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【目的】 不活動または過活動は疼痛のリスクを増悪させると言われており、疼痛を管理するには身体活動量の適正化を図る必要がある。しかし、身体活動量の適正化には生活習慣を見直す必要があり、理学療法士からの指導だけでは困難な場合も少なくない。そこで近年、対象者の活動状況を可視化できるツールとして活動量計が利用されており、測定結果を共有しながらの面談が推奨されている。また、この面談の際に行動変容モデルを併用することで、有用な行動計画が設定できるとされている。今回、退院直後に過活動な生活を送っていたことにより、右膝関節の疼痛増悪が生じた症例を訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)にて経験した。本症例に対し、活動量計と行動変容モデルの組み合わせによる身体活動量の調整が、疼痛の軽減に有効であったため報告する。

【症例紹介】 本症例は、退院直後に週2回の訪問リハを利用された、Hoehn & Yahr 重症度分類 stageⅢのパーキンソン病を呈した70歳代の女性である。立位や歩行時に体幹が右側屈位、右股関節と膝関節が屈曲位となるため重心が右側に偏位し、右膝関節に著明な炎症所見を認めた。自宅内移動はon-off 現象を認めるが、伝い歩きと車椅子を上手く併用し自立されていた。日常生活活動レベルは、off 時に時間を要するが、概ね見守りから修正自立であった。また、入退院を繰り返している夫と2人暮らしのため買い物以外の家事を実施されていたが、特に調理など立位作業を要する家事は右膝関節の疼痛増悪が生じ、負担に感じておられた。訪問リハ開始時の面談にて、右膝関節の疼痛を軽減できるような生活に変えたいと希望された。

【説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき個人情報の保護、評価や介入内容の説明、同意の撤回について十分に説明し、本人と家族から同意を得た。

【経過】 活動状況を確認するために活動量計(OMRON 製)を起床から就寝まで腰に1週間装着してもらった。開始時の身体活動量は、座位行動が25.8分 / 時間、軽強度活動が34.1分 / 時間であった。連続した活動を示す Bout では、10分未満の Bout 回数は29.0回 / 日、10分以上の Bout 回数は15.7回 / 日であった。また、8時から13時頃までは殆ど休憩を取らずに調理や洗濯などの家事を集中的に行っており、各家事の実施時間は1時間以上を要していた。生活状況の聴取と活動量計の結果より、本症例にとって開始時の生活習慣は

過活動であり、疼痛増悪の要因になっていると考えた。そこで、行動変容モデルである Health Action Process Approach(以下、HAPA)を用い、身体活動量を適正化する行動計画と対処計画について本人や家族と面談を行った。行動計画では、家事の実施内容や方法を変更し、午前の身体活動量の分散と連続立位作業時間の短縮を図った。対処計画では、疼痛増悪時は休憩時間の延長や家事実施量の減少、家族に協力依頼をするようにした。面談直後1週間の測定では、座位行動が28.0分 / 時間、軽強度活動が31.9分 / 時間、Bout 回数は10分未満が31.3回 / 日、10分以上が13.8回 / 日であり、軽強度活動と10分以上の Bout 回数の減少を認めた。面談1ヶ月後の測定では、座位行動が31.0分 / 時間、軽強度活動が28.9分 / 時間、Bout 回数は10分未満が36.2回 / 日、10分以上が11.6回 / 日と更に減少し、身体活動量を調整することができた。炎症所見の評価として、1週間の右膝関節の疼痛評価(Numerical Rating Scale)の平均値と右大腿周径を用いた。開始時は8.2点と35.0 ㎝、面談1週後は8.1点と34.0 ㎝、面談1ヶ月後は6.8点と34.0 ㎝となり、面談1週後に腫脹の軽減、面談1ヶ月後にて疼痛の軽減も認めた。介入期間中、生活習慣を変えることに対する負担の確認を適宜行ったが、最後まで負担を感じる事なく計画を遂行されていた。

【考察】 本症例では、活動量計の結果と行動変容モデルを取り入れた面談を行うことで身体活動量の適正化が行え、炎症所見の軽減に有効であった。今回、活動量計を用いたことで活動状況を正確に把握することができ、10分以上の Bout 回数や軽強度活動時間の結果により、立位作業を要する家事の集中的な実施が問題点として明確化された。また、活動量計の結果と HAPA を組み合わせた面談によって、本症例の生活を尊重しつつ具体的かつ現実的な計画の設定を可能とした。更に、日常生活への支障や精神的な負担なく生活習慣の見直しが行えたことにより、適切な身体活動量を面談1ヶ月後においても維持することができ、疼痛の軽減に繋がったと考えられる。

【理学療法研究としての意義】 生活習慣から生じる疼痛を管理するために、理学療法士は利用者の活動状況を客観的に捉え、適切に指導していく必要があり、活動量計による身体活動量の測定は訪問リハにおける新たな評価ツールとして有用となり得る。

活動量計と行動変容モデルの組み合わせによる 身体活動量の適正化が疼痛管理に有効であった症例

○中原 彩希(なかはら さき),尾川 達也,喜多 頼広,徳久 謙太郎医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部

Key word:疼痛管理,身体活動量,行動変容モデル

ポスター 第8セッション [ 生活環境支援 ]

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