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プラズマ発光装置(PLS)は日常生活、特に屋外での利 用が広がっています。発光ダイオード(LED)や高輝 度放電ランプ(HID)などの光源に比べて、PLS の放 つ光はルーメン密度が高く、眼にやさしく、植物の光 合成にも有効な太陽光に近いスペクトルを持っていま す。メタルハライドランプやナトリウムランプと比べ て消費エネルギーが少なく、低コストです。また、寿 命が長く、従来の白熱光源のおよそ 20 倍も長持ちしま す。 PLS の設計では、プラズマ光を覆う誘電体部品によっ て共振周波数が変化することが課題となります。また、 プラズマ発光ではマグネトロンにより生成される 2.45GHz のマイクロ波を使用しますが、この周波数は Wi-Fi Bluetooth などの短距離無線通信で使用される 帯域と重なっています。さらに、高エネルギーに達す る電磁波が万一漏洩すると、使用者の電磁波ばく露や 外部システムへの干渉を起こすおそれがあるため、空 洞には高い遮蔽性が要求されます。 CST APPLICATION ARTICLE プラズマ発光装置の設計 マルチフィジックスによるアプローチ CST STUDIO SUITE のマルチフィジックス シミュレーションを活用した、プラズマ発光装置の設計事例 をご紹介します。この装置は ISM 帯の 2.45 GHz で動作します。空洞と給電システムについて高周波シミ ュレーションを行い、設計の電気、磁気、熱、機械それぞれの特性をテストします。 1: プラズマ発光装置の温度プロファイル

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プラズマ発光装置(PLS)は日常生活、特に屋外での利

用が広がっています。発光ダイオード(LED)や高輝

度放電ランプ(HID)などの光源に比べて、PLS の放

つ光はルーメン密度が高く、眼にやさしく、植物の光

合成にも有効な太陽光に近いスペクトルを持っていま

す。メタルハライドランプやナトリウムランプと比べ

て消費エネルギーが少なく、低コストです。また、寿

命が長く、従来の白熱光源のおよそ 20倍も長持ちしま

す。

PLS の設計では、プラズマ光を覆う誘電体部品によっ

て共振周波数が変化することが課題となります。また、

プラズマ発光ではマグネトロンにより生成される

2.45GHz のマイクロ波を使用しますが、この周波数は

Wi-Fi や Bluetooth などの短距離無線通信で使用される

帯域と重なっています。さらに、高エネルギーに達す

る電磁波が万一漏洩すると、使用者の電磁波ばく露や

外部システムへの干渉を起こすおそれがあるため、空

洞には高い遮蔽性が要求されます。

CST APPLICATION ARTICLE

プラズマ発光装置の設計 マルチフィジックスによるアプローチ

CST STUDIO SUITEのマルチフィジックス シミュレーションを活用した、プラズマ発光装置の設計事例

をご紹介します。この装置は ISM帯の 2.45 GHzで動作します。空洞と給電システムについて高周波シミ

ュレーションを行い、設計の電気、磁気、熱、機械それぞれの特性をテストします。

図 1: プラズマ発光装置の温度プロファイル

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高周波を遮蔽するために空洞の外側をメッシュシート

で覆いますが、可視光は透過しなくてはなりません。

つまり、遮蔽性と可視性はトレードオフの関係にあり

ます。メッシュの設計では、上記のほか製造上の制約

も考慮する必要があります。

安全性ということでは、温度と機構に関することにも

注意が必要です。プラズマは大量の熱を放出するため

(図 1 と図 2)部品に使用されているすべての材質に

ついて熱の影響を考慮します。温度変化により構造変

化が生じる可能性があります。熱膨張により部品が変

形し、パーツの位置合わせが適切に行われていないと

損傷や性能低下を招くおそれがあります。

材質には、温度の変化によって熱電気、歪み、応力、

変位のような特性値が影響を受けるものがあります。

メッシュシートには、融点が高く、熱に強い機械的性

質を持つ材質を用いる必要があります。この事例では

熱変形と曲げ変形の影響を解析します。

図 2: 測定した温度プロファイル 図 3: 空洞モデル

図 4: 固有モードソルバーで解析した TE111モード

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空洞の設計とシミュレーション

最初に空洞と、空洞に繋がるウェイブガイドの設計を

行います。マイクロ波の周波数で空洞への結合を実現

するには何通りかの設計があります。この事例では、

空洞共振器の円形アパーチャを矩形ウェイブガイドに

結合させます(図 3)。

固有モードソルバーを使用して共振周波数を算出しま

す。

空洞の大きさを変えることにより、共振周波数を

2.45GHzに調整します(図 4)。

プラズマシミュレーション

プラズマの特性値は、電離していない空気とは異なり

ます(図 5と表 1)。CST STUDIO SUITEは、プラズマ

のシミュレーションに不可欠な電離材質モデルを備え

ています。プラズマを Drude材質でモデル化し(図 6)、

時間領域ソルバーを使用してシミュレーションを行い

ました。電球、ミラー、プラズマが加わると、今度は

電球内の材質により共振周波数がシフトします。誘電

率が高いほど、共振周波数は低くなります。スロット

と空洞の大きさを調整して(たとえばパラメータスイ

ープによって)、共振周波数を目的の値に合わせます。

ポスト処理でフーリエ変換を行い、共振周波数におけ

る励起信号と出力信号を取り出します。CST STUDIO

SUITE ではポスト処理のテンプレートを利用して、上

記信号が容易に得られます。

図 6: 実際のプラズマ(左)とプラズマモニターのプロット(右)

図 5: フーリエ変換された出力信号。電離の共振への影響

を示しています。

表 1: シミュレーション結果(上段)と測定結果(下段)

