ル
ネ
サン
ス
の
影
-マ
ニ
エ
リ
ス
ム
‖
バ
ロ
ッ
ク
考
-
( 8 1 ) ル ネ サ ン ス の 影
一
五
三
五
年九
月二
十三
日、
、
、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ュ
ロ
は
フ
ィ
レ
ン
ツェ
を
去っ
た。
こ
れ
は、
メ
ディ
チ
家の
専制君
主ア
レ
ッ
サ
ン
ド
ロ
の
た
め
に、
自由都市の
名を
失っ
た
故郷フ
ィ
レ
ン
ツ
ェ
へ
の、
彼の
永別
と
なっ
た。
そ
の
彼を
、
い
わ
ば
待ちか
ま
えて
い
た
の
が、
シ
ス
テ
イ
ー
ナ
礼拝堂
聖壇正
面の
大壁
画の
仕事で
あ
る。
ミ
ケ
ラ
ン
ジ
ェ
ロ
は
自分を
画
家と
し
て
で
な
く
彫
刻家
と
考え
て
い
た。
更に
彼は
、
権力
者を
、
カと
富の
横
暴を
憎ん
で
い
た。
幼い
時か
ら、
メ
デ
ィ
チ
家の
騎慢を
体験
し、
長じて
は
ロ
ー
マ
法王
庁の
腐敗堕
落を
見聞
して
い
た。
ダン
テ
の
地
獄
篇を
愛読し
て
い
た、
、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ュ
ロ
の
心
に
は、
河
村
錠
一
郎
こ
の
世の
終末を
予
言して
や
まない
鉄血の
僧サ
ブァ
ナロ
ー
ラ
の
火の
よ
うな
警鐘の
こ
と
ばが
、
焼きつ
い
て
離れ
な
かっ
た。
農民が
土地の
呪
縛か
ら
逃れ
、
通
貨と
商
品
の
威力
が
一
フ
ル
ジョ
ア
市
民に
富と
文
化の
蓄積を
可
能に
した
、
い
うなれ
ば、
商人
と
して
の
人
間の
出発に
よっ
て、
人
間の
人
間と
して
の
復権
が
可
能と
なっ
た
近
代の
夜明け
、
ル
ネ
サ
ン
ス
は、
輝か
しい
、
とい
うよ
りは
、
恐
ろ
しい
時代で
あっ
た。
富を
め
ぐ
り、
力
を
め
ぐ
り、
陰謀が
渦巻き
、
暗殺が
あ
た
か
も
日
常
茶飯の
あ
りさ
ま
で
あっ
た。
堰を
切っ
た
人
間の
カは
、
明
暗
両
方の
極
に
向っ
て
解き
放
た
れ
た
の
で
あ
る。
道
徳は
極度に
顧廃
し
た。
しか
し、
、、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ェ
ロ
は
仕事を
し
な
けれ
ば
な
ら
ない
。
ウJ
私
欲と
悪、
矛盾と
不
合理に
あ
け
くれ
る、
精神界の
、
そ
し
㍊
+
一 橋論叢 第六 十 一 巻 第 二 号 ( 8 2 )
\′
′
て
物質界の
貴族社
会の
只
中で
、
貧窮の
父を
抱え
、
金
を
せ
び
る
兄
弟に
か
こ
ま
れ
て、
自分の
領域で
は
ない
と
信ずる
絵
筆を
もっ
て、
法皇パ
ウ
ロ
三
世と
の
契約を
果さ
な
け
れ
ば
な
ら
ない
。
「
私は
こ
れ
ま
で
三
人の
法王
に
仕
え
ま
し
た、
しか
(
1)
し
そ
れ
は、
まっ
た
く
止
むを
待ずし
た
こ
と
なの
で
す。
+
自分
白身の
矛
盾、
時代の
、
歴史の
矛
盾、
こ
の
嵐を
胸の
ぅ
ちに
か
か
え
て、
シ
ス
テ
イ
ー
ナ
礼拝堂の
壁面に
立
ち
向
う
、
、
、
ケ
ラ
ン
ジェ
ロ
の
脳裡に
は、
どの
よ
う
な
ヴィ
ジ
ョ
ン
が
よ
ぎ
り、
ど
の
よ
うに
聖壇の
大
壁画
と
して
そ
の
像を
結ん
だ
か。
そ
れ
ほ、
「
怒れ
る
神+
と
して
の
キ
リ
ス
ト
で
あ
り、
「
ピ
エ
タ+
の
キ
リ
ス
ト、
「
復活+
の
キ
リ
ス
ト
で
は
な
く、
神の
怒
り
か
ら人
間を
救い
出して
く
れ
る
「
愛+
の、
「
救世+
の
キ
リ
ス
ト
で
は
な
く、
そ
の
太い
右
手を
頭上
に
ふ
り
あ
げ
る、
達
しい
「
怒れ
る
神+
と
して
の
キ
リ
ス
ト
と、
騎慢
・
寄
畜・
嫉
妬・
裏切
・
欲
望そ
の
他
あ
りと
あ
る
諸
悪の
具
現
者と
して
の、
神の
怒り
と
審判に
怖れ
を
なし
て
身を
よ
じ
り
身を
寄せ
あ
い、
地
獄に
落下
して
い
く
人
間の
群で
あっ
た。
こ
の
大
壁画
『
最
後の
審判』
は、
一
五
四一
年の
ク
リ
ス
マ
ス
に
除幕さ
れ
た。
世
人
を
驚愕さ
せ
た
と
伝え
ら
れ
る、
こ
の
「
怒れ
る
神+
と
し
て
の
キ
リ
ス
ト
の
優形と
人
間の
裸形の
渦は
、
美術史上
劃期
的な
創造で
あっ
た
とは
、
諸
家の
指摘す
る
とこ
ろ
で
あ
る。
朗りル
き
ま
h
ワ
さ
ら
に
注
目
すべ
きこ
と
は、
ル
ネ
サ
ン
ス
的「
美+
の
約束を
破る
ほ
ど
激しい
画
調で
ある
点で
グ
ロ
テ
ス
ク
とい
える
こ
の
壁
画を
更に
グ
ロ
テ
ス
ク
に
し
て
い
る
次
の
事
実
で
あ
る
-
「
主の
直下に
漂う
雲に
使徒バ
ル
ト
ロ
メ
オ
が
坐
し、
自ら
の
殉教を
示
して
一
枚の
人
間の
皮を
手
に
ぶ
ら
さ
げ
て
い
る
(
こ
の
使徒は
迫害さ
れ
た
と
き
皮を
剥が
れ
た
の
で
あ
る。
)
そ
の
人
間の
皮に
一
個の
顔が
描か
れ
て
い
る
が、
そ
れ
は
こ
の
聖人の
顔で
は
な
く、
、
、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ュ
ロ
自身の
顔で
あ
る。
こ
の
不
気味で
嘲弄的な
自画
像(
あ
ま
りに
も
目
立た
ぬ
よ
う描
きこ
ま
れ
た
為に
こ
の
こ
とが
発見さ
れ
た
の
は
近
代に
なっ
て
か
らの
こ
と
で
あ
る)
の
中に
、
こ
の
芸術家は
自ら
の
罪と
自
ら
の
存在が
恥ずべ
き
もの
で
あ
る
こ
と
の
告白を
し
る
し
た
の
(
2)
で
あ
る。
+
(
1)
一
五
四
八
年五
月二
日
付】
LO
日
寛PO
出
∈)
nP
ヨOt
-
翌日○
已
宛の
手
紙。
梨が
「
六
十
八
個+
入っ
た
小
さ
な
樽
を
確か
に
受け
取っ
た、
そ
の
う
ち
「
三
十三
個+
を
法
王
に
送っ
た
ら
喜ば
れた
、
チ
ー
ズ
は
運
送
人が
途中
で
失
敬
し
て
し
まっ
た
ら
しい
云
々
とい
っ
た、
巨
匠ミ
ケ
ラ
ン
ダニ
ロ
に
し
て
は
極
めて
心の
使い
方の
細
か
い
書き
出し
で
は
じ
ま
る
手
紙。
そ
の
中で
次の
よ
うに
い
っ
て
い
る
-「
彫
刻師ミ
ケ
ラ
ン
ジェ
ロ
とい
う
宛名で
手
紙を
よこ
( 8 3 ) ノレ ネ サ ン ス の 影
さ
ぬ
よ
う
司
祭に
い
っ
て
下さ
い、
私は
ミ
ケ
ラ
ン
ジェ
ロ
・
ブ
ナ
ロ
ー
ティ
とい
う
名
前
なの
で
すか
ら。
祭壇に
絵を
描か
せ
たい
とい
う
御仁
が
お
い
で
で
した
ら
国
師を
探せ
ばい
い
の
で
す、
私
は一
皮だ
っ
て
国
師で
あっ
た
た
めし
は
な
い
の
で
すし
、
店屋
を
出
して
い
る
彫
刻師で
も
ない
の
で
すか
ら。
私の
父と
兄
弟た
ち
の
名
誉の
た
めに
、
そ
ん
な
者
に
な
らぬ
よ
う
常に
つ
と
めて
き
た
私で
す、
確か
に
私は
こ
れ
ま
で
三
人の
法
王に
仕
え
まし
た、
し
か
し
そ
れ
は、
まっ
た
く
止
むを
得ずし
た
こ
と
なの
で
す。
+
(H
・
∽t
O
ロe
編
幕・
英
訳の
書簡
集ト
〉
§Q
訂訂さq内
訂-
幹ぎ
官Q
→
に
よ
る。
)
(
2)
H.
弓.
甘口
冒n‥
加計叶
Ql
甲
阜
ゝ
き
ゃ
宗-
・
-きま
b′
『
最後の
審
判』
は
「
ル
ネ
サ
ン
ス
的『
美』
の
約束を
破
あら
わ
れ
る+
ほ
ど
激しい
、
鬱積した
精神の
暴発で
あ
る、
と
記した
。
「
グ
ロ
テ
ス
ク+
で
あ
る、
とさ
え
記し
た。
で
は
「
ル
ネ
サ
ン
的美+
と
ほ
何か
?
