上の症例である。1980 年代に 15 例のアルコール性肝硬変群、10 例の COPD 群、10

例の健常者群、計 35 例を対象に、肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの免疫原性が評

価されている。全例に 14 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23 の前型)を

接種し、接種前、接種 4 週後、12 週後の免疫反応(1 型、4 型、7F 型、8 型、18C 型に対

する IgG、IgM、IgA を RIA を用いて測定)が比較された。その結果、ワクチン接種によっ

てアルコール性肝硬変群でも健常者群と同等の抗体価の上昇が示された。また、アルコール

性肝硬変群と健常者群で、ワクチン接種後の抗体価に有意な差は認められず、アルコール性

肝硬変の症例に対しても莢膜多糖体型ワクチンで免疫が付与できることが示されている 6)。

2) 肝移植

肝疾患の終末期には肝移植が治療の選択肢となる。肝移植待機者は末期肝不全による免

疫低下状態であり、肝移植後は免疫抑制剤の使用によって免疫全般、ことに細胞性免疫が障

害される。肝移植後の症例に関して、ELISA を用いて PPSV23 の免疫原性(血清型特異的

IgG、IgM、IgA)を評価した 1 編の non-RCT と ELISA とフローサイトメトリーを用いて

PCV7/PPSV23 群と PPSV23 群の免疫原性(特異的 IgG 濃度、OPA)を比較した 1 編の

RCT、計 2 報が報告されている 7,8)。

45 例の肝移植群と 13 例のコントロール群、計 58 例を対象とした non-RCT では、全例

に PPSV23 を接種し、3 型と 23 型の免疫応答(ELISA を用いた IgG、IgM、IgA)が測定

された。その結果、肝移植群で IgG は有意に低く、IgM、IgA は早期の減衰が確認された

7)。

肝移植後の 113 例を対象とした RCT では、PCV7/PPSV23 群(PCV7 を接種後、8 週間

あけて PPSV23 を接種)と、PPSV23 群(プラセボを接種後、8 週間あけて PPSV23 を接

種)の 2 群で PCV7 含有莢膜型の特異 IgG 濃度と OPA が比較されたが、特異的 IgG、OPA

ともに両群で有意な差は認められず、同等であった 8)。

【ワクチン予防効果】

現在のところ慢性肝疾患の症例を対象とした肺炎球菌ワクチンの予防効果は報告されて

いない。

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【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

1) 65 歳未満の若年者において、慢性肝疾患の症例は肺炎球菌感染症の発症頻度、死亡率

が高く、その予防のために肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される。米国 ACIP は、65

歳未満の慢性肝疾患の症例に対して PPSV23 接種を推奨しており、PCV13 を接種後、

1 年あけて PPSV23 を接種することに関しては臨床的な判断に基づいて選択すること

ができるとしている 9)。我が国でも ACIP と同様に、PPSV23 接種が推奨され、PCV13

と PPSV23 の両接種に関しては臨床的な判断に基づいて選択することが適切であると

考える。

2) 肝移植患者については免疫抑制状態の症例に分類され、ACIP は PCV13 と PPSV23 の

両接種(PCV13 を接種後、8 週間あけて PPSV23 を接種)を推奨している。

3) 現在のところ慢性肝疾患(肝移植患者を含む)を対象とした PCV13 と PPSV23 の両

接種の PPSV23 に対する有意な免疫原性、予防効果は報告されておらず、今後の検討

が必要である。

引用文献 1. Viasus D, et al. Community-acquired pneumonia in patients with liver cirrhosis:

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7. 糖尿病 【病態の特徴】

糖尿病患者では、高血糖に伴う好中球やマクロファージ機能の低下、血管内皮機能や凝

固異常、神経障害、栄養障害など多くの因子が易感染性に関わっている。また重症感染症に

おいては、炎症性サイトカインやインスリン拮抗ホルモンの上昇によって、インスリン抵抗

性が増強し高血糖が増悪、さらに感染症が重症化する。

カナダにおいて実施された糖尿病患者と非糖尿病患者各513,749例を比較した後方視的

コホート研究では、糖尿病患者の感染発症リスクは1.21倍で、感染症関連の入院リスクは

2.17倍、感染症による死亡リスクは1.92倍であった1)。オーストラリアにおいて実施された

糖尿病患者1,294例と非糖尿病患者各5,156例を比較した観察研究(平均12年間)では、糖尿

病患者の感染症関連入院の独立したリスク因子が高齢、男性、感染症関連入院の既往、肥満、

アルブミン尿、網膜症、先住民であった2)。その他、多くの大規模研究で糖尿病患者は非糖

尿病患者と比較してさまざまなリスク(感染症発症、入院、重症化、死亡など)が上昇する

ことが判明している。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

わが国の糖尿病患者の死因に関するアンケート調査(2001~2010年、45,708例)では、

感染症による死亡は第2位(17.0%)で、中でも肺炎の頻度が最も高く11.6%、結核0.3%、そ

の他5.1%であった。糖尿病患者における市中肺炎発症のリスクは、コホート研究でハザー

ド比1.0~1.9、rate ratio 1.6~3.1、症例・対象研究でオッズ比1.0~1.4、ハザード比1.1と

報告されている3-5)。

わが国の市中肺炎ならびに医療・介護関連肺炎の原因微生物で最も頻度の高いのは肺炎

球菌であり、糖尿病患者における肺炎球菌性肺炎発症のリスクは、補正相対危険度が2.3

(95%CI 1.55-2.65)と報告されている6)。年齢別に検討した後方視的コホート研究では、英

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国でrate ratioが60歳未満で2.03(95%CI 1.55-2.65)、60歳以上で1.54(95%CI 1.32-1.79)

