急性期脳梗塞の治療 - 日本赤十字社 松山赤十字病院長径 26mm)...

38
急性期脳梗塞の治療 新基準の血栓溶解療法をふまえて 松山赤十字病院 救急部・神経内科 志田憲彦

Transcript of 急性期脳梗塞の治療 - 日本赤十字社 松山赤十字病院長径 26mm)...

急性期脳梗塞の治療新基準の血栓溶解療法をふまえて

松山赤十字病院

救急部・神経内科 志田憲彦

脳梗塞

脳梗塞の時間による変化

(ペナンブラ)脳梗塞になりかけている虚血の周辺部位

脳梗塞が完成してしまった中心部位

脳梗塞の部分も広範囲となる。

虚血の周辺部位もさらに広がる。時間経過ととも

非心原性脳梗塞

①小深部穿通枝梗塞であるラクナ梗塞

② Branch atheromatous disease(=BAD)

③頭蓋外又は頭蓋内主幹動脈のアテローム硬化性病変に起因する動脈原性塞栓症(A-to-A embolism)

=アテローム血栓性脳梗塞

心原性塞栓症

心房細動などにより、頭蓋外血管内に形成された塞栓によ る脳梗塞

脳梗塞の病型

Branch atheromatous disease(=BAD)

• ラクナ梗塞:1本の穿通枝末梢の高血圧性血管病変(リポヒアリノーシスとフィブリノイド変成) 1本の穿通枝の灌流域は大脳半球では最大15mm程度。

• BAD:主幹動脈から分岐する穿通枝の入口部に起こるアテローム硬化性病変による狭窄または閉塞 複数の穿通枝領域のため梗塞巣は15mm以上となる。

大脳深部白質のBADとラクナ梗塞のMRI-DWI画像

ラクナ梗塞(長径 10mm)

BAD(長径 26mm)

右中大脳動脈

BADによる橋梗塞の機序

脳幹部のBADとラクナ梗塞のMRI-DWI画像

BAD ラクナ梗塞

脳梗塞の治療は、閉塞血管を出来るだけ早く再開通させペナンブラ部を助ける

これが脳梗塞における血栓溶解療法。

脳梗塞の閉塞血管を再開通させると

(ペナンブラ)脳梗塞周辺部の虚血部位

脳梗塞が完成した中心部位

脳梗塞の部分も増悪しない。

周辺部位が小さくなる。閉塞血管

が再開通すると

非心原性脳梗塞

①小深部穿通枝梗塞であるラクナ梗塞

② Branch atheromatous disease(=BAD)

③頭蓋外又は頭蓋内主幹動脈のアテローム硬化性病変に起因する動脈原性塞栓症(A-to-A embolism)

=アテローム血栓性脳梗塞

心原性塞栓症

心房細動などにより、頭蓋外血管内に形成された塞栓による脳梗塞

脳梗塞の病型

→血栓療法の適応は低い

→血栓療法の適応は低い

日本の血栓溶解剤

• 以前より使用されていたウロキナーゼは血栓を溶かす効果が弱い。

• また1993年に、わが国で世界に先駆けて血栓溶解剤(デュテプラーゼ)の有効性が確認されましたが、海外メーカーとの特許権をめぐる問題で開発が頓挫。

新たな血栓溶解剤t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)

• 1995年に米国で脳梗塞急性期の3時間以内に投与することでt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)の有効性が確認され1996年より米国にて認可された。

• 2002~2003年にかけての国内の治験でt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)の有効性が確認され米国に遅れること9年目の2005年10月より、わが国でも承認、認可され、発症3時間以内の脳梗塞の超急性期の患者に動脈注入用カテーテルなど特殊な医療行為なく、1時間の点滴で投与可能となった。

2012年8月31日厚労省薬事審議会で発症4.5時間までのt-PA療法の投与が認可された。

血栓溶解剤t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)一般名:アルテプラーゼとは

• 血液中には、プラスミンという血栓溶解作用を持った物質があり、

通常はプラスミノゲンという形で

存在し、選択性の高い

t-PAによって血栓に存在するプラスミノゲンだけをプラスミン

に活性化させ、血栓を溶かし

血管を再開通させる。 血栓溶解剤t-PA(一般名:アルテプラーゼ)

t-PAを使用した血栓溶解療法の重要なこと

• 治療開始は脳梗塞が発症4.5時間以内(ゴールデンタイム)に開始することが重要。

❶虚血になり脳神経細胞が死に至る経過は早く、

4.5時間以上経過してしまうとt-PAで血栓を溶解し 血流を再開通させても、多くの脳神経細胞は回復 する可能性が低い。

❷時間が経過してから血栓溶解することで、血流再 開で脆弱となった閉塞血管が破綻し、いわゆる出 血性梗塞を引き起こし、さらに症状を悪くする可 能性が高くなる。

血栓溶解療法(t-PA)の実際

②来院後直ちに、問診、診察後

脳卒中が疑われれば、至急頭部CTを行う。

問診及び診察

頭部CT

1.初期対応(ABC);意識障害患者が来院したら

• 1.意識レベルをチェックし、気道の確保の有無を。• 2.自発呼吸の有無、酸素投与の必要性の検討。• 3.血圧、脈拍、体温の確認。血管確保が必要か?自発呼吸なければ直ちにCPR。自発呼吸を認めても意識障害高度であれば、気管内挿管による気道確保の検討が必要。

