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発行月 : 平成25年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

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京都府版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

京都府薬剤師会 副会長医療法人社団蘇生会蘇生会総合病院 事務局長・薬剤部長甲斐 純子 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

日本病院薬剤師会 副会長京都府薬剤師会 監事京都大学医学部附属病院教授・病院長補佐・薬剤部長松原 和夫 先生

■京都府における病棟薬剤業務の現状と展望――京都府における病棟薬剤業務の取り組みの現状についてお伺いします。

甲斐 2013年7月現在、病棟薬剤業務実施加算の届け出を行っているのは、京都府下の187施設中の22施設、1割強という状況です。京都府病院薬剤師会(府病薬)では、制度の開始早々に厚生労働省の薬剤管理官を招いて説明会を行い、会員に病棟薬剤業務への理解を深めていただきました。また、7月には松原先生に病棟薬剤業務の意義や展望について講演をしていただき、非常に多くの会員が関心を持って参加しました。2013年度は7月と8月に、算定を目指す病院が、既に算定している病院の取り組みを参考にするための病院見学会を実施する計画です。府病薬としては、病棟薬剤業務について院内のコンセンサスを得、業務マニュアルなどを作成したうえで実施するようにと指導しています。一方で、加算は算定できなくても、病棟に薬剤師を配置することは絶対に必要であり、まずは1病棟からでも病棟薬剤業務を

実践していきましょうと呼びかけています。

――松原先生は日本病院薬剤師会副会長というお立場から、この1年の動きについて、どのようにご覧になっていますか。

松原 全国の状況について言えば、2012年9月の段階で941施設が届け出をしており、このうち人員増によって加算を算定した施設は全体の3割程度しかありませんでした。2012年12月には1090施設程になりましたが、2013年6月には1034施設に減っています。十分な人員を確保しないまま無理をしていた、もしくは算定開始後に人員が減少したことで取り下げざるを得なかった施設があったようです。算定を目指す病院は多いものの、実際には人員の確保が思うようにいっていないというのが現状でしょう。日本病院薬剤師会(日病薬)としては、必要な人員を確保したうえで算定を開始すること、具体的には、代休や休暇を考慮すれば、1病棟に2人の配置が望ましいと考えています。ちなみに当院の場合は、2012年10月から算定を開始しましたが、平均で1病棟

に3人配置し、どんな場合も、病棟に薬剤師が必ず1人いる体制を構築し、ICU、HCUなど特定入院料加算病棟5病棟を含む27病棟に薬剤師が常駐しています。そもそも病棟薬剤業務実施加算は、薬剤師が病棟にいることによって、医療や薬物療法の有効性・安全性の向上、チーム医療の推進による医療従事者の負担軽減という病院の機能の向上に対する評価ですから、ただ単に、週20時間以上、病棟に薬剤師がいればいいのではなく、本来の目的に見合う病棟業務の体制整備と内容の充実に取り組んでいただきたいと思います。

――蘇生会総合病院では、2012年9月から算定を開始されましたが、それまでの取り組みについてお伺いします。

甲斐 当院は350床ですが、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養型病棟をそなえ、患者さんに継続的かつ総合的な医療を提供しています。薬剤部は「薬物療法のあるところに薬剤師あり」という基本理念のもと、院内におけるすべての薬剤の管理に責任を持つ体制を構築しています。各病棟には救急用の薬剤しか配置せず、夜間も含めて基本的には薬剤部より薬剤を払い出しています。また、病棟薬剤業務実施加算の算定要件である業務内容のほぼすべてを以前から実施していました。2012年4月に6年制の新卒薬剤師を10人採用し、それまでの12人から一

気に倍増しました。5ヶ月間は新人教育を徹底的に行い、9月から加算の算定を開始しました。業務の実施に先立ち、看護師長会や医局会で説明会を開き、例えば、与薬業務は対象外であることなど、業務範囲についてコンセンサスをはかりました。なお、算定開始から11ヵ月間における病棟薬剤業務の時間別構成比は資料1の通りです。現在、急性期の3病棟に2人ずつ、回復期リハビリ病棟、療養型介護型病棟にも新人を含む各3人を配置し、必ず病棟に1人が常駐しています。毎朝、前日に行った業務について病棟担当薬剤師が発表し、全員で共有しているほか、何かあればすぐにみんなで集まって話し合うようにしています。薬剤師数は、今年採用した2人を含めて現在24人、来年度はさらに3~5人の増員を検討しています。

――10人もの新人薬剤師の教育は大変ではありませんでしたか。

甲斐 教える側、教えられる側がほぼ同じ数ですから、薬剤部の総力をあげて新人教育に取り組みました。薬剤業務マニュアルを理解してもらうために、スタッフの発案でミニテストを何回も行うなどして、5カ月で一通りのことはできるようになりました。そうやって育成した薬剤師は、2年目からは療養病棟や回復期リハビリ病棟での病棟業務をしっかり行っています。

――病棟薬剤業務の効果の検証も、今後、大切になりますね。

松原 病棟薬剤業務の効果の検証は、次回の診療報酬改定のためだけでなく、薬剤師の将来のために非常に重要です。日病薬では、毎年実施している「病院薬剤部門の現状調査」の中で、各施設における病棟業務の進展状況を詳細に調査しています。対象数が多く、過去のデータと比較解析もできますから、かなり信頼性の高いデータが得られると考えています。また、中医協でも全国の約1500施設を対象に「薬剤師の病棟業務に関する実態調査」を8月に実施します。こうした大規模な施設調査による検証の一方で、薬剤師が病棟にいることが医療の質向上、患者さんのQOL向上に有効であるというエビデンスを示す必要があります。前回の診療報酬改定の際は、「薬剤師の病棟勤務時間が長いほど薬剤が関連するインシデント発生数は少ない」という論文を出し、それが薬剤師による医療安全への貢献のエビデンスとなり、加算の新設が認められたという経緯があります。ですから、薬剤師自身が病棟薬剤業務のエビデンスを蓄積し、論文として発表することが大切です。論文化までは無理でも、評価指標を設定し、薬剤師の業務を数値化してほしいと思います。例えば、医師、看護師からの質問件数、インシデント件数やプレアボイド報告が算定前後でどう変化したのかでも十分なエビデンスになります。他の誰でもない、薬剤師がいて良かったという声が、医療者や患者さんから高まらなければ、この加算の継続・発展は望めません。

甲斐 当院でも、薬剤師の処方提案によって患者さんの予後が改善した事例を各病棟で集積して、少しずつ学会で発表しています。そうしたデータを集約していずれ論文化することを目指しています。診療報酬としての評価はもちろん大切ですが、病棟薬剤業務の本質は患者さんへのよりよい適切な医療の提供であり、薬剤師の実践の積み重ねに対して診療報酬が伴ってくると

