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巻  頭  言

岐阜大学大学院医学研究科腫瘍制御学講座消化器病態学分野教授 森脇 久隆

「Nutrition Support Journal」第 26 号をお届けします。今回の趣旨は NST/

ASSESSMENT NETWORK 記事のなかで村上啓雄先生が発言されている通

り,「患者さんの動線上で途切れない医療」をチームで如何に実現するかとい

うことに尽きます。ここでいう「動線」とは医療施設などでよく使われる,た

とえば「玄関から診察室までの移動ライン」のことではなく,患者さんの病気

が発生した場(自宅や事故の現場など)から医療機関への移動,最初の医療施

設での診療,次の医療施設(より高次のこともあれば後方施設のこともありま

す)への移動,退院,自宅療養までを一連の経時的事象としてとらえ,その全

体にチームとして当たることを意識しての「動線」です。NST の立場からい

えば,やはり村上先生の言葉ですが「○○患者さんチーム」という大きな仕掛

けのなかで,NST がどう機能するかという課題につながります。今の NST は

色々な現場で忙殺されているのが現状でしょうが,常にこのような意識を持つ

ことが NST の地位を一層向上させる上で必須です。救急 NST,集中治療施設

NST,一般病棟あるいは臓器別 NST,在宅 NST,緩和 NST などさまざまな

局面を反映する NST 呼称がありますが,一人の患者さんにとってはいずれも

一繋がりのもので,単一局面の NST では完結されないことを十分意識すべき

でしょう。

このような患者さんの「動線」に寄り添うチームの最初を担当するのが,重

症患者であれば現場での救急隊員であり,移送中の医療従事者であり,救急

外来の各スタッフということになります。ここでの栄養が語られることは従

来比較的少なかったように思いますが,実は患者さんの治療反応性を規定す

る最大の因子でもあることは,今号によく記載されています。ただしやはり

PROCEEDINGS の論文からも読み取れる通り,ガイドラインとはいえいまだ

一致を見ない推奨もあり,常に情報をリニューアルされるようお進めします。

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NST/ASSESSMENTNETWORK

患者中心の医療とはなにか?ー救急から在宅まで,横断的チーム医療の展開めざすー

26Nutrition Support Journal

 10 数年ほど前から,医療現場では『チーム医療』,『多職種連携』の重要性が高まり,各医療機関は栄養管理チーム(NST),感染制御チーム(ICT)などの医療チームを発足・稼動させている。しかし,実際の現場ではチーム医療の本来の意義が適切に理解されず,“チームの組織つくり”や“チーム全員で回診する”といった,医療者側の視点のみでの体制整備が進められていることも多い。いうまでもなく本来のチーム医療は,患者さんを中心とした診療体制であるべきで,これを実践できる体制を整えることが重要である。 今回,患者さんの動線上でとぎれない“真の医療体制”を目指している岐阜大学医学部附属病院(写真 1)の取り組みについて,生体支援センターの村上啓雄先生(写真 2),高次救命治療センターの小倉真治先生(写真 3),吉田省造先生(写真 4),白井邦博先生(写真 5)にお話を伺った。

患者中心の医療とは ~真のチーム医療~『チーム医療』,『多職種連携』の重要性が認識される

ようになり,それらは診療報酬の算定要件として設定されるようになった。こうしたことから,時に,栄養管理チーム(Nutrition Support Team:NST),感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)などの“医療チームをつくること”,“医療チームで動くこと”のみを第一義にしてしまう可能性がある。これはチーム医療の本質ではない。しかし,これによって,真の意味での『チーム医療』,『多職種連携』の重要性が現場で認識されたことも事実であり,これを推進した方々の貢献は多大であった。これらを踏まえたうえで,岐阜大学医学部附属病院(岐阜大学病院)生体支援センター センター長の村上啓雄先生は,「これからは“真のチーム医療”を実践していかなければならない」と強調する。

真のチーム医療とは,個々の患者さんに必要な医療を考えた場合,各職種がそれぞれの専門性を活かし,患者さんを直接的にサポートする患者さん中心の医療であ

り,わかりやすく言えば“○○患者さんチーム”と呼ぶべきものである。その実践の場は,患者さんの動線上でとぎれない医療を提供するために,病院内に限らず,救急領域では病院に来る前(救急搬送)から病院を出た後

(在宅医療)までのすべてであり,まさに患者さんの療

写真 1 岐阜大学医学部附属病院

写真 2 村上啓雄 先生

写真 3 小倉真治 先生

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養生活に寄り添う形となる。なぜなら,救急患者は病院に来る前から医療支援を必要としており,救急隊員を含めた医療体制は必要不可欠になるからだ。また,大学病院をはじめとする急性期病院の在院日数がますます短縮する中で,結果として診療は退院で完結することはほとんどなくなり,患者さんは退院後も継続的に医療を受けなければならない場合が増える一方である。そのため,地域医療スタッフとの連携による包括的医療・支援体制の構築は欠かすことのできない最重要課題である。

現在,岐阜大学病院では,このような考えのもと,患者さんの動線上で医療がとぎれないための真のチーム医療の実践をめざし,生体支援センターや高次救命治療センターの発足,高次救命治療センターによる救急医療情報 流 通 シ ス テ ム「GEMITS(Global Emergency Medical support Information Transport System)」 の導入,感染管理地域連携ネットワークの構築などさまざまな取り組みを行っている。

生体支援センター発足による 院内ヒューマンネットワークの確立生体支援センターとは,2003 年 4 月,全人的患者診

療を横断的に支援することを目標に,すでに 1997 年より稼働していた ICT に,NST および褥瘡対策チーム

(Pressure Ulcer Team:PUT)を統合して発足させた診療サービス部門である。その背景には,多職種の協力体制が担うチーム医療によって支えられるのは ICT に限らず,NST も PUT も同様だという考えがある。

しかも,ICT,NST,PUT それぞれの業務内容や担

当スタッフには共通点が多い。具体的にいうと,栄養障害のある患者さんでは,治療に対する反応性や褥瘡を含む創傷治癒を損ない,患者免疫能を低下させ易感染状態をもたらす。そのため,栄養管理を徹底すれば,医療関連感染制御や褥瘡対策にも良い影響を与えることになる。実際,血管カテーテル管理における NST の関与がカテーテル関連血流感染症を低下させている事実は,ICT の負担を減らすことにも繋がっている。そのため,ICT,NST,PUT といったチームを個々につくるよりも,各業務を統合して行う部門を立ち上げ,チーム間で協力するほうが効率的で,少ない人員でも診療科からの要請に迅速に対応でき,患者さんに最適な医療を提供することが可能になる。

このようなことから 2008 年より,呼吸サポートチーム(Respiratory Support Team:RST)も生体支援センターでの活動を開始した。RST もまた ICT や NSTなどとのコラボレーションが重要だからである。例えば,人工呼吸器関連肺炎発生時に,RST は感染制御のために ICT のサポートを受けることもあれば,その背景に栄養障害による易感染状態があれば NST のサポートを受けることもあると高次救命治療センター 講師の白井邦博先生は話す。

現在,生体支援センターでは,専任職員である医師 4名(村上先生を除く 3 名は実質上,各出身母体診療科の業務兼任),看護師 2 名(ICN,WOCN 各 1 名),事務官 1 名に,構成・支援メンバーである医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,管理栄養士,調理師,臨床工学技士,リハビリテーションスタッフなどを加えると総勢63 名のスタッフが協力し合って,チーム医療(ICT,NST,PUT,RST)を展開している(図 1)。高次救命治療センター センター長の小倉真治先生は,「このような生体支援センターの活動により各診療科間に横串が通ったことで,院内のヒューマンネットワークが確立され,院内全体にチーム医療を実践する気運が広がっている」と述べ,高次救命治療センター内でも,患者さんを中心に置き,その周囲に異なる専門性をもつ救急医が集まり,それぞれの専門性とやりがいを活かして患者さんを直接的にサポートしていると話す。

ひとりの患者さんをさまざまな面から診る 高次救命治療センター岐阜県は,県土の約 80%(平野の外縁部から山間地)

