眼感染症網羅的 PCR 検査 Strip PCR / Direct Strip … 眼感染症網羅的PCR検査Strip...

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眼感染症網羅的 PCR 検査 Strip PCR / Direct Strip PCR 導入

先進医療御案内

2018.3.4 版 外部への配布・公開は御遠慮ください

大分大学 眼科 中野聡子

目次

第 1部 概要

はじめに -------------------- 2

代表症例 -------------------- 3

Direct Strip PCR自施設導入 ・先進医療届出に向けてのチェックリスト -------------------- 4

検査部・病院への導入依頼用資料 -------------------- 6

第 2部 詳細

先進医療について

先進医療とは

適応症

先進医療/Strip PCR検体採取の原則

先進医療施設基準

先進医療技術 (手法)

検査体制

外注検査

先進医療届出

先進医療承認施設

保険診療化への道程

-------------------- 10

Strip PCR / Direct Strip PCR について

開発の流れ

Strip PCR / Direct Strip PCRの特徴

検査項目

検体

先進医療/Strip PCR検体採取の原則 (再掲)

検体採取・保存

必要設備

試薬購入

予備実験

検査手技

検査結果

環境整備

-------------------- 18

相談先・試薬購入先 -------------------- 32

用語参考文献 -------------------- 33

2

はじめに

近年注目のサイトメガロウイルス角膜内皮炎などの眼感染症検査に PCR は欠かせない。従来の保険適応の

単項目 PCR検査は、複数項目を検査するには多量の検体(100μL/1 項目)が必要で、眼科の微量検体(前房水

50~120μL)では希望項目全てを検査できないことがあった。また、微量検体に対応する外注 PCR検査は最大

44,000円と費用の施設負担が大きかった。2013年に感染性ぶどう膜炎・感染性眼内炎に対する網羅的 PCR 検

査が先進医療として認められた。自施設で検査を施行すれば費用の施設負担はなくなるが、従来の網羅的

PCR 検査は繁雑で自施設への導入が難しかった。

「Strip PCR」は眼感染症主要病原微生物を網羅検出するリアルタイム PCRキットである。試薬がキットにコー

ティーングされているため、迅速・簡便で、比較的安価、眼科微量検体でも多項目検査が可能で、半定量情報も

得られる。「Strip PCR」で必要であった DNA 精製操作が不要で、さらに簡便となった改良版「Direct strip PCR」

は、用手操作わずか 5分、PCR 時間最短 35分で、忙しい検査部にも導入を依頼しやすくなった。また、多くの

検査部に導入してされている既存のリアルタイム PCR機器に対応し(マルチプレックス PCR 機器推奨だが通常

のリアルタイム PCR機器でも良い)、機器の新規購入が必要ないことも自施設導入を後押しする。

2015 年に開始された多施設研究結果に基づいた「感染性ぶどう膜炎キット(Direct Strip PCR)」が 2018年 2月

に研究用試薬として市販され、HSV1、HSV2、VZV、EBV、CMV、HHV6、HTLV-1、トキソプラズマ、梅毒を網羅

検出する。今まで経験に頼るしかなかった感染性ぶどう膜炎の初期治療が、病因診断に基づいて迅速に安心し

て開始できるようになったことは大きい。また、その網羅性により、非感染性ぶどう膜炎の補助診断、免疫抑制

剤投与前・術前の感染性ぶどう膜炎除外診断の一助となる。ぶどう膜炎専門医がいない施設でこそ必要性が高

い。2018年 3月現在、感染性角結膜炎キットも発売間近で、眼内炎キットも開発中である。

先進医療申請は容易で、眼科常勤医が 3名以上・内科を標榜しているなどの施設基準を満たし、規定症例数

を満たせば、届出後 1 ヶ月程度で承認される。

先進医療申請、「Strip PCR」「Direct Strip PCR」検査手法、導入に必要な機器、検体採取方法、受託検査依頼

について詳説する。大分大学 眼科 中野聡子 sanakano@oita-u.ac.jp で導入のサポートを行っている。

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代表症例

(1) 65 歳男性

(2) 開業医から ARN疑いで大分大学紹介、外来検査後にすぐに前房水を採取し Strip PCR を施行、採取 2時

間半後※に VZV陽性が確認され、入院とともに治療を開始することができた。

(3) VZV の Cq 値は 19.32 と早く、高コピー数が予想されたため、重症例として治療方針を立てた。翌日施行し

た定量 PCR では 1.3x108コピーで、Cq値から予測されたコピー数とほぼ同レベルであった。

(4) 24 種類の眼感染症主要病原微生物を網羅する Strip PCRにより、EBVの混合感染も検出された。

(5) 細菌、真菌を含む他の 20 項目は陰性で、VZV・EBV 以外の感染症の除外診断ができ、安心してステロイ

ドを併用、網膜剥離に対する手術を行うことができた。

(6) 患者支払いは先進医療(検査料のみ患者全額負担・その他診療費は保険診療)であるが、加入保険に先進

医療特約が付帯しており検査料分も全額給付された。

(7) 検査者は、研究補助員になって 1カ月目の初心者であったが、安定した結果を得られた。

※最新の Direct Strip PCRは 1 時間以内に結果が出る

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Direct Strip PCR自施設導入 ・先進医療届出に向けてのチェックリスト

Strip PCR試用

神戸市立神戸アイセンター病院(理研・杉田 直先生)で有料受託検査を試す。(最大 24 項目)

http://www.retinastem.jp/kansensyou/src/index.html

感染性ぶどう膜炎キット (Direct Strip PCR) 自施設導入

□ 検査部または院内・学内に、Plate または Strip に対応するマルチプレックス PCR 機器(FAM・

ROX)、またはマルチプレックスではない PCR機器(FAM 1 色)があるかを調べる。

□ 検査部に導入を依頼(用手操作 5分・先進医療で病院収入となること・眼科的必要性を説明)。

検査部が困難な場合は講座内検査を行う。検者はピペット操作ができれば初心者で可。

□ 感染性ぶどう膜炎キット(Direct Strip PCR) 試薬を購入する。(日本テクノサービス)

□ 感染性角結膜炎キットなどの Strip PCR タイプの試薬を導入時、DNA 精製試薬も準備。

先進医療 (ウイルス) 届出

□ 医療機関基準(眼科常勤 3 名以上・内科あり など)を満たすことを確認。

□ 眼感染症 PCR 診断(手法問わず)について 1 年/20 症例以上の経験を有する医師がいて、

病院としての症例数が 15 例以上。

□ 上記経験数を満たさない場合は症例集積研究(IRB)を申請。あわせて、院内で先進医療届出

費用補助があれば申請。

□ 先進医療届出。

□ 最初の症例の実施前に、先進医療のプロトコルで倫理委員会(または IRB)承認を得る。

□ 届出後 6 ヶ月または 15 症例までは毎月地方厚生局に定期報告が必要。その後も 1 年ごとに

定期報告。

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中野聡子 RETINA Medicine Vol.7 No.1 2018より引用