京都府版 特別号

京都府版特別号

考えて取り組むべきだと思います。松原 評価の考え方として、加算算定による収入増加をもって病院経営に貢献するという話になりがちですが、それは本来の目的ではありません。人員確保のための基礎資料として院内で提示することは必要でしょうが、社会的な評価を得るためのエビデンスとしては、薬物治療の質向上にどう貢献できたかを念頭に置く必要があります。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――チーム医療の推進という観点から、薬剤部の取り組みについてお伺いします。

松原 当院では、医師のプロトコル指示に基づいて、持参薬処方オーダ、内服定期処方Doオーダ(資料2)、TDM検査オーダなどのプロトコルが実行されています。導入は診療科単位で進めており、既に全科で展開しているもの、一部の病棟に限られているものと様々ですが、導入効果を評価しながら順次、拡大していく計画です。現在、退院時の処方設計に関するプロトコルを準備していますが、まだまだ色々なことができると考えています。例えば、抗MRSA薬や免疫抑制剤などは、あらかじめ薬剤師がプロトコル指示に基づいて処方入力をしておき、医師が確認して実行するという形も可能です。当然のことながら、薬剤師に専門的な知識があることが条件ですが、当院では抗菌薬や免疫抑制剤について詳しい薬剤師が多く、医師との信頼関係があるからこそ可能だとも言えます。最初は1病院だけの取り組みでも、実績を積み重ねていくことで、他の病院へも波及していき、いずれは全国の多くの病院で標準的な業務として定着していくことも夢ではないでしょう。

甲斐 当院では、2007年の電子カルテ導入に伴い、薬剤師に医師の処方を薬学的観点に基づき変更する権限が与えられ、主治医はそれを確認して承認するシステムとなっています。また、がん化学療法においては、薬剤師が医師とともに投与計画書を作成し、レジメン管理者の立場から薬剤師が処方オーダを出すことに院内のコンセンサスが得られています。処方計画からオーダ、無菌調製、そして外来化学療法室や病棟のベッドサイドに運んで、投与時には流量確認を行うなど、すべての薬剤師が責任を持って関わっています。この他にも、10年以上前から心臓手術の際、薬剤師が人工心肺液や心筋保護液を調製するなど、チーム医療の中で薬剤師が専門性を発揮してきました。これらの活動は最初に申し上げた薬剤部の理念に基づくものですが、もともと病院としてスキルミックスを推進する風土があり、医師、看護師との信頼関係がすでに確立していたことで実現したと言えます。

――薬剤師のレベルアップ、モチベーションの維持・向上についてはどのようにお考えですか。

甲斐 積極的に処方提案を行うためには、常に知識を高めていく必要がありますので、勉強会は毎日のように行っています。また、7~8年前からポートフォリオを作成しているのですが、その内容を評価し、毎年、3人に学術奨励賞を贈るといった当院独自の表彰制度もあります。仲間同士で競い合う中から、学習意欲や向上心が養われ、レベルアップします。また、薬剤師の頑張り

が病院から認められ、今年度は昇給という形での評価も獲得しましたので、それもモチベーションアップにつながっています。

松原 基本的には、仕事が面白い、楽しいと思える職場、それに尽きます。病棟薬剤業務を始めてから、ほとんどの薬剤師は「忙しいけど楽しい」「医師、看護師からの質問がすごく増えてやりがいがある」と言っています。それまでも服薬指導のために病棟には行っていましたが、今は病棟スタッフの一員として、一緒に患者さんの病気を治しているという充実感があるのではないでしょうか。それがモチベーションになって、次はもっとこうしたいという意欲が前面に出てきています。医療に貢献したいという志を持って病院薬剤師になったのですから、彼らが思い描いていたことに挑戦できる環境、学んだことが活かせる環境づくりが私の仕事だと思っています。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの病院薬剤師が目指す方向性と展望をお聞かせください。

松原 今回の加算新設までの経緯を振り返れば、安心・安全な

医療を求める国民のニーズと、医療の複雑化の中で医療現場が疲弊したこと、これらを解決するための一つの答えとして「チーム医療の推進」が提言されたことが大きな転機でした。チーム医療の中で、薬剤師にも専門性を最大限に発揮することが求められ、仕事のあり方そのものが大きく変わっていきますから、それに対応できる新しい薬剤師像を創っていかなければいけない。薬学教育が6年制になったことの意義はそこにあります。新時代の薬剤師によって、患者さんのアウトカム改善に貢献する様々な業務が開拓され、チーム医療においてなくてはならない存在になる。そんな将来像を描き、明確な目標を持つことで、夢は大きく広がっていくと思います。

甲斐 病棟薬剤業務実施加算の新設の意義は、何よりも、患者さんに対して、医療の安全の確保と、より良い薬物療法が提供できる環境ができたということです。薬物療法が行われている現場に薬剤師がいることの有用性が認められれば、患者さんに貢献できる機会ももっと増えていきます。それを実感したのが、脳血管造影中にHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が起きた時です。医師から電話で相談があり、適切な処方提案ができたのですが、この時にアンギオ室に薬剤師がいれば、その場でもっと早く提案できたのではないかと思いました。その経験から、今、手術室・アンギオ室・透析室への薬剤師の配置を検討しています。診療報酬とは関係なく、薬剤が使われているすべ

ての現場に薬剤師がいるべきであり、薬剤師が活躍できるところはまだまだ広がっていくと思います。

――最後に、お二人から新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

甲斐 これからの薬剤師には、薬の専門家として、病院全体の薬物療法のマネジメントの中核となって、病院を支えていく存在であってほしいと思います。そのために、薬あるところ、患者さんのおられるところに積極的に出向いていって、そこでまたマネジメントの中核を担うというような形が理想であり、新時代の薬剤師の姿ではないかと思います。

松原 15年前、私は前任地の旭川医科大学病院で、大学病院では初めて病棟薬剤師を配置しました。1年後に病棟で患者さんが薬剤師を「お薬の先生」と呼んでいるのを聞き、その響きが今も印象に残っています。すべての患者さんから「お薬の先生」と呼ばれるようになったら、それが「新時代の薬剤師」の完成形ではないでしょうか。今、その実現にまた一歩近づいたのです。ぜひ、「お薬のことは何でも薬剤師に聞けばいい」と信頼される薬剤師を目標にしてほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・京都府版2013」では、京都大学医学部附属病院の松原和夫先生と蘇生会総合病院の甲斐純子先生のお二人に、京都府における病棟薬剤業務の現状、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性についてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

