超音波ガイド下
末梢神経ブロック
はじめに
• このマニュアルは教科書に代わるものではありません
• 解剖の勉強は大切です
• 共通の合併症 ・血管内注入・神経損傷・感染・血種
超音波ガイドの基本
• 目標物がプローブに近いと見やすい
押し当てると近づく、角度が浅いと近づく
• 画面の端に神経を描出する
角度が浅いから針が描出しやすい
進路が長く見られる
針の描出
• 平行法でうまく針が描出できていない理由
①平行だけどプローブからずれている
②角度がついて徐々にはずれていった
• エコービームの面を強く意識する
• まずは手元に集中(画面のことは忘れる)
• 慣れるまでは自分のヘソから刺す
動かして動かして神経を描出
• 実は細かい作業をしている
• Slide
• Tilt(傾ける) ←重要
• 神経を垂直に切ってキラキラさせる
描出された神経
• 神経線維そのものは低エコー性だが、見え方は部位によっていろいろと変わる
• あるときは白く、あるときは黒く
• これは、神経束の細さや神経周膜の薄さによる見え方の変化
引用) 図説 超音波ガイド下神経ブロック
左手の固定
• 左手(利き手と逆)でスキャンするくせ
• 得られた最高の画像でブロックを実施する
• そのためにはプローブの固定がキモ
• 親指、人差し指、中指でプローブを保持
• 左手は微動だにさせない
手順①
• プレスキャンの前にブロックタイムアウト
左右を間違えたら悲惨
• マシンセットアップとプレスキャンで条件を整える
①Probe②depth③frequency④focus⑤gain
iScanでTGC、受信Gain、DRが自動調節される
• カラーは毎回かける• 針の進路に血管がないことを確認する• あったなら進路をずらすかプローブをずらす
• 空気は超音波の大敵(ゼリー、カバー、薬液)
鎮静
• 合併症の回避を考えれば鎮静は不利
• 皮膚への局所麻酔はたっぷりと
• 必要に応じ鎮静や鎮痛を行う(例:酸素投与下でフェンタニル投与)
• 言動に注意する
手順②
助手は大切
• 吸引で血液の逆流がないこと
(血管内注入の除外)
• 注入時の抵抗が強すぎないこと
(神経内注入の除外)
• 助手をしながら数多く見ること(パターン認識)
• Blue Phantomで針を描出する練習をすること
• そうして自分が術者の番に臨む
神経刺激装置 StimuplexTM(B/BRAUN)
使用方法
①電源ON
②出力を1.00mAにあげる
(体表刺激ではそれ以上)
③SENSeモードにする
④ブロック
⑤電源OFF(長押し)
② ③
①
引用) B. Braun社 スティムプレックス HNS12 カタログ
SENSeモード
Sequential
Electrical
Nerve
Stimulation
e
1.3Hzだが、三発目だけ刺激時間が長い
2.神経から少し遠くても最後の収縮がわかる
3. 三発目だけで収縮→まだ遠い
三発とも収縮→近い
神経刺激の基本
• 1.00mAの神経刺激をしながら開始する。
• 運動が0.50mAでも認められるところで薬液を注入する。
• 0.20mAでも動く、あるいは注入時抵抗があれ
ば、神経を刺している可能性があり、位置の調節(少し引く)が必要。
手術時に施行する主な末梢神経ブロック
坐骨神経ブロック SNB
大腿神経ブロック FNB
腕神経叢ブロック BPB
腹横筋膜面ブロック TAPB
閉鎖神経ブロック ONB
(腸骨筋膜下ブロック FICB)
TKAオペ時の手順
・効果発現まで20~30分ほど要するので、
まず坐骨神経ブロックを行う。
・その後、大腿神経ブロック+カテーテル留置。
S
F
下肢PNBの準備・患者入室前までに患肢の反対側にてエコー電源ON
・準備するもの(末梢神経ブロックカート)
0.25%アナペイン 20ml(SNB用)※
0.3%アナペイン 20ml(FNB用)※
局麻用1%リドカインブロック針(SNB用+ FNB用)カテーテル(FNB用)
末梢神経ブロックキット(中にシリンジなどすべて入ってます)神経刺激装置エコ-プローベカバー×1