の報告3)と、米国でrate ratioが18~49歳で3.1(95%CI 2.9-3.3)、50~64歳で3.0(95%CI

2.6-3.1)、65歳以上で2.8(95%CI 2.7-2.9)との報告がある4)。

糖尿病患者におけるIPDの発症リスクを検討した研究を以下にまとめた。

① 米国の18歳以上を対象としたpopulation-based サーベイランス研究で補正オッズ比

1.4(95%CI 1.0-2.0)7)

② スウェーデンの18歳以上を対象とした症例・対象研究でオッズ比1.7(95%CI 1.5-1.9)8)

③ 英国の後方視的コホート研究でrate ratioが60歳未満で2.06(95%CI 1.33-3.14)、60

歳以上で1.50(95%CI 1.12-2.01)3)

④ 米国の後方視的コホート研究でrate ratioが18~49歳で3.0(95%CI 2.4-3.7)、50~64

歳で2.6(95%CI 2.3-2.9)、65歳以上で2.5(95%CI 2.2-2.9)4)

⑤ IPDで入院した患者におけるリスク因子の疫学検討ではオッズ比が16~64歳で4.6

(95%CI 4.2-5.0)、65歳以上で2.3(95%CI 2.2-2.5)9)

⑥ 米国の18歳以上を対象とした症例・対象前方視研究でオッズ比が単変量解析で1.7

(95%CI 1.0-2.9)、多変量解析で1.5(95%CI 0.8-2.6)10)

⑦ 英国の2つの後方視的コホート研究でrate ratioがOxford Record Linkage Study 2

で3.30(95%CI 2.07-5.07)、英国で3.90(95%CI 3.55-4.28)11)

⑧ 米国の後方視的コホート研究でrate ratioが18歳未満で2.3(95%CI 0.9-5.5)、18~64

歳で3.5(95%CI 3.2-3.9)、65歳以上で2.5(95%CI 2.2-2.9)12)

⑨ 血糖コントロール不良の場合、肺炎球菌性肺炎による入院が増加する13)。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

糖尿病患者を対象とした肺炎球菌ワクチンの免疫原性を評価した研究は、きわめて限ら

れている。PPSV23に関しては唯一、わが国の高齢者糖尿病患者で抗体濃度の推移を検討し

た報告がある14)。13名のPPSV23接種前後の肺炎球菌莢膜特異的IgG濃度の変化を同時期の

PPSV23非接種者と比較したところ、検討した14種類(1、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、

12F、14、18C、19F、23F)すべての莢膜型に対してワクチン接種後に有意な特異的IgG濃

度の上昇がみられた。

PCV13接種後1か月後の基礎疾患別の血清型特異的IgGおよびOPAの幾何学的平均値

(GMT)を検討した研究では、糖尿病患者を含め健常者、心疾患患者、呼吸器疾患患者、

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喘息患者、2つ以上の基礎疾患保有患者など、全ての対象者において13の血清型(1、3、4、

5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、23F)の有意な抗体濃度上昇がみられた15)。

たとえば血清型1では、ワクチン接種前のOPA GMTが10(95%CI 9.5-11.5)に対し1か月後

には91(95%CI 68.4-121.4)、12か月後には30(95%CI 23.6-38.6)、24か月後には19(95%CI

15.7-23.7)と、健常者と同じ値で推移していた。

【ワクチンの予防効果】

糖尿病患者を対象に肺炎球菌ワクチンの効果を検討したこれまでの報告は、幅広い集団

を対象者とした研究におけるサブグループ解析のデータであり、解析対象となる糖尿病患

者の数が十分ではない場合が多く、必ずしも安定した結果は得られていない15-22)。しかし、

成人に対するPPSV23の効果をまとめたメタアナリシスでは、全死亡や全ての原因による肺

炎に対する予防効果についてのエビデンスは得られていないものの、IPDに対しては74%

(95%CI 55-86)の予防効果を示している。

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

わが国における高齢者を対象とした研究において PPSV23 接種による肺炎球菌性肺炎お

よび IPD の予防効果が示されている 23,24)。一方糖尿病患者においては上述のとおり肺炎球

菌ワクチンの効果に関する明確なまたは大規模なデータがないのが実情である。しかしな

がら糖尿病の存在によって市中肺炎発症リスク、肺炎球菌性肺炎発症リスク、IPD リスク

が上昇することが複数の研究から示唆されている。また、糖尿病患者における PPSV23 お

よび PCV13 接種による特異抗体価の上昇が実証されていることから、糖尿病患者を対象と

した肺炎球菌ワクチン接種による肺炎発症抑制効果が期待される。さらに一般人口におい

て肺炎球菌ワクチン接種は高齢者が対象と考えられているが、65 歳未満の糖尿病患者にお

いても肺炎発症リスクの増加が指摘されている。このため、65 歳未満の糖尿病患者に対し

て PCV13-PPSV23 の連続接種も選択肢と考えられる。糖尿病患者における肺炎球菌ワクチ

ン接種の推奨年代に関しては今後の研究結果が待たれるところである。

引用文献 1. Shah BR, et al. Quantifying the risk of infectious diseases for people with diabetes.