を中山間地が占め,人口に対する医師数が少ない。そのため,病院搬送までの時間がかかることもあった。こうした状況を改善するために,岐阜大学病院は「岐阜県内のどこで発生した患者であっても,本邦最高水準の医療を受けられるようにする」という理念を掲げ,2004 年に高次救命治療センターを発足・稼働させた。同センターは,当初より 30 名の専属医師を擁する全国最大規模の

写真 4 吉田省造 先生

写真 5 白井邦博 先生

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施設であり,救急指導医数,救急専門医数は年々増加,現在は 30 名中 4 名が救急指導医,14 名が救急専門医を取得しており,人材は質,量ともに本邦最高レベルを誇る。

高次救命治療センターに所属する医師は,救急医であるとともに,集中治療,脳神経外科,外科,航空医療,循環器内科,胸部外科,心臓血管外科,整形外科,小児科,血液浄化,熱傷などさまざまな領域のプロでもある。そのため,同センターでは,救命はもちろんのこと,それと同時に患者さんの周りに,患者さんが必要とするプロフェッショナルが集まり,ひとりの患者さんをそれぞれの面からもれなく総合的に診ることが可能になっている(チーム医療の実践)。

例えば,白井先生は,主に人工呼吸,人工臓器,多臓器不全を専門としている外科医であるとともに集中治療を担当する救急医でもある。呼吸管理と感染管理,感染管理と栄養管理とは切り離して考えることはできないため,白井先生は感染管理や栄養管理に造詣が深い。高次救命治療センターの吉田省造先生は,救急医であるとともに,内科的なバックグラウンドを有することから, 白井先生同様,感染管理や栄養管理を得意とする。こうしたことから,高次救命治療センター内では,救命救急医療とともに,白井先生,吉田先生を中心に徹底した感染管理,栄養管理が実践されている。

すなわち,感染管理と栄養管理は治療を進めるための両輪であるとの考えに基づき,高次救命治療センターの毎朝のカンファレンスでは,入院患者の感染状況と栄養状態が厳しくチェックされている。感染管理に関しては,週 1 回,高次救命治療センター内で,生体支援センターの ICT も交えてカンファレンスを実施している。栄養

管理に関しては,生理的な栄養補給をするために,エビデンスに基づき,患者さんの状態に応じた投与経路の選択と必要な組成とカロリーの設定を行い,可能であれば介入 24 時間以内,少なくとも 72 時間以内には,経口摂取あるいは経腸栄養を開始している。なお,患者さんがICU(intensive care unit)から一般病棟に転出する際に,必要に応じ,生体支援センターの NST が栄養管理を引き継いでいる。

ドクターヘリや GEMITS の導入により病院に来る前からチーム医療を実施チーム医療の実践は病院内だけでは十分ではない。救

急医療の現場で,救命率を上げるための最大の要素は,最適な治療が行える施設へ最短時間で患者を送ることである。つまり,患者の発生から通報・搬送・受け入れまで,病院内で治療を開始する以前にすでに救命に向けた医療は始まっており,そこでは救急隊員を含めたチーム医療が必要とされる。そのため,小倉先生は,高次救命治療センターを発足させるにあたり,病院に到着する以前からチーム医療が実践できるよう,搬送手段や情報収集手段の充実に尽力した。

搬送手段の充実の 1 つの例として,ドクターヘリ(写真 6)の導入がある。これまでは県の防災ヘリを活用していたが,2011 年 2 月からは岐阜大学病院の屋上にヘリポートを構え,ドクターヘリが常駐している。消防署からの出動要請があれば,5 分以内に院内の救急専門医

(フライトドクター)と看護師,研修医を現場,あるいは受け入れ先の病院へ送りこむ。「ドクターヘリの導入は,搬送時間を短縮させるというメリット以上に,消防

図 1 生体支援センター(NST/ICT)組織図

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署や他の救急医療機関を含めたヒューマンネットワークの中で,われわれがフットワーク軽く現場に行くことができるというメリットをもたらした」(小倉先生)。

情報収集手段の充実としては,救急医療情報流通システム「GEMITS」の開発・稼働が挙げられる。その結果,岐阜大学病院高次救命治療センターを頂点に 3 次→ 2 次→ 1 次医療機関を位置づけた医療体制に GEMITS で構築された IT 環境を活用して,救急患者が病態に見合った適切な病院に迅速に搬送され,最短時間で最適な医療を受けられることを実現するための体制の整備が可能となった。

GEMITS は,病院前医療情報連携(図 2)のほか,救急車適正利用自己トリアージ,病院間情報連携,緊急時介護支援という 4 つのシステムで構成されている(図 3)。

その中で病院前医療情報連携は,現場に駆けつけた救急隊員が,救急車などの搬送車両に搭載した端末(車載IT システム)に患者さんの傷病情報を音声入力する。この結果,患者さんの緊急度などを推定できる。さらに患者本人が携帯している非接触 IC カード(MEDICATM)をかざして患者情報を読み取らせ,それらを情報統合センターに送信するものである。情報統合センターでは,患者さんの治療にあたる医師の居場所や状況,病院のベッドの空き情報などが自動的に収集されており,同センターがこれら情報を調整して,救急隊員に適切な搬送先候補を示すようになっている。MEDICATM には,患者さんの氏名,年齢,性別,血液型といった基本情報に加え,通院歴・既往歴,投薬歴,アレルギーの有無など,救急指導医が厳選した治療に必要な情報が記録されており,救急隊員はあらかじめ搬送先に正確な患者情報を提供することができる。その結果,緊急事態にあっても,

患者さんが搬送されるまでの間にその患者さんに合った適切な治療の準備を整えることが可能となる。つまり,GEMITS & MEDICATM で,地域での病院前チーム医療が実践されることから,患者さんに最短時間で最適な場所での適切な医療の提供が可能となるというわけだ。

2012 年 3 月現在,岐阜県内で GEMITS に参加している病院は 11 病院あり,MEDICATM は GEMITS に参加する医療機関に入院した患者さんに発行され,約 10,000人が保有している。MEDICATM の恩恵を受けたケースはすでにいくつも出てきており,MEDICATM 保有者で一度救急搬送を経験した患者さんのうち,3.6% の患者さんは再び MEDICATM をもって救急車で搬送されている。とくに重症患者の多い脳神経外科,循環器内科の患者さんで再度救急搬送となったのはそれぞれ 11%,6%と高いが,いずれも MEDICATM 保有によるスムーズな情報のやりとりやチーム医療の実践ができていたとみられている。

地域医療スタッフとの連携によるチーム医療総論はほぼできているが,各論は今後の課題病院内以外でチーム医療が重要となるのは,病院に来

る前(救急搬送)のほかに,病院を出た後(在宅医療)だ。岐阜大学病院の平均在院日数は約 13 日と 2 週間をきる状況にある。この期間は,患者さんの療養生活全体からみればほんの一瞬に過ぎず,退院後も医療が続くことが多い。そこで,退院で医療がとぎれてしまわないように,疾患ごとに地域連携パスを構築・稼働させるなど,岐阜大学病院スタッフと地域医療スタッフの連携によるチーム医療の実践に力を注いでいる。しかし,そうした取り組みはまだまだ始まったばかりで,今後の課題だと村上先生は明かす。

とはいえ,岐阜大学病院では,1997 年に現在の生体支援センター ICT の前身である感染対策室の誕生時から,当時の病院長であった河田幸道現名誉教授の指導のもと,「岐阜県内のどこの医療施設であっても,同じレベルの感染管理が行える」ことをめざし,地域におけるさまざまな医療施設との連携やネットワークに努めてきた。2000 年には,岐阜県内の医療関連感染対策の質向上と規格統一を目標に,岐阜県内のすべての病院,診療所,高齢者施設,保健所や行政関係者,教育関係者,感染対策業務に理解と協力が得られる製薬企業などが参加する『岐阜院内感染対策検討会』(2012 年 4 月現在,参加施設等数約 450)を立ち上げた。

