PICCカテーテルは 末梢静脈カテーテルと比べて 長...

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東京城東病院 総合内科 担当者: 斉藤 岳史(診療看護師)

監修者: 森川 暢 松本真一 本橋伊織

JHOSPITALIST network 2017年10月16日

PICCカテーテルは 末梢静脈カテーテルと比べて 長期留置による合併症は多いのか?

症例 86歳 男性

【主訴】

下痢 腹痛

【現病歴】

1週間前に気管支炎に対し、

CTRX2g/dayにて治療歴あり、

徐々に腹痛、水様便を認め、受診となった。

【既往歴】

喘息,胃癌,肺癌,前立腺癌

【検査結果

CDトキシン 陽性

WBC 15700/μl

Cre 2.96mg/dl(baseは0.91mg/dl)

⇒重症Clostridium difficile感染症

【治療方針】

絶食、補液

経口バンコマイシンを開始した

1週間後・・・・

下痢は減少し腎機能障害も改善したがせん妄や食思

不振も伴い経口摂取は進まず、静脈栄養を継続した。

末梢ラインから補液していたが、連日血管外への

漏出を起こし再挿入を繰り返していた。

PICC(末梢型中心静脈カテーテル)挿入を検討した。

しかしPICCはDVTと感染のリスクという話を聞いた。

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

臨床的疑問

PICO

P:長期点滴投与が予測された患者

I:PICC(末梢型中心静脈カテーテル)

C:PC(末梢静脈カテーテル)

O:合併症発生率(DVT,感染)

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

Pubmed

『peripherally inserted central catheters』

『peripheral catheters』

『Randomized controlled trial』 で検索。

論文

Journal of Thrombosis and Haemostasis, 6: 1281–1288

5日間以上補液を必要とする患者の PICC vs PCの比較試験

論文の背景

CDCガイドライン(2011)

輸液期間が6日を超えると見込まれるとき、

ショートタイプの末梢静脈カテーテルではなく、

ミッドラインカテーテルまたは末梢挿入型中心静脈

カテーテル(PICC)を使用する。

カテゴリーⅡ

日本VADコンソーシアム (JVADC)ガイドライン

ガイドラインでは末梢静脈留置カテーテ

ル(PCC)による輸液治療期間の上限を

示したことも特徴の1つ。「1週間を目安

に患者の状態、医療環境(実施者や医療

機器など)を考慮した上で院内手順に規

定することが望ましい」と推奨度A(強

く推奨する)で推奨。

中心静脈からの輸液治療には、気胸や動

脈誤穿刺などの機械的合併症のリスクが

低いことから、「挿入および管理の安全

性を考慮し、原則としてPICC(末梢挿

入型中心静脈カテ―テル)を第一選択と

する(推奨度A)」とした。

静脈アクセスデバイス別血流感染の発生率

PC 短期 CV

PICC CV ポート

CR-BSI 発生率

0.6/1000

カテーテル挿入日

2.3/1000

カテーテル挿入日

0.4/1000

カテーテル挿入日

0.2/1000

カテーテル挿入日

The Promise of Novel Technology for the Prevention of Intravascular Device-Related Bloodstream Infection.Ⅱ.Long-Term Device CID 2002:34(15 May)Healthcare Epidemiology.Christopher J.Crinch and Denniss G.Maki

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

論文のPICO

P:5日間点滴投与が予測された患者

I:PICC(末梢型中心静脈カテーテル)

C:PC (末梢静脈カテーテル)

O:合併症発生率(DVT,感染)

方法

<研究デザイン>

単施設、non-blind 、 RCT

<期間>

2005年の8月~2006年の12月

<施設>

スイスのLausanne University Hospital

Patient

<Inclusion>

5日間の点滴治療が予期された患者

<Exclusion>

出血リスクが高い患者

CVCが必要な患者

Cr >1.8mg/dL

Intervention/Comparsion

<Intervention> PICC(末梢型中心静脈カテーテル)

放射線医が、透視下で尺側皮静脈か上腕静脈に挿入

<Comparsion> PC(末梢静脈カテーテル)

ベッドサイドで看護師により、 前腕の静脈より挿入 原則18Gであるが、14-22Gまで必要に応じて調節可能

Outcum

First Outcome

カテーテル関連のmajorな合併症 (深部静脈血栓症、カテーテル 関連感染症を含む) Second Outcum

カテーテル関連のminorな合併症 (末梢静脈血栓症を含む) 他、患者満足度やコストも

①結果は妥当か

・患者はランダム割り付けされていたか

・ランダム化割り付けは隠蔽化されていたか

・base lineは同等か

・研究はどの程度盲検化されていたか

・追跡率・脱落率はどうか

・患者はIntention to treat解析されたか

・試験は早期中止されたか

・サンプルサイズはどうか?