わ
れ
わ
れ
は
こ
れ
を、
一
五
世
紀中
葉の
芸
術理
論を
代
表し
、
自身
幾つ
か
の
建築作品を
残し
て
い
る、
レ
オ
ン
・
パ
テ
ィ
ス
タ・
ア
ル
ベ
ル
テ
ィ
の
次の
言葉に
よ
っ
て
知る
こ
とが
で
きる
。
…い
か
な
る
ジ
ャ
ン
ル
に
お
い
て
も、
美と
は、
すべ
て
の
部
分が
、
こ
れ
以
上
何か
付
け
加え
た
り、
減ら
し
た
り
また
変
更し
た
畑
する
と、
そ
れ
だ
けか
えっ
て
悪くな
る
ほ
ど、
互
(
1)
い
に
ぴっ
た
り
と
釣合い
の
取れ
た一
つ
の
調
和で
あ
る。
調
和あ
る
各パ
ー
ト
の
有機的な
相
互
関
係、
とい
う
実の
原
理
は、
芸
術は
理
想を
か
か
げ
る、
理
想は
自然の
内に
見
出さ
れ
る、
な
ぜ
な
ら、
自然と
は
神の
造っ
た
調
和あ
る
大い
な
被
造
物で
あ
る、
とい
う
思
想に
基い
て
い
る。
自然を
範と
し、
▲
は
ら
自然に
模う
精神で
あ
る。
しか
し、
そ
れ
は
素朴な
完全
写
実
ヽ
ヽ
精神
、
ぺ
た
リ
ア
リ
ズ
ム
で
は
ない
。
神の
被造
物と
し
て
の
自
然を
、
人
間の
理
性が
、
自ら
を
尺度と
して
、
計量し
、
分
析
し、
法則化
する
、
い
わ
ば、
人
間の
知性に
よ
っ
て
合理
化さ
れ、
精神化さ
れ
た
自然
、
で
あ
る。
い
に
し
え
…
古
の
人
は
自然界の
物象か
ら、
事実は
ま
さ
に
私が
い
ま
述べ
た
通
り
で
あ
る
こ
と(
訳
註・
先
きに
引
用
した
「
美+
は
「
調
和+
で
あ
る
と
い
う
定
義と
、
こ
の
「
調
和+
あ
る
全
体の
構成
要素に
三
つ
あ
り、
一
つ
は
「
数+
、
一
つ
は
「
装
飾+
も
う一
つ
は
「
配
列+
で
あ
る
が、
他に
第四
の
要素と
紛
+
一 橋 論叢 第 六 十一 巻 第 二 号 ( 8 4 )
コ
/
〆ル
イテ
ィ
し
て
「
統
合+
が
あ
り、
こ
れ
は
右の
三
つ
の
上に
立つ
も
の
で
あ
る
とい
うア
ル
ベ
ル
テ
ィ
の
自説)
を
知っ
て
い
た
の
で、
…
作品
を
造る
に
あ
た
っ
て
は
自然の
模倣を
むね
と
し
た
…こ
の
為に
、
彼等は
人
力の
及ぶ
か
ぎ
り、
自然が
自
然
み
ずか
らの
作品を
造り
出すさ
い
の
基準
と
なっ
て
い
る
法
う
つ
則を
発見
し、
そ
れ
を
建築の
仕事に
応用
すよ
う
努力
した
。
…
数に
関して
彼等が
ま
ず最初に
発見した
こ
と
は、
偶数
と
奇数の
二
種類あ
る、
とい
うこ
とで
あ
る。
彼等は
、
場
合に
応
じて
こ
の
二
つ
を
使い
わ
けた
、
即
ち、
自然の
模倣
に
よ
り、
彼等は
建築の
骨
組み
、
即
ち、
柱や
稜を
奇
数に
ょっ
て
構成
する
こ
と
は
決して
し
なか
っ
た、
奇数の
足で
立
ち、
動きま
わ
る
動物が
い
ない
の
と
同じ
とい
うわ
けで
いh
ソ
くち
あ
る。
一
方、
彼等は
孔
形に
関して
は
常に
奇数を
もっ
て
した
、
こ
れ
は
自然に
な
らっ
た
こ
と
で
あ
る。
とい
うの
は、
自然は
目、
耳、
鼻孔は
両
側に一
つ
ずつ
造
形し
た
が、
あ
の
大い
な
る
孔
形た
る
口
は
た
だ一
つ
し
か
設けて
い
ない
か
(
2)
らだ
…
人
間の
知性が
万
物の
尺度で
あ
る
こ
と
を
美学者と
して
明
瞭に
宣
言し
た
の
もこ
の
ア
ル
ベ
ル
テ
ィ
で
あ
る
1
コ
ソ
グル
イチ
イ
…こ
の
統
合は
そ
れ
が
見い
出さ
れ
る
対
象物か
ら
生
じる
の
で
も、
そ
の
構成
要
素か
ら
生
じ
る
の
で
も
ない
、
そ
れ
は
自
生の
もの
で
あ
り、
自然か
ら
生
ま
れ
る
もの
で
あ
る
か
ら、
(
3)
そ
の
真の
あ
りか
は
精神で
あ
り
理
性で
あ
る
…
ル
ネ
サ
ン
ス
人に
とっ
て、
「
自然+
は
あ
く
ま
で
人
間の
理
性
の
働きか
ける
対
象と
し
て
の
自然で
あっ
た。
自
然が
理
性を
包み
こ
むの
で
は
な
く、
理
性が
自然を
包み
こ
む
の
で
あ
る。
こ
の、
人
間の
力が
あ
くこ
と
の
ない
躍動を
と
げ、
英国十
六
世
紀末の
劇作家マ
一
口
ウ
に、
無限に
自我
を
拡
大して
い
く
人
間(
無
際
限の
知識を
求める
神の
反
逆者フ
ァ
ウ
ス
ト
博士
、
無尽
蔵の
富を
欲
して
や
ま
ず、
そ
の
為に
は
血
を
流すこ
と
も
日
常茶飯事で
あ
るユ
ダ
ヤ
人な
ど)
を
描か
せ、
人
間に
つ
い
て
「
無限の+
とか
「
神々
し
い+
とい
っ
た
形容詞を
好ん
で
冠せ
る
こ
と
を
可
能に
し
た、
こ
の、
理
性を
座標軸と
した
世
界図
は、
しか
し
なが
ら
永続き
は
し
なか
っ
た。
(
4)
こ
こ
に一
枚の
絵が
あ
る。
『
キ
リ
ス
ト
降架』
、
つ
ま
り、
処
刑
さ
れ
た
キ
リ
ス
ト
を
十
字架か
ら
引
きお
ろ
す、
反
劇的な
瞬
㍊∂
( 8 5 ) ル ネ サ ン ス の 影
2 2 7
一
橋 論 叢 第 六 十一
巻 第 二 号 ( 8 6 )
間を
テ
ー
マ
と
し
た、
イル
・
ロ
γ
ソ・
フ
ィ
オ
レ
ン
テ
ィ
ー
ノ
が一
五
二
一
年に
作製した
絵で
あ
る。
ル
ネ
サ
ン
ス
東金
期の
絵画の
特
性と
比べ
なが
ら、
こ
の
絵の
特
徴を
検討した
い。
U焦点
・
関心の
分
裂(
多様
性)
-ル
ネ
サ
ン
ス
の
絵画
の
場合は
、
描か
れ
て
い
る
人
物の
、
び
い
て
は
観賞者の
関心
は、
視線は
、
あ
げて
キ
リ
ス
ト
に
あ
つ
まる
の
に
反し
、
ロ
ッ
ソ
の
場合
、
キ
リ
ス
ト
を
見つ
めて
い
る
人
物は
、
そ
の
傷口
を、
異様に
大ぶ
りの
ゼ
ス
チ
ュ
ア
で
指し
示
す
男一
人
で
あ
る。
こ
の
絵画
空間は
き
わ
めて
非構築的な
の
で
あ
る。
焦点が
ない
の
だ。
各人
物の
視線は
て
ん
で
ん
ば
ら
ば
らに
、
死せ
る
キ
リ
ス
ト
の
ま
わ
り
を
くる
む、
或は
そ
の
背後に
ひ
そ
む
空
間に
、
あ
らぬ
方
角に
、
向
けら
れ
て
い
る。
い
わ
ば、
こ
の、
キ
リ
ス
ト
教
社会の
歴
史の
上
で
最も
暗黒の
一
点
とい
え
る
瞬間とい
ぅ
意味で
、
反
劇的と
筆者の
名
付
ける
瞬間に
お
い
て、
何の
機能も
果して
い
ない
。
第二
の
特性と
して
、
こ
の
点を
あ
げ
る
こ
とが
で
きる
。
すな
わ
ち、
榊非機能性
-で
あ
る。
川反
重
力の
法則
-人
物が
そ
の
大
きさ
に
見合
っ
た
重
量、
っ
ま
り
体重
を
もっ
て
描か
れ
て
い
ない
。
ロ
ブ
ソ
の
一
人の
人
物は
、
大き
な、
従っ
て
重た
い
筈の
キ
リ
ス
ト
の
屍を
、
片腕
で、
し
か
も
今に
も
梯子か
ら
落ち
そ
うな
腰の
す
わ
らぬ
持ち
淵
方
で
支え
、
受けと
め
て
い
る。
各人
物が
、
い
わ
ば、
折紙細
エ
の
感じで
、
幾何
学
的線画
の
お
も
む
き
が
あ
る
(
㈲の
㈹
「
キ
ュ
ー
ビ
ズ
ム
+
.の
頃を
参照
。
)
キ
リ
ス
ト
の
体
ほ
ロ
グ
ソ
の
先
輩た
ちの
絵と
比べ
異常に
長く
、
八
-九
頭身で
あ
る。
エ
ロ
ソ
ダイシ
ョ
ソ
ニ
の
「
細
長
さ+
は、
ル
ネ
サ
ン
ス
後期の
、
殆ど
すべ
て
の
作品に
共
通
して
い
える
こ
と
で、
盛
期ル
ネ
サ
ン
ス
との
区
別
を
する
、
最も
手
取
り
早い
見
分け
方の
一
つ
で、
パ
ル、
,
、
ジ
ア
ニ
ー
ノ
の
『
首の
長い
マ
ド
ン
ナ』
やエ
ル
・
グ
レ
コ
の
作品は
そ
の
典型で
あ
る
(
㈲B
「
美の
作為性+
の
2
を
参照
。
)
帥反
空
間
性
1ロ
ッ
ソ
の
『
キ
リ
ス
ト
降架』
に
は、
風景
描写の
か
きこ
み
が
ご
く
僅か
で、
ほ
ん
の
ア
ウ
ト
ラ
イ
ン
だ
け
を
抽象的に
点じ
て
い
る
の
で、
自然空
間の
中で
の
十
字架と
人
物群の
占め
る
位
置は
き
わ
め
て
自然に
則さ
ず、
人工
的で
あ
る。
右端前面の
、
悲嘆に
くれ
る
聖ヨ
ハ
ネ
像は
、
他の
人
物群と
自然空
間で
の
位置関
係は
は
と
ん
ど
同
じ
平面に
立っ
て
い
る
筈で
あ
る
の
に、
不
釣合に
大きい
。
同
様の
「
反
空
間
性+
は、
テ
ィ
ン
トレ
ッ
ト
の
『
聖母
祭』
の
階
段右端の
巨
大
な
婦人
像、
同
じ
画
家の
『
聖マ
ル
コ
の
遺体』
に
描か
れ
た、
騒駈の
手
綱を
び
っ
ば
る、
不
釣合に
小
さ
な
女、
等に
もそ
の
( 8 7 ) ル ネ サ ン ス の 影
典型
が
見られ
る。
特に
後者の
場合
、
左
側か
ら
画
面の
奥の
方
に
向っ
て
描か
れ
て
い
る
背景
、
神の
怒
り
を
示
す
天の
異変
に
慌て
ふ
た
め
く
群衆と
、
そ
れ
らの
人
物が
逃げこ
む
建物が
、
淡く
亡
霊の
よ
うに
、
一
次元
的、
さ
も
な
け
れ
ば
四
次
元
的、
抽象的な
、
ス
ケッ
チ
の
よ
う
な
処理
を
さ
れ
て
い
る。
また
、
「
反空間的+
と
い
え
ば、
ル
ネ
サ
ン
ス
で
は
人
物の
数が
よ
く
整理
さ
れ
て
い
る
の
に
対
し、
ロ
ブ
ソ
の
こ
の
『
キ
リ・ス
ト
降
架』
や
同じ
テ
ー
マ
の
ボ
ン
ト
ル
モ
の
絵な
ど
は、
限ら
れ
た
空
間に
ご
し々
ご
しゃ
と
人
物をつ
め、
特に
後者で
は、
自然空
間なら
ば
と
て
も
考え
られ
ない
人
間の
詰めこ
み
方
を
した
た
めに
、
い
か
に
反空
間的と
は
い
い
なが
ら、
首だ
け
あっ
て
下
に
つ
づ
く
胴体
をお
さ
め
る
空
間が
ない
とい
う、
グ
ロ
テ
ス
ク
な
結果が
生
じて
い
る。
こ
の
人
物群の
密集と
、
同時に
、
U
で
指摘した
非機能的な
無意味
、
従っ
て
不
気味な
空
間は
、
,
、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ュ
ロ
の
『
最後の
審判』
に
はっ
き
り
と
形を
とっ
た
特性で
、
以
後の
画家た
ちは
、
こ
の
構図に
大き
な
影
響を
受け
た
と
伝え
られ
て
い
る。
川反時間性
-そ
の
独
自な
人工
的色彩の
た
め
に、
。
ッ
ソ
の
『
キ
リ
ス
ト
降架』
は
時間を
示し
て
い
ない
。
朝か
昼か
夕方
なの
か。
つ
ま
り、
時間
的に
も
作為性が
濃厚で
、
真空
管の
中の
時間
、
とい
え
る。
むろ
ん、
「
作
為
性+
と
い
っ
て
も、
伝統的な
、
日
常的な
自然の
秩序の
側か
ら
規定し
た
と
き
の
言葉で
、
ロ
ブ
ソ
の
感
性と
思
考か
ら
す
れ
ば、
こ
れ
が
自
然そ
の
もの
な
の
で
あ
る。
「
キ
リ
ス
ト
降誕+
を
歌
う
十
七
世
紀詩人
ミ
ル
ト
ン
の
時間は
、
あ
る一
定の
ク
リ
ス
マ
ス
の
雪の
夜とい
う
自然の
時間に
、
キ
リ
ス
ト
降誕の
過
去の
時点が
呼
び
こ
ま
れ、
そ
れ
に
よっ
て
過
去・
現
在・
未来
、
すべ
て
の
ク
リ
ス
マ
ス
の
夜が
呼び
こ
ま
れ、
最後の
審判の
時点
まで
膨脹
し、
膨放し
なが
ら
絶え
ず現
前の
時間的
一
点との
絆は
断た
れ
ない
。
こ
の
「
反時間性+
は、
文
学の
世
界で
は、
ジ
ョ
イ
ス、
プ
ル
ー
ス
ト
以
後、
人
間存在の
自然に
則し
て
い
る
とい
う
意味で
、
常識的に
なっ
て
い
る。
現
代の
バ
ロ
ッ
ク
とい
わ
(
与)
ヌ
ボー
ニマ
ン
れ
る
こ
との
あ
る
フ
ラ
ン
ス
新小
説の
旗頭で
あ
る
ロ
ブ
グ
リ
エ
の
『
迷路に
て』
は
次の
出だ
しで
は
じま
る
--「
い
ま
私
は
こ
こ
に
び
とり
で、
まっ
た
く
安全
な
とこ
ろに
い
る。
外は
雨
が
降っ
て
い
る。
+
とこ
ろ
が、
数行さ
き
で
は
「
日
が
照っ
て
…
太
陽が
兵向
うか
ら
照
りつ
け+
て
い
る。
更に
し
ば
ら
く
読
み
す
す
む
と
(
現
実の
黙読の
時間で
は
二
分
と
経
過
し
ない)
「
外で
は
雪が
降っ
て
い
塙。
+
そ
の
雪も
、
「
外
で
は
雪が
降っ
0)
て
い
る。
外
で
は
雪
が
降っ
た、
降っ
て
い
た、
外
で
は
雪
が
降
㍊
卜.
