2013年7月10日第521号 日本記者クラブ会報 · 3⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10...

参院選  9 党党首討論会 日本記者クラブ主催の国政選挙討論会は13回目 社民、生活、公明、民主、自民、維新、みんな、共産、みどり (左から) の 9 党党首が一堂に会した 7 3 日/10階ホール  撮影:栗田 格会員 日本記者クラブ会報 公益社団法人 日本記者クラブ 〒100 - 0011 東京都千代田区内幸町2 - 2 - 1 日本プレスセンタービル TEL. 03 - 3503 - 2722 http://www.jnpc.or.jp/ 日本記者クラブ2013 2013年7月10日第521号 2 1 3 4 MIT5 6 調7 8 9 10 使11 12 13 14 15 16 JR30 18 20 21 21 簿

Transcript of 2013年7月10日第521号 日本記者クラブ会報 · 3⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10...

  • 参院選 9党党首討論会 日本記者クラブ主催の国政選挙討論会は13回目社民、生活、公明、民主、自民、維新、みんな、共産、みどり(左から)の9党党首が一堂に会した

    7月3日/10階ホール  撮影:栗田 格会員

    日本記者クラブ会報公益社団法人 日本記者クラブ 〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-2-1 日本プレスセンタービル TEL. 03-3503-2722 http://www.jnpc.or.jp/

    Ⓒ日本記者クラブ2013 2013年7月10日第521号

    2

    日本記者クラブ賞受賞記念講演会

    第1回記者ゼミ

    3

    杉山晋輔 外務省アジア大洋州局長

    クラブゲスト

    4

    ズマ 南アフリカ大統領

    伊藤穰一 米MITメディアラボ所長

    5

    瀬野清水 前重慶総領事

    三浦雄一郎 冒険家

    6

    ストークス 

    米ピュー・リサーチ・センター国際経済世論調査部門

    ディレクター

    向田昌幸 元海上保安庁警備救難監

    7

    桜井博志 旭酒造社長

    米田 

    壮 警察庁長官

    8

    ケント・カルダー氏

    小林 

    節 慶応大学教授

    9

    甘利 

    明 経済再生担当相

    鈴木英敬 三重県知事

    10

    クラグストン 駐日カナダ大使

    内藤正典 同志社大学大学院教授

    11

    田中浩一郎 日本エネルギー経済研究所中東研究センター長

    ワーキングプレス

    12

    量的・質的金融緩和

    「分かりやすさ」 

    日銀もメディアも模索続く

    読売新聞 

    矢田俊彦

    13

    三浦雄一郎さんエベレスト登頂

    高山病との闘い 

    カメラマン駆け込み取材記

    共同通信 

    伊藤智昭

    横浜発 

    待機児童ゼロ発表

    14

    評価にはまだ早い 

    保育の「量」と「質」の両立を

    東京新聞 

    中澤 

    被災地通信 

    岩手県陸前高田市

    15

    復興のスピード遅く 

    阻む既存の制度

    岩手日報 

    斎藤 

    書いた話 書かなかった話

    16

    国鉄改革と新生JRを見守った交通ペンクラブの30年

    鈴木隆敏

    リレーエッセー

    18

    私が会った矢野弘典さん

    「縁」を紡ぐ経済人

    時事通信 

    堀 

    義男

    20

    クラブ月報

    質問が会見を作りあげる

    中井良則専務理事

    21

    住田良能元会報委員長を偲んで

    ▼付録 

    第21期日本記者クラブ委員会名簿

  • No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 2

    クラブ賞記念講演 会

     「良いニュースと悪いニュースがあ

    る」。これは今年4月、発売7日目で

    100万部となった村上春樹さんの

    新作『色彩を持たない多崎つくると、

    彼の巡礼の年』の帯文である。では、

    良いと悪いは、どのような関係にあ

    るのか。そのことを深く考えさせら

    れた受賞記念講演会だった。

     

    村上さんに何度も単独インタビュー

    したことなどが評価された小山鉄郎

    さん(写真左)は「死は生の対極として

    ではなく、その一部として存在して

    いる」という文章だけがゴシック体

    で印刷されている『ノルウェイの森』

    (1987年刊)を軸に、村上作品の

    特色を解読。「自分は日本の作家で

    あることに自覚的だ」と語った村上

    さんの死生観、赤と緑の二色からな

    る著者自装の本のデザイン、「4」と

    いう数字へのこだわりなど、多彩な

    証拠を挙げながら、こう結論づけた。

     「人は、大切な人を喪うしなった時、自

    分の本当の心に気づき、成長する。

    そして、成長する力によって、不完

    全な世界は新しい方向に動いていく。

    この一点に向かって村上さんは書い

    ている」

     

    質疑応答では、漫画担当になるな

    ど文芸記者としてはつらい時期もあっ

    たが、「何でも楽しむ性格。言葉を使

    わず喜怒哀楽を表現する漫画に刺激

    され、白川静さんの漢字学を漫画を

    使って紹介できたのも、そのおかげ。

    どんな場所でも記者には果たすべき

    役割がある」と語った。

     

    佐藤和孝さん(右)の講演は、世界

    の紛争地帯で、女性や子どもなど弱

    い立場の人の姿を追い続けた山本美

    香さんが、シリアで銃弾に倒れるま

    での姿を映すDⅤDを放映してから

    行われた。

     

    内容は佐藤さんと同じように、同

    僚やパートナーをシリア取材で喪っ

    たジャーナリストへの、巡礼の旅と

    でもいうべき取材の報告。「この仕

    事は、命を懸けてまでやる意味があ

    るのか」との質問をロンドン、パリ、

    トルコでぶつけた、という。

     

    同僚らの死に、「まるで心臓をえぐ

    りとられたような思い」「まだ気持ち

    の整理がつかない」などと嘆きなが

    らも、彼らは戦場から報道すること

    の使命を次のように語ったという。

     「伝えなければ、ますます虐殺な

    ど悪事が横行する」

     「世界の暗闇に光を当てることで、

    最悪なことは避けられる」

     

    11年間を共にした山本さんという

    大切なパートナーを喪った佐藤さん

    は「常日頃考えていたことが間違って

    いなかったと確信した。山本美香は

    いないけれど、これからも理想は胸

    にしまって、淡々と伝えていく」と

    語った。

     

    悪いニュースをしっかり見つめる

    ことは、良いニュースを生むための

    確かな一歩なのだ。

    読売新聞編集委員 

    鵜飼哲夫

     

    6月12日︵水︶午後6時から10階ホー

    ルで行われた受賞記念講演会には、一般

    114人も含め約160人が出席した。

    日本記者クラブ賞

     小山鉄郎 共同通信編集委員兼論説委員

    同特別賞 �

    山本美香 ジャパンプレス所属

     佐藤和孝 ジャパンプレス代表

     「生」と「死」を考える 

     重なり合った

     二人のメッセージ

     

    2013年度日本記者クラブ賞 

    受賞記念講演会

  • 3 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    記 者ゼミ

     

    40歳前後の中堅記者を対

    象に日本記者クラブが企画

    した「記者ゼミ」は6月11日、

    外務省の杉山晋輔アジア大

    洋州局長(6月28日付で外務

    審議官)の講義でキックオフ

    された。

     

    杉山氏は関係が悪化して

    いる中国や韓国、核開発を

    強行する北朝鮮など、北東

    アジアの主要国との外交政

    策を統括している日本外交

    のキーパーソンだ。北朝鮮

    の核問題をめぐる6カ国協

    議の日本側首席代表を務め、

    一般の人にもよく知られた

    人物だ。外務省の記者クラブでアジ

    ア外交を取材している私も、杉山氏

    の一挙手一投足に注目している。

     

    杉山氏の講義のテーマは「アジア

    は、ひとつひとつ?」。明治時代の

    思想家・岡倉天心が語った「アジア

    は一つ」の言葉をもじったタイトル

    で、「アジアは一つになれるのか?」

    との自問から講義は始まる。政治体

    制、経済原理、言論をめぐる状況が

    日本や欧米と異なる中国が存在を増

    していくのはどういうことなの

    か、伝統的なバランス・オブ・

    パワーの考え方でいまの国際関

    係を考えて良いのか、これまで

    と違った新しい政治哲学、国際

    関係の概念を考え出さなければ

    ならないのではないか、次々と

    記者たちに命題を突き付けていく。

     

    日々の生ニュースを追うことに注

    意を奪われがちな記者としては、杉

    山氏の問いかけは、自分たちの取材

    が世界史という大きなうねりの中で

    どう位置付けられるものなのか、立

    ち止まって考える瞬間となる。

     

    私の知る杉山氏は、非常に遠慮深

    く、表舞台に出ることを好まない人

    だ。「記者ゼミ」はオン・ザ・レコード

    であるため、杉山氏は慎重に言葉を

    選んでいた。自身の発言が実名で引

    用され、政府見解から外れることは

    できないとの判断が働くためだろう。

     

    それでも杉山氏は「G2体制や中

    国が超大国の一角を担う国際関係の

    あり方はないと思う。(中国には)あ

    る種の普遍的な価値、仕組みを提示

    する力はない。中国自身がどう13億

    の民を統治していくか、非常に迷っ

    ていると思う」などと踏み込んでみ

    せる場面もあった。物事を瞬時に判

    断し、そのリスクも背負わなければ

    ならない一線の外交官の気概を垣間

    見た気がした。 

    読売新聞政治部 

    大木 

    聖馬

    6・11︵火︶記者ゼミ①/司会

    :吉田克二特別企画委員/出席

    :69人/会見詳録

    ゼミ生募集中

     「記者ゼミ」の参加者を募集しています。

    対象は40歳前後の日本記者クラブ会員社

    の記者です。一度登録していただければ、

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    ご連絡ください。

    《今後の予定》

    ○�

    7月11日(木)午後2時~4時 「複雑さ

    を増す都市・農村の格差」阿古智子・東

    大大学院准教授

    ○�

    7月25日(木)午後2時~4時 「庶民か

    ら見た中国社会」麻生晴一郎・フリー

    ジャーナリスト

    年内いっぱいアジア・中国シリーズを続けます。

    ニュース追う

    足を止め

    問いかけを

    受けとめる

    杉すぎ

    山やま

     晋しん

    輔すけ

     外務省アジア大洋州局長� アジアは、ひとつひとつ?