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8. 自己免疫性疾患 【病態の特徴】

関節リウマチ(rheumatoid arthritis、RA)は、複数の遺伝的要因と環境要因が発症に関

与している自己免疫性疾患の一つであり、国内の患者数は 70~90 万人と推計されている。

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関節リウマチは 60 歳台が発症のピークがあるのに対して膠原病では発症年齢は低い(SLE

20 代、多発性筋炎/皮膚筋炎 50 代、強皮症 50 代)1,2)。手指関節を初めとする全身の関節に

滑膜炎を来たし、無治療の場合は関節破壊・変形をきたす。関節外症状として間質性肺炎・

血管炎に伴う臓器病変を認めることもある。血液検査では、炎症反応の上昇に加え、RA に

特異的な抗 CCP 抗体が検出される。RA の診断は関節症状・所見に加え、これら検査値異

常などの項目からなる ACR/EURA の RA 分類基準でなされ、RA の活発性評価には DAS28

などの複合的指標が用いられる。

RA の治療は目標達成に向けた治療(Treat-to-Target: T2T)の考えに基づいて、1~3 か

月ごとに RA の疾患活動性を評価し、寛解あるいは低疾患活動性を目標に EULAR の治療

ガイドラインに準じて行われる。まず治療の最初の段階(フェーズ 1)ではメトトレキサー

ト(MTX)で代表される従来型合成抗リウマチ薬(csDMARDs)で治療を開始し、治療目

的を達成できない場合は次の段階として(フェーズ 2)、生物学的製剤、あるいは分子標的

型合成抗リウマチ薬(tsDMARDs)である JAK 阻害薬を用いて治療を行うことが推奨され

ている。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

自己免疫性疾患においては疾患自体の免疫異常ならびに使用中の免疫抑制剤の影響のた

め様々な感染症のリスクは高く、予防可能な感染症に対するワクチン接種が推奨されてい

る。特に肺炎球菌性肺炎および IPD は一般人口と比較しての発症率が高く 1)、肺炎球菌ワ

クチンの接種が推奨されている。米国の診療レセプトデーターを用いた報告では肺炎球菌

性肺炎の罹患率比(IRR)は健常人と比較して RA、SLE でそれぞれ 4.4、4.3 と高値であ

った 3)。オランダの SLE 患者における研究では一般人口と比較して IPD の発症率が 13 倍

高いと報告されている 4)。また SLE 患者における同様の検討では、一般人口と比較して肺

炎球菌関連感染症に関連した死亡率が高かった 5)。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

自己免疫性疾患患者に対するワクチン接種の際には、疾患自体の免疫異常と使用中の免

疫抑制剤によるワクチンの免疫原性に対する影響に注意が必要である。理想的には自己免

疫性疾患患者に対するワクチン接種は免疫抑制剤投与開始前に行われることが望ましいと

されている 6)。特にリツキシマブによる B 細胞除去療法に関してはワクチン接種による抗

体価の上昇を強力に抑制するとされている 4) 。しかし原疾患の症状が強い場合、ワクチン

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接種の施行のために免疫抑制療法が遅れるべきではないとされており 6)、実臨床では原疾患

の症状が強く免疫抑制療法をワクチン接種前に行わなければならず、免疫抑制投与下にワ

クチン接種を行うケースも多い。よって実地臨床家は免疫抑制剤によるワクチンの免疫原

性への影響を熟知している必要がある。

PPSV23 の免疫原性に関しては、RA や SLE の報告で充分な免疫応答が報告されている

7)。また、自己免疫性疾患における各免疫抑制剤による PPSV23 の免疫原性に対する影響も

多くの検討がなされている。2019 年に Rondaan らにより systematic literature review8)

が行われており、少量から中等量のステロイド(プレドニン換算 20mg/日以下)や TNF 阻

害剤、抗 IL-6 受容体抗体である tocilizumab(TCZ)は PPSV23 の免疫原性への影響は少

ないとし、メトトレキサート(MTX)は PPSV23 の免疫原性を減弱するとしている。また

T 細胞活性化阻害剤である abatacept(ABT)は免疫原性を軽度減弱させる可能性があると

されている。また近年使用頻度が増えているJAK阻害剤(tofacitinib)に関しては、Winthrop

らが RA 患者に対して tofacitinib 20mg/日を投与開始 4 週間経過した時点で PPSV23 を接

種し、PPSV23 接種 5 週間後に 12 種類の肺炎球菌血清型に対する特異的 IgG 抗体価を評

価しているが、十分な効果(6 種類以上の血清型について 2 倍以上の抗体価の上昇)がみら

れた割合は tofacitinib 投与群では 45%(tofacitinib 非投与群 68.4%)と低く、特に MTX

併用群では 31.6%とその傾向が顕著であったと報告している 9)。

PCV13の免疫原性に関しても十分な免疫応答が報告されている 10)。免疫抑制剤のPCV13

の免疫原性への影響は PPSV23 と比較して少数であるが検討されている。Kapetanovic ら

は MTX が使用されている RA 患者において PCV13 接種 4 週間後に 2 つの莢膜多糖類抗原

(6B、23F)に対する抗体価の検討を行なっているが十分な抗体価の上昇(PCV13 接種前

の抗体価と比較して 2 倍以上の上昇)がみられた患者の割合は 10%(MTX 未投与群 40%)

であった 11)。また Kapetanovic らの別の検討では TNF 阻害剤による PCV13 の免疫原性に

対する影響は少ないとしている 12)。ABT、TCZ 投与中の RA 患者における検討では、TCZ

ではコントロール群(NSAIDs が使用されている脊椎関節炎患者)と比較して同等の抗体

価の増加を認めたのに対して ABT 投与下では抗体価の上昇に減弱がみられている 13)。また

JAK 阻害剤に関しては baricitinib 投与中の RA 患者(89%の症例が MTX を併用されてい

る)の検討では 68%の症例で PCV13 接種 5 週間後十分な反応がみられたとしている 14)。

また Winthrop らの tofacitinib 投与中の乾癬性関節炎の患者の検討では十分な抗体価の上

昇がみられている 15)。

近年 PCV13-PPSV23 の連続接種がさまざまな免疫不全患者に推奨されているが、一般集

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団や HIV 患者を対象にした検討を基にしたエキスパートオピニオンであり、自己免疫性疾