※0.3%アナペイン 20ml= 0.75%アナペイン 8ml+生食 12ml0.25%アナペイン 20ml=0.75%アナペイン 7ml+生食14mlから1ml捨てる
S
F
解剖
S
(右大腿骨遠位断面)
引用) 図説 超音波ガイド下神経ブロック
坐骨神経ブロック・膝窩部アプローチ
支配領域
S
引用) Netter 解剖学アトラス
坐骨神経ブロック (L4~S3)
膝窩部アプローチ仰臥位法で行う
S
坐骨神経ブロックの準備
・ブロック肢を台に載せてもちあげる
・神経刺激装置の電極をブロック側の足につける
・患者に、神経刺激装置使用のため、ブロック側の足が勝手に動くことを説明しておく
・タイムアウトをおこない左右を確認する
S
坐骨神経の同定
・膝窩動静脈を同定し(黒くぬけている)、
その背側かつ外側に白い神経の束をふたつ確認する
・ふたつの神経は頭側にいくと近づいて深くなる
・プローベを頭側へスライドさせると、その二つの神経(総
腓骨神経と脛骨神経)が合わさる=坐骨神経
・合わさった高さより約1cm頭側を刺入点とし、マーキング
S
膝窩からあてたエコー図(頭側へスライド)画面の上下と天井地面は逆になる(神経は動静脈より皮膚側)
PA:膝窩動脈、PV:膝窩静脈、CPN:総腓骨神経
TN:脛骨神経、SN:坐骨神経
SN
TN
TN
CPN
CPNPV
PA
PAPV
外側内側
膝窩側
膝蓋骨側
S
坐骨神経ブロック手順
・清潔手袋をして局所麻酔
その後左手はエコープローベを持つため不潔になる
・ブロック針でエコーガイド下で刺入(平行法)
神経刺激併用で足関節の運動を確認する
・薬液は、坐骨神経のまわりにドーナツ
サインができるように、数mlずつ、
0.25%アナペイン 20mlを注入する
S
コツ
・エコーを膝向きにTiltさせて神経を垂直に切る
・エコーでは良い位置にあるが神経刺激でも足関節が動かないとき
S
①運動神経が神経束の外側にない※投与する
②糖尿病などの神経障害があるかも※神経障害があるとわかっている場合は薬液を調整する
皮膚に垂直ではない神経に垂直下腿
大腿
大腿神経ブロック (L2~L4)腸骨筋膜下ブロック
F
引用) 左:Netter 解剖学アトラス、右:臨床のための解剖学
大腿神経ブロック
支配領域
F
引用) Netter 解剖学アトラス
解剖(右鼡径部)
筋膜を2回貫きます
超音波を当てて見つけるべきは大腿神経でなく腸骨筋膜です。腸腰筋の上にへばりついている大腿神経が、薬液注入したことで周囲組織から液性剥離されていくのがこのブロックのイメージ。
F
※間違った図が載っている教科書多々あり…
引用) 左:メイヨー・クリニック超音波ガイド下神経ブロックの手引
大腿神経ブロック手順・タイムアウト・ブロック肢の鼡径溝にプローベを置いてマーキング
・清潔手袋をして透明ドレープをかけエコーカバーを装着、局所麻酔介助者も清潔手袋を装着
・トゥーイ針(コンティプレックス)or外筒付き針(コンティプレックスC)エコーガイド下で刺入外側から平行法で
神経刺激併用でpatella dancingを確認する※
・0.3%アナペインを数ml残して注入し、液性剥離されたスペースにカテーテルを進め皮下10-12cm程度で固定する残りの数mlをカテーテルから注入する
F
※ いわゆる大腿神経ブロックを行った場合は膝蓋骨に刺激が来ないとブロックは効かないが、大腿神経から距離をとって腸骨筋膜下ブロックを行った場合は必ずしも刺激は来ない
コツ
・大腿動脈が分岐するより頭側の高さで探す
・鼠径溝であり鼠径靭帯ではない
・プローベをTiltして腸骨筋膜を描出する
大腿筋膜と腸骨筋膜は同一断面でとらえられないことも多い
・浅い大腿神経前枝の刺激では、縫工筋の収縮のみでpatella dancingはない
・薬液が腸腰筋コンパートメント内に広がるのを確認する
腸骨筋膜を手前から押さえつけるだけでも刺激が伝わるので画像での確認は必要
術後の持続投与
トレフューザーで投与
0.2%アナペイン100ml(術中指示で)
アリクストラやリクシアナ等の抗凝固薬開始時刻の2時間前までにカテーテルを抜去してもらう
一般指示:
「右クリック」→「セット展開」→「麻酔科」→「PNB」→「術後一般指示(リクシアナ対応)」