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検査部・病院への導入依頼用資料

眼感染症網羅的 PCR検査導入のお願い

1) 感染性ぶどう膜炎 ・ 感染性角結膜炎 ・ 感染性眼内炎は失明に至る重篤な疾患です

ウイルス、細菌、原虫など、様々な微生物が原因で眼内炎症を生じる疾患です。時間単位で進行し、数日

で手術や失明に至る予後不良例も多く、日常生活も困難になります。微生物ごとに治療が異なるため、迅

速かつ正確な病因診断が必要ですが、臨床所見や従来の鏡検・培養のみでは診断が困難です。診断・治

療の遅れによる不可逆な視力障害や、複数の微生物に対する盲目的治療により難治化し、在院日数長期

化・医療費増大も問題になっています。

図 1 眼の構造

急性網膜壊死 真菌性角膜潰瘍 細菌性角膜潰瘍・眼内炎 梅毒性ぶどう膜炎

(ヘルペスウイルス)

図 2 感染性ぶどう膜炎 ・ 感染性角結膜炎 ・ 感染性眼内炎

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2) 難治性眼感染症による網羅診断は、先進医療です

病因診断には、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査が有用ですが、保険診療の PCR検査(100μL/項目)は、

微量の眼内液 (前房水は約 50-100μL) では検体量が不足し、外注検査では結果判明まで 1 週間かかり

ます。2007 年に微量の眼内液に対応する多項目網羅 PCR 法が開発され、2013 年度に先進医療となりま

したが煩雑で自施設導入は困難でした。しかし、受託検査は先進医療の対象ではなく、検査費用の施設・

講座負担が大きくなっていました(最大 44,000円/件)。

表 1 先進医療・適応症(厚生労働省のホームページより抜粋)

ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)

豚脂様角膜後面沈着物若しくは眼圧上昇の症状を有する片眼性の前眼部疾患(ヘルペス性角膜内皮炎又は

ヘルペス性虹彩炎が疑われるものに限る。)又は網膜に壊死病巣を有する眼底疾患(急性網膜壊死、サイト

メガロウイルス網膜炎又は進行性網膜外層壊死が疑われるものに限る。)

細菌または真菌に起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)

前房蓄膿、前房フィブリン、硝子体混濁又は網膜病変を有する眼内炎

3) 眼感染症微生物検出試薬キットは、微量の眼科検体でも、簡便・迅速に網羅検査可能です

2018 年 2 月に研究用試薬として発売された眼感染症微生物検出試薬キット「感染性ぶどう膜炎キット

(Direct Strip PCR法)」は、多項目同時に増幅するマルチプレックス・リアルタイム PCR法と、DNA精製不要

で直接 PCR 増幅を行う Ampdirect®法を組み合わせ、わずか 13μL の眼内液から主要微生物最大 9 項目

(HSV1, HSV2, VZV, EBV, CMV, HHV6, HTLV-1, 梅毒, トキソプラズマ)を網羅検出します。前房水・硝子体

を直接試薬に添加でき、簡便・迅速(用手操作 5 分、PCR 時間最短 35 分)です。既存のリアルタイム PCR

機器で動作※します。導入については大分大学と島津製作所がサポートします。

図 3 感染性ぶどう膜炎微生物検出試薬キットの構成

※ マルチプレックス FAM/ROX機器推奨ですが、マルチプレックスではない PCR機器(FAM)に対応する試薬も市販しています。

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図 4 従来の定量 PCR検査と Direct Strip PCR検査の比較 検体量・時間・マンパワーの節約に繋がる

図 5 試薬の使用法 専用試薬立てに試薬 2種類と、検体チューブをセットして、指示通り進めるだけ (5分)

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図 5 結果画面 定性検査ではあるが、Cq値による半定量が可能。報告は陰陽のみでも良い。

相談先

お困りのことがあれば、大分大学眼科中野まで。

〒879-5593 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1丁目1番地 大分大学医学部 眼科学講座

097-586-5904 (眼科講座代表電話)

http://www.med.oita-u.ac.jp/ganka/pcr/

sanakano@oita-u.ac.jp

試薬購入先

日本テクノサービス株式会社

http://www.ntsbio.com/viral-test

担当.営業部 森 良仁様

029-886-6811 mori@ntsbio.com

※ 眼感染症微生物検出試薬キットには、2 つの段階 Strip PCR / Direct Strip PCR があります。Strip PCR(網羅 PCRキット)か

ら、DNA 精製が不要になった改良版が最新の Direct Strip PCR です。両者の結果は強く相関します。Strip PCR のときの多

施設研究で、「感染性ぶどう膜炎キット」は陽性適中率・特異度は 100%、陰性適中率・感度は 99.2%と良好でした。

※ 2018 年 3 月現在、Direct Strip PCR は「感染性ぶどう膜炎キット」が市販されています。Strip PCR試薬としては「感染性角結

膜炎キット」が共同施設限定で発売され、「感染性眼内炎キット」を開発中で、近い将来に Direct Strip PCR 試薬としての発売

を予定しています。

※ 眼科以外に、Strip PCR試薬として日和見感染症ウイルス検出キットが発売されており、先進医療「多項目迅速ウイルス PCR

法によるウイルス感染症の早期診断」に認定されています。

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先進医療について

先進医療とは

厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養で、施設基準に該当する保険医療機関は届出によ

り保険診療と併用できる。先進医療に係る費用は患者が全額自己負担するが、一般保険診療と共通する

部分は保険給付される。先進医療特約付保険加入者は給付が受けられること、先進医療費は税金の医療

費控除の対象であるが、高額療養費制度の対象ではないことを事前に患者に説明すると良い。

眼感染症 PCR 診断の先進医療は、2013 年に東京医科歯科大学より申請された。「ウイルスに起因する難

治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR 法)」と「細菌または真菌に起因する難治性の眼感染疾患に対

する迅速診断(PCR法)」に分かれている。

今まで外注 PCR 受託検査の講座研究費負担が大きかったが(医局によっては 1 患者あたり複数項目で合

計 44,000円)、先進医療を申請することで、必要経費が患者負担で検査可能になるというメリットがある。

先進医療に係る費用は、PCR 試薬代金・人件費・機器減価償却費の合算で、施設ごとに設定できる。2016

年度(2015 年 7 月 1 日~2016 年 6 月 30 日)の実績報告では、ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患

