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(Ep H

平成14年2月

曰本RAD-AR協議会海外I情報研究会

薬剤疫学論文の評1面研究

(その4)

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はじめに

日本RAD-AR協議会

薬剤疫学部会

部会長真山武志

海外情報研究会は平成8年4月よりLanceLBMJ、JAMA等の国際的に評価の高い医学誌

に収載された薬剤疫学論文の評価を行って来ている。評価には専門的知識が不可欠であ

り、日本薬剤疫学会理事長楠正先生、国立公衆衛生院疫学部環境疫学室長藤田

利治先生のご参加を得て、評価研究を進め降圧剤、特にCa拮抗剤については平成8年

12月「薬剤疫学論文の評価研究(その1)」、経口避妊薬については平成10年2月「薬

剤疫学論文の評価研究(その2)」、ホルモン補充療法については平成13年3月「薬剤

疫学論文の評価研究(その3)」にそれぞれ纏めて報告した。その間、経口避妊薬、ホ

ルモン補充療法については日本薬剤疫学会誌に投稿し広く薬剤疫学研究者等へ、その成

果を報告した。また、この論文評価研究に携わった企業の研究者にとっては薬剤疫学の

良き研鎖の場となった。

日本では薬剤疫学に使用できるデータベース構築が進むまで手をこまねいてただ待つ

のではなく、企業が実施して来た貴重な市販後調査の成績をデータベース化し薬剤疫学

研究を行い、そこから有用な情報の創出を試みている。その活動を行なっているPE研

究会(Pharmacoepidemiology)では日本RAD-AR協議会の会員7社の協力を得て、

降圧剤について各社で実施した使用成績調査、特別調査のデータをデータベース化する

ことから手始めに行っている。この点からも薬剤疫学論文の評価研究の成果は役立つも

のである。

今回、降圧剤、経口避妊薬、ホルモン補充療法の纏めに間に合わなかった論文に加えて

新たに非ステロイド性抗炎症鎮痛剤、COX-I抗けいれん剤、選択的セロトニン再

取り込み阻害剤(SSRI)並びにベンゾジアゼピンの論文を評価した成果をここに纏めた。

参考に供していただければ幸いである。

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’111

1.HRT関連論文

1)SouranderL,etaLCardiovascularandcancermorbidityandmortalityand

suddencardiacdeathinpostmenopausalwomenonoestrogenreplacement

therapy(ERT).Lancetl998;352:1965-1969

2)WeiderpassE,etaLLow-potencyoestrogenandriskofendometrialcancer:

acase-controlstudy・Lancetl999May29;353:1824-1828

3)SchairerC,etaLMenopausalestrogenandestrogen-progestinreplacement

therapyandbreastcancerriskJAMA2000;283:485-491

4)KavanaghAM,etaLHorlnonereplacementtherapyandaccuracyofmalmnographic

screeningLancetl999;355:270-274

5)GapsturSM,etaLHormonereplacementtherapyandriskofbreastcancerwith

afavorablehistologyresultsofthelowawomen,shealthstudy,JAMA1999;281:

12

2091-2097 14

6)R6dstr6mK,etaLPre-existingriskfactorprofilesinusersandnon-users

ofhormonereplacementtherapy:prospectivecohortstudyGothenburg,Sweden.

BMJ1999;319:890-893 16

2.0C関連文献

7)MichaさlssonK,etaLOralcontraceptiveuseandriskofhipfracture:

acase-controlstudy・Lancetl999;353:1481-1484

8)BeralV,etaLMortalityassociatedwithoralcontraceptiveuse:25yearfollow

upofcohortof46000womenfromRoyalCollegeofGeneralPractitioner,soral

18

contraceptionstudy・BUJ1999;318:96-100

9)DunnN,etaLOralcontraceptiveandmyocardiallnfarction:resultsofthe

MICAcase-controlStudy・BMJ1999;318:1579-83

20

22

3.降圧剤関連文献

10)A1dermanmetaLEffectoflong-actingandshort-actingcalciumantagonists

oncardiovascularoutcomesinhypertensivepatients.

Lancetl997;349:594-598 25

検討論文の目次

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11)GressTW,etaLHypertensionandantihypertensiVetherapyasriskfactor

fortype2diabetesmellituaNEnglJMed2000;342:905-12 27

4.神経系用剤関連文献

12)BarboneF,etaLAssociationofroad-trafficaccidentswithbenzodiazepine use・Lancetl998;352:1331-1336

13)RzanyB,etaLRiskofStevens-Johnsonsyndromeandtoxicepiderlnal

necrolysisduringfirstweeksofantiepileptictherapy:acase-controlstudy.

30

Lancetl999;353:2190-2194

14)deAbajoFJ,etaLAssociationbetweenserotoninreuptakelnhibitorsand

gastrointestinalbleeding:populationbasedcase-contrO1study,

BMJ1999;319:1106-1109

15)ReillyJG,etaLQTc-intervalabnormalitiesandpsycotropicdrugtherapy inpsychiatricpatients,Lancet2000;355:1048-1052

34

36

38

5.NSAlDs関連文献

16)StewartWF,etaLRiskofA1zheimer,sdiseaseanddurationofNSAIDuse・

NeuroL1997;48:626-632

17)SheehanKM,etaLTherelationshipbetweencyclooXygenase-2exPressionand colorectalcancer,JAMA1999;282:1254-1257

40

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エストロゲソ補充療法を施行した閉経後女I住における

lIljl血管系及び癌の罹病、死亡およびlujl突然死

Oardiovascula「andcance「morbidityandmortalityandsuddenca「diacdeathin

postmenopausalwomenonoest「ogen「eplacementthe「apy

SouranderLetaI.

閉経後のエストロゲン補充療法(以下ERTという)のリスクとベネフィットは

未だ不明である。この研究は、ERTと心血管系疾患及び癌との関係を分析す

ることである。

[目的]

トルク市(フィンランドの都市)に1923年~1930年に生まれた女性で、マ

ンモグラフスクリーニングに参加した7944人を対象に、1987年~1995年ま

で53,305人・年の追跡調査を実施した。ホルモンの使用と発生した健康上

の事象は年ごとの質問票調査、地域の病院退院記録簿、国の癌記録簿、社会

保険償還記録簿及び国の死亡記録からの記録及び関連情報を通じて入手し

た。

[方法]

ERT現在使用者と心血管系による死亡の減少並びに心突然死の減少とは関連

性が認められた。すなわち、ERT現在使用者での心血管系による死亡の調整

後危険率(RR)は0.21、過去使用者では0.75であった。ただし、心血管系

の罹病率を見ると調整後危険率はERT現在使用者ではRR=107、過去使用者

RR=1.11で、ERTによる心血管系罹病率は減少しなかった。

乳癌罹病率はERT現在使用者では増加しなかった(RR=0.57)。子宮内膜癌罹

病率ではERT現在使用者で増加した(R=5.06)。

[結果]

ERT現在使用者では主として心突然死、心血管系の原因による死亡は減少す

ると予測されるが、罹病率は減少しなかった。ERTは乳癌のリスクは増加さ

せないが、子宮内膜癌のリスクの増加とは関連があった。

(Lancetl998;352:1965-1969)

[結語]

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この研究はフィンランドのトルク市の住民に対して、アンケート調査やマンモグラフを

用いた検査結果から、ERTを施行した閉経後女性は心血管系疾患のリスクや死亡の減少

をみたプロスペクテイブなコホート研究である。

本研究では登録前に心血管系疾患を発生した女性は除外とせず、その女性が追跡期間中

発生したイベントはすべて採用している。また、追跡期間中にERTを開始した者や過去

使用者の使用暦の取り扱いが明確になっていないなど参加者の分類には何か

selectionbiasがあるのではないか。

エストロゲンの使用は他の研究でも見られる様に高い社会階級でより普及しており、

ERTの心保護作用が言われておりますが、より低い社会階級でも高い社会階級と同様な

結果が得られたが、ごく当然である。また、ERT現在使用者では非使用者及び過去使

用者と比較し、心血管系が原因で死亡、中でも心突然死の顕著な減少が見られた。(現

在使用者のRR=0.21)

ERT実施者の心血管系による死亡の減少とは対照的に、ERT現在使用者での心血管系疾

患の罹病率の有意な減少は見られなかった。(現在使用者のRR=1.07)この結果は

GrodsteinらのNursesHealthStudy等(薬剤疫学論文の評価研究その3)の皿T現

在使用者では冠動脈疾患の罹病を減少させるという結論に相反するが、これは前述のよ

うに過去にERTを使用した履歴のある者の取り扱いや除外者の取り扱いがNurses

HealthStudyと異なるため、両研究を直ちに比較することには問題がある。

ERTによる心疾患による死亡の減少、乳癌の相対リスクの増加はみたれなかった。一方、

子宮内膜癌のリスクは増加したという他の多くの研究と一致する結果であった。

ROJ海タト'|胄報研究会コメント

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低用量エストロゲンと子宮内膜癌のリスク:

ケース・コントロール研究

Low-potencyoestrogenand「iskofendometrialcance「;acase-cont「olstudy

WeiderpassE,etal.

〔目的〕閉経後のエストロゲン欠乏の初期症状は全身性が主であり、閉経後の高齢女性

では局所症状が主である。これらの症状は中用量エストロゲン製剤で明らかに

軽減される。また、低用量経口製剤、膣内製剤を使用することも有効である。

より強力なエストロゲン使用後の子宮内膜癌リスク増大は疫学的に確立され

ている。一方低用量エストロゲンについては疫学研究により適切な定量化がさ

れていない。スウェーデンで低用量エストロゲンが広く使用されていることか

ら検討した。

〔方法〕スウェーデンに生まれて、1994年1月から1995年12月の間スウェーデンに

居住していた50~70歳の女性で子宮摘出を行っていず、子宮内膜癌および乳

癌のない女性で地域ベースのケース・コントロール研究を行った。

ケース群(789人)は研究対象期間に新規に子宮内膜癌と診断され、組織病理

学的に確認された女性。スウェーデンの6つの地域癌登録機関を介して確認し

た。コントロール群(3368人)は住民登録から無作為に抽出した。2633人は

乳癌についてのケース・コントロール研究の参加者でもあり、残りの735人

は乳癌研究実施後に、この研究のため別途抽出した。データ収集は郵送調査で

欠測情報を補充するため約50%について電話でインタビューした。

無条件多重ロジステイック回帰分析をし、経口または膣内投与の低用量エスト

ロゲン製剤未使用者と使用者を比較した。

〔結果〕低用量エストロゲン製剤(経口エストリオール)使用の報告があった割合はコ

ントロールに比較して子宮内膜癌ケースで高かった(10.8%対20.1%)。経口

エストリオールを全く使用したことがない女性に比べ使用したことがある女

性の子宮内膜癌の相対リスクは2倍増加していた。エストリオール服用が5

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年以下のオッズ比は1.7で、少なくとも5年間のオッズ比は3.0であった。病