     

    気まぐれ台風のせいで、朝から雨

    だった。「記者ゼミ」の出足を気にし

    ながらクラブに出てみると、当日申

    し込みが何件も来ているという。用

    意した資料を、慌てて増し刷りした。

     

    6月11日のゼミ初回、会場の9階

    宴会場はあふれかえった。正面には

    ロの字型にテーブルを並べ、記者会

    見とは装いも違う。

     

    今年のテーマは、多くの記者にか

    かわりがある「中国」を選んだ。勉強

    会らしく講師には、ニュースを追う

    講義ではなく、背景の読み解きや現

    場の話をお願いしている。

     

    初回の杉山晋輔氏、第2回の川島

    真・東大大学院准教授とも、歴史を

    切り口にアジア・中国のいまを大ぶ

    りに描いてくれた。

     

    スタートの勢いを保って、クラブ

    の活性化につなげたい。6・11が新

    たな記念日になるように。

    (吉田克二)

    記者ゼミ好スタート

  • 日本記者クラブチャンネルに会見動画� クラブゲス ト

    No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 4

    伊い藤とう 

    穰じょう一いち

    米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長

    6・4︵火︶記者会見/司

    会:杉尾秀哉委員/出席:

    94人/動画/会見詳録

    ジェイコブ・ズマ 南アフリカ大統領

    6・4︵火︶記者会見/司会:会田

    弘継企画委員長/通訳:池田薫・

    宇尾真理子/出席:92人/動画

     

    米マサチューセッツ工科大学(MI

    T)メディアラボ所長に就任したのが

    2年前。昨年にはニューヨーク・タ

    イムズ(NYT)の社外取締役に選ば

    れた。インターネットのベンチャー

    企業を興したほか、著作権改革を進

    める非営利団体トップを務めるなど

    多分野で活躍してきた。

     

    ベンチャー投資会社経営者の経験

    をもとに「通信やソフト流通のコスト

    が下がったことで、イノベーションに

    機敏性が求められるようになった」。

     

    米国では大きなコンピューター会

    社があり、多くの資金と技術者を擁

    したボストンではなく、グーグルな

    ど少人数で開発するシリコンバレー

    で成功例が相次いだ、と指摘した。

    400以上のプロジェクトがあるM

    ITメディアラボで成功の基準とな

    る3つの言葉はユニークさ、インパ

    クト、マジックという。

     

    創発民主制という新しい政治のあ

    り方を提言している。これまで主流

    のマスメディアが政府と国民をつな

    いでいた。しかしソーシャルメディア

    が登場したことで、情報を消費

    していた国民がネットワーク上

    の議論の場に参加できるように

    なった変化が大きな影響をもた

    らす、と主張する。

     

    NYTの仕事を引き受けたの

    は「マスメディアが生き残らな

    いと大変な世の中になると思ったか

    ら」。ピュリツァー賞の申請書を読

    み、プロのジャーナリストがいて国

    と闘っていい姿勢の会社があり、初

    めてできることを痛感したという。

    「NYTの競合はインターネットで

    文字をガンガン出すCNN。一方で

    NYTは動画を始めている」とも。

     

    日本のマスメディアの生き残り策

    を問われ、「新聞がもうからなくても、

    テレビや球団を持っていて死なない

    ようにできているようで、うらやま

    しい。いろんなメディアが融合する

    のも選択肢の1つ」と答えた。米新

    聞社の経営に携わり、発言の視野が

    より広がったように感じた。

    朝日新聞編集委員 

    川本 

    裕司

     

    配られた資料によると、アフリカ大

    陸の電力の3分の2は南アで発電さ

    れ、アフリカ大陸の鉄道の8割は南

    ア国内を走るという。アフリカ民族

    会議(ANC)のたたき上げの闘士であ

    るズマ大統領(71)はかんで含めるよ

    うに原稿を読み上げ、「南アを玄関口

    にアフリカ大陸に投資を」と説いた。

     

    大統領は、横浜市で6月1~3日

    に開かれた第5回アフリカ開発会議

    (TICAD5)に合わせて来日。会

    議期間中はこれまでになくアフリカ

    の経済面が注目を集め、「中国に遅れ

    るな」とせき立てるようにアフリカ経

    済に関する報道があふれた。

     

    大統領の会見も経済一色。アフリ

    カの経済的な潜在力を強調し、イン

    フラ整備や教育制度の充実が「植民

    地支配の歴史から大陸全体での課題

    だ」と訴えた。日本に何を期待するの

    かを問われると、農業や製造業、情

    報通信などの分野を挙げ、「投資機会

    は膨大にある」と語った。

     

    だが、南ア経済の足元を見ると不

    安も見えてくる。南アの通貨ランド

    は下落し、失業率は高止まり。今年

    の経済成長率は2%台後半という当

    初の予測に届かないとみられ、おお

    むね5%成長を続ける他のアフリカ

    諸国とは雰囲気がだいぶ違う。

     

    さらに労働紛争がカントリーリス

    クとなっている。昨年8月にストラ

    イキ中の鉱山労働者に対して警官隊

    が発砲し、34人が死亡した。労働紛

    争は今年も続いている。外国メディ

    アから対応を問われると、大統領は

    「話し合いしか解決方法はない」とい

    ら立たしげに答えた。その口調には

    手詰まり感が垣間見えた。

     

    昨年12月には与党のANC議長に

    再選され、大統領職を次の任期も続

    投する可能性もある。昨年4月に6

    度目の結婚をして現在の夫人は4人。

    うらやんでいいのかわからないが、会

    見では結婚生活への質問はなかった。

    東京新聞外報部 

    中澤 

    生き残れ! 

    世の中のために

    マスメディアは

    必要

    南ア経済

    潜在力強調も不安拭えず

  • ク ラブゲスト� フェイスブック、ツイッターでホームページの更新情報をお知らせしています

    5 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    三み浦うら 

    雄ゆう一いち郎ろうさん 冒険家

    6・6︵木︶記者会見/司会:

    露木茂委員/出席:114

    人/動画/会見詳録

    瀬せ野の 

    清きよ水み 前重慶総領事

    6・5︵水︶シリーズ企画「中国とどう

    つきあうか」③/司会:坂東賢治委員/

    出席:101人/動画/会見詳録

     

    首相官邸で「三浦雄一郎記念日本

    冒険家大賞」創設の意向を安倍総理

    から伝えられ、その足で三浦雄一郎

    さんは、次男の豪太さんと会見に臨

    んだ。

     

    もとより浮かれた様子もない。人

    類の一人として、冒険の遺伝子の発

    露で、隣の山を越えた先に何がある

    か、確かめなければ気が済まない。

    三浦さんは、もしそうした探求心が

    なかったら人類は、1カ所にとどまっ

    て、病気や災害でとっくに滅びてい

    ただろうと、常日ごろから力説する

    人である。

     

    80歳での、世界最高峰への挑戦。

    5歳刻みに挑み続けて3度目だが、

    今回が年齢的にも一番、命の危機に

    瀕ひんしたのは言うまでもない。「80歳

    を超えてエベレストを目指す物好き

    がいるというので、あのアルジャジー

    ラが僕の特集を組みたいと取材に来

    た」。頂上で写真撮影などに要した

    時間が50分。酸素マスクを外し、頂

    上から見える山々を背景に「本人確

    認」に時間を費やした。疑惑の登頂

    で、最高齢を詐称しようという不届

    き者がいるからである。それにして

    も長く写真を撮り続けた。

     

    地上の3分の1の酸素のデスゾー

    ンのダメージが下山で危機を誘う。

    膝から崩れ落ちる。足元に2日前に

    亡くなった人の遺体が横たわってい

    る。「下手するとこういうことにな

    る」。生きるか死ぬか、究極の状況

    に追い込まれた。テントに倒れ込む。

    そこからもう一度立ち上がって絶壁

    を下りきった力。「絶対に生きて帰

    る」。その生命力に圧倒される。

     