に対する迅速診断(PCR 法)が平均価格 26,680 円、 細菌又は真菌に起因する難治性の眼感染疾患に対

する迅速診断(PCR法)が 27,277円であった。この平均価格は網羅的 PCRでない単項目 PCR法を数個だ

け施行する施設も含まれているため価格が下がっている。網羅的 PCR 法を使用して多数項目を同時検査

している施設では 26,000~40,000 円で、平均約 30,000 円である。保険診療化時に先進医療料金が参考に

されるため、先進医療料金を安くしすぎると、企業が参入できず、結果として将来の患者が検査を受けるこ

とができなくなるので価格設定は十分留意して頂きたい。

本先進医療は自施設のみ検査のみが対象で、外注受託検査は対象ではない。

適応症

「ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR 法)」

豚脂様角膜後面沈着物もしくは眼圧上昇の症状を有する片眼性の前眼部疾患(ヘルペス性角膜内皮

炎またはヘルペス性虹彩炎が疑われるものに限る。)または網膜に壊死病巣を有する眼底疾患(急性

網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎または進行性網膜外層壊死が疑われるものに限る。)

「細菌または真菌に起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR 法)」

前房蓄膿、前房フィブリン、硝子体混濁または網膜病変を有する眼内炎

上記適応症のみ先進医療で施行可能。

ぶどう膜炎(ヘルペス属)、眼内炎(細菌・真菌)を念頭に申請されたため、ヘルペス疾患でも角結膜炎所

見のみ、角膜炎で前房内に軽度炎症があるものは適応ではない。PCR の有用性が知られているアカ

ントアメーバ、トキソプラズマ、クラミジア、HTLV-1 なども適応ではない。これらは大分大では研究費で

検査している。

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先進医療/Strip PCR 検体採取の原則

目的微生物を念頭に、今現在、活動性の炎症がある部位の検体を治療前に採取する

鋭敏な PCR でも、現在存在しない微生物を検出することはできない。活動性のある段階の検体を採取する

こと(できれば治療前)は基本である。

また、主要病原微生物を”網羅”しているのであり、未知の病原微生物を何でも教えてくれるわけではない。

臨床所見からいくつかの目的微生物を明確にして、その存在を確認/否定するために検査を行う。

適切な検体を用い、狙いが外れていなければ、感染性ぶどう膜炎に対する Strip PCR の陽性適中率は

99.2%、陰性適中率は 100%である(611例・2015-2017・全国 14 施設多施設共同研究)。

陰性結果であっても、主要病原微生物の感染を否定できる(除外診断できる)ことは、ステロイド治療や術前

の感染性ぶどう膜炎の除外診断、非感染性ぶどう膜炎の補助診断に役立つ。

活動性がない検体は、先進医療/Direct Strip PCR いずれの適応でもない。

ステロイド治療などで消炎しているもの(cell ほとんどなし、KP も色素性のみなど)、活動時期を逸した

検体(昔ぶどう膜炎があったので白内障手術のついでに検査してみようなど)の検体は適当ではない。

但し、CMV続発緑内障では炎症が目立たなくても CMVが検出されることもある。

炎症の主座がある部位の検体を検査に用いる。

ごくわずかな眼底病変が主体なのに、病原体が波及していない前房水を検査しても検出されない。炎

症が確実に存在している部位の検体が採取できた場合のみ検査を行う。

病因診断をしてから治療に入ることが好ましい。

炎症なので、とりあえずステロイド点眼/少量内服・・・・は正確な診断の障害になり、こじれた場合に

適切な治療方針が立たなくなる。自施設検査ができないが急いで治療が必要な場合でも、できるだけ、

未治療状態の検体を検査用に確保(前房水は 30G で採取・20~100μL・そのまま冷凍保存可)してから

治療を開始するか、診断ができる施設にいったん未治療のまま紹介し、まず正確な病因診断をつける

ことが好ましい。ただ、紹介時点でステロイドが入っていることは現実的に多い。前房水採取の場合、

cell++ ・ KP (色素性でない活動性のもの) があれば PCR で検出できることが多い。

なお、様々な治療を盲目的に試した後に、こじれて病因が分からなくなったので、最後の手段で PCR

検査・・という流れは適切でない。(すでに微生物の存在が極限まで減少している/マスクされている場

合は鋭敏な PCR でも検出不能である。)

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先進医療施設基準

(1) 主として実施する医師に係る基準

専ら眼科に従事し、当該診療科について十年以上の経験を有すること。

眼科専門医又は感染症専門医であること。

当該療養について一年以上の経験を有すること。

当該療養について、当該療養を主として実施する医師として二十例以上の症例を実施していること。

(2) 保険医療機関に係る基準

内科及び眼科を標榜(病院および診療所などの医療機関が表示や広告)していること。

実施診療科において、常勤の医師が三名以上配置されていること。

内科において、常勤の医師が配置されていること。

臨床検査技師が配置されていること。

医療機器保守管理体制が整備されていること。

倫理委員会が設置されており、届出後当該療養を初めて実施するときは、必ず事前に開催すること。

医療安全管理委員会が設置されていること。

当該療養について十五例以上の症例を実施していること。

届出月から起算して六月が経過するまでの間又は届出後当該療養を十五例実施するまでの間は、

一月に一回、地方厚生局長等に対し当該療養の実施状況について報告すること。

当該療養を実施した結果について、当該療養を実施している他の保険医療機関と共有する体制が整

備されていること。

内科外来があり、眼科常勤が 3 名以上いる施設は大学病院でなくても積極的に申請を勧める。外注

PCR 受託費の施設負担を心配せず、十分な項目が院内で迅速検査可能になれば、安心して治療を

開始できる。Strip PCR/Direct Strip PCR であれば、このクラスの多くの病院にすでに導入されている

PCR 機器を使用でき、新しい機器を購入する必要がない。また、感染性ぶどう膜炎キット(Direct Strip

PCR)は用手操作 5分であり、忙しい検査部にも導入を依頼しやすい。

特定機能病院の場合、要件の一つに、「高度先進医療」を含む高度の医療を提供するという規定が

あり、先進医療申請を推奨している医療機関は多く、学用患者・診療費減免などの名目で症例集積

のための費用を施設が負担してくれることがある。また、文科省から交付される補助金には先進医療

承認施行件数が考慮されるものがあることから、その分を医局研究費として支給してくれる施設もあ

る。事前に自施設のサポート状況を確認すると良い。

医師について二十例以上、病院について十五例以上の経験が必要である。保険診療と異なり、症例

は同一症例の経過観察のための再検査もカウント可能であり二十例以上の集積は困難ではない。ま

た、検査を行うこと自体が先進医療であるため、対象疾患であれば結果の陽性・陰性を問わない。

症例さえそろえば、申請の書類、申請自体は非常に簡単である。(大分大が資料提供・サポート)