理組織学的調査後に浸潤性癌よりも異型増殖として再度分類された80例のう

ち27例(34%)は経口エストリオールを使用していた。オッズ比が37で、

5年間使用後の相対リスクの増加は8倍であった。膣用低用量エストロゲン製

剤の使用はコントロール11.3%と比べてケースは14.7%であり、多変量調整

したオッズ比は1.2倍で有意でなかった。

〔結語〕 経口エストリオールを使用したことがある閉経後女'性では子宮内膜癌の相対リス

クが増加している。この相対リスクは使用期間と共に増加し、腫瘍の分化が良い

ものと浸潤が最も少ないもので相対リスクが最高であった。従って、このような

治療の間は子宮内膜をモーターする必要があり、プロゲステロン製剤の追加を考

魔すべきである。

(Lancetl999;353:1824-1828)

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閉経後の更年期障害は女性にとって苦しいものである。従来は経口避妊薬と同様に高・

中用量のエストロゲン製剤が使用されており、各種のリスクについて疫学的研究がなさ

れている。これらリスクを低減するため低用量エストロゲン製剤が経口投与、膣投与製

剤として使用されるようになった。このような状況下、本研究の意義は大きいものと考

えられる。

スウェーデン全土6カ所の癌登録機間、住民登録を用いた国家単位のケースコントロー

ル研究であり、本研究の強みとなっている。データ収集は郵送調査であって、欠測情報

を埋めるため約50%について電話でインタビューを行った。

ケース群での診断から調査までの期間の平均は8.4ケ月であった。これらのことからみ

ると想起バイアスの懸念がある。更に細かいことを言うとNeveruseの定義の問題、各々

の表中の数字に不整合等が本論文には見られる。

結論として、低用量エストロゲン使用でも子宮内膜癌のリスクは増大すると考えられる。

このように閉経後女`性の諸症状の治療に使用される低用量エストロゲン製剤の子宮内

膜癌リスクの疫学研究は大変に意義深いものと思われる。

RCJ海外'|胄報研究会コメント

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閉経後のエストロゲン補充療法とエスト□ゲンープ□

ゲスチン補充療法および乳癌リスク

MenopausalEstrogenandEst「ogen-ProgestinRepIaGementTherapy andBreastCancerRisk

SchairerC,etal.

[目的]世界の90%以上の疫学データを集めたメタアナリシスの研究報告より、ホルモ

ン補充療法(hormonereplacementtherapyHRT)に際して、使用経験有(past

user)および使用期間が長期にわたるほど乳癌リスクが増加することを示した。

ところが、エストロゲン単独補充療法とエストロゲンとプロゲスチン併用補充

療法のリスクを比較した知見は充分ではない。そこでこの研究ではエストロゲ

ンとプロゲスチンの併用補充療法のリスクがエストロゲン単独補充療法を上回るか否かを検討した。

[方法]本研究は、1973年から1980年に実施された全米乳癌スクリーニングプログラ

ムBreastCancerDetectionDemonstraljonProject(BCDDP)とその後のフ

オローアップデータ(1980年から1995年)より、46,355名の閉経後女性を解

析対象とした前向きオープンコホートである。フォローアップ期間の平均値は

10.2年(中央値123年)、フオローアツプの平均開始年齢は58歳、総人年数

は473,687人年、乳癌症例数は2,082例であった。ホルモン剤のタイプや使用

経験(everuser,recentuser,neveruser)、あるいは肥満度(BodyMasslndex:

BMI)などでカテゴリー化した変数の乳癌発生リスクは、ポアソン回帰法によ

り相対危険度(RR)として算定した。連続変数となるホルモン剤の使用期間の

場合では、線形性超過相対リスクとしてモデル化しRRを算出した。

[結果]エストロゲン単独のRR(95%信頼区間)が1.2(LO-L4)に対し、エストロゲン

とプロゲスチン併用のRRは1.4(1.1-1.8)であった。Recentuserを使用期間

ごとにカテゴリー化した場合のリスクを見ると、エストロゲン単独の使用期間1年~2年、併用の1年以内(currentuser)のRRと95%信頼区間はそれぞれ、

L4(L1-L8)と1.4(1.1-1.9)であった。調整後RRの年増加率は、エストロ

ゲン単独の場合で0.01(0.002-0.03)、併用の場合で0.08(0.02-0.16)であっ

た。BMIが24.4kg/、2以下(非肥満タイプ)と24.4kg/、2以上(肥満タイプ)で

カテゴリー化し解析したところ、非肥満タイプのリスクが高く、1年ごとのリ

スク増加率は単独で0.03(0.01-0.06)、併用で0.12(0.02-0.25)であった。

肥満タイプではいずれのホルモン補充療法でも統計学的に有意なRRの増加は見られなかった。

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閉経後のホルモン補充療法においてプロゲスチンを併用した場合乳癌リスクが高

まること、またBMIが24.4kg/m2以下の場合もリスク要因となりうることが示さ

れた。閉経後のHRTに際しては、プロゲスチンを併用することのリスクとベネフ

ィットを考慮するともに個々人のBMIにも配慮することが必要である。

[結語]

(JAMA2000;283:485-491)

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1997年に発表されたHRTと乳癌の関連を再解析したメタアナリシスは、HRT(80%以上

はエストロゲン単独)を受けたことのある人の相対リスクは、前向きコホート研究であ

ってもケースコントロール研究であっても1.09倍から1.17倍程度であること、リスク

の上昇はやせ型の女性(体重65kg以下あるいはBMI25kg/m2以下)に限定されていたこ

とを示した。ところが元の研究の時代背景を考えると、エストロゲンと黄体ホルモンの

配合剤の割合が低く、黄体ホルモンの影響に関しては何ら議論できる材料は得られてい

なかった。本研究では黄体ホルモンを併用した場合の乳癌リスクを解析し、その場合リ

スクが高まることを示した意義は小さくない。

手法的問題点としては、閉経年令不明の被験者を解析対象としたこと、および実際の使

用時期から時間間隔を経て面接や電話により情報を得たことによるリコールバイアス

が考えられる。閉経年令に関してはそれが解析結果に影響する交絡因子でないこと、ま

たリコールバイアスの可能性は完全には否定できないが、他のいくつかの研究報告の結

果の一致性から考えると、その影響は限定的と思われる。解析対象の規模や研究手法の

点からすれば、信頼性の高い研究結果ではないだろうか。

ROJ海タト'|冑報研究会コメント

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ホルモン補充療法およびマンモグラフィ検診の正確'性

Hormone「eplacementtherapyandaccuracyofmammographicscreening

KavanaghAMetal.

ホルモン補充療法(HRT)が普及し、HRTがマンモグラフ検診の正確性に影

響を与える可能性が報告されており、HRT施行によるマンモグラフ検診の正

確性を検討した。

[目的]

本コホート研究はビクトリア州(オーストラリア)在住の40歳以上の女性

で、2年ごとに実施しているマンモグラフ検診から、1994年の初回検診にお

いて乳癌の既往歴、乳房のしこり、乳頭からの出血もしくは水様分泌物が認

められなかった103,770例を対象に、HRTの実施の有無に基づき診断の感度、

特異度、微小癌検出率を調査した。

[方法]

103,770例のコホートのうち、27%がHRTを受けていた.

2年に1度のマンモグラフの診断感度はHRT実施群で64.8%(95%IC

58-72)、HRT非実施群では77.3%(95%IC74-81)とHRT実施群が低かっ

た。特異度(無病正診率)はHRT実施群で有意な低下が見られた。なお、微

小癌検出率では両群に有意の差は見られなかった。可能性のある交絡因子

(年齢、家族歴、症状)について調整した後の、2年間のスクリーニング期

間中の癌と診断された女性の中では、HRT実施群がHRT非実施群より偽陰性

が高かった。(調整後オッズ比1.60「1.04-2.21」)。特異度ではスクリーニン

グ期間中、癌と診断されなかった女性の中での、偽陽性のリスクはHRT実施

群でわずかに高かった(調整後オッズ比1.12「1.05-1.19」)。

[結果]

HRT実施によりマンモグラフ検診の診断の感度が低下することが示された。

HRT実施中の女性がマンモグラフ検診を受ける場合は、検査前の短期間HRT

を中止するよう助言することが適切と思われる。

(Lancetl999;355,270-274)

[結語]

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HRTが普及し出し、乳癌検診のひとつであるマンモグラフをうけるにあたり、HRTの

実施の有無がマンモグラフの診断の感度、正しい乳癌の診断、微小癌の検出にどのよう

な影響を与えるかをコホート研究により検証した。

診断感度はHRT実施群の方が非実施群より12.5%低かったが、仮にマンモグラフを受

けた際、両群が同じ感度だとすると、HRT実施群ではさらに約23人の女性が癌をス

クリーニングできたことになる。

また、HRT実施群における1年間隔のスクリーニングでの偽陰性のリスク(調整後オ

ッズ比1.72)は2年間隔のリスク(調整後オッズ比1.60)と類似していたが、マンモ

グラフでの乳癌スクリーニングを1年間隔で実施すべきか2年間隔で実施すべきかの

判断はくだしていない。

今回の研究でHRTを実施することによりマンモグラフの検診感度が低下することが

わかったが、この原因にはHRTを受けている女性は腫瘍生育速度が速く、次回検診期

間までに浸潤癌が高い割合で見られ、偽陰性と評価されてしまうことが考えられる。

また、今回は交絡因子として年齢、症状、家族暦としたが、他の体重、身長、出産暦、

閉経状況、初産年齢、初潮年齢等が感度に関する交絡因子の可能性も考えられるため、

このような情報も変数として調整し、調整後オッズを求める必要があろう。

RCeJ海外'|胄報研究会コメント

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ホルモン補充療法と良好な組織像を示す乳がんのリスク

lowaWomen,sHeelthStudyの結果

Hormone「ep旧cementtherapyandr駄0lb「easicancerwithafavorab伯hiSto胸gyb

ResmtsofthebwaWon鯵、,sI伯aIthStudy・

GapsturSM,etaI.