    アンチエイジングの研究で博士号

    を取得した豪太さんの「実験動物」だ

    と言いながら、喜々として新たな夢

    の実現に向かう。白髪になったが、

    フラッシュを浴びて光る眼は、197

    0年にエベレスト8000㍍から命

    懸けのスキー滑降を挑んだ37歳の頃

    の獲物を射抜く眼と同じだった。

    日本経済新聞編集委員 

    工藤 

    憲雄

     「中国とどうつきあうか」第3弾は

    38年間の外交官生活のうち通算25年

    を中国駐在で過ごした専門家が登

    場。改革開放前後の中国の変貌をつ

    ぶさに観察してきた体験を引きなが

    ら、「離婚・別居したくてもできない」

    隣国と長期安定的につきあうための

    10の方法論を紹介した。

     「互いに褒め合う」=日中双方が褒

    められることに飢えている▽直接会っ

    て話すことが必要▽しっかりとした

    歴史教育を──。多く語られている

    ことではあるが、外交の最前線に立

    ち続けてきた人間ならではの含蓄に

    富んだ内容があった。

     

    戦略的互恵関係を掲げた2008

    年の日中共同声明を「初めてお互い

    を褒め合った」画期的な政治文書で

    あると分析。「人敬我一尺、我敬人一

    丈」(孝経)の言葉を引いて「相手に尊

    敬されればそれを十倍にして返す=

    礼」との中国伝統思想を紹介し、「褒

    めて褒めて褒めちぎることで両国の

    関係はよくなっていくのではないか」

    と期待を込めた。

     「難しい問題は詰めない。理

    屈で詰めないのはアジアの知

    恵だ」との言葉には、元外交

    官としての長いキャリアがにじ

    んだ。折しもスピーチの2日

    前(6月3日)には野中広務元

    自民党幹事長の尖閣諸島に関

    する日中国交正常化時の「棚上げ合

    意」発言がニュースとなったばかり。

    当然、この問題にも質問が及んだ。

     

    瀬野氏は個人的意見として「(棚上

    げに)暗黙の合意はあったのではない

    か」とした上で、昨年9月の国有化

    以降の流れについて「大事なことは

    これ以上国有化の問題に触れないこ

    と。かさぶたがしっかり治るまでは

    そっとしておく方がよい」と話した。

     

    日本国内で高まる中国脅威論の背

    景にあるのは「大国化する隣国の意

    図が読めない」恐怖感だ。中国を知

    る人の存在と同時に、彼らの声を伝

    える報道の役割の大きさも感じたス

    ピーチだった。

    毎日新聞外信部 

    林 

    哲平

    関係改善へ

    カギは

    褒めちぎること?

    80歳今なお獲物射抜く眼

  • 日本記者クラブチャンネルに会見動画� クラブゲス ト

    No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 6

    向むかい田だ 

    昌まさ幸ゆき 元海上保安庁警備救難監

    6・7︵金︶シリーズ企画「中国と

    どうつきあうか」④/司会:倉重

    篤郎委員/出席:78人/動画

    ブルース・ストークス

    米ピュー・リサーチ・センター国際経済世論調査部門ディレクター

    6・7︵金︶記者会見/司会:

    村田泰夫委員/通訳:澄田

    美都子/出席:62人/動画

     

    沖縄県・尖閣諸島沖で2010年

    9月に起きた中国漁船衝突事件。当

    時の現場責任者が、海上保安庁の視

    点から尖閣問題を論じた。強調した

    のは「約束違反を繰り返してきたの

    は中国だった」との認識だ。

     

    中国側は1972年の日中国交正

    常化交渉の中で、日中双方が尖閣諸

    島の領有権を「棚上げ」すると約束し

    たと主張する。事件で巡視船に体当

    たりした船長を、日本側が国内法に

    基づき訴追しようとすると、中国側

    は「棚上げ」に反すると抗議した。

    一方、日本政府は領土問題が存

    在しないとの立場から、「棚上

    げ」の存在自体を否定している。

     

    だが、結果的に日本は尖閣諸

    島の現状をほぼ維持してきた。

    その間、中国は「尖閣奪還に向

    けた中長期的戦略」を、したた

    かに進めてきた。

     

    ソ連崩壊直後の92年2月には、尖

    閣諸島を中国領と定めた中国領海法

    を公布した。2005年6月に懸案

    の対ロシア国境を画定させると、08

    年12月には海洋監視船「海監」2隻を

    尖閣諸島沖に送り込み、約9時間も

    日本領海内にとどまらせた。

     

    中国は今や、尖閣諸島を「核心的

    利益」と位置付け、「海監」などによ

    る尖閣諸島沖の領海侵入などが頻繁

    に起きる。「中国国内法に基づく主

    権的権利を日本領域内で行使してく

    る、ゆゆしき事態」だ。

     

    限られた人員で日本の広大な領海

    や排他的経済水域(EEZ)を守る海

    上保安庁の現場は、中国の攻勢に遭

    い、士気こそ高いが、「有効な手を

    打てない」という悔しさも漂う。尖

    閣問題に追われ、救難など他の任務

    に影響が出かねない。

     

    その際、問われるのは、日本にとっ

    ての「尖閣」の位置付けだ。「東シナ

    海の遠い別世界の話だという感覚が、

    国民の間に浸透したままではないか」。

    周辺海域で「静かな警備」を忍耐強

    く続ける元同僚たちに代わり、重た

    い「問い」を残した。

    読売新聞国際部 

    末続 

    哲也

     「TPP(環太平洋経済連携協定)

    は米国より日本に有利に働く」「日米

    が対等な立場で結ぶ初めての貿易協

    定になる」「日本では大騒ぎだが、米

    国では話題にもなっていない」──

    TPPについて米国人は、われわれ日

    本人の多くが抱く感覚と大きく異な

    る見方をしていることを、豊富な

    データで示してくれた。

     

    ストークスさんは、根っからのジャー

    ナリスト。18年前に日本記者クラブ

    で開かれた「米国人ジャーナリスト

    を囲む会」に来ていただいたことも

    ある。現在は、公共政策専門誌であ

    る『ナショナル・ジャーナル』に定期

    的に寄稿しているほか、世論調査団

    体であるピュー・リサーチ・センター

    の国際経済世論調査部門のディレク

    ターを務める。

     

    TPPについて、ストークスさん

    は実質的に「日米2国間のFTA(自

    由貿易協定)である」と語った。日本

    と米国は、EU(欧州連合)ともF

    TAを結ぶ交渉を始めている。「米国、

    日本、EUの3極がレベルの高い

    自由貿易のスタンダードを決める

    意義は大きい。そこに他国を参加

    させることで世界貿易を拡大させ

    ることができる」というわけだ。

     

    中国がTPPに強い関心を示し

    ていることについては、「TPPは

    世界の新しい貿易ルールを決めるこ

    とになるが、そこに透明性に欠け、

    説明責任を果たさない中国式のルー

    ルを持ち込ませるわけにはいかない」

    として、中国抜きで結ぶ意義を語っ

    た。中国のTPP参加については「中

    国が経済体制を劇的に改革できると

    は思わないので、現実的ではない。

    オバマ政権も参加できると考えてい

    ない」と述べた。

     

    また、TPPは日米間の狭い経済

    問題ではなく戦略的協定である、と

    強調したのが印象に残った。「21世

    紀の日米同盟の未来を左右するもの

    であり、中国の挑戦にいかに対処し

    ていくか歴史的な意味があり、失敗

    は許されない」と言うのだ。

     

    企画委員 

    朝日新聞出身 

    村田 

    泰夫

    日米で異なる

    TPPへの

    感覚・見方

    日本にとっての

    尖閣 

    その位置付けは

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    7 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    米よね田だ 

    壮つよし 警察庁長官

    6・11︵火︶昼食会/司会:箕

    輪幸人理事 

    川上高志委員/出

    席:71人/動画

    桜さくら井い 

    博ひろ志し 旭酒造社長

    6・10︵月︶記者会見/司会:

    泉宏前企画委員/出席:82人/

    動画

     

    4人の誤認逮捕を招いたパソコン

    の遠隔操作事件、多発する警察官の

    不祥事、交番機能の弱体化─。厳し

    い質問が相次いだが、表情を崩さず、

    鋭い眼光で答える姿が印象的だった。

     

    今年1月から、全国25万人の警察

    官のトップとして巨大組織を率いる。

    「公務員試験に合格して官庁訪問す

    るまで、警察庁という役所があるこ

    とも知らなかった」というエピソー

    ドを持つが、入庁後は刑事畑を中心

    に主流を歩んできた。大阪府警捜査

    2課長時に巨額詐欺の豊田商事事件、

    和歌山県警本部長時には毒物カレー

    事件の捜査を指揮した。

     「かつては体力があるから病気を

    寄せ付けなかった。今は体力は低下

    したが、うがいや消毒で何とか病気

    にかからずに済んでいる」。現在の

    治安情勢を人間の体に例え、直面す

    る課題として、原発テロ警備と暴力

    団対策、サイバー犯罪・攻撃対策に

    ついて説明した。

     

    中でも、長年取り組んできた暴力

    団対策には言葉に力を込めた。警察

    庁組織犯罪対策部長時の6年前

    に成立した犯罪収益移転防止法

    に触れ、「疑わしい取引の届け

    出が急増した。企業社会をめぐ

    る警察と暴力団の闘いは、この

    頃が分水嶺だったかもしれない」

    と自負した。

     

    一方、「当面の最重点課題」として、

    北九州市で相次ぐ事業者襲撃事件と

    東日本大震災の復旧・復興事業への

    暴力団の介入を挙げた。

     

