第12 回 北陸言語聴覚学術集会 -...

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- - 1 - - 第 12 回 北陸言語聴覚学術集会 会期:2012 年 10 月 21 日(日) 会場:金沢医科大学病院 本館 4 階 C41 講義室 主催:一般社団法人 石川県言語聴覚士会 共催:富山県言語聴覚士会 福井県言語聴覚士会

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第 12回 北陸言語聴覚学術集会

会期:2012年 10月 21 日(日)

会場:金沢医科大学病院 本館 4 階 C41 講義室

主催:一般社団法人 石川県言語聴覚士会

共催:富山県言語聴覚士会

福井県言語聴覚士会

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ご案内

I. 学術集会参加者の方へ

参加者受付は 9:30からです。

午後の参加者の方は昼食休憩後、各シンポジウム会場に直接お集まり下さい。

II. 演者の皆様へ

スライド受付)9:15

発表時間)発表 7分、質疑応答 5分

ベル 1回で発表終了 1分前、ベル 2回で発表時間終了をお知らせします。

演者の方は、次演者席にお座りください。

III. シンポジスト・司会の皆様へ

打ち合わせ・シンポジウム用のスライド受付がありますので、各会場に 13:00にお集まりください。

なお、発表時間は 10分となっております。

IV. 食事と休憩

12:20より昼食休憩です。昼食は各自でご準備をお願いします。新館地下 1階に売店がありますので、

そちらもご利用いただけます。会場内の飲食は可能です。

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プログラム

10:00‐10:05 開会の挨拶

10:05‐10:57 演題発表・第 1群 座長 恵寿総合病院 谷内 節子

左横-S状静脈洞部硬膜動静脈瘻、左後頭葉脳内出血により失読失書を呈した症例

金沢医科大学病院 伊崎 由絵

感覚性失語症例におけるエラー内容の分析

金沢社会保険病院 宮下 瞳

音断片・音韻性錯語を主体とした一例 ~音韻性失名詞との比較~

福井総合クリニック 富田 浩生

高次脳機能障害および認知症患者における疲労度の検討 -発話音声分析装置 CENTEの使用経験-

福井総合クリニック 木田 裕子

10:58‐11:24 演題発表・第 2群 座長 金沢医療センター 村上 美矢子

乳幼児療育への取り組み

のぞみ小児科医院 棚木 則子

当科における難聴が疑われた 0歳児の受診状況 -平成 22年度,23年度を中心に-

富山大学附属病院 西島 由美

10:25‐12:17 演題発表・第 3群 座長 久藤総合病院 小森 賢治

TIAにて入院中に脳梗塞を発症し、嚥下障害・失語症を呈した1例

福井県済生会病院 田村 友美

構音・嚥下障害で発症した Ramsay-Hunt症候群の 1例に対する訓練を経験して

富山県高志リハビリテーション病院 相澤 雄太

在宅生活を送る嚥下障害患者の外来フォローアップを通じて学んだこと

金沢脳神経外科病院 谷口 昌代

高齢者の骨折患者に対して嚥下機能の低下がみられた要因について

南砺市民病院 渡邉貴行

12:20‐13:15 昼食休憩 /賛助団体企業によるプレゼンテーション 三県連絡協議会

13:00‐15:00 賛助団体企業展示

13:30‐14:30 ミニシンポジウム

1. 小児領域での連携について

2. 嚥下食と栄養士との連携について

3. 介護保険施設に勤める STの業務範囲について

4. 高次脳機能障害者の復職、就労、障害受容について

5. 訓練教材について

6. 終末医療(がん患者を除く)におけるリハビリの介入について

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演題発表

10:05‐12:17

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左横-S状静脈洞部硬膜動静脈瘻、

左後頭葉脳内出血により失読失書を呈した症例

伊崎 由絵 1) 經田 香織 1) 神戸 晃男 1) 影近謙治 2)

1)金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門 リハビリテーションチーム 2)金沢医科大学 運動機能病態学 リハビリテーション科