閉経後の長期にわたるホルモン補充療法OⅨT)は乳がんのリスクを増加させると

考えられている。乳がんでも組織像からタイプに分けて、上皮内がん、良好な組織

像を示す乳がんおよび腺管がんあるいは小葉がんについてそれぞれのリスクとIRT

の関連を調べた。

〔目的〕

前向きコホート研究で、IowaWomen,sHealthStudyとして、1986年時点で55才

から69才の閉経後の女性を無作為にサンプルした。運転免許証のリストから98029

人(アイオワ州の94%に相当する)に16ページの質問表を送り、41837人から回

答を得た(回収率42.7%)。ここから閉経前および乳腺切除したもの、がんの既(主

のあるものを除いた37105人のコホートについて解t1fした。その後1987,1989,1992,

1997年郵送調査し、生存状t兄、病気の発生、居住などを調査した。組織像は

HealthRegistryoflowaにおける6桁のコードによった。そのタイプの異なる乳

がんにおける議塵多変量相対危険率を算出しⅢ(Tとの関連を検討した。COX比例ハ

ザードモデルを用い、多変量ロジスティック回帰により、非乳がんと比べた各乳が

んタイプの回帰係数を比較した。

〔方法〕

37105例のコホートにおいて1520例の乳がんが発現した。年齢などの他のリスクフ

ァクターを調整した上で、このうち良好な組織像を示す乳がんにおいては、mlTの

使用と関連が認められ、5年以下の使用では相蜥さ険率は1.81(95%信頼区間1.07

~0.07)であったのに対して、5年を超える使用では2.65(1.34~5.23)であった。

上皮内がんおよび腺管がんあるいはJ繋がんについてはmRTの使用との間に関連性

は認められなかった。現在mHTを使用しているグループでは、5年以下の使用者で

は、良好な組織像を示す乳がんの相対危険率は4.42(2.00~9.76)、5年を超える

使用で2.63(1.18~5.89)となり関連性が認められた。

〔結果〕

〔綺弼mRTの使用I瀞Lがんのリスクを増大させるものの、良好な組織像を示す乳がんのリス

クを上昇させるもので、IRT使用のリスクとベネフィットを評価するうえで重要な情

報となる。

(JAMA1999;281:2091-2097)

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| Ⅱ

薬剤疫学論文の評価研究(その3)ではHRTについて検討されたが、乳がんに対する影

響については明確な回答が得られなかったものである。51研究をまとめて解析したメ

タアナリシスの論文では、使用期間5年以上かつ中止後5年未満に限れば相対危険は最

も大きく1.35倍であったものの、使用者全体でみると1.14(95%信頼区間0.62~1.67)

に過ぎなかった。エストロゲンを使用したHRTに関連して乳がんのリスクが増大するか

に対する本論文の答えはイエスではあるが、ただ良好な組織像を示す乳がんにおいてだ

けリスクが増大するとしたものである。

37015人の健康な婦人のコホートで11年間追跡調査された。1520例(4%)が乳がんと

診断され、このうち1164例(77%)は浸潤性の腺管がんあるいは小葉がん、175例は

上皮内がん、良好な組織像を示すとされる乳がんは82人(5%)であった。その他が

99例は解析から除外された。ただ、組織像が良好であるかについての定義についてコ

ンセンサスはいまだ得られていないのが現状で、この点本論分での解析に問題がないわ

けではない。また、全ての乳がんタイプを合算して検討すると、相対危険は5年以下で

は1.07(0.94~1.22)、5年を超えるHRTの使用で1.11(0.92~1.35)となっており、

HRTの使用との関係はないといえることになるが、乳がんのうち5%を占めるに過ぎな

い良好な組織像を示すとされる乳がんでだけ関連性があることを示しているに過ぎな

い。

子宮内膜がんとHRTの関連についてはよく確かめられているところであるが、乳がんと

の関連は長い間論議されているところである。乳がんのリスクに影響するとしても僅か

であるが、今後も薬剤疫学検討が引き続きなされるべきであろう。

RCcJ海外'|寶報研究会コメント

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ホルモン補充療法の使用者と非使用者における治療

開始前のリスクファクター:

スウェーデン、ゴテンブルグでの前向きコホート研究

Pre-existingriskfacto「profilesinuse「sandnon-usersofhormonereplacementtherapy:pmspectivecohortstudyinGothenburg,Sweden

RijdstrdnKpetaI.

〔目的〕心血管系疾患に対するリスクプロフィールが、ホルモン補充療法(HRT)を使

用することになる女性と治療を受けないままの女性において異なるかどうか

を、治療開始前に評価する。

〔方法〕スウェーデン、ゴテンブルグにおいて、1968~1969年に始められた前向き母

集団研究で、1974,1980,1992年に追跡調査された。この集団における同一

年齢の女性を代表する1918,1922,1930年生まれの1462人が誕生日に基づい

たサンプリングで参加することとなり(参加率90.1%)、このうち1201人が

対象となった。初回検査時に収縮期血圧と拡張期血圧、ウエストおよびヒップのサイズ、ウエスト対ヒップ比、ボディマスインデックス(BMI)コレステロ

ールおよびトリグリセリドの血中濃度、喫煙習慣、教育歴、身体活動、社会経

済的グループを調査した。これらの評価項目がHRTの使用に関係するかを検討した。Mantel-Haenszel法と多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析された。

〔結果〕1201人の女性のうち179人(14.9%)は、24年間の追跡期間中にHRTを使用することとなった。年齢調整後、これらの女性では治療を受けないままの女性

と比較して、使用の開始前に血圧、肥満度が低く、高い身体活動、高い教育歴、比較的高い社会経済的グループに属していたことが特徴的であった。平均値でみると収縮期血圧で8mm{g低く、ウエストは2cm少なかった。

〔結語〕将来HRTを使用することになる女性は、その使用の開始前からすでに心血管系疾患のリスクが低かった。従来言われている、HRTの有益な影響のいくつかは、HRTを使用することになる女性が比較的健康な=ホートを代表する女性であることが原因となるかもしれない。

(BMJ1999;319:890-893)

Page 18: (その4) - rad-ar.or.jp

mRTは更年期障害に有効であるとして、1960年代から使用されており、「薬剤疫学論文の評価研究(その3)」において、既に紹介されたが、骨粗しよう症の予防効果も示されている。一方でHRTを使用する女性では心血管系疾患の発生であるとか、これによる死亡が少ないとする後ろ向き疫学研究は数多く報告されているが、最近、抱合型エスト

ロゲンの効果を調べた無作為臨床試験では、HRT使用群1380例、プラシーボ群1383例を対象として平均追跡期間4.1年の結果、冠疾患の発生に有意の影響はなかったとされ

ている(HulleyetaLJAMA1998;280:605-13、「薬剤疫学論文の評価研究(その3)」)。別の研究では、HRTを使用するグループは、より高い教育を受けてきたグループであり、より健康的なグループであるとされ、healthyusereffectが交絡している可能性が推定されている。本論分のテーマは心血管系疾患に有益であるとされるのが、HRTそのものによるか、あるいはhealthyusereffectが関係しているのかを明らかにすることにある。

今回の研究は前向きコホート研究としては初めてのもので、その結果、後になって1mを使用することになる女性のコホートは、治療開始前から血圧が低く、肥っていなくて、社会階級が高い、すなわち、治療開始前のリスクファクターが低かったとするもので、HRTが心血管系疾患に有益であるとするのは大部分このhealthyusereffectによるのかもしれない。

また、healthyusereffectに関係する選択として、社会階級が高く教育が高いということで情報へのアクセスがより多くHRTを選択することになる、処方医が使用者を選択する可能性がある、すなわち、心血管系のリスクの少ない女性に意図的に処方した、も考慮しなければならないとされているが、加えて、やせていれば一般に更年期障害が起こりやすくHRTが選択される機会が多いことも考えられる。

HRT使用者における治療開始前の心血管系疾患のリスクプロフィールに差異があることから、心血管系疾患の予防のためにHRTを使用するということを推奨するのは時期尚早であるとする本論文のキーメッセージは妥当であると思われる。今後、無作為化臨床試験による詳細な検討が待たれる。

RCJ海タト!|寶報研究会コメント

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経□避妊薬の使用と腰部骨折のリスク

ケース・コントロール研究

●●

Oraトcontraceptiveuseandriskofhipfracture:case-cont「olstudy

MichaelessnK,etaI.

ホルモンの補充療法として用いられる外因性のエストロゲンは、閉経に伴う

骨密度の減少を防ぎ、腰部骨折のリスクの減少と関連している。経口避妊薬

としての外因性のエストロゲンの閉経前の使用も骨の減少に影響を与えて

いるかもしれない。腰部骨折のリスクに対する閉経前のエストロゲンヘの曝

露の影響を調べるために大規模な地域集団におけるケース・コントロール

研究を実施した。

【目的】

スウェーデンの人口のほぼ半分を占めるストックホルムなどの6つの大都市において1913年以降に生まれ、1993.10~1995.2の問に腰部のあたりの骨

折が発生したすべての人をケースとした(2597名のうち適格者1327名)。

コントロールは、研究が始まる前月の住民登録から、ランダムに選択された

スウェーデン生まれの女性とした(4872名のうち適格者3312名)。データ

は、妊娠歴と経口避妊薬、ホルモン補充療法を含めたエストロゲンの使用に

ついての質問用紙を送付しそれを回収することによって収集された。交絡要

因を調整するために条件のないロジステイック回帰を用いて、オッズ比と

95%CIを算出した.

【方法】

経口避妊薬の使用者は、ケース130(11.6%)とコントロール562(19.1%)

であり、経口避妊薬の使用者の腰部骨折リスクは末使用者に対して25%減少

(oddsratioq75[0.59-0.96])していた。多変量で調整した後もオッ

ズ比は0.75(0.59-0.96)であった。さらに、経口避妊薬高用量の使用者

の腰部骨折リスクは、末使用者に比べて44%低かった(オッズ比0.56(0.42

-0.75))。また、経口避妊薬の使用期間、最後の使用からの時間、最後の使

用と閉経の間の時間による腰部骨折のリスクに傾向は見られなかった。

【結果】

ケース・コントロール研究の限界を考えても、この結果から、生殖可能期:

後期の経口避妊薬の使用は、閉経後の腰部骨折のリスクを減少させるであろ

うということがわかる。

(Lancet1999;353:1481-84)

【結語】

Page 20: (その4) - rad-ar.or.jp

'-1 ’|

腰部骨折(HipFracture;以下HF)のリスクに対する閉経前のエストロゲンヘの

曝露の影響を調べるための大規模な地域集団におけるケース・コントロール研究で

ある。

本論文においては、データの取り方、取り扱いについての記載が不明確である。例

えば、データの取り方に関しては、コントロール群において、70歳から80歳は、

この研究のために年齢と居住群を頻度マッチクングし、ケースごとに2人をサンプ

リングしているが、50歳~69歳は同時に行った乳癌研究で用いたコントロールで

あり、5歳年齢階級・居住群について各ケースあたり2~4人としているようだが

詳細は明確ではない。また、データの取り扱いに関しては、解析対象がどのように

特定されたかが明確ではない。ケース群において、除外例が多いことも気になると

ころである。さらに、この設定では、ケース群とコントロール群で年齢構成に不均

衡をもたらすことになり、交絡が懸念される。実際、文献上でも年齢調整オッズ比

と粗オッズ比にかなりの違いが見られる。データの収集については、質問表を郵送

し回収することによって実施され、そのうち、過半数は電話によって欠測情報を補

充したとされている。著者らも述べているようにこの研究の長所のひとつは、この

調査法による多くの症例数および高回答率にあると言えるが、また、調査対象者の

自己報告によるrecallbiasの可能性も拭えない。

論文において重要なResearchQuestionについては、閉経後の女性のIFとOCとの

関連にあるのか、単に師のリスクにあるのかといったあいまいさを感じる。しか

しながら、これは閉経前の若い時代のOCと閉経後の過齢とともに増えるHFとを関

連付けようとする課題の宿命なのかもしれない。

また、HRTとHFとの関連を論文上のデータを用いて検討してみるとOCと同様にHF

抑制効果が示唆されている(約0.6倍)であった。このことから、HRTがHFとが

どのように関連しているのかといったHRTの効果を評価すること、さらにはOCと

HRTとの関係についても言及することが有意義であると考える。

曝露と事象の間に超長期の期間があることを考えるとこの研究は難しい課題に挑

戦した得難い研究として評価すべきかもしれない。実施可能かどうかは別として、

1Fの発生が広い範囲の高年齢層にあることを考えるとこの研究はコホート型で実

施することが妥当であると思われる。

ROJ海外'|寶報研究会コメント

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経□避妊薬の使用に関係する死亡率:

RoyalCdlegeofGenera1Practitionersの経□避妊薬研究

から4e,○○○人のコホートの25年間の追跡調査

Mo「talityassociatedwithoralcontraceptiveuse:25yea「followupofcohortof46000

womenfromRoyalCollegeofGene『alP「actitioners,o『alcontraceptivestudy

BeralV,etaI.