大文字焼

京都府版 特別号

京都府薬剤師会 副会長医療法人社団蘇生会 蘇生会総合病院 事務局長・薬剤部長

か い じゅん こ

甲斐 純子 先生

日本病院薬剤師会 副会長京都府薬剤師会 監事京都大学医学部附属病院教授・病院長補佐・薬剤部長

まつ ばら   かず お

松原 和夫 先生

■京都府における病棟薬剤業務の現状と展望――京都府における病棟薬剤業務の取り組みの現状についてお伺いします。

甲斐 2013年7月現在、病棟薬剤業務実施加算の届け出を行っているのは、京都府下の187施設中の22施設、1割強という状況です。京都府病院薬剤師会(府病薬)では、制度の開始早々に厚生労働省の薬剤管理官を招いて説明会を行い、会員に病棟薬剤業務への理解を深めていただきました。また、7月には松原先生に病棟薬剤業務の意義や展望について講演をしていただき、非常に多くの会員が関心を持って参加しました。2013年度は7月と8月に、算定を目指す病院が、既に算定している病院の取り組みを参考にするための病院見学会を実施する計画です。府病薬としては、病棟薬剤業務について院内のコンセンサスを得、業務マニュアルなどを作成したうえで実施するようにと指導しています。一方で、加算は算定できなくても、病棟に薬剤師を配置することは絶対に必要であり、まずは1病棟からでも病棟薬剤業務を

実践していきましょうと呼びかけています。

――松原先生は日本病院薬剤師会副会長というお立場から、この1年の動きについて、どのようにご覧になっていますか。

松原 全国の状況について言えば、2012年9月の段階で941施設が届け出をしており、このうち人員増によって加算を算定した施設は全体の3割程度しかありませんでした。2012年12月には1090施設程になりましたが、2013年6月には1034施設に減っています。十分な人員を確保しないまま無理をしていた、もしくは算定開始後に人員が減少したことで取り下げざるを得なかった施設があったようです。算定を目指す病院は多いものの、実際には人員の確保が思うようにいっていないというのが現状でしょう。日本病院薬剤師会(日病薬)としては、必要な人員を確保したうえで算定を開始すること、具体的には、代休や休暇を考慮すれば、1病棟に2人の配置が望ましいと考えています。ちなみに当院の場合は、2012年10月から算定を開始しましたが、平均で1病棟

に3人配置し、どんな場合も、病棟に薬剤師が必ず1人いる体制を構築し、ICU、HCUなど特定入院料加算病棟5病棟を含む27病棟に薬剤師が常駐しています。そもそも病棟薬剤業務実施加算は、薬剤師が病棟にいることによって、医療や薬物療法の有効性・安全性の向上、チーム医療の推進による医療従事者の負担軽減という病院の機能の向上に対する評価ですから、ただ単に、週20時間以上、病棟に薬剤師がいればいいのではなく、本来の目的に見合う病棟業務の体制整備と内容の充実に取り組んでいただきたいと思います。

――蘇生会総合病院では、2012年9月から算定を開始されましたが、それまでの取り組みについてお伺いします。

甲斐 当院は350床ですが、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養型病棟をそなえ、患者さんに継続的かつ総合的な医療を提供しています。薬剤部は「薬物療法のあるところに薬剤師あり」という基本理念のもと、院内におけるすべての薬剤の管理に責任を持つ体制を構築しています。各病棟には救急用の薬剤しか配置せず、夜間も含めて基本的には薬剤部より薬剤を払い出しています。また、病棟薬剤業務実施加算の算定要件である業務内容のほぼすべてを以前から実施していました。2012年4月に6年制の新卒薬剤師を10人採用し、それまでの12人から一

気に倍増しました。5ヶ月間は新人教育を徹底的に行い、9月から加算の算定を開始しました。業務の実施に先立ち、看護師長会や医局会で説明会を開き、例えば、与薬業務は対象外であることなど、業務範囲についてコンセンサスをはかりました。なお、算定開始から11ヵ月間における病棟薬剤業務の時間別構成比は資料1の通りです。現在、急性期の3病棟に2人ずつ、回復期リハビリ病棟、療養型介護型病棟にも新人を含む各3人を配置し、必ず病棟に1人が常駐しています。毎朝、前日に行った業務について病棟担当薬剤師が発表し、全員で共有しているほか、何かあればすぐにみんなで集まって話し合うようにしています。薬剤師数は、今年採用した2人を含めて現在24人、来年度はさらに3~5人の増員を検討しています。

――10人もの新人薬剤師の教育は大変ではありませんでしたか。

甲斐 教える側、教えられる側がほぼ同じ数ですから、薬剤部の総力をあげて新人教育に取り組みました。薬剤業務マニュアルを理解してもらうために、スタッフの発案でミニテストを何回も行うなどして、5カ月で一通りのことはできるようになりました。そうやって育成した薬剤師は、2年目からは療養病棟や回復期リハビリ病棟での病棟業務をしっかり行っています。

――病棟薬剤業務の効果の検証も、今後、大切になりますね。

松原 病棟薬剤業務の効果の検証は、次回の診療報酬改定のためだけでなく、薬剤師の将来のために非常に重要です。日病薬では、毎年実施している「病院薬剤部門の現状調査」の中で、各施設における病棟業務の進展状況を詳細に調査しています。対象数が多く、過去のデータと比較解析もできますから、かなり信頼性の高いデータが得られると考えています。また、中医協でも全国の約1500施設を対象に「薬剤師の病棟業務に関する実態調査」を8月に実施します。こうした大規模な施設調査による検証の一方で、薬剤師が病棟にいることが医療の質向上、患者さんのQOL向上に有効であるというエビデンスを示す必要があります。前回の診療報酬改定の際は、「薬剤師の病棟勤務時間が長いほど薬剤が関連するインシデント発生数は少ない」という論文を出し、それが薬剤師による医療安全への貢献のエビデンスとなり、加算の新設が認められたという経緯があります。ですから、薬剤師自身が病棟薬剤業務のエビデンスを蓄積し、論文として発表することが大切です。論文化までは無理でも、評価指標を設定し、薬剤師の業務を数値化してほしいと思います。例えば、医師、看護師からの質問件数、インシデント件数やプレアボイド報告が算定前後でどう変化したのかでも十分なエビデンスになります。他の誰でもない、薬剤師がいて良かったという声が、医療者や患者さんから高まらなければ、この加算の継続・発展は望めません。

甲斐 当院でも、薬剤師の処方提案によって患者さんの予後が改善した事例を各病棟で集積して、少しずつ学会で発表しています。そうしたデータを集約していずれ論文化することを目指しています。診療報酬としての評価はもちろん大切ですが、病棟薬剤業務の本質は患者さんへのよりよい適切な医療の提供であり、薬剤師の実践の積み重ねに対して診療報酬が伴ってくると

考えて取り組むべきだと思います。松原 評価の考え方として、加算算定による収入増加をもって病院経営に貢献するという話になりがちですが、それは本来の目的ではありません。人員確保のための基礎資料として院内で提示することは必要でしょうが、社会的な評価を得るためのエビデンスとしては、薬物治療の質向上にどう貢献できたかを念頭に置く必要があります。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――チーム医療の推進という観点から、薬剤部の取り組みについてお伺いします。