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先進医療技術 (手法)

「ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR 法)」、「細菌または真菌に起因する

難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)」ともに、詳細な手法は指定されていない。

「ウイルス」 多項目定性 PCR を使用

「細菌」 細菌 16S領域の DNA量測定

「真菌」 真菌 28S領域の DNA量測定

と説明されているのみである。

そのため、「ウイルス」については、本来は医歯大で開発されたマルチプレックスPCR(眼科微量検体で

も複数項目を網羅検査できる)という技術を念頭に申請されたものであるが、通常の Single-target PCR

を複数種類同時に検査するという手順で申請し承認されている施設も若干存在する。

眼感染症網羅的 PCR 検査キット「Strip PCR/Direct Strip PCR」が簡便かつ迅速で、先進医療申請施設

において主流となっているが、逆に言えば、以前から Single-target PCR を多項目同時に検査している

施設は、先進医療施設基準の一年以上・二十例以上の症例の経験に含めても良いと考えられている。

なお、先進医療において、診断薬・機器が薬事承認を受けている必要はない(厚労局に確認済)。

検査体制

先進医療導入は病院にもメリットがあり、また、遺伝子検査体制を整えつつある検査部も多く、病院・

検査部主体で眼科に導入を勧めるパターンが多くなってきている。

先進医療時点から検査部に導入されてオーダーシステムにのせている(画面上でオーダーし結果を報

告)施設が多いが、一部眼科講座内で検査をしている施設もある。

Strip PCR は、眼感染症キット以外にも、「日和見感染症ウイルス検出キット」、「肝炎キット」、「呼吸器

キット」などがある。造血幹細胞移植時のウイルス感染症を検出する日和見感染症キットは、「多項目

迅速ウイルス PCR法によるウイルス感染症の早期診断」として、眼感染症 PCR とともに先進医療であ

る(患者からコストが取れる)ため、必要があれば血液内科などと連携して、院内での検査体制を整え

ていくことが望ましい。

大分大学では、眼科・血液内科の Strip PCR 検査体制が検査部遺伝子検査室で確立している。また、肝臓

内科・呼吸器内科・小児科についても準備を進めている。

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外注検査

本先進医療は、受託検査を含めた申請をしていない。つまり、先進医療申請時の経験症例数は、外注検

査ではカウントされず、自施設検査が必要である。自施設の先進医療準備前に網羅的 PCR 検査を受託で

試したいという場合、残念ながら先進医療施行施設の要件を満たさない場合は、神戸市立神戸アイセンタ

ー病院(理研・杉田先生)で有料で受託検査をしている。

http://www.retinastem.jp/kansensyou/src/index.html

将来、体外診断用医薬品として承認されれば、検査会社受託が可能になるよう交渉中であるが、実現はま

だ数年後であり、実現しても受託の場合、検体送付~到着~検査~結果報告まで数日を要する。PCR の

迅速性を生かすために、最初から自施設での検査体制を構築することを推奨する。検査体制の構築には、

IRB 申請を含め、着想から平均半年~1 年を要するため、保険診療化を待たず今から準備を進めると良い。

先進医療届出

先進医療A(未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術)と先進医療B(未承認、適応

外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術)がある。本件は先進医療Aである。

先進医療のウイルス、細菌真菌は同時に申請する必要はなく、症例が集積された方から速やかに申請可能。

[申請書類]

大分大で申請書類のサンプルを準備している。希望の施設は大分大・中野 sanakano@oita-u.ac.jp まで。

最新の届出書類は下記からダウンロードできる。

(厚労省ホームページ) 先進医療に係る通知、届出書等の様式及びその記載要領等について

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/minaoshi/

新規届出は別紙3

変更は別紙6

実績報告は別紙7-様式第1号(別添 1) をダウンロードする。

記載要領(先進医療に係る届出書等の記載要領等について) も参考にするとよい。

新規届出には下記も必要である。

施設基準に係る届出書添付書類 (医師/保険医療機関に係る基準など)

主として実施する医師の経歴書 (できるだけ移動のない医師で申請すると良い)

医療機関としての先進医療症例数 (適応症を満たしていれば、検査結果は陽性・陰性を問わない。)

概略図

倫理審査委員会の開催要綱

臨床研究審査結果通知書、院内審査申請書 (ある場合)

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[費用について]

前述の如く、保険診療化時に先進医療料金が参考にされるため適正価格での届出をお願いします。(平均約

30,000円)

検体採取費用

症例集積時の前房水採取のみ算定可能である。

項 目 症例集積 先進医療 特記

D419 その他の検体採取

-4 前房水採取 350点

○算定可 ×算定不可 先進医療代に採取費用は含まれる。

D417 組織試験採取、切採法

-3 眼

イ) 後眼部 650点

ロ) その他(前眼部を含む。)350点

×算定不可 ×算定不可 保険術式の点数に含まれる。

[申請手順] 申請は簡単である。

(1) 症例数などを要件を満たす。

満たしていない場合のみ、先進医療症例集積研究を行う。院内で費用補助がある場合もある。

(2) 自施設の先進医療申請担当の事務部門に連絡し、共同で書類に記入する。

(3) 地方の厚労局に届出。

(4) 約 1 ヶ月で承認。

(5) 院内で先進医療のプロトコルで院内 IRB 申請

施設要件に「倫理委員会が設置されており、届出後当該療養を初めて実施するときは、必ず事前に

開催すること」とある。IRB 承認を得てから検査を開始する。症例集積研究で IRB 承認を得ている場

合も、患者の費用負担など、先進医療の内容に修正して承認を得ること。

Strip PCR の場合、未承認の体外診断用医薬品ではあるが、体外診断用医薬品/機器が直接患者に

触れないこと、採取器具が承認済機器であることから、大分大学では特定臨床研究には該当しない

との判断である。

厚労省への実績報告のため、最初に申請を行った東京医科歯科大学への情報集積が必要である。

「当該療養を実施した結果について、当該療養を実施している他の保険医療機関と共有する体制が

整備されていること」という要件がある。施設外(厚労省・東京医科歯科大学)へ情報を出すことが可能

になるよう IRBプロトコルに記載する。

(6) 患者検査の実施

先進医療特約付保険加入者は給付が受けられること、先進医療費は税金の医療費控除の対象で

あるが、高額療養費制度の対象ではないことを事前に患者に説明する。通常の研究と同様、カルテ

には説明日時・場所・説明相手・内容(費用や採取方法)・患者・家族の反応などを記載し、同意書は

適切に保管する。

(7) 実績報告 (別紙7-様式第1号(別添 1))