岐阜院内感染対策検討会では,医療関連感染対策に関する学術講演会やワークショップなどを継続的に開催している(年 2 〜 3 回)ほか,2005 年度からは岐阜県健康福祉部医療整備課の受託研究事業「岐阜県院内感染対策等研究事業」として,①生体支援センター内に医療関連感染対策に関する相談窓口を設置し,県内医療施設な

写真 6 ドクターヘリ

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救急車両センターシステム

統合エージェントシステム

救急活動の履歴情報

車両ITシステム(センター側)病院・患者情報マッチング

Gセンター

選択情報示唆情報

蓄積情報

(出動履歴)

地図情報 救急車指示情報

医療機関情報

車両情報救急隊員情報患者情報現場情報

抽出処理部

抽出ルール

救急活動の履歴情報

I/F

総合的判断情報

支援システム

プローブ情報システム 状況図表示機能 データ蓄積システム

位置情報把握 医療機関状況ルール学習

選択情報示唆情報

(出動履歴) 情報

患者情報病院情報統合情報

流通システム

車両通信システム

センター通信エージェント

病院間通信システム 車両ITシステムインタフェース

緊急車両情報

病院情報収集システム

メディアフリー通信システム

最適通信選択

病院 救急車

ネットワークWiMAX携帯電話網 衛星通信網 WiFi DSRC

現場情報収集システム

車両内外画像情報収集シ テム

GPS

車載通信エージェント Gセンターコミュニケーションシステム

LPS統合システム

車両ヒ ンインタ ス 現場情報収集 把握

病院 救急車

車両ITシステム(車両側)

A地点 B地点

D地点E地点

C地点

収集システム

医療スタッフ情報収集システム 医療設備情報収集システム

車両ヒューマンインタフェース

車両統合制御

現場情報収集・把握

所在・対応可否把握

救急隊員システム 患者情報収集システム

医療カードシステム

LPS無線LANシステム

位置情報把握対隊員間コミュニケーション

稼動状況把握医療スタッフ 医療設備

トリアージシステム

LPS無線ICカードシステム

位置情報把握 稼動状況把握医療スタッフ情報サーバ

医療設備情報サーバ

図 2 病院前医療情報連携

図 3 GEMITS 全体像

病院間情報連携 病院前医療連携

MEDICA ID 16桁=

ID連携

MEDICA ID 16桁=

医療情報連携

サービス連携を

階層別トリア ジ緊急介護支援

MEDICA

実現する鍵へ!

階層別トリアージ

Copyright 2006 Oki Electric Industry Co.,Ltd.○c S OKI CONFIDENTIAL

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どから電子メールによる相談を受け付け,遅くとも 2 〜3 日以内で質問者に回答するシステムを運用し,その記録を年度末に Q&A 集として発刊する,②県内医療施設からの要望を受け,年に数施設程度の割合で生体支援センターのメンバーを中心に ICD や ICN がその施設を訪問し,実地指導する,③岐阜大学医学部附属病院感染対策ガイドラインを県内医療施設,高齢者施設などに配布し,それぞれの施設でマニュアルを作成するにあたっての参考にしてもらうことによって,県内医療機関における感染対策技術の規格統一にも取り組んできた。

こうした活動を介して,岐阜大学病院と地域の医療施設,高齢者施設などとのヒューマンネットワークは構築されているといっても過言ではなく,村上先生も,「総論的にみれば,岐阜大学病院と地域医療施設の連携に基づく感染対策の体制はほぼ確立されている」という。今後は,患者個々でみた場合のシームレスな地域医療連携,チーム医療の実践が課題で,小倉先生によれば,それは岐阜院内感染対策検討会の活動で得たヒューマンネットワークを基盤に GEMITS & MEDICATM を活用することで実現されつつあるという。

MEDICATM は,緊急時に必須となる最小の医療情報を伝えるカードであるとともに,16 桁の ID 番号によってさまざまな医療サービス連携が可能となっている(図3)。したがって,MEDICATM の ID 番号で医療上連携を行えば,患者さんはかかりつけではない病院にいった際もこれまで同様の最適な医療を受けることができる。これは,小倉先生が主査としてまとめた内閣府医療情報化タスクフォースのテーマである「どこでも My 病院」,

「シームレスな地域医療連携」を先行した取り組みでもある。

小倉先生は,「どこでも My 病院」という言葉は医療者からみれば「だれでも My 患者」と言い換えられると指摘する。“いちげんさん”の患者は,情報が少ないため,なんとなく様子をうかがいながらの診療となる。しかし,患者さんの履歴が分かれば,“いちげんさん”であって

も My 患者となる。患者さんはどこの病院にいっても,シームレスな地域医療連携の中で,途切れることなく同じレベルの医療を受けることができる。また,これは介護場面においても同じことがいえる。要介護者の支援には,医療情報と介護情報の両方が必要になるが,今は,その情報のどちらかが欠落していることが多いのが現状だ。そこで,MEDICATM の ID 番号で医療情報と介護情報を抽出してくることで,GEMITS の緊急介護支援システムを展開すれば,シームレスな地域医療連携の中で患者さんは医療から介護まで途切れることなく必要なサポートを受けることができる。

GEMITS は救急医療の現場に携わる医師が自ら開発した,救急オリエントなシステムである。そのため,まずは救急医療全体の最適化がめざされたが,それは“種”にすぎないと小倉先生は説明する。小倉先生が求める医療環境の整備が完成することはなく,常に新しい機能を必要としている。GEMITS は“種”からさまざまな芽を出し,枝を伸ばせるパワーを秘めている。先に述べた急性期病院退院後の在宅医療,さらには介護の場面においても,芽の出し方,枝の伸ばし方で患者一人一人に途切れることなく最適な医療・介護を提供することが可能となる。患者さんを中心に置いて,その周囲に多職種が集まる患者中心のチーム医療という観点からいえば,GEMITS & MEDICATM を活用し,調剤薬局薬剤師や地域の管理栄養士が患者情報を共有し,当該患者に対して最適な栄養管理を提供することもできるようになるだろう。

生体支援センターや岐阜院内感染対策検討会の取り組みを介して,さまざまな職種の専門職が目と目をみて話すことで作り上げられていくヒューマンネットワークをベースに,GEMITS & MEDICATM(IT システム)を活用していくことで,救急医療,急性期医療,慢性期医療,在宅医療に介護も含め,医療全体を最適化するための岐阜大学病院の挑戦はこれからも続く。

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PROCEEDINGS

第₃₉回日本救急医学会総会・学術集会日時:平成₂₃年₁₀月₁₈日(火)₁₇:₀₀~₁₉:₀₀ 会場:【第 ₆ 会場】京王プラザホテル 南館 ₄ F「扇」共催:第₃₉回日本救急医学会総会・学術集会

アボットジャパン株式会社

 平成23年10月18日,第39回日本救急医学会総会・学術集会(東京)において開催された『救急経腸栄養塾 ~実践的思考と技術~』では,急性期栄養管理の意義から,急性期における経腸栄養の有用性,投与開始時期と投与量,栄養成分・組成の基本,経腸栄養実施におけるチューブ挿入の手技,免疫栄養療法,ガイドラインといった救急経腸栄養に関する基礎から最新の話題まで,「救急経腸栄養塾」という名の通り講義形式で開催された。

AGENDA

1. 急性期栄養管理の意義(何故,栄養管理が重要か?)

