Post on 16-Apr-2018
放射線測定実習セミナー
~放射線量計を正しく使うための入門講座~
http://sites.google.com/site/hakarikata702/
金田 雅司 (助教)
東北大学 高等教育開発推進センター/大学院理学研究科物理学専攻
スケジュール(目安)
• 10:00 – 10:30 講義
• 10:30 – 12:00 室内実習
• 12:00 – 13:00 昼食
• 13:00 – 14:00 室外実習
• 14:00 – 15:00 まとめ
• 15:00 - 線量計の校正指導– 希望者の方対象
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食堂について
学生実験棟川内の杜ダイニング11:00 - 14:30Bee ARENA Cafe
11:00 - 14:30
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講義内容
•物質は何から出来ているのか?
•放射性物質と放射線
•放射線の測定原理
•実習内容の説明
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物質は何からできているのか?
素粒子・原子核を研究している物理屋が知りたいこと
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素粒子・原子核物理
• 我々の世界は何から出来ているのだろうか?– 小さな世界
• ものを小さくしていったらどうなるのだろう?
• そこではどのような規則が働いているのだろうか?
– 大きな世界
• 宇宙はどのようにして出来たのか?
• 星のなかはどうなっているのだろうか?
• 素粒子・原子核物理の目指す物– 我々の起源を解き明かしたい
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素粒子・原子核物理
• 役に立たないか?– 「たちません」
• 何かに役に立とうとして研究していない
– 「たちます」
• 後から役に立つことが見つかる:応用
• 応用の例– X線写真
• 病気の発見、治療の手助け
– 量子力学
• エレクトロニクスの世界
– 特殊・一般相対性理論
• GPS(カーナビゲーション)
– 加速器・検出器技術
• 放射光を用いた、物質の構造の解明
• PET, MRI での画像診断
• 陽子線・重粒子線による癌治療 7
彼の妻の手のX線写真
ヴィルヘルム・レントゲン
地球の周りを回るGPS衛星
図と写真の出典: wikipedia
原子・原子核・素粒子
d
中性子
原子核d
uu
u
d陽子
電子
原子
~10-10 m ~10-14 m( 2x(1.2~1.4)A1/3)
10-15 m
クォーク(核子)
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野球場の外野まで距離約 100 m
ビー玉約 1 cm
同じ比率のものボールペンのボール約 1 mm
原子核
• 陽子と中性子からなる– 陽子と中性子をまとめて核子と呼ぶ
• 元素の種類– 電子の数=原子核中の陽子の数
– 物質の性質は、電子軌道がどのような状態であるかで決まる
• 同位体– 陽子の数が同じで中性子の数が異なる
– 安定な原子核と不安定な原子核の存在
• 原子核の構造– 陽子や中性子は、原子中の電子のように、とることの出来る
エネルギーや軌道が決まっている
– 量子力学の世界なので、そのエネルギーは飛び飛びの値しか
持てない
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原子核
• 陽子と中性子からなる– 陽子と中性子をまとめて核子と呼ぶ
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原子核
約 10-14 [m]= 0.000000000000001 [m] = 10兆分の1メートル
ギリシャ語由来の –onに対応するのが「子」proton: 陽子neutron: 中性子nucleon: 核子
原子核
• 元素の種類– 電子の数=原子核中の陽子の数で決まる
• 同位体– 陽子の数が同じで中性子の数が異なる
11
134Cs
137Cs
名前が同じ原子番号が同じ
=原子核中の陽子の個数が同じ
化学的性質が同じ
例:セシウムは原子番号55
133Cs質量数:陽子と中性子の個数の合計
安定な物と不安定なものがある不安定なものは放射線を出して安定な物に変わる
放射性物質と放射線
その性質
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放射性物質
• 不安定原子核– 余分なエネルギーを外に出して
安定な原子核になる
• 別種類の原子核になる
– 崩壊または壊変と呼ばれる
• 原子核内部の構造(陽子や中性子の軌道)の変化
– 励起状態から基底状態へ
– 放射される物
=放射線
– 不安定原子核を持つ物質
=放射性物質
– 一つの原子核がいつ壊変するかは分からない
• しかし、沢山集めれば、平均的にどのくらい経つと壊変するかは分かる 13
β-線(電子)
反電子ニュートリノ
中性子
陽子
β崩壊別の元素の原子核に変わる
同じ元素の原子核のまま
γ線(光子)
核分裂
