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20129月、第11-3In this issue 特集: 米国・ EU 米国・ EUの相互承認に関する合意:セキュリティー認定事業者によるメリット享受に必要な対応とは ............2 グローバル イラン脅威削減法及びシリア人権法2012 :イラン関連の活動を行う国外関連会社への影響について........3 米州 ブラジル ブラジル輸出企業のための優遇措置「REINTEGRA..........................................................5 コロンビア 米国とコロンビアの自由貿易協定:繊維サプライヤーが直面する新たな規制と ビジネスチャンス .........................................................................................................................6 コロンビア自由貿易協定に関する考察:直送要件に例外規定が適用されるのか ..................................7 新たな免税品目リストに基づき関税表の一部が改定に.....................................................................9 メルコスール経済補完協定第55号(ECA No.55): アルゼンチンが特恵関税措置を一時停止、 メキシコ自動車製品輸出者に影響............................................................................................... 10 メルコスール: ベネズエラを正規加盟国として受け入れ...................................................................... 11 ペルー ターンキー契約に基づくエンジニアリング料金の関税上の取扱いに関する 関税当局の見解が明らかに ........................................................................................................ 12 米国 新規ルーリングに示された関連者間の販売及びファーストセール取引に対する 精査強化の動き ........................................................................................................................ 14 アジア太平洋 オーストラリア 関税コンプライアンス最新事情.............................................................................. 16 関税免除制度への商業的視野の導入を豪州連邦裁判所が否定..................................................... 17 自由貿易協定の動向.................................................................................................................. 18 中国 製薬及び医療機器産業が直面する関税上の課題 ................................................................... 19 インド 拡大するインドの自由貿易協定ネットワークがもたらす課題と機会 ........................................ 20 日本 貨物情報に関する新たな制度: 出港前報告制度 ..................................................................... 21 通関時の通関関連書類提出に係る要件が緩和 ............................................................................. 23 米国産特定ベアリングに対する報復関税措置を延長..................................................................... 24 ニュージーランド ロイヤルティ支払い等による輸入貨物の価格への加算が必要な輸入者が 税関のターゲットに.................................................................................................................... 25 欧州、中東、インド、アフリカ 欧州連合 構成部分の関税分類に関する欧州裁判所の判決とテクノロジー業界の課題 ...................... 26 関税分類に関する最近のECJ判決により製薬業界が受ける恩恵 .................................................... 28 ノルウェー NOx排出税負担と石油会社への影響 ........................................................................... 30 トルコ 税関近代化-トルコの単一窓口制度のメリット ..................................................................... 32 ウクライナ ウクライナが独立国家共同体加盟国との自由貿易協定を批准 ....................................... 33 東アフリカ共同体 東アフリカ共同体における認定事業者制度の進展............................................... 35 TradeWatch このTradeWatchは、アーンスト・アンド・ヤングCIT グループにより発行された"TradeWatch September 2012 Volume 11, Issue 3"を、平素より業務上お世話になっております皆様向けに邦訳した仮訳であり、 原本はあくまで英語版となります(http://www.eytax.jp/services/indirect-tax/issues/)。ご不明な点が ある場合には、英語版を参照頂けますようお願いいたします。

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2012年9月、第11-3号

In this issue特集: 米国・EU米国・EUの相互承認に関する合意:セキュリティー認定事業者によるメリット享受に必要な対応とは ............2

グローバルイラン脅威削減法及びシリア人権法2012:イラン関連の活動を行う国外関連会社への影響について ........3

米州ブラジル ー ブラジル輸出企業のための優遇措置「REINTEGRA」 ..........................................................5コロンビア ー 米国とコロンビアの自由貿易協定:繊維サプライヤーが直面する新たな規制と ビジネスチャンス .........................................................................................................................6

コロンビア自由貿易協定に関する考察:直送要件に例外規定が適用されるのか ..................................7 新たな免税品目リストに基づき関税表の一部が改定に .....................................................................9メルコスール経済補完協定第55号(ECA No.55): アルゼンチンが特恵関税措置を一時停止、 メキシコ自動車製品輸出者に影響 ............................................................................................... 10

メルコスール: ベネズエラを正規加盟国として受け入れ ...................................................................... 11ペルー ー ターンキー契約に基づくエンジニアリング料金の関税上の取扱いに関する 関税当局の見解が明らかに ........................................................................................................ 12

米国 ー 新規ルーリングに示された関連者間の販売及びファーストセール取引に対する 精査強化の動き ........................................................................................................................ 14

アジア太平洋オーストラリア ー 関税コンプライアンス最新事情.............................................................................. 16 関税免除制度への商業的視野の導入を豪州連邦裁判所が否定 ..................................................... 17 自由貿易協定の動向 .................................................................................................................. 18中国 ー 製薬及び医療機器産業が直面する関税上の課題 ................................................................... 19インド ー 拡大するインドの自由貿易協定ネットワークがもたらす課題と機会 ........................................ 20日本 ー 貨物情報に関する新たな制度: 出港前報告制度 ..................................................................... 21 通関時の通関関連書類提出に係る要件が緩和 ............................................................................. 23 米国産特定ベアリングに対する報復関税措置を延長..................................................................... 24ニュージーランド ー ロイヤルティ支払い等による輸入貨物の価格への加算が必要な輸入者が 税関のターゲットに .................................................................................................................... 25

欧州、中東、インド、アフリカ欧州連合 ー 構成部分の関税分類に関する欧州裁判所の判決とテクノロジー業界の課題 ...................... 26 関税分類に関する最近のECJ判決により製薬業界が受ける恩恵 .................................................... 28ノルウェー ー NOx排出税負担と石油会社への影響 ........................................................................... 30トルコ ー 税関近代化-トルコの単一窓口制度のメリット ..................................................................... 32ウクライナ ー ウクライナが独立国家共同体加盟国との自由貿易協定を批准 ....................................... 33東アフリカ共同体 ー 東アフリカ共同体における認定事業者制度の進展 ............................................... 35

TradeWatch

※ このTradeWatchは、アーンスト・アンド・ヤングCITグループにより発行された"TradeWatch September 2012 Volume 11, Issue 3"を、平素より業務上お世話になっております皆様向けに邦訳した仮訳であり、原本はあくまで英語版となります(http://www.eytax.jp/services/indirect-tax/issues/)。ご不明な点がある場合には、英語版を参照頂けますようお願いいたします。

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2 TradeWatch September 2012

米国・EUの相互承認に関する合意: セキュリティー認定事業者による メリット享受に必要な対応とはTradeWatch 2012年6月号でお知らせしたように、 米国税関国境警備局(CBP: Customs and Border Protection)と欧州委員会の税制・関税同盟総局は、米・EU税関協力合同委員会(JCCC: Joint Customs Cooperation Committee)の相互承認に関する決議に署名しました。本決議により、双方の認定事業者プログラム、 すなわち米国のテロ行為防止のための税関産業界 提携プログラム(C-TPAT: Customs-Trade Partnership Against Terrorism)とEU認定事業者(AEO)プログラムの適合性が正式に認められたことになります。相互承認により享受できるメリットとして、コストの削減や手続きの簡素化、さらにはクロスボーダー取引における予見性の向上が期待されています。

本制度適用の第一段階では、輸入者の評価に際し、まずCBPが米国に貨物を輸出するEUのAEO認定を受けた欧州企業をローリスク扱いとし、その後の第二段階では、EUに貨物を輸出する米国のC-TPAT認定企業も同様な扱いを享受できるようになります。

JCCCは、本制度の実施時期につき、2013年初頭になると述べています。しかし、実際の適用開始時期は、C-TPATプログラムの適用対象を米国からの輸出へ拡大する作業、およびEU側でのC-TPAT認定企業に関する情報や データの交換を簡便化するITシステムの整備の進捗状況に大きく左右されると考えられます。

EUの対米輸出者が対応すべきことEUの認定事業者がセキュリティープログラムにおけるメ リットを享受するためには、EU・米国間の相互承認制度を導入するための一定の手続きを行う必要があります。EUと米国は、セーフティー及びセキュリティーに関する認定を受けている事業者(AEOSまたはAEOF)につき、関連 データを自動的に交換する仕組みを設けることで合意しています。CBPは、特典の付与の決定に関して製造業者 コード(MID: Manufacture Identification Code)に紐 付けられた情報のみを考慮するため、EUの事業者登録・識別(EORI: Economic Operators Registration and Identification)番号を、MIDに紐付けるための「マッチング」が必要となります。

このため、CBPは、同局のC-TPATウェブポータル内に、EUの認定事業者がEORI番号を登録し自社のMID番号と紐付けることができるウェブアプリケーションを設置しています。 https://mrctpat.cbp.dhs.gov 。関連する認定事業 者データとその検証が完了した時点で、申請は有効となります。

先にも述べたとおり、相互承認の特典はAEOSまたはAEOFのみに付与されるため、セーフティー及びセキュリティーに関する認定を受けていない認定事業者にとっては、自社のAEOステータスをアップグレードする新たな動機付けになると考えられます。

米国の対EU輸出者が対応すべきことC-TPATの適用対象が今後米国からの輸出にも拡大されることに伴い、C-TPAT認定企業にも対応が求められます。正式なガイドラインは現在CBPにて策定中ですが、EUの認定事業者プログラムにおける輸出貨物に関するセーフティー及びセキュリティー条件を参考に、準備を開始することをご検討ください。

特集: 米国・EU

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3 TradeWatch September 2012

2012年8月10日、バラク・オバマ大統領は、イラン脅威削減及びシリア人権法2012(Iran Threat Reduction and Syria Human Rights Act of 2012: 2012年イラン法)に署名しました。これまでは、米国企業の海外子会社がイランで行う活動の多くは、米国人が当該活動の便宜を図っていない限りにおいて、米国の司法管轄外であるとされていました。しかし、同法の成立により、海外の関連会社が行ったイラン関連取引につき、米国企業に罰則を適用できるようになるため、米国政府の権限は大幅に強化されることになります。同法はさらに、特定のイラン関連取引を行う米国証券取引委員会(SEC)登録企業またはその関連会社に対し、SECが定める情報開示を義務化しています。

対イラン措置として、IEEPA法及び 罰則を国外関連会社にも適用を拡大2012年イラン法の第218条は、「米国人」の定義を米国企業の国外関連会社にまで拡張することにより、米国企業の国外関連会社が行ったイラン関係取引が国際緊急 事態経済権限法(IEEPA: International Emergency Economic Powers Act)に基づく法令や規則に違反する場合、その米国企業に民事罰を課すことが可能になりました。ある外国企業の決議権、価値あるいは役員数の50%超を米国企業が保有している、あるいは、ある外国企業の活動、方針または人事面での決定権を米国企業が有してその外国企業を支配しているのであれば、その外国企業は米国企業の国外関連会社となります。第218条は自動成立する条項ではないため、オバマ大統領は、2012年10月9日までに本条項を施行する大統領令または規則を発令する必要があります。大統領の次の行動によって、第218条の発効予定日が明確化されると考えられます。

SEC登録企業またはその関連会社による特定の取引についてSEC情報開示が 必須に2012年イラン法の第219条は、2013年2月6日以降に、SEC登録企業またはその関連会社が、イラン関連の取引であると知りながら行った一定の取引について情報の開示を義務付ける内容となっています。ここで言う「関連会社」の定義は、米国の企業に限定されるものではありません。SEC登録企業と直接的に、あるいは1つまたは複数の仲介者を経由して間接的に、支配または被支配の関係にある、あるいは共同の統制下に置かれているすべての者が「関連会社」であると定義されているからです。開示義務が課せられている取引の種類には、すべてのイラン関連取引ではないものの、特に重大、悪質または回避可能な取引として区分されるものが含まれています。金融機関による取引をターゲットとした取引も挙げられていますが、商品の輸出者に関連した取引としては、以下が挙げられるでしょう。

• イランの石油資源開発能力の強化に直接的かつ著しく貢献する、過去12カ月以内に実施された2千万米ドル以上の投資

• 不安定化の要因となり得る数及び種類の高性能通常兵器をイランが取得または開発することに対し、著しい貢献になると知りながら実施した、製品、サービスまたは技術の対イラン輸出あるいは移転

• イラン政府に属する事業体及び人物の範囲を定義する大統領令第13224号、13382号あるいは連邦規則31巻§560.304で特定される事業体または人物との取引

イラン脅威削減法及びシリア人権法2012: イラン関連の活動を行う国外 関連会社への影響について

グローバル

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4 TradeWatch September 2012

これら取引の情報が開示されると、大統領には、当該SEC登録企業またはその関連会社に対し制裁の発動の要否について捜査を開始することが求められます。

今後米国企業は、その傘下に合法的ではあるが非認可の対イラン取引を行っている関連会社が存在する場合、罰則の適用や、場合によってはSEC情報開示を回避するための対策が必要となるでしょう。米国人の対イラン行動の検知及び防止を一義的目的として設計されていた米国の輸出管理や制裁プログラムを、今後は、国外関連会社にも適用する必要があります。

例えば、現地における取引スクリーニングの導入や従業員研修等、対策の強化が必要になるでしょう。一方、国外関連会社の売却は最後の手段ではありますが、2013年2月6日より前に国外関連会社を売却することにより、罰則及び開示要件を回避することが可能です。

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5 TradeWatch September 2012

ブラジルブラジル輸出企業のための優遇措置「REINTEGRA」2011年8月以降、ブラジルは、「より大きなブラジル計画」(Plano Brasil MajorまたはPlan Bigger Brazil)の下、様々な経済・租税優遇措置を実施してきました。Trade Watch 2012年6月号では、そのうちの主要な政策である貿易保護策についてお話ししましたが、今号では、「より大きなブラジル計画」の中で、同国の輸出者に恩恵を与えるべく考案された税優遇制度を取り上げます。

REINTEGRA(Regime Especial de Reintegração de Valores Tributários para as Empresas Exportadoras)は、工業製品輸出者のための特別税還付制度として、2011年暫定措置令540号により導入されました。本制度は、サプライチェーンに残存する税額(すなわち、サプライチェーン全体で未相殺として残っている税額)の再統合をその主な目的として策定されています。

今回の措置の背景には、製品の輸出取引が、連邦及び 州の付加価値税、すなわち工業製品税(IPI)及び商品流通サービス税(ICMS)や、総売上に係る社会統合基金(PIS)及び社会保険融資負担金(COFINS)等、通常の売買取引に賦課される税金の対象外となっているにもかかわらず、その製造に使用される原材料の仕入れには、上記の課税が発生するという状況があります。その多くは還付可能であるものの、かかる取引で生じる控除額の累積及びキャッシュフローのコストは控除制度では相殺できず、輸出者側に残存コストを生み出します。

今回のREINTEGRA制度の導入により、輸出者には、そのサプライチェーンに残存する還付されるべきコストの一部もしくは全額の払戻しを受ける可能性がもたらされます。還付金額は製品の輸出により稼得される総所得の3%とされ、還付は以下の形で行われます:

• 税債務及び納税支払に充当

• 税務当局の定める条件の下、現金で払戻し

ただし、輸入原材料のコストが輸出価格の40%(製品に よっては最大65%)を超える製品は、残存コスト算定の対象外となるので注意が必要です。なお、メルコスール(南米南部共同市場)貿易圏から輸入された物品は、本制度においてブラジル原産とみなされます。

一方、本制度の利用には一定の制限もかけられています。本制度は2011年法令7633号に記載された品目にのみ適用されること、また、ブラジルへ輸入された後、一切の製造工程を経ずに再輸出される製品には適用されないことに留意すべきでしょう。

なお、REINTEGRA制度の実施は、ブラジル政府が延長を行わない場合、2012年12月31日までとなっています。同制度の恩恵をまだ受けていない輸出者は、すぐにでも活用すべきでしょう。

米州

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6 TradeWatch September 2012

コロンビア米国とコロンビアの自由貿易協定: 繊維サプライヤーが直面する新たな規制とビジネスチャンス 米国とコロンビアの自由貿易協定(US-CO FTA)に基づく 米国への特恵アクセスは、その原産地規則が新たに厳格化され、コロンビアの繊維・アパレル業界は対応に追われています。より柔軟な原産地規則を定めたアンデス 諸国関税優遇及び麻薬撲滅法(ATPDEA: The Andean Trade Promotion and Drug Eradication Act)はもはやコロンビアには適用されないため、結果として、これまで米国への特恵アクセスを享受してきた一定の品目に対し、今後は高い関税が課される可能性があります。

例えば、US-CO FTAの原産地規則では、適格完成品における米国あるいはコロンビア以外を原産とする生地、糸、繊維の使用量が制限されています。一般に、ATPDEAの原産地規則では、一カ国あるいはそれ以上のATPDEA対象国から調達した材料の使用が認められており、これと比較すると、US-CO FTAに基づく材料調達はその選択肢が大幅に狭められています。さらに、必要な材料を米国またはコロンビア国内で調達できない、あるいは供給が不足するといった状況も考えられます。

このような問題に対処すべく、US–CO FTAでは、「供給不足品目リスト(Short Supply List)」(付属書3-Bに記載)が定められています。この中で米国は、一定の生地、糸、繊維を、米国あるいはコロンビアで商業的量が確保できないものとして、その使用量の制限の有無と共に指定しています。これらの指定品については、原産地比率を算出する際にカウントされず、第三国から調達し、繊維・アパレル製品に用いることが可能です。

供給不足品目リストは米商務省国際貿易部・ 繊維衣料品局(OTEXA)によって管理されていますが、同リストへの品目追加についてOTEXAに要請するための正式な手続きについては、未だ公表されていません。当該手続に係る規定については、年内の適用が見込まれていますが、中米5カ国・ドミニカ共和国との自由貿易協定(CAFTA-DR)等米国が締結する他のFTAで供給不足品目リストを含むものの規定と同様のモデルとなる見通しです。したがって、現時点で購入者及びサプライヤーは、米国が締結する他のFTAで定められている既存の供給不足品目規定を参考に、情報及び資料の収集を開始することができると考えられます。

各業界による同リスト策定への参加は、US-CO FTAの原産 地規則の厳格化による負の影響を軽減する一助となるでしょう。コロンビアの商工観光省がOTEXAに対し、供給不足品目リストの中に、米国関税率表(HTS: Harmonized Tariff Schedule)のうち、最低でも6つの 「号」(5208 43、5510 11、5107 10、5107 20、5108 20及び5510 30)を含むよう正式に要請する準備を進めていることは注目すべき展開です。一方で企業側から、一定の材料を同リストから削除するよう要請することも可能です。繊維・アパレル製品の購入者及びサプライヤーは、積極的に今後の動向を注視すべきでしょう。

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コロンビア自由貿易協定に関する考察: 直送要件に 例外規定が適用されるのかFTAが定める原産地要件を満たす企業は、コロンビアが締結するFTAネットワークを経由し多数の成長市場に特恵待遇でアクセスすることが可能になります。原産地規則では、輸出国における製品の製造工程のみならず、その製品の国際輸送の状況も判断の要素とされます。

トランジット要件は、製品がFTA加盟国間を移動する間に、第三国で加工されるリスクを低減するために設けられています。この意味において、FTAでは一般に、「直接輸送」あるいは「直送」されることが求められています。これは、その物品が第三国を経由することなく、FTA締結国間で直接輸送されなければならないことを意味し、規定に従わずに輸送された物品は、原産品としてのステータスを失うことになります。しかし同時に、各国政府は、輸送・物流における特定の状況下では、やむを得ず一時的に第三国を経由するあるいは第三国に移転・保管する必要が生じることも認識しています。したがって、一定の条件を満たすトランジットであれば、原産地ステータスに影響を及ぼすことがないよう、特別にFTAの積送基準に例外措置が設けられることがあります。

輸送書類に関する検討FTAの原産地要件は満たしているものの、容認された例外的状況下において、第三国を経由しなければならない物品の特恵アクセスを担保するには、輸送書類が大変重要になります。これらの輸送書類(例:船荷証券B/L)に関し、コロンビアでは以下の点が議論されています。

• 第三国を経由する物品であっても、その輸送書類の宛先は仕向国とすべきか、あるいは、

• トランジット先となる第三国をまずは宛先とし、後に書類を追加作成した上で、物品を仕向国に輸送するべ きか

国税関税局(DIAN: The Customs Administration of Colombia)と商工観光省は、個別にこの問題に対応し、それぞれが異なる結論に至っています。DIANは、アルゼンチン(MERCOSUR規定に準じる)及びメキシコ(コロンビア・メキシコFTA規定に準じる)から出荷され、地理的あるいは輸送上及び/または物流上の理由からパナマで保管されている貨物について検討を実施しました。積送基準の厳密な解釈の適用について、DIANは、2010年2月15日付け意見書001で次のように述べています。

「物流上の理由から、物品を第三国経由とする、あるいは、これに移転させる必要がある場合、この物品が『直接輸送品』である旨を証明できる唯一の書類は輸送契約書であるとの指摘は適切であると考えられる。輸送契約書とは、当該物品の内容や、原産国の積み出し港及び仕向国の到着地に対応する情報が個別に記載されているもので、海上輸送であれば船荷証券(B/L)、空輸の場合は航空運送状(AWB)、陸上輸送であれば運送状がこれにあたる。

仕向地として第三国(検討されたケースではパナマ)が輸送書類の宛先にされている場合、その国を利用する唯一の理由が、当該貨物の輸送を円滑に行うための保管であることが関連資料等により明らかである場合、FTAが定める条件の一つが満たされないことになる。その条件とは、第三国の経由または移転は、物流や物品の保管・配送上の理由ではなく、地理的理由あるいは輸送要件に関連する配慮が必要である場合に、正当化されるというものである」

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一方、商工観光省(「同省」)の国際法務室では、今年初めに米国・コロンビア自由貿易協定第4条13項の積送基準の例外適用を検討し、以下の結論に達しています。

「当法務室による米国・コロンビア自由貿易協定第4条13項(「協定」)の解釈では、かかる原産地規則において、荷揚げ地の港あるいは空港、並びに、最終仕向け地の港あるいは空港で、輸送書類を明示的に登録することは要求されていないことは明らかであると考える」1

上記の結論は、同規則を文字通りに解釈し、かつ、条約法に関するウィーン条約の第31条に則り出されたものです。同省はまた、物品の貿易を規制するその他の国際協定の文脈における「トランジット及び移転」に係る概念の範囲についても言及し、この枠組みの下ではトランジットの対象となる物品の移動がいつどこで終わるのか制限されないことから、当該解釈は適切であるとしています。

米国からコロンビアへ送られる物品について「トランジットする第三国で輸送書類が省略されたという一つの事実のみに基づき原産地資格が失われることはない」という今回の結論は、税関当局から当初示された見解との比較において一歩前進したと言えるでしょう。同省の回答は、 税関当局が物品の輸入手続においてかかる文書を要請できない旨を示唆しているのではなく、「かかる文書を要請し、その文書が省略されていることが判明した場合、その事実のみに基づいて、トランジット及び移転の原産地規則に違反していると結論付けることはできない」というものです。

ビジネスへの影響企業がFTAを活用し、その特典を享受するためには、適用される協定の原産地規則遵守が確保できるよう、慎重に計画と分析を行う必要があります。最近の意見書では、このような計画と分析を企業が行う際には、製造工程における原産地規則遵守を示す書類だけでなく、直接積送規則の遵守と、その例外適用の裏付けとなる輸送書類についても考慮すべきである旨が強調されています。また、コロンビアで示された2つの見解でも指摘されていますが、1つのFTAで認められることが、別のFTAでも認められるとの思い込みは厳禁であり、書類の分析はFTAごとに実施する必要があるでしょう。また、デューデリジェンスの重要性も軽視することはできません。

1 2012年5月4日付公文書100210227-0315への回答OALI Opinion 141

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9 TradeWatch September 2012

2012年8月15日付けで発効した法令第1703号は、 4927号(2011年12月26日付け)を一部改定したものであり、これにより関税表に記載されている号のうち3,095個の「号」に対し、今後1年間は関税率0%が適用されることになりました。同法令は、特に農業・工業分野への恩恵を意図して策定されており、新たに免税となった品目には、以下のものが含まれています。

• 燃料及び潤滑剤

• 農業用原材料及び設備

• 産業用材料及び機械

• 輸送機器

• 建設資材

2011年8月11日付け、の法令第2916号及び2917号では、国内で生産されていない原材料と資本財を補うため、約3,000の「号」が関税率0%とされました。今回の法令第1703号は、最近失効となったこれら二つの法令に置き換わるものです。なお、新規リストには、以前の二つの法令において免税となっていた品目が複数含まれています。

新たな免税品目リストに基づき関税表の一部が改定に

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10 TradeWatch September 2012

2002年より、メキシコ原産の自動車製品は、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)の枠組みにおける経済補完協定第55号(ECA No.55)に基づき、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイといったメルコスール加盟国において、特恵関税措置の恩恵を享受してきました。

2012年前半、自動車製品に関するブラジルの対メキシコ貿易赤字を受け、ブラジルとメキシコは、両国間の自動車製品貿易に関して、ECA No.55を修正することで合意し、ブラジルに輸入されるメキシコ製自動車製品に対し輸入割当が設けられるとともに、より厳しい域内原産割合要件が定められることになりました(TradeWatch 2012年6月 号「『より大きなブラジル』による新たな貿易保護策」参照)。

これに対し、アルゼンチンは、2012年布告第969号(Decree No. 969/2012)を発し、アルゼンチン・メキシコ 間の自動車製品貿易に関して、ECA No.55の適用を3年間一方的に停止する措置に踏み切りました。アルゼンチンは、その理由として、輸入割当及び域内原産割合要件の引き上げを内容とする修正は、ブラジル・メキシコ間のみに適用される場合でも、当事者両国だけでなく、ECA No.55の全署名国の承認を得る必要があるため、両国の協議はECA No.55に反すること、を挙げています。さらにアルゼンチンは、今回の規定違反は、自動車製品貿易の流れを 変え、他のECA No.55署名国におけるメキシコ製自動車 製品の輸入量増大につながるため、アルゼンチンの自動車製品製造業者にとって重大かつ切迫した脅威であり、現在及び今後の投資の発展にも影響を及ぼすと主張してい ます。

このアルゼンチン側の主張にメキシコは反駁し、世界貿易機構(WTO)に紛争解決の申立てを行いました。さらに、 メキシコは、アルゼンチンのメキシコ製自動車製品に対する輸入特恵関税の一方的な適用停止によりメキシコが 被った損害を補てんするため、追加的な措置を検討しています。

アルゼンチンの貿易制限措置は、すべての輸入取引について事前登録、検証、事前承認を経ることを求め、さらに輸入取引に関して提出を求める項目を拡大する (TradeWatch 2012年3月号、6月号参照)など、増加の 一途をたどっており、そこにECA No.55適用の一時停止が 加わることになります。メキシコの自動車製品輸出者が直面した急激な関税率の上昇に伴うコスト増大と同様に、この種の措置が講じられると、各企業における規制遵守に係るコストが増大します。これらの措置は、グローバル規模で多くの輸出者に影響を及ぼし、自社のサプライチェーンにアルゼンチンが含まれている企業にとっても懸念材料となります。現在の状況下では、アルゼンチンと取引を行なう企業は、経済的インパクトをもたらしうる新たな事情を把握するため、今後の動向を注視する必要があります。

メルコスール(南米南部共同市場)メルコスール経済補完協定第55号(ECA No.55): アルゼンチンが特恵関税措置を一時停止、 メキシコ自動車製品輸出者に影響

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11 TradeWatch September 2012

メルコスールメルコスール: ベネズエラを正規加盟国として受け入れ2012年7月31日、ベネズエラは、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ及びウルグアイで構成されるメルコスールの正規加盟国として迎え入れられました。メルコスールの正規加盟国になることは、他の加盟国と共同市場の確立という目標を共有することを意味し、域外共通関税(CET)及び共通の貿易政策の導入や、関税・非関税障壁の撤廃により、加盟国間の製品、サービス及び生産要素の移動を自由化することが求められます。

今回、ベネズエラの正規加盟が実現した背景には、ベネズエラの正規加盟に反対する主要勢力であったパラグアイが、フェルナンド・ルゴ大統領の追放など危機的な状況にある同国の民主主義体制に対する懸念から、加盟国としての地位を一時停止されたことがあります。

ベネズエラはラテンアメリカの重要な市場であり、その石油事業や、国内産業の停滞を背景とした物資及びインフラ面での需要が見込まれることで広く知られています。中でもブラジルは、今回の新規加盟で対ベネズエラ輸出が増大し恩恵を受けるとみられます。しかし、ベネズエラの加盟が、メルコスール貿易圏と米国・EU間の貿易交渉に悪影響を及ぼす可能性もあり、政治的には不安材料も残されています。

現在、ベネズエラは、メルコスールの共通租税規制を採用するための最長4年間の移行期間にあり、これには共通の関税品目分類表及び域外共通関税の導入も含まれています。経済補完協定59号(ECA No.59、メルコスールとアンデス共同体間で署名)で表明された原産地規則は2014年1月1日まで適用されます。

ベネズエラと他のメルコスール加盟国間の特恵貿易を可能とする追加的な規定は、現在整備が進められています。また、ベネズエラがメルコスールの新たな加盟国となったことを受け、域内・域外市場に対する貿易及びサービスの発展に関しこれまで先送りされていた決定事項についても、同様に整備が進められています。ベネズエラのメルコスール参加という機会を活用したい企業は、これらの展開に留意していく必要があります。

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12 TradeWatch September 2012

ペルーターンキー契約に基づくエンジニアリング料金の 関税上の取扱いに関する関税当局の見解が明らかに輸出入者にとって、多くの国における関税評価は懸案事項であり、ペルーもその例外ではありません。TradeWatch 2012年6月号では、ロイヤリティー支払いの関税上の取扱いに関するペルー関税当局の厳格な姿勢について取り上げました。9月号では、ペルー税関当局が先ごろ示した、 ターンキー契約に基づくエンジニアリング料金の関税上の取扱いに関するガイダンスについて考察します。

ターンキー契約とは、請負業者が、操業可能な形状で設備(工業用プラント等)を買手に納品する契約です。このような契約においては、通常、プロジェクト完了にはエンジニアリング、調達及び建築工事(プラント全体の技術設計、建設材調達、建設作業、設置作業、指揮監督、操作、研修等)が必要となります。

ペルー関税当局が最近行った更正処分においては、ターンキー契約に基づき、ペルー国内でプラント設備に組み込むために海外から輸入される部分品の関税評価額に、エンジニアリング料金を加算するというものです。これは、プラントを構成する部分品の輸入は、プラントを分断して輸入しているもの(すなわち、プラントの分割輸入)として扱われるべき、という解釈に基づくものです。その結果、当該プラントに関するデザイン・エンジニアリング費用も、これら輸入品の取引価額の一部として、関税評価額に含むべきとされています。

ペルー関税当局が下した決定は、世界税関機構(WCO)関税評価技術委員会のガイダンスに基づくものです。WCOのケーススタディ1.1によれば、輸入国への輸出を目的に販売されるプラントの取引価額には、技術設計や開発のコストも算入しなければならないと定められています。また、WCOコメンタリー6.1(協定第1条の分割貨物の取扱いについて)において、プラントもしくは工業用装置を分断して輸入した場合の関税評価額は、取引価格に基づき算定することができるとされています。着目すべきは、今回の関税評価額へのエンジニアリング料金の加算は、WTO関税評価協定第8条1に準じた調整ではなく、むしろ契約上の物品の販売条件として支払った若しくは支払われるべき価格の一部であるとされている点です。

ペルー関税当局は、完成したプラントを分割して輸入するのではなく、ペルー国内で調達された部品と合わせてペルー国内でプラントを組み立てるために輸入された部品に対してまで、上記のWCOガイダンスを適用しています。

今回の更正処分で検討されたケースを見ると、輸入貨物に係るデザイン・エンジニアリングは含まれておらず(輸入部品は既製品で、第三者から購入したものです)、プロジェクトの機能性及び操作性、輸入国内での各種活動(設置作業、業務委託、モニタリング、設置工事の調整等)に関連したもの、また、当該輸入品の生産には関係しない上記以外のエンジニアリングのみです。しかしながら、ペルー税関当局は、ターンキー契約の下、海外で開発されたエンジニアリングのコストが発生している場合には、たとえその一部が輸入品とはなんら関連性がなく、販売条件とさえなっていない場合でも、個別に輸入された部品の関税評価額に、その総額を含めるべきであるとの判断を下しました。

このケースは、現在も係争中です。

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13 TradeWatch September 2012

ビジネスへの影響ターンキー契約の下で事業を営む企業は、このような関税当局の見解を考慮した上で、輸入品の関税評価額を算定すべきでしょう。特に、エンジニアリング料金が発生しているケースでは注意が必要です。未申告金額が明らかになれば、関税評価額が上方修正される可能性があります。その結果輸入者は、追加の輸入税や追加税額の2倍に相当する加算税の支払いを求められ、このような予期せぬ税負担は相当な金額になりかねません。

影響を受けると考えられる企業は、関税の観点から自社のターンキー契約を見直し、契約条件が関税評価額に与える影響の評価や、リスクや弊害を軽減する機会を検討すべきでしょう。

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14 TradeWatch September 2012

米国新規ルーリングに示された関連者間の販売及び ファーストセール取引に対する精査強化の動き先ごろ米国税関国境警備局(CBP)より出されたルーリングには、輸入者にとって重要な2つのポイントが示されています。まず1つは、「ファーストセール」取引の裏付けとなるドキュメンテーションを徹底検証することの重要性です。2つめは、関連者間取引が独立企業間価格に基づくものであることを示す際に用いる基準の1つである「輸入貨物に係るすべての費用に、売手の利潤を加算した価格(「コスト・プラス・プロフィット」)」をCBPが限定的に解釈していることです。本ルーリングはファーストセールに関するものですが、ここで示された2つの概念は、幅広く適応可能なものであると考えられます。

証明書類を検証することの重要性HQ H215658(2012年6月11日)は、Internal Advice Requestへの回答内容に対するReconsideration Requestへの回答として、当初の回答内容を肯定する形で発行されたものです。当該ルーリングでは、ファースト セール価格を利用する場合、その要件を満たしていることを証明する適切な証拠書類を準備しておくことの重要性が示されています。

ファーストセールでは、複数の売買を経て米国に輸入される製品について、米国輸入者は、次の3つの要件を満たすことを前提として、前段階の、あるいは、「最初の販売(ファーストセール)」価格を取引価格として用いることができるとされています。

• 当該ファーストセールは、米国への輸出を目的とした商品の善意の販売である

• ファーストセールの時点で、商品の最終仕向地が米国であることが明確である

• 当該ファーストセールは、独立企業原則に基づいて行われている

CBPはまず、善意の販売であるという要件を検証しました。その際、各当事者の行為と、インコタームズや支払方法に関する商業書類との間の矛盾について検討が重ねられました。その結果、商業書類にはEx-Factory(工場渡し価格)と明記されているにもかかわらず、運送費や船荷書類を確認すると、実際には工場側が輸出港までの国内輸送費を支払っていた事実が明らかになったことから、CBPは、当該取引をFOB(本船積込み渡し)条件により近いものであると判断しました。

CBPはさらに、かかる差異は製品価格に影響を及ぼすものだと指摘しました。インボイス(送り状)にEx-Factoryとの記載があれば、インボイス価格に含まれるのは製品の価格のみですが、FOBの場合、インボイス価格には製品の価格及び国内輸送費が含まれます。このような価格設定に関する議論は、関連者間の取引において、各関連者の利潤を検証することで独立企業原則に準拠した取引実体を立証しようとする際に、重要なポイントとなります。

HQ H215658において、CBPは、該当企業間の取引が「善意の販売」であるか否かについて判断を下していませんが、取引の詳細に気を配り、通関書類の精度を確保することの重要性を再確認する内容となっています。

独立企業間価格と「コスト・プラス・ プロフィット」HQ H215658はまた、関連者間で設定する価格の正当性を証明する際に用いられる「コスト・プラス・プロフィット」基準に対するCBPの見解も示しています。関連者間の売買では、以下のいずれかに該当する場合、取引価格の使用が認められます。

(1) 売手と買手の間の関係が現実に支払われたまたは 支払われるべき価格に影響を及ぼしていないことを、取引の状況から確認できる場合

(2) 輸入品の取引価格が検証価額に近似している

「検証価額」とは、過去の輸入申告で認められた関税評価額でなければなりません。しかしながら、検証価額が存在しない場合も多々あり、その場合、取引価格の使用が認められるか否かの判断には、当該取引の状況の検証が必要になります。

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15 TradeWatch September 2012

取引の状況の検証について決められた手法があるわけではありませんが、CBPは、売手と買手の関係が取引価格に影響を及ぼしていない旨を輸入者が立証できるケースとして、3つの実例を示しています:

1. 産業での通常の価格設定に関する慣行に適合する 方法で価格が設定されていることを示すことができる場合

2. 特殊関係にない買手に販売する場合の価格設定方式に適合する方法で価格が設定されていることを示すことができる場合

3. 価格が、当該輸入貨物に係るすべての費用に、一定期間に渡るこれと同等または同類の貨物の販売に係る、企業の総合的な利潤を加えた額を回収するのに十分な価格であることを示すことができる場合

本ルーリングでは、製造工場が「中間業者(middleman)」の子会社であるため、取引の状況の検証が不可欠となりました。輸入者は、「コスト・プラス・プロフィット」基準を満たしていることを示す根拠として、製造工場及び中間業者の損益計算書を提出しましたが、CBPはこれに異議を唱えました。工場の損益計算書から、工場が利益を出していることは示されていましたが、当該利益が「企業の総合的な利益」に相当するか否かをどのように評価するかで、大きく見解が分かれたのです。

「コスト・プラス・プロフィット」基準に関しCBPが採用しているアプローチは、次の2つの点において、同手法を用いることの難しさを浮き彫りにしていると言えるでしょう。 1つめは、CBPが相変わらず売手の利益と売手の親会社の利益との比較に重点を置いているという事実です。CBPは、「企業の総合的な利益」を比較検討する際には、通常親会社をその「企業」とみなすと述べています。今回のルーリングにおいて、輸入者がその親会社との比較が不適切であると意義を唱えたことを示す記述はありませんが、実際には不適切であるケースが多々あると考えられます。複数の子会社に細分化した形で組織された企業の場合、企業全体としては異なる多数の機能を果たしていても、子会社単位で見れば、果たしている機能はその一部のみという状況がしばしば見受けられます。さらに、企業の多くにおいて、子会社も複数の階層に分けられており、直接の親会社及び究極親会社が存在します。

企業は、親会社の利益とその直接的または間接的な子会社の利益が同等であることを意図しておらず、また、それを裏付ける経済的根拠も存在しません。組織構造を細部まで検証せずに、無関係の事業活動で生じた利益を単純に比較するだけでは、毎期差異が生じる可能性が高く、長期的なプランニングに用いるには信頼性に欠けると考えられます。

2つめは、CBPが売手に対し、当該輸入貨物に係るすべての費用を回収した上で、一定期間に渡るこれと同等または同類の貨物の販売に係る企業の総合的な利潤に相当する利潤を得なければならないとしていることです。CBPは、 「相当する」を「同等(equal)もしくはそれ以上(greater)」と定義しています。このように定義したことで、売手とその親会社の利益比較による「コスト・プラス・プロフィット」の検証結果はさらに予測しがたいものになります。利益比較は一定の期間に渡って実施されるため、対象期間をいつにするかが検証の結果を左右する決定的要因になってしまう可能性があります。

「コスト・プラス・プロフィット」基準につきCBPが限定的な解釈を採用していることから、輸入者がこの基準を予測可能な形で適用することは困難かもしれません。しかし一方で、売手と買手の関係が価格に影響を与えていない旨を実証する方法は他にも存在します。現に、CBPは、本ルー リングの中で、他の方法を前提としたルーリングについても触れています。

本ルーリングはファーストセールに関して出されたものですが、ここで示された指針は、幅広く適用されるものであると考えられます。したがって輸入者には、評価手法を左右しうるあらゆる状況の監査証跡を徹底的に検証することが推奨されます。関連者からの調達を行っている場合には、設定された関連者間の取引価格の信頼性を裏付ける適切な手法を注意深く検討すべきでしょう。

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16 TradeWatch September 2012

オーストラリア関税コンプライアンス最新事情TradeWatch 2012年3月号のレポートにもあるように、 オーストラリア税関・国境警備局(豪州税関)はコンプライアンス強化の取組みを現在も継続しています(取組みの詳細については3月号の記事「増加する税額更正及び加算税に備える」をご参照ください)。

先ごろ豪州税関は、歳入、貨物プロセス及び貿易規制のカテゴリーにおいて、今後さらにコンプライアンス強化が見込まれる重点分野を発表し、これには以下の分野が含まれています。

• 関税評価額の過小申告、奢侈自動車税(LCT)、自己申告通関の不正利用

• 無許可で行われる保税貨物の国内引取、大型資源プロジェクトにかかる貨物管理上の問題、貨物報告の適時性と正確性

• 先駆物質、戦略物資、消費者安全に対する懸念がある物品の輸出入

豪州税関は現在、貨物に係る報告についての暫定的アプローチの見直しを進めており、その作業が完了次第、改正案に対する産業界からのコメントを募集する予定です。

また、豪州税関は2012年5月21日に6ヶ月間の「行政猶予期間」が終了したことを受け、「違反通知制度(INS)」に最近新たに追加された4つの厳格責任違反について、違反通知の発令を開始しました。今回追加となったのは、許認可に関する違反や文書による指示の不履行に関連する違反です。

今年に入り豪州税関の事後調査は増加の傾向にあり、結果として違反通知発行数も増加すると予測されます。

アジア太平洋

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17 TradeWatch September 2012

関税免除制度への商業的視野の導入を 豪州連邦裁判所が否定豪州連邦裁判所は先ごろ、関税免除制度への商業的視野の導入を否定する判決を下しました。同判決は今後、適格製品の関税率をゼロに引き下げる関税免除令(TCO)のメリットを享受しようとする輸入者に大きな影響を及ぼすと考えられます。

オーストラリアには、代替可能なものが通常の事業活動としてオーストラリアで生産されていない物品の関税率を、申請によりゼロに引き下げることを認める制度があります。ただし、乗用車とアパレル製品には、本制度は適用されません。

これまでも度々議論されてきたのは、特定の国内産物品が、該当するTCO申請に記載されている物品と「代替可能」なのか否かという点でした。先ごろオーストラリアの連邦大法廷がこの問題を取り上げ、この中で、特定のフォークリフトを対象としたTCOに関し、行政控訴裁判所(AAT)が下した判断の是非が問われました。

同TCOにおいて、フォークリフトは、1,200キログラムを最低でも5メートル持ち上げる能力を備えるものと定められています。オーストラリア国内のあるメーカーが生産するフォークリフトは、TCOが定めるこの最低基準をようやく満たす能力しか備えていませんが、TCO要件を満たしていると同社は主張していました。

TradeWatch 2011年12月号でレポートしたように、AATは、この国産フォークリフトと輸入フォークリフトが類似した用途に用いられることは稀であり、よって、当該国産品はTCOに記載された製品の代替品とはならないとの判断を下しました。AATのこの判決は、これまで非常に限定的であった法的検証手法に商業性と実用性という新たな視点をもたらし、これにより代替可能性の検証が輸入者に有利な形でリセットされたことになりました。

連邦大法廷は同AAT判決の検討において、「AATは代替可能な製品の定義に合理的な商業的視点を取り入れた」と述べたものの、このようなAATの対応は間違いであり、当該国産フォークリフトは同TCOに記載された製品の代替品となりうると結論付けました。

代替可能性の有無の判断には、当該製品の使用方法または使用可能な方法の検討を通し、用途の比較を行う必要があります。連邦大法廷は、かかる用途の比較は実際の利用における比較のみならず、潜在的用途も比較する必要があるとしました。しかしながら、同法廷は、考えられるすべての用途が検討の対象となるわけではなく、合理的な用途である必要があるとも指摘し、スプーンをその例に挙げています。スプーンで穴を掘ることは可能ですが、これは合理的な用途とは言えず、したがってスプーンが掘削機の代替となるかを検討することはできないとしました。

連邦大法廷は、2つのフォークリフトには代替可能性があるとの判断を下し、また、AAT判決は製品の実際の用途のみを重視した点で間違いであったと結論付けました。同法廷は、AATがこのように間違ったアプローチを採用したことで、潜在的用途を検討するという法律上定められている手法が、TCOに記載された製品の実際的かつ商業的用途を検討するものに不当に置き換えられてしまったと述べています。

今回の判決により、TCO申請を検討する際には、商業的な現実を考慮すべきではないことが明確になりました。これにより、TCOを利用したいと考える輸入者が今後難しい状況に置かれる可能性はあります。しかし、「合理的な用途」を検証すべきとの考えが示されたことで、国内メーカーや豪州税関はありえない理論上の用途に依拠することができなくなります。潜在的な用途が重複していれば、それだけで代替可能性があると判断するに十分な根拠とされる一方、その潜在的用途は合理的な用途でなければならないと明確な判断が下されたのです。

今回の判決は、今後のTCO申請に大きな影響を及ぼすと考えられます。また、判決内容に、実際の用途あるいは合理的ではない用途が反映された過去のTCOや撤回申請を見直してみる価値があるかもしれません。最終的に今回の連邦大法廷で示された司法判断は、この法的分野に更なる明確さをもたらすものとなりました。これにより、豪州税関がTCO申請を審査する際、より一貫性のある決定がなされるようになると期待されます。

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18 TradeWatch September 2012

自由貿易協定の動向TradeWatchで今年度々取り上げてきたオーストラリアの自由貿易協定(FTA)ですが、現時点で各協議の進展状況は以下のようになっています。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)オーストラリア、ブルネイ、チリ、マレーシア、ニュージー ランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナムが参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉が、2012年7月に米国カリフォルニア州のサンディエゴで開催されました。今回の協議では、税関、クロスボーダーサービス、電気通信、政府調達、競争政策、協力及び能力強化作業部会における各分野で重要な進捗がありました。また、原産地規則、投資、金融サービス、一時的入国の各交渉グループでも著しい進展がみられました。次回の交渉は、2012年9月に米国バージニア州のリーズバーグで開催される予定です。

中国豪中FTA交渉は、2012年3月以降開催されていません。一方で、一部のメディアでは、外国からの投資規制を緩和するよう中国がオーストラリアに圧力をかけているとの報道がありました。野党は豪州政府に同協定の締結を迫っていますが、クレイグ・エマーソン豪貿易大臣は、すでに施行されている外国政府投資措置を現時点で緩和する意志がないことを示唆しています。豪中FTAは、現段階で今後の交渉の具体的な計画はなく、協定の締結がいつになるのか見通しが立たない状況が続いています。

日本TradeWatch 2012年6月号発行後の6月13日から15日 まで、日豪FTAの交渉が東京で開催されました。今回の 交渉では、物品貿易、税関手続、原産地規則、エネルギー・鉱物資源、食糧供給、サービス貿易、投資、紛争解決、競争政策、知的財産権における各分野で順調な進展がみられました。両国政府は2012年後半にさらなる交渉を開始することで合意しています。

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19 TradeWatch September 2012

中国製薬及び医療機器産業が直面する関税上の課題中国の製薬及び医療機器産業は厳しく規制されており、貿易コンプライアンスへの対応が企業にとっての課題となっています。特にバイオテック企業は、その事業展開の異なる段階において、様々な関税上の問題に直面する可能性があるため注意が必要です。最近では、中国で実施される臨床試験について、関税上考慮すべき事柄が話題となっています。

臨床試験問題となっているのは、臨床試験材料の輸入です。これらは非商業用貨物であることから、取引価額が使用できない場合には、関税評価額の決定が複雑なものになりかねません。中国のみならず世界各地で共通の問題が浮上していますが、中国税関は、臨床試験薬の関税評価額算定に、高い商業的価値を適用しようとアグレッシブな姿勢をみせる傾向があります。

背景には、近年中国等の新興市場で臨床試験が急速に広がりを見せている現状があります。拡大の理由としては、患者一人当たりのコストが著しく低いことや、患者層の厚み、また、これまで治療薬を摂取したことがない患者が多数存在する環境等が挙げられます。中国では欧米と異なり、投薬形態の臨床試験材料の輸入には、4%から6.5%の関税が課されます。これに加え、17%の付加価値税(VAT)も適用されますが、このような臨床試験材料は通常の商業活動の一環として販売されることはないため、この税額はほぼ回収不可能なコストとなっています。

試験材料の評価には、製造原価に基づく関税評価額の決定方法や国内販売価格に基づく関税評価額の決定方法等、企業ごとに異なる方法が適用されており、その輸入金額は時に数百万ドルに達することもあります。さらに、適用される関税評価額の決定方法は、現地の税関当局が正当と認める方法でなければなりません。適用される関税率を考えれば、予算外の大規模な臨床試験コストに発展しかねません。

この結果、多くの製薬企業はこれらの課題に対処すべく、以下のような積極的戦略を採用しています。

• 初期段階において投薬材料調達を戦略的に評価

• 社内の税務や移転価格部門と協力し、関税評価額算定のベースとなる技術的根拠を事前に決定

• 既存の税関免除措置の活用が可能な臨床スケジュールを設定しコストを軽減

• 税務当局との協力体制を築きリスクを軽減

中国における臨床試験実施に伴う複雑性については、先ごろアーンスト・アンド・ヤング中国が主催した産業フォーラムでも活発に議論されました。中国税関やアーンスト・アンド・ヤングの間接税及び移転価格部門の代表者が出席したプログラムでは、医薬品・医療機器業界特有の関税及びVATに関連した様々な問題が話し合われました。アーンスト・アンド・ヤングは、この様なイベントを通じ、産業界と中国税関の間で、円滑な対話が促進されることを期待しています。今後の進展は、次号以降のTradeWatchにてご確認ください。

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20 TradeWatch September 2012

インド拡大するインドの自由貿易協定ネットワークがもたらす課題と機会インドは、ASEAN、マレーシア、タイ、韓国、日本と締結した自由貿易協定(FTA)を通じ、アジア諸国がインドへ輸出する膨大な数の輸入品に対し関税優遇措置を適用しています。さらに、インドのFTAネットワークには、チリ及びメルコスールとの特恵協定も含まれています。また、EUと アフリカ諸国とも現在FTA締結に向けた交渉が進んでいます。

輸入者にとってインドのFTAは、関税コストを大幅に低減できる機会であると同時に、効果的に管理できなければ著しいコスト増大につながりかねない重大なコンプライアンス上の課題をもたらすものでもあります。インドのFTAにおける最大の課題は、原産地規則要件の遵守であり、インド税関当局はこの分野の精査を強化しています。

原産地規則は、物品の原産国を特定するためのルールです。特恵関税を適用するには、輸出国の政府機関により発行される原産地証明書を取得する必要があります。輸入者側は、輸入時にインド税関当局にこの原産地証明書を提出します。これは一見単純な手続きですが、インドのFTAルールは複雑かつ重複しているため、煩雑なプロセスに発展しかねません。

FTA締結国の領土内で完全に生産されまたは得られたもの以外の物品の原産地を決定するにあたり、インドのFTAのほとんどが、「付加価値基準」と「関税分類変更基準」の2つの基準を採用しています。両方の基準を製品ごとに満たすことが求められるため、輸入者にとっては高いハードルとなります(一部例外も適用されます)。

付加価値基準は、原産地申請する国において、あらかじめ定められた一定の割合以上の価値を製品に付加することを求めるものです。適用される付加価値の割合はFTAにより異なるので注意が必要です。

一方で、関税分類変更基準は、関税分類上の変更に基づくルールであり、最終製品の関税分類番号と、その産品の生産に用いた材料のうち、非原産材料の関税分類番号との間で変更が起こっていることを求めるものです。FTAによって、求められる変更レベルも異なり、4桁レベルでの変更を求められるFTAもあれば、6桁レベルでの変更が必要なFTAもあります。

同じ製品であってもFTAごとに適用される原産地規則が異なることを理解しておく必要があります。また特定の製品については、インドに向けて同じ国から輸出される物品であっても、同国との間に複数のFTAが締結されている場合、異なる関税引き下げスケジュールが適用されるケースもみられます。この様な場合、一方のFTAが定める原産地規則を満たしていても、もう一方のFTAに基づく原産地規則は満たしていない可能性があります。例えば、インドに向けてマレーシアから輸出される物品には、インド-マレーシアFTAまたはインド-ASEAN FTAの関税引き下げスケジュールに基づく関税率を適用できる可能性があります。しかしながら、2つのFTAの原産地規則は異なるため、当該製品は、一方のFTAの原産地要件は満たしていても、もう一方のFTA原産地規則は満たしていない可能性があります。このような場合、輸入者はどちらのFTAがより有利な関税引き下げスケジュールを提示しているのかを確認し、そのFTAの原産地規則の遵守を徹底する必要があるでしょう。

複数の重複するFTAが存在し、かつ、それぞれが異なる原産地規則を定めている状況が企業に様々な問題を突きつけています。各FTAに合わせた特別な生産プロセスの構築は、生産コスト増につながりかねません。さらに、FTAが定める製品の付加価値要件を満たすために必要な計算も煩雑になり得るため、洗練された会計システムが必要になります。

アジア諸国とのFTAではほとんどの場合、輸出者が輸出国において指定政府当局より原産地証明書を取得しなければならないと定められています。その際、政府職員とのミーティングや広範な裏付け書類の作成が求められる可能性があります。一方、インドの税関当局は、輸出国側で承認されたものであっても、当該原産地証明書の有効性や適用された算定手法について質問するかもしれません。原産地証明書を取得する責任は輸出者にあるとはいえ、FTAに基づく関税特典を享受するのは輸入者であり、輸入者が最終的責任を負うことになります。言い換えれば、インドの税関当局が当該製品にFTAを適用すべきではないと判断すれば、輸入者は特恵関税で当該製品を輸入することはできません。したがって輸入者は、当該輸入品が原産地規則だけでなく積送基準を満たしており、かつ、原産地証明書が本物である旨の確認を徹底しなければなりません。

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21 TradeWatch September 2012

日本貨物情報に関する新たな制度: 出港前報告制度2012年度税制改正の一環として、日本の国会は、海上 コンテナ貨物に係る積荷情報の事前報告制度(出港前報告制度)を承認しました。この新たな制度に基づき、運送事業者もしくは利用運送事業者(NVOCC)は、船積港を出港する24時間前までに、日本に入港する海上コンテナ貨物について電子的情報提出を行うこととなります。本制度では、必要データの範囲が広がり、これらをまとめて電子的に提出する必要があります(書面での提出は不可となります)。この出港前報告制度は、2014年3月に導入予定 です。

海上コンテナ貨物の日本入港前における情報提出については、現行制度でも義務化されています。新基準では、提出のタイミングと形式が変更され、日本の基準が世界税関機構(WCO)が定める国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み(SAFE)に合致することになります。下記は、現行制度と新制度の比較表です。

現行制度 新制度 SAFE規定報告時期 日本の港湾到着の24時間前 船舶が船積港を出港する

24時間前船舶が船積港を出港する前

報告者 船舶の長 運送事業者若しくはNVOCC 運送事業者若しくは その代理人

必要提出データ マスターB/L(船会社発行の船荷証券)に相当するもの

ハウスB/L(NVOCC発行の船荷証券)に相当するもの

ハウスB/L(NVOCC発行の船荷証券)に相当するもの

電子式提出 任意 必須 必須

日本税関が先ごろ発表した新基準に関する詳細によると、以下のデータ提出が必要となります2:

海上コンテナ貨物情報の出港前報告制度報告項目(案)1. 荷送人名

2. 荷送人住所または居所

3. 荷送人電話番号

4. 荷送人国名コード

5. 荷受人名

6. 荷受人住所または居所

7. 荷受人電話番号

8. 荷受人国名コード

9. 着荷通知先名

10. 着荷通知先住所または居所

11. 着荷通知先電話番号

12. 着荷通知先国名コード

13. 品名

14. 代表品目番号(HSコード(6桁))

15. 個数

16. 総重量

17. 容積

18. 貨物の記号・番号

19. 船会社コード

20. 船舶コード(信号符字)

21. 航海番号

22. 船積港

23. 船積港の出航予定日時

24. 仕出港コード

25. 船卸港コード

26. 荷卸港の入港予定年月日

27. 荷渡地名

28. B/L番号

29. コンテナ番号

30. シール番号

31. コンテナサイズコード

32. コンテナタイプコード

33. コンテナ所有形態コード

34. 国際海上危険物コード(IMDGコード)

35. 空/実入りコンテナ表示

36. 処理区分コード

2 「36. 処理区分コード」は、今号(英語版)作成時点では報告項目(案)の1つとされていましたが、2012年10月現在公表されている報告項目には含まれていません。

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22 TradeWatch September 2012

また現在、一定の近距離輸送ルートについては、本制度の適用緩和措置も検討されています。対象となる近距離 ルートは、ロシア(コルサコフ、ウラジオストック)、韓国 (釜山、浦項、仁川)、中国(天津、新港、大連、青島、上海、香港)、台湾(高雄、基隆)から日本の一部指定港への輸送です。緩和案では、運送事業者若しくはNVOCCは、必要関連データの電子的提出を、船積港出港の24時間前ではなく、出港前に行えば良いとされる予定です。ただし、東京都、神奈川県、千葉県、静岡県、愛知県、三重県の港湾への輸送は、本緩和措置の対象となっていませんので注意が必要です。また、本緩和策は、出港前報告制度が十分に確立されるまでの暫定措置となります。

出港前報告制度が適用されるのは運送事業者もしくはNVOCCですが、これらの運送事業者・NVOCCが要件を満たすためには、必要な提出データを荷送人から入手する必要があります。したがって、今後新たな基準に関する詳細が発表されれば、対日輸出者は運送事業者・NVOCCから必要データ提供の依頼を受ける可能性が高いと考えられます。輸出者は、情報システムの見直しと内部管理を行い、適時に正確な必要データを提供できるよう準備を整えておく必要があるでしょう。

今後の動向についても、次号以降のTradeWatchで取り上げていく予定です。

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23 TradeWatch September 2012

通関時の通関関連書類提出に係る要件が緩和2012年度税制改正の一環として、日本の国会は輸出入申告における通関関係書類の提出に係る一定の要件を緩和する法案を承認し、2012年7月1日に施行されました。

同法の施行以前、輸出入申告には輸出・輸入申告書にインボイスを添えて提出することが義務付けられていました (一部例外あり)が、現在は、日本税関(税関)が輸出入を許可するために必要であると判断した場合にのみ、輸出入者は契約書、インボイス、その他輸出入申告の内容を補完する書類を提出すれば良いとされています。

同法が施行される直前に、税関はガイドラインを発表し、原則として、リスクの低い区分1とされた申告(簡易審査)については、インボイス、梱包明細書、及び個別評価申告書の提出が不要となること(ただし、輸入については、関税評価額が取引価額に基づく決定方法により算出されていない場合には追加の提出書類が必要となる)、また、区分2及び3とされた申告(書類審査及び/または貨物検査)については、引き続きそれらの書類の提出が必要であることを明らかにしました。

今回の要件緩和は、販売契約に基づいて製品が輸入された後に所有権が移転し、インボイスが発行されるケース等において、関税評価額を明らかにする書類として手作業でプロフォーマ・インボイスを作成してきた企業とっては嬉しい進展であると言えましょう。なお、同ガイドラインでは、 区分2及び3とされた申告については、引き続きインボイスの提出が義務付けられるとしています。これらの申告についても、プロフォーマ・インボイスの代わりとなる書類について個別対応にて検討を行うケースもみられる等、税関の柔軟な姿勢も伺うことができます。とはいえ、個別のケースについては、輸出入申告までに税関に詳細を確認しておくべきでしょう。

今回の通関関連書類提出に係る要件の緩和は、総体的には貿易の促進を支援する内容ですが、コンプライアンス確保のために今後も税関による事後調査が実施されることも理解しておかなければなりません。特に区分1の申告については、インボイスの提出が不要となるものの、輸出入者は申告の内容を立証する書類を5年間保持する必要があり、これにはインボイスも含まれています。区分1とされた申告については、通関手続の迅速化が優先される一方で、申告内容の正確性の検証は貨物の通関後に実施される事後調査において行われます。事後調査においては、関税評価額及び通関関連書類の検証がより細密に行われることが予測されるため、輸出入者は対策を講じる必要があるでしょう。

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24 TradeWatch September 2012

米国産特定ベアリングに対する報復関税措置を延長日本の財務省は先ごろ、8月30日に失効予定であった米国を原産とする特定ベアリングに対する報復関税措置について、1年間の延長を発表しました。また、同措置の課税対象及び税率についても見直しが行われました。2012年9月1日より、品目分類の統一システム(HS)でHS 8482.10に分類されている玉軸受は同措置の対象外 となりますが、HS 8482.20に分類される円すいころ軸受(コーンと円すいころを組み合わせたものを含む)の報復関税率は、現行の1.7%から4%に引き上げられます。

日本は2005年以降、米国を原産とする特定ベアリングに対する報復関税措置を講じてきました。これは、米国がContinued Dumping and Subsidy Offset Act of 2000 (通称「バード修正条項」)を修正しなかったことに端を

発しており、特に、米国が徴収した反ダンピング税を被害企業に分配するという条項を、2003年のWTO(世界貿易機関)ルーリングにてWTO協定に反すると判断されたにも関わらず、米国が修正しなかったことへの報復措置として実施されてきました。バード修正条項は2006年2月8日に廃止されましたが、その後も経過規定により2007年10月1日よりも前に通関された物品に係る反ダンピング税の分配が継続されています。法務手続及び法定手続が長引き、通関から分配の実施までにかなりの時間を要したことなどから、今日もまだ分配が行われている状況にあります。そのため日本は、税率及び課税対象の見直しを毎年実施した上で同措置の延長を行い、分配された反ダンピング税額に見合った報復関税の賦課に努めています。

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25 TradeWatch September 2012

現在、ニュージーランド税関(以下、「税関」)は、輸入貨物の価格への加算を必要とする輸入者への対応を強化しています。最も一般的な加算の態様としては、輸入貨物に係るロイヤルティの支払いに関する価格調整が挙げられます。加算が必要な輸入者として税関システム上で識別された輸入者には、一定の情報提供を要請するレターが送付され、例えば、加算の性質や見直し時期等に関する質問がなされます。また、税関はこの分野のコンプライアンス 違反によって生じる帰結についても注意を喚起してい ます。

本稿では、税関のこうした対応について、輸入者が受けるマイナスの影響と、輸入者にとって有利となる状況の両面から見ていきたいと思います。

マイナスの影響• 今般のニュージーランド税関の対応強化は、税関に対する歳入増加への圧力に起因しています。それは、関税が課されない貨物(一般消費税(GST)の形での歳入しかなく、またその税額は内国歳入庁から還付可能なものである)についても同様の対応が取られています。

• 税関はこの分野のコンプライアンス状況を厳密にモニタリングできるよう、現在、内部プロセスの変更を行っています。この変更によって影響を受ける輸入者は、今後税関から頻繁に情報提供を求められる可能性があるので注意が必要です。

• 税関はコンプライアンス違反を理由に多額の罰金を課す権限を有しており(TradeWatch 2012年6月号「輸入 者に課せられる新たな罰金制度」参照)、この権限はGSTのみが問題となるケースにも発動されます。

有利となる状況• かかる対応の強化が見られるものの、税関は、従来の輸入申告価格への加算(すなわち、年間を通して一定の料率を適用し、年次で見直すというもの)を、1996年税関・内国消費税法で要求される技術的事項に実際的に対処するための行政上の慣行と捉えており、幸いにも、税関はこれを変更しようとはしていません。

• ニュージーランド非居住者に対するロイヤルティ及びその他の費用(管理手数料等)の支払いは、関税法上、必ずしも物品の価格に算入する必要があるとされるわけではなく、1996年関税・内国消費税法が定める基準を満たした場合にのみ、算入する必要があるとされています。そこで、税関が提案する対応策を受け入れる前に、実際に関税法上のリスクが存在するか検証しておくことが賢明です。

• また、自主的な情報開示も、ペナルティを課せられるリスクの低減に有益であると考えられます。

ニュージーランドロイヤルティ支払い等による輸入貨物の価格への 加算が必要な輸入者が税関のターゲットに

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26 TradeWatch September 2012

欧州連合構成部分の関税分類に関する欧州裁判所の判決と テクノロジー業界の課題1996年のWTO情報技術協定(ITA)実施以降、一般に、情報テクノロジー製品は、市場への免税アクセスを享受してきました。欧州連合(EU)では、ITAに基づく関税免除の対象に、半導体デバイスや集積回路の製造に使用される機器が分類される関税率表の第8486項が含まれています。この結果、第8486項の各「号」に分類される部品(parts)及び附属品(accessories)を含む製品は、EUに免税輸入することができます。しかし、最近下された欧州裁判所(ECJ)の判断は、これらの装置のすべての構成部分が「部品」または「附属品」として認められるわけではなく、課税対象となりうることへの注意を促す結果となりました。

EU関税免除の適用除外とされる 半導体製造装置の構成部分2012年7月19日、半導体ウエハー研磨機械用研磨パッドの関税分類に関するECJの判断が下されました。当該パッドは粘着性でディスク型、直径約40cm・厚さ3mmで複数のプラスチック層から構成され、半導体素材加工用の研磨機械で使用されるものです。

本裁判では、これらの研磨パッドを、以下のどちらに分類すべきかが争点となりました。

• 関税コード8466 91 15(8456項~8465項に分類される機械に専らまたは主として使用される部品または附属品として分類する)あるいは

• 関税コード3919 90 10(当該製品を構成する原材料の素材に基づき、接着性を有するプラスチック製のへん平な形状の物品として分類する)

本裁判は、2007年の関税率表改定以前の輸入品も対象としていますが、本稿では、現在の関税分類コードに絞り議論を進めていきます。

今回のECJの判決では、以下の理由に基づき、研磨パッドは関税コード3919 90 10に分類されるべきであるとの判断が下されました。

• 原則として、当該研磨パッドの物理的な特徴に鑑み、 これを第39類に分類するべきとする根拠がある。

• 概念として、「部品」とは、ある完成品の操作に不可欠なモノを意味し、「附属品」とは、機械をある特定の操作に適応させる、または操作範囲を拡大する、あるいは機械の主要機能に関連する特定のサービスを実行することを目的に設計された交換可能なモノを意味する。

• 当該研磨パッドは、半導体ウエハー研磨機械の使用 に適した「部品」または「附属品」であるとは認められず、よって関税率表の第8486項に分類することはでき ない。

「部品」と「附属品」の定義は、ネットワークカード及び インク・カートリッジに関する以前のECJ判決において示されており、当該判決においては、これらの製品が免税対象となっている第8473項(すなわち、第8471項の製品の部品または附属品)に分類できるか否かが検討されました。今回は、ECJがこの「部品」及び「附属品」の定義を第8486項に適用した最初の判決となります。本裁判でECJは、研磨パッドをウエハー研磨機械の操作に不可欠なものではないとして、ウエハー研磨機械の「部品」から除外しました。当該研磨パッドが、専ら特定の種類のウエハー研磨機械に取り付けられることを意図したものであるとの主張も、当該製品が「部品」または「附属品」であると結論付ける決定的な要素にはならないとされ、その結果、半導体製造装置のこれらの構成部分は、EUの免税措置の適用対象外とされました。

欧州、中東、インド、アフリカ

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27 TradeWatch September 2012

業務への影響今回のECJ判決を受け、第8486項に分類される製品の構成部分が免税対象となる「部品」または「附属品」に該当するか否かの判断を、当該構成部分が当該項に分類される製品に「専ら又は主として使用されるか否か」に基づいて行うべきではないと言えるでしょう。分類を決定する際には、今回の裁判で明らかとなった「部品」と「附属品」の定義に照らして判断するべきです。さらに、今回の判決は、ある構成部分が第8486項の「部品」または「附属品」に該当するかどうかの判断に限らず、第84類の他の項の部品または附属品に該当するかどうかの判断にも影響を及ぼす可能性があります。

これは、税関が注視する可能性のある分野であり、特に事後調査においてこのような関税分類の過ちを指摘されれば、多額の関税納付不足という重大な事態に発展しかねません。構成部分のサプライヤー及び輸入者は、自社の関税分類を見直す必要があるでしょう。特に、第84類の製品の部品または附属品として分類されているものについては注意が必要です。また、拘束的関税情報(Binding Tariff Information: BTI)を税関当局に申請し、輸入貨物の関税分類につき当局の正式な見解を確認することも検討すべきでしょう。

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28 TradeWatch September 2012

関税分類に関する最近のECJ判決により 製薬業界が受ける恩恵EUにおいて、医薬品は、関税率表の第30類に分類され、免税扱いとなっています。しかし、医薬品に使われる原料は、関税分類上必ずしも医薬品とは扱われず、高い関税が課せられていることがあります。

2012年7月12日に、血液アルブミン(細胞増殖培養液として使用される製薬産業における重要な原料)の関税分類について、ECJの判決が下されました。今回の判決は、製薬業界に広範な影響を及ぼしうる、好意的な判決であると言えます。

治療または予防的使用を 目的としない血液アルブミンは 医薬品であるとの判断本件では、人間や動物が摂取するには適さない、ウシ科の動物の血液に由来する血液アルブミンの関税分類が取り上げられました。当該製品は、細胞増殖培養液として利用され、特定の疾病や健康問題の治療に用いる抗体の製剤に必要な14の構成要素の1つです。当該製品の市価は、1kgにつきおよそ600米ドルですが、食品業界で使用される血液アルブミンの市価は、1kgにつきおよそ6米ドルです。

輸入者は、当該製品を免税対象となる医薬品として第30類の関税コード3002 10 10(抗血清)に分類しました。 これに対しオランダ税関当局は、当該製品を第35類(アルブミノイド(たんぱく系)物質、変性でん粉、膠着材、酵素)の関税コード3502 90 70(卵アルブミン及びミルクアルブミン(ラクトアルブミン)以外のアルブミン)に分類し、関税率6.4%の対象とすべきであると主張しました。この主張の中で、オランダ税関当局は、「治療的(therapeutic)」または「予防的(prophylactic)」使用を目的としない血液アルブミンを第30類から除外するという関税表第30類の注記1に言及しています。ここでの「prophylactic」とは「予防」または「避妊」を意味しています。

本件では、製品そのものに治療的又は予防的効果はないものの、かかる効果を持つ製品の製剤のために生産された製品を、治療的または予防的な使用を目的に生成された製品と言えるか否かが争点となりました。当該製品は、治療的または予防的効果のある製品の製剤に不可欠なものであり、その性質上、かかる目的にのみ使用可能なものです。

ECJは、以下の理由により、血液アルブミンは治療的または予防的使用を目的に生成されたものであるとの判断を下しました。

• 製品の使用目的は明白である

• 関税表の第30類及び第35類の各注記、第3002項と第3502項に関する注釈のいずれにおいても、血液アルブミンに固有の治療的または予防的な価値がなければならないとの記述はない

• 「~の目的で生成されたもの(prepared for)」との表 現には、その性質上、治療的または予防的目的に直接使用するものと、かかる使用のために生成されるものの2つの意味があることを理解すべきである

したがって、固有の治療的または予防的効果を持たない血液アルブミンを、関税表第30類(製薬品)の分類から除外することはできないということになります。

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29 TradeWatch September 2012

業務への影響今回ECJがこのような判断を下したことで、血液アルブミンは、それが、治療的または予防的効果を持つ製品(すなわち、抗体)の製剤のために生産され、かつ、その性質上かかる目的にのみ使用可能であれば、免税となる第30類の製薬品に分類できるようになります。このタイプの血液アルブミンの市価を鑑みれば、今回のECJの判決は、製薬業界にとって歓迎すべきニュースと言えます。ただし、全種類の血液アルブミンに今回の判決が適用されるわけではないので、注意が必要です。

さらに、今回の判決は、より広い範囲に影響を及ぼす可能性があります。例えば、他の輸入原料の中に、ECJが定める基準を満たし製薬品として免税されている関税コードに分類することが可能な製品があるかもしれません。したがって、製薬メーカーは、自社の輸入原料の関税分類を見直し、今回の判決がそれらの製品を免税分類とする裏付けとなるかどうかを評価すべきで しょう。また、輸入者は、拘束的関税情報(BTI)を税関当局に申請し、輸入貨物の関税分類につき当局の正式な見解を確認することも検討すべきでしょう。

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30 TradeWatch September 2012

ノルウェーNOx排出税負担と石油会社への影響ノルウェーの窒素酸化物(NOx)排出税は、ノルウェー海域大陸棚(NCS)の石油事業を対象に賦課される重要な環境税です。石油・ガス事業施設を設置する企業にとって、NOx排出税は極めて重い負担となりかねません。2012年現在、NOx排出量1キログラム当たりの課税額は16.69ノルウェークローネ(2.75米ドル)に定められており、中規模船舶の場合、1日当たりの税負担額は25,000ノルウェークローネ(およそ4,120米ドル)を超える計算になります。低税率が適用される「NOxファンド」 (後述)加盟企業を除けば、石油・ガス掘削施設1施設当たりの年間税負担額は容易に1千万ノルウェークローネ(160万米ドル)に達します。

NOx排出税は、ノルウェー国内企業及び外国企業の両方に適用されます。しかしNOx排出について登録・納税義務が生じる主体が誰か(例:所有者、ライセンシー、操業者)は、常に明確に決定できるわけではありません。NOx排出税は石油会社にとって大きな負担となりかねず、特に契約交渉を開始する際には、当事者の排出税支払義務の有無を把握しておくことが重要になります。

NOx排出税の支払義務規制の文言によれば、登録及び排出税支払いの義務を負うのは、排出源にあたる施設を所有もしくは操業する企業です。ここで責任の主体を示すために使われているノル ウェー語の単語の意味は「運転者」であり、排出源にあたる施設を運営する者なら誰でも該当しうるため、必ずしも「操業者」を指すものではない点に留意すべきです。NCS上に常設された石油・ガス事業施設から排出されるNOxについて、その排出税支払義務が操業者にあることは実務において定着しています。また、船舶から排出されるNOxについても、船舶の所有者が排出税支払義務を負うことに同意がみられます。問題となるのは、移動式石油・ガス掘削施設(ジャッキアップ・リグ等)の移動中及び「一定位置に停留中」に、その施設から排出されるNOxの排出税は誰が支払義務を負うのかという点です。

2011年3月29日付の地方裁判所の判決では、一定位置に停留中の移動式石油・ガス掘削施設について、その排出税の支払義務を施設の操業者に負わせることが、現在の法令の枠内で認められるか否か判断が下されました。規制の文言には、その点についての指針はほとんど示されていませんが、同裁判所は他の法的根拠に基づき、施設の操業者に支払義務を課すことは可能であると結論付けました。

同裁判所は、その理由として、操業者に同税の支払義務を負わせることは、汚染管理の一般的な枠組と最も整合することを上げています。例えば、1981年のノルウェー汚染管理法は、汚染が発生する事業活動の開始前に、ノルウェー汚染管理庁の許可を得なければならないと規定しており、NCSにおいては、同許可は操業者に付与され、また、すべての「汚染行為を行なう者」はかかる許可の下で事業を営む旨が規定されています。その意味で、「汚染行為を行う者」たる施設の操業者に排出税支払義務を課すことは、「汚染者負担」(欧州経済領域協定73条)という汚染管理の主要な原則に合致します。ただし、この原則はすべての租税分野に適用されるものではありません(例:直接税)ので注意が必要です。

以上の説明の構図を不確かなものにしてしまうのが、ノルウェーのNOx排出量削減に向けた重要な政策的手段であるNOxファンドの存在です。ノルウェー政府と業界団体は、NOx排出量削減に関する環境合意を締結しており、業界団体が、同合意の趣旨に基づき、自ら負担する義務を履行するために設立したのがNOxファンドです。

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31 TradeWatch September 2012

NOxファンド代表者は、上記裁判で、同ファンドを有効性のあるものとするためには、NOx排出税を操業者ではなく、掘削施設の所有者もしくは事業主に賦課することが不可欠であると証言しています。その理由として、移動式掘削施設から排出されるNOxの排出税支払義務を掘削施設の所有者に課さなければ、これら所有者がNOxファンドに加盟するメリットが薄れ、結果として加盟へのインセンティブを弱めてしまう可能性を指摘しています。つまり、石油・ガス掘削施設に排出量削減のため実際に変更(例:正確なNOx排出量測定装機器を設置する)を加えることができるのは、掘削施設の所有者であるにもかかわらず、これらの所有者は同ファンドの加盟者とはならず、結果としてNOxファンドの合意内容の遵守が強制されることもなくなってしまうとしています。

裁判所は、掘削施設の所有者もしくは事業主に納税義務を課すことが、NOxファンドの目標を達成するためにはより効率的となりうる点には同意しました。しかし、一方で、操業者が移動式掘削施設のNOx排出対策として、NOx ファンドに加盟した上で、掘削施設所有者との契約内容にNOx削減措置を盛り込むよう要請することもできる、としました。さらに裁判所は、操業者ではなく掘削施設所有者に削減へのインセンティブを与えようとする同ファンドで定着した取り組みも、同ファンドがあくまで私的財団であるが故に、操業者に納税義務を課さないことの十分な理由づけとはいえないとしました。また、操業者と掘削施設の所有者・事業主が締結する契約内容に、NOx排出に関する法的要求を満たすのに必要なすべての情報及び対応策を盛り込むことは可能である、としました。

同種事案についてのノルウェーの最高裁判所による判断は未だ存在しないため、地方裁判所の判決の先例性は限定的なものです。なお本件は、控訴が決定しており、審理は2012年10月に開始が予定されています。したがって、移動式の石油・ガス掘削施設のNOx排出税支払義務についての決定的な解決は、未だ見いだされていないといえます。

石油会社への影響控訴裁判所、あるいは最終的に最高裁判所の判決が下るまでは、現在のところ、NCS上の「一定の位置」に停留している移動可能な石油・ガス掘削施設については、そのNOx排出税は施設の操業者が負担することになります。従来、掘削施設の所有者によって支払われてきたとの理由から、かかる移動式掘削施設のNOx排出税を支払っていない油田の操業者は、対処を怠った場合、税関当局に事後調査を受けるリスクがありますので注意が必要です。

また、今回の裁判では、掘削施設の所有者と操業者の契約内容の重要性も浮き彫りになりました。操業者にとって、NOxファンドに加盟するには、所有者との契約関係が必要になりますが、操業者が同ファンドへ加盟することは、コストを削減し、かつ、業界として合意した義務を履行するために不可欠です。NOx削減義務コストの割当てという点からも契約内容が重要になります。また、掘削施設の所有者・事業主こそが、正確なNOx排出量測定に必要なNOx測定機器等の設置を実際に行いうる者であることは明白 です。

最後に、今回の裁判では、移動可能な掘削施設が移動中に排出するNOxについて、誰にその排出税を負担する義務があるのかは特に取り上げられませんでした。しかし、移動式掘削施設に推進装置が装備されていれば、その掘削施設を船舶とみなし、掘削施設の所有者に排出税の支払義務を負わせるべきとの点ではコンセンサスがみられます。一方、掘削施設が牽引されている場合には、法的状況がさらに不明確になるため、綿密な法的分析が必要となります。

今後の展開については次号以降のTradeWatchでご確認ください。

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32 TradeWatch September 2012

トルコ税関近代化-トルコの単一窓口制度のメリット「単一窓口」制度に関する条項は、欧州議会・理事会規則405/2008をもって承認されたEU関税法典制定(近代化関税法典)の中に含まれています。全EU加盟国が2013年の実施に向け準備を進めており、トルコでも2013年の施行が予定されています。

本単一窓口制度は、港湾業務、税関業務、技術管理及びライセンシング等の各種国境管理手続きを、統合された管理システムを通して調整することを目的としています。新制度の下で、必要な承認取得を迅速化し、より効率的な通関を実現するため、トルコの関連政府機関や行政機関は、情報や文書を電子的に共有することになります。

トルコにとって今回の単一窓口の設置は、重要な意味を持ちます。国境管理には、歳入徴収だけでなく、知的財産権を保護し、公衆衛生や安全を守り、不正競争を防止するための、様々な管理・規制が関与しています。したがって、輸入取引の際に、複数の異なる政府機関から承認や許可を取得しなければならないケースも多く、しばしば通関手続に遅れを生じさせる原因となっています。現在、税関当局と各関連政府組織間の許可や承認プロセスは紙ベースで行われているため、手間と時間を要する大きな負担となっています。例えば、エレクトロニクス製品を輸入する際には、トルコ標準化機構(TSE)の承認レターを取得の上、これを貨物の通関前に税関当局に提出する申告書に別紙として添付することが求められています。

関税商業省が実施した調査では、税関業務に使用される書類330種類のうち、実に309種類が税関当局以外の各種組織・機関から取得されたものであることが明らかになりました。言い換えれば、税関当局が提供する書類はわずか21種類のみであり、この調査結果一つとってみても、 他の組織・機関が通関プロセスに及ぼす影響の大きさは一目瞭然であると言えるでしょう。

単一窓口制度の下、輸出入オペレーションに必要なすべての書類及び情報は、輸出入者によって、国際的に認められた標準様式を用いて、一カ所の窓口宛てに提出されることになります。関連する各政府機関は、提出された情報を共有し、申請に対する承認は、申請を受け付けた窓口宛てに電子フォームで発行されます。結果として、その貿易取引の実行に必要な各種管理業務も、同時に同じ場所で、 関連する機関の調整・協力に基づき実施されることになります。

今回の新制度は、輸出入者に多くのメリットをもたらすと期待されています。通関の迅速化は、国境で大幅な遅延が生じると多額の負担になりかねない倉庫料、滞船料、荷役費など通関コストの削減を意味します。サプライチェーンのスピードと確実性の向上は、在庫管理や生産計画においても、ビジネスチャンスを生み出します。又、電子環境が整備されることで、貿易取引データの追跡能力も向上すると考えられます。したがって、輸出入者は、自社の情報システム及び内部統制を見直し、コンプライアンス上必要とされるデータが正確かついつでも利用できる状態にあることを確認しておく必要があるでしょう。

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33 TradeWatch September 2012

ウクライナウクライナが独立国家共同体加盟国との 自由貿易協定を批准2012年7月30日、ウクライナのVerkhovna Rada(国会)は、独立国家共同体(CIS)との自由貿易協定(CIS FTA)を批准しました。同協定は、CIS加盟8カ国(すなわち、ロシア連邦、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、モルドヴァ、タジキスタン及びウクライナ)により昨年10月に調印されたものです。ウクライナは、ロシア連邦、ベラルーシに続き同協定を批准した3番目の加盟国となりました。

概要CIS FTAは、CIS加盟国間で締結された既存の2国間及び多国間の自由貿易協定に置き換わるものです。CIS FTAに おいて参加各国には、加盟国を原産とする物品に課せられる関税と関税割当の段階的撤廃が求められていますが、実際には広範囲に及ぶ製品がこの撤廃要件から除外されています。(詳細は後述をご参照ください)。

CIS FTAには、以下の内容も含まれています。

• 自由貿易体制から除外されている物品の関税引上制限

• 相互貿易に新たな規制を導入しないことを参加国に 義務付ける

• 輸入関税免税措置を撤回する際の条件を設定

• 輸出関税廃止プロセスの開始

• CIS加盟国間の貿易及び経済関係を定める既存の協定数の削減

• WTOメカニズム及び手順に基づく貿易摩擦解決の促進

経済の見通しCIS FTAの実施は、ウクライナ経済及び貿易にプラスの影響をもたらすとして、ウクライナ政府は楽観的な見通しを示しています。批准準備のために作成された経済実現可能性に関する報告書によると、ウクライナの国内総生産はFTA実施により2.5%増加することが見込まれており、特定の産業においては非常に大きな恩恵を享受できると期待されています。

例えば、新しい自由貿易体制の下では輸出関税が撤廃となることから、ウクライナの金属製造業には大きなメリットがもたらされます。CIS FTAの実施により、同産業には4%以上の成長が期待されており、特に金属管及び圧延金属製造業の伸びが期待されています。一方、輸出関税、特に鉄及び非鉄金属のスクラップ輸出関税の撤廃は、ウクライナの国家予算にとっては大きな痛手となる可能性もあります。

ウクライナの農業及び食品製造産業は、加盟国間の「貿易戦争」の終結と、衛生面の障壁とダンピング防止措置 (例:ウクライナ産菓子類に適用されている措置等)の撤廃によるメリットを享受できるでしょう。同産業の成長率は、3.5%以上と予測されています。

CIS FTAから最も大きな影響を受ける可能性が高いのが ウクライナの機械産業(成長予測はおよそ7%)です。CIS地域は従来から、ウクライナ産の機械、ツール、予備部品、バルブ、フィッティング及び変圧器の一大市場となってきました。今回、輸入関税及び輸入割当等の関税障壁が撤廃されることで、CIS地域におけるこれらウクライナ製品へのアクセス性が、市場及び価格の両面で強化されることになります。

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34 TradeWatch September 2012

ウクライナ政府は同時に、CIS FTAにはこのようなプラス の影響を損ないかねない脅威がいくつか存在する可能性も認識しています。具体的には、ウクライナにとって極めて重要な原油及び天然ガスを含む多数の必需品がCIS FTAの対象外となっていることや、それらの品目の加盟国間における相互貿易について制限が設けられている点が挙げられます。しかし、それらの品目を記載したリストでは、CIF FTAの対象外となる品目を完全に網羅しており、その内容については拡大不可とされている点は、前向きな進展であると捉えるべきでしょう。

CIS FTAの将来は、先に述べたCIS FTAの対象外となっている必需品の削減交渉を、ロシア連邦が継続するか否かにある程度左右されると考えられます。また、ウクライナにとって中東から輸入する天然ガス輸送において有利となる加盟国のパイプライン輸送網へのアクセスについては、現在交渉が進められています。

一方、Verkhovna Radaの公認委員会がCIS FTA批准を 支持しなかった点にも注目すべきでしょう。同委員会の代表は、CIS FTA批准により、税関連盟国(ロシア、ベラルーシ及びカザフスタン)との相互貿易において、法制度の面でダブルスタンダードが生じると指摘しています。これは具体的には、税関連盟の定める法令の各種条項がCIS FTAに優先するため、実際には、税関連盟の加盟国が、CIS FTA締結国のうち税関連盟の参加国ではない国に対し、追加的な貿易制裁及び規制を押し付けることが可能であることを意味します。

CIS FTAの発効は、2012年9月23日に予定されています。

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35 TradeWatch September 2012

東アフリカ共同体東アフリカ共同体における認定事業者制度の進展東アフリカ共同体(EAC)の各歳入当局は、税関近代化のための部門を設立し、複数のプロジェクトを通して税関業務及び歳入徴収の改善に取り組んでいます。認定事業者(AEO)制度は、これら近代化プロジェクトの1つです。認定事業者とは、税関チェックポイントにおいて、遅延の原因となる貨物検査やその他の税関介入を受けずに、EAC域内の各国に貨物を輸入・移動することが認められた事業者(輸出者、通関業者もしくは輸送会社等)のことです。認定事業者に対する税関の審査は、輸入後に事後調査という形で実施される(非認定事業者も対象となる)、関税関連の各種法令・規制のコンプライアンス状況の確認に限定されます。

EACにおけるAEO制度の進展EAC加盟国は2008年、AEO制度の本格的な導入を前に、試験プログラムを開始しました。しかし、各加盟国での試験プログラム適用状況にはばらつきがあり、一貫性に欠けるものでした。相互認定を意図した制度であるにもかかわらず、他国の歳入当局が審査した登録認定事業者を受け入れない加盟国もみられ、これが一つの大きな課題として浮上しました。

2012年3月、世界税関機構(WCO)・EAC貿易円滑化プロジェクトの第5回運営委員会会合で、EAC加盟の全5か国 (ルワンダ、ウガンダ、ケニア、タンザニア及びブルンジ)が新たな共通関税政策に正式署名しました。

この共通政策により、AEO認定は以下の条件を満たす 事業者に与えられます:

• 関税コンプライアンスについて重要条件を満たして いる

• 十分に機能し、かつ技術的にも確固たる情報システムを有している

• 社内に関税コンプライアンスを強化する自己評価プログラムを有している

AEO制度の完全導入により、登録輸入者は以下の特権を得ることになります:

• EAC全域での貨物配送の迅速化により、輸送コストの削減

• 国境通関検査の対象外となることにより、保管コスト・ 滞船料の削減

• 国境通関検査の対象外となることにより、輸送貨物に 対する税関の関与の軽減

AEO制度は、現在すべてのEAC加盟国で試験段階にありますが、特にケニア及びウガンダは、同制度に関心を示す企業に対し認定審査への応募を呼びかけ、積極的にAEOプロジェクトを推進しています。2012年8月現在、ケニアの同制度登録企業は60社を超えています。

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36 TradeWatch September 2012

企業への影響EACにおけるAEOは、「低リスク」輸入者としての地位を確立した企業に通関の迅速化という恩恵を与え、歳入当局のリソースをより高リスクの輸入者に集中させることができるよう策定された制度です。また、サプライチェーンの確実性及び輸入コスト削減の面からも、認定事業者という地位は企業に競争優位性をもたらします。

認定事業者の地位を得られるのは、EACが定めるAEO要件を満たす企業のみとなるため、同制度に関心のある企業は、AEO申請を行う前に、有効な自己評価を実施して備えておくことが重要です。

自己評価の際には、以下を検討する必要があります:

• 自社の輸出入業務について、関税に関するヘルスチェック(関税に係るレビュー・社内監査等)を実施し、特定されたすべてのリスクを自ら税関当局に開示し、納税額に不足がある場合は全額支払う。

• 関税関連の各種法令・規則を継続的に遵守するための手順及び社内統制を導入する。

• 歳入当局の依頼に応じ提供する必要データの精度、 及びデータのタイムリーな提供を徹底するため、自社の情報システムを検証する。

景気の低迷により混沌とした経済状況が続く中、製品コスト削減のチャンスをすべて検討し、競争力を維持することは企業にとって不可欠です。EAC域内におけるAEO制度の進展により、AEOとしての優位性によりもたらされるコスト及びサプライチェーン上のメリットが、いよいよ現実のものになりつつあります。コンプライアンスを重視する域内輸出入者に恩恵を与えるAEO制度は、税関近代化プログラムの重要な要素の1つとして、かつてないほどにその体制を整えたと言えます。

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