2. 経腸栄養の開始とルート選択

3. 経腸栄養手技・患者管理の実際

4. 栄養成分・組成の基本と注目の栄養素

5. 各種栄養管理ガイドラインにおける controversy

26Nutrition Support Journal

侵襲(ストレス)と異化亢進侵襲(ストレス)とは,生体の内部環境を乱す外部か

らの刺激のことで,手術,外傷,熱傷,出血,中毒,感染,脱水,疼痛,放射線照射などがある。侵襲時,生体内では内因性のエネルギー供給システムが作動し,ストレスホルモン,サイトカインが分泌されてグリコーゲンに続いて脂肪,蛋白の分解が起こり,グルコースが合成される。一方,CRP などの急性期蛋白が上昇し,アルブミン値が低下する(異化)。

このような異化は,合理的な生理反応であるが,強い侵襲が加わると異化亢進がすすみ,筋肉などの体蛋白が急速に消費される。その結果,呼吸筋の萎縮による呼吸不全の助長,低栄養を起因とする免疫不全や感染防御能の低下をきたすことで感染症合併などの悪循環に陥り,創傷治癒の不良などを経て,最終的には多臓器不全へと進行する。救急現場においては,強い侵襲が加わった患

者に対して栄養管理を真剣に考えなければ,その救命は困難となる(図 1)。

侵襲時における栄養管理の目的と原則侵襲時の栄養管理の目的は,異化をストップさせ,同

化を促すことである。ただし,異化は合理的な生理反応でもあるため,それを止めるには,体外から必要なエネ

救急経腸栄養塾

第39回日本救急医学会総会・学術集会

~実践的思考と技術~

Contents

急性期栄養管理の意義

経腸栄養の開始と投与量

経腸栄養手技・患者管理の実際

栄養成分・組成の基本と注目の栄養素

栄養管理をめぐるガイドライン

症例提示・検討

Directors

松田 兼一 先生山梨大学医学部救急集中治療医学講座 教授

西田  修 先生藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 教授

小谷 穣治 先生兵庫医科大学救急・災害医学講座 主任教授

日時:平成23年10月18日□火 17:00~19:00 会場:【第6会場】京王プラザホテル 南館4F「扇」

〒160-8330 東京都新宿区西新宿2-2-1 TEL03-3344-0111

第39回日本救急医学会総会・学術集会 アボットジャパン株式会社

共催

1.急性期栄養管理の意義(何故,栄養管理が重要か?)藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 教授

西田 修

西田 修 先生

救急経腸栄養塾~実践的思考と技術~

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ルギー・栄養素(糖質,脂質,蛋白質・アミノ酸など)を投与するとともに,侵襲そのものを制御しなければならない(図 2)。とくに,強い侵襲が加わり異化が亢進している患者では,例えば,痛みには鎮痛(麻酔)を,不安には鎮静(麻酔)を,呼吸不全には人工呼吸を,感染には抗生物質や感染巣の除去を行うほか,循環不全には輸液や薬剤(昇圧薬,強心薬など)を投与するなど,集中治療下(侵襲の制御)で栄養管理を行うことが重要となる。

侵襲時における栄養管理の実際①必要エネルギー投与量とアミノ酸(蛋白)の算出

侵襲時において,栄養管理で異化を防ぐためには,体外から必要十分なエネルギー投与量を供給した上で,十

分な蛋白質・アミノ酸を投与することが原則となる。エネルギー投与量が少ない場合,蛋白質・アミノ酸を投与してもそれらは筋肉などの体蛋白の合成に使われずに,エネルギー源として使われる。そのため,病態に応じて必要なエネルギー投与量を計算し,蛋白質をエネルギー計算に入れない非蛋白エネルギーを供給することが重要である。●必要エネルギー投与量の算出

必要な投与カロリーは,間接熱量計でエネルギー消費量を測定,あるいは公式を用いて算出する。通常はHarris-Benedict の式が使われ,基礎エネルギー消費量

(概ね 25kcal/kg/day)に活動係数(例:寝たきり;1.0,歩行可;1.2)およびストレス係数(例:多発外傷・Sepsis;1.2 〜 1.5, 重症熱傷・多臓器不全;1.5 〜 2.0)を

図1  栄養管理は集中治療の大きな柱

栄養管理を真剣に考えないと救命は困難

低栄養状態となると・・・・免疫力が低下し,感染に弱くなる・傷の治りが悪くなる・筋力が低下し,呼吸筋力も低下するため人工呼吸器から離れられなくなる・侵襲に対して弱くなり,多臓器不全となる

図 2  重症患者での栄養の目的

同  化 体を作る(回復)

侵  襲栄  養

異  化 体を分解する

侵襲制御(集中治療)

十分なエネルギーアミノ酸

患者

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乗じて算出する。ただし,間接熱量計で測定しているのは消費エネル

ギーであって,必要投与エネルギーではないことに注意する。また,必要エネルギーを外因性に投与して異化が止められるのは単純饑餓のみである。侵襲下では,適切な集中治療を行っても,異化を完全に止めることはできない。そのため,Harris-Benedict の式で算出された必要エネルギーを投与すると,異化で得られる内因性のエネルギー分が上乗せされるため,過剰栄養になる可能性がある。実際には,侵襲制御を十分に行ったうえで,血糖値,耐糖能をみながら必要エネルギーを投与する。●蛋白質(アミノ酸)投与量の算出

アミノ酸を投与して,異化を抑制し,同化を促す場合は,窒素 1g に対して 100 〜 250kcal の非蛋白エネルギーが必要(NPC/N 比:100 〜 250)になる。窒素 1g は蛋白質(アミノ酸)に換算すると平均して約 6.25g に相当することから,病態に応じた必要投与エネルギー量が決まれば,投与すべき蛋白質(アミノ酸)量を算出できる

(例:2,500kcal/ 日必要時= NPC/N 比を 200 として,2,500÷ 200 = 12.5g × 6.25=78.51g/ 日の蛋白質(アミノ酸)

が必要≒ 10%アミノ酸製剤で 800mL/ 日,必要投与エネルギー量に対するアミノ酸の比率:12.6%)。ただし,尿素窒素の上昇がみられる場合は,蛋白質(アミノ酸)の投与量を見直す必要がある。②栄養の投与方法

従来,集中管理下では,投与した水分・栄養素を厳密に把握することを理由に点滴による静脈栄養が多用されてきた。しかし,最近では,腸管は生体防御の最前線で,腸管を使うことによりその機能を守ることが救命の鍵を握るという考えが標準的になりつつある。そのため,集中治療を要するような重症患者でも,腸管が使える限り経腸栄養を行うようになっている。そのメリットとして経腸栄養のほうが,①異化を抑えられること,②バクテリアルトランスロケーションを予防できること,③血糖コントロールがしやすいこと(小腸持続投与),④肝臓に優しいこと,⑤免疫栄養が行えること,⑥積極的な呼吸リハビリが可能なこと(経空腸),⑦急性血液浄化療法との相性がよいこと,⑧経済的であることなどがある。

2. 経腸栄養の開始とルート選択兵庫医科大学救急・災害医学講座 主任教授

小谷穣治

侵襲時の腸粘膜の形態学的変化とバクテリアルトランスロケーション

侵襲が加わると,ストレスホルモンや炎症性サイトカインが分泌され,さまざまな代謝や免疫変動が生じる。その 1 つに,蛋白の分解がその新たな合成を上回ることが挙げられる。すなわち,骨格筋の蛋白(体蛋白)が糖原性アミノ酸に分解され,肝臓に運ばれて糖新生や新しい蛋白の合成やエネルギー産生に使われてしまう。また,腸管のグルタミンも肝臓に運ばれてグルコースを介し新しい蛋白の合成に利用される。この一連の反応 1)が亢進すると骨格筋の蛋白や腸管のグルタミンの分解が進む。

このような状況下において,腸管ではグルタミンの分解が亢進しているだけでなく,腸粘膜が薄くなるという形態学的な変化を起こす。その結果,腸粘膜の透過性が亢進するため,常在菌を含む腸内の細菌がリンパ管や門脈などを通って全身循環へ流れやすくなる(バクテリア

ルトランスロケーション)。侵襲時には腸管免疫そのものが低下していることも加わり,腸内のさまざまな細菌が全身循環へと流れ,重要臓器障害,多臓器障害などの病態を惹起する。

静脈栄養と経腸栄養の比較静脈栄養もしくは経腸栄養を行った急性膵炎ラット

小谷 穣治 先生

ポイント

・侵襲時の栄養の目的は,異化亢進を止め,同化を促すこと。・異化亢進を止めるためには,体外からの十分な蛋白質・アミノ酸の補給が重要。・単に栄養を与えるのみではなく,侵襲を制御し,栄養管理を行うことが重要。・腸管の機能を温存することが,救命のカギを握る!