•重たい原子核が、二つ(まれに三つ以上の原子核に分裂– 自然に起きる
– 中性子、陽子、γ線、β線の吸収によって起きる
•原子炉のウラン燃料– 235Uが3-5% その他は核分裂をしないウラン
14
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/03/03060304/03.gif
中性子
核分裂
235U
(陽子の中性子の個数の和)
質量数 95程度
質量数 140 程度
福島第一から大気中に放出したと考えられる放射性同位体で、量が多いと予想されているもの
キセノン133 (1.11019 Bq)ヨウ素131 (1.61017 Bq)セシウム134, 137 ( 1.81016 Bq , 1.51016 Bq )
保安院の発表よりhttp://www.meti.go.jp/press/2011/06/20110606008/20110606008-2.pdf
ストロンチウム89と90の和と、セシウム134と137の和の比は、福島の土壌では、1:2000~1:4000
文部科学省の測定結果を基にした原子力安全委員会の資料http://www.nsc.go.jp/nsc_mnt/110610_3.pdf
2ないし3個の中性子
半減期
• 放射性物質は崩壊(壊変)と共に減っていく
• 元々あった量が半分になる時間=半減期– 原子核によって半減期は異なる
– マイクロ秒のオーダーから238Uの45億年までいろいろ
0
20
40
60
80
100
120
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
放射性物質の量
時間 [半減期の倍数を単位とする]
6.3%
3.1%
1.6%
0.78%
1/100の量になるには半減期の約7倍の時間がかかる
15
50%
放射線の種類
• 原子の中から発生する物– 電子軌道から
• X線– 原子核から
• 線• 線• 線• 中性子
• 人工放射線– 加速器を使用
• 電子、陽子、イオン自身を加速し取り出す
• シンクロトロン放射・制動放射を利用し電磁波(紫外光、X線、線)を生成させる
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電離化
• 電離化(Ionization)とは– 原子中の電子がはがされてイオンになる
– イオン化させるのに十分なエネルギーを持っている放射線
= 電離性放射線
– 電離をさせない放射線もある
• 一般に言う放射線は、電離放射線を指す
• 生体への影響– 分子中の原子をイオン化、分子を壊す
– 電離化によって発生したラジカルが分子に影響を与える
• たとえば
– 酸素からオゾン
– 水から、水素と過酸化水素
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放射線の遮り方(遮蔽)
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線を止める線を止める を止める線X線 中性子線を止める
紙 アルミニウムなどの薄い
金属板
鉛や厚い鉄の板
水やコンクリート
線
線
, X線
中性子線
放射線の測定単位
• 吸収線量– 1 [Gy(グレイ)]: 1 kg の物質に 1 J のエネルギーを与える
• 同じ吸収線量でも、放射線の種類によって生物学的影響が異なる
– CGS単位系では rad ( 100 [rad] = 1 [Gy])
• 等価線量– 1 [Sv(シーベルト)] = 放射線荷重係数 × [Gy]
• 放射線荷重係数
– , X線: 1– , 粒子: 1– 中性子: 5~20 (エネルギーによって異なる)– 線: 20
– CGS単位系では rem ( 100 [rem] = 1 [Sv])– 等価線量に生体組織による影響の違いを考慮したものが、実効線量
なお、アメリカ合衆国では未だに [rad] や[rem] が使われている
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放射線の測定単位
• 照射線量– レントゲン, [R]
• 空気1 cm3 辺りに 2.08×10-9 の正負イオン対を生成させる放射線
• , X線に対して、1 [R] 1 [rad] 1 [rem] – 現在は殆ど使われない
• 放射能の量– ベクレル, [Bq]
• 1 [Bq] = 1秒あたり、一つの原子核が崩壊して放射線をだす
– ラドン温泉: ~10000 [Bq/l]
– キュリー, [Ci]• 1 g のラジウムの放射能に相当
• 1 [Bq] = 2.7×10-11 [Ci] / 1 [Ci] = 3.7×1010 [Bq]• 現在では使われない
20
自然放射線
• 自然界に存在する放射線– 天然放射線
• 40K、ラドンなど
– 宇宙線
• 典型的範囲 1-10 mSv/年、平均値 2.4 mSv/年– 日本全国平均値 0.99 mSv/年
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宇宙線(外部被曝)
大地からの放射線
(屋内及び屋外での
外部被曝)ラドンなどの吸引
(内部被曝)
食品摂取
(内部被曝)
自然放射線による年間実効線量の世界平均的な値(国連科学委員会の推定)
0.39 mSv/年
0.48 mSv/年1.26 mSv/年
0.29 mSv/年