患における連続接種のエビデンスは不十分である。しかし 2017 年の Nguyen らの報告では

csDMARDS(MTX 投与例が 91%)、bDMARDs(リツキシマブ[RTX]、TNF 阻害剤、IL-

6 受容体拮抗薬、abatacept を含む)を使用中の RA 患者に PCV13-PPSV23 の連続接種を

行い 4 週間後の 12 の莢膜多糖類抗原(1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、

23F)に対する抗体価を評価しているがそれぞれ 87%、94%の患者で十分な反応(6 つ以上

の抗原に対する抗体価がベースラインから 4 倍以上の上昇もしくは 0.35 mg/L 以上に上昇)

がみられたとしている 16)。さらに 2020 年 Nived らは、RTX、abatacept、csDMARDs 使

用中の RA 患者において PCV-PPSV23 連続接種群と PCV 単剤投与群の接種 4~8 週間後

の抗体価の評価を行い 、PCV 単剤投与群と比較して連続接種群の場合、abatacept、

csDMARDs、コントール群では十分に抗体価が上昇した抗原数が有意に多かったとし自己

免疫性疾患における連続接種の有効性を示している 17)。今後本邦で自己免疫疾患における

連続接種のエビデンスの構築が必要である。

【ワクチン予防効果】

自己免疫性疾患におけるワクチン接種の効果は、抗体価の上昇や抗体の OPA で評価され

ることが多く、自己免疫性疾患で PPSV23 と PCV13 の臨床的な肺炎球菌性肺炎に対する

予防効果を示した RCT はみられない。しかし MTX 投与中の RA 患者における長期的な臨

床効果を検討した観察研究では、PPSV23 接種群と比較して非接種群では肺炎発症の相対

危険度は 9.7 と高かった 18)。またスウェーデンからの観察研究の報告では、PCV7 を接種

することで観察期間中の肺炎球菌性肺炎を含む重篤な感染症の相対リスクが約 45%減少し

たとしている 19)。

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

1) 免疫抑制剤投与中の 65 歳以下の自己免疫性疾患患者に対しては PPSV23 の接種が望

ましい。また、免疫抑制剤投与中の 65 歳以下の自己免疫性疾患患者に対しては PCV13-

PPSV23 の連続接種も選択肢として考えられる。

2) 免疫抑制剤が肺炎球菌ワクチンの免疫原性を減弱する可能性に注意が必要である。

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29

引用文献 1. Ohta A, et al. Age at onset and gender distribution of systemic lupus erythematosus,

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3. Shea KM, et al. Rates of pneumococcal disease in adults with chronic medical conditions. Open Forum Infect Dis 2014;1(1):ofu024. doi: 10.1093/ofid/ofu024

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7. Kivitz AJ, et al. Vaccine responses in patients with rheumatoid arthritis treated with certolizumab pegol: results from a single-blind randomized phase IV trial. J Rheumatol 2014;41(4):648-657. doi: 10.3899/jrheum.130945

8. Rondaan C, et al. Efficacy, immunogenicity and safety of vaccination in adult patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases: a systematic literature review for the 2019 update of EULAR recommendations. RMD Open 2019;5(2):e001035. doi: 10.1136/rmdopen-2019-001035

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30

12. Kapetanovic MC, et al. Antibody response is reduced following vaccination with 7-valent conjugate pneumococcal vaccine in adult methotrexate-treated patients with established arthritis, but not those treated with tumor necrosis factor inhibitors. Arthritis Rheum 2011;63(12):3723-3732. doi: 10.1002/art.30580

13. Crnkic Kapetanovic M, et al. Rituximab and abatacept but not tocilizumab impair antibody response to pneumococcal conjugate vaccine in patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Res Ther 2013;15(5):R171. doi: 10.1186/ar4358

14. Winthrop KL, et al. Evaluation of pneumococcal and tetanus vaccine responses in patients with rheumatoid arthritis receiving baricitinib: results from a long-term extension trial substudy. Arthritis Res Ther 2019;21(1):102. doi: 10.1186/s13075-019-1883-1

15. Winthrop KL, et al. T-cell-mediated immune response to pneumococcal conjugate vaccine (PCV-13) and tetanus toxoid vaccine in patients with moderate-to-severe psoriasis during tofacitinib treatment. J Am Acad Dermatol 2018;78(6):1149-1155 e1141. doi: 10.1016/j.jaad.2017.09.076

16. Nguyen MTT, et al. Initial Serological Response after Prime-boost Pneumococcal Vaccination in Rheumatoid Arthritis Patients: Results of a Randomized Controlled Trial. J Rheumatol 2017;44(12):1794-1803. doi: 10.3899/jrheum.161407

17. Nived P, et al. Prime-boost vaccination strategy enhances immunogenicity compared to single pneumococcal conjugate vaccination in patients receiving conventional DMARDs, to some extent in abatacept but not in rituximab-treated patients. Arthritis Res Ther 2020;22(1):36. doi: 10.1186/s13075-020-2124-3

18. Coulson E, et al. Pneumococcal antibody levels after pneumovax in patients with rheumatoid arthritis on methotrexate. Ann Rheum Dis 2011;70(7):1289-1291. doi: 10.1136/ard.2010.144451