一 橋論叢 第 六 十 一 巻 第 二 号 ( 8 8 )
(
6)
っ
て
い
る+
の
で
あ
る。
時間を
手
繰り
よ
せ
な
が
ら、
手
繰り
ょ
せ
よ
う
と
する
自
分が
逆に
手
繰り
よ
せ
るぺ
き
時間の
中へ
吸い
こ
ま
れ
て
しま
うっ
同
時に
確実なこ
とは
、
い
つ
も
現
在
の
瞬間に
立っ
て
動か
ない
で
い
る
とい
うこ
と
で
あ
る。
ロ
ッ
ソ
や
ボ
ン
ト
ル
モ
と
同時
代の
画
家、
及び
そ
れ
以
後の
十六
-
七
世
紀の
美術に
よ
く
み
ら
れ
る
冷や
か
さ
も、
こ
の
よ
うな
逆
説に
基因して
い
る。
屡々
見られ
る、
不
可解な
人
物
像、
絵
画
空
間に
焦点
を
結ば
ず、
そ
の
構築を
壊し
て、
観賞者の
限
を
正
面か
ら
睨み
すえ
て
い
る、
自然空
間に
向っ
て
顔を
向け
て
い
る
人
物の
限。
こ
の
た
め
に、
絵画
空
間に
展開さ
れ
る一
っ
の
情熱に
巻きこ
ま
れ
よ
うと
して
額縁の
中へ
足を
踏み
入
れ
る
観賞者は
、
冷水
を
浴び
せ
られ
た
よ
うに
、
ふ
と
立
ち
ど
まっ
て
し
ま
う。
芸
術の
人工
世
界と
の
断絶
、
自分の
立っ
て
い
る
時間的
、
空
間的世
界を
、
否応な
し
に
意識さ
せ
ら
れ
る
の
で
あ
る。
㈲反リ
ア
リ
ズ
ム
・
反
自然主
義
-同
じ「
キ
リ
ス
ト
降架+
とい
っ
て
も、
そ
の
死せ
る
キ
リ
ス
ト
の
顔が
、
礫の
苦痛の
痕
跡び
とつ
留め
て
い
ない
、
楽しい
夢を
見て
い
る
よ
うな
、
静
か
な
表情に
描か
れ
て
い
る、
ル
ネ
サ
ン
ス
画
家ペ
ル
ジ
ー
ノ
の
作品と
、
不
気味に
歪めて
描い
て
い
る
ロ
ッ
ソ
の
作品
と
を、
(
7)
。
-
ラ
ン
ド
は
巧
み
に
比
較し
て
い
る。
ル
ネ
サ
ン
ス
人は
自然
細
を
理
想的に
処理
し、
美化し
て
い
る
の
だ
が、
十
七
世
紀
初め
に
描か
れ
た、
同
様の
事件を
扱っ
たバ
ロ
グ
ク
画
家た
ちの
作
品、
カ
ラ
プァ
ジ
ョ
や
ル
ーベ
ン
ス
の
キ
リ
ス
ト
の
顔に
つ
い
て
も
同
じこ
と
が
い
え
る
で
あ
ろ
う。
た
だ
後者の
場
合は
、
「
甘
美な
死+
を
死
ん
だ
か
の
よ
う
な
安らか
な
死の
表情なが
ら、
そ
の
肉体の
描写は
官
能的な
立
体
感を
も
ち、
キ
リ
ス
ト
の
屍
に
関心の
すべ
て
が
集中さ
れ、
激しい
感
動を
呼び
お
こ
す、
律動感に
富む
構図と
明
暗の
使い
方
を
して
い
る
の
が、
前者
の、
水
を
打っ
た
よ
うな
静か
な
平面
性と
異なる
とこ
ろ
で
あ
る。
ロ
ッ
ソ
は、
「
苦痛+
を
苦痛と
し
て
自
然に
則し
、
リ
ア
ル
に
描く
、
とい
うよ
り、
そ
の
リ
ア
リ
ズ
ム
を
極端に
す
す
め
て、
気味悪い
、
陰惨な
表情を
描き
出し
、
結
果的に
は
反リ
ア
リ
ズ
ム
ヘ
走っ
て
い
る。
ル
ネ
サ
ン
ス
に
は、
ダ
ブイ
ン
チ
に
み
ら
れ
る
よ
うに
、
人
体や
物体の
立
体
像の
解
剖学的研
究が
盛ん
で
あっ
た。
こ
れ
は
人
間へ
の
関心の
高ま
り、
人
間中心
主
義と
い
う
意味で
の
古
典的ヒ
ュ
ー
マ
ニ
ズ
ム
と
結び
つ
い
て
い
る。
こ
れ
に
と
も
なっ
て、
ゴ
シ
ッ
ク
絵
画の
偏平な
人
物像
が、
輝か
し
く
愛ら
しい
、
美しい
肉体を
もっ
た
像に
変っ
た。
ル
ネ
サ
ン
ス
後期の
画
家の
多くは
、
こ
れ
を
さ
ら
に
極
端に
お
( 8 9 ) ル ネサ ン ス の 影
し
すす
め
た。
解剖
、
分
析に
急で
、
綜合性
、
調
和、
均
衡な
コ
ソJ
ク
ル
イチ
イ
ど
は
意に
介さ
なか
っ
た。
ア
ル
ベ
ル
テ
ィ
の
い
う
「
統合
性+
が
欠
如し
た
ま
まの
、
偏頗な
追求
性・
徹底性は
、
悪く
する
と、
ル
ネ
サ
ン
ス
の
達成
した
、
た
と
え
ば
ミ
ケ
ラ
ン
ジ
ェ
ロ
の
技巧の
模倣
、
繰返し
と
い
う結果を
生
じる
。
バ
ロ
ッ
ク
前期
の
(
或
は
ル
ネ
サ
ン
ス
後期の)
作家
群に
「
マ
ン
ネ
リ
ズ
ム
+
の
レ
ッ
テ
ル
が、
こ
うし
て
貼ら
れ
る
よ
うに
なっ
た
の
で
あ
る。
こ
の
「
反
リ
ア
リ
ズ
ム
+
か
ら、
十六
-七
世
紀の
新しい
美
術の
動向と
し
て、
次の
二
つ
の
特
性(
小
項目で
数え
れ
ば
四
つ
の
特性)
が
生
じ
て
い
る。
拘-A
・
キュ
ー
ビ
ズ
ム
㈲-B
・
美の
作為性
エ
レ
オソ
ス
1
優
雅の
追求
1
エ
ロ
ソ
ゲ
イシ
ョ
ソ
イ
細
長
さ
ロ
蛇行
性(
回
転
視
点)
2
病的な
官能性
キ
リコ
だ
と
か
ピ
カ
ソ
だ
と
か
な
ら
と
も
か
く、
十
七
世
紀に
キ
ュ
ー
ビ
ズ
ム
とい
う
呼称を
用い
る
の
は、
と
躊蹄する
むき
も
あ
る
と
考え
ら
れ
る
が、
ル
ー
カ・
カ
ン
ビ
ア
ー
ソ
の
「
人
体の
群像+
や
デュ
ラ
ー
の
数多い
人
体
図
式は
、
こ
れ
らに
模う
画
家
た
ち
を
含め
て、
キュ
ー
ビ
ズ
ム
沢を
形
成し
て
い
た。
エ
ロ
ソ
ゲ
イジ
ョ
ン
「
細
長
さ+
に
つ
い
て
は
既に
簡単に
述べ
た
の
で
省略す
エ
ロ
ソ
ダ
イシ
ョ
ソ
る。
「
蛇
形+
は、
「
細
長
さ+
と
並ん
で、
ル
ネ
サ
ン
ス
後期
以
後の
美術
を
盛
期ル
ネ
サ
ン
ス
の
そ
れ
と
手
取
り
早
く
区
別
す
る
大ざっ
ば
な
基
準と
なる
。
現
実の
人
間で
あっ
た
な
ら
とて
も
長時間続け
て
い
ら
れ
ない
よ
うな
、
無理
な、
筋肉や
体の
線を
際立た
せ
る
ポ
ー
ズ
を
人
物に
と
らせ
る。
胴・
腰・
腕・
手の
び
ね
り
を
き
か
せ
る
わ
け
だ
が、
女
人
像の
場合
、
こ
れ
は
ヽ
ヽ
我々
の
い
う「
し
なを
つ
くる+
の
に
相
当
す
る
と
い
え
よ
うか
。
エ
レ
ガソ
ス
そ
の
意味で
「
優雅+
の
追求の
一
手
段で
あ
る
が、
男の
立
像
の
場合は
、
エ
ル
・
グ
レ
コ
を
例外と
し
て、
筋肉の
誇張
、
立
体
性、
内なる
も
の
の
存在の
誇張で
あ
ろ
う。
美の
反
自然的
な
追
求で
あ
る。
こ
の
様式ほ
、
ミ
ケ
ラ
ン
ジェ
ロ
の
彫
像、
『
奴
隷』
や
『
勝利』
に
ほ
っ
き
り
と
そ
の
兆
し
を
見せ
て
い
た
もの
で
あ
る。
ル
ネ
サ
ン
ス
の
彫
像は
壁面に
ぴっ
た
り
背を
つ
けて
設置し
て
鑑賞さ
るぺ
き
で
あ
る
が、
蛇
形の
特
性を
持つ
彫
像は
そ
れ
が
出来
ない
。
全
体
像を
把
握
する
為に
は、
観賞
者は
像を
ぐる
りと
一
廻り
し
な
け
れ
ば
な
ら
ない
、
す
な
わ
ち
ル
ネ
サ
ン
ス
後期の
彫
像を
理
解
する
に
は、
回
転
視
点
を
蛮求
さ
れ
る。
こ
の
「
回
転
視点+
に
関し
て
は、
サ
イ
フ
ァ
ー
が
特
脱
ト
一 橋論叢 第六 十一 巻 第 二 号 ( 9 0 )
(
8)
に
強調
して
い
る。
復讐に
踏み
き
れ
ぬ
考える
人ハ
ム
レ
ッ
ト
と、
勇猛果敢に
策を
謀り
、
行動する
ハ
ム
レ
ッ
ト
が、
分
裂
し
た
人
物像で
な
く一
個の
人
間で
あ
る
こ
と
を
十
全に
把え
る
の
も、
こ
の
回
転
視点で
あ
る。
こ
うい
う
視点か
ら
すれ
ば、
「
復讐の
遅延+
の
不
可解
さ
を
前に
『
ハ
ム
レ
ッ
ト』
解釈が
ほ
た
と
行
きづ
ま
る、
とい
っ
た
こ
と
は
あ
り
得ない
わ
けで
あ
る。
以
上、
ロ
・ツ
ソ
の
『
キ
リ
ス
ト
降架』
の
特性を
め
ぐっ
て、
同時代
、
及び
そ
れ
以
後の
美術の
特性を
、
時に
文
学の
場合
と
照応さ
せ
なが
ら
列挙し
て
き
た
の
で
あ
る
が、
こ
れ
らの
特
徴を
もつ
もの
と
して
、
盛期ル
ネ
サ
ン
ス
と、
い
や、
ル
ネ
サ
ン
ス
そ
の
もの
と
対
立し
、
こ
れ
と
大き
く
肩を
並べ
て
実の
成
果を
競い
あ
う、
新し
い
世
界と
し
て
定立さ
れ
る
の
が、
「
マ
(
9)
ニ
ュ
リ
ス
ム+
なの
で
あ
る。
最後に
び
とこ
と
付
加
する
な
ら
ば、
こ
の
「
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
+
は、
観賞者の
側に
、
現
象的な
次の
種
類の
印
象を
そ
の
著しい
性椿と
して
与え
る
こ
と
は、
糾~
㈲か
ら
容
易に
納得
で
き
る
こ
とで
あ
る。
こ
れ
を
特
性の
のと
して
、
仮り
に
こ
こ
に
あ
げ
て
お
く
-
の知的・
遊戯性
・
曖昧
・
不
可
解
-
少
な
くと
も
現
象的に
は、
今
日
流行の
、
ポ
ッ
プ・
ア
ー
ト、
㍊
ヌ
ー
ボ1
・
ロ
マ
ソ
ア
ソ
ダラ
2
新
小
説、
前衛映画
、
地
下
演
劇が
そ
れ
ぞ
れ
に
こ
の
のの
性
格を
もっ
て
い
る
と一
般に
い
わ
れ
て
い
る
こ
とは
、
現
代に
お
ける
「
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
(
性)
+
あ
る
い
は
「
バ
ロ
ッ
ク
(
性)
+
を
考察する
際の
糸口
と
な
る、
注目
すべ
き
符合とい
え
よ
う。
(
1)
Pe
O
βe
出Pt-
∽
t-
A-
訂ユi
‖
づ
3
bQQ
ぎQ
さ
ゝ→
Q
計
誉Q
ぎ→
Q
(t
旨β
P
i
已○
出βg-
-
s
F
♂叫
ナ
「e
0
2 .