数値の出典: http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-05-04
日本地域別の自然放射線
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http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010504/03.gif
http://www.geosociety.jp/hazard/content0058.html
日本地質学会による大地のウラン・トリウム・カリウムからの放射線量率の見積もり(実測値ではないまた、宇宙線は入っていない)
花崗岩の多いところの放射線量率が高くなっている
(0.126 μSv/h 以上)
(0.113 μSv/h)
(0.114以上~0.124以下 μSv/h)
(0.114 μSv/h 以下)
東北大学キャンパスにおける放射線量率
実際どうなっているでしょうか
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仙台市青葉区の放射線量率の推移
• 3月13~16日のベント、水素爆発以降放射性物質の大量放出は観測されていない– 仙台での測定と、原子力発電所
敷地内での測定値比較から
• 3月24日の仙台での増加は上空にあったものが雨で降下したと考えられる– この日以降では、降雨後0.01~
0.02[μSv/h]の増加し、また線量が落ちているがこれは、大気中にある天然放射性物質ビスマス(Bi)214と考えられる
– 日本分析センターの測定では、降雨後にBi-214 が増加してすぐ減少しているのが見えている。
• http://www.jcac.or.jp/lib/senryo_lib/nodo.pdf
• 6月末現在– ヨウ素131(半減期8日)は殆ど
無い
– 主にセシウム134と137
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放射線量率
[μSv/
h]
日時
福島第一原子力発電所構内での計測データhttp://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/index-j.htmlより金田が作図
https://sites.google.com/site/radmonitor311/sendai_aobaku
放射線量率
[マイクロ・シーベルト/時
]
参考:宮城県の放射線量率の推移
25
http://www.pref.miyagi.jp/gentai/Press/graph.htm
宮城県の発表
より
6月3日より、測定条件を統一するため、角田市、亘理町の測定地点を地表面がアスファルトの地点に変更
http://www.pref.miyagi.jp/gentai/Press/soudan/soudan0603.htm
青葉山キャンパスの土中の放射性物質
• ゲルマニウム検出器で測定– 高エネルギー分解能の検出器
• ピークが放射性物質から出た線に対応– ピークの下にある連続して分布している物はバックグラウンド
– 知りたい線の個数はバックグラウンドの上に乗っている
• 現在見えている線の由来は– セシウム(Cs)-134, -137– カリウム(K)-40: 天然放射線
– ビスマス(Bi) -214: 天然放射線(ラドンから)
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1461 keV(40K)
662 keV(137Cs)
605 keV(134Cs)
796 keV(134Cs)
131I の365 keVγ線が予想される
場所 1764 keV(214Bi )
線の個数(6時間計測)
線のエネルギー [デジタル化されたチャンネル数]
測定装置は、γ線のエネルギーをデジタル化したチャンネル数として記録
チャンネルからエネルギーに換算するのが較正(keV はエネルギーの単位)
バックグランドがギザギザしているは、統計的揺らぎの為
ヨウ素-131(131I )は、バックグランドの揺らぎに埋もれて見えない
= 検出限界以下
カリウム-40 がγ線を出すのは、その量の10%程度。
2011/6/25 測定東北大学大学院理学研究科物理学専攻原子核物理研究室
川内北キャンパスグラウンドにおける空間線量率
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2011/6/6 測定地表から高さ1mでの測定単位: μSv/h測定者:関根勉(東北大高教センター)
高さの違いによる線量率の変化
深さの違いによる放射性物質量の変化
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放射性物質の濃度
[Bq/
kg]
深さ [cm]
縦軸は対数表示
指数表示の数字の意味100 = 1101 = 10 102 = 100
天然の放射性物質Ra (ラジウム)-226 K(カリウム)-40Th(トリウム)-232
200300400
20304050
98765
43
2
1
川内グランド土壌を6cm毎の深さで採取2011/6/6 に測定ゲルマニウム検出器を使用測定者:関根勉(東北大高教センター)
上層の土壌には無かった放射性セシウムが出ている。近くの暗渠からのしみだし?
