誤嚥性肺炎について - 日本赤十字社 松山赤十字病院 ÀRespiration Á: SpO 2 90%...

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2013/12/05 第26回 モーニングレクチャー 教育研修推進室

誤嚥性肺炎について

松山赤十字病院 呼吸器内科

診療部長 兼松貴則

嚥下性肺疾患:Aspiration Pulmonary Disease

嚥下機能障害で発症した肺疾患で以下の4型に分類されます

嚥下性肺炎 (通常型)

メンデルソン 症候群

胃切除後 嚥下性肺炎

びまん性嚥下性 細気管支炎

食事摂取に関連した症状はあるが胸部X線で明らかな肺炎像を欠く

肺炎像有

微量の誤嚥 大量の嘔吐 引き続く

急激な発症

胃切除後 頻回の

胃食道逆流

誤嚥のリスク有

肺炎入院患者の年齢分布

肺炎で入院する患者さんの大部分はお年寄り、といえます

肺炎入院患者さんのうち

嚥下性肺炎患者さんの割合を年齢別に示すと…

嚥下性肺炎≒高齢者肺炎とも考えられそうですね

高齢者における抗菌薬投与は、腎機能を判定して用量調節を行うことが必要である。

腎機能の判定にはeGFR等のGFR推算式を使用する(エビデンスレベルⅣb)。

高齢者の肺炎では水分管理を十分に行う(Minds推奨グレードB)。

低栄養状態は高齢者の肺炎のリスクであり、適切な栄養管理を検討する(エビデンスレベルⅠ)。

高齢者肺炎では、患者の全身状態や社会的背景も考慮してマネージメントを行う必要がある。

高齢者肺炎の患者さんが入院してきたら

医療・介護関連肺炎診療ガイドラインより

医療者の側にも

「治らない病態」に対し、

どう向き合うか、

という態度が問われはじめています

誤嚥をきたしやすい病態

1) 神経疾患 4) 胃食道疾患

脳血管性障害(急性期、慢性期) 食道憩室

中枢性変性疾患 食道運動異常(アカラシア、強皮症)

パーキンソン病 悪性腫瘍

認知症(脳血管性、アルツハイマー型) 胃-食道逆流(食道裂孔ヘルニアを含む)

2) 寝たきり状態(原因疾患を問わず) 胃切除(全摘、亜全摘)

3) 口腔の異常 5) 医原性

歯の噛み合わせ障害(義歯不適合を含む) 鎮静薬、睡眠薬

口内乾燥 抗コリン薬など口内乾燥をきたす薬剤

口腔内悪性腫瘍 経管栄養

嚥下性肺炎の患者さんが入院してきたら

1. 肺炎を治療しないと・・・

2. 嚥下機能を評価して

食事の形態を

見直さないと…

4. リハビリは必要?

5.患者さんの生活背景は

どうなっているのか?

3.歯はきれいかしら?

6.おなかはちゃんと 動いているのかしら? 下痢していないかしら?

多数の診療科が診察し、多職種が診療に携わる必要があります。

1) 抗菌薬治療 (口腔内常在菌、嫌気性菌に有効な薬剤を優先する)

2) PPV (Pneumococcal Polysaccharide Vaccine) 接種は可能であれば実施

(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)

3) 口腔ケアを行う

4) 摂食・嚥下リハビリテーションを行う

5) 嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮 (ACE阻害剤、シロスタゾ-ル(抗血

小板薬)、など)

6) 意識レベルを高める努力 (鎮静剤、睡眠剤の減量、中止、など)

7) 嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止

8) 栄養状態の改善を図る (ただし、PEG自体に肺炎予防のエビデンスはない)

9) 就寝時の体位は頭位 (上半身)の軽度挙上が望ましい

誤嚥性肺炎の包括的治療方針

症例 82歳 男性

【主 訴】 発熱

【既往歴】 25年前脳挫傷、てんかん

【現病歴】 3年前から肺炎・尿路感染で入退院を繰り返していた。

14日嘔吐あり、以後発熱が続いた。近医外来で

CTRXを点滴されたが解熱せず、22日救急外来

より当科に紹介された。

【現 症】 意識は清明、意思疎通困難

血圧151/79、脈拍93/分、体温37.3℃、SpO2 100%

呼吸音:湿性ラ音を肺野全体で聴取

この時のA-DROPは何点でしょうか?