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(AP 群)と静脈栄養もしくは経腸栄養を行った急性膵炎を提示せず開腹手術を受けたウィスター系のオスラット(Sham 群)の腸間膜リンパ節のバクテリアルトランスロケーションを測定すると,静脈栄養と比較して経腸栄養を行ったときのほうが,Sham 群,AP 群いずれの腸内常在菌も減少しており,バクテリアルトランスロケーションが有意に抑制されていること(図 1)が明らかになっている 2)。また,経腸栄養は,静脈栄養よりも免疫能(脾臓の T-cell CD4/CD8 比)を維持しているこ

とも確認されている 2)。また,1992 年の Kudsk らの報告では,腹部外傷手術

症例において,術後,経腸栄養を実施した群は,静脈栄養を実施した群に比べ,肺炎(p < 0.02),腹腔内膿瘍(p< 0.04),カテーテルに起因する敗血症(p < 0.05)の発症のいずれもが有意に低かったことが示されている 3)。その他の報告でも,経腸栄養は入院期間の短縮にも有用であったことが明らかとなっているが,生存率を示したものは少ない。このようなことから,経腸栄養は,

104

103

102

10

(CFU/mg tissue)

TPN EN

Sham AP

TPN EN

p<0.05

p<0.05

p<0.05

図1  Bacterial Translocation(腸間膜リンパ節)CFU:colony forming unit(コロニー形成単位)TPN:total parenteral nutrition(中心静脈栄養)EN:enteral nutrition(経腸栄養)Sham:急性膵炎を誘発していない開腹手術を受けたラットAP:急性膵炎誘発ラット

(文献2より引用)

入院時経管栄養・静脈栄養が必要?

静脈栄養を開始。12時間ごとに経腸栄養の可否について評価

24時間以内に経腸栄養が開始可能?

72時間まで必要量の80%を投与

必要エネルギー投与量の100%

経口摂取

図2 ALGORITHM OF EVIDENCE-BASED FEEDING GUIDELINE(文献4より引用)

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急性期の経腸栄養の投与ルート腸管を使う栄養の投与ルートとして,経口摂取,経鼻・

胃ルートと経鼻・幽門後ルート(経鼻・十二指腸ルート,経鼻・空腸ルート)など(図 1)がある。前者であるほど,生理的で容易である一方,誤嚥のリスクが高くなる。また,後者であるほど,非生理的で煩雑であるが誤嚥のリスクは低くなる。

急性期において,通常,PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy;経皮内視鏡的胃瘻造設術)は適応にならないことが多く,経腸栄養の投与ルートとしては,経鼻・胃ルートあるいは経鼻・幽門後ルートのいずれかを選択する。

①経鼻・胃ルート

経鼻・胃ルートは,最も一般的なルートで,挿入,留置が簡単で,間欠投与が可能である。その一方で,重症な病態下において,胃は著明な蠕動抑制や幽門輪の強い収縮を認めるため,経鼻・胃ルートでは逆流による誤嚥のリスクが高くなる。誤嚥を予防するために,投与中,投与後にベッドをギャッチアップするなどがあるが,体

位制限により治療に支障をきたすケースも少なくない。

②経鼻・幽門後(十二指腸,空腸)ルート

経鼻・幽門後ルートは,噴門,幽門,トライツ靱帯(空腸の場合)の物理的な関門により逆流を予防でき,胃管を留置すれば,仮に逆流があっても,胃で回収できる。とくに経鼻・空腸ルートは,最も逆流が少なく,誤嚥の危険性が少ないことから治療への支障が少ないため,経腸栄養を中断することなく腹臥位が必要となる呼吸器理学療法も積極的に行える。集中治療室での栄養管理は経

3.経腸栄養手技・患者管理の実際藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 教授

西田 修

西田 修 先生

バクテリアルトランスロケーションの抑制,免疫能の維持,感染症の抑制という点で静脈栄養よりも優れていることが示唆されているが,明らかな生存率の改善効果までは示せていない。

早期経腸栄養の有用性しかし、経腸栄養の開始時期によって,生存率が異な

ることが明らかになっている。これまでに,早期経腸栄養開始(24 時間以内)の優位性を認めたメタアナリシス 4 件が行われており,いずれも,経腸栄養を早期に開始するほうが,晩期開始よりも有意差をもって生存率が改善すると結論づけている。また,2009 年の Doig らの検討では,重症患者 234 名を集中治療室入室後あるいは受傷後 24 時間以内に経腸栄養を実施した(早期経腸栄養)群と,スタンダードケアを実施した群に無作為に分け比較し,早期経腸栄養群が死亡率も肺炎発症率も有意に低かったことを示している 3)。

侵襲下,腸粘膜の透過性亢進やバクテリアルトランスロケーションを惹起する状況において,集中治療における最終目標となる生存率を改善するためには,可能な限り経腸栄養を選択し,免疫修飾栄養素を工夫して,24 時間以内に経腸栄養を開始することが重要である(図 2)4)。

文 献

1) 小谷穣治,宇佐美 眞,山本正博:蛋白アミノ酸代謝.日本臨床 59,増刊 5:380-384,2001

2) Kotani J, Usami M, Nomura H,et al:Enteral nutrition prevents bacterial translocation but does not improve survival during acute pancreatitis. Arch Surg 134:287-292,1999

3) Doig GS, Heighes PT, Simpson F ,et al: Early enteral nutrition, provided within 24 h of injury or intensive care unit admission, significantly reduces mortality in critically ill patients: a meta-analysis of randomised controlled trials. Intensive Care Med 35:2018-2027,2009

4) Doig GS, Simpson F, Finfer S, et al: Effect of evidence-based feeding guidelines on mortality of critically ill adults: a cluster randomized controlled trial. JAMA 300:2731-2741, 2008

ポイント

・経腸栄養の使用は静脈栄養に比して感染性合併症の減少と入院期間の短縮に有効であった。しかし,生存率の改善は示されなかった。

・経腸栄養の開始時期は, 早期の開始(24 時間以内)で感染性合併症,生存率の改善も認める可能性が示された。

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図1 栄養補給法

経鼻十二指腸

頸部食道ろう

経鼻胃胃ろう

腸ろう経鼻空腸

■経鼻管法 ■経胃・腸ろう法

図 2  EN チューブの工夫

40cmまで,5cmごとにマークを付ける。遠景でも分かるように10cmごとにマークを代えるか,マークの色を代える。

鼻・空腸ルートが適している。しかし,これら経鼻・幽門後ルートは,一般的に挿入が困難である。

経鼻・幽門後ルートにおけるEN チューブの挿入方法

経鼻・幽門後ルートの EN チューブの挿入方法は,大きく盲目的挿入法,透視下挿入法,内視鏡下挿入法の 3つに分けられる。

①盲目的挿入法(触診法,聴診法)

盲目的挿入法は,盲目的に注射器で空気を入れ,腹部を触診する,あるいは聴診することにより EN チューブを挿入する方法である。非常に簡便ではあるが,不確実でゴッドハンド(触診法)や熟練(聴診法)を要し,万

人ができる方法ではないため推奨しない。

②透視下挿入法

透視下挿入法は,確実で,全体像が見えるが,被曝の問題があるほか,透視ベッドとポータブル透視機を準備する,患者に透視室へ移動してもらうなどの煩雑さがある。

③内視鏡下挿入法

内視鏡下挿入法は,食道・胃内が直視下で観察できる,被曝の影響がないという利点がある。一方,全体像が見えないため,途中で EN チューブが巻いてしまっても分かりにくく,また幽門より先に進めにくい,内視鏡とEN チューブが干渉するなどの欠点があるが,最も安全であり,できる限りこの方法で行う。

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経鼻・空腸ルートにおける EN チューブ挿入の実際① EN チューブの準備

