1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2...

14
財政学13財政と経済安定化政策(120131220担当:天羽正継 1

Transcript of 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2...

Page 1: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

財政学Ⅱ

第13回 財政と経済安定化政策(1) 2013年12月20日 担当:天羽正継

1

Page 2: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

GDPの決定と財政政策(1) 2

財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」 第二次世界大戦後、ケインズ経済学の興隆とともに、政府が財政支出を行って経済の安定化を図るケインズ政策が先進各国で実施される。

GDP の決定 国民所得方程式Y = C + I +G +NX を単純化して、 Y = C + I とする。

政府支出(G )と純輸出(NX )を省略して、(支出面からみた)GDP が消費(C )と投資(I )のみから構成されるとする。

C = 𝐶𝐶 + cY とする。ここで、𝐶𝐶 はプラスの定数。c は 0 < c < 1 の値をとる限界消費性向。

𝐶𝐶 がプラスであるということは、所得がない時( Y = 0 )でも消費が行われるということを意味。

0 < c < 1 であるということは、所得のすべてを消費には回さず、残りは貯蓄するということを意味(S = Y -C )。

投資はGDP とは独立に与えられ、所与の値をとるものとし、I = 𝐼𝐼 とする。 45度線分析によってGDP の決定を説明(スライド3 )

C を表す直線は、45度線よりも傾きの緩やかな直線。

C を表す直線を 𝐼𝐼 だけ上に平行移動させることによって、C + I を表す直線が得られる。

45度線とC + I を表す直線の交点E1で均衡GDP(Y1 )が得られる。 Y < Y1 の場合、Y < C + I となり、需要が供給を上回るため、生産が増加し、Y は右方向に移動。 Y > Y1 の場合、Y > C + I となり、供給が需要を上回るため、生産が減少し、Y は左方向に移動。結局、Y はY1 に落ち着く。

Page 3: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

GDPの決定と財政政策(2) 3

C

C + I

E0

E1

0 Y0 Y1 Y

Y, C + I

I

Page 4: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

GDPの決定と財政政策(3) 4

国民所得方程式に政府支出(G )を加えてY = C + 𝐼𝐼+ G とする。均衡GDP はY2 に決定する(スライド5)。 乗数の導出

消費は租税を支払った後の可処分所得 からなされると考え、C = 𝐶𝐶 + c ( Y-T ) とおく。すると、国民所得方程式は Y = 𝐶𝐶 + c ( Y-T ) + 𝐼𝐼+ G となる。

政府支出が変化した時に(ただし税収は変化せず)GDP がどれだけ変化するかを考える。変化後の国民所得方程式は ( Y + ΔY ) = 𝐶𝐶 + c {( Y + ΔY ) -T } + 𝐼𝐼+ ( G + ΔG ) となる。この式から変化前の式を引くとΔY = c ΔY + ΔG となり、整理するとΔY = 1

1 − 𝑐𝑐 ΔG となる。 1

1 − 𝑐𝑐 は政府支出が変化した時にGDP がどれだけ変化するかを示しており、乗数と呼ば

れる。

0 < c < 1 より 11 − 𝑐𝑐

>1 となる。すなわち、政府支出を増やすとGDP はそれ以上に増える。

消費の「裏側」は貯蓄。したがって1 – c は、GDP が変化した時に貯蓄がどれだけ変化するかを示しており、限界貯蓄性向と呼ばれる( s =1-c )。

同様に、税収が変化した時に(ただし政府支出は変化せず)GDP がどれだけ変化するかを考える。変化後の国民所得方程式は( Y + ΔY ) = 𝐶𝐶 + c {( Y + ΔY ) - ( T + ΔT )} + 𝐼𝐼+ G となる。この式から変化前の式を引くとΔY = c ( ΔY -ΔT )となり、整理するとΔY = −𝑐𝑐