〔目的〕経ロ避妊薬使用の死亡率に対する長期的な影響を検討する。

〔方法〕英国のRoyalCollegeofGeneral2ractitionersの経口避妊薬研究では、1968年5

月から14ケ月にわたり、1400人の-一般開業医が23,000人の経ロ避妊薬使用者と同じ

数の非使用女性をリクルートした。その後、6ケ月ごとに経口避妊薬のAuリラ、妊娠、

疾病、死亡について調査した。死亡の有無と死因、移動を確認するためNHS中央登録

にフラッグを立て追跡したが、1976-77年には75%にフラッグを立てることができ

た。1993年末までに使用経験者517,519人年、非使用者335,998人年で合計853,517

人年となり、標準化死亡比を算出するとともに、ポアソン回帰モデルを用いて年齢、

出産数、社会階層、喫煙状態を読盤した相対リスクおよびその有意性を検定した。

〔結果〕全死亡は使用経験者で945人、標準化死亡比は82、非使用者は654人で標準化死亡

比は74であり、調整相対リスクは1.0(95%信頼区間0.9~1.1)となった。死因別

でみると結腸直腸がんおよび卵巣がんの相対リスクは使用経験者で有意に低く、逆に

脳血管疾患および事故による死亡の相対リスクは高い。初回使用からの期間で見ると、使用開始10年未満では全死因、全循環器疾患および脳血管疾患で相対リスクは高く

初回使用から10-19年には脳血管疾患が高いが卵巣がんでのリスクは低い。20年以

降では使用経験者と非使用者の間に差はみられなかった。最後の使用からの期間が10

年未満では子宮頚がんと脳血管のリスクは依然として高いが、15年以上経過するリス

クの変動はない。一方、使用期間が10年以上となると子宮頚がん、肺がんのリスク

が高い。リスクの増大・減少は使用中止後10年未満でみられるが、使用中止後10年

以上ではいかなる死因についてもリスクの変動はみられない。

〔結語〕 全死亡には使用者と非使用者に差はないが、使用中および使用中止後10年未満で

は卵巣がんの死亡率は減少し循環器疾患および子宮頚がんによる死亡率は増加し

た。使用を中止してlo年以上経過すればこういった死亡リスクの変動はなくなる。GMJ1999;318:96-100)

Page 22: (その4) - rad-ar.or.jp

| ’

r--------------------

1960年代にピルが最初にアメリカで承認・発売されて以来、世界各国で広く使用され

るようになっている。膨大な使用経験があるのみならず、数多くの研究報告が集積された。ピルは、現在行われている多くの避妊法での中でもっとも確実な方法であるとされ

ているが、1968年、インマンとヴエツシーはピル使用者では非使用者を比較して、血栓塞栓症による死亡の割合が8倍近く高いことを発表した。本研究は1968年から始め

られた長期大規模コホート研究で、問題の認識、対応の早さ、研究の規模、また25年という息の長さ、などに注目される。

長期追跡のうちには非使用者が使用者に、使用者が非使用者になることは珍しくはなく、半年ごとの追跡により使用および非使用の人年を求め、全死亡~死因別の死亡のリスク

を使用/非使用で比較している。年齢階級、出産数、使用開始時の社会階層、喫煙状態に区分し、OCについては使用の有無のみならず、使用期間、最初の使用からの期間、最後の使用からの期間について区分され検討された。追跡不能のケースでは、NHS中央登録にフラッグを立て追跡したが、1976-77年には75%にフラッグを立てることに成功している。論文からこれらに事情はわかるが計画は詳しく書かれていないし、リクルートされた婦人の年齢等の選択条件は示されていない。

死因別でみると結腸直腸がんおよび卵巣がんの相対リスクは使用経験者で有意に低く、逆に脳血管疾患および事故による死亡の相対リスクは高いが、全死亡で見ると調整相対リスクは1.0(95%信頼区間0.9~1.1)となった。ポアソン回帰モデルが使用され年齢、出産数、社会階層、喫煙状態を調整した相対リスクと優位性の検討がされたものである。粗死亡率はイングランドおよびウェールズの女性集団を標準として、年齢分布を使って標準化した死亡率、標準化死亡比が使われている。また、本研究の対象集団の死亡率は

この地域一般よりも低くこの対象集団は健康的とされているが、年齢による標準化が関係するかの記載はない。

OC使用中および使用中止後10年未満は死亡への影響があるが、使用中止後10年以上のOCの過去の使用者の死亡率はと未使用者と類似することとなるという結論は、過去のケースコントロール研究も含め整合するところが多いとされている。1973年には世界ではじめて低用量ピルがすでに使用されるようになっているが、本研究はエストロゲンが50マイクログラムの中用量oCが主として使用された時期の研究である。

ROJ海タト!'青報研究会コメント

Page 23: (その4) - rad-ar.or.jp

経□避妊薬とllLjl筋梗塞:

MICAケース・コントロール研究の結果

● OraIcontraceptivesandmyocardiaIinfa「ction:

「esuItsoftheMlCAcase-controIstudy

DunnNetaI.

[目的]従来より心血管リスクを有する女性に限り経口避妊薬の服用と心筋梗塞との間に関連性のあることが示唆されていた。ところがすべてのタイプの経口避妊薬現使用者と非使用者との間のオッズ比の報告は様々であった。さらに、経口避妊薬第二世代と第三世代との間のリスクの違いについては殆ど報告されていない。そこでこの研究では、経口避妊薬使用が心筋梗塞リスクに及ぼす全般的影響、及び経口避妊薬第二世代と第三世代との間のリスクの違いを検討した。

[方法]この研究は、地域ベースのレトロスペクテイブなケース・コントロール研究で

ある。イングランド、スコットランドおよびウェールズの母集団を対象に、一

般医療記録とインタビュー調査あるいは公的機関のデータベースを利用し、

1993年10月1日から1995年10月16日まで、16~44歳で心筋梗塞を新たに

発症した女性をケースとして抽出した。1名のケース女性に対し年齢をマッチ

させた4名のコントロール女性を一般医療記録より選択し、聞き取り調査を実

施した。1224名の心筋梗塞を発症した女性が抽出されたが、除外基準により

ケースは448名となった。コントロールは1728名であった。心筋梗塞のリス

ク要因となる病歴、家族歴、血圧、肥満度、職歴および生活様式(喫煙、飲酒、

、運動)なども調査した。

統計解析は、アウトカムを従属変数とした条件付きロジステイックモデルを用

いた。末調整単変量オッズ比は、経口避妊薬のカテゴリーとすべての交絡変数

ごとに推定した。はじめに、段階的後退消去式多変量解析法によりアウトカム

と独立に連関する交絡変数を同定した。主要な解析結果は、ステップワイズ回

帰モデルで経口避妊薬のカテゴリーごとのオッズ比を全交絡因子により調整

した。最後にケースとコントロールのサブグループ解析を無条件ロジスティッ

クモデルにより解析した。

[結果]全経口避妊薬使用と心筋梗塞の全般的な調整オッズ比(95%CI)は1.40(0.78

~2.52)であった。経口避妊薬第二世代使用のオッズ比は、1.10(0.52~2.30)、

第三世代使用のオッズ比は1.96(0.87~4.39)といずれも有意な増加は見ら

れなかった。プロゲスタゲン含有量によるサブグループ解析でも有意差は示さ

Page 24: (その4) - rad-ar.or.jp

れず、使用期間の長短にも関連はなかった。第三世代使用対第二世代使用の

調整オッズ比は1.78(0.66~4.83)であった。ケースの87%は経口避妊薬未使

用であったが、心血管リスク、喫煙、もしくはその双方があったケースは88%

にのぼった。

喫煙と心筋梗塞の間には強い関連が認められ、1日あたり20本以上喫煙する

女性の調整オッズ比は12.5(7.29~21.5)であった。

経口避妊薬の使用と心筋梗塞の間に有意な関連はなく、経口避妊薬第二世代と

第三世代の製品間にも有意な関連性は認められなかった。この年齢群の女性で

は、心筋梗塞はまれにしか起こらないが、そのリスクを減少するには禁煙が最

[結語]

'も推奨される。

(BMJ1999;318:1579-1583)

Page 25: (その4) - rad-ar.or.jp

r-------------------LIIIL

本研究は、一般医療記録とインタビュー調査及び公的機関のデータベースを利用した典型的なケースコントロール研究と言えよう。この研究の意義は、経口避妊薬使用が心筋

梗塞のリスク要因として強くないことを示した点である。また、第二世代と第三世代と

の間にもリスクの違いがないという新たな知見を加えた点も評価されよう。ここでも若

い女性の心筋梗塞のリスクとして最も強く影響する要因が、心血管系の既往歴と喫煙であることが確認された。心筋梗塞の発症リスクから遠ざかるための最良の方法は、喫煙

を止めることである。

ケースの選定には厳密な除外基準を適用しており、コントロールの選定とも合わせ信頼

性は高く、分析手法においても妥当な範囲と言えよう。バイアスとして影響した点があ

るとすれば、リコールバイアス、服用した経口避妊薬の誤分類(これらはインタビュー

内容が避妊習1慣を思い出させることと無関係ではないだろう)、コントロール女性の選

択バイアス(この研究に参加したコントロール女性が母集団を反映しているとは限らな

い)などが考えられる。さらに、1995年10月の英国当局の「DearDoctorletter」の

影響で応答バイアスが生じた可能性も否定できない。しかし、基礎となるデータベース

の規模やインタビュー時の様々な配慮や処理などを考えればいずれのバイアスの影響

も極めて限定的であり、十分な検定力のあるケースコントロール研究と思われる。

我が国でこのようなケースコントロール研究を試みようとした場合、まず若い女性の心

筋梗塞という稀なイベントを抽出できる全国規模の医療データベースが存在しないた

め、研究自体が成立しない。仮に利用可能な医療データベースがあるとしても、生活習

慣や健康問題に立ち入るインタビューにどの程度協力してもらえるかは国民性や文化

的背景を考えると極めて困難ではないかと思われる。我が国の薬剤疫学研究の進展のた

めには、なおいくつかのハードルを越える必要があろう。

RCJ海外'|青報研究会コメント

Page 26: (その4) - rad-ar.or.jp

高血圧患者における長時間型、短時間型Ca拮抗薬の

lujl血管系に及ぼす影響について

Effectoflong-actingandshort-actingCaantagonistsonca『diovascula「

outcomesinhypertensivepatients.