-
ロ
ー
諾ぃ
符○
日
t
Fe
O
コ.
g-
ロ
巴
b缶
記
莞乱
忌昌ざ1一
ぎー
畠山
)
田0
0
付
くⅠ
-
CFP
p.
1
H.
(
2)
Ⅰ
ア
ロ
宍舟l
H一
CF
甲
り
く.
(
3)
一
戸
(
4)
八五
頁の
写
真参照
。
(
5)
CF
ユm
已βe
]
腎00
村・
河○払
e
‥
→
訂
せ
駕O
q
仁O
一
日Pg
-
ロPti
O
ロ
Of
声○
ビ
b
?G
ユ】-
et
∴ロ
』
旨計3←
勺叫
Q
㌻q
さ
哲
邑叫
n
き
一
票仇
-
p
七
.
阜
Ou
-N
い.
(
6)
A-
巴口
河○
ヴbe・
G
ユ〓et
‥
b
Sし
こ恥
卜
乱写訂註Q
こ況り
}
「e
∽
Ed
+
巨O
nS
n
訂
呂-
臼
已t
.
C汁
-
ロe
FO
r∽
岩
見e
已
\‥
二n
訂FO
記
i-
f
巴t
才○-
♀
…ロe
ど記
に
叫
P
〔
Fs
O-
2i-
\‥
、
(
p¢
y一
口e・
ど諾仁
ロe
打e
㌧
(
ワ
ニ)
)
〈
De-
】
○
諾-
-
ロe-
的e
.
ロe
オ
5
諾i
-
p
ロei
・
乳ニ
ー
ロ2
打e
已t
}
de
FO
諾亡
ロe
打2.
∴やー
占
引
用に
あ
た
っ
て
は
新
潮
社
「
現代
フ
ラ
ン
ス
小
説13
人
集+
版の
翻訳を
参照
し
た。
(
7)
Up
ロ
岩.
-
甲
声○
弓-
甲n
P‥
恕打声
莞→
㌢
ヨ
苧
哲ミQ
§乱
撃Q
阜
-
¢
ひ
ヰ.
(
8)
弓.
晋り
Fe
コ
勺
蔓→
無芸琵
見知Q
声
已設
§Q也
転思♪-
芝山
・
( 9 1 ) ル ネ サ ン ス の 影
(
9)
『
一
橋論叢』
第五
八
巻2
号の
拙
文「
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
‖
バ
ロ
ッ
ク
研
究史に
お
ける
A・
ハ
ウ
ザー
の
位置
-近
著
『
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
』
を
め
ぐつ
て+
を
参照さ
れ
た
い。
専門的
な
術語
と
し
て
の
「
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
(
ない
しマ
ニ
エ
リ
ス
ム
ス
)
+
の
言
葉そ
の
もの
の
意
味と
その
変遷に
つ
い
て
は
右の
拙
文に
譲る
。
誤解
を
避ける
た
め
に
英語の
「
マ
ナ
リ
ズ
ム
(
即
ちマ
ン
ネ
リ
ズ
ム
)+
は
用い
ない
こ
とに
し
た。
ミ
ケ
ラ
ン
ジ
ェ
ロ
は
自己の
矛
盾と
世
界の
矛
盾の
交叉
する
激流の
ま
な
か
に
立っ
て
い
た。
「
矛
盾+
と
は
「
正
義+
と「
現
実+
の
背反で
あ
る。
神の
絶対
を、
正
義を
説い
て
や
ま
ず、
た
と
え
宗教画で
あ
ろ
うと
聖者の
像で
あ
ろ
うと
、
偶像崇拝
は
真の
キ
リ
ス
ト
教信仰で
は
ない
と
し
て
糾
弾し
、
各戸か
ら
徴発し
て
破
壊した
あの
鉄血の
師サ
ブァ
ナロ
ー
ラ
で
さ
え、
異端と
し
て
ロ
ー
マ
教会に
よ
っ
て
捕わ
れ、
火刑
さ
れ
る
運命
を
前に
して
、
自己の
信仰の
過
ちで
あ
っ
た
こ
と
を
告白した
。
「
正
義+
の
名の
も
と
に、
各
国が
自由都市
、
フ
ィ
レ
ン
ツェ
の
争奪に
軍
を
派
遣し
、
入
り
乱れ
て
の
戦闘と
陰謀
、
か
け
ひ
き
に、
牽か
な
文
化
を
誇る
フ
ィ
レ
ン
ツェ
は
戦乱の
巷と
化し
た。
か
つ
て
サ
ブァ
ナロ
ー
ラ
に
耳傾け
た
ミ
ケ
ラ
ン
ジ
ェ
ロ
は、
師の
逮捕そ
し
て
火
刑の
報に
接し
な
が
ら、
固い
沈黙を
守っ
た。
フ
ィ
レ
ン
ツ
ェ
危機の
時に
、
お
さ
れ
て
そ
の
防衛の
任に
あ
た
り
な
が
ら、
、
、
、
ケ
ラ
ン
ジ
ュ
ロ
は
突如
敵前逃亡
し
て
祖
国
を
裏切
っ
た。
こ
の
よ
うな
現
実に
あっ
て
は、
「
正
義+
は
産
ま
ばろ
し
ま
ぼ
ろ
し
々
「
幻+
で
あ
る。
人
ほ
「
幻
の
正
義+
をい
だ
く。
そ
の
「
幻
の
世
界+
が
「
恐し
い
現
実+
と
衝突し
、
粉微塵に
砕ける
、
そ
の
直前の
不
安と
緊張
、
そ
の
緊張は
こ
の
二
つ
の
世
界の
分
裂を
何と
か
防ぎ
、
「
幻の
世界+
と
「
恐
しい
現
実+
を
結び
あわ
せ
よ
うと
す
る
必
死の
努力で
も
あ
る
の
だ
が、
こ
れ
が
マ
ム
1
F
ニ
ュ
リ
ス
ム
文
学全
体
を
覆う
気分で
あ
る。
リ
ア
王
の
「
幻の
正
義+
は
決して
単純で
は
な
い。
弁舌の
巧
み
に
よ
っ
て
表現さ
れ
る
愛情が
真の
愛
情
で
あ
る
と
す
る
「
幻の
正
義。
+
第一
の
幻
は
第二
の
幻を
生
む
-弁
舌さ
わ
や
か
に
父王へ
の
愛を
表現し
(
て
見せ)
た
姉二
人
を、
国王
で
あ
り
父で
あ
る
自分
を
最も
愛する
もの
と
し
て、
言葉少
ない
末娘コ
ー
デ
リ
アへ
の
幻
滅(
こ
れ
は
第一
の
幻
か
ら
く
る
必
然
で
あ
る)
に
よっ
て、
こ
れ
を
「
正
義+
と
す
る。
だ
が
こ
の
「
正
義+
は
「
現
実+
と
ぶ
つ
か
り
あ
えな
く
砕か
れ
る。
リ
ア
の
悲
劇ほ
矛
盾の
認
識、
幻へ
の
目
覚め
、
そ
し
て
幻
滅を
経て
人
間そ
の
もの
に
絶望し
、
神に
絶望
する
道程に
他な
ら
ない
。
庶子
で
ほ
ある
が
自分の
息
子エ
ドマ
ン
ド
の
粁計に
あ
っ
て、
淵
一 橋論叢 第六 十 一 巻 第 二 号 ( 9 2 )
限
を
く
り
抜か
れ
る
悲惨な
目に
あっ
た
グ
ロ
ス
タ
ー
伯の
次の
せ
り
ふ
-
神々
に
とっ
て
の
わ
し
ら
人
間ほ
、
い
た
ずら小
僧に
とっ
て
の
蚊や
蛸蛤同
然だ
、
神々
は
な
ぐさ
み
半分に
わ
し
ら
を
殺
す(
『
リ
ア
王』
四
幕一
幕。
)
そ
して
、
終幕の
、
コ
ー
デ
リ
ア
の
愛を
知り
、
や
っ
と
リ
ア
が
彼女に
め
ぐり
逢え
、
二
人
が一
つ
に
なっ
た
と
き、
幻
と
現
実
の
分
裂か
ら
くる
聞い
と
苦し
み
を
超える
勝
利が
、
二
人の
死
に
お
い
て
は
じめ
て
な
さ
れ
る、
そ
の
終幕の
、
締め
殺さ
れ
た
コ
ー
デ
リ
ア
の
屍を
抱き
か
か
えて
最後の
息
を
ひ
き
と
る
直前
の
リ
ア
の
せ
りふ
-
い
の
ち
可表そ
うに
わ
し
の
大事な
馬鹿めは
締め
殺さ
れ
た、
生
命
は一
滴も
ない
!
犬や
届や
鼠で
さ
え
生
命が
あ
る
の
に
お
前ほ
息一
つ
し
ない
の
か
?
二
度と
起り
は
し
ない
、
ネ
ヴァ
ー
ネ
ヴァ
ー
ネ
ヴァ
ー
ネヴァ
ー
ネ
ヴァ
ー
二
度と
二
度と
二
度と
二
度と
二
度と!