1 − 𝑐𝑐 ΔT となる。すなわち、税収の変化とGDP の変化の方向は逆になる。

さらに整理するとΔY = ( 11 − 𝑐𝑐

-1 ) ( -ΔT ) となる。すなわち、減税をすればGDP は増加するが、その増え方は政府支出を増やした時の増え方よりは小さい。

Page 5: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

GDPの決定と財政政策(4) 5

乗数の導出(続) これまでは財政支出を変化させても税収を変化させない(財政赤字の)ケースを考えてきた。

これに対して、財政支出を税収ですべて賄う均衡予算のケースを考える。G = T を国民所得方程式 Y = 𝐶𝐶 + c ( Y-T ) + 𝐼𝐼+ G に代入して整理すると、Y = 1

1 − 𝑐𝑐 𝐶𝐶 + G + 1

1 − 𝑐𝑐 𝐼𝐼 となる。ここで、政府支出が変化した時に

GDP がどれだけ変化するかを考える。変化後の国民所得方程式は( Y + ΔY ) = 11 − 𝑐𝑐

𝐶𝐶 + ( G + ΔG ) + 11 − 𝑐𝑐

𝐼𝐼 となる。この式から変化前の式を引くとΔY = ΔG となり、政府支出の変化とGDP の変化は等しいことが分かる。

すなわち、乗数は1 である。均衡予算ではない(財政赤字の)場合の乗数は 11 − 𝑐𝑐

> 1 であるから、それよりも乗数は小さい。

以上のように、政府は財政支出を変化させることによってGDP をコントロールしようとする。これはGDP の需要(支出)面を変化させる政策であるため、総需要管理政策とも呼ばれる。

Page 6: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

GDPの決定と財政政策(5) 6

C + I

C + I + G

G

E1

E2

0 Y1 Y2 Y

Y, C + I + G

Page 7: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(1) 7

これまでの分析では財政政策のみを対象としてきたが、実際の経済安定化政策では、財政政策と金融政策が一体的に行われることが多い。 例:「アベノミクス」における「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」。 財政政策と金融政策が経済に対して与える効果について考えるためには、IS-LM 分析が有効。

IS 曲線 財・サービス市場での需要と供給の均衡を実現する利子率とGDP の関係を表す。

投資は利子率に、消費はGDP に依存する(I = I(r) , C = C(Y) )。IS 曲線は、国民所得方程式Y = C(Y) + I(r) を満たすY とr の関係(ただし、単純化のために政府支出(G )と純輸出(NX )は省略)。

上記の国民所得方程式を変形すると、Y -C(Y) = I(r) となる。左辺は貯蓄に他ならないから、S(Y) = I(r) となり、結局IS 曲線が表すのは、貯蓄と投資を均衡させるY とr の関係ということになる。

貯蓄はGDP が増えれ(減れ)ば増加(減少)し( 𝜕𝜕𝑆𝑆𝜕𝜕𝑌𝑌

> 0 )、投資は利子率が下がれ(上がれ)ば増加(減少)する( 𝜕𝜕𝐼𝐼

𝜕𝜕𝑟𝑟 < 0 ) 。

もしGDP が増えた場合、貯蓄は増加するが、貯蓄と投資が均衡するためには投資が増えなければならない。そして、投資が増えるためには利子率が下がる必要がある。したがって、GDP(Y )と利子率(r )の間には負の関係があり、IS 曲線は右下がりとなる(スライド9)。

Page 8: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(2) 8

LM 曲線 貨幣市場での需要と供給の均衡を実現する利子率とGDP との関係を表す。

貨幣市場での需要はL、供給(マネー・サプライ)はMで表す。

貨幣供給M は所与の値とする(モデルの外部から与えられる)。

貨幣需要L はGDP が増えれば増加し( 𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝑌𝑌

> 0 )、利子率が高ければ減少する( 𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝜕𝑟𝑟

< 0 ) 。

GDP が増えると取引量が増え、決済手段としての貨幣に対する需要は増加する(取引需要)。 利子率が高ければ、将来利子率が低下し、債券価格が上がるという予想が増えるため、債券に対する需要が増加し、貨幣に対する需要が減少する。