    昨年、懲戒免職と逮捕者が過去最

    多になった警察官・警察職員の不祥

    事対策を問われると、故土田國保・

    元警視総監の「階級なる者が特権、傲

    慢、不勉強という意味に理解される

    ならば、警察組織の命運、命脈はそ

    の瞬間に絶たれる」という言葉を紹

    介。各都道府県警幹部の「たたずま

    い」の重要性を強調し、組織の立て

    直しを誓った。

    東京新聞社会部 

    沢田 

     

    高度成長時代まで「全国3000

    軒」といわれるほど造り酒屋があっ

    た。いま残ったのは1500強。業

    界の売上高は40年前の3分の1で、

    経営環境は厳しい。ビジネスモデル

    を転換して純米大吟醸酒の出荷量で

    日本一になり、海外市場も開拓して、

    売上高を30倍に増やした旭酒造は驚

    くべき存在だ。

     

    過疎化が進む山口県の山間の蔵元

    は、縮小する地元市場でシェアを確

    保する道を避けた。新ブランド「獺だっ

    祭さい」を立ち上げ、東京で各国大使館

    や高級料亭に食い込み、フランスや

    米国から研修生を受け入れ、パリや

    ニューヨークの有名ホテル・レスト

    ランをはじめ17の国・地域に販路を

    広げた。

     

    桜井社長は「世界の中で日本の文

    化的ポジションをつくることが重要」

    「高所得層をターゲットにし、ボリュー

    ムゾーン(中間層)市場での量的拡大

    は追求しない」と言う。

     

    酒造りは匠たくみの技の世界と思いがち

    だが、獺祭は高齢化する杜とう氏じに頼ら

    ず、製造工程をマニュアル化し、経

    営者と若い社員が知識と意識を共有

    することを是とした。生産者側の思

    い込みや卸問屋の都合ではなく、最

    終消費者のニーズに応える体制にし

    たことが成長につながった。

     

    もちろん課題も残る。さらに生産

    を増やそうとしても、原料の高品質

    酒米「山田錦」の調達に制約がある。

    コメの減反に伴う問題だ。

     

    安倍政権は日本文化の世界への発

    信に力を入れるが、補助金でクール

    ジャパンが世界に広がるわけでもな

    い。「不自由な規制をできるだけな

    くし、企業がリスクを取りやすくな

    る環境を望む」と桜井社長は言う。

     

    地方自治体は長年、大企業の工場

    誘致に頼った。いま地方は工場の海

    外移転で青息吐息。「だからこそ地

    方企業がグローバル市場で伸びてい

    く必要がある」。地方経済活性化の

    ヒントも得られる会見だった。

     

    企画委員 

    日本経済新聞コラムニスト

    脇 

    祐三

    海外に

    打って出て

    地方企業を

    再生

    組織立て直し

    喫緊の課題に

    眼光鋭く

  • 日本記者クラブチャンネルに会見動画� クラブゲス ト

    No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 8

     

    とても楽しそうだったと書くと「自

    分は真剣に話していたんだ」と怒ら

    れるかもしれない。とはいえ、世間

    に親しまれているとはいえない憲法

    論議を伸び伸びと語るさまは、見て

    いて思わず「○○屋」などと声を掛け

    たくなる風情だった。

     

    これが勢いなのだろう。人呼んで

    「96条の先行改正を止めた男」。学界

    でそれなりの地位を得た泰斗が、学

    者生活の晩年になって論争の最前線

    に出張る例はさほどない。「警察に

    守ってもらっている」と自嘲しつつ、

    高支持率の安倍政権にけんかを売っ

    たことへの誇りを感じさせた。

     

    目新しい学説を唱えたわけではな

    い。「立憲主義」。憲法は権力から国

    民を守るためにあるというのは学界

    では多数説である。

     

    ただ、国が国民を縛るのが憲法だ

    と思っている自民党の保守派をやゆ

    するのに「国はいつから国民のストー

    カーになったんだ!」と一喝する学

    者はこの国にはあまりいない。

     「法は道徳に踏み込まず」。これは

    憲法どころかあらゆる法体系に通じ

    る常識だが、ここでも「ローマ時代

    から分かっている!」と自民党を一刀

    両断してみせた。

     

    自称、護憲的改憲派だけあって話

    の振れ幅は大きい。改憲論議をタブー

    視しない安倍首相を持ち上げたか

    と思いきや、「方向が間違っている」

    と落とす。「憲法は不磨の大典では

    ない」「9条の改正は国民投票で通

    るのではないか」と改憲の勧めをす

    る一方で、「改悪は許されない」と

    基本的人権にタガをはめようとす

    る保守派をここでも厳しく批判した。

     

    自民党が昨年まとめた憲法改正草

    案は、議席を減らした中でも当選し

    た保守派が主導したものであり、議

    席が増えた今の自民党では圧倒的な

    支持を得ていないという見立てが正

    しいのか。オール安倍派体制などと

    いわれる自民党の先行きをよく見守

    りたい。

     

    日本経済新聞政治部編集委員兼論説委員

    大石 

    小こ林ばやし 

    節せつ 慶応大学教授

    6・17︵月︶研究会「憲法96

    条改正問題」/司会:瀬口晴

    義委員/出席:91人/動画

    護憲的改憲派

    自民党を

    一刀両断

    ケント・カルダー

    ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)

    エドウィン・О・ライシャワー東アジア研究所所長

    6・14︵金︶著者と語る﹃新

    大陸主義﹄/司会:杉田弘毅

    委員/通訳:長井鞠子/出

    席:70人/動画/会見詳録

     

    カルダー氏は、かつてエドウィン・

    ライシャワー氏の指導を受けた知日

    派の研究者のひとりで、現在は師の

    名前を冠した研究所の所長を務めて

    いる。クリントン政権時代には駐日

    米国大使の特別補佐官として東京に

    滞在していた。

     

    そのカルダー氏が「30年間の研究

    の集大成」と位置付ける『新大陸主

    義』は、エネルギーをキーワードに

    21世紀の新しい国際秩序を地政学の

    手法で展望した大著だ。

     「今、ユーラシア大陸ほどダイナ

    ミックでパワフルな地域はない」と

    カルダー氏は言う。東西冷戦によっ

    て分断されていたユーラシア大陸は、

    ソビエト連邦の崩壊、中国の近代化、

    インドの経済成長など6つの「重大

    局面」によって、劇的な変化を遂げ

    た。その原動力となったのは豊富な

    エネルギー資源であり、それを可能

    にしたのが地理的な要因だと、

    カルダー氏は指摘する。

     

    ロシア、カザフスタン、イラ

    ン、サウジアラビアなどユーラ

    シア大陸の中心には豊富なエネ

    ルギー資源が集中しており、そ

    の周辺には、中国、インド、日本、韓

    国といった大量消費国が存在してい

    る。冷戦の終えんとエネルギー消費

    国の経済発展に伴って、産出国と消

    費国の間の政治、経済、人的交流は

    かつてないほど活発になった。

     

    パイプラインの敷設や高速道路、高

    圧電線網の整備。中国、ロシア、イン

    ドなどの活発な首脳外交とアメリカ

    の影響力の相対的な低下。ユーラシア

    大陸におけるエネルギーを媒介にし

    た統合と一体化に向けた動きを、筆者

    は「新大陸主義」と呼び「過去一世代で

    最も重要な変化」と位置付けている。

     

    ユーラシア大陸の周縁にある資源

    小国日本は今後、どうユーラシア外

    交を展開していくべきなのか、日米

    同盟と新大陸主義は両立するのか。

    いろいろと疑問がわいてきたところ

    で、残念、時間となってしまった。

    NHK解説主幹 

    出石 

    資源小国日本

    ユーラシアと

    一体化で新時代

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    9 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    鈴すず木き 

    英えい敬けい 三重県知事

    6・20︵木︶記者会見/

    司会:竹田忠委員/出

    席:35人/動画

    甘あま利り 

    明あきら 経済再生担当相

    6・19︵水︶記者会見/

    司会:星浩委員/出席:

    109人/動画

     

    鈴木英敬三重県知事はいくつもの

    顔を持つ。「元通産官僚」で現在38歳

    の「全国最年少知事」。シンクロナイ

    ズドスイミング元日本代表で五輪メ

    ダリストの「武田美保さんの夫」。そ

    して昨年来注目されるのは、長男の

    育児を妻任せにせず、公務の合間に

    育児休暇を取得した「イクメンパパ」

    の顔である。

     

    3月に発足した政府の少子化危機

    突破タスクフォースの委員を務め、地

    方代表、子育て世代代表として積極

    的に発言してきた。この日の会見も

    「地方からの目線、当事者の目線か

    ら見える少子化対策について話した

    い」という言葉で始まった。

     

    安倍内閣が少子化対策で目下、

    重点を置くのは待機児童の解消や

    育休の拡充。鈴木氏はこれを評価

    しながらも「大都会、大企業目線

    だ」と都市部偏重に疑問を呈する。

     

    三重県内でも、共働き夫婦が多

    い都市部の北部地域では保育所整

    備が重要だが、低所得の人が多く未

    婚率が高い南部地域では、結婚支援

    や若者の雇用対策の優先度の方が高

    いからだ。行政がやるべきことか?