実績報告用紙見本を下記に添付する。

届出月から起算して 6ヶ月が経過するまでの間又は届出後当該療養を 15例実施するまでの間は、

1ヶ月に 1 回、地方厚生局長等に対し当該療養の実施状況について報告が必要。また、毎年、年間

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報告(7/1-6/30 までの集計)が必要。

診断名が最も重要。前眼部OCTが先進医療だったとき、白内障病名のみが多いことが問題になり、

保険診療化が遅れた。事務サイドの記載で終了ではなく、必ず医師サイドで病名が適応症に合って

いるかを最終確認することが重要(先進医療ウイルスの時はヘルペスウイルス疾患、細菌真菌のと

きは眼内炎病名を記入しているか)。

評価結果は、結果の陽性・陰性問わず、検査が(除外診断として含め)役立った場合を有効とするた

め、基本的に有効の記載になる。

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先進医療承認施設

2018年 1月現在、承認施設は以下の施設である。

ウイルス

11施設承認済(東京医科歯科大・大分大・九州大・東北大・東大・東京医大・福井大・京都府立医大・鳥取

大・島根大)+6 施設が申請準備中

細菌・真菌

7 施設承認済(東京医科歯科大・大分大・東北大・東大・福井大・鳥取大・島根大)+3 施設が申請準備中

2015年から「Strip PCR 多施設研究」が 12都道府県 14 施設で施行されており、各施設が次々と申請中

保険診療化への道程

2018 年先進医療会議で、保険診療化のためには施行施設・件数を増やすことと、試薬の薬事申請が必

要という指摘があった。先進医療施行数は順調に増加、先行する感染性ぶどう膜炎キットの薬事申請は

2020年を目指している。

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Strip PCR / Direct Strip PCR について

開発の流れ

眼感染症微生物検出試薬キットには、2 つの段階 Strip PCR / Direct Strip PCR がある。Strip PCR(網羅

PCRキット)から、DNA 精製が不要で前房水・硝子体を直接添加可能になった改良版が最新の Direct Strip

PCR に移行中である。

Strip PCR の開発段階の 24 項目プロトタイプは眼感染症(角結膜炎・ぶどう膜炎・眼内炎)を網羅していた。

2015年から2年間施行した多施設検証の結果により不適当な項目(トキソカラ・結核)を除き22項目とした。

製品版では、薬事申請のため対象疾患ごとに項目を絞り、感染性ぶどう膜炎キット、眼内炎キット、角結膜

炎キットとした。DNA精製不要の Direct Strip PCR タイプへの改良を進め、まず 2018年 2月に感染性ぶど

う膜炎キット(9項目)を研究用試薬として発売した。今後、眼内炎キット・角結膜炎キットも Direct化を進めて

いく。

先進医療申請は、感染性ぶどう膜炎キットを用いて先進医療(ウイルス)を先行させることを推奨する。

細菌・真菌検査はグラム染色や培養、薬剤感受性検査が基本である。PCR は、コンタミネーションの問題・

全ての微生物を網羅できないという問題があり、積極的には勧めない。但し、眼内炎キットは腸球菌など迅

速な処置が必要な眼内炎主要微生物を中心に構成し、薬剤耐性遺伝子を含み、用手操作 5 分最短 40 分

で結果が出ることから、術中迅速検査としての有用性は高い。先進医療(細菌・真菌)申請は、眼内炎キット

(Direct Strip PCR)が販売されてからの申請を勧める(2019~2020年予定)。どうしても先進医療(細菌・真菌)

届出を急ぎたい場合、24 項目プロトタイプ(Strip PCR)を特別販売することも可能ではあるが、開発段階のプ

ロトタイプであり後述の種々の留意点がある。

Strip PCR / Direct Strip PCR ともに研究用試薬であり診断薬ではない。感染性ぶどう膜炎キットは 2020

年までに薬事申請を予定している。

2014-2017年

2017-2018年

2018-2019年

24項目プロトタイプ

(Strip PCR)

一般販売終了

開発論文 Nakano et

al. IOVS2017

眼感染症 (ぶどう膜

炎・眼内炎・角結膜

炎 )全ての主な病原

微生物を網羅。

対象疾患が臨床所見

から絞れるため、製

品版では疾患ごとに

分離。

ぶどう膜炎キット

(Strip PCR) 販売終了

多施設研究で項目選択。陽

性適中率・特異度 100%、陰

性適中率・感度 99.2%

ぶどう膜炎キット

(Direct Strip PCR)

2018年 2月研究用試薬 一般発売

2019年末~2020 年

薬事申請、海外用キット開発

角結膜炎キット

(Strip PCR)

ウイルス・アメーバ中心のキ

ット。多施設研究で検証中。

共同研究施設に発売

角結膜炎キット

(Direct Strip PCR)

固形物の角結膜や粘性のある眼脂、涙液

で Directで検出可能か検証中。未発売

眼内炎キット

(Direct Strip PCR) 未発売

眼内炎主要微生物と薬剤耐性遺伝子で再

構成。術中検体採取→PCR→術後点滴に

反映を目指す。2018年から多施設研究。

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Strip PCR / Direct Strip PCRの特徴

感染症診断のみならず、感染症除外診断(ステロイド投与前、術前など)、非感染性疾患の補助診断(サル

コイドーシスなど)、混合感染の網羅的検索(易感染性宿主など)、稀な感染症の検索(梅毒など)、外来・術

中迅速検査に有用である。

予め試薬がコーティングされており、繁雑な試薬調整が不要で初心者でも施行可能である。

定性検査ではあるが、Cq値(サイクル数)により半定量でき、病勢の参考になる。

従来の PCR 法と比較し、検体量・検査時間・手間・コストを抑えることができる。用手操作が 5 分であり、忙

しい検査部でも検査を導入してもらいやすい。

特殊な診断機器を新規購入する必要がなく、従来からあるリアルタイム PCR 機器を使用可能であり、すぐ

に導入できる施設が多い。購入する場合も比較的安価な機種が多い。

他の微量・網羅検査機種として Verigene® (敗血症病原微生物・薬剤耐性遺伝子を含む。2017 年 6 月 1 日

保険適用)や Filmarray®などがある。これらは、微量といっても最低 300μL の検体を必要とするため微量眼

科検体では施行できず、新たに特殊検査機器の購入が必要で一般施設には導入のハードルが高い。また

検査項目が眼科主要病原微生物に対応しておらず(対応を交渉したが海外の会社であり、現時点では対応

の予定がないとのこと)、眼科の網羅検査機器としては現時点では向いていない。

Strip PCR

マルチプレックス・リアルタイム PCR

+試薬をチューブに固相化

微量検体(50-100uL)で多項目網羅。

単項目 PCR を複数回行うより安価

試薬が固相化されており、用手操作が少なく簡便。

使用検体は DNA。

DNA 精製 40分+PCR90 分=計 130分

(用手操作は合計 45 分。DNA 精製を自動機器で

施行することは可能。)