天然放射性物質の40Kは、どこにでもある
放射性セシウムは地表近くに集中。地表6cmまでと、6cmから12cmでは約1:30の比率
放射線の測定原理
どうやってはかるか
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検出器
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放射線が通過
(信号)が発生
概念図
電気パルスの個数(と大きさ)を測定
時間あたりの測定個数、あるいは放射線量率(μSv/h)に換算
もってきて頂いた測定器• GM計数管(ガイガー・ミュラー・カウンター)
– (線)、線、(X)線を測定
• CTOPA PKC-01 (EKOTECT社)• TERRA MKS-05 (ウクライナ ECOTEST 社)• RADEX RD1503, RD1706 (仏 Nano Sense社, 露QUARTA社)
• インスペクタープラス(米 S.E. International社製)
• ストロベリーリナックスUSB-GEIGER (米 LND社 マイカ窓GM管使用)• DoseRAE-p (米 RAE Systems社)
• DRM-BTD (米 Vernier Software & Technology 社)
• JB4020 (中 上海精博工贸有限公司)
• dp802i (中 Shanghai Ergonomics Detecting Instrument 社)
• GAMMA-SCOUT (独 GAMMA-SCOUT社)
• シンチレーション・カウンター
– (X)線を測定
• DoseRAE2 PRM-1200 (米 RAEsystems社) [CsI(Tl) シンチレータ]• Mr.Gamma A2700 (日 クリアパルス社) [CsI(Tl) シンチレータ]• RADI PA-1000 (日 HORIBA社) [CsI(Tl)シンチレータ]• TCS-172B (日 アロカ社) [NaI(Tl)シンチレータ]• CoMo170 (独) [ZnSコーティング・プラスティック・シンチレータ]
• 電離箱
– 線、(X)線を測定
• 電離箱サーベイメータ 451P (米国 INOVISION 社) 31
ガイガー・ミュラー管
• 特徴– 放射線の個数を数える、が
– エネルギーは測定出来ない
• 多くの機種では、線量率(Sv/h)に換算するために137Csの 線だけが反応したと仮定 (が入ると大きな線量率の数値を表示してしまう)
32図の出典: http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f0/Geiger.png
,β線が入れる薄膜の窓(窓の無いものもある)
線や線が、ガスをイオン化電気パルスを作る
γ線は透過力が強いので、多くはパルスを作らず通過容器やガスでたまに反応しβ線になる
薄膜や容器の厚みで測定感度が変わってくる
模式図
シンチレーション・カウンター
• シンチレーション(蛍光)– 放射線を光(可視光)に変える
• 特徴– 放射線の個数を数える
– エネルギーを測定することが可能 → 放射線量に換算できる
– 本来は、線も線も測定出来る
• しかし、線サーベイメータは、 線を測定しないように金属で遮蔽されている
33
線シンチレータと反応するものもあれば通り抜けるのもある
コンプトン散乱,光電効果,電子陽子対生成で、電子や陽電子に変わる
模式図
シンチレータ
光センサー
電子や陽電子
可視光を電気パルスに変換
電離箱
• 特徴– 通過した放射線のエネルギーを測定
• 感度は他のものより低いが、精度が高い
– 線だけを測定する場合には、や線が入らないように箱を厚くする