A-DROPと肺炎の重症度

その他I-ROAD分類等があるが、NHCAPガイドラインでは

基礎疾患・合併症・ADL・社会条件を勘案し治療区分を決定する、とあります

使用する指標

A (Age): 男性70歳以上、女性75歳以上

D (Dehydration): BUN 21 mg/dL以上、または脱水あり

R (Respiration): SpO2 90% (≒PaO2 60 Torr) 以下

O (Orientation): 意識障害あり

P (Pressure): 血圧 (収縮期) 90 mmHg以下

重症度分類と治療場所の関係

軽症: 上記5つの項目のいずれも満足しないもの → 外来治療

中等症: 上記項目の1つまたは2つを有するもの → 外来または入院治療

重症: 上記項目の3つを有するもの → 入院治療

超重症:

上記項目の4つまたは5つを有するもの → ICU入院 ただし、ショックがあれば1項目のみでも超重症とする

血液・生化学検査所見

尿: 濁度 1+ ブドウ糖 (-) ビリルビン (-) ケトン体 (-) 比重 1.014 蛋白 1+ ウロビリ 0.1 亜硝酸塩 + 潜血 2+ 白血球 2+ 細菌 2+

血算: 白血球 72.3 赤血球 304 Hb 10.2 Ht 28.8 血小板 14.8

生化学: 総蛋白 6.4 CRP 3.40 アルブミン 3.1 BNP 74.4 総ビリルビン 0.7 AST 12 培養検査 ALT 14 吸引喀痰 LDH 143 P. Aeruginosa 1+ ALP 541 S. Epidermidis 1+ γGTP 429 Corynebacterium 1+ BUN 2.7 尿 CRNN 0.41 Enterococcus faecalis 1+ 尿酸 3.3 S Epidermidis 1+ Na 135 K 3.8 尿中肺炎球菌抗原(-) Cl 97 総Cho 130

たばこ呑みの人か… インフルエンザ 桿菌かな?

虫歯が多いな・・・ 嫌気性菌かな?

鳥を飼ってるのか… クラミジアかな?

クリプトコッカスかな?

施設に入所中ですか… MRSAや緑膿菌が ついてるかも

温泉ですか! レジオネラ?

ダメな人ですね クレブシエラかも…

一般に、肺炎の患者さんを見ると、まず 患者さんの生活背景で起炎菌を予想しますよね

肺炎クラミジア 3.4% レジオネラ属

起炎菌不明 45.6%

肺炎球菌 23.8%

マイコプラズマ 11.2%

インフルエンザ菌 6.0%

倉敷中央病院が2004年にまとめた

成人市中肺炎の起炎菌

誤嚥性肺炎の推定起炎菌について

MRSA 18.4%

MSSA 1.8%

表皮ブドウ球菌 1.8%

肺炎桿菌 12.3%

緑膿菌 6.1%

大腸菌 1.8% インフルエンザ菌 1.8%

プロテウス属 0.9%

マルトフィリア 0.9%

エンテロバクター属 0.9%

アシネトバクター属 0.9%

小野 博美他:日本化学療法学会雑誌53(12):741-747,2005より改変

原因菌不明 52.6%

対象:ケアミックス型病院に 入院した高齢者誤嚥性肺炎

114例

嫌気培養未実施

抗菌薬の選択について

JAID/JSC感染症治療ガイド2011 Empirical Therapy: 耐性菌リスク- ⇒ ①SBT/ABPC ②CLDM 耐性菌リスク+ または重症⇒ ①TAZ/PIPC またはカルバペネム ②広域セフェムまたはニューキノロン +嫌気性菌カバー Definitive Therapy: 菌種により推奨薬剤を選択

サンフォード感染症治療ガイド2012 ①SBT/ABPC または CLDM ②CTRX+メトロニダゾール また耐性菌との混合感染に対し TAZ/PIPCまたはMFLX

抗菌薬の選択について (嚥下性肺疾患ガイドライン)

軽症: ①アジスロマイシン

②SBT/ABPC 6g

中等症: ①SBT/ABPC 9g

重症: ①SBT/ABPC 12g

②SBT/ABPC+アジスロマイシン

③メロペネム

画像所見

明らかな浸潤影は見えませんが・・・

喀痰が見えますか?