松原 当院では、医師のプロトコル指示に基づいて、持参薬処方オーダ、内服定期処方Doオーダ(資料2)、TDM検査オーダなどのプロトコルが実行されています。導入は診療科単位で進めており、既に全科で展開しているもの、一部の病棟に限られているものと様々ですが、導入効果を評価しながら順次、拡大していく計画です。現在、退院時の処方設計に関するプロトコルを準備していますが、まだまだ色々なことができると考えています。例えば、抗MRSA薬や免疫抑制剤などは、あらかじめ薬剤師がプロトコル指示に基づいて処方入力をしておき、医師が確認して実行するという形も可能です。当然のことながら、薬剤師に専門的な知識があることが条件ですが、当院では抗菌薬や免疫抑制剤について詳しい薬剤師が多く、医師との信頼関係があるからこそ可能だとも言えます。最初は1病院だけの取り組みでも、実績を積み重ねていくことで、他の病院へも波及していき、いずれは全国の多くの病院で標準的な業務として定着していくことも夢ではないでしょう。

甲斐 当院では、2007年の電子カルテ導入に伴い、薬剤師に医師の処方を薬学的観点に基づき変更する権限が与えられ、主治医はそれを確認して承認するシステムとなっています。また、がん化学療法においては、薬剤師が医師とともに投与計画書を作成し、レジメン管理者の立場から薬剤師が処方オーダを出すことに院内のコンセンサスが得られています。処方計画からオーダ、無菌調製、そして外来化学療法室や病棟のベッドサイドに運んで、投与時には流量確認を行うなど、すべての薬剤師が責任を持って関わっています。この他にも、10年以上前から心臓手術の際、薬剤師が人工心肺液や心筋保護液を調製するなど、チーム医療の中で薬剤師が専門性を発揮してきました。これらの活動は最初に申し上げた薬剤部の理念に基づくものですが、もともと病院としてスキルミックスを推進する風土があり、医師、看護師との信頼関係がすでに確立していたことで実現したと言えます。

――薬剤師のレベルアップ、モチベーションの維持・向上についてはどのようにお考えですか。

甲斐 積極的に処方提案を行うためには、常に知識を高めていく必要がありますので、勉強会は毎日のように行っています。また、7~8年前からポートフォリオを作成しているのですが、その内容を評価し、毎年、3人に学術奨励賞を贈るといった当院独自の表彰制度もあります。仲間同士で競い合う中から、学習意欲や向上心が養われ、レベルアップします。また、薬剤師の頑張り

が病院から認められ、今年度は昇給という形での評価も獲得しましたので、それもモチベーションアップにつながっています。

松原 基本的には、仕事が面白い、楽しいと思える職場、それに尽きます。病棟薬剤業務を始めてから、ほとんどの薬剤師は「忙しいけど楽しい」「医師、看護師からの質問がすごく増えてやりがいがある」と言っています。それまでも服薬指導のために病棟には行っていましたが、今は病棟スタッフの一員として、一緒に患者さんの病気を治しているという充実感があるのではないでしょうか。それがモチベーションになって、次はもっとこうしたいという意欲が前面に出てきています。医療に貢献したいという志を持って病院薬剤師になったのですから、彼らが思い描いていたことに挑戦できる環境、学んだことが活かせる環境づくりが私の仕事だと思っています。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの病院薬剤師が目指す方向性と展望をお聞かせください。

松原 今回の加算新設までの経緯を振り返れば、安心・安全な

医療を求める国民のニーズと、医療の複雑化の中で医療現場が疲弊したこと、これらを解決するための一つの答えとして「チーム医療の推進」が提言されたことが大きな転機でした。チーム医療の中で、薬剤師にも専門性を最大限に発揮することが求められ、仕事のあり方そのものが大きく変わっていきますから、それに対応できる新しい薬剤師像を創っていかなければいけない。薬学教育が6年制になったことの意義はそこにあります。新時代の薬剤師によって、患者さんのアウトカム改善に貢献する様々な業務が開拓され、チーム医療においてなくてはならない存在になる。そんな将来像を描き、明確な目標を持つことで、夢は大きく広がっていくと思います。

甲斐 病棟薬剤業務実施加算の新設の意義は、何よりも、患者さんに対して、医療の安全の確保と、より良い薬物療法が提供できる環境ができたということです。薬物療法が行われている現場に薬剤師がいることの有用性が認められれば、患者さんに貢献できる機会ももっと増えていきます。それを実感したのが、脳血管造影中にHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が起きた時です。医師から電話で相談があり、適切な処方提案ができたのですが、この時にアンギオ室に薬剤師がいれば、その場でもっと早く提案できたのではないかと思いました。その経験から、今、手術室・アンギオ室・透析室への薬剤師の配置を検討しています。診療報酬とは関係なく、薬剤が使われているすべ

ての現場に薬剤師がいるべきであり、薬剤師が活躍できるところはまだまだ広がっていくと思います。

――最後に、お二人から新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

甲斐 これからの薬剤師には、薬の専門家として、病院全体の薬物療法のマネジメントの中核となって、病院を支えていく存在であってほしいと思います。そのために、薬あるところ、患者さんのおられるところに積極的に出向いていって、そこでまたマネジメントの中核を担うというような形が理想であり、新時代の薬剤師の姿ではないかと思います。

松原 15年前、私は前任地の旭川医科大学病院で、大学病院では初めて病棟薬剤師を配置しました。1年後に病棟で患者さんが薬剤師を「お薬の先生」と呼んでいるのを聞き、その響きが今も印象に残っています。すべての患者さんから「お薬の先生」と呼ばれるようになったら、それが「新時代の薬剤師」の完成形ではないでしょうか。今、その実現にまた一歩近づいたのです。ぜひ、「お薬のことは何でも薬剤師に聞けばいい」と信頼される薬剤師を目標にしてほしいと思います。

薬剤師のIDによる内服定期処方Doオーダ(京都大学医学部附属病院)

資料2

病棟薬剤業務の内訳(蘇生会総合病院)資料1

病棟毎にプロトコルを作り、病棟薬剤師と病棟医長の契約の形をとる

医師

①新規入院定期処方

医師

④中止、追加の臨時処方、常備薬使用の指示

医師

⑥「⑤」で薬剤師が作成した仮登録内容を 利用して、オーダーを確定

薬剤師

②処方監査③服薬指導・モニタリングなどの病棟業務 電子カルテに記載→処方提案

薬剤師

⑤中止による削除、追加処方も含めた Do処方の評価と作成と入力(処方提案)

患者限定をしないプロトコル依頼書

(病棟):肝胆膵・移植科(南病棟 4階)

A) 依頼内容

B) 依頼医師氏名(自署):

1 病棟医長氏名

2 担当薬剤師氏名

「薬剤師の IDによる定期処方Doオーダー入力に係るプロトコル」に基づいた、担当薬剤師による持参薬の服薬計画提案を依頼します。

薬剤師による内服定期処方Doオーダー入力依頼書

C) 担当薬剤師氏名(自署):

医薬品の投薬・注射状況の把握医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案

患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施その他(業務内容を具体的に記入すること)

2種以上の薬剤を同時に投与する場合における投与前の相互作用の確認

(2012年9月~2013年7月)