• Vital signを確認したら、意識レベルを再確認し救急隊、家族から病歴や状況を簡素に、場合により繰り替えし聴取し、原因の的を絞ってゆく。

• 4.血糖チェックし低血糖が確認出来れば50%ブドウ糖2A静注。• 5.低栄養、アルコール関連疾患の存在を考えアリナミンF(50mg)[=Vitamin B1]1A~2Aを緩徐に静注。

問診及び診察のポイント

注意点① 発症時刻から4.5時間以内に投与を開始すること。搬入後の検査時間を考慮すると発症時刻から最低

3時間から3.5時間以内が限界。

超急性期脳梗塞は、緊急疾患であり、時間との勝負!

最初に対応した医師が、それを意識しながら診察し可能な限り早く、専門医(神経内科、脳外科)に相談!

注意点② 発症時刻とは以下の時刻のことで発見時間とは違う。

●患者本人或は発症を目撃した人が報告した時刻●患者が無症状であることが最後に確認された時刻

禁 忌 (既往症) 非常に最近の出血疾患と手術例

(臨床所見)●発症時にけいれん発作●出血の合併

*胸部大動脈瘤、胸部大動脈解離症例:全国で10症例に投与され、全員死亡。

(疑い例) 血圧が低い症例。上肢の血圧に左右差のある症例。左半身麻痺の症例。総頸動脈閉塞例。

*胸部大動脈瘤、胸部大動脈解離症例全国で10症例に投与され、全員死亡。(’05.10~’07.7)

(疑い例)血圧が低い症例。上肢血圧に左右差のある症例。左半身麻痺の症例。総頸動脈閉塞例。

片麻痺のポイント

上肢の運動麻痺の評価のポイント

下肢の運動麻痺のポイント

眼球共同偏位

眼球位置異常

急性期の錐体路症状

脳卒中が疑われば!

• 先ずは頭部CT撮影で、出血病変を除外MRIよりCT first

t-PA投与基準にはMRI撮影は基本的には含まれない。

Early CT sign=早期虚血性変化広範囲脳梗塞では、細胞傷害性浮腫による早期虚血性変化(early CT sign)を認める。

①レンズ核の不明瞭化

②島皮質の不明瞭化

③脳溝の消失

④皮髄境界の不明瞭化

• Early CT signを認めれば

t-PA(アクチバシン)療法は禁忌となる。

血栓溶解療法(t-PA)の実際③頭部CTにて脳梗塞の可能性が高いと判断すれば緊急頭部MRIとMRA(=MR血管撮影)検査を行う。同時に心電図、胸部レントゲン、血液検査を行い、すべての結果をもとにt-PAによる血栓溶解療法が可能かを検討し、患者或は家族に説明の上同意をとる。

来院後からt-PAを投与開始するまで平均30分~40分間を要する。

頭部MRIとMRA

心電図、胸部レントゲン血液検査

家族による病歴聴取

前医の内服薬の有無

脳梗塞を発症1時間後のMRIとMRA

右中大脳動脈領域の超急性期脳梗塞

右. 左

右中大脳動脈(M1)からの血管閉塞が疑われる。

右 左

MRI拡散強調画像 MRA=血管撮影

t-PAの投与の実際

t-PA(アクチバシン)を総投与量(0.6mg/kg)※欧米は0.9mg/kgで日本は2/3の量

まず総投与量の10%を1分間かけて急速投与し、残りの90%を60分かけて持続静脈投与する。

時にt-PA投与前にエダラボン(ラジカット®)を事前投与(ペナンブラ部位の虚血障害の緩和目的)

t-PA 血栓溶解療法前後のMRIとMRA

治療前

MRI拡散強調画像 MRA=血管撮影

治療後

右. 左

左右

右 左

右 左

● 診療所

● 病 院

● 診療所

● 病 院

● 脳卒中・脳神経 センター

● 脳卒中・脳神経 センター

脳卒中疑い脳卒中疑い

頭部CT頭部CT

頭部MRI(DWI)

脳血管MRA

頭部MRI(DWI)

脳血管MRA

脳出血 脳出血

脳梗塞脳梗塞

その他の 疾患

その他の 疾患

各科の専門医各科の専門医

神経学的診察神経学的診察

神経内科医

脳外科医

神経内科医

脳外科医当番医当番医

●主治医からの電話に

  当番医が24 時間応対

●主治医からの電話に

  当番医が24 時間応対

→ 当番救急病院   ( 輪番制 ) → 当番救急病院   ( 輪番制 ) 

脳卒中ホットライン

脳卒中ホットライン

24 時間対応携帯

24 時間対応携帯

脳卒中?脳卒中?

● 松山赤十字病院 脳卒中・脳神経センターは 24時間 "脳卒中患者 " の受け入れに対応● 松山赤十字病院 脳卒中・脳神経センターは 24時間 "脳卒中患者 " の受け入れに対応

受診受診

往診往診

●救急車コール●救急車コール

可能な限り   早急に !!可能な限り   早急に !!(2 時間以内 )(2 時間以内 )

約 35 分約 35 分

約 15 分約 15 分

主治医より主治医より

入院入院

t-PA 適応の判断t-PA 適応の判断