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メッシュの設計

先に述べたように、プラズマ発光装置全体を覆い、電

磁波ばく露や干渉が起きないように高周波電磁波を遮

蔽するためのメッシュシートは、遮蔽性と可視性と共

に製造上の制約に配慮して設計する必要があります。

図 7: メッシュ形状(上から)円形、矩形、六角形(ハニカム)

一般的な形状は、円形、矩形、六角形です(図 7)。こ

の事例では、最も優れた熱特性を有し、機械的変形に

対し最もロバストな六角形のハニカムメッシュを採用

しました。メッシュの遮蔽性は形状と厚さに依存しま

す。すなわち電磁波を有効に遮断するためには、表皮

厚さを上回る厚さとし、穴の直径を波長より小さくす

る必要があります。

遮蔽効果を高めるためには、線幅を広げ、穴を小さく

する必要があります(図 8と 9)。その反面、それでは

透過性を損なう可能性があり、可視性と遮蔽性の両方

に配慮することが重要です。

図 8: 実際のメッシュと 2つのパラメータ。

図 9: メッシュの大きさによる遮蔽性の違い(横軸:周波数、縦軸:S

パラメータ)

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熱解析と構造解析

空洞内部のプラズマに生じた熱は、電球を通して高周

波電磁界から周辺環境へと伝わります。 CST

MPHYSICS STUDIOでは温度分布と熱流のシミュレー

ションが可能です。定常熱ソルバーは、装置が動作し

た状態の定常熱分布を計算します(図 10)。

現実には、すべての部品の軸があっているとは限りま

せん(図 11)。軸ずれ(ミスアライメント)が熱効果

におよぼす影響を調べました。メッシュの軸がずれて

いると、高温によりメッシュが変形したり損傷を受け

たりする可能性があることが示されました(図 14)。

温度の変化につれて、熱せられた部品が膨張し変形し

ます。CST MPHYSICS STUDIOのMechanicalソルバー

では、上記のシミュレーションで計算された温度分布

を使用して熱膨張のシミュレーションを行うことがで

きます(図 12と 13)。

変形したメッシュの 3D モデルを使用した解析では、

そのような温度プロファイルで使用した場合の安全性

や安定性を確かめることができます。

図 10: PLSの温度プロファイル

図 11: 軸ずれの温度プロファイル(水平面に対し 5°回転)

図 12: mechanicalシミュレーション: 変形の誇張表示

図 13: 軸ずれによる構造の変形

図 14: 軸ずれによるメッシュの損傷

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まとめ

プラズマ発光装置の設計とテストは、複雑なプロセス

を経て行われます。共振周波数の計算と最適化、また

遮蔽機構の開発には、電磁界シミュレーションを利用

できます。パラメータスイープや最適化で比較を行う

ことによって、条件に最も適応する寸法が選択しやす

くなります。温度シミュレーションと機械シミュレー

ションでは熱流と温度プロファイルを確認し、問題の

原因となるおそれのある事柄を割り出すことが可能で

す。

CST STUDIO SUITEではさまざまな分野のソルバーが

ひとつのインターフェイスのもとに統合され、複雑な

プロセスもスムーズなワークフローで進めることがで

きます。

CSTについて

CSTはダルムシュタット工科大学の研究者達が創業した数値解析専門のソフトウェア開発会社です。

1992年に最初の電磁界ソフトウェアMAFIAを発表して以来、開発設計の第一線に向けて革新的な数値

解析技術を提供して来ました。電子機器が飛躍的な

進歩を遂げる裏で、設計開発にかかる課題は高度化

と多様化の一途をたどり、しかもプロセスの改善や

加速化が常に求められています。そうしたなかで電

磁界シミュレーションは、技術者を支援するツール

として瞬く間に広く使われるようになりました。

数値解析の発展と歩調を合わせてハードウェアも

長足の進歩を遂げ、現在では汎用のコンピューター

で大規模演算が行えるようになりました。シミュレ

ーションの認知度が上がるにつれて、システムレベ

ルのシミュレーションに期待が寄せられています。

現在の高度に複雑なシステムが抱える問題はひと

つのカテゴリに収まるものではなく、複数の解析

法を連携させて解く必要があります。CST STUDIO SUITEではさまざまな解析技術がひとつのユーザーインターフェイスに統合されており、複雑なシ

ステムの解析をスムーズなワークフローで進める

ことができます。

確立した解析技術と使い勝手の良さはそのまま

に、効率の良いシステムシミュレーションを可能

とする連携機能を加えた CST STUDIO SUITEは、技術者のニーズに応える解析ツールとして好評を得

て、世界中の研究機関と企業で通信、防衛、自動

車、電子機器をはじめとする広範な分野に応用さ

れています。

Trademarks CST, CST STUDIO SUITE, CST MICROWAVE STUDIO (CST MWS), CST EM STUDIO, CST PARTICLE STUDIO, CST CABLE STUDIO, CST PCB STUDIO, MPHYSICS, CST MICROSTRIPES, CST DESIGN STUDIO, CST EMC STUDIO, CST BOARDCHECK, PERFECT BOUNDARY APPROXIMATION (PBA), and the CST logo are trademarks or registered trademarks of CST in North America, the European Union, and other countries. Other brands and their products are trademarks or registered trademarks of their respective holders and should be noted as such. CST STUDIO SUITE® is a CST® product. CST – Computer Simulation Technology AG, Bad Nauheimer Str. 19, 64289 Darmstadt, Germany

執筆

Seung-Won Baek, Senior Application Engineer, CST of America Dr. Monika Balk, Principal Engineer, CST AG Ki-Ho Kim, Senior Engineer, LG Nex1 co., Ltd