利子率と債券価格の間には負の関係がある。

GDP が増えた場合、貨幣需要L は増えるが、貨幣供給M は一定のため、L > Mとなる。 L = Mとなるためには、利子率が上昇してL が減少しなければならない。したがって、GDP と利子率の間には正の関係があり、LM 曲線は右上がりとなる(スライド9)。

IS 曲線とLM 曲線の交点で均衡利子率(r*)と均衡GDP(Y*)が決定する(スライド9)。

Page 9: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

9

IS

Y* GDP(Y )

利子率(r )

0

IS-LM分析と財政金融政策(3) LM

r*

Page 10: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(4) 10

財政支出が増えると、IS 曲線は右方向にシフト(スライド11)。 右方向にシフトする理由:財政支出が増えると、GDP は増加する(スライド6の45度線分析を参照)。この時、利子率は一定のままであるとする。利子率一定でGDP が増加するということは、IS 曲線が右方向にシフトすることを意味する。

シフト後のIS 曲線とLM 曲線の交点で、新たな均衡利子率(r2 )と均衡GDP(Y2 )が決定する。GDP は増加し、利子率も上昇。 しかし、GDP の増加分は、IS 曲線のシフト分よりは小さい。これは、利子率が上昇して民間投資I が減少したため。このように、政府支出の増大が民間投資を「押しのけて」減少させることを「クラウンディング・アウト」と呼ぶ。

貨幣供給が増えると、LM 曲線は右方向にシフト(スライド12)。 右方向にシフトする理由:貨幣供給が増えた場合に、利子率が一定のままであるとすると、貨幣需要と均衡するためにはGDP が増加しなければならない(貨幣需要はGDP の増加関数であるため)。利子率一定でGDP が増加するということは、LM 曲線が右方向にシフトすることを意味する。

シフト後のIS 曲線とLM 曲線の交点で、新たな均衡利子率(r2 )と均衡GDP(Y2 )が決定する。GDP は増加するが、利子率は低下。

財政支出を拡大(IS 曲線を右にシフト)するとともに貨幣供給を増やす(LM 曲線を右にシフト)ことによって、利子率の上昇を抑えつつGDP の増加を図ることが可能(スライド13)。 財政政策と金融政策の一体的運用。

Page 11: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(5) 11

IS IS´ LM

0

r1

r2

Y1 Y2

利子率(r )

GDP(Y )

Page 12: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(6) 12

IS LM

0

r1

Y1 Y2

r2

利子率(r )

GDP(Y )

LM´

Page 13: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(7) 13

IS LM

0

r1

Y1 Y2

r2

利子率(r )

GDP(Y )

IS´

LM´

Y3

Page 14: 1 第13回 財政と経済安定化政策(1 2013年12月20日 担当:天羽 … · 2 gdpの決定と財政政策(1) 財政の三つの主要な機能=「資源配分」「所得再分配」「経済安定化」

IS-LM分析と財政金融政策(8) 14

財政金融政策の効果がどのようになるかは、IS 曲線とLM 曲線の傾きに依存する。 投資の利子弾力性(利子率の変化に対して投資がどの程度反応するか)が大きいと、利子率のわずかな低下にたいして投資が大きく増大し、GDP も大きく増大するため、IS 曲線の傾きは緩やかになる。

貨幣需要の利子弾力性(利子率の変化に対して貨幣需要がどの程度反応するか)が大きいと、利子率のわずかな上昇に対して貨幣需要が大きく減少するため、貨幣供給と均衡するためには、GDP が大きく増加する必要がある。そのため、LM 曲線の傾きは緩やかになる。

自習課題:様々な傾きのIS 曲線とLM 曲線を図に描き、それらをシフトさせることで利子率とGDP がどのように変化するかを自分で確かめてみよ。