総合計4212時間

48.3%

10.3%

24.8%

13.1%1.8%

1.3%

0.3%

京都府版 特別号

京都府薬剤師会 副会長医療法人社団蘇生会 蘇生会総合病院 事務局長・薬剤部長

か い じゅん こ

甲斐 純子 先生

日本病院薬剤師会 副会長京都府薬剤師会 監事京都大学医学部附属病院教授・病院長補佐・薬剤部長

まつ ばら   かず お

松原 和夫 先生

■京都府における病棟薬剤業務の現状と展望――京都府における病棟薬剤業務の取り組みの現状についてお伺いします。

甲斐 2013年7月現在、病棟薬剤業務実施加算の届け出を行っているのは、京都府下の187施設中の22施設、1割強という状況です。京都府病院薬剤師会(府病薬)では、制度の開始早々に厚生労働省の薬剤管理官を招いて説明会を行い、会員に病棟薬剤業務への理解を深めていただきました。また、7月には松原先生に病棟薬剤業務の意義や展望について講演をしていただき、非常に多くの会員が関心を持って参加しました。2013年度は7月と8月に、算定を目指す病院が、既に算定している病院の取り組みを参考にするための病院見学会を実施する計画です。府病薬としては、病棟薬剤業務について院内のコンセンサスを得、業務マニュアルなどを作成したうえで実施するようにと指導しています。一方で、加算は算定できなくても、病棟に薬剤師を配置することは絶対に必要であり、まずは1病棟からでも病棟薬剤業務を

実践していきましょうと呼びかけています。

――松原先生は日本病院薬剤師会副会長というお立場から、この1年の動きについて、どのようにご覧になっていますか。

松原 全国の状況について言えば、2012年9月の段階で941施設が届け出をしており、このうち人員増によって加算を算定した施設は全体の3割程度しかありませんでした。2012年12月には1090施設程になりましたが、2013年6月には1034施設に減っています。十分な人員を確保しないまま無理をしていた、もしくは算定開始後に人員が減少したことで取り下げざるを得なかった施設があったようです。算定を目指す病院は多いものの、実際には人員の確保が思うようにいっていないというのが現状でしょう。日本病院薬剤師会(日病薬)としては、必要な人員を確保したうえで算定を開始すること、具体的には、代休や休暇を考慮すれば、1病棟に2人の配置が望ましいと考えています。ちなみに当院の場合は、2012年10月から算定を開始しましたが、平均で1病棟

に3人配置し、どんな場合も、病棟に薬剤師が必ず1人いる体制を構築し、ICU、HCUなど特定入院料加算病棟5病棟を含む27病棟に薬剤師が常駐しています。そもそも病棟薬剤業務実施加算は、薬剤師が病棟にいることによって、医療や薬物療法の有効性・安全性の向上、チーム医療の推進による医療従事者の負担軽減という病院の機能の向上に対する評価ですから、ただ単に、週20時間以上、病棟に薬剤師がいればいいのではなく、本来の目的に見合う病棟業務の体制整備と内容の充実に取り組んでいただきたいと思います。

――蘇生会総合病院では、2012年9月から算定を開始されましたが、それまでの取り組みについてお伺いします。

甲斐 当院は350床ですが、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養型病棟をそなえ、患者さんに継続的かつ総合的な医療を提供しています。薬剤部は「薬物療法のあるところに薬剤師あり」という基本理念のもと、院内におけるすべての薬剤の管理に責任を持つ体制を構築しています。各病棟には救急用の薬剤しか配置せず、夜間も含めて基本的には薬剤部より薬剤を払い出しています。また、病棟薬剤業務実施加算の算定要件である業務内容のほぼすべてを以前から実施していました。2012年4月に6年制の新卒薬剤師を10人採用し、それまでの12人から一

気に倍増しました。5ヶ月間は新人教育を徹底的に行い、9月から加算の算定を開始しました。業務の実施に先立ち、看護師長会や医局会で説明会を開き、例えば、与薬業務は対象外であることなど、業務範囲についてコンセンサスをはかりました。なお、算定開始から11ヵ月間における病棟薬剤業務の時間別構成比は資料1の通りです。現在、急性期の3病棟に2人ずつ、回復期リハビリ病棟、療養型介護型病棟にも新人を含む各3人を配置し、必ず病棟に1人が常駐しています。毎朝、前日に行った業務について病棟担当薬剤師が発表し、全員で共有しているほか、何かあればすぐにみんなで集まって話し合うようにしています。薬剤師数は、今年採用した2人を含めて現在24人、来年度はさらに3~5人の増員を検討しています。

――10人もの新人薬剤師の教育は大変ではありませんでしたか。

甲斐 教える側、教えられる側がほぼ同じ数ですから、薬剤部の総力をあげて新人教育に取り組みました。薬剤業務マニュアルを理解してもらうために、スタッフの発案でミニテストを何回も行うなどして、5カ月で一通りのことはできるようになりました。そうやって育成した薬剤師は、2年目からは療養病棟や回復期リハビリ病棟での病棟業務をしっかり行っています。

――病棟薬剤業務の効果の検証も、今後、大切になりますね。

松原 病棟薬剤業務の効果の検証は、次回の診療報酬改定のためだけでなく、薬剤師の将来のために非常に重要です。日病薬では、毎年実施している「病院薬剤部門の現状調査」の中で、各施設における病棟業務の進展状況を詳細に調査しています。対象数が多く、過去のデータと比較解析もできますから、かなり信頼性の高いデータが得られると考えています。また、中医協でも全国の約1500施設を対象に「薬剤師の病棟業務に関する実態調査」を8月に実施します。こうした大規模な施設調査による検証の一方で、薬剤師が病棟にいることが医療の質向上、患者さんのQOL向上に有効であるというエビデンスを示す必要があります。前回の診療報酬改定の際は、「薬剤師の病棟勤務時間が長いほど薬剤が関連するインシデント発生数は少ない」という論文を出し、それが薬剤師による医療安全への貢献のエビデンスとなり、加算の新設が認められたという経緯があります。ですから、薬剤師自身が病棟薬剤業務のエビデンスを蓄積し、論文として発表することが大切です。論文化までは無理でも、評価指標を設定し、薬剤師の業務を数値化してほしいと思います。例えば、医師、看護師からの質問件数、インシデント件数やプレアボイド報告が算定前後でどう変化したのかでも十分なエビデンスになります。他の誰でもない、薬剤師がいて良かったという声が、医療者や患者さんから高まらなければ、この加算の継続・発展は望めません。

甲斐 当院でも、薬剤師の処方提案によって患者さんの予後が改善した事例を各病棟で集積して、少しずつ学会で発表しています。そうしたデータを集約していずれ論文化することを目指しています。診療報酬としての評価はもちろん大切ですが、病棟薬剤業務の本質は患者さんへのよりよい適切な医療の提供であり、薬剤師の実践の積み重ねに対して診療報酬が伴ってくると