19. Nagel J, et al. The risk of pneumococcal infections after immunization with pneumococcal conjugate vaccine compared to non-vaccinated inflammatory arthritis patients. Scand J Rheumatol 2015;44(4):271-279. doi: 10.3109/03009742.2014.984754

9. 悪性腫瘍・臓器移植後 【病態の特徴】

抗がん治療の進歩に伴い、従来の殺細胞性化学療法に伴う免疫不全に加え、分子標的治療

約などの新たな治療薬が誕生し抗 B 細胞抗体治療薬のように液性免疫に大きな影響を与え

る薬剤も日常的に使用されるようになった。胃癌や膵癌などでは手術の際に脾摘を行うこ

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ともある。骨髄増殖性疾患やリンパ系悪性腫瘍では疾患そのものによる液性免疫不全に加

え、脾照射を行う場合もあり高度の液性免疫不全をきたしうる。造血幹細胞移植後は液性免

疫の回復に 1~2 年程度を要するとされ、固形臓器移植では移植後の免疫抑制剤の長期使用

が肺炎球菌感染症のリスクとなる。

【肺炎球菌感染症の発生頻度】

悪性腫瘍患者やその治療を受けた患者、移植後の患者は肺炎球菌性肺炎や IPD の罹患リ

スクや致死率が高いことが知られている 1)。デンマークの大規模データベース研究報告では

IPD のリスク比は固形腫瘍患者で 1.78(95%CI 1.70-1.87)、血液腫瘍患者で 9.53(95%CI

8.85-10.27)と高く、なかでもリンパ系悪性腫瘍で特にリスクが高く多発性骨髄腫や急性リ

ンパ芽球性白血病ではリスク比は 35 を超える 1)と報告された。その一方で、致命率は血液

腫瘍より固形腫瘍の方が高いとする報告もある 1, 2)。固形臓器移植や造血幹細胞移植でも同

様に IPD のリスクが高いことが知られている 2)。IPD の罹患リスクは悪性腫瘍診断後や移

植後 2 年以内が最も高いが、多発性骨髄腫や非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病の

ように診断後 10 年を経過してもリスク比が横ばいから上昇傾向の疾患もある 1)。

国内の報告でもがん患者の肺炎球菌性肺炎や IPD のリスクは高く、そのリスク比は 64 歳

以下でも非常に高いことが報告されている。Japan Medical Data Center のデータを用い

た 19−49 歳の検討では健常人との IPD リスク比が 206.6 (95%CI 80.6-530)とされている

3)。このため、65 歳未満であっても予防対策が重要となる。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