【はじめに】今回、左横-S状静脈洞部硬膜動静脈瘻、左後頭葉脳内出血により漢字に強

い失読失書を呈した症例を経験したので、失読失書の分類と症状の考察を交えて報告す

る。

【症例】80代、女性、右利き、女学校卒業後銀行に 34年間勤務、現在は無職。

【現病歴】X年 4月、息子と電話で内容が伝わらず、A病院入院。ジャーゴン様発話は徐々

に改善。脳腫瘍を疑われ、同年 4月 Y日、当院転院。Y+5日、ST開始。Y+13日、左横-S

状静脈洞部硬膜動静脈瘻、左後頭葉脳内出血、静脈性浮腫と診断され、Y+20日、脳動脈

瘤コイル塞栓術施行。Y+33日、A病院へ転院。

【画像所見】Y+4日、MRI画像にて、左後頭葉皮質下に T1WIで淡い高信号、T2WI/FLAIR

で高信号、辺縁低信号を呈する直径約 10mmの腫瘤性病変あり、血腫が疑われる。周囲の

浮腫性変化は、後頭葉から下側頭回後部、紡錘状回に及ぶ。

【神経学的所見】麻痺なし、視野の右眼耳側上方に僅かに欠損あり。

【神経心理学的所見】図形の模写は良好。スクリーニングにて失認・失行認めず。

【評価】音声言語の理解は良好、表出は中等度の呼称障害があるが日常会話上の支障は

なし。文字言語は、読み書きに障害あり。仮名の音読は、清音 1文字で 36/46、単語は逐次

読みは見られず、時間をかければ音読可能、SALAの無意味語の音読でモーラ数効果を認

めた。漢字の音読は、SALAの漢字の音読にて、心像性効果、頻度効果あり、一貫性効果、

運動性促通効果は認めず。誤り方は、部分読み(番地→「下は“ち”」)、無反応、類音性錯

読(近道→「きんどう」)、漢字の構造説明(指→「手偏に“ヒ”を書いて“ひ”」)などが見られた。

また、書字は、仮名の書取が 43/46、漢字は、想起困難が顕著で、誤り方は、形態性錯書、

新作文字が見られた。

【考察】失読失書には、失語性・非失語性があり、後者には、角回性、側頭葉後下部性、純

粋失読、純粋失書があるとされる。本例は、浮腫性変化が下側頭回後部、紡錘状回、側頭

葉後下部に及んだこと、読み書きともに漢字が強く障害され、呼称障害も伴ったことから、側

頭葉後下部性の失読失書と考えられる。読みの二重経路モデルでは、「漢字語と仮名語は

語彙経路・非語彙経路の双方で処理される」と考えられている。本例の仮名音読は、単語は

音読潜時が長いこと、1文字で若干の低下、無意味語は明らかに低下し、非語彙経路が損

傷されていると考えられる。漢字音読では、誤りの特徴の部分読みや類音性錯読は Iwata

(1988)の報告例と類似している。Iwata(1988)によれば、左側頭葉後下部は、文字、または

文字群の全体像からその語の意味を直接把握するのに重要な領域であると述べており、本

例も、文字から意味把握できずに漢字に強い失読失書を呈したと考えられる。

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感覚性失語症例におけるエラー内容の分析

金沢社会保険病院 宮下 瞳

【はじめに】

今回左頭頂葉から左側頭葉背側への広範な脳梗塞にて感覚性失語症を呈した患者に対し、

表出面における誤り方の分析を行った。

【症例】70代女性、右利き、高等学校卒業、現在無職。礼節良好。

【現病歴】X 年 Y 月 Z 日、食事中にムセて話し方がおかしくなり当院搬送。頭痛や嘔吐はな

し。頭部 CT、MRI にて脳梗塞認め入院。【既往歴】高血圧、高脂血症。【主訴】言いたいとき

にすぐに言葉が出てほしい。【画像所見】左頭頂葉から左側頭葉背側に脳梗塞。【神経学的

所見】特記すべき所見なし。【神経心理学的所見】知的機能、記憶機能は年齢相応。注意

機能は問題なし。

【言語所見】初期評価(発症 9日後):SLTAにて聴理解は単語レベルから低下。読解は短文

の理解から低下。表出は呼称、復唱、音読、書字ともに困難。日常会話では、挨拶、「これ」

や「わからん」などは淀みなく発話可能だが、新造語が多く目標の単語をくみ取ることは困

難。

再評価(発症 3 ヵ月後):SLTA では聴理解、読解において短文レベルにて改善。表出は呼

称困難だが、単語の復唱は改善し、単語の音読では仮名が改善した。日常会話では有意

味語の増加と短文での発話が多くなり、ジャスチャー等の併用で簡単な意思疎通が可能と

なった。

【誤り方の分析】SLTA の呼称、復唱、音読にて出現した誤りを自己修正過程も含め分類し、

初期評価時と再評価時の誤り方の割合を分析した。

【結果】呼称では初期評価時の誤りは 12 回、再評価では 24 回出現した。割合は無反応

16.7%→0%、保続 25.0%→0%、新造語 33.3%→58.3%、意味性錯語 8.3%→0%、無関連性錯語

16.7%→20.8%、音断片 0%→12.5%、その他の音断片 0%→8.3%となった。復唱の誤りは初期評

価時 6 回、再評価時では 4 回出現した。割合は新造語 100%→25.0%、音韻性錯語 0%→

25.0%、音断片 0%→50.0%となった。仮名音読は初期評価時 9回、再評価時 6回誤りが出現

した。割合は無関連性錯語 0%→16.7%、新造語 88.9%→33.3%、音韻性錯語 11.1%→33.3%、

その他の音断片 0%→16.7%となった。

【まとめ】呼称は初期評価時にみられた無反応と保続がなくなり、反応語数が増加した。しか

し目標語への接近はみられなかった。復唱、仮名音読では新造語が減少し、音断片や音韻

性錯語の増加がみられるなど、目標語に接近した。今後は復唱、仮名音読の改善により呼

称にも変化があるか経過を追っていきたい。

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音断片・音韻性錯語を主体とした一例 ~音韻性失名詞との比較~