AldermanMH,etal.

〔目的〕 短時間型Ca拮抗薬が高血圧患者における冠血管障害、死亡率、心血管系以

外の合併症発症率を高める可能性があることが報告されているが、同じこと

が長時間型のCa拮抗薬にも当てはまるかどうかについて検討した。

〔方法〕 高血圧監視システムを受講している患者4350人を対象にプロスペクテイプ

なネステイドケースコントロール試験を実施(1981年~1994年)。登録患者

は末治療時の血圧が収縮期>160mHg、拡張期>951nmHgの範囲にある患者を登

録。ケースとしては、1989年~1995年までに最初に心血管障害を起こした

患者189名とし、対照群としては個別に性、人種、年、高血圧治療のタイプ、

試験登録年次、フォローアップ期間の長さでケースとマッチングした患者

189名を選択した。ケース群で、イベントが発生した時点で採用されていた

薬剤および、同じ時点の対照群の薬剤すべてをデータとして採取し、Ca拮

抗薬については作用時間で、短時間型、中間型、長時間型に分類した。

〔結果〕 β遮断薬単剤での治療と比較して長時間型Ca拮抗薬では心血管系障害発生

の危険率は上昇しなかった(調整オッズ比=0.7695%CI=0.41~1.43)。しか

し短時間型Ca拮抗薬ではオッズ比は有意に増加した(オッズ=3.8895%

CI=1.15~13.11,p=0.029)。

〔結語〕 長時間型Ca拮抗薬は短時間型とは異なり、既に報告されているようなリス

クの増大は認められず、心血管系障害のリスクは必ずしも大きくはないこと

が判明した。しかし、長時間型Ca拮抗薬でも信頼区間1を挟むことから安

全性が証明されたわけではないことから、さらに現在進行中の様々な降圧薬のトライアルの結果を待つ必要がある。

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1 [

本研究は、これまで危険とされてきたCa拮抗薬のリスクを作用時間の長さから長時

間型、短時間型に分けて検討し、長時間型のCa拮抗薬のリスクは決して高くないこと

を示した点が注目される。

ニューヨークでは体系的に組織された高血圧患者の管理プログラムがあり、1981年

~1994年までに4350人が登録されていることから、彼らを対象にケースコントロール

試験が実施された。実際には、1988年高血圧ガイドラインが修正され第1選択薬とし

てACE阻害剤とCa拮抗薬が追加されるようになった。この管理プログラムでは、1990

年代早期までにCa拮抗薬は短時間型から長時間型に変更されるようになっていた。こ

ういった背景のもと、今回は1989年1月以前に登録され、これ以降服薬されていた患

者が対象となり、1995年の末まで追跡調査が行われた。1995年には、かの有名なPsaty

らによるCa拮抗薬による心筋梗塞発症の恐れに関する報告がでているが(本シリーズ

その1参照)、これは短時間型Ca拮抗薬について検討された結果であった。

今回の調査では、心血管系疾患の既往がある患者でCa拮抗薬を使用するケースが多

かったことから、これら因子で調整した結果、Ca拮抗薬以外の薬剤を使用した患者の場

合を基準に考えると、長時間型Ca拮抗薬では調整オッズ比が1.15であるのに対し、短

時間型Ca拮抗薬では5.68と有意にリスクが高くなった。ロジステイック解析で、心筋

梗塞の既往や高コレステロール、喫煙の影響を調整した結果では、長時間型が076、

短時間型が3.88と未調整の場合と結果的には変わりがなかった。しかし、長時間型の

信頼区間(95%CI)が0.41-1.43と1を挟んでいることから必ずしも安全性が証明された

とは言い難い結果であった。さらに尤度比検定を用いて検定した場合でもリスクは短時

間型で有意に高いことが明らかとなった。また、Ca拮抗薬を使用中の38ケースとセッ

トにして検討したところ、オッズ比は8.56(1.88-38.97)であった。

心疾患系へのリスクを3種類の解析法で検討し、いずれの方法にても短時間型のリス

クが増大し、短時間型と長時間型では明らかにその特性が異なることが示された。ケー

スコントロール研究では限界があり、暴露とイベント発生の関連しか記述できないので、

イベントの発生率などについてはやはり無作為化試験が必要であると考察されている。

現在進行中の試験結果が望まれるところである。

ROJ海外'|實報研究会コメント

Page 28: (その4) - rad-ar.or.jp

Ⅱ型糖尿病のリスクファクターとしての

高血圧と降圧剤

HypertensionandAntihype「tensiveTherapyasRiskFactorsfor

Type2DiabetesMelIIitus

GressTW,etal.

[目的]これまでに実施された疫学研究と臨床試験は、βブロッカーとサイアザイド

系利尿薬はⅡ型糖尿病発生に関連することを報告している。しかし、それらの

疫学研究では少数患者を対象とし、比較対照も適切でなく、追跡期間も短く、

糖尿病の定義も不適切であるほか血圧などの重要な情報を欠いていたため、こ

れらの降圧剤使用と糖尿病発生との関係は明らかであるとはいえない。

この研究では、プロスペクテイブなコホート研究により降圧剤と糖尿病発生の

関連性を検討した。

[方法]対象:1987年~1989年に米国の4地域の45~64歳の居住者15,792人を対象

とするARICStudy対象者のうちの12,550人を研究対象(除外理由(人数):

白人または黒人以外(48)・糖尿病(1,867)・ベースラインデータ無(379).

3年後と6年後データ無(948))。

ベースライン調査:自宅でのインタビューと診療所での臨床検査(12時間空

腹時血糖値測定(標準化した方法による)・臨床検査・座位血圧(2回測定の

平均値)。

標準化した疾患の定義:糖尿病:空腹時血糖(≧126mg/dl)非空腹時血糖(≧

200mg/d)インスリンまたは経口糖尿病薬の使用又は医師の診断、高血圧:収

縮期圧140mmHg以上、拡張期圧90,,119以上、降圧剤使用(処方された薬瓶を

直接調査)、合併症:血清クレアチニン2.0以上を腎不全、血清コレステロー

ル値220以上を高コレステロール血症、末梢血管性疾患(患者報告による医師

の診断)、狭心症の診断、ECG、バイパス手術、血行再建術の経験ある場合を心

血管性疾患、背景:性、年齢、人種、喫煙、飲酒、運動量(Baeckerらの4段

階評価法)、教育程度、糖尿病家族歴(1親等内に1人以上)、BMI、ウエスト

/腰周比

Page 29: (その4) - rad-ar.or.jp

プロスペクテイブ・コホート研究による「新たなⅡ型糖尿病の発生(3年後お

よび6年後)」。

解析1:Ⅱ型糖尿病発生率(1000人年あたり):高血圧の有無について

解析2:比例ハザード回帰による多変量解析(降圧剤使用高血圧者3,804人対

象)。多剤降圧剤使用の場合は構成薬剤(サイアザアイド、ACE-I、Ca拮抗薬、

βブロッカー)に分類し、それぞれの薬剤群に加算。背景因子・健康に関連す

る行動・合併状況などを順次追加し調整(年齢、性、人種、検討対象以外の降

圧剤)。4種類の降圧剤の2因子交互作用の評価(検出せず)。

[結果]6年間のⅡ型糖尿病発生率(1000人年当り)は全体で16.6、高血圧者では29.1、

正常高血圧者では120。すなわち、高血圧者での発生率は正常血圧者の約2.5

倍(RR2.43(2.16-2.73)。この研究からの知見は、降圧剤使用にかかわる糖尿

病発生のリスクが高血圧の存在から説明可能であることである。すなわち、降

圧剤非使用の場合、高血圧者での発生率は正常高血圧の発生率よりも高かった

また、高血圧者の場合、降圧剤非使用での発生率は使用の場合とほぼ同様。高

血圧者(3,804人)についての比例ハザード回帰による多変量解析でも、サイア

ザイド、Ca拮抗薬あるいはACE-I使用者での発生率は非使用者よりも高くな

かった。ただし、βブロッカー使用者では非使用者よりも28%高かった(RRL28

(1.04-1.57)。

全項目についてのフル調整モデルについてのロジステイック回帰でも、βブロ

ッカー使用者の糖尿病発生リスクは高かった(RIR1.34(1.06-1.69)。サイア

ザイド使用者では高くなかった(RRO、88(0.69-1.13)。

[結諭]糖尿病でない高血圧患者へのサイアザイド処方は避けるべきではないし、β

ブロッカーの使用についても糖尿病発生のリスクと心血管性障害リスクの軽

減の有益性とを考慮すべきである。

(NewEngJMed2000;342:905-912)

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’ Ⅱ

サイアザイドと糖尿病発生の関連性に関しては従来から可能性を指摘する多数

の研究報告がある。この研究は、高血圧症の存在そのものがⅡ型糖尿病発生に関

連し、サイアザイド使用では糖尿病発生のリスクは増加せず、βブロッカー使用

ではⅡ型糖尿病発生リスクは増加(RR128)することを報告している。また、

薬剤選択の際はβブロッカーの心血管性障害リスクの軽減作用も秤に掛けるべ

きであると主張している。

この研究の強みは、一般集団の多数例を対象としたこと、正常血圧者も対象に加

えたこと、標準化した検査方法を用い疾患の定義を定めたこと、同時に異なる種

類の降圧剤を比較したことである。一方、この研究の弱みは、投与量と投与期間

のデータがない、Ca拮抗薬の使用者数が少ない、薬剤のカテゴリーが広すぎる、

同一カテゴリーでの差異を調べなかった(βブロッカー:心選択性の有無)、糖

尿病のリスクに関連した処方パターンの存在の可能性(ハイリスク者にはACE-I、

低リスク者にはサイアザイドを処方)が否定できない点である。

ROJ海外'|寶報研究会コメント

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Benzodiazepine使用と交通事故の関連性

Assocciationofroad-trafficaccidentswithbenzodiazepineuse

BarboneFDetaI.