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放射線
模式図
++ + +
+
--
- --
気体
放射線が電離箱を通過時にガスを電離(イオン化)
陽イオンと陰イオンが電極に引き寄せられて微弱(10-9 ~10-14 A)な電流として測定される
+
-
電流計
測定時の注意
• どの種類の放射性物質があるか
• 出ている放射線は何か
• 自分の検出器は何を測定しているのか
• サーベイ・メータ– 基本的に外部被曝を知る為のもの
– 表示された数値の信頼度を知っておく
• 意味のある数字は、どの桁までか
• (測定器一般の話ですが)校正・較正されていないと値が信用できない
• 測定器のノイズにも注意
– 放射線レベルが低くてもゼロが表示されない
– GM管を用いたものは、放射線量に換算するときに線だけを測定したと仮定
• β線も測定器に入っていると大きな値を表示する35
放射性物質の量を量るには
• 不安定原子核の崩壊(壊変)– 放射性同位体ごとに、 放射線のエネルギーが違う
• 線: 0からある最大値(原子核により異なる)まで
• 線: エネルギーが決まっている
– 放射性物質を含む物から出てくる線のエネルギー分布を測定すれば、どの放射性物質がどのくらいあるかわかる
36図の出典:KEK Preprint 2011-2 April 2011 R高速道路上の放射線分布測定より得られた福島第一原子力発電所から飛散した放射性物質の挙動
ピークの下にだらだらと広がっているのは、バックグランド。検出器に入ったγ線のエネルギーが、すべて検出器で測れなかった場合に出てくる。欲しいγ線の個数は、このバックグラウンドの上に乗っている。
バックグランドが多いと、ピークが見えない(=個数が数えれない)この場合、Bq/kg や Bq/l の数値が求められない(=検出限界)
検出器に入ったγ線の内、何パーセントがピークを作ったか(検出効率)を知っておく必要がある。検出効率が分からないと、元々何個のγ線が放射性物質を含むものから出てきたか分からない。
ピークがあるかないか、ピークの中に何個γ線があるか、それはどの放射性同位体からきたか、を自動で調べてくれる分析機は販売されている。分析機が自動で出す値を信じていると、機械が間違っていても分からない。(例:東京電力が、塩素-38 を1号機溜まり水などで測定されたと間違った。機械が出した結果を信じて、元のγ線のエネルギー分布を見ていなかった。詳しいことは、付録を参考にしてください。 )
60秒辺りの個数(対数表示)
γ線のエネルギー
LaBr3 検出器による測定
室内実習
検出器の特徴を知ろう
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測定値は揺らぐ
•分からないこと–何時、どの原子核が放射線を出すか
•分かること–有る時間経つと「平均的に」何個放射線をだすか
•確率的にしか予想が出来ない
•短い時間の測定では、測定値が揺らぐ
38
室内実習1 検出器の揺らぎ
• 各机にあるNaI (ヨウ化ナトリウム)サーベイメータを使用– 線源から25cm(厳密で無くてよい)離す
– 時定数(TIME CONST) を、3秒、10秒、30秒で測定
– 3回測定
• メータの針の揺れを観測
• 時定数より少し長めの間隔で、デジタルメータの数値を記録
– 毎回の測定で同じ値を示すかどうか、を記録
机
39
遮蔽カバー
γ線源遮蔽カバーの中に設置樹脂に封じ込められているのでβ線は出ない
測定器ごとの違い
• 測定値– 放射線が測定器を通り抜けたとき電気パルスを作る
• 分かること
– パルスの数
– 通り抜けた放射線の持っていたエネルギー (測れない測定器もある)
• パルスの数だけ数えた場合にどう μSv/h に換算する?