    と眉をひそめる向きもあると思う

    が、男女の出会いの場を提供する事

    業が必要な地域もあるのだという。

     

    首相が「3年間抱っこし放題」を提

    唱する育休拡充に関しても、中小企

    業が導入しやすい短期中心の制度を

    検討した方が現実的だと指摘した。

     

    やりたい政策はあっても、充てる

    財源がないのが多くの地方自治体の

    悩み。そこで鈴木氏は、地方が使い

    道を自由に決めることができる「少

    子化危機突破基金」(仮称)の創設を

    訴える。実現のハードルは高いとみ

    られるが、10県知事で結成した「子

    育て同盟」などで働き掛けを強める

    考えのようだ。

     

    少子化対策は得てして「産めよ増

    やせよ」の議論になりがちだ。「子育

    ては大変だが人生を豊かにする」と

    笑顔で語る鈴木流を貫いてほしい。

    共同通信生活報道部長 

    石井 

    達也

     

    アベノミクス3本の矢のうち最も

    影が薄いのが、成長戦略だろう。

     

    第1の矢である金融緩和のインパ

    クトは大きかった。画期的な「新薬」

    か、「毒薬」かの議論はあるが、劇薬

    には違いない。それに比べ第3の矢、

    成長戦略はメニューの種類は豊富で

    も目玉に欠けると感じていた。とり

    まとめ役の甘利氏がどう説明するか

    に関心があった。

     

    医薬品のネット販売、待機児童解

    消、産業基盤強化、英語教育──。

    具体的なメニューの説明は実によど

    みなかった。ただ終始腕組みをして

    身ぶり手ぶりも控えめだったせいか、

    淡々とした印象だった。その甘利氏

    が最も言葉に力を入れたのが、「過

    去の政策とアベノミクスの一番の違

    いは」という問いへの答えだった。

     「デフレへの認識、デフレがどれ

    ほど経済対策の効果を減じているか

    の認識が弱かった。安倍首相は金融

    政策の力をすごく信じていた。結局、

    大胆な金融政策は私が想像した以上

    に力がある。安倍さんの方が正しかっ

    た」。やはり一番の違いは金融緩和

    のパワー。その後押しがあればこそ

    成長戦略も力を持つという。

     

    消費税率を予定通り来年4月に8

    %に引き上げるのかどうか。甘利氏

    は判断の時期を「10月」と明言したう

    えで、政府の経済成長見通しが2・

    5%であることに触れ、「この判断

    の下であれば粛々と引き上げができ

    ると思っている」と語った。

     

    その消費税増税の「環境づくり」の

    面でも成長戦略の役割は大きい。そ

    もそも成長戦略は企業を後押しする

    ための「支援策」。それだけで景気を

    好転させるものではなく、カギは企

    業が行動するかどうかだ。

     

    甘利氏が企業経営者に付けた注文

    は、その通りだと感じた。

     「企業側も決断して前に進む覚悟を

    してもらわないといけない」

    朝日新聞経済部長 

    堀江 

    大企業

    都市部偏重の

    少子化対策に

    懸念

    成長戦略官民連携の覚悟促す

  • 日本記者クラブチャンネルに会見動画� クラブゲス ト

    No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 10

    内ない藤とう 

    正まさ典のり 同志社大学大学院教授

    6・21︵金︶研究会「トルコ情

    勢」/司会:脇祐三委員/出

    席:80人/動画/会見詳録

    マッケンジー・クラグストン

    駐日カナダ大使

    6・21︵金︶昼食会/司会:

    杉田弘毅委員/通訳:澄田

    美都子/出席:78人/動画

     

    中東の中では比較的、政情が

    安定した「親日国」として知られ

    てきたトルコ。エルドアン政権

    に対する抗議デモは、日本でも

    大きく報じられている。ところ

    が、多くの報道は現象論にとど

    まり、この国の本当の悩みまで十分

    に伝わってはこない。一般的な関心は、

    東京とイスタンブールが立候補して

    いる2020年の五輪開催地選びに

    どう影響するか、という点にある。

     

    そんな状況のなか、トルコ理解に

    多彩な視点を提供していただいた。2

    023年に建国100年を迎える「国

    のかたち」も含め、幅広い解説だった。

     

    一連の出来事を読み解くキーワー

    ドは、「ビッグゲーム」である。エル

    ドアン首相の飲酒規制などイスラム

    化政策に反対する世俗主義者がデモ

    行動の中心だとされるが、左翼陣営、

    クルド分離主義者も複雑に絡む。所

    得格差の拡大を不満とする勢力は意

    外に少なく、経済の急成長で既得権

    を失った一部の財閥がデモの仕掛け

    人としてうごめいている。

     

    こうした政治構図とは対照的に、

    欧米メディアには「トルコの春」「内

    戦状態のトルコ」といった報道が目

    立つ。無抵抗で善良な市民が暴力的

    な警察と政府に抵抗している、とい

    う図式だ。CNNの記者は催涙弾な

    ど飛んでいない現場で防毒マスクを

    つけて中継をしていた。欧州連合(E

    U)にトルコを入れたくない国々の

    思いも反映しているようだ。

     「人権侵害がひどかった昔のトルコ

    のイメージで『虚構』を作り上げてい

    るのです」。外国メディアが他国の

    出来事を自分たちの鋳い型がたにはめ、単

    純化している限り、本質を伝えるこ

    とはできない。肝に銘ずべきだろう。

     

    五輪については、欧州議会の中に

    エルドアン政権の非難決議をする動

    きが出ており、国際オリンピック委

    員会(IOC)の欧州委員らの考えに

    影響を及ぼす可能性があるという。

     

    日本、トルコともに〝オウンゴー

    ル〟をした後のゲームの行方はまだ

    見えない。

    元朝日新聞編集委員 

    竹内 

    幸史

     

    この人には「お帰りなさい」という

    言葉がふさわしい。神戸に生まれ、

    テレビで「月光仮面」を見て育ったと

    いうから、心は日本人だ。2度の駐

    日カナダ大使館勤務、大阪総領事、

    駐日大使館公使を経て、昨年12月に

    念願の大使として5度目の日本勤務

    を開始した。

     

    着任後初となる日本記者クラブで

    の昼食会では「第二の故郷に戻れて

    うれしい」と日本語であいさつ。テー

    ブルにはカナダ産のメープルクッキー

    が並び、引き続き行われた名刺交換

    会では米国でも売れているビールが

    提供された。

     

    カナダも加わる環太平洋経済連携

    協定(TPP)の交渉に日本が参加す

    るなど、両国の協力が一層求められ

    るタイミングでの着任は、日加双方

    にとって幸運と言うべきだろう。

     「ダイナミックなアジア・太平洋

    地域にカナダが関与していく上で、

    日本との関係は要かなめ石となる」と強い

    意欲を表明した。東日本大震災で多

    大な被害を受けた東北にはいち早く

    足を運び、カナダが協力する復興行

    事に参加している。

     

    TPPについては、日本にエール

    を送る。カナダが米国との北米自由

    貿易協定(NAFTA)に踏み切る前、

    水資源のコントロールを失い、文化

    面でも米国にのみ込まれるのではな

    いかとの懸念が確かにあったと言う。

    しかし、こうした見方は「完全に誤っ

    ていた」と大使は語る。

     「カナダのワインはまずく、カリフォ

    ルニア産ワインに駆逐されるとみら

    れていたが、高品質のおいしいワイ

    ンに生まれ変わった。国内総生産(G

    DP)は伸び、カナダはより豊かで

    競争力を持つ国に変わった」と、自

    由貿易の効用を説いた。

     「多文化主義」を国是とするカナダ

    は、グローバル人材の育成を急ぐ日

    本にとって学ぶべき国の一つだろう。

    「向こう数年、日加関係ははるかに

    活発になる」と語る大使の手腕に大

    いに期待したい。

    時事通信解説委員 

    明石 

    和康

    5度目の

    日本勤務に

    熱い思い

    「トルコの春」

    報道 

    欧米メディアの

    虚構

  • ク ラブゲスト� フェイスブック、ツイッターでホームページの更新情報をお知らせしています

    11 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    田た中なか 

    浩こう一いち郎ろう

    日本エネルギー経済研究所中東研究センター長

    6・27︵木︶研究会「イラ

    ン」/司会:杉田弘毅委

    員/出席:51人/動画

     

    第16回の記者研修会は、8月28日(水)、

    29日(木)に行う。過去2回と同じよう

    に、今年も東日本大震災と東京電力福

    島第一原発事故を主なテーマとして多

    彩なゲストを招く。新企画として研修

    会の翌30日、参加者から希望者を募り、

    福島に取材団を派遣する。

    福島取材団:原発事故処理と川内村

     

    東京電力福島復興本社と川内村の取

    材が中心になる。復興本社(楢葉町のJ

    ヴィレッジ内)の石崎芳行代表(東電副

    社長)から、原発事故の賠償、除染、廃

    炉問題などへの対応について聞く。

     

    川内村は、昨年1月に帰村宣言し、同

    年4月に役場機能を回復させている。

    村民の健康管理や雇用、除染問題など

    について、猪狩貢・副村長が説明する。

    震災後進出した野菜工場なども訪れる。

     

    訪問先の受け入れの関係から、60人

    に限定して募集する。参加費用はバス

    代、ホテル代などを含み2万円。締め

    切りは7月31日(水)。

    田中俊一・原子力規制委員長会見も

     

    研修会では、昼食会ゲスト(一般会員

    も参加)に、①松浦祥次郎・日本原子力

    研究開発機構理事長(8月28日)と、②

    田中俊一・原子力規制委員会委員長(8

    月29日)を迎える。

     