考えて取り組むべきだと思います。松原 評価の考え方として、加算算定による収入増加をもって病院経営に貢献するという話になりがちですが、それは本来の目的ではありません。人員確保のための基礎資料として院内で提示することは必要でしょうが、社会的な評価を得るためのエビデンスとしては、薬物治療の質向上にどう貢献できたかを念頭に置く必要があります。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――チーム医療の推進という観点から、薬剤部の取り組みについてお伺いします。

松原 当院では、医師のプロトコル指示に基づいて、持参薬処方オーダ、内服定期処方Doオーダ(資料2)、TDM検査オーダなどのプロトコルが実行されています。導入は診療科単位で進めており、既に全科で展開しているもの、一部の病棟に限られているものと様々ですが、導入効果を評価しながら順次、拡大していく計画です。現在、退院時の処方設計に関するプロトコルを準備していますが、まだまだ色々なことができると考えています。例えば、抗MRSA薬や免疫抑制剤などは、あらかじめ薬剤師がプロトコル指示に基づいて処方入力をしておき、医師が確認して実行するという形も可能です。当然のことながら、薬剤師に専門的な知識があることが条件ですが、当院では抗菌薬や免疫抑制剤について詳しい薬剤師が多く、医師との信頼関係があるからこそ可能だとも言えます。最初は1病院だけの取り組みでも、実績を積み重ねていくことで、他の病院へも波及していき、いずれは全国の多くの病院で標準的な業務として定着していくことも夢ではないでしょう。

甲斐 当院では、2007年の電子カルテ導入に伴い、薬剤師に医師の処方を薬学的観点に基づき変更する権限が与えられ、主治医はそれを確認して承認するシステムとなっています。また、がん化学療法においては、薬剤師が医師とともに投与計画書を作成し、レジメン管理者の立場から薬剤師が処方オーダを出すことに院内のコンセンサスが得られています。処方計画からオーダ、無菌調製、そして外来化学療法室や病棟のベッドサイドに運んで、投与時には流量確認を行うなど、すべての薬剤師が責任を持って関わっています。この他にも、10年以上前から心臓手術の際、薬剤師が人工心肺液や心筋保護液を調製するなど、チーム医療の中で薬剤師が専門性を発揮してきました。これらの活動は最初に申し上げた薬剤部の理念に基づくものですが、もともと病院としてスキルミックスを推進する風土があり、医師、看護師との信頼関係がすでに確立していたことで実現したと言えます。

――薬剤師のレベルアップ、モチベーションの維持・向上についてはどのようにお考えですか。

甲斐 積極的に処方提案を行うためには、常に知識を高めていく必要がありますので、勉強会は毎日のように行っています。また、7~8年前からポートフォリオを作成しているのですが、その内容を評価し、毎年、3人に学術奨励賞を贈るといった当院独自の表彰制度もあります。仲間同士で競い合う中から、学習意欲や向上心が養われ、レベルアップします。また、薬剤師の頑張り

が病院から認められ、今年度は昇給という形での評価も獲得しましたので、それもモチベーションアップにつながっています。

松原 基本的には、仕事が面白い、楽しいと思える職場、それに尽きます。病棟薬剤業務を始めてから、ほとんどの薬剤師は「忙しいけど楽しい」「医師、看護師からの質問がすごく増えてやりがいがある」と言っています。それまでも服薬指導のために病棟には行っていましたが、今は病棟スタッフの一員として、一緒に患者さんの病気を治しているという充実感があるのではないでしょうか。それがモチベーションになって、次はもっとこうしたいという意欲が前面に出てきています。医療に貢献したいという志を持って病院薬剤師になったのですから、彼らが思い描いていたことに挑戦できる環境、学んだことが活かせる環境づくりが私の仕事だと思っています。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの病院薬剤師が目指す方向性と展望をお聞かせください。

松原 今回の加算新設までの経緯を振り返れば、安心・安全な

医療を求める国民のニーズと、医療の複雑化の中で医療現場が疲弊したこと、これらを解決するための一つの答えとして「チーム医療の推進」が提言されたことが大きな転機でした。チーム医療の中で、薬剤師にも専門性を最大限に発揮することが求められ、仕事のあり方そのものが大きく変わっていきますから、それに対応できる新しい薬剤師像を創っていかなければいけない。薬学教育が6年制になったことの意義はそこにあります。新時代の薬剤師によって、患者さんのアウトカム改善に貢献する様々な業務が開拓され、チーム医療においてなくてはならない存在になる。そんな将来像を描き、明確な目標を持つことで、夢は大きく広がっていくと思います。

甲斐 病棟薬剤業務実施加算の新設の意義は、何よりも、患者さんに対して、医療の安全の確保と、より良い薬物療法が提供できる環境ができたということです。薬物療法が行われている現場に薬剤師がいることの有用性が認められれば、患者さんに貢献できる機会ももっと増えていきます。それを実感したのが、脳血管造影中にHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が起きた時です。医師から電話で相談があり、適切な処方提案ができたのですが、この時にアンギオ室に薬剤師がいれば、その場でもっと早く提案できたのではないかと思いました。その経験から、今、手術室・アンギオ室・透析室への薬剤師の配置を検討しています。診療報酬とは関係なく、薬剤が使われているすべ

ての現場に薬剤師がいるべきであり、薬剤師が活躍できるところはまだまだ広がっていくと思います。

――最後に、お二人から新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

甲斐 これからの薬剤師には、薬の専門家として、病院全体の薬物療法のマネジメントの中核となって、病院を支えていく存在であってほしいと思います。そのために、薬あるところ、患者さんのおられるところに積極的に出向いていって、そこでまたマネジメントの中核を担うというような形が理想であり、新時代の薬剤師の姿ではないかと思います。

松原 15年前、私は前任地の旭川医科大学病院で、大学病院では初めて病棟薬剤師を配置しました。1年後に病棟で患者さんが薬剤師を「お薬の先生」と呼んでいるのを聞き、その響きが今も印象に残っています。すべての患者さんから「お薬の先生」と呼ばれるようになったら、それが「新時代の薬剤師」の完成形ではないでしょうか。今、その実現にまた一歩近づいたのです。ぜひ、「お薬のことは何でも薬剤師に聞けばいい」と信頼される薬剤師を目標にしてほしいと思います。

薬剤師のIDによる内服定期処方Doオーダ(京都大学医学部附属病院)

資料2

病棟薬剤業務の内訳(蘇生会総合病院)資料1

病棟毎にプロトコルを作り、病棟薬剤師と病棟医長の契約の形をとる

医師

①新規入院定期処方

医師

④中止、追加の臨時処方、常備薬使用の指示

医師

⑥「⑤」で薬剤師が作成した仮登録内容を 利用して、オーダーを確定

薬剤師

②処方監査③服薬指導・モニタリングなどの病棟業務 電子カルテに記載→処方提案

薬剤師

⑤中止による削除、追加処方も含めた Do処方の評価と作成と入力(処方提案)

患者限定をしないプロトコル依頼書

(病棟):肝胆膵・移植科(南病棟 4階)

A) 依頼内容

B) 依頼医師氏名(自署):