血液腫瘍患者ではワクチン接種後の血清免疫応答の評価が中心であり、臨床的な有効性

を評価した研究は少ない。多発性骨髄腫や悪性リンパ腫などである一定の有効抗体獲得効

果が報告されているが、慢性リンパ性白血病では有効抗体獲得率は 0~21%と著しく低い。

いずれも PPSV23 のデータが中心で PCV のデータは乏しい。固形臓器移植でも血清免疫

応答の研究のみであり、2013 年のシステマティックレビューではワクチン効果は 83%

(95%CI 83-93%、I2=81%)とある程度の効果は見られたが、高い不均一性を示しており、

効果が過大評価されている可能性は否定できない 4)。造血幹細胞移植でも血清学的反応を見

た研究での効果が複数の研究で示されている。

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【ワクチン予防効果】

米国の 75 歳以上の診断後 5 年以上生存したがん患者では、PPSV23 接種による肺炎での

入院事例の調整罹患率比は 0.695(95%CI 0.501-0.965)と有意な減少を示した。この報告

の中で全生存時間の改善は示されなかったものの、累積肺炎罹患率も有意な減少を示した

5)。また、台湾からは PPSV23 接種による肺炎関連入院を有意に減少させたという前立腺癌

(調節後罹患率比 0.48[95%CI 0.23-0.99])の報告があり 6)、同様の結果が大腸癌や肺癌

でも報告され、いずれも全生存率も有意に改善させた。ただし、これらの固形腫瘍患者への

PPSV23 の臨床効果データはワクチン効果を評価する RCT ではなく、データベース研究に

基づくものである点に注意が必要である。

小児への PCV 接種導入によりがん患者でも肺炎球菌感染症が減少したが 2, 7)、慢性疾患

を有する免疫不全者での減少割合は少ないという報告もある。

慢性リンパ性白血病や造血幹細胞移植後、固形臓器移植後の症例では、PCV の方が

PPSV23 より免疫原性において優れることが示されている。固形臓器移植領域では PCV13-

PPSV23 連続接種の効果は十分に示されていないが、ホジキンリンパ腫や多発性骨髄腫、造

血幹細胞移植後では PCV13-PPSV23 連続接種の有効性が示唆されている 8-10)。米国感染症

学会 11)や米国の ACIP、European Conference on Infections in Leukaemia はがん患者や

移植後患者などの免疫不全者には PCV と PPSV23 の接種を推奨している。さらに

The National Comprehensive Cancer Network (NCCN)ガイドラインでは 65 歳以下の

免疫不全者(造血幹細胞移植患者や機能的もしくは解剖学的な無脾症)、肺がん生存者や肺

切除患者への接種を推奨している。ヨーロッパ諸国のガイドラインでは 60%以上の国々で、

血液腫瘍や固形臓器移植患者への肺炎球菌ワクチンが推奨され、その約 6 割のガイドライ

ンで PCV13 および PPSV23 の両方の接種を推奨している 12)。

造血幹細胞移植後の成人ではワクチン非接種者としてワクチンを接種し直すことが推奨

されており、小児と同様に PCV13 の 3 回接種も推奨される 11)。PCV13 接種開始時期とし

て、移植後 3 か月後と 9 か月後の効果を比較したランダム化試験では両群の効果に有意差

が見られなかったため、移植後 3~6 か月後にワクチン接種を開始することが可能と考えら

れている。一方、造血幹細胞移植後 1 年以内での PPSV23 接種による OPA の誘導効果は

限定的であるが、1 年以後の接種では 50%程度において OPA の誘導が認められている 13)。

しかし慢性 GVHD やステロイド投与が PPSV23 接種の効果を減弱させることが知られて

おり、移植1年以降の PPSV23 接種時にステロイドを要する慢性 GVHD がある場合には

PPSV23 ではなく PCV13 を接種することが推奨される 14)。

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リツキシマブなどの抗 B 細胞抗体治療を行なった場合には、投与から 6 か月以内ではイ

ンフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの不活化ワクチンの効果が著しく低いこと

が知られており、抗 B 細胞抗体治療後 6 か月以内の投与は推奨されない。CD19 標的 CAR

(chimeric antigen receptor)-T 細胞治療の場合も同様に接種時期に注意が必要である。

CAR-T 治療前のリンパ球除去目的で用いられるフルダラビンやシクロフォスファミドの影

響も加わり、リンパ球の回復に 1 年以上を要する場合もある。リツキシマブにおける知見

も参考に治療後最低 6 か月以降の投与を推奨する意見がある。

一般にがん患者など免疫不全者における肺炎球菌ワクチン接種率は低い 1)。国内でのアン

ケート研究でも慢性肺疾患や糖尿病、慢性心疾患などと比較するとがん患者の PPSV23 接

種率は低い傾向が示されているが、医師からの推奨が接種に有意に関連する因子(調整オッ

ズ比 50~59 歳: 126.68、60~64 歳: 23.48、65 歳以上: 4.09)として抽出されている 14)。海

外でも同様の報告があり、医師からの適切な情報提供や接種推奨の重要と考えられる。

【肺炎球菌ワクチンの接種推奨の要点】

1) がん患者、固形臓器移植後には PCV13-PPSV23 の連続接種が推奨される 15)。この場

合、接種間隔は少なくとも 8 週間あける。PPSV23 をすでに接種している場合は

PPSV23 接種 1 年以降に PCV13 を接種する。

2) 造血幹細胞移植後 3~6 か月で PCV13 接種を開始し、1 か月間隔で 3 回接種すること

が推奨される。加えて移植後 1 年以降に PPSV23 の接種が推奨されるが、この時に慢

性 GVHD を合併している場合には PPSV23 の代わりに PCV13 を用いる 16, 17)。

3) 抗 B 細胞抗体治療後 6 か月以内のワクチン接種は推奨しない。

引用文献 1. Andersen MA, et al. Differences and Temporal Changes in Risk of Invasive

Pneumococcal Disease in Adults with Hematological Malignancies: Results from a Nationwide 16-Year Cohort Study. Clin Infect Dis 2020. doi: 10.1093/cid/ciaa090

2. Shigayeva A, et al. Invasive Pneumococcal Disease Among Immunocompromised Persons: Implications for Vaccination Programs. Clin Infect Dis 2016;62(2):139-147. doi: 10.1093/cid/civ803

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34

4. Eckerle I, et al. Serologic vaccination response after solid organ transplantation: a systematic review. PLoS One 2013;8(2):e56974. doi: 10.1371/journal.pone.0056974

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17. Rubin LG, et al. 2013 IDSA clinical practice guideline for vaccination of the immunocompromised host. Clin Infect Dis 2014;58(3):309-318. doi: 10.1093/cid/cit816

10. 免疫不全(主に小児) 【肺炎球菌感染症が重症化しやすい基礎疾患】

肺炎球菌感染症が重症化しやすい基礎疾患としては、まず機能的/解剖学的無脾症が挙

げられる。無脾症患者は細菌の濾過機能と好中球の貪食機能が低下するため、先天的な無脾

症や鎌状赤血球症のほか、脾臓摘出術を受けた者も含めて肺炎球菌感染症が重症化しやす

い。慢性髄液漏を伴う者や人工内耳装用者も肺炎球菌性髄膜炎のリスク因子となる。また、

補体欠損症など原発性免疫不全症も重症化しやすい基礎疾患としてあげられる。原発性免

疫不全症の中には、肺炎球菌感染症に対して特異的に易感染性が認められる自然免疫系の

異常であるIRAK-4欠損症なども見つかっている。このほか、HIV感染、悪性疾患、循環器・

呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病や、免疫抑制化学療法を受けている者、臓

器移植、骨髄移植を受けたことのある者も肺炎球菌感染症のハイリスク者である。

米国の2007~2009年PCV13導入前の小児PDサーベイランスデータによると、6~18歳の

小児例において、IPDの49%がPCV13含有血清型、23%がPPSV23含有血清型(PCV13含

有血清型を除く)であり、血液悪性疾患、HIV/AIDS、鎌状赤血球症の健常児に対するリス

ク比は、それぞれ822、122、27とされる1)。また、マサチューセッツ州からの2002年~2014

年の小児IPDのサーベイランス報告によると18歳未満の症例の中で、22.1%が基礎疾患を有

しており、最も多かったのが免疫不全状態(32.7%)、慢性呼吸器疾患(22.4%)であった

と報告されている2)。

英国からの2006~2014年の報告では、PCV7/PCV13血清型の小児IPDの22%に基礎疾患

があり、悪性疾患、免疫不全状態が主体であったとされる3)。

一方、国内では2007年~2014年における全国10道県の小児侵襲性肺炎球菌感染症サーベ

イランス調査(AMED「菅班」)では、6歳以上の症例は58人あり、そのうち、29人(50%)