– 多くのGM(ガイガー・ミュラー)カウンターは、137Cs が通ったと仮定
– 測定器内部で、時間あたりの個数から線量率に変換
– 測定感度
• 測定器の仕組み(測定原理)が異なれば感度も異なる
– 放射線が100個通り抜けたときに、いつも100個パルスが出来るとは限らない
• 正しく較正されていれば、意味のある数値を表示する
– 正しく較正されていないと、ずれた値が表示される
40
室内実習2 検出器の個体差
放射線源:137Cs樹脂に封じ込まれているので線は出ない線のみ
41
• 較正された NaI (ヨウ化ナトリウム)サーベイメータと比較– 放射線源を置く前に、バックグランドを測定
– 線による放射線量率を距離を変えて (20, 40, 60 cm)記録
屋外実習
実際の環境を測ってみましょう
42
川内キャンパスの放射線量率
• 複数の地点での空間線量率を測定– 地表1m, 地面(あるいは植物の表面)
• 土、アスファルト、コンクリート、植え込み、側溝、等の場所
• GM管の場合、β線の遮蔽ありなしも比較
– 全く同じ場所で、測定器毎にどの位違うだろうか?
– 記録シートに記入
• グループを4つ– グループ毎に場所を決める
– 測定した場所、放射線量率を記録
– 何カ所は較正されたNaIカウンタ
でも測定
• 実験棟に戻った後グラフを作成– 横軸を場所の名前、縦軸を測定値
– 違いを見てみよう
43
校正について
• ゼロはゼロでしょうか?– 放射線が殆ど入らない環境で、あなたのカウンターの示す値は?
– 鉛で囲まれたケースに入れて測定
• 基準となるものと比べましょう– NaI(Tl)シンチレータ・カウンター TCS-171を基準に
– 室内実習2の結果を基にします。
– グラフを作る
• 横軸にTCS-171で測定した値をとり
• 縦軸に持参して頂いたカウンターの測定値をとる
44
点を細かくとるともっと正確になります。
TCS-171で測定した放射線量率 [μSv/h]持参
したカウンターで測定
した
放射
線量率
[μSv/
h]
各点との間隔が同じ位になるように直線を引く
自分の測定が示した値をTCS-171の値に直したいときは、縦軸の値と横軸の値を比べる
参考資料
45
放射線/放射性物質の発見
• ヴィルヘルム・C・レントゲン (Wilhelm C. Röntgen)– 1895年、クルックス管(真空放電管)からの実験で
「目には見えないが光のような物」が出ていることを発見
• 陰極線(電子)の用に磁場では曲がらない
• X線と名付けた
– 1901年、第一回ノーベル物理学賞(X線の発見)
• アントワーヌ・アンリ・ベクレル (Antoine Henri Becquerel)– 1896年、ウラン塩が写真乾板を露光させることを発見
• ウラン塩から出ているものが空気を電離されることから、
放射線が出ているを確認
• マリー・キュリー(Maria Skłodowska-Curie )ピエール・キュリー(Pierre Curie)– ラジウムとポロニウムの発見
– ベクレルと共に、自然放射線の発見に対し、
1903年ノーベル物理学賞
46写真の出典: wikipedia
線
• 物理的性質– 主に質量数の大きい不安定原子
核から放出される
• トンネル効果
– 電荷 +2– 陽子2個と中性子2個から成る
(4Heの原子核)
– 電子の側を通過するとき電子をはがす
• 電離
47
線
• 飛距離 (Range)– 短い距離でエネルギーを失う
• 透過能力は高くない
• 空気に対して数cm程度
• 防御物 (Shield)– 紙
– 皮膚の表面
• 生物学的危害 (Biological hazard)– 体外被曝
• 外から線を人体に照射しても表皮で止まってしまうので影響はない
– 体内被曝
• もし線源を体内に取り込んでしまうと、放射性物質が無くなるまで浴び続けるので非常に危険
48注:このページでは定性的なことしか述べていません。どのくらい危険かは、きちんとした測定値をもって判断する必要があります。
• 物理的性質– 電荷 1– - (電子)と + (陽電子)
• α線に比べると質量は7000分の1程度
– 原子核中で陽子(中性子)が中性子(陽子)に崩壊するときに放出される
このプロセスは三体崩壊
• 電子の持つエネルギーは0からある最大値までいろいろな値を持つ
– 線を出さずに陽子が中性子に変わるプロセスもある(電子捕獲, Electron Capture)
• 軌道上の電子を陽子が捕獲
• 空いた軌道に上の軌道が電子が移動する際にX線(電磁波)が放出される
