3Dプリンター用フィラメントの 品質性の評価につ...

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24 機 械 設 計

はじめに

 3Dプリンターは自動車や家電などの部材やプロトタイプなどを生産する機器として利用されてきたが,高性能プリンターの登場により実用に耐えうる製品を生産する機器として本格的な活用が進みつつある。特に樹脂成形で広く利用されている押出成形や射出成形とは異なる新たな造形方法となる。3Dプリンターの造形方式には,主に熱溶融型積層法(FDM),光造形法(SLA)および粉末積層造形法(SLS)があるが,それぞれの造形方式により使用できる樹脂材料が規定されている。本稿では,FDM方式の3Dプリンターに焦点を絞り,著者らが行っているFDM方式の3Dプリンター用樹脂材料の開発と材料の品質性を評価するための評価装置について記述する。

FDM方式の3Dプリンターの特徴

 FDM方式は図1に示すように,ボビンやスプー

ルに巻かれたφ1.75 mmあるいは2.85 mmの樹脂フィラメントがフィーダー(供給ローラ)を経て,金属ノズルとヒーターから構成される3次元方向可動式の押出機に供給され,樹脂を溶融させて細いノズルから吐出しながら固化させ積層を繰り返すことで造形物が形作られる。造形物は繊維の集積した構造を取るが,空隙率を容易に制御できることから,造形物の軽量化も可能である(図2)。

FDM方式に使用される樹脂材料の研究開発

 FDM方式に使用されている樹脂フィラメントは主にポリ乳酸(PLA)やABSがあり,ポリカーボネート,ナイロンやポリプロピレンなどの新たな材料も開発されつつある。著者らはこれまで環境調和型材料であるPLAなどの合成方法の開発や3Dプリンター用樹脂材料の研究開発を行ってきた。PLAは硬くて脆いという特性を有しているため,3Dプリンター造形時に樹脂フィラメントが折れやすいことから樹脂材料の改質を行う必要がある。

解説3

3Dプリンター用フィラメントの品質性の評価について

京都工芸繊維大学 増谷 一成*

*ますたに かずなり:繊維科学センター 研究員,ネオマテリア代表取締役,博士(工学)

図1 FDM方式の3Dプリンター

造形時樹脂フィラメント

ノズル造形物

図2 空隙率60%で造形したギヤ部品

25第 62 巻 第 8 号(2018 年 7 月号)

特集設計の可能性を広げる IT技術活用の現在

著者らはPLAに柔軟性樹脂をブレンドすることにより可撓性と光沢性が付与されたPLAフィラメントを開発した。図3に開発したPLAフィラメントを用いて造形試作した写真を示す。既製品と開発したPLAフィラメントでは遜色のない造形物が成形できたが,開発したPLAフィラメントは光沢感のある造形物に仕上がることがわかった。これは図4に示すようにPLAのマトリックス中に柔軟性樹脂が100 nm程度の島となって相分離して分散することで,光の反射性が高まったためと考えられる。著者らは易分解型水溶性サポート材料,医療機関向け材料,デザイナー向け材料など新たな樹脂材料を開発1)し,大学発ベンチャーであるネオマテリア社[京都市伏見区]で販売を開始している。

FDM方式に使用される樹脂材料の品質性

 FDM方式の樹脂フィラメントは従来の紡糸技術を利用して作られており,樹脂ペレットを溶融させてノズルから吐出し,冷却しながらフィラメントを連続的に巻き取って生産されている。FDM

方式の3Dプリンターは,複雑にかつ小刻みに可動するため,造形中にさまざまな負荷が加わり,低品質の樹脂フィラメントを使用した場合,造形中に樹脂フィラメントが折れ,ノズル内で樹脂詰まりなどの問題が生じる。また樹脂フィラメントの品質は造形精度にも大きく影響を及ぼす。各装置メーカーにより,樹脂の送り込みの機構やノズルの形状および造形サイズが異なるが,造形加工性は一般的に樹脂フィラメントの品質に依るところが大きく,樹脂フィラメントの品質性を評価するための方法が求められている。ここで,FDM方式の3Dプリンターで造形する際に問題となっている樹脂フィラメントの品質の問題とその造形加

工性についてまとめてみた。(1)樹脂フィラメントの品質の問題・樹脂フィラメントの断面形状の歪み(真円性)・フィラメントの長さ方向に対する太さ斑の存在・フィラメントの径が一定ではない場合・ 樹脂フィラメントに含まれる小石などの粗雑物の存在

(2 )樹脂フィラメントの品質の問題による造形加工性の問題点

・ 樹脂の吐出量が一定にならず造形精度が低下する。・樹脂が送り込まれず樹脂詰まりが起こる。 上記に示した樹脂フィラメントの品質性を評価するためには,①連続吐出性評価,②安定吐出性評価,および③異物混入試験を行う必要がある。① 連続吐出性評価 樹脂フィラメントの品質として上に列挙した問題が大きい場合,図5に示すように樹脂詰まりが起こり連続的に吐出できない。そこで樹脂フィラメントを一定の速度で送り込み,ノズルから樹脂が連続的に吐出できるかを検証する必要がある。② 安定吐出性評価 樹脂フィラメントの品質として上に列挙した問題の影響により,ノズルからの吐出量が異なる(図5)。そこで,樹脂フィラメントの押出速度を一定にして,吐出量の評価を検証する必要がある。③ 異物混入試験 樹脂フィラメントの品質の問題として粗雑物の混入による影響により,ノズル口の大きい粗雑物が樹脂フィラメント内に存在すると,ノズル内で粗雑物が詰まるため樹脂の吐出ができない(図6)。そこで,ノズル口の大きさ(φ0.2 mm, 0.3 mm, 0.4 mm)を変えてノズル口よりも大きい粗雑物の混入の有無を検証する必要がある。

図3� 既製品(左)と開発したPLAフィラメントで作製した造形物(右)

図4� 開発したPLAフィラメントの断面のSEM画像