経鼻・空腸ルートにおける EN チューブ挿入にあたっては,まず,EN チューブを準備する。EN チューブとしては,ニューエンテラルフィーティングチューブ(日本シャーウッド株式会社製)のように先端に錘がついており,ガイドワイヤーを抜いて動かすことで方向転換が可能なものが挿入しやすい。また,チューブの太さは,透視下にて挿入する場合は 8Fr でも可能だが,内視鏡下にて挿入する場合は内視鏡との干渉に負けないように少なくとも 10Fr 以上,具体的には 10Fr か 12Fr かを用いる。また,EN チューブにあらかじめ先端から 40cmまで遠景でも分かるように 10cm ごとにマーカーの色を変え,しかも 5cm ごとにマークをつけてどこまで挿入し

ているかの目印をつけるなどの工夫が必要である(図2)。

② EN チューブ挿入の方法とコツ

●口・鼻から食道まで

経鼻から内視鏡を挿入したら,まず,咽頭蓋,内視鏡を挿入したときに入る気管チューブ,披裂軟骨,ある程度盲目的に挿入しておいた EN チューブが映りこんでいるビュー(図 3)を確認する。図 3 で示したビューが確認できれば,披裂軟骨の下に内視鏡先端を誘導し,送気しつつ,up down をフリーにしたまま軽く押し進めていく。意識がない場合は喉頭鏡を使う。●食道内~胃内

内視鏡が食道に入れば急に視界が開けてくるので,送気しながら,食道内壁を観察しつつ,内視鏡が食道内壁

図 3 幽門後チューブ挿入の方法とコツ(口・鼻~食道まで)

■ まずはこのビューを確認。■ 喉頭蓋,気管チューブ,披裂軟骨,経腸チューブが確認できる。

■ ビューが得られない場合,頭部後屈顎先挙上法,下顎挙上法を行う。

■ 披裂軟骨の下に内視鏡先端を誘導し,送気しつつ,updownをフリーにしたままかるく押すと進む

図 4 胃内におけるチューブ挿入の方法とコツ

■ 盲目的にチューブを入れると,まずは隆起部の左側に向かうことが多い。そちらに向かうと胃内でチューブがたわんでしまう。

■ 隆起部の右側に向かわない場合,ガイドワイヤーを数cm抜き先端を自由な方向に動くようにする。 または,胃内でチューブが大きくたわむぐらいまで深く進め,ガイドワイヤーの先端が隆起部の右側に向くまでガイドワイヤ-だけ引き抜く。その後,外套のチューブのみを引き抜く。これらの操作の繰り返しにより誘導する。

チューブが隆起部の右側に向くように誘導しなければならない。

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に接触しないように進めていく。内視鏡が噴門部を過ぎて胃内に入れば,送気が多すぎて胃穿孔などを起こさないように,常に胃粘膜ヒダの伸展度を確認しながら送気し,胃を適度な大きさまで膨らませる。そこで,視野の左下側に胃底部,右側に幽門部,中央下側に胃体部(隆起部)がみえれば,EN チューブが隆起部の右側に向くように誘導する(図 4)。その際,腹壁から少し圧迫してへこむのを確認すると,オリエンテーションがつきやすくなる。このようにして,EN チューブを隆起部の右側に向け,ある程度送気すると一方通行になるので,そのまま押していくと EN チューブは幽門のほうへ向かって進んでいく。幽門は腸管運動により開いたり閉じたりしているため,盲目的に EN チューブを進めると幽門で跳ね返されて巻いてしまう。そのため,内視鏡にて幽門が観察されれば,EN チューブの先端が幽門を越えるのを必ず確認する。●幽 門

EN チューブの先端が幽門を越えれば内視鏡自体は入れず,十二指腸が足側に向かってヘアピン状に下降することを考慮してガイドワイヤーの先端を 5 〜 10cm 抜いた状態で,少し遠景にして EN チューブをゆっくり進めていく。内視鏡の視野から EN チューブが飛び出すように見えれば問題なく挿入できている(図 5)と判断し,EN チューブの位置を想像しながら,先端部分,あるいはその進行方向にある腸管の外から蠕動運動を起こすイメージでゆっくりと腹部をもみ,幽門に 30cm のラインがくる(ほとんどの症例でトライツ靱帯を越える目安)まで EN チューブを進めていく。● EN チューブ留置後

EN チューブが留置できれば,食道に損傷がないことを観察しながら,ガイドワイヤーを残したまま内視鏡を抜去する。また,胃内の空気は抜かず胃内のドレナージの

ために,胃管を先端が胃底部あるいは側孔部が幽門を超えて胃内にあるように留置する。続くガイドワイヤー抜去時には,ガイドワイヤーが抵抗なくスムーズに抜き切れるかを確認する。最終的にガストログラフィンを約20mL EN チューブより投与し,X 線撮影を行った上で,翌日の写真で造影剤の移動から腸管運動の程度を評価する。

この一連の流れの中で,腸液の逆流や造影剤の使用によりガイドワイヤーの滑りが悪くなった場合は,オリーブオイルをガーゼに湿られて,ガイドワイヤーを拭いたり,挿入時に腸管運動を促すために手での圧迫や体位変換,送気,造影剤やメトクロプラミドなどの腸管蠕動を促す薬物を投与したりする工夫が大切である。

経鼻・幽門後ルートでの経腸栄養の実際侵襲下や経鼻・幽門後ルートで経腸栄養を行う場合,

ポンプが必須となる。適切に留置されているのを確認したら,ポンプを用いて 10 〜 20mL /時で経腸栄養を開始する。開始初期や何らかの不安があるときは,5%グルコースを用いて様子をみてもよい。必要に応じて,詰まりやすい薬剤に注意しながら,EN チューブから治療薬(簡易懸濁法にて溶解した薬剤含む)を投与する。

なお,重症期にすべてのエネルギー投与を経腸栄養で無理に行う必要はなく,必要なら経静脈栄養と併用する。その他,経腸栄養開始時に,腸管粘膜を保護する目的で,グルタミン,ファイバー,オリゴ糖が入っているGFOⓇ(大塚製薬工業)を投与したり,腸管の動きをよくする目的で(トライツ靱帯を越えられなかったときなど),薬物を投与するといった工夫も必要である。

図 5  胃内におけるチューブ挿入の方法とコツ(幽門後)

このように内視鏡のチューブが飛び出すよう視野が見えていれば,まず巻いていることはない。これでうまく進む場合には,幽門部の観察ははじめだけであとは観察しなくても進んでいることだけを観察すればよい。

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栄養成分とガイドライン近年,重症症例の病態生理の解明が進むに従い,その

栄養管理における投与ルートの選択や投与のタイミングの見極め,至適エネルギー投与量の見直し,厳密な血糖管理の重要性などさまざまな議論が活発になされるようになった。

しかし,主要成分である蛋白質や脂質に関する各国のガイドライン(ASPEN/SCCM,ESPEN,CCPG)の見解は異なっている(表1)1)。例えば,蛋白質について,ESPENでは,経静脈栄養が主流であることを反映して蛋白質ではなくアミノ酸と表記している上,グルタミン製剤が推奨されており,カナダの CCPG に至っては非消化態栄養剤を推奨しているものの,蛋白質には一切言及していない。脂肪に関しても,ASPEN/SCCM では入院後 1 週間から考慮するとされているに対して,ESPEN では長期集中治療室入室患者に対して考慮するとされ,CCPG では十分な知見がないという表記にとどまる。

このように,栄養管理の歴史は古いが,主要成分である蛋白質や脂質についてさえもエビデンスが十分に集積しておらず,統一した見解が得られていない。

免疫栄養素(immunonutrition)と免疫栄養療法

最近では,アルギニン(Arg),グルタミン(Gln),n-3 系脂肪酸,ビタミンなどの抗酸化物質が生体防御能を高めるという知見が集積している。これらを免疫栄養素(immunonutrients)と称し,不足分を補うのではなく,積極的に投与することで免疫力を高めようとする栄養管理,いわゆる免疫栄養療法(immunonutrition)が試みられるようになっている。

免疫栄養素は,免疫増強栄養素と免疫調製栄養素の 2つに大きく分けられ,前者には Gln/Arg,核酸(RNA/DNA)などが,後者には n-3 系脂肪酸(EPA など),n-6