[目的]高齢者においてBenzodiazepineや三環系抗うつ剤が交通事故の増大と関連するとの報告や「交通事故の死傷者の少なくとも10%は何らかの向精神薬を服用」と指摘するEuropianCommunityDirectorateonTransport報告がある。この研究では、処方菱をもとに向精神薬の使用と交通事故の関連性を検討した。

[方法]検討対象薬剤群(4種):Benzodiazepine(BZ)、三環系および関連する抗うつ剤、選択的セロトニン再取込み阻害剤および関連する抗うつ剤、その他の向精神薬。研究対象集団:UKのTayside地域に居住し、1992年1月から1995年1月の間に家庭医に登録された410,306名。ケース:1992年8月1日から1995年6月30日までの間に初回交通事故を経験した18歳以上の運転者のうち、そのCommunityhealthnumberからthe

record-1inkagedatabaseoftheMedicinesMonitoringUnit(MEMO)処方照合により1992年8月1日から事故日までの間に何らかの向精神薬を使用したことが明らかな者。

分析方法:交通事故日における薬剤使用と事故18週前の同一曜日における使用とを比較した。それぞれの日における各検討薬剤の使用の有無は、処方日から推定した。

薬剤使用(曝露)の定義:①事故当日使用、②初回処方から14日間のみ(耐性を考慮)、③最初の14日間を除外し、最終以後の14日間を追加(誘導期間

と持越し期間)について検討した結果、大差のないことから①について結果

を提示した。

3種類の(条件付)ロジスティック回帰モデル:①薬剤群ごとのモデルで、研究集団における薬剤使用の経時変化を調整しないもの、②薬剤使用の経時変

化(年4回の向精神薬使用パターンの項を追加)を調整した薬剤群ごとのモデル、③薬剤使用の経時変化と他の薬剤併用を調整したモデルについて検討

し、②により結果を提示した。

[結果]30歳未満の若年者ではリスク増大(致命的・大事故・運転者の19,386名の交通事故運転者のうち1,731名はいずれかの薬剤の使用経験があり、交通事故のオッズ比は、BZ:1.62(1.24-2.12)、三環系抗うつ剤:0.93(0.72-L21)、選択的セロトニン

再取込み阻害剤:0.85(0.55-1.33)、その他の向精神薬:0.88(0662-1.25)。

BZで過失・飲酒運転でのリスク増大)。催眠剤よりも抗不安薬でリスク大(特

にzopicloneと半減期の長いもの)、高用量でリスク大。1000曝露年あたりの

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事故発生率は、18-29歳で36.99,30-44歳で18.28,45-64歳で11.66,65歳以上で3.75。

[結論]抗不安薬BZとzopiclone使用者では、交通事故のリスクが増大する。BZと

zopiclone使用者は運転しないようアドバイスされるべきである。(Lancetl998;352:1331-1336)

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「’1

交通事故との関連性に関する研究は、交絡因子の制御などの方法的困難さのため、僅か

な疫学データしかない。この研究では、解決方法として個人内比較デザインであるケー

ス・クロスオーバー法を用い、研究期間における交通事故運転者についてのMEMO処方

をもとに対象薬剤の使用を推定してケースとし、交通事故日における薬剤使用と事故

'8週前の同一曜日における使用とを比較している。このため、ケースの処方(曝露)

情報や潜在的交絡因子情報はすべて既存のデータであり、思い出しバイアスなどの問題

はないと言える。

次に、この研究における諸問題点について考察してみたい。

ケース・クロスオーバー法の前提条件:

ケース・クロスオーバー法は、個人間の交絡を制御して、一過性のリスク要因への曝露

によるハザード期間における急性イベントのリスク変化を評価する手法である。すなわ

ち、投与期間が短い研究あるいは曝露後短期間に発生する事象の研究に適用可能な方法

である。BZが事故の原因になるとして、その(逆)効果は投与後の短期間であろうし、

その意味ではこの方法は適用可能と考えられる。本研究では曝露の定義①(事故当日使

用)を採用したことは当然であろう。しかしながら、曝露の定義①②③のオッズ比が同

様であったことをどのように解釈すべきであろうか?OCやHRTにおける事象と異な

り、多重曝露で次第に効果が出るとは考えにくいし、中止後効果が持続することも考え

にくい。耐性獲得の②は有り得ても③は不要であろう。結果は違って当然のように思え

る。②では14日以降の使用は「不使用」と分類され、非系統的分類によって差が不

明瞭な方向(オッズ比が1の方向)に推定されるはずである。持越し効果があるようで

は、一過性のリスク要因を検討する試験デザインは不適切である。

対象薬剤の効果持続時間や曝露と事故についての時間的関係についての情報がほしい

ところである。

一過性のリスク要因について:

この研究では、一過性のリスク要因として向精神薬を取り上げているが、交通事故の一

過性のリスク要因として、運転の有無や交通環境、運転時の状態・態度などの様々な要

RCJ海外'|寶報研究会コメント

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因が存在する。しかしながら、この研究では、三環系抗うつ剤や選択的セロトニン再取

込み阻害剤でのリスク増大は認められていず、BZのみにリスク増が認められている。

このため、今回の成績の根拠は強いと考えられる。一方、処方されていても実際に使用

されていたかは不明であるし、逆の可能性もあるため、contamination、非系統的誤分

類の問題を排除し得ないし、事故は「当該期間における最初の交通事故」であり、(こ

れまでの)初めての交通事故でない可能性があるうえ、処方についても同様なことが言

える.さらに、各向精神薬の最初の処方日が判るか?という疑問も残る。全てのケー

スについて18週遡って処方情報を取ることが可能であったか?ということである。対照日について:

ケースは「運転中の事故」であるが、対照日(事故なし)は「運転中」とは限らず、運

転したかどうかもわからない(運転しなければ事故が起こるはずはない)。被疑薬への

曝露だけに違いを求め、対照日も事故日と同様にatriskであるような設定が理想のデ

ザインではある。

データの取り扱いについて:

例えば、BZについての分析において、使用経験のある916名についての235の事象を

検討したのであろうか?基礎となる疾患による交通事故発生率は異なり、不安神経症

で交通事故発生率が低ければ、僅かな上昇でオッズ比が増大する可能性もでてくる。

BZ使用と交通事故の問に用量反応性のあることは因果j性を定性的に示唆するものであ

るが、定量化と普遍化は無理である。

事故とBZの関連性の研究における通常のケース・コントロール法を考えると対照の法を考えると、 対照の

選択は難しい。

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抗てんかん剤投与初期のStevens-Johnson症候群

並びに中毒性表皮壊死症のリスク:

ケース・コントロール研究

RiskofStevens-Johnsonsynd「omeandtoxicepidermalnecr01ysisduringfi「st

weeksofantiepiIeptictherapy:acase-cont「oIstudy

RzanyB,etal.

〔目的〕すべての抗てんかん剤がStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症

(TEN)などの重篤な皮膚疾患の発症と関連性があるかどうか、種々のリスク影

響因子について検討し、SJSやTENの発現のリスクを推定する目的でケース・

コントロール研究が実施された。

〔方法〕フランス、イタリア、ドイツ、ポルトガルの欧州4カ国にて実施された。1989

年2月~1995年7月までの間に外来で投薬後、皮膚疾患で入院し、SJSやTEN

と診断された患者をケース(352人;SJS=136人、TEN=216人)とし、対照(1579

人)は性、年齢、入院時期でマッチさせて選択した。Indexdateを設定し、そ

の一週間以前以内に投薬されていた場合を暴露ありとした。但し、フェノバノレ

ピタールの場合は半減期が長いので、3週間以前までとした。対象となった抗

てんかん薬は一般的にてんかん発作を予防するか軽減するために用いられる

薬剤のことと定義し、ベンゾジアゼピン系薬剤は含まないこととした。実際に

は、フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモ

トリジンの5剤が対象となった。

〔結果〕各国で試験されているせいもあり、国毎に服薬状況は異なっていたが、SJS等

を発症したケース(352人))では21%、対照群(1579人)では2%で抗てんかん薬

が使用されていた。発現のリスクが最も高かったのは各薬剤とも投与開始から

8週間以内で有意にリスクが高くなっていた。他の薬剤に比し、バルプロ酸は

他の薬剤と併用されている場合に発症することが多い。調査された交絡因子は

いずれも影響しなかった。

SJSやTENはフェニトインやフェノバルビタール、カルバマゼピンの短期間

の投与で発現するが、バルプロ酸では、併用が多いことから他の薬剤の影響

が大きいと思われる。ラモトリジンは症例が少なかったが、重大な皮膚疾患

がでる確率が高いと考えられる。全般に発現のリスクが高い期間は、主に投

与開始から8週間に絞られることが判明した。

〔結語〕

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「 ̄.

|Ⅱ |’

SJSやTENは、高熱、倦怠感、水萢が急激に広範囲に広がる(TENの場合には全身の

10%に及ぶこともある)といった特徴のある重篤な皮膚疾患である。これら重篤な皮膚障

害が、抗てんかん薬を投与されている患者で多い傾向にあることは知られているが、そ

の関連性については飲酒、体重などの交絡因子や潜在的因子が影響するため明確ではな

かったことから、今回特定の薬剤による発現のリスクを推定するためにヨーロッパの4

カ国においてケース・コントロール研究が実施された。

これらの試験では、ケース自体が重篤な皮膚疾患であるSJSやTENとしているため、

これらは希少事象であり解析するためのサイズとしては該当症例がないなど問題が多

い。実際薬剤ごとに分けて解析しようとするとケースが発生していない場合もあり少数

例の解析の難しさが付きまとう。一方これらの薬剤は、多剤併用されることも少なくな

く、ケースで18%、対照群でも21%で2剤併用されていた(ケースでは3剤併用例1例を

含む)。これらの症例では二重に症例がカウントされており多因子の調整は困難であっ

た。この点を考慮して、対照群には、ケースと年齢、性別、入院時期でマッチングさせ

た症例の他に、多形紅斑などを発症したケースとしての除外症例の対照群も加えて

unmatched解析を実施。このため、相対リスクが低めに推定された可能性はあるという

ことであった。実際、マッチングさせた場合の条件付ロジステイック解析では推定リス

クは43(12-158)、条件なしの場合では14(7-27)、不適格ケースに対応する対照群を加

えた場合で、17(10-30)ということであった。

投与期間では8週間以内と8週を超える投与に分けて解析しているが、症例数が少な

いために多変量解析は困難で、薬剤毎では対照群がOとなってしまう例もあることから、

抗てんかん剤全般として解析した。その結果、8週以下では相対リスクは242(55-999)

に対し、8週超過では1.7(0.6-4.8)となり短期使用でのみ有意なリスク増大となった。

交絡因子としては、よくカルバマゼピンなどで飲酒との関連性が報告されているが、

今回ステロイド治療、放射線治療、体重、アルコール摂取の影響についても検討されて

いたが、いずれも有意な影響は認められなかった。

本論文では、重篤な副作用の定量化を試みるという大前提があったわけであるが、結

果としては、ケース・コントロールとして十分な数を収集することができず、明確な結

論を得るまでには至らなかった。特に今回の解析では、投薬されている患者の原疾患に

ついては解析対象となっていないため薬剤の使用理由も含めた解析が、今後は要求され

てくるのではないだろうかと思われる。

以上

RCJ海外!|寶報研究会コメント

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SSR|と上部消化管出血との関係:

ケースーコントロール研究

Assoc剛ionbetweenseIectiveseroIonin「euptakeinhibitorsanduppergasl「DintesIinaI

bIeedi略:popubtioncase同contmIstudy

DeAbajoFAetal.

