慈恵ICU勉強会 2015.09.29
レジデント 上田 稔允
Background
• 日常診療において、手術や手技のために、経口抗凝固療法を一時中断し、ヘパリンによるブリッジ療法が用いられることが多々ある。
• しかし、ブリッジ療法による血栓塞栓症の予防に対するエビデンスは限定的で、一部の患者群を除き推奨の根拠は乏しいのが現状である。
ACCP 2012 guideline ~周術期の抗凝固療法~
・抜歯や白内障手術等の出血リスクの少ない手術では、ワーファリン継続。 ・Af、機械弁、血栓リスクの高い症例では、へパリンブリッジを推奨。 いずれもGrade 2C
CHEST 2012; 141(2)
Circula1on 2012 Sep 25;126(13)
• デザイン:メタ解析 • 対象:観察研究33件、RCT1件(214例)計12278例 • 患者:ビタミンK拮抗薬を長期内服しており、待機的 手技を受けるために内服を中断した患者 • 目的:ヘパリンブリッジ施行群と非施行群において、 血栓塞栓症、出血のリスクを比較する。
<血栓塞栓症>8個の研究 ブリッジ施行群の血栓塞栓症発症の オッズ比:0.8 (0.42-‐1.54) p=0.50
Result ブリッジ施行群vs非施行群
<出血>13個の研究 ブリッジ施行群の出血性合併症のオッズ比:5.4 (3.00-‐9.74) P<0.00001
ブリッジにより ・血栓塞栓症は減らない ・出血は増える
• デザイン:前向き観察研究
• 施設:米国176施設
• 対象:心房細動で経口抗凝固療法を受けている 18歳以上の患者7372例 • 目的:手技のための抗凝固療法中断の施行割合、 中断理由、ブリッジングの有無による転帰を検討
Circula1on 2015 Feb 3;131(5)
・ブリッジを施行例は以下の既往のある患者で有意に多かった 脳血管疾患 (22% vs. 15%, p=0.0003) 、機械弁:(9.6% vs. 2.4%, p<0.0001)
経口抗凝固療法を中断:2200/7372例(30%程度) (ワーファリン93%/ダビガトラン6.5%)
そのうちブリッジは592/2200例(24%)のみ。 (低分子量ヘパリン73%/未分画ヘパリン15%)
心血管イベント➡
Result ブリッジ例における30日以内のアウトカム
全イベント ➡ 脳卒中、心筋梗塞、大出血、入院、死亡
結論 ブリッジ施行群で出血リスクの上昇と予後悪化を認め、ブリッジのルーチン的使用は支持されない。
出血イベント(30日以内の大出血) ➡
Major bleedingの定義
①致死的出血 ② 頭蓋内出血、脊髄内出血、眼内出血、後腹膜出血、
関節内出血、心嚢内出血、コンパートメント症候群を含む筋肉内出血
③ ヘモグロビン:2g/dL以上の低下、または2単位以上
の赤血球輸血を要した時
J Thromb Haemost. 2005 Apr;3(4):692-‐4
⇩
• 日常診療において、ワーファリンを中断した際にヘパリンブリッジが行われることが多い。
• ヘパリンブリッジの研究は、ほとんどが観察研究であり、RCTは抜歯関連の1つ(N=214)だけ。
• ヘパリンブリッジにより出血のリスクが上昇する可能性が示唆されている。
ブリッジの有効性・有害性についての質の高い根拠は少なく、
安全な周術期抗凝固療法を行うために、複数のRCTが計画
Background まとめ
【目的】 心房細動患者の周術期において、
ヘパリンブリッジ非施行群vsブリッジ群の ・動脈血栓塞栓症予防における非劣性
・出血リスクにおける優越性 を検証する。
BRIDGE study
Methods
【研究デザイン】 • 多施設共同研究(北米の108施設) •期間:2009年7月~2014年12月 •二重盲検無作為化非劣性試験(非劣性マージン:1%) ※詳細な割付方法と隠匿化記載なし
Methods
・年齢18歳以上 ・慢性心房細動、発作性心房細動、心房粗動に対して、 3ヵ月以上のワーファリン投与(INR:2.0~3.0)を受けている ・CHADS2スコアが1点以上
【対象】 手術や侵襲的処置が予定され、ワーファリンを中断した患者
ヘパリンブリッジ非施行群 vs ブリッジ群で比較
【Exclusion criteria】 • 機械弁置換の既往 • 12週以内の脳梗塞・全身性塞栓症・TIAの既往 • 6週以内の大出血 • クレアチニンクリアランス30ml/min未満 • 血小板10万/mm3未満 • 心臓手術 • 頭蓋内手術 • 脊椎手術 • 妊婦
Methods
【Primary outcome】
・動脈血栓塞栓症(脳卒中、TIA、全身性塞栓症) ・大出血の有無
【Secondary outcome】
・急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症、死亡 ・小出血の有無
Methods
【術前】 ・手術5日前にワーファリンの内服を中止 ・3日前~1日前 低分子ヘパリンもしくはプラセボを投与する。 ※低分子ヘパリン・・・ ダルテパリン100IU/kg 1日2回、皮下投与
プロトコール
【術後】 ・出血リスク(後述)が低い場合 12~24時間以内に ・出血リスクは高い場合 48~72時間以内に 低分子ヘパリンもしくはプラセボを再開する。 いずれも術後5日目まで投与 ワーファリンは手術日の夕方または翌日に再開。 術後30日まで観察
内視鏡検査 心臓カテーテル検査 歯科口腔外科 皮膚科 白内障・眼科手術 1時間未満の手術・手技
腹部手術 胸腔手術 整形外科手術 末梢動脈手術 泌尿器科手術 ペースメーカー、除細動器埋込術 大腸ポリペクトミー、腎生検、前立腺生検 1時間以上の手術・手技
【出血リスクの分類】
【サンプルサイズ】 ・ブリッジ非施行群での血栓塞栓症の発生率:1%、出血の発生率:1% ・ブリッジ施行群での血栓塞栓症の発生率:1%、出血の発生率:3%(先行研究より) と仮定 ・ α level: 0.05 ・ Power: 80% ⇒サンプルサイズ:1641例⇒10%程度の脱落例を想定すると・・・1813例 1720例の登録後に、血栓塞栓症の発生が想定より少なく、再計算⇒1882例 (これでもPower 90%程度) ※ 実際の解析対象:1884例をランダム化、フォロー完遂例:1804例(死亡9例除く) 【解析】 ・Inten1on-‐to-‐-‐treat ・解析ソフト:StatXact so`ware,version9
Methods
Results
プラセボ群950人
ブリッジ群934人
プラセボ群913人完遂 ブリッジ群891人完遂
・年齢は平均71歳 ・体重は平均95㎏ ・7割が男性 ・9割が白人 ・抗血小板薬は約35%で 使用されている。
Results
Results
・抗血小板薬は約60%で中断されていない
・約90%は出血リスクが 低い処置 ・半分が内視鏡で、 2割がPCI ・大手術の症例数は 約90例ずつ ・ペースメーカは出血 リスクの高い手術に分類
Results
動脈血栓塞栓症 非ブリッジング群が4/918(0.4%)、ブリッジング群は3/895(0.3%) 非劣性検定:p=0.01 ⇒非劣性が示された。 大出血 非ブリッジング群が12/918(1.3%)、ブリッジング群は29/895(3.2%) 優越性検定:p=0.005 ⇒優越性が示された。
Results (Primary outcome)
・死亡(0.5 vs.0.4%、p=0.88)、心筋梗塞(0.8 vs.1.6%、p=0.10)、 深部静脈血栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)、肺塞栓症(0 vs.0.1%、p=0.25) では優越性で有意差はなし。 ・小出血はブリッジング群で有意に多かった(12.0 vs.20.9%、p<0.001)
Results (Secondary outcome)
• ヘパリンブリッジが周術期の血栓塞栓症に無関係な理由として、手術内容や術中管理の要素のほうが大きいかもしれない。
• ワーファリンの中断が、逆に過凝固を導き、ヘパリンがそれを抑制すると考えられていたが、本研究により否定された。
Discussion / 筆者の見解
• 塞栓症リスクが大きいCHADS2スコアの高い患者がほとんどいない。
• 塞栓症リスクが高い手術(頸動脈内膜剥離術、腫瘍手術、心臓手術、脳脊髄手術)が含まれていない。 • 機械弁置換の既往のある患者が含まれていない。
• 塞栓症の発症率が想定より低く、ヘパリンブリッジによって塞栓症を予防できるという優越性が証明しづらい状況となった。 • 大出血が3.2%であるのは他の研究に比べて低い。出
血リスクを最小限にしたプロトコールであったためか。
• 最近は、新しい抗凝固薬が開発されているが、その評価には追加研究が必要。
Discussion / limitaRon
Conclusion
待機的手術のためにワーファリンを中止した心房細動患者において、ヘパリンブリッジ非施行群はブリッジ群比べて、血栓塞栓症において非劣性が証明され、出血は減少した。
批判的吟味 • 患者、治療介入者、アウトカムの評価者は盲検化されているが、
盲検化の具体的な方法や解析者の盲検化については記載がない。
• 出血リスクの高い手術は約10%程度しか含まれておらず、CHADS2スコアも半数以上が2点以下であり、対象が血栓塞栓症のリスクがあまり高くない患者に限定されていると考えられる。
• 20%の患者で周術期にアスピリンを継続しており、抗凝固薬と抗血小板薬の併用による、出血に対する安全性が不明である。
• わが国においては、より出血リスクの高い未分画ヘパリンを使用していることや、体格や人種差等を考慮してこの研究結果を臨床に生かすべきである。
• デザインが非劣性試験である。
• BRIDGE study発表後のシステマティックレビュー • 抗凝固療法の中断とヘパリンブリッジについてのアプローチの
提案も示されている。
J Am Coll Cardiol. 2015 Sep 22;66(12)
・観察研究:68件 ・RCT(BRIDGEを含む):2件(N=2027) 計23510例
• ブリッジ非施行群の塞栓症発症率は、0.52%
• ブリッジ群の大出血は3.52%
<大出血> ブリッジ施行群の出血発症のオッズ比:3.62 (1.52-‐8.50) P=0.004
<血栓塞栓症> ブリッジ施行群の血栓塞栓症発症の オッズ比:0.8 (0.42-‐1.54) p=0.50
周術期抗凝固療法のアプローチ 出血リスクの低い手術➡OACは継続
左心耳血栓や進行癌等の塞栓症のリスクが高い 患者は除く。
出血リスクの低い手術以外 出血リスクの高い患者要因
★出血or塞栓症のリスクを総合的に判断する
➡OAC中断を検討
血栓症と出血のリスク
・Prior bleeding ・Mechanical mitral valve ・Ac1ve cancer ・Low platelets 4点満点で評価
BleedMAP score
スコアが高いほど、 出血リスクが高く、 塞栓症のリスクが低い。
⇩
J Thromb Haemost. 2012 Feb;10(2)
OACは必要か?
出血リスクの高い緊急手術か?
OAC継続による出血のリスクは? Low Intermediate High
塞栓症のリスクは低いか?
外科医はOAC継続して手術 を希望しているか
日常での塞栓症のリスクは? Low Intermediate High
AFによるOAC内服か
塞栓症のリスクが出血のリスクを明らかに上回るか
ブリッジしない ブリッジしてもよい
OACを無期限に中断 OACを中断しない OACを中断 OACを中断し、 リバースを考慮
OACを 中断するか
ブリッジ療法を行うか
私見
• 現状では、症例ごとに血栓症のリスクを評価し、それにあった周術期抗凝固療法を行うべきだと思われる。
• 大手術や血栓のハイリスク例を含めた比較試験の結果が期待される。(ex. PERIOP2 study)
• NOACにおける出血や塞栓症予防についてはまだ不明。追加研究に注目したい。
• 早期にガイドラインが改訂されて、不要なヘパリン
ブリッジが無くなることを期待したい。
Top Related