系脂肪酸(GLA など),微量元素(Zn,Cu,Mn,Se など),ビタミン E,C,A,β–カロテン,CoQ10,ポリフェノールなどがある。Arg などの含有量が多いほど免疫増強作用があり,EPA や GLA などの含有量が多いほど抗炎症作用がある。予定手術例などには免疫増強作用のあるArg の含有量の高い栄養剤を,敗血症やショック,重症外傷などの患者には抗炎症作用のある EPA や GLA などの含有量の高い栄養剤を用いることがよいとされている。

実際,抗炎症性脂質メディエーターといわれる成分を含む魚油(EPA)やルリジサ油(GLA),および Arg に関しては多くのエビデンスが集積している。たとえば,EPA やGLA を ARDS(acute respiratory distress syndrome;急性呼吸窮迫症候群)や ALI(acute lung injury;急性肺障害)の患者に対して投与した検討 2)-4)や,Arg を含有する栄養剤は重症敗血症患者でリスクが高くなるため,使用しないことが望ましいとする報告 2)-4)がある。これらの知見は,2008 年に Marik らが報告したメタアナリシスでも実証されており 5),EPA や GLA,Arg に関しては,ASPEN/SCCM,ESPEN,CCPG ともほぼ同様の見解を示している(表 2)1)。

免疫調整栄養療法の臨床試験2006 年にブラジルの Pontes-Arruda らは,重症敗血

症または敗血症性ショックで肺障害または ARDS を伴

4.栄養成分・組成の基本と注目の栄養素山梨大学医学部救急集中治療医学講座 教授

松田兼一

松田 兼一 先生

ポイント

・重症病態下では胃の蠕動抑制(gastroparesis)が顕著で,これが経鼻胃管栄養の障害(intolerant of gastric feedings)となっている。

・各種処置時には、経胃栄養では逆流する恐れがあり注意が必要である。・経空腸栄養により,腹臥位療法などの積極的な呼吸療法が可能となる。・ICU 内での経腸栄養は経空腸栄養が適している場合が多い。・侵襲下や幽門後に注入する場合にはポンプは必須であり,逆流防止,エネルギー投与量の増量,血糖

管理,水分管理が容易となり大きなメリットを持つ。

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う人工呼吸器装着症例を対象に前向き無作為二重盲検試験を実施し,このような患者に対しては EPA と GLAを強化した経腸栄養剤が有用であることを報告 6)している。日本では,2007 年 2 月に Immuno-Modulating Diet

(IMD)研究会が発足し,この結果を検証するための多施設共同無作為化プラセボ対照比較試験(免疫栄養療法群(IMD)群 37 例,対照群 21 例)が実施されている。

Pontes-Arruda らの検討 6)では,免疫栄養療法群のほうが対照群に比べ,肺酸素化能(P/F)が有意に上昇し,ベンチレーターが外されている日も有意に多く,28 日死亡率も有意に低いことが確認されたのに対して,日本の検討ではそれらについて両群間で有意な差はみられなかった。ただし,ICU の早期退室に関しては,Pontes-Arruda らの検討同様に,日本の検討でも免疫栄養療法群

のほうが有意に早く ICU から退室できていた。また,日本独自に検討した CRP(C-reactive protein;C 反応性蛋白質)も,免疫栄養療法群のほうが対照群よりも下がりがよく,有意差をもって低くなっていた(抗炎症作用あり)。

以上から,日本においても,EPA,GLA および抗酸化物質が強化された IMD の有用性が示唆された。栄養療法は,薬物療法に比して速効性は期待できないが,適切な栄養療法の下支えがあることで重症症例の救命率向上が期待できると考えられる。

文 献

1) 針井則一 , 松田兼一 , 柳沢政彦 , 他:代表的ガイドラインからの標準治療を知る 三大ガイドラインの比較 Part1:エネルギー投与量を中心に . Intensivist 3:401-410, 2011

2) McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al;Guidelines

(文献1より引用)

表 2  各種ガイドラインの比較(免疫栄養素)

(文献1より引用)

ガイドライン 米国(ASPEN/SCCM) 欧州(ESPEN) カナダ(CCPG)

免疫栄養素

EN:Arg,Gln,核酸,n-3 脂肪酸などが強化された特殊経腸栄養剤は,適切な患者群(待機大手術,外傷,熱傷,頭頸部癌,人工呼吸管理中の重症患者)において,重症敗血症に注意しながら使用されなければならない( 外 科 的 ICU: Grade A, 内 科 的ICU:Grade B)

上記以外の症例には通常の経腸栄養剤を推奨する(Grade B)

PN:Gln 投与を検討する(Grade C)

EN:Arg,Gln,核酸,n-3 脂肪酸などが強化された特殊経腸栄養剤は,上部消化管術後,中等度の敗血症症例(APACHE Ⅱ< 15)に使用すべきであるが,熱傷症例については使用しない(Grade A)

EN:通常の経腸栄養剤を投与している熱傷,外傷症例に対しては Gln の追加投与を考慮する(Grade A)

EN:免疫増強栄養として Arg は使用しない(推奨)

EN:通常の経腸栄養剤を投与している熱傷,外傷症例に対し Gln の追加投与を考慮する。それ以外の症例において日常的に Gln を使用することの有効性について十分なデータはない

PN:Gln 投与を推奨する

EPA/GLAALI/ARDS 症 例 に 使 用 す べ き

(Grade A)ALI/ARDS 症 例 に 使 用 す べ き

(Grade B)ALI/ARDS 症例に使 用を検討する

(推奨)

表1  各種ガイドラインの比較(蛋白質・脂肪)

ガイドライン 米国(ASPEN/SCCM) 欧州(ESPEN) カナダ(CCPG)

蛋白質

EN:BMI30 ~ 40 なら 2.0g/kg 以上投与,BMI40 以上なら 2.5g/kg 以上投与する(Grade D)

PN:アミノ酸は 1.3 ~ 1.5g/kg 投与(Grade B)PN:0.2 ~ 0.4g/kg の Gln を投与する

(Grade A)

EN:消化態栄養剤は短腸症候群や膵炎以外に有用性を示すデータはなく,一般的な栄養剤の使用を推奨している

脂 肪

PN:入院後 1 週間 EN ができず,PNが必要な場合に検討されるが,大豆脂肪乳剤は使用しない(Grade D)

PN:長期 ICU 入院患者は PN での脂肪乳剤の投与を検討する(Grade B)

脂肪乳剤の投与速度は 0.7 ~ 1.5g/kg を 12 ~ 24 時間かけて投与する

(Grade B)

LCT/MCT の大豆脂肪乳剤に対する優位性については RCT が必要(Grade C)

PN:脂肪乳剤の選択については十分な知見がない

PN:入院前の低栄養がない,ある程度 EN を認容している,PN が 10 日以内を予定している場合は,脂肪乳剤は使用しないことを考慮する

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5.各種栄養管理ガイドラインにおける controversy兵庫医科大学救急・災害医学講座 主任教授

小谷穣治

血糖管理に関する controversy①侵襲時における血糖上昇メカニズム

侵襲時に分泌される侵襲ホルモンには,コルチゾール,カテコラミン(アドレナリン,ノルアドレナリン),成長ホルモン,グルカゴンなどがある。例えば,コルチゾールは筋蛋白分解促進作用や肝臓での糖新生亢進作用を,カテコラミンは血圧上昇(循環維持)作用や脂肪分解作用を有するなど,ホルモンそれぞれが様々な作用を発揮している。いずれの侵襲ホルモンにも共通している作用として,インスリン拮抗(血糖上昇)作用があり,これが侵襲時の血糖値の上昇の背景になっていると考えられている。

②侵襲時における血糖上昇の影響

血糖値が上昇することにより,細胞内では,NF- κBという転写因子が活性化され,それを介して iNOS(一酸化窒素合成酵素)の分泌が亢進して,NO(一酸化窒素)