線
49
n p + e- + e
p + e- n + e
uud
udd
W +
e+
ep n
p n + e+ + e
uud
udd
W -
e-
en p
線• 飛距離 (Range)
– 線よりは遠くまで届く
• 空気に対して数m程度
• 皮膚の表面に線源をおいた場合でも2,3mm程度しか進まない
• 防御物 (Shield)– 数ミリ圧のプラスチック、アルミ、ガラス、木
– 密度の高い物質(鉛など)は電子が当たることによってX線を出すので逆に危険
• 生物学的危害 (Biological hazard)– 体外被曝
• 皮膚や眼球に対して危険
• 内蔵や骨までには届かない
– 体内被曝
• 線源よりはダメージが少ないが危険
50注:このページでは定性的なことしか述べていません。どのくらい危険かは、きちんとした測定値をもって判断する必要があります。
線/X線• 物理的性質
– 電磁波
– 電荷を持たない
– 線とX線の違いは発生機構
• 線– 原子核内の核子が励起状態からエネルギーの低い状態へ遷移する時に余
分なエネルギーが電磁波として放出される
• X線– 軌道電子が励起状態からエネルギーの低い状態に遷移する際に放出される
» 電子捕獲によるもの» 陽子が軌道電子を捕獲、空いた軌道に上の軌道から電子が落ちて来るときにX線が放
出される
» 内部転換によるもの» 原子核のエネルギーが直接電子の軌道に与えられることがあり、主にK殻の電子が放
出され、L殻等の電子がK殻に落ちて来るときにX線が放出される
– X線が出る代わりに別の電子が放出されることもある:オージェ電子
51
線/X線
• 飛距離 (Range)– 長く透過力が強い
• 電離作用は強くない
• 防御物 (Shield)– 密度の高い物質を用いる
– 鉛、鉄、コンクリートなど
• 生物学的危害 (Biological hazard)– 体外被曝
• 透過力が高いことから体全体が被曝する
– 体内被曝
• 放射性物質の近くだけではなく体の広い範囲で被曝する
52注:このページでは定性的なことしか述べていません。どのくらい危険かは、きちんとした測定値をもって判断する必要があります。
中性子
• 物理的性質– 不安定原子核から放出
– 中性子は電荷を持たない
– 質量は陽子とほぼ同じ
• mn = 939.6 (mp = 938.3) [MeV/c2]– 電子とは相互作用しない
– 中性子と反応した原子核から放出される
放射線により、間接的に電離が行われる
53
核子を原子核からはじき飛ばす
中性子が吸収され線が原子核から放出される
中性子と原子核の反応
kg単位で書くと、陽子の質量=1.67210-27 [kg]中性子の質量= 1.67010-27 [kg]
中性子
• 飛距離 (Range)– 他の放射線に比べて比較的遠くまで届く
• 遮蔽 (Shield)– 水、ポリエチレン、コンクリート
• 同程度の質量の陽子との衝突では、陽子に運動量の殆どを渡して中性子は静止する。
– ボールの集めたなかに、ボール一つを投げてるとすぐ静止する
– 質量数の大きな物質とでは、壁にボールをぶつけるようなもの
• 生物学的危害 (Biological hazard)– 体全体で被曝する
– 強い透過力を持つ
54注:このページでは定性的なことしか述べていません。どのくらい危険かは、きちんとした測定値をもって判断する必要があります。
40Kの崩壊図
55
1460.8 keV のγ線が出る(もとの40Kに対して10.66%)
崩壊図の出典: http://www.nndc.bnl.gov
40K が電子捕獲によって40Arになったあとの状態
40K の89.14%はβ崩壊によって40Caになる
40Caの安定状態に壊変するので、γ線はださない
誤差平均値の最後の桁にあわせた数字この場合、89.14±0.13 を意味する
平均値
40Kの出すγ線を数えて個数/秒が分かったとする、実際に崩壊している40Kはγ線の個数の約10倍存在している。たとえば、γ線が100 [個/秒] 出ているとすると、 40Kは 938 [Bq]あることを意味する。
134Csの崩壊図
56
0.00
16 %
15.3
73 %
原子核のエネルギーレベル[keV]
原子核がとれるエネルギー状態は飛び飛び
高いエネルギー状態から低い方に変わっていく
この時、二つの状態のエネルギー差がγ線として放出される
とれる状態が複数あると経路も増える→ 複数個のγ線を出す
1個の134Csがβ崩壊→ 約2.2個のγ線がでる。