【目的】SSRIは、血4版からのセロトニンの再取り込みを防ぐことにより、セロトニンを減少さ

せる。これらの薬は、止血の機能を損傷させる可能性があり、その結果、出血のリスクを

上昇させる。この仮説を検証し、非ステロイド系抗炎症薬との併用のリスクを推定する。

【方法】データは以前の研究によって、精度・完成度が確認されているGeneralPractice

ResearchDatabaseを用いた。ケースは、一般医によって登録され少なくとも2年が

経過している1993.4~1997.9の間で、40歳~79歳のすべての患者であり、上方部消

化管出血:1651例、潰瘍穿孔:248例である。コントロールは、年齢、性BUおよび対

象集団からの抽出期間をマッチさせた10,000名をランダムに選択した。統計解析は、

抗うつ薬の未使用者に対する現在の使用者のrelativeriskとその95%CIの調整済

の推定値をロジステイック回帰によって求めた。これらの因子が、抗うつ薬と関連し

ている交絡因子かどうかを調べるために、年齢と性別によって層別解析も実施した。

【結果】ケース群である上部消化管出血の患者のうち、SSRIの手11用者は3.1%(=52,651)で

あり、コントロール群では、10%F95UOOOO)であった。調整済ratemtioは、30(2.1

t04.4)であった。上部消化管出血の粗発生率は、1case/8000処方(=52/435021)と

推定された。この影響は、性別・年齢・用量・治療期間と交絡していなかった。現在の

non-SSRIの利用者でのrdativeIiskは、1.4(L1to1.9)であった。また、抗うつ薬のど

のグループにおいても潰瘍穿孔との関連はなかった。

【結語】SSRIは、上部消化管出血のリスクを増加させる。しかしながら、その絶対的な影響は、

強くなく、低用量のイブプロフェンと同程度である。また、非ステロイド系抗炎症剤ある

いはアスピリンのSSRIとの併用は、上部消化管出血のリスクをかなり増加させる。

(BMJ1999;319:UO6-1109)

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11

スペインの研究者が英国のGeneralPracticeResearchDatabase(GPR、)を利用し

た大規模な疫学研究である。また、抗うつ薬、特にSSRIと上部消化管出血に関す

る最初の疫学的研究(地域集団におけるケースーコントロール研究)である。

ケース群は、コンピュータ化された概要による分類の妥当性確認のため、無作為に

抽出した100人の医療記録のコピーをGeneralPractitioners(GP)に依頼し、96

人のコピーを受領し、そのうち95人がケースであることを確認したとなっており、

GPの高い協力姿勢が伺える。一方で、どのようにして、個人情報の保護法をクリ

アしたのかは疑問が残る。また、コントロール群の設定方法は、年齢、性別および

対象集団からの抽出時期をマッチングさせたとの記載はあるが、頻度マッチングか

ペア・マッチングかといった詳細は不明である。ここで論じられているデータは、

NSAIDsの潰瘍リスクの推定のために設定されたものであり、詳細はその論文(Jick

HRiskofuppergastrointestinalbleedingandperforationassociatedwith

individualnonsteroidalanti-inflalnmatorydrugs・Lancetl994;343:769-772)

に記載されている可能性がある。

結果については、上部消化管出血と潰瘍が別のイベントとして解析されているが、

合わせた解析もプライマリーに必要であると考える。イベントの発生率は、その使

用者あるいは処方された者を分母としている。薬剤別の解析については、かなり詳

細に定義も記載されており実施されているが、大規模といっても薬剤別には少数と

なってしまうために結果は不安定なものとなっている可能性がある。

また、結論として、SSRIは上部消化管出血のリスクを3倍増加させ、NSAIDsとの

間に相乗的効果が認められるとしている。著者らは、我々の研究にはいくつかの限

界があるかもしれないとしているもののGPRDの処方に関するデータは、完全であ

り潜在的な交絡因子は制御できたとしている。しかし、いくつかの予測できない交

絡因子が存在している可能性はあるともしており、これらの知見を更に強固なもの

にするために他の研究によってこれらの結果を確認する必要があると考える。

RGJ海外'1寶報研究会コメント

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精神病患者におけるQTc間隔異常とロ精神薬療法

QTc-intervaIabno「maIitiesandpsychot「opicdrugtherapy

inpsychiat「icpatients.

ReillyJG,etal.

精神病患者における原因不明の突然死は、薬剤誘発性の不整脈によるもので

ある可能性があるが、その予測マーカーとなるのが、心電図上の心拍数を補

正したQT間隔(QTc)の延長である。我々は、精神病患者におけるQTc延長

の時点有病数および様々な向精神薬の作用を推定した。

101例の健常参照被験者ならびに様々な入院患者および地域で暮らす精神病

患者495例の心電図を入手し、以前にバリデートされているデジタイザー技

術を用いて分析した。QTcの延長、QTcの分散およびT波の異常のある患者

とない患者を、ロジステイック回帰分析によって比較し、予測変数に関する

オッズ比を算出した。

健常参照群からQTc異常を、456,sを超えるものと定義したところ、QTc異

常は、患者の8%(495例中40例)に存在した。年齢が65歳より上(オッ

ズ比3.0[95%CIL1-8.3])、三環系抗うつ薬(4.4[1.6-12.1])、

チオリダジン(5.4[2.0-13.7])およびドロペリドールの使用(6.7[1.8

-24.8])は、QTc延長の頑強な予測変数であり、抗精神病薬の用量も同様

であった(高用量5.3[1.2-24.4];非常に高用量8.2[1.5-43.6])。

異常なQT分散およびT波異常は、抗精神病薬療法との有意な関連はなかっ

たが、リチウム治療とは関連していた。

抗精神病薬は、用量相関的にQTc延長を引き起こす。リスクは、チオリダジ

ンおよびドロペリドールに関して著しく高い。従って、これらの薬剤は、薬

剤誘発性不整脈のリスクの増加をもたらす可能性がある。

(Lancet2000;355:1048-52)

【目的】

【方法】

【結果】

【結論】

Page 40: (その4) - rad-ar.or.jp

|■

精神病患者における心血管系の死亡率は高く、抗精神病薬を使用している患者における

原因不明の突然死の報告は、薬剤誘発性の不整脈が原因かもしれないとの問題が提起され

ている。これまでTbrsadedepomtesとして知られている多型性の心室性不整脈が、向精

神薬の過量投与患者において報告されており、薬物療法に関連する原因不明の突然死の主

原因として考えられている。これまで精神病患者におけるQTb間隔の異常(Ibrsadede

pointesに先行する場合が多い)を体系的に調査した試験は1つしかなく、薬剤間の差を検

出するのに十分ではなかった。

QIb間隔の延長を精神病患者における不整脈誘発リスクの指標として採用するには、用量

との相関が明瞭にされるべきであり、全ての抗精神病薬、抗うつ薬、および他のクラスの

向精神薬との関連についても検討されるべきである。本研究論文は、1994年3月から1996

年7月までに英国北東部の精神病患者の6つの大集団においてQIb延長の頻度を測定し、

QTb延長が、個々の抗精神病薬、抗精神病薬の用量およびその他のリスクファクターに関

連したか否かについて評価したものであり、横断研究である。ロジスティック回帰分析に

よって病院へ勤務する健康参照被験者と比較したところ、65歳以上の患者、三環系抗うつ

薬、チオリダジン、ドロペリドールの使用および抗精神病薬の高用量がQTc延長の頑強な

予測変数であった。

本研究における問題点として、著者も指摘している通り、選択バイアスの可能性がある。

参加に同意することが不可能であった、より重症の入院患者は除外される傾向がある。ま

た30種類を超える向精神薬が使用されており、多くの患者は2つ以上の薬剤を使用してい

た。従って、処方患者数が少なかった薬剤があるため、個々の薬剤の作用に関する結論は

限定的である。さらにQIb異常を最も生じやすい患者に対しては、他と異なる処方が、原

因であったかもしれず、その可能性を完全に無視することはできない。

QT間隔の異常はあくまで代用マーカーであり、本来であれば向精神薬、不整脈および突然

死の間の関連について検討されるべきである。

本論分を契機にFDAではチオリダジンはQTb延長をBoxwarningとし、torsadedepomtes

型の不整脈と突然死について注意喚起をし、効能効果として他の向精神薬で無効な場合の

精神分裂病の患者に使用を限定した。更にMCA(英国の医薬品庁)ではチオリダジンにつ

いて、同様の注意喚起を行い、またドロペリドールでは多くのQTb延長あるいは重篤な心

室性不整脈の報告があることから自主的に販売を中止する措置が取られた。

本論分は横断研究であり、観察研究の中でもケースコントロール研究や、コホート研究よ

りは結果の解釈については慎重であるべきであるが、各国で規制措置が取られたほどの大

きな意味を持つ論文である。

ROJ海外'|寶報研究会コメント

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アルツハイマー病のリスクとNSAlD使用期間

RiskofAIzheimer,sdiseaseanddurationofNSAIDuse

StewartWEetaI.

