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ATLAS 実験用TGC 検査設備のための

データ収集・解析ソフトウェアの開発

物理学専攻(粒子物理学研究室)中畝 佑輔

平成14年2月20日

1. ATLAS 実験2.TGC( Thin Gap Chamber )3.検査設備4.データ収集( DAQ )システムの設計・開発5.まとめ

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LHC加速器

2006 年稼動 スイスの CERN にて建設 大型陽子・陽子衝突型加速器 周長 27km 重心系 14TeV の世界最高エネルギー 25ns のバンチ(粒子束)衝突間隔 1034 cm-2 s-1 の高ルミノシティ(ビーム輝

度)TeV エネルギー領域の

素粒子物理学の研究が可能。

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ATLAS検出器

LHC加速器に設置 直径 22m 、長さ 44m 、総重量 7000t 内部飛跡検出器 カロリーメータ(電磁、ハドロン) ミューオンスペクトロメータ  (トリガー発生用、ミューオン飛跡精密測

定用)

22m

44m

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ATLAS実験で目指す物理

SUSY (超対称性粒子)の探索 Higgs 粒子の探索 ....

    標準模型で予言されている素粒子の中で    唯一発見されていない粒子

Higgs 粒子 ATLAS 検出器では 100GeV ~ 1TeV 探索可能

ミューオンが検出の鍵となる!!!

g

gH

t,b

Z

Z

μl ( )+ +

μl ( )+ +

μl ( )- -

μl ( )- -

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ミューオントリガー検出器

バレル部: RPC ( Resistive Plate Chamber )

エンドキャップ部: TGC ( Thin Gap Chamber )

ATLAS 日本グループはミューオントリガー検出器であるTGC の製作を担当している。

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TGC (Thin Gap Chamber)

< TGC への要求> 時間分解能 ~ 25ns 検出効率 99% 以上 ハイレート耐性 1kHz/cm2

< TGC の基本パラメータ> アノードワイヤー間隔       1.8 mm ワイヤー・カソード間隔      1.4 mm 印加電圧               3.1kV 充填ガス       CO2 + n-Pentane( 55 :45 ) ガスゲイン             ~ 106

<断面図>

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TGC の構造大 き さ    1.5m×1.3mギ ャ ッ プ        1.4mm ↓ギャップを 100μm 以下     の精度で保つ      ↓  ワイヤーサポート  ボタン型サポート       ↓  この部分は不感領域

TGC は 2 層、 3 層を1単位。   2 層⇒ Doublet 3 層⇒ Triplet

⇒  強度、平面性を保つ

TGC

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TGCの量産と検査

高エネルギー研究機構( KEK )にて   Doublet : 384 台  Triplet : 96 台 計 480 台  が量産される。

量産された TGC が ATLAS 実験で要求される性能を持っているか検査することは必要不可欠!

TGC は神戸大学の専用の検査設備に運ばれ、  検査に合格したものだけが CERN に輸送される。

約 2m2 の大きさの TGC を 480 台、 3 年に渡って検査するため、大規模な設備とシステムが必要。そこで用いられる

データ収集( DAQ : Data Acqusition )システム

もまた、大規模なものが必要となり、高い処理能力が要求され、その性能が鍵となる。

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検査設備

検査項目 ガスリークテスト HV テスト 宇宙線テスト⇒   3週間で行う。

ガスリークテスト ガスリークがあると不純物の混入により検出効率の低下の恐れあり。

n-Pentane は有害、可燃性。

TGC に 60mmH2O の圧力をかけて封じ込める。  ⇒ 5 分間で 10mmH2O 以上低下しなければ合格。

HV テスト 運搬等でのワイヤー切れがないか調べる。 ハンダ面の汚れ、接着剤の漏れがあるとリーク電流

大。

TGC に CO2+n-Pentane (本番と同じガス)を流し、   3.3kV の高電圧を印加。  ⇒印加できれば、リーク電流をモニタ。  ⇒リーク電流が 1μA 以下であれば合格。

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宇宙線テスト(1)

宇宙線ミューオンを用いて TGC の検出効率、その一様性を測定。

ワイヤー・ボタン型サポート以外に不感領域がないか調べる。 TGC の信号のタイミングも測定。

Scintillation C ounter

~2500mm

~2600mm

~1500mm

Scintillation C ounter

D rift T ube

T GC

m uon

2.5m×1.5m×2.6m Scintillation Counter (上下各 22 本) Drift Tube (上下XY各 3 層、計 428 本) TGC 8 台

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宇宙線テスト(2)

Scintillation Counter 全ての Scinti の信号の OR を上下で別々にとり、その上

下の coincidence をとることで、トリガー信号を発生。

⇒  トリガー頻度 ~ 30Hz Drift Tube

宇宙線ミューオンが通過してから信号が到達するまでの時間( Drift 時間)を測定し、 Drift距離を決定する。

3 層に俵積みにした 1 つの塊を、上下XYに置くことで、3次元で Track を決定する。

<検査基準> Track 上に TGC のヒットがあるかどうかで 検出効率を測定。( 99% 以上) TGC全体に渡って測定するため、一様性の測定にもなる。 TGC の信号の到達時間分布が 25ns 以内に収まっているかを測定。

これらの検出器、及び TGC からのデータを収集し、記録、解析を行うシステム

DAQ システム

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DAQ システムの基本方針

検査設備における DAQ システムの特徴 処理信号数が大きい。 ( Sci:44ch DT:428ch TGC:1088ch 計 1560ch ) データの処理量が大きい。(~ 400GB/year ) 長期( 3 年)に渡って検査を行う。 データ収集と解析を同じペースで行う。

<基本的な方針> コンピュータに PC の採用( Linuxを搭載)

優れたコストパフォーマンス UNIX 上で開発 ハード・ソフトウェア共に制限が少ない

ネットワークに分散したシステム 並列処理 処理能力向上 拡張性の向上

⇒ DAQ システムには、   安定性、保守性、拡張性が要求。

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DAQ システムの構成

検出器 フロントエンド・エレクトロニクス コンピュータ その上で走らせるソフトウェア

検出器、フロントエンド・エレクトロニクス

データ収集用バスに VME を採用。 高エネルギー業界、産業界で広く普及 コンピュータとのデータ転送速度が速い

TMCモジュール → 時間情報  SWINEモジュール → ヒット情報Scintillation

Counter

PM T

TGC

ASD

Drift Tube

ASD

NIM module

IntReg IntReg T MCm odule

SWINEm odule

T rigger signal

VET O/C learVET O

16CH OR

VME VME

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コンピュータ環境

コンピュータとして PC を採用( Linux搭載)⇒  高性能で汎用性のあるソフトウェア開発

PCI-VME bus Adaptor を使用⇒ PC で VME をコントロール

ネットワーク分散システム ( Fast Ethernet )⇒   1 台の PC が読み出す CH数減少 → データ転送速度向

上⇒ PC の数が増えるだけ処理能力向上

Fast Ethernet (100 BASE-T)

VME crate

PC Linux

PCI-VMEBus Adaptor

VME crate

PC Linux

PCI-VMEBus Adaptor

VME crate

PC Linux

PCI-VMEBus Adaptor

PC Linuxfor Analysis

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Fast Ethernet (100 BASE-T)

VMEcrate

PC Linux

Master

IntReg

VMEcrate

PC Linux

Slave

VMEcrate

PC Linux

Slave

PC Linuxfor Analysis

IntR eg通 信

IntReg IntReg

読み出しプロセス

各 PC にはデータの読み出しを担当するプロセスが 1つ存在。

各プロセスは独立にデータを読み出す。 読み出しデータが 1 つのイベントであることを通知す

るために、 Interrupt & I/O Register (IntReg) を用いて通信し、同期を取る。

マスタープロセスと複数のスレーブプロセスから構成。 NFS を利用したデータ転送。

⇒  安定で、信頼性のあるデータ転送

NFS

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イベント・フィルタ

解析の段階で Drift Tube のデータを用いて宇宙線ミューオンの Tracking を行うが、 Tracking 不可能なイベントは不要。

Drift Tube のヒットパターンから大まかに判別できる。

解析に入る前にイベントのふるい落としを行う。⇒  効率的なデータの書き込みが可能⇒  ネットワークを通じたデータ転送、それ以降の処理の負

担軽減

イベント・フィルタの結果は IntReg を通じて全てのプロセスに伝えなければならない。

マスタープロセス        → TMC にアクセススレーブプロセス        → SWINE にアクセス

イベント・フィルタなし ⇒ ~ 400 GB / year イベント・フィルタあり ⇒ ~ 270 GB / year

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17読み出しプロセスのシーケンス

VME へアクセスを行う部分 Interrupt & I/O Register を用いて通信を行う部分 イベント・フィルタを行う部分 NFS を利用したデータ転送を行う部分

Initialize TMCInitalize IntReg

Ready TMC

Clear VETO

Read TMC Data

W ait Trigger

Finish?

Receiv eReady IntReg

Ready?

Ev ent Filter

SendAccept IntReg

Accept?

W rite Data

End TMCEnd IntReg

YES

YES

YES

NO

NO

NO

M aster(TM C) Slave(SW INE)

Initialize SW INEInitalize IntReg

Ready SW INE

Read SW INE Data

W ait Trigger

Finish?

SendReady IntReg

Receiv eAccept IntReg

Accept?

W rite Data

End SW INEEnd IntReg

YES

YES

NO

NO

R EAD Y

N OT

AC C EPT

N OT

NOT

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解析プロセス

Event Building 、 Data Conversion Event Display Analysis Program Tracking Efficiency Map Display

<特徴> 読み出しプロセスと解析プロセスは独立。 データの受け渡しはファイルを通じて行う。 各解析ソフトウェアも独立。

解析ソフトウェアの追加、変更が簡単  ⇒ 拡張性が高い

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19Event Building 、 Data Conversion

PC for Analysis

N FS

PC M aster

R awD ata

RawData

R awD ata

Data

PC S lave

PC S lave

Data (アスキー形式)0 1 1 10 1.05 935.2

時間( ns ) ドリフト距離( mm ) 位置情報

Configuration ファイル< Drift Tube >

RawData (バイナリ形式)005c 04ee     時間情報( TMC count )TMC のモジュールID 、 CH

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Event Display

ヒットの有無、 Tracking の結果、 個々のイベントの 詳細を視覚的に 捉えることが可能。

Gtk+ を  用いて開発。

拡大・縮小機能 スクロールバー機能 ボタン操作による Multi Event に対応 イベントナンバー指定機能

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Analysis Program Data を読み込み解析を行う。 PAW でヒストグラムを表示。 TGC の検出効率の導出。

< Drift Tube のヒット分布>

< TGC ワイヤー方向のヒット分布>

CH

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Tracking

TGC の検出効率、一様性を測定する上で、重要。 データを読み込み、 Drift Tube の位置情報、ドリフト距離から 3次元的な Track を決定する。

Drift Tube 1 本あたりの Resolution ~ 1.5 mm

Drift Tube の半径 = 25mm

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解析プロセスまとめ

全てのソフトウェアは、ファイル経由で動作 各ソフトウェアは疎結合で動作  ⇒ 保守性の向上  ⇒ 拡張性の向上

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まとめ

<基本的な方針> コンピュータに PC の採用 ネットワークに分散したシステム

< DAQ システムの構成> VME へのアクセス ネットワークに分散した各読み出しプロセスの同期 NFS を利用したデータ転送 解析ソフトウェア

<ソフトウェアによる処理> イベント・フィルタ Event Building 、 Data Conversion

本検査設備で用いるデータ収集システム、及び解析ソフトウェアは、安定性、保守性、拡張性の高いものであり、実際に動作することも確認できた。

DAQ システムはトリガー頻度 150Hz まで、イベントの取りこぼしなく動作(検査設備では30Hz )この開発した DAQ システムは検査設備で確実に動作することが保証された。

開発 program 全行数 : ~ 12,000 行

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SUSY粒子

大統一理論    1015GeV程度で 3 つの相互作用(電、弱、強)が統一

される 標準理論が大統一理論の低エネルギー領域の近似であると

すると、例えば、 Higgs の質量に量子補正を加えると発散。

この問題を解決するのが超対称性理論。

超対称性変換によるとボゾンとフェルミオンは交換する。   クォーク、レプトン←―→スクォーク、スレプトン    (非 SUSY 粒子)        ( SUSY 粒子) 非 SUSY 粒子と SUSY 粒子で量子補正がキャンセルし解決。 Rパリティの保存によると、 SUSY 粒子は必ず非 SUSY

粒子と対になって生成される。 生成された SUSY 粒子は軽い粒子へ崩壊を繰り返し、最終的に最も軽い粒子( LSP : Lightest Susy Particle )に崩壊する。

LSP はニュートラリーノであると考えられており、直接観測にかからないため、ジェットや大きな消失エネルギーの測定により判断する。

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標準模型 Higgs 粒子

<主要な生成過程>(a) gluon-gluon融合(b) WW(ZZ)融合(c) W 、 Z 粒子随伴生成(d) t t クォーク随伴生成

g

gH

(a )

q

qH

q

q(b )

t,b W,Z

W,Z

(c )

Ht

t

t(d )

g

g

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27Higgs 粒子の質量と生成断面積

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ミューオントリガーの仕組み

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Tracking方法

Tracking< X-T Relation >

X(t) = P2 t2 + P1 t

t = C ( T0 – TTMC )

C = 0.78 ns / countT0

X

X

T0 = 1205 countP1 = 7.1×10-2 mm/nsP2 = -5.0×10-5 mm/ns2

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TGC の詳細 10%のギャップの変化は15%のゲインの変化を引き起こす。ギャップが広

がると電場が弱くなるため、ゲインがかせげない。 入射粒子によって形成された陽イオンが早くカソード面に到達し、チェンバー

の不感時間を短くなるようにアノード・カソード間隔を 1.4mm と狭くしている。陽イオンは電場を打ち消し、ガスゲインを減少させ検出効率を下げる。

ワイヤー径が細いほどチェンバーの内部電場の高電圧領域が広くなる(電子のドリフト時間が短縮)。

一般のMWPCのワイヤー径は、ワイヤー間隔の1%程度。 一般のMWPCは、ワイヤー間隔:数mm 、ワイヤー・カソード間隔:数

cm 、ワイヤー径: 20μm 、HV: 2kV 、ガスゲイン: 104 から 105 。 チェンバーの内部電場はカソード面近傍でも 10kV/cm 、ワイヤー近傍では

40kV/cm 。 カソード面にカーボンを塗布する理由は、陽イオンがカーボン面に衝突した際

に電子がチェンバー内に飛び出さないように仕事関数が大きく、紫外線によって光電効果を起こさないよう原子番号が小さい物質であるから。

高抵抗のカーボン面である理由は、ストリップのクロストークを避けるため。 TGCに入射した粒子はその飛跡に沿ってガス中の分子と多数衝突し、イオン化

させる。電離された電子は、陽極へドリフトしながら、印加電場によって加速され、運動エネルギーを持つようになる。それがガス分子の電離エネルギーを超えると、さらにガス分子をイオン化し、2次電子を生成する。これが繰り返され、タウンゼント型電子雪崩を形成する。この過程をガス増幅という。TGCはこの電子雪崩を信号としてアノードワイヤーから読み取る。ガス分子を電離するだけでなく、励起させ紫外線を放出する過程も存在する。

電離によって生じた陽イオンは移動度が電子に比べて非常に小さいため、電子を収集する間にはほとんど動かない。従って、チェンバー内には陽イオンの雲ができ、それがゆっくり陰極に向かって拡散していく。HVを上げていくと陽イオンの雲の濃度が高くなり、空間電荷を形成してチェンバー内の電場をゆがめ、電子雪崩の成長を抑制するようになる。 → 制限比例モード

電離によってできた陽イオンはカーボン面に向かってドリフトしてくるが、カーボン面は高抵抗であるため、瞬間的には電流が流れなく、時間とともにゆっくり負の電荷か誘起される。FR4は誘電体なので、カーボン面側には正の電荷が誘起され、ストリップ面側には負の電荷が誘起される。よってストリップ面には正の電流が流れる。

充填ガスには、ガス分子による電子捕獲確率の小さいものを選ばなければならない。 CO2 は 6.2*10-6 、 O2 は 2.5*10-5 、 H2O は 2.5*10-5

高いガス増幅の場合、紫外線による電離の影響が無視できなくなるため、紫外線吸収断面積の高いクエンチガスを用いる。吸収した紫外線のエネルギーを分子自身の回転エネルギーや、低分子への解離エネルギーに使用する。室温で用いることができるクエンチガスでNペンタンが紫外線吸収断面積最大。

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素粒子たち

<gauge boson> γ (M=0 J=1) g (M=0 J=1) W (M=80GeV J=1)

W -> l ν : 各 10% W -> hadrons : 70%

Z (M=91GeV J=1) Z -> l+ l- : 各 3.3% Z -> hadrons : 70% Z -> γγ : 5.2×10-5%

H (M>95.3GeV J=0)

<lepton>

e (M=511keV J=1/2)

μ (M=105.6MeV J=1/2 τ=2.2μs)

μ -> e νe νμ : 100%

τ (M=1.777GeV J=1/2 τ=0.29×10-12s)

τ -> μ νμ ντ : 17%

τ -> e νe ντ : 17%

νe νμ ντ (M ~ 0 J=1/2)

<quark>

u (M=5MeV J=1/2 Q=2/3)

d (M=9MeV J=1/2 Q=-1/3)

s (M=175MeV J=1/2 Q=2/3)

c (M=1.27GeV J=1/2 Q=-1/3)

b (M=4.4GeV J=1/2 Q=2/3)

t (M=175GeV J=1/2 Q=-1/3)

t -> W b : 9.4%

t -> Z q : < 33%

t -> γq : < 3.2%

<meson> π0 (M=135MeV J=0)

π0 -> γγ: 98.7%

π0 -> e+ e- γ: 1.2%

π + π ー (M=140MeV J=0)

π + -> μ + νμ : 99.9%

π + -> e + νe : 1.2×10-4 %

<baryon> p (M=938MeV J=1/2)

n (M=940MeV J=1/2)

n -> p e νe : 100%

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その他1 Higgs 粒子とは・・・電弱相互作用における自発的対称性の破れを説明するの

に必要とされる。ゲージ理論によって、力を媒介するゲージボゾンの質量は0でなければならない。しかしこれらの粒子は質量を持っている。この質量がないはずの粒子に質量を持たせるメカニズムを Higgs メカニズムという。これによると、真空は Higgs 粒子で満たされていると仮定しすると、真空はエネルギーを持った状態となる。この最低エネルギーの状態(真の真空)がゲージ変換の対称点からずれている。->自発的対称性の破れ。 Higgs 粒子が真空中に凝縮をおこし、弱い力のゲージボゾンはこの凝縮した Higgs と弱い力で結合することによって質量を持つ。( Higgs の真空期待値 ν=246GeV )

LHC実験においてミューオンはきれいな信号を取り出せることから Higgs粒子発見のための最も確実なシグナル。

Higgs 粒子の役割は粒子に質量を付加することだけ。 Higgs 粒子の結合の強さは結合する相手の質量に比例する。 標準理論で Higgs 粒子の質量の上限が 1TeV のわけは、WWの散乱のS波の散乱振幅のユニタリー条件からきている。WW->WWの散乱において、修状態がスピン=0の状態の散乱振幅を計算するとすべての散乱振幅の和を超えてしまう。そのためには、WW->H->WWが必要で、この散乱振幅の計算により 1TeV付近以下であるとされている。

Higgs 粒子の質量の下限は、LEP2( 200GeV )で発見されなかったことから >90GeV とされる。

ATLAS検出器が円筒形である理由は、入射粒子は軸対称に飛んでくるため、同心円状でなければならない。また、磁場をかけるためにも円筒形である必要がある。

ハイレート耐性は、入射粒子によって形成されたイオンの動きで決まるため、TGCのデザインが決まった時点で決定される。 Aging によりワイヤーの周りにカーボンが付着する。 CH3よりも細かいCが複合体(絶縁体)を形成する(長時間かけて)。

リーク電流とは、ワイヤー・カソード間の抵抗は完全には無限大ではないため、ほんの少し電流が流れている。カーボン面やカソード面にごみが付いていたり、接着剤の漏れがあると、その部分は、電場が強くなり(先が細いほど電場が強くなる)、そこから放電を起こし、リーク電流が流れる。

カソード面の検出効率が低いのは、カーボンの抵抗が低いためで、抵抗が低いと、一気に電流が流れてしまい、FR4と遮断されてしまう。

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その他2 LHC・・・バンチ長さ: 75mm 、バンチ内陽子数: 1011個 LHC加速器に置かれる検出器は、 ATLAS 、 CMS 、 ALICE 、 LHC-

B 。 CMS は ATLAS と同じ目的。 単位秒当りに発生する事象の数( s-1 )=ルミノシティ (cm-2 s-1)× 断面積

(cm2) 1 pb= 10-12 barn = 10-36 cm2

2 doublet で、まっすぐ直線が引けるものを探す(4層の内3層がヒット)。衝突点からまっすぐ引いた直線からずれているほど運動量が小さい。運動量が小さいものは落とす。エアートロイドにより φ方向に磁場がかけられる。内部はソレノイドにより、Z方向に磁場がかけられる。

電磁カロリーメータ・・・電子、 γが原子核の電場により制動放射( e→ eγ : γ→ e-e+ )をおこす(電磁相互作用)。 μは質量がおもいため、 μ→ μγ の確率が低い。確率はm の 2乗に反比例する。

シンクロトロン放射でのエネルギー損失は、質量の 4乗に反比例する。 1TeV 以内に Higgs がないと標準理論が成り立たない。 反陽子は作るのが大変で、ルミノシティをためるのに大変。 グルオンはpのエネルギーの 10%程度のエネルギーを持てる。Hが 200GeV

とすると g は 100GeV程度で作れる。 g よりも q の方が運動量が大きく持てる。が、 pp によるジェットがあるた

め、 Z→ qq の運動量測定が難しい。クォークが入ったモードは解析が困難 ⇒ レプトン重要。

g g 融合ではクォークすべてがループ内を回れる。が、Hを作るためには重いほうが効いてくる。

RPC・・・ 2枚の平行板の間に高電圧を印加する。アノードにワイヤーを用いないガスチェンバーで、 2枚の平行するベークライト板の間のガスに電圧を印加し、信号はストリップから読み出す。RPCはストリップを直交するように重ねられ、二次元読み出しを実現している。

TGC内に粒子が入射すると~ 10個程度のクラスターができる。 ギャップが広がるとワイヤー近傍の電場が変化する。ワイヤー近傍でのガス増幅が重要。

ガス圧が上がるとゲインは下がる。電場に十分なエネルギーをもらう前にガス分子と衝突してまうため。   E(電場)/p(圧力)

Scinti の time resolution < 1 ns 。 scinti の長さを考慮しても 2 ~ 3 ns ( scinti の中での scintillation光が伝わる速さは、 5 ns / s )

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その他3 Linux は windows に比べてシステムコールが使いやすい。VMEインター

フェイスなど Windows はCPUを無駄に使いすぎ。 スケーラビリティ・・・簡単にシステムを拡張できる。 一般にデータの受け渡しは、シェアードメモリを用いて行う。プロセス間通信が速く、密結合となるのが特徴。しかし、この間の通信の速さを求めていないのでファイル経由でいい。また、メモリでは壊れる可能性が大きい。

検査設備でTGCのヒット分布がDTのヒット分布よりピークが立っているのは、立体角を考えると中心が多くなる。