F
腕神経叢の解剖
腕神経叢ブロック
合併症が重篤であり、上肢はアドバンスのブロックである
常に針の先端を描出し視認しながら行う
B
引用) Netter 解剖学アトラス
神経支配と麻酔域
斜角筋間アプローチでは・肋間上腕神経/内側上腕皮神経(・尺骨神経)
がブロックされない
鎖骨上アプローチでは・肋間上腕神経/内側上腕皮神経・肩甲上神経
がブロックされない
B
引用) Netter 解剖学アトラス
腕神経叢ブロック薬液
•0.5%ロピバカイン20ml
0.75%アナペイン14ml+生食7mlのうち20ml
発現15分、麻酔持続8時間、鎮痛持続12時間
または
•0.375%ロピバカイン20ml
0.75%アナペイン10ml+生食10ml
発現20分、麻酔持続6時間、鎮痛持続8時間
B
腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチ
Brachial Plexus Block Inter-Scalene Approach
神経根−神経幹のレベル
適応:肩、遠位鎖骨、上腕の手術
B
術者と超音波装置の位置
みぎ上肢ブロック ひだり上肢ブロック
患者体位仰臥位でブロック側に肩枕を入れる。顔を反対側に少し向ける。(かなり後外側からの穿刺になる、空間がうまく作れなければ側臥位で)
B
エコー画面はココへ「術者」「術野」「画面」が一直線に並ぶように
初心者は(この写真と違って)自分のヘソから刺すほうがエコーの面を認識しやすい
斜角筋間アプローチ• タイムアウト
• 輪状軟骨のレベルで頚部正中から外側に向かってスキャン
輪状軟骨のレベルがC6となることが多い
C6より頭側の横突起は前結節があるので蟹の爪のように見える
• 肩の手術ならC567と並んでいる辺りを狙う
• 気管→甲状腺→頚動脈→内頚静脈
→胸鎖乳突筋→前斜角筋/神経/中斜角筋
• 斜角筋間に神経が挟まれる画像は、結果的に正中から60度ふった辺り
• 神経は円形の低エコー性陰影であり、高エコー性陰影に囲まれている(みたらしだんご)
• 見つけにくければ鎖骨上アプローチの画像から神経を頭側に辿ってくる
B
みぎ上肢ブロック ひだり上肢ブロック
・平行法、外側アプローチ・薬液を斜角筋間に拡げる・表在性の神経叢で深く穿入することにはなり得ない・深く進めると合併症が怖い
(椎骨動脈,頚動脈,脊髄くも膜下腔)・針の先端が確認できないのに針を動かすのは非常に危険
B
神経 中斜角筋前斜角筋胸鎖乳突筋
B
斜角筋間アプローチ合併症B
・横隔神経麻痺は必発一側性の横隔膜麻痺(呼吸機能が30%↓)高齢者や低肺機能患者には施行しない両側には施行しない
・脊髄くも膜下ブロック、硬膜外ブロック
・血管内注入
・反回神経ブロックで嗄声
・頸部交感神経節ブロックによるHorner症候群
腕神経叢ブロック鎖骨上アプローチ
Brachial Plexus Block Supraclavicular Approach
神経幹−神経幹枝のレベル
適応:上腕、肘、前腕、手の手術
B
術者と超音波装置の位置(術者がみぎききの場合)
仰臥位で顔を反対側に少し向ける。腕を体にぴったりとつけてできるだけ肩を下げる。こうすることで腕神経叢が鎖骨上に位置するようになる。(半座位で行うと自然と上記体位となる)
B
患者体位
鎖骨上アプローチB
• タイムアウト
• プローブを鎖骨上窩で鎖骨と平行にあてる
• ビームを少し尾側に向けると神経が描出しやすいこともある
• 3要素は①肋骨②動脈③神経
• 肋骨も胸膜も高エコー性の輝線
肋骨の下はエコーが通らず黒くなる
• 神経は円形の低エコー性陰影が3-8個集まっており高エコー性陰影に囲まれる(ぶどうの房)
• この画像に入り込んでくることの多い2本の動脈に注意する
肩甲上動脈と頚横動脈
第1肋骨胸膜
拍動する鎖骨下動脈
神経
中斜角筋
前斜角筋
B
針穿入法
• 平行法、外側アプローチ
• “最初に”第一肋骨と鎖骨下動脈からなる角に薬液を注入して腕神経叢全体を表面に押し上げる
• 不充分であれば表層の神経周囲にも薬液を注入する
B
鎖骨上アプローチ合併症B
・とにかく気胸つねに白線の内側で!