Direct Strip PCR マルチプレックス・リアルタイム PCR

+試薬をチューブに固相化

+AmpDirect® (島津)

+高速酵素

上記に加え、DNA 精製操作が不要。

前房水・硝子体を直接添加可能。用手操作がさら

に少ない。高速酵素で時短。 (用手操作 5 分

+PCR35-55 分)

DNA 精製によるロスがなく、さらに微量の検体(13

μL/9 項目)に対応。

2020年にぶどう膜炎キットの薬事申請予定。

眼内炎キット・角結膜炎キットは多施設研究で

Direct化の検証中。

マルチプレックス(FAM/ ROX)キットだけでなく、マ

ルチプレックスでないリアルタイム PCR 対応キット(1

色・FAM)キットも市販している。

→ リアルタイム PCR 機器(Strip または Plate 対応)を

有する全ての施設で施行可能になった。

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検査項目

培養結果が早く得られやすい細菌類は含めず、細菌類は培養困難な梅毒のみとし、培養などの検査が困難な

ウイルス、寄生虫などを中心に構成した。

ぶどう膜炎キット

(Direct Strip PCR)

HSV1, HSV2, VZV, EBV, CMV, HHV6, HTLV-1, 梅毒, トキソプラズマ

角結膜炎キット

(Strip PCR)

角結膜炎共通:HSV1 VZV

結膜:ADV, クラミジア, 淋菌

角膜:HHV, アカントアメーバ

角結膜炎キット

(Direct Strip PCR)

同上

眼内炎キット

(Direct Strip PCR)

開発中

22項目プロトタイプ

(Strip PCR)

HSV1, HSV2, VZV, EBV, CMV, HHV6, HHV7, HHV8, HTLV-1, アデノウイルス,

梅毒, クラミジア, トキソプラズマ, アカントアメーバ

※ 注意が必要な項目 カンジダ(Candida sp., C.glabrata, C.krusei), アスペルギ

ルス, フザリウム, 真菌 28S rRNA, 細菌 16S rRNA

開発用プロトタイプで一般販売予定はない。

トキソカラ/結核は眼内の微生物量が少ない場合が多いため、実検体では

検出されないことが多く、キットから省いため 24→22項目となった。

眼表面・試薬に微量に含まれるカンジダ(Candida sp., C.glabrata, C.krusei),

アスペルギルス, フザリウム, 真菌 28S rRNA, 細菌 16S rRNA については、

ごく微量に(遅い Cq 値で)検出されるため、カットオフ Cq 値(細菌 16S と真菌

28S 33サイクル、P.acnes 30 サイクル、Candida sp., C.glabrata, C.krusei, ア

スペルギルス, フザリウム 各 35 サイクル)を設定している。施設により汚染

度は異なり、手技によっては連続陽性など、数%-86%の症例で検出される。

汚染度の高い施設が稀に存在するため、基本的に使用は勧めない。

培養の遅い真菌などでは一定の参考情報は得られる。

先進医療(細菌真菌)を早く申請したいなどの理由で、上記事情を十分に御理

解頂ける施設には特別販売を検討。

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検体

ぶどう膜炎キット

(Direct Strip PCR)

生検体 前房水・硝子体 13μL

角結膜炎キット

(Strip PCR)

22項目プロトタイプ

(Strip PCR)

DNA 前房水・硝子体・涙液・眼脂・角膜擦過物などの組織

DNA1 桁濃度 ng/μLに対応するが、十分量の検体採取が望ましい

先進医療/Strip PCR 検体採取の原則 (再掲)

目的微生物を念頭に、今現在、活動性の炎症がある部位の検体を治療前に採取する

鋭敏な PCR でも、現在存在しない微生物を検出することはできない。活動性のある段階の検体を採取する

こと(できれば治療前)は基本である。

また、主要病原微生物を”網羅”しているのであり、未知の病原微生物を何でも教えてくれるわけではない。

臨床所見からいくつかの目的微生物を明確にして、その存在を確認/否定するために検査を行う。

適切な検体を用い、狙いが外れていなければ、感染性ぶどう膜炎に対する Strip PCR の陽性適中率は

99.2%、陰性適中率は 100%である(611例・2015-2017・全国 14 施設多施設共同研究)。

陰性結果であっても、主要病原微生物の感染を否定できる(除外診断できる)ことは、ステロイド治療や術前

の感染性ぶどう膜炎の除外診断、非感染性ぶどう膜炎の補助診断に役立つ。

活動性がない検体は、先進医療/Direct Strip PCR いずれの適応でもない。

ステロイド治療などで消炎しているもの(cell ほとんどなし、KP も色素性のみなど)、活動時期を逸した

検体(昔ぶどう膜炎があったので白内障手術のついでに検査してみようなど)の検体は適当ではない。

但し、CMV続発緑内障では炎症が目立たなくても CMVが検出されることもある。

炎症の主座がある部位の検体を検査に用いる。

ごくわずかな眼底病変が主体なのに、病原体が波及していない前房水を検査しても検出されない。炎

症が確実に存在している部位の検体が採取できた場合のみ検査を行う。

病因診断をしてから治療に入ることが好ましい。

炎症なので、とりあえずステロイド点眼/少量内服・・・・は正確な診断の障害になり、こじれた場合に

適切な治療方針が立たなくなる。自施設検査ができないが急いで治療が必要な場合でも、できるだけ、

未治療状態の検体を検査用に確保(前房水は 30G で採取・20~100μL・そのまま冷凍保存可)してから

治療を開始するか、診断ができる施設にいったん未治療のまま紹介し、まず正確な病因診断をつける

ことが好ましい。ただ、紹介時点でステロイドが入っていることは現実的に多い。前房水採取の場合、

cell++ ・ KP (色素性でない活動性のもの) があれば PCR で検出できることが多い。

なお、様々な治療を盲目的に試した後に、こじれて病因が分からなくなったので、最後の手段で PCR

検査・・という流れは適切でない。(すでに微生物の存在が極限まで減少している/マスクされている場

合は鋭敏な PCR でも検出不能である。)

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検体採取・保存

前房水

[準備品]

・ 房水ピペット、個包装マイクロチューブ( 1.5mL)