図中の%の値は元の134Csに対する割合
この状態の半減期ps = ピコ秒
8.68
8 %
3.01
7 %
0.02
7 %
0.99
%
1.47
7 %
5x10
-4%
85.4
6 %
8.38
8 %
1.79
0 %
97.6
2 %
γ線の出る確率が高い順
1番目 604.7 keV (97.62 %)2番目 795.9 keV (85.46 %)3番目 569.3 keV (15.373 %)4番目 802 keV (8.688 %)5番目 563.2 keV (8.338 %)
134Csがβ崩壊した後に出来る134Baの状態
崩壊図の出典: http://www.nndc.bnl.gov
137Csの崩壊図
57
原子核のエネルギーレベル[keV]
原子核がとれるエネルギー状態は飛び飛び
高いエネルギー状態から低い方に変わっていく
この時、二つの状態のエネルギー差がγ線として放出される
とれる状態が複数あると経路も増える→ 複数個のγ線を出す
137Cs の場合、一個の原子核がβ崩壊すると、661.7 keV のγ線が0.947個でると考えて差し支えない
図中の%の値は元の137Csに対する割合
この状態の半減期
M = 分
γ線の出る確率が高い順
1番目 661.7 keV (94.7 %)2番目 283.5 keV (0.00058 %)
137Csがβ崩壊した後に出来る137Baの状態
崩壊図の出典: http://www.nndc.bnl.gov
131Iの崩壊図
58
γ線の出る確率が高い順
1番目 364.5 keV (81.5 %)2番目 637 keV (7.16 %)
崩壊図の出典: http://www.nndc.bnl.gov
131I がβ崩壊した後に出来る131Xeの状態
I(%) の数値が表示されているところにしかいかない
降雨と放射線量率の関係
59出典: http://www.jcac.or.jp/lib/senryo_lib/nodo.pdf 4ページ
縦軸は対数表示 雨が降ると大気中に浮かんでいる天然放射性物質
Bi-214 (半減期20分)が落ちてきて線量率が上がる
38Cl誤検出にまつわる話
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2011年4月1日【April Foolにしても,ありえない!】ガンマ線による東電の核種の同定に,明らかな間違いあり.プロなら全員同意するはず.もとのガンマ線スペクトル,一度見せてください→ @OfficialTEPCOhttp://plixi.com/p/88437524
https://twitter.com/#!/hayano/status/53594238520270848
http://lockerz.com/s/91019372(pilixi.com は、現在lockerz.com に変わっている)
早野龍五(@hayano)氏のツイートより
2011年4月10日(ちょっとテクニカルだけど,質問が多かったので)Cl-38検出
のみに基づいて再臨界を論じてはいけないわけ(及び,塩素38m検出誤りについて再掲 http://bit.ly/h5xRwZ ).http://plixi.com/p/91019372
http://lockerz.com/s/88437524
38Cl誤検出にまつわる話(続き)
61
2011年4月20日東京電力が同じデータを再解析した結果についての発表Cl-38は検出限界以下http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110420j.pdf1ページ目
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110420006/20110420006-7.pdf6ページ目
生データを見ることなしに、機械(解析プログラム)の表示することを鵜呑みにすると間違っていても気がつかない!
注: Cl-37(n,γ)Cl-38 反応というのは、中性子がCl-37にあたり、Cl-38とγ線 が出るという反応です。Cl-38が出来るのは、海水中に含まれる塩化ナトリウム(NaCl)が中性子と反応したということを意味します。中性子があるということは、原子炉内で再臨界が起こって核分裂反応が起きているの証拠だと騒がれたのですが、データを見なかったこととデータを総合的に判断しなかった(Na-24が検出されていないことを無視していた)ことが間違いの原因です。