(
同五
幕三
場)
こ
れ
らの
言
葉は
ど、
エ
リ
ザベ
ス
王
朝の
演劇が
、
イ
ギ
リ
ス
が
産業社
会と
し
て
繁栄
・
成長を
遂
げつ
つ
あっ
た
の
と
裏腹
に、
驚くほ
ど
暗い
とい
う
事実を
伝え
る
も
の
は
あ
る
まい
。
激烈で
あ
る、
情熱的で
あ
る。
が、
そ
れ
は
身を
た
じ
ろが
せ
る
は
ど
に
暗い
底深い
情熱で
あ
る。
こ
の
リ
ア
の
最後の
絶叫
の
少し
前、
リ
ア
がコ
ー
デ
リ
ア
の
亡
骸を
抱い
て
舞台に
あ
ら
わ
れ
る
とこ
ろ
で、
そ
の
姿を
目に
し
た
リ
ア
の
忠
臣
ケ
ン
ト
伯
が
約束の
こ
の
世の
終り
と
は
こ
の
こ
と
か
と
い
う。
ケ
ン
ト
公の
こ
の
せ
り
ふ
の
「
約束さ
れ
た
終り+
と
は、
即ち
、
、
、
ケ
ラ
ン
ジュ
ロ
が
シ
ス
テ
イ
ー
ナ
礼拝堂の
正
面に
描い
て
見せ
た
「
最後の
審判+
の
日
に
他
な
ら
ない
。
こ
うして
、
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
文
学の
典型
的な
様
式
は
「
悲
劇+
だ
とい
え
る。
分
裂・
矛
盾の
深淵に
死
を
賭し
て
架橋す
る
人
間の
姿を
描くの
が
悲
劇の
本
質だ
と
す
れ
ば、
こ
の
こ
と
は
納得さ
れ
よ
うが
、
し
か
し、
悲劇は
い
つ
の
時代に
も
あ
る、
β3 4
( 9 3 ) ′レ ネ サ ン ス の 影
とい
う
反論が
予
想さ
れ
る。
しか
し、
矢
張りい
つ
い
か
なる
時代に
も
と
は
い
え
ず、
秀れ
た
悲劇作品の
生
まれ
た
時代と
生
ま
れ
なか
っ
た
時代が
あ
る。
そ
れ
に
し
て
も、
「
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
の
典型
的
様式
は
悲劇だ+
とい
うこ
と
は
か
な
り
独
断的
な
規定に
違い
ない
。
とい
うの
は、
こ
の
分
裂を
辛じて
閉じ
ポ
エ
ジー
る
もの
ほ、
「
死+
の
他に
もあ
る
か
ら
で
あ
る。
詩
に
お
け
メ
タ
フ
ァ
る
隠喩が
そ
れ
だ。
十
六
-七
世
紀の
詩的想
像力
を
濃く
色づ
けて
い
る
も
の
が
こ
の
メ
タ
フ
ァ
で
あ
る、
とい
うの
は、
美術
史で
い
うマ
ニ
エ
リ
ス
ム
及
びバ
ロ
ッ
ク
に
相
当
する
時
代の
詩
は、
恰もメ
タ
フ
ァ
で
全
体を
包み
こ
ま
れ
て
い
る
とい
え
る
様
式を
持っ
て
い
る
こ
と、
しか
も、
詩人に
よっ
て
区々
で
あ
り
なが
ら、
そ
の
背景に
、
メ
タ
フ
ァ
志
向
を
促す
思想
的な
共
有
母
胎が
あっ
た
と
推論で
き
る
か
ら
で
あ
る。
美術の
分
野と
異な
り、
文学の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
は
イ
ギ
リ
ス
で
そ
の
隆盛を
見た
。
とい
っ
て
も、
当
時は
、
ヨ
ー
ロ
ブ
パ
大
陸か
ら
見
れ
ば、
新参者で
あ
り、
逆に
い
えば
、
青年の
意気
に
燃え
て
い
た
精力旺
盛な
若い
国で
あっ
た
わ
けだ
が、
時代
風潮を
云
々
する
場合
、
大
陸よ
り
少な
く
と
も
五
六
十
年の
遅
れ
ほ
あ
る。
英文
学で
「
十
七
世
紀+
とい
う
時、
大
陸の
「
十
六
世
紀+
ない
し
「
十
六
世
紀後半+
に
相
当
する
こ
と
が、
様
式の
面で
は
多い
。
だ
が、
こ
れ
も
間も
な
く
追い
越して
し
ま
う。
特に
時
代思
潮の
面
で
は、
ベ
イコ
ン
ーホ
ッ
プ
ズ
の
路線
を
前
面に
押した
て
て、
ヨ
ー
ロ
ブ
パ
社
会の
歴史の
大き
な
曲
り
角に
お
い
て
先
頭を
切っ
て
進ん
で
い
く
とい
う
感じが
強い
。
逆に
、
伝統の
遅
咲き
の
開花と
急テ
ン
ポ
な
産業社会の
成
長、
そ
れ
と
歩調を
あ
わ
せ
た
新
しい
もの
の
考え
方、
こ
の
二
つ
の
ずれ
、
断層の
ずれ
と、
豊
穣な
イ
ギ
リ
ス
十
七
世
紀文
学の
誕
生は
根深い
つ
な
が
りが
あ
る
と
考え
ら
れ
る。
そ
こ
で、
次
章
ポ
エ
ジ
ー
で
は
イ
ギ
リ
ス
に
お
け
る
十
七
世
紀
的恕
像力を
、
こ
こ
で
は
主
に
そ
の
バ
ロ
ッ
ク
的要素に
つ
い
て
触れ
なが
ら、
論じ
て
み
よ
1
つ0
二
ひ
と
口
に
「
十七
世
紀の
詩的想
像力+
とい
っ
て
も、
ま
た、
た
と
え
そ
れ
を
イ
ギ
リ
ス
一
国に
限
定して
も、
詩人に
よ
っ
て
ス
タ
イ
ル
そ
の
想
像力の
表出と
して
の
詩の
様式は
、
ま
ち
ま
ちで
あ
る
け
れ
ど
も、
彼等の
多く
は、
「
十七
世
紀の
詩的
想
像
力+
と
は
概ね
こ
の
よ
う
な
もの
だ、
とい
え
る、
あ
る
共
通
した
何か
ス
タ
イル
を
持っ
て
い
る。
彼等の
詩の
様
式が
、
文
学
史
上、
極め
て
異
彩を
放っ
て
い
る
こ
と
ほ
間違い
ない
。
23 5
一 橋論叢 第 六 十一 巻 第 二 号 ( 9 4 )
し
か
も、
単に
「
文
学
史+
上
に
と
ど
ま
ら
ない
と
こ
ろに
、
ま
た、
彼等の
大
き
な
特色が
あ
る。
無論
、
文
学は
文
化の
一
巽で
あ
り、
文
学の
歴史を通
し
て
見
ら
れ
る
人
間像の
変化
・
発展は
、
そ
の
ま
ま
人
間社
会の
歴
史とい
っ
て
過
言で
ない
こ
ど
リ
オ
F
と
ほ、
史上
どの
時期を
取り
あ
げて
もい
える
こ
と
で、
今
日、
世
界の
通
説で
あっ
て、
い
か
に
文学と
離れ
た
社
会諸
科
学の
学
徒とい
えど
無視し
得ない
とい
うこ
と
が、
ル
ー
ジ
ュ
モ
ン
や
ホ
イジ
ン
ガ、
バ
ジ
ル
・
ウ
ィ
リ
ー
や、
や
や
時
代
的に
下っ
て、
エ
ー
リ
ブ
ヒ
・
フ
ロ
ム
等の
著作をの
ぞ
き
見る
だ
け
で、
少な
くと
も
文
学の
資料と
して
の
絶大
な
有効性は
明ら
か
に
さ
れ
る
で
あ
ろ
う。
が、
そ
れ
に
して
も、
十七
世
紀文学に
つ
い
て
ほ、
特に
こ
の
こ
と
が
い
え
る
の
で
あ
る。
ま
ず、
二
三
の
詩を
こ
こ
で
取
りあ
げよ
う。
第一
の
詩は
リ
チ
ャ
ー
ド・
タ
ラ
シ
ョ
ウ
(
一
六一
二
-一
六
四
九)
が、
キ
リ
ス
ト
の
礫刑を
嘆き
悲し
む
娼婦マ
グ
ダ
ラ
の
マ
リ
ア
の
涙を
費
えて
歌っ
た
詩の一
部分
で
あ
る
-
ひ
と
涙する
女
ヰ
■なこ
見よ
傷つ
き
たる
心
と血
を
流
す脹の
相
呼
応
す
る
さ
ま
を
ひ
と
か
の
女は
燃え
る
呼水か
はて
ま
た
涙
する
炎か
細ウ~
讃え
る
べ
し
聖な
る
泉
し
ろ
お
や
銀が
ね
の
足も
て
る
小
川の
両
親
絶え
ま
な
く
泡立つ
もの
溶け
ゆ
く
水
晶
雪
解けの
丘
尽き
は
て
る
こ
との
ない
もの
さ
こ
そ
偲
な
らぬ
あ
な
た
の
美わ
しの
限
なの
で
す
心
や
さ
し
きマ
グ
ダ
ラ
の
マ
リ
ヤ
あ
な
た
の
美わ
しの
眼は
天
降る
星の
絶え
ま
ない
大
空
と
き
あ
な
た
に
あ
っ
て
は
今
な
お
種
蒔の
季節
あ
な
た
は
星
を
蒔き
そ
の
実
り
は
さ
ぞ
天の
額を
き
らめ
か
せ
て
い
る
光
を
も
か
き
消
すほ
どに
輝くと
思い
こ
むは
あ
や
ま
り
で
涙の
星が
まこ
と
の
星
とい
え
る
の
も
落ちる
と
見え
て
落ち
ない
とこ
ろ
( 95 ) ′レ ネ サ ン ス の 影
空に
ひ
し
め
く
金
銀の
箔と
まさ
し
く
同じ
ゆ
え
そ
う
なの
で
す
地
上の
わ
れ
らの
為で
は
ない
の
で
す
も
の
あ
れ
ほ
ど
高貴な
宝
石に
光る
の
は
あ
な
た
は
天に
向
けて
涙を
お
と
す
天の
胸が
そ
の
優しい
流れ
を
飲み
天の
河
が
白々
と
流れ
る
とこ
ろタロ7
-
ム
そこ
に
あ
な
た
の
涙が
漂い
河の
精髄を
な
す
天上の
水の
い
か
な
る
もの
か
を
わ
れ
らは
学ぶ
ま
さ
に
あ
なた
の
涙
あ
な
た
自身に
よ
っ
て
こ
そ
…
(
中略)
…
こ
の
泉を
堀っ
た
の
は
こ
の
ワ
イ
ン
の
涙を
絞っ
た
も
の
は
キ
リ
ス
ト
の
と
ぎ
すまさ
れ
た
槍
傷つ
い
た
心
に
涙なが
す
脹に
至
る
遣を
教えた
の
も
ま
た
去れ
空
なる
愛よ
控え
よ
邪ま
な
手
キ川
y
ス
ト
小
芋が
い
まこ
~
に
そ
の
白き
お
み
足を
浸さ
れ
た
い
まこ
そ
イエ
ス
が
い
ずこ
な
り
と
ガ
リ
ラ
ヤ
の
山
中
な
り
とさ
迷い
歩か
れ
て
も
は
て
また
更に
け
わ
し
き
道を
進ま
れ
よ
うと
忠節な二
つ
の
泉が
どこ
ま
で
も
お
伴する
二
つ
の
歩く
浴槽
二
つ
の
涙の
動き
携帯
用の
簡便な二
つ
の
大
海原が
(
…
後略…)
テ
ー
マ
の
上で
は
宗教詩で
あ
り
なが
ら、
極め
て
感覚的で
あ
り、
ど
ぎつ
い、
輪郭の
はっ
き
り
し
た
イ
メ
イ
ジ
が
多く
、
何
よ
り
も
比
喩が
奇想天
外で
あ
る。
こ
こ
に
部分
的に
引
用し
た
拙訳以
外
に
も、
マ
グ
ダ
ラ
の
マ
リ
ア
の
「
燕に
ほ
お
え
む
五
月+
ほ
ど
忠
節な
花を
咲か
せ
る
五
月は
ない
と
か、
「
あ
な
た
の
眠に
宿る
四
月+
ほ
どに
「
や
さ
しい
雨を
降ら
せ
る
四
月
は
ない+
とい
り
た
表現が
あ
り、
また
、
「
あ
あ
頗よ
1
純愛
を
咲か
せ
る
床(
註・
花壇の
イメ
イ
ジ
か)
/時よ
ろ
し
く
に
雨の
ふ
る
/眠よ
!