富田 浩生 1)2) 河村 民平 2)4) 前川 香苗 1) 山内 里紗 1) 小林 康孝 2)3)

1)福井総合クリニック リハビリテーション課 言語聴覚療法室 2)福井県高次脳機能障害支援センター 3)福井総合病院 リハビリテーション科 4)福井医療短期大学 言語聴覚学専攻

【はじめに】音韻性失名詞とは、理解は保たれるが呼称が障害される。呼称の誤りは音韻性

で、目標語の音韻形の一部である音断片も多く、接近行為、頻度効果が認められる。一方

復唱は良好でこうした誤りは認められない。語彙表象は回収されるが、音韻表象が回収され

にくいことによると推定される失語型である(水田ら,2005)。今回、音韻性の誤りを主体とした

症例を経験したため、若干の考察を交え、報告する。

【症例】50歳代、右利き、男性。201X年 10月、自動車運転中に辛くなり帰宅し、A病院受診

し MRIにて左側頭葉~頭頂葉に新鮮梗塞。第 6病日に症状進行し、失読・失書・失行症状

出現。第 34 病日、左浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術施行、第 55 病日自宅退院。日常生

活に問題ないが、復職困難なため当クリニック紹介受診した。

【画像所見】左側頭葉から頭頂葉にかけて比較的広範な梗塞巣があり。

【評価】SLTA:理解面は、聴理解<読解。単語~短文レベルは良好だが、口頭命令は 6/10

とやや困難であった。表出面は発語失行がなく、流暢性発話であり、呼称にて喚語困難、音

断片や音韻性錯語が認められた。復唱・音読は良好。書字では音韻性の誤りが認められた。

失語症語彙検査(TLPA):意味カテゴリー別名詞検査(色を除く)では、高頻度語 74/90

(82%)、低頻度語 46/90(51%)となり頻度効果を認めた。音韻性の誤りが多く、その内容は

音断片、音韻性錯語、意味性錯語の順に多かった。また、接近効果が認められた。時々目

標語に対し、正しく書字できているが喚語できない様子が見受けられた。同一単語での聴

理解と復唱の検討:聴理解(同カテゴリー内、選択肢 10)は 180/180で全て即時正答。復唱

は 174/180 であり、誤った単語でも一度正答すると難なく繰り返すことが出来た。また、語長

効果を認めなかった。「か」がありますか検査:48/48、「か」がどこにありますか検査:24/24。

無意味音節の復唱:5~6モーラまで可能。

【考察】小嶋(2009)の言語情報処理の認知神経心理学的モデルでは、音韻性失名詞は

「出力語彙辞書」から「出力音韻辞書」へのアクセスの障害により出現するとされている。本

症例は理解が保たれており、復唱や音読は良好だった。しかし、呼称にのみ顕著な音韻性

の誤りが出現し、接近行為や頻度効果が認められた。復唱や書字は良好だが、呼称におい

て語彙回収は適切に出来ているものの、音韻回収が不十分なことから、「出力音韻辞書」へ

のアクセスが障害されていることが推測される。以上より、本症例は音韻性失名詞を呈して

いると考えられた。

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高次脳機能障害および認知症患者における疲労度の検討

-発話音声分析装置 CENTE の使用経験-

木田裕子 1)4)、富田浩生 1)4)、吉田 唯 1)、大嶋康介 1)4)

河村民平 3)4)、川端 香 3)4)、小林康孝 2)4)、塩見格一 5) 1)福井総合クリニック リハビリテーション課 2)福井総合病院 リハビリテーション科 3)福井医療短期大学 リハビリテーション学科 4)福井県高次脳機能障害支援センター 5)電子航法研究所