が肺炎球菌感染症のハイリスクとなる基礎疾患を有していた。2014~2019年の期間の結果

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については、2の表1にまとめた。

また、これまでの国内での小児の肺炎球菌感染症報告例のレビュー論文によると、小児

IPDでは、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、髄液漏、無脾症、ダウン症候群、早産低

出生体重児、悪性疾患がリスク因子となっていた4)。

【肺炎球菌ワクチンの免疫原性】

PPSV23はB細胞の発達が未熟な2歳未満の乳幼児では十分な免疫が誘導できず予防効果

は得られない。一方、PCV13は、T細胞依存性抗原であるジフテリア変異蛋白を結合させた

ことにより、乳児(日本では生後2か月から接種)にもB細胞とT細胞の相互作用により優れ

た免疫応答を誘導できるとともに、メモリーB細胞を誘導出来るため、複数回接種によるブ

ースター効果も期待できるワクチンである。

無脾症・脾臓摘出患者に対する肺炎球菌ワクチンの免疫原性に関しては、無脾症・脾臓摘

出患者のPCV7接種による抗体価上昇は良好であり、PPSV23単独接種は抗体保持が不十分

で、PCV7+PPSV23の方がより抗体獲得率が高いとされる5-7)。また、PCV10(小児対象)、

PCV13(成人対象)に関しても抗体獲得は良好と報告されている8,9)。

慢性髄液漏を伴う者や人工内耳装用者は、基礎疾患として免疫不全症がない場合には、肺

炎球菌ワクチンに対する免疫原性は健常者と変わらない。

原発性免疫不全症患者においては、肺炎球菌ワクチンの免疫原性は低下することが予想

されるが、不活化ワクチンは合併症への危険性はないので、有効性があると考えられる疾患

(補体欠損症、IgGサブクラス欠損症、IRAK-4欠損症など)に対しては、積極的に接種を行

うことが推奨される10)。なお、いずれの疾患においても長期的な免疫原性については明らか

になっていない。

【ワクチン予防効果】

6歳以上で基礎疾患を有するPCV13未接種者に対して、米国ACIPは、機能的または解剖

学的無脾症、HIV感染症、髄液漏、人工内耳、その他の免疫不全状態の6歳以上の者に関し

ては、PCV13を1回接種し、その後8週間以上の間隔をあけてPPSV23を接種することを推

奨している1)。ハイリスク小児に対するワクチンの予防効果に関して、米国の8つの小児病

院からの報告によると、2014~2017年の小児IPD患者495人のうち、227人に基礎疾患が認

められた。PCV13血清型による感染症は全体の23.9%を占めていたが、基礎疾患を有する

小児では、有意に非PCV13血清型による感染症が多かったとされる11)。

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国内でも日本小児科学会ではPCV13未接種の定期接種年齢対象外の肺炎球菌感染症ハイ

リスク小児患者に対して同様の接種を推奨している。しかしながら、これまで、6~64歳の

年齢のハイリスク者に対してPCV13を接種することは、接種対象年齢適応外への接種とな

ってしまうため、接種により何らかの副反応が認められた場合、健康被害救済制度が受けら

れない可能性があった。実際、日本小児感染症学会で会員を対象にアンケート調査を実施し

たところ、定期接種年齢対象外のハイリスク者に対してPCV13接種を勧めている施設は、

無脾症・摘脾・脾機能不全者で69%、血液腫瘍疾患、原発性免疫不全症、臓器移植後患者で

はそれぞれ53%、50%、42%と限定的であった12)。そのため、基礎疾患のある小児に対す

る肺炎球菌ワクチンの予防効果については現状では十分検証できていない。なお、前述した

国内10道県における小児IPDサーベイランスでは、2019年1月~12月の1年間に認められた

92症例の中で、PCV7含有血清型によるものは1例、PCV13含有血清型によるものは1例の

みであり、米国と異なり、PCV13血清型による感染症はほとんど認められなくなっている。

【肺炎球菌ワクチン推奨の要点】

1) 無脾症、慢性髄液漏を伴う者、人工内耳装用者、補体欠損症などの原発性免疫不全を基

礎疾患として有する場合、肺炎球菌感染症が重症化しやすい。PCV13の定期接種対象

年齢は5歳未満(全小児への接種対象年齢は6歳未満)であるが、これらの基礎疾患を有

する者に対してはPCV13未接種の場合、6歳以上であっても接種を行うことが望ましい。

2) 上記ハイリスク者に対しては、より多くの血清型のIPDに対する予防が可能となるため、

PCV13接種後、8週間以上の間隔をあけて、PPSV23接種を推奨する1)。

3) PPSV23については、最終接種から5年以上経過した段階で2回目の接種を行う。

4) PPSV23を1回以上接種している者に対しては、最後のPPSV23接種から8週間以上あけ

てPCV13の接種を行う。PPSV1回既接種の者にPCV13を接種した場合には、2回目の

PPSV23接種は初回のPPSV23接種から5年以上あける。

5) 他の肺炎球菌感染症ハイリスク小児患者(慢性肺疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性

肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、悪性疾患・臓器移植)に対する方針は、各項目の方

針に準じて行う。

引用文献 1. CDC. Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal

polysaccharide vaccine among children aged 6-18 years with immunocompromising

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conditions: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2013;62(25):521-524. doi:

2. Yildirim I, et al. Vaccination, underlying comorbidities, and risk of invasive pneumococcal disease. Pediatrics 2015;135(3):495-503. doi: 10.1542/peds.2014-2426

3. Oligbu G, et al. Characteristics and Serotype Distribution of Childhood Cases of Invasive Pneumococcal Disease Following Pneumococcal Conjugate Vaccination in England and Wales, 2006-2014. Clin Infect Dis 2017;65(7):1191-1198. doi: 10.1093/cid/cix418

4. Ishiwada N. Current situation and need for prevention of invasive pneumococcal disease and pneumococcal pneumonia in 6- to 64-year-olds in Japan. J Infect Chemother 2021;27(1):7-18. doi: 10.1016/j.jiac.2020.09.016

5. Mikoluc B, et al. Immune response to the 7-valent pneumococcal conjugate vaccine in 30 asplenic children. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2008;27(10):923-928. doi: 10.1007/s10096-008-0523-5

6. Meerveld-Eggink A, et al. Response to conjugate pneumococcal and Haemophilus influenzae type b vaccines in asplenic patients. Vaccine 2011;29(4):675-680. doi: 10.1016/j.vaccine.2010.11.034

7. Smets F, et al. Randomised revaccination with pneumococcal polysaccharide or conjugate vaccine in asplenic children previously vaccinated with polysaccharide vaccine. Vaccine 2007;25(29):5278-5282. doi: 10.1016/j.vaccine.2007.05.014

8. Szenborn L, et al. Immunogenicity, safety and reactogenicity of the pneumococcal non-typeable Haemophilus influenzae protein D conjugate vaccine (PHiD-CV) in 2-17-year-old children with asplenia or splenic dysfunction: A phase 3 study. Vaccine 2017;35(40):5331-5338. doi: 10.1016/j.vaccine.2017.08.039

9. Nived P, et al. Vaccination status and immune response to 13-valent pneumococcal conjugate vaccine in asplenic individuals. Vaccine 2015;33(14):1688-1694. doi: 10.1016/j.vaccine.2015.02.026

10. Bonilla FA, et al. Practice parameter for the diagnosis and management of primary immunodeficiency. J Allergy Clin Immunol 2015;136(5):1186-1205 e1181-1178. doi: 10.1016/j.jaci.2015.04.049

11. Kaplan SL, et al. Invasive Pneumococcal Disease in Children's Hospitals: 2014-2017. Pediatrics 2019;144(3). doi: 10.1542/peds.2019-0567

12. 竹下健一他. ハイリスク小児におけるインフルエンザ菌 b 型ワクチン、肺炎球菌ワクチン

接種状況に関するアンケート. 小児感染免疫 2018;30(1):57-62

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おわりに

肺炎球菌性肺炎や IPD のリスクとなる主な基礎疾患ごとに、6 歳〜64 歳のハイリスク者

に対する肺炎球菌ワクチンの予防効果と推奨の要点を記載した。この他に、神経筋疾患や脳

卒中などの神経系疾患でも肺炎球菌感染症が起こりやすいことが海外から報告されており

1)、わが国の 6~64 歳の IPD の基礎疾患の検討でも明らかになっている 2)。ここに記載し

た基礎疾患以外でも、患者ごとに肺炎球菌感染症のリスクを評価し、2 種類の肺炎球菌ワク

チンの適応を検討することが望まれる。

任意接種である 6 歳から 64 歳までの肺炎球菌ワクチンの適応は、基礎疾患の種類、その

重症度、生活環境、患者の価値観などによって異なるため、「65 歳以上の成人に対する肺

炎球菌ワクチン接種に関する考え方」でも取り上げた臨床的共有意思決定(shared clinical

decision making)3,4)の考え方に基づいて、患者・保護者と医師のあいだで双方向的・相互

作用的に検討する必要がある。今回の「考え方」がその際の参考になれば幸いである。

引用文献

1. Shea KM, et al. Rates of pneumococcal disease in adults with chronic medicalconditions. Open Forum Infect Dis 2014;1(1):ofu024. doi: 10.1093/ofid/ofu024

2. Hanada S, et al. Multiple comorbidities increase the risk of death from invasive pneumococcal disease under the age of 65 years. J Infect Chemother 2021. doi:10.1016/j.jiac.2021.04018

3. Matanock A, et al. Use of 13-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine and 23-ValentPneumococcal Polysaccharide Vaccine Among Adults Aged ≥65 Years: UpdatedRecommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices. MMWRMorb Mortal Wkly Rep 2019;68(46):1069-1075. doi: 10.15585/mmwr.mm6846a5

4. 藤本修平、他. 共有意思決定<Shared decision making>とは何か? インフォームドコン

セントとの相違. 日本医事新報 2016(4825):20-22.

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2021 年 3 月 17 日

日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン

学会・合同委員会

大石和徳* 、西順一郎**、岡田賢司***、岩田 敏、神谷 元、川名 敬、関 雅文、多屋馨子、

朝野和典、永井英明、中野貴司、中村茂樹、丸山貴也、宮下修行、迎 寛、渡辺 彰

*日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討 WG 委員会委員長、**日本感染症学会ワクチン委員

会委員長 、***日本ワクチン学会理事長

日本循環器学会(筒井裕之)、日本腎臓学会(西 愼一)、日本肝臓学会(四柳 宏)、

日本糖尿病学会(戸辺一之)、日本リウマチ学会(右田清志)

執筆協力者

石和田稔彦、冲中敬二、菅 秀、山本和子