そ
は
純白の
鳩(
註・
純愛の
象徴)
の
巣/あ
な
た
の
そ
の
泉で
洗い
清め
た
鳩の+
な
ど
と
あ
る。
絵
画
的で
、
絵具を
ぽ
て
ぼ
て
と
盛り
上げ
る
よ
うに
ぬ
り
た
て
て
い
く
肌合い
だ
が、
同
じ
絵画
的とい
っ
て
も、
例え
ばこ
の
タ
ラ
シ
ョ
ウ
の
属する
世
代の
一
時
代前
、
代表的なル
ネ
サ
ン
ス
▲7
詩人の
一
人で
あ
る
エ
ドマ
ン
ド・
ス
ペ
ン
サ
ー
の
「
時ほ
今、
が
「
■B
6ト
一 橋論叢 第 六 十一 巻 第 二 号 ( 9 6 )
若き
恋人
た
ちが
装い
も
新し
く
/
舞踊
会に
踊り
さ
ざ
め
く
楽
し
き
五
月
/…
/大地
は
青
草に
、
森は
線の
実に
/草む
ら
は
や
が
て
花と
咲
く
雷に
満ち
て
い
る
/若者は
手に
手を
とっ
て
さ
ん
ざ
し
山
査
子の
小
枝/は
て
ま
た
匂い
秀れ
た
薔薇を
摘み
/家
路を
急
ぎ、
あ
けて
朝
早
くよ
り
/教
会
を
こ
こ
か
しこ
と
花で
飾る
/山
査
子の
菅、
甘き
香りの
エ
ダ
ラ
ン
テ
リ
ア
/薔薇の
花環
、
くれな
い
あ
る
は
また
紅
の
石竹
で
/こ
れ
ぞ
聖者に
通わ
し
き
楽し
み
ス
タ
イル
な
り
や+
(
『
牧人の
暦』
「
五
月
の
歌+
よ
り)
と
い
っ
た
様式
とは
まっ
た
く
趣き
を
異に
して
い
る。
ル
ネ
サ
ン
ス
の
文
芸
世
界は
、
自然界に
従
順で
あ
り、
同
時に
、
自
然を
そ
の
ま
ま
写
す、
べ
た
リ
ア
リ
ズ
ム
とい
うか
、
な
まの
写
実で
な
く、
自然
を
理
想
化、
美化し
た
う
え
で、
い
か
に
も
自
然ら
し
く
描く
。
ル
ネ
サ
ン
ス
の
世
界で
ほ、
自然の
息づ
か
い
と、
人
間の
息づ
か
い
が、
無理
な
く
呼吸
を
あ
わ
せ
あっ
て
い
る。
こ
れ
は、
白
み
も
ぎ
然の
美に
神の
創造の
御業を
見、
恩寵とい
う
神の
大い
な
る
ふ
と
こ
ろ
の
中
に
あ
る
とい
う
安
堵の
中で
、
被造
物の
万
物の
中で
も
長で
あ
る
と、
神に
定め
られ
た
人
間が
、
そ
の
人
間の
最大の
特性で
あ
る
理
性の
カ
を
最大
限に
発揮しっ
つ、
どこ
ま
で
人
間の
業が
達し
得る
か
と
い
う、
期待と
希望に
あ
ふ
れ
て
い
た
時代思
潮の
中に
、
青く
まれ
て
き
た
様式で
あ
る。
こ
こ
に
は、
思い
も
か
けぬ
「
こ
とば+
と
「
こ
と
ば+
の
結び
つ
湖
き、
ぶ
つ
か
り
あ
い、
あ
る
い
は
背反とい
うこ
と
が
ない
。
こ
と
ばと
イ
メ
イ
ジ
の
連鎖は
一
貫し
て
い
て、
途切
れ
や
飛
躍が
ない
。
静か
で
明
る
い。
ボ
ァ
ティ
チ
ェ
リ
の
『
ダイ
ナ
ス
の
誕
生』
を
思わ
せ
る。
こ
れ
に
反し
、
ク
ラ
シ
ョ
ウ
の
様
式を
絵と
し
て
と
ら
え
る
な
ら、
き
わ
め
て
反
自
然的
、
反
空
間
的、
反
時間的な
絵とい
え
る。
必
然
的に
人工
的で
抽象的な
世
界と
なっ
て
い
る
とい
え
る
が、
し
か
し、
こ
の
印象は
、
強烈な
感
覚性
、
官能性に
よ
っ
て
打ち
消さ
れ、
の
り
こ
え
られ
て
い
る。
反自然的
、
反
時
間的とい
う
定立
も、
こ
の
意味で
は
逆に
不
正
確、
い
や
不正
確どこ
ろ
か
誤り
で
あ
る、
と
い
う
こ
と
に
な
る。
つ
ま
り、
「
反自然的+
とい
っ
て
も、
自然の
秩序を
一
時的に
撹乱し
て
も
白然の
美を
こ
の
上
な
く
極限に
ま
で
捕え
、
そ
れ
を
精神
の
美と
呼応さ
せ
つ
つ、
そ
の
激烈な
感
覚へ
の
実の
襲撃に
よ
っ
て
ひ
き
お
こ
さ
れ
る
官能的高揚を
、
精神の
、
信仰の
高揚
へ
と
ひ
き
あ
げ
る
とい
う
意味で
、
む
し
ろ、
自然に
徹し
すぎ
て
い
る、
い
わ
ば
「
過
剰自然+
「
過
剰空
間+
「
過
剰時間+
な
の
で
あ
る。
タ
ラ
シ
ョ
ウ
の
詩は
ど
れ
を
とっ
て
も、
も
し
絵に
する
な
ら
ば、
か
な
りグ
ロ
テ
ス
ク
な
装
飾過
多の
絵に
なる
だ
( 9 7 ) ル ネ サ ン ス の 影
ひ
と
ろ
う。
『
涙する
女』
と
題さ
れ
る一
ぶ
くの
絵に
は、
次の
様
な
女の
肖
像が
描か
れ
る
だ
ろ
う
-そ
の
顔の
目に
あ
た
る
あ
た
り
に
は、
雪を
頂く丘
、
輝く星
、
つ
きぬ
泉が
描きこ
まれ
、
頗に
は
五
月の
草花が
い
っ
ぱい
に
措か
れ
て
い
る。
鼻に
は
な
すぴ
や
きゅ
う
り、
髪に
は
ぶ
ど
うを
もっ
て
人
物画
を
描い
た
奇想天外
派の
巨人
、
ア
ル
チ
ン
ボ
ル
ド
を
思わ
せ
る。
だ
が、
こ
こ
で
注
目
し、
注意し
て
お
き
た
い
こ
と
が
あ
る。
そ
れ
は、
い
か
に
グ
ロ
テ
ス
ク
で
装
飾過
多で
あ
り、
奇想天
外
で
あっ
て
も、
い
か
に
「
過
剰空
間+
の
「
反空間的+
で
あっ
て
も、
すべ
て
は一
点に
、
こ
の
ほ
ちき
れ
ん
ば
か
り
に
中
味の
つ
まっ
た、
ご
て
ご
て
し
た
構築物の
全
体は
一
つ
の
構図
に、
一
つ
の
ヴィ
ジ
ョ
ン
に、
収赦して
い
る、
とい
うこ
と
で
あ
る。
一
つ
の
点、
一
つ
の
ヴィ
ジ
ョ
ン
と
は、
す
な
わ
ち、
イ
エ
ス
で
ス
タ
イル
あ
り、
神の
国で
あ
る。
こ
の
様式こ
そ、
巷間に
誤っ
て
使わ
れ
る
こ
との
多い
、
「
バ
ロ
ッ
ク+
なの
で
あ
る。
二
番目に
取り
あ
げる
詩は
、
ジ
ョ
ー
ジ
・
ハ
ー
バ
ー
ト
(
一
五
九三
-一
六
三
三)
の
『
徳』
と
題す
る
短
詩で
あ
る
-
徳
上ノ
ら
らか
甘美な
日
よ
涼し
く
穏や
か
に
陽も
あ
か
る
く
地
と
空の
婚礼
し
か
し
夕と
も
なれ
ば
露が
あ
な
た
の
為に
疾しょ
う
あ
なた
が
死ぬ
ぺ
き
定
め
なの
を
か
お
り
た
か
甘美い
薔薇よ
華麗に
燃える
真紅の
色が
慌しい
世の
人
の目を
見張らせ
る
しか
し
あ
な
た
は
常に
自分の
墓に
根を
お
ろ
して
い
る
あ
な
た
も
また
死ぬ
さ
だ
め
上ノ
ら
ら
か
よノ
る
わ
し
甘
美な
春
よ
甘
美い
日々
と
薔
薇に
あ
ふ
れ
て
ス
Lワイー
ト
香料を
びっ
し
り
と
詰めた
函
しか
し
lノ
た
わ
た
し
は
詩に
奏で
る
あ
なた
の
終曲を
そ
し
て
すべ
て
が
死ぬ
さ
だ
め
lノ
つ
く
た
だ
ひ
とつ
甘美しい
徳高い
魂だ
けは
き
ょ
く
乾燥さ
せ
た
材
木に
似て
潰え
ない
せ
界が
すべ
て
石
炭と
化し
て
も
い
の
ち
こ
れ
だ
け
は
生
命を
失
わ
ない
(
警
漢字で
「
甘
美+
と
あ
る
とこ
ろは
原
語で
は
種々
の
意
味・
用
法で
使わ
れ
て
い
る
とこ
ろの
、
¢
司e
et
、
で
あ
る。
「
香料+
の
原
語も
■
ロ
弓e
et
∽
-
で
あ
る。
)
鰯
「
+
一 橋翰叢 第六 十一 巻 第二 号 ( 98 )
大
変お
だ
や
か
な、
静か
で、
澄明
なス
タ
イ
ル
で
あ
る。
む
し
ろ、
ル
ネ
サ
ン
ス
的で
は
ない
か、
と
考え
る
む
き
も
あ
る
か
も
知れ
ない
。
だ
が、
そ
れ
は
単に
表面
的
な
特性に
す
ぎ
ない
。
た
し
か
に、
全
体
的に
お
ちつ
い
た、
調
和あ
る
世
界像に
くる
ま
れ
て
い
る。
こ
うい
う
感性は
ハ
ー
バ
ー
ト
の
特
徴で
は
あ
る、
だ
が
唯一
の
もの
で
ほ
ない
。
ハ
ーバ
ー
ト
に
も、
タ
ラ
シ
ョ
ウ
と
共
通
する
もの
が
あ
る
こ
と
は、
両
者の
作品
を
此
較検
討し
て
い
く
とか
な
り
明
らか
だ
とい
え
る。
こ
の
一
欝の
短
詩の
中で
特に
目
立つ
こ
と
は
次の
諸
点
で
あ
ろ
う。
第一
に
「
こ
と
ば+
の
問
題
だ
が、
「
甘
美+
(
原
語は
.