1 病棟医長氏名

2 担当薬剤師氏名

「薬剤師の IDによる定期処方Doオーダー入力に係るプロトコル」に基づいた、担当薬剤師による持参薬の服薬計画提案を依頼します。

薬剤師による内服定期処方Doオーダー入力依頼書

C) 担当薬剤師氏名(自署):

医薬品の投薬・注射状況の把握医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案

患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施その他(業務内容を具体的に記入すること)

2種以上の薬剤を同時に投与する場合における投与前の相互作用の確認

(2012年9月~2013年7月)

総合計4212時間

48.3%

10.3%

24.8%

13.1%1.8%

1.3%

0.3%

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

京都府版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

京都府薬剤師会 副会長医療法人社団蘇生会蘇生会総合病院 事務局長・薬剤部長甲斐 純子 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

日本病院薬剤師会 副会長京都府薬剤師会 監事京都大学医学部附属病院教授・病院長補佐・薬剤部長松原 和夫 先生

■京都府における病棟薬剤業務の現状と展望――京都府における病棟薬剤業務の取り組みの現状についてお伺いします。

甲斐 2013年7月現在、病棟薬剤業務実施加算の届け出を行っているのは、京都府下の187施設中の22施設、1割強という状況です。京都府病院薬剤師会(府病薬)では、制度の開始早々に厚生労働省の薬剤管理官を招いて説明会を行い、会員に病棟薬剤業務への理解を深めていただきました。また、7月には松原先生に病棟薬剤業務の意義や展望について講演をしていただき、非常に多くの会員が関心を持って参加しました。2013年度は7月と8月に、算定を目指す病院が、既に算定している病院の取り組みを参考にするための病院見学会を実施する計画です。府病薬としては、病棟薬剤業務について院内のコンセンサスを得、業務マニュアルなどを作成したうえで実施するようにと指導しています。一方で、加算は算定できなくても、病棟に薬剤師を配置することは絶対に必要であり、まずは1病棟からでも病棟薬剤業務を

実践していきましょうと呼びかけています。

――松原先生は日本病院薬剤師会副会長というお立場から、この1年の動きについて、どのようにご覧になっていますか。

松原 全国の状況について言えば、2012年9月の段階で941施設が届け出をしており、このうち人員増によって加算を算定した施設は全体の3割程度しかありませんでした。2012年12月には1090施設程になりましたが、2013年6月には1034施設に減っています。十分な人員を確保しないまま無理をしていた、もしくは算定開始後に人員が減少したことで取り下げざるを得なかった施設があったようです。算定を目指す病院は多いものの、実際には人員の確保が思うようにいっていないというのが現状でしょう。日本病院薬剤師会(日病薬)としては、必要な人員を確保したうえで算定を開始すること、具体的には、代休や休暇を考慮すれば、1病棟に2人の配置が望ましいと考えています。ちなみに当院の場合は、2012年10月から算定を開始しましたが、平均で1病棟

に3人配置し、どんな場合も、病棟に薬剤師が必ず1人いる体制を構築し、ICU、HCUなど特定入院料加算病棟5病棟を含む27病棟に薬剤師が常駐しています。そもそも病棟薬剤業務実施加算は、薬剤師が病棟にいることによって、医療や薬物療法の有効性・安全性の向上、チーム医療の推進による医療従事者の負担軽減という病院の機能の向上に対する評価ですから、ただ単に、週20時間以上、病棟に薬剤師がいればいいのではなく、本来の目的に見合う病棟業務の体制整備と内容の充実に取り組んでいただきたいと思います。

――蘇生会総合病院では、2012年9月から算定を開始されましたが、それまでの取り組みについてお伺いします。

甲斐 当院は350床ですが、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養型病棟をそなえ、患者さんに継続的かつ総合的な医療を提供しています。薬剤部は「薬物療法のあるところに薬剤師あり」という基本理念のもと、院内におけるすべての薬剤の管理に責任を持つ体制を構築しています。各病棟には救急用の薬剤しか配置せず、夜間も含めて基本的には薬剤部より薬剤を払い出しています。また、病棟薬剤業務実施加算の算定要件である業務内容のほぼすべてを以前から実施していました。2012年4月に6年制の新卒薬剤師を10人採用し、それまでの12人から一

気に倍増しました。5ヶ月間は新人教育を徹底的に行い、9月から加算の算定を開始しました。業務の実施に先立ち、看護師長会や医局会で説明会を開き、例えば、与薬業務は対象外であることなど、業務範囲についてコンセンサスをはかりました。なお、算定開始から11ヵ月間における病棟薬剤業務の時間別構成比は資料1の通りです。現在、急性期の3病棟に2人ずつ、回復期リハビリ病棟、療養型介護型病棟にも新人を含む各3人を配置し、必ず病棟に1人が常駐しています。毎朝、前日に行った業務について病棟担当薬剤師が発表し、全員で共有しているほか、何かあればすぐにみんなで集まって話し合うようにしています。薬剤師数は、今年採用した2人を含めて現在24人、来年度はさらに3~5人の増員を検討しています。

――10人もの新人薬剤師の教育は大変ではありませんでしたか。

甲斐 教える側、教えられる側がほぼ同じ数ですから、薬剤部の総力をあげて新人教育に取り組みました。薬剤業務マニュアルを理解してもらうために、スタッフの発案でミニテストを何回も行うなどして、5カ月で一通りのことはできるようになりました。そうやって育成した薬剤師は、2年目からは療養病棟や回復期リハビリ病棟での病棟業務をしっかり行っています。

――病棟薬剤業務の効果の検証も、今後、大切になりますね。

松原 病棟薬剤業務の効果の検証は、次回の診療報酬改定のためだけでなく、薬剤師の将来のために非常に重要です。日病薬では、毎年実施している「病院薬剤部門の現状調査」の中で、各施設における病棟業務の進展状況を詳細に調査しています。対象数が多く、過去のデータと比較解析もできますから、かなり信頼性の高いデータが得られると考えています。また、中医協でも全国の約1500施設を対象に「薬剤師の病棟業務に関する実態調査」を8月に実施します。こうした大規模な施設調査による検証の一方で、薬剤師が病棟にいることが医療の質向上、患者さんのQOL向上に有効であるというエビデンスを示す必要があります。前回の診療報酬改定の際は、「薬剤師の病棟勤務時間が長いほど薬剤が関連するインシデント発生数は少ない」という論文を出し、それが薬剤師による医療安全への貢献のエビデンスとなり、加算の新設が認められたという経緯があります。ですから、薬剤師自身が病棟薬剤業務のエビデンスを蓄積し、論文として発表することが大切です。論文化までは無理でも、評価指標を設定し、薬剤師の業務を数値化してほしいと思います。例えば、医師、看護師からの質問件数、インシデント件数やプレアボイド報告が算定前後でどう変化したのかでも十分なエビデンスになります。他の誰でもない、薬剤師がいて良かったという声が、医療者や患者さんから高まらなければ、この加算の継続・発展は望めません。