【はじめに】リハビリを実施するにあたっては、本来疲労を考えた上での課題設定が必要で

ある。しかし、高次脳機能障害および認知症患者では、自己の疲労度に対する自覚が低下

している場合があり、客観的な疲労度の判断も必要となってくる。そこで今回、発話音声分

析装置を用い、集団リハビリテーション(以下集団リハ)施行時における高次脳機能障害お

よび認知症患者の疲労状況を調査した。

【発話音声分析装置(以下 CENTE)】塩見らが開発した疲労や覚醒度等の心身状態を評価

する計測装置。発話音声収録のための朗読課題提示機能に加え、様々なアンケート機能

等のデータ収集機能や作業負荷を発生させるための脳トレに類するゲーム機能、これらの

機能をシナリオに従って提示したり時間の経過を管理して終了させたりするシナリオ機能を

有している。収録された発話音声から音声ストレンジ・アトラクタの揺らぎの程度を定量化し

た指標値(以下CEM値;平均 500±100)を算出する。CEM値は脳の活性度が上昇すること

により上昇する。

【対象】2012年 1月 30日~4月 30日の期間に当院通院中の高次脳機能障害および認知

症患者で集団リハを実施した 28名(男性 20名)。内訳は、高次脳機能障害者 17名(1時間

の集団リハ(以下高次脳①):11名・平均 59.3歳、3時間の集団リハ(以下高次脳②):6名・

平均 45.2歳)、認知症者 11名(1時間の集団リハ:平均 78.3歳)。

【方法】集団リハ実施前後にCEM値とVAS(Visual Analog Scale)による疲労度を測定。CEM

値測定のための音声サンプルは短文の音読を使用した。VAS と CEM値の集団リハ前後の

変化値をグラフ上にプロットし、以下の 4群に分類した。A群は VAS、CEM値共にプラス変

化を認めたもの、B群は VAS、CEM値共にマイナス変化を認めたもの、C群は VASがプラ

ス変化・CEM値がマイナス変化を認めたもの、D群は VASがマイナス変化・CEM 値がプラ

ス変化を認めたものである。

【結果】(対象患者からみた結果)高次脳②対象者は、C群または D群に分類され、自覚的

な疲労度と音声による疲労度が一致した。認知症者はすべての群に属したが、高次脳機能

障害者は 1例を除き A群または C群に属した。(群分けからみた結果)A群に属したのは高

次脳①の対象者 6例と認知症者 1例であった。B群に属したのは全て認知症者であった。

【考察】高次脳②は再就労・就学を目標としたグループであり、疲労度を正しく自覚できる能

力があったと思われる。認知症者は疲労を自覚できない者も多く、リハビリ施行時には注意

が必要である。自覚的な疲労を訴えるものの音声による疲労度は認めない者は脱抑制者が

多く、また音声による疲労度を認めるにも関わらず疲労を訴えない者が認知症者の一部に

認められた。これらの患者には、音声による客観的な疲労度の評価が有用である。

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乳幼児療育への取り組み

のぞみ小児科医院 棚木 則子(ST).

林 律子(Dr.)

太田 朗子(ST).

高橋 佐代子(PT).

【はじめに】

乳幼児への遊びを中心とする早期療育と親への丁寧な育児相談を ST と PT が同時に行う

“乳幼児療育”を平成 21年 8月より開始した。10回以上実施した対象児 24名の実施内容と

対象児の変化についてまとめたので報告する。

【対象児】

ことばの遅れがある乳幼児 24名。診断名は自閉症、精神遅滞(知的障害)、言語発達遅滞

または自閉症疑いのいずれかであった。開始時生活年齢は 1歳 4ヶ月~3歳 5ヶ月であり、

初回時発達年齢(津守式)は 75%が 1歳前半レベルであった。

【結果】

実施内容:課題は 10項目用意し、各課題の達成率と療育回数による難易度を調べた。10

項目中 6項目は達成率 100%(難易度:療育回数 1~24回目)になった。

母から離れる、おもちゃで遊ぶ、他者と遊ぶ等の経験が少ない子どもが半数以上いた。他

者とおもちゃを介して遊べるようになると、他者に向かって何らかの要求を行うようになった。

写真の交換選択、手さし・指さしの要求、準備を待つ等は達成率 100%にならず難易度が高

かった。

対象児の変化:アイコンタクト・要求手段・日常語理解について、初回時からの変化を調べた。

アイコンタクト良好 42%→75%、発語による要求可能 29%→67%、日常語理解良好 17%→

67%に変化した。

初回時のアイコンタクトが見られなかった子どもは、三項関係形成後に要求時のアイコンタク

トが出現した。発語による要求を獲得した子どもは、先に間接動作による要求(手さし・指さし)

