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花の縁 010224 1 1 24)ムラサキケマンとキケマン=紫華鬘と黄華鬘 ムラサキケマンはケシ科の越年草で、日本各地の山林や藪の周辺などに普通に生え、 中国大陸にも分布する。茎は柔らかで直立し、高さは 20 40cm となる。葉は長い葉柄 があって、根生するものと茎生するものがあり、2 3 出羽状複葉でセリやニンジン に似ている。 45 月ごろ茎頂に、長さ 1.52cm で紫色の 4 弁花を総状に多数開く。 花は筒状で外側の 2 弁のうち一つには長い『距』がある。和名の由来は仏具のケマン に似た花を咲かせるためである。『華鬘』(ケマン)とはもともとは髪飾りの一つで、 インドでは生花を花輪にして首にかけていたが、これがやがて仏像の首にかけられる ようになり、さらに日本では仏堂内部の梁や欄間などに装厳具( ショウゴング) の一つ として、用いられるようになった。木や金属、時には獣皮などが材料として使用され、 特に岩手県の平泉中尊寺の『金銅華鬘』は、国宝に指定されている。 ムラサキケマンの別称としてはヤブケマンとか、葉の形状からキツネノニンジン、 クサニンジンなどがある。学名は『 Corydalis incisa 』で、属名にはヒバリという意味が あり、長い距のある花がヒバリを連想させるためである。種小辞は鋭く裂けたという意味で、 複葉を形容したものであろう。花色が黄色のものにキケマンがあり、これは暖地性で、 関東以西の本州から四国、九州の海岸近くに生える。学名は『Corydalis heterocarpa 』、 種小辞はいろいろな形の果実という意味。別称はハマキケマン、ウバコロシ、モモチドリ、 ヘビニンジンなどである。また中国では『紫菫』と呼ばれている。またケマンの近縁種 にはエンゴサク(延胡索)『Corydalis turtschaninovii』がある。 ムラサキケマンには全草に有毒なアルカロイドが含まれ、これはまた鎮痛、鎮痙作用 があるために他の生薬と配合して、浄血・鎮痛・鎮痙薬として頭痛、胸やけ、胃痛、 腹痛、月経痛に用いられ、中国では殺虫剤やタムシの外用薬としても用いられた。 キケマンンには強い悪臭があり、ムラサキケマンもキケマンも、そして近縁種の エンゴサクも、何といってもケシ科の代表的な植物なのである。 一方ケマンソウは同じくケシ科の多年草で、原産地は中国である。草丈は 30 60cm で、 葉は長い葉柄があり 数回羽状 に裂け、ボタンの葉によく似ている。 4 5 月ごろ、淡紅色 の魚のタイに似た小花を総状に下垂させてつける。このためタイツリソウの別名もある。 学名は『 Direntra spectabilis 』、 属名は 2 枚の花弁に大きな距があるためで、種小辞は 美しいという意味である。イギリスでの呼称は『 bleeding heat 』、中国では『荷包牡丹』 である。日本では古くから庭園などに植えられて鑑賞用とされてきたが、他のケシ科 植物と同様、根茎にはアルカロイドを含み、薬草として利用された。 ケマンソウの近縁種には高山植物のコマクサがある。和名の由来は花の形を馬の顔 に例えたもので、学名は『Direntra peregrina』で、 全草に麻酔性のアルカロイド含まれ有毒であるものの、古くは山岳信仰と絡みながら霊薬とされていた。今では 高山植物の代表として、またウスバキチョウの食草としてよく知られている。

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24)ムラサキケマンとキケマン=紫華鬘と黄華鬘 ムラサキケマンはケシ科の越年草で、日本各地の山林や藪の周辺などに普通に生え、

中国大陸にも分布する。茎は柔らかで直立し、高さは20~40cmとなる。葉は長い葉柄

があって、根生するものと茎生するものがあり、2 回 3 出羽状複葉でセリやニンジン

に似ている。4~5 月ごろ茎頂に、長さ 1.5~2cm で紫色の 4 弁花を総状に多数開く。

花は筒状で外側の 2 弁のうち一つには長い『距』がある。和名の由来は仏具のケマン

に似た花を咲かせるためである。『華鬘』(ケマン)とはもともとは髪飾りの一つで、

インドでは生花を花輪にして首にかけていたが、これがやがて仏像の首にかけられる

ようになり、さらに日本では仏堂内部の梁や欄間などに装厳具(ショウゴング)の一つ

として、用いられるようになった。木や金属、時には獣皮などが材料として使用され、

特に岩手県の平泉中尊寺の『金銅華鬘』は、国宝に指定されている。

ムラサキケマンの別称としてはヤブケマンとか、葉の形状からキツネノニンジン、

クサニンジンなどがある。学名は『Corydalis incisa』で、属名にはヒバリという意味が

あり、長い距のある花がヒバリを連想させるためである。種小辞は鋭く裂けたという意味で、

複葉を形容したものであろう。花色が黄色のものにキケマンがあり、これは暖地性で、

関東以西の本州から四国、九州の海岸近くに生える。学名は『Corydalis heterocarpa』、種小辞はいろいろな形の果実という意味。別称はハマキケマン、ウバコロシ、モモチドリ、