気管支壁肥厚 淡い濃度上昇

両側下肺野背側に少量胸水

入院後の経過(その1)

X/22 SBT/ABPC 6g/日 開始

X/25 経鼻胃管から白湯を注入すると発熱悪化

X/26 CVカテ挿入、TAZ/PIPC 13.5g/日に変更し解熱

X/27 歯科受診、安静保持できず診察・ケアが困難

X/28 泥状便~下痢が出現、CDチェック

入院時のIC: 誤嚥による肺炎であろう、これまでの経緯から急変時はDNRで

XI/1カンファレンス:熱が落ち着けばCVを抜去し、経鼻胃管から栄養を考慮

XI/4 CD抗原陽性、CDトキシン陽性 大量水様便ありフラジール開始

入院後の経過(その2)

XI/8 水様便持続、GFO中止

XI/10 胃腸科にGIF、CFを依頼、偽膜性腸炎の診断

パントールや大建中湯内服を指示された

XI/16 2度目のGFO、38度を超える発熱が再度出現

XI/17カンファレンス:偽膜性腸炎治療中、CVポート留置を検討

XI/24 CVポート穿刺困難

XII/8 家人と相談

XII/15 CVを留置のまま退院、近医で看取りを含め経過を

診ていただくことに…

症例 88歳 男性

【主 訴】 発熱

【既往歴】 前立腺がん骨転移、認知症(施設入所中)

【現病歴】 X/6より発熱、咳嗽ありX/11近医を受診

SpO2 75%を指摘され救急外来に搬送

【現 症】 意識は清明、意思疎通困難

血圧118/68、脈拍73/分、体温38.3℃

SpO2 95%(nasal4L/M)

呼吸音:発語で聴取できない

嚥下障害とNHCAPリスク

血液・生化学検査所見

尿: 濁度 - ブドウ糖 (-) ビリルビン (-) ケトン体 (-) 比重 1.024 蛋白 1+ ウロビリ 0.1 亜硝酸塩 - 潜血 + 白血球 + 細菌 -

血算: 白血球 191.5 赤血球 322 Hb 10.1 Ht 28.9 血小板 31.7

生化学: 吸引喀痰 総蛋白 5.7 αStreptococcus アルブミン 1.6 Micrococcus 総ビリルビン 0.2 Corynebacterium AST 11 ALT 8 LDH 199 ALP 487 γGTP 16 BUN 29.0 CRNN 1.39 尿酸 6.0 Na 143 K 3.1 Cl 104 総Cho 86 CRP 23.13

画像所見

左下葉はAir–Bronchogramを伴う Consolidation

右下肺野も浸潤影、胸水貯留

入院後の経過

X/11 吸引痰・血液培養を提出

SBT/ABPC 6g 開始

X/15 リハビリテーション科に紹介

X/21 CRP低下、酸素化改善

SBT/ABPC終了

X/28カンファレンス: STさんの評価では経口摂取可能 Nsの評価では食後の吸引で喀痰が多量に引け、 2時間毎の吸引が必要 ⇒元いた施設では吸痰はしないので、そこに戻るのは困難

現在転院調整中 意外にあっさりと…

誤嚥性肺炎のリスクを高める3つの因子

口腔ケア

齲歯には便と同等量の嫌気性菌が繁殖します

専門スタッフの介入で誤嚥性肺炎発生率が 有意に減少すると報告されています

嚥下評価・嚥下リハビリ

リハビリテーション科に

身体のリハビリと同時に

嚥下の評価・リハビリを申し込みます

予防接種

入院患者さんにはルーチンで勧めたい 施設長が入所者に勧めるよう啓発が必要

まとめ

・誤嚥性肺炎は肺の病気であり、頭の病気であり、腸の病気である

・高齢者に多く、病気と同時に社会的背景をみる必要がある

・最初から多職種(言語聴覚士さん、理学療法士さん、栄養士さん、歯科衛生士さん、

ソーシャルワーカーさん、ケアマネージャーさん、支援ナースさんなどなど)

でかかわった方がうまくいきそう

・予防接種はおすすめである クリニカルパスで

入院時にまとめてオーダー &

多職種連携できれば 便利かも…