・ 洗眼液(PA ヨード 20mL+80mL生食で希釈)、滅菌綿棒、開瞼器、ドレープ

房水ピペット 30G×4mm

ニプロ NIP-021

前房水採取用。

30G針+1mLシリンジで代用しても可。

Eppendorf Safe-Lock Tubes, 1.5 mL, Eppendorf Biopur

エッペンドルフ 0030 121.589

Pyrogen, DNase, DNA-free で滅菌済のマイクロチ

ューブ 1.5nL。個包装で術場にも出しやすく便利。

[手技]

・ 点眼麻酔し、PA・ヨードで十分に洗眼後、ドレーピングし開瞼器をかける。

・ 手術用顕微鏡下で、滅菌綿棒で眼球を固定し、房水ピペットのチューブ全体をしっかりと押しつぶし、角

膜輪部から前房内に刺入、チューブを掴む力をゆっくりと緩め、前房水を 30~100uL程度採取(検査時

ロス・念のための再検分などの余裕を含めて採取すると安心)。チューブ部分を完全につぶすと約 120μ

L採取可能。

・ コンタミネーション防止のため、検体回収直前にマイクロチューブを術野に出す。針を抜き、前房水は清

潔下でマイクロチューブに入れ、4℃保存(6時間以内、すぐに検査しないとき冷凍する)。ピペット内に

検体が残りやすいので、しっかり全部押し出す。

・ 前房出血・浅前房がなければ、抗生物質の点眼・眼軟膏・眼帯を行い終了。

・ 硝子体注射に準じて、採取後 3 日目まで 1.5%クラビット/ベガモックス点眼を 4 回点眼、翌日以降診察

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(杉田, PCR サンプル採取:結果の評価, 眼科外来処置・小手術クローズアップ. メジカルビュー社より一部改変)

硝子体

[準備品]

・ 個包装マイクロチューブ( 1.5mL)

・ 三方活栓

・ 2.5 または 5ccシリンジ

[手技]

・ 洗眼・消毒などの準備は各施設の手術手順に従う。

・ 希釈防止のため、吸引ラインに灌流液が回らないようプローブテストをスキップするか、プライミング時

に吸引ラインに溜まった灌流液をフラッシュして除去しておく。灌流液に薬剤添加が必要な症例で培養

検査を同時施行する場合は特に注意する。

・ カッターの接続部に三方活栓とシリンジを接続し、ポートを作製し、インフュージョンカニューラに灌流ポ

ートを繋いで、灌流開始可能な状態にしておく(繋ぐだけで潅流しない)。

・ 無灌流下で硝子体を切除し、チューブ内の三方活栓あたりまで(約 10cm)硝子体が来たら、眼内からカ

ッターを外し灌流を ON にする。

・ 三方活栓に 5ccシリンジをつけて硝子体を回収(50-200uL)。カッター接続部までの距離が短く検体が

十分取れない場合は、接続部を超えて硝子体を切除し、前後の硝子体をシリンジで吸い出す。

・ コンタミネーション防止のため、検体回収直前にマイクロチューブを術野に出す。清潔下でシリンジから

マイクロチューブに検体を移し、すぐにフタをして冷蔵する。(6 時間以内、すぐに検査しないとき冷凍)

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必要設備

必須: マイクロピペット

リアルタイム PCR.装置

(Strip または Plate で測定できるもの。FAM/ROX 対応マルチプレックス PCR 機器が望ましいが、

マルチプレックス機器がない施設のために FAM1 色用のキットも販売している。)

あると良いもの:

安全キャビネット、プレートミキサー、スピンダウン用遠心機(マイクロチューブ・8-12 連 strip/プレート用)

・ 動作確認済リアルタイム PCR 機器

検査部では医療機器として登録されているコバス z480、ABI 7500 Fast Dx が使用されていることが多い。

蛍光フィルター追加が必要になる機種がある。マルチプレックス機器の場合は、FAM/ROX の検出が可能

か確認する。

表にないマルチプレックス PCR機器でも測定できることがある。その場合、高速酵素への対応が不明なと

きは、60℃の時間を長めから開始し反応を見ながら徐々に短くする(最短 5 秒)。

PCR 機器によってはチューブの移し替えが必要になる機種がある。体外診断用医薬品申請時には販売は

8 連チューブクリアで統一する予定である。

8 連・12 連 Strip チューブ用アダプターが必要になる機器がある。上記機器にはメーカーが公式には Strip

チューブ使用を確認していない機器を含む。2018年 3月現在は問題発生例はないが、使用による機器の

いかなるトラブル・損失・損害に対しても当方は責任を負わない。

LightCycler®8-Tube Strips Adapter Plate (日本ジェネティクス):LightCycler480 ver1・ver2・コバス Z480

久しぶりに使用する機器では、使用前にキャリブレーションをしてから使用すると良い。

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試薬購入

2018年 3月現在、下記研究用試薬は日本テクノサービスから発売している。(価格表は別添)

試薬の保存条件に従い、期限内に使用すること。

感染性ぶどう膜炎微生物検出試薬キットの構成 (2色版)

すべての実験には 1回につき 60-150uL程度の PCR Grade Water (例:1mL×25本, ロシュ, 03315932001)

が必要で別途準備する。

日和見感染症などの眼感染症以外のキットもある。

https://www.an.shimadzu.co.jp/bio/reagents/opportunistic/index.htm

Strip PCR 試薬(一般発売なし・要相談)は DNA を検体を用いるため、DNA精製試薬や機器が別途必要。

エアロゾル防止チップ推奨 (フィルター付・DNA低吸着チップ: BM機器 WF-20RS、200RS、1000RSなど)

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予備実験

患者検体の検査を開始する前に、陽性コントール(販売あり)、ネガティブコントロール(DW)で検証を済ませ

ておく。

PCR装置付属ソフトウェアによっては、自動解析では、反応液の特性によるバックグランド蛍光の補正が正

しく行われず、増幅曲線が正しく表示されない/誤った Cq値が表示されることが稀にある。対処法は後述。

検査手技

従来の定量 PCR検査と Direct Strip PCR 検査の比較を示す。

Direct Strip PCR(感染性ぶどう膜炎キット)の必要検体量は 13μL/9 項目で、用手操作 5分・PCR 時間 35~

55 分、検体量・時間・マンパワーの節約に繋がる。

感染性ぶどう膜炎キット(Direct strip PCR) の専用試薬立てが発売される。試薬立て表面にプロトコルが記

入されており、専用試薬立てに試薬 2種類(1.5mLチューブ・stripチューブ)と、検体チューブをセットして、指

示通り進めるだけで用手操作は終了する (5分)。1検体ずつ検査する場合や久しぶりに検査する場合は購

入しておくと便利である。

簡便迅速であり氷上操作は不要。逆に、PCR チューブが濡れて汚れると測定値が変動することもあるので

氷上操作は避けた方が良い。

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[実際の方法]