    6月に就任した松浦理事長は、高速

    増殖原型炉「もんじゅ」の点検漏れ問題

    などで組織の改革が求められている問

    題を中心に考えを述べる。田中委員長

    は、9月に創設2年を迎える原子力規

    制委員会活動の総括や7月から施行さ

    れた新規制基準などについて話す。

     

    福島原発事故関連ではこのほかに、

    ①福島大学「うつくしまふくしま未来

    支援センター」の丹波史紀・准教授(社

    会福祉)や、②日米両政府の事故対応を

    検証した『カウントダウン・メルトダウ

    ン』(本年の大宅壮一ノンフィクション

    賞)の著書・船橋洋一氏も招く。

     

    福島以外の大震災関連では、岩手県

    立釜石高校教諭で俳人の照井翠さんが、

    被災体験をもとにまとめた句集『龍宮』

    (本年の俳句四季大賞)について語る。

     

    パネルディスカッションは、「沖縄報

    道と地元メディア─沖縄の声を伝える」

    をテーマに、沖縄タイムス、琉球新報、

    琉球朝日放送の記者にジャーナリスト

    の外岡秀俊氏が加わり議論する。

     

    上毛新聞で記者経験がある、作家の

    横山秀夫氏からは、「フィクションとノ

    ンフィクションのはざま」と題して話

    を聞く。座学だけではなく、韓国の李イ

    丙ビョン琪ギ新駐日大使(6月着任)を、6月に

    新築された韓国大使館に訪ねる。

     

    研修会には人数制限はない。締め切

    りは8月21日(水)。参加費用は1万2

    千円。申し込み用紙は各社の編集・報

    道局長あてに送ります。

    (企画部長 

    石川 

    洋)

     

    世界の注目を集めた6月14日のイ

    ラン大統領選は、優勢とされた保守

    強硬派の候補ではなく、穏健な路線

    を掲げるロウハニ師が圧勝した。

     

    核兵器開発疑惑を理由に経済制裁

    を科し、武力行使をちらつかせる米

    国に対し、イランは強硬姿勢で対抗

    してきた。原油輸送の大動脈ホルム

    ズ海峡を封鎖すると警告し、米国と

    関係の深いイスラエルを射程に収め

    るミサイルを試射して、報復能力を

    誇示してきた。米欧との対話を訴え

    るロウハニ師の登場で、国内外で緊

    張緩和の期待が高まっているが、こ

    とはそう簡単ではない。

     

    田中氏は、次期大統領が直面する外

    交課題を難易度別に分類した。米欧

    との対話チャンネルの再構築は、イラ

    ンに対する経済制裁を恒常的に強化

    しようとする米国の存在もあり「D」。

    肝心の核交渉進展と経済制裁の緩和

    については、一段と厳しい「G」とした。

     

    理由の1つは、核問題で妥協を嫌

    う国内勢力の存在だ。田中氏は「こ

    れだけ強い保守強硬派をいかにとり

    まとめるのか。誰を交渉担当者にす

    れば国内をまとめることができるの

    か。ここが全く見えない」と話す。

     

    外部要因も複雑だ。ロウハニ師は

    記者会見で、核開発の透明性を高め

    る用意を強調。交渉を通じた経済制

    裁の緩和と、ウラン濃縮の権利の確

    認を目指すとみられるが、イランと

    主要交渉相手の米欧との間では、最

    低限の信頼が欠如する。過去

    の交渉ではお互い、小さな譲

    歩で最大限の利益を得ようと

    して、議論がかみ合ってこな

    かった。

     

    その間にもイランの核開発

    は拡大の一途をたどり、軍事

    攻撃も辞さない米国やイスラエルの

    出方に注目が集まる。田中氏は「兵

    器級プルトニウムを取り出しやすい

    研究用重水炉が来年稼働する。米国

    は、2014年を越えてこの活動が

    続くことは容認できないだろう」と

    懸念した。

    共同通信外信部 

    櫻山 

    イラン大統領選

    圧勝ロウハニ師が

    直面する課題

    記者研修会 

    日程決まる

  • No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 12

     

    日本銀行の黒田東彦総裁の就任後

    初めてとなった4月4日の金融政策

    決定会合後の記者会見は、熱気と高

    揚感に包まれていた。

     

    日銀はこの日、大方の予想をはる

    かに上回る大胆な金

    融緩和を決定し、黒

    田総裁の発言に世界

    中の注目が集まった。

    日銀記者クラブの幹

    事社だった読売新聞

    には、会見開始の午

    後3時30分直前まで、

    「ニューヨーク・タイ

    ムズ」など欧米の主要

    メディアのほか、中国

    やロシアの通信社な

    どからオブザーバー

    参加を求める電話が

    鳴り続けた。日銀9

    階の会見場には世界

    中から130人もの

    報道陣が詰めかけ、

    会見は始まった。

     会見にも「黒田スタイル」

     「2倍で2%を2年で達成する」。

     

    黒田総裁は、3枚のパネルを机の

    上に並べ、身ぶり手

    ぶりを交えて話し出

    した。「量的・質的金

    融緩和」が目指すの

    は、世の中に流し込

    むお金の量(マネタ

    リーベース)を2倍

    に増やし、2%のイ

    ンフレ(物価上昇率)

    目標を2年で実現す

    ることだ。

     

    黒田総裁は、キー

    ワードの「2」を何度

    も強調し、「必要な政

    策はすべて講じた」

    「目標は達成できる」

    と断定調で語った。

     

    前任総裁の白川方

    明氏は丁寧な説明に定評があったが、

    正確さにこだわるあまり、「市場との

    対話」に難あり、との指摘もあった。

    黒田総裁は、いくら日銀が適切な金

    融政策を実行しても、その真意が市

    場に伝わらなければ意味がないとの

    考えからシンプルな説明にこだわった。

     

    この「黒田スタイル」は、市場に好

    感され、株高、円安が進んだ。黒田

    総裁も、1週間後の報道各社のイン

    タビューに、「決定の内容を分かりや

    すく説明したことは狙い通りの効果

    を持った。世界中の市場関係者から

    理解してもらった」と胸を張った。

     

    一方、報じる側のメディアも「分

    かりやすさ」との格闘だった。「マネ

    タリーベース」「輪番オペレーション」

    「銀行券ルール」──。「量的・質的緩

    和」の説明では、聞き慣れない専門

    用語が次々と出てくる。

     

    ただ、安倍政権の経済政策「アベ

    ノミクス」の柱となった金融政策へ

    の国民の関心は高く、一部の経済通

    を対象とした報道は成り立たない。

    報道各社は競うように、言葉の解説

    や仕組みをかみ砕いて説明をした。

    これも、「黒田緩和」を広く浸透させ

    るのに一役買ったはずだ。

     生の声引き出す真剣勝負

     

    世界的に見て、中央銀行の総裁は、

    メディアに登場する機会は少なく、

    米連邦準備制度理事会(FRB)議長

    は、バーナンキ議長以前は記者会見

    すらなかった。

     

    日銀総裁の生の声を聞ける機会も

    さほど多くなく、それだけに記者会

    見は、真剣勝負の場だ。総裁の金融

    政策への考え方、本音を引き出そう

    と、黒田総裁の過去4回の会見時間

    は平均61分に及んだ。

     

    5月22日の記者会見では、黒田総

    裁が質問に対し、「長期金利は完全

    にコントロールできない」と発言。こ

    れをきっかけに、翌日の債券市場で

    長期金利は年0・8%台から一時、

    年1%まで急上昇した。「分かりやす

    さ」を追求してきた黒田総裁が、一

    瞬の発言の怖さに直面した場面で、

    「混乱を招いたとすれば、反省して

    いる」と振り返った。

     

    世界の金融市場は、米国の金融緩

    和縮小の動きを背景に動揺を続ける。

    国内でも秋にかけて消費増税の最終

    判断など景気に大きなインパクトを

    与えるイベントが控える。黒田総裁

    と担当記者の双方にとって、分かり

    やすい金融政策を模索する場面は続

    きそうだ。

    量的・質的金融緩和�

    矢田 俊彦(読売新聞社)

     「分かりやすさ」

      

    日銀もメディアも模索続く

    やだ・としひこ▼1992年入社 

    盛岡

    支局 

    経済部 

    ワシントン支局などを経

    て 

    2012年6月から日銀キャップ

    一線記者の取材リポート� ワーキングプレ ス

    パネルを使って記者会見する日銀の黒田総裁(4 月4日/読売新聞提供)

  • 13 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

     「ありがとう、ありがとう」と、エ

    ベレスト山頂で感謝の言葉を繰り返

    す三浦雄一郎さんの声がカメラの横に

    置いた無線機から流れてくる。濃い

    青空が広がる標高5545㍍の岩場

    で、爽やかな風を浴びているような

    気持ちになった。成功の絶頂にあって

    支援した家族や登山隊員らを最初に

    思いやる、その清々しさに心が動いた。

    カメラ、レンズ、通信機器…

    機材総重量は86㌔

     

    パリ出張準備中に突然舞い込

    んだ三浦さんエベレスト登頂の

    取材。山頂アタック日が近いた

    め翌日(5月11日)には日本を出

    発し、標高5300㍍にあるベー

    スキャンプを目指すという。雪

    山登山やロッククライミングの

    経験はあったが個人的な最高峰

    は富士山。高山病の知識もほと

    んど無かったため、エベレスト

    取材経験のある先輩カメラマン

    の手を借り、夜までに高山病対

    策の薬や登山用具をかき集めた。

     