∽
弓ee
t
J
と
「
死+
(へ
巴e
J
の
対比
で
あ
る。
各節に
こ
の、
お
よ
そ
こ
れ
以
上の
正
反
対
立
する
も
の
は
あ
る
まい
と
思
わ
れ
る
「
こ
と
ば+
(
「
甘
美+
は
「
生+
の
い
い
か
え、
「
生+
の
種
々
な
現
象面
と
して
使わ
れ
て
い
る、
と
解
釈
すべ
き
で
あ
ろ
う)
が、
こ
れ
だ
け
短い
詩に
頻出する
と
こ
ろ
に、
ハ
ー
バ
ー
ト
の
感性が
うか
が
えヾ
そ
れ
は
「
バ
ロ
ッ
ク
的
感
性+
な
り
「
バ
ロ
γ
ク
的想
像力+
ない
し
「
創造
性+
と
通
じ
る
もの
だ
と
い
え
る。
こ
の
「
死+
は、
最後の
節、
最後の
行で
「
生+
に
転化
する
。
こ
の
と
き、
「
生+
と
し
て
の
「
甘
美+
は
「
死+
に
転落する
。
「
甘美な
生+
の
「
死+
は
「
魂+
の、
「
生
に
と
細り~
っ
て
の
死+
の
「
生+
で
あ
る。
「
死+
は
こ
う
し
て
「
甘
美な
生+
そ
の
も
の
と
なる
。
「
甘美なる
死+
-こ
の
人
間至
高
の
願望
は
二
つ
の
局
面を
もっ
て
い
る。
第一
に、
神秘的
・
狂
信的
キ
リ
ス
ト
者の
死と
神の
国へ
の
憧れ
。
こ
れ
は
歴史の
問
題と
し
て
で
な
く
人
間性の
問題と
して
考え
れ
ば、
キ
リ
ス
ト
者に
、
或は
特
定の
宗教
・
信仰に
限ら
れ
る
もの
で
は
な
く、
「
時間+
の
中を
漂っ
て
消え
る
人
間存在が
渇
望
す
る、
「
超
時間性+
、
何らか
の
「
絶対
者+
、
「
唯一
者+
へ
の
憧
憬と
崇
拝で
あ
ろ
う。
「
甘
美な
る
死+
の
もつ
第二
の
局面
は
官
能の
陶酔で
あ
る。
限
り
ない
情欲の
至
高点
に
訪れ
る
甘
美な
終始
を、
十七
世
紀の
恋愛詩人
、
と
り
わ
けジ
ョ
ン
・
ダン
(
一
五
七二
-一
六
三一
)
ほ
そ
の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
期に
属する
恋
愛詩
に
お
い
て、
「
死+
と
名づ
け
る。
こ
こ
で、
ジ
ョ
ル
ジュ
・
バ
タ
イ
ユ
が
『
文学と
意』
の
中で
述べ
て
い
る
次の
文
を
付
加
引
用する
こ
と
は
意
味が
ある
と
思
う
-「
エ
ロ
チ
ス
ム
とは
、
死を
臍する
ま
で
の
生の
讃歌で
は
ない
だ
ろ
うか
。
性欲に
は
すで
に
死が
前提と
して
ふ
く
まれ
て
い
る。
単に
新た
に
生
ま
れ
る
も
の
た
ち
が、
消え
去っ
た
も
の
た
ちの
あ
と
を
う
けつ
ぎ、
そ
れ
に
とっ
て
か
わ
る
とい
う
意味か
ら
だ
け
で
ほ
な
く、
性欲
( 9 9 ) ル ネ サ ン ス の 影
とは
生
殖し
ょ
うと
す
る
もの
の
生を
危ふ
く
する
もの
だ
か
ら
で
あ
る。
生
殖する
と
は、
消滅する
こ
と
に
ほ
か
な
ら
ない
。
ヽ
ヽ
…
性欲の
根底に
は
自我の
孤立
性の
香定が
横た
わ
っ
て
い
る。
ヽ
ヽ
つ
ま
り
こ
の
自我が
、
自己の
外に
は
み
出し
、
自己
を
超出し
て、
存在の
孤
独
が
消滅する
抱擁の
中に
没入
する
時、
は
じ
(
l)
めて
飽和感を
味わ
うこ
と
が
で
きる
。
+
そ
し
て、
タ
ラ
シ
ョ
ウ、
十
七
世
紀バ
ロ
ッ
ク
最大の
詩人の
一
人で
あ
る
リ
チ
ャ
ー
ド●
タ
ラ
シ
ョ
ウ
は、
殉教に
恋い
こ
が
れ、
ム
ー
ア
人の
只
中
へ
単身布
教に
赴き
、
天
使が
槍を
心
臓に
突き
さ
す
白昼の
幻
想を
見て
、
法悦の
境地
に
浸っ
た
ア
ヴィ
ラ
の
聖テ
レ
サ
を
讃
え、
次の
よ
うに
「
甘美な
死+
を
うた
い
あ
げる
1
(
2)愛
が
テ
レ
サ
の
心に
御手
をお
触れ
に
な
る
と
見よ
心
臓は
音高く
脈動し
激しい
熱で
燃え
死を
求める
の
ど
の
渇き
冷た
い
千の
死を
一
つ
の
杯に
飲み
は
すほ
ど
の
渇きに
燃え
る
うぺ
な
る
か
な
テ
レ
サ
の
息ほ
火
そ
の
か
細い
胸は
食埜な
望み
に
盛り
あ
が
る
や
さ
し
い
母
の
ロ
づ
け
か
らは
求めて
も
得ら
れ
る
こ
との
ない
もの
を
あ
あ
幾度お
ん
み
の
求め
る
こ
と
か
甘美な
妙な
る
苦
痛を
耐えが
た
き
悦楽を
死を
そ
の
死を
死ぬ
もの
は
イ
エ
ス
の
死を
恋
うる
も
の
再び
死し
更に
ほ
永久に
殺致さ
れ
る
こ
と
を
乞い
願うも
の
幾度か
廼り
幾度か
死
す
生
きる
と
は
他な
ら
ず
死ぬ
こ
と
を
繰り
返し
続け
ん
が
た
め
あ
あ
お
ん
み
の
優し
き心
臓の
い
か
に
心こ
めて
甘美な
る
殺
教者
あ
の
イエ
ス
の
槍に
口
づ
け
せ
ん
と
ゝカー.
こ
の
よ
うな
、
官能的
陶酔の
極致
と、
魂の
彼岸へ
の
飛
翔、
絶対の
信仰との
表裏
一
体
性
は、
す
な
わ
ち、
い
う
な
れ
ば
「
エ
ロ
ス
+
な
り
「
エ
ロ
チ
ズ
ム
+
の
真の
意味が
、
最も
明
瞭
に
喚ぎ
わ
け
られ
る、
バ
ロ
ブ
タ
的体
臭の
強い
詩文ほ
、
何と
い
っ
で
も
ジ
ョ
ン
・
ダン
の
宗教詩(
こ
れ
を
初期の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
的
詩と
区
別
して
バ
ロ
ッ
ク
的と
する
の
が
筆者の
説で
あ
る)
で
あ
ろ
う
1
β4 J
「
一 橋論叢 第六 十 一 巻 _ 第二 号 ( 1 0 0)
心か
ら
あ
な
た
を
愛し
て
い
る
の
で
す
心か
ら
あ
なた
に
愛
さ
れ
た
い
の
で
す
だの
に
私は
あ
な
た
の
恋仇と
結ば
れ
て
い
る
二
人
を
離婚さ
せ
て
下
さ
い
引
き
離し
て
下さ
い
結び
目
を
断っ
て
下
さ
い
そ
し
て
私
を
あ
なた
の
許へ
連れ
さっ
て
閉じこ
め
て
下さ
ヽ-∨ぁ
なた
が
私
を
と
りこ
に
し
て
下さ
ら
ない
と
私は
自由の
身
に
な
れ
ませ
ん
ゝ亡
†
▲
ぁ
なた
が
私を
強
姦し
て
下さ
ら
な
けれ
ば
純廉い
身体に
な
れ
ない
の
で
す
い
うま
で
も
な
く、
こ
こ
で
い
う
「
あ
な
た+
とは
三
位一
体の
「
神+
の
こ
とで
あ
る。
こ
うい
う
物の
考え
方、
こ
うい
う
表現
様式は
、
バ
ロ
ッ
ク
詩人の
まっ
た
くの
創造で
ない
こ
と
は
指摘する
ま
で
も
ない
。
信仰と
は
神との
聖なる
結婚で
あ
り、
教会は
花
嫁で
あ
り、
「
エ
ロ
ー
ス+
とは
地
上の
も
の
が
天
上
を
恋い
した
う
魂の
上
昇運
動の
こ
とで
あ
る
とい
うこ
と
は、
キ
リ
ス
ト
教社会た
る
西
欧の
「
愛+
の
観念の
根本
で
あ
る。
しか
し、
か
か
る
「
甘
・美なる
死+
、
「
人
間の
霊
魂の
神へ
の
愛、
また
神の
人
間へ
の
舶
フ
ォ
ル
ム
β
愛の
欲
求+
が
「
肉の
愛+
と
同じ
様式
を
もつ
こ
と、
官能そ
の
も
の
で
あ
る
こ
と
は、
「
エ
ロ
+
ス+
な
る
愛が
人
間
中
心
の
愛、
自己
中心
室の
信仰で
あ
る
こ
と、
つ
ま
り
は
カ
ソ
リ
ッ
ク
ア
ガ
的で
あっ
て、
ル
タ
ー
の
「
神
中心
の
信仰形
態に
お
ける
神の
.
ヘ
ー愛+
に
よっ
て
十六
世
紀に
はっ
き
り
と
克服すべ
き
もの
、
対
立
すべ
き
もの
と
規定さ
れ
た
思
想で
あ
る
こ
と
と
は、
深い
つ
なが
り
が
あ
る。
そ
して
、
こ
の
こ
と
と、
い
わ
ゆ
るバ
ロ
ッ
ク
文
芸に
お
け
る
「
霊
的なる
官能性
、
官能的な
る
霊
性+
とで
もい
うぺ
き
思
考と
感
性ほ
、
密接な
関係
に
あ
る
と、
推論で
き
る。
さ
て、
ジ
ョ
ー
ジ
・
ハ
ーバ
ー
ト
の
詩、
『
徳』
に
立
ち
戻ろ
ぅ。
こ
の
詩の
中で
特に
目
立つ
諸
点の
第二
の
も
の
は、
最初
に
と
りあ
げた
タ
ラ
シ
ョ
ウ
の
詩と
同
様、
イ
メ
イ
ジ
の
隈取
り
の
鮮や
か
さ、
グロ
テ
ス
ク
で
あ
る
とい
っ
て
過
言で
ない
点で
あ
る。
こ
の
詩を
、
例に
よ
っ
て、
一
つ
の
絵に
換言せ
しめ
た
易合
、
二
つ
の
映
像が
仝
キ
ャ
ン
バ
ス
を
二
分
して
、
そ
の
重
要
な
位置を
占め
る
こ
と
で
あ
ろ
う。
岨
と
腐肉と
白
骨の
山
な
す
土
中に
怪し
げ
な
極彩
色の
線の
茎と
根を
お
ろ
し、
空
中に
ぽ
っ
か
り
と
艶めか
しい
真紅の
顔を
に
■こ
や
か
な
笑い
の
中に
顕
( 1 0 1) ル ネ サ ン ス の 影
示し
て
い
る一
本の
寄薇
。
そ
し
て
も
う一
つ
は、
神の
栄
光を
し
る
す、
ぎ
ら
ぎ
ら
と
輝く
真昼の
太
陽を
背に
措か
れ
た、
一
本の
よ
く
乾煉さ
せ
た
木材
。
そ
の
茶褐色
、
とい
うよ
り
は、
お
そ
ら
く
太
陽の
光に
染まっ
て
黄金
色に
彩ら
れ
て
い
る
で
あ
ろ
う
木材の
中
央部は
え
ぐ
り
と
られ
て
い
て、
そこ
に、
人
間
の
魂を
表わ
す、
一
個の
ハ
ー
ト
型の
イ
メ
イジ
が
棋めこ
まれ
て
い
る。
美術
史で
い
え
ば、
中世
来の
「
エ
ム
ブ
レ
ム
+
の
様
式で
あ
り、
ま.
た、
そ
の
様式の
伝統に
の
っ
とっ
て
独
白の
グ
ロ
テ
ス
ク
な
世
界を
開拓して
い
っ
た
十
六
-七
世
紀の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
(
前バ
ロ
ブ
タ
期)
画
家、
ア
ル
チ
ン
ボ
ル
ド
や
ぎ
ッ
シ
ミ
ま
た、
現
代の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
画家
と
もバ
ロ
ッ
ク
と
もい
わ
れ
る、
サ
ル
ヴァ
ド
ー
ル
・
ダ
リ
の
絵に
類す
る
とい
える
。
こ
の、
感覚の
シ
ョ
ッ
ク
に
よ
る
心
理
的そ
し
て
逆説的効果を
め
ざ
すあ
ま
りに
も
よ
く
知ら
れ
た
例は
、
こ
れ
も
や
は
りジ
ョ
ン
・
ダン
の
詩の
、
次の
一
行とい
え
よ
う
1
白骨に
か
ら
ま
る一
本の
金
髪の
腕輪
で・
S・
エ
リ
オ
ッ
ト
が
こ
の
一
行を
め
ぐっ
て
述べ
た
ダ
ン
及び
同
時代の
イ
ギ
リ
ス
の
詩人た
ちの
特
殊な
様式
、
烈しい
個性に
つ
い
て
語っ
た
文
章は
、
こ
こ
で
引
用
する
に
ほ
気の
ひ
ける
ほ
ど
多くの
人が
度々
用い
た
も
の
で
あ
る
が、
新た
に
も
う一
度ふ
り
返る
価値は
あ
ろ
う
1「
…
ダ
ン
の
最もよ
く
成
功し
た
特徴的
な
効果の
幾つ
か
は、
簡潔な
言葉や
思い
が
け
な
い
対
照に
よっ
て
生み
だ
さ
れ
て
い
る。
白
骨に
か
ら
まる
一
本の
金
髪の
腕輪
こ
こ
に
は
最も
力
強い
効果が
「
金
髪+
と
「
白骨+
とい
う
思
い
が
け
ない
対
照
をな
す
連想に
よっ
て
生
ま
れ
て
い
る。
…+
(
「
形而上
派
詩人
論+
一
九ニ
ー
年ロ
ン
ド
ン
タ
イ
ム
ズ
文
芸
付
録誌上に
発表さ
れ
た
もの
。
)
更に
こ
の
さ
き
で
エ
リ
オ
ッ
ト
は、
ダン
一
派の
詩人た
ちは
「
思
考を
寄
薇の
香り
をか
ぐ
よ
うに
じか
に
感じて+
い
た、
ダン
に
とっ
て
「
思
考は
ひ
と
つ
の
生の
体
験で
あっ
た+
、
つ
ま
り、
思
考を
思
考
す
る
の
で
な
く
感性で
思考した
と
の
ぺ、
続い
て、
こ
れ
もよ
く
知られ
て
い
る
次の
よ
う
な
言葉で
十七
世
紀の
想像力の
特徴を
巧み
に
表現
して
い
る
の
だ
が、
そ
こ
に
述べ
ら
れ
て
い
る
こ
と
は、
ポエ
ー
シ
1
十七
世
紀固
有の
とい
うよ
り
は、
ま
さ
に
「
詩+
の
何た
る
か
を
い
い
あ
ら
わ
して
い
る
もの
で
あ
る。
「
普通の
人
間ほ
恋
を
し
た
りス
ピ
ノ
ザ
を
読ん
だ
り
する
。
こ
れ
らの
経験は
相互に
何ら
関係を
持た
ない
。
タ
イ
プ
ラ
イ
タ
ー
の
騒音や
料理の
匂
い
も
関係を
持た
ない
。
詩人の
精神に
お
い
て
はこ
れ
らの
経
誠
「
一 橋論叢 第六 十 一 巻 第 二 号 ( 1 0 2)
験は
つ
ね
に
新た
な
全
体を
形づ
くっ
て
い
る。
…
十
七
世
紀の
詩人
た
ち
は
い
か
なる
種類の
経
験で
も
食る
こ
と
が
で
きる
感
受性の
メ
カニ
ズ
ム
を
もっ
て
い
た。
彼ら
は
彼らの
先
輩(
十
六
世
紀の
劇作家)
と
同
様、
素朴で
、
技巧
的で
、
難解で
、
フ
ァ
ン
タ
ス
テ
ィッ
ク
空
想
的で
あ
る。
+
ハ
ー
バ
ー
ト
の
『
徳』
に
み
られ
る
著しい
特
性が
、
十七
世
紀の
詩的想像力の
特性で.