ヘビニンジンなどである。また中国では『紫菫』と呼ばれている。またケマンの近縁種

にはエンゴサク(延胡索)『Corydalis turtschaninovii』がある。

ムラサキケマンには全草に有毒なアルカロイドが含まれ、これはまた鎮痛、鎮痙作用

があるために他の生薬と配合して、浄血・鎮痛・鎮痙薬として頭痛、胸やけ、胃痛、

腹痛、月経痛に用いられ、中国では殺虫剤やタムシの外用薬としても用いられた。

キケマンンには強い悪臭があり、ムラサキケマンもキケマンも、そして近縁種の

エンゴサクも、何といってもケシ科の代表的な植物なのである。

一方ケマンソウは同じくケシ科の多年草で、原産地は中国である。草丈は30~60cmで、

葉は長い葉柄があり数回羽状に裂け、ボタンの葉によく似ている。4~5月ごろ、淡紅色

の魚のタイに似た小花を総状に下垂させてつける。このためタイツリソウの別名もある。

学名は『Direntra spectabilis』、 属名は2枚の花弁に大きな距があるためで、種小辞は

美しいという意味である。イギリスでの呼称は『bleeding heat』、中国では『荷包牡丹』

である。日本では古くから庭園などに植えられて鑑賞用とされてきたが、他のケシ科

植物と同様、根茎にはアルカロイドを含み、薬草として利用された。

ケマンソウの近縁種には高山植物のコマクサがある。和名の由来は花の形を馬の顔

に例えたもので、学名は『Direntra peregrina』で、 全草に麻酔性のアルカロイドが

含まれ有毒であるものの、古くは山岳信仰と絡みながら霊薬とされていた。今では

高山植物の代表として、またウスバキチョウの食草としてよく知られている。

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ムラサキケマンは全草が有毒である(相模原市緑区)。

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この固体は他のものよりも花の色が濃く、よく目立った。

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やや暖地性のキケマンが温暖化の影響か、避暑地の軽井沢にも多く見られる(長野県軽井沢町)。

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紫ケマンと黄ケマンは混生することが多い。ここ軽井沢でも、やや暖地性のキケマンが、

紫ケマンを凌駕するほどに繁茂している(長野県軽井沢町)。

ムラサキケマンはケシ科植物であるものの蝶などの昆虫にとっては食草にもなっている。

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ムラサキケマンによく似た花を咲かせるジロボウエンゴサク。学名は『Corydalis decumbens』

で、低山地帯の路傍でよく見かける(長野県軽井沢町)。

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ムラサキケマンとよく似た延胡索(エンゴサク)は観賞用に栽培もされている。学名は

『Corydalis turtschaninovii』で、漢方では他の生薬と配合して浄血・鎮痛・鎮痙薬として、

頭痛、胸やけ、胃痛、腹痛、月経痛になどに用いられる(小平市薬用植物園)。

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ケマンソウの別名はタイツリソウで、なるほどとうなずける。学名は『Dicentra spectabilis』

で、花色は白の他にピンク色もあって、一層タイに似ている (栽培品)。

高山植物の代表コマクサもケシ科の植物である(神奈川県箱根町湿性花園)。

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高山植物の代表コマクサは園芸品として売られており、標高1,000mぐらいあれば育てられる。

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コマクサの学名は『Dicentra peregrina』で、花容を馬の顔に準えたことに由来する(栽培品)。

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コマクサは高山植物の代表だが、関東でも1,000m以上の高地なら普通に育てることが出来る。

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ケシ科のムラサキケマンやコマクサを食草としている蝶は意外と多く、このウスバシロチョウは

ムラサキケマンを食草とし、近縁のヒメウスバシロチョウはエンゴサクを、高山蝶の代表格で

あるウスバキチョウは、コマクサを食草としている(長野県軽井沢町)。

日本では大雪山系のみに生息するウスバキチョう(ネットより借用)。

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ウスバシロチョウの羽化、軽井沢の小径を歩いていて偶然見つけた。まだ翅が濡れている。

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翅をしきりに広げて、風に当てて翅を乾かしていた。

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上翅の形状は先端がまだ丸まっていて、本来の形になっていない。

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15分ぐらい経つと翅は次第に広がってきたが、まだ濡れていて飛び立つことはできない。

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翅はすっかり広がって来たが、まだ右側の下翅は完全に広がっていない。

チョウはじっと草の上で翅が広がって乾くまで、待っているようだった。

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翅が広がってから2時間ぐらいこのままでいたが、その後どこかへ飛び去った。 目次に戻る