(1) 1.5mLチューブ試薬はギリギリの量であり、検体とともに使用前にスピンダウンしておく。

(1) 専用試薬立てに試薬 2種類(1.5mLチューブ・stripチューブ)と、検体チューブをキャップを開けてセットする。

※strip チューブの方向に注意する。

(2) 検体チューブからピペッティングして 13μLを取り、1.5mLチューブ試薬チューブ Aに入れる。

(3) ピペッティング 10 回

(4) A 列に PCR のポジコンである GAPDHが入っているため、 F列から順に A 列まで 20μLずつ添加。

※チューブの底にプライマーが固相化されているため、分注するときチップはチューブ上部の壁に添わせ、

チューブの下1/2より底に触れないように注意する。

(5) キャップを閉め、プレートミキサー(低速・3 分)にかけ、Strip 用またはプレート用の遠心機でしっかりとスピン

ダウンする

※フタに液が付着すると蛍光値が変動する可能性があるためスピンダウンは必須)。

(6) 条件セッティング済の PCR装置にすぐにセットし、runを行う。最短 35分で終了。

※常温・光の当たる場所や、高温の PCR装置内に調整後の試薬を放置しない。

※機種によっては、アダプターやバランス用の strip が必要。

※高速酵素に対応していない機器は 60℃の時間を 20~60秒に調整する。

(事前に陽性コントロールで長い時間から試し徐々に減らして調整)

温度 時間

95℃ 10秒

95℃ 5秒

60℃ 5秒

45cycle

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検査結果

定性検査ではあるが、Cq値による半定量が可能。報告は陰陽のみでも良い。

[データ解析の注意点]

FAM / A wellの GAPDHは、PCR 自体のポジティブコントロールであり、検体が水などの陰性検体でも必ず

検出される。検出されない場合は、プレートミキサーでの混和が不十分な場合などが考えられる。

TBP は検体中の細胞数を反映する。TBP 陰性の場合は、検体の活動性が不十分で、検査に適していない

倦怠の可能性がある。

PCR 装置付属ソフトウェアによっては、自動解析では、反応液の特性によるバックグランド蛍光の補正が正

しく行われず、増幅曲線が正しく表示されない/誤った Cq 値が表示されることが稀にあるため、必ず増幅

曲線(S 字状のカーブ)を目視して陰陽判定を行うこと。下図の細青線の様に、約 20cycle 以降に明確な立ち

上がり(S 字状のカーブ)が観察されて Cq 値が算出されている場合は陽性が正しく判定されている。しかし、

真ん中の太橙線の様に、1cycle 目から徐々に増幅に立ち上がり 10 以下の Cq 値が算出される場合は、ソ

フトウェアの誤検出で、実際は陰性である(機種による)。

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その場合は、解析ソフトのバックグランド補正やベースラインの設定を変更して解析しなおすことで改善す

る場合がある。

例)BIO—RAD CFX96の場合

自動解析時の増幅曲線

解析サイクル数を 5(6)〜45に設定変更後の増幅曲線

15cycle以下で陽性となる場合も、実際の波形を確認すること。最初の 1-10cycleで高い蛍光強度が観察

され、その後いったん下がって通常どおりS字に上がる場合は(または下がったままの場合は)、最初の 1-

10cycle の高い蛍光強度はノイズシグナルである。解析対象 cycle 数をノイズシグナルの蛍光が観察され

る以降の cycle数に設定して下さい。

(例 1) ↓ 最初に高いシグナルがあり、その後基線がバラバラ。

First cycle を 6 に設定することで、基線が整うとともに、最初の高値の部分を拾わなくなる。

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環境整備

感染症検体・感染性廃棄物の取り扱い場所、拡散防止措置、廃棄物処理などについては、それぞれの施

設の既定に従うこと。

常にディスポーザブル手袋、マスク着用。検体に汚染された手袋はすぐに取り換える。

患者検体の入ったチューブ類は、開ける前にスピンダウンし、フタの内部に触れないよう、飛沫が発生しな

いように注意する。

オートクレーブ処理はオートクレーブ庫内に DNAが散布される可能性があり、推奨しない。

可能であれば、使用前後に、器具や安全キャビネットの UV照射を行う。

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相談先

お困りのことがあれば、大分大学眼科中野まで。

〒879-5593 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1丁目1番地 大分大学医学部 眼科学講座

097-586-5904 (眼科講座代表電話)

http://www.med.oita-u.ac.jp/ganka/pcr/

sanakano@oita-u.ac.jp

試薬購入先

試薬注文は、

日本テクノサービス株式会社

http://www.ntsbio.com/viral-test

担当.営業部 森 良仁様

029-886-6811

mori@ntsbio.com

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用語

■マルチプレックス・リアルタイム PCR

PCRは温度変化のサイクルを繰り返して遺伝子を増幅する。マルチプレックス PCRは多項目同時に増幅

する PCR法で、必要検体量が少なく眼科微量検体に適している。量的情報が得られるリアルタイム PCRは、

主要微生物の推測や微生物量の経時変化観察に役立つ。

参考文献

(1) Nakano S., Sugita S., Tomaru Y., Hono A., Nakamuro T., Kubota T., Takase H., Mochizuki M., Takahashi M.,

Shimizu N.: Establishment of multiplex solid-phase strip PCR test for detection of 24 ocular infectious disease

pathogens, Investigative Ophthalmology & Visual Science, 58(3): 1553-1559, 2017

(2) 中野聡子:網羅的 PCR による眼感染症診断,臨床眼科 70(11) 増刊号, 眼感染症の傾向と対策ー完全マ

ニュアル 知っておきたい眼感染症診断の動向,40-44,2016

(3) 中野聡子:病原微生物検索のための新しい網羅的 PCR システム,眼科手術 30(1):100-104,2017

(4) 中野聡子:網羅的迅速 PCR 検査による眼感染症の診断,眼科 59(12):1479-1484,2017

(5) 中野聡子:特集 臨床検体で科学する!「感染性ぶどう膜炎/眼内液」,RETINA Medicine 7(1),2018 (印

刷中)

(6) 中野聡子:2018 年日本眼科学会総会 シンポジウム 15 「眼内液から分かる眼炎症の病態」 眼感染症網

羅的迅速検査「Strip PCR」 抄録

イラスト使用

http://free-illustrations.gatag.net/2013/08/14/070000.html