[目的]アスピリンまたは他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用している者に

おいてアルツハイマー病(A、)のリスクが減少するかどうか調べた。加えて、

ADリスクと自己報告された薬剤との関連性の特異性を評価するために、抗炎

症活性が弱いかまたは無い鎮痛薬であるアセトアミノフェンの使用について

も調査した。

[方法]加齢研究のコホート研究であるBaltimoreLongitudinalStudyofAging(BLSA)の参加者のうち、1980年から1995年までに1年間以上追跡できた者1,686人

を対象にした。多診療科にわたる種々の検査を老人研究センターにおいて、隔年で実施し、65歳以上は標準的神経学的検査、神経心理学的検査をも行った。

臨床診断は、薬歴'情報無しで多診療科カンファレンスにより行い、A、の臨床

診断は、痴呆に対してはDSM-m-RをpossibleまたはprobableADに対しては

NINCDS-ADRDAを用いて行った。薬剤使用に関する情報は検査時に収集し、前2

年間の使用、剤型、用法用量、連用・頓用・中止等について調査した。アスピ

リン、NSAID,アセトアミノフェンの使用を時間依存性累積暴露変数として

表した。学歴等の潜在的交絡因子の検討を行った上で、薬剤使用とA、リスク

との相対危険度(RR)をCOX比例ハザードモデルを用いて推定した。個々の薬剤使用は、2値(使用/非使用)の時間依存性共変量として、またカテゴリカ

ルな使用期間(0年、2年未満、2年以上)の時間依存性共変量として扱った。潜伏期間を検討するためにLaggingを用いた解析も実施した。

[結果]NSAIDの使用期間が長くなるに従い、A、のRRは低下した。NSAIDを2年以上使用したと報告した者では、非使用者と比べてRR=0.40(95%CI:0.19-0.84)、2年未満使用者では、非使用者に対してRR=0.65(95%CI:0.33-1.29)であった。アスピリン使用者ではく非使用者に対してRR=0.74(95%CI:0.46-1.18)、アス

ピリン使用の期間とADリスク減少との間に傾向は認められなかった。ADリス

クとアセトアミノフエンとの間に関連性は認められずRR=1.35(95%CI:0.79-

2.30))、使用期間の増加とリスク減少との間に傾向はなかった。[結語]これらの知見は、NSAID使用者におけるA、リスクの予防効果を指摘する横断

的調査からの証拠と一致する。またADへ至る病態生理学的過程の-段階が炎症過程によって特徴づけられることを示唆する証拠とも一致する。

(NeuroL1997;48:626-632)

Page 42: (その4) - rad-ar.or.jp

本研究は、アルツハイマー病(A、)の病因論として炎症が関与しているのではないかと

いう知見に基づき、抗炎症作用を有するNSAIDs使用期間がAD発症リスクを低下させる

かどうか、またA、リスクと自己報告された薬剤との関連の特異性を評価するために、抗炎症活性が弱いかまたは無い鎮痛薬であるアセトアミノフェンの使用とADリスクに

ついても検討を行ったものである。既に、地域ベースのケースコントロール研究や断面研究がNSAIDs使用とADリスクの低下に対して支持する結果を与えていたが、研究上の

限界として、過去の思い出し(Retrospectiverecall)や代理人面接(surrogateinterviews)による薬剤使用情報の収集の問題があった。とくに断面研究では報告バイアス(reportingbias:ケースないしは代理人によるNSAIDs使用の過小報告)や選択

バイアス(selectionbias:健康な生き残り者効果(healthysurvivoreffect)、高学歴、医療の利用)による説明可能性が指摘されていた。また、量反応関係も示されていなかった。

このような背景を踏まえ、本研究ではBLSAの参加者からコホートを構成し、薬剤情報をprospectiveに収集し、これに基づき、A、リスクとNSAIDS等の薬剤使用、又薬剤使用期間との関連性について分析を行っている。

研究目的自体は明確であるが、方法論上および結果の提示方法に対して疑問を感じる。まず、薬剤使用の有無について、隔年でのvisit時に過去2年間を振り返って情報を求めているが、果たして正確に薬剤使用の状況を反映できているか疑問を感じる。次に、薬剤曝露の定義として、隔年でのvisitで該当薬剤の使用が確認された場合、「前回のvisitと今回のvisit」の中間点から、「今回のvisitから次回のvisit」までの中間点までを、使用すなわち曝露状態にあったと仮定している。また、連用症例や頓用例等の使用期間に関しては考慮されていない。これらの点については著者らも限界であると述べているが、薬剤曝露の情報としてはその精度に問題があると思われる。結果の提示方

法に関して、発生率を計算することができたにも拘わらず、それを提示していない。解析結果の妥当性を確認することができないこのような結果の提示の仕方は好ましくないと思われる。

以上のような疑問、とくに薬剤曝露に関する問題点が存するため、本研究の結果の解釈には慎重でなければならない。薬剤曝露量とAD発症リスクの量反応関係の分析や、潜

伏期間(Latency)を調べるためにLaggingによる分析を行うことの目的は理解できる。しかし、残念ながら、これらの分析に上記の問題点が直接的に影響を与えていると考えられる。著者らも実施したかったようではあるが、上記の問題点が結果にどれくらい影

響を与えうるものかを調べるValidationstudyの実施が欲しいところである。

RCJ海外'|實報研究会コメント

Page 43: (その4) - rad-ar.or.jp

シク□オキシゲナーゼ(C○×-2)発現と

結腸直腸癌の関係

Therelationshipbetweencyclooxygenase-2expressionandcolo「ectalcance「

SheehanKMetal.

NSAIDs使用者において直腸結腸癌の発生率が期待されるものより低率であ

ることを疫学研究は示唆してきており、これはCOXの病原的役割を示すもの

である(十分には解明されていないが)。本研究ではヒト直腸結腸癌におけ

るCOX-2発現と患者の生存との関係を検討している。

〔目的〕

ダブリン教育病院で1983年に開始された前向きの直腸結腸データベース収

集システムを採用したコホート研究である。対象は1988年から1991年間に

直腸結腸癌と診断された76人の患者で最長9.4年間追跡した。(追跡期間

中央値は2.7年)であった。

(年齢・平均中央値:66.5歳)

Dukes腫瘍分類では:A:n=9,B:n=30

C:n=25、D:n=12

対照として正常の直腸結腸生検14例についてCOX-2を染色した。

ヒトCOX-2に対して作製したウサギポリクロナール抗体を用いて組織切片に

存在するCOX-2に対して染色される腫瘍の上皮細胞の割合によって4つのグ

レードに分類した。

グレード1:1%未満グレード2:1-19%

グレード3:20-49%グレード4:50%以上

各組織標本については、2人の観察者が結果について盲検下でグレード判定

し、各腫瘍は病理学者が14の組織学的特性の評価を実施した。

生存率曲線はKaplan-Meier法にて推定し、その差はMantel-Haenszel法、

生存時間解析は癌関連死亡のみに訂正、COX比例ハザード回帰、組織学的

特性との関連はKendallの順位相関係数を使用した。

〔方法〕

免疫組織化学的手法で、直腸結腸癌患者76人の腫瘍検体を調べたところ、

COX-2の発現は腫瘍上皮細胞、炎症細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞の総て

または一部に認められた。正常の対照直腸結腸生検14例ではCOX-2はまっ

たく認められなかった。

COX-2染色は主として腫瘍上皮細胞に局在し、Dukesのステージ分類で進行

度のより高い腫瘍、比較的大型の腫瘍、またはリンパ節転移患者の腫瘍にお

いて染色部分がより大きかった。COX-2染色部分が1%未満であった患者の

生存率は、COX-2の染色がより大きく発現していた患者全体の生存率に比べ

〔結果〕

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て有意に良好であった。(ログランク検定でP=0.02)

5年生存率はCOX-2グレード1で916%,COX-2陽性で45%・COX回帰で

は、未調整ハザード比が3.8倍であるが、Dukesステージとリンパ節転移を

調整すと2.1倍となり有意でなくなる。

直腸結腸癌におけるCOX‐2の発現が生存と関連する可能性が示された。COX

-2が結腸、直腸における腫瘍形成に何らかの役割を果たしているという疫

学的および実験的証拠が増えつつあり、今回のデータはこの証拠の一つとな

〔結語〕

る。

(JAMA1999:282;1254-1257)

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菫--IIIIIIIIIIIIIIIIIII

この研究は一歩前進と言われている非ステロイド系抗炎症剤の1つであるCOX-2の

直腸結腸癌細胞への影響、特にその細胞内において存在を確認する事により、患者の生

存との関係を検討したものである。

1983年から収集された直腸結腸癌データベースから1988年から1991年の4年間に直

腸結腸癌と診断された76人の患者を対照に追跡調査された。

COX-2に対して染色される腫瘍上皮細胞の割合によりグレード分類が盲検的に行われた

ことは理解できるが、患者の生存に就いて何時まで追跡されたのか、その期間は記載が

無く、追跡中央値は2.7年と短く、最長でも9.4年で、5年生存率の結果と比べても追

跡中央値は短すぎ、5追跡できたのは半分にもならないのではないか。

COX-2発現とグレードと臨床病理学的特性との関連において、癌の進行した時期、腫瘍

サイズ、リンパ節転移との間に有意な関連があることは理解出来るが、生存との関連の

強さは検証されたと言っている程、明確でない。

この報告には方法が詳細に述べられていないので理解し難く、腫瘍細胞のCOX-2検出評

価の方法として免疫組織化学のみが用いられており、標本サイズも小さく、汎用されて

いるNSAIDsに関するデータが無く、比較できない面がある。

今後の更なる検証に期待したい。

以上

ROJ海外'1胄報研究会コメント

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曰本RAD-AR協議会薬剤疫学部会海外情報研究会メンバー

ファイザー製薬株式会社PMSバイオメトリクス室今井啓之

ノバルティスファーマ株式会社安全性情報部神田誠一☆

藤沢薬品工業株式会社開発部第2PMS部北川高志

曰本イーライリリー株式会社医薬情報部古閑晃

協和発酵工業株式会社医薬安全性情報部佐藤裕幸

曰本シエーリング株式会社安全性I情報部谷本頼子

ノバルティスファーマ株式会社筑波研究所出村信隆

ノバルティスファーマ株式会社安全性情報部新美慶展

ファルマシア株式会社研究開発部門野嶋豊

明治製菓株式会社臨床統計部藤川弘之

三共株式会社医薬情報第2部松下泰之

明治製菓株式会社臨床統計部松本正人

明治製菓株式会社顧問真山武志◎

アストラゼネカ株式会社医薬情報部三谷みちよ

元)曰本シエーリング株式会社安全性情報部雪材時人★

※下線執筆者(五十音順)

◎薬剤疫学部会長★研究会委員長☆副委員長

国立公衆衛生院

曰本薬剤疫学会

疫学部環境疫学室長

理事長

藤田利治

楠正

曰本RAD-AR協議会事務局 福島

舞坂

白井

光宏武隆

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RAD-AR活動をささえる加盟社

アストラゼネカ株式会社

アペンティスファーマ株式会社

エーザイ株式会社

大塚製薬株式会社

小野薬品エ業株式会社

キッセイ薬品エ業株式会社

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興和株式会社

三共株式会社

塩野義製薬株式会社

住友製薬株式会社

ゼリア新薬エ業株式会社

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武田薬品エ業株式会社

田辺製薬株式会社

中外製薬株式会社

日本イーライリリー株式会社

日本シエーリング株式会社

日本新薬株式会社

日本ペーリンガーインゲルハイム株式会社

日本ロシュ株式会社

ノバルティスファーマ株式会社

ノポノルディスクファーマ株式会社

バイエル薬品株式会社

万有製薬株式会社

ファイザー製薬株式会社

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藤沢薬品エ業株式会社

三菱ウェルファーマ株式会社

明治製菓株式会社

持田製薬株式会社

山之内製薬株式会社

(34社50音順)

レーグー

曰本RAD-AR協議会

)リスク・ペネフィットを検証する会一-〈すりのリスク