    撮影機材の準備に取り掛かったの

    は日付が変わるころ。山頂を狙う超

    望遠レンズとカメラはキヤノン、通

    常撮影用はニコンとした。パソコン、

    衛星通信機器など電子機器は予備も

    必要なため総重量は86㌔に。1人で

    運べる限界ギリギリだった。

     

    ネパールに到着した翌日(同13日)

    には機材を運ぶポーター3人、ガイ

    ド1人とエベレスト街道を歩き始め

    た。初日は難なく過ごしたが、標高

    3440㍍地点で迎えた2日目の夜

    に早速、高所の影響が表れた。

     

    7時間歩いて疲れていたはずなの

    に、全く眠れない。平地で98%ほど

    だった血中酸素飽和度が、夜明け前

    には65%と大幅に低下し、強い目まい

    に襲われた。高度順化が不十分なた

    め、普通の呼吸では酸素を十分血液

    中に取り込めず酸欠状態になってい

    た。強く息を吐き、しっかり空気を吸

    うことを繰り返しながら朝を迎えた。

    ニコニコ三浦さんをふらふら撮影

     

    高所で酸素が薄いといっても水中

    で感じるような息苦しさはない。目

    まいや頭痛、倦怠感など軽い高山病

    の症状が続いた。素早く動くとすぐ

    に息が上がり、手足がピリピリとし

    びれ始める。人生でこれほどゆっく

    り歩いたことがない、というほどの

    ペースで少しずつ前に進むのがやっ

    とだった。同じ道を地元の子どもた

    ちは楽しそうに駆けていった。

     

    登頂の瞬間(同23日)は、エベレス

    ト街道のハイライト、カラパタール

    の丘で1万㍉相当の望遠レンズを使

    い撮影した。順化の時間を含めると、

    たどり着くのに通常徒歩で8日かか

    るが、各国の登山者がエベレストを

    バックに記念撮影していくにぎやか

    な場所だった。知り合った人の多く

    が、三浦さんのことをエベレスト滑

    降のスキーヤーと知っており、祝福

    の声を掛けてくれた。

     

    氷河上にテントが並ぶ、岩と砂と

    氷ばかりのキャンプ地に着くころに

    は、ポーターたちの歩くペースも落

    ちた。テント生活を手伝うはずのキッ

    チンボーイは高山病のため山を下り

    ていた。

     

    登頂成功の3日後、三浦さんがベー

    スキャンプに下山した時には、動か

    ない体にむち打って気合で撮影をし

    た。80歳で8848㍍の山頂を極め

    た三浦さんは、ニコニコしながらひ

    と言「空気が濃いねえ」。ふらふら

    の私は苦笑いするしかなかった。

    三浦雄一郎さんエベレスト登頂�

    伊藤 智昭(共同通信社)

     

    高山病との闘い

      

    カメラマン駆け込み取材記

    いとう・ともあき▼1997年入社 

    阪 

    仙台支社などを経て 

    2012年か

    ら本社写真部

    ワ ーキングプレス� 一線記者の取材リポート

    カラパタールの丘からエベレスト(左上の黒い山)山頂を狙う2 倍テレコンを4 枚取り付けた超望遠レンズ 富士山頂を麓から捉えるのに等しいという(5月22日/ネパール)

    エベレスト山頂に立つ三浦雄一郎さん(中央)=5月23日午前9時3分撮影(いずれも共同通信社提供)

  • No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 14

     

    5月20日、横浜市は4月1日時点

    で認可保育所に入れない待機児童が

    ゼロになったと発表した。全国最多

    の状況を3年間で解消した取り組み

    は注目を浴び、マスメディアでも大

    きく取り上げられた。

     「本当に待機児童ゼロって発表した

    んですか」。娘が入所待ちだという20

    代の女性は、記者の取材に対し、逆に

    問い返してきた。女性は自宅近くの

    保育所にしか申し込んでいなかった。

     

    厚労省の基準では、保護者が特定

    の保育所にしか申し込まなかった場

    合、入所できなくても待機児童には

    数えない。女性は「入所待ちである

    ことには変わらない。役所の都合で

    は」と不満を口にしていた。

     「待機児童ゼロ」への疑念は、この

    女性に限ったことではない。子育て

    支援のNPO法人「シャーロックホー

    ムズ」(横浜)の調査で、「単なる数合

    わせでは」と回答した保護者は380

    人中130人に上った。

     

    待機児童の捉え方は、あくまで行

    政側の線引き。どこまでを待機児童

    と捉えるかは明確な基準があるわけ

    ではなく、自治体によっても解釈が

    異なる。「待機児童ゼロ」は統計上の

    数字であって、必ずしも、すべての保

    護者の希望がかなったわけではない。

     

    横浜市は、希望通りの認可保育所

    に入れなかった人でも、①特定の保

    育所だけしか申し込んでいない②市

    独自の基準を満たす認可外保育所

    「横浜保育室」や一時保育などを利

    用している③預け先がなく保護者が

    育休を延長した④保護者が自宅で求

    職中──といった場合、待機児童に

    はカウントしていない。しかも、横

    浜市はこの3年間のうちに、2度も

    基準を見直し、待機児童に数えない

    範囲を広げた。待機児童ゼロ達成の

    裏で、数字に表れない潜在的な待機

    児童は1746人に上る。

    ■数合わせの「ゼロ」でも

     

    インパクト大きく

     

    ただ、たとえ数合わせの「ゼロ」だ

    としても、「横浜市の待機児童ゼロ達

    成」がもたらした影響は無視できな

    い。横浜市は、林文子市長のトップ

    ダウンで、予算を重点配分。企業参

    入の促進や保護者のニーズに応じて

    受け入れ先を探す専門相談員「保育

    コンシェルジュ」の設置などにより、

    短期間で待機児童を減らした。

     

    安倍晋三首相は4月の成長戦略の

    演説で、横浜市の成果を取り上げ、

    「横浜方式」によって2017年度ま

    でに全国の待機児童をゼロにすると

    表明した。待機児童対策が全国的な

    動きに広がったのも、「ゼロ」のイン

    パクトに負うところは大きい。待機

    児童を受け入れる「量」の確保は進ん

    だ。これからは保育の「質」の確保だ。

     

    認可保育所の急増に伴い、既に横

    浜市では保育士不足が顕在化しつつ

    ある。市によると、68園が増えた本

    年度は新たに約600人の保育士が

    必要となった。昨秋以降、保育所側

    から保育士不足を訴える声が例年以

    上に寄せられたという。市は就職情

    報誌で就労支援講座への参加を募っ

    たり、県外の養成校を回ったりして

    保育士確保に懸命だ。今後、各自治

    体で待機児童対策が進めば、保育士

    の争奪も一層激しくなる。横浜市保

    育運営担当課の本間睦課長は、「限ら

    れたパイを奪い合うことになり、横

    浜への影響も少なくない」と語る。

     

    横浜市が積極的に誘致した企業経

    営の保育所については、経営難によ

    る撤退の懸念から慎重な自治体も多

    い。真価が問われるのはこれからだ。

     

    待機児童対策は、保育の「量」と

    「質」の両立が求められている。まだ

    横浜方式を評価するには早過ぎる。

    待機児童ゼロ発表

    評価にはまだ早い�保育の「量」と

    「質」の両立を中澤 誠

    (東京新聞横浜支局)

    横浜市の認可保育所「アメリカ山徳育こども園」(5月20日/東京新聞提供)

    なかざわ・まこと▼1999年入社 

    京本社社会部などを経て 

    2011年

    3月から横浜支局

    地元密着の視点から� 横浜 発

    一口メモ NPO法人「シャーロックホームズ」が4月、横浜市内の子育て中の母親を対象に調査。380人から回答があり、147人が直近の1年間に保育所を探していた。保育所探しをしていた人のうち、認可保育所に入所できた人が57人(38.8%)。次いで、横浜保育室に入所した人が28人(19.0%)だった。何らかの預け先が決まった人が約70%を占めた一方で、預け先が見つからず保育所探しを諦めた人は17人

    (11.6%)に上った。

  • 15 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

     

    目の前には、一面のシロツメクサが

    広がる。初めて訪れた人は草原だっ

    たと錯覚するだろうが、そこは商店

    街、市役所、ショッピングセンター

    があった陸前高田市の中心部だ。東

    日本大震災で甚大な被害に遭い、被

    災建物が解体・撤去され更地が広が

    る。県によると5月31日現在、市内

    の死者1597人(震災関連死を含

    む)、行方不明者217人は県内最

    多となる。

     

    この陸前高田市で関心を集めるの

    が「奇跡の一本松」。市が震災遺構と

    して保存を決め、6月初めに復元作

    業を終えた。土日には観光客が訪れ

    る。保存費用に充てる募金は多くの

    善意で、当初目標とした1億5千万

    円を突破。戸羽太市長は「復興まで

    は時間がかかるが、一本松が皆さん

    の心の支えになる」と説明する。

    一本松の復元「復興の象徴」ではない

     「奇跡の一本松」は「陸前高田」の名

    と共に全国的に知られることとなっ

    たが、「希望の象徴」であって「復興

    の象徴」ではない。市内では約540

    0人が仮設住宅で避難生活を続ける。

    多額の保存費用に賛否はある。それ

    は住民の関心が、住宅再建の見通し

    や今後のまちづくりに集中している

    からだ。

     