が大量に産生される。この NO には,血管拡張作用や活性酸素種としてのさまざまな作用があるが,例えば,血管拡張により血流が増加して臓器保護に動いたり,活性酸素種として外来抗原と戦うための免疫能を増強したりする一方で,それらが過度になると血圧低下や自己組織傷害を招く。したがって,侵襲時においても,血糖値を厳密に管理したほうが炎症を抑制できるため,生体に

小谷 穣治 先生

ポイント

・栄養療法は薬物療法に比し,即効性は期待できないが,適切な栄養療法の下支えがあることで,重症症例の救命率向上が期待できる。

・EPA・GLA および抗酸化物質が強化された immuno-modulating diet の有用性が示唆された。・炎症反応を伴う重症患者には Arg を使用しないことが望ましい。

for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr 33:277-316, 2009

3) Heyland DK, Dhaliwal R, Drover JW,et al;Canadian clinical practice guidelines for nutrition support in mechanically ventilated, critically ill adult patients. JPEN J Parenter Enteral Nutr 27:355-373, 2003

4) Kreymann KG, Berger MM, Deutz NE,et al;ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition:Intensive care. Clin Nutr 25:210-223, 2006

5) Marik PE, Zaloga GP:Immunonutrition in critically ill patients:a systematic review and analysis of the literature. Intensive Care Med 34:1980-1990,2008

6) Pontes-Arruda A, Aragão AM, Albuquerque JD:Eff ects of enteral feeding with eicosapentaenoic acid, γ-linolenic acid, and antioxidants in mechanically ventilated patients with severe sepsis and septic shock. Crit Care Med 34:2325-2333, 2006

表 1  敗血症における IIT の RCT のまとめ

症例数 血糖目標値 評価する結果

VISEP Study(ドイツ)    差なし

重症敗血症または

敗血症性ショック

157人18ICUs

80 ~ 110mg/dLvs

180 ~ 200mg/dL

死亡率(28 日)

GLUCONTROL Study(欧州)    中 止

mixed 855 人19centers

80 ~ 110mg/dLvs

140 ~ 180mg/dL

死亡率(28 日)

NICE-Sugar Study(オーストラリア&ニュージーランド)  差なし

mixed 6,104 人35ICUs

2008 年 8 月に完了

81 ~ 108mg/dLvs

144 ~ 180mg/dL

死亡率(28 ~ 29 日)

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とって都合がよいと考えられている。

③強化インスリン療法の有用性と問題点

Berghe ら 1)は,外科系 ICU へ入室した APACHE Ⅱ 9レベル(重症度が低い)の患者 1,548 例に,管理初日より 200 〜 300g/ 日のグルコースを投与した上で,簡便なCIT(conventional insulin injection therapy;インスリン治療)を行って血糖値を 180 〜 200mg/dL にコントロールした群 783 例と,IIT(intensive insulin therapy;強化インスリン治療)を行って血糖値を 80 〜 110mg/dLにコントロールした群 765 例の 2 群に無作為に分け,死亡率などを比較した。その結果,IIT 群は CIT 群に比べ,総死亡率が有意に低く,そのほかに,感染症の発生や透析を必要とする急性腎不全の発症,赤血球輸血の頻度,多発神経障害の割合を半分近くに減少させることを報告している。

その一方で,IIT を行えば行うほど,低血糖となる頻度が高くなり,低血糖に関連するさまざまな問題,例えば,低血糖後 24 時間以内の死亡,累積院内死亡,後期の神経学的後遺症の頻度が高まることも指摘されている 2)-4)。実際,敗血症を対象にした VISEP Study では,IIT は低血糖発作の頻度が高く,重症敗血症には効果がないこと 2)が,同じく敗血症を対象にした GLUCONTROL Study(100例死亡時点で中止)では,IIT 群はそもそも血糖目標値である 110mg/dL を達成できないこと 3)が報告されている

(表 1)。また,NICE-SUGAR Study では,IIT は低血糖発作が非常に多くリスクの高い治療法で,生存率の向上に寄与しなかったこと 4)が明らかにされた(表 1)。

④血糖管理に関するガイドラインの見解

現在,NICE-SUGAR Study の結果をベースに SSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines;重症敗血症および敗血症ショック治療のための国際的ガイドライン)

2012 の改訂作業が進んでいる。そこには,「血糖が>180mg/dL よりも高ければ,持続的な静脈内インスリン投与により 144 〜 180mg/dL を目標に血糖値をコントロールし,80 〜 110mg/dL は目標にしない(grade A1)」と記載される予定である。

補足的静脈栄養に関する controversy①補足的静脈栄養に関する各種ガイドラインの見解

経口摂取・経腸栄養にて十分なエネルギーを投与できない場合,補足的静脈栄養が行われることがあるが,この方法論についてもこれまで統一した見解が得られていなかった。例えば,アメリカのガイドライン(ASPEN・SCCM)では,最初の 1 週間は補足的静脈栄養を実施しないことが推奨されてきた(Grade E)。一方,ヨーロッパのガイドライン(ESPEN)では,経口摂取・経腸栄養により十分なエネルギーを投与できていないならば,3 日以内に補足的静脈栄養を開始することが推奨されてきた

(Grade C)。

②補足的静脈栄養に関するエビデンス

このような中,経腸栄養プロトコールに従って経腸栄養を実施し,目標エネルギー投与量の不足分を静脈的に2 日以内(early initiate),あるいは 8 日目以降(late initiate)に投与した 2 群で,補足的静脈栄養の効果を比較した大きな RCT である EPaNIC study が実施された 5)。その結果,early initiate 群のほうが,late initiate群に比べ,総エネルギー投与量は多くなり,低血糖の発生率は有意に低かった。しかし,その他の,8 日以内のICU 生存退室率,在院日数,感染症発生率,ICU 滞在日数,人工呼吸器が 2 日以上必要であった患者の割合,透析期間,医療費いずれにおいても,late initiate 群のほうが early initiate 群よりも有意に優れた成績であった。

以上から,早期経腸栄養にて十分なエネルギーを投与

図1  各ガイドラインのスタンスの違い- 経口・経腸で十分なエネルギーを投与できない場合 -

・ASPEN/SCCMガイドライン2009-最初の1週間は栄養サポートはしてはいけない(Grade E)。

・ESPEN PNガイドライン-3日以内に静脈栄養を開始せよ(Grade C)

何が何でも静脈栄養をしたくない!

何が何でもエネルギー投与量を維持!

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ポイント

・血糖管理において,強化インスリン療法は NICE-Sugar study で否定された。・SSCG2012 では,「144 〜 180mg/dL を目標とし,80 〜 110mg/dL は目標にしない」と定

義された。・補足的静脈栄養投与は,早期 EN で不足するエネルギーの経静脈的投与のことであるが,EPaNIC

study の結果からも,1 週間は控えるのがよい可能性が高い。しかしながら,相反する study もあり今後の動向が注目される。

できない場合に補足的な静脈栄養投与をASPEN/SCCMで推奨されているように,最初の 1 週間は控えることが望ましく(図 1),今後その方向性で見解の統一がはかられていくものと思われている。しかし,最近になりそれに相反するエビデンスも報告され,今後も補足的静脈栄養の方法論については議論が続く可能性が高い。

文 献

1) van den Berghe G, Wouters P, Weekers F,et al:Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med 345:1359-1367,2001

2) Brunkhorst FM, Engel C, Bloos F,et al;Intensive insulin therapy and pentastarch resuscitation in severe sepsis. N

Engl J Med 358:125-139,20083) Devos P, Preiser JC, Mélot C:Impact of tight glucose

control by Intensive insulin therapy on ICU mortality and the rate of nypoglycaemia:final results of the Glucontrol study. Abstracts of the 20th Annual Congress of the European Society of Intensive Care Medicine, 7-10 October 2007, Berlin, Germany. Intensive Care Med 33:Suppl 2:S189, 2007

4) NICE-SUGAR Study Investigators:Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients. N Engl J Med 360:1283-1297, 2009

5) Casaer MP, Mesotten D, Hermans G,et al:Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med 365:506-517, 2011

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第十三巻第一号