あ
る
らしい
こ
と
は、
こ
れ
まで
の
論述で
そ
の
お
お
よ
そ
を
伝え
得た
と
思
うが
、
.こ
こ
に
至っ
て
特性の
第三
点、
十
七
世
紀的
想
像力の
、
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
(
前
バ
ロ
ァ
ク)
期及
びバ
ロ
ッ
ク
期の
文
学の
核心に
つ
い
て
論ず
る
段階に
き
た
とい
え
よ
う。
十七
世
紀の
詩が
よっ
て
た
っ
て
い
る
と
こ
ろの
もの
、
そ
れ
メ
タ
フ
ァ
は
隠喩で
あ
る。
一
篇の
詩か
ら
隠喰を
取
り
去り
、
「
思
い
が
けな
い
対
照を
な
す
連想+
とし
て
の
強烈な
イ
メ
イ
ジ
を
除.く
と、
あ
と
に
は
何
も
残ら
ない
、
深
遠な
人
生の
智慧
を
説くロ
ジ
ッ
ク
も、
美しい
自然描写
も
ない
-とい
え
る
詩が
十
六
世
紀末か
ら
十
七
世
紀前半に
か
けて
は
そ
の
大
勢を
し
め
て
い
る. 。
とい
え
ば、
誰し
も
が
す
ぐさ
ま、
同じ
よ
うな
現
象を
呈
して.い
る
も
う一
つ
の
文
学世
界、
現
代
詩に
思い
をい
た
すで
ぁ
ろ
う。
た
しか
に、
詩の
成
香は
詩人の
隠
喩の
運
用の
成
香
油
に
か
かっ
て
い
る
と
い
っ
て
も
い
い
す
ぎで
ほ
な
い。
小
説の
場
合と
異り
、
構成
力は
二
の
次に
なる
。
実際
、
全
体の
構築は
さ
し
て
秀れ
た
もの
で
ない
の
に、
た
だ
美しい
一
行の
た
め
に
記
憶さ
れ
て
い
る
詩とい
うもの
が
あ
る。
そ
し
て、
そ
の
美し
い
ない
し
秀れ
た一
行は
お
お
む
ね一
つ
の
隠喩そ
の
も
の
で
あ
る。
か
か
る
隠
喩と
肩を
な
らべ
る
こ
との
出来る
も
の
は、
イ
メ
イ
ジ
だ
けで
あ
る。
た
だ一
行の
た
め
に
(
そ
して
こ
の
場合
そ
れ
は
隠喰で
な
くイ
メ
イ
ジ
で
あ
る
が)
記憶さ
れ
て
い
る
詩
の
好例は
先
きに
引
用し
た
白骨に
か
ら
まる
一
本の
金
髪の
腕輪
を
第六
行に
もつ
、
ダン
の
『
聖な
る
遺物』
で
あ
ろ
う。
エ
リ
オ
ッ
.■ト
の
絶賛に
もか
か
わ
ら
ず、
そ
の
他の
部分は
、
む
し
ろ
邪
魔だ
と
い
える
。
と
も
か
く
も
隠
喩は
詩の
生
命で
あ
る。
詩
を
生
か
し、
あ
る
い
は
殺す
。
詩に
あっ
て
は、
隠
喩は
単に
物
と
物の
此
較で
は
な
い。
単な
る
類似性の
指摘で
は
な
い。
い
い
か
え、
で
ほ
ない
。
代
替物で
は、
さ
ら
さ
ら
な
い。
詩に
あ
っ
て
は、
「
隠喩は
すべ
て
実
在で
あ
る。
+
ギ
ャ
ス
ト
ン
・
バ
シ
ュ
ラ
ー
ル
は、
詩の
想
像力を
解明
す
る
こ
と
を
試み
た
『
蝋燭
の
煩』
の
中
で
次の
よ
うに
い
っ
て
い
る
-「
隠
喩は
すべ
て
( 1 0 3) ル ネサ ン ス の 影
実在で
あ
り、
実在は
、
そ
れ
が
見つ
め
ら
れ
て
い
る
もの
で
あ
る
ゆ
え
に、
人
間的
尊厳の
ひ
とつ
の
隠喩で
あ
る。
ひ
とほ
、
(
3)
実在を
隠喩化し
な
が
ら
そ
れ
を
見つ
める
。
+
十
七
世
紀の
詩的想
像力
、
十
七
世
紀の
マ
ニ
エ
リ
ス
ム
=
バ
ロ
ッ
ク
文
学の
主
要な
る
様式の
一
つ
が、
隠喩そ
の
も
の
で
あ
る、
とい
うこ
とは
、
ダン
の
次
の
よ
う
な一
篇の
詩の
存在に
着目す
る
こ
と
で
も
十
分
理
解さ
れ
る
で
あ
ろ
う。
こ
の
詩は
十
七
世
紀文学
研
究家に
よ
っ
て、
「
一
つ
の
拡
張さ
れ
た
隠
喩+
の
好例と
さ
れ
て
い
る。
別
離を
前に
し
た
愛し
あ
う二
人
(
恋
人
と
も
夫
婦と
も、
い
ずれ
で
もよ
い)
を
幾何
学の
一
つ
の
道
具で
ある
コ
ン
パ
ス
の
二
脚に
た
と
える
こ
の
詩の
、
第七
、
八、
九
節が
次に
引
用する
部分で
あ
る
-
た
と
え
二
人の
魂が
二
つ
と
して
も
堅く
結ば
れ
たコ
ン
パ
ス
が
二
つ
で
あ
る
の
と
同じ
き
み
の
魂は
固定し
た
脚だ
うご
か
ぬ
よ
うで
や
は
り
動く
も
う一
つ
の
脚の
動きに
つ
れ
て
固定し
た
そ
の
脚は
中心
に
静止
して
い
る
が
も
う一
つ
が
遠く
を
旅して
あ
る
くと
か
ら
だ
を
傾け
耳を
すま
し
帰っ
て
くる
と
また
まっ
すぐに
立つ
き
み
は
ぼ
くに
とっ
て
そ
の
固定し
た
脚
ぼ
く
は
も
う
片方の
脚の
よ
うに
傾い
て
走る
きみ
が
しっ
か
り
身を
守っ
て
い
れ
ば
ぼ
く
ほ
正
し
く
円
を
描
き出発点に
また
ちゃ
ん
と
立
ち
も
どる
こ
と
が
で
き
る
の
だ
ダン
の
詩は
、
同じ
奇想天
外な
隠喩と
い
っ
て
も、
逸か
に
知
き
性的で
、
理
窟っ
ぼ
い。
敬虔な
魂を「
よ
く
乾塊さ
せ
た
材木+
と
して
把え
るハ
ー
バ
ー
ト
の
場合は
、
卑近
な、
日
常的な
も
の、
こ
の
世
的な
もの
と
は
正
反
対の
聖な
る
もの
を、
き
わ
め
て
身近か
な、
親し
み
や
すい
イ
メ
ー
ジ
で
把える
。
誓え
る
も
の
と
誓え
ら
れ
る
もの
の、
日
常言
語の
世
界に
お
ける
差
異、
隔絶性が
、
同
じょ
うに
大き
い、
地
と
空
ほ
ど
に
か
け
離れ
て
い
る
タ
ラ
シ
ョ
ウ
で
は
あ
る
が、
「
甘
美な
死+
の
官
能
性
はハ
ー
バ
ー
ト
よ
り
濃厚で
あ
り、
同
時に
また
、
マ
グ
ダ
ラ
の
マ
リ
ア
の
涙する
眼を
「
携帯用の
簡便な二
つ
の
大
海原+
と
うた
う奇想天外
性は
、
ダン
の
特性に
通
じる
。
∂
こ
の
よ
うに
、
一
口
に
十七
世
紀的イ
ギ
リ
ス
の
詩文
単に
み
朗
「
一
橋論叢 第六 十一
巻 第二 号 ( 1 04)
ら
れ
る
隠喩の
豊か
さ
とい
っ
て
も、
各人
各様で
あ
る
が、
一
見、
相
異る
もの
同
志に
み
え
る
二
つ
の、
あ
る
い
ほ
複数の
物
ない
し
現
象で
あ
り
な
が
ら、
神の
御業で
あ
る
こ
の
大宇宙に
お
ける
そ
れ
ぞ
れ
の
存在の
機能
、
とい
う
光に
用し
て
み
れ
ば、
そ
れ
ぞ
れ
照応し
あ
うの
だ、
そ
の
照
応、
呼応し
あ
う
万
象の
ぁ
り
方
を、
日
常の
散文世
界で
は
隠れ
て
い
る
そ
の
呼応を
、
わ
ざ
ぁ
ばい
て
い
くの
が
詩人の
業だ
、
とい
う
考え
が、
「
考え+
とか
「
思想+
と
か、
明
庶な
形を
なさ
ずと
も
潜在的に
、
彼
等の
背後に
、
一
つ
の
精神
的な
共
通の
母
胎と
し
て
あっ
た
ら
し
い、
とい
うこ
と
は
指摘で
きる
。
十六
-七
世
紀の
詩人た
ち
が
呼吸
して
い
た
ヨ
ー
ロ
ッ
パ
の
精神風土の
中で
は、
隠
喩
は
単なる
類似や
比
較と
い
う
表現の
問
題で
は
なか
っ
た。
ク
ま
なこ
ヲ
シ
日
り
が、
「
傷つ
きた
る
心
と
血
を
流す
眼の
粕
呼
応
す
る
さ
ま+
を
「
見よ+
とい
うと
き、
その
「
見る+
は、
単に
視
0′
ア
リ
デ
イ
党生
理
上の
こ
とが
らで
は
な
く、
「
実
在+
を
認
識す
る
こ
と
で
あ
り、
い
か
に
物理
現
象と
し
て
の
水が
炎と
燃える
こ
と
が
謝
なか
ろ
う
と、
タ
ラ
シ
ョ
ウ
の、
ひ
い
て
は
十七
世
紀の
詩人の
認識に
あ
っ
て
ほ、
「
噴水+
は
「
燃え+
、
「
炎+
は
「
涙する+
の
で
あ
る。
(
1)
引用
は
山
本
功
訳
紀伊
国
屋
書房
版に
よ
る。
+
T
一リ
ス
ト
(
2)
訂eQ
とは
、
三
位一
体
と
し
て
の
キ
リ
ス
ト
の
愛。
「
愛+
と
し
て
も
よか
ろ
う。
(
3)
引
用ほ
渋沢
孝
輔訳
現
代
思
潮
社
版に
よ
る。
こ
の
よ
うな
思
考と
感
情は
そ
も
そ
も
どの
よ
うな
精神的風
土を
示し
て
い
る
の
か
?
ど
の
よ
うな
時代
思
潮の
中に
育っ
た
もの
なの
か
?
次章で
は
こ
の
点に
論点
を
絞っ
て
考察し
た
い。
(
未完)
(
一
橋大
学
専任
講師)
Top Related