    中でも市役所再建への関心は高い。

    市は被災市街地復興土地区画整理事

    業(区画整理)を導入し高台移転と被

    災した市街地をかさ上げし、まちを

    再生する計画。被災庁舎は最上階ま

    で津波が襲い、行政機能も失われ、職

    員111人が犠牲になった。市民か

    らは悲劇を繰り返さないため「安全

    の確保」を望む声が上がり、かさ上

    げ地か高台かで議論が分かれた。

     

    市は6月26日、市民に実施したア

    ンケート結果などを受け「市役所位

    置は震災の浸水区域外の高台を基本

    とする」と結論を出した。

     

    市役所再建場所の方向性がやっと

    決まったように、300㌶を超える

    区画整理は今秋の事業認可でようや

    くスタートラインに立つ。市街地の

    姿はまだ想像できない。既存の制度

    やルールが障害となり、被災者が求

    めるスピードとはかけ離れている。

     

    区画整理を進めるには2千人以上

    の地権者の承諾が必要で、時間と人

    手が掛かり市は国へ一時的な借地権

    設定を要望している。事業を進める

    ごとに被災地に合わない法制度や煩

    雑な手続きが阻み、いまだに中央集

    権から抜け出せない「霞が関」の体質

    を浮き彫りにする。

    支局の再建も模索続く

     

    被災した岩手日報社陸前高田支局

    舎の再建も用地不足の中で模索が続

    く。現在、取材活動の拠点は、同じ

    く被災した大船渡支局と合同で、隣

    の大船渡市内の施設の2階を借りて

    いる。陸前高田市までは車で片道30

    分かかる。

     

    こういった中で取材活動を続け、2

    年が過ぎた。岩手日報社は震災1年

    から犠牲者の生きた証を後世に残す

    ための企画「忘れない」を続ける。顔

    写真と生前の人となりを紹介し、す

    でに3252人を掲載した。

     

    6月、仮設住宅の男性を訪れた。

    母が行方不明の男性は「まだ死亡届

    を出していない。月日がたっても何

    も変わっていない。諦めたくない」

    と語った。男性にとって母は犠牲者

    ではなかった。「触れないでほしい」

    「ようやく話せるようになった」「亡く

    なった人のために頑張らなければ」。

    それぞれの置かれた状況や立場で、

    生活再建の進度が異なる。ひとくく

    りにはできない被災地の現状、被災

    者の思いを丁寧に取材し発信するこ

    とが私たちの役割だ。

    さいとう・たけし▼2004年入社 

    11

    年5月から陸前高田支局長

    被災地通信⓮ 岩手県陸前高田市

    復興のスピード遅く阻む既存の制度斎藤 孟(岩手日報陸前高田支局長)

    被 災地はいま� 東日本大震災から2年が過ぎて

    被災した陸前高田市街地の現在の様子(筆者提供)

  • No.521 2013.7.10 日本記者クラブ会報⃝ 16

    書いた話 書かなかった 話

     

    2012年10月、リニューアルオー

    プンしたJR東京駅が日々賑わってい

    る。国の重要文化財に指定され、1

    914年の創建時の姿に復元された

    赤レンガの丸の内駅舎は、太平洋戦

    争を挟んで戦前から戦後日本の復興

    の歩みを百年にわたって見守ってきた。

     〝生きた重要文化財〟駅舎の再生を

    見届けるように、私たち交通ペンクラ

    ブ(以下ペンクラブ)は翌11月、新装なっ

    た東京ステーションホテルで「JR25

    周年と交通ペンクラブ30周年を祝う会」

    を開催、ひとまず活動の幕を閉じた。

    取材基地ではなかったが、種々の発信

    をし研さんと懇親を重ねながら〝新生

    JR〟の四半世紀を見守ってきたペン

    クラブの30年の軌跡を振り返る。

     ◆クラブ設立、会報の発行

     

    ペンクラブは丸の内北口の旧国鉄

    本社ビル(現丸の内ОAZО)にあっ

    た「国鉄ときわクラブ」などを母体と

    し、運輸省記者クラブの「交通政策

    研究会」、東京航空記者会(羽田記者

    クラブ)のOBらを中心に、81年6

    月19日誕生した。「21世紀の日本の交

    通体系のビジョンを求め、これを交

    通行政に反映させるとともに、会員

    相互の親睦を図る」とその目的をう

    たっている。

     

    設立総会は港区の青山メトロ会館

    で開かれ、会員41人、来賓36人が出

    席。初代代表幹事に「ときわクラブ」

    の大先輩で朝日新聞OBの牧田茂氏

    (02年没)が就任した。来賓には元運

    輸大臣・木村睦男、元国鉄総裁・磯

    崎叡、元日本交通公社副会長・兼松

    学の各氏らそうそうたる顔ぶれが並

    び、日本観光協会会長・荒木茂久二

    氏(元営団地下鉄総裁)が祝辞、国鉄

    副総裁・馬渡一真氏の音頭で乾杯を

    して和やかに〝出発進行〟した(いず

    れも故人)。

     

    ご多分に漏れずメンバーは呑兵衛

    がそろっていたが、当時は国鉄の積

    年の赤字経営が行き詰まり「民営」「分

    割」などの改革が待ったなしの正念

    場だった。そこで「酒ばかり飲んで

    いるわけにはいかないぞ」と日本交

    通協会の協力で、毎月カレーライス

    とコーヒーの例会(講演会)や見学会

    などの勉強会を開催し、年数回の会

    報『交通ペン』を発行して多彩な発信

    を続けてきた。

     

    創刊号は82年1月22日発行。牧田

    代表幹事が「今年もまた値上げだそ

    うである(中略)これでは国民の国鉄

    離れが進むばかり」と、巻頭で運賃

    値上げに苦言を呈した。同5月15日

    付の第2号では会員で経済評論家の

    小暮光三氏(元産経新聞編集局長、

    05年没)が「民営・分割に3つの疑問」

    を投げかけ、輸送体系による機能分

    割や労使関係の正常化とスト権問題

    との絡みなどを指摘した。

    ◆改革派VS守旧派の権力闘争

     

    第10号は84年6月14日付で、産経

    新聞OBの勢種彦・事務局長(07年

    没)が、ペンクラブの4年間の歩みを

    振り返りながら「国鉄再建を見守って

    いこう」と提言した。同9月28日付

    の第11号の国鉄新総裁インタビュー

    では、高木文雄氏(元大蔵事務次官、

    故人)から代わった仁杉巌氏が「期待

    に応えて頑張ります」と決意を語っ

    たが、翌85年6月、総裁、副総裁以

    下役員の半数が辞任(更迭)した。

     

    この間の1~2年は「カラスの鳴

    かぬ日はあっても、国鉄の悪口が新

    国鉄改革と新生JRを見守った

    交通ペンクラブの30年 

    鈴木 隆敏

    すずき・たかとし1939年東京生まれ 62年産経新聞入社 社会部一筋に20年 警視庁記者時代に連続企業爆破事件などを担当 その後 東京・大阪本社販売局長 常務取締役販売担当として 日本新聞協会あげての著作物再販制度の維持・存続に取り組んだ 著書に『国鉄再建への道』『新聞人・福澤諭吉に学ぶ─現代に生きる「時事新報」』など

  • 17 ⃝日本記者クラブ会報 2013.7.10 No.521

    書 いた話 書かなかった話

    聞に載らない日はない」と言われ、国

    鉄の民営─分割─解体が改革の主流

    となっていった。詳細は歴史の暗部

    に埋もれている部分が少なくないが、

    せんじ詰めれば「改革派」VS「守旧

    派」(国体護持派)の権力闘争だった。

     

    それも国鉄経営陣と再建監理委員

    会・運輸省、国鉄経営陣自身の内部、

    また国鉄と国労、国労と動労の労使・

    労労間などで、時には自民党や社会

    党の有力者も巻き込んで様々な対立

    や抗争が繰り広げられた。

     

    これらのことはすでに草野厚氏(現

    慶應義塾大学名誉教授)『国鉄改革─

    政策決定ゲームの主役たち』(中公新

    書)や、改革3人組の葛西敬之氏(現

    JR東海会長)『未完の「国鉄改革」─

    巨大組織の崩壊と再生』(東洋経済新

    報社)、松田昌士氏(現JR東日本顧

    問)『なせばなる民営化JR東日本─

    自主自立の経営15年の軌跡』(生産性

    出版)などが、それぞれの立場で詳述

    しているので委ねる。

     

    とまれ85年6月、国鉄は杉浦喬也

    総裁─橋元雅司副総裁(いずれも故

    人)以下の新体制となり〝改革3人組〟

    といわれた井手正敬氏(のちJR西

    日本会長)をはじめ松田、葛西3氏

    を中心とする改革派が主導権を握っ

    て宿願の国鉄改革にまい進した。同

    7月、国鉄再建監理委員会が「分割・

    民営化」の最終答申提出─翌86年1

    月、国鉄当局と動労、鉄労、全施労

    が「労使共同宣言」を締結。11月、国

    鉄分割・民営化8法案が成立して、

    87年4月のJR7社と国鉄清算事業

    団の発足により国鉄は解体された。

     

    国鉄最後の日の3月31日からJR

    に移行した4月1日は、当時の全ての

    国鉄マンにとっ