甲斐 当院でも、薬剤師の処方提案によって患者さんの予後が改善した事例を各病棟で集積して、少しずつ学会で発表しています。そうしたデータを集約していずれ論文化することを目指しています。診療報酬としての評価はもちろん大切ですが、病棟薬剤業務の本質は患者さんへのよりよい適切な医療の提供であり、薬剤師の実践の積み重ねに対して診療報酬が伴ってくると

京都府版 特別号

京都府版特別号

考えて取り組むべきだと思います。松原 評価の考え方として、加算算定による収入増加をもって病院経営に貢献するという話になりがちですが、それは本来の目的ではありません。人員確保のための基礎資料として院内で提示することは必要でしょうが、社会的な評価を得るためのエビデンスとしては、薬物治療の質向上にどう貢献できたかを念頭に置く必要があります。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――チーム医療の推進という観点から、薬剤部の取り組みについてお伺いします。

松原 当院では、医師のプロトコル指示に基づいて、持参薬処方オーダ、内服定期処方Doオーダ(資料2)、TDM検査オーダなどのプロトコルが実行されています。導入は診療科単位で進めており、既に全科で展開しているもの、一部の病棟に限られているものと様々ですが、導入効果を評価しながら順次、拡大していく計画です。現在、退院時の処方設計に関するプロトコルを準備していますが、まだまだ色々なことができると考えています。例えば、抗MRSA薬や免疫抑制剤などは、あらかじめ薬剤師がプロトコル指示に基づいて処方入力をしておき、医師が確認して実行するという形も可能です。当然のことながら、薬剤師に専門的な知識があることが条件ですが、当院では抗菌薬や免疫抑制剤について詳しい薬剤師が多く、医師との信頼関係があるからこそ可能だとも言えます。最初は1病院だけの取り組みでも、実績を積み重ねていくことで、他の病院へも波及していき、いずれは全国の多くの病院で標準的な業務として定着していくことも夢ではないでしょう。

甲斐 当院では、2007年の電子カルテ導入に伴い、薬剤師に医師の処方を薬学的観点に基づき変更する権限が与えられ、主治医はそれを確認して承認するシステムとなっています。また、がん化学療法においては、薬剤師が医師とともに投与計画書を作成し、レジメン管理者の立場から薬剤師が処方オーダを出すことに院内のコンセンサスが得られています。処方計画からオーダ、無菌調製、そして外来化学療法室や病棟のベッドサイドに運んで、投与時には流量確認を行うなど、すべての薬剤師が責任を持って関わっています。この他にも、10年以上前から心臓手術の際、薬剤師が人工心肺液や心筋保護液を調製するなど、チーム医療の中で薬剤師が専門性を発揮してきました。これらの活動は最初に申し上げた薬剤部の理念に基づくものですが、もともと病院としてスキルミックスを推進する風土があり、医師、看護師との信頼関係がすでに確立していたことで実現したと言えます。

――薬剤師のレベルアップ、モチベーションの維持・向上についてはどのようにお考えですか。

甲斐 積極的に処方提案を行うためには、常に知識を高めていく必要がありますので、勉強会は毎日のように行っています。また、7~8年前からポートフォリオを作成しているのですが、その内容を評価し、毎年、3人に学術奨励賞を贈るといった当院独自の表彰制度もあります。仲間同士で競い合う中から、学習意欲や向上心が養われ、レベルアップします。また、薬剤師の頑張り

が病院から認められ、今年度は昇給という形での評価も獲得しましたので、それもモチベーションアップにつながっています。

松原 基本的には、仕事が面白い、楽しいと思える職場、それに尽きます。病棟薬剤業務を始めてから、ほとんどの薬剤師は「忙しいけど楽しい」「医師、看護師からの質問がすごく増えてやりがいがある」と言っています。それまでも服薬指導のために病棟には行っていましたが、今は病棟スタッフの一員として、一緒に患者さんの病気を治しているという充実感があるのではないでしょうか。それがモチベーションになって、次はもっとこうしたいという意欲が前面に出てきています。医療に貢献したいという志を持って病院薬剤師になったのですから、彼らが思い描いていたことに挑戦できる環境、学んだことが活かせる環境づくりが私の仕事だと思っています。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの病院薬剤師が目指す方向性と展望をお聞かせください。

松原 今回の加算新設までの経緯を振り返れば、安心・安全な

医療を求める国民のニーズと、医療の複雑化の中で医療現場が疲弊したこと、これらを解決するための一つの答えとして「チーム医療の推進」が提言されたことが大きな転機でした。チーム医療の中で、薬剤師にも専門性を最大限に発揮することが求められ、仕事のあり方そのものが大きく変わっていきますから、それに対応できる新しい薬剤師像を創っていかなければいけない。薬学教育が6年制になったことの意義はそこにあります。新時代の薬剤師によって、患者さんのアウトカム改善に貢献する様々な業務が開拓され、チーム医療においてなくてはならない存在になる。そんな将来像を描き、明確な目標を持つことで、夢は大きく広がっていくと思います。

甲斐 病棟薬剤業務実施加算の新設の意義は、何よりも、患者さんに対して、医療の安全の確保と、より良い薬物療法が提供できる環境ができたということです。薬物療法が行われている現場に薬剤師がいることの有用性が認められれば、患者さんに貢献できる機会ももっと増えていきます。それを実感したのが、脳血管造影中にHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が起きた時です。医師から電話で相談があり、適切な処方提案ができたのですが、この時にアンギオ室に薬剤師がいれば、その場でもっと早く提案できたのではないかと思いました。その経験から、今、手術室・アンギオ室・透析室への薬剤師の配置を検討しています。診療報酬とは関係なく、薬剤が使われているすべ

ての現場に薬剤師がいるべきであり、薬剤師が活躍できるところはまだまだ広がっていくと思います。

――最後に、お二人から新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

甲斐 これからの薬剤師には、薬の専門家として、病院全体の薬物療法のマネジメントの中核となって、病院を支えていく存在であってほしいと思います。そのために、薬あるところ、患者さんのおられるところに積極的に出向いていって、そこでまたマネジメントの中核を担うというような形が理想であり、新時代の薬剤師の姿ではないかと思います。

松原 15年前、私は前任地の旭川医科大学病院で、大学病院では初めて病棟薬剤師を配置しました。1年後に病棟で患者さんが薬剤師を「お薬の先生」と呼んでいるのを聞き、その響きが今も印象に残っています。すべての患者さんから「お薬の先生」と呼ばれるようになったら、それが「新時代の薬剤師」の完成形ではないでしょうか。今、その実現にまた一歩近づいたのです。ぜひ、「お薬のことは何でも薬剤師に聞けばいい」と信頼される薬剤師を目標にしてほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・京都府版2013」では、京都大学医学部附属病院の松原和夫先生と蘇生会総合病院の甲斐純子先生のお二人に、京都府における病棟薬剤業務の現状、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性についてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

大文字焼