を獲得した。他者への注目が乏しい子どもは、欲しい物に手や指を向けて手に入った体験を

通して間接動作による要求を獲得した。日常語が音声言語で理解可能になる時期と発語に

よる要求が可能になる時期はほとんど同時期だった。

【まとめ】

子どもにとって理解しやすい環境と手続きによる課題を実施した結果、アイコンタクト・要求

手段・日常語理解に改善を認めた。アイコンタクトや手さし・指さし等のノンバーバルコミュニ

ケーションは一見簡単に獲得できる印象を受けやすいが、興味関心に沿ったものを媒体とし

て行為の意味を学ぶ必要があった。また、前言語期の獲得において、発達障害児は定型発

達と異なる順序で発達している可能性が示唆された。

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0 5 10 15

全身状態の問題

伝音性難聴

詳細不明

音に対する反応

4ヶ月検診

新生児聴覚スクリーニング

当科における難聴が疑われた 0歳児の受診状況 -平成 22 年度,23 年度を中心に-

富山大学医学部耳鼻咽喉科 西島 由美、武田 精一

1.はじめに

富山県では平成17年より新生児聴覚スクリーニング制度が開始された。これにより従来より

発見が遅れがちであった難聴の早期発見が可能となった。富山大学においても、スクリーニ

ングによる発見が契機となり、人工内耳に至る症例は少なくなく、制度として一定の効果をあ

げているといえる。当科ではスクリーニングにより要精査となった新生児に対する、精密検査

機関富山県内4施設のうちのひとつとして指定されている。ガイドラインでも目標としているよ

うに、難聴児の診断に至るまでの期間は限られている。当科でも早期の診断につながるよう

言語聴覚士は検査のみならず一連の流れに関わりをもっている。今回言語聴覚士としての

役割を報告すると共に、今後の課題を検討してみる。

2.受診の内訳

上図に平成22

年、23年で難聴が疑われ精査を目的として受診した0歳児の精密検査の内訳を示す。症例

数は 20例であった。

初診時、難聴疑いがある児では問診票を使い、必要な情報を網羅できるように努めている。

紹介元があれば必要事項の内容を確認し、より詳細な情報が必要であれば確認をとるとい

った作業を行っている。ハイリスク因子、疾患などの全てが予後を推測する上でも貴重な情

報源となっている。必要事項を参考にしながら検査予約を調整することとなるが、検査時期

もスクリーニング機器、状況などにより異なりがあり、きめ細かな配慮が必要とされる。当科で

の精密検査はABR、OAEでの他覚的な検査を行っている。7年が経過し、早期診断を目

的としながらも難渋する症例も見受けられる。両者の特性を踏まえた上でASSRの導入も検

討している。

3.まとめ

乳幼児では得られた情報や他覚的な検査といった限定された中で結果を出すことが求めら

れる。どの時点で滞りが生じても診断の遅れにつながる要因になるといえる。またドロップア

ウトをなくすことは制度当初からの課題であり、引き続き関係機関との連携が必要である。

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TIA にて入院中に脳梗塞を発症し、嚥下障害・失語症を呈した1例

田村友美 1) 高嶋絵里 1) 里千鶴 1) 谷口薫平 1) 青竹康雄 2) 津田豪太 3)

1)福井県済生会病院 リハビリテーション部

2) 同 リハビリテーション科

3) 同 耳鼻咽喉科・頚部外科

【はじめに】

TIA にて入院中に脳梗塞を発症し、嚥下障害・失語症を呈した症例に対し、訓練を実施

する機会を得たため報告する。

【症例】70歳代、男性、右利き。

【現病歴】TIAで入院。翌日、左 MCA領域に新鮮梗塞巣を認める。

【既往歴】脳梗塞(1年前)、舌根部腫瘍(9年前)