・横隔膜神経麻痺はこのアプローチでも充分起こり得る
・頸部交感神経節ブロックによるHorner症候群(同側の眼瞼下垂、縮瞳、発汗低下)
腹横筋膜面ブロック・後方TAPブロック:Th10~L1の脊髄神経前枝をブロック・肋骨弓下TAPブロック:Th7~11※体性痛に効果あり。内臓痛は抑制できない
適応:下腹部開腹術、婦人科腹腔鏡手術、鼠径部の手術(鼠径ヘルニア、停留睾丸)など
発現:20~30分効果持続:数時間
薬剤:0.25%アナペイン 片側30mlずつ(0.75%アナペイン10ml+生食20ml)体格による
合併症:腹腔内穿刺、血管内注入、局麻中毒など
T
引用) Netter 解剖学アトラス
ブロックの実際
①中腋窩線上で臍と肋骨弓下最下点の中間レベルにプローブを置き、まずはプレスキャンを行う。スキャンは腹直筋から始めると三層構造が理解しやすい。外腹斜筋
内腹斜筋
腹横筋ココに薬液注入
②三層構造を確認後、消毒する。
③トゥーイ針を平行法で内側から外側へと刺入する。外腹斜筋と内腹斜筋の間の筋膜、内腹斜筋と腹横筋の間の筋膜を貫く際の2回のポップ感を得る。
④針先を矢印の位置まで進める。逆血がないことを確認する。薬液を2ml程度注入すると、レンズ状に筋膜が剥離される。残りの薬液を針先の位置を調整しながらゆっくり注入する。
T
閉鎖神経ブロック
閉鎖神経はL2-4から起こり閉鎖管内で前枝・後枝に分かれ前枝は外閉鎖筋、長内転筋、薄筋に、後枝は短内転筋、大内転筋などに分布する。
適応:脊椎麻酔下の経尿道的膀胱切除術(TUR-Bt)時の内転筋収縮の防止
(全身麻酔では筋弛緩薬を使用するので必要ない)
薬剤:1%リドカイン 10~15ml
合併症:血腫、血管内注入、腹腔内穿刺など
O
引用) Netter 解剖学アトラス
O
長野短期大学(恥ずかしい)
閉鎖神経の同定Tiltすると前枝と後枝の走行がイメージできる後枝はそこそこ深い
大内転筋 大内転筋
ブロックの実際⓪脊髄くも膜下麻酔を施行後、主治医も交えてタイムアウトを行う。
①仰臥位でブロック肢をやや外転させる。
②鼠径部にプローベを置き、大腿動静脈の内側でベンツマークを探す。
③後枝→前枝の順で行う。先に前枝ブロックを行うと、投与した薬液のせいで、後枝がプローベから遠くなるため。
③平行法(外側or内側)、神経刺激で内転筋群の攣縮を確認する。
④逆血のないことを確認して薬液を注入する。
O
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