患者はランダム割り付けされていたか

ランダム化はされている。

コンピューターを使ってランダム化

血栓形成傾向で層別化されている。

隠蔽化の有無は不明。

base lineは同等か

・カテーテル使用期間

・経静脈薬剤使用期間

PICCではPCに比べ長い傾向

他、両群の割合に違いはない

研究はどの程度盲検化されていたか

患者、挿入者共に盲検化は困難

患者はIntention to treat解析されたか

Intention to treat analysis(ITT)

ITT解析が 行われている

追跡率・脱落率はどうか

• 追跡率は100% • 脱落率は0%

試験は早期中止されているか。

試験は事前に定められた規定に基づき、早期中止されている。

サンプルサイズはどうか?

PICCのDVT発生率

が先行研究からあま

りはっきりしない。

ひとまず60名とし

ている。

②結果は何か

• 結果はどのように示されたか?

• 害の大きさはどれくらいか

• 治療効果の推定値はどれくらい正確か

Results

PICC群におけるDVTの発生率が高い

PICC 19.4% VS PC 3.4% P=0.06

NNH(Number Needed to Harm):6.25

Major complicationもPICC群で多い。

Per 1000 patient-day 24.0 VS 4.7 P<0.01

表在静脈血栓症はPC群で多い

Per 1000 patient-day 30.9 VS 4.7 P<0.01

つまり、

約6人中1人に DVTが発生する

Results

3ヶ月の臨床評価では全員が症状なし(超音波で全例スクリーニング) 過去の後ろ向き研究では無症候性のDVTに関して過小評価している可能性。 深部静脈血栓症患者7例(PICC群6名,PC群1名)の臨床像および超音波検査所見として、腋窩静脈、尺側皮静脈で多く見られた。

Results

PICCはPCよりも患者満足度が高い

Results

血流感染は両者で発生せず。 PICCで1例、局所感染が発生。

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

結果を患者のケアにどのように適用できるか

✔研究患者は自身の診療における患者と似ていたか

人種は違い、年齢はこの症例よりも若年者。

⇒症例のほうが高齢であり、今回のstudyの群より合併症

を起こしやすいかもしれない。

✔患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか

⇒血栓症・感染症と重大なアウトカムは考慮されている。

✔治療の利益は、考えられる害やコストに見合うか

PICC:690USドル/患者 PC:237USドル/患者

⇒PICCは素材、造影検査などコストが高くPCに比べてコスト

に見合わないかもしれない。。

EBMの5STEP

STEP1 疑問の定式化(PICO)

STEP2 論文の検索

STEP3 論文の批判的吟味

STEP4 症例への適応

STEP5 STEP1-4の見直し

STEP5 STEP1-4の見直し

Step1

疑問の定式化は特に問題なかったと思われる。

Step2

PCとPICCの比較試験のRCTは文献が少なく、素早くPubMed

で検索できた。

Step3

・有症候性DVDやカテーテル関連感染症などの検出にはサンプ

ルサイズが小さかったのかも?

・無症候性DVTがPICCで多くなったのはカテーテル留置期間が

PICCで長かったからなのかもしれない。

STEP5 STEP1-4の見直し

Step 4

患者としては、頻回の末梢カテーテル交換が減る

ことは満足度が高いかもしれない。

とはいえ、無症候性とはいえDVTのリスクを患者

に負わしているのかもしれない。

実際にどうしたのか?

✔DVTのリスクはあるものの、頻回のPC交換の

手間や患者QOLを考えPICCを挿入した。

✔DVTのリスクを考え、食事摂取量が安定次第

PICCを抜去する方向とした。