【経過】第 2 病日 ST 開始。初回評価:TIA による症状はすでに消失しており、言語機能・嚥

下機能に著明な問題見られず。RSST3回、MWSTプロフィール 5、Food Testプロフィール 5、

藤島の嚥下 Gr10、Lv10、発話明瞭度 1、自然度 1。第 5 病日、運動性失語、発語失行、口

部顔面失行、右顔面麻痺、右舌麻痺、右軟口蓋麻痺を認めた。自発話は単語レベル、内

容語乏しく伝達性低下。状況理解は良好。ジェスチャーをまじえ、悲観的な内容を訴えられ

ることが多くあり。RSST3回、MWSTプロフィール 3b、Food Testプロフィール 3b。呼吸と嚥下

のタイミング不良。吸気を伴う激しいムセあり。藤島の嚥下 Gr3、Lv2。第 6 病日 ST と摂食嚥

下認定看護師による経口摂取訓練開始(ゼリー80g)。1口量ティースプーン 1杯でムセあり。

ティースプーン 1/3 量から開始。第 8~12 病日、ムセなくゼリー1個摂取できる。1 口量の調

節、複数回嚥下、随意的な咳嗽を指導。1個全量摂取できたことで満足感あり。第 12病日、

VEにて舌根部から梨状陥凹に泡沫上唾液あり、嚥下時に喉頭蓋を越えるボーラスの動きあ

り。第 13 病日、昼のみ嚥下食(全粥、半固形等)を開始。経口摂取が順調に進んでいること

に笑顔あり。第 19病日、3食経口摂取へ移行。自主練習も積極的に行われる。第 27病日、

回復期病院へ転院。

【考察】

TIA にて入院中に脳梗塞を発症し、嚥下障害・失語症を呈したために、患者の落ち込み

は著しかった。失語症により意思伝達困難であり、発話を断念することも多くみられた。その

ような状況でご本人の希望が強く、発症早期から経口摂取訓練を開始した。

今回、順調に 3 食経口摂取に至った要因としては、①認知機能が良好であり、摂食の注

意点が守れたこと、②段階的に経口摂取が可能となったこと、③摂食嚥下認定看護師との

連携、病棟看護師との情報共有、の3点が考えられる。さらに、経口摂取が順調に進んだこ

とは、その後の様々な訓練に対する意欲向上にもつながった。

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構音・嚥下障害で発症した

Ramsay-Hunt症候群の 1例に対する訓練を経験して

富山県高志リハビリテーション病院 相澤雄太

【はじめに】 今回,構音・嚥下障害で発症した Ramsay-Hunt 症候群 1 例に対し構音・嚥下

訓練を行い,食形態の制限はあるものの 3食経口摂取可能となったので報告する.

【症例】 70 代男性.右耳痛・咽頭痛を訴え近医受診.数日後,咽頭痛増悪,嗄声出現し A

病院へ入院.右披裂部腫脹,右反回神経麻痺,カーテン徴候(右),右耳介発赤,耳鳴,難

聴,ふらつきあり.A 病院入院後 4 日目より右顔面神経麻痺出現.入院時ほとんど嚥下でき

ないため経口摂取中止.輸液と経管栄養を行っていた.発症 1 ヶ月半でリハビリテーション

目的に当院へ転院.歩行は歩行器使用.セルフケア管理自立.PT,ST実施し,入院約 3ヶ

月で自宅退院した.

〔入院時 ST 所見〕発声・構音については,右口唇に軽い麻痺,鼻咽腔閉鎖不全(R0,L2.5).

発話は小声で粗糙性の嗄声,鼻音化傾向,時に音節の繰り返しなどもみられたが,発話明

瞭度レベル 2,自然度 2でコミュニケーションには特に問題なし.嚥下に関しては,喉頭挙上

範囲低下.RSST3回/30秒,MWST段階 3b.

〔入院時 VF 所見〕入院後 11 日目に行った VF では,咀嚼や送り込み不良,嚥下反射の遅

延,咽頭残留などを認めた.しかし,明らかな誤嚥はなく,咽頭残留に対しては横向き嚥下

が有効であった.

【経過】 発声・構音訓練を行った結果,声量やや増大し,声質にも改善がみられ,会話明

瞭度,自然度ともに向上(会話明瞭度 2→1,自然度 2→1)した. 嚥下障害に関しては,入院

時絶食状態.経鼻経管栄養による栄養管理となっていた.訓練は当初,基礎的嚥下訓練及

びゼリーによる直接訓練を一口量約 3cc,一口毎の左右の横向き嚥下を複数行う条件で実

施した.その後,VF にて再評価を行い,入院 22 日目より昼食のみミキサー食(ゲル固め)開

始.入院 33日目には 3食経口摂取とした.さらに入院 44日目より主食は全粥,副食は軟菜

(刻み大,トロミ○+),水分トロミ付きに食形態をアップ.食事開始当初は注意,指導事項は守

られていたが経口摂取が順調に進むにつれ次第に注意,指導事項は守られなくなり,さら

に隠れて間食をする,嘘を言うなどの行動がみられるようになった.その都度その危険性を

説明,指導を繰り返したが,効果はみられなかった.そこで,スタッフの監視の下という条件

でのみ間食を許可することで対応,その後は,隠れての間食や嘘はみられなくなった.入院

66 日目に退院に向け VF による最終評価を行った.その結果,咀嚼,送り込みに改善を認

めた.ただ,嚥下反射の遅延や咽頭残留は残存し,食形態のアップには至らなかった.

【まとめ】 今回,構音・嚥下障害で発症したRamsay-Hunt症候群の症例に対し,構音・嚥下

訓練を行い,構音・嚥下障害ともに改善がみられた.しかし,経口摂取が可能となり食形態も

アップするにともない食事内容に対する不満や食べ物の制限といったストレスから勝手な行

動がみられるようになった.本症例のように食べる事に関して問題行動を起こすケースはし

ばしばみられるが,今回は,一定の条件で間食を許可することで問題行動は解消,入院中

大きなトラブルもなく 3食経口摂取で退院となった.

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在宅生活を送る嚥下障害患者の外来フォローアップを通じて学んだこと

金沢脳神経外科病院 谷口昌代

【はじめに】

今回在宅で嚥下能力と実際の食事場面について解離がみられた症例において,外来にて

フォローアップを経験した.しかしながらその差を埋める事が出来なかった為若干の考察を

加え報告する.

【症例】

65 歳男性.独居.平成 23 年 7 月 30 日左延髄梗塞にて A 病院入院,退院後,平成 23 年

11 月 10 日当院外来受診となる.初診時は摂食・嚥下能力のグレード:4.摂食・嚥下障害の

臨床的重症度に関する分類:3.摂食・嚥下障害患者における障害患者における摂食状況

のレベル:8.本症例の性格について,説明を受けた直後は納得されるも独断で変えてしまう

事あり A 病院にて左向き嚥下,息こらえ嚥下を訓練で行ってきたが実際の食事場面では汎

化されていない様子だった.月 1回外来にてフォローアップする事になった.

【経過】

外来フォローアップにて1.嚥下造影を通して嚥下能力を知る事.2.左向き嚥下を指導,3.

右側の食道入口部開大不全の開大する目的にてバルーン拡張法を実施.4.食事形態の変

更を実施.

【結果】

VF 検査実施し注意喚起を促す事で飲み込みにくいと感じた食事形態は左向き嚥下を行う

様になってきた.バルーン拡張法について右側の食道入口部にバルーンカテーテルが挿

入できず,代償的に左側を開大した.その後飲み込みにくさを感じるようになり咽頭の知覚

の向上が認められた.その為追加嚥下が起こり咽頭残留が減少した。食事形態に関しては

軟飯から全粥に食形態を下げたが,しばらくして元に戻っている.水分に関してはトロミを付

けるようになった.摂食・嚥下能力のグレード,摂食・嚥下障害臨床的重症度に関する分類,

摂食・嚥下障害患者における障害患者における摂食状況レベルは変化がなかった.

【考察】

本症例は独居であり注意喚起の頻度が少なく外来フォローアップにて注意喚起の場を増や

す事で嚥下に対しての意識が変わってきたと思われる.そのため食事形態に置いて一部変

更することが可能だった。バルーン拡張法で知覚刺激が繰り返し加わり咽頭への知覚が向

上し追加嚥下が起こる事で咽頭残留が減少し、よって誤嚥する機会が減ったと考えられる.

バルーン拡張法は効果がなかった原因として右側の食道入口部が開大しなかった為といえ

る.

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高齢者の骨折患者に対して嚥下機能の低下がみられた要因について

南砺市民病院 地域リハビリテーション科 渡邉貴行

【はじめに】骨折患者に対して水のみ検査、改訂水のみ検査を行った際、時おりムセがみら

れる。骨折患者の嚥下機能低下に関しては、論文が散見される程度である。

骨折(大腿頸部骨折)との嚥下機能について、若林らはサルコペニア(筋減弱症)による

影響を述べている。

ムセが見られている患者は入院初期であり、手術や活動制限における影響は考えにくく、

入院前の栄養が関係しているのではないかと考えた。

今回は栄養状態を主点に置き、後ろ向きの調査を行った。

【対象と方法】H22年 4月 1日から H24年 3月 31日までに当院に入院した圧迫骨折、大腿

骨頸部骨折でパスを使用した患者 85名(平均 83歳)を対象とした。

評価は入院してすぐに実施した為、手術などによる影響は無いと考え、圧迫骨折も対象と

した。

入院後の初期評価で ST が介入し、水のみ検査または改訂水のみ検査を行いムセがあった

群(13 名)となかった群(72 名)とに分けて検討した。なお、水分に関しては入院前と同じ形

態で評価した。

項目は①性別②年齢③BI(Barthel index)④現病歴⑤入院日数⑥合併症⑦既往歴⑧

HDS-R⑨栄養の関連指標(白血球数、総コレステロール、CRP、TP、クレアチニン、尿素窒

素、BMI、リンパ球数、中性脂肪、ヘモグロビン)

①~⑤はχ2検定、⑥~⑨は対応のない T検定を用いて統計学的な検討を行った。

【結果】ムセあり群の 13名中 10名は 85歳以上であった。また、85歳以上において 27名中

10名ムセがみられた。

年齢では有意差が見られ、ムセあり群はムセなし群と比較して高齢であった。CRP と BMI

に有意差はでなかったが傾向は見られた。CRPはムセあり群の方が高値であり、BMIはムセ

あり群の方が低値であった。

その他の項目においては有意差や傾向は認められなかった。

【まとめ】今回の調査からは、栄養状態の差は BMIによる傾向が見られた程度だが低栄養状

態に対する影響が示唆される点、年齢による有意差があり加齢による影響がある点、の 2 点

が言える。

藤島らや若林らによれば加齢による嚥下機能低下するとされており、骨折であっても高齢

者には入院初期から嚥下評価が必要と考えられる。

今後は、対象患者数や調査項目の増加(服薬、病前 B.I.等の活動性)を行い、年齢以外の

因子の影響についても検討してきたい。また今回の調査では、入院前の水分の形態に戻ら

なかった患者もみられたため、予後についても影響を与える因子がないかを検討していきた

い。

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ミニシンポジウム

13:30‐14:30

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各テーマの概要

テーマ1 「小児領域での連携について」

司会: 村上美矢子(金沢医療センター)

演者: 見目隼人(トゥモローズリハビリテーションセンター)

俵順子(高岡市きずな学園)

水野奈緒美(石川療育センター)

【概要】

発達途上のこどもたちに、効率的・効果的な支援を行うためには、医療・福祉・教育の各機関や地域保

健センタ-等が、情報を共有することが重要となります。

「連携」を考える入り口として、今回は、発達障害・重複障害・聴覚障害の各事例を通して各県の病診連

携・地域連携・社会資源などに関する情報交換、および、ST が地域へ発信出来ることは何かを具体的

に考えたいと思います。

テーマ2 「嚥下食と栄養士との連携について」

司会: 石井亜紀子(山中温泉医療センター)

演者: 高崎尚子(木村病院)

山本晃彦(済生会富山病院)

前幸穂(城北病院)

【概要】

現在、嚥下食の統一規格がなく、色々な食事段階基準が併存し、また各施設でさまざまな嚥下食が作

成・利用されています。そこで各施設でどのような嚥下食を採用していて、どのような工夫がなされている

のか、栄養士とどのように連携をとっているのか、どのようにして食物形態を設定しているのかを本シンポ

ジウムにて情報交換できればと思います。

テーマ3 「介護保険施設に勤める STの業務範囲について」

司会: 三輪菜穂子(サンビューかなざわ)

演者: 中内一暢(介護老人保健施設 湯の里ナーシングホーム)

上井玲子(介護老人保健施設 金沢南ケアセンター)

【概要】

介護保険分野での ST のニーズは高まりつつあります。しかし ST の役割の不明確さから、任される業務

は施設により様々です。専門性を認めてもらえない、「食べること」の責任を丸投げされるなど、自身の存

在に葛藤している ST も多いのではないでしょうか?本シンポジウムでは、それぞれの現状や思いを情報

交換し、やりがいのある STの業務について考えていきたいと思います。

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テーマ4 「高次脳機能障害者の復職、就労、障害受容について」

司会: 田谷奈那子(済生会金沢病院)

演者: 木田裕子(福井総合クリニック)

西田勇人(高志リハビリ病院)

日野紗希子(金沢脳神経外科病院)

【概要】

高次脳機能障害者の復職、就労は大きな課題であり、その前提となる障害受容もまた大きな問題である

と思われます。本シンポジウムでは事例を通し、当事者、家族へのアプローチ、関係機関や職場との連携

について検討したいと思います。

テーマ5 「訓練教材について」

司会: 瓦彩乃(山中温泉医療センター)

演者: 木村牧人(金沢西病院)/中澤久夫(福井総合病院)

武田精一(富山大学付属病院)

藤田徹(金沢こども医療センター)

【概要】

近年 PC や iPad、スマートフォンなど IT を利用した教材による訓練が活発になってきています。一方で

各施設に昔から伝わる独自のアナログの訓練教材も依然として活用され進化しています。そこでデジタル、

アナログ両方の教材の紹介、活用方法や適応などデモンストレーションを交えて発表いただき、情報交換

したいと思います。

テーマ6 「終末医療(がん患者を除く)におけるリハビリの介入について」

司会: 竹内満(城北病院)

演者: 小島育子(新田塚デイサービスセンター)

羽柴尚子(南砺市訪問看護ステーション)

森川和美(恵寿総合病院)

【概要】

超高齢者の方に胃瘻を造設すべきなのか、機能リハを強いる意味はあるのだろうか、経口摂取が困難と

判断された患者さんにどのように対応していけばよいのか‥。終末期にある患者さんに対して ST として何

ができるのか、どこに意義づけていくのか、どのようにゴールを設定したらよいのか、答えの出しづらい問

題に皆で取り組みたいと思います。

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会場案内

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第 12回 北陸言語聴覚学術集会

プログラム・抄録集

2012年 10月 16日発行

発行者:勝木 準

(一般社団法人 石川県言語聴覚士会会長 )

事務局: やわたメディカルセンター

学術局: 經田香織、山﨑憲子、伊崎由絵、岡本一宏

清水亜紀子、